説明

PET装置およびそのイメージング方法

【課題】 PET装置において複数分子同時イメージングを行う。
【解決手段】 ベータ崩壊後にガンマ崩壊によって固有ガンマ線を放出する核種含む第1プローブ第2プローブとの双方が撮像対象に投与され複数プローブのPET装置100により撮像される。複数プローブのPET装置100は、PET用ガンマ線検出器10の群とエネルギー分解型ガンマ線検出器20とを備え、イメージング処理部30が、PET用ガンマ線検出器10の群からの対消滅検出信号から画像の再構成処理を行なう際に、固有ガンマ線のエネルギーによって画像を別々に再構成する。固有ガンマ線を放出しない核種と固有ガンマ線を放出する核種を用いたイメージングも行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPET装置およびそのイメージング方法に関する。さらに詳細には、本発明は、撮像対象の各部において集積している複数のプローブを同時にイメージングするためのPET装置およびそのイメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医療技術の進歩の一つに、断層撮像を用い生体中のトレーサー分子の分布を非侵襲的にイメージングする手法の発達を挙げることができる。例えば核医学における診断装置の一つとして陽電子放出断層撮像(positron emission tomography:PET)装置が実用化されている。PET装置で検出するのは、ベータ崩壊(β崩壊、陽電子崩壊)により放出された陽電子(ポジトロン)が物質中の電子と対消滅した際に放出される2本のガンマ線(以下、「対消滅ガンマ線」という)である。この対消滅ガンマ線は、互いにほぼ180度逆向きに放出され、それぞれが511keVのエネルギーを持つ一対のガンマ線である。PET装置では、対消滅ガンマ線を検出した対をなす検出器を結ぶ直線を多数同定することにより、ベータ崩壊を起こす放射性同位元素の原子核(以下「陽電子放出核」という)の分布が推定できる。例えば、がん細胞に集積する薬剤分子を陽電子放出核により標識し、その薬剤を投与した生体(被験者)を撮像対象としてPET装置によりイメージングすれば、生体内でのがん細胞の3次元的な分布画像を得ることが可能である。PET装置と同様に生体の機能画像を得るための核医学的画像診断装置である単一光子放射断層撮影(single photon emission computed tomography:SPECT)装置等と比較して、PET装置はガンマ線コリメータが不要であることから、一般的に感度、定量性の面で優れている。
【0003】
一方、ライフサイエンスや医学の進展に伴い、複数の分子動態が複雑にからみ合うことによって生体の機能が発現したり病巣が形成されたりしていることが解明されつつある。そのため、異なる放射性核種によって標識した複数の薬剤を投与し、薬剤それぞれの分布を一度にイメージングする手法(以下「複数分子同時イメージング法」という)の研究が進められている。複数分子同時イメージング法を実現するために、例えば、単一光子放射断層撮影法(SPECT)やコンプトンカメラを利用することが試みられている。
【0004】
その一方、陽電子崩壊の後にガンマ崩壊が起こり、その際に放出される核種に固有なエネルギーのガンマ線(以下、「固有ガンマ線」)を対消滅ガンマ線とともに検出する手法が開示されている。例えば、非特許文献1(James D. Kurfess et al, IEEE Nuclear Science Symposium Conference Record, 2001 vol.2 p.1166-1170)や特許文献1(米国特許第4833327号明細書)には、単一の核種の固有ガンマ線を用いて、PET画像の解像度を高める手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4833327号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】James D. Kurfess and Bernard F. Phlips, “Coincident Compton Nuclear Medical Imager”, IEEE Nuclear Science Symposium Conference Record, 2001 vol.2 p.1166-1170
【非特許文献2】Genqsheng Lawrence Zeng, “Medical Image Reconstruction : A Conceptual Tutorial”, Springer-Verlag, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の一般的なPET装置において、プローブを標識するために用いられる核種は、11C、15O、18F等の陽電子放出核であり、これらを用いた撮像で検出される放射線は、ベータ崩壊により放出されたポジトロンの対消滅に伴ってほぼ180度反対方向に放出されるガンマ線である。この対消滅ガンマ線は核種によらず、陽電子と電子と静止質量である511keVのエネルギーを有している。そのため、従来の対消滅ガンマ線をイメージングに用いる一般的なPET装置では、生体内に複数種類のプローブを同時に投与したとしても、異なるプローブそれぞれの分布を互いに区別してイメージングすることは原理的に不可能である。なお、PET装置において複数プローブ同時撮像を行なうために、核種による放射能減衰時間の違いを利用する手法が知られている。これは、撮影した画像の時間変化により、減衰時間が異なるプローブを識別する手法である。しかし、この手法は複数のプローブを直接識別するものではなく、特に、時間とともに各プローブの分布が変わるような対象物すなわち動態を撮像することは困難である。
【0008】
上記固有ガンマ線を検出する手法において、非特許文献1の報告または特許文献1の開示において利用されるプローブはいずれも高々一種類に限られる。非特許文献1または特許文献1のいずれにも、生体内の互いに異なる領域に分布する複数種類のプローブを区別して同時にイメージングする複数分子同時イメージングや、また、そのための具体的技術は開示されていない。
【0009】
さらにSPECTによるイメージングでは、コリメータを取り付けた平板検出器に特定の方向から入射するガンマ崩壊による単一のガンマ線を検出することによりガンマ線源分布の射影像を得る。SPECTにおいてガンマ線源の2次元または3次元分布を得るためには、複数の装置を用いるか、または装置を回転させることにより多方向への射影像を得て画像再構成する。このためSPECTでは、固有ガンマ線のエネルギーが互いに異なる複数の核種であれば、同時に撮像することは不可能ではない。ただし、SPECTには、撮影原理上、ガンマ線コリメータが必須であるために、固有ガンマ線のエネルギーが、例えば300keVを超える程度に高くなると撮像精度が悪くなる。その結果、SPECTに用いることが可能な核種は低エネルギーのガンマ線を放出するものに限られる。このことは、SPECTによって複数分子同時イメージングを行う際に、採用可能な核種が制限されるのみならず、複数のガンマ線源を狭いエネルギー範囲から選択せざるを得ないことを意味する。したがって、互いのガンマ線エネルギーが必然的に近くなり、ガンマ線の識別に困難が伴う場合が多い。さらに、上述した通り、PET装置と比較した場合、感度、定量性、解像度の面でSPECTは劣る。
【0010】
また、コンプトンカメラは、複数分子同時イメージング法を実現する有力な手法と考えられていることなどから、各所で開発が進められている。しかし、現状では、この手法と既存のPET装置等を比較すると解像度、定量性および感度の面で劣る。
【0011】
本発明は上述した問題の少なくともいずれかを解決するためになされたものである。すなわち本発明は、複数のプローブを投与した撮像対象において、それぞれのプローブの分布画像を区別してイメージングするPET装置を提供することにより、単一の薬剤のみのイメージングではなしえなかった高度な生物学的分析や臨床診断の可能性を切り開くものである。また、本発明は、複数分子同時イメージングの一般的な手法を与えることにより、ライフサイエンス以外の分野、例えば工業分野における非破壊検査や、保安のための核物質探知などにも貢献するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の発明者らは、PET装置の撮像対象に投与したプローブを標識するために用いる核種として、これまでのPET装置では積極的に用いられて来なかった、崩壊機構の異なるプローブを用いることにより、PET装置の持つ高い解像度を活かした複数分子同時イメージングを行ないうることに気がついた。本発明において採用する核種は、陽電子放出核でありながら固有ガンマ線をも放出する核種である。すなわち、陽電子放出核のうち、ベータ崩壊により陽電子を放出した後にガンマ崩壊により固有ガンマ線を放出する核種である。このような性質の核種を、本発明のある態様においては複数用い、本発明の別の態様においては従来のベータ崩壊後に陽電子のみを放出する核種とともに用いる。いずれの態様においても、対消滅ガンマ線の検出に続けて検出された固有ガンマ線によって、対消滅ガンマ線を放出した核種がどの核種であるのかを同定することが可能となる。つまり、複数の核種によって標識した複数のプローブを撮像対象に同時に投与しても、これらを相互に区別して撮像することが可能となる。
【0013】
すなわち、本発明のある態様においては、ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に第1エネルギーの固有ガンマ線を放出する核種を含む第1プローブと、ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に第2エネルギーの固有ガンマ線を放出する核種を含む第2プローブとの双方が投与されている撮像対象から、陽電子と電子の対消滅により発生する一対の対消滅ガンマ線を受けるようになっているPET用ガンマ線検出器の群と、いずれかの前記固有ガンマ線を検出するようになっており、前記第1エネルギーと前記第2エネルギーとを分解するエネルギー分解型ガンマ線検出器と、該PET用ガンマ線検出器の群に属する一対のPET用ガンマ線検出器による同時計測により得られる対消滅検出信号と、前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの信号との双方を受信し、前記対消滅ガンマ線の検出から所定の時間内に検出された固有ガンマ線のエネルギーが前記第1のエネルギーであるか前記第2のエネルギーであるかに応じ、前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するイメージング処理部とを備える数プローブをイメージングするためのPET装置を提供する。
【0014】
また、本発明のある態様においては、ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に固有ガンマ線を放出する核種を含む第1プローブと、ベータ崩壊によって主に娘核の基底状態となる陽電子放出核を含むPET用プローブとの双方が投与されている撮像対象から、陽電子と電子の対消滅により発生する一対の対消滅ガンマ線を受けるようになっているPET用ガンマ線検出器の群と、前記第1プローブから放出される前記固有ガンマ線を受けるようになっているエネルギー分解型ガンマ線検出器と、該PET用ガンマ線検出器の群に属する一対のPET用ガンマ線検出器による同時計測により得られる対消滅検出信号と、前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの信号との双方を受信し、前記対消滅ガンマ線の検出と固有ガンマ線の検出とが所定の時間内に生じたかどうかに応じ、前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するイメージング処理部とを備える複数プローブをイメージングするためのPET装置を提供する。
【0015】
本発明はさらに別の態様によって実施することも可能である。つまり、本発明のある態様においては、ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に第1エネルギーの固有ガンマ線を放出する核種を含む第1プローブと、ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に第2エネルギーの固有ガンマ線を放出する核種を含む第2プローブとの双方が投与されている撮像対象から、陽電子と電子の対消滅により発生する一対の対消滅ガンマ線をPET用ガンマ線検出器の群により同時計測するステップと、いずれかの前記固有ガンマ線を検出するようになっており、前記第1エネルギーと前記第2エネルギーとを分解するエネルギー分解型ガンマ線検出器により計測するステップと、前記PET用ガンマ線検出器の群に属する一対のPET用ガンマ線検出器による同時計測により得られる対消滅検出信号と、前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの信号との双方を受信し、前記対消滅ガンマ線の検出から所定の時間内に検出された固有ガンマ線のエネルギーが前記第1のエネルギーであるか前記第2のエネルギーであるかに応じ、前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するイメージング処理ステップとを含むPET装置における複数プローブのイメージング方法における複数プローブのイメージング方法を提供する。
【0016】
また、本発明のある態様においては、ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に固有ガンマ線を放出する核種を含む第1プローブと、ベータ崩壊によって主に娘核の基底状態となる陽電子放出核を含むPET用プローブとの双方が投与されている撮像対象から、陽電子と電子の対消滅により発生する一対の対消滅ガンマ線をPET用ガンマ線検出器の群により同時計測するステップと、前記第1プローブから放出される前記固有ガンマ線をエネルギー分解型ガンマ線検出器により計測するステップと、前記PET用ガンマ線検出器の群に属する一対のPET用ガンマ線検出器による同時計測により得られる対消滅検出信号と、前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの信号との双方を受信し、前記対消滅ガンマ線の検出と固有ガンマ線の検出とが所定の時間内に生じたかどうかに応じ、前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するイメージング処理ステップとを含むPET装置における複数プローブのイメージング方法を提供する。
【0017】
本発明の各態様において、ベータ崩壊とは、陽電子放出をともなうβ崩壊(陽電子崩壊)を指している。娘核とは、ある放射性核種(親核)が原子番号の変化する核崩壊すなわちベータ崩壊を起こすときの崩壊後の核種を意味している。第1プローブおよび第2プローブにおいて標識のために用いられる放射性核種は、いずれも、ベータ崩壊によって陽電子(ポジトロン)を放出して娘核の励起状態に遷移し、それに続けて、娘核の基底状態にガンマ崩壊によって遷移する際に核種によって定まる固有の励起エネルギーをガンマ線の形態で放出する。本発明の各実施形態においては、ベータ崩壊で放出される陽電子の対消滅によるガンマ線(対消滅ガンマ線)を検出し、加えて、あらかじめ定めた短い時間(「所定の時間」または「固有ガンマ線ウインドウ期間」(後述))のうちに検出した固有ガンマ線を、核種特定のために利用する。具体的には、第1プローブとして、第1エネルギーの固有ガンマ線放出核を、第2プローブとして、第2エネルギーの固有ガンマ線放出核を使用し、必要に応じ第1エネルギーと第2エネルギーとを分解して測定するように動作させることが可能な任意のガンマ線検出器(エネルギー分解型ガンマ線検出器)を用いる。これによって、PET検出器群による同時計測事象が、第1プローブと第2プローブとのどちらによるものであるか決定することができる。同時計測事象から各プローブの分布画像を得るための画像再構成処理は、従来のPET装置と同様に行なうことが可能である。なお、第1プローブも第2プローブも、Bタイプ核種(後述)と呼ばれる核種を含んでいる。
【0018】
本発明においては、上述したように、第1プローブとPET用プローブとを用いる態様も提供する。ここで、PET用プローブとは、ベータ崩壊によって主に娘核の基底状態となる陽電子放出核、すなわち、ベータ崩壊後の原子核がとる状態のうち高い確率のものが娘核の基底状態である核種により標識したプローブである。このPET用プローブは、例えば従来のPET装置において、対消滅ガンマ線を放出する核種として用いられるものであり、本出願においてAタイプ核種として後述される。第1プローブは先述したとおりであり、ベータ崩壊により陽電子を放出するとともに、ガンマ崩壊により固有ガンマ線を放出する。その固有ガンマ線は、エネルギー分解型ガンマ線検出器により検出する。これに対して、上記態様のPET用プローブは陽電子のみを放出する。このため、第1プローブとPET用プローブとを利用する態様においては、エネルギー分解型ガンマ線検出器が検出する固有ガンマ線検出の有無によって複数分子同時イメージングを実行することが可能となる。エネルギー分解型ガンマ線検出器からの固有ガンマ線のエネルギー値は、その後に積極的に利用される場合も、また、されない場合もある。
【0019】
本発明のこれらの態様において、対消滅ガンマ線を検出するためには、従来のPET装置と同様の同時計測を実施する。また、対消滅ガンマ線と固有ガンマ線とを対応付けるために、固有ガンマ線の検出と対消滅ガンマ線の検出とがある時間差以内に生じているかどうかを判定する。この時間差の許容範囲は、娘核の励起状態の半減期や、検出器の時間分解能を考慮してあらかじめ決定した固有ガンマ線ウインドウ期間(「所定の時間」)によって設定する。
【0020】
したがって、本出願においては、同時(coincident)や同時計測(coincidence measurement)とは、無限に高い精度を以て二つの事象が完全に一致した時刻に起きたことを規定するものではない。例えば対消滅の2つのガンマ線は、それぞれが光速で各媒質または空間を伝播し、別々の検出器においてシンチレーション光の発光や電荷の収集などにより検出される。つまり、実際の測定にまつわる種々の現象、例えば、対消滅した位置から検出器までの距離の揺らぎ、検出器の時間応答の差、のために検出時刻の完全同一性は担保されえない。このため、本出願においては、同時または同時計測との用語をもって完全に一致した時刻であることは規定されない。本発明の思想上または実施上の意味における「同時」には、ある時間差だけの時刻の違いと時間幅が含まれている。
【0021】
本発明の各態様において2種類のプローブを区別してコンピュータ上で画像再構成する処理は、少なくとも2つの画像を別々に再構成する処理を指している。ともにガンマ崩壊による固有ガンマ線を放出する核種で標識した第1および第2プローブを採用する態様においては、それぞれのプローブを区別するため、典型的には各プローブからの固有ガンマ線のエネルギーを識別し、各プローブからの対消滅ガンマ線に基づく画像を別々に再構成する処理を行う。これに対して、固有ガンマ線を放出する第1プローブと固有ガンマ線を放出しないPET用プローブとを用いる態様においては、例えば固有ガンマ線の検出の有無を利用することにより、各プローブの画像を別々に再構成する処理を行う。なお、画像を別々に再構成することは、各プローブのみとなった画像を再構成することを必ずしも意味していない。例えば固有ガンマ線を放出する第1プローブとPET用プローブとを採用する態様においては、測定原理上、第1プローブから放出される固有ガンマ線の検出効率が100%とはならない。そのため、固有ガンマ線が同時に検出さなかった対消滅事象は、PET用プローブに由来するものの他、第1プローブに由来するものも含む。したがって、区別して再構成される画像が、第1プローブおよびPET用プローブの双方の分布を反映する一の画像と、第1プローブの分布を反映する他の画像、という組合せとなる。
【0022】
本発明のいくつかの態様においては、コンピュータが構成要素に含まれている。このコンピュータは一般に、演算部と、記憶装置とを含む任意のコンピュータ装置であり、適当なオペレーティングシステム上において、任意のプログラムの動作が制御され、記録装置などのリソースが管理される。また、本発明の態様においては、種々の記録手段が用いられる。これらの記録手段は、上記コンピュータの記憶装置において情報を記録することが可能な装置であって、必要に応じてこれらを識別可能なものを指す。
【発明の効果】
【0023】
本発明のいくつかの態様により、PET装置の特徴である高い感度、定量性、解像度を活かした上で、複数のプローブを互いに区別して同時にイメージングすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のいくつかの実施形態において採用される核種の崩壊様式を、従来のPET装置による撮像のために主として採用される核種のものと対して図示するチャートである。このうち、図1(a)は、従来のPET装置において採用される陽電子放出核の崩壊様式(Aタイプ)であり、図1(b)は、本発明の各実施形態において採用される固有ガンマ線を放出する崩壊様式(Bタイプ)である。
【図2】本発明の各実施形態において採用することが可能なBタイプ核種の崩壊様式を具体例により示す説明図である。図2(a)は、14Oから14Nへの崩壊を、また、図2(b)は、94mTcから94Moへの崩壊を、それぞれ示している。
【図3】本発明のある実施形態に採用する複数分子同時イメージング用PET装置の概略構成図である。
【図4】本発明のある実施形態に採用する複数分子同時イメージング用PET装置のイメージング処理部の信号処理の構成を示すブロックダイヤグラムである。
【図5】本発明のある実施形態の複数分子同時イメージング用PET装置によるイメージング方法の処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明のある実施形態に採用する複数分子同時イメージング用PET装置のイメージング処理部の信号処理の詳細な構成を示すブロックダイヤグラムである。
【図7】本発明のBタイププローブを複数投与する実施形態における処理動作の概要を示す説明図である。
【図8】本発明のある実施形態においてAタイププローブとBタイププローブを投与した場合の処理動作の概要を示す説明図である。
【図9】本発明のある実施形態においてAタイププローブとBタイププローブを投与した際に、固有ガンマ線のエネルギー検出を撮像に利用しない場合のノイズの発生原因を説明する図である。
【図10】本発明のある実施形態においてAタイププローブとBタイププローブを投与した際に、固有ガンマ線のエネルギー検出を撮像に利用しない場合にノイズを抑制するための検出器の配置例を説明する図である。
【図11】本発明のある実施形態において数値計算シミュレーションの対象となるプローブ分布を与えるファントム形状を示す模式図である。
【図12】数値計算シミュレーションによる、本発明のある実施形態を用いてファントムを撮像した場合の画像である。図12(a)は、固有ガンマ線が検出されない際の対消滅ガンマ線により再構成したものであり、図12(b)は、固有ガンマ線を検出した際の対消滅ガンマ線により再構成したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号を付している。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示してはいない。
【0026】
本発明の実施形態の基本構成を基本実施形態として説明し、その基本構成に基づいて実施するより具体的な形態を、第1および第2実施形態として説明する。
【0027】
<基本実施形態>
基本実施形態は、本発明の実施形態の基本的構成を概説したものである。このため、本実施形態において説明する事項は、他の実施形態にも適用される。
【0028】
[1 基本構成]
[1−1 動作原理]
本発明の各実施形態においては、従来のPET装置で主として使用される陽電子放出核とは異なる崩壊様式の核種を採用する。図1は、本発明の各実施形態において採用する核種の崩壊様式を、従来のPET装置による撮像のために主として採用される核種に対して図示するチャートである。このうち図1(a)は、従来のPET装置において主として採用される陽電子放出核の崩壊様式(以下、「Aタイプ」と呼ぶ)であり、図1(b)は、本発明の各実施形態において採用する固有ガンマ線を放出する崩壊様式(「Bタイプ」)である。
【0029】
図1(a)に示すように、従来のPET装置での撮像のために主として採用されるAタイプの崩壊様式の陽電子放出核(「Aタイプ核種」という)のエネルギー準位は、ベータ崩壊によって、崩壊前の親核から崩壊後の娘核の基底状態に遷移する。したがって、Aタイプの崩壊で、遷移の際に放出されるのは、ニュートリノを除き陽電子のみである。これに対し、図1(b)に示したBタイプの崩壊様式の核種(「Bタイプ核種」)においては親核からベータ崩壊によって遷移した先の状態は娘核の励起状態である。このため、Bタイプ核種のベータ崩壊後の娘核は、励起状態と基底状態のエネルギー差に相当する核種に固有のエネルギーを固有ガンマ線として放出し基底状態へと遷移する。Bタイプ核種において固有ガンマ線が放出されるタイミングは、核の構造に依存した量子力学的な確率に従う。娘核の励起状態から基底状態への寿命の指標は、例えば半減期として与えられる。
【0030】
図2は、図1(b)のBタイプ核種として採用する核種の崩壊様式を具体例により示す図である。図2(a)には、親核である14Oから娘核である14Nへの崩壊様式を示した。図2(a)は、親核14Oが、娘核14Nの基底状態に遷移するまでに、99.4%の確率で14Nの励起状態を経由すること、そしてそこから、半減期68フェムト秒(fs)で2312keVの固有ガンマ線を放出して娘核14Nの基底状態に遷移することを示している。また、図2(b)には、親核である94mTcから娘核である94Moへの崩壊を示している。図2(b)は、親核94mTcが娘核94Moの基底状態に遷移するまでに、いくつかの励起状態を経由して、核スピンが2の娘核94Moの励起状態に遷移すること、そしてそこから半減期2.88ピコ秒(ps)で871.0keVの固有ガンマ線を放出して娘核94Moの基底状態に遷移することを示している。この崩壊経路を通る94mTcの割合(ガンマ線放出率)は、94.2%である。
【0031】
なお、従来のPET用プローブに用いられる核種には、小さい確率で固有ガンマ線を放出するタイプ、つまり、厳密にはBタイプ核種とすべきものも知られている。例えば64Cuは、0.4%の確率で1346keVの固有ガンマ線を放出する核種でありながらもPET用プローブに用いられている。しかし、本出願における以降の説明では、従来のPET用プローブに用いられる核種のうち固有ガンマ線を放出するものは、その固有ガンマ線をイメージングに利用する場合にはBタイプ核種として扱い、固有ガンマ線を特に利用せず511keVの対消滅ガンマ線のみによるイメージングを行なう場合にはAタイプ核種として扱う。したがって、511keVの対消滅ガンマ線のみを利用し、本出願の固有ガンマ線を利用しないAタイプ核種として、ベータ崩壊後に100%の確率で娘核の基底状態になるものばかりではなく、ベータ崩壊の後に高い確率で娘核の基底状態に遷移するものまで含めている。このような核種の区分は、従来のPET用プローブの核種のうち、固有ガンマ線を放出する確率がゼロでない核種が排除されていないことを明示するものである。
【0032】
以下、Aタイプ核種によって標識する薬剤(プローブ)を、Aタイププローブと呼び、同様に、Bタイプ核種によって標識する薬剤(プローブ)を、Bタイププローブと呼ぶ。
【0033】
[1−2 PET装置]
上述したBタイプ核種が投与された撮像対象において複数分子の分布を撮像するために、本実施形態においては、Bタイプ核種からの固有ガンマ線を利用する改良されたPET装置、つまり、複数分子同時イメージング用PET装置を提供する。図3は、本実施形態で採用する複数分子同時イメージング用PET装置の概略構成図である。図3に示した複数分子同時イメージング用PET装置100(以下、「PET装置100」という)は、従来のPET装置と同様に、ポジトロンの対消滅に伴う511keVのガンマ線対が、リング状に配列したPET検出器10の群を用いて検出する。PET検出器10の群は、本出願においてはPET用ガンマ線検出器の群とも呼ぶ。PET検出器10の群は、図3において概ね円筒面をなすように配列した個別のPET検出器10を含んでいる。PET検出器10それぞれは、当該円筒面の内側から飛来するガンマ線を受けて、そのガンマ線との相互作用に応じた信号を出力する。特に、いずれか二つのPET検出器10から出力する信号が、一対の陽電子と電子が対消滅して反対方向に放出された対消滅ガンマ線を検出したことを示す場合に、その信号を本出願において対消滅検出信号と呼ぶ。当該円筒面の内側には、撮像対象となる生体などの物体(図示しない)を配置する。その物体の内部では、プローブとなる分子が、生体の各部位などの様々な領域に集積し、3次元的に分布している。図3には、Bタイププローブが分布している領域のみを図示している。
【0034】
従来のPET装置と同様にPET装置100は、各PET検出器10からの信号が二つの検出器によって511keVのガンマ線を同時計測した場合は、上記円筒の内側の空間で、その二つの検出器の間を結ぶ直線上にて対消滅が生じたことになる。このため、PET検出器10の群によって、その対消滅ガンマ線の飛来方向の直線を、それぞれ一対の対消滅ガンマ線を検出したPET検出器10の位置を結ぶ直線として推定することができる。このように、PET検出器10の群は、位置感応型検出器として機能する。そして、いずれのプローブを用いる場合でも、このPET検出器10の群からの対消滅検出信号を後の画像再構成のために利用する。
【0035】
本実施形態の典型的なPET装置100は、固有ガンマ線検出器20もさらに備えている。固有ガンマ線検出器20は、本出願においてはエネルギー分解型ガンマ線検出器とも呼ぶ。本実施形態のPET装置100において、固有ガンマ線検出器20は、固有ガンマ線検出器20の群として、PET検出器10の群の配置に適合させて配置している。固有ガンマ線用検出器20は、対消滅ガンマ線を検出するPET検出器10を配置していないオープンスペースのうちの任意の位置に配置する。その配置の一例は、図3に示すように、リング状に配置したPET検出器10の群のなす円筒と同軸の円筒上に、多数の固有ガンマ線検出器20の群を、リング状に、かつ、PET検出器10の群の配列の両側に配置したものである。固有ガンマ線検出器20からは、ガンマ線のエネルギー値を反映する波高信号が得られる。したがって、対消滅検出信号には、固有ガンマ線が到来したタイミングと、その固有ガンマ線の持つエネルギーの情報とが含まれている。
【0036】
PET装置100と同様の機能を持つPET装置は、PET検出器10と類似の検出器が備わった従来のPET装置を改造することによっても作製することができる。この場合には、エネルギー測定が可能な任意のガンマ線検出器を、例えばPET装置100の固有ガンマ線検出器20の群のように既存のPET検出器の動作を妨げない位置に追加する。従来のPET装置に固有ガンマ線検出器を追加することによって構成したPET装置は、従来のPET装置からみて構成変更を小規模としながらも複数分子同時イメージングを実現する点で有利である。
【0037】
PET装置100として動作するための固有ガンマ線検出器20の機能は、固有ガンマ線のエネルギーの測定と、その検出タイミングの特定であるため、位置感応性を必要としない。また、固有ガンマ線検出器20として採用されるガンマ線検出器の種類も特段限定されない。例えば、NaI、BGO、LSO、LaBr等をシンチレーターとして採用するシンチレーション検出器や、Si、Ge、CdTe、CdZnTe等の半導体材料を採用する半導体検出器を、固有ガンマ線検出器20として用いることが可能である。
【0038】
なお、固有ガンマ線検出器20には位置感応性が必要ないため、本発明においては、固有ガンマ線検出器は、必ずしも群として設けられることは要しない。それにもかかわらず本実施形態において固有ガンマ線検出器20が群をなす多数の検出器によって構成されているのは、撮像対象から見た合計の立体角を減じることなく1台当たりの計数率を適度な値に保つためである。つまり、固有ガンマ線検出器20のサイズや測定するガンマ線の線量によっては、固有ガンマ線検出器20の1台当たりの計数率が過大なってしまう場合がある。そのような場合には、個別の固有ガンマ線検出器20からの計数率を適度な値に低下させるために、大きさが適切に分割された複数の固有ガンマ線検出器20を組み合わせることが有用である。
【0039】
[1−3 イメージング処理]
図3に示したように、本発明の各実施形態のPET装置100には、イメージング処理部30を備えている。そのイメージング処理部30は、受信した信号に対して同時計測の判定を行ないイベントデータを出力する同時計測判定部32と、同時計測判定部32からのイベントデータを、固有ガンマ線のデータに基づいて振り分けて出力するデータ振り分け部34と、データ振り分け部34からのデータにより画像を再構成する画像再構成部36とを含んでいる。
【0040】
ここで、従来のPET装置では、PET検出器の群の各検出器からの信号によって、検出されたガンマ線が一の対消滅イベントに基づくものであるかどうかを判定する。これに対して本発明の各実施形態におけるイメージング処理部30にあっては、PET検出器10それぞれからの信号のうち対消滅ガンマ線によるものと特定した信号(「対消滅検出信号」)に加え、固有ガンマ線検出器20からの信号も同時計測の対象として利用する。つまり、検出されたガンマ線が、単に一の対消滅イベントであるかどうかだけではなく、固有ガンマ線の検出を伴う対消滅イベントであるかどうかを判定する。その結果、PET装置100では、対消滅検出信号のみでは不可能であった核種すなわちプローブの識別が可能となる。
【0041】
PET装置100のイメージング処理部30は、ハードウェア処理またはソフトウェア処理によって上述した動作を実現する。この処理を、ハードウェア処理によって実行するとした場合の回路構成について、図4に示したイメージング処理部30のブロックダイヤグラムに基づいてさらに詳細に説明する。図4は、本実施形態で採用する複数分子同時イメージング用PET装置のイメージング処理部30のハードウェア処理の例示の構成を示すブロックダイヤグラムである。イメージング処理部30の同時計測判定部32は、PET検出器10から受信した信号の同時判定を行う。図4においては、個別のPET検出器10からの各信号は、イメージング処理部30の一部またはイメージング処理部30の外部に備えた公知のハードウェア処理回路系(図示しない)により、PET検出器10においてガンマ線を検出したタイミングを示す信号とガンマ線の検出位置およびガンマ線のエネルギーを示す信号とに分けられる。そして、PET検出器10からのガンマ線を検出したタイミングを示す信号と、ガンマ線の検出位置およびガンマ線のエネルギーを示す信号を同時計測判定部32に入力する。図4には、ガンマ線を検出したタイミングを示す信号である信号PET1_Logicおよび信号PET2_Logicと、ガンマ線の検出位置およびガンマ線のエネルギーを示す信号である信号PET1_Dataおよび信号PET2_Dataとを示している。PET検出器10のうち、対消滅ガンマ線の一方を検出した信号が例えば信号PET1_Logicと信号PET1_Dataとに分けられ、他方を検出した信号が例えば信号PET2_Logicと信号PET2_Dataとに分けられる。このため、対消滅検出信号は、信号PET1_Logicおよび信号PET1_Data、ならびに信号PET2_Logicおよび信号PET2_Dataによって構成される。
【0042】
固有ガンマ線検出器20からの信号も、同様に、公知のハードウェア処理系によって、固有ガンマ線検出器20がガンマ線を検出したタイミングを示す信号Gamma_Logicと、検出したガンマ線のエネルギー値を示す信号Gamma_Dataとに分け、同時計測判定部32に入力する。
【0043】
同時計測判定部32を機能によりさらに細分すると、タイミングを判定して同時計測したかどうかを示すゲート制御信号S−GATEを生成するロジック部322と、そのロジック部322からのゲート制御信号S−GATEにより、イベントデータ信号S−EVを出力するゲート処理を行なうゲート部324とに分けられる。イベントデータ信号S−EVは、データ振り分け部34のロジック部342に入力され、ロジック部342は、あらかじめ定めている振り分け論理に従って画像再構成用のデータを出力する。そのデータを受けた画像再構成部36は、各データを別々の画像再構成処理部362および364によって再構成する。このような処理によって、振り分けたデータから別々の画像を再構成する。なお、プローブを識別するための処理に即したより具体的なデータ振り分け部34の構成を、(2−4)「検出器の種別構成に適合するイメージング処理部」の欄にて詳述する。
【0044】
[1−3−1 画像再構成処理]
振り分けたデータは、画像再構成処理部362および364それぞれにおいて、従来のPET装置の画像再構成のためのデータと同様に処理される。例えば、FBP(Filtered Back‐Projection)法」、「OS-EM(Ordered Subset ML-EL)法」、「MAP-EM(Maximum a Posterior-EM)法」のいずれかの周知の手法により、振り分けたデータから画像を再構成することができる。これらの手法については、例えば、非特許文献2に開示されている。
【0045】
[1−4 イメージング処理部の実装]
上述した説明においては説明を明確にするためにハードウェア処理に基づいて説明した。当業者には明らかなように、それ以外にも本実施形態は種々の実装形態を取ることが可能である。例えばデータ振り分け部34の処理は、ハードウェアによる処理ではなくコンピュータ上のソフトウェアによって行なうことが可能である。さらには、特に不感時間の短い信号取り込みが可能なデータ取得回路を用いる場合には同時計測判定部32の処理も、コンピュータ上のソフトウェアによって行なうことも可能である。また、図4に示したイメージング処理部30の構成は、図3に適合させるために整理して記載したものであり、実質的に図3のイメージング処理部30の処理を実行しうる他の実装形態によって実現することも可能である。例えば、ANDゲートG2によるハードウェア処理は、ロジック部342の論理の一部として実行することも可能である。つまり、本実施形態で採用する複数分子同時イメージング用PET装置のイメージング処理部30は、PET検出器10の群からの信号を受信しており、511keVの対消滅ガンマ線を捕らえた一対のPET検出器がいずれであるかを同時計測によって特定する。そして、イメージング処理部30は、その対消滅ガンマ線から画像再構成するために、その対消滅に関連する固有ガンマ線の検出を利用する。
【0046】
ハードウェア処理を行なう回路として、または、コンピュータを用いるソフトウェア処理として実装するイメージング処理部は、より具体的には次のように構成する。
【0047】
電子回路によるハードウェア処理として実装する場合には、PET検出器10それぞれや、固有ガンマ線検出器20それぞれからの信号に対して、タイミング系の信号路(signal path for timing)を構成し、同時計測ロジックまたは検出器のヒットパターンを判定する回路を実装する。また、PET検出器10や固有ガンマ線検出器20の出力からのエネルギー信号を利用するためには、振幅系の信号路(signal path for amplitude)を構成して、例えば整形増幅器を通じてアナログデジタル変換器を介して電気信号から画像を再構成するためのデータを取得する。
【0048】
これに対し、コンピュータ上のソフトウェアによる同時判定を行う場合には、各検出器からのイベントデータに時刻情報(タイムスタンプ)を記録しておき、その後同時判定を行なう。このような手法も本実施形態に含まれている。
【0049】
図5は、本実施形態のPET装置100によるイメージング方法の処理を示すフローチャートである。本実施形態のPET装置100においては、撮像対象に対して、プローブを投与する(S102)。プローブは、少なくとも一つが陽電子放出に続けて固有ガンマ線を放出する核種(Bタイプ核種)によって標識してある。
【0050】
次いで、撮像および同時計測(S104)を行う。同時計測は、撮像と並行して行なわれ、PET検出器10の群と、固有ガンマ線検出器20とによってイベントの判定を行なう処理である。対消滅ガンマ線を特定するための同時計測は、従来のPET装置の場合と同様である。また、その対消滅ガンマ線を発生した核が固有ガンマ線を放出したかどうか判定するためには、対消滅ガンマ線の検出と同時に固有ガンマ線を検出したかどうかを判定する。
【0051】
さらに、固有ガンマ線のエネルギーや検出の有無に応じて、イベントデータを振り分ける処理を実行し、振り分けたデータそれぞれの画像を再構成する(S106)。
【0052】
その後、このような構成または動作を行なうPET装置100は、別々に再構成し画像を、互いに区別可能な態様によって図示しない任意の表示装置に表示する(S108)。
【0053】
以上に説明した構成または動作を行なうPET装置を作製することより、従来のPET装置の利点である高い空間分解能や定量性を活かした上で、複数のプローブを識別しながらイメージングする複数分子同時イメージングが可能となる。
【0054】
[1−5 プローブの組み合わせ]
次に、撮像対象に同時に投与した場合にもPET装置100によって識別が可能であるプローブの組み合わせについて説明する。このようなプローブの組合せは、典型的には、
組合せI:Bタイププローブを複数用いる組み合わせであって、互いにエネルギーが異なる固有ガンマ線を放出するように選択したもの、
組合せII:Aタイププローブと、Bタイププローブとの組み合わせ、
に大別することができる。測定した対消滅検出信号を、いずれのプローブからの信号と判定するか(以下「プローブ識別」と呼ぶ)は、上記組合せIであれば、検出した固有ガンマ線のエネルギー値を検出することにより行うことができる。また、上記組合せIIにおけるプローブ識別は、固有ガンマ線が検出されたかどうかによっても実行することができるほか、固有ガンマ線のエネルギー値を識別に追加することによってノイズの抑制された画像を撮影すること可能である。図3には、組合せIと組合せIIとの違いを簡略化して付記している。このため、イメージング処理部30は、対消滅検出信号に基づくイベントデータを、ガンマ線のエネルギー値(上記組合せIおよびIIの場合)や、ガンマ線の有無(上記組合せIIの場合)に基づいて振り分ける処理を実行する。この振り分け処理は、上記組合せIでは、対消滅ガンマ線との同時性に加えて、固有ガンマ線検出器20が測定したエネルギーを利用して行なう。また、上記組合せIIでは、対消滅ガンマ線と固有ガンマ線検出器20が測定した固有ガンマ線が同時であるかどうか、および、固有ガンマ線のエネルギーと511keVとの弁別により行なう。なお、本実施形態は、プローブを三種またはそれ以上投与することにより上記組合せIと組合せIIの両方である組合せも含む。
【0055】
[2 PET装置の詳細]
次に、本実施形態において提供するPET装置のさらに詳細な構成について説明する。
【0056】
[2−1 PET装置としての検出器の動作態様]
本実施形態のPET装置は、典型的には上述したPET装置100と同様の構成である。ただし、本実施形態のPET装置と同様の機能は、511keVの対消滅ガンマを検出する目的で作製されている従来のPET装置のPET検出器に、固有ガンマ線検出器20としての機能も兼ねるように動作させることによっても達成できる。従来のPET装置をこのように改良する場合、その装置に備わっているPET検出器が、「PET用ガンマ線検出器」と「エネルギー分解型ガンマ線検出器」との両方の機能を兼ね備えることとなる。この場合、本実施形態に用いることが可能なPET装置においては、「PET用ガンマ線検出器」と「エネルギー分解型ガンマ線検出器」が、必ずしも別々に装備されている必要はない。
【0057】
[2−1−1 専用動作と兼用動作]
検出器の具体的構成に許容されるこのような任意性は、対消滅ガンマ線を検出するPET検出器の動作に着目して以下のように整理できる。すなわち、本実施形態のPET装置の動作は、PET検出器の動作に着目して区分すると、PET検出器の群のいずれもが固有ガンマ線の検出を行なわない動作(以下、「専用動作」という)と、PET検出器の群の少なくともいずれかが固有ガンマ線の検出を行なう動作(「兼用動作」という)とに分けることができる。専用動作では、PET検出器とは別に、固有ガンマ線を検出するための固有ガンマ線検出器が必要となる。これに対して、兼用動作するPET装置では、固有ガンマ線検出器は必ずしも装備されていなくとも良い。
【0058】
[2−2 検出器の具体的種別]
次に、本実施形態のPET装置に用いるPET検出器と固有ガンマ線検出器の種別の組み合わせについて説明する。一般にガンマ線検出器は、シンチレーターを利用するシンチレーション検出器と、半導体を利用する半導体検出器とに大別することができる。本実施形態におけるPET検出器や固有ガンマ線検出器にもこれらのシンチレーション検出器と半導体検出器とを利用することができる。いずれの検出器を選択するべきかの選択指針を特に固有ガンマ線に対する検出器の特性に着目して説明する。
【0059】
検出器の選択指針には、エネルギー分解能、時間分解能、計数耐性、感度といった性能上の指針と、コスト上の指針とが存在する。エネルギー分解能とは、固有ガンマ線同士または固有ガンマ線と対消滅ガンマ線のエネルギーを分解して測定するのに十分な精度が得られるかどうかである。また、計数耐性とは、単位時間あたりのガンマ線検出数の上限である。そして感度とは、撮像対象から放出された固有ガンマ線の総数のうち、検出できる数の割合である。
【0060】
図3に示したPET装置100では、典型的な基本的構成を説明するため、PET検出器10および固有ガンマ線検出器20の両者を装備して、上記専用動作を行なうように記載している。実際に本実施形態を実施するためには、図3に示したPET装置100を用いて兼用動作を行なうことも可能である。そして、検出器の選択のための各指針に対する検出器の種類ごとの評価は、上述した専用動作の場合と、兼用動作の場合とで異なる。
【0061】
これらの指針にするシンチレーション検出器と半導体検出器の評価を、専用動作の場合を表1に、また、兼用動作の場合を表2にまとめた。
【表1】

【表2】

【0062】
表1および表2には、固有ガンマ線検出器20の種別を各列に、また、PET検出器10の種別を各行に選んで、各欄にその評価を示した。例えば、表1の左下の欄は、固有ガンマ線検出器20がシンチレーション検出器、PET検出器10が半導体検出器、という組み合わせの場合の評価を示している。また、表2では兼用動作のうち、固有ガンマ線検出器20を利用しない場合を左列に記載した。表2の他の列は、兼用動作をするものの、固有ガンマ線検出器をも利用する構成である。
【0063】
各表の各欄において示されているのは、「/」によって区切った4指針の評価結果である。つまり、エネルギー分解能、計数耐性、感度、およびコストという項目に対する各組み合わせの評価を、発明者の認識に基づいてこの順に記載した。なお、1、2、3の各数字は、それぞれ、優秀(excellent)、十分(sufficient)、不十分(insufficient)と区分した発明者の認識を表示する記号である。
【0064】
留意すべきは、これらの評価結果はあくまで、実施形態の特徴を説明する目的のためだけに記載していることである。つまり、たとえ「3(不十分)」と評価されたものであっても、本発明の実施形態のためのPET装置にその組み合わせが採用不可能であることは意味しない。また、シンチレーターや半導体の素材によっても異なる特性となって、各評価の優劣が変化する。さらに、検出器の技術の進展に伴ってこれらの各評価は変化する可能性がある。例えば、シンチレーション検出器(NaI、BGO、LSO等)は、一般的には、安価ではあるものの、エネルギー分解能が半導体検出器との相対比較において低い検出器といえる。これと比較して半導体検出器(Si、Ge、CdTe等)は、高価であるもののエネルギー分解能が高いという特徴がある。しかしながら近年普及してきたシンチレーターLaBrなどは、エネルギー分解能が比較的高く、本実施形態のPET検出器や固有ガンマ線検出器として好適に採用できる。この例によって示したように、上述の表1および表2の評価は、あくまで、現時点における各種別の検出器に対する一般的な評価にすぎない。
【0065】
これらの検出器の種類の組み合わせ(種別構成)の代表的なもの6種類をさらに詳述する。最初の2種類は、兼用動作のみに適用され、残りの4種類は、兼用動作と専用動作の双方に適用できる。また特に臨床用PETについて、ここで言う一般的なPET検出器とは、一度に全身を撮像できるホールボティ(whole body)タイプのものではなく、部分撮像タイプのもの(移動スキャンで全身を撮像するものも含む)を指す。
【0066】
[2−2−1 検出器の種別構成(1)]
本実施形態の第1の検出器の種別構成は、シンチレーション検出器を用いたPET装置のみにより3重の同時計測を行なうものであり、表2の左上欄に対応する。つまり、PET装置のシンチレーション検出器を利用して対消滅ガンマ線と固有ガンマ線を検出する。ここで、現在普及している一般的なPET装置には、ガンマ線検出用にNaI、BGO、LSO等のシンチレーション検出器を使用している。これらのシンチレーション検出器は、数10keV〜数100keV程度のエネルギー分解能を有する。そこで、従来のPET装置の検出器構成を変えることなく、ハードウェア処理や画像処理の事後的な処理を変更することによって、対消滅ガンマ線2本と固有ガンマ線の同時計測つまり3重の同時計測を行う、兼用動作が可能である。この種別構成では、検出器は従来のPET装置と同様の構成とすることが可能であるため、製造コスト等は、従来のPET装置からみて大きな違いはない。
【0067】
ただし、上述したように、固有ガンマ線を検出するために用いるシンチレーション検出器のエネルギー分解能は数10keV〜数100keV程度とあまり高くない。このため、Bタイププローブからの固有ガンマ線のエネルギーが、対消滅ガンマ線のエネルギー(511keV)からその分解能以上に相異している必要がある。また、従来のPET装置におけるシンチレーション検出器をそのまま利用する場合、シンチレーション検出器が撮像対象を覆う立体角が小さいために固有ガンマ線の検出感度が低くなる。特に、PET装置のシンチレーション検出器が511keVガンマ線に適合するように設計されているのが一般的であるため、エネルギーが高い固有ガンマ線に対する阻止能(stopping power)が低くなる。
【0068】
[2−2−2 検出器の種別構成(2)]
本実施形態を実施するための第2の検出器の種別構成は、半導体検出器を採用しているPET装置において、検出器構成はそのままとし、固有ガンマ線検出を加えた3重同時計測可能な信号処理系を用いる構成である。本種別構成は、表2の左下欄のものであり、上述した第1の検出器の種別構成において、シンチレーション検出器を半導体検出器とした種別構成ともいえる。近年、半導体検出器を採用するPET撮像装置も実用化しているため、このようなPET装置では、検出器の構成を変更することなく本実施形態を実施することが可能である。その場合、画像処理系も固有ガンマ線の有無、もしくはエネルギー値により取得したデータを分類し、分類後のそれぞれのデータを区別してイメージングできるように構成する。この第2の検出器の種別構成では、半導体検出器のエネルギー分解能が高いため、第1の検出器の種別構成と比較して、ポジトロンの対消滅による511keVガンマ線と固有ガンマ線の識別能力(もしくは、エネルギーの異なる固有ガンマ線同士の弁別能力)が高くなる。なお、固有ガンマ線の検出感度については、第1の検出器の種別構成と同様、あまり高くない。
【0069】
[2−2−3 検出器の種別構成(3)]
本実施形態を実施するための第3の検出器の種別構成は、シンチレーターを用いた一般的なPET装置に、固有ガンマ線を検出するためのシンチレーション検出器を付加する種別構成であり、表1の左上欄および表2の中央上欄に対応する。この第3の検出器の種別構成は、後述する半導体検出器を用いた第4の検出器の種別構成と比較して、シンチレーション検出器であることからエネルギー分解能は劣るものの、比較的安価に大きな立体角を覆えるという利点を有する。この場合、固有ガンマ線検出器は、ガンマ線検出位置の情報を必要としないので、付加するシンチレーション検出器に、位置応答性は不要である。その結果、付加する固有ガンマ線検出器としてのシンチレーション検出器は、位置情報を利用するPET検出器ほどに細分化されている必要はない。このため、固有ガンマ線検出器のチャンネル数が少なく、信号処理系も比較的簡単なものとなる。
【0070】
なお、付加するシンチレーション検出器により固有ガンマ線のエネルギー識別を行うことから、エネルギー分解能が比較的高いシンチレーター(LaBr等)を利用することが好ましい。そのようなシンチレーターを用いた場合には、511keVとエネルギーが近い固有ガンマ線についても、また、複数の固有ガンマ線のエネルギーが近い場合についても弁別が可能となる。
【0071】
[2−2−4 検出器の種別構成(4)]
本実施形態を実施するための第4の検出器の種別構成は、PET装置のシンチレーション検出器に付加して、固有ガンマ線検出用に、半導体検出器(Ge、Si、CdTe検出器等)を備える種別構成であり、表1および表2の右上欄に対応する。半導体検出器は一般にシンチレーターと比較してエネルギー分解能が高い。このため、半導体検出器を用いて固有ガンマ線の検出を行なえば、511keVガンマ線と固有ガンマ線とを区別する弁別能力が高くなり、核種の選択範囲が広くなる。特に、固有ガンマ線のエネルギーが511keVより低い場合には、511keVの散乱ガンマ線との弁別が必要となるが、この点においてもエネルギー分解能が高いことは有利に働く。この場合にも、上述した第3の検出器の種別構成の場合と同様に、付加する検出器に位置応答性は必要ない。
【0072】
[2−2−5 検出器の種別構成(5)]
本実施形態を実施するための第5の検出器の構成は、半導体検出器を採用するPET装置に、固有ガンマ線の検出器としてシンチレーション検出器を付加したものである。本種別構成は、表2の中央下欄のものである。固有ガンマ線の検出については、シンチレーターの場合(3)と同様の特性を持つ。
【0073】
[2−2−6 検出器の種別構成(6)]
本実施形態を実施するための第6の検出器の構成は、半導体検出器を採用するPET装置に、固有ガンマ線の検出器として半導体検出器を付加したものである。本種別構成は、表2の右下欄のものである。固有ガンマ線の検出については、半導体検出器の場合(3)と同様の特性を持つ。
【0074】
[2−3 固有ガンマ線検出器の配置・構造]
上述した検出器の種別構成のうち(3)〜(6)においては、PET検出器10とは別の固有ガンマ線検出器20を利用する。この場合の固有ガンマ線検出器20の空間配置に対する制約は、動作原理上は特段存在しない。つまり、固有ガンマ線検出器20は、Bタイププローブから放出されるガンマ線を検出しうる任意の空間配置を取ることができる。例えば図3に示していたリング状配置は、固有ガンマ線検出器20が取ることのできる配置の一例である。後述する数値計算によるシミュレーションによって発明者が確認したところ、このリング状配置により、本発明の目的を達成するために十分な割合での固有ガンマ線検出が可能となる。したがって、図3に示した固有ガンマ線検出器20の配置は、Bタイププローブを利用して複数分子同時イメージングを実行する十分な効果を得ることができる一例である。
【0075】
また、固有ガンマ線検出器20の設置方法にも種々の改良を行なうことができる。例えば、固有ガンマ線検出器20による測定に悪影響を及ぼすガンマ線をシールドすることによって、固有ガンマ線検出器の計数率を抑えることが可能である。特に、PET装置が撮像可能な範囲として規定される(FOV:フィールド・オブ・ビュー)の外にも撮像対象がはみ出している場合には、FOV外に位置する撮像対象からも固有ガンマ線および対消滅ガンマ線が飛来する。これらのガンマ線は、FOV内の測定にとっては不要なガンマ線となり計数率を増大させ、本来検出されるべき固有ガンマ線が測定できない可能性をいたずらに高めるか、もしくは投与放射能に対する計数限界を下げてしまう。このような場合には、FOV外からのガンマ線を遮蔽するシールドを固有ガンマ線検出器20周辺の適当な位置、例えば図3の外側面22や24に配置して計数率を下げることが有効である。このようなシールドとして有効な素材の例として、原子番号が大きくガンマ線の阻止能が高い鉛やタングステン等を挙げることができる。
【0076】
[2−4 検出器の種別構成に適合するイメージング処理部]
基本的構成として図3および図4に示したイメージング処理部30は、従来のPETの同時計測装置と同様の対消滅ガンマ線の検出に加えて、固有ガンマ線検出器からの信号をも同時計測の対象としている。この同時計測の成否判定のために用いられる検出器の信号は、上述の検出器の種別構成(1)〜(6)に適合するように変形される。そして、イメージング処理部32(図3)の同時計測判定による動作、つまりロジック部322およびゲート部324の動作およびその具体的構成は、組合せIつまりBタイププローブを複数投与する場合か、組合せIIつまりAタイププローブとBタイププローブとの組み合わせである場合かにより異なる。そして、それらのプローブを区別する動作のためにイメージング処理部30において利用される信号は、上記専用動作か兼用動作かに依存している。つまり、専用動作の場合には、PET検出器10の群からの対消滅信号と固有ガンマ線検出器20からの信号を利用する。これに対して、兼用動作の場合には、PET検出器10の群からの対消滅信号と、PET検出器10の群のうち対消滅ガンマ線を検出した以外のいずれかの検出器からのいずれかの信号とを利用する。以下の説明では、まず専用動作におけるイメージング処理部30(図4)の詳細な動作を、組合せIであるBタイププローブを複数投与する場合と、組合せIIであるAタイププローブとBタイププローブとの組み合わせである場合とに分けて説明する。その後、兼用動作の場合についても説明する。
【0077】
図6は、本実施形態に採用される複数分子同時イメージング用PET装置のイメージング処理部のハードウェア処理の詳細な構成を示すブロックダイヤグラムである。このうち、図6(a)は、専用動作をする場合の組合せIつまりBタイププローブを複数投与する場合において、また、図6(b)は、専用動作をする場合の組合せIIつまりAタイププローブとBタイププローブとの組み合わせである場合において、イメージング処理部30により行なわれるハードウェア処理を示している。
【0078】
まず、組合せIと組合せIIとに共通する動作について説明する。専用動作では、固有ガンマ線検出器20によって固有ガンマ線がそのエネルギーとともに測定され、固有ガンマ線検出器20からの信号をイメージング処理部30において受信する。なお、固有ガンマ線検出器20は、図3に示したPET装置100においては多数の固有ガンマ線検出器20により構成されているが、ここでは、固有ガンマ線検出器20のいずれかで検出されたことを示す信号により説明する。上述したように、イメージング処理部30が受信した信号は、公知のハードウェア処理系(図示しない)によって、PET検出器10の信号から、対消滅ガンマ線を検出したタイミングを示す信号PET1_Logicおよび信号PET2_Logicを生成し、対消滅ガンマ線の検出位置およびガンマ線のエネルギーを示す信号PET1_Dataおよび信号PET2_Dataを生成する。固有ガンマ線検出器20においてガンマ線を検出したタイミングを示す信号Gamma_Logicと、固有ガンマ線のエネルギー値を示す信号Gamma_Dataも同様に固有ガンマ線検出器20の信号から生成する。
【0079】
次に、組合せIの場合について説明する。図6(a)に示す組合せIつまりBタイププローブを複数投与する場合においては、PET検出器10からの信号PET1_Logicおよび信号PET2_LogicをAND612に入力し、さらに、そのAND612からの出力と信号Gamma_LogicとをAND614に入力する。AND614の出力は、信号Gamma_Data、信号PET1_Data、および信号PET2_Dataをロジック部342に出力するかどうかを制御するためにゲート616に入力する。その結果、対消滅が検出されたことに伴って信号PET1_Logicおよび信号PET2_Logicの双方がアサートされ、かつ、固有ガンマ線が検出されたことに伴って信号Gamma_Logicがアサートされた場合に限り、ゲート616は信号Gamma_Data、信号PET1_Data、および信号PET2_Dataを出力する。その信号を受信したロジック部342は、対消滅ガンマ線と固有ガンマ線とが同時計測した場合にのみゲート616から出力される信号Gamma_Dataにおける固有ガンマ線のエネルギーに応じて、その信号Gamma_Dataと同時検出により得られた信号PET1_Data、およびPET2_Dataを振り分ける。したがって、AND612とAND614がロジック部322を構成し、ゲート616がゲート部324を構成する。また、AND614の出力がゲート制御信号S−GATEとなっている。
【0080】
これに対して、図6(b)に示す組合せIIであるAタイププローブとBタイププローブを投与する場合においては、PET検出器10からの信号PET1_Logicおよび信号PET2_Logicを、AND622に入力し、さらに、そのAND622からの出力と信号Gamma_LogicとをAND624に入力する。信号PET1_Dataおよび信号PET2_Dataがロジック部342に出力するかどうかは、AND622の出力に基づいてゲート626によって制御する。これに対し、信号Gamma_Dataがロジック部342に出力するかどうかは、AND624の出力に基づいてゲート628によって制御する。このため、信号Gamma_Dataがロジック部342に出力するのは、図6(a)の組合せIの場合と同様に、対消滅を検出したことに伴って信号PET1_Logicおよび信号PET2_Logicの双方がアサートされ、かつ、固有ガンマ線を検出したことに伴って信号Gamma_Logicがアサートされた場合となる。これに対し、信号PET1_Dataおよび信号PET2_Dataがロジック部342に出力されるのは、対消滅が検出されたことに伴って信号PET1_Logicおよび信号PET2_Logicの双方がアサートされた場合であり、信号Gamma_Logicとは無関係である。その信号を受信したロジック部342は、ゲート626を通じて受信した信号PET1_Data、および信号PET2_Dataを振り分けるために、固有ガンマ線に伴う信号Gamma_Dataの有無または信号Gamma_Dataに含まれる固有ガンマ線のエネルギーを利用する。したがって、AND622とAND624がロジック部322を構成し、ゲート626とゲート628がゲート部324を構成する。また、AND622とAND624の出力がゲート制御信号S−GATEとなる。
【0081】
以上の動作によって、専用動作の場合における組合せIと組合せIIの具体的なハードウェア処理を実現する。
【0082】
なお、ロジック部342における振り分け処理のために、組合せIの場合には固有ガンマ線のエネルギー値を利用する。このガンマ線のエネルギー値は、図6(a)に示したゲート616からの出力における信号Gamma_Dataに含まれる。これに対し組合せIIの場合には、固有ガンマ線検出器でのガンマ線検出器の有無もしくはガンマ線のエネルギー値をロジック部342において利用する。この固有ガンマ線の有無は、図6(a)に示したゲート628からの出力における信号Gamma_Dataの有無として容易に特定することができる。
【0083】
次に、兼用動作の場合のハードウェア処理を専用動作の説明に基づいて説明する。兼用動作の場合にも、図6(a)および図6(b)を参照した説明とほぼ同様のハードウェア処理を行なう。上述したとおり、専用動作と兼用動作の間のハードウェア処理上の相違点は動作のためにイメージング処理部30において利用する信号の違いである。具体的には、図6(a)および図6(b)において、固有ガンマ線に伴う信号Gamma_Logicおよび信号Gamma_Dataは、固有ガンマ線検出器20からの信号ではなく、PET検出器10からの信号となる。
【0084】
以上のように、イメージング処理部のハードウェア処理を行なうことによって、専用動作および兼用動作のそれぞれにおいてプローブの組合せIおよび組合せIIに対する信号またはデータの振り分けをロジック部342において実行することが可能となる。
【0085】
ロジック部342における振り分け処理は、Bタイププローブを複数用いる上記組合せIにおいては、対消滅ガンマ線のうち、固有ガンマ線を伴っているデータを固有ガンマ線のエネルギーに基づいて振り分ける。また、AタイププローブとBタイププローブを用いる上記組合せIIにおいては、対消滅ガンマ線を、固有ガンマ線を伴っていないものと、伴っているものとに振り分ける。この振り分けのさらに具体的態様については、組合せIおよび組合せIIについて、それぞれ第1および第2実施形態として後述する。
【0086】
なお、上述の専用動作と兼用動作との対比による説明は、図4におけるイメージング処理部30において、ロジック部342の動作を明示する目的でその典型的な態様として示したものに過ぎない。また、説明していない他の付加的な処理を排除するものでも無い。例えば、エネルギー値の上限値と下限値をハードウェアとしてのハードウェア処理回路系(図示しない)において設定(エネルギーゲート)し、この条件に適合する場合のみに信号Gamma_Logic等のロジック信号をそのハードウェア処理系に出力することにより、処理するデータを大幅に減らすことが可能である。
【0087】
[3 核種]
本実施形態においては、上述したBタイププローブの標識のためにベータ崩壊による陽電子放出に続けて固有ガンマ線を放出する核種(Bタイプ核種)を用いる。このBタイプ核種は、種々の観点から選択する。親核がベータ崩壊によって陽電子放出した後に娘核の励起状態に遷移し、その娘核がカンマ崩壊によって固有ガンマ線を放出して基底状態に遷移する核種であっても、陽電子放出から固有ガンマ線放出までの時間があまりに長い核種(核異性体核種)は同時計測ができないため不適切である。ここで、ベータ崩壊からガンマ崩壊までの時間すなわち娘核の励起状態の寿命は、短いものはフェムト秒以下から、長いものは数ヶ月またはそれ以上となる核種もある。本実施形態のBタイプ核種として採用するための寿命の基準は、検出器の時間応答と比較して決定する。つまり、娘核の励起状態の寿命は、使用するガンマ線検出器の時間分解能と同程度か、それより短い時間であることが偶然同時計測の割合を抑えS/N比を向上させる上で望ましい。
【0088】
このような、Bタイプ核種に該当するものは多数存在する。表3には、そのうち特に有用であると考えられるものを示す。
【表3】

なお、表3の核種のデータは、R.B. Firestone著、“Table of Isotopes”, (8th Edition, John Wiley and Sons (1996)と、National Nuclear Data Center, Brookhaven National Laboratoryの管理するウェブサイト(http://www.nndc.bnl.gov/chart/)において核種を指定することにより表示される、個別の核種の「decay radiation」データとから、例示を目的として本願の発明者が選択して引用したものである。また、表3における「半減期」の欄の値は、「核種」の欄にかかげた親核のベータ崩壊の半減期である。この欄の値は娘核の励起状態からガンマ崩壊する際の半減期ではない。
【0089】
ここで本実施形態のために有用な核種であるかどうかを選択するために考慮する要因(factor)を列挙すれば、「ベータ崩壊の半減期」、「ポジトロンと固有ガンマ線の放出確率」、「固有ガンマ線のエネルギー」、「ポジトロンの(最大)エネルギー」、「供給の容易さ」、「薬剤標識のし易さ」である。
【0090】
「ベータ崩壊の半減期」とは、親核から娘核へのベータ崩壊の寿命である。ベータ崩壊の半減期が短すぎると、薬剤の標識や、その後の撮像対象への投与、撮像が困難となる。逆に半減期が長すぎると、体内被曝を続けることになることから臨床での使用は困難となる。これらを踏まえると、本実施形態を臨床利用する場合に適当なベータ崩壊の半減期は、数分〜数日程度である。ちなみに、臨床用の従来のPET装置で多用されている核種におけるベータ崩壊の半減期は、20.4分(11C)、109.8分(18F)である。また、特に臨床応用では、崩壊後の娘核が長寿命の放射性同位元素である場合、長期間にわたり体内被曝をすることになり不適切であるが、表3に挙げた核種の娘核はすべて安定同位元素である。
【0091】
「ポジトロン放出率」とは、一崩壊当たりにポジトロンを放出する割合であり、「固有ガンマ線放出率」とは、ポジトロンを放出した後に固有ガンマ線を放出する割合である。これらの「ポジトロン放出率」と「固有ガンマ線の放出率」とについては、一般にはともに高い方が好ましいものの、数値が特段限定されるものではない。現行のPETでのポジトロンの放出率が低い核種(64Cu、17.6%など)の撮像例もあるためである。特に、Bタイプ核種として用いる場合には、陽電子放出後の固有ガンマ線放出確率は高いものが好ましい。なお表3の固有ガンマ線には、陽電子放出後の放出確率が10%以上のものを記載している。
【0092】
「固有ガンマ線のエネルギー」は、ポジトロンの対消滅によるガンマ線511keVと異なることが第一条件である。さらに本実施形態では、固有ガンマ線のエネルギーは511keVより高い方が有利である。これは、511keVより高いエネルギー値をすべて固有ガンマ線とする広いエネルギーウインドウを設定できるためである。ただし、あまりにもエネルギーが高いと検出が難しくなる。また、固有ガンマ線のエネルギーが、1022keV以上となると、電子対生成によりポジトロンが生成するため、このポジトロンの対消滅により511keVの対ガンマ線が発生し、PET撮像のノイズとなる可能性もある。
【0093】
「ポジトロンの(最大)エネルギー」は、ベータ崩壊により放出されるポジトロンのエネルギーである。エネルギーが低いほど、対消滅までにポジトロンの飛ぶ平均距離が短くなり、陽電子放出核と対消滅が生じる位置との間のずれが小さくなる。このため、本実施形態を含むPET装置一般において解像度の面からみると、ポジトロンの(最大)エネルギーは小さいものが有利といえる。しかし、エネルギーが高い核種でも、必要な精度によっては十分に採用することができる。
【0094】
「製造、供給のし易さ」は、端的には、核種を製造するための装置の規模やコストが小さいことである。広く普及させるためには製造や供給が容易な核種が望ましい。具体的には、現在PET装置を設置している医療機関では陽電子放出核を製造するための小型サイクロトロンを保有している。このため、例えばBタイプ核種も小型サイクロトロンによる比較的低いエネルギーの原子核変換によって製造できることが望ましい。また、サイクロトロンによる原子核変換によってBタイプ核種を製造する場合、いくつかの核種が同時に製造されるため、目的の核種だけを単体で取り出し易いものが望ましい。さらには、半減期の比較的長い親核のベータ崩壊によりできる娘核として製造する(ミルキング)核種も、1カ所の施設で親核を製造して各所に分配できるために有用である。表の「小型サイクロトロン」による製造とは、20MeV以下の陽子ビーム(医療用サイクロトロンを想定)による電荷交換反応(14O製造の例として、14N(p,n)14O反応)により製造できるものを意味する。20MeV以上のビームを製造に必要とする核種については、「サイクロトロン等」とした。
【0095】
「薬剤標識のし易さ」は、有機化合物である薬剤を標識することが容易な核種かどうかという観点である。例えば、ハロゲン等化合物をつくり易い元素、もしくは金属であっても、錯体(金属化合物)を形成し易い元素であれば、薬剤を標識することが容易な場合が多い。ただし、化合物をつくりにくい希ガス等であっても、元素単体でプローブとして使用できる場合もある。
【0096】
留意すべき点は、これらの選択基準となる要因は、本実施形態のPET装置をどのように利用するかによって重視される要因やその程度が調整されることである。例えば、表3に明示した22Naについては、半減期が長いため臨床利用には適さないものの、標準線源として普及していることもあり、動物実験やファントムを利用する実験等には有用である。
【0097】
以上に説明した本発明の基本実施形態によれば、PET装置の持つ高い定量性を活かしながら、複数分子同時イメージングを実行することが可能となる。
【0098】
<第1実施形態>
[4 Bタイププローブを複数投与する実施形態]
次に、本発明の第1実施形態として、基本実施形態において説明した基本的な構成のPET装置によって複数のプローブを撮像するより具体的な手法について説明する。第1実施形態は、基本実施形態において説明したBタイププローブを複数用いる上記組合せIを採用する場合の実施形態である。
【0099】
[4−1 動作]
図7は、Bタイププローブを複数投与した場合の本実施形態における処理動作の概要を示す説明図である。本実施形態においては、互いに区別される複数種の上記Bタイププローブを撮像対象に同時に投与し各プローブの分布を識別する。これらの各プローブをプローブB1およびプローブB2、それぞれのプローブの標識に使われる核種をB1核種およびB2核種という。プローブB1およびB2それぞれは、対消滅に続けて、エネルギーE1およびE2の固有ガンマ線を放出するものとする。このため、イメージング処理部30によって得られた計測データを用い、エネルギーE1に関連づけられるデータからプローブB1の分布画像が、また、エネルギーE2に関連づけられるデータからプローブB2の分布画像をそれぞれ再構成する。いずれのエネルギーにも関連づけられないデータは、画像の再構成には利用しない(図7)。
【0100】
第1実施形態においては、図7に示した動作を行なうため、固有ガンマ線のエネルギーが、エネルギーE1であるか、エネルギーE2であるか、または、それらのいずれでもないかをイメージング処理部30(図3および図6(a))によって判定する。このため、Bタイプのプローブを複数投与する本実施形態における振り分け処理は、イメージング処理部30、特にロジック部342において固有ガンマ線のエネルギーに基づく判定を行なうことである。
【0101】
[4−2 プローブ]
B1プローブとB2プローブとしては、典型例では、互いに区別される生体機能が発現する生体領域に集積する(accumulate)ような、つまり、例えば生体内において別々の機序によって別々の組織に集積する性質をもつ互いに別々の薬剤を選択する。これらB1プローブとB2プローブそれぞれを標識するために用いられる核種B1およびB2は、例えば表3に示した核種から互いの固有ガンマ線のエネルギーE1とE2とが区別できる組み合わせを選択する。
【0102】
<第2実施形態>
[5 AタイププローブとBタイププローブを投与する実施形態]
次に、第2実施形態として、基本実施形態において説明したAタイププローブとBタイププローブとを利用する上記組合せIIを採用して複数のプローブを撮像する具体的な手法について説明する。本実施形態についても基本実施形態において説明した基本的な構成の複数分子同時イメージング用PET装置によって撮像を行なう。また、本実施形態は、測定のためにガンマ線のエネルギーを利用しない構成と、利用する構成とによって実施される。以下、まず、両構成に共通する動作とプローブについて説明し(5−1、5−2)、その後、各構成について個別に説明する(5−3、5−4)。
【0103】
[5−1 動作]
図8は、AタイププローブとBタイププローブを投与した場合の本実施形態における処理動作の概要を示す説明図である。本実施形態においては、従来のPET装置で用いられるものと同じプローブすなわちAタイププローブと、固有ガンマ線を放出するBタイププローブとを撮像対象に同時に投与してプローブを識別する。
【0104】
つまり、511keVのエネルギーの一対のガンマ線である対消滅ガンマ線は、AタイププローブとBタイププローブの両者の分布を反映している。対消滅ガンマ線を検出した全イベントのうち、固有ガンマ線の検出と同時計測されたイベントは、Bタイププローブの分布に関連づけられる。これに対し、上記全イベントのうち固有ガンマ線と同時計測されていないと判定されたイベントは、AタイププローブだけではなくBタイププローブの分布をも反映している。これは、Bタイププローブからの固有ガンマ線のすべてが検出される訳ではないためである。
【0105】
このため、イメージング処理部30によって得られた計測データのうち、固有ガンマ線に関連づけられるデータからはBタイププローブの分布画像が、また、固有ガンマ線に関連づけられないデータからは、Aタイププローブの分布画像にBタイププローブの分布画像を重畳した画像が再構成される(図8)。
【0106】
第2実施形態においては、図8に示した動作を行なうため、対消滅ガンマ線の同時計測のタイミングで、同時に、Bタイププローブを示す固有ガンマ線を検出しているかどうかをイメージング処理部30によって判定する。このため、AタイププローブとBタイププローブとを投与する場合の本実施形態においては、イメージング処理部30特にロジック部342によって固有ガンマ線の検出の有無に応じて行なう振り分けが典型的な振り分け処理(図3および図6(b))に対応する処理となる。また、イメージング処理部30(ロジック部342)においては、測定した固有ガンマ線のエネルギーを信号PET1_Dataおよび信号PET2_Dataならびに信号Gamma_Dataから取得して、そのエネルギーの値によって、AタイププローブかBタイププローブかを振り分けることも可能である。測定された固有ガンマ線のエネルギーを利用しない場合について、および利用する場合については後述する(それぞれ、5−3および5−4)。
【0107】
[5−2 プローブ]
本実施形態におけるAタイププローブとしては、従来のPET装置のためのプローブを採用し、Bタイププローブとしては陽電子放出に続けて固有ガンマ線を放出するような核種によって標識されたプローブを採用する。基本実施形態において述べたように、このBタイププローブのための核種としては種々のものを採用することができ、典型的には、表3に例示したいずれかの核種を採用する。また、この際固有ガンマ線のエネルギーは、511keVと区別できるエネルギーであればよい。例えば、固有ガンマ線のエネルギーが511keVより高い核種から選択すれば、511keVより高いエネルギー値をすべて固有ガンマ線とする広いエネルギーウインドウを設定できる利点がある。
【0108】
[5−3 固有ガンマ線のエネルギーを利用しない場合]
図8に示した動作のためには、必ずしも固有ガンマ線のエネルギー値を利用することは要さない。なお、固有ガンマ線検出器20(エネルギー分解型ガンマ線検出器)をこのような目的に利用する際には、必ずしもエネルギーを分解しうる能力が利用されないこともある。エネルギーを利用せずに対消滅ガンマ線と固有ガンマ線の3重の同時計測が行なう場合には、対消滅ガンマ線と固有ガンマ線という3つのガンマ線を生じさせるBタイププローブの性質と、検出器の配置のために、画像にノイズが生じるおそれがある。このノイズとそれに対する対処方法について説明する。
【0109】
[5−3−1 ノイズの発生原因]
図9は、AタイププローブとBタイププローブを投与するプローブの組合せIIの場合において固有ガンマ線のエネルギー値を撮像に利用しない場合におけるノイズの発生原因を説明する図である。特に図9(a)は検出器の配置を示す図であり、図3に示した例えばリング状に配置されているPET検出器10のリングの軸を含む平面において切断した検出器の配置を示す図である。各検出器に描いた黒丸は、検出器においてガンマ線を検出した位置を示している。図9(b)〜図9(d)は、それぞれ、画像再構成に有効なイベントを検出した場合すなわち正しい検出の事象が生じた場合(図9(b))と、画像再構成に有効でないイベントを検出した場合すなわち正しくない検出の事象が生じた場合(図9(c)および(d))の各ガンマ線と各検出器の相互作用の組合せを示している。図9においては、PET検出器10および固有ガンマ線検出器20は、説明に関連するもののみ示している。また、PET検出器10を区別するため、紙面上の上方に記載したものと下方に記載したものを、それぞれ、PET検出器10Aおよび10Bとする。
【0110】
図9(a)に示した配置の検出器それぞれによってガンマ線を検出し、3重の同時計測が行なわれたとする。この場合には、2本の対消滅ガンマ線と1本の固有ガンマ線とが検出されたという蓋然性は十分に高い。しかしその3重の同時計測した検出器とガンマ線の組合せには、次の三つのケースが考えられる。一つは、図9(b)に示したように、固有ガンマ線が、固有ガンマ線検出器20に正しく入射したものである。この場合、対消滅ガンマ線がPET検出器10Aおよび10Bと相互作用し、固有ガンマ線が固有ガンマ線検出器20と相互作用している。これに対して、PET検出器10Aが固有ガンマ線を検出する場合(図9(c))、および、PET検出器10Bが固有ガンマ線を検出する場合(図9(d))には、正しい検出が行なわれていないこととなる。
【0111】
ガンマ線のエネルギー値を利用しない場合、個々の検出器により固有ガンマ線と対消滅ガンマ線を区別することはできないため、3重の同時計測の判定のみで、図9(b)〜図9(d)のいずれの組合せの検出が実際に生じたのかを特定することはできない。その際には、固有ガンマ線検出器20(エネルギー分解型ガンマ線検出器)の出力のうち、ガンマ線の検出のタイミングのみを利用する。そのため、図9(c)や図9(d)のような事象の場合であっても、あたかも図9(a)の事象が生じたかのようにその後の処理が行なわれる。この場合、画像の生成のために利用される二つのPET検出器10Aおよび10Bからの信号には、図9(a)に示した正しい事象に基づく信号と、図9(b)や図9(c)の正しくない事象に基づく信号とが混在することとなる。こうして図9(b)や図9(c)の正しくない事象に基づく信号はノイズとなってしまう。
【0112】
固有ガンマ線と対消滅ガンマ線の放出方向の間に角度相関は存在しないため。前記ノイズは基本的にはランダムに発生する。つまり、固有ガンマ線がPET検出器に入射した場合(図9(c)または図9(d))、PET検出器10Aと10Bを結ぶ直線による位置推定は、ガンマ線の発生した位置とは無関係な位置を与える。したがって、十分な統計量が得られる撮像においては、このようなランダムノイズによる統計的揺らぎの与える画質への影響は小さくなる。しかしながら、この統計的揺らぎは、統計量が十分ではない撮像では画質の劣化をもたらすことになる。その場合には、検出器配置によるノイズの抑制(5−3−2にて後述)、およびエネルギー値による固有ガンマ線の弁別(5−4にて後述)のいずれかまたはその両方を行うことによりノイズを低減することが好ましい。
【0113】
[5−3−2 ノイズを抑制するための検出器配置]
固有ガンマ線検出器20の配置を調整することによって、ガンマ線のエネルギー値を検出しない場合にも前記ノイズを低減させることが可能である。図10は、AタイププローブとBタイププローブを投与するプローブの組合せにおいて固有ガンマ線のエネルギー値を利用せずにノイズを抑制するための検出器配置例を説明する図である。このうち、図10(a)は、PET検出器10と固有ガンマ線検出器20の配置を工夫してノイズを減少させる配置例であり、図10(b)は、そのような工夫をせずノイズが発生する場合の配置例である。FOVは、PET装置の撮像可能な領域として規定される空間範囲である。
【0114】
ここでは、PET検出器10の配置によって定まるFOV内にのみプローブが分布しているとする。FOV内でベータ崩壊が起きた場合でも、図10(b)に示したように、ガンマ線を検出する組合せが、対消滅ガンマ線は固有ガンマ線検出器20とPET検出器10B、そして、固有ガンマ線はPET検出器10Aとなることがある。この図10(b)に示した事象を画像再構成に用いると、対消滅ガンマ線が発生した正しい位置を与えないため画像ノイズとなる。これに対し、図10(a)のように固有ガンマ線検出器20の配置を工夫すると、そのノイズの影響を抑制することが可能となる。つまり、固有ガンマ線検出器とPET検出器を結ぶ直線がFOVを通過しないようにすることにより、180度反対方向に放出される2本の対消滅ガンマ線が固有ガンマ線検出器に入射しない配置とするのである。
【0115】
この配置は、固有ガンマ線検出器20の各領域とPET検出器10の各領域の間を結ぶ仮想の直線群によって規定することが可能である。図10(a)に示した上記ノイズを減らすための固有ガンマ線検出器20の配置の工夫は、その直線群に含まれる直線のうち、FOVを横切る本数を可能な限り少なくすることと同じである。最も好ましくは、その直線群にはFOVを横切る直線が1本たりとも含まれないようにすることである。つまり、上記配置の工夫においては、FOVを通過しない直線を与える位置に配置した固有ガンマ線検出器とPET検出器の組み合わせのみを、Bタイププローブの撮像に採用することも可能である。固有ガンマ線検出器20の配置をこのように調整することにより、PET検出器に固有ガンマ線が入射することによるノイズを効果的に抑制することが可能である。
【0116】
なお、実際のプローブの分布はFOV内のみに限られるものではない。FOV外にもプローブが分布している場合には、上記配置の工夫に加え、(2−3)にて上述したシールドを利用することにより、ノイズを減少させることが可能である。これは、FOV外から固有ガンマ線検出器入射するガンマ線をシールドすることは、そのまま上記、図9(b)や図9(c)の正しくない事象を排除することになり、ノイズを抑制することになるためである。
【0117】
[5−4 固有ガンマ線のエネルギーを利用する場合]
図9(b)の正しい検出の事象と、図9(c)や図9(d)のようなノイズをもたらす事象とは、固有ガンマ線検出器20によって検出したガンマ線のエネルギー値によっても区別できる。固有ガンマ線検出器20により検出したガンマ線が、Bタイププローブによる固有ガンマ線のエネルギー値であるか、対消滅ガンマ線のエネルギー値であるかを判定するのである。固有ガンマ線検出器で検出したガンマ線が固有ガンマ線であると確定すると、必然的にPET検出器で検出したガンマ線は対消滅ガンマ線となるので、画像再構成に用いるイベントを図9(b)の正しいものに限定できる。このようにして、正しいイベントのみを画像再構成に使うことにより、上述したノイズを抑制できる。
【0118】
なお、検出器のエネルギー分解精度の限界により対消滅ガンマ線と固有ガンマ線の弁別が不完全である場合などは、前述の検出器配置の工夫によるノイズ抑止とエネルギー値による弁別を組み合わせることに画像再構成に有効な事象の抽出精度を向上することができる。
【0119】
<実施例>
上述した各実施形態の有用性を検証するために、第2実施形態の実施例として、モンテカルロ法による数値計算シミュレーションを行なった。
【0120】
[6 シミュレーションによる検証例]
数値計算シミュレーションはモンテカルロ法による。また、シミュレーションのためのプログラムコードとして、放射線と物質の相互作用をシミュレートする汎用ツールである「Geant4」を使用した。なお、Geant4は、http://www.geant4.org/geant4/から入手可能である。
【0121】
[6−1 シミュレーション条件]
数値計算によるシミュレーションのために計算機上にて再現した設定条件は、下記の通りとした。
(PET検出器10(図3))
・PET検出器の配置(概要):小動物用PET装置(ドイツ・Siemens社製Focus220)を模擬する配置
・PET検出器の種類:LSOシンチレーター4mm×4mm、厚さ10mm
・リング円周方向624台×リング幅方向52台
・リング内径260mm、リング幅76mm
(固有ガンマ線検出器20(図3))
・ゲルマニウム半導体検出器、40mm×40mm、厚さ20mm
・32台(16台のリング2つ)、リング内径250mm
(ファントム形状(図11))
・Aタイプの核種とBタイプの核種を、それぞれ半径20mmの球体に一様分布させた
・球体の重なり:20mm
・Aタイプ核種:18
・Bタイプ核種:94mTcを使用(ガンマ線放出率94.2%、エネルギー871.1keV)
・全イベント数:4×10(Aタイプ、Bタイプ、それぞれ2×10イベント)
・動作:専用動作
(画像再構成法)
・3次元OSEM(ordered subset estimation maximization maximum likelihood)法
【0122】
一般に、ファントムとは、生物等の撮像対象の代わりに較正等に利用するもので、プローブを既知の形状や放射能に配置することができる人工物を指している。ただし、数値シミュレーションにおいては、計算機内構築したプローブの仮想的な空間分布をファントムと呼ぶ。図11は本数値計算シミュレーションの撮像対象となるプローブ分布を与えるファントムの形状を示す模式図である。
【0123】
また、シミュレーションに用いた上記イベント数は、プローブからのポジトロン放出数によって規定する繰り返し数であり、AタイプとBタイプそれぞれ2MBqの放射能で1000秒間撮像した場合に相当する。ただしポジトロンの放出率は100%としている。また、ハードウェア処理による不感時間、放射能の減衰はいずれも考慮していない。動作を専用動作としたため、PET検出器を利用した固有ガンマ線の検出は行わない状況を計算している。さらに、固有ガンマ線を対消滅ガンマ線からエネルギーによって分離するための条件として、固有ガンマ線検出器で検出したエネルギー520keV以上のガンマ線をすべて固有ガンマ線とみなす条件を採用した。
【0124】
[6−2 シミュレーション結果]
上記各条件の下でモンテカルロシミュレーションを実行した結果、まず、固有ガンマ線検出器1台当たりの計数率については、AタイプとBタイプ合わせて4MBqの放射能の場合6.6×10カウント/秒(エネルギー値によらないすべてのイベント)であり、高速な信号処理装置を採用すれば十分に取扱い可能な範囲の計数率に収まっていた。また、AおよびBタイプ両方の核種からの対消滅ガンマ線のPET検出器による総検出数に対する固有ガンマ線検出率は、3.9%であった。この値の算出には固有ガンマ線放出確率も反映されている。
【0125】
上述したファントムを撮像対象としたシミュレーションデータから0.8mmボクセルの3D画像を再構成した。図12は、AタイプおよびBタイプのプローブが分布する両方の球の中心を通過し、かつPET検出器群の対称軸に垂直な断面のプロファイルである。図12(a)は、本シミュレーションにおいて固有ガンマ線検出器20によって固有ガンマ線を検出していない対消滅イベントのみから再構成した像の2次元および1次元の放射能プロファイルである。図12(a)上方に示すように、固有ガンマ線を検出していない対消滅イベントによる像は、球体の断面である円形のAタイププローブの分布像と、同様に円形のBタイププローブの分布像とが、ファントムの配置を反映するように中心を互いにずらして重畳している像として再構成された。図12(a)下方の1次元放射能プロファイルは、両プローブの分布の中心を通過する直線上の放射能を縦軸にとり描いてある。図12(a)の1次元プロファイルは、上記揺らぎを除き、各プローブからの放射能が一様な放射能の強度として観測されることを示している。また、図12(a)の1次元プロファイルは、両プローブの重なりの部分において各プローブからの放射能の合計が観測されることをも示している。
【0126】
また、図12(b)は、本シミュレーションにおいて固有ガンマ線検出器20による固有ガンマ線の検出を伴う対消滅イベントから再構成された像の2次元および1次元放射能プロファイルである。図12(b)上方に示すように、固有ガンマ線が検出される対消滅イベントによる2次元プロファイルは、Aタイププローブの分布は影響せず、Bタイププローブの分布像のみとなる。また、図12(b)下方に示す放射能1次元プロファイルは、上記揺らぎを除いてBタイププローブの一様な放射能の強度が観測されること、および、その際にAタイププローブの影響が見られないことを示している。
【0127】
この図12により、第2実施形態において有限なイベント数による画像推定では不可避な統計的揺らぎが表れているものの、AタイププローブとBタイププローブの画像が別々に再構成できることが確認できた。
【0128】
なお、図12(a)の固有ガンマ線が検出されていない対消滅イベントによる像にBタイププローブの分布が反映している理由は、Bタイプ核種から固有ガンマ線が94.2%の確率で放出されているにもかかわらず、固有ガンマ線検出器20によってその固有ガンマ線を検出していない、いわば固有ガンマ線の検出漏れのイベントが、Aタイププローブによる対消滅ガンマ線とともに再構成されているためである。この固有ガンマ線の検出漏れは、固有ガンマ線検出器20の群が撮像対象物に対して張る(subtend)立体角の総和を大きくすることなどによって軽減することが可能である。ただし、立体角の総和を増大させるために固有ガンマ線検出器20の数を増加させると撮像対象物やPET検出器10と物理的に干渉しかねない。このため、固有ガンマ線検出器20の群の配置やサイズを決定するためには、実用面における各種の条件が勘案される。
【0129】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の各実施形態および実施例は、発明を説明するために記載したものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、PET装置において、複数のプローブを互いに区別してイメージングすることが可能となる。これにより、高精度の複数分子同時イメージングが実現され、核医学の診断装置または分子イメージング研究用装置の普及に貢献する。
【符号の説明】
【0131】
100 複数分子同時イメージング用PET装置
10 PET検出器(PET用ガンマ線検出器、エネルギー分解型ガンマ線検出器)
20 固有ガンマ線検出器(エネルギー分解型ガンマ線検出器)
22、24 外側面
30 イメージング処理部
32 同時計測判定部
322 ロジック部
324 ゲート部
34 データ振り分け部
342 ロジック部
36 画像再構成部
362、364 画像再構成処理部
612、614、622、624 AND
616、626、628 ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に第1エネルギーの固有ガンマ線を放出する核種を含む第1プローブと、ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に第2エネルギーの固有ガンマ線を放出する核種を含む第2プローブとの双方が投与されている撮像対象から、陽電子と電子の対消滅により発生する一対の対消滅ガンマ線を受けるようになっているPET用ガンマ線検出器の群と、
いずれかの前記固有ガンマ線を検出するようになっており、前記第1エネルギーと前記第2エネルギーとを分解するエネルギー分解型ガンマ線検出器と、
該PET用ガンマ線検出器の群に属する一対のPET用ガンマ線検出器による同時計測により得られる対消滅検出信号と、前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの信号との双方を受信し、前記対消滅ガンマ線の検出から所定の時間内に検出された固有ガンマ線のエネルギーが前記第1のエネルギーであるか前記第2のエネルギーであるかに応じ、前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するイメージング処理部と
を備える
複数プローブをイメージングするためのPET装置。
【請求項2】
ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に固有ガンマ線を放出する核種を含む第1プローブと、ベータ崩壊によって主に娘核の基底状態となる陽電子放出核を含むPET用プローブとの双方が投与されている撮像対象から、陽電子と電子の対消滅により発生する一対の対消滅ガンマ線を受けるようになっているPET用ガンマ線検出器の群と、
前記第1プローブから放出される前記固有ガンマ線を受けるようになっているエネルギー分解型ガンマ線検出器と、
該PET用ガンマ線検出器の群に属する一対のPET用ガンマ線検出器による同時計測により得られる対消滅検出信号と、前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの信号との双方を受信し、前記対消滅ガンマ線の検出と固有ガンマ線の検出とが所定の時間内に生じたかどうかに応じ、前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するイメージング処理部と
を備える
複数プローブをイメージングするためのPET装置。
【請求項3】
前記イメージング処理部が、
受信した前記対消滅検出信号と前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの前記信号とに含まれているガンマ線のエネルギー値にさらに応じて前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するものである
請求項2に記載のPET装置。
【請求項4】
前記イメージング処理部が、
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの前記所定の時間内の対消滅検出信号のうち前記固有ガンマ線の検出を伴っていない事象に基づいて前記第1プローブと前記PET用プローブとのうちのいずれかであることを示す一の分布像を再構成処理し、
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの前記所定の時間内の対消滅検出信号のうち前記固有ガンマ線の検出を伴っている事象に基づいて前記第1プローブの他の分布像を再構成処理する
ものである
請求項2または請求項3に記載のPET装置。
【請求項5】
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器として機能するガンマ線検出器が、対消滅ガンマ線を受けるようになっている前記PET用ガンマ線検出器の群とは別に設けられたガンマ線検出器である
請求項1または請求項2に記載のPET装置。
【請求項6】
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器として機能するガンマ線検出器が、対消滅ガンマ線を受けるようになっている前記PET用ガンマ線検出器の群をなす少なくとも一のガンマ線検出器である
請求項1または請求項2に記載のPET装置。
【請求項7】
前記PET用ガンマ線検出器の群がシンチレーション検出器の群である
請求項1または請求項2に記載のPET装置。
【請求項8】
前記PET用ガンマ線検出器の群が半導体ガンマ線検出器の群である
請求項1または請求項2に記載のPET装置。
【請求項9】
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器がシンチレーション検出器である
請求項1または請求項2に記載のPET装置。
【請求項10】
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器が半導体ガンマ線検出器である
請求項1または請求項2に記載のPET装置。
【請求項11】
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器が、前記PET検出器の群によるフィールド・オブ・ビューの外部からのガンマ線を遮るシールドを備えている
請求項1または請求項2に記載のPET装置。
【請求項12】
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器の配置は、各エネルギー分解型ガンマ線検出器と各PET検出器とを結ぶ直線が、前記PET検出器の群によるフィールド・オブ・ビューを通過しないような配置である
請求項1または請求項2に記載のPET装置。
【請求項13】
ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に第1エネルギーの固有ガンマ線を放出する核種を含む第1プローブと、ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に第2エネルギーの固有ガンマ線を放出する核種を含む第2プローブとの双方が投与されている撮像対象から、陽電子と電子の対消滅により発生する一対の対消滅ガンマ線をPET用ガンマ線検出器の群により同時計測するステップと、
いずれかの前記固有ガンマ線を検出するようになっており、前記第1エネルギーと前記第2エネルギーとを分解するエネルギー分解型ガンマ線検出器により計測するステップと、
前記PET用ガンマ線検出器の群に属する一対のPET用ガンマ線検出器による同時計測により得られる対消滅検出信号と、前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの信号との双方を受信し、前記対消滅ガンマ線の検出から所定の時間内に検出された固有ガンマ線のエネルギーが前記第1のエネルギーであるか前記第2のエネルギーであるかに応じ、前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するイメージング処理ステップと
を含む
PET装置における複数プローブのイメージング方法。
【請求項14】
ベータ崩壊によって娘核の励起状態となり、当該ベータ崩壊による陽電子放出に続けて娘核の基底状態に遷移する際に固有ガンマ線を放出する核種を含む第1プローブと、ベータ崩壊によって主に娘核の基底状態となる陽電子放出核を含むPET用プローブとの双方が投与されている撮像対象から、陽電子と電子の対消滅により発生する一対の対消滅ガンマ線をPET用ガンマ線検出器の群により同時計測するステップと、
前記第1プローブから放出される前記固有ガンマ線をエネルギー分解型ガンマ線検出器により計測するステップと、
前記PET用ガンマ線検出器の群に属する一対のPET用ガンマ線検出器による同時計測により得られる対消滅検出信号と、前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの信号との双方を受信し、前記対消滅ガンマ線の検出と固有ガンマ線の検出とが所定の時間内に生じたかどうかに応じ、前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するイメージング処理ステップと
を含む
PET装置における複数プローブのイメージング方法。
【請求項15】
前記イメージング処理ステップが、受信した前記対消滅検出信号と前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの前記信号とに含まれているガンマ線のエネルギー値にさらに応じて前記対消滅検出信号から画像の再構成処理を区別して実行するものである
請求項14に記載の複数プローブのイメージング方法。
【請求項16】
前記イメージング処理ステップが、
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの前記所定の時間内の対消滅検出信号のうち前記固有ガンマ線の検出を伴っていない事象に基づいて、前記第1プローブと前記PET用プローブとのうちの少なくともいずれかの分布像を再構成処理するステップと、
前記エネルギー分解型ガンマ線検出器からの前記所定の時間内の対消滅検出信号のうち前記固有ガンマ線の検出を伴っている事象に基づいて、前記第1プローブの分布像を再構成処理するステップと
を含むものである
請求項14または請求項15に記載のイメージング方法。
【請求項17】
前記第1プローブの前記核種と、前記第2プローブの前記核種とが、それぞれ、14O、38K、44Sc、48V、52mMn、60Cu、76Br、82Rb、94mTc、124I、および22Naからなる核種の群から選択される一の核種と他の核種とである
請求項13に記載のイメージング方法。
【請求項18】
前記第1プローブの前記核種が、14O、38K、44Sc、48V、52mMn、60Cu、76Br、82Rb、94mTc、124I、および22Naからなる核種の群から選択される一の核種である
請求項14に記載のイメージング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−33001(P2013−33001A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169839(P2011−169839)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】