説明

PK複合肥料

【課題】緩効性のカリウム肥料であって、特に、元肥を施用し小麦を播種した後、なたね梅雨期(ムギ茎立ち期)初期に肥効が発現する緩効性のカリウム肥料を提供する。
【解決手段】汚泥燃焼灰にカリウム含有物と、カルシウム含有物と、マグネシウム含有物と、珪酸含有物とを混合して加熱熔融し、得られた熔融物を水砕処理して固化することにより得られた固形物の粒度を調整して得たPK複合肥料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPK複合肥料に関し、特に、緩効性のカリ高PK複合肥料に関する
【背景技術】
【0002】
近年の耕種農業においては、作物生育ステージに沿った施肥や省力化の必要性から、また、陸水環境に対する肥料成分負荷の軽減や資源の節約リサイクルの観点から、1回の施肥で長期間にわたって作物を生育させることができる肥料、すなわち緩効性肥料が求められている。
【0003】
加里を含む緩効性肥料については、3要素の窒素とりん酸との組み合わせによるものと加里だけを含むものとがある。特に加里成分の緩効性に関しては、水には難溶であるがクエン酸には可溶であるため土壌中で徐々に溶出して肥効が長期にわたって持続する肥料タイプと樹脂等で表面を被覆し皮膜の透過性により溶出をコントロールしている肥料タイプ(コーティング肥料)とに分けられ、一部は既に実用化している。
【特許文献1】特開昭51−118672号公報
【特許文献2】特開昭60−127286号公報
【特許文献3】特開2000−226285号公報
【特許文献4】特開昭55−51784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の発明は「緩効性カリ肥料の製造方法」に関するものであるが、カリウム鉱物を使用しているため、カリウム成分が低くなっている。特許文献2記載の発明は、「緩効性溶性珪酸カリ苦土肥料の製造法」に関するものであるが、カリウム源が炭酸カリ、苛性カリであるため、コスト高になっている。また、粉砕条件については、水砕物の好適粒度が直径1〜4mm程度となっており、このままでは難溶解性となって施肥効率が著しく劣る。
【0005】
特許文献3記載の発明は、「緩効性カリ肥料」に関するものであるが、カリウム源が炭酸カリであるため、コスト高になっている。また、カリウムの緩効度を肥料分析法のT. KO、C. KO、W. KOの割合で評価しているにすぎず、実際の植物体による吸収との関連が不明である。
【0006】
最近の研究では、わが国の小麦収量が欧州諸国に比較し顕著に低いのは、本州以南で発生する「なたね梅雨」がカリウムを土壌から流亡させ、それによって生育に必要なカリウムや窒素成分が不足することが原因の一つであることがあきらかになってきており、この時期にカリウムを追肥することで子実の収量を飛躍的に増大させることができた事例が発表されている。
【0007】
しかし、実際の小麦栽培体系では、労力不足と麦価格の低迷のため「なたね梅雨」期に追肥がおこなわれることはほとんどない。もし仮に元肥段階で、なたね梅雨期(ムギ茎立ち期)初期に肥効が発現するカリウム肥料を施用できれば、労力面、収量面、環境負荷面からも非常に大きな効果が期待できる。
【0008】
また、特許文献4記載の発明は「珪酸カリ肥料の製造方法および製造装置」に関するものであるが、フライアッシュとカリウム源として炭酸カリ、苛性カリとを混合し、加熱温度900〜1100℃で、焼成状態においてク溶性の結晶性物質を生成させているものである。このようにして製造された珪酸カリ肥料のカリウムは溶出が比較的早く、より緩効度を要求される栽培場面では不十分な溶解特性となっている。
【0009】
本発明は、緩効性のカリウム及びりん酸、カルシウム、マグネシウム、珪酸肥料であって、特に、元肥を施用し小麦を播種した後、なたね梅雨期(ムギ茎立ち期)初期に肥効が発現する緩効性カリウム肥料を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本願は以下の発明を提案するものである。
【0011】
請求項1記載の発明は、汚泥燃焼灰にカリウム含有物と、カルシウム含有物と、マグネシウム含有物と、珪酸含有物とを混合して加熱熔融し、得られた熔融物を水砕処理して固化することにより得られた固形物の粒度を調整して得たPK複合肥料である。
【0012】
請求項2記載の発明は、調整した固形物の粒度が0.5mm以下で、かつ149μm以下のものが60%以上含有されていることを特徴とする請求項1記載のPK複合肥料である。
【0013】
請求項3記載の発明は、調整した固形物のブレーン比表面積が1000cm2/g以上1500cm2/g未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の熔融型のPK複合肥料である。
【0014】
請求項4記載の発明は、(CaO+MgO+KO)/(SiO+P)のモル比が1.1以上2.2未満であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載のPK複合肥料である。
【0015】
請求項5記載の発明は、ク溶性カリ(KO)成分の含有量が10wt%以上20wt%未満であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の熔融型のPK複合肥料である。
【0016】
請求項6記載の発明は、カリウム含有物が、カリ長石、カリ石英素面岩、絹雲母、海緑石、炭酸カリウム、水酸化カリウムのいずれか一種以上と、鶏ふん燃焼灰、パーム燃焼灰の中の一種以上との組み合わせであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項記載の熔融型のPK複合肥料である。
【0017】
請求項7記載の発明は、加熱熔融工程における加熱温度が1400〜1550℃であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載のPK複合肥料である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、緩効性のカリウム肥料であって、特に、元肥を施用し小麦を播種した後、なたね梅雨期(ムギ茎立ち期)初期に肥効が発現する緩効性のカリウム肥料を提供することができる。
【0019】
なたね梅雨期(ムギ茎立ち期)初期に肥効が発現するという機能だけをとらえれば、従来から知られていたコーティング肥料でも十分その機能を果たせるが、コーティング肥料は窒素、りん酸、カリウムの三要素が中心で珪酸の溶出まで制御しているものは存在していなかった。特に珪酸に関しては、光合成の促進、乾物生産・根の活性・耐倒伏性の向上、病害・虫害に対する抵抗性の向上などの効果から見直され、近年珪酸の効果に重点をおいた新肥料の研究開発も活発化しているところであるが、本発明のPK複合肥料によれば、カリウムだけでなく、りん酸、カルシウム、マグネシウム、珪酸もク溶性になっており緩効的に吸収される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明が提案するPK複合肥料は、汚泥燃焼灰にカリウム含有物と、カルシウム含有物と、マグネシウム含有物と、珪酸含有物とを混合して加熱熔融し、得られた熔融物を水砕処理して固化し、こうして得られた固形物の粒度を調整して製造される熔融型のものである。
【0021】
本発明のPK複合肥料において、製造工程で水砕処理により固化して得た固形物(水砕物)の粒度を調整しているのは、粒度の大きさによって溶出期間(肥効発現期間)を制御できることを考慮したものである。
【0022】
本発明のPK複合肥料においては、前記の製造工程で調整した後、固形物の粒度が0.5mm以下で、かつ149μm以下のものが60%以上含有されているものとなることが望ましい。
【0023】
前述した工程を経て製造される本発明のPK複合肥料は、粒度が細かいほど作物への高い吸収率を示すが、緩効性、例えば、小麦の栽培に当たって、本発明のPK複合肥料を元肥で施用し播種した後、なたね梅雨の時期(播種後4ヶ月程度)まで肥効が持続するような緩効性を持たせる上で、固形物の粒度が0.5mm以下で、かつ149μm以下のものが60%以上含有されていることが望ましいからである。
【0024】
前述した工程で本発明のPK複合肥料を製造するにあたり、固形物の粒度を調整する方法については、水砕処理して得られる固形物は砂状のため、さらに粉砕工程を経ることが望ましい。粉砕は対象物がガラス質で非常に硬い点と目標とする固形分の粒度より、乾式粉砕で行うのが好ましい。まず水砕品を水切りしただけでは十分水分が抜けきらないので、粉砕に支障がない程度まで乾燥する。乾燥方法、乾燥機の種類については特に限定されるものではない。次に乾燥した砂状の固形物を粉砕機に通し粒度を調整する。粉砕機の種類については特に限定されるものではないが、ブラウン型粉砕機、ロッドミル、ボールミル等を用いるとよい。
【0025】
前述した工程を経て製造される本発明のPK複合肥料において、調整した固形物のブレーン比表面積が1000cm2/g以上1500cm2/g未満であることが望ましい。本発明のPK複合肥料を元肥で施用し、なたね梅雨の時期まで肥効が持続するような緩効性を持たせるという観点と、本発明のPK複合肥料を製造する際の効率性を考慮したものである。
【0026】
前述した工程を経て製造される本発明のPK複合肥料においては、製造したPK複合肥料における(CaO+MgO+KO)/(SiO+P)のモル比が1.1以上2.2未満であることが望ましい。
【0027】
前述した工程で本発明のPK複合肥料を製造するにあたり、熔融液の流動性が低下すると生産に支障を来たすことになるため、アルカリモル比を高めて製造場面で支障のない熔融液の流動性を確保すると共に、カリウム肥料としての有用性から、(CaO+MgO+KO)/(SiO+P)のモル比を1.1以上2.2未満とすることが望ましい。
【0028】
前述した工程を経て製造される本発明のPK複合肥料においては、ク溶性カリ(KO)成分の含有量が10wt%以上20wt%未満であることが望ましい。ク溶性カリ(KO)成分の含有量が10wt%未満では、カリウム肥料としての有用性に乏しく、一方、20wt%以上は、加熱熔融時のカリウムの揮散ロス割合が増大し、好ましくない。
【0029】
なお、前述した工程で本発明のPK複合肥料を製造するにあたり、汚泥燃焼灰としては、下水汚泥の燃焼灰を用いることができる。下水汚泥燃焼灰は、下水処理に付随して発生する汚泥を脱水焼却したもので、全国的に大量に発生するにもかかわらず一部建築資材で利用されている他十分再利用が図られていない。循環型社会の形成のためにも、その有効利用が望まれている。また汚泥燃焼灰は珪酸、りん酸を多く含み、その他カルシウム、マグネシウム、カリウムなどの肥料成分も含んでいるため、比較的単純な原料組み合わせで(CaO+MgO+KO)/(SiO+P)モル比を調整することができる。また一度燃焼しているためイグロス分、水分が少なく加熱熔融しやすいなどの利点を持っている。
【0030】
なお、汚泥燃焼灰の中にはクロム、ニッケル、カドウミウム、水銀、鉛などの重金属が含まれている場合があり、再利用の妨げになっているが、本発明のPK複合肥料を前述した工程により製造すれば、これらを分離し除去することができる。
【0031】
また、カリウム含有物は、カリ長石、カリ石英素面岩、絹雲母、海緑石、炭酸カリウム水酸化カリウムのいずれか一種以上と、鶏ふん燃焼灰、パーム燃焼灰の中の一種以上とを組み合わせたものとすることができる。炭酸カリウム、水酸化カリウムは背景技術の欄で説明した先行技術でも使用されているが、コストを上げる要因にもなるため、カリ長石、カリ石英素面岩、絹雲母、海緑石等天然鉱物を含めた候補原料の中から、安価に入手できるものを選択すればよい。また鶏ふん燃焼灰は養鶏業から、パーム燃焼灰はマーレシア、インドネシアのパーム油産業から大量に副産物として発生するもので、比較的安価に入手できるばかりでなく、カリウム成分の他、りん酸、珪酸、マグネシウムなどの肥料成分も含むため未利用資源の循環使用の見地からも有意義である。
【0032】
カルシウム含有物としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、石灰岩等を、またマグネシウム含有物としては、酸化マグネシウム、軽焼マグネシウム等、またカルシウムとマグネシウムの両者を含むドロマイト、焼成ドロマイトを用いることができる。これらは単品で土壌改良資材や他用途向けに広く流通しており、しかも比較的安価である。
【0033】
珪酸含有物としては、けい石、けい砂、また使用済み上水用ろ過砂なども用いることができる。またフェロニッケル鉱滓、フェロマンガン鉱滓、各種高炉滓、各種製鋼滓、製りんスラグ等の主成分として珪酸を含有する原料類も使用できる。
【0034】
前述した工程で本発明のPK複合肥料を製造するにあたり、加熱温度は1400〜1550℃にすることが望ましい。1400℃以下では原料の組み合わせによっては十分熔融しきれない場合があるが、1400℃〜1550℃の温度では前述した原料の組み合わせのほとんどが熔融する。また、1550℃以上はりん酸、カリウムの揮散が促進される点と必要以上のエネルギーコストがかかるという理由から好ましくない。
【0035】
前述した工程を経て製造される本発明のPK複合肥料は、そのままでも肥料、土壌改良剤として使用できるが、そのままでは微粉のため、施肥時に風によって飛散するなど支障をきたす場合がある。そのため施肥時の取り扱いや機械撒きを考慮し造粒してもよい。造粒の方法は特に限定されるものではないが、このものはガラス質で造粒し難い性質を有するため通常造粒助剤を用いて造粒する。ただし、後述するように粉の粒度が肥効発現に大きく影響するため、造粒品が施肥後比較的すみやかに崩壊することが必要である。そのため水溶性または微生物分解性の廃糖蜜、アルコール廃液、リグニン、サッカロース等糖類、でんぷん類、CSL、CMC、ポバール等の助剤を選択するのが望ましい。また腐植酸や有機物などといっしょに造粒し、吸水膨潤して崩壊するようにするのも方法の一つである。また、必要に応じて窒素、りん酸などの他の肥料を混合して、所望の成分の複合肥料として造粒することもできる。
【実施例1】
【0036】
(PK複合肥料の製造)
熔融型である本発明のPK複合肥料を以下の要領で製造した。
【0037】
表1の配合で調製した原料10.98Kgを1回分とし、10回分を直流式電気抵抗炉に、11Kg/hrの投入ペースで徐々に溶融した。
【表1】

【0038】
使用した直流式電気抵抗炉は、有効容量30リットル(炉内寸法:内径300mm、有効高さ:450mm)、定格電力20KVA、定格処理量:20Kg/hr(原料はスクリュー式投入機で炉内へ投入)である。
【0039】
7回分を投入し、ほぼ全量が熔融したことを確認した後、出滓口のレンガにドリルで穴を開け、出滓した。出滓物は雨どい状の鉄パイプに流し、鉄パイプには併行して圧力水を流し、急冷水砕した。流れ出した水砕品と水は一旦鉄製水槽で受けた。次いで、水砕品を沈降させ、水はオーバーフローさせ排出する方式で水砕品を分離した。
【0040】
前記のように出滓が終了した後、出滓口のレンガに形成されていた穴にパテを詰めて塞ぎ、残りの3回分の配合原料を投入し、再び溶融した。そして、前記と同様の操作を行って急冷水砕し、水砕品を分離した。
【0041】
前記のようにして分離した水砕品をふるいで掬い取り、水をよく切ってから棚型乾燥機で乾燥し、水砕スラグ88Kgを得た。
【0042】
前記における投入電力と温度変化は図1図示の通りである。
【0043】
次に、前記のようにして得た水砕スラグから一部を取り出し、ブラウン式粉砕機で粉砕し、表2に示す粒度分布のPK複合肥料5Kgを得た。
【表2】

【0044】
こうして得られたPK複合肥料の成分分析を行ったところ、表3の通りであった。
【表3】

【0045】
成分分析によれば、カリ成分はほとんどがク溶化(C.KO/T.KO=99.9%)しており、水で溶ける部分(W.KO)はほとんど無かった。
【0046】
また、前記のPK複合肥料における(CaO+MgO+KO)/(SiO+P)のモル比を調べたところ、1.14 であった。
【0047】
前記のPK複合肥料についでX線回折分析を行ったところ、図2のようになった。特定の結晶のピークを示さず、ガラス化していることが確認された。
【0048】
(検討試験1)
本発明のPK複合肥料のような熔成型肥料は一般に成分的にアルカリモル比が低くなると熔融液の流動性が低下し、生産に支障をきたすようになる。本発明のPK複合肥料についても同様なことが考えられるので、アルカリモル比と流動性の関連について検討を行なった。
【0049】
表4の配合で調製したA、B、C、D、E、Fで示した6種類の原料(約0.5g)をそれぞれセラミック燃焼ボードの上部に詰め、このセラミック燃焼ボードをマッフル炉の中に30度傾斜させて静置した。これを1400℃で15分間加熱することにより熔融し、冷却後、取り出して熔融及び流れの程度を比較検討した。
【0050】
A〜Fの6種類の原料は、Aを基本の調製とし、これに段階的にアルカリ(酸化カルシウム)を増加させたものである。
【表4】

【0051】
試験の結果、アルカリモル比が高くなるほど流動性が増す傾向が見られた。
【0052】
実際の製造場面での流動性を考慮するとCの成分配合以上のアルカリの投入が必要と考えられた。一方、Fの成分配合以上にアルカリを投入するとカリ成分が10%以下となることから、本発明の目的とする肥料価値が低下するので好ましくない。
【0053】
そこで、本発明のPK複合肥料においては、(CaO+MgO+KO)/(SiO+P)のモル比は1.1〜2.2の範囲であることが望ましいと考えられる。
【0054】
(検討試験2)
実施例1で製造したPK複合肥料について、表5に示す粒度範囲に調整し、弱酸液(2%クエン酸二アンモニウム液:pH5.1)と蒸留水の中での経時的なカリウム溶出を測定することにより、溶出時期の検討を行なった。
【表5】

【0055】
試験は、2%クエン酸二アンモニウム液(pH5.1)と蒸留水とをそれぞれ100ミリリットルずつスチロール瓶に入れ、T. KO200mgとなるように検定試料(PK複合肥料)、比較対照として肥料用塩化カリウム(以下塩化カリウムとする)及び肥料用ケイ酸カリ(以下ケイ酸カリとする)を浸漬し、4℃及び20℃で、所定の時間(7日間、17日間、30日間、56日間)経過後に、浸漬液を全量ろ過し、液中のカリウム濃度を原子吸光計で測定して行った。
【0056】
結果は、表6、表7、図3、図4に示すようになった。
【表6】

【表7】

【0057】
本発明のPK複合肥料の場合、2%クエン酸二アンモニウム液(pH5.1)への溶出率は粒度に比例していた。
【0058】
また、僅かな差であるが、すべての処理区において、4℃のときよりも20℃のときの方が溶出率が高くなった。
【0059】
蒸留水への溶出は、ほとんど認められなかったが、20℃の212μm以下の粒度で若干認められた。
【0060】
一方、比較対照とした塩化カリウムについては、2%クエン酸二アンモニウム液(pH5.1)では、4℃、20℃いずれの場合にも、7日間経過した時点で全量が溶出した。
【0061】
また、ケイ酸カリに関しては、2%クエン酸二アンモニウム液(pH5.1)では、7日間経過時点から高い溶出率を示し、その後も、高い溶出率を示し続けた。蒸留水でも、7日間経過時点から高い溶出率を示し、その後も、高い溶出率を示し続けた。
【0062】
本発明のPK複合肥料については、蒸留水への溶出が殆ど認められず、弱酸(クエン酸二アンモニウム溶液 pH5.1)で溶出が認められたことから、施肥した場合に、雨水によって簡単に溶け出さず、作物の根圏において根酸の影響下で吸収される可能性があることが示された。
【0063】
また、粒度によって溶出時期(肥効発現時期)を制御できることが示された。
【0064】
(検討試験3)
実施例1で製造したPK複合肥料について、表8に示す3種の粒度範囲に調整し、小麦圃場を想定してのカリウム溶脱について検討した。
【表8】

【0065】
試験は、塩化ビニール製のカラム(内径10cm、長さ8cmの塩化ビニールパイプを輪切りにしたものを6個積み重ね接合部をビニールテープで補強したもの)に黒ぼく土壌を充填し、カラム最上層の土壌に表8に示した3種類の粒度範囲の本発明のPK複合肥料及び、比較対照として、ケイ酸カリ、塩化カリウムをそれぞれ混和した。また、1個についてはなにも混和しなかった。
【0066】
このようにして準備した6組のカラムに、小麦栽培期間中の平均的な降雨量と同程度になるような水量の蒸留水を1ケ月間で潅水した。カラム最下層から流出してきた水をゴム管を通して瓶に集め、経時的に瓶に溜まった水のカリウム濃度を測定した。結果は表9、図5の通りであった。
【表9】

【0067】
塩化カリウムを混和していたカラムのみでカリウムの溶脱が認められ、本発明のPK複合肥料では、いずれもカリウム溶脱が認められなかった。
【0068】
塩化カリウムのような水溶性のカリ肥料ではカリウムの溶脱が起こるのに対して、本発明のPK複合肥料は、小麦栽培期間中の平均的な降雨量に相当する雨水でもカリウム溶脱が起こらなかった。
【0069】
(検討試験4)
実施例1で製造したPK複合肥料について、表10に示す3種の粒度範囲に調整し、元肥を施用した後、追肥を行わない場合の小麦による吸収性について検討した。
【表10】

【0070】
ノイバウェルポット6個にそれぞれ土壌を400g充填した。各ポット当たりNPK各100mgとなるように、硫安、過石、表10記載の各処理区試料及び比較対照として、ケイ酸カリ、塩化カリウムを添加して、小麦種子2g(農林61号、約50粒、植物体による吸収を促進するため密植状態とした)を播種した。また、比較対照として前記のように準備したポットの土壌になにも添加せず、前記のように播種したポットを1個準備した。
【0071】
その後、ガラスハウスで4週間栽培した後、小麦の地上部及び根部を刈り取り、重量を測定した。刈り取った作物体は乾燥後、カリウム含量を測定し、各ポットあたりの小麦中(茎葉部+根部)のカリウム含有量(吸収量)を算出した。結果は、表11、図6の通りであった。
【表11】

【0072】
カリウム含有量は塩化カリウムが添加されていたポットのものが最も高く、何も添加していなかったポットのものが最も低かった。
【0073】
本発明のPK複合肥料については、熔融標準、熔融中間、熔融微粉とも、塩化カリウムが施用されたポットほどではないが小麦に吸収されていることが確認できた。
【0074】
本発明のPK複合肥料は小麦により吸収されることを確認でき、粒度が細かいほど吸収率が高いことが確認された。しかし、熔融微粉では、塩化カリウムの場合に近い吸収率で、4週目にしては、むしろ吸収が早すぎると認められた。
【0075】
小麦の栽培に当たっては、播種後、なたね梅雨が4ヶ月程度で始まるが、本発明のPK複合肥料を元肥で施用し、なたね梅雨の時期まで肥効が持続するような緩効性を持たせるためには、熔融標準の粒度調整で十分と考えられた。
【0076】
(検討試験5)
実施例1で製造したPK複合肥料について、表12に示す4種の粒度範囲に調整し、粉体の比表面積を測定した。
【表12】

【0077】
表12に示す4種の試料を110℃で乾燥後、加圧成形し恒温通気式比表面積装置にセットし、試料ベットに空気を通過させ、それに要した時間より比表面積を算出した(使用機種:ブレーン比表面積計(島津製作所製SS−100型))。結果は表13の通りであった。
【表13】

【0078】
検討試験4の小麦の吸収性試験との相関で見ると、本発明のPK複合肥料を元肥で施用し、なたね梅雨の時期まで肥効が持続するような緩効性を持たせるためには、熔融微粉(非表面積3020cm2)では吸収が早すぎ、熔融標準(1360cm2)乃至熔融中間2(1210cm2)の比表面積のものが適していると考えられた。しかし、粉砕したものを篩い分けして熔融中間2のものだけを取り出すのは非効率的であるから、実用上は比表面積が1000cm2/g以上1500cm2/g未満であれば十分と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、緩効性のカリウム肥料であって、特に、元肥を施用し小麦を播種した後、なたね梅雨期(ムギ茎立ち期)初期に肥効が発現する緩効性のカリウム肥料を提供することができる。これにより、梅雨の時期に追肥を行う必要がなくなるので、労力面、収量面、環境負荷面からも非常に大きな効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の熔融型のPK複合肥料を製造するにあたって直流式電気抵抗炉で熔融を行う場合に投入する電力と、炉壁温度の変動状況の一例を示す図。
【図2】本発明のPK複合肥料についてのX線回折分析結果を表す図。
【図3】本発明のPK複合肥料について行った弱酸液(2%クエン酸二アンモニウム液:pH5.1)への溶出試験結果(温度:20℃)を示すグラフ。
【図4】本発明のPK複合肥料について行った蒸留水への溶出試験結果(温度:20℃)を示すグラフ。
【図5】本発明のPK複合肥料について行った土壌カラムでのカリウム溶脱試験結果を示すグラフ。
【図6】本発明のPK複合肥料について行った、元肥を行った後、追肥を行わない場合の小麦による吸収性についての試験結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥燃焼灰にカリウム含有物と、カルシウム含有物と、マグネシウム含有物と、珪酸含有物とを混合して加熱熔融し、得られた熔融物を水砕処理して固化することにより得られた固形物の粒度を調整して得たPK複合肥料。
【請求項2】
調整した固形物の粒度が0.5mm以下で、かつ149μm以下のものが60%以上含有されていることを特徴とする請求項1記載のPK複合肥料。
【請求項3】
調整した固形物のブレーン比表面積が1000cm2/g以上1500cm2/g未満であることを特徴とする請求項1又は2記載のPK複合肥料
【請求項4】
(CaO+MgO+KO)/(SiO+P)のモル比が1.1以上2.2未満であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載のPK複合肥料。
【請求項5】
ク溶性カリ(KO)成分の含有量が10wt%以上20wt%未満であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載のPK複合肥料。
【請求項6】
カリウム含有物が、カリ長石、カリ石英素面岩、絹雲母、海緑石、炭酸カリウム、水酸化カリウムのいずれか一種以上と、鶏ふん燃焼灰、パーム燃焼灰の中の一種以上との組み合わせであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項記載のPK複合肥料。
【請求項7】
加熱熔融工程における加熱温度が1400〜1550℃であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載のPK複合肥料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−269800(P2009−269800A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122733(P2008−122733)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(392027933)朝日工業株式会社 (7)
【出願人】(000001834)三機工業株式会社 (316)
【Fターム(参考)】