説明

PLL回路

【課題】平均値計算器に演算能力が比較的低い計算器を用いることが可能な技術を提供することを目的とする。
【解決手段】PLL回路は、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相比較を基準クロック信号frの周期毎に実行し、高電圧レベルの第1パルス及び低電圧レベルの第2パルスを含む信号を、前記第1及び第2パルスの当該周期単位でのパルス幅の差が当該位相比較での位相差に対応するように生成する位相比較器2と、位相比較器2が生成した信号の電圧を基準クロック信号frの周期毎に平均化する平均値計算器3とを備える。そして、平均値計算器3からの出力を基準クロック信号frの1周期分よりも長く遅延させるm周期遅延器5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準クロック信号と比較クロック信号との位相差に基づいて、出力クロック信号の周波数変動を抑制するPLL(Phase-Locked Loop)回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、出力クロック信号の周波数を安定化させる回路として、PLL回路が知られている。特許文献1には、平均化器と、電圧ラッチとを備えるPLL回路が開示されている。具体的には、平均化器が、基準クロック信号と比較クロック信号との位相比較に応じた出力信号を基準クロックの周期で平均して、その平均値電圧を基準クロックの周期毎に出力し、電圧ラッチが、基準クロック信号の1周期分の間、平均値電圧を出力し続ける。このPLL回路においては、平均化器が平均値電圧を出力するのに基準クロックの1周期分、遅延時間が必要であることを利用し、基準クロックの1周期分の位相差を計量単位とした数列として、システムに基準クロック信号の1周期分の遅延を含めた数式モデルを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4322947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の平均化器は、前の基準クロック信号が後の基準クロック信号に切り替わる時点において、前の基準クロック周期における平均値電圧を算出しなければならず、高速な演算能力を要するという問題があった。
【0005】
また、上述のPLL回路の数式モデルは、遅延時間が基準クロック1周期分である場合に特化されている。したがって、平均化器での位相平均値の算出時間を十分長く確保しようとしても、遅延時間を基準クロック1周期分より大きくすることができず、システムとしての安定性やシステムパラメータを設計することができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような問題点を鑑みてなされたものであり、演算能力が比較的低い計算器を用いることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るPLL回路は、基準クロック信号と比較クロック信号との位相比較を前記基準クロック信号の周期毎に実行し、高電圧レベルの第1パルス及び低電圧レベルの第2パルスを含む信号を、前記第1及び第2パルスの当該周期単位でのパルス幅の差が当該位相比較での位相差に対応するように生成する位相比較器と、前記位相比較器が生成した信号の電圧を前記基準クロック信号の周期毎に平均化する平均値計算器とを備える。そして、前記平均値計算器からの出力を前記基準クロック信号の1周期分よりも長く遅延させる周期遅延器と、前記周期値延器の出力に応じた周波数の出力クロック信号を生成する電圧制御発振器と、前記電圧制御発振器により生成された前記出力クロック信号をN分周(Nは自然数を含む正の仮分数)し、前記比較クロック信号として前記位相比較器に帰還する分周器とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、周波数遅延器が、平均値計算器からの出力を基準クロック信号の1周期分よりも長く遅延させる。したがって、平均値計算器が平均値を計算するのにかかる時間を長くすることができることから、平均値計算器に、演算能力が比較的低い計算器を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施の形態1に係るPLL回路の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1に係るVCOの電圧−周波数特性を示す図である。
【図3】実施の形態1に係るPLL回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】実施の形態1に係るPLL回路の動作を示す図である。
【図5】実施の形態2に係るPLL回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図6】実施の形態2に係るPLL回路の動作を示す図である。
【図7】実施の形態3に係るPLL回路の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
図1は本発明の実施の形態1に係るPLL回路の構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るPLL回路は、位相比較器2と、平均値計算器3と、電圧対周波数感度調整器4と、周期遅延器であるm周期遅延器5と、電圧制御発振器であるVCO6と、分周器7とを備える。このPLL回路では、出力クロック信号が分周器7で分周されて、比較クロック信号fpとして帰還されており、当該比較クロック信号fpが、基準クロック信号入力端子1から入力される基準クロック信号frと同期するように調整されることによって、出力クロック信号の周波数を安定化している。次に、このPLL回路の構成要素について詳細に説明する。
【0011】
位相比較器2には、基準クロック信号frと、比較クロック信号fpとが入力されている。位相比較器2は、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相比較を基準クロック信号frの周期毎に実行する。そして、位相比較器2は、高電圧レベルの第1パルス及び低電圧レベルの第2パルスを含む信号を、第1パルス及び第2パルスの当該周期単位でのパルス幅の差が当該位相比較での位相差に対応するように生成する。本実施の形態では、位相比較器2は、その信号として、高電圧レベルVH、及び、低電圧レベルVLの2値からなる矩形波信号を生成する。そして、位相比較器2は、基準クロック信号frの周期単位における、高電圧レベルVHのパルス幅と低電圧レベルVLのパルス幅との差が、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相差に比例するように、当該矩形波信号を生成する。
【0012】
位相比較器2は、生成した矩形波信号を平均値計算器3に出力する。つまり、位相比較器2は、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの間に位相差がない場合には、高電圧レベルVH及び低電圧レベルVLのパルス幅が互いに同一となる矩形波信号を出力し、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの間に位相差がある場合には、高電圧レベルVH及び低電圧レベルVLのパルス幅が互いに異なる矩形波信号を出力する。
【0013】
平均値計算器3には、上述の基準クロック信号frが平均化タイミングとして入力されるともに、位相比較器2からの矩形波信号が入力される。平均値計算器3は、基準クロック信号frの周期ごとに、位相比較器2が生成した矩形波信号の電圧を基準クロック信号frの周期毎に平均化し、それによって得られる平均値を出力する。
【0014】
電圧対周波数感度調整器4は、平均値計算器3の出力電圧を電圧調整し、調整後の電圧値(以下「調整電圧値」と呼ぶこともある)を、m周期遅延器5に出力する。なお、電圧対周波数感度調整器4は、この電圧調整を行うことにより、後述するVCO6の電圧対周波数感度を調整している。
【0015】
m周期遅延器5には、上述の基準クロック信号frがロードとして入力されるとともに、電圧対周波数感度調整器4からの調整電圧値が入力される。m周期遅延器5は、電圧対周波数感度調整器4からの出力(実質的には平均値計算器3からの平均値)を自身に一時的に格納した後、ロードが所定回数入力された場合に、当該調整電圧値をラッチ保持してVCO6に出力する。
【0016】
VCO6は、m周期遅延器5からの出力(実質的には平均値計算器3からの平均値)に応じた周波数の出力クロック信号を生成する。VCO6で生成された出力クロック信号は分岐されて、一方がクロック信号出力端子6から外部に出力され、他方が分周器7に出力される。分周器7は、VCO6により生成された出力クロック信号をN分周(N:自然数を含む正の仮分数)し、それによって得られた信号を、比較クロック信号fpとして位相比較器2に帰還(出力)する。
【0017】
図2は、VCO6の入力電圧−出力周波数特性を示す図である。図2に示されるように、本実施の形態では、VCO6は、入力電圧−出力周波数特性が線形な特性を示す範囲で使用されるものとする。この図2において、出力周波数のf0からの変化分を示す周波数変化量gは入力電圧vの関数g(v)となるとすると、図2に示される特性より、次式(1)で示される関係が成り立つことは明らかである。
【0018】
|VH−Vn|=|VL−Vn|=E(定数)
g(VH−Vn)=−g(VL−Vn)=df,g(0)=0 ・・・(1)
したがって、
df=G(定数) ・・・(2)
が成り立つ。
【0019】
よって、VCO6の電圧対周波数感度Kは
K=G/E(定数) ・・・(3)
となる。なお、ここでは、VCO6に固有の電圧対周波数感度が電圧対周波数感度調整器4の電圧調整によって適正化されたものを、VCO6の電圧対周波数感度Kと呼んでいる。つまり、電圧対周波数感度調整器4の電圧調整の影響は、VCO6の電圧対周波数感度Kの値に取り込まれており、図2の横軸に示されるVCO6における入力電圧は、電圧調整が行われる前の電圧値、つまり平均値計算器3からの電圧値に換算されている。このように、電圧対周波数感度調整器4の電圧調整は、実質的にVCO6の電圧対周波数感度を変更するものでしかないことから、以下の説明においては、平均値計算器3の平均値の調整電圧値を、平均値計算器3の平均値と略して記すこともあり、また、平均値計算器3が電圧対周波数感度調整器4を介して平均値をm周期遅延器5に出力することを、平均値計算器3が平均値をm周期遅延器5に出力すると記すこともある。
【0020】
このKを用いると、VCO6への入力が(Vn+x)であるときの出力クロック信号の周波数yは、
y=f0+g(x)=f0+K×x ・・・(4)
と表せる。
【0021】
なお、定常状態においては、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとは一致することからfr=fpが成り立ち、また、frは分周器7においてf0をN分周(1/N逓倍)したものであるからf0=N×frが成り立つ。
【0022】
図3は、本実施の形態における位相比較器2に入力される基準クロック信号fr及び比較クロック信号fpと、位相比較器2が出力する上述の矩形波信号(PCOUT)と、VCO6の入力信号(VCO IN)とを示す図である。以下、この図3等を用いて、本実施の形態に係るPLL回路の動作について説明する。なお、以下の説明では、図3において、基準クロック信号frが立ち下がる時点を、基準クロック信号の「入力開始時点」と呼ぶ。
【0023】
まず、基準クロック信号入力端子1からの基準クロック信号frと、分周器7からの比較クロック信号fpとが、位相比較器2に入力される。位相比較器2では、入力された基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相比較を実行し、その位相差に応じた矩形波信号を出力する。本実施の形態では、比較クロック信号fpが基準クロック信号frよりも進んでいる場合には、その進んだ位相に比例した値だけ高電圧レベルVHのパルス幅を減らし(低電圧レベルVLのパルス幅を増やし)、逆に比較クロック信号fpが基準クロック信号frよりも遅れている場合には、その遅れた位相に比例した値だけ高電圧レベルVHのパルス幅を増やす(低電圧レベルVLのパルス幅を減らす)。
【0024】
ここで、高電圧レベルVHは基準レベルVnより低い電位であり、低電圧レベルVLは基準レベルVnより高い電位であるものと仮定する。また、高電圧レベルVH及び低電圧レベルVLは、各々と基準レベルVnとの差の絶対値が等しく、当該差の符号が異なるものと仮定する。このように位相比較器2の出力を仮定した場合、次式(5)及び(6)が成り立つ。
【0025】
H−Vn=E ・・・(5)
L−Vn=−E ・・・(6)
ただし、これらの式においてEは定数であり、E>0である。
【0026】
平均値計算器3は、位相比較器2から出力される矩形波信号から、基準クロック信号frの1周期分の間に付加あるいは削減すべき位相量を読み取る。本実施の形態では、平均値計算器3は、基準クロック信号frの入力開始時点(立ち下がる時点)から次の入力開始時点(立ち下がる時点)までの矩形波信号の電圧を時間平均し、それによって得られる平均値を当該位相量として読み取る。そして、平均値計算器3は、平均値をm周期遅延器5に出力する。
【0027】
m周期遅延器5は、平均値計算器3からの出力(平均値)を、基準クロック信号の1周期分よりも長く遅延させる。本実施の形態では、m周期遅延器5は、図3に示される区間T0の矩形波信号の平均値を、それよりも基準クロック信号frのm周期分遅延させた区間Tmの間において継続して出力し続ける。なお、mの値(以下「遅延量」と呼ぶこともある)は、2以上の自然数であり、本実施の形態では、予め定められた一定値であるものとする。同様に、m周期遅延器5は、区間T1の矩形波信号の平均値を、それよりも基準クロック信号frのm周期分遅延させた区間Tm+1の間において継続して出力し続ける。m周期遅延器5は、その後の区間においても同様の動作を行う。
【0028】
ここで、従来のPLL回路においては、平均値計算器は、例えば、区間T0の矩形波信号の平均値を区間T0の開始時点から1周期遅延した時点、つまり、区間T1の開始時点において出力しなければならず、高速な演算処理が必要であった。それに対して、本実施の形態に係るPLL回路では、m周期遅延器5は、平均値計算器3からの出力を、基準クロック信号の1周期分よりも長く遅延させる。つまり、m周期遅延器5は、区間T1の開始時点よりも後に平均値を出力する。したがって、本実施の形態では、平均値計算器3は、m周期遅延器5が出力するまでに、当該m周期遅延器5に平均値を出力すればよいことから、平均値計算器3が平均値を計算するのにかかる時間を延ばすことができる。
【0029】
m周期遅延器5からの出力を受けたVCO6の出力クロック信号は、一方はPLL回路からの出力としてクロック信号出力端子6から外部に出力され、他方は、分岐して分周器7に入力され、N分周された比較クロック信号fpとして、再び位相比較器2にフィードバックされる。
【0030】
本実施の形態に係るPLL回路においては、位相同期確立後、位相比較器2の出力信号での、高電圧レベルVHのパルス幅と、低電圧レベルVLのパルス幅とが一致し、これらのパルス幅同士の差が0となる。したがって、平均値計算器3による基準クロック信号fr周期分での時間平均は、基準レベルVnとなり、これを受けたm周期遅延器は、上述のタイミングで、定常なVCO6の基準レベルVnを出力する。よって、VCO6からの出力周波数、即ち、PLL回路の出力周波数の変動が抑制されることが予測できる。
【0031】
さて、本実施の形態においては、PLL回路としての動作を伝達関数で記述するのではなく、基準クロック信号frの1周期分の位相調整量の数列として扱う。例えば、位相比較器2において、比較クロック信号fpが基準クロック信号frよりθだけ位相が進んでいることが検出された場合には、検出信号波形は図3の区間T0に示されるPCOUTの波形となり、比較クロック信号fpが基準クロック信号frよりθだけ位相が遅れていることが検出された場合には、検出信号波形は図3の区間T2に示されるPCOUTの波形となる。ここで、Vnの位置を基準線として、この矩形波信号の高電圧レベルVHと低電圧レベルVLとを見たとき、図2に示されるVCO6の特性から、図4に示されるように、高電圧レベルVHは位相を進める要素となり、低電圧レベルVLは位相を遅らせる要素となる。
【0032】
そして、基準クロック信号frに対して比較クロック信号fpのθの位相進みを検出した場合、位相比較器2の出力は、図4の区間T0に示されるように、基準クロック信号frの1周期分において位相を遅らせる要素が位相を進める要素より大きい状態になっており、これを平均値計算器3によって、基準クロック信号frの1周期分で時間平均値に変換する。次いでm周期遅延器5によって、この時間平均値を、図4の区間Tmの間中、VCO6への制御電圧入力として保持する。このようにして、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相差θに比例した量だけ比較クロック信号fpの位相を遅らせることができる。
【0033】
また、基準クロック信号frに対して比較クロック信号fpのθの位相遅れを検出した場合、位相比較器2の出力は、図4の区間T2に示されるように、基準クロック信号frの1周期分において位相を遅らせる要素が位相を進める要素より小さい状態になっており、これを平均値計算器3によって、基準クロック信号frの1周期分で時間平均値に変換する。次いでm周期遅延器5によって、この時間平均値を、図4の区間Tm+2の間中、VCO6への制御電圧入力として保持する。このようにして、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相差θに比例した量だけ比較クロック信号fpの位相を進ませることができる。
【0034】
次に、これらの回路動作を定量的に記述する数式モデルについて説明する。時刻t=0における基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相差をθとすると、時刻t>0における位相差Ψ(t)は、次式(7)で与えられる。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、基準クロック信号frの周期をTとする(即ち、基準クロック信号frの周波数がf0であるから、T=1/f0)。
【0037】
ところで、時刻t=(n−1)Tにおける基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相差(基準クロック信号frの位相から比較クロック信号fpの位相を引いたもの)をθn-1とし、時刻t=nTにおける同位相差をθnとすると、nT<t<(n+1)Tの間に、VCO6に入力される制御電圧、つまり、入力電圧v(t)は、ステップ関数U(t)
【0038】
【数2】

【0039】
を用いると、比較クロック信号fpが基準クロック信号frより位相が遅れている(θn-1>0)場合、次式(9)となる。
【0040】
【数3】

【0041】
これは、
【0042】
【数4】

【0043】
と同値である。式(4)に示されるg(v)のv(t)に式(10)を代入して、gを時間tの関数に変換すると、次式(11)となる。
【0044】
【数5】

【0045】
同様にして、比較クロック信号fpが基準クロック信号frより位相が進んでいる(θn-1<0)場合について、gと時間tとの関係を求めると、上式(11)と全く同じになる。したがって、nT<t≦(n+1)Tにおける周波数変化量g(t)は、(θn-1>0)と(θn-1<0)との両方の場合を、上述のステップ関数U(t)を用いて表現すると、次式(12)となる。
【0046】
【数6】

【0047】
上式(12)等から、t=(n+1)Tのときの位相差θn+1は、
【0048】
【数7】

【0049】
となり、この式(13)から
【0050】
【数8】

【0051】
という漸化式が得られる。これが、遅延時間がm×Tの場合の周期T毎の位相差変化を表す数式モデルとなる。また、上式より求まるθnを用いて、上記g(t)より、周期T毎の周波数変化も解る。
【0052】
ところで、この数列の収束条件が、本実施の形態のPPL回路のロックアップ条件でもあり、
【0053】
【数9】

【0054】
でなければならない。逆に、上式(15)の条件を満足すれば、初期(時刻t=0)の位相差θが如何なる値であろうとも必ずロックアップすることを意味している。つまり、本実施の形態に係る数式モデルを用いれば、本実施の形態に係るPLL回路のステップ位相入力に対する応答動作が、位相差と周波数の変化を共に把握でき、さらに、ロックアップ時間の設計も可能となる。なお、本実施の形態では、上式(15)の条件が満たされるように、G=K×Eでの電圧対周波数感度Kが、電圧対周波数感度調整器4により調整されている。
【0055】
以上のような本実施の形態に係るPLL回路によれば、m周波数遅延器5が、平均値計算器3からの出力を、基準クロック信号の1周期分よりも長く遅延させる。したがって、平均値計算器3が平均値を計算するのにかかる時間を長くすることができることから、平均値計算器3に、演算能力が比較的低い計算器、つまり、低廉な計算器を用いることができる。よって、平均値計算器3のコストを低減することができる結果、PLL回路全体での設計・製造のコストを低減することができる。さらに、平均値計算器3の演算動作によって発生するノイズも、平均値計算器3の演算速度低下に伴い低減することから、ノイズ対策にかかる設計・製造コストも低減することができる。
【0056】
また、m周期値延器5の遅延量(mの値)と、VCO6の電圧対周波数感度Kとが、数式モデルから得られる上式(15)の収束条件を満たしている。したがって、初期位相差が如何なる値であろうともロックアップすることができ、また、PLL回路のステップ位相入力に対する応答動作が、位相差及び周波数の変化について共に把握することができる。
【0057】
また、電圧対周波数感度調整器4は、上式(15)の収束条件が満たされるようにVCO6の電圧対周波数感度K(つまり上式(15)のG)を調整する。したがって、VCO6固有の電圧対周波数感度がどのような値であっても当該収束条件を満たすようにすることができる。つまり、適用可能なVCO6の種類を増やすことができることから、低廉なVCO6を適用することにより、PLL回路全体でのコストを低減することが期待できる。なお、予め設定された遅延量(mの値)に対して、VCO6固有の電圧対周波数感度が上式(15)の収束条件を満たす場合には、電圧対周波数感度調整器4を省略することも可能である。
【0058】
<実施の形態2>
以下、本発明の実施の形態2に係るPLL回路において、実施の形態1に係るPLL回路と同様の構成要素については同じ符号を付すものとし、実施の形態1に係るPLL回路と異なる部分を中心に説明する。
【0059】
位相比較器2は、定常状態に達した場合、その出力の基準クロック1周期の時間積分が基準レベルVnとなる特性を持ったものであれば、実施の形態1の位相比較器2に限ったものではない。例えば、一般に「位相周波数比較器」と呼ばれる機器を位相比較器2として使用してもよい。以下、この場合について説明する。
【0060】
図5は、本実施の形態における位相比較器2に入力される基準クロック信号fr及び比較クロック信号fpと、位相比較器2の出力信号(PCOUT)と、VCO6の入力信号(VCO IN)とを示す図である。
【0061】
この図に示されるように、本実施の形態においても、位相比較器2は、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相比較を基準クロック信号frの周期毎に実行する。そして、位相比較器2は、高電圧レベルの第1パルス及び低電圧レベルの第2パルスを含む信号を、第1パルス及び第2パルスの当該周期単位でのパルス幅の差が当該位相比較での位相差に対応するように生成する。ただし、本実施の形態では、位相比較器2は、高電圧レベルVH、基準レベルVn、及び、低電圧レベルVLの3値からなる信号を生成する。より具体的には、位相比較器2は、位相比較において位相差がない場合には基準レベルVnを生成し、当該位相差がある場合には、高電圧レベルVH、または、低電圧レベルVLを生成する。そして、位相比較器2は、基準クロック信号frの周期単位における、高電圧レベルVHのパルス幅と低電圧レベルVLのパルス幅との差が、基準クロック信号frと比較クロック信号fpとの位相差に比例するように、当該信号を生成する。
【0062】
このように構成された位相比較器2は、位相同期確立後、基準レベルVnを定常的に示す信号を出力する。また、位相比較器2は、比較クロック信号fpが基準クロック信号frよりθだけ位相が進んでいることを検出した場合には、検出信号波形は図3の区間T0に示されるPCOUTの波形の信号を出力し、比較クロック信号fpが基準クロック信号frよりθだけ位相が遅れていることを検出した場合には、検出信号波形は図3の区間T2に示されるPCOUTの波形の信号を出力する。ここで、Vnの位置を基準線として、この出力信号の高電圧レベルVHと低電圧レベルVLとを見たとき、図2に示されるVCO6の特性から、図6に示されるように、高電圧レベルVHは位相を進める要素となり、低電圧レベルVLは位相を遅らせる要素となる。
【0063】
そして、基準クロック信号frに対して比較クロック信号fpのθの位相進みを検出した場合、位相比較器2の出力は、図6の区間T0に示されるように、基準クロック信号frの1周期分において位相を遅らせる要素を持つ状態になっており、これを平均値計算器3によって、基準クロック信号frの1周期分で時間平均値に変換する。次いでm周期遅延器5によって、この時間平均値を、図4の区間Tmの間中、VCO6への制御電圧入力として保持する。このようにして、基準クロック信号frと比較クロック信号fpの位相差θに比例した量だけ比較クロック信号fpの位相を遅らせることができる。
【0064】
また、基準クロック信号frに対して比較クロック信号fpのθの位相遅れを検出した場合、位相比較器2の出力は、図6の区間T2に示されるように、基準クロック信号frの1周期分において位相を進める要素を持つ状態になっており、これを平均値計算器3によって、基準クロック信号frの1周期分で時間平均値に変換する。次いでm周期遅延器5によって、この時間平均値を、図4の区間Tm+2の間中、VCO6への制御電圧入力として保持する。このようにして、基準クロック信号frと比較クロック信号fpの位相差θに比例した量だけ比較クロック信号fpの位相を進めることができる。
【0065】
ここで、実施の形態1と同様にして、本実施の形態に係る数式モデルを求めると、
【0066】
【数10】

【0067】
という漸化式が得られる。これが、遅延時間がm×Tの場合の周期T毎の位相差変化を表す数式モデルとなる。また、上式より求まるθnを用いて、上記g(t)より、周期T毎の周波数変化も解る。
【0068】
ところで、この数列の収束条件が、本実施の形態のPLL回路のロックアップ条件でもあり、
【0069】
【数11】

【0070】
でなければならない。逆に、上式(17)の条件を満足すれば、初期(時刻t=0)の位相差θが如何なる値であろうとも必ずロックアップすることを意味している。つまり、本実施の形態に係る数式モデルを用いれば、本実施の形態に係るPLL回路のステップ位相入力に対する応答動作が、位相差と周波数の変化を共に把握でき、さらに、ロックアップ時間の設計も可能となる。なお、本実施の形態では、上式(17)の条件が満たされるように、G=K×Eでの電圧対周波数感度Kが、電圧対周波数感度調整器4により調整されている。
【0071】
本実施の形態の拡張として、位相比較器2が、「位相周波数比較器」でなくても、定常状態に達した場合に、その出力の基準クロック1周期の時間積分が基準レベルVnとなる特性を持ったものであれば、そのときの数式モデルは、上式(15)と上式(17)との結果から予期されるように、
【0072】
【数12】

【0073】
という漸化式が得られる。ここで、αは、位相比較器2の動作に対応する調整係数である。この数列の収束条件が、このPLL回路のロックアップ条件でもあり、
【0074】
【数13】

【0075】
でなければならない。逆に、上式(19)の条件を満足すれば、初期(時刻t=0)の位相差θが如何なる値であろうとも必ずロックアップすることを意味している。つまり、上述の数式モデルを用いれば、上述のPLL回路のステップ位相入力に対する応答動作が、位相差と周波数の変化を共に把握でき、さらに、ロックアップ時間の設計も可能となる。なお、ここでも、上式(19)の条件が満たされるように、G=K×Eでの電圧対周波数感度Kが、電圧対周波数感度調整器4により調整すればよい。
【0076】
以上のような本実施の形態に係るPLL回路によれば、実施の形態1と同様の効果を有するとともに、適用可能な位相比較器2の種類を増やすことができる。よって、低廉な位相比較器2を適用することにより、PLL回路全体でのコストを低減することが期待できる。
【0077】
<実施の形態3>
図7は本発明の実施の形態3に係るPLL回路の構成を示すブロック図である。以下、本実施の形態に係るPLL回路において、実施の形態1に係るPLL回路と同様の構成要素については同じ符号を付すものとし、実施の形態1に係るPLL回路と異なる部分を中心に説明する。
【0078】
図7に示されるように、本実施の形態に係るPLL回路は、実施の形態1に係るPLL回路に、遅延時間切替器9を加えたものとなっている。この遅延時間切替器9は、位相比較器2の出力信号が示す位相差に基づいて、m周期遅延器5の遅延量(mの値)を変更し、変更した遅延量を、電圧対周波数感度調整器4及びm周期遅延器5に入力する。電圧対周波数感度調整器4は、遅延時間切替器9から遅延量を受け取ると、当該遅延量に対し、上式(15),(17),(19)が満たされるように、電圧対周波数感度K(つまりG)を変更する。m周期値延器5は、遅延時間切替器9からの遅延量に基づいて、平均値をVCO6に出力するタイミングを変更する。
【0079】
以上のような本実施の形態に係るPLL回路によれば、位相比較器2が検出した位相差が小さい場合には遅延時間を小さく、逆に位相差が大きい場合には遅延時間を大きくすることができる。したがって、遅延時間を短縮する可能性を高めることができることから、システムの高速化が期待できる。また、平均値計算器3の演算速度に合わせて遅延時間を変更することも可能となる。
【符号の説明】
【0080】
2 位相比較器、3 平均値計算器、4 電圧対周波数感度調整器、5 m周期値延器、6 VCO。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準クロック信号と比較クロック信号との位相比較を前記基準クロック信号の周期毎に実行し、高電圧レベルの第1パルス及び低電圧レベルの第2パルスを含む信号を、前記第1及び第2パルスの当該周期単位でのパルス幅の差が当該位相比較での位相差に対応するように生成する位相比較器と、
前記位相比較器が生成した信号の電圧を前記基準クロック信号の周期毎に平均化する平均値計算器と、
前記平均値計算器からの出力を前記基準クロック信号の1周期分よりも長く遅延させる周期遅延器と、
前記周期値延器の出力に応じた周波数の出力クロック信号を生成する電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器により生成された前記出力クロック信号をN分周(Nは自然数を含む正の仮分数)し、前記比較クロック信号として前記位相比較器に帰還する分周器と
を備えるPLL回路。
【請求項2】
請求項1に記載のPLL回路であって、
前記周期遅延器の遅延量と、前記電圧制御発振器の電圧対周波数感度とが、数式モデルから得られる収束条件を満たす、PLL回路。
【請求項3】
請求項2に記載のPLL回路であって、
前記収束条件が満たされるように、前記電圧対周波数感度を調整する電圧対周波数感度調整器をさらに備える、PLL回路。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のPLL回路であって、
前記位相比較器が生成した信号が示す前記位相差に基づいて、前記周期遅延器の遅延量を変更する、PLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−129841(P2012−129841A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280210(P2010−280210)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】