説明

PET樹脂含有組成物及びその調整方法並びにフィルム製造方法

【課題】回収PET樹脂フレーク又はペレットを使ったフィルムの製造の確実性を向上する。
【解決手段】(1)回収PET樹脂フレーク27wt%;(2)メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂10wt%;(3)汎用低密度ポリエチレン(LDPE)60wt%;(4)相溶化剤(エチレン系コポリマー又はグリシジルメタクリレート(GMA))3wt%を二軸混練機4で混練する際に真空ベントして再生ペレットを作った。そして、この再生ペレットをインフレーションするときの樹脂溶融温度を165〜180℃に設定してフィルムを作った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PET樹脂含有組成物及びその調整方法並びにフィルム製造方法に関するものであり、回収PET樹脂の再利用に好適に適用される。
【背景技術】
【0002】
大量に消費されているPETボトルの回収が義務化されて久しい。回収したPETボトルは、PETボトルからラベルを剥がして洗浄した後に粉砕したPET樹脂フレークや、これを再溶融した結果物であるペレットの形態で入手可能である。回収PET樹脂フレークやペレットは、ボトルの粉砕工程で分子が切断されるため物性が低下する傾向にあり、このため、再生品は、絨毯、軍手、フリースなどの衣料品に限定されているのが実情である。
【0003】
特許文献1は、回収したPET樹脂を使って、スーパーなどで使用されるレジ袋などの包装用フィルムを作る提案を行っている。具体的に説明すると、特許文献1は、60〜80重量%のPET樹脂と、10〜35重量%の低密度ポリエチレンと、1〜10重量%の相溶化剤とからなるPET樹脂含有組成物(ペレット)を提案している。
【0004】
このPET樹脂組成物(ペレット)は、PET樹脂に対して低密度ポリエチレン樹脂が相溶化剤によって均質に分散しているため、島が均一に且つ細かく分散した海島構造のフィルムを製造することができる。また、このPET樹脂組成物は、耐衝撃性、剛性などの機械的強度がポリオレフィン樹脂などと同等であり、射出成形法、ブロー成形法、押出成形法などを使って、パレット、コンテナ、各種容器、シート、自動車などの内装品などを製造するための産業用原料として使用可能である。
【0005】
特許文献1に開示の実施例1は、PET樹脂フレーク75wt部と、相溶化剤2wt部と、相溶化助剤3wt部と、MFR=0.3g/10分の高圧法低密度ポリエチレン樹脂5wt部と、MFR=1.0g/10分のメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂15wt部とを二軸混練機を使って270℃で混練して造粒したPET樹脂含有組成物である。ここに、相溶化剤として、エチレン67wt%、メチルアクリレート25wt%、グリメタクリレート8wt%を含む三元共重合体が挙げられている。また、相溶化助剤として、エチレン70wt%、ブチルアクリレート30wt%を含む二元共重合体が挙げられている。
【0006】
また、実施例1は、上記のPET樹脂組成物を使って包装用フィルム(スーパーなどで使用される使い捨てショッピングバッグであるレジ袋)を製造する方法を開示している。これを図示化したのが本願明細書に添付の図2である。この図2を参照して、二軸混練機10で成形されたペレットを使用して、インフレーション機12により包装用フィルムが製造される。ここに、インフレーション機12での樹脂溶融温度は270℃である。なお、混練機10での樹脂溶融温度も270℃である。
【0007】
この実施例1で製造された包装用フィルムは、ヒートシール温度が比較的低温である135℃で1.0 Kg/15mm幅以上のシール強度を有しており、このシール強度の数値はレジ袋として満足すべき値である。なお、ヒートシール温度に関し、特許文献1は、ヒートシール温度を110℃乃至130℃未満、好ましくは110〜120℃に制御することで、イージーピール性を付与することができるため、ポリエチレン容器やポリプロピレン容器などの蓋材として適切な材料になることを示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−346086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
回収PET樹脂を使って再生品を製造するプロセスにおいて、フィルムの製造が最も難しい。そこで、本願発明者は、特許文献1に開示の組成物と実質的に同じ成分からなるペレットを作り、そして、このペレットを使ってインフレーション機でフィルムの製造を試みた。この試みによれば、試作レベルでは上手く行くことが確認できたが、量産レベルでは上手く行く時と、全くフィルムを製造できない又は不良品発生率が極端に高くなる時があることを知った。なお、特許文献1に開示の発明の実施品は今までのところ見られない。
【0010】
本願発明者は、長期にわたって、その原因を探求した結果、ようやくブレークスルーする方策を見いだしたことから本発明を提案するものである。
【0011】
本発明の目的は、PET樹脂フレーク又はペレットと低密度ポリエチレン系樹脂とを使ったフィルムの製造の確実性を向上することのできるPET樹脂含有組成物及びその調整方法並びにフィルム製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の更なる目的は、回収PET樹脂フレーク又はペレットを使ったフィルムの製造の確実性を向上することのできる再生PET樹脂ペレット及びその調製方法並びにフィルム製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は、PET樹脂、ポリエチレン樹脂、相溶化剤を混練する工程で真空ベントし、そして、インフレーション工程での樹脂溶融温度を従来に比べて低温の165〜180℃に設定することでフィルム製造の確実性を向上できることを見出した。
【0014】
上記の技術的課題は、本発明の一つ観点によれば、
27〜70wt%のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂と、70〜25wt%のポリエチレン樹脂と、3〜5wt%の相溶化剤とを含み、これらの成分を混練しながら真空ベントすることを特徴とするPET樹脂含有組成物の調製方法を提供することにより達成される。
【0015】
前記ポリエチレン樹脂はメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンと汎用低密度ポリエチレンとを含んでいてもよく、更に、これに高密度ポリエチレンを含んでいてもよい。前記PET樹脂は、バージンPET樹脂であってもよいが、PETボトルを回収して、これを粉砕した回収PET樹脂フレークやペレットからなる回収PET樹脂であるのが良い。
【0016】
上記の技術的課題は、本発明の別の観点によれば、
27〜35wt%のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂と、70〜60wt%の低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂と、3〜5wt%の相溶化剤とを含み、これらの成分を混練しながら真空ベントすることを特徴とするPET樹脂含有組成物の調製方法を提供することにより達成される。
【0017】
上記の技術的課題は、本発明の他の観点によれば、
60〜80wt%のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)と、35〜10wt%の低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂と、5〜10wt%の相溶化剤とを含み、これらの成分を混練しながら真空ベントすることを特徴とするPET樹脂含有組成物の調製方法を提供することにより達成される。
【0018】
上記の技術的課題は、本発明の別の観点によれば、
70wt%のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)と、25〜26wt%の低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂と、5〜4wt%の相溶化剤とを含み、これらの成分を混練しながら真空ベントすることを特徴とするPET樹脂含有組成物の調製方法を提供することにより達成される。
【0019】
上記の技術的課題は、本発明の更に別の観点によれば、
上述したPET樹脂含有組成物を使ってインフレーション機によってフィルムが製造され、そして、このインフレーション機に付設されている混練機の樹脂溶融温度が165〜180℃に設定されることを特徴とするフィルム製造方法を提供することにより達成される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例のフィルム製造方法のフローを示す図である。
【図2】特許文献1に開示のフィルム製造フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0022】
図1は、回収PET樹脂フレークを使ったフィルム製造に関する一連のフローを示す図である。回収PET樹脂フレークの代わりに、回収PET樹脂ペレットであってもよいし、バージンPET樹脂ペレットであってもよい。図1を参照して、回収PET樹脂フレークは、混合機2を使って、低密度ポリエチレン及び相溶化剤と混合される。そして、混合機2から出た混合材料は混練機4に導入され、この混練機4によって混練される。混練機4は、均質なコンパウンド加工を実現するのに二軸混練機であるのが好ましい。
【0023】
二軸混練機4には水冷の押出機が一体に組み込まれており、この混練押出機4によって再生PETペレットが調製される。調製した再生PETペレットは気密性の袋に収容され、この袋は、所定量の再生PETペレットを入れたところで密封される。
【0024】
再生PETペレットは、クリアファイル、パレット、コンテナ、各種容器、シート、自動車などの内装品などを製造するための産業用原料として使用可能である。再生PETペレットは、最も製造が困難なフィルムの製造にも適用可能であり、混練機を備えた汎用のインフレーション機6を使ってフィルムを製造することができる。
【0025】
なお、任意であるが、回収PET樹脂フレークを除湿機8を使って含有水分を調整した後に混合機2に投入するようにしてもよい(図1)。
【0026】
回収PET樹脂フレークを使ったフィルム製造に関し、以下に具体例で説明する。
(1)回収PET樹脂フレーク27wt%;
(2)メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂10wt%;
(3)汎用低密度ポリエチレン(LDPE)60wt%;
(4)相溶化剤(エチレン系コポリマー又はグリシジルメタクリレート(GMA))3wt%。
この第1実施例の(1)〜(4)の組成成分の一覧を次の表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
上記(1)〜(4)の成分材料を混合機2で混合した後に二軸混練機4を使って再生PETペレット(PET樹脂含有組成物)を調製した。再生PETペレットのMFRは、0.85g/10分〜1g/10分であった。二軸混練機4は真空ベント機構4aを有しており、この真空ベント機構4aを使って真空ベントを行いながら樹脂溶融温度270℃で混練した。混練機4のスクリューが一軸の場合には長さ(L)/直径(D)が大きな混練機を選択するのがよい。インフレーション機6は汎用機を使用した。インフレーション機6の樹脂溶融温度は165℃〜180℃に設定したところ、安定的に所望のフィルムを製造することができた。
【0029】
混練機押出機4が真空ベント機能を有し、また、インフレーション機6での樹脂溶融温度が270℃よりも低い温度である165℃〜180℃に設定されている点に注目すべきである。この2つの組み合わせを見い出すことによって初めて安定したフィルムの大量生産が可能になった。
【0030】
PET樹脂含有組成物を使ったフィルム製造では、インフレーション機6に付設されている混練機の樹脂溶融温度を270℃近傍に設定するのが当業者の常識であり、これよりも低い温度に設定すると樹脂の不十分な溶融が原因で混練機が損傷してしまうと考えられている。再生PETペレット(PET樹脂含有組成物)の製造の際に真空ベントを行いながら混練し、更に、インフレーション機6に付設された混練機の樹脂溶融温度を165℃〜180℃という比較的低温に設定することで初めて安定してフィルムを製造できることを見い出した。もちろん、混練機の損傷も見られなかったことから、この温度で十分に再生PETペレットが溶融していると考えられる。再生PETペレットの溶融温度特性が比較的低温になる理由は定かでないが、混練機4で混練する工程で真空ベントを行うことで、成分樹脂間で好ましい反応が発生したとも考えられる。
【0031】
製造したフィルムをヒートシールしてゴミ袋を作り、シール強度を確認したところ、特許文献1と同様に比較的低温である約130℃のヒートシール温度で十分なシール強度を確保できることが確認できた。
【0032】
他の組成成分でも同様の手法でシール性を備えたフィルムを製造できることを確認するために実施した例が次の一覧表2であり、そのいずれもフィルムを製造できることが確認できた。
【0033】
【表2】

【0034】
上記の実施例は、一つの観点によれば、回収PET樹脂フレーク27〜70wt%、ポリエチレン樹脂70〜25wt%、相溶化剤3〜5wt%を混練して造粒した再生ペレットであって、ポリエチレン樹脂は、混合材料の重量比で0〜10wt%を含む高密度ポリエチレン樹脂で構成される再生ペレット(PET樹脂含有組成物)である。また、低密度ポリエチレン樹脂は、混合材料の重量比で10〜70wt%のメタロセン系直鎖状ポリエチレンで構成されてもよい。
【0035】
また、他の観点によれば、回収PET樹脂フレークが27〜35wt%、ポリエチレン樹脂70〜62wt%、相溶化剤3wt%からなる再生ペレットであって、ポリエチレン樹脂は、混合材料の重量比で0〜10wt%を含む高密度ポリエチレン樹脂で構成される再生ペレット(PET樹脂含有組成物)である。また、低密度ポリエチレン樹脂は、混合材料の重量比で10〜70wt%のメタロセン系直鎖状ポリエチレンで構成されてもよい。勿論、混合材料の重量比で相溶化剤は3〜5wt%であってもよく、この相溶化剤の混合比率を3wt%よりも高めたときには、その分を回収PETフレーク及び/又はポリエチレン樹脂の混合比率で調整すればよい。したがって、回収PET樹脂フレークが27〜35wt%、ポリエチレン樹脂70〜60wt%、相溶化剤3〜5wt%からなる再生ペレットであってもよい。
【0036】
また、別の観点によれば、回収PET樹脂フレークが70wt%、低密度ポリエチレン樹脂25〜26wt%、相溶化剤5〜4wt%からなる再生ペレットである。また、この低密度ポリエチレン樹脂はメタロセン系直鎖状ポリエチレンで構成されるのがよい。
【0037】
また、実際に実験を行っていないが、特許文献1の実施例1に開示のように、回収PET樹脂フレークが75wt%、低密度ポリエチレン樹脂20wt%、相溶化剤5wt%からなる再生ペレットであっても、フィルム製造の大量生産に適していると考えられる。したがって、特許文献1の混合材料に関する開示内容を全てここに援用する。具体的には、PET樹脂材料60〜80wt%、低密度ポリエチレン樹脂35〜10wt%、相溶化剤5〜10wt%である。低密度ポリエチレン樹脂は、汎用ポリエチレン樹脂だけで構成するのではなくメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを含むのがよい。勿論、PET樹脂材料は回収PET樹脂フレークやペレットに限定されず、バージンPET樹脂ペレットであってもよい。
【0038】
以上の再生ペレットにおいて、この再生ペレットの調製工程であるコンパウンド加工の混練の際に真空ベントが実施される。また、インフレーション機6を使ったフィルムの製造工程における樹脂溶融温度は165〜180℃であり、この温度は当業者の常識(270℃)から逸脱した相当に低い温度である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
回収したPET樹脂を使ってフィルムを製造するのに好適に適用される。
【符号の説明】
【0040】
4 混練機
6 インフレーション機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
27〜70wt%のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂と、70〜25wt%のポリエチレン樹脂と、3〜5wt%の相溶化剤とを含み、これらの成分を混練しながら真空ベントすることを特徴とするPET樹脂含有組成物の調製方法。
【請求項2】
前記ポリエチレン樹脂が、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂と汎用低密度ポリエチレン樹脂を含む、請求項1に記載のPET樹脂含有組成物の調製方法。
【請求項3】
27〜35wt%のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂と、70〜60wt%の低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂と、3〜5wt%の相溶化剤とを含み、これらの成分を混練しながら真空ベントすることを特徴とするPET樹脂含有組成物の調製方法。
【請求項4】
60〜80wt%のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)と、35〜10wt%の低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂と、5〜10wt%の相溶化剤とを含み、これらの成分を混練しながら真空ベントすることを特徴とするPET樹脂含有組成物の調製方法。
【請求項5】
70wt%のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)と、25〜26wt%の低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂と、5〜4wt%の相溶化剤とを含み、これらの成分を混練しながら真空ベントすることを特徴とするPET樹脂含有組成物の調製方法。
【請求項6】
前記低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂が、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を含む、請求項3〜4のいずれか一項に記載のPET樹脂含有組成物の調製方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のPET樹脂含有組成物の調製方法により調製したPET樹脂含有ペレット。
【請求項8】
請求項7に記載のPET樹脂含有ペレットを使ってインフレーション機によりフィルムを製造するフィルム製造方法であって、
前記インフレーション機に付設された混練機の樹脂溶融温度を165〜180℃に設定したことを特徴とするフィルム製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−79892(P2011−79892A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231491(P2009−231491)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(305010621)オークラパックス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】