説明

PIN−PRC移行遺伝子

本明細書には前立腺癌(PRC)を発症する素因を診断するための客観的な方法が記載されている。1つの態様において、本診断方法は、PRCとPINとを識別するPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む。本発明はさらに、PRCの治療に有用な治療薬に関するスクリーニング方法、PRCの治療方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、前立腺癌(PRC)を発症する素因の検出および診断の方法、ならびに前立腺癌の治療および予防の方法に関する。
【0002】
本出願は、2004年2月27日に提出された米国仮特許出願第60/548,335号の恩典を主張し、その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景技術
前立腺癌(PRC)は、男性において最も頻度の高い悪性腫瘍の一つであり、米国および欧州では癌関連死の2番目の原因である(Gronberg et al., 2003)。血清中の前立腺特異抗原(PSA)の検査によって初期のPRCを検出することができ、これは現在、高リスク集団におけるPRCのスクリーニングのための判断基準となっている。
【0004】
先進国における前立腺癌の発生率は、欧米風の食事の普及および高齢者人口の増加に応じて、着々と増加している。前立腺特異抗原(PSA)に関する血清検査による早期診断は治効のある手術の機会を提供し、前立腺癌の予後を著しく改善しているが、根治的前立腺切除術による治療を受けた患者の30%までで、癌が再発している(Han et al., 2001)。前立腺癌の増殖は初めのうちアンドロゲン依存性であるため、ほとんどの再発癌または進行癌はアンドロゲン除去療法に反応する。しかしながら、それらは最終的にはアンドロゲン非依存的な疾患に進行し、その時点ではそれらはもはやアンドロゲン除去療法には反応しない。前立腺癌の最も深刻な臨床的問題はアンドロゲン非依存的な前立腺癌が他のいかなる治療法にも反応しないことであり(Gronberg, 2003)、前立腺癌に対するアンドロゲン除去療法以外の新たな治療法を確立することは、前立腺癌の対応のための緊急課題となっている。
【0005】
高度前立腺上皮内腫瘍(PIN)は、浸潤性PRCに進行する可能性のある、腺房の基底膜の浸潤を伴わない主な前癌病変として広く受け入れられている(McNeal and Bostwick et al. 1986、DeMarzo et al. 2003、Abate-Shen et al. 2000、Montironi et al. 2002)。PINは血清中PSA濃度を有意に上昇させず、かつ超音波で検出され得ない。
【0006】
高度PINはPRCのマーカーとして高い的中率を有し、その同定は、同時併発性または後発性の浸潤性PRCについての反復的な生検の根拠となる。この微細な病変を確認し得るのは前立腺針生検のみであり、その同定は、同時併発性または後発性の浸潤性PRCについて調べるために反復的な生検を行う理由となる(Bostwick 2000)。任意の共存する前立腺癌を除外するため飽和前立腺生検を実施し、その後に3〜6カ月毎に反復的な前立腺生検を行うことが、高度PINを有することが見いだされた患者を管理するための現時点での唯一の方法である。しかしながら、この診断の信頼性は、前立腺針生検の手技、組織学的処理、および、検査を行う病理医の経験に大きく依存する(van der Kwast et al. 2003)。彼らはPRC由来のPRC病変を完全に識別することはできず、またPINを有する高リスクの人々の中から浸潤性PRCを有する患者を特定することもできない。
【0007】
このため、PINおよびPRCの正確な同定、ならびにPINを介する前立腺発癌現象の理解が、浸潤性PRCの診断および患者管理における誤りを回避するために重要である(Steiner 2001)。しかしながら、PINの自然歴およびPINからPRCへの推定的移行の分子機構は不明なままであり、PRCを伴わないこれらのPIN病変を治療すべきか否かについても未だに議論がある。
【0008】
cDNAマイクロアレイ技術によって、正常および悪性細胞における包括的遺伝子発現プロファイルを得て、悪性細胞および対応する正常細胞における遺伝子発現を比較することが可能となった(Okabe et al., Cancer Res. 61:2129-37(2001);Kitahara et al., Cancer Res. 61:3544-9(2001);Lin et al., Oncogene 21:4120-8(2002);Hasegawa et al., Cancer Res. 62:7012-7(2002))。このアプローチにより、癌細胞の複雑な特性を明らかにすることが可能となり、これは発癌現象の機構を理解するために役立つ。腫瘍において脱制御される遺伝子を同定することによって、個々の癌のより精密で正確な診断を得ることができ、新規治療標的を開発することができる(Bienz and Clevers、Cell 103:311-20(2000))。ゲノム全体での観点から腫瘍形成機構を明らかにするため、かつ新規治療薬を診断および開発するための標的分子を発見するために、本発明者らは、遺伝子23,040個のcDNAマイクロアレイを用いて腫瘍細胞の発現プロファイルを解析している(Okabe et al., Cancer Res. 61:2129-37(2001);Kitahara et al., Cancer Res. 61:3544-9(2001);Lin et al., Oncogene 21:4120-8(2002);Hasegawa et al., Cancer Res. 62:7012-7(2002))。
【0009】
発癌現象の機構を解明することを目的とした研究によって、抗腫瘍薬剤の分子標的の同定が既に促進されている。例えば、Rasに関連する増殖-シグナル伝達経路を阻害するように当初開発されたファルネシルトランスフェラーゼ阻害因子(FTI)(この活性は翻訳後のファルネシル化に依存する)は、動物モデルにおいてRas依存的腫瘍を治療するために有効である(He et al., Cell 99:335-45(1999))。抗癌剤と、原癌遺伝子受容体HER2/neuに拮抗するための抗HER-2モノクローナル抗体であるトラスツズマブとの併用によるヒトに対する臨床試験が実施されており、乳癌患者の臨床応答および総生存率の改善が得られている(Lin et al., Cancer Res. 61:6345-9(2001))。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼ阻害因子STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たしている、慢性骨髄性白血病を治療するために開発されている。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(Fujita et al., Cancer Res. 61:7722-6(2001))。したがって、癌性細胞において一般的にアップレギュレートされている遺伝子産物は、新規抗癌剤を開発するための有望な標的として役立つ可能性がある。
【0010】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)由来のエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することが証明されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的アプローチを用いて他にも多くのTAAが発見されている(Boon、Int. J. Cancer 54:177-80(1993);Boon and van der Bruggen、J. Exp. Med. 183:725-9(1996);van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991);Brichard et al., J. Exp. Med.178:489-95(1993);Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994))。発見されたTAAのいくつかは、現在免疫治療の標的として臨床開発段階にある。これまで発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991))、gp100(Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994))、SART(Shichijo et al., J. Exp. Med. 187:277-88(1998)、およびNY-ESO-1(Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8(1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特に過剰発現されることが示されている遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umano et al., Brit. J. Cancer 84:1052-7(2001))、HER2/neu(Tanaka et al., Brit. J. Cancer 84:94-9(2001))、CEA(Nukaya et al., Int. J. Cancer 80:92-7(1999))等が含まれる。
【0011】
TAAに関する基礎および臨床研究における著しい進歩にも関わらず(Rosenberg et al., Nature Med. 4:321-7(1998);Mukherji et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:8078-82(1995);Hu et al., Cancer Res. 56:2479-83(1996))、腺癌の治療に利用できるのは、ごく限られた数の候補TAAに過ぎない。癌細胞において豊富に発現されると共にその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫療法の標的として有望な候補薬剤となるであろう。さらに、強力で特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAが同定されれば、様々なタイプの癌におけるペプチドワクチン法の臨床利用を促進することが期待される(Boon and van der Bruggen、J. Exp. Med. 183:725-9(1996);van der Bruggen et al., Science 254:1643-7(1991);Brichard et al., J. Exp. Med.178:489-95(1993);Kawakami et al., J. Exp. Med. 180:347-52(1994);Shichijo et al., J. Exp. Med. 187:277-88(1998);Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1914-8(1997);Harris、J. Natl. Cancer Inst. 88:1442-5(1996);Butterfield et al., Cancer Res. 59:3134-42(1999);Vissers et al., Cancer Res. 59:5554-9(1999);van der Burg et al., J. Immunol. 156:3308-14(1996);Tanaka et al., Cancer Res. 57:4465-8(1997);Fujie et al., Int. J. Cancer 80:169-72(1999);Kikuchi et al., Int. J. Cancer 81:459-66(1999);Oiso et al., Int. J. Cancer 81:387-94(1999))。
【0012】
特定の健康なドナー由来のペプチド刺激された末梢血単核細胞(PBMC)は、ペプチドに応答して著しいレベルのIFN-γを産生するが、51Cr-放出アッセイ法においてHLA-A24または-A0201制限的に腫瘍細胞に対して細胞障害性を発揮することはまれであることは、繰り返し報告されている(Kawano et al., Cancer Res. 60:3550-8(2000);Nishizaka et al., Cancer Res. 60:4830-7(2000);Tamura et al., Jpn. J. Cancer Res. 92:762-7(2001))。しかしながら、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも、白人のみならず、日本人における一般的なHLA対立遺伝子の一つである(Date et al., Tissue Antigens 47:93-101(1996);Kondo et al., J. Immunol. 155:4307-12(1995);Kubo et al., J. Immunol. 152:3913-24(1994);Imanishi et al., 「Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference」、オックスフォード大学出版、オックスフォード、1065(1992);Williams et al., Tissue Antigen 49:129(1997))。このように、これらのHLAによって提示される癌の抗原性ペプチドは、日本人および白人における癌の治療において特に有用となる可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は、通常、高濃度のペプチドの使用によって、高レベルの特異的なペプチド/MHC複合体を、CTLを効果的に活性化する抗原提示細胞(APC)上に生成する結果であろうことは公知である(Alexander-Miller et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:4102-7(1996))。
【発明の開示】
【0013】
発明の概要
PINから浸潤性PRCへの推定的移行に関与する分子機構の特性を明らかにするため、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)と、23,040種の遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを併用することにより、20例のPRCおよび10例の高度PIN由来の癌細胞の遺伝子発現プロファイルを分析した。レーザーマイクロダイセクションを用いて純粋に選択された診断上のPRC患者由来の癌細胞とPIN細胞との間の発現パターンを比較することにより、40種の遺伝子がPIN細胞と比較してPRC細胞においてアップレギュレートされるものとして同定され、かつ98種の遺伝子がPIN細胞と比較してPRC細胞においてダウンレギュレートされるものとして同定された。さらに、患者の血清中または喀痰中の癌関連タンパク質を検出する可能性のある候補分子マーカーの選択を行い、かつヒトPRCにおけるシグナル抑制方法の開発のための有望な標的をいくつか発見した。
【0014】
レーザーマイクロダイセクションは純粋な細胞集団を単離することを可能にし、正確な評価を可能にする(Emmert-Buck et al., 1996)。ひとたびPRCを伴わない単離された高度PINが同定されれば、高度PINの治療には臨床的有益性があるように思われ、かつPINから浸潤性PRCへの移行の防止は罹患率を低下させ、生活の質を高め、手術または放射線療法を延期させ、かつ侵襲性処置を必要とするサーベイランスの間隔を広げると考えられる(Steiner et al. 2001、Nelson et al. 2001、Montironi et al. 2002)。これらのデータは前立腺発癌現象に関する重要な情報を提供し、その産物がPRCの治療および予防のための薬剤設計の標的となり得る候補遺伝子を同定するために非常に有用であると考えられる。
【0015】
本発明は、PRCおよびPINに相関する遺伝子発現パターンの発見に基づく。PINと比較してPRCで差次的に発現される遺伝子は、本明細書において「PRC核酸」または「PRCポリヌクレオチド」と総称され、対応するコードされたポリペプチドは「PRCポリペプチド」または「PRCタンパク質」と呼ばれる。
【0016】
したがって、本発明は、組織試料などの患者由来の生物試料におけるPRC関連遺伝子の発現レベルを測定することによる、対象におけるPRCを発症する素因の診断または判定の方法を特徴とする。PRC関連遺伝子とは、PIN細胞と比較してPRC細胞において発現レベルが異なることにより特徴付けられる遺伝子を意味する。PRC関連遺伝子には、例えば、PRC 1〜138が含まれる。その遺伝子の発現レベルが、PINにおけるその遺伝子の発現レベルと比較して、例えば上昇または低下など変化していることは、対象がPRCを発症するリスクを有することを示唆する。
【0017】
本発明の文脈において、「対照レベル」という語句は、対照試料において検出されるタンパク質発現レベルを指し、正常対照レベルおよび前立腺癌対照レベルの両方を含む。対照レベルは、単一の参照集団由来の、または複数の発現パターン由来の単一の発現パターンであり得る。例えば、対照レベルが、以前に検査した細胞由来の発現パターンのデータベースであってもよい。「正常対照レベル」とは、正常で健康な個体において、または前立腺癌に罹患していないことが判明している個体の集団において検出される遺伝子の発現レベルを指す。正常個体とは、PRCおよびPINの臨床症状を伴わない個体である。これに対して、「PRC対照レベル」とは、PRCに罹患した集団で見出されるPRC関連遺伝子の発現プロファイルを指す。
【0018】
被験試料中に検出される1つまたは複数のPRC 1〜40の発現レベルがPINにおけるレベルと比較して上昇していることにより、(取得した試料が由来する)対象がPRCに罹患しているか、またはPRCを発症するリスクを有することが示唆される。一方、被験試料中に検出される1つまたは複数のPRC 41〜138の発現レベルがPINにおけるレベルと比較して低下していることにより、対象がPRCに罹患しているか、またはPRCを発症するリスクを有することが示唆される。
【0019】
または、試料における一群のPRC関連遺伝子の発現を、同じ遺伝子群のPRCレベルと比較することができる。試料における発現およびPRC対照における発現との間の類似性は、(取得した試料が由来する)対象がPRCに罹患しているか、またはPRCを発症するリスクを有することを示唆する。PRCレベルとは、PRCに罹患した集団で見出されるPRC関連遺伝子の発現プロファイルを意味する。
【0020】
本発明によれば、遺伝子発現レベルは、PINにおけるレベルと比較して10%、25%、50%上昇または低下した場合に「変化した」と考えられる。または、遺伝子発現を、PINにおけるレベルと比較して1倍、2倍、5倍もしくはそれ以上上昇または低下した場合に、変化していると考えられ得る。発現は、例えばアレイ上で、PRC関連遺伝子プローブと患者由来の組織試料の遺伝子転写物とのハイブリダイゼーションを検出することによって決定される。
【0021】
本発明の文脈において、患者由来の組織試料は、被験対象、例えば、PRCを有することが判明しているか、またはその疑いがある患者から得られる任意の組織である。例えば、組織には上皮細胞が含まれてもよい。より詳細には、組織は前立腺組織由来の上皮細胞であってもよい。
【0022】
本発明は、PRC 1〜138を用いて、PRCをPINと識別するため、および悪性PRC細胞を高感度で検出するための方法を提供する。特に、APODは、PRCを高度PINと識別するための特異的マーカーとして有用である。
【0023】
本発明はまた、PRC 1〜138のうち2つまたはそれ以上の遺伝子発現レベルを含む、PRC参照発現プロファイルも提供する。または、本発明は、PRC 1〜40またはPRC 41〜138のうち2つまたはそれ以上の発現レベルを含み得る、PRC参照発現プロファイルを提供する。
【0024】
本発明はさらに、PRC関連遺伝子を発現する被験細胞を被験作用因子と接触させ、およびPRC関連遺伝子の発現レベルもしくは活性、またはその遺伝子産物の生物活性を測定することにより、PRC関連遺伝子、例えば、PRC 1〜138の発現もしくは活性を阻害または増強する作用因子の同定方法を提供する。被験細胞は、前立腺組織から得られた上皮細胞などの上皮細胞であってよい。PRC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の生物活性が、PRCにおけるアップレギュレートされたマーカー遺伝子または遺伝子産物のそれと比較して低下していることにより、被験作用因子がPRC関連遺伝子の発現または機能の阻害因子であり、かつ例えば1つまたは複数のPRC 1〜40の発現といったPRCの症状を軽減するために用い得ることが示唆される。または、PRC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の生物活性が、PRCにおけるダウンレギュレートされたマーカー遺伝子または遺伝子産物のそれと比較して上昇していることにより、被験作用因子がPRC関連遺伝子の発現または機能のエンハンサーであり、かつ例えば1つまたは複数のPRC 41〜138の発現といったPRCの症状を軽減するために用いられ得ることが示唆される。さらに、作用因子の存在下における発現レベルまたは生物活性が被験作用因子の非存在下におけるそれと比較して低下していることにより、作用因子がPRC関連アップレギュレート遺伝子の阻害因子であり、かつPRCの抑制に有用であることが示唆される。または、PRC関連遺伝子の発現レベルまたは生物活性が被験作用因子の非存在下におけるそれと比較して上昇していることにより、作用因子がダウンレギュレートされたPRC関連遺伝子の発現または活性を増強することが示唆される。
【0025】
本発明はまた、2つもしくはそれ以上のPRCポリヌクレオチドまたはPRCポリペプチドと結合する検出用試薬を含むキットを提供する。2つまたはそれ以上のPRC核酸と結合する核酸のアレイもまた提供される。
【0026】
悪性形質転換と関連性のある遺伝子のリストはまた、PRCの形質転換に対する新規な化学予防薬を確立するために必須の多くの情報も提供し得、かつこれらの化学予防薬は、選択されたPRCの高リスク集団、すなわち高度PINを有する集団に対して、PRCの治療または予防を目的として効果的に処置され得ると考えられる。
【0027】
本発明の治療方法には、アンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む、対象におけるPRCを治療または予防する方法が含まれる。本発明の文脈において、アンチセンス組成物は標的遺伝子の発現を特異的に低下させる。例えば、アンチセンス組成物は、PRC 1〜40からなる群より選択されるPRC関連遺伝子配列に対して相補的なヌクレオチドを含み得る。または、本方法が、低分子干渉RNA(siRNA)組成物を対象に投与する段階を含んでもよい。本発明の文脈において、siRNA組成物は、PRC 1〜40からなる群より選択されるPRC核酸の発現を低下させる。さらにもう1つの方法において、対象におけるPRCの治療または予防は、リボザイム組成物を対象に投与することによって実施されてもよい。本発明の文脈において、核酸特異的なリボザイム組成物は、PRC 1〜40からなる群より選択されるPRC核酸の発現を低下させる。その他の治療方法には、PRC 41〜138のうち1つまたは複数の発現、またはPRC 41〜138のうち1つもしくは複数によってコードされるポリペプチドの活性を上昇させる化合物を対象に投与する方法が含まれる。さらに、PRC 41〜138によってコードされるタンパク質を投与することによってPRCを治療することもできる。タンパク質は患者に直接投与してもよく、または、例えば目的のダウンレギュレートされたマーカー遺伝子を有する発現ベクターもしくは宿主細胞を投与することにより、患者に導入した後にインビボで発現させてもよい。目的の遺伝子のインビボ発現に適した機構は当技術分野で公知である。
【0028】
本発明はまた、ワクチンおよびワクチン接種方法も含む。例えば、対象におけるPRCを治療または予防する方法が、PRC 1〜40からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、またはこのようなポリペプチドの免疫活性断片を含むワクチンを対象に投与する段階を含んでもよい。本発明の文脈において、免疫活性断片とは、完全長の天然タンパク質よりも長さは短いものの、完全長タンパク質によって誘導されるものに類似した免疫応答を誘導するポリペプチドである。例えば、免疫活性断片は、少なくとも8残基長であってT細胞またはB細胞などの免疫細胞を刺激し得るものであるべきである。免疫細胞の刺激は、細胞増殖、サイトカイン(例えば、IL-2)の合成、または抗体の産生を検出することによって測定可能である。
【0029】
特に定義していなければ、本明細書において用いた科学技術用語は全て、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記述の方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本発明の実践または試験において用いることができるが、適した方法および材料を下記に記述する。本明細書において言及した全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および例は、説明するためのみであり、制限することを意図しない。
【0030】
本明細書に記述の方法の一つの長所は、明白な臨床症状を検出する前に疾患が同定されることである。本発明のその他の特徴および長所は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【0031】
発明の開示
本明細書で用いる場合、「1つの(a)、(an)」および「その(the)」という単語は、別に特記しない限り、「少なくとも1つの」を意味する。
【0032】
本発明は、一部には、正常上皮細胞、およびPRCを有することが判明しているか、または疑われる患者のPIN細胞の間で多数の核酸の発現パターンが変化しているという発見に基づく。さらに、本発明は、一部には、正常上皮細胞、およびPRCを有する患者の癌腫の間で多数の核酸の発現パターンが変化しているという発見にも基づく。包括的cDNAマイクロアレイシステムを用いて、これらの発現パターンを比較し、差次的に発現される遺伝子を同定した。
【0033】
本明細書で同定された、差次的に発現される遺伝子は、PRCを発症する素因のマーカーとして、およびPRCの症状の治療または緩和のためにその発現を変化させる遺伝子標的として、診断目的に用いられる。本明細書で用いる「素因」という用語は、PINからPRCを発症する潜在的可能性を示す。素因は、PINからPRCへの移行において発現レベルが変化するPRC関連遺伝子の発現レベルを測定することによって診断され得る。
【0034】
または、本明細書で同定された、PINおよびPRCの間で差次的に発現されるものは、PRCをPINと識別するためのマーカーとして、ならびにPRCの症状の治療または緩和のためにその発現を変化させるPRC遺伝子標的として、診断的有用性が見出される。
【0035】
PRC患者において発現レベルが調節されている(すなわち、上昇または低下している)遺伝子は表1および2にまとめられており、これらは本明細書において「 PRC関連遺伝子」、「PRC核酸」、または「PRCポリヌクレオチド」と総称され、対応するコードされるポリペプチドは「PRCポリペプチド」または「PRCタンパク質」と呼ばれる。別に指示しない限り、「PRC」とは、本明細書に開示した任意の配列を指す(例えば、PRC 1〜138)。以前に記載されている遺伝子は、データベースのアクセッション番号とともに提示している。
【0036】
細胞の試料における種々の遺伝子の発現を測定することにより、PRCを診断することができる。同様に、種々の作用因子に対して反応したこれらの遺伝子の発現を測定することにより、PRCを治療するための作用因子を同定することができる。
【0037】
本発明は、表1および2に列記された少なくとも1つからすべてのPRC関連遺伝子の発現を決定(例えば、測定)する段階を含む。公知の配列に関するGenBank(商標)データベースの項目によって提供される配列情報を使用し、当業者に周知の手法を用いて、PRC関連遺伝子の検出および測定を行うことができる。例えば、PRC関連遺伝子に対応する配列データベース項目中の配列を、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析において、PRC関連遺伝子に対応するRNA配列を検出するためのプローブを構築するのに用いることができる。プローブは典型的に、参照配列の少なくとも10、少なくとも20、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200のヌクレオチドを含む。もう一つの例としては、これらの配列を、例えば逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応など、増幅に基づく検出方法において、PRC核酸を特異的に増幅するプライマーを構築するために用いることができる。
【0038】
次いで、被験細胞集団、例えば患者由来の組織試料における、PRC関連遺伝子のうち1つまたは複数の発現レベルを、参照集団における同じ遺伝子の発現レベルと比較する。参照細胞集団には、比較されるパラメーターが公知である1つまたは複数の細胞、すなわちPIN細胞が含まれる。被験細胞集団および参照細胞集団由来の標本におけるPRC 1〜138の発現レベルを同時に決定してもよい。または、参照細胞集団におけるPRC 1〜138の発現レベルは、以前に採取した前立腺管癌腫細胞(例えば、PRC細胞)または正常前立腺管上皮細胞(例えば、非PRC細胞)の標本における遺伝子の発現レベルを分析することによって得た結果に基づいて統計学的方法によって決定され得る。
【0039】
いずれにせよ、参照細胞集団と比較した、被験細胞集団における遺伝子発現のパターンは、PRCを発症する素因を示唆する。例えば、非PRC細胞を参照細胞集団として用いることができる。被験細胞集団における遺伝子の発現レベルが参照細胞集団の範囲に収まらない場合には、対象はPRCを発症するリスクが高いと判断される。
【0040】
さらに、参照細胞集団がPRC細胞から構成される場合、被験細胞集団および参照細胞集団の間の遺伝子発現プロファイルに類似性があることにより、被験細胞集団がPRC細胞を含むことが示唆される。
【0041】
被験細胞集団におけるPRCマーカー遺伝子の発現レベルは、それと参照細胞集団における対応するPRCマーカー遺伝子の発現レベルとの相違が1.1倍を上回る、1.5倍を上回る、2.0倍を上回る、5.0倍を上回る、10.0倍、またはそれ以上に変動する場合、「変化している」とみなされる。
【0042】
被験細胞集団および参照細胞集団との間で異なる遺伝子発現は、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、対照核酸は、細胞の癌状態または非癌状態に依存して異ならないことが判明している核酸である。被験集団および参照集団における対照核酸の発現レベルは、被験集団および参照集団におけるシグナルレベルの標準化に用いることができる。例示的な対照遺伝子には、例えば、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼおよびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
被験細胞集団は多数の参照細胞集団と比較することができる。多数の参照集団のそれぞれは公知のパラメーターに関して異なってもよい。したがって、被験細胞集団を、例えばPRC細胞を含むことが判明している第1の参照細胞集団、および例えばPIN細胞を含むことが判明している第2の参照集団と比較してもよい。被験細胞は、PRC細胞を含むことが判明しているか、またはそれが疑われる対象由来の組織型もしくは細胞試料中に含まれてもよい。
【0044】
被験細胞は、体組織または体液、例えば、生体液(例えば、血液または痰など)から得られる。例えば、被験細胞は前立腺組織から精製してもよい。好ましくは、被験細胞集団は上皮細胞を含む。上皮細胞は、好ましくは、癌性であることが判明しているか、またはそれが疑われる組織由来のものである。参照細胞集団中の細胞は、被験細胞と類似した組織型に由来すべきである。任意で、参照細胞集団は細胞株、例えば、PRC細胞株(すなわち、陽性対照)または正常PIN細胞株(すなわち、陰性対照)である。または、対照細胞集団が、アッセイされるパラメーターまたは条件が公知である細胞由来の分子情報のデータベースに由来してもよい。
【0045】
対象は好ましくは、哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えば、ヒト、非ヒト霊長動物、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書に開示した遺伝子の発現は、当技術分野で公知の方法を用いて、タンパク質または核酸のレベルで決定され得る。例えば、これらの核酸配列の1つまたは複数を特異的に認識するプローブを用いるノーザンハイブリダイゼーション分析を、遺伝子発現の決定に用いることができる。または、遺伝子発現を、例えば、差次的に発現される遺伝子配列に対して特異的なプライマーを用いる、逆転写に基づくPCRアッセイ法を用いて測定することもできる。また、発現をタンパク質レベルで、すなわち本明細書に記載の遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルまたはその生物活性を測定することによって決定することもできる。そのような方法は当技術分野で周知であり、例えば、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を利用するイムノアッセイ法が含まれるが、これに限定されない。遺伝子によってコードされるタンパク質の生物活性は一般に周知である。
【0047】
PRCの診断
本発明の文脈において、PRCは、細胞の被験集団(すなわち、患者由来の生物試料)由来の1つまたは複数のPRCポリヌクレオチドの発現レベルを測定することによって診断される。被験細胞集団は、好ましくは上皮細胞、例えば、前立腺組織から得られた細胞を含む。遺伝子発現を、血液または尿などの他の体液から測定することもできる。他の生物試料はタンパク質レベルの測定に用いるられ得る。例えば、診断しようとする対象由来の血液または血清中のタンパク質レベルを、イムノアッセイ法または他の従来の生物アッセイ法によって測定することができる。
【0048】
1つまたは複数のPRC関連遺伝子、例えばPRC 1〜138の発現を、被験細胞試料または生物試料において決定し、かつアッセイした1つまたは複数のPRC関連遺伝子に関連する正常対照発現レベルと比較する。正常対照レベルとは、PRCに罹患していないことが判明している集団で、典型的に見出されるPRC関連遺伝子の発現プロファイルである。患者由来の組織試料における1つまたは複数のPRC関連遺伝子の発現レベルの変化(例えば、上昇または低下)により、対象がPRCに罹患しているか、またはPRCを発症するリスクを有することが示唆される。例えば、1つまたは複数のアップレギュレートされたPRC関連遺伝子PRC 1〜40の被験集団における発現が、PINにおける発現レベルと比較して上昇していることにより、その対象がPRCに罹患しているか、またはPRCを発症するリスクを有することが示唆される。その反対に、1つまたは複数のダウンレギュレートされたPRC関連遺伝子PRC 41〜138の被験集団における発現が、PINにおける発現レベルと比較して低下していることにより、その対象がPRCに罹患しているか、またはPRCを発症するリスクを有することが示唆される。
【0049】
PINにおける発現レベルと比較して、被験集団におけるPRC関連遺伝子の1つまたは複数の変化により、対象がPRCに罹患しているか、またはそれを発症するリスクを有することが示唆される。例えば、一群のPRC関連遺伝子(PRC 1〜40またはPRC 41〜138)のうち少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、またはそれ以上の変化により、対象がPRCに罹患しているか、またはそれを発症するリスクを有することが示唆される。
【0050】
特定の標本におけるPRC 1〜138の発現レベルは、PRC 1〜138に対応するmRNA、またはPRC 1〜138によってコードされるタンパク質を定量することによって評価され得る。mRNAの定量方法は当業者に公知である。例えば、PRC 1〜138に対応するmRNAのレベルはノーザンブロット法またはRT-PCRによって評価され得る。PRC 1〜138のヌクレオチド配列はすでに報告されている。全ての当業者は、PRC 1〜138を定量するためのプローブまたはプライマーのヌクレオチド配列を設計することができる。
【0051】
また、PRC 1〜138の発現レベルを、その遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または量に基づいて分析することもできる。PRC 1〜138タンパク質の量を決定するための方法は以下に示されている。例えば、イムノアッセイ法は、生物材料中のタンパク質の測定に有用である。タンパク質またはその活性の測定のためには任意の生物材料を用いることができる。例えば、血清マーカーによってコードされるタンパク質の評価のために血液試料を分析する。一方、分析しようとする各タンパク質の活性に従い、PRC 1〜138によってコードされるタンパク質の活性の測定に適した方法を選択することもできる。
【0052】
本発明では、PRCを発症する素因を診断するための診断薬もまた提供される。本発明の診断薬は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと結合する化合物を含む。好ましくは、PRC 1〜40のポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、またはPRC 1〜40のポリペプチドと結合する抗体を、そのような化合物として用い得る。
【0053】
PRC関連遺伝子の発現を阻害または増強する作用因子の同定
PRC関連遺伝子の発現もしくは活性、またはその遺伝子産物の活性を阻害する作用因子は、PRC関連アップレギュレート遺伝子を発現する被験細胞を被験作用因子と接触させること、および次いでPRC関連遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することによって同定することができる。作用因子の存在下におけるPRC関連遺伝子の発現もしくは活性のレベル、またはその遺伝子産物の活性のレベルが、被験作用因子の非存在下における発現または活性と比較して低下していることにより、その作用因子がPRC関連アップレギュレート遺伝子の阻害因子であり、かつPRCを抑制するのに有用であることが示唆される。
【0054】
または、PRC関連ダウンレギュレート遺伝子の発現、またはその遺伝子産物の活性を増強する作用因子を、PRC関連遺伝子を発現する被験細胞を被験作用因子と接触させること、および次いでPRC関連ダウンレギュレート遺伝子の発現レベル、または活性を決定することによって同定することができる。PRC関連遺伝子の発現のレベル、またはその遺伝子産物の活性のレベルが、被験作用因子の非存在下における発現、または活性と比較して上昇していることにより、その作用因子がPRC関連ダウンレギュレート遺伝子の発現、またはその遺伝子産物の活性を増強することが示唆される。
【0055】
被験細胞集団は、PRC関連遺伝子を発現する任意の細胞であってよい。例えば、被験細胞集団は、前立腺組織由来の細胞などの上皮細胞が含まれ得る。さらに、被験細胞はPRC細胞由来の不死化細胞株であってもよい。または、被験細胞は、PRC関連遺伝子がトランスフェクトされた細胞、またはレポーター遺伝子と機能的に結合されたPRC関連遺伝子由来の調節配列(例えば、プロモーター配列)がトランスフェクトされた細胞であってもよい。
【0056】
対象におけるPRCの治療の有効性の評価
本明細書で同定された、差次的に発現されるPRC関連遺伝子は、PRCの治療の経過をモニターすることも可能にする。この方法において、PRCに対する治療を受けている対象から被験細胞集団が提供される。望ましい場合、治療の前、最中、および/または後のさまざまな時点で、被験細胞集団を対象から入手する。次いで、細胞集団における1つまたは複数のPRC関連遺伝子の発現を決定し、かつPRCの状態が判明している細胞を含む参照細胞集団と比較する。本発明の文脈において、参照細胞は、目的の治療を受けているべきではない。
【0057】
参照細胞集団がPRC細胞を含まない場合、被験細胞集団および参照細胞集団におけるPRC関連遺伝子の発現の類似性は、目的の治療が有効であることを示唆する。しかしながら、被験集団およびPIN参照細胞集団におけるPRC関連遺伝子の発現の相違は、臨床的な結果または予後があまり良好ではないことを示唆する。同様に、参照細胞集団がPRC細胞を含む場合、被験細胞集団および参照細胞集団におけるPRC関連遺伝子の発現の相違は、目的の治療が有効であることを示唆する一方、被験集団および参照細胞集団におけるPRC関連遺伝子の発現に類似性があることは、臨床的な結果または予後があまり良好ではないことを示唆する。
【0058】
さらに、治療後に得られた対象由来の生物試料において測定された1つまたは複数のPRC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、治療後レベル)を、治療開始前に得られた対象由来の生物試料において測定された1つまたは複数のPRC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較することもできる。PRC関連遺伝子がアップレギュレートされた遺伝子である場合、治療後試料における発現レベルの低下によって目的の治療が有効であることが示唆される一方、治療後試料における発現レベルが上昇または維持されていることは、臨床的な結果または予後があまり良好ではないことを示唆する。その反対に、PRC関連遺伝子がダウンレギュレートされた遺伝子である場合、治療後試料における発現レベルの上昇は目的の治療が有効であることを示唆し得る一方、治療後試料における発現レベルが低下または維持されていることは、臨床的な結果または予後があまり良好ではないことを示唆する。
【0059】
本明細書で用いる場合、「有効な」という用語は、治療が、対象における、病的にアップレギュレートされる遺伝子の発現低下、病的にダウンレギュレートされる遺伝子の発現上昇、またはPRCのサイズ、罹患率もしくは転移能の低下をもたらすことを示している。目的の治療が予防的に適用される場合、「有効な」という用語は、治療がPRCの形成を遅延もしくは防止すること、または臨床的なPRCの症状を遅延、予防、もしくは軽減することを意味する。前立腺腫瘍の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行われ得る。
【0060】
さらに、有効性を、PRCの診断または治療のための任意の公知の方法に関連して判定することもできる。PRCは、例えば症候性異常、例えば、体重減少、腹痛、背痛、食欲不振、悪心、嘔吐、および全身性倦怠感、脱力、ならびに黄疸を特定することによって診断され得る。
【0061】
特定の個体に適したPRCを治療するための治療薬の選択
個体の遺伝的構成の相違は、それらが種々の薬剤を代謝する相対的能力の相違をもたらす可能性がある。対象において代謝されて抗PRC薬剤として作用する作用因子は、対象の細胞において癌状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの変化を誘導することによって顕在化する。このため、本明細書に開示した、差次的に発現されるPRC関連遺伝子は、推定されるPRCの治療的または予防的な阻害因子を、その作用因子が対象におけるPRCの適した阻害因子であるか否かを判定するため、選択した対象由来の被験細胞集団において試験することを可能にする。
【0062】
特定の対象に適した、PRCの阻害因子を同定するためには、その対象由来の被験細胞集団を治療薬に曝露し、1つまたは複数のPRC 1〜138遺伝子の発現を測定する。
【0063】
本発明の方法の文脈において、被験細胞集団は、PRC関連遺伝子を発現するPRC細胞を含む。好ましくは、被験細胞は上皮細胞である。例えば、被験細胞集団を候補作用因子の存在下でインキュベートしてもよく、被験試料の遺伝子発現パターンを測定し、かつ1つまたは複数の参照プロファイル、例えば、PIN参照発現プロファイルと比較してもよい。
【0064】
PRCを含む参照細胞集団と相対的に、被験細胞集団における1つもしくは複数のPRC 1〜40の発現の低下、または1つもしくは複数のPRC 41〜138の発現の上昇は、その作用因子が治療的可能性を有することを示唆する。
【0065】
本発明の文脈において、被験作用因子は任意の化合物または組成物であり得る。例示的に被験作用因子は、免疫調節薬剤を含むが、これに限定されない。
【0066】
治療薬を同定するためのスクリーニングアッセイ法
本明細書に開示した、差次的に発現されるPRC関連遺伝子は、PRCを治療するための候補治療薬を同定するために用いることもできる。本発明の方法は、候補治療薬が、PRC 1〜138などの1つまたは複数のPRC関連遺伝子のPRC状態に特徴的な発現プロファイルを、PIN状態に特徴的な遺伝子発現パターンへと変換させ得るか否かを判定するために、候補治療薬をスクリーニングする段階を含む。
【0067】
本発明において、PRC 1〜138はPRCの治療および予防のための治療薬のスクリーニングに有用である。
【0068】
本方法において、細胞を1つまたは複数の被験作用因子(逐次的または組み合わせ)に曝露し、細胞における1つまたは複数のPRC 1〜138の発現を測定する。被験集団においてアッセイしたPRC関連遺伝子の発現プロファイルを、被験作用因子に曝露されていない参照細胞集団における同じPRC関連遺伝子の発現レベルと比較する。
【0069】
過小発現された遺伝子の発現を刺激し得るか、または過剰発現された遺伝子の発現を抑制し得る作用因子は、臨床的に有益な可能性を有する。このような作用因子はさらに、動物または被験対象においてPRCを防止する能力に関して試験され得る。
【0070】
さらなる態様において、本発明は、PRCの治療において有望標的である候補作用因子をスクリーニングする方法を提供する。上記で詳述したように、マーカー遺伝子の発現レベルまたはそれらの遺伝子産物の活性を制御することにより、PRCの発生および進行を制御することができる。したがって、PRCの治療において有望な標的である候補作用因子を、このような発現レベルおよび活性を癌状態または非癌状態の指標として用いるスクリーニング方法によって同定することができる。本発明の文脈において、このようなスクリーニングは、例えば、以下の段階を含み得る:
a)被験化合物を、PRC 1〜138からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
b)ポリペプチドと被験化合物の間の結合活性を検出する段階;および
c)ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階。
【0071】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含み得る:
a)候補化合物を1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、ここで1つまたは複数のマーカー遺伝子がPRC 1〜138からなる群より選択される段階;および
b)PRC 1〜40からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させる候補化合物、またはPRC 41〜138からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる候補化合物を選択する段階。
【0072】
マーカー遺伝子を発現する細胞には、例えば、PRCから樹立された細胞株が含まれる;このような細胞は本発明の上記のスクリーニングのために用いることができる。
【0073】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含み得る:
a)被験化合物を、PRC 1〜138からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
b)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
c)PRC 1〜40からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して抑制する化合物、またはPRC 41〜138からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して高める化合物を選択する段階。
【0074】
本発明のスクリーニング方法に用いるためのタンパク質は、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列を用いて組換えタンパク質として得ることができる。マーカー遺伝子およびそのコードされるタンパク質に関する情報に基づき、当業者は、タンパク質の任意の生物活性をスクリーニングのための指標として選択し、選択した生物活性に関するアッセイ法のために適した任意の測定方法を選択することができる。
【0075】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含み得る:
(a)候補化合物を、1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階であって、ここで、1つまたは複数のマーカー遺伝子がPRC 1〜138からなる群より選択される、段階;
(b)前記レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c)前記マーカー遺伝子がPRC 1〜40からなる群より選択されるアップレギュレートされたマーカー遺伝子である場合、前記レポーター遺伝子の発現または活性のレベルを対照におけるレベルと比較して低下させる候補化合物、または前記マーカー遺伝子がPRC 41〜138からなる群より選択されるダウンレギュレートされたマーカー遺伝子である場合、前記レポーター遺伝子の発現レベルを対照におけるレベルと比較して高める化合物を選択する段階。
【0076】
適したレポーター遺伝子および宿主細胞は当技術分野で周知である。本発明のスクリーニング方法に適したレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いることによって調製され得る。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に公知である場合、以前の配列情報を用いることによってレポーター構築物を調製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントを、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリーから単離することができる。本発明の方法において、例えば被験化合物の非存在下で検出されるレベルが、比較される対照発現レベルとして好ましい。
【0077】
スクリーニングによって単離された化合物は、マーカー遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を阻害または増強する薬剤の開発のための候補として役立ち、かつPRCの治療または予防に応用することができる。
【0078】
その上、マーカー遺伝子にコードされるタンパク質の活性を阻害または増強する化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物も同様に、本発明のスクリーニング法によって得ることができる化合物に含まれる。
【0079】
本発明の方法によって単離された化合物をヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのような他の哺乳類のための薬剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬学的調製法を用いて投与剤形に調製してもよい。例えば、必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口摂取されるか、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取され得る。例えば、化合物は、薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形で混合することができる。そのような調製物に含まれる活性成分の量によって、指示範囲内の適した用量を得ることができる。
【0080】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖、またはサッカリンのような甘味料;ならびにペパーミント、アカモノ油、およびチェリーのような着香料が含まれるが、これらに限定されない。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油のような液体担体は上記の成分にさらに含まれ得る。注射用滅菌組成物は、注射に適した蒸留水のような溶剤を用いて通常の投薬実施に従って調製することができる。
【0081】
生理食塩水、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのような補助剤を含む他の等張液は、注射用水溶液として用いることができる。これらは、アルコール、例えばエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコール、ならびにポリソルベート80(商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤のような適した溶解剤と共に用いることができる。
【0082】
ゴマ油または大豆油を油脂性液体として用いることができ、安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを溶解剤として共に用いてもよく、リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤、ならびに/または抗酸化剤と共に調製してもよい。調製された注射剤は適したアンプルに充填してもよい。
【0083】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的組成物を患者に、例えば動脈内、静脈内、もしくは経皮注射として投与してもよく、または、鼻腔内、気管支内、筋肉内、もしくは経口投与としても投与してもよい。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変化する;しかしながら、当業者は、適した投与法を日常的に選択することができる。化合物がDNAによってコードされ得る場合、DNAを遺伝子治療のベクターに挿入して、治療を行うためにベクターを患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変化するが、しかしながら当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0084】
例えば、本発明のタンパク質に結合してその活性を調節する化合物の用量は、症状に依存するが、一般的に、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0085】
正常な成人(体重60 kg)に注射剤形で化合物を非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法によって多少の差があるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日を静脈内注射することが都合がよい。他の動物の場合、適した投与量は、体重60 kgに変換してルーチン的に算出され得る。
【0086】
PRCを有する対象の予後の評価
本発明はまた、PRCを有する対象の予後を評価する方法であって、被験細胞集団における1つまたは複数のPRC関連遺伝子の発現を、ある範囲の疾患病期にわたる患者由来の参照細胞集団における、同じPRC関連遺伝子の発現と比較する段階を含む方法も提供する。被験細胞集団および参照細胞集団における1つもしくは複数のPRC関連遺伝子の遺伝子発現を比較することにより、または対象由来の被験細胞集団の経時的な遺伝子発現のパターンを比較することにより、対象の予後を評価することができる。
【0087】
例えば、PRC 41〜138のうち1つもしくは複数の発現がPINにおける発現と比較して低下していること、またはPRC 1〜40のうち1つもしくは複数の発現がPINにおける発現と比較して上昇していることは、予後が好ましくないことを意味する。一方、PRC 41〜138のうち1つまたは複数の発現が高く、かつPRC 1〜40の発現が低下していることは予後が比較的好ましいことを意味する。
【0088】
キット
本発明はまた、PRC検出用試薬、例えば、1つもしくは複数のPRC核酸と特異的に結合するか、またはそれらを識別する核酸(PRC核酸の一部分に対して相補的なオリゴヌクレオチド配列など)またはPRC核酸によってコードされる1つもしくは複数のタンパク質と結合する抗体も含む。検出用試薬はキットの形態で合わせてパッケージ化してもよい。試薬、例えば、核酸または抗体(固体マトリックスと結合した状態、またはそれらをマトリックスに結合させるための試薬と別々にパッケージ化された状態で)、対照試薬(陽性および/または陰性)および/または検出可能な標識は、別々の容器内にパッケージ化される。アッセイ法を実施するための指示(例えば、文書、テープ、VCR、CD-ROM等)がキットに含まれ得る。キットのアッセイ形式はノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAであってよく、どちらも当技術分野で公知である。
【0089】
例えば、PRC検出用試薬を多孔性ストリップなどの固体マトリックス上に固定化し、少なくとも1つのPRC検出部位を形成させ得る。多孔性ストリップの測定領域または検出領域は、それぞれが1つの核酸を含む複数の部位を含んでもよい。検査ストリップが陰性および/または陽性対照に対する部位を含んでもよい。または、対照部位を検査ストリップとは別のストリップ上に配置してもよい。任意で、異なる検出部位が異なる量の固定化核酸を含んでもよく、すなわち、第1の検出部位でより多く、以後の部位でより少なく含んでもよい。被験試料を添加すると、検出可能なシグナルを呈している部位の数により、試料中に存在するPRC量の定量的指標が得られる。検出部位は任意の適した検出可能な形態として構成することができ、典型的に検査ストリップの幅全体にわたる棒状またはドット状の形態にある。
【0090】
または、キットが、1つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイを含んでもよい。アレイ上の核酸は、PRC 1〜138によって表される1つまたは複数の核酸配列を特異的に識別する。PRC 1〜138によって表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40もしくは50種またはそれ以上の発現を、アレイ検査ストリップまたはチップに対する結合レベルによって同定する。基質アレイは、例えば、米国特許第5,744,305号(その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載された「チップ」のような個体基質上にあり得る。
【0091】
アレイおよび複数物
本発明はまた、1つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイも含む。アレイ上の核酸は、PRC 1〜138によって表される1つまたは複数の核酸配列に特異的に対応する。PRC 1〜138によって表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40もしくは50種またはそれ以上の発現レベルを、アレイに対する核酸結合を検出することによって同定することができる。
【0092】
本発明はまた、核酸の単離された複数物(plurality)(すなわち、2つまたはそれ以上の核酸の混合物)も含む。核酸は液相中または固相中にあってもよく、例えば、ニトロセルロース膜などの固体支持体に対して固定化されてもよい。この複数物には、PRC 1〜138によって表される核酸の1つまたは複数が含まれる。さまざまな態様において、この複数物には、PRC 1〜138によって表される核酸のうち2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40もしくは50種またはそれ以上が含まれる。
【0093】
PRCを抑制する方法
本発明はさらに、PRC 1〜40のうち1つもしくは複数の発現もしくは活性(もしくはその遺伝子産物の活性)を低下させることにより、またはPRC 41〜138の発現もしくは活性(もしくはその遺伝子産物の活性)を高めることにより、対象におけるPRCの症状を治療または緩和するための方法も提供する。適した治療用化合物を、PRCを有するか、または発症するリスク(またはそれに対する感受性)を有する対象に対して、予防的または治療的に投与することができる。そのような対象は、標準的な臨床的方法を用いて、またはPRC 1〜138のうち1つもしくは複数の異常な発現レベルもしくはその遺伝子産物の異常な活性を検出することにより、同定することができる。本発明の文脈において、適した治療薬には、例えば、細胞周期調節、細胞増殖、およびプロテインキナーゼ活性の阻害因子が含まれる。
【0094】
本発明の治療方法は、PRC細胞またはPIN細胞が由来する同じ組織型のPIN細胞に対して、PRC細胞において発現が低下している遺伝子(「ダウンレギュレートされる」または「過小発現される」遺伝子)の1つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能またはその両方を上昇させる段階を含む。これらの方法では、対象において過小発現される(ダウンレギュレートされる)1つまたは複数の遺伝子の量を増加させる化合物の有効量により、対象を治療する。投与は全身的でも局所的でもよい。適した治療用化合物には、過小発現される遺伝子のポリペプチド産物、その生物活性断片、過小発現される遺伝子をコードしかつPRC細胞における発現を可能にする発現制御エレメントを有する核酸;例えば、PRC細胞にとって内因性であるそのような遺伝子の発現レベルを高める(すなわち、過小発現される1つまたは複数の遺伝子の発現をアップレギュレートする)作用因子、が含まれる。このような化合物の投与は、対象の前立腺細胞において異常に過小発現される1つまたは複数の遺伝子の影響に対抗し、かつ対象の臨床状態を改善する。
【0095】
または、本発明の治療方法が、前立腺細胞において発現が異常に上昇している遺伝子(「アップレギュレートされる」または「過剰発現される」遺伝子)の1つもしくは複数の遺伝子産物の発現、機能、またはその両方を低下させる段階を含んでもよい。発現は、当技術分野で公知のいくつかの方法のいずれかによって阻害することができる。例えば、過剰発現される1つもしくは複数の遺伝子の発現を阻害または拮抗する核酸、例えば、過剰発現される1つもしくは複数の遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAを、対象に投与することにより、発現を阻害することができる。
【0096】
アンチセンス核酸
上記のように、PRC 1〜40のヌクレオチド配列に対応するアンチセンス核酸を、PRC 1〜40の発現レベルを低下させるために用いることができる。PRCにおいてアップレギュレートされるPRC 1〜40に対応するアンチセンス核酸は、PRCの治療のために有用である。具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、PRC 1〜40もしくはそれらに対応するmRNAと結合することによって作用し得、それによって遺伝子の転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、および/またはPRC 1〜40からなる群より選択される核酸によってコードされるタンパク質の発現を阻害し、最終的にタンパク質の機能を阻害する。本明細書で用いる「アンチセンス核酸」という用語には、標的配列に対して完全に相補的なヌクレオチド、およびアンチセンス核酸が標的配列と特異的にハイブリダイズし得る限り、1つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチを有するヌクレオチドの両方が含まれる。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、少なくとも15個の連続したヌクレオチドの範囲にわたって、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは少なくとも80%またはそれ以上、より好ましくは少なくとも90%またはそれ以上、さらにより好ましくは少なくとも95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。相同性の決定には当技術分野で公知のアルゴリズムが用いられ得る。
【0097】
本発明のアンチセンス核酸誘導体は、マーカー遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する細胞に対して、そのタンパク質をコードするDNAまたはmRNAと結合することによって作用し、それらの転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、かつタンパク質の発現を阻害し、その結果タンパク質の機能を阻害する。
【0098】
本発明のアンチセンス核酸誘導体は、核酸に対して不活性な適した基材と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。
【0099】
また、必要に応じて、本発明のアンチセンス核酸を、添加剤、等張剤、可溶化剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは公知の方法に従って調製され得る。
【0100】
本発明のアンチセンス核酸誘導体は、罹患部位に対して直接適用することにより、またはそれが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に投与される。持続性および膜透過性を高めるためにアンチセンス-マウント培地を用いることもできる。例として、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチン、またはこれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0101】
本発明のアンチセンス核酸誘導体の投与量は、患者の状態に従って適切に調整され得、望ましい量で用いられ得る。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲の用量を投与することができる。
【0102】
本発明のアンチセンス核酸は本発明のタンパク質の発現を阻害するため、本発明のタンパク質の生物活性を抑制するために有用である。さらに、本発明のアンチセンス核酸を含む発現阻害物質も、本発明のタンパク質の生物活性を阻害し得るため、有用である。
【0103】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾されたオリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ抵抗性を付与するために、チオエート化(thioated)ヌクレオチドを用いることもできる。
【0104】
si RNA
また、マーカー遺伝子に対するsiRNAを、マーカー遺伝子の発現レベルを低下させるために用いることもできる。本明細書において「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。DNAがRNAの転写のためのテンプレートであるものを含め、siRNAを細胞に導入するための標準的な技術を用いることができる。本発明の文脈において、siRNAは、PRC 1〜40といったアップレギュレートされたマーカー遺伝子に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、例えばヘアピンのように、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される。
【0105】
標的mRNAとハイブリダイズするPRC遺伝子のsiRNAは、正常な一本鎖mRNA転写物と会合し、それによって翻訳を阻害し、その結果タンパク質の発現を妨げることにより、遺伝子によってコードされるPRCポリペプチドの産生を低下または阻害する。したがって、本発明のsiRNA分子は、PRC 1〜40より選択される遺伝子のmRNAと、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする能力によって定義され得る。本発明の目的において、「ハイブリダイズする」または「特異的にハイブリダイズする」という用語は、2つの核酸分子が「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」下でハイブリダイズする能力を指して用いられる。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、核酸分子が、典型的には核酸の複合体混合物中にある、その標的配列とはハイブリダイズするが、他の配列とは検出し得る程度にはハイブリダイズしないと考えられる条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、異なる環境では異なると考えられる。配列が長いほど高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な手引きは、Tijssen、「Techniques in Biochemistry and Molecular Biology - Hybridization with Nucleic Probes」「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」(1993)に見出される。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度およびpHでの特定の配列の融解温度(T)よりも約5〜10℃低くなるように選択される。Tは、標的に対して相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列とハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度下)である(標的配列が過剰に存在するため、Tmでは平衡状態でプローブの50%が占有される)。ストリンジェントな条件を、ホルムアミドなどの脱安定剤の添加によって達成することもできる。選択的または特異的なハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は以下のものが考えられる:0.2×SSCおよび0.1%SDS、50℃で洗浄を伴う、50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でのインキュベーション、または5×SSC、1%SDS、65℃でのインキュベーション。
【0106】
本発明の文脈において、siRNAは好ましくは、500, 200、100、50または25ヌクレオチド長未満である。より好ましくは、siRNAは19〜25ヌクレオチド長である。siRNAの阻害活性を増強するため、ヌクレオチド「u」を、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端に付加することができる。付加する「u」の数は、少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端に一本鎖を形成する。
【0107】
PRC遺伝子のsiRNAは、mRNA転写物と結合し得る形態で、細胞に直接導入することができる。これらの態様において、本発明のsiRNA分子は典型的に、アンチセンス分子に関して上述したように修飾される。その他の修飾も可能であり、例えば、コレステロールと結合させたsiRNAは、改良された薬理学的特性を示す(Song et al. Nature Med. 9: 347-351(2003))。または、siRNAをコードするDNAを、ベクター中に保有させてもよい。
【0108】
ベクターは、例えば、PRC遺伝子標的配列を、その配列に隣接する機能的に結合した調節配列を有するように発現ベクター中に、両方の鎖の発現が(DNA分子の転写によって)可能になるような様式でクローニングすることによって作製され得る(Lee, N.S., Dohjima, T., Bauer, G., Li, H., Li,M.-J., Ehsani, A., Salvaterra, P. and Rossi, J. (2002)「Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells」Nature Biotechnology 20: 500-505)。PRC関連遺伝子のmRNAに対するアンチセンスであるRNA分子を第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写させ、かつPRC関連遺伝子のmRNAに対するセンス鎖であるRNA分子を第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写させる。センス鎖およびアンチセンス鎖をインビボでハイブリダイズさせて、PRC関連遺伝子のサイレンシングのためのsiRNA構築物を生成する。または、2つの構築物を利用して、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することもできる。クローニングされたPRC関連遺伝子は、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有する、ヘアピンなどの二次構造を有する構築物をコードし得る。
【0109】
ヘアピンループ構造を形成させるため、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明は、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'(式中、[A]は、PRC 1〜40より選択される遺伝子のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である)を有するsiRNAも提供する。好ましい態様において、[A]は、PRC 1〜40より選択される遺伝子に対応するリボヌクレオチド配列である。
【0110】
[B]は、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A']は、[A]の相補的配列からなるリボヌクレオチド配列である。領域[A]は[A']とハイブリダイズし、次いで領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は好ましくは3〜23ヌクレオチド長である。ループ配列は例えば、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列もまた活性のあるsiRNAを提供し得る(Jacque, J.-M., Triques, K. and Stevenson,M. (2002)「Modulation of HIV-1 replication by RNA interference」Nature 418: 435-438)。
【0111】
CCC、CCACCまたはCCACACC:Jacque, J. M.Triques, K., and Stevenson, M (2002)「Modulation of HIV-1 replication by RNA interference」Nature, Vol. 418: 435-438。
【0112】
UUCG:Lee, N.S., Dohjima, T., Bauer, G., Li, H., Li, M.-J., Ehsani, A., Salvaterra, P. and Rossi, J. (2002)「Expression of small interfering RNAs targeted against HIV-1 rev transcripts in human cells」Nature Biotechnology 20: 500-505。Fruscoloni, P., Zamboni, M., and Tocchini-Valentini, G. P. (2003)「Exonucleolytic degradation of double-stranded RNA by an activity in Xenopus laevis germinal vesicles」Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4): 1639-1644。
【0113】
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, D. M., Novina, C. D. and Sharp, P. A. (2002)「Killing the messenger: Short RNAs that silence gene expression」Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 457-467。
【0114】
したがって、ループ配列は、CCC、UUCG、CCACC、CCACACCおよびUUCAAGAGAからなる群より選択することができる。好ましいループ配列は、UUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。
【0115】
適したsiRNAのヌクレオチド配列は、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手できるsiRNA設計コンピュータープログラムを用いて設計され得る。コンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0116】
siRNA標的部位の選択
1.対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。有望なsiRNA標的部位として、各AAおよび3'隣接ヌクレオチド19個の出現を記録する。Tuschl, et al.は、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域が、調節タンパク質結合部位により富んでいる可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計することを推奨していない。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害し得る。
2.有望な標的部位をヒトゲノムデータベースと比較して、他のコード配列と有意な相同性を有するいかなる標的配列も検討から除外する。相同性検索は、NCBIサーバー、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において認められ得るBLASTを用いて行うことができる。
3.合成のために適格な標的配列を選択する。Ambionでは、好ましくは、評価すべき遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
【0117】
PRC遺伝子配列に隣接する調節配列は同一でもよく、またはそれらの発現を独立して、または時間的もしくは空間的に調節し得るように異なっていてもよい。siRNAは、PRC遺伝子テンプレートをそれぞれ、例えば核内低分子RNA(snRNA)U6由来のRNA pol III転写単位またはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクター中にクローニングすることにより、細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション促進物質を用いることができる。FuGENE(Rochediagnostices)、Lipofectamin 2000(Invitrogen)、Oligofectamin(Invitrogen)、およびNucleofactor(Wako pure Chemical)は、トランスフェクション促進物質として有用である。
【0118】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害するので、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害因子は、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、PRCの治療または予防に有用である。
【0119】
抗体
または、PRCにおいて過剰発現された遺伝子の一つまたは複数の遺伝子産物の機能は、遺伝子産物に結合する化合物、そうでなければ遺伝子産物の機能を阻害する化合物を投与することによって阻害され得る。例えば、化合物は、過剰発現された遺伝子産物または複数の遺伝子産物に結合する抗体である。
【0120】
本発明は、抗体、特にアップレギュレートされたマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体、またはそのような抗体の断片を用いることに言及する。本明細書において用いられるように、「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いられる抗原(すなわち、アップレギュレートされたマーカーの遺伝子産物)またはそれに近縁の抗原のみと相互作用する(すなわち結合する)、特異的構造を有する免疫グロブリン分子を指す。さらに抗体は、それがマーカー遺伝子にコードされるタンパク質の一つまたは複数に結合する限り、抗体断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはHおよびL鎖からのFv断片が適当なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston, J.S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-5883(1988))。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシンのような酵素によって処理することによって産生してもよい。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して、発現ベクターに挿入し、適当な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Co M.S. et al., J. Immunol. 152:2968-2976(1994);Better M. and Horwitz A.H.、Methods Enzymol. 178:476-496(1989);Pluckthun A. and Skerra A.、Methods Enzymol. 178:497-515(1989);Lamoyi E.、Methods Enzymol. 121:652-663(1986);Rousseaux J. et al., Methods Enzymol. 121:663-669(1986);Bird R.E. and Walker B.W.、Trends Biotechnol. 9:132-137(1991)を参照されたい)。
【0121】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)のような多様な分子に結合させることによって修飾してもよい。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学修飾することによって得ることができる。このような修飾方法は、当技術分野で慣例的である。
【0122】
または、抗体は、非ヒト抗体由来の可変領域およびヒト抗体由来の定常領域を有するキメラ抗体、または非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)、および定常領域を含むヒト化抗体を含み得る。そのような抗体は、公知の技術を用いて調製することができる。ヒト化は、ヒト抗体の対応する配列の代わりに、齧歯類のCDRまたはCDR配列を用いることによって行われ得る(例えば、Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988)を参照されたい)。したがって、このようなヒト化抗体は、実質的に完全なヒト可変ドメインには及ばないものが、非ヒト種由来の対応する配列によって置き換えられたキメラ抗体である。
【0123】
ヒトフレームワーク領域および定常領域に加えてヒト可変領域をも含む完全ヒト抗体を用いることもできる。このような抗体は、当技術分野で公知のさまざまな技術を用いて作製することができる。例えば、インビトロ法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体断片の組換えライブラリーの使用を含む(例えば、Hoogenboom & Winter, J. Mol. Biol. 227: 381 (1991))。同様に、ヒト免疫グロブリン座位を、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたトランスジェニック動物、例えばマウスに導入することによってヒト抗体を作製することもできる。このアプローチは例えば、米国特許第6,150,584号、第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号に記載されている。
【0124】
癌細胞において起こる特異的な分子変化に対する癌治療は、進行乳癌を治療するためのトラスツズマブ(ハーセプチン)、慢性骨髄性白血病のためのイマチニブメチレート(グリーベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)のためのゲフィチニブ(イレッサ)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫のためのリツキシマブ(抗CD20 mAb)のような抗癌剤の臨床開発および規制認可によって確認されている(Ciardiello F, Tortora G.「A novel approach in the treatment of cancer:targeting the epidermal growth factor receptor」 Clin Cancer Res. 2001 10月;7(10):2958-70. Review.;Slamon DJ, Leyland-Jones B, Shak S, Fuchs H, Paton V, Bajamonde A, Fleming T, Eiermann W, Wolter J, Pegram M, Baselga J, Norton L.「Use of chemotherapy plus a monoclonal antibody against HER2 for metastatic breast cancer that overexpresses HER2」 N Engl J Med. 2001 3月15日;344(11):783-92.;Rehwald U, Schulz H, Reiser M, Sieber M, Staak JO, Morschhauser F, Driessen C, Rudiger T, Muller-Hermelink K, Diehl V, Engert A.「Treatment of relapsed CD20+ Hodgkin lymphoma with the monoclonal antibody rituximab is effective and well tolerated:results of a phase 2 trial of the German Hodgkin Lymphoma Study Group. Blood」 2003 1月15日;101(2):420-424.;Fang G, Kim CN, Perkins CL, Ramadevi N, Winton E, Wittmann S and Bhalla KN. (2000). Blood, 96, 2246-2253)。これらの薬剤は、形質転換した細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤より許容性がある。したがって、そのような薬剤は、癌患者の生存および生活の質を改善するのみならず、分子標的癌治療の考え方が正当であることを証明している。さらに、標的特異的薬剤は、標準的な化学療法と併用して用いた場合に、その有効性を増強することができる(Gianni, L.(2002)、Oncology 63 補遺1、47-56;Klejman A., Rushen L., Morrione A., Slupianek A and Skorski T.(2002)、Oncogene 21:5868-5876)。したがって、将来の癌治療はおそらく、従来の薬剤を血管新生および浸潤性のような腫瘍細胞の異なる特徴をねらった標的特異的薬剤と併用することを含むであろう。
【0125】
これらの調節法は、エクスビボまたはインビトロで(例えば、細胞を薬剤と共に培養することによって)、またはインビボで(例えば被験者に薬剤を投与することによって)行われ得る。これらの方法は、差次的に発現する遺伝子の異常な発現、またはそれら遺伝子産物の異常な活性を相殺する治療として、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを投与する段階を含む。
【0126】
遺伝子および遺伝子産物の発現レベルまたは生物活性がそれぞれPINにおいて上昇していること(疾患または障害に罹患していない対象と比較して)によって特徴づけられる疾患および障害は、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、低下または阻害する)治療薬によって処置され得る。活性に拮抗する治療薬は、治療的または予防的に投与することができる。
【0127】
したがって、本発明の文脈において利用され得る治療薬には、例えば以下が含まれる:(i)過剰発現または過小発現される1つまたは複数の遺伝子のポリペプチド、またはそれらの類似体、誘導体、断片もしくは相同体;(ii)過剰発現される遺伝子または遺伝子産物に対する抗体;(iii)過小発現される1つまたは複数の遺伝子をコードする核酸;(iv)アンチセンス核酸、または「機能障害性」である核酸(すなわち、1つまたは複数の過剰発現される遺伝子の核酸内部への非相同的挿入のため);(v)低分子干渉RNA(siRNA);または(vi)調節物質(すなわち、阻害物質、過剰/過小発現されるポリペプチドとその結合パートナーとの間の相互作用を変化させる拮抗薬)。機能障害性アンチセンス分子は、相同組換えによってポリペプチドの内因性機能を「ノックアウト」するために用いられる(例えば、Capecchi, Science 244: 1288-1292 1989を参照されたい)。
【0128】
遺伝子および遺伝子産物の発現レベルまたは生物活性がPINにおいて低下していることによって特徴づけられる疾患および障害は、活性を上昇させる治療薬(すなわち、それらに対するアゴニスト)によって治療され得る。活性をアップレギュレートする治療薬は、治療的または予防的に投与され得る。利用し得る治療薬には、生物学的利用能を高めるポリペプチド(またはその類似体、誘導体、断片もしくは相同体)またはアゴニストが含まれるが、それらに限定されない。
【0129】
レベルの上昇または低下は、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、患者の組織試料を(例えば、生検組織から)得、これをRNAまたはペプチドレベル、発現されたペプチドの構造および/もしくは活性(またはその発現が変化している遺伝子のmRNA)に関してインビトロでアッセイすることによって、容易に検出することができる。当技術分野において周知の方法には、イムノアッセイ法(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)、および/またはmRNAの発現を検出するハイブリダイゼーションアッセイ法(例えば、ノーザンアッセイ法、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション等)が含まれるがこれらに限定されない。
【0130】
予防的投与は、疾患もしくは障害が予防されるように、またはその進行が遅れるように、疾患の明白な臨床症状が発現する前に行われる。
【0131】
本発明の治療方法は、細胞を、差次的に発現される遺伝子の遺伝子産物の活性のうち1つまたは複数を調節する作用因子と接触させる段階を含み得る。タンパク質活性を調節する作用因子の例には、核酸、タンパク質、このようなタンパク質の天然同族リガンド、ペプチド、ペプチド模倣物、およびその他の小分子が含まれるがこれらに限定されない。例えば、適した作用因子は、差次的に過小発現される1つまたは複数の遺伝子の1つまたは複数のタンパク質活性を刺激し得る。
【0132】
前立腺癌に対するワクチン接種
本発明はまた、対象におけるPRCの治療または予防の方法であって、PRC 1〜40からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、またはポリペプチドの免疫活性断片、またはこのようなポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む方法にも関する。ポリペプチドの投与は、対象における抗腫瘍免疫を誘導する。抗腫瘍免疫を誘導するためには、PRC 1〜40からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチドもしくはポリペプチドの免疫活性断片、またはこのようなポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを、それを必要としている対象に投与する。このポリペプチドまたはその免疫活性断片はPRCに対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片を、T細胞受容体(TCR)と結合した形態、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)によって提示された形態で投与することもできる。DCの強力な抗原提示能力のため、APCの中ではDCの使用が最も好ましい。
【0133】
本発明において、PRCに対するワクチンとは、動物に接種した時に抗腫瘍免疫を誘導する能力を有する物質を指す。本発明に従い、PRC 1〜40からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチドまたはその断片は、PRC 1〜40を発現するPRC細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA-A24またはHLA-A*0201拘束性エピトープペプチドであることが示唆された。したがって、本発明は、これらのポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般に、抗腫瘍免疫には以下のような免疫応答が含まれる:
−腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導、
−腫瘍を認識する抗体の誘導、および
−抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0134】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか一つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると判定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の反応をインビボまたはインビトロで観察することによって検出することができる。
【0135】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。特に、生体内に入る外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。このAPCによって提示された抗原に対して抗原特異的に応答するT細胞は、抗原による刺激によって細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後、増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTL誘導は、APCを介したT細胞へのペプチドの提示およびCTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も同様に抗腫瘍免疫において重要であることから、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化効果を指標として用いて評価することができる。
【0136】
APCとして樹状細胞(DC)を用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野で周知である。DCは、APCの中でも最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、被験ポリペプチドをまずDCに接触させて、このDCをT細胞に接触させる。DCに接触させた後に、対象細胞に対して細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、被験ポリペプチドが細胞障害性T細胞の誘導活性を有することが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(乳糖デヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法も同様に周知である。
【0137】
DCとは別に、末梢血単核球(PBMC)も同様にAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって増強されることが報告されている。同様に、CTLは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによって誘導されることが示されている。
【0138】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドであると考えられている。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触を通して腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCもまた、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により細胞障害性を獲得したCTLも同様に、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いるそのような腫瘍の治療法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0139】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをDCに接触させることによって上昇することが知られている。したがって、DCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0140】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することができる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、および腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは、抗腫瘍免疫の誘導能を有すると考えられる。
【0141】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導によって、PRCを治療および予防することができる。癌の治療または癌の発症の予防には、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発生抑制のような段階のいずれかが含まれる。死亡率、または癌を有する個体の死亡率の低下、血液中の腫瘍マーカーレベルの低下、癌に伴う検出可能な症状の軽減等も同様に、癌の治療または予防に含まれる。そのような治療および予防効果は好ましくは統計学的に有意である。例えば、細胞増殖疾患に対するワクチンの治療または予防効果を、ワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、有意水準は5%またはそれ未満とする。例えば、スチューデントのt-検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを統計解析に用いてもよい。
【0142】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質またはそのタンパク質をコードするベクターをアジュバントと併用してもよい。アジュバントは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合にタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。例示的なアジュバントには、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるがこれらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適切に組み合わせてもよい。そのような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液等が含まれる。さらに、ワクチンは必要に応じて、安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含んでもよい。ワクチンは、全身または局所投与され得る。ワクチン投与は、1回投与によって行うか、または複数回投与によって追加刺激することができる。
【0143】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、腫瘍を例えばエクスビボ法によって治療または予防することができる。より具体的には、治療または予防を受ける被験者のPBMCを採取して、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させて、APCまたはCTLの誘導後、細胞を被験者に投与してもよい。APCはまた、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することができる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を損傷する高い活性を有する細胞をクローニングして増殖させることによって、細胞免疫療法をより効率よく行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを用いて、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体由来の類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0144】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌のような細胞増殖疾患を治療または予防するための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いてもよい。
【0145】
PRCを阻害するための薬学的組成物
本発明の文脈において、適した薬学的製剤には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくは吹入による投与に適した製剤が含まれる。好ましくは、投与は静脈内である。製剤は任意で用量単位で個別に包装される。
【0146】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれが活性成分の規定量を含むカプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。適した製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、溶液、懸濁液、および乳液が含まれる。活性成分は、任意でボーラス舐剤またはペーストとして投与される。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、充填剤、潤滑剤、崩壊剤、および/または湿潤剤のような通常の賦形剤を含んでもよい。錠剤は、任意で一つまたは複数の製剤成分との圧縮または成形によって作製してもよい。圧縮錠は、粉剤または顆粒剤のような流動状の活性成分を、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、表面活性剤、および/または分散剤と混合して、適した装置において圧縮することによって調製してもよい。成形錠剤は、不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を適した機械において成形することによって作製してもよい。錠剤は、当技術分野で周知の方法に従ってコーティングしてもよい。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形であってもよく、または使用前に水もしくは他の適した溶剤によって構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油が含まれてもよい)、および/または保存剤のような通常の添加剤を含んでもよい。錠剤は任意で、活性成分の徐放または制御放出を提供するように調製してもよい。錠剤の包装は、毎月服用される錠剤1錠を含んでよい。
【0147】
非経口投与に適した製剤には、任意で抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および意図するレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含む水性および非水性滅菌注射剤、さらに懸濁剤および/または濃化剤を含む、水性および非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れてもよく、滅菌液体担体、例えば生理食塩水、注射用水を使用直前に加えるだけでよい凍結乾燥状態で保存してもよい。または、製剤は、連続注入用であってもよい。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に記述した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製してもよい。
【0148】
直腸投与に適した製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような標準的な担体を含む坐剤が含まれる。口内、例えば口腔内または舌下への局所投与に適した製剤には、ショ糖およびアカシアまたはトラガカントのような着香基剤に活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアのような基剤に活性成分を含む香錠が含まれる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を液体スプレー、分散性の粉末、または点鼻剤の形態で用いてもよい。点鼻剤は、一つもしくは複数の分散剤、溶解剤、および/または懸濁剤も含む、水性または非水性基剤によって調製してもよい。
【0149】
吸入による投与の場合、吸入器、ネブライザー、加圧パック、またはエアロゾルスプレーを送達するための、他の簡便な手段によって化合物を送達することができる。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適したガスのような適した噴射剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、一定量を送達するための弁を提供することによって決定してもよい。
【0150】
または、吸入または吹入による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば化合物と、乳糖またはデンプンのような適した粉末基剤との粉末混合物の形状をとってもよい。粉末組成物は、例えば、粉末が吸入器または吹入器を利用して投与され得るカプセル剤、カートリッジ、ゼラチン、またはブリスターパックのような単位投与剤形として提供され得る。
【0151】
他の製剤には、治療薬剤を放出する埋め込み可能装置および接着パッチが含まれる。
【0152】
望ましければ、活性成分を持続的に放出するように適合された、上記の製剤を用いてもよい。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤、および/または保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
【0153】
上記で特に言及した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野において通常の他の薬剤が含まれてもよいことを理解すべきである。例えば経口投与に適した製剤は着香料を含んでもよい。
【0154】
好ましい単位投与製剤は、下記に引用するように、活性成分またはその適当な分画の有効量を含む。
【0155】
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の範囲の用量で経口または注射によって投与され得る。成人ヒトの用量範囲は一般的に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、および最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。錠剤または個別の単位で提供される他の単位投与剤形は、便宜上、同一単位量を複数回投与した量で有効性を示すような単位量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常約100 mg〜約500 mgを含み得る。
【0156】
用いられる用量は、被験者の年齢および性別、治療される正確な障害、およびその重症度を含む多数の要因によって左右されると考えられる。同様に、投与経路も、病態およびその重症度に依存して変化してもよい。いかなる場合においても、適切かつ最適な投与量は、上記の要因を考慮して当業者によってルーチン的に算出され得る。
【0157】
本発明の局面は、添付の特許請求の範囲に記述される本発明の範囲の制限を意図しない以下の実施例において説明される。以下の実施例は、PRCまたはPIN細胞において差次的に発現する遺伝子の同定および特徴付けを説明する。
【0158】
発明を実施するための最良の形態
本発明を以下の実施例において詳細に説明するが、これらは特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。
【0159】
実施例1:一般的な方法
患者および組織試料
組織試料は、前立腺全摘出術を受ける癌患者26例から、インフォームドコンセントにより得た。手術標本はすべて臨床病期T2a〜T3aにあり、N1は有するものと有しないものとがあり、グリーソンスコアは5〜9であった。組織病理学的診断は、LMMの前に一人の病理医が行った。試料はすべて、外科的切除の直後にTissueTek OCT媒体(Sakura, Tokyo, Japan)中に包埋し、使用時まで-80℃で保存した。切除した26例の組織のうち、20例の癌および10例の高度PINは、マイクロアレイ分析を行うための十分な量および質のRNAを有していた。
【0160】
レーザーマイクロビームマイクロダイセクション、およびT7に基づくRNA増幅
LMM、およびT7に基づくRNA増幅を、以前に記載されている通りに行った。パルス式紫外光ナロービームフォーカスレーザー(SL Microtest GmbH, Germany)を装着したEZカットシステムを用いて製造元のプロトコールに従い、前立腺腫瘍細胞、前立腺上皮内腫瘍細胞、および正常前立腺管上皮細胞を選択的に単離した。DNアーゼで処理した後、総RNAを2ラウンドのT7に基づく増幅に供し、各試料から50〜100μgのaRNAを得た。次いで、PRC細胞またはPIN細胞および正常前立腺管上皮細胞由来のaRNAの2.5μgアリコートを、以前に記載されている通りに(Ono et al. 2000)、Cy5-dCTP(腫瘍細胞)またはCy3-dCTP(正常細胞)(Amersham Biosciences, Buckinghamshire, UK)を用いる逆転写によって標識した。
【0161】
cDNAマイクロアレイ分析およびデータの収集
本発明者らは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のUniGeneデータベース(build #131)から選択した23,040種のcDNAを含むゲノムワイドcDNAマイクロアレイシステムを製造した。構築、ハイブリダイゼーション、洗浄およびスキャニングは以前に記載された方法に従って行った(Ono et al. 2000)。ArrayVisionソフトウエア(Imaging Research, Inc.、St. Catharines, Ontario, Canada)を用いて、バックグラウンドを差し引くことにより、23,040個のスポットからのCy3およびCy5のシグナル強度を定量し解析した。次いで、各標的スポットに対するCy5(腫瘍)およびCy3(対照)の蛍光強度を、52種のハウスキーピング遺伝子の平均Cy3/Cy5比が1に等しくなるように調整した。シグナル強度の低いものから得られたデータの信頼性は低いため、各スライドに対してカットオフ値を設定し(Ono et al, 2000)、Cy3色素およびCy5色素の両方でカットオフ値よりも低いシグナル強度が得られた場合、その遺伝子を以降の分析から除外した。他の遺伝子に関しては、各試料の生データを用いてCy5/Cy3比を算出した。
【0162】
PINからPRCへアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子の同定
本発明者らは、以下の基準に従って、20例のPRCおよび10例のPINにおいて発現の変化がみられた遺伝子を同定した:(1)検討した症例の50%超において本発明者らが発現データを入手することができた遺伝子;および(2)情報的価値のある症例の50%超において、その発現比が前立腺癌では3.0を上回り、かつPINでは0.5〜2.0の間であった遺伝子(アップレギュレートされる遺伝子と定義される)、またはその発現比が癌では0.33未満であり、かつPINでは0.5〜2.0の間であった遺伝子(ダウンレギュレートされる遺伝子と定義される)。
【0163】
免疫組織化学
ホルマリン固定およびパラフィン包埋を行った前立腺腫瘍切片を、マウス抗APOD(アポリポタンパク質D)モノクローナル抗体(NEOMARKERS, Fremont, CA)を用いて、APOD発現に関して免疫染色した。前立腺癌組織には、PRC細胞、PIN細胞および正常前立腺上皮が不均一に含まれていた。抗原の回収のために、脱パラフィン処理した組織切片を10mMクエン酸緩衝液、pH 6.0中に配置し、オートクレーブ内で15分間、108℃に加熱した。切片を1:10希釈または1:100希釈したAPODに対する一次抗体と、それぞれ加湿チャンバー内で室温で1時間インキュベートし、ペルオキシダーゼ標識したデキストランポリマー、次いでジアミノベンジジン(DAKO Envision Plus System;DAKO Corporation, Carpinteria, CA)を用いて現像した。切片はヘマトキシリンを用いて対比染色した。陰性対照については一次抗体を省いた。
【0164】
実施例2:PINから前立腺癌への悪性形質転換に際してアップレギュレートまたはダウンレギュレートされる遺伝子の同定
本発明者らは、非浸潤性前駆体PINから悪性癌への移行に関与する可能性の高い遺伝子を検索するために、PINとPRCとの間で差異がみられる発現パターンに注目した(図1)。20例のPRCの発現プロファイルを10例のPINのそれと比較することにより、本発明者らは、40種のアップレギュレートされた遺伝子(表1)および98種のダウンレギュレートされた遺伝子(表2)を同定した。このリストは、POV1、CDKN2C、APOD、FASN、およびVWFをアップレギュレートされたものとして含み、かつITGB2、LAMB2、PLAU、およびTIMP1をダウンレギュレートされたものとして含んだ;変化した遺伝子は、浸潤性PRC細胞の細胞接着または運動性に関与する可能性がある。後者のいくつかは細胞接着およびプロテイナーゼ活性と関連性があり、このことはそれらの発現の変化が、PINからPRCへの移行に際して管構造を破壊することによって浸潤性表現型に寄与する可能性を示唆している。
【0165】
(表1)PINからPRCへの移行においてアップレギュレートされた遺伝子



【0166】
(表2)PINからPRCへの移行においてダウンレギュレートされた遺伝子




【0167】
実施例3:免疫組織化学
PINからPRCへの移行における遺伝子発現パターンを検証するために、本発明者らは、本発明者らのデータ中で、PINからPRCへの移行において差次的に発現された遺伝子の免疫組織化学分析を行った。一般に前立腺癌組織はPRC細胞、PIN細胞、および正常前立腺上皮を不均一に含むため、本発明者らは、同じ患者由来の同一組織上での、前立腺発癌現象に関連する各種の染色パターンを比較した。図2に示されているように、アポリポタンパク質D(APOD)はPRC細胞では大量に発現されたが、同じ患者由来のPINおよび正常前立腺上皮ではAPODタンパク質の発現は、全くないかまたは非常に弱くしか認められなかった。これらの結果はこの発現プロファイル分析の信頼性が非常に高いことを意味する。
【0168】
産業的な利用性
レーザーキャプチャーダイセクション法とゲノムワイドcDNAマイクロアレイとの組み合わせによって得られた、本明細書に記載のPRCおよびPINの遺伝子発現解析により、癌の予防および治療のための標的としての特定の遺伝子が同定された。これらの差次的に発現される遺伝子のサブセットの発現に基づき、本発明は、PRCを発症する素因を診断するための分子診断マーカーを提供する。
【0169】
本明細書に記載した方法は、PRCの予防および治療のためのさらなる分子標的の同定にも有用である。本明細書中に報告したデータは、PRCの包括的理解を深め、新たな診断戦略の開発を促すとともに、治療薬および予防薬の分子標的の同定のための手がかりを提供する。このような情報は、前立腺腫瘍形成に関する理解をさらに深めるのに寄与し、かつPRCの診断、治療、最終的にはその予防のための新たな戦略を開発するための指標を提供する。
【0170】
本明細書において引用した全ての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。さらに、特定の態様を参照して本発明を詳細に説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な変更および改変を本発明に加えることができることは、当業者に明らかであると考えられる。
【0171】
参考文献
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Han M, Partin AW, Piantadosi S, Epstein JI, Walsh PC. J Urol, 166: 416-419, 2001.
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】ヒト前立腺癌の進行に関する経路を示した図である。高度の前立腺上皮内腫瘍(PIN)は、浸潤性PRCに進行する可能性のある主な前癌病変として広く受け入れられている。
【図2】PINからPRCへの移行において差次的に発現されることが同定された遺伝子の免疫組織化学分析の結果を示した写真である。アポリポタンパク質D(APOD)はPRC細胞で大量に発現されたが、同じ患者由来のPINおよび正常前立腺上皮(N)ではAPODタンパク質の発現は全く認められなかった。PRC、PINおよび正常前立腺上皮は1つの前立腺癌組織中に含まれていた。倍率200倍。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるPRCを発症する素因の診断方法であって、患者由来の生物試料におけるPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含み、ここで、該レベルがPINにおける該遺伝子の発現レベルと比較して上昇または低下していることは、該対象がPRCを発症するリスクを有することを示す、方法。
【請求項2】
PRC関連遺伝子がPRC 1〜40からなる群より選択され、ここでレベルがPINにおけるレベルと比較して上昇していることは、対象がPRCを発症するリスクを有することを示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上昇が、PINにおけるレベルを少なくとも10%上回る、請求項2記載の方法。
【請求項4】
PRC関連遺伝子がPRC 41〜138からなる群より選択され、ここで、レベルがPINにおけるレベルと比較して低下していることは、対象がPRCを発症するリスクを有することを示す、請求項1記載の方法。
【請求項5】
低下が、PINにおけるレベルを少なくとも10%下回る、請求項4記載の方法。
【請求項6】
複数のPRC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
発現レベルが、以下の段階からなる群より選択されるいずれか1つの方法によって決定される、請求項1記載の方法:
(a)PRC関連遺伝子のmRNAを検出する段階;
(b)PRC関連遺伝子によってコードされるタンパク質を検出する段階;および
(c)PRC関連遺伝子によってコードされるタンパク質の生物活性を検出する段階。
【請求項8】
発現レベルが、PRC関連遺伝子プローブと患者由来の生物試料の遺伝子転写物とのハイブリダイゼーションを検出することによって決定される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ハイブリダイゼーション段階がDNAアレイ上で行われる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
生物試料が上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
生物試料が前立腺癌細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
生物試料がPRC由来の上皮細胞を含む、請求項8記載の方法。
【請求項13】
PRC 1〜138からなる群より選択される2つまたはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC参照発現プロファイル。
【請求項14】
PRC 1〜40からなる群より選択される2つまたはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC参照発現プロファイル。
【請求項15】
PRC 41〜138からなる群より選択される2つまたはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、PRC参照発現プロファイル。
【請求項16】
以下の段階を含む、PRCの治療または予防のための化合物に関するスクリーニングの方法:
(a)被験化合物を、PRC 1〜138によってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c)ポリペプチドと結合する化合物を選択する段階。
【請求項17】
以下の段階を含む、PRCの治療または予防のための化合物に関するスクリーニングの方法:
(a)候補化合物を1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、ここで1つまたは複数のマーカー遺伝子がPRC 1〜138からなる群より選択される、段階;および
(b)PRC 1〜40からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させる化合物、またはPRC 41〜138からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する段階。
【請求項18】
被験細胞が前立腺癌細胞を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
以下の段階を含む、PRCの治療または予防のための化合物に関するスクリーニングの方法:
(a)被験化合物を、PRC 1〜138からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
(c)PRC 1〜40によってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して抑制する化合物、またはPRC 41〜138によってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して高める化合物を選択する段階。
【請求項20】
以下の段階を含む、PRCの治療または予防のための化合物に関するスクリーニングの方法:
(a)候補化合物を、1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階であって、ここで、1つまたは複数のマーカー遺伝子がPRC 1〜138からなる群より選択される、段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c)該マーカー遺伝子がPRC 1〜40からなる群より選択されるアップレギュレートされたマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現または活性のレベルを対照におけるレベルと比較して低下させる化合物、または該マーカー遺伝子がPRC 41〜138からなる群より選択されるダウンレギュレートされたマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現レベルを対照におけるレベルと比較して高める化合物を選択する段階。
【請求項21】
PRC 1〜138からなる群より選択される2つまたはそれ以上の核酸配列と結合する検出用試薬を含むキット。
【請求項22】
PRC 1〜138からなる群より選択される2つまたはそれ以上の核酸配列と結合する核酸を含むアレイ。
【請求項23】
対象におけるPRCの治療または予防の方法であって、該対象にアンチセンス組成物を投与する段階を含み、該組成物がPRC 1〜40からなる群より選択されるコード配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、方法。
【請求項24】
対象におけるPRCの治療または予防の方法であって、該対象にsiRNA組成物を投与する段階を含み、該組成物がPRC 1〜40からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させる、方法。
【請求項25】
対象におけるPRCの治療または予防の方法であって、PRC 1〜40からなる群より選択されるいずれか1つの遺伝子によってコードされるタンパク質と結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項26】
対象におけるPRCの治療または予防の方法であって、PRC 1〜40からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、もしくは該ポリペプチドの免疫活性断片、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項27】
対象におけるPRCの治療または予防の方法であって、PRC 41〜138の発現または活性を高める化合物を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項28】
対象におけるPRCの治療または予防の方法であって、請求項16〜20のいずれか一項記載の方法によって得られた化合物を投与する段階を含む方法。
【請求項29】
対象におけるPRCの治療または予防の方法であって、PRC 41〜138からなる群より選択されるポリヌクレオチドまたはそれによってコードされるポリペプチドの薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項30】
PRCの治療または予防のための組成物であって、有効成分として、PRC 1〜40からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対する、アンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項31】
PRCの治療または予防のための組成物であって、有効成分として、PRC 1〜40からなる群より選択されるいずれか1つの遺伝子によってコードされるタンパク質と結合する抗体またはその断片の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項32】
PRCの治療または予防のための組成物であって、有効成分として、請求項16〜20のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−525220(P2007−525220A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500403(P2007−500403)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002090
【国際公開番号】WO2005/083118
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】