説明

PKCθ阻害物質を同定するための細胞アッセイ法

本発明は、ヒト細胞もしくは動物細胞において、試験物質がPKCθ依存性のシグナル伝達経路にもたらす調節作用を調査するための、又はPKCθ調節物質を見出すための方法であって、(a)細胞と、試験物質もしくはPKCθ調節物質とを接触させる工程;(b)適宜、PKCθのキナーゼ活性を誘導する工程;(c)該細胞を、PKCθの少なくともセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化をもたらす条件下でインキュベートする工程;(d)適宜、細胞を溶解する工程;及び(e)PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率を測定する工程を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト細胞もしくは動物細胞において、PKCθ依存性のシグナル伝達経路に対する試験物質の調節作用を調査するための方法並びにPKCθ調節物質を見出すための方法に関する。好ましい一実施態様では、当該方法は、プロテインキナーゼCのアイソフォームθ(PKCθ)のキナーゼ活性に対する試験物質の調節作用を測定するのに適している。
【0002】
プロテインキナーゼC(PKC)は、多くのシグナル伝達過程並びに増殖及び分化の制御に関与している。プロテインキナーゼCのアイソフォームθ(PKCθ)は、T細胞のシグナル伝達における主要な酵素であり、従って細胞性免疫応答に重要な役割を担う。
【0003】
T細胞の活性化は、複数の酵素及び受容体が関与する複雑なメカニズムによって行われる。その活性化は、種々の細胞性基質をリン酸化するSrc及びSykのファミリーのT細胞受容体結合チロシンキナーゼの刺激によって開始される。これに引き続き、種々のシグナル伝達カスケードに関与する膜シグナル複合体が形成される。前記複合体は、シグナルを細胞核に伝達し、そしてそこで種々の遺伝的過程を誘導する。
【0004】
PKCθは、PKCファミリーのアイソフォームであり、そのキナーゼ活性は、ジアシルグリセロールに依存するが、Ca2+に依存しない。PKCθは、実質的に選択的に骨格筋細胞及びT細胞(Tリンパ球)において発現され、そしてT細胞の活性化において中心的な役割を担う。PKCθは、T細胞におけるc−JunのN末端キナーゼ(JNK)と転写因子AP−1とを特異的に活性化し、そしてIL−2遺伝子の活性化においてカルシニューリンと共に相乗的に作用する。その上、PKCθは、T細胞が刺激細胞と接触した場合に膜シグナル複合体の形成に関与することが今日までに知られている唯一のプロテインキナーゼCのアイソフォームである。PKCθの2種のアイソフォーム(PKCθI及びPKCθII)が知られており、そのうち後者は恐らく精子生成の役割を担う(Y.S.Niino他著のJ.Biol.Chem.2001,276(39),36711を参照)。
【0005】
PKCθは、新規な薬理学的な有効成分、例えば新規の免疫調節物質、特に免疫刺激物質及び免疫抑制物質又は筋疾患の治療剤を探査するにあたっての良好なターゲットである。
【0006】
PKCθのリン酸化に作用を有する剤を同定するための方法は、当該技術分野で知られている。このように、WO01/48236号は、PKCθが、ジャーカット細胞系統のT細胞中の制御ドメイン中のTyr90で、チロシンキナーゼLck(Srcファミリーのメンバー)によって、TCR/CD3活性化の結果としてリン酸化されることを開示している。チロシンキナーゼLckの阻害物質を、TCR/CD3活性化の後に、ジャーカットT細胞におけるPKCθのチロシンリン酸化に対するそれらの作用を測定することによって同定することが提案されている。
【0007】
Tyr90以外に、PKCθの他のリン酸化部位、すなわちThr538、Ser676及びSer695が当該技術分野において説明されている(Liu他著のBiochem.J.(2002)361,255−265を参照)。目下、これらのリン酸化部位に対するリン酸化型特異的抗体(抗PKCθリン酸化Thr538抗体、抗PKCθリン酸化Ser676抗体及び抗PKCθリン酸化Ser695抗体)は、また例えばabcam Ltd.(英国・ケンブリッジ在);Cell Signalling Technology Inc.(米国・ビバリー在);BioSource International(米国・カマリロ在);Santa Cruz Biotechnology(米国・サンタクルーズ在)及びNovus Biologicals,Inc.(米国・リトルトン在)から市販されている。
【0008】
PKCθの酵素活性を測定するための慣用の試験システムは、通常は、組み換え発現されたタンパク質が使用される、酵素的なインビトロの基質リン酸化アッセイを基礎とする。しかしながら、酵素がまずカスケードを介して活性化されねばならないインビボでの状況とは異なり、これらの試験システムで提供される酵素は、既に活性であり、従って生理学的状況下のその状態に相当しない。この結果は、例えば膜相互作用及びシグナル伝達カスケードに関与する他のタンパク質との相互作用、例えばアダプタータンパク質への考え得る結合は、従来の試験システムによっては検出できない。
【0009】
従って、本発明の課題は、PKCθ依存性のシグナル伝達経路に対する、特にPKCθの酵素活性に対する試験物質の調節作用を調査することが可能であるか、又はPKCθ調節物質を、インビボ条件下で、すなわち生理学的基質としてPKCθを用いて見出すことができる試験システムを提供することである。その試験システムは、高感度であり、可能であれば試験物質ライブラリーのハイスループット・スクリーニング(HTS)に適していることが意図されていた。用量−作用の関連性を記録可能にすることが意図されていた。
【0010】
驚くべきことに、前記課題は、ヒト細胞もしくは動物細胞において、
− PKCθ依存性のシグナル伝達経路に対する試験物質の調節作用を調査するための、又は
− PKCθ調節物質を見出すための
方法であって、以下の工程
(a)細胞と試験物質もしくはPKCθ調節物質とを接触させる工程;
(b)適宜、PKCθのキナーゼ活性を誘導する工程;
(c)その細胞を、少なくともPKCθのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化、有利にはPKCθの位置219のトレオニン残基のリン酸化をもたらす条件下でインキュベートする工程;
(d)適宜、細胞を溶解させる工程;及び
(e)PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基の、有利にはPKCθの位置219のトレオニン残基のリン酸化比率を測定する工程
を含む方法によって解決できることが判明した。
【0011】
本発明の詳細な説明の文脈におけるPKCθ依存性のシグナル伝達経路に対する"調節作用を有する試験物質"は、PKCθが関与する、すなわちPKCθが進行されるべき反応を触媒するシグナル伝達経路に対する活性化作用もしくは阻害作用を有する物質を含む。試験物質の調節作用、すなわち活性化作用もしくは阻害作用は、有利には、試験物質の存在下でインビボにおいて、他は同じ条件下で試験物質が存在しない状況と比較して、シグナル伝達経路内で最終生成物もしくは中間体が高められたもしくは低められた程度で形成されることをもって明らかになる。この最終生成物もしくは中間体は、更に好ましくは、PKCθが既にその機能を果たした後にシグナル伝達経路内で形成される。この最終生成物もしくは中間体は、有利には、PKCθによって触媒されるリン酸化反応の直接的な反応生成物である。しかしながらまた、その試験物質の調節作用は、有利には、適宜更なる酵素が関与して、この直接的なインビボでの反応生成物から最終的に誘導される後続生成物において現れる。
【0012】
本発明の詳細な説明の文脈における"PKCθ依存性のシグナル伝達経路"は、原則的に、PKCθが関与する如何なる生化学的反応経路、有利には酵素カスケードでもある。この関連において、PKCθは、また、特定の反応の基質、例えばリン酸化反応の基質であってよく、その場合には、試験物質は、このリン酸化反応の率に対して直接的もしくは間接的な作用を呈する。試験物質が、その調節作用を、PKCθそれ自身によって触媒されるリン酸化反応に対して呈することが好ましい。試験物質は、有利にはその調節作用を、PKCθがそれ自身この反応の基質であるPKCθに触媒されるリン酸化反応(自己リン酸化)に対して示す。
【0013】
試験物質は、この場合にPKCθに対して直接的に作用する必要はない。それに対してまた、例えば反応経路(酵素カスケード)においてPKCθに先行する一定のタンパク質もしくは酵素は、試験物質によって調節されうるので、該試験物質のこの反応経路における調節作用は、PKCθの活性に対して間接的な作用を有するに過ぎない。
【0014】
本発明の詳細な説明の文脈におけるPKCθ"調節物質"は、PKCθの活性化物質と阻害物質の両方を含む。T細胞におけるPKCθの機能のため、一方でPKCθの活性化物質は、免疫刺激物質として作用でき、そして他方でPKCθの阻害物質は、免疫抑制物質として作用できる。
【0015】
"調節"とは、本発明の詳細な説明の文脈において、PKCθ調節物質(又は試験物質)が存在することで、PKCθ調節物質(又は試験物質)が存在せず、その他は同じ条件下の場合と比較して差異が確認されることを意味する。活性化もしくは阻害をしうる調節作用は、前記の相対的な比較において明らかになる。
【0016】
本発明の方法において、工程(a)、適宜(b)、(c)、適宜(d)及び(e)は、挙げられる順序で行われ、その際、個々の工程を同時に実施することが可能である。工程(b)と(d)は、随意である。本発明の方法は、特に好ましくは、全ての工程(a)から(e)を含み、その際、工程(b)と(c)を同時に実施することが好ましい。
【0017】
本発明の方法において、PKCθは、工程(c)においてリン酸化反応の基質としてはたらく。PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化は、インビボでは種々のキナーゼによって触媒されうる。PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化は、有利には、PKCθそれ自身によって触媒される、すなわち少なくとも部分的に自己リン酸化として進行する。
【0018】
本発明の方法において好適なリン酸化部位は、PKCθのセリン残基もしくはトレオニン残基のヒドロキシル基であって、インビボ条件下では、適宜活性化の後にリン酸化される基である。調査されるべき試験物質がこれらのセリン残基及び/又はトレオニン残基のリン酸化比率に対してもたらす影響を調査することを可能にするために、少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基の細胞によるリン酸化が、少なくとも部分的に、該細胞が試験物質と接触された後にのみ行われることが好ましい。これは、例えば細胞のリン酸化活性、有利にはPKCθのキナーゼ活性を、好適な手段によって、該細胞が調査されるべき試験物質と接触されて共にインキュベートされた後にだけ誘導することによって達成することができる。
【0019】
少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基は、有利には、PKCθそれ自身による触媒作用で少なくとも部分的にリン酸化される残基、すなわち自己リン酸化部位である。ターンモチーフにおいてSer676でかつ疎水性モチーフにおいてSer695でPKCθにおいてセリン側鎖で自己リン酸化が存在することは知られている(Liu他著のBiochem.J.(2002)361,255−265を参照)。それに対して、調節ドメインにおけるTyr90でチロシン側鎖は、PKCθそれ自身によってはリン酸化されないが、Lckによってはリン酸化される(WO01/48236号を参照)。触媒ドメインにおけるThr538でトレオニン側鎖は、またPKCθそれ自身によってはリン酸化されないが、PDK−1によってはリン酸化される。
【0020】
本発明の方法では、PKCθのThr219リン酸化比率を測定することが特に好ましい。驚くべきことに、PKCθは、調節ドメインのThr219でリン酸化されるトレオニン残基を有することが判明した。ホスホペプチドマッピング(B.D.Manning他著のSci.STKE,2002,162,49)及び自己リン酸化に関与する生化学的調査によって確認できた。
【0021】
こうしてThr219リン酸化比率の測定によって、PKCθのインビボでの酵素活性についての直接的な情報が提供される。
【0022】
Thr219の自己リン酸化部位は、トレオニン残基の側鎖中のヒドロキシル基が、PKCθの三次構造内のその位置のため、PKCθによって触媒される自己リン酸化反応のための基質として非常に適しており、かつ満足のいく触媒定数で変換されるという利点を有する。その上、反応生成物、すなわちPKCθの位置219におけるリン酸化されたトレオニン残基は、また、リン酸化特異的抗体にとってエピトープの部分として容易に到達可能であるので、従ってリン酸化比率の測定を簡単にする。
【0023】
更に、自己リン酸化は、Ser676及びSer695といったPKCθの他の公知の2つの自己リン酸化部位に対して、PKCθが活性化された後にのみ行われる。従って、Thr219は、特に有利には、本発明の方法のための自己リン酸化部位として適している。それというのも、PKCθのキナーゼ活性、従ってThr219での自己リン酸化は、定義された時点で誘導できるからである。定義された時点でのThr219のリン酸化の狙い通りの誘導性は、他の公知の自己リン酸化部位と比較して、PKCθの自己リン酸化部位の実質的な利点である。
【0024】
"リン酸化比率"とは、本発明の詳細な説明の文脈においては、定義された時点で少なくとも1つの関連のセリン残基もしくはトレオニン残基においてリン酸化された形にあるPKCθ分子のモル割合であって、同じ時点で当該系における少なくとも1つの関連のセリン残基もしくはトレオニン残基においてリン酸化された及びリン酸化されていない全てのPKCθ分子の総計と比較したものを意味する。リン酸化比率は、モル%で報告することができる。用量−作用カーブの記録によって、調査されるべき試験物質の阻害又は活性化を測定することが可能であり、それは、通常は、IC50として又は試験物質の濃度(%)の関数として報告される。
【0025】
特に記載がない限り、本発明の詳細な説明において使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者の観点から一般的に慣例の意味を有する。それらの用語の詳細及び定義に関しては、例えばその全体において、B.Alberts他著のMolecular Biology of the Cell,John Wiley&Sons;D.Voet他著のBiochemistry,John Wiley&Sons;L.Stryer他著のBiochemistry,W.H.Freeman&Company;及びD.Nelson他著のLehninger Principles of Biochemistry,Palgrave Macmillanを参照できる。
【0026】
本発明の方法においては、工程(a)で、細胞を、調節作用を調査すべき試験物質又はPKCθ調節物質と接触させる。使用される細胞型に応じて、標準的プロトコールに従って使用されるインキュベート培地は、それに適合させる。細胞がヒトT細胞、有利にはプライマリーもしくはマウスのヒトT細胞である場合に、好適な培地の一例は、RPMI、10%FCS、2mMのL−グルタミン、50u/mlのペニシリン/ストレプトマイシンである。
【0027】
調査されるべき試験物質又はPKCθ調節物質を、この場合に、ネガティブコントロールと比較したPKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率における差異を検出(調節作用の場合に)しうるのに十分な濃度で細胞と接触させる。試験物質もしくはPKCθ調節物質のために使用される濃度は、測定あたりに使用される細胞数に依存しない。本発明の方法は、有利には、試験物質もしくはPKCθ調節物質について、103〜107個の細胞で行われる。
【0028】
PKCθ及びPKCθを含む細胞の取り扱いに適した標準的プロトコール及び試薬は、当業者に公知である。この関連において、例えばR.Brent他著のCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons Inc;J.Sambrook他著のMolecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;A.D.Reith著のProtein Kinase Protocols,Humana Press;A.C.Newton他著のProtein Kinase C Protocols(Methods in Molecular Biology(Clifton,N.J.)V.233.),Humana Press;J.N. Abelson他著のProtein Phosphorylation,Part A:Protein Kinases:Assays,Purification,Antibodies,Functional Analysis,Cloning,and Expression:Volume 200:Protein Phosphorulation Part A(Methods in Enzymology),Academic Press;J.F.Kuo著のProteinkinase C,Oxford University Press;及びG.Hardie他著のProtein Kinase Facts Book(2巻組),Academic Pressをそれらの全体において参照できる。
【0029】
本発明の方法の工程(b)において、有利にはPKCθのキナーゼ活性の誘導がなされる。PKCθの活性化に適した物質は、当業者に公知である。
【0030】
好ましい一実施態様においては、工程(b)は、抗CD3抗体であって、好ましくはビーズ上に固定化されたものを用いて行われる。好適な抗CD3抗体は、例えばJanssen Cilag社から名称Orthoclone OKT(登録商標)3として入手でき、それは例えばビーズ上に固定化されていてよく、これらはDynal Biotech Ltd.社によって名称Dynabeads(登録商標)Pan Mouse IgG(固相CD3)として市販されている。この場合に、PKCθは、T細胞受容体(TCR)を介して間接的に活性化される。
【0031】
好ましい一実施態様においては、工程(b)は、直接的な活性化物質を用いて行われる。好適な例は、ジアシルグリセロール、ブリオスタチン類又は市販のホルボールエステル類、例えば4α−ホルボール12−ミリスチン酸13−酢酸塩(PMA)であり、これらはPKCθのキナーゼ活性に直接的な作用を有する。T細胞受容体及び他のキナーゼを介したカスケードは、こうして迂回される。従って、工程(b)におけるキナーゼ活性は、有利には、ホルボールエステル、ブリオスタチンもしくは抗CD3抗体を添加することによって誘導される。
【0032】
工程(b)において適宜実施されるPKCθの活性化の誘導は、好ましくは、工程(a)を実施した直後に行われない。それに対して、細胞は、有利には工程(a)の後に、すなわち調査されるべき試験物質もしくはPKCθ調節物質と接触させた後に、例えば1時間の範囲内であってよい一定時間にわたってインキュベートされる。しかしながら、本発明によれば、より長いもしくは短いインキュベート時間も可能である。例えば20〜40分の規模のより短いインキュベート時間が好ましい。
【0033】
本発明の方法の工程(c)において、細胞を、PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化をもたらす条件下でインキュベートする。PKCθの全てのセリン残基とトレオニン残基の総計の幾らかの特定のセリン残基もしくはトレオニン残基のみが反応性であり、かつ細胞内でリン酸化のための基質として到達可能であるにすぎない。この関連では、PKCθのThr219が好ましい。
【0034】
この目的のために、細胞を、温度37℃で、有利には1〜30分、より有利には2〜10分間の時間にわたってインキュベートする。細胞は、有利には、調査されるべき試験物質もしくはPKCθ調節物質の不在下に、その他は同じ条件下で、少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基の少なくとも10%のリン酸化のために、より有利には少なくとも15%のリン酸化のために、更により有利には少なくとも20%のリン酸化のために必要とされる時間にわたってインキュベートされる。このために必要な時間は、簡単な予備試験によって見出すことができる。
【0035】
本発明の方法が工程(b)、すなわちPKCθのキナーゼ活性の誘導を含む場合には、次いで工程(c)は、工程(b)と同じ条件下で行われる。
【0036】
工程(b)と(c)とは、特に有利には同時に実施される。PKCθのキナーゼ活性の誘導が、例えばホルボールエステルの添加を含む場合に、次いで、そのホルボールエステルは、有利には工程(c)が実施される間に、インキュベート培地中に残留する。従って、有利には、ホルボールエステルの存在(工程(b))による連続的なPKCθの活性化があり、それと同時にPKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化(工程(c))をもたらす条件がもたらされる。
【0037】
しかしながら、工程(b)において工程(c)の前で又工程(c)の間に、PKCθのキナーゼ活性の誘導を停止させることもできる。このことは、例えば工程(b)において、磁性粒子上に固定化された抗CD3抗体を使用することにより達成することができ、該粒子は、工程(c)が完了する前に1もしくは複数の細胞から分離される。
【0038】
しかしながら、工程(b)においてPKCθのキナーゼ活性を誘導して、それを工程(c)を通じて行うことが好ましい。
【0039】
本発明による方法が、工程(a)、(b)及び(c)を含むのであれば、その際、細胞は、好ましくは、調査されるべき試験物質もしくはPKCθ調節物質と工程(a)において一定の時間にわたり、例えば1時間にわたり接触させた後で、PKCθのキナーゼ活性が工程(b)において誘導される前にインキュベートされ、そして該細胞は、工程(c)において、PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化がもたらされる条件下でインキュベートされる。
【0040】
本発明の方法の工程(d)において、その細胞を溶解させることが好ましい。標準的プロトコールによる一般的に慣例の方法がその溶解に適している。浸透圧溶解もしくは界面活性剤、例えばTritonもしくはTweenを好適なバッファー中で用いることが好ましい。好適な溶解バッファーは、例えば以下の成分:50mMのTris−HCl(pH8.0)と、100mMのNaClと、2%のNonidet P−40と、1mMのフッ化フェニルメチルスルホニルと、1mlあたり0.5μgのロイペプチン及び1mlあたり1.0μgのアプロチニンと、5mMのオルトバナジン酸ナトリウムとを有する。他の好適な溶解バッファーは、50mMのHEPES(pH7.5)と、2%のNonidet P−40と、5mMのオルトバナジン酸ナトリウムと、5mMのピロリン酸ナトリウムと、5mMのNaFと、5mMのEDTAと、50mMのNaClと、50μg/mlのアプロチニン及びロイペプチンとからなる。
【0041】
PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率は、本発明の方法の工程(e)において決定される。標準的プロトコールによる一般的に慣例の方法が、原則的にはそのために適している。この関連において、例えばA.C.Newton他著のProtein Kinase C Protocols(Methods in Molecular Biology(Clifton,N.J.),V.233.),Humana Press;J.N.Abelson他著のProtein Phosphorylation,Part A:Protein Kinases:Assays,Purification,Antibodies,Functional Analysis,Cloning,and Expression:Volume 200:Protein Phosphorulation Part A(Methods in Enzymology),Academic Pressをその全体において参照することができる。
【0042】
例えば工程(c)において、少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基の放射線標識を、インキュベート培地に[32P]−γ−ATPを添加することによって達成でき、そしてその放射活性を、工程(d)において溶解させ、そして溶解物から標識されたPKCθを単離した後に工程(e)においてシンチレーション計数により定量することができる。しかしながら、放射線標識は、個々のリン酸化部位に対して非特異的なので、実質的にHTSアプローチのためには不適であり、かつ特殊な安全対策が必要なため、PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率は、有利には、比色法、蛍光法もしくは発光法によって測定される。従って、工程(e)は、有利には、比色測定、蛍光測定もしくは発光測定を含む。
【0043】
蛍光法は、従来の蛍光測定の他に、蛍光共鳴エネルギー移動測定(FRET)をも含み、その際、2種の蛍光物質(ドナーとアクセプター)が使用される場合に、ドナーの蛍光消光とアクセプターの蛍光の両者を測定することができる。
【0044】
発光法は、電気化学発光の測定を含む。増幅発光近接ホモジニアスアッセイ(ALPHA)Screen(登録商標)(BioSignal Packard,Inc.社)を用いた測定も適している。
【0045】
本発明の方法の好ましい一実施態様においては、工程(e)は、ELISA技術(ELISA=酵素結合免疫吸着アッセイ)の使用を含む。ELISA技術は、当業者に広く知られている。この関連において、例えばJ.R.Crowther他著のThe ELISA Guidebook,Humana Press;J.R.Crowther他著のELISA:Theory and Practice,Humana Press;及びD.M.Kemeny著のA Practical Guide to Elisa,Pergamonをその全体において参照することができる。
【0046】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)は、通常は以下の工程:
(i)得ようとするタンパク質に対する抗体(捕捉抗体)、この場合には有利には抗PKCθリン酸化Thr219抗体を、例えばポリスチレンのような不活性固相につなぐ工程;
(ii)調査されるべきタンパク質の溶液を、抗体によって占有された表面にロードする工程;
こうして固定化された抗体はタンパク質を結合できる
(iii)得られた抗体−タンパク質複合体を、タンパク質特異的な二次抗体(検出抗体)、この場合には有利には抗PKCθ抗体と一緒にインキュベートする工程;
この二次抗体は、好ましくは容易に検出可能な酵素(抗体−酵素コンジュゲート)に共有結合されている
(iv)過剰の未結合の二次抗体を、繰り返しの洗浄により除去する工程
を含む。捕捉抗体−タンパク質を検出する抗体−酵素複合体の酵素を次いで検出し、そこから結合されたタンパク質の量を計算できる。
【0047】
工程(i)においては、種々の方法でつなぐことが達成できる。種々の可能性が、当業者に広く知られている。例えば、つなぐことは、
− 自身が抗体に共有結合された固相によって(これらの共有結合された抗体は、捕捉抗体の調製に使用される生物の抗体に対して特異的である);
− ストレプトアビジンもしくはビオチンに共有結合されており、また捕捉抗体がそれぞれビオチンもしくはストレプトアビジンにコンジュゲートされている固相によって;又は
− 表面上に、適宜化学的活性化後に、捕捉抗体の官能基と共有結合を形成しうる好適な官能基を有する固相によって
達成でき、この関連で、例えばM.Nisnevitch他著のJ.Biochem.Biophys.Methods.2001;49(1−3):467−80をその全体において参照することができる。
【0048】
本発明の方法の好ましいもう一つの実施態様においては、工程(e)は、FLISA技術(FLISA=蛍光結合免疫吸着アッセイ)の使用を含む。FLISA技術は、当業者に広く知られている。この関連においては、例えばE.E.Swartzman他著のAnal.Biochem.1999,271(2),143−51;及びP.Oelschlaegeretal著のAnal.Biochem.2002,309(1),27−34をその全体において参照することができる。
【0049】
FLISA技術は、ELISA技術とは、それが洗浄工程を省くことができ、かつわずか一工程のインキュベートしか必要ないという点で異なる。FLISA技術は、従って、ハイスループット・スクリーニングのために特に適している。
【0050】
好ましい一実施態様においては、蛍光物質結合免疫検出(FLISA)は、通常は、以下の工程を含む:
(i)得ようとするタンパク質に対する抗体(捕捉抗体)、この場合には有利には抗PKCθリン酸化Thr219抗体を、不活性材料(前記参照)のビーズにつなぐ工程;
(ii)調査されるべきタンパク質と、タンパク質特異的な二次抗体(検出抗体)、この場合には有利には高PKCθ抗体との溶液を、前記ビーズと一緒にインキュベートして、捕捉抗体−タンパク質−検出抗体複合体を形成させる工程;
この複合体が蛍光測定的に測定可能であるためには、少なくとも1つの好適な蛍光物質が存在する必要がある。これは、種々の方法で達成できる。例えば、
− 二次抗体を、蛍光物質に直接的に共有結合させることができる;
− 二次抗体を、ビオチンとコンジュゲートさせることができ、そしてストレプトアビジンに結合された蛍光物質を、更にインキュベートの間に添加することができる;
− 該蛍光物質を、インキュベートの間に添加された、検出抗体の製造に使用される種類の抗体に特異的な三次抗体に結合させることができる;
(iii)有利には洗浄工程を伴わずに、捕捉抗体−タンパク質−検出抗体−蛍光物質複合体の蛍光を検出する工程;
そこから結合されたタンパク質の量を計算することができる。蛍光の測定において、好適な方法を使用して、該複合体に結合された蛍光物質の蛍光だけを測定して、溶液中に遊離して存在する過剰の蛍光物質の蛍光は測定しない;これは、例えば以下のことによって達成できる:
− 流体力学的絞り込み(フローサイトメトリー)を用いることによって、その場合に、ビーズは単独で通過し、ほぼ同じ列でレーザ焦点を通過する、及び/又は
− ビーズを第二の蛍光物質で標識することによって、その場合に、蛍光の測定は、2つの蛍光シグナルの同時局在化に基づく。
【0051】
工程(e)におけるリン酸化の測定は、有利には、工程(a)の後で、すなわち細胞と調査されるべき試験物質もしくはPKCθ調節物質とを接触させた後で、工程(c)においてリン酸化されたPKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基に対するリン酸化特異的な抗体を使用することを基礎としている。
【0052】
リン酸化されたトレオニンに対するものであり、かつそのエピトープが、リン酸化されたトレオニン残基に実質的に限定され、従って隣接アミノ酸残基の構造とは実質的に無関係な抗体は、例えばNew England Biolabs,Inc.社(英国・Herts在)から入手できる。しかしながら、この抗体は、PKCθの位置219のリン酸化されたトレオニン残基には特異的でないが、常に細胞溶解物中の如何なるタンパク質における全てのリン酸化されたトレオニン残基に結合する。この抗体は、PKCθと他のタンパク質との間を区別せず、個々のリン酸化されたトレオニン残基の間も区別しないので、その選択性/感度は相応して低い。
【0053】
本発明の方法の工程(e)は、有利には、PKCθの位置219のリン酸化されたトレオニン残基に対して特異的である抗体(説明のために"抗PKCθリン酸化Thr219抗体"とも呼称する)の使用を含む。しかしながらまた、原則的に、如何なるリン酸化されたトレオニン残基にも結合する抗体(説明のために"抗リン酸化Thr抗体"とも呼称する)を使用することもできる。
【0054】
説明のために、表記"リン酸化Thr219"とは、PKCθの一次構造内の位置219におけるL−トレオニンであって、その側鎖中のヒドロキシル基が一リン酸化されたものを意味する。本発明の方法で使用される細胞がヒト細胞であれば、用語"リン酸化Thr219"とは、有利には配列番号1として示される配列内の位置219におけるリン酸化されたトレオニン残基を意味する。
【0055】
これらの抗体は、モノクローナル又はポリクローナルであってよい。係る抗体を製造するために適した方法は、当業者に公知である。この関連において、例えばE.Liddell他著のAntikorper−Techniken,Spektrum Akademischer Veriag;R.Kontermann他著のAntibody Engineering,Springer,Berlin;E. Harlow他著のUsing Antibodies − A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press;E. Harlow他著のAntibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press;B.K.C.Lo著のAntibody Engineering:Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology),Humana Press;P.S.Shepherd他著のMonoclonal Antibodies:A Practical Approach,Oxford University Press;G.Subramanian,Antibodies Production and Purification,Kluwer Academic/Plenum Publishers;T. Clackson他著のPhage Display:A Practical Approach(The Practical Approach Series,266),Oxford University Press;及びB.K.Kay著のPhage Display of Peptides and Proteins:A Laboratory Manual,Academic Pressをそれらの内容において参照することができる。
【0056】
PKCθの一次構造は、使用される生物に応じて変動する。本発明の方法において、例えばマウス由来、ラット由来又は他の動物由来のPKCθを使用することが可能である。本発明の方法において、ヒトの細胞、有利にはT細胞、特にヒトのT細胞を使用することが好ましいので、調査されるPKCθは、好ましくはヒトPKCθである。調査される酵素は、有利にはPKCθIアイソフォームである。調査されるPKCθは、有利には配列番号1を含む。
【0057】
PKCθの特定のリン酸化部位に対するリン酸化特異的な抗体は、有利にはオリゴペプチドであってその一次構造が、PKCθの一次構造内のリン酸化部位付近の領域に相当するものを合成することによって製造される。従って、Thr219に対するリン酸化特異的な抗体は、例えば部分配列…Glu−(リン酸化Thr)−Met…を含むオリゴペプチド(その際、"リン酸化Thr"は、側鎖においてリン酸化されたトレオニン残基を表す)を用いることによって製造することができる。係るオリゴペプチドを製造するために適した方法は、当業者に公知である。この関連において、例えばM.W.Pennington他著のPeptide Synthesis Protocols(Methods in Molecular Biology),Humana Press,1994;W.C.Chan他著のFmoc Solid Phase Peptide Synthesis:A Practical Approach,Oxford University Press,2000;J. Jones著のAmino Acid and Peptide Synthesis(Oxford Chemistry Primers,7),Oxford University Press,2002;J.Howl他著のPeptide Synthesis And Applications(Methods in Molecular Biology),Humana Press,2005;及びN.L.Benoiton著のChemistry of Peptide Synthesis,CRC Press,2005を参照することができる。
【0058】
抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、有利には少なくとも5つのアミノ酸残基、有利には少なくとも7つのアミノ酸残基、より有利には少なくとも9つのアミノ酸残基、更により有利には少なくとも11つのアミノ酸残基、最も有利には少なくとも13つのアミノ酸残基、殊に少なくとも15つのアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むが、但し、このアミノ酸配列は、配列番号2の連続的な部分配列に相当し、そして更に配列番号2における位置19を有するリン酸化されたトレオニン残基を含むオリゴペプチドを使用することによって製造される。該アミノ酸配列は、有利には、配列番号2の位置17〜21、より有利には位置15〜23、更により有利には位置13〜25、最も有利には位置11〜27、殊に位置9〜29を含む。
【0059】
該オリゴペプチドを、引き続き、例えばマレイミド活性化されたキーホールリンペット・ヘモシアニン(KLH)又はウシ血清アルブミン(BSA)とコンジュゲートさせてよい。次いで、複数の個体、例えばホワイトニュージーランドウサギを、ペプチド−KLHコンジュゲートで免疫化することができ、その際、免疫化は、規則的な間隔で、例えば2週間後に繰り返される。血清中の抗体力価は、ペプチド−BSA被覆されたマイクロタイタープレート中でのELISAによって測定することができる。リン酸化特異的な抗体、この場合には有利には抗PKCθリン酸化Thr219抗体を、次いで血清から好適な方法によって単離することができる。
【0060】
モノクローナル抗体、すなわちモノクローナルの抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、同様に、ハイブリドーマを、例えば免疫化されたマウスを用いて製造することによって製造することができる。このために、免疫化の後に、抗体形成性のBリンパ球を、有利にはマウスの脾臓から単離し、そして引き続きメラノーマ細胞と融合させて、ハイブリドーマ細胞が得られる。また、モノクローナル抗体を、ウサギから得ることもできる(RabMab;例えばH.Spieker−Polet他著のProc.Natl.Acad.Sci.1995 Sep 26;92(20):9348−52を参照)。ファージディスプレイ技術を使用して、モノクローナル抗体を作成することもできる(例えばP.G.Schultz他著のScience 1995,269:1835−1842を参照)。
【0061】
こうして得られたポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体を、更に、蛍光色素、酵素、ビオチンなどとコンジュゲートしてよく、かつ/又は固相上に固定化することもできる。このために必要な方法工程は、標準的プロトコールに従って行われる。
【0062】
本発明の方法は、有利には、工程(e)において、以下の下位工程:
(e1)PKCθの少なくとも一部を、好適な一次抗体を用いて免疫沈降させる工程;及び
(e2)免疫沈降したPKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率を、好適な二次抗体を用いることによって測定する工程
を含む。
【0063】
この関連において、一次抗体が、PKCθに対するものであり(抗PKCθ抗体)、かつ二次抗体が、PKCθのリン酸化Thr219に対するものである(抗PKCθリン酸化Thr219抗体)ことと、その逆が好ましい。
【0064】
本発明の方法の工程(e)の好ましい実施態様を以下に記載する:
ウェスタンブロット
本発明の方法の好ましい一実施態様において、溶解(工程(d))に引き続き、該溶解物から、モノクローナルであることが好ましい抗PKCθ抗体(Ab1)を用いて、PKCθを免疫沈降させる。Ab1は、有利には、支持マトリクスに、例えばプロテインGセファロースに結合される。
【0065】
沈降物を、次いで、有利には同じサイズである2つの部分に分ける。次いで、沈降物中に存在するPKCθを、他のそれぞれの成分から、有利にはゲル電気泳動(1D−SDS−PAGE)によって分け、そしてウェスタンブロットによってメンブレンに転写する。
【0066】
2つのサンプルのうち一方におけるリン酸化部位のリン酸化、有利にはThr219を、好適なリン酸化特異的な抗体(Ab2)によって、有利には抗PKCθリン酸化Thr219抗体によって検出する。
【0067】
一方で、沈降したPKCθの、すなわちリン酸化された及びリン酸化されていないPKCθの全量を、もう一方のサンプルにおいてローディング・コントロールとして検出する。このために、例えば抗PKCθ抗体(Ab1)を使用することができる。
【0068】
得られたバンドを、有利にはデンシトメトリーによって評価し、その際、リン酸化シグナルを、それぞれのPKCθの全量(ローディング・コントロール)に対して標準化する。デンシトメトリーによる評価は、有利には、抗PKCθ抗体を用いて、又は好適な基質を添加した後に、呈色反応もしくは化学発光反応を触媒する通常の酵素とコンジュゲートされた抗PKCθ抗体に対する抗体を用いて行われる。好適な酵素の例は、アルカリ性ホスファターゼ、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ(HRPO)、β−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ及びルシフェラーゼである。セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ(HRPO)とコンジュゲートされたモノクローナルの抗PKCθ抗体は、例えばBD Biosciences Pharmingen社(米国・サンディエゴ在)から市販されている。
【0069】
該抗PKCθ抗体は、蛍光色素、例えばAMCA、Cy3、Cy5、フルオレセイン、Hoechst 33258、B−フィコエリトリン、R−フィコエリトリン、ローダミン又はTexas Red(登録商標)に直接的にコンジュゲートさせてもよい。測定の標準化は、有利には、方法の較正によって行われる。組み換えリン酸化突然変異体は、この場合にネガティブコントロールとして使用することができ、そしてThr219で既にリン酸化された組み換えPKCθをポジティブコントロールとして使用することができる。
【0070】
好ましい一実施態様においては、サンプルを、2つの部に分けずに、2つの別々のウェスタンブロットにおいて分析するが、単一のウェスタンブロットで完全にかつ同時に分析される。このために、抗PKCθ抗体(Ab1)及びリン酸化特異的な抗体(Ab2)は、有利には異なる種を用いて製造されるので、種特異的な分化が、バンドの評価にあたって考えられる:例えばAb1を、免疫化しているウサギから得て、かつAb2を免疫化しているマウスから得た場合に、その評価のために、蛍光物質F1及びF2を添加することが可能であり、そのうち1つは、抗マウス抗体にコンジュゲートされたものであり、そしてもう一方は、抗ウサギ抗体に結合されたものである。こうして、両方の蛍光シグナルを、同じウェスタンブロットにおいて評価することができる。
【0071】
用量−作用カーブは、調査されるべき試験物質の種々の濃度における複数の測定によって作成することができる。
【0072】
ELISA
本発明の方法のもう一つの好ましい実施態様においては、溶解(工程(d))に引き続き、PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率を、ELISA技術を使用することによって測定する。この場合に、抗PKCθ抗体及び抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、有利には、サンドウィッチ型ELISAで使用される。このために、有利には、2つの抗体の1つを、マイクロタイタープレートのウェルの内表面上に固定化する。抗PKCθリン酸化Thr219抗体がこの関連において好ましい。この抗体は、有利には、一次抗体("捕捉抗体")として使用される。
【0073】
本発明の方法における工程(d)で得られる溶解物を、次いで、マイクロタイタープレートのウェル中に入れる。インキュベート時間は、有利には複数の洗浄工程に引き続いている。
【0074】
次いで二次抗体を添加するが、その際、これは、有利には抗PKCθ抗体であり、有利にはモノクローナルである。この抗体は、二次抗体("検出抗体")としてはたらく。リン酸化されたPKCθ(抗原)と2つの抗体の結合複合体の検出を、次いで、比色法もしくは蛍光法もしくは発光法によって行ってよい。
【0075】
このために、二次抗体を、例えば後に好適な基質の添加後に、呈色反応もしくは化学発光反応を触媒する通常の酵素の1つとコンジュゲートさせてよい。好適な酵素の例は、前記の酵素である。
【0076】
また該酵素を、ストレプトアビジンとコンジュゲートさせてよく、かつビオチニル化された二次抗体であって、また前記の抗体の1つとコンジュゲートされたものに結合させてもよい。シグナルの増強は、ビオチン対二次抗体のモル比及び/又は酵素とストレプトアビジンとのモル比が1より大きい場合には可能である。
【0077】
検出抗体を、また蛍光色素に直接的にコンジュゲートさせてもよい。好適な蛍光色素の例は、前記のとおりである。その測定は、該方法の較正によって有利には標準化させる。組み換えリン酸化突然変異体は、この場合にネガティブコントロールとして使用することができ、そしてThr219で既にリン酸化された組み換えPKCθをポジティブコントロールとして使用することができる。
【0078】
FLISA
本発明の方法のもう一つの好ましい実施態様においては、溶解(工程(d))に引き続き、PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率を、FLISA技術を使用することによって測定する。洗浄工程は、通常は不可能であるか又はハイスループット・スクリーニング(HTS)システムにおいては入念にのみ達成できるに過ぎないので、この特に好ましい方法は、有利には、ビーズ上に固定化された抗体を使用することによって行われる。
【0079】
このために、有利には、一次抗体(Ab1)、有利には抗PKCθリン酸化Thr219抗体を、一次抗体として、第一の蛍光色素(F1)で標識されたビーズ上に固定化させる。
【0080】
工程(d)における細胞の溶解後に、溶解物を、これらのビーズと一緒にインキュベートする。引き続き、二次抗体(Ab2)、有利には抗PKCθ抗体を、二次抗体として添加する。
【0081】
好ましい一実施態様においては、評価は、例えばBD Biosciences社製のBD−FACSArray(登録商標)Bicanalyzerを用いて、流体力学的絞り込み(フローサイトメトリー)によって行われる。単独の蛍光色素だけがこのために必要とされるに過ぎない。評価のための手法は、標準的プロトコールに従って行われ、それは当業者に広く知られている。
【0082】
もう一つの好ましい実施態様においては、二次抗体(Ab2)を、二次蛍光色素(F2)で標識するので、2つの異なる蛍光色素が該システム中に存在する。ビーズ複合体は、次いで、有利には、共焦点システム(例えばEvotec OAI AG社(ドイツ在)製のOpera readerを使用して)において検出される。本実施態様の別形においては、二次抗体(Ab2)をビオチンとコンジュゲートさせて、そして二次蛍光色素(F2)を、ストレプトアビジンとのコンジュゲートとして製造するので、ビオチン化された二次抗体(Ab2)に結合させることができる。
【0083】
FLISAを基礎とする評価は、細胞と調査されるべき試験物質とを接触させることから蛍光の測定までのすべての工程が、同じマイクロタイタープレート中で実施できるという利点を有する。洗浄工程は、共焦点測定技術により省くことができる。
【0084】
測定が、2つの蛍光物質の使用に基づくのであれば、測定結果は、2つの蛍光シグナル(F1+F2)の同時局在化が起こった場合のみにポジティブとして評価される。2つの抗体と2つの蛍光マーカーの使用は、従って特異性を高める。好適な蛍光色素F1とF2の例は、以下のペア:
F1:R−フィコエリトリン、Cy3(Alexa(登録商標)532) F2:APC、Cy5、Alexa(登録商標)647、Alexa(登録商標)633
である。
【0085】
選択的に、その測定は、研究室規模において、フローサイトメーターにおいても、又は例えばLuminex Corporation社(米国・オースチン在)製のLuminex readerを用いて行うことができる。蛍光共鳴エネルギー移動測定(FRET)による評価も可能である。
【0086】
従って、本発明による方法は、有利には、工程(e)において、ELISA技術又はFLISA技術の使用を含む。該方法は、特に有利には、工程(e)において、FLISA技術の使用を含み、その場合には、2つの異なる蛍光色素が使用され、そしてリン酸化比率の測定は、2つの色素の蛍光の測定を基礎とするものである。
【0087】
好ましい一実施態様において、本発明の方法は、更なる工程
(f)工程(e)で測定されたPKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率と、その他は同じであるが、工程(a)を含まない、すなわち試験物質もしくはPKCθ調節物質の不在下での条件下に実施して測定された相応のリン酸化比率とを比較する工程
を含む。
【0088】
本発明の方法は、試験物質もしくはPKCθ調節物質が、ヒト細胞もしくは動物細胞におけるPKCθ依存性のシグナル伝達経路に対してもたらす調節作用の調査のために適している。
【0089】
本発明の方法で見出すことができる試験物質もしくはPKCθ調節物質は、PKCθに媒介される疾病の予防及び/又は治療のために適している。従って、該方法は、新規の薬理学的作用成分、特に新規の免疫調節物質、例えば免疫刺激物質及び免疫抑制物質の探索において、また筋疾患の治療のための新規の作用剤の探索において使用することができる。
【0090】
免疫刺激物質は、患者の腫瘍に対する生物学的応答を補助するために広く使用されている。これは、例えば免疫応答の強化によって行うことができる。T細胞の細胞毒性と、適宜、ナチュラルキラー細胞の活性は、これらの物質によって増大させることができる。免疫刺激物質は、また、慢性C型肝炎及びHIVの治療において使用される。幾つかの免疫刺激物質は、また風邪の予防のためにも使用される。
【0091】
免疫抑制物質は、種々の適応症の治療のために、例えば
− 急性もしくは慢性の炎症プロセス及び炎症疾患(例えば炎症性気道疾患、例えばCOPD[慢性閉塞性肺疾患]、喘息など)の治療のために、
− アレルギー(例えば重度のアナフィラキシー性即時型反応など)の治療のために、
− 自己免疫疾患(例えばリウマチ様関節炎、クローン病、潰瘍性結腸炎、ブドウ膜炎、乾癬、ネフローゼ症候群、1型糖尿病、2型糖尿病、多発性硬化症など)の治療のために、
− 敗血症ショックの治療のために、
− 虚血/再潅流障害(例えば心筋梗塞、卒中発作など)の予防もしくは治療のために、そして
− (例えば腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、眼の水晶体、骨髄などの)移植後の拒絶反応の予防もしくは治療のために
適している。
【0092】
本発明の更なる態様は、PKCθの位置219におけるリン酸化されたトレオニン残基に対する抗体(抗PKCθリン酸化Thr219抗体)に関する。この抗体は、ポリクローナル又はモノクローナルであってよい。この場合に該抗体は、PKCθの位置219におけるリン酸化されたトレオニン残基に特異的な抗体である、すなわちPKCθのThr219と同じアミノ酸によって隣接されていないリン酸化されたトレオニン残基にも結合する非特異的な抗リン酸化Thr抗体ではない。
【0093】
抗PKCθリン酸化Thr219抗体のPKCθのThr219についての親和性定数は、10-4M未満、より有利には10-5M未満、更により有利には10-6未満、最も有利には10-7未満、特に10-8M未満又は更に10-9未満である。親和性定数の測定に適しているのは、例えば表面プラズモン共鳴分光測定(例えばBiacore社(スイス・Neuchatel在)製の機器を用いる)である。
【0094】
本発明の抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、PKCθのThr219に特異的である、すなわち位置219のリン酸化されたトレオニン残基に結合するが、リン酸化されていたとしても他のPKCθのトレオニン残基のいずれにも結合しない。本発明の抗PKCθリン酸化Thr219抗体がPKCθに結合することは、従って、PKCθの位置219におけるリン酸化されたトレオニンに隣接するアミノ酸残基の構造に依存する。本発明の抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、特に、隣接アミノ酸残基の配列のいかんを問わず任意のリン酸化されたトレオニン残基に結合する抗リン酸化Thr抗体を含まない。
【0095】
従って、本発明の抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、リン酸化されたトレオニン残基より多くの残基を含むエピトープに対して特異的である。係るエピトープ下位構造の例は、−Glu218−Thr219−、−Thr219−Met220−及び−Glu218−Thr219−Met220−などである。該エピトープは、有利には、少なくとも5つのアミノ酸残基、有利には少なくとも7つのアミノ酸残基、より有利には少なくとも9つのアミノ酸残基、更により有利には少なくとも11つのアミノ酸残基、最も有利には少なくとも13つのアミノ酸残基、殊に少なくとも15つのアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むが、但し、このアミノ酸配列は、配列番号2の連続的な部分配列に相当し、そして更に配列番号2における位置19を有するリン酸化されたトレオニン残基を含む。該エピトープは、有利には、配列番号2の位置17〜21の部分配列、より有利にはその位置16〜22の部分配列、更により有利にはその位置15〜23の部分配列、最も有利にはその位置14〜24の部分配列、特にその位置13〜25の部分配列を含む。この関連において、"特異的"とは、抗体が、前記の部分配列を含まないエピトープに結合せずに、リン酸化されたトレオニン残基を含むエピトープに結合することを意味する。
【0096】
好ましい一実施態様においては、本発明の抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、ポリクローナル抗体である。もう一つの好ましい実施態様においては、本発明の抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、RabMab又はファージディスプレイとして有利にはハイブリドーマ細胞によって産生することができるモノクローナル抗体である。
【0097】
本発明の更なる態様は、前記の抗PKCθリン酸化Thr219抗体の製造方法において、オリゴペプチド(抗原)を好適な生物、例えばウサギ又はマウスに注入することを含み、その際、該オリゴペプチドが、少なくとも5つのアミノ酸残基、有利には少なくとも7つのアミノ酸残基、より有利には少なくとも9つのアミノ酸残基、更により有利には少なくとも11つのアミノ酸残基、最も有利には少なくとも13つのアミノ酸残基、殊に少なくとも15つのアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むが、但し、このアミノ酸配列は、配列番号2の連続的な部分配列に相当し、そして更に配列番号2における位置19を有するリン酸化されたトレオニン残基を含む、製造方法に関する。
【0098】
該オリゴペプチドは、有利には、配列番号2の位置17〜21の部分配列、より有利にはその位置16〜22の部分配列、更により有利にはその位置15〜23の部分配列、最も有利にはその位置14〜24の部分配列、特にその位置13〜25の部分配列を含む。
【0099】
該オリゴペプチドは、更に有利には、免疫化する前に、好適なキャリヤータンパク質、例えばKLHにコンジュゲートされる。抗原とキャリヤータンパク質とのコンジュゲートのために適したキットは市販されている。これらは、標準的プロトコールに従って使用される。
【0100】
次いで抗体を、血漿から、慣用の方法によって、例えばアフィニティークロマトグラフィーによって単離することができる。
【0101】
モノクローナルの抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、マウスのハイブリドーマ細胞から、ウサギから(RabMab)又はファージディスプレイによって得ることができる。これらの方法は、当業者に公知である。
【0102】
好ましい一実施態様においては、本発明による抗PKCθリン酸化Thr219抗体の製造方法は、選択工程に関し、それに基づき、特異的な抗体を存在しうる非特異的な抗体から分離する、すなわち抗PKCθリン酸化Thr219抗体を抗リン酸化Thr抗体から分離する。これは、有利にはアフィニティークロマトグラフィーによって達成することができる。このために、例えば固定相上に、PKCθ中のネイティブなThr219の場合の相応の位置に存在するアミノ酸残基とは異なるリン酸化されたトレオニン残基に隣接するアミノ酸残基を有するペプチド配列中に導入されたリン酸化されたトレオニン残基を固定化することができる。非特異的な抗リン酸化Thr抗体は、この固定相に結合されるが、一方で、所望の特異的な抗PKCθリン酸化Thr219抗体は、好適な結合部位を欠損するので溶出される。
【0103】
本発明は、また前記方法によって得られた抗PKCθリン酸化Thr219抗体に関する。
【0104】
本発明の更なる態様は、前記の抗PKCθリン酸化Thr219抗体を、PKCθ依存性のシグナル伝達経路に対して調節作用を有する試験物質又はPKCθ調節物質をヒト細胞もしくは動物細胞において見出すために用いる使用に関する。
【0105】
以下の実施例は、本発明を詳細に説明するものであって、本発明の範囲を制限することを目的とするものではない。
【0106】
実施例1 − 抗PKCθリン酸化Thr219抗体の製造
リン酸化されたThr219を有する位置214〜224におけるヒトPKCθの部分配列に相当するアミノ酸配列INSRE−T(p)−MFHKEを、抗原として製造する。該アミノ酸配列を、標準的プロトコールに従って、キャリヤーとしてのキーホールリンペット・ヘモシアニン(KLH)に結合させる。
【0107】
ウサギを、完全フロイントアジュバントを使用して腹腔内で免疫化する。注射を、28日後に繰り返すが、そのためと更なる全ての繰り返しの注射のために不完全フロイントアジュバントを使用する。約5mlの最初の血清サンプルを35日後に採取する。注射を、49日及び63日後に再び繰り返す。約5mlの第二の血清サンプルを70日後に採取する。注射を84日後に繰り返す。91日後に、麻酔した動物に対する心臓穿刺術によって全採血が可能である。選択的に、免疫化を、4週間間隔で繰り返し、血清サンプルをそれぞれの場合に1週間後に採取する。
【0108】
免疫グロブリンを、アフィニティークロマトグラフィーによって精製するが、その際、抗原は、予めリン酸化された状態で、このために固定相上で使用して免疫化する。これに引き続き、抗原の類似体(リン酸化されていない状態)を有する固定相上でアフィニティークロマトグラフィーを行う。溶出物を濃縮し、そして撹拌セルを用いてPBSに対して透析する。
【0109】
実施例2 − 比重評価
このアッセイを、免疫沈降とウェスタンブロットにおける自己リン酸化の検出とによって実施する。このために、ヒトT細胞におけるThr219のPKCθ自己リン酸化の用量依存性阻害を、PKC阻害物質の(a)Calbiochem社のGF 109 203X及び(b)Roche社のRo 31−8220を使用して調査する。
【0110】
プライマリーヒトT細胞を、それぞれの場合において阻害物質である(a)及び(b)と一緒に種々の濃度で1時間にわたりプレインキュベートする。これに引き続き、PMA(100nM)によって自己リン酸化の誘導を5分間行う。
【0111】
冷PBSで洗浄した後に、そのT細胞を氷上で30分間にわたり溶解させる。使用される溶解バッファーは、以下の組成のバッファーである:50mMのHEPES(pH7.5)と、2%のNonidet P−40と、5mMのオルトバナジン酸ナトリウムと、5mMのピロリン酸ナトリウムと、5mMのNaFと、5mMのEDTAと、50mMのNaClと、50μg/mlのアプロチニン及びロイペプチン。不溶性の分画を、10000g及び4℃での遠心分離によって15分間にわたり除去する。
【0112】
Thr219でのPKCθのリン酸化が溶解物中に検出される。このために、PKCθを、該溶解物から、支持マトリクスとしてプロテインGセファロースに予め結合されたモノクローナルの抗PKCθ抗体(Ab1、BD Transduction Laboratories,BD Biosciences)を用いて免疫沈降させる。インキュベートは、4℃において回転ホイール上で2時間行う。支持マトリクスを洗浄した後に、それをラムリ・サンプルバッファーと混合し、そして95℃で5分間煮沸する。
【0113】
上清を、2つのほぼ同じサイズの部分に分け、それらをそれぞれ1D SDS−PAGEゲル中で分別する。
【0114】
最初のサンプルを、ウェスタンブロットにおいて、実施例1のように製造された抗PKCθリン酸化Thr219抗体(Ab2)と一緒にインキュベートする。自己リン酸化を、標準的プロトコールに従って、α−ウサギHRPO(セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ)を二次抗体として添加することによって測定する。
【0115】
第二のサンプルを、Ab1と一緒にウェスタンブロットにおいてインキュベートする。沈降されたPKCθの全量を、次いで、標準的プロトコールに従って、α−マウスHRPO(セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ)を二次抗体としてローディング・コントロールとして添加することによって測定する。
【0116】
検出は、化学発光によるものである(Lumi−LightPlus Western Blotting Substrate、Roche+ECL Plus,Amersham,ソフトウェア Aida)。リン酸化シグナルを、更に、それぞれの場合にPKCθの全量に対して標準化する(ローディング・コントロール)。
【0117】
実施例3:FLISAによる評価
1×107個のジャーカットTAg細胞を、ヒトの組み換えPKCθ(pEFneo)(Baier−Bitterlich著のMol.Cell.Biol.,1996,16:1842を参照)5〜20μgでトランスフェクションする。一過性トランスフェクションを、Equibo社製のEasy−jecT Plus型のエレクトロポレーター(450V、1650μF)を用いて実施する。
【0118】
細胞を、刺激の1時間前に、PKCθ阻害物質であるGF109 203X(Calbiochem社)で処理する。自己リン酸化を、PMA(100nM)によって15分間誘導する。冷PBSで洗浄した後に、その細胞を、実施例2と同様にして氷上で30分間にわたり溶解させる。不溶性の分画を、10000g及び4℃での遠心分離によって15分間にわたり除去する。
【0119】
Liquichip(登録商標)活性化ビーズ(Qiagen社)を、標準的プロトコールに従って、実施例1において捕捉抗体として製造された抗PKCθリン酸化Thr219抗体に共有結合させる。次いでそれらのビーズを、細胞溶解物と一緒に室温で2時間にわたり、振り混ぜながら96ウェルマイクロタイタープレート中で暗中においてインキュベートする。
【0120】
次いで、モノクローナルの抗PKCθ抗体(Ab1、BD Biosciences社製)を、検出抗体として添加し、そして室温で1時間にわたり振り混ぜる。これに引き続き、室温で、ビオチン化された抗マウス抗体(eBioscience)と一緒に30分間振り混ぜる。ストレプトアビジン結合されたフィコエリトリン(Phycolink−SAPE,Prozyme)を検出試薬として、振り混ぜながら、室温で更に30分間にわたりインキュベートする。これらの工程は、同様に溶解バッファー中で行われる。
【0121】
検出を、Luminex 100 IS(Luminex Corporation社(テキサス在))測定機器を用いて行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト細胞もしくは動物細胞において、
− 試験物質がPKCθ依存性のシグナル伝達経路にもたらす調節作用を調査するための、又は
− PKCθ調節物質を見出すための
方法であって、
(a)細胞と、試験物質もしくはPKCθ調節物質とを接触させる工程;
(b)適宜、PKCθのキナーゼ活性を誘導する工程;
(c)該細胞を、PKCθの少なくともセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化をもたらす条件下でインキュベートする工程;
(d)適宜、細胞を溶解する工程;及び
(e)PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率を測定する工程
を含む方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、PKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基が、位置219におけるトレオニン残基を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、PKCθの位置219におけるリン酸化されたトレオニン残基に対する抗体の使用を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法において、細胞が、T細胞、有利にはヒトのT細胞、特にヒトのプライマリーT細胞であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法において、工程(e)において、以下の下位工程:
(e1)PKCθの少なくとも一部を、好適な一次抗体を用いて免疫沈降させる工程;及び
(e2)免疫沈降したPKCθの少なくとも1つのセリン残基もしくはトレオニン残基のリン酸化比率を、好適な二次抗体を用いることによって測定する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、一次抗体が、PKCθに対するものであり、かつ二次抗体が、PKCθの位置219におけるリン酸化されたトレオニン残基に対するものであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法において、キナーゼ活性を、工程(b)において、ホルボールエステルもしくは抗CD3抗体を添加することによって誘導することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法において、工程(e)が、比色測定、蛍光測定又は発光測定を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法において、工程(e)が、ウェスタンブロット、ELISA技術もしくはFLISA技術の使用を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、工程(e)が、FLISA技術の使用を含み、その際、2種の異なる蛍光色素が使用され、そしてリン酸化の測定が、2種の色素の蛍光の測定に基づくものであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の方法において、該方法が、
(f)工程(e)において測定されたリン酸化比率を、その他は同じであるが、工程(a)を含まないで実施した場合に測定される相応のリン酸化比率と比較する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
PKCθの位置219におけるリン酸化されたトレオニン残基に対する抗体。
【請求項13】
請求項12記載の抗体を、PKCθ依存性のシグナル伝達経路に対して調節作用を有する試験物質又はPKCθ調節物質をヒト細胞もしくは動物細胞において見出すために用いる使用。
【請求項14】
請求項13記載の使用であって、試験物質もしくはPKCθ調節物質が、免疫刺激物質もしくは免疫抑制物質であることを特徴とする使用。

【公表番号】特表2008−539705(P2008−539705A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509419(P2008−509419)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061891
【国際公開番号】WO2006/117327
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507229021)ニコメッド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (90)
【氏名又は名称原語表記】Nycomed GmbH
【住所又は居所原語表記】Byk−Gulden−Str. 2, D−78467 Konstanz, Germany
【Fターム(参考)】