説明

PKN3/RhoC高分子複合体およびその使用方法

【課題】PKN3、PDK1およびRhoC(PPRC複合体)を含む新規な高分子集合体を含む組成物およびこれを使用する方法を提供する。
【解決手段】PPRC複合体は、キナーゼ活性を有することが示され、特に侵襲癌などの悪性能の高い細胞で見出された。一部の態様では、癌の治療潜在性を有する化合物をスクリーニングする方法、侵襲癌を診断する方法、癌を患う患者の予後を判定する方法、臨床試験で患者を層別化するか、または特定の処置レジメンの有効性を決定する方法、PPRC複合体の形成を調節するポリペプチド、およびPPRC複合体の1つまたは複数の構成成分を含むキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌活性について化合物をスクリーニングし、侵襲癌を有する患者を診断するための、プロテインキナーゼN3(PKN3)およびRhoCの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
有効な癌治療の開発は、この疾患の根底にある分子機序の解明、および新薬の開発に有用でありうるそれらの機序の中にある標的分子の同定をますます利用している。そのような標的分子が利用可能となった後、それらの標的に対する薬物候補化合物を試験することができる。多くの場合、そのような薬物候補は、合成もしくは天然化合物からなりうる化合物ライブラリーのメンバーである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願第20040106569号
【特許文献2】米国特許第4,816,567号
【特許文献3】欧州特許出願第125023号
【特許文献4】欧州特許出願第171496号
【特許文献5】欧州特許出願第173494号
【特許文献6】PCT出願第WO86/01533号
【特許文献7】欧州特許出願第184187号
【特許文献8】PCT/US86/02269
【特許文献9】米国特許出願公開第2003/0118592号
【特許文献10】米国特許出願公開第2003/0133939号
【特許文献11】米国特許出願公開第2004/0058445号
【特許文献12】米国特許出願公開第2005/0136049号
【特許文献13】米国特許出願公開第2005/0175614号
【特許文献14】米国特許出願公開第2005/0180970号
【特許文献15】米国特許出願公開第2005/0186216号
【特許文献16】米国特許出願公開第2005/0202012号
【特許文献17】米国特許出願公開第2005/0202023号
【特許文献18】米国特許出願公開第2005/0202028号
【特許文献19】米国特許出願公開第2005/0202534号
【特許文献20】米国特許出願公開第2005/0238646号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mukai,H.、J.Biochem 133、17〜27頁、2003
【非特許文献2】Dentら、Clinical Cancer Research 13:4429〜4434頁、2007年8月1日
【非特許文献3】Stein,R.C.およびWaterfield,M.D.Mol Med Today 6、347〜357頁、2000
【非特許文献4】Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManiatis,T.(1989)、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor:Cold Spring Harbor Laboratory
【非特許文献5】Harlow,E.およびLane,D.、「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、(1988)
【非特許文献6】KohlerおよびMilstein(1975)、Nature、256、495〜499頁
【非特許文献7】Clacksonら(1991)、Nature、352、624〜628頁
【非特許文献8】Marksら(1991)、J.Mol.Biol.、222、581〜597頁
【非特許文献9】Wahlら、1983、J.Nucl.Med.24、316〜325頁
【非特許文献10】Cabillyら、1984、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81、3273〜3277頁
【非特許文献11】Morrisonら、1984、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81、6851〜6855頁
【非特許文献12】Boulianneら、1984、Nature 312、643〜646頁
【非特許文献13】Sahaganら、1986、J.Immunol.137、1066〜1074頁
【非特許文献14】Liuら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84、3439〜3443頁
【非特許文献15】Sunら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84、214〜218頁
【非特許文献16】Betterら、1988、Science 240、1041〜1043頁
【非特許文献17】Lipinskiら、Adv.Drug.Del.Rev.、23、3〜25頁、1997
【非特許文献18】TanakaおよびHerr(1990)、Cell、60(3)、375〜386頁
【非特許文献19】Klippelら(1994)、Mol Cell Biol.、14(4)、2675〜85頁
【非特許文献20】Spieker−Polet、1995、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、92、9348〜9352頁
【非特許文献21】Evanら、Mol.Cell.Biol.、5、3610〜6頁(1985)
【非特許文献22】Leendersら、Biochem.Biophys.Res.Comm.、261、808〜814頁
【非特許文献23】Noroら(2006)、BMC Cancer、6、277〜289頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規な治療用化合物およびレジメンの同定および検証が可能となるように、特に侵襲性の形態の癌に関連する新規な分子標的を同定することの大きな必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、本発明は、癌の治療に有用な化合物を同定する方法を提供する。この方法のステップは、試験化合物を、プロテインキナーゼN3(PKN3)ポリペプチド(またはその断片)、RhoCポリペプチド(またはその断片)およびホスホイノシチド依存性キナーゼ1(PDK1)ポリペプチド(またはその断片)と混合するステップと、形成された、PKN3およびRhoCを含有する複合体(「複合体」)の量を次に決定するステップとを含む。これをこの複合体の「試験レベル」と呼ぶ。次に試験レベルを参照値と比較する。試験レベルと参照値との任意の相違は、その試験化合物が潜在的に癌治療活性を有することを示す。一部の実施形態では、試験化合物と混合する前に、PKN3、RhoCおよびPDK1ポリペプチド(またはそれらの断片)を、ある程度まで精製する。
【0007】
一部の実施形態では、構成成分(構成成分はPKN3、RhoCおよびPDK1、またはこれらそれぞれの断片である)のうちの1つまたは複数が、その構成成分を同定し、かつその構成成分およびそれに付着している任意の他の構成成分の単離を補助するのに使用される分子タグを含有する。分子タグは当技術分野で一般的に知られている。例には、ポリヒスチジン、GSTおよびFLAGが含まれる。一部の実施形態では、PKN3ポリペプチドが分子タグを含み、かつ複合体が、PKN3ポリペプチドをその分子タグによりプルダウンすることによって単離される。
【0008】
一部の実施形態では、参照値は、試験化合物の非存在下で形成される複合体のレベルである。他の実施形態では、参照値は、試験化合物がPKN3、RhoCおよびPDK1(またはこれらそれぞれの断片)と混合される場合に形成される複合体のレベルであり、キナーゼのいずれか一方または両方がキナーゼデッドである。
【0009】
一部の実施形態では、試験レベルが参照値より大きい。一部の実施形態では、試験化合物は、癌細胞の浸潤性を低減させるか、または腫瘍の成長速度を低減させる化合物である。
【0010】
第2の態様では、本発明は、癌の治療で有用な化合物を同定する細胞ベースの方法を提供する。この方法のステップは、細胞を試験化合物と接触させるステップと、試験化合物の存在下で、細胞内で形成される複合体の量(試験レベル)を決定するステップとを含む。細胞が、PKN3ポリペプチド(またはその断片)、RhoCポリペプチド(またはその断片)およびホスホイノシチド依存性キナーゼ1(PDK1)ポリペプチドを含有し、かつ複合体も、それらの構成成分のそれぞれを含有する。次に試験レベルを参照値と比較する。試験レベルと参照値との任意の相違は、その試験化合物が潜在的に癌治療活性を有することを示す。
【0011】
一部の実施形態では、細胞が、例えば、長期造血幹細胞(LT−HSC)などの幹細胞である。他の実施形態では、細胞が腫瘍由来の培養細胞である。一部の実施形態では、細胞が高い転移能力を有する。一部の実施形態では、細胞が、例えば、PC3細胞、HEK293細胞、MDA−MB231細胞、MCF7細胞、MDA361細胞、MCF468細胞、BT549細胞およびHeLa細胞のうちの1つである。他の実施形態では、細胞が、構成成分の1つもしくは複数またはすべてを異種組換えポリペプチドとして含有する。
【0012】
一部の実施形態では、構成成分(構成成分はPKN3、RhoCおよびPDK1、またはこれらの断片)の1つまたは複数が細胞にとって内因性である。一部の実施形態では、構成成分のうちの1つまたは複数が組換え体であり、その構成成分を同定し、かつその構成成分およびそれに付着している任意の他の構成成分の単離を補助するのに使用される分子タグを含有する。分子タグは当技術分野で一般的に知られている。例には、ポリヒスチジン、GSTおよびFLAGが含まれる。一部の実施形態では、PKN3ポリペプチドが分子タグを含み、かつ複合体が、PKN3ポリペプチドをその分子タグによりプルダウンすることによって単離される。
【0013】
一部の実施形態では、参照値は、試験化合物の非存在下で形成される複合体のレベルである。他の実施形態では、参照値は、試験化合物がPKN3,RhoCおよびPDK1(またはこれらの断片)と混合される場合に形成される複合体のレベルであり、キナーゼのいずれか一方または両方がキナーゼデッドである。
【0014】
一部の実施形態では、試験レベルが参照値より大きい。一部の実施形態では、試験化合物は、癌細胞の浸潤性を低減させるか、または原発性腫瘍の成長速度を低減させる化合物である。
【0015】
第3の態様では、本発明は、患者のPKN3活性およびRhoC活性のレベルを評価することによって、患者の癌を診断する方法を提供する。この方法によれば、患者から試料を取得し、次に試料中のPKN3活性およびRhoC活性のレベル(これは試験レベルである)を決定し、次に試験レベルを参照値と比較する。試験レベルと参照値との相違が、侵襲性である癌を患者が有することを示す。
【0016】
第4の態様では、本発明は、患者のPKN3活性およびRhoC活性のレベルを評価することによって、癌治療に応答できる患者を同定する方法を提供する。この方法によれば、患者から試料を取得し、次に試料中のPKN3活性およびRhoC活性のレベル(これは試験レベルである)を決定し、次に試験レベルを参照値と比較する。試験レベルと参照値との相違が、患者が癌治療に応答する見込みを示す。
【0017】
第3の態様および第4の態様の両方の一部の実施形態では、参照値が、非癌組織で決定されるPKN3活性およびRhoC活性のレベルである。一部の実施形態では、試料が腫瘍生検であり、試験レベルが、例えば、in situハイブリダイゼーション、in situ PCRまたは免疫染色など、腫瘍内のin situアッセイによって決定される。一部の実施形態では、参照は、単純に、腫瘍試料の周囲または中にある任意の非癌組織である。一部の実施形態では、試験レベルが参照値より大きい。
【0018】
第5の態様では、本発明は、処置を行う前および処置を行った後におけるPKN3活性およびRhoC活性のレベルの変化を評価することによって、対象の癌治療処置レジメンの効果を決定する方法を提供する。この方法によれば、患者から試料を取得し、次に試料中のPKN3活性およびRhoC活性のレベル(これは前治療レベルすなわち第1のレベルである)を決定し、次に処置レジメンを患者に行う。処置を行った後のある時点で、患者から第2の試料を取得し、次に第2の試料中のPKN3活性およびRhoC活性のレベル(これは治療後レベルすなわち第2のレベルである)を決定する。第1のレベルおよび第2のレベルを相互に比較する。第1のレベルと比較した、第2のレベルのPKN3活性およびRhoC活性の両方の低減が、処置レジメンが患者の癌に対して有効であることを示す。
【0019】
第3、第4および第5の態様の一部の実施形態では、PKN3活性は、PKN3ポリペプチドまたはその断片をコードするRNAの発現である。他の実施形態では、PKN3活性は、PKN3ポリペプチドまたはその断片の発現である。他の実施形態では、PKN3活性は、PKN3ポリペプチドのリン酸化である。さらに他の実施形態では、PKN3活性は、例えば、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK−3)由来のペプチドなど、PKN3の下流エフェクター(表1も参照)のリン酸化である。
【0020】
第3、第4および第5の態様の一部の実施形態では、RhoC活性は、RhoCポリペプチドまたはその断片をコードするRNAの発現である。他の実施形態では、RhoC活性は、RhoCポリペプチドまたはその断片の発現である。他の実施形態では、RhoC活性は、例えば、PKN3またはグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK−3)由来のペプチドなど、RhoCの下流エフェクター(表1も参照)のリン酸化である。
【0021】
第3、第4および第5の態様の一部の実施形態では、PKN3ポリペプチドのリン酸化状態は、PKN3のT860におけるターンモチーフリン酸化部位に特異的に結合する抗体または他のポリペプチドを用いることによって決定される。例えば、配列番号36を参照。
【0022】
第1から第5までの態様の一部の実施形態では、癌は、乳癌、卵巣癌、膵癌、胃癌、肝細胞癌、膀胱癌、結腸直腸癌、皮膚悪性黒色腫および前立腺癌(CaP)のうちのいずれか1つまたは複数である。
【0023】
第6の態様では、本発明は、PKN3ポリペプチドおよびRhoCポリペプチドを含む複合体の形成を破壊または遮断するポリペプチドまたはペプチドミメティックを含む組成物を提供する。一部の実施形態では、ポリペプチドまたはペプチドミメティックが、PKN3の、RhoCに結合する領域に結合する。他の実施形態では、ポリペプチドまたはペプチドミメティックが、RhoCの、PKN3に結合する領域に結合する。一部の実施形態では、ポリペプチドまたはペプチドミメティックが、PKN3またはRhoC上のエピトープを認識する1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含有する。一部の実施形態では、CDR含有ポリペプチドが、抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、単鎖可変断片(「ScFv」)、小モジュール免疫薬剤(「SMIP」)およびナノボディー(別名単一ドメイン抗体またはVHH抗体)のいずれか1つである。
【0024】
第6の態様の一部の実施形態では、PKN3の、RhoCに結合する領域は、ACC1、ACC2またはACC3アミノ酸配列のいずれか1つまたは複数を含む。他の実施形態では、ポリペプチドまたはペプチドミメティックが、PKN3のACC1、ACC2およびACC3のうちのいずれか1つまたは複数に対応するアミノ酸配列を含有する。
【0025】
第7の態様では、本発明は、T860のPKN3ターンモチーフリン酸化部位に結合する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチドを提供する。一部の実施形態では、ポリペプチドが抗体であり、これには、例えば、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、単鎖可変断片(「ScFv」)、小モジュール免疫薬剤(「SMIP」)およびナノボディー(別名単一ドメイン抗体またはVHH抗体)が含まれる。
【0026】
第8の態様では、本発明は、PKN3とRhoCとの相互作用を調節し、かつ癌を治療するのに使用できる化合物についてスクリーニングするのに使用されるキットを提供する。キットは、患者の癌の侵襲性および浸潤性を判定するのにも使用できる。キットは、患者における癌治療の有効性を評価するのにも使用できる。一部の実施形態では、キットは、(a)PKN3活性を検出する薬剤、(b)RhoC活性を検出する薬剤、(c)標識および(d)パッケージを含有する。一部の実施形態では、キットは、癌治療用化合物も含有する。癌治療用化合物とは、対象における癌細胞の成長または転移を予防または遅延させる化合物、組成物または処置レジメンである。そのような癌治療用化合物には、化学療法薬、遺伝子療法組成物、ホルモンに影響を与える化合物、免疫療法化合物、抗体およびアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれるが、これらに限定されない。有用な化学療法薬の例には、ブレオマイシン、ネオカルシノスタチン、スラミン、ドキソルビシン、タキソール、マイトマイシンCおよびシスプラチンが含まれるが、これらに限定されない。本発明で使用するための癌治療用化合物には、将来開発される新規な化合物または処置も含まれることを理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】リン酸化PKN3レベルの同時増大を示す、増大した悪性能を有する乳癌細胞系のウェスタンブロットを示す図である。
【図2】リン酸化PKN3レベルの同時増大を示す、増大した薬物耐性を有する非小細胞肺癌(NSCLC)細胞系のウェスタンブロットを示す図である。
【図3A】抗リン酸化PKN抗体および抗Myc抗体でプロービングされた、Mycタグ付きのRhoおよびRacコンストラクトで形質移入された細胞からの溶解物のウェスタンブロットを示す図である。
【図3B】抗リン酸化PKN抗体および抗Myc抗体でプロービングされた、Mycタグ付きのRhoおよびRacコンストラクトで形質移入された細胞からの抗Myc免疫沈降物のウェスタンブロットを示す図である。
【図4A】抗Myc抗体および抗Flag抗体でプロービングされた、Mycタグ付きのRhoコンストラクトおよびFlagタグ付きのPKN3コンストラクトで形質移入された細胞からの溶解物のウェスタンブロットを示す図である。
【図4B】PKN3、RhoCおよびPDK1を含有する三重複合体のキナーゼ依存的な形成を示す、抗Flag免疫沈降物のウェスタンブロットを示す図である。
【図5A】抗Myc抗体、抗PDK1抗体および抗PKN3抗体でプロービングされた、Mycタグ付きのRhoコンストラクトおよびFlagタグ付きのPKN3コンストラクトで形質移入された細胞からの溶解物のウェスタンブロットを示す図である。
【図5B】RhoC/PDK1/PKN3三重複合体で調節された、PKN3のキナーゼ活性を示す抗Flag免疫沈降物のウェスタンブロットを示す図である。
【図6A】PKN3またはp110βを標的とするドキシサイクリン(DoxすなわちDoxy)誘導shRNAを発現するPC−3細胞からの溶解物のウェスタンブロットを示す図である。
【図6B】MATRIGEL(登録商標)に播種された代表的細胞集団を示す図である。
【図7A】移植されたPKN3 shRNA PC−3細胞を保持するマウスからの腫瘍容積を定量化するヒストグラムである。
【図7B】移植されたPKN3 shRNA PC−3細胞を保持するマウスからの腫瘍容積を定量化するヒストグラムである。
【図8A】PKN3、p110βまたはCKIεを標的とするDox誘導shRNAを発現するMDA−MB−231細胞からの溶解物のウェスタンブロットを示す図である。
【図8B】MATRIGEL(登録商標)に播種された代表的細胞集団を示す図である。
【図9】ドキシサイクリン誘導の存在下および非存在下における、PKN3 shRNA MDA−MB−231細胞を保持するマウスの腫瘍質量を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(a)プロテインキナーゼN3(PKN3)は選択的にRhoCと会合し、(b)PKN3はキナーゼ依存的な様式でRhoCに結合し、かつ(c)PKN3とRhoCとの会合は、PDK1を含有する三重複合体(PKN3/PDK1/RhoC複合体、すなわちPPRC複合体)の形成を促進するという驚くべき発見を本明細書に開示する。PPRC複合体は、とりわけ侵襲癌に関連する価値のある標的である。PPRC複合体の形成がPKN3のリン酸化の増大およびそれに続くキナーゼ活性をもたらすことをさらに開示する。
【0029】
PKN3は、長さ889アミノ酸残基(ヒト相同分子種)のセリン/スレオニンプロテインキナーゼである。それは、それぞれ残基15〜77、97〜170および184〜236に位置する、ACC1、ACC2およびACC3という3つの逆平行コイルドコイル(ACC)ドメインを含有するN末端推定調節領域と、残基559〜882に位置するC末端触媒領域と、推定調節ドメインと触媒ドメインとの間に位置する長さ約100〜130残基のC2様ドメインとを有する。哺乳動物には、少なくとも3つの異なったPKNアイソフォーム(PKN1/PKNα/PAK−1/PRK−1、PKN2/PRK2/PAK−2/PKNγおよびPKN3/PKNβ)が存在し、これらのそれぞれが異なった酵素学的特性、組織分布および様々な機能を示す。PKNに関する総説には、Mukai,H.、J.Biochem 133、17〜27頁、2003を参照のこと。参照により全体として本明細書に組み込まれている、2004年6月3日公開の米国特許出願第20040106569号も参照のこと。
【0030】
侵襲性および薬物耐性が増大した癌細胞で、PKN3が上方制御されていることをここにさらに開示する(それぞれ、図1および2を参照)。侵襲性の増大とは、それらの癌細胞が転移性であること、高い転移能を有すること、増大した増殖速度を有すること、または薬物抵抗性であることを意味する。侵襲癌は、例えば、トリプルネガティブ乳癌によって例示される(例えば、Dentら、Clinical Cancer Research 13:4429〜4434頁、2007年8月1日を参照)。侵襲癌は、PKN3/RhoC経路が関与している癌も含む。
【0031】
PPRC複合体の活性を阻害する化合物は、細胞の転移性および増殖挙動を制御するのに使用でき、それゆえ、腫瘍および癌、より詳細には侵襲性である腫瘍および癌を治療する方法を提供する。PPRC活性によってもたらされるシグナル伝達および他の活性の低減は、PPRC複合体の構成成分のうちの1つまたは複数における転写レベルの低減に由来するものでも、翻訳レベルの低減に由来するものでも、翻訳後修飾レベルの低減に由来するものでも、四次構造形成(すなわち、三重複合体の形成)のレベルの低減に由来するものでもよい。
【0032】
侵襲癌において、PPRC複合体とRhoC/PKN3経路とが関与しているので、複合体およびその構成成分は、予後マーカー、疾患ステージマーカー、患者層別マーカー、またはその細胞が転移を行うか、もしくは他の様式で侵襲性になるかに関して、細胞の状態もしくはそのような種類の細胞を体内に有する患者の状態を診断するマーカーとして使用できる。
【0033】
PKN3は、PI3K誘導の細胞移動および細胞浸潤の、発生的に調節される媒介因子である。それは、発現および触媒活性のレベルで、Akt非依存的な様式で、PI3Kによって調節される。それは、限定的な発現パターン(内皮、胚および腫瘍細胞)を有し、ほとんどの正常な細胞機能には必須でない。それは、正所性マウスモデルにおける転移性PC−3(PTEN−/−)細胞増殖に必要である。
【0034】
正常細胞では、PI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ)経路は、成長因子誘導の際のPI3キナーゼ活性および平行するシグナル伝達経路によって特徴付けられる。細胞の成長因子刺激は、細胞膜におけるそれらの認識受容体の活性化をもたらし、今度はそれらが、PI3キナーゼなどの細胞内シグナル伝達分子と結合し、活性化する。PI3キナーゼ(p85調節サブユニットおよびp110触媒サブユニットからなる)の活性化は、リン酸化によるAktの活性化をもたらし、それによって、増殖、生存または移動など、さらに下流の細胞反応を補助する。それゆえ、PTENは、ホスファチジルイノシトール(PI)3キナーゼ経路に関与する腫瘍抑制因子であって、かつ細胞の増殖および形質転換を調節するその役割について過去に広範に研究されている(総説には、例えば、Stein,R.C.およびWaterfield,M.D.Mol Med Today 6、347〜357頁、2000を参照)。
【0035】
腫瘍抑制因子PTENは、PI3キナーゼ触媒反応を逆行させることによって、PI3キナーゼの負の調節因子として機能し、それによって、この経路の活性化が一過性かつ制御された様式で起こることを確実にする。PI3キナーゼシグナル伝達の慢性的な活性化過剰は、PTENの機能的不活性化によって引き起こされる。PI3キナーゼの活性は、低分子阻害剤LY294002の添加によって遮断できる。平行経路で作用するシグナル伝達キナーゼMEKの活性および下流反応は、例えば、低分子阻害剤PD98059によって阻害できる。
【0036】
PTEN機能の減失を介した、PI3キナーゼ経路の慢性的活性化は、腫瘍形成および転移への主要寄与因子であり、これは、この腫瘍抑制因子が、制御された細胞増殖の重要なチェックポイントであることを示している。PTENノックアウト細胞は、PI3キナーゼの活性型を介して、PI3キナーゼ経路が慢性的に誘導されている細胞と類似した特徴を示す。ホスファチジルイノシトール3−キナーゼの活性化は、細胞周期への侵入に十分であり、発癌性形質転換に特徴的な細胞変化を促進する。
【0037】
PI3キナーゼ経路の調節不全に関与する疾患および状態はよく知られている。それゆえ、これらの状態および疾患のいずれも、本発明の方法、薬物および診断薬によって対処できる。それらの設計、スクリーニングまたは製造は本明細書に教示されている。限定ではなく、例示のために、以下の状態および疾患、すなわち、子宮体癌、結腸直腸癌、神経膠腫、子宮体癌、腺癌、子宮内膜増殖症、カウデン症候群、遺伝性非ポリポーシス結腸直腸癌、リーフラウメニ症候群、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、バナヤン−ゾナナ(Bannayan−Zonana)症候群、LDD(レルミット−デュクロ(Lhermitte−Duklos)症候群)、カウデン病(CD)およびバナヤン−ルバルカバ−ライリー(Bannayan−Ruvalcaba−Rily)症候群(BRR)を含めた過誤腫−大頭症疾患、皮膚粘膜病変(例えば、毛根鞘腫)、大頭症、精神遅滞、胃腸過誤腫、脂肪腫、甲状腺腺腫、乳房線維嚢胞病、小脳異形成性神経節細胞腫ならびに乳腺および甲状腺悪性腫瘍を示す。
【0038】
これに関連して、PPRC複合体およびその個々の構成成分は、PPRCの上流を標的とするように作られている他の薬物より少ない副作用を有する薬物によって対処できる、PI3キナーゼ経路の価値ある下流薬物標的である。したがって、本発明は、例えば、2−(4−モルホリニル)8−フェニルクロモン(「LY294002」)など、通常はPI3キナーゼを標的とする、当技術分野で知られているものより選択的な薬学的活性化合物の設計、スクリーニング、開発および製造に適した薬物標的を提供する。この特定の一部のエフェクター分子、すなわち、RhoCおよびPKN3、ならびにこの経路に関与するさらに下流の任意の分子に関する制御を有することによって、平行するその分枝またはシグナル伝達カスケードにおけるさらに上流の標的のうち、望ましくない影響を引き起こす可能性が高いのは、極めて限られた数のみとなる。したがって、細胞周期、DNA修復、アポトーシス、グルコース輸送、翻訳に関係する、PI−3キナーゼ/PTEN経路の他の活性は、影響を受けなくなる。また、インスリンシグナル伝達も誘導されず、これは、LY294002の使用に関連して観察された糖尿病性の反応または他の副作用が実際に回避されることを意味する。
【0039】
PKN3をコードする核酸の完全配列は、例えば、アクセッション番号NM_013355.3の下で、データバンクで一般に利用可能である。また、PKN3のアミノ酸配列は、アクセッション番号NP_037487.2の下で、データバンクで利用可能である。RhoCをコードする核酸の完全配列は、例えば、アクセッション番号NM_001042678.1、NM_001042679.1およびNM_175744.4の下で、データバンクで一般に利用可能である。また、RhoCのアミノ酸配列は、アクセッション番号NP_001036143.1、NP_001036144.1およびNP_786886.1の下で、データバンクで利用可能である。望ましい効果が実現されうる限り、本発明に従って、PKN3およびRhoCの誘導体またはそれらの末端欠失型バージョンが使用できることも、本発明に包含される。したがって、誘導体化および末端欠失の程度は、当業者が日常的分析によって決定できる。
【0040】
本発明との関連において、PKN3およびRhoCをコードする核酸配列という用語には、前述のアクセッション番号によって指定された核酸配列または前述のアミノ酸配列から派生しうる任意の核酸配列とハイブリダイズする核酸も含まれる。そのようなハイブリダイゼーションは、当業者には既知のものである。そのようなハイブリダイゼーションの詳細は、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManiatis,T.(1989)、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor:Cold Spring Harbor Laboratoryから得られる。好ましい実施形態では、ハイブリダイゼーションは、ストリンジェントな条件下、例えば、Sambrook、同上で特定されているストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションである。
【0041】
加えて、PKN3およびRhoCをコードする核酸は、前述の核酸配列のいずれかに相同な配列を含有する核酸配列であり、その際、配列相同性の程度は、75%、80%、85%、90%または95%である。
【0042】
ヒトPKN3の相同分子種は、中でも、マウス(M.musculus)およびラット(R.norvegicus)、シロイヌナズナ(A.thaliana)、線虫(C.elegans)、キイロショウジョウバエ(D.melanogaster)ならびに出芽酵母(S.cerevisiae)という進化的に多様な生物で見出されている。PKN3の場合、同一性のパーセントは、前述の多様な種において、それぞれ67%、51%、38%、36%、63%および44%である。ヒトRhoCの相同分子種は、マウス、ラット、シロイヌナズナ(arabidopsis)およびショウジョウバエ(drosophila)で見出されており、それぞれ100%、99%、47%および86%の同一性のパーセントを有する。当業者ならば、これらまたは他の相同分子種および相同体のうちのいずれかが、そのような相同体を用いて生成された薬物または診断薬が依然としてヒトPKN3またはRhoCまたは任意の他の意図されているPKN3またはRhoCと相互作用できるという条件で、原則として本発明の実施に適すると認めるであろう。
【0043】
PPRC複合体およびその個々のメンバーは、薬物もしくは薬物候補として、または診断薬として使用できる化学化合物がそれに対して作られる標的として使用できる。抗体、ペプチド、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAならびに有機小分子など、化合物の様々なクラスに属する適した化学化合物が使用できる。それらの化合物は、PPRC複合体(複合体それ自体、その個々のメンバーまたはこれらの組合せ)またはPPRC複合体に関する情報を用いることによって、設計、選択、スクリーニング、生成または製造される。
【0044】
前記クラスの化合物の設計、選択、スクリーニング、生成または製造プロセスにおいて、PPRCは、それを必要とする患者へのそれぞれの化合物の最終適用ではなく、むしろその過程で使用される標的としても言及される。様々なクラスの化合物を提供する過程において、PPRC複合体全体、個々のメンバーもしくはその様々な組合せ、またはPPRCのタンパク質構成物のうちの任意のものまたはすべてをコードする核酸のいずれかを使用できる。「PPRC複合体またはその構成成分」という用語は、本明細書で使用される場合、PPRCおよびその構成メンバーの任意の断片または誘導体を含み、それは、薬物として、または診断薬として使用できる前記化合物の設計、選択、スクリーニング、生成または製造を可能にする。
【0045】
「PPRC複合体またはその構成成分をコードする核酸」という用語は、本明細書で使用される場合、任意の核酸を含むものとし、それは、PPRC複合体の任意の構成成分またはその断片をコードする核酸を含有する。PPRC複合体またはその構成成分をコードする核酸の部分は、それが薬物として、または診断薬として使用できる前記化合物の設計、選択、スクリーニング、生成または製造に適している限り、そのようなものとして考えられる。PPRC複合体またはその構成成分をコードする核酸は、ゲノム核酸、hnRNA、mRNA、cDNAまたはこれらそれぞれの部分でありうる。
【0046】
上記に概説した通り、PPRC複合体の内因性の活性から生じる影響を生み出すか、または抑制するために、本明細書に記載のPPRC複合体もしくはその構成成分またはそれらをコードする核酸配列とは別に、他の手段または化合物を使用することもできることが本発明に包含される。そのような手段は、スクリーニング方法で決定または選択できる。そのようなスクリーニング方法において、第1のステップは、1つまたはいくつかのいわゆる候補化合物または試験化合物を提供することである。ここで使用される候補化合物は、本明細書に記載の癌を治療または緩和するかどうかに関する試験系でその適合性が試験される化合物、または癌の診断手段または薬剤として使用されるべき化合物である。
【0047】
候補化合物が試験系でそれぞれの作用を示す場合、前記候補化合物は、前記疾患および疾患状態の治療に適した手段または薬剤であり、かつ原則として、前記疾患および疾患状態に適した診断薬でもある。第2のステップでは、候補化合物を、PPRC発現系、PPRC遺伝子産物、PPRC活性系またはPPRC複合体もしくは構成成分を接触させる。PPRC活性系は、本明細書では、例えば、PPRCキナーゼ活性など、PPRC複合体の活性を検出する系とも呼ばれる。一部の実施形態では、PPRC複合体のキナーゼ活性は、例えば、GPGRRGRRRTSSFAEGG(配列番号1)の配列を有する、診断用のGSK3α由来断片など、基質のリン酸化を測定することによって評価できる。表1は、本発明の実施に有用な追加のPPRCキナーゼ基質を示す。
【0048】
本明細書に記載のPPRCスクリーニング方法は、非機能性化合物または不活性な化合物をそれ以降の考慮から排除するのにも有用である。したがって、対象または試験系から取得した第1の試料中でPPRC活性を測定し、前治療レベルを得、その後、試験化合物を対象または試験系に投与し、試験化合物を投与した後のある時点に対象または試験系から得た第2の試料中でPPRC複合体またはその個々の構成成分の活性を測定し、それによって試験レベルのデータを得ることができる。前治療レベル(第1のレベル)を試験レベル(第2のレベル)と比較することができ、前治療レベルと比較して試験レベルの低減を示さないデータは、試験化合物が対象に有効でないことを示し、試験薬をそれ以降の評価または研究から排除できる。反対に、値の変化は、試験化合物がPPRC阻害剤としての使用、またはそれ以降の研究に適していることを示しうる。
【0049】
【表1】

【0050】
PPRC発現系は、基本的に、PPRC構成成分ポリペプチド(RhoC、PKN3およびPDK1)のうちのいずれか1つまたは複数の発現を示すか、または提示する発現系であり、それによって発現の程度またはレベルが変化しうる。PPRC活性系は、本質的に、それによって活性または活性(例えばキナーゼ活性)の条件が測定される発現系である。
【0051】
これらの系のいずれでも、候補化合物の影響下におけるPPRCの活性またはPPRCをコードする核酸の活性が、候補化合物が存在しない状況と異なるかどうか決定される。特定の系が発現系であるか活性系であるかにかかわらず、それぞれ活性および発現の増大または低減のいずれかが起こり、測定されうることが本発明に包含される。通常、発現系または活性系は、細胞抽出物、または核抽出物など、細胞抽出物の一画分などのin vitro反応物である。本明細書で使用されるPPRC発現系は、細胞、好ましくは本明細書に記載の疾患または本明細書に記載の疾患状態に関与する組織または臓器の細胞であってもよい。
【0052】
活性系または発現系の増大または低減があるかどうかは、例えば、候補化合物の影響下で発現されるPPRC複合体もしくはその構成成分をコードする核酸、より詳細にはmRNAの量の増大もしくは低減、またはPPRC複合体もしくはその構成成分のポリペプチドの増大もしくは低減を測定することによって、発現の各レベルで決定できる。mRNAの測定またはポリペプチドの測定など、そのような測定、より詳細にはこれらの種類の変化の定量的測定に必要な技法は当業者に知られている。例えば、適切な抗体を用いた検出によって、PPRC複合体のポリペプチドの量または含量を決定する方法も、当業者に知られている。抗体は、当業者に知られている通り、および例えば、Harlow,E.およびLane,D.、「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、(1988)に記載の通り作製できる。適した抗体は、他のよく知られている方法によって、例えば抗体ライブラリーからのファージディスプレイ選択によっても作製できる。
【0053】
PPRC複合体系の場合、PPRC複合体の活性の増大または低減を、好ましくは機能アッセイで決定できる。
【0054】
候補化合物と、発現系および活性系それぞれとの接触は、通常、本明細書では通常、試験系と呼ばれるそれぞれの反応系に候補化合物の水溶液を添加することによって行われる。水溶液(緩衝化されているものでありうる)に加えて、有機溶媒中または有機溶媒と水性溶媒との混合物中における候補化合物の懸濁液または溶液も使用できる。
【0055】
一部の実施形態では、発現系および活性系を用いた各実行において、単一の候補化合物のみが使用される。しかし、当技術分野で知られている方法を用いたハイスループット系で、この種類の試験のいくつかを平行して行うことも本発明に包含される。
【0056】
本発明による方法のさらなるステップは、候補化合物の影響下において、PPRC複合体またはそれをコードする核酸に関して、発現系および活性系のそれぞれ発現または活性が変化しているかどうか決定するものである。これは通常、候補(試験)化合物を添加した際の系の反応を、候補化合物を添加しないものと比較することによって行われる。代替として、これは、候補化合物を添加した際の系の反応を、候補化合物を添加した際の非機能性のPPRC構成成分を含有する系、例えば、キナーゼデッドPKN3を含有する系の反応と比較することによって行うこともできる。一部の実施形態では、候補化合物は化合物ライブラリーのメンバーである。
【0057】
通常、化合物のいかなるライブラリーも、化合物のクラスにかかわらず、本発明の目的に適している。適した化合物ライブラリーは、とりわけ、小分子、ペプチド、タンパク質、抗体または機能性核酸で構成されたライブラリーである。後者の化合物は、当業者に知られている通りに生成できる。
【0058】
PPRC複合体全体、またはその任意の構成成分もしくは構成成分の組合せ、またはそれらの断片に特異的な抗体の製造は当業者に知られている。本発明の抗体には、ナノボディー、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体(例えば、ヒト化抗体)および抗イディオタイプ抗体が含まれる。ポリクローナル抗体は、抗原によって免疫化された動物の血清から得られる抗体分子の不均一な集団である。モノクローナル抗体は、抗原に特異的に結合する抗体の実質的に均一な集団である。一般的に、抗体は、例えば、伝統的なハイブリドーマ技法(KohlerおよびMilstein(1975)、Nature、256、495〜499頁)、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)、または抗体ライブラリーを用いたファージディスプレイ(Clacksonら(1991)、Nature、352、624〜628頁;Marksら(1991)、J.Mol.Biol.、222、581〜597頁)を用いて作製できる。追加の抗体産生技術については、「Antibodies:A Laboratory Manual」、HarlowおよびLane編集、Cold Spring Harbor Laboratory、1988を参照のこと。本発明は、抗体のいかなる特定の供給源、生産様式または他の特別な特徴にも限定されない。
【0059】
「抗体」という用語には、完全な分子も、Fab、単鎖Fv抗体(ScFv)および小モジュール免疫薬剤(SMIP)など、抗原に結合できる断片も含まれるものとする。Fab断片は完全な抗体のFc断片を欠失しており、より迅速に循環系から除去され、完全な抗体より少ない非特異的な組織結合を有しうる(Wahlら、1983、J.Nucl.Med.24、316〜325頁)。キメラ抗体は、例えば、マウスのモノクローナル抗体に由来する可変領域(VH、VL)と、ヒト免疫グロブリン定常領域(CH1−CH2−CH3、CL)とを有するものなど、その異なった部分が異なった動物種に由来する分子である。キメラ抗体およびそれらを産生する方法は当技術分野で知られている(Cabillyら、1984、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81、3273〜3277頁;Morrisonら、1984、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81、6851〜6855頁;Boulianneら、1984、Nature 312、643〜646頁;Cabillyら、欧州特許出願第125023号(1984年11月14日公開);Taniguchiら、欧州特許出願第171496号(1985年2月19日公開);Morrisonら、欧州特許出願第173494号(1986年3月5日公開);Neubergerら、PCT出願第WO86/01533号(1986年3月16日公開);Kudoら、欧州特許出願第184187号(1986年6月11日公開);Morrisonら、欧州特許出願第173494号(1986年3月5日公開);Sahaganら、1986、J.Immunol.137、1066〜1074頁;Robinsonら、PCT/US86/02269(1987年5月7日公開);Liuら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84、3439〜3443頁;Sunら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84、214〜218頁;Betterら、1988、Science 240、1041〜1043頁)。SMIPは、1つの結合ドメイン、1つのヒンジドメインおよび1つのエフェクタードメインを含む単鎖ポリペプチドである。SMIPならびにそれらの使用および適用は、例えば、米国特許出願公開第2003/0118592号、第2003/0133939号、第2004/0058445号、第2005/0136049号、第2005/0175614号、第2005/0180970号、第2005/0186216号、第2005/0202012号、第2005/0202023号、第2005/0202028号、第2005/0202534号および第2005/0238646号ならびにこれらの関連特許ファミリーメンバーに開示されている。これらの開示をすべて、参照により全体として本明細書に組み込む。
【0060】
本発明に従って使用できる抗体は、1つまたはいくつかのマーカーまたは標識を有しうる。そのようなマーカーまたは標識は、その診断適用またはその治療適用のいずれかで抗体を検出するのに有用でありうる。マーカーおよび標識は、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、金およびフルオレセインを含む群から選択され、例えば、ELISA法で使用されることが好ましい。これらおよびさらに他のマーカーならびに方法は、例えば、HarlowおよびLane、同上に記載されている。
【0061】
一実施形態では、PPRC抗体は、PKN3の活性化状態特異的な抗体を含み、それは、PKN3のターンモチーフ(配列番号24:847−YFEGEFTGLPPALTPPAPHSLLTARQQA−874)中の位置860(四角内)のリン酸化スレオニンを認識する。前記抗体は、とりわけ、増大したPKN3発現および活性化のプローブならびに患者層別および治療反応の生物マーカーとして有用である。
【0062】
PPRCを破壊するさらに別のクラスの薬物、化合物、ならびにPPRC複合体もしくは構成成分およびそれらの断片、または前記PPRC複合体もしくは構成成分およびそれらの断片をコードする核酸を使用して生成できる診断薬は、それらに結合するペプチドである。そのようなペプチドは、ファージディスプレイなどの最新技術による方法を用いて生成できる。基本的に、ペプチドのライブラリーをファージ表面に生成および提示し、提示されたライブラリーを標的、この場合、例えば、PPRC複合体またはその構成成分と接触させる。それに続いて、標的に結合するペプチドを、好ましくは標的分子との複合体として、それぞれの反応から除去する。結合特性は、少なくともある程度、塩濃度など、特定の実験設定に依存することが当業者に知られている。より高い親和性、またはより大きな力で標的分子に結合するペプチドを、ライブラリーの非結合メンバーから分離した後、そして標的分子とペプチドとの複合体から任意選択で標的分子も除去した後に、それぞれの(1つまたは複数の)ペプチドを特徴分析することができる。
【0063】
特性分析ステップの前に、例えばペプチドコーディングしたファージを増殖させるなどによって、増幅ステップを行ってもよい。一部の実施形態では、特性分析は、標的結合ペプチドの配列決定を含む。基本的に、ペプチドはそれらの長さで限定されないが、通常、約8〜20アミノ酸の長さを有するペプチドがそれぞれの方法で得られる。ライブラリーのサイズは、約10〜1018、または10〜1015の異なったペプチドのものでありうるが、ライブラリーのサイズはこれらに限定されない。
【0064】
本発明によれば、PPRC複合体またはその構成成分、および前記PPRC複合体またはその構成成分をコードする核酸は、侵襲癌を治療するための薬物の製造または開発、ならびに前記侵襲癌を診断するための手段の製造または開発の標的として、スクリーニング工程で使用でき、それによって、スクリーニング工程で、小分子または小分子のライブラリーが使用される。このスクリーニングは、標的PPRC複合体またはその構成成分(標的)を単一の小分子または様々な小分子(ライブラリーなど)、好ましくは上記に特定したライブラリーからのものと同時に、または順次に接触させるステップと、標的に結合し、かつPPRC複合体の機能または完全性を破壊し、他の小分子と共にスクリーニングされる場合には、非結合または非相互作用小分子から分離されうる小分子、またはライブラリーのメンバーを同定するステップとを含む。
【0065】
結合および非結合は、特定の実験設定によって強く影響されうる。反応パラメータのストリンジェンシーを変更することで、結合および非結合の程度を変えることが可能であり、これによって、このスクリーニング工程の微調整が可能となる。一部の実施形態では、標的と特異的に相互作用する1つまたはいくつかの小分子を同定した後に、この小分子をさらに特徴分析することができる。この追加の特徴分析は、例えば、小分子の同定、ならびにその分子構造およびさらなる物理的、化学的、生物学的または医学的の特性の決定でありうる。一部の実施形態では、天然化合物は約100〜1000Daの分子量を有する。一部の実施形態では、小分子は、当業者に知られている、リピンスキーのルールオブファイブ(Lepinski’s Rule of Five)に従うものである(Lipinskiら、Adv.Drug.Del.Rev.、23、3〜25頁、1997を参照)。代替として、小分子は、それらが、天然物とは対照的に、コンビナトリアル化学で生じる合成小分子となるように定義してもよい。しかし、これらの定義は、当技術分野におけるそれぞれの用語の一般的な理解の補助でしかないことを理解するべきである。すべてのキナーゼと同様に、PPRC複合体のPKN3およびPDK1構成成分は、ATP結合部位を含有しており、そのような部位に結合することが知られている薬物は、それゆえ、PPRC機能を阻害するのに適した候補化合物である。適した化合物の例には、LY−27632、Ro−3 1−8220およびHA1077が含まれるが、これらに限定されない。これらはすべて、Calbiochem(La Jolla,Calif.)から入手可能である。
【0066】
以下の実施例によって、本発明をさらに例示するが、これは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0067】
コンストラクトおよびタンパク質
Flag−PKN3タンパク質:ヒトPKN3の完全長cDNA(例えば、配列番号25および配列番号26)をPCRによって増幅し、pcDNA3発現ベクター(配列番号27)(Invitrogen,Carlsbad,CA)にクローニングした。5’プライマーは、ATGコドンおよびそれに続くFlagエピトープ(配列番号28)を、増幅されたコード領域とインフレームで含有していた。このPCR産物をEcoRIおよびXhoI制限酵素によって消化し、同一の酵素部位を介してpcDNA3発現ベクターと連結し、N末端Flagエピトープタグ付きのPKN3を得た。K588R置換を含む、PKN3のキナーゼデッドバージョンも、同じ戦略を用いて同じベクターにクローニングした。
【0068】
Myc−Rhoタンパク質:ヒトRac1(例えば、配列番号29および30)、RhoA(例えば、配列番号31および32)、RhoB(例えば、配列番号32および33)およびRhoC(例えば、配列番号35および36)の完全長cDNAをpCG哺乳動物発現ベクター(TanakaおよびHerr(1990)、Cell、60(3)、375〜386頁)にクローニングした。5’プライマーは、ATGコドンおよびそれに続くMycエピトープ(配列番号37)を、増幅されたコード領域とインフレームで含有していた。このPCR産物をNdeIおよびBamHI制限酵素によって消化し、同じ酵素部位を介して発現ベクターpCGに連結し、N末端Mycエピトープタグ付きのRhoA、RhoBおよびRhoCを得た。
【実施例2】
【0069】
抗体および細胞溶解物
抗体:p110抗体は、Klippelら(1994)、Mol Cell Biol.、14(4)、2675〜85頁に記載されている。PKN抗体は、Leenders、2004に記載されている。PDK1抗体は、Cell Signaling Technology,Inc.(Beverly,MA)から市販されている。抗リン酸化PKN3 T860ウサギモノクローナル抗体は、標準的手順で産生させた(Spieker−Polet、1995、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、92、9348〜9352頁参照)。Mycエピトープに対する抗体は、9E10 Mycモノクローナル抗体であった。それらは、市販されており、かつEvanら、Mol.Cell.Biol.、5、3610〜6頁(1985)に記載されている。
【0070】
細胞溶解物:細胞を冷リン酸緩衝食塩水(PBS)で2回洗浄し、20mM Tris(pH7.5)、137mM NaCl、15%(vol/vol)グリセロール、1%(vol/vol)ノニデットP−40(NP−40)、2mMフッ化フェニルメチルスルホニル、1mlあたり10mgのアプロチニン、20mMロイペプチン、2mMベンズアミジン、1mMバナジウム酸ナトリウム、25mM β−グリセロールリン酸、50mM NaFおよび10mM Na−ピロリン酸を含有する溶解緩衝液中で4℃で溶解させた。溶解物を14,000×gで5分間、遠心処理することによって清澄化し、溶解物のアリコートをタンパク質発現および酵素活性に関して分析した(下記参照)。ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)によって試料を分離し、ニトロセルロースフィルター(Schleicher & Schuell)に転写させた。5%(wt/vol)ドライミルクを含有するTBST緩衝液(10mM Tris−HCl[pH7.5]、150mM NaCl、0.05%[vol/vol]トゥイーン20、0.5%[wt/vol]アジ化ナトリウム)でフィルターをブロッキングした。各抗体を適切な希釈率でTBST中に添加した。結合抗体を、TBST中の抗マウス、抗ヤギまたは抗ウサギ結合アルカリ性ホスファターゼ(Santa Cruz Biotechnology)で検出し、洗浄し、ニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(Promega)で発色させた。代替として、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合二次抗体を使用し、増強化学ルミネセンス(Amersham)で発色させた。
【実施例3】
【0071】
癌細胞におけるPKN3の発現プロファイル
PKN3またはリン酸−PKN3(「P−PKN3」)発現の増大は、腫瘍転移の増大に関連することが知られている(Leendersら、Biochem.Biophys.Res.Comm.、261、808〜814頁)。悪性能および薬剤抵抗性のモデルでPKN3およびP−PKN3の発現を調べた。
【0072】
最も侵襲性が低いものから、最も侵襲性が高いものまで、すなわちMCF−10A、MCF7、MDA361、MCF468、BT549およびMDA231を含めた、侵襲性の高くなる乳癌細胞系をPKN3およびP−PKN3発現に関して調べた。図1は、p110αPI3K、総PKN3およびリン酸−PKN3(P−PKN3 T860)に関してプロービングされた、それらの細胞からの抽出物のウェスタンブロットを示す。結果は、PKN3およびP−PKN T860が、より大きな悪性能を有する癌細胞内で、より小さな悪性能を有するものより大きな程度まで発現されていることを確認する。
【0073】
最も耐性の低いものから、最も耐性の高いものまでを含めた、抗癌剤ゲフィチニブ(別名IRESSA;4−(3−クロロ−4−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルフォリノ−プロポキシ)−キナゾリン)に対する様々な耐性の非小細胞肺癌(NSCLC)細胞系、すなわちH1650、H1975、A549、PC14、H157およびH460細胞をPKN3およびP−PKN3発現に関して調べた(Noroら(2006)、BMC Cancer、6、277〜289頁参照)。図2は、(a)p110αPI3K、(b)総PKN3および(c)P−PKN3 T718に関してプロービングされた、それらの細胞からの抽出物のウェスタンブロットを示す。結果は、PKN3およびP−PKN T860が、抗癌剤に対してより大きな耐性を有する癌細胞内で、抗癌剤に対してより大きな感受性を有するものより大きい程度まで発現されていることを確認する。
【実施例4】
【0074】
内因性PKN3とのPPRC複合体形成
Mycタグ付きの小分子GTPアーゼRac1、RhoA、RhoBまたはRhoCで形質移入された細胞を用いた免疫沈降実験は、RhoCがリン酸化PKN3に選択的に結合することを明らかにした(図3B)。HeLa細胞(5×10細胞/10cm組織培養皿)には、FUGENE(登録商標)形質移入試薬(Roche Diagnostics,Indianapolis,IN)によって、示されているプラスミドを用いて単独で形質移入した。免疫沈降は、プロテインGセファロースと結合した、Mycに対する9E10抗体を用いて行った。免疫複合体を溶解緩衝液で3回洗浄した。結合タンパク質は、抗P−PKN3 T860抗体を用いたウェスタンブロットによって分析した。
【0075】
この実験は、内因性P−PKN3が小分子GTPアーゼRhoCと選択的に会合することを明らかにしている。
【実施例5】
【0076】
異種PKN3とのPPRC複合体形成
Flagタグ付きのPKN3、ならびにMycタグ付きの小分子GTPアーゼRhoA、RhoBまたはRhoCで形質移入されたHEK293T細胞を用いた免疫沈降実験は、PKN3がホスホイノシチド依存性キナーゼ1(PDK1)およびRhoCに結合することを明らかにした。図4Bは、キナーゼ活性型のPKN3がRhoCおよびPDK1に選択的に結合することを示している。したがって、PKN3、RhoCおよびPDK1は三重複合体(「PPRC複合体」)を形成する。
【0077】
Flag(図4B)との免疫沈降には、FUGENE(登録商標)形質移入試薬によって、HEK293T細胞(5×10細胞/10cm組織培養皿)に、示されているプラスミド(Flag−PKN3wt[完全長キナーゼ活性]、Flag−PKN3kd[キナーゼデッドPKN3]、Myc−RhoA、Myc−RhoBまたはMyc−RhoC)を用いて単独で形質移入または同時形質移入した。5%COインキュベーター内、37℃で、6時間のインキュベーションの後に、細胞を無血清ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で2回洗浄し、新たな培地(DMEM、10%ウシ胎児血清)を細胞に添加して、さらに48時間インキュベートした。細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、0.5mlの溶解緩衝液(50mM Tris−HCl[pH7.5]、150mM NaCl、10mM β−グリセロールリン酸、10%グリセロール、1%トリトンX−100、1mM NaVO、1mM NaFおよびプロテアーゼ阻害剤[Roche Molecular Biochemicals])中、氷上で30分間溶解させた。細胞溶解液を14,000rpmで30分間遠心処理し、遠心された溶解液からの上清を、抗Flag M2アフィニティー樹脂(Sigma)と共に4℃で終夜インキュベートした。その後、ビーズを3回TBS緩衝液(50mM Tris−HCl[pH7.5]、150mM NaCl)で洗浄し、10%グリセロール、1mM DTTおよび200μgのFlagペプチド(Sigma)/mlを含有するTBS緩衝液で、結合タンパク質を溶出させた。結合産物は、ウェスタンブロット分析によって可視化させた(図4)。
【実施例6】
【0078】
PPRC複合体のキナーゼ活性
PPRC複合体の酵素活性を、(i)PPRC複合体のPKN3構成成分のリン酸化状態、および(ii)基質、すなわち、GPGRRGRRRTSSFAEGG(配列番号1)の配列を有する、GSK3α由来の断片に対するPPRCのキナーゼ活性を評価することによって調べた。
【0079】
Flagタグ付きのPKN3、およびMycタグ付きの小分子GTPアーゼRhoA、RhoBまたはRhoCで形質移入されたPC3細胞を用いた免疫沈降実験は、PKN3がホスホイノシチド依存性キナーゼ1(PDK1)およびRhoCに結合することを明らかにした。図5Bは、キナーゼ活性は、PPRC複合体で最も大きく、PKN3単独またはPKN3とRhoCとを併せたものより大きいことを示している。
【0080】
Flag免疫沈降およびそれに続くキナーゼアッセイには、上述の通り、FUGENE(登録商標)形質移入試薬によって、PC3細胞(5×10細胞/10cm組織培養皿)に、示されているプラスミドを用いて単独で形質移入または同時形質移入した。細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、0.3%トリトンX−100を含有する洗浄用緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、1mM EGTA、5mM MgCl、1μMオカダ酸、10mMグリセロールリン酸、25mMフッ化ナトリウム、5mMピロリン酸ナトリウム、0.2mM PMSFおよび2mM DTT)中で溶解させた。免疫沈降は、抗Flag M2アフィニティー樹脂(Sigma)を用いて行った。0.5M NaClを含有する上記緩衝液で免疫複合体を3回、β−グリセロールリン酸および10mMピロリン酸ナトリウムを含有するキナーゼ緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM MgCl、1mM EDTAおよび1mMオカダ酸)で2回洗浄した。最後に、複合体をキナーゼ緩衝液中に懸濁し、50μM ATPおよびPKN3基質と共に、RTで15分間インキュベートした。リン酸化タンパク質は、SDSポリアクリルアミドゲルで分離し、ウェスタンブロッティングによって可視化した。
【実施例7】
【0081】
in vivo前立腺癌モデル
PKN3およびp110βを標的とするshRNAを発現するように、PC−3(前立腺癌)細胞を操作した。ドキシサイクリン(Dox)誘導のshRNA発現は、72時間後に、PKN3およびp110βのタンパク質レベルの効率的なノックダウンをもたらした(図6A)。PKN3およびp110βの両方の阻害は、上皮間葉転換(EMT)のよく知られたマーカーであるビメンチンタンパク質レベルの低減をもたらした(図6A)。それぞれの細胞集団はMATRIGEL上に播種され、PKN3発現のshRNA媒介のノックダウンを有する細胞は、細胞外マトリックス上での増殖障害を示した。p110βはPC−3細胞内における主要なPI3Kサブユニットであるので、p110βの阻害は、PC−3細胞のMATRIGEL上での増殖も妨げ、陽性対照として働いた(図6B)。
【0082】
次に、安定的なPKN3 shRNA PC−3細胞をヌードマウスに前立腺内移植した。動物を2つの群に分け、1群をDoxで処置して、shRNA発現を誘導し、第2の群にはニセの処置を行った。49日後にマウスを屠殺し、原発腫瘍形成およびリンパ節転移について分析した。Dox処置群のマウスは、原発腫瘍の成長への強い影響を示し、転移形成も強く阻害された(図7A)。
【0083】
確立された前立腺腫瘍でもPKN3を検証した。この実験では、すべての動物を通常食で4週間維持し、PKN3がDox食餌によってサイレンシングされる前に、細胞が原発腫瘍を形成するのを可能にした。4週間の通常食の後、PKN3の阻害は、確立された腫瘍モデルにおける腫瘍成長および転移を妨げた(図7B)。
【実施例8】
【0084】
in vivo乳癌モデル
PKN3、p110βおよびCKIεを標的とするshRNAを発現するように、MDA−MB−231(乳癌)細胞を操作した。Dox誘導のshRNA発現は、72時間後に、PKN3、p110βおよびCKIεタンパク質レベルの効率的なノックダウンをもたらした(図8A)。それぞれの細胞集団は、MATRIGEL上に播種され、PKN3発現のshRNA媒介のノックダウンを有する細胞は、細胞外マトリックス上での増殖障害を示し、これは、p110βのノックダウンより強いようであった。したがって、CKIεの誘導阻害は、この実験ではMDA−MB−231細胞で効果がなく、Dox処置およびshRNA誘導の対照として働いた(図8B)。
【0085】
乳癌におけるPKN3のin vivo検証を行うために、同じ操作細胞系を用いて、正所性乳癌モデルを作製した。安定的なPKN3 shRNA MDA−MB−231細胞をDoxの非存在下で培養し、動物の乳房脂肪パッドに注入した。動物を2つの群に分け、1群はDoxで処置して、shRNA発現を誘導し、第2の群にはニセの処置を行った。腫瘍サイズを55日目まで毎週測定した。図9に示す通り、Dox処置群のマウスは、乳癌成長への強い影響を示した。
【符号の説明】
【0086】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療に有用な化合物を同定する方法であって、
a.ex vivoにあり、かつPKN3ポリペプチドまたはその断片、RhoCポリペプチドまたはその断片、およびPDK1ポリペプチドまたはその断片を含む細胞を試験化合物と接触させるステップと、
b.試験化合物の存在下で形成され、かつ前記PKN3ポリペプチド、前記RhoCポリペプチドおよび前記PDK1ポリペプチドを含む複合体の試験レベルを決定するステップと、
c.ステップ(b)で決定された試験レベルを参照値と比較するステップと
を含み、ステップ(b)で決定された試験レベルとステップ(c)の参照値との相違が、試験化合物が癌の治療潜在性を有することを示す方法。
【請求項2】
細胞が、PC3細胞、HEK293細胞、MDA−MB231細胞およびHeLa細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PKN3ポリペプチドが、FLAGタグ、GSTタグおよびMycタグからなる群から選択される分子タグを含み、複合体が、PKN3ポリペプチドをその分子タグによりプルダウンすることによって単離される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
参照値が、(a)試験化合物の非存在下で形成される、PKN3ポリペプチドおよびRhoCポリペプチドを含む複合体のレベル、または(b)試験化合物の存在下で形成される、PKN3ポリペプチドおよびRhoCポリペプチドを含む複合体のレベルであり、PKN3ポリペプチドまたはPDK1ポリペプチドがキナーゼデッドである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
患者の癌を診断する方法であって、
a.患者から試料を取得するステップと、
b.試料中のPKN3活性のレベルおよびRhoC活性のレベルを決定し、それによって試験レベルを得るステップと、
c.試験レベルを参照値と比較するステップと
を含み、試験レベルと参照値との相違が、癌が侵襲性である見込みを示す方法。
【請求項6】
癌治療に応答できる患者を同定する方法であって、
a.患者から試料を取得するステップと、
b.試料中のPKN3活性のレベルおよびRhoC活性のレベルを決定し、それによって試験レベルを得るステップと、
c.試験レベルを参照値と比較するステップと
を含み、試験レベルと参照値との相違が、患者が癌治療に応答する見込みを示す方法。
【請求項7】
参照値が、非癌組織で決定される、PKN3活性およびRhoC活性のレベルを含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
試験レベルが参照値より大きい、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
対象の癌治療処置レジメンの効果を決定する方法であって、
a.患者から第1の試料を取得するステップと、
b.第1の試料中のPKN3活性のレベルおよびRhoC活性のレベルを決定し、それによって第1のレベルを得るステップと、
c.処置レジメンを対象に行うステップと、
d.処置レジメンを行った後に、患者から第2の試料を取得するステップと、
e.第2の試料中のPKN3活性のレベルおよびRhoC活性のレベルを決定し、それによって第2のレベルを得るステップと、
f.第1のレベルと第2のレベルを比較するステップと
を含み、第1のレベルと比較した、第2のレベルのPKN3活性およびRhoC活性の両方の低減が、処置レジメンが患者の癌に対して有効であることを示す方法。
【請求項10】
PKN3活性が、(i)PKN3ポリペプチドまたはその断片をコードするRNAの発現、(ii)PKN3ポリペプチドまたはその断片の発現、(iii)PKN3ポリペプチドのリン酸化、および(iv)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK−3)由来のペプチドのリン酸化からなる群から選択される、請求項5から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
RhoC活性が、(i)RhoCポリペプチドをコードするRNAの発現、(ii)RhoCポリペプチドの発現、(iii)PKN3ポリペプチドのリン酸化、および(iv)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK−3)のリン酸化からなる群から選択される、請求項5から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
PKN3ポリペプチドのリン酸化が、T860のPKN3ターンモチーフリン酸化部位に結合する抗体で検出される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
PNK3ポリペプチドが、(a)配列番号26に少なくとも95%同一なアミノ酸配列、または(b)配列番号36に少なくとも95%同一なアミノ酸配列を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
癌が、乳癌、卵巣癌、膵癌、胃癌、肝細胞癌、膀胱癌、結腸直腸癌、皮膚悪性黒色腫および前立腺癌(CaP)からなる群から選択される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
T860のPKN3ターンモチーフリン酸化部位に結合する相補性決定領域(CDR)を含むポリペプチド。
【請求項16】
モノクローナル抗体である、請求項15に記載のポリペプチド。
【請求項17】
PKN3活性を検出する薬剤、RhoC活性を検出する薬剤、標識およびパッケージを含むキット。
【請求項18】
癌治療用化合物をさらに含む、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
PPRC複合体を不活性化するポリペプチドであって、
a.PPRC複合体がPKN3ポリペプチド、RhoCポリペプチドおよびPDK1ポリペプチドを含み、
b.ポリペプチドが(i)RhoCポリペプチドの、PKN3ポリペプチドの認識ドメインに結合するドメイン、または(ii)PKN3ポリペプチドの、RhoCポリペプチドの認識ドメインに結合するドメインに結合し、
c.前記ポリペプチドが(i)PPRC複合体の形成を阻害するか、または(ii)PPRC複合体に関連するキナーゼ活性を阻害するポリペプチド。
【請求項20】
PKN3のACC1、ACC2およびACC3からなる群から選択される少なくとも1つのACCドメインを含み、かつPKN3のキナーゼドメインを含まない、請求項19に記載のポリペプチド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6−1】
image rotate

【図6−2】
image rotate

【図7−1】
image rotate

【図7−2】
image rotate

【図8−1】
image rotate

【図8−2】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−213694(P2010−213694A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−53145(P2010−53145)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】