説明

PDE4およびTNF−α阻害剤としての重水素化イソインドリン−1,3−ジオン誘導体

本発明は、式Iの新規置換イソインドリン-1,3-ジオン誘導体およびその薬学的に許容される塩に関する。より具体的には、本発明は、アプレミラストの類似体である新規置換イソインドリン-1,3-ジオン誘導体に関する。本発明はまた、本発明の化合物と担体とを含む組成物を提供し、かつアプレミラストを投与することにより有利に治療される疾患および状態を治療する方法における開示の化合物および組成物の使用を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は2009年6月18日提出の米国特許仮出願第61/268,953号の恩典を主張し、その全教示は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの現行の薬剤は、それらのより広範な使用を妨げ、または特定の適応症におけるそれらの使用を限定する、低い吸収、分布、代謝および/または排泄(ADME)特性に苦慮している。低いADME特性は臨床試験における薬物候補の失敗の主な理由でもある。特定のADME特性を改善するために製剤技術およびプロドラッグ戦略を用いることができる場合もあるが、これらのアプローチは多くの薬物および薬物候補に存在する根源的ADME問題に取り組むことができないことも多い。一つのそのような問題は、それがなければ疾患の治療において非常に有効である、いくつかの薬物が体からあまりに速く排出される原因となる急速な代謝である。急速な薬物排出に対する可能な解決法は、十分に高い薬物血漿レベルを達成するための頻回または高用量の投与である。しかし、これは、投与法に対する患者の低いコンプライアンス、用量が高くなるほどより急性になる副作用、および治療費用の増加などのいくつかの潜在的な治療問題を引き起こす。急速に代謝される薬物は患者を望ましくない毒性または反応性代謝物に曝露することもある。
【0003】
多くの薬剤に影響をおよぼす別のADME上の制限は、毒性または生物学的に反応性の代謝物の生成である。結果として、薬物を投与されている患者の中には毒性を経験するものがあり、またはそのような薬物の安全な投与は、患者が活性薬剤の最適以下の量を投与されるように制限されることもある。特定の場合には、投与間隔の改変または製剤アプローチが臨床上の有害作用を軽減する助けとなることもあるが、そのような望ましくない代謝物の生成は化合物の代謝に内在することも多い。
【0004】
いくつかの選択された場合には、代謝阻害剤を急速に排出される薬物と同時投与する。そのようなものはHIV感染を治療するために用いられるプロテアーゼ阻害剤類の薬物の場合である。FDAは、これらの薬物を、その代謝を典型的に担う酵素であるチトクロムP450酵素3A4(CYP3A4)の阻害剤、リトナビルと同時投与することを推奨している(Kempf, D.J. et al., Antimicrobial agents and chemotherapy, 1997, 41(3): 654-60(非特許文献1)参照)。しかし、リトナビルは有害作用を引き起こし、すでに異なる薬物の組み合わせを服用しなければならないHIV患者の経口薬負荷量を増大させる。同様に、CYP2D6阻害剤のキニジンは、仮性球麻痺情動の治療においてデキストロメトルファンの急速なCYP2D6代謝を軽減する目的で、デキストロメトルファンに追加されている。しかし、キニジンは可能な併用療法におけるその使用を大幅に制限する有害な副作用を有する(Wang, L et al., Clinical Pharmacology and Therapeutics, 1994, 56(6 Pt 1): 659-67(非特許文献2);およびFDA label for quinidine at www.accessdata.fda.gov(非特許文献3)参照)。
【0005】
一般に、薬物をチトクロムP450阻害剤と組み合わせることは、薬物排出を低減するための満足できる戦略ではない。CYP酵素活性の阻害はその同じ酵素によって代謝される他の薬物の代謝および排出に影響をおよぼしうる。CYP阻害は他の薬物が体内に毒性レベルまで蓄積する原因となりうる。
【0006】
薬物の代謝特性を改善する可能性がある魅力的な戦略は重水素修飾である。このアプローチでは、1つまたは複数の水素原子を重水素原子で置き換えることにより、薬物のCYP仲介性代謝の速度を落とす、または望ましくない代謝物の生成を減少させる試みがなされている。重水素は水素の安全で、安定な、非放射性同位体である。水素に比べて、重水素は炭素とより強い結合を形成する。選択された場合に、重水素により増強された結合強度は薬物のADME特性にプラスの影響を与えて、薬物の有効性、安全性、および/または耐容性を改善する可能性をもたらしうる。同時に、重水素のサイズおよび形状は水素と本質的に同じであるため、水素を重水素で置き換えても、水素だけを含む元の化学実体と比べて、薬物の生化学的効力および選択性に影響をおよぼすことはないと予想される。
【0007】
過去35年の間に、代謝速度に対する重水素置換の効果は、認可薬物の非常にわずかなパーセンテージでしか報告されていない(例えば、Blake, MI et al, J Pharm Sci, 1975, 64:367-91(非特許文献4);Foster, AB, Adv Drug Res 1985, 14:1-40(非特許文献5)(「Foster」);Kushner, DJ et al, Can J Physiol Pharmacol 1999, 79-88(非特許文献6);Fisher, MB et al, Curr Opin Drug Discov Devel, 2006, 9:101-09(非特許文献7)(「Fisher」)参照)。結果は一定ではなく、予測不可能であった。いくつかの化合物に対し、重水素化はインビボで代謝による排出の低下を引き起こした。他の化合物では、代謝に変化はなかった。さらに代謝による排出の増大を示すものもあった。重水素の効果の変動性は、専門家に有害な代謝を阻害するための実行可能な薬物設計戦略としての重水素修飾を疑問視させる、または忘れさせることにもなった(Foster(非特許文献5)のp.35およびFisher(非特許文献7)のp.101参照)。
【0008】
薬物の代謝特性に対する重水素修飾の効果は、重水素原子を公知の代謝部位に組み込んだ場合でさえ予測できない。実際に重水素化薬物を調製し、試験することによってのみ、代謝速度がその非重水素化物の代謝速度と異なるかどうか、またどのように異なるかを調べることができる。例えば、Fukuto et al. (J. Med. Chem. 1991, 34, 2871-76) (非特許文献8)参照。多くの薬物は代謝が可能な複数の部位を有する。重水素置換が必要な部位、および、代謝に対する効果がもしあれば、その効果を認めるために必要な重水素化の程度は、各薬物で異なることになる。
【0009】
アプレミラスト(Apremilast)は(+)-N-[2-[1(S)-(3-エトキシ-4-メトキシフェニル)-2-(メチルスルホニル)エチル]-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドル-4-イル]アセトアミドとしても公知で、PDE4阻害剤であり、TNF-αレベルを低下させるはたらきもする。アプレミラストは特に乾癬、プラーク型乾癬(plaque-type psoriasis)、難治性乾癬、皮膚類肉腫症、乾癬性関節炎、ベーチェット病、結節性痒疹、皮膚ループス、およびブドウ膜炎治療のために臨床試験中である。
【0010】
PDE4阻害剤に関連してよく見られる有害事象には一般に、頭痛、悪心、嘔吐および胃腸障害が含まれる。
【0011】
化合物の薬理的に有効な寿命をさらに延ばし、患者のコンプライアンスを増強し、場合によると人種による薬動力学的変動性を低減し、かつ/または危険な薬物-薬物相互作用の可能性を低減するために、アプレミラストの有益な活性および他の利点、例えば、有害作用が軽減され、代謝上の不利が低減された化合物を提供することが望ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Kempf, D.J. et al., Antimicrobial agents and chemotherapy, 1997, 41(3): 654-60
【非特許文献2】Wang, L et al., Clinical Pharmacology and Therapeutics, 1994, 56(6 Pt 1): 659-67
【非特許文献3】FDA label for quinidine at www.accessdata.fda.gov
【非特許文献4】Blake, MI et al, J Pharm Sci, 1975, 64:367-91
【非特許文献5】Foster, AB, Adv Drug Res 1985, 14:1-40
【非特許文献6】Kushner, DJ et al, Can J Physiol Pharmacol 1999, 79-88
【非特許文献7】Fisher, MB et al, Curr Opin Drug Discov Devel, 2006, 9:101-09
【非特許文献8】Fukuto et al., J. Med. Chem. 1991, 34, 2871-76
【発明の概要】
【0013】
本発明は、新規置換イソインドリン-1,3-ジオン誘導体およびその薬学的に許容される塩に関する。
【0014】
より具体的には、本発明は、アプレミラストの類似体である新規置換イソインドリン-1,3-ジオン誘導体に関する。本発明はまた、本発明の化合物と担体とを含む組成物を提供し、かつアプレミラストを投与することにより有利に治療される疾患および状態を治療する方法における開示の化合物および組成物の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
「治療する」なる用語は、疾患(例えば、本明細書において詳細に説明される疾患または障害)の発生もしくは進行を低減、抑制、減弱、減少、休止、もしくは安定化する、疾患の重症度を低下させる、または疾患に関連する症状を改善することを意味する。
【0016】
「疾患」とは、細胞、組織、または器官の正常な機能を損傷または妨害する任意の状態または障害を意味する。
【0017】
合成に用いる化学材料の起源に依存して、合成した化合物の天然同位体存在度にいくらかの変動が生じることが理解されるであろう。したがって、アプレミラストの製剤は本質的に少量の重水素化同位体置換体を含む。この変動にも関わらず、天然に多く存在する安定な水素および炭素同位体の濃度は、本発明の化合物の安定同位体置換の程度に比べると小さく、些細なものである。例えば、Wada E et al., Seikagaku 1994, 66:15;Gannes LZ et al., Comp Biochem Physiol Mol Integr Physiol 1998, 119:725参照。
【0018】
本発明の化合物において、特定の同位体として具体的に指定されていない任意の原子は、その原子の任意の安定な同位体を表すことが意図される。特に記載がないかぎり、位置が「H」または「水素」として具体的に指定される場合、その位置は水素をその天然存在度の同位体組成で有すると理解される。同じく特に記載がないかぎり、位置が「D」または「重水素」として具体的に指定される場合、その位置は重水素をその天然存在度、すなわち0.015%の少なくとも3340倍の存在度(すなわち、少なくとも50.1%の重水素の取り込み)で有すると理解される。
【0019】
本明細書において用いられる「同位体濃縮係数」なる用語は、特定の同位体の同位体存在度と天然存在度との間の比率を意味する。
【0020】
他の態様において、本発明の化合物は、指定の重水素原子それぞれについて少なくとも3500(指定の重水素原子それぞれで52.5%の重水素の取り込み)、少なくとも4000(60%の重水素の取り込み)、少なくとも4500(67.5%の重水素の取り込み)、少なくとも5000(75%の重水素の取り込み)、少なくとも5500(82.5%の重水素の取り込み)、少なくとも6000(90%の重水素の取り込み)、少なくとも6333.3(95%の重水素の取り込み)、少なくとも6466.7(97%の重水素の取り込み)、少なくとも6600(99%の重水素の取り込み)、または少なくとも6633.3(99.5%の重水素の取り込み)の同位体濃縮係数を有する。
【0021】
「同位体置換体]なる用語は、化学構造が本発明の特定の化合物とその同位体組成でのみ異なる種を意味する。
【0022】
「化合物」なる用語は、本発明の化合物に言及する場合、分子の構成原子における同位体に差異がありうる以外は、同じ化学構造を有する一連の分子を意味する。したがって、当業者であれば、示した重水素原子を含む特定の化学構造によって表される化合物は、その構造における指定の重水素の位置の1つまたは複数に水素原子を有する、少量の同位体置換体も含むことが明らかであろう。本発明の化合物におけるそのような同位体置換体の相対量は、化合物を作成するために用いる重水素化試薬の同位体純度および化合物を調製するために用いる様々な合成段階での重水素取り込みの効率を含むいくつかの因子に依存することになる。しかし、前述のとおり、全体としてそのような同位体置換体の相対量は化合物の49.9%未満となる。他の態様において、全体としてそのような同位体置換体の相対量は化合物の47.5%未満、40%未満、32.5%未満、25%未満、17.5%未満、10%未満、5%未満、3%未満、1%未満、または0.5%未満となる。
【0023】
本発明は、本発明の化合物の塩も提供する。
【0024】
本発明の化合物の塩は、酸とアミノ官能基などの化合物の塩基性基との間、または塩基とカルボキシル官能基などの化合物の酸性基との間で形成される。別の態様に従い、化合物は薬学的に許容される酸付加塩である。
【0025】
本明細書において用いられる「薬学的に許容される」なる用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などなしに、ヒトおよび他の哺乳動物の組織と接触して用いるのに適しており、妥当な損益比に見合う成分を意味する。「薬学的に許容される塩」とは、受容者への投与後に、直接的または間接的のいずれかで、本発明の化合物を提供することができる任意の非毒性塩を意味する。「薬学的に許容される対イオン」は、受容者への投与後に塩から放出された場合に毒性でない塩のイオン性部分である。
【0026】
薬学的に許容される塩を形成するためによく用いられる酸には、二硫化水素、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸およびリン酸などの無機酸、ならびにパラトルエンスルホン酸、サリチル酸、酒石酸、重酒石酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ベシル酸、フマル酸、グルコン酸、グルクロン酸、ギ酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、乳酸、シュウ酸、パラブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸などの有機酸、ならびに関連する無機および有機酸が含まれる。したがって、そのような薬学的に許容される塩には硫酸塩、ピロ硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオール酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-1,4-二酸塩、ヘキシン-1,6-二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、β-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、マンデル酸塩および他の塩が含まれる。一つの態様において、薬学的に許容される酸付加塩には、塩酸および臭化水素酸などの鉱酸と形成されるもの、および特にマレイン酸などの有機酸と形成されるものが含まれる。
【0027】
薬学的に許容される塩は、カルボン酸官能基などの酸性官能基を有する本発明の化合物と、塩基との塩であってもよい。例示的塩基には、ナトリウム、カリウム、およびリチウムを含むアルカリ金属の水酸化物;カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アルミニウムおよび亜鉛などの他の金属の水酸化物;アンモニア、無置換またはヒドロキシル置換モノ、ジ、もしくはトリアルキルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどの有機アミン;トリブチルアミン;ピリジン;N-メチル,N-エチルアミン;ジエチルアミン;トリエチルアミン;N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アミンまたはトリ-(2-ヒドロキシエチル)アミンなどのモノ、ビス、またはトリス-(2-OH-(C1-C6)-アルキルアミン);N-メチル-D-グルカミン;モルホリン;チオモルホリン;ピペリジン;ピロリジン;ならびにアルギニン、リジンなどのアミノ酸が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0028】
本発明の化合物(例えば、式Iの化合物)は、例えば、重水素置換またはその他の結果、不斉炭素原子を含むこともある。したがって、本発明の化合物は個々の鏡像異性体、または2つの鏡像異性体の混合物のいずれかとして存在しうる。したがって、本発明の化合物は、ラセミ混合物もしくは主に1つの立体異性体を含む混合物などのスケールミック混合物のいずれかとして、または別の可能な立体異性体を実質的に含まない個々のそれぞれの立体異性体として存在しうる。本明細書において用いられる「他の立体異性体を実質的に含まない」なる用語は、25%未満の他の立体異性体、好ましくは10%未満の他の立体異性体、より好ましくは5%未満の他の立体異性体、最も好ましくは2%未満の他の立体異性体が存在することを意味する。所与の化合物の個々の鏡像異性体を得る、または合成する方法は、当技術分野において公知で、最終化合物または出発原料もしくは中間体に実行可能なように適用しうる。
【0029】
特に記載がないかぎり、開示の化合物が立体化学を明記することなく命名されるか、または構造によって示され、かつ1つまたは複数のキラル中心を有する場合、化合物のすべての可能な立体異性体を表すと理解される。
【0030】
本明細書において用いられる「安定な化合物」なる用語は、それらの製造を可能にするのに十分な安定性を有し、かつ本明細書において詳細を示す目的(例えば、治療用生成物への製剤、治療用化合物の生産において用いるための中間体、単離可能または保存可能な中間体化合物、治療薬剤に反応性の疾患または状態の治療)のために有用であるのに十分な期間、化合物の完全性を維持する化合物を意味する。
【0031】
「D」および「d」はいずれも重水素を意味する。「立体異性体」とは、鏡像異性体およびジアステレオマーの両方を意味する。「Tert」および「t-」はそれぞれ三級を意味する。「US」とはアメリカ合衆国を意味する。
【0032】
「重水素で置換された」とは、1つまたは複数の水素原子の対応する数の重水素原子による置き換えを意味する。
【0033】
本明細書の全体を通して、変数は一般に(例えば、「各R」)または具体的に(例えば、R1、R2、R3など)言及しうる。特に記載がないかぎり、変数を一般に言及する場合、その特定の変数のすべての具体的態様を含むことが意図される。
【0034】
治療用化合物
本発明は式Iの化合物、またはその薬学的に許容される塩を提供する:

式中、
R1はCH3、CH2D、CHD2、およびCD3から選択され;
R2はメチル、イソプロピル、シクロペンチル、シクロプロピル、2-フラニル、トリフルオロメチル、メトキシメチル、アミノメチル、ジメチルアミノメチル、ジメチルアミノ-1-エチル、1-ジメチルアミノ-エチル、および2-ジメチルアミノ-エチルからなる群より選択され、ここでR2は重水素で置換されていてもよく;
R3はCH3、CH2D、CHD2、CD3、CF3、CHF2、CH2F、CDF2、およびCD2Fから選択され;
R4はゼロから5個の重水素で置換されているエチル基であるか、またはゼロから9個の重水素で置換されているシクロペンチル基であり;
XはCH2、CHD、CD2、およびC=Oから選択され;
Y1a、Y1b、Y2、Y3、Y4、Y5、Y7、およびY8はそれぞれ独立にHおよびDから選択され;かつ
Y6はCl、H、およびDから選択され;
ただし、R1がCH3であり;R2が重水素で置換されておらず;R3がCH3、CF3、CHF2、またはCH2Fであり;R4が重水素で置換されていないエチル基または重水素で置換されていないシクロペンチル基であり;XがCH2またはC=Oであり;かつY6がClまたはHである場合、
Y1a、Y1b、Y2、Y3、Y4、Y5、Y7、およびY8の少なくとも1つはDである。
【0035】
一つの態様において、式Iの化合物は式IIの化合物、またはその薬学的に許容される塩である:

式中、
R1はCH3およびCD3から選択され;
R2はメチル、イソプロピル、シクロペンチル、シクロプロピル、2-フラニル、トリフルオロメチル、メトキシメチル、アミノメチル、ジメチルアミノメチル、ジメチルアミノ-1-エチル、1-ジメチルアミノ-エチル、および2-ジメチルアミノ-エチルからなる群より選択され、ここでR2は重水素で置換されていてもよく;
R3はCH3、CD3、CF3、CHF2、CH2F、CDF2、およびCD2Fから選択され;
R4はCH2CH3、CD2CD3、CD2CH3、およびCH2CD3から選択され;かつ
各Yは独立にHおよびDから選択され;
ただし、R1がCH3であり;R2が重水素で置換されておらず;R3がCH3、CF3、CHF2、またはCH2Fであり;かつR4がCH2CH3である場合、
少なくとも1つのYはDである。
【0036】
式Iまたは式IIの一つの態様において、R1はCH3またはCD3である。
【0037】
式Iまたは式IIの一つの態様において、R2はCH3またはCD3である。
【0038】
式Iまたは式IIの一つの態様において、R3はCH3またはCD3である。
【0039】
式Iまたは式IIの一つの態様において、Y6、Y7、およびY8は同じである。一つの局面において、Y6、Y7、およびY8はそれぞれ水素である。
【0040】
式Iまたは式IIの一つの態様において、Y1aおよびY1bは同じである。一つの局面において、Y1aおよびY1bはいずれも水素である。別の局面において、Y1aおよびY1bはいずれも重水素である。
【0041】
式Iまたは式IIの一つの態様において、Y3、Y4、およびY5は同じである。一つの局面において、Y3、Y4、およびY5はそれぞれ水素である。
【0042】
式Iまたは式IIの一つの態様において、R4はCD2CD3である。式Iまたは式IIの一つの態様において、R2はCH3またはCD3であり;R3はCH3またはCD3であり;Y6、Y7、およびY8は同じであり;Y1aおよびY1bは同じであり;かつY3、Y4、およびY5は同じである。
【0043】
式Iまたは式IIの一つの態様において、R1はCH3またはCD3であり;R2はCH3またはCD3であり;R3はCH3またはCD3であり;R4はCD2CD3であり;Y6、Y7、およびY8は同じであり;Y1aおよびY1bは同じであり;かつY3、Y4、およびY5は同じである。
【0044】
一つの態様において、式Iの化合物は、Y2に連結している炭素において主に(S)配置を有する式Iaの化合物、またはその薬学的に許容される塩であり:

式中、残りの変数は式Iについて定義したとおりである。
【0045】
一つの態様において、式Iaの化合物は他の立体異性体を実質的に含まない。
【0046】
一つの態様において、式Iの化合物は、Y2に連結している炭素において主に(R)配置を有する式Ibの化合物、またはその薬学的に許容される塩であり:

式中、残りの変数は式Iについて定義したとおりである。
【0047】
一つの態様において、式Ibの化合物は他の立体異性体を実質的に含まない。
【0048】
式Iaまたは式Ibの一つの態様において、R1はCH3またはCD3である。
【0049】
式Iaまたは式Ibの一つの態様において、R2はCH3またはCD3である。
【0050】
式Iaまたは式Ibの一つの態様において、R3はCH3またはCD3である。
【0051】
式Iaまたは式Ibの一つの態様において、Y6、Y7、およびY8は同じである。一つの局面において、Y6、Y7、およびY8はそれぞれ水素である。
【0052】
式Iaまたは式Ibの一つの態様において、Y1aおよびY1bは同じである。一つの局面において、Y1aおよびY1bはいずれも水素である。別の局面において、Y1aおよびY1bはいずれも重水素である。
【0053】
式Iaまたは式Ibの一つの態様において、Y3、Y4、およびY5は同じである。一つの局面において、Y3、Y4、およびY5はそれぞれ水素である。
【0054】
式Iaまたは式Ibの一つの態様において、R4はCD2CD3である。
【0055】
式Iaまたは式Ibの一つの態様において、R1はCH3またはCD3であり;R2はCH3またはCD3であり;R3はCH3またはCD3であり;R4はCD2CD3であり;Y6、Y7、およびY8は同じであり;Y1aおよびY1bは同じであり;かつY3、Y4、およびY5は同じである。
【0056】
一つの態様において、式Iの化合物は、


からなる群より選択されるか、または前記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩である。
【0057】
一つの態様において、式Iの化合物は、

からなる群より選択されるか、または前記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩である。
【0058】
一つの態様において、化合物は式Iaの化合物であり、

からなる群より選択されるか、または前記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩である。
【0059】
一つの態様は、化合物100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、もしくは112の主に(S)鏡像異性体である化合物、または前記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩を提供する。
【0060】
一つの態様は、化合物113、114、115、116の主に(S)鏡像異性体である化合物、または前記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩を提供する。
【0061】
一つの態様は、化合物100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、もしくは112の主に(R)鏡像異性体である化合物、または前記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩を提供する。
【0062】
一つの態様は、化合物113、114、115、116の主に(R)鏡像異性体である化合物、または前記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩を提供する。
【0063】
別の態様群において、式I、I(a)、またはI(b)の化合物について前述した態様のいずれかにおける重水素と指定されていない任意の原子は、その天然同位体存在度で存在する。
【0064】
式Iの化合物の合成は、合成の当業者であれば容易に達成することができる。関連する手順および中間体は、例えば、Man, H. W. et al., Journal of Medicinal Chemistry (2009), 52(6), 1522-1524;Muller, G.W. et al. Journal of Medicinal Chemistry (1996), 39(17), 3238-3240;WO2006/025991;AU2006/200033;WO2001/034606;米国特許第6,020,358号;および米国特許第6,667,316号に開示されている。
【0065】
そのような方法は、本明細書に示す化合物を合成するための、対応する重水素化され、任意に他の同位体を含有する試薬および/もしくは中間体を用いるか、または化学構造に同位体原子を導入するための当技術分野において公知の標準的合成プロトコルを実行して行うことができる。特定の中間体を精製(例えば、ろ過、蒸留、昇華、結晶化、粉砕、固相抽出、およびクロマトグラフィ)して、または精製せずに用いることができる。
【0066】
例示的合成
スキーム1:式Iの化合物への一般的経路

スキーム1は、Man, HW; et al. Journal of Medicinal Chemistry (2009), 52(6), 1522-1524の一般法に従い、式Iの化合物を調製するための一般的経路を示す。したがって、適当に置換したアルデヒド10をヘキサメチルジシラザンリチウムと、続いてリチウム、ジメチルスルホンおよび三フッ化ホウ素エーテラートで処理して、Y2に連結している炭素で立体中心を有する、ラセミアミン11を得る。望まれる場合には、ラセミアミン11を、メタノール中、エナンチオピュアな酸で処理することにより分割してもよい。例えば、ラセミアミン11をN-アセチル-L-ロイシンで処理することによりS鏡像異性体としてのアミン11が得られる一方で、N-アセチル-D-ロイシンで処理することによりR鏡像異性体としてのアミン11が得られる。アミン11をラセミ体、S鏡像異性体、またはR鏡像異性体として用い、ニートまたは酢酸などの溶媒中のいずれかの無水物12で処理して、式Iの化合物を得てもよい。当業者であれば、スキーム1において適当に重水素化した中間体および試薬を用いることで、様々なパターンの重水素置換を有する式Iの化合物が生成することを理解するであろう。
【0067】
スキーム2:アルデヒド10の調製

スキーム2は、スキーム1の有用な出発原料であるアルデヒド10の調製を示す。Li, Juren; et al. Hecheng Huaxue (1993), 1(4), 333-40に一般に記載されるとおり、適当に重水素化したジオール13を適当に重水素化した臭化エチル14により、相間移動条件下で処理して、フェノール15を得る。フェノール15のクロロホルムとのライマー-ティーマン反応によりアルデヒド16を得る。同位体取り込みのレベルを最大にするために、この段階における重水素化試薬および溶媒は有用でありうる。または、Li, Ying-chun; et al. Yingyong Huagong (2004), 33(1), 26-27に一般に記載される臭化テトラブチルアンモニウム条件を用いて15を16に変換してもよい。Kiehlmann, E.; et al., Organic Preparations and Procedures International (1982), 14(5), 337-42の一般法に従い、16を適当に重水素化した硫酸ジメチル17で処理して、所望の中間体10を得る。
【0068】
例えば、市販の硫酸ジメチル-d6をスキーム2の試薬17として用い、最終的にR3がCD3である式Iの化合物を生成してもよい。別の例では、市販のブロモエタン-d5をスキーム2の試薬14として用い、最終的にR4が-CD2CD3である式Iの化合物を生成してもよい。同様に、スキーム2において最終的にR4に重水素置換の様々な他のパターンを有する式Iの化合物を生成するために、市販のブロモエタン-2,2,2-d3およびブロモエタン-1,1-d2も役立つであろう。
【0069】
スキーム3:中間体12aおよび12bの調製

スキーム3は、XがC=Oである中間体12の一例の中間体12a、およびXがCH2、CHD、またはCD2である中間体12の一例の中間体12bの調製を示す。無水物骨格18のニトロ化は文献、例えば、特許出願WO 2005051870、CN 1740138、およびCN 1405143;ならびにChen, Zhi-min; et al. Hecheng Huaxue (2004), 12(2), 167-169, 173; Zhu, Zhi-jia; et al. Huaxue Shiji (2003), 25(5), 306, 308; Ma, S. L.; et al. Polish Journal of Chemistry (2002), 76(4), 511-517;およびCulhane, P. J.; et al. Organic Syntheses (1927), 7、ページは示されていない、を含む論文において周知である。適当に重水素化した出発原料および試薬の使用により、19の重水素化体を生成することになる。米国特許出願US 2008234359に記載の一般法に従い、炭素担持パラジウム存在下での19の水素添加によりアミン20を得、これを次いで適当に重水素化した無水酢酸21で処理して中間体12aを得る。Wamser, C. C; et al. J. Org. Chem. (1976), 41(17), 2929-31の一般法に従い、中間体12aを亜鉛および酸で還元して中間体12bを得てもよい。市販のDCl、酢酸-d4、および無水酢酸-d6を最終段階で用いて、重水素取り込みの別のパターンを提供してもよい。
【0070】
例えば、市販の3-アミノフタル酸をスキーム3で中間体20として用い、最終的にY6、Y7、およびY8がすべて水素である式Iの化合物を生成してもよい。別の例では、市販の無水酢酸-d6をスキーム3で試薬21として用い、最終的にR2がCD3である式Iの化合物を得てもよい。さらに別の例では、市販の無水フタル酸-d4をスキーム3で無水物18として用い、最終的にY6、Y7、およびY8がすべて重水素である式Iの化合物を提供してもよい。
【0071】
本発明によって構想される置換基および変数の組み合わせは、安定な化合物を生成することになるものだけである。
【0072】
組成物
本発明は、式I(例えば、本明細書における任意の式を含む)の化合物または該化合物の薬学的に許容される塩の有効量と、許容される担体とを含む、組成物も提供する。担体は製剤中の他の成分と適合しており、薬学的に許容される担体の場合、薬剤中で用いられる量でその受容者に対して有害ではないという意味で「許容される」。
【0073】
本発明の薬学的組成物中で用いうる、薬学的に許容される担体、補助剤および媒体には、イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝剤物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または硫酸プロタミンなどの電解質、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、3ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0074】
本発明の薬学的組成物には、経口、直腸、鼻、局所(口腔および舌下を含む)、膣または非経口(皮下、筋肉内、静脈内および皮内を含む)投与に適したものが含まれる。特定の態様において、本明細書における式の化合物を皮内(例えば、皮内パッチまたはイオン泳動技術を用いて)投与する。他の製剤を単位剤形、例えば、錠剤、徐放性カプセル剤、およびリポソームで都合よく提示してもよく、薬学の技術分野において周知の任意の方法によって調製してもよい。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD (20th ed. 2000)参照。
【0075】
そのような調製法は、1つまたは複数の補助成分を構成する担体などの成分を投与する分子と混合する段階を含む。一般に、活性成分を液体担体、リポソームもしくは微粒子固体担体、または両方と均一かつ密接に混合し、次いで、必要がある場合には、生成物を成形することにより、組成物を調製する。
【0076】
特定の態様において、化合物を経口投与する。経口投与に適した本発明の組成物は、あらかじめ決められた量の活性成分をそれぞれ含むカプセル剤、サシェ、または錠剤などの分離した単位;散剤もしくは顆粒剤;水性液体もしくは非水性液体中の液剤もしくは懸濁剤;水中油液体乳剤;油中水液体乳剤;リポソーム中に充填;またはボーラスなどとして提示してもよい。そのような懸濁剤を含むためにゼラチン軟カプセルが有用でありえ、これは化合物吸収速度を有利に高めうる。
【0077】
経口使用のための錠剤の場合、よく用いられる担体には乳糖およびコーンスターチが含まれる。ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤も典型的に加える。カプセル剤形での経口投与のために、有用な希釈剤には乳糖および乾燥コーンスターチが含まれる。水性懸濁剤を経口投与する場合、活性成分を乳化剤および懸濁化剤と混合する。望まれる場合には、特定の甘味剤および/または着香剤および/または着色剤を加えてもよい。
【0078】
経口投与に適した組成物には、着香基剤、通常はショ糖およびアカシアまたはトラガカント中に成分を含むロゼンジ;ならびにゼラチンおよびグリセリン、またはショ糖およびアカシアなどの不活性基剤中に活性成分を含む香錠が含まれる。
【0079】
非経口投与に適した組成物には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および製剤を意図される受容者の血液と等張にする溶質を含んでいてもよい、水性および非水性滅菌注射液剤;ならびに懸濁化剤および増粘剤を含んでいてもよい水性および非水性滅菌懸濁剤が含まれる。製剤は、単位用量または複数用量容器、例えば、密封アンプルおよびバイアル中で提示してもよく、使用直前に注射用の滅菌液体担体、例えば、水の添加だけを必要とする、凍結乾燥(freeze dried)(凍結乾燥(lyophilized))状態で保存してもよい。即時注射液剤および懸濁剤を滅菌散剤、顆粒剤および錠剤から調製してもよい。
【0080】
そのような注射液剤は、例えば、滅菌注射用水性または油性懸濁剤の形であってもよい。この懸濁剤は、適当な分散剤または湿潤剤(例えば、トゥイーン;80など)および懸濁化剤を用い、当技術分野において公知の技術に従って製剤してもよい。滅菌注射用製剤は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射用液剤または懸濁剤、例えば、1,3-ブタンジオール中の液剤であってもよい。用いうる許容される媒体および溶媒の中には、マンニトール、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌固定油が溶媒または懸濁媒として慣習的に用いられる。この目的のために、合成モノまたはジグリセリドを含む、任意の無刺激性固定油を用いてもよい。オレイン酸などの脂肪酸およびそのグリセリド誘導体は、オリーブ油またはヒマシ油、特にそれらのポリオキシエチル化体などの天然の薬学的に許容される油と同様、注射剤の製剤において有用である。これらの油液剤または懸濁剤は長鎖アルコール希釈剤または分散剤を含んでいてもよい。
【0081】
本発明の薬学的組成物を、直腸投与用の坐剤の形で投与してもよい。これらの組成物は、本発明の化合物を室温では固体であるが、直腸温度では液体であり、したがって直腸で融解して活性成分を放出する、適当な非刺激性賦形剤と混合することにより調製することができる。そのような材料には、カカオ脂、蜜蝋およびポリエチレングリコールが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0082】
本発明の薬学的組成物を、鼻エアロゾルまたは吸入により投与してもよい。そのような組成物は、薬学的製剤の分野において周知の技術に従って調製し、ベンジルアルコールもしくは他の適当な保存剤、バイオアベイラビリティを増強するための吸収促進剤、フルオロカーボン、および/または当技術分野において公知の他の可溶化剤もしくは分散剤を用いて、食塩水中の液剤として調製してもよい。例えば:Alexza Molecular Delivery Corporationに譲渡された、Rabinowitz JD and Zaffaroni AC、米国特許第6,803,031号参照。
【0083】
本発明の薬学的組成物の局所投与は、所望の治療が局所適用によって容易に到達可能な領域または器官に関与する場合に特に有用である。皮膚への局所用の局所適用のために、薬学的組成物を担体中に懸濁または溶解した活性成分を含む適当な軟膏と共に製剤すべきである。本発明の化合物の局所投与のための担体には、鉱油、流動パラフィン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス、および水が含まれるが、それらに限定されるわけではない。または、薬学的組成物を担体中に懸濁または溶解した活性成分を含む適当なローションまたはクリームと共に製剤することもできる。適当な担体には、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水が含まれるが、それらに限定されるわけではない。本発明の薬学的組成物を、直腸坐剤製剤または適当な浣腸製剤で下部腸管に局所適用してもよい。局所経皮パッチおよびイオン泳動投与も本発明に含まれる。
【0084】
患者治療方法の適用は、関心対象部位に投与するために、局所であってもよい。本発明の組成物を関心対象部位に提供するために、注射、カテーテルの使用、套管針、発射物、プルロニックゲル(pluronic gel)、ステント、薬物徐放性ポリマーまたは内部到達を提供する他の装置などの様々な技術を用いることができる。
【0085】
したがって、さらに別の態様に従い、本発明の化合物を、人工器官、人工弁、人工血管、ステント、またはカテーテルなどの、移植可能な医用装置をコーティングするための組成物に組み込んでもよい。適当なコーティング剤およびコーティングした移植可能な装置の一般的調製は当技術分野において公知であり、米国特許第6,099,562号;第5,886,026号;および第5,304,121号に例示されている。コーティング剤は典型的には、ヒドロゲルポリマー、ポリメチルジシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、エチレン酢酸ビニル、およびその混合物などの生体適合性ポリマー材料である。コーティング剤は任意に、制御放出特性を組成物に付与するために、フルオロシリコーン、多糖、ポリエチレングリコール、リン脂質またはその組み合わせの適当なトップコートによってさらに覆われていてもよい。侵襲性装置のためのコーティング剤は、薬剤的に許容される担体、補助剤または媒体なる用語が本明細書において使用されるような、それらの用語の定義の範囲内に含まれることになる。
【0086】
別の態様に従い、本発明は、移植可能な医用装置をコーティングする方法であって、該装置を前述のコーティング組成物と接触させる段階を含む方法を提供する。当業者であれば、装置のコーティングは哺乳動物への移植の前に行われることは明らかであろう。
【0087】
別の態様に従い、本発明は、移植可能な薬物放出装置を含浸させる方法であって、該薬物放出装置を本発明の化合物または組成物と接触させる段階を含む方法を提供する。移植可能な薬物放出装置には、生分解性ポリマーカプセルまたは小球(bullet)、非分解性、拡散性ポリマーカプセルおよび生分解性ポリマーウエファーが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0088】
別の態様に従い、本発明は、本発明の化合物が治療的に活性であるように、該化合物または該化合物を含む組成物でコーティングされた移植可能な医用装置を提供する。
【0089】
別の態様に従い、本発明は、本発明の化合物が装置から放出され、治療的に活性であるように、該化合物または該化合物を含む組成物を含浸させた、またはそれを含む移植可能な薬物放出装置を提供する。
【0090】
器官または組織が患者からの除去により到達可能である場合、そのような器官または組織を本発明の組成物を含む媒質に液に浸してもよく、本発明の組成物を器官上に塗布してもよく、あるいは本発明の組成物を任意の他の好都合な様式で適用してもよい。
【0091】
別の態様において、本発明の組成物は第二の治療薬をさらに含む。
【0092】
第二の治療薬は、アプレミラストと同じ作用機序を有する化合物と共に投与する場合、有利な特性を有することが公知であるか、またはそのような特性を示す任意の化合物または治療薬から選択してもよい。そのような薬剤には、特にプラーク型乾癬および難治性乾癬を含む乾癬;皮膚類肉腫症を含む類肉腫症;乾癬性関節炎;ベーチェット病;結節性痒疹;皮膚ループスを含むループス;ならびにブドウ膜炎の治療のために有用な薬剤を含むが、それらに限定されるわけではない、アプレミラストとの組み合わせで有用であることが示されたものが含まれる。
【0093】
一つの態様において、第二の治療薬は乾癬または類肉腫症の治療のために有用な薬剤である。
【0094】
別の態様において、本発明は、分離した剤形の本発明の化合物および任意の前述の第二の治療薬の1つまたは複数を提供し、ここで該化合物および第二の治療薬は互いに結合している。本明細書において用いられる「互いに結合している」なる用語は、分離した剤形が一緒に販売され、投与(連続または同時に、互いに24時間未満で)されると意図されていることが容易に明らかであるように、分離した剤形が一緒に包装されているか、さもなければ互いに連結されていることを意味する。
【0095】
本発明の薬学的組成物において、本発明の化合物を有効量で提示する。本明細書において用いられる「有効量」なる用語は、適切な投薬計画で投与する場合、標的障害を治療(治療的または予防的に)するために十分である量を意味する。例えば、治療中の障害の重症度、持続期間または悪化を減少させる、治療中の障害の進行を妨げる、治療中の障害の緩解を引き起こす、または別の療法の予防もしくは治療効果を増強もしくは改善するために。
【0096】
動物およびヒトのための用量の相互関係(ミリグラム/体表面の平方メートルに基づき)は、Freireich et al, Cancer Chemother. Rep, 1966, 50: 219に記載されている。体表面積は患者の身長および体重から概算して決定してもよい。例えば、Scientific Tables, Geigy Pharmaceuticals, Ardsley, N.Y., 1970, 537参照。
【0097】
一つの態様において、本発明の化合物の有効量は治療ごとに約0.2から2000mgの範囲でありうる。より具体的な態様において、範囲は約2から1000mgまたは4から400mgまたは最も具体的には治療ごとに20から200mgである。治療は典型的には0.625から1.25ng/kg/分の間の速度で投与する。注入速度は最初の4週間は1週間に1.25ng/kg/分以下、次いで注入期間の残りは1週間に2.5ng/kg/分以下の増分で高めることができる。
【0098】
有効用量は、当業者には理解されるとおり、治療する疾患、疾患の重症度、投与経路、患者の性別、年齢および前進健康状態、賦形剤の使用、他の薬剤の使用などの他の治療的処置との同時使用の可能性ならびに治療する医師の判断に応じて変動することになる。例えば、有効用量を選択するための指針はアプレミラストに関する処方情報を参照することによって決定することができる。
【0099】
第二の治療薬を含む薬学的組成物について、第二の治療薬の有効量は、該薬剤だけを使用する単剤療法計画で通常使用される用量の約20%と100%との間である。好ましくは、有効量は通常の単剤療法用量の約70%と100%との間である。これらの第二の治療薬の通常の単剤療法用量は、当技術分野において周知である。例えば、Wells et al., eds., Pharmacotherapy Handbook, 2nd Edition, Appleton and Lange, Stamford, Conn. (2000);PDR Pharmacopoeia, Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000, Deluxe Edition, Tarascon Publishing, Loma Linda, Calif. (2000)を参照されたく、これらの参照文献はそれぞれ全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0100】
上で言及した第二の治療薬のいくつかは本発明の化合物と相乗的に作用するであろうことが予想される。これが起こる場合、第二の治療薬および/または本発明の化合物の有効な用量を単剤療法において必要とされるものよりも減少させることになる。このことは、第二の治療薬または本発明の化合物のいずれかの毒性副作用の最少化、有効性における相乗的な改善、投与もしくは使用の容易さの改善および/または化合物の調製または製剤の全体経費の軽減という利点を有する。
【0101】
治療方法
別の態様において、本発明は、被験者におけるPDE4を阻害する方法であって、該被験者に本明細書における式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を投与する段階を含む方法を提供する。
【0102】
別の態様において、本発明は、被験者におけるTNF-αレベルを低減する方法であって、該被験者に本明細書における式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩を投与する段階を含む方法を提供する。
【0103】
別の態様に従い、本発明は、アプレミラストによって有利に治療される疾患を治療する方法であって、その必要がある患者に本発明の式Iの化合物もしくはその薬学的に許容される塩または組成物の有効量を投与する段階を含む方法を提供する。そのような疾患は当技術分野において周知であり、以下の特許および公開された出願:WO2006/025991;AU2006/200033;WO2001/034606;米国特許第6,020,358号;および米国特許第6,667,316号に開示されているが、それらに限定されるわけではない。
【0104】
そのような疾患には、敗血症性ショック、敗血症、内毒素性ショック、血行動態ショック(hemodynamic shock)および敗血症症候群、虚血後再灌流傷害、マラリア、マイコバクテリア感染症、髄膜炎;プラーク型乾癬および難治性乾癬を含む乾癬;皮膚類肉腫症を含む類肉腫症;乾癬性関節炎;ベーチェット病;結節性痒疹;皮膚ループスを含むループス;ブドウ膜炎;うっ血性心不全、線維性疾患(fibrotic disease)、悪液質、移植片拒絶、癌、自己免疫疾患、AIDSにおける日和見感染症、関節リウマチ、リウマチ様脊椎炎、変形性関節症、他の関節炎状態、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、ハンセン病におけるENL、放射線障害、高酸素肺胞傷害(hyperoxic alveolar injury)、望まれない血管形成、炎症性疾患、関節炎、炎症性腸疾患、アフタ性潰瘍、喘息、成人呼吸窮迫症候群、およびAIDSが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0105】
一つの特定の態様において、本発明の方法を用いて乾癬または類肉腫症を治療する。
【0106】
本明細書において詳細に説明される方法は、患者が特定の明言された治療を必要としていると特定された方法を含む。そのような治療を必要としている患者の特定は、患者または医療専門家の判断に委ねることができ、主観的(例えば意見)または客観的(例えば試験または診断法によって測定可能)でありうる。
【0107】
別の態様において、任意の前述の治療方法は、患者に1つまたは複数の第二の治療薬を同時投与するさらなる段階を含む。第二の治療薬の選択は、アプレミラストとの同時投与に有用であることが公知の任意の第二の治療薬から行われてもよい。第二の治療薬の選択は、治療する特定の疾患または状態にも依存する。本発明の方法において利用しうる第二の治療薬の例は、本発明の化合物および第二の治療薬を含む併用組成物において用いるための前述のものが挙げられる。
【0108】
特に、本発明の併用療法は、以下の状態:プラーク型乾癬および難治性乾癬を含む乾癬;皮膚類肉腫症を含む類肉腫症;乾癬性関節炎;ベーチェット病;結節性痒疹;皮膚ループスを含むループス;ならびにブドウ膜炎を治療するための、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩および第二の治療薬の同時投与を含む。
【0109】
本明細書において用いられる本明細書で使用される「同時投与される」なる用語は、第二の治療薬を単一剤形(本発明の化合物および前述の第二の治療薬を含む本発明の組成物など)の一部として、または分離した複数の剤形として、本発明の化合物と一緒に投与してもよいことを意味する。または、追加の薬剤を、本発明の化合物の投与の前に、連続して、または投与後に投与してもよい。そのような併用療法治療において、本発明の化合物および第二の治療薬はいずれも通常の方法によって投与する。本発明の化合物および第二の治療薬の両方を含む、本発明の組成物の患者への投与は、治療経過中の別の時期に、同じ治療薬、任意の他の第二の治療薬または任意の本発明の化合物の該患者への別々の投与を排除するものではない。
【0110】
これらの第二の治療薬の有効量は当業者には周知であり、投与のための指針は、本明細書において参照する特許および公開された特許出願、ならびにWells et al., eds., Pharmacotherapy Handbook, 2nd Edition, Appleton and Lange, Stamford, Conn. (2000);PDR Pharmacopoeia, Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000, Deluxe Edition, Tarascon Publishing, Loma Linda, Calif. (2000)、および他の医学教科書に見出しうる。しかし、第二の治療薬の最適な有効量範囲を決定することは十分に当業者の権限の範囲内である。
【0111】
第二の治療薬を患者に投与する、本発明の一つの態様において、本発明の化合物の有効量は、第二の治療薬を投与しない場合の有効量よりも少ない。別の態様において、第二の治療薬の有効量は、本発明の化合物を投与しない場合の有効量よりも少ない。このようにして、いずれかの薬剤の高用量に関連する望ましくない副作用を最少化してもよい。他の潜在的な利点(投与計画の改善および/または薬物費用の軽減を含むが、それらに限定されるわけではない)は当業者には明らかであろう。
【0112】
さらに別の局面において、本発明は、前述の疾患、障害または症状の患者の治療のための、単一組成物または別々の剤形のいずれかとしての薬剤の製造における、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩単独または1つもしくは複数の前述の第二の治療薬と一緒の使用を提供する。本発明の別の局面は、本明細書において詳細に説明される疾患、障害または症状の患者の治療における使用のための、式Iの化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【実施例】
【0113】
実施例1. (S)-N-(2-(1-d-2-(メチルスルホニル)-1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)フェニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(化合物113a)の合成。
スキーム4:化合物113aの調製

【0114】
段階1. 3-ヒドロキシ-4-(メトキシ-d3)-安息香酸エチル(23)。市販のエステル22(10g、55mmol)をDMF中のCD3I(99原子%D、Cambridge Isotopes;8.1g、55mol)およびK2CO3(7.59g)と混合し、室温で週末の間撹拌した。LCMSにより出発原料(20%)、所望のモノアルキル化23(55%)生成物およびビスアルキル化(23%)副生成物に一致する質量の3つのピークが認められた。反応混合物をセライトのパッドを通してろ過し、EtOAcで洗浄し、ろ液を濃縮してほぼ乾固させた。残渣をCH2Cl2(300mL)に溶解し、溶液を水(5×50mL)、食塩水で洗浄し、乾燥(Na2SO4)し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルのクロマトグラフィによりEtOAc/ヘプタン(1:9から1:6)で溶出して精製し、次いでヘプタンからさらに粉砕して、4.1g(36%)の所望の23を得た。
【0115】
段階2. 3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-安息香酸エチル(24)。23(4.1g、20mmol)をDMF(10mL)に溶解し、K2CO3(2.5g)およびCD3CD2Br(99原子%D、Cambridge Isotopes;4.7g、41mmol)を加えた。反応フラスコを密封し、室温で24時間撹拌した。LCMSにより反応完了が示された。混合物をセライトのパッドを通してろ過し、MTBEで洗浄した。ろ液を濃縮して揮発性物質を除去し、水(100mL)を加えた。固体を減圧下で回収し、水(50mL)で洗浄した。固体をMTBE(200mL)に再度溶解し、溶液を食塩水で洗浄し、乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、約3.8g(81%)の24(LCMSにより純度約90%)を得た。
【0116】
段階3. (3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-1,1-d2-メタノール(25)。24(3.8g、16.3mmol)をMTBE(50mL)に溶解し、LiAlD4(98原子%D、Cambridge Isotopes;0.7g、17mmol)を加えた。反応混合物を室温で終夜撹拌した。LCMSにより反応完了が示された。NH4Cl水溶液(20mL)を注意深く加えて反応を停止し、混合物をセライトのパッドを通してろ過した。相を分離し、水相をEtOAc(2×20mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、2.8gの25を淡黄色油状物で得た。この材料を次の段階で直接用いた。
【0117】
段階4. 3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-ベンズアルデヒド-d(10a)。25(2.8g、16mmol)をEtOAc(30mL)に溶解した。MnO2(14g、160mmol)を加え、暗色混合物を室温で終夜撹拌した。LCMSにより出発原料の完全な消費が示された。混合物をセライトのパッドを通過させ、EtOAcで洗浄し、ろ液を濃縮して黄色油状物を得た。油状物をシリカゲルのクロマトグラフィにより20%EtOAc/ヘプタンで溶出して精製し、2.05g(2段階で68%)の10aを白色固体で得た。
【0118】
段階5. 1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-1-d-2-(メチルスルホニル)エタンアミン(11a)。メチルスルホン(1g、10.7mmol)をTHF(70mL)に懸濁し、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却した。n-BuLi(ヘキサン中2.5M、4.6mL、11.5mmol)を加え、混合物を30分間撹拌した。別のフラスコで、THF(20mL)中の10a(1.9g、10.0mmol)の溶液を0℃に冷却した。ヘキサメチルジシラザンリチウム(LHMDS)(THF中1M、12mL)を加えた。15分後、三フッ化ホウ素エーテラート(2.8mL、22mmol)を加え、撹拌をさらに5分間続けた。次いで、この溶液をメチルスルホン/n-BuLi溶液に、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却しながらシリンジで加えた。発熱が観察された。この混合物を室温まで加温し、終夜撹拌した。氷水浴中で冷却した後、K2CO3(8g)と、続いて水(50mL)を加えた。層を分離し、水相をEtOAc(2×20mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、粘稠油状物を得た。MTBE(30mL)およびHCl水溶液(4N、30mL)を加え、混合物を室温で2時間撹拌して、澄明二相性溶液を得た。相を分離し、有機溶液をHCl水溶液(4N、25mL)で抽出した。合わせた水相にNaOH水溶液(24%)をpH>12まで加えた。水相をEtOAc(3×50mL)で抽出し、有機相を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、黄色固体を得た。固体をMTBE(20mL)に懸濁し、1時間撹拌した。減圧下でろ過して、1.2g(36%)の11aを得た。
【0119】
段階6. (S)-1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-1-d-2-(メチルスルホニル)エタンアミンN-アセチルロイシン塩((S)-11a)。11a(1.2g、4.25mmol)をMeOH(10mL)中のN-アセチル-L-ロイシン(0.44g、2.55mmol)と混合した。この混合物を70℃で3時間加熱し、次いで室温で終夜撹拌した。固体を減圧ろ過により回収し、MeOH(15mL)に懸濁した。混合物を70℃で2時間と、次いで室温で終夜撹拌した。固体を回収し、MeOH粉砕を繰り返した。600mg分(31%)の(S)-11aを>99%eeで単離した。
【0120】
段階7. (S)-N-(2-(1-d-1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(化合物113a)。(S)-11a(380 mg、0.88mmol)を酢酸(6mL)中の公知の12a(200mg、1mmol;US 20080234359参照)と混合し、24時間加熱還流して、反応を完了させた。混合物を濃縮し、無色油状物をEtOAc(100mL)に再度溶解した。溶液を飽和NaHCO3水溶液(20mL)で洗浄し、乾燥(Na2SO4)し、濃縮した。粗生成物をAnalogixシステムのカラムクロマトグラフィにより0〜3%MeOH/CH2Cl2で溶出して精製し、360mg(87%)の113aを得た。

HPLC(方法:50mmの3μm Waters Atlantis T3 2.1カラム−勾配法:14分間で5〜95%ACN+0.1%ギ酸と、95%ACN+0.1%ギ酸で4分間維持;波長:305nm):保持時間:5.96分;純度99.5%。MS (M+H): 470.3。元素分析(C22H15D9 N2O7S・H2O):計算値:C=54.20、H=5.38、N=5.75。実測値:C=54.15、H=4.98、N=5.60。
【0121】
実施例2. (S)-N-(2-(2-(メチルスルホニル)-1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)フェニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(化合物107a)の合成。
スキーム5:化合物107aの調製

【0122】
段階1. 3-ヒドロキシ-4-(メトキシ-d3)-ベンズアルデヒド(27)。市販の3,4,-ジヒドロキシ-ベンズアルデヒド26(10g、80mmol)をDMF(50mL)に溶解した。K2CO3(10g)を加え、溶液を氷水浴中で冷却した。CD3I(99原子%D、Cambridge Isotopes;12.4g、84mmol)をゆっくり加え、次いで反応混合物を室温で終夜撹拌した。反応混合物をEtOAc(200mL)で希釈し、セライトのパッドを通してろ過した。ろ液を濃縮して暗色油状物を得た。EtOAc(150mL)および水(50mL)を加え、層を分離した。水相に1N HClをゆっくり加えてpH6に調節し、混合物をEtOAc(2×100mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮した。粗製材料をシリカゲルのカラムクロマトグラフィによりEtOAc/ヘプタン(1:6から1:2)で溶出して精製し、純度約90%の27を5gよりも多く得た。この材料をAnalogixクロマトグラフィシステムにより0〜30%EtOAc/ヘプタンで溶出してさらに精製し、4.3g(35%)の27を得た。
【0123】
段階2. 3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-ベンズアルデヒド(10b):27(4.3g、27.7mmol)をアセトン中のCs2CO3(15g、46mmol)と混合し、氷水浴中で冷却した。ブロモエタン-d5(99原子%D、Cambridge Isotopes;3.8g、33.6mmol)を加え、反応混合物を終夜撹拌した。MTBEを加え、混合物をセライトのパッドを通してろ過した。濃縮後、粗生成物をシリカゲルのクロマトグラフィにより1:4 EtOAc/ヘプタンで溶出して精製し、2g(38%)の所望の10bを得た。
【0124】
段階3. 1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エタンアミン(11b)。メチルスルホン(1g、10.7mmol)をTHF(70mL)に懸濁し、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却した。n-BuLi(ヘキサン中2.5M、4.8mL、11.9mmol)を加え、混合物を約30分間撹拌した。別のフラスコで、THF(2mL)中の10b(2g、10.6mmol)の溶液を0℃に冷却した。LHMDS(THF中1M、12mL)を加えた。15分後、三フッ化ホウ素エーテラート(2.8mL、22mmol)を加え、撹拌をさらに5分間続けた。次いで、この溶液をメチルスルホン/n-BuLi溶液に、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却しながらシリンジで加えた。発熱が観察された。この混合物を室温まで加温し、終夜撹拌した。氷水浴中で冷却した後、K2CO3(8g)と、続いて水(50mL)を加えた。層を分離し、水相をEtOAc(2×20mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、粘稠油状物を得た。MTBE(30mL)およびHCl水溶液(4N、30mL)を加え、混合物を室温で2時間撹拌して、澄明二相性溶液を得た。相を分離し、有機相をHCl水溶液(4N、25mL)で抽出した。合わせた水相にNaOH水溶液(24%)を加えて、pHを12よりも高くした。溶液をEtOAc(3×50mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、黄色固体を得た。固体をMTBE(20mL)に懸濁し、1時間撹拌した。減圧下でろ過して、1.2g(38%)の11bを淡黄色固体で得た。
【0125】
段階4. (S)-1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エタンアミンN-アセチル-L-ロイシン塩((S)-11b)。11b(1.05g、3.73mmol)をMeOH(6mL)中のN-アセチル-L-ロイシン(0.39g、2.24mmol)と混合した。この混合物を70℃で3時間加熱し、次いで室温で終夜撹拌した。固体を減圧ろ過により回収し、MeOH(15mL)に懸濁した。懸濁液を70℃で2時間と、次いで室温で終夜撹拌した。固体を回収し、MeOH粉砕を繰り返した。400mg分(23%)の(S)-11b N-アセチル-L-ロイシン塩を>98%eeで得た。
【0126】
段階5. (S)-N-(2-(1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(化合物107a):(S)-11b N-アセチル-L-ロイシン塩(220mg、0.5mmol)を酢酸(5mL)中の公知の12a(123mg、0.6mmol)と混合し、24時間加熱還流して、反応をほぼ完了させた。混合物を濃縮し、無色油状物をEtOAc(100mL)に溶解し、溶液を飽和NaHCO3水溶液(20mL)で洗浄した。有機相を乾燥(Na2SO4)し、濃縮した。粗生成物をAnalogixシステムのカラムクロマトグラフィにより0〜70%EtOAc/ヘプタンで溶出して精製し、210mg(89%)の107aを得た。

HPLC(方法:50mmの3μm Waters Atlantis T3 2.1カラム−勾配法:14分間で5〜95%ACN+0.1%ギ酸と、95%ACN+0.1%ギ酸で4分間維持;波長:305nm):保持時間:6.02分;純度>98.0%。キラルHPLC(方法:Chiralpak AD 25cmカラム−イソクラティック法:78%ヘキサン/22%イソプロパノール/0.01%ジエチルアミン、40分間、1.00mL/分;波長:254nm):保持時間:12.73分(主な鏡像異性体);純度>99%ee。MS (M+Na): 488.1。元素分析(C22H21D3 N2O7S):計算値:C=56.76、H=5.20、N=6.02、S=6.89。実測値:C=56.74、H=5.43、N=5.70、S=6.51。
【0127】
実施例3. (S)-N-(2-(2-(メチルスルホニル)-1-(3-エトキシ-4-(メトキシ-d3)フェニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(化合物114a)の合成。
スキーム6:化合物114aの調製

【0128】
段階1. 3-エトキシ-4-(メトキシ-d3)-ベンズアルデヒド(10c)。アセトン中の市販の16a(5g、30mmol)およびCs2CO3(15g、46mmol)を氷水浴中で冷却した。(CD3)2SO4(99原子%D、Cambridge Isotopes;2.7mL、30mmol)を加え、反応混合物を室温までゆっくり加温し、終夜撹拌した。混合物をセライトのパッドを通してろ過し、濃縮して、5.7g(約100%)の10cを得た。
【0129】
段階2. 1-(3-エトキシ-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エタンアミン(11c)。メチルスルホン(3g、32.1mmol)をTHF(280mL)に懸濁し、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却した。n-BuLi(ヘキサン中2.5M、13.6mL、35.7mmol)を加え、混合物を約30分間撹拌した。別のフラスコで、THF(60mL)中の10c(5.7g、30.2mmol)の溶液を0℃に冷却した。LHMDS(THF中1M、34.4mL)を加えた。15分後、三フッ化ホウ素エーテラート(8mL、62.9mmol)を加え、混合物を5分間撹拌した。この溶液をメチルスルホン/n-BuLi溶液に、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却しながらシリンジで加えた。発熱が観察された。この混合物を室温まで加温し、終夜撹拌した。氷水浴中で冷却した後、K2CO3(24g)と、続いて水(150mL)を加えた。層を分離し、水相をEtOAc(3×60mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、粘稠油状物を得た。MTBE(90mL)およびHCl水溶液(4N、90mL)を残渣に加え、混合物を室温で2時間撹拌して、澄明二相性溶液を得た。相を分離し、有機相をHCl水溶液(4N、75mL)で抽出した。合わせた水相にNaOH水溶液(24%)を加えて、pHを12よりも高くした。水層をEtOAc(3×150mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、黄色固体を得た。固体をMTBE(60mL)に懸濁し、1時間撹拌した。減圧下でろ過して、2.7g(31.4%)の11cを淡黄色固体で得た。
【0130】
段階3. (S)-1-(3-エトキシ-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エタンアミンN-アセチル-L-ロイシン塩((S)-11c)。11c(2.3g、8.17mmol)をMeOH(12mL)中のN-アセチル-L-ロイシン(0.78g、4.48mmol)と混合した。混合物を70℃で3時間加熱し、次いで室温で終夜撹拌した。固体を減圧ろ過により回収し、MeOH(12mL)に懸濁し、70℃で2時間と、次いで室温で終夜撹拌した。固体を回収し、MeOH粉砕を繰り返した。1g分(28.8%)の(S)-11c N-アセチル-L-ロイシン塩を>98%eeで得た。
【0131】
段階4. (S)-N-(2-(1-(3-エトキシ-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(114a)。(S)-11c(0.97g、2.2mmol)を酢酸(20mL)中の公知の12a(470mg、2.5mmol)と混合し、24時間加熱還流して、反応をほぼ完了させた。混合物を濃縮し、無色油状物をEtOAc(200mL)に溶解し、溶液を飽和NaHCO3(40mL)で洗浄した。有機相を乾燥(Na2SO4)し、濃縮した。粗生成物をAnalogixシステムのカラムクロマトグラフィにより0〜70%EtOAc/ヘプタンで溶出して精製し、0.7g(68%)の114aを得た。

HPLC(方法:50mmの3μm Waters Atlantis T3 2.1カラム−勾配法:14分間で5〜95%ACN+0.1%ギ酸と、95%ACN+0.1%ギ酸で4分間維持;波長:305nm):保持時間:6.03分;純度97.4%。キラルHPLC(方法:Chiralpak AD 25cmカラム−イソクラティック法:78%ヘキサン/22%イソプロパノール/0.01%ジエチルアミン、40分間、1.00mL/分;波長:254nm):保持時間:12.69分(主な鏡像異性体);39.03分(少量の鏡像異性体);純度>99%ee。MS (M+Na): 486.0。元素分析(C22H21D3 N2O7S):計算値:C=57.01、H=5.22、N=6.04、S=6.92.実測値:C=57.68、H=5.63、N=5.52、S=6.33。
【0132】
実施例4. (S)-N-(2-(2-(メチルスルホニル)-1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ)フェニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(化合物110a)の合成。
スキーム7:化合物110aの調製

【0133】
段階1. 3-(エトキシ-d3)-4-メトキシ-ベンズアルデヒド(10d)。市販の29a(5g、30mmol)をアセトン中のCs2CO3(15g、46mmol)と混合し、氷水浴中で冷却した。ブロモエタン-d5(99原子%D、Cambridge Isotopes;3.8g、33.6mmol)を加え、反応混合物を室温までゆっくり加温し、終夜撹拌した。反応混合物をMTBEで希釈し、セライトのパッドを通してろ過し、濃縮して、5.5g(約100%)の10dを得た。
【0134】
段階2. 1-(3-(エトキシ-d5)-4-メトキシ-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エタンアミン(11d)。メチルスルホン(2.76g、29.5mmol)をTHF(250mL)に懸濁し、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却した。n-BuLi(ヘキサン中2.5M、12.5mL、31mmol)を加え、混合物を約30分間撹拌した。別のフラスコで、THF(50mL)中のアルデヒド10d(5.25g、27.6mmol)の溶液を0℃に冷却した。LHMDS(THF中1M、31.7mL)を加えた。15分後、三フッ化ホウ素エーテラート(7.36mL、57.8mmol)を加え、混合物をさらに5分間撹拌した。次いで、この溶液をメチルスルホン/n-BuLi溶液に、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却しながらシリンジで加えた。発熱が観察された。この混合物を室温まで加温し、終夜撹拌した。氷水浴中で冷却した後、K2CO3(24g)と、続いて水(150mL)を加えた。層を分離し、水相をEtOAc(3×60mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、粘稠油状物を得た。MTBE(90mL)およびHCl水溶液(4N、90mL)を加え、混合物を室温で2時間撹拌して、澄明二相性溶液を得た。相を分離し、有機相をHCl水溶液(4N、75mL)で抽出した。合わせた水相にNaOH水溶液(24%)を加えて、pHを12よりも高くした。混合物をEtOAc(3×150mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、黄色固体を得た。固体をMTBE(60mL)に懸濁し、1時間撹拌した。減圧下でろ過して、2.7g(34.2%)の11dを淡黄色固体で得た。
【0135】
段階3. ((S)-1-(3-(エトキシ-d5)-4-メトキシ-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エタンアミンN-アセチルL-ロイシン塩((S)-11d)。11d(2.6g、9.33mmol)をMeOH(15mL)中のN-アセチル-L-ロイシン(0.98g、5.6mmol)と混合した。この混合物を70℃で3時間加熱し、次いで室温で終夜撹拌した。固体を減圧ろ過により回収し、MeOH(15mL)に懸濁した。懸濁液を70℃で2時間と、次いで室温で終夜撹拌した。固体を回収し、MeOH粉砕を繰り返した。1g分(23%)の(S)-11d N-アセチル-L-ロイシン塩を>98%eeで得た。
【0136】
段階4. (S)-N-(2-(1-(3-(エトキシ-d5)-4-メトキシ-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(110a)。(S)-11d(1.4g、3.2mmol)を酢酸(20mL)中の公知の12a(0.77g、3.84mmol)と混合し、24時間加熱還流して、反応をほぼ完了させた。混合物を濃縮し、無色油状物をEtOAc(200mL)に溶解し、溶液を飽和NaHCO3(40mL)で洗浄した。有機層を乾燥(Na2SO4)し、濃縮した。粗生成物をAnalogixシステムのカラムクロマトグラフィにより0〜70%EtOAc/ヘプタン(1時間)で溶出して精製し、1.2g(80%)の110aを得た。

HPLC(方法:50mmの3μm Waters Atlantis T3 2.1カラム−勾配法:14分間で5〜95%ACN+0.1%ギ酸と、95%ACN+0.1%ギ酸で4分間維持;波長:305nm):保持時間:6.02分;純度>98.0%。キラルHPLC(方法:Chiralpak AD 25cmカラム−イソクラティック法:78%ヘキサン/22%イソプロパノール/0.01%ジエチルアミン、40分間、1.00mL/分;波長:254nm):保持時間:12.73分(主な鏡像異性体);純度>99%ee。MS (M+Na): 488.1。元素分析(C22H21D3 N2O7S):計算値:C=56.76、H=5.20、N=6.02、S=6.89.実測値:C=56.74、H=5.43、N=5.70、S=6.51。
【0137】
実施例5. 中間体12bの合成。
スキーム8:12bの調製

【0138】
N-(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-4-イル)アセトアミド-d3(12b)。市販の4-アミノイソベンゾフラン-1,3-ジオン30(5g、30.6mmol)を無水酢酸-d6(98原子%D、Cambridge Isotopes;10g)に懸濁し、3時間加熱還流し、次いで室温で終夜撹拌した。溶液を0℃に冷却してろ過し、次いで固体をMTBEで洗浄し、乾燥して、2.5gの12bを得た。
【0139】
実施例6. (S)-N-(2-(1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセト-d3-アミド(化合物115a)の合成。
スキーム8:115aの調製

【0140】
(S)-N-(2-(1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-(メチルスルホニル)エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセト-d3-アミド(115a):(S)-11b N-アセチル-L-ロイシン塩(200mg、0.44mmol;スキーム5参照)を酢酸(5mL)中の12b(130mg;スキーム8参照)と混合し、溶液を80℃で20時間加熱した。混合物を濃縮し、無色油状物をEtOAc(100mL)に再度溶解した。溶液を飽和NaHCC3水溶液(20mL)で洗浄し、乾燥(Na2SO4)し、濃縮した。粗生成物をAnalogixシステムのカラムクロマトグラフィにより0〜70%EtOAc/ヘプタンで溶出して精製し、174mg(73%)の115aを得た。

HPLC(方法:50mmの3μm Waters Atlantis T3 2.1カラム−勾配法:14分間で5〜95%ACN+0.1%ギ酸と、95%ACN+0.1%ギ酸で4分間維持;波長:305nm):保持時間:5.96分;純度99.1%。MS (M+H): 472.0。元素分析(C22H16D8 N2O7S):計算値:C=56.04、H=5.13、N=5.94.実測値:C=55.90、H=5.23、N=5.85。
【0141】
実施例7. (S)-N-(2-(1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-((メチル-d3)-スルホニル)-2,2-d2-エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(化合物116a)。
スキーム9:化合物116aの調製

【0142】
段階1. 1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-((メチル-d3)-スルホニル)-2,2-d2-エタンアミン(11e)。メチルスルホン-d6(99原子%D、Isotec;1g、10.0mmol)をTHF(70mL)に懸濁し、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却した。n-BuLi(ヘキサン中2.5M、4.4mL、11mmol)を加え、混合物を約30分間撹拌した。別のフラスコで、THF(20mL)中のアルデヒド10b(1.91g、10.0mmol;スキーム5参照)の溶液を0℃に冷却した。LHMDS(THF中1M、11mL)を加えた。15分後、三フッ化ホウ素エーテラート(2.8mL、22mmol)を加え、撹拌をさらに5分間続けた。この溶液をメチルスルホン-d6/n-BuLi溶液に、アセトン/ドライアイス浴中で-70℃以下に冷却しながらシリンジで加えた。発熱が観察された。混合物を室温まで加温し、終夜撹拌した。氷水浴中で冷却した後、K2CO3(8g)と、続いて水(50mL)を加えた。層を分離し、水相をEtOAc(2×20mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、粘稠油状物を得た。MTBE(30mL)およびHCl水溶液(4N、30mL)を加え、混合物を室温で2時間撹拌して、澄明二相性溶液を得た。相を分離し、有機相をHCl水溶液(4N、25mL)で抽出した。合わせた水相にNaOH水溶液(24%)を加えて、pHを12よりも高くした。溶液をEtOAc(3×50mL)で抽出した。合わせた有機溶液を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、黄色固体を得た。固体をMTBE(20mL)に懸濁し、1時間撹拌した。減圧下でろ過して、1.2g(37%)の11eを淡黄色固体で得た。
【0143】
1H NMRおよびLCMSにより、スルホンに対しアルファの同位体純度のいくらかの低下が示された。このDからHへの交換は酸/塩基抽出中に起こったと考えられる。後処理の全体にわたり重水素化溶媒の使用が好ましい。
【0144】
同位体純度の低い材料をMeOD(99原子%D、Cambridge Isotopes;30mL)に溶解し、K2CO3(0.5g)を加えた。この混合物を70℃で6時間加熱し、次いで濃縮乾固した。新鮮MeOD(30mL)を加え、混合物を70℃で終夜加熱した。冷却した溶液をEtOAc(100mL)で希釈し、混合物をろ過した。ろ液を濃縮し、EtOAc(100mL)に再度溶解した。溶液をD2O(99.9原子%D、Cambridge Isotopes;20mL)で洗浄した。有機相を乾燥(Na2SO4)し、濃縮して、高い同位体純度が回復した約1gの11eを得た。
【0145】
段階2. (S)-1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-((メチル-d3)-スルホニル)-2,2-d2-エタンアミンN-アセチル-L-ロイシン塩((S)-11e)。11e(630mg、2.2mmol)をMeOD(99原子%D、Cambridge Isotopes;6mL)中のN-アセチル-L-ロイシン(0.23g、1.32mmol)と混合した。この混合物を70℃で3時間加熱し、次いで室温で終夜撹拌した。固体を減圧ろ過により回収し、MeOH(6mL)に懸濁した。混合物を70℃で2時間と、次いで室温で終夜撹拌した。固体を回収し、MeOH粉砕を繰り返した。300mg分(29%)の(S)-11e N-アセチル-L-ロイシン塩を>99%eeで得た。
【0146】
段階3. (S)-N-(2-(1-(3-(エトキシ-d5)-4-(メトキシ-d3)-フェニル)-2-((メチル-d3)-スルホニル)-2,2-d2-エチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アセトアミド(116a):(S)-11e N-アセチル-L-ロイシン塩(280mg、0.62mmol)を酢酸-d(99原子%D、Aldrich;5mL)中の公知の12a(145mg、0.7mmol)と混合し、24時間加熱還流して、反応をほぼ完了させた。混合物を濃縮し、無色油状物をEtOAc(100mL)に溶解した。溶液をNaHCO3(20mL)で洗浄し、乾燥(Na2SO4)し、濃縮した。粗生成物をAnalogixシステムのカラムクロマトグラフィにより0〜3%MeOH/CH2Cl2で溶出して精製し、245mg(84%)の116aを得た。

HPLC(方法:50mmの3μm Waters Atlantis T3 2.1カラム−勾配法:14分間で5〜95%ACN+0.1%ギ酸と、95%ACN+0.1%ギ酸で4分間維持;波長:305nm):保持時間:5.97分;純度99.7%。MS (M+H): 474.3。元素分析(C22H11D13 N2O7S):計算値:C=55.80、H=5.11、N=5.92.実測値:C=52.73、H=4.73、N=5.43。
【0147】
実施例.代謝安定性の評価
ミクロソーム検定:ヒト肝ミクロソーム(20mg/mL)はXenotech、LLC(Lenexa、KS)から入手する。β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、還元型(NADPH)、塩化マグネシウム(MgCl2)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)はSigma-Aldrichから購入する。
【0148】
代謝安定性の判定:7.5mMの試験化合物保存溶液をDMSO中で調製する。7.5mM保存溶液をアセトニトリル(ACN)中で12.5〜50μMに希釈する。20mg/mLヒト肝ミクロソームを、3mM MgCl2を含む0.1Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.4中で0.625mg/mLに希釈する。希釈したミクロソームを96穴ディープウェルポリプロピレンプレートのウェルに三つ組みで加える。10μLの一定量の12.5〜50μM試験化合物をミクロソームに加え、混合物を10分間予備加温する。予備加温したNADPH溶液を加えることにより反応を開始する。最終反応量は0.5mLで、0.1Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.4、および3mM MgCl2中に0.5mg/mLヒト肝ミクロソーム、0.25〜1.0μM試験化合物、および2mM NADPHを含む。反応混合物を37℃でインキュベートし、50μLの一定量を0、5、10、20、および30分の時点で取り出し、内部標準を含む氷冷ACN 50μLを含むシャローウェル96穴プレートに加えて反応を停止する。プレートを4℃で20分間保存し、その後、100μLの水をプレートのウェルに加えた後、遠心沈降して沈降タンパク質をペレット化する。上清を別の96穴プレートに移し、Applied Bio-systems API 4000質量分析計を用いてのLC-MS/MSにより、残存親化合物の量を分析する。アプレミラストおよび陽性対照の7-エトキシクマリン(1μM)についても同じ手順を行う。試験を三つ組みで行う。
【0149】
データ解析:試験化合物のインビトロでのt1/2を、インキュベーション時間に対する残存親化合物%(ln)関係の線形回帰の傾きから計算する。
インビトロt1/2=0.693/k
k=-[インキュベーション時間に対する残存親化合物%(ln)の線形回帰の傾き]
【0150】
データ解析はMicrosoft Excel Softwareを用いて実施する。
【0151】
それ以上の説明なしで、当業者であれば、前述の説明および例示的実施例を用いて、本発明の化合物を作成および利用し、特許請求する方法を実施することができると考えられる。前述の議論および実施例は特定の好ましい態様の詳細な説明を提示するにすぎないことが理解されるべきである。当業者には、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な改変および等価物を作成しうることが明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物、またはその薬学的に許容される塩:

式中、
R1はCH3、CH2D、CHD2、およびCD3から選択され;
R2はメチル、イソプロピル、シクロペンチル、シクロプロピル、2-フラニル、トリフルオロメチル、メトキシメチル、アミノメチル、ジメチルアミノメチル、ジメチルアミノ-1-エチル、1-ジメチルアミノ-エチル、および2-ジメチルアミノ-エチルからなる群より選択され、ここでR2は重水素で置換されていてもよく;
R3はCH3、CH2D、CHD2、CD3、CF3、CHF2、CH2F、CDF2、およびCD2Fから選択され;
R4はゼロから5個の重水素で置換されているエチル基であるか、またはゼロから9個の重水素で置換されているシクロペンチル基であり;
XはCH2、CHD、CD2、およびC=Oから選択され;
Y1a、Y1b、Y2、Y3、Y4、Y5、Y7、およびY8はそれぞれ独立にHおよびDから選択され;かつ
Y6はCl、H、およびDから選択され;
ただし、R1がCH3であり;R2が重水素で置換されておらず;R3がCH3、CF3、CHF2、またはCH2Fであり;R4が重水素で置換されていないエチル基または重水素で置換されていないシクロペンチル基であり;XがCH2またはC=Oであり;かつY6がClまたはHである場合、Y1a、Y1b、Y2、Y3、Y4、Y5、Y7、およびY8の少なくとも1つはDである。
【請求項2】
R2がCH3またはCD3であり;R3がCH3またはCD3であり;Y6、Y7、およびY8が同じであり;Y1aおよびY1bが同じであり;かつY3、Y4、およびY5が同じである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
式Iの化合物が式IIの化合物、またはその薬学的に許容される塩である、請求項2記載の化合物:

式中、
R1はCH3およびCD3から選択され;
R2はメチル、イソプロピル、シクロペンチル、シクロプロピル、2-フラニル、トリフルオロメチル、メトキシメチル、アミノメチル、ジメチルアミノメチル、ジメチルアミノ-1-エチル、1-ジメチルアミノ-エチル、および2-ジメチルアミノ-エチルからなる群より選択され、ここでR2は重水素で置換されていてもよく;
R3はCH3、CD3、CF3、CHF2、CH2F、CDF2、およびCD2Fから選択され;
R4はCH2CH3、CD2CD3、CD2CH3、およびCH2CD3から選択され;かつ
各Yは独立にHおよびDから選択され;
ただし、R1がCH3であり;R2が重水素で置換されておらず;R3がCH3、CF3、CHF2、またはCH2Fであり;かつR4がCH2CH3である場合、少なくとも1つのYはDである。
【請求項4】
式Iの化合物が、Y2に連結している炭素において主に(S)配置を有する式Iaの化合物、またはその薬学的に許容される塩である、請求項2記載の化合物:


【請求項5】
式Iの化合物が、Y2に連結している炭素において主に(R)配置を有する式Iaの化合物、またはその薬学的に許容される塩である、請求項2記載の化合物:


【請求項6】
R2がCH3またはCD3である、請求項1または2記載の化合物。
【請求項7】
R3がCH3またはCD3である、請求項1または2記載の化合物。
【請求項8】
Y6、Y7、およびY8が同じである、請求項1または2記載の化合物。
【請求項9】
Y1aおよびY1bが同じである、請求項1または2記載の化合物。
【請求項10】
Y3、Y4、およびY5が同じである、請求項1または2記載の化合物。
【請求項11】
R1がCH3またはCD3である、前記請求項のいずれか一項記載の化合物。
【請求項12】
R4がCD2CD3である、前記請求項のいずれか一項記載の化合物。
【請求項13】


からなる群より選択される化合物、または前記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩。
【請求項14】
主に(S)配置を有する、請求項13記載の化合物。
【請求項15】
主に(R)配置を有する、請求項13記載の化合物。
【請求項16】

からなる群より選択される化合物、または前記のうちのいずれかの薬学的に許容される塩。
【請求項17】
重水素と指定されていない任意の原子が、その天然同位体存在度で存在する、前記請求項のいずれか一項記載の化合物。
【請求項18】
請求項1記載の化合物または該化合物の薬学的に許容される塩の有効量と、許容される担体とを含む、組成物。
【請求項19】
請求項1記載の化合物または該化合物の薬学的に許容される塩の有効量と、許容される担体とを含む、薬学的組成物であって、敗血症性ショック、敗血症、内毒素性ショック、血行動態ショック(hemodynamic shock)および敗血症症候群、虚血後再灌流傷害、マラリア、マイコバクテリア感染症、髄膜炎、乾癬、類肉腫症、乾癬性関節炎、ベーチェット病、結節性痒疹、ループス、ブドウ膜炎、うっ血性心不全、線維性疾患(fibrotic disease)、悪液質、移植片拒絶、癌、自己免疫疾患、AIDSにおける日和見感染症、関節リウマチ、リウマチ様脊椎炎、変形性関節症、他の関節炎状態、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、ハンセン病におけるENL、放射線障害、高酸素性肺胞傷害(hyperoxic alveolar injury)、望まれない血管形成、炎症性疾患、関節炎、炎症性腸疾患、アフタ性潰瘍、喘息、成人呼吸窮迫症候群、およびAIDSからなる群より選択される疾患の治療に適した、前記薬学的組成物。
【請求項20】
その必要がある被験者においてPDE4を阻害する方法であって、該被験者に、請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量を投与する段階を含む、前記方法。
【請求項21】
その必要がある被験者においてTNF-αレベルを低減する方法であって、該被験者に、請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量を投与する段階を含む、前記方法。
【請求項22】
その必要がある患者において、敗血症性ショック、敗血症、内毒素性ショック、血行動態ショックおよび敗血症症候群、虚血後再灌流傷害、マラリア、マイコバクテリア感染症、髄膜炎、乾癬、類肉腫症、乾癬性関節炎、ベーチェット病、結節性痒疹、ループス、ブドウ膜炎、うっ血性心不全、線維性疾患、悪液質、移植片拒絶、癌、自己免疫疾患、AIDSにおける日和見感染症、関節リウマチ、リウマチ様脊椎炎、変形性関節症、他の関節炎状態、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、ハンセン病におけるENL、放射線障害、高酸素肺胞傷害、望まれない血管形成、炎症性疾患、関節炎、炎症性腸疾患、アフタ性潰瘍、喘息、成人呼吸窮迫症候群、およびAIDSからなる群より選択される疾患を治療する方法であって、該患者に、請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量を投与する段階を含む、前記方法。
【請求項23】
状態が乾癬または類肉腫症である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
乾癬がプラーク型乾癬(plaque-type psoriasis)または難治性乾癬である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
類肉腫症が皮膚類肉腫症である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
ループスが皮膚ループスである、請求項22記載の方法。

【公表番号】特表2012−530706(P2012−530706A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516179(P2012−516179)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/038577
【国際公開番号】WO2010/147922
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(509049012)コンサート ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (24)
【Fターム(参考)】