説明

PD−1欠損マウスおよびその用途

【構成】プログラムドセルデス−1受容体(PD−1)を欠損したBALB/c系マウス、そのマウスを用いる自己免疫疾患治療剤のスクリーニング方法、そのマウスが特異的に産生するIgG自己反応性抗体、その抗体に特異的に反応する心臓が産生する蛋白、およびその蛋白を用いる拡張型心筋症の診断方法に関する。
【効果】PD−1を欠損したBALB/c系マウスは、自己免疫疾患、特に拡張型心筋症を自然発症するため、これらの疾患の治療剤をスクリーニングするために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラムドセルデス−1受容体(以下、PD−1と略する。)を欠損したBALB/c系マウスおよびその用途に関する。さらに詳しく言えば、PD−1を欠損したBALB/c系マウス、そのマウスを用いる自己免疫疾患治療剤のスクリーニング方法、そのマウスが特異的に産生するIgG自己反応性抗体、その抗体に特異的に反応する心臓が産生する蛋白、およびその蛋白を用いる拡張型心筋症の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発生学的に、また生理学的にコントロールされた細胞の死は種々の動物のほとんどあらゆる組織で観察することができる。その様な細胞の死は一般的に「プログラムされた細胞死」または「計画的細胞死」と呼ばれ、病理学的メカニズムによって「偶然に起こる細胞死」とは区別されている。
【0003】
PD−1は、細胞が活性化を経て計画的細胞死に至る過程に関わる受容体として、マウスでまず見出された(The EMBO J., vol.11(11), 3887-3895(1992):非特許文献1、特開平5−336973号公報:特許文献1、EMBL/GenBank/DDJB Acc. No.X67914:非特許文献2)。ついで、マウスPD−1をプローブとして用いることにより、ヒトでも見出された(Genomics 23:704 (1994):非特許文献3、特開平7−291996号公報:特許文献2)。PD−1はリンパ球で活性化に伴い発現され、PD−1欠損マウスの研究(International Immunology, Vol.10(10), 1563-1572(1998):非特許文献4、Immunity. Vol.11, 141-151(1999):非特許文献5)より自己免疫疾患と深く係わるところから、免疫機能の低下または亢進、感染症、移植時の拒絶反応、腫瘍等の治療や診断に用いられることが示唆される。
【0004】
マウスPD−1もヒトPD−1も288個のアミノ酸からなり、N末端のシグナルペプチド(20アミノ酸)と中間部位の細胞膜貫通領域に疎水性領域を有する55kDaのI型膜結合型蛋白である。
【0005】
欠損マウス(ノックアウトマウスとも言われる。)とは、人為的に特定の遺伝子を修飾されたことによって、生まれながらにその遺伝子産物を産生できないマウスを指し、その遺伝子産物である因子・受容体等の役割を調べるために作製されるものである。
【0006】
一方、拡張型心筋症とは、左室の拡張を伴った左心室の収縮機能不全を指す。拡張型心筋症と見做される患者のうち30%は、細胞内の細胞骨格を細胞間マトリックスへ連結している心筋の重要成分に対する構造遺伝子の先天的な変異によるとされているが、残りの症例は原因不明のままである。どちらの場合も、疾患は進行性で生命を脅かすものであり、現時点では心臓移植以外有効な治療法はない。
【0007】
PD−1欠損マウスは、最初にC57BL/6(以下、B6と省略する。)マウスで作成された。PD−1を欠損したC57BL/6マウスは、ループス様腎炎および関節炎等の所謂自己免疫疾患を自然発症することが確認された(International Immunology, Vol.10(10), 1563-1572(1998):非特許文献4、Immunity. Vol.11, 141-151(1999):非特許文献5)。
しかしながら、他の系統のマウスでPD−1を欠損させた場合については、その遺伝背景の違いがPD−1を欠損に対してどのような影響を及ぼすか全く知られていない。
【0008】
【特許文献1】特開平5−336973号公報
【特許文献2】特開平7−291996号公報
【非特許文献1】The EMBO J., vol.11(11), 3887-3895(1992)
【非特許文献2】EMBL/GenBank/DDJB Acc. No.X67914
【非特許文献3】Genomics 23:704 (1994)
【非特許文献4】International Immunology, Vol.10(10), 1563-1572(1998)
【非特許文献5】Immunity. Vol.11, 141-151(1999)
【発明の開示】
【0009】
本発明は、
1.PD−1受容体を欠損したBALB/c系マウス、
2.前項1に記載のマウスを用いることを特徴とする自己免疫疾患治療剤のスクリーニング方法、
3.自己抗体を産生することによる自己免疫疾患に対する前項2記載のスクリーニング方法、
4.免疫疾患が、拡張型心筋症である前項2記載のスクリーニング方法、
5.前項1記載のマウスが特異的に産生するIgG自己反応性抗体、
6.前項5記載のIgG自己反応性抗体に特異的に反応し、心臓で特異的に産生される約33kDa(33kDa±5kDa)の蛋白、
7.前項6記載の蛋白を用いることを特徴とする拡張型心筋症の診断方法、
8.前項7記載の蛋白をコードする遺伝子を検出することを特徴とする拡張型心筋症の(遺伝子)診断方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[本発明マウスの特徴]
PD−1を欠損したBALB/c系マウス(PD−1(−/−)と表記する。)は、生後5週齢目から死亡し始め、30週齢までには、その2/3が死亡する。正常なBALB/cマウス(PD−1(+/+)と表記する。)には、その様な兆候は見られない。また、PD−1を欠失したC57BL/6(B6−PD−1(−/−)と表記する。)には、ループス様腎炎および関節炎の発症は見られたが、初期段階の死亡は見られなかった。
【0011】
本発明PD−1(−/−)マウスは、後述する剖検の結果、超音波検査による心機能の評価、電子顕微鏡での観察、免疫応答等の事実から、拡張型心筋症を自然発症し、死亡するものと判断された。
IgG1サブクラスの自己免疫抗体を産生し、この抗体が心臓で特異的に産生される約33kDaの蛋白に結合して集積するため、自己免疫疾患型の拡張型心筋症を引き起こしたものと考えられる。
【0012】
加齢C57BL/6−PD−1(−/−)マウスはループス性糸球体腎炎及び関節炎に罹り易いが、心臓疾患はない事実を加味すると、PD−1の機能不全は自己免疫疾患の潜在的な素因となり、その素因と遺伝的背景の組み合わせによって様々な型の疾患を招き得ることを示している。
この様に、拡張型心筋症の原因が、心筋を標的とした内因性の調節障害による自己免疫疾患であるという可能性、すなわちこれまで証明されていない可能性が示唆された。
【0013】
1.本発明マウスの取得方法:
PD−1受容体を欠損した本発明のBALB/c系マウスは、
(1)PD−1を欠損したC57BL/6(B6)系マウスを少なくとも10世代以上、BALB/c系マウスに戻し交配するか、または、
(2)BALB/c系マウスの胚芽基幹(ES)細胞株から、International Immunology. Vol.10(10), 1563-1572(1998)記載の方法により、作製することができる。
【0014】
例えば、PD−1遺伝子の含んだ染色体断片(但し、そのエクソンの一部を欠失したもの、例えばエクソン2‐5のみを含む断片)を挿入した標的ベクターを、BALB/c系マウスのES細胞株に導入し、染色体上のPD−1遺伝子の位置に標的ベクターが相同性組替えを起こしたES細胞クローンを選抜することができる。このPD−1遺伝子が欠失したES細胞からBALB/c系キメラマウスを作製し、ジャームラインにこの欠失をトランスミットしたキメラマウスを親としてBALB/c系PD−1欠損マウスを作製することができる。
【0015】
2.スクリーニング:
本発明のBALB/c系PD−1欠損マウスを用いて、自己免疫疾患、特に拡張型心筋症の治療薬をスクリーニングすることができる。また、自己抗体を産生することにより発症する自己免疫疾患の治療薬のスクリーニングにも使用できる。
本発明のBALB/c系PD−1欠損マウスは、拡張型心筋症を発症して死亡する。本PD−1欠損マウスに薬剤を投与した後、生存・延命を指標に評価すれば、簡単にスクリーニングを行なうことができる。あるいは、本PD−1欠損マウスが産生する自己抗体量を指標にすることによっても、より効率良く治療薬のスクリーニングを行うことが可能である。
【0016】
3.本発明のBALB/c系PD−1欠損マウスが産生するIgG抗体とその抗体が認識する心臓で特異的に発現する約33kDa(33kDa±5kDa)の蛋白:
加齢により拡張型心筋症を発症した本PD−1欠損マウスは、その血液中に心臓特異的IgG抗体が確認され、その心臓にはIgG抗体が沈着していることが確認される。本IgG抗体は、心臓に発現される分子量約33kDaの蛋白を特異的に認識する。本PD−1欠損マウスでもまだ拡張型心筋症を発症していないマウスでは、このIgG抗体の産生は確認できるが、量的には十倍以上低い程度であった。
【0017】
野生型のBALB/c系マウス、更にB6系PD−1欠損マウスでも本IgG抗体の産生は確認されない。従って、本IgG抗体は、本BALB/c系PD−1欠損マウスの拡張型心筋症の発症に深く係わっていることは明らかである。また、拡張型心筋症に深く係わる本IgG抗体は、B6系PD−1欠損マウスで確認されないことから、BALB/c系という特異的な遺伝背景の下で産生されるものと考えられる。また、B6系PD−1欠損マウスでは、所謂自己免疫疾患である関節炎・腎炎を発症することから、PD−1の機能不全は自己免疫疾患の潜在的な素因となり、その素因と遺伝的背景の組み合わせによって様々な型の疾患を招きうることを示している。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
【0019】
実施例1:BALB/c系PD−1欠損マウスの作成
BALB/c系マウスの胚芽基幹(ES)細胞株から、International Immunology. Vol.10(10), 1563-1572(1998)記載の方法により、作製したC57BL/6系PD−1欠損マウスを、BALB/c系マウスに10世代戻し交配し、表記BALB/c系PD−1欠損マウスを得た。得られたマウスは、無菌の施設で飼育した。
【0020】
実施例2:BALB/c系PD−1欠損マウスの死亡原因
実施例1で得たBALB/c系PD−1欠損(PD−1(−/−))マウスを飼育すると、図1中、黒丸に示すように生後5週齢から死亡し始めた。30週齢までには2/3が死亡した。それに対し、PD−1の欠損のない正常BALB/c系(PD−1(+/+))マウス(図1中白抜きの四角)では死亡例が認められなかった。B6PD−1欠損(PD−1(+/−))マウスの飼育の結果と共にまとめて図1に示す。
PD−1(−/−)マウスは、死の数日前に眼球の突出を示し、剖検の結果、すべて異常に心臓が肥大していた。また、肝腫脹を示し、このことは死因が鬱血性心不全であったことを示唆していた。
【0021】
実施例3:組織学的検討
死亡したBALB/c系PD−1欠損マウスの組織学的な検討を行なった。PD−1(−/−)マウスの右心室壁は正常マウスより薄く、両心室は直径がおよそ2倍に肥大していた。
瘢痕形成を伴った細胞充実性で、間質性の線維症を含む散発的な線維性の反応があったが、肉眼では心室壁は正常に見えた。電子顕微鏡による検観では、心室壁全体に乱れて崩壊した筋フィラメントと不規則な形状のミトコンドリアを伴う心筋細胞の変性が散在していた。大多数のマウスの心房では、様々な大きさの、多くは巨大な、鬱血によると思われる血栓が認められた。
【0022】
実施例4:超音波心電検査
生存状態で心機能評価のために、PD−1(−/−)マウスおよび正常(PD−1(+/+))について経胸壁超音波心臓図検査を行った。結果を図2(A)(LVDd:左心室拡張期寸法)、(B)(LVDS:左心室収縮期末期寸法)および(C)(心室分画短縮率%)に示す。PD−1(−/−)マウスの心室腔は、特に右心室で大きく肥大し、その壁の厚さはPD−1(+/+)マウスのそれに比べて顕著に減少していた。左心室と心室中隔の動きはPD−1(−/−)マウスでは拡張期(LVDd)及び収縮期(LVDS)共に低下し(Mモード)、収縮機能の指標である、心室分画短縮は、71.9%(PD−1(+/+))から14.9%(PD−1(−/−))へと大きく低下した。
この事実は、PD−1(−/−)マウスの心臓のポンプ機能が、肥大により冒されていることを示し、拡張型心筋症という診断を裏付けた。
【0023】
実施例5:免疫解析
BALB/c−Rag−2(−/−)背景でのPD−1(−/−)マウスは完全に健康だったので、BALB/cPD−1(−/−)マウスにおける心疾患の発生は、免疫応答性の細胞の機能によるものと考えられたため、心臓に特異的な免疫反応の徴候を探した。
免疫蛍光法による解析の結果、PD−1(−/−)マウスの心臓では心筋細胞を取り囲んで、IgGの線状の沈着がC3補体と共に見られ、PD−1(+/+)マウスの心臓ではそのようなIgGの沈着は検出されなかった。
心臓壁全体にIgGの沈着はびまん性に認められた。IgGの線状の染色パターンは、組織特異的な自己抗体の結合であることを意味していた。他の臓器では、IgGの沈着はほとんど検出されなかった。沈着したIgGのアイソタイプはほとんどIgG1であった。
【0024】
実施例6:自己免疫反応
心臓に対する特異的な自己免疫反応を確認するため、心臓組織に対する自己抗体の存在の可能性を検討するためにBALB/c(n=4)、心臓の肥大したBALB/c−PD−1(+/−)(n=9)、発症していないBALB/c−PD−1(−/−)(n=6)、B6(n=2)、およびB6−PD−1(−/−)(n=5)の各マウスの血清を用いて、正常な心臓抽出物に対するIgG自己抗体を調べた。
【0025】
すなわち、溶解緩衝液(150mMの塩化ナトリウム、25mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)、5mMのEDTA、1%のNP40(プロテアーゼ阻害剤))中でポリトロン・ホモジナイザーにて正常心臓の抽出物を調製した。溶解物を12.5%のSDS−PAGEで電気泳動を行い、フィルター上に移し、希釈した血清と共にインキュベートして、ビオチン化抗マウスIgG及びストレプトアビジン―セイヨウワサビペルオキシダーゼにて検出した(なお、血清は30〜300倍に連続希釈した)。結果を図3に示す。
病気のPD−1(−/−)マウスの血清はすべて300倍希釈で、ほとんどは1000倍希釈でも33kDaのタンパク質に対する自己抗体を示したが、PD−1(+/+)マウスの血清は30倍希釈でもそのような自己抗体を示さなかった。
【0026】
肉眼的に正常なPD−1(−/−)マウス及び大半のPD−1(+/−)マウスでは、自己抗体は30倍希釈では検出できたが、300倍希釈以上では検出できなかった。7.5%SDS−PAGEを用いて同様の分析を行い、高い分子量の範囲について調べたが、バックグランド以上のシグナルは検出されなかった。
【0027】
図3に示されるように、9匹のPD−1(−/−)マウスから得た血清すべてから、300倍以上の希釈倍率でも、正常な心臓抽出物の中の33kDaのタンパク質と反応する力価の高いIgGが検出された。
【0028】
図4に週令の一致したBALB/c及びBALB/c−PD−1(−/−)マウスの血清の心臓、肝臓、腎臓及び骨格筋の組織抽出物に対する図3と同様な免疫反応性の結果を示す。週令の一致したPD−1(+/+)マウスの血清からは、30倍の希釈倍率でも自己抗体は全く検出されなかった(4匹中0匹)。
【0029】
剖検で肉眼的に心肥大を示さなかったPD−1(−/−)マウスの血清は、同じ300倍希釈倍率では33kDaのタンパク質との十分な反応は示さなかった(6匹中0匹)。B6またはB6PD−1(−/−)も反応は示さなかった。
しかし、前者は濃度を高くすれば反応を示した。従って、33kDaのタンパク質に対する高い力価のIgG自己抗体の存在は、拡張型心筋症の臨床的な徴候と完全に相関した。33kDaのタンパク質は、BALB/cPD−1(−/−)由来の同じ血清によっては、肝臓、腎臓又は骨格筋のようなその他の組織で検出されなかったので、33kDaの自己抗原は、心臓組織特異的であると思われた。
【0030】
抗dsDNAを含む他の自己抗体はPD−1(−/−)マウスの血清からは検出されなかった。自己抗体は、病気に冒されたすべてのPD−1(−/−)マウスでは、ほとんどIgG1クラスであり(7匹中7匹)、心臓の免疫染色解析の結果を裏付けた(図5:PD−1(−/−)マウスにおける心臓の33kDa抗原を認識する血清自己抗体のアイソタイプ参照)。
【0031】
実施例7
正常な心臓抽出物に対して、同じPD−1(−/−)マウスの血清と共に溶離物の免疫反応性を調べるために、プロテインGビーズによって、組織抽出物を免疫沈降し、正常BALB/c及び病気に冒されたPD−1(−/−)マウスの心臓に沈着したIgGを酸性抽出によって回収し、直接その反応性を検討した。図6に示すように、PD−1(−/−)マウスからの溶離物には野生型BALB/cマウスに比べてはるかに大量のIgGが含まれていた。溶離したIgGは、病気のPD−1(−/−)マウスの血清によって検出されたものと明らかに同一の特異的な33kDaタンパク質と反応した。この結果は、病気のマウスでは、循環している自己抗体が心臓組織に特異的に結合することを示していた。
【0032】
実施例8:BALB/cRag−2(−/−)マウスへの移入
外見上正常な5週令のPD−1(−/−)マウスの脾細胞を3匹のBALB/c−Rag−2(−/−)マウスに静脈を介し、移入した(2000万個/マウス)。単回注射した30週後、1匹のマウスが眼球突出を示した。剖検では典型的な拡張型心筋症であった。このマウスの血清による免疫ブロットでは、1000倍希釈で心臓の33kDa蛋白に対するIgG自己抗体の存在が示された。
【0033】
実施例9:自己免疫型心筋症治療剤のスクリーニング
実施例1で得たPD−1(−/−)マウスを用いて、自己免疫疾患、特に拡張型心筋症の治療薬をスクリーニングすることができる。また、自己抗体を産生することにより発症する自己免疫疾患の治療薬のスクリーニングにも使用できる。
本発明のBALB/c系PD−1欠損マウスは拡張型心筋症を発症して死亡する。本PD−1欠損マウスに候補化合物を投与し、その効果を生存・延命を指標に評価すれば、簡単にスクリーニングを行なうことができる。あるいは、本PD−1(−/−)マウスが産生する自己抗体は請求項6の蛋白を用いたELISA法によって測定が可能である。従って、その自己抗体の産生量を指標にすることによっても、より効率良く治療薬のスクリーニングを行うことが可能である。
【0034】
参考例1:BALB/c−PD−1(-/-)−Rag−2(-/-)の作成
BALB/c−PD−1(−/−)マウスをBALB/c−Rag−2(−/−)マウスに戻し、交配し、BALB/c−PD−1(−/−)−Rag−2(−/−)マウス30匹を作出した。
これらのマウスは、45日間の観察期間中生存し、剖検によっても心疾患の症状は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】BALB/c-PD−1(−/−)マウス(黒丸)、PD−1(+/−)マウス(白抜きの三角)およびPD−1(+/+)(白抜きの四角)の生存曲線を示すグラフ(%は45週令の生存率を示し、括弧内の数値は観察したマウスの数を示す)。
【図2】PD−1(−/−)マウスおよび正常(PD−1(+/+))についての経胸壁超音波心臓図検査の結果を示すグラフ。図2(A)はLVDd(左心室拡張期末期寸法)、(B)はLVDS(左心室収縮期末期寸法)、(C)は心室分画短縮率%を示し、pはtの値を示す。
【図3】BALB/c(n=4)、心臓の肥大したBALB/c−PD−1(−/−)(n=9)、発症していないBALB/c−PD−1(−/−)(n=6)、B6(n=2)、およびB6−PD−1(−/−)(n=5)の各マウス血清の正常心臓抽出物に対するIgG自己抗体の電気パターンを示すグラフ。
【図4】週令の一致したBALB/c及びBALB/c−PD−1(−/−)マウスの血清の心臓、肝臓、腎臓及び骨格筋の組織抽出物に対する図3と同様な免疫反応性を示す図。
【図5】PD−1(−/−)マウスにおける心臓の33kDa抗原を認識する血清自己抗体のアイソタイプを示す図。
【図6】正常BALB/c、病気に冒されたPD−1(−/−)マウスの心臓抽出溶離物、およびPD−1(−/−)マウス血清の免疫反応性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD−1遺伝子を欠損させることにより得られることを特徴とする拡張型心筋症発症BALB/c系マウス。
【請求項2】
請求項1に記載のマウスの心臓において発現する33kDa±5kDaの蛋白に対するIgG自己反応性抗体。
【請求項3】
請求項1に記載のマウスに被験物質を投与した後、当該マウスの血中における請求項2に記載のIgG自己反応性抗体量を測定して行うことを特徴とする拡張型心筋症治療剤のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−23047(P2007−23047A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243846(P2006−243846)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【分割の表示】特願2002−542201(P2002−542201)の分割
【原出願日】平成13年11月14日(2001.11.14)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【出願人】(396023812)
【Fターム(参考)】