説明

PLL回路

【課題】ディジタル回路で構成されるADPLLにおいて、位相差0近傍における位相差
検出を改善することができる技術を提供する。
【解決手段】基準信号VREFフィードバック信号VDIVとの位相及び周波数を比較するPFDと、PFDの出力をディジタル値に変換するTDCと、TDCの出力から高周波雑音成分を除去するDLFと、DLFの出力に基づいて制御されるDCOと、DCOの出力を分周しフィードバック信号VDIVを出力するDIVによりフィードバックループが構成される。フィードバックループのいずれかの箇所にオフセット値が加算され、フィードバック信号VDIVの位相が制御され、ロック時にもTDCに0ではない値が入力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL回路に関し、特に、アナログ回路をディジタル回路に置き換えたADPLL(All Digital Phase−Locked Loop)に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、無線LANに使用されるRF−ICは依然として高い割合の成長が期待されている。現在、RF−ICの開発の流れはベースバンドICとの1チップ化に進んでいる。集積度を上げるベースバンドICの要求に従い、微細化CMOSプロセスでのRF−ICの開発が必要である。微細化すると、素子ばらつき、ゲート容量増加の影響でアナログ回路の消費電流の増加、面積増加が問題となる。対策として、アナログ回路をディジタル回路に置き換える事が考えられる。
【0003】
本発明者は、ADPLLの技術において、位相差(時間差)をディジタルに変換するTDC(Time to Digital Converter)に注目した。
【0004】
なお、このようなADPLLに関する技術としては、例えば、特許文献1〜2及び非特許文献1〜4に記載される技術などが挙げられる。特許文献1は、複数の発振バンドを持つVCOの自動バンド選択に関するものである。特許文献2は、デュアルモジュラスプリスケーラに関するものである。非特許文献1〜3は、TDCの従来技術に関するものである。非特許文献4は、フラクショナルPLLに位相変調を重畳する技術に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7123102号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0116258号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジェイ・リン(J.Lin)、「ア・ピーブイティー・トレラント・0.18メガヘルツ・トゥ・600メガヘルツ・セルフキャリブレイテド・ディジタル・ピーエルエル・イン・90ナノメートル・シーモス・プロセス(A PVT tolerant 0.18MHz to 600MHz self−calibrated digital PLL in 90nm CMOS process)」、アイエスシーシー(ISSCC)、2004年2月
【非特許文献2】ティ・オルソン(T.Olsson)、「ア・ディジタリ・コントロールド・ピーエルエル・フォ・エスオシー・アプリケーションズ(A Digitally Controlled PLL for SoC Applications)」、アイトリプルイー・ジャーナル・オブ・ソリッドステート・サーキッツ(IEEE JOURNAL OF SOLID−STATE CIRCUITS)、2004年5月
【非特許文献3】ティ・ワタナベ(T.Watanabe)、「アン・オールディジタル・ピーエルエル・フォ・フリーケンシ・マルティプリケーション・バイ・4トゥ1022・ウィズ・セブンサイクル・ロック・タイム(An All−Digital PLL for Frequency Multiplication by 4 to 1022 With Seven−Cycle Lock Time)」、アイトリプルイー・ジャーナル・オブ・ソリッドステート・サーキッツ(IEEE JOURNAL OF SOLID−STATE CIRCUITS)、2003年2月
【非特許文献4】ティ・エイ・ディ・リリィ(T.A.D.Riley)、「ア・シンプリファイド・コンティヌアス・フェイズ・モデュレイタ・テクニック(A Simplified Continuous Phase Modulator Technique)」、アイトリプルイー・トランザクションズ・オン・サーキット・アンド・システムズ2・アナログ・アンド・ディジタル・シグナル・プロセッシング(IEEE TRANSACTIONS ON CIRCUIT AND SYSTEMS II:ANALOG AND DIGITAL SIGNAL PROCESSING)、第41巻、第5号、1994年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記のようなADPLLの技術について、本発明者が検討した結果、以下のようなことが明らかとなった。
【0008】
例えば、位相差に比例した幅を持つパルスをディジタル値に直すTDCの課題は、解像度、検出範囲、線形性、占有面積、0近傍における位相差の検出である。解像度、検出範囲、線形性、占有面積にはトレードオフの関係があり、アプリケーションによって最適なTDCを選択する必要がある。特に位相変調(GMSK)をフラクショナルPLLに重畳する送信システム(例えば非特許文献4)では、すべてに高い要求がある。
【0009】
図33に、本発明の前提として検討したPLLの構成例を示す。図33のPLLは、位相周波数比較器PFD(Phase Frequency Detector)、チャージポンプCP(Charge Pump)、アナログループフィルタALF(Analog Loop Filter)、電圧制御発振器VCO(Voltage Controlled Oscillator)、分周器DIV(Divider)から構成される。DIVはVCOの出力を分周する。PFDは入力された基準信号(VREF)/フィードバック信号(VDIV)の位相差に応じてUP/DOWN信号を出力する。CPはUP/DOWN信号に応じた値の電流を出力する。ALFはその電流から高周波雑音成分を取り除き、電圧に変換する事でVCOを制御する。
【0010】
図34に、本発明の前提として検討したADPLLの構成例を示す。図34のADPLLは、位相周波数比較器PFD(Phase Frequency Detector)、位相差ディジタル変換器TDC(Time to Digital Converter)、ディジタルループフィルタDLF(Digital Loop Filter)、ディジタル制御発振器DCO(Digitally Controlled Oscillator)、分周器DIV(Divider)から構成される。DIVはDCOの出力を分周する。PFDは、入力された基準信号(VREF)/フィードバック信号(VDIV)の位相差に応じた幅を持つパルスPEと極性判定信号POLを出力する。TDCはPE/POLに応じたディジタル値を出力する。DLFはその信号から高周波雑音成分を除きDCOを制御する。
【0011】
図35に、図34のADPLLで用いられるPFDの構成例を示す。図35のPFDは、広く用いられるDFF型PFDに位相差検出用の排他的論理和(XOR)と極性判定用のD型フリップフロップ(DFF)を追加している。
【0012】
図36(a)に、Delay−Line(遅延列)を用いたTDCの構成例を示す。図36のTDCは、N個の遅延器、N個のD型フリップフロップ(DFF)、インバータから構成される(N:自然数)。遅延量の小さい遅延器は、たとえばインバータ2段から構成される。
【0013】
図36(b)に、図36(a)のTDCの動作例を示す。長さTPE[sec]のPEが入力された場合、D1,D2,…にはそれぞれ遅延量d[sec]だけ遅延して信号が伝達していく。PEの立下りでDFFはサンプリングされ、出力Q1,Q2,…が決定される。今回の場合、Q1〜Q4が1となる。どのQまで1となるかはTPE[sec]に依存する。すなわち、パルス幅がディジタルに変換されている。本構成では一つの遅延器の遅延量で決まる為、ある程度幅のあるPEに対する位相差検出精度(解像度)が良好である。また、遅延器のサイズがすべて等しい為、線形性も良好である。但し、検出範囲を広げようとすると、多くの遅延器とDFFが必要となり、占有面積が大きくなる欠点がある。また、位相差パルスを生成する前段の回路(図35のXOR)のスルーレートが低い場合、0近傍の微少な位相差に対応する細いパルスPEが入力されない。この為、0近傍の位相差を検出することはできない。つまり、位相差0でロックするPLL出力の雑音が悪化する。
【0014】
図37に、本発明の前提として検討したTDCの構成例を示す(非特許文献1)。図37のTDCは、Delay−Lineを構成する遅延器のうち、前段側の遅延器の遅延量は小さく、後段側の遅延器の遅延量が徐々に大きくなっている。入力側のLOGスケールで重み付けられた遅延素子で位相差パルス幅を計測する。最小の遅延器の遅延量で決まる為、解像度は良好である。また広い検出範囲を持ち、占有面積が小さい。但し、遅延素子のサイズが一定ではない為、線形性に問題がある。
【0015】
図38に、本発明の前提として検討したPFDおよびTDCの構成例を示す(非特許文献2)。図38(a)がPFD、図38(b)がTDCである。図38(b)のTDCは、高速クロックを用いて測定する。高速クロックの立ち上がりと立下りで、カウンタを動作させて位相差パルス幅を計測する。この回路は、広い検出範囲を持ち、占有面積は小さく、線形性は良好である。但し、RF−ICのADPLLとして必要な解像度(10〜20psec)を持つ為には、非常に高い周波数(50〜100GHz)のクロックが必要であり、実現性に問題がある。
【0016】
図39に、本発明の前提として検討したTDCの構成例を示す(非特許文献3)。図39のTDCは、位相差パルスがHIGHの時だけ発振するリングオシレータとカウンタを併用し、パルス幅を測定する。カウンタで広範囲な位相差を荒い精度で測定し、その間の微少な位相差をリングオシレータのDelay−Lineで高精度に測定する。この回路は、解像度、検出範囲、線形性が良好である。但し、RF−ICの性能上、特に問題となるスプリアスとリングオシレータの消費電流が増加する為、現実的ではない。
【0017】
図37〜図39のTDCは、共通して位相差パルスを必要とする。位相差パルスを生成する前段の回路(図35のXOR)のスルーレートが低い場合、0近傍の微少な位相差に対応する細いパルスPEが入力されない。この為、0近傍の位相差を検出することはできない。つまり、位相差0でロックするPLL出力の雑音が悪化する。
【0018】
そこで、本発明の1つの目的は、ディジタル回路で構成されるADPLLにおいて、位相差0近傍における位相差検出を改善することができる技術を提供することにある。
【0019】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願において開示される実施例のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0021】
(1)代表的な実施例によるPLL回路は、0近傍の位相差検出の問題を対策した周波数シンセサイザ用のADPLLである。ループのいずれかの箇所にオフセット値を加算(減算)し、基準信号VREFとフィードバック信号VDIVがある一定の位相差を持ってロックする様にする。
【0022】
(2)ディジタル制御発振器の出力あるいはそれを入力とする分周器の出力をクロックとするカウンタで広範囲な位相差を荒い精度で測定し、その間の微少な位相差を遅延列(Delay−Line)で高精度に測定する。
【0023】
(3)フィードバック信号と基準信号の位相をディジタルに変換してから差をとることにより、0近傍の位相差検出の問題を根本的に対策する。
【発明の効果】
【0024】
本願において開示される実施例のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0025】
(1)位相差パルスを生成する前段の回路のスルーレートが低い場合でも、確実に位相差パルスがHIGHとなり、その変化を伝達できる。
【0026】
(2)ロック時の位相差検出を正確に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1によるADPLL(All Digital Phase−Locked Loop)の構成例を示すブロック図である。
【図2】図1の位相差ディジタル変換器の構成例を示す回路図である。
【図3】図2の初段の遅延器の構成例を示す回路図である。
【図4】本発明の実施の形態2によるADPLLの構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態2において、位相差検出のタイミングチャートを示す図である。
【図6】(a)は、本発明の実施の形態2において、Delay−Lineの構成例を示す図である。(b)はそのタイミングチャートを示す図である。
【図7】(a),(b)は、本発明の実施の形態2において、VREFがVDIVよりも進んでいる場合のタイミングチャートを示す図であり、(a)は立ち上がりエッジで位相差を測定する場合、(b)は立ち下がりエッジで位相差を測定する場合を示す。
【図8】(a),(b)は、本発明の実施の形態2において、それぞれエラーが発生するタイミングを示す図であり、(a)は立ち上がりエッジでの測定でエラーが発生する場合、(b)は立ち下がりエッジでの測定でエラーが発生する場合を示す。
【図9】本発明の実施の形態2において、DPFDのカウンタの構成例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態2において、積分器を用いて、VPREの立ち上がりで位相差を測定する系のタイミングチャートを示す図である。
【図11】本発明の実施の形態2において、積分器を用いて、VPREの立ち下がりで位相差を測定する系のタイミングチャートを示す図である。
【図12】本発明の実施の形態2において、VREFとVPREの立ち上がりが近い場合のタイミングチャートを示す図である。
【図13】本発明の実施の形態2において、DPFDのカウンタ部の積分器の構成例を示す回路図である。
【図14】(a)は、本発明の実施の形態2において、DIVの構成例を示す図であり、(b)は、プリスケーラのタイミング例を示す図である。
【図15】(a),(b),(c)は、本発明の実施の形態2において、オフセットを用いたロック時のVREFとVDIVの位相関係の調整方法を示す図であり、(a)はADPLLの構成例、(b)はEOFFSET<0の場合の位相関係、(c)はEOFFSET>0の場合の位相関係を示す。
【図16】(a),(b)は、本発明の実施の形態2において、VREFがVDIVよりも遅れている場合のタイミングチャートを示す図であり、(a)は立ち上がりエッジで位相差を測定する場合、(b)は立ち下がりエッジで位相差を測定する場合を示す。
【図17】本発明の実施の形態2によるADPLLの変形例1を示すブロック図である。
【図18】本発明の実施の形態2によるADPLLの変形例2を示すブロック図である。
【図19】本実施の形態3による(PFD+TDC)の概念を示す図である。
【図20】(a),(b)は、本実施の形態3によるTDCの構成例を示す図であり、(a)はTDC1の結果をVDIVの立ち上がりでサンプリングする場合、(b)はTDC2の結果をVREFの立ち上がりでサンプリングする場合を示す。
【図21】(a),(b)は、図20(a)のタイミングチャートを示す図であり、(a)はVDIVがVREFに対して遅れている場合、(b)はVDIVがVREFに対して進んでいる場合を示す。
【図22】本発明の実施の形態3において、2πの値をディジタルコードに変換する2π検出器ディジタル変換器の回路例を示す図である。
【図23】本発明の実施の形態3において、TDCの入出力特性を示す図である。
【図24】(a),(b)は、本実施の形態3によるTDCの変形例1を示す図である。
【図25】図24(a)のタイミングチャートを示す図である。
【図26】本発明の実施の形態3において、TDCの入出力特性を示す図である。
【図27】本発明の実施の形態3において、周波数が異なる場合のタイミングチャートを示す図であり、(a)はVDIVの周波数がVREFの周波数の1/2倍である場合、(b)はVDIVの周波数がVREFの周波数の2倍である場合を示す。
【図28】本発明の実施の形態3において、図20(a)のTDCに周波数判定器を追加したTDCの構成例を示す図である。
【図29】本発明の実施の形態3において、図24(a)のTDCに周波数判定器を追加したTDCの構成例を示す図である。
【図30】本発明の実施の形態4において、欧州ディジタルセルラシステムGSM用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【図31】本発明の実施の形態4において、欧州ディジタルセルラシステムEDGE用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【図32】本発明の実施の形態4において、欧州ディジタルセルラシステムEDGE/WCDMA用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【図33】本発明の前提として検討したPLLの構成例を示すブロック図である。
【図34】本発明の前提として検討したADPLLの構成例を示すブロック図である。
【図35】図34のADPLLで用いられるPFDの構成例を示す図である。
【図36】(a)は、Delay−Line(遅延列)を用いたTDCの構成例を示す図であり、(b)はそのTDCの動作例を示す図である。
【図37】本発明の前提として検討したTDCの構成例を示すブロック図である。
【図38】(a)は本発明の前提として検討したPFDの構成例を示す回路図であり、(b)はTDCの構成例を示すブロック図である。
【図39】本発明の前提として検討したTDCの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0029】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1によるADPLL(All Digital Phase−Locked Loop)の構成例を示すブロック図である。
【0030】
まず、図1により、本実施の形態1によるADPLLの構成の一例を説明する。本実施の形態1のADPLLは、例えば半導体集積回路とされ、周知の半導体製造技術によって1個の半導体チップ上に形成されている。図1のADPLLは、例えば、位相周波数比較器PFD(Phase Frequency Detector)、位相差ディジタル変換器TDC(Time to Digital Converter)、ディジタルループフィルタDLF(Digital Loop Filter)、ディジタル制御発振器DCO(Digitally Controlled Oscillator)、分周器DIV(Divider)などから構成されている。
【0031】
位相周波数比較器PFDは、基準信号VREFとフィードバック信号VDIVとの位相及び周波数を比較するものである。位相差ディジタル変換器TDCは、位相周波数比較器PFDの出力をディジタル値に変換するものである。ディジタルループフィルタDLFは、位相差ディジタル変換器TDCの出力から高周波雑音成分を除去するものである。ディジタル制御発振器DCOは、ディジタルループフィルタDLFの出力に基づいて周波数が制御されるものである。分周器DIVは、ディジタル制御発振器DCOの出力信号の周波数を分周し、フィードバック信号VDIVを出力するものである。そして、これらの回路によりフィードバックループが構成されている。
【0032】
なお、一例として、基準信号VREFの周波数は26MHz、DCO出力のロック時の周波数は4GHz、フィードバック信号VDIVのロック時の周波数は26MHzである。
【0033】
本実施の形態1のADPLLでは、TDCの出力に加算器101が挿入され、オフセットEOFFSETが加算される。ロック状態では、DLFの入力が0となるようにADPLLが動作する。つまり、ロック状態でTDC出力が−EOFFSETとなる様にフィードバック信号VDIVの位相をADPLLが制御する。オフセットEOFFSETによって、ロック時にもPFDの位相差パルスを広げる事ができる為、僅かな位相差の変化をTDCが正確にディジタルに変換できる。
【0034】
従来のPLLでは、位相差を持たせてロックすると、大きなCP電流が流れる為、スプリアスやノイズを発生させていた。ADPLLでは、すべてディジタル信号となっている為、このような問題が発生しない。
【0035】
なお、加算器101は減算器でも可能で、オフセットの値は正でも負でも実現可能である。また、加算器101を挿入する位置は、ループ内の他の箇所であってもよい。
【0036】
次に、この方式に適したTDCの構成を説明する。図2は、図1の位相差ディジタル変換器TDCの構成例を示す回路図である。
【0037】
図2のTDCは、遅延量の大きい遅延器201と、遅延器201より遅延量の小さい複数の遅延器202と、複数のD型フリップフロップDFF203などから構成される。初段の遅延器201と、後段の複数の遅延器202により、遅延列が構成される。各遅延器は、例えば2段のインバータで構成される。各遅延器の出力D1〜Dn−1が各DFFのデータ入力Dに入力される。各DFFは、クロック入力としてPEの反転信号が入力され、データ出力Q1〜Qn−1を出力している。
【0038】
例えば、図36(b)のタイミングチャートを検討する。本実施の形態1のADPLLは、オフセットを加算している為、ロック時にもTPE[sec]は0[sec]にならず長いパルスとなる。この為、初めの方のQはほとんど1となり、数多くの遅延器とDFFが必要である。重要なのはロック時の位相からの変化であり、初めの方の1が続いている遅延器の出力には大きな意味がない。
【0039】
そこで、図2のTDCのように、初段に大きな遅延を持つ遅延器201を挿入し、あらかじめ大きく遅延させる事によって、遅延器とDFFの数を削減する。
【0040】
図3は、図2の初段の遅延器201の構成例を示す回路図である。
【0041】
図3の遅延器において、入力したオフセットに遅延量が比例するように電流IBと容量CLを設定する。オフセットを変更することを想定し、プログラマブルにIBとCLを変更できるようにする。
【0042】
一般的に、初段に大きな遅延をいれると、0近傍の位相差を検出する事ができない。よって、周波数切り替え時に位相差がプラスからマイナスまで0を通過して変化する場合に問題となる。但し、RF−IC内部に内蔵されるVCOは通常、複数の発振バンドを持ち、これを自動で選択してから位相ロック過程に進む為、位相の変化が0を通過して変化しないように制御可能である(特許文献1参照)。よって、位相の検出範囲は問題ない。
【0043】
したがって、本実施の形態1によるADPLLでは、ループのいずれかの箇所にオフセット値を加算(減算)し、VREFとVDIVがある一定の位相差を持ってロックする様にする。これにより、位相差パルスを生成する前段の回路(例えば図35のXOR)のスルーレートが低い場合でも、確実に位相差パルスがHIGHとなり、その変化を伝達させる事ができる。また、TDCの初段に大きな遅延を持つ遅延器を挿入し、あらかじめ大きく遅延させる事によって、遅延器とDFFの数を削減する。これにより、解像度、線形性、占有面積を満たす周波数シンセサイザ用のADPLLが提供できる。
【0044】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2によるADPLLの構成例を示すブロック図である。
【0045】
まず、図4により、本実施の形態2によるADPLLの構成の一例を説明する。本実施の形態2のADPLLは、例えば半導体集積回路とされ、周知の半導体製造技術によって1個の半導体チップ上に形成されている。図4のADPLLは、例えば、位相周波数比較器PFD(Phase Frequency Detector)及び位相差ディジタル変換器TDC(Time to Digital Converter)(以下、(PFD+TDC)と記す。)、ディジタルループフィルタDLF(Digital Loop Filter)、ディジタル制御発振器DCO(Digitally Controlled Oscillator)、分周器DIV(Divider)などから構成されている。
【0046】
位相周波数比較器PFDは、基準信号VREFとフィードバック信号VDIVとの位相及び周波数を比較するものである。位相差ディジタル変換器TDCは、位相周波数比較器PFDの出力をディジタル値に変換するものである。ディジタルループフィルタDLFは、位相差ディジタル変換器TDCの出力から高周波雑音成分を除去するものである。ディジタル制御発振器DCOは、ディジタルループフィルタDLFの出力に基づいて周波数が制御されるものである。分周器DIVは、ディジタル制御発振器DCOの出力信号の周波数を分周し、フィードバック信号VDIVを出力するものである。そして、これらの回路によりフィードバックループが構成されている。
【0047】
また、(PFD+TDC)は、遅延列(Delay−Line)401、コントロールロジック(Control Logic)402、サンプラ(Sampler)403、カウンタ(Counter)404、加算器405、オフセット制御(Offset Control)406などから構成されている。DIVは、プリスケーラ(Prescaler)407、プログラムカウンタ(Program Counter)408、スワロウカウンタ(Swallow Counter)409などから構成されている。
【0048】
なお、一例として、基準信号VREFの周波数は26MHz、DCO出力のロック時の周波数は4GHz、フィードバック信号VDIVのロック時の周波数は26MHz、プリスケーラ407の出力VPREのロック時の周波数は1GHzである。
【0049】
本実施の形態2のADPLLでは、DCOの出力VDCOあるいはVDCOを入力とする分周器DIVの出力(図4ではVPRE)をクロック入力とするカウンタ404で、VREF・VDIV間の広範囲な位相差を荒い精度で測定し、その間(すなわちVREF・VPRE間)の微少な位相差をDelay−Line401で高精度に測定する(PFD+TDC)を採用する。
【0050】
ここでは、カウンタ404のクロックは、DIVのプリスケーラ407の出力VPREを用いる。プリスケーラ407は、例えば、特許文献2のデュアルモジュラスプリスケーラを使用する。
【0051】
ADPLLがロックした場合、VPREの出力もロックする。したがって、これをクロックとしてカウントした位相差と時間との関係が一意的に決まる。また、もともとある信号をクロックとして用いることによって、スプリアスと消費電流の増加を防ぐことが出来る。サンプラ403により、VREFを一度VPREでサンプリングし同期化し、カウンタ404のスタート信号とし、VDIVはカウンタ404のエンド信号とする。これによりVPREの精度でVREF・VDIV間の位相差を測定する。
【0052】
また、VREFとVPREの位相差をDelay−Line401で測定する。コントロールロジック402は、カウンタ404とDelay−Line401で測定した位相差を合成する。但し、入力信号の経路に差がある場合や入力信号に対する感度に差があると合成時にエラーが生じる。例えば、位相差が次式の様に2.98から3.00へと0.02増加する場合を考える。なお、本例は説明の為の計算式を用いている。
【0053】
(カウンタ=2,Delay−Line=0.98)=2.98 → (カウンタ=3, Delay−Line=0)=3.00
もし、Delay−Line401がカウンタ404の変化に追従できない場合、
(カウンタ=2,Delay−Line=0.98)=2.98 → (カウンタ=3
, Delay−Line=0.99)=3.99≠3.00
となり、約1のエラーが生じる。また、前述の通りDelay−Line401が0を出力する近傍では、前段回路のスルーレートにより、正確な位相誤差を算出できない。つまり、Delay−Line出力が1か0に近い値の場合、正確な位相誤差を算出できない。この対策として、検出が正確に行えない位相差が互いに異なる二つ以上の系で位相差を測定し、適宜切り替えて使用する。
【0054】
コントロールロジック402の後段にあるオフセット回路(加算器405、オフセットコントロール406)は、ADPLLロック時のVREFとVDIVの位相関係を調整する。これによりタイミング設計が容易になる。以下、詳細を説明する。
【0055】
図5に位相差検出のタイミングチャートを示す。(PFD+TDC)は、VREFとVDIVの立ち上がりエッジの位相差(時間差)をディジタルコードに変換する。VDIVはVPREと同期している。カウンタ404により、VREFの立ち上がりからVDIVの立ち上がりまでの期間をクロックVPREで測定した位相差をNCNTとする。一方、カウンタ404で測定できない微少な位相差をDelay−Line401で測定する。したがって、Delay−Line401ではプリスケーラ407の出力VPREの1周期を測定するだけで良い。カウンタ404の1クロックの重みを1とすると、Delay−Line401の測定結果EDは1未満となる。この場合、VREF・VDIV間の位相差ETDCは、NCNT+EDとなる。
【0056】
図6(a)にDelay−Line401の構成例を示す。また、図6(b)にそのタイミングチャートを示す。
【0057】
VREFの直前にあったVPREの立ち上がりと立ち下りエッジを測定する。基本動作は図36と同じであるが、エッジを検出するため、出力Qn(n=1,2,3,…)の1→0、あるいは0→1に注目してデコードする。Qnが小さ方から初めて1→0になる値をNDR、0→1になる値をNDFとする。VPREの一周期をDelay−Line401で測定した値がNDPREとすれば、立ち上がり位相差EDR,立ち下がり位相差EDFはそれぞれ次式で与えられる。
【0058】
EDR=NDR/NDPRE … 式(1)
EDF=NDF/NDPRE … 式(2)
図7(a),(b)に、VREFがVDIVよりも進んでいる場合のタイミングチャートを示す。図7(a)は立ち上がりエッジで位相差を測定する場合を示し、図7(b)は立ち下がりエッジで位相差を測定する場合を示す。
【0059】
図7(a)に示すように、立ち上がりエッジで位相差を測定する場合の位相差ETDCは次式で求まる。ここで、VREFの立ち上がりからVDIVの立ち上がりまでの期間をクロックVPREの立ち上がりエッジで測定した位相差をNCRとする。
【0060】
ETDC=NCR+1.0−EDR … 式(3)
図7(b)に示すように、立ち下がりエッジで位相差を測定する場合の位相差ETDCは次式で求まる。ここで、VREFの立ち上がりからVDIVの立ち上がりまでの期間をクロックVPREの立ち下がりエッジで測定した位相差をNCFとする。
【0061】
ETDC=NCF+1.0−EDF+ELOW … 式(4)
ここでELOWはVPREのLOWの期間であり、デュティ比が50%ならば0.5となる。式(3)と式(4)で結果は同じ値となる。但し、エラーが発生するタイミングが異なる。
【0062】
図8(a),(b)に、それぞれエラーが発生するタイミングを示す。図8(a)は立ち上がりエッジでの測定でエラーが発生する場合を示し、図8(b)は立ち下がりエッジでの測定でエラーが発生する場合を示す。
【0063】
立ち上がりエッジでの測定でエラーの発生するタイミングでは、EDRが0か1に近づき、EDFは0.5に近づく。逆に、立ち下がりエッジでの測定でエラーの発生するタイミングでは、EDFが0か1に近づき、EDRは0.5に近づく。したがって、Delay−Line401の出力が0.5に近い方の測定結果を採用すればエラーを回避できる。
【0064】
図9に、DPFDのカウンタの構成例を示す。
【0065】
図9に示すように、DPFDは、Delay−Line部901とCounter部902から構成される。Delay−Line部901は複数の遅延素子903とデコーダ(DEC)904と複数のサンプラ(D型フリップフロップ)905から構成される。回路規模削減の為、カウンタ部902は1つの積分器906と2つの減算器907と複数のサンプラ(D型フリップフロップ)905から構成される。
【0066】
図10に、積分器906を用いて、VPREの立ち上がりで位相差を測定する系のタイミングチャートを示す。
【0067】
求めるべき値NCRは2である。積分器の出力ΣOUTはVPREの立ち下りで値を1ずつ増加する。VREFをVPREの立ち上がりでサンプリングしたクロックをCKRRとし、このクロックでΣOUTをサンプリングした値をΣOUTRRとする。一方、VDIVでΣOUTをサンプリングした値をΣOUTDとする。ΣOUTDとΣOUTRRの差分には2が計算されており、これをサンプリングする事によりNCR=2を求める事が出来る。
【0068】
図11に、積分器を用いて、VPREの立ち下がりで位相差を測定する系のタイミングチャートを示す。
【0069】
求めるべき値NCFは1である。積分器の出力ΣOUTはVPREの立ち下りで値を1ずつ増加する。VREFをVPREの立ち下がりでサンプリングしたクロックをCKRF0とし、これを再びVPREの立ち上がりでサンプリングしたクロックをCKRFとし、このクロックでΣOUTをサンプリングした値をΣOUTRFとする。一方、VDIVでΣOUTをサンプリングした値をΣOUTDとする。ΣOUTDとΣOUTRRの差分には1が計算されており、これをサンプリングする事によりNCF=1を求める事が出来る。一見するとNCRから単に1を引く事によりNCFが求まるように思われる。
【0070】
図12に、VREFとVPREの立ち上がりが近い場合のタイミングチャートを示す。
【0071】
本手法を使えば、CKRRのタイミングはどちらになるか不定の場合でもCKRFが確定する事が分かる。これがNCRから単に1を引く事によりNCFを求めない理由である。
【0072】
図13に、積分器906の構成例を示す。
【0073】
積分器906は、複数のDFF1301と複数のXOR1302と複数のAND1303による同期カウンタで構成する事が出来る。ビット数は少なくとも差分の値以上必要である。
【0074】
図14(a)に、DIVの構成例を示す。また、図14(b)に、プリスケーラ407のタイミング例を示す。デュアルモジュラスプリスケーラ(プリスケーラ407)の分周比、プログラマブルカウンタ408の分周比、スワロウカウンタ409の分周比をそれぞれ(N+1)/N、P、Mとする。プリスケーラ出力VPREをP回カウントし終えた所でプログラマブルカウンタ出力VDIVがLOW→HIGHになる。VDIVがHIGHになった次のクロックからM回だけスワロウカウンタ出力VMがLOWとなる。VMがLOWの間、プリスケーラは(N+1)分周となり、VMがHIGHに戻るとN分周をする。この場合、分周比は次式で与えられる。
【0075】
分周比=(N+1)・M+N・(P−M)=N・P+M … 式(5)
ここで、M=0〜(N−1),P>Mである。現実的な例として、N/(N+1)=4/5,P=38,M=0〜3である。図14(b)の例では、VDIVがHIGHとなった後の3クロックの間はプリスケーラが5分周を選択する。VPREを(PFD+TDC)のカウンタクロックとして使う場合、プリスケーラの周期がDCOの周波数VDCO/4で一意的に決まる為、固定の4分周の期間で使用する事が望ましい。具体的にはVDIVがHIGHになる直前の期間を比較に用いる事が望ましい。ロック時のVREFとVDIVの位相関係は、図4のコントロールロジック402の後段にあるオフセットコントロール406で調整できる。
【0076】
図15(a),(b),(c)に、オフセットを用いたロック時のVREFとVDIVの位相関係の調整方法を示す。図15(a)はADPLLの構成例、図15(b)はEOFFSET<0の場合の位相関係、図15(c)はEOFFSET>0の場合の位相関係を示す。
【0077】
ロック時にはDLFの入力が0となる様に負帰還制御がかかる。図15(b)のようにEOFFSETが負の場合、ETDCは大きさが等しく符号が逆の信号でロックする。この場合、VREFに対してVDIVが遅れる。
【0078】
一方、図15(c)のようにEOFFSETが正の場合、ETDCは大きさが等しく符号が逆の信号でロックする。この場合、VREFに対してVDIVが進む。測定したい位相差と(PFD+TDC)のカウンタのクロックに適した期間が一致しているのは図15(b)であり、このように位相を調整する事が望ましい。
【0079】
図16(a),(b)に、VREFがVDIVよりも遅れている場合のタイミングチャートを示す。図16(a)は立ち上がりエッジで位相差を測定する場合、図16(b)は立ち下がりエッジで位相差を測定する場合を示す。
【0080】
図16(a)に示すように、立ち上がりエッジで位相差を測定する場合の位相差は次式で求まる。
【0081】
ETDC=NCNT+EDR … 式(6)
図16(b)に示すように、立ち下がりエッジで位相差を測定する場合の位相差は次式で求まる。
【0082】
ETDC=NCNT+EDF+EHIGH … 式(7)
ここでEHIGHはVPREのHIGHの期間であり、デュティ比が50%ならば0.5となる。
【0083】
式(3),(4),(6),(7)から分かるようにVREFとVDIVの位相関係で、計算式が変更となる。位相関係は図35の極性判定信号POLによって求まる。POLによって、計算式を変えても構わないが、RF−IC内部に内蔵されるDCOは通常、複数の発振バンドを持ち、これを自動で選択してから位相ロック過程に進む。周波数を切り替えた場合にも位相の変化が0を通過して大きく変化しないように制御可能である(特許文献1参照)。
【0084】
図17は、本発明の実施の形態2によるADPLLの変形例1を示すブロック図である。
【0085】
変形例1では、DCO出力に分周器1701を追加し、このクロックを(PFD+TDC)のカウンタ404のクロックとして用いる事が可能である。この場合、分周器1701の消費電流と面積と(PFD+TDC)内のカウンタは増加するが、Delay−Line401の面積は削減できる。また分周比をプリスケーラと独立して決められる為、設計の自由度が上がる。
【0086】
図18は、本発明の実施の形態2によるADPLLの変形例2を示すブロック図である。
【0087】
図18に示すように、分周器を完全にとった場合も考えられる。(PFD+TDC)内のカウンタは増加するが、Delay−Line401の面積は大幅に削減できる。
【0088】
以上説明したように、本実施の形態2によるADPLLは、広範囲な位相差を荒い精度で測定するカウンタと、その間の微少な位相差を高精度に測定するDelay−Lineから(PFD+TDC)を構成している。
【0089】
したがって、本発明の実施の形態2のADPLLによれば、解像度、検出範囲、線形性、占有面積、位相差0近傍の位相差検出を改善させることができる。
【0090】
(実施の形態3)
前記実施の形態2では、図4、図17、図18の説明において、位相差をカウンタで測定し、残りをDelay−Lineで測定すると説明してきた。本実施の形態3では、見方を変えた説明をする。
【0091】
VDIVの信号はDCO出力あるいはそれを入力とする分周器出力に完全に同期している為、DCO出力あるいはそれを入力とする分周器出力の整数倍で位相をディジタルに変換できる。一方、VREFはDCO出力あるいはそれを入力とする分周器出力に同期していない為、それの整数倍で位相をディジタルに変換できず、ある位相(時間)差が生じる。その差をDelay−Lineで表現していると考えられる。つまり、本ADPLLではDCO出力あるいはそれを入力とする分周器出力でVDIVとVREFをそれぞれディジタル位相に直して、それの差分をとっている事と等価である。
【0092】
図19に、本実施の形態3による(PFD+TDC)の概念を示す。
【0093】
図19に示すように、VDIVとVREFの位相をTDCでそれぞれディジタル変換し、位相を減算することで位相差を求める。位相差をディジタルに直す方法に対して、0近傍の位相差の検出を根本的に改善する。なお、本方式もVREFがVDIVよりも進んでいる場合と遅れている場合で計算式を変更する必要がある。以下その詳細を示す。
【0094】
図20(a),(b)に、本実施の形態3によるTDCの構成例を示す。図20(a)はTDC1の結果をVDIVの立ち上がりでサンプリングする場合、図20(b)はTDC2の結果をVREFの立ち上がりでサンプリングする場合を示す。
【0095】
本構成では片方のTDC出力をもう片方のクロックでサンプリングする。TDC出力はDLPFのクロックと同期している必要があり、VREFかVDIVのいずれかに同期させる。例として図20(a)に関して説明する。
【0096】
図21(a),(b)に、図20(a)のタイミングチャートを示す。図21(a)はVDIVがVREFに対して遅れている場合、図21(b)はVDIVがVREFに対して進んでいる場合を示す。
【0097】
VREFがVDIVよりも進んでいる場合と遅れている場合で計算式を変更している。位相関係は図35の極性判定信号POLによって求まる。
【0098】
VDIVがVREFに対して遅れている場合
ETDC=DPE[n]=Div[n]−Ref[n−1] …式(8)
VDIVがVREFに対して進んでいる場合
ETDC=DPE[n]−E2π=Div[n]−Ref[n−1]−E2π …式(9)
ここでE2πは2πをディジタルコードに変換した値である。
【0099】
図22に、2πの値をディジタルコードに変換する2π検出器ディジタル変換器の回路例を示す。
【0100】
TDCでディジタル変換された位相と、ラッチで保持した1クロック前の位相を減算することで2πのディジタル値を求める。
【0101】
図23に、TDCの入出力特性を示す。計算式(8),(9)を用いていないDPEの特性を点線で示し、計算式を用いたETDCの特性を実線で示している。ETDCは入力位相差が0,±2π,…で安定して0となり、ADPLLがロックする。以上は図20(b)に関しても同様である。
【0102】
図24(a),(b)に、本実施の形態3によるTDCの変形例1を示す。
【0103】
本構成はDPEに対して−Eπを常に引く構成になっている。ロックするVREFとVDIVの位相をπずらし、式の場合分けを削除している。ここでEπはπをディジタルコードに変換した値である。Eπは図22の2π検出器ディジタル変換器を用いることによって導出することができ、結果に対して1ビット右へシフト(1/2を乗算)することで求めることができる。
【0104】
図25に、図24(a)のタイミングチャートを示す。実線でETDC、破線でDPEを示す。
【0105】
図26に、TDCの入出力特性を示す。
【0106】
Eπを引いていないDPFDの特性を点線で示し、引いたETDCの特性を実線で示している。ETDCは入力位相差が±π,…で安定して0となり、ADPLLがロックする。以上は図24(b)に関しても同様である。
【0107】
以上において、実施の形態3の図20(a)、変形例1の図21(a)を用いて位相差が異なる場合について説明した。
【0108】
次に、図27により、周波数が異なる場合について説明する。図28および図29は、本実施の形態3において、周波数判定器を追加したTDCの構成を示す図である。図28は図20(a)のTDCに周波数判定器を追加したTDC、図29は図24(a)のTDCに周波数判定器を追加したTDCを示す。
【0109】
(a)VDVIの周波数がVREFの周波数の1/2倍である場合
VDIVでデータを取り込む前にVREF側の位相が更新されてしまうと、正確に周波数と位相を合わせることができない。この場合、VREFの周波数の1/2の周波数でロックしてしまう為、使用できない。
【0110】
(b)VDIVの周波数がVREFの周波数の2倍である場合
VDIVはVREFの2倍の周波数でも安定してロックしてしまう為、使用できない。
【0111】
このため、周波数比較器が必要である。利用できない周波数になったことを検出した場合、ETDCを一定の値に固定する。周波数は図22の2πディジタル変換器の出力に反比例する。周波数が高ければ2πディジタル変換器の出力は解像度が一定の為、小さくなる。例えば以下のように定義する。
【0112】
(1)Div_F≦Ref_F/2
ETDC=[1_0000_……_00](ディジタルで負の最大値) …式(10)
(2)Div_F≧Ref_F・2
ETDC=[0_11………11](ディジタルで正の最大値) …式(11)
ここで、Div_F、Ref_FはそれぞれVDIVとVREFの2πディジタル変換器の出力とする。
【0113】
但し、RF−ICに内蔵されるDCOは通常、複数の発振バンドを持ち、これを自動で選択してから位相ロック過程に進む。そのために大きく位相と周波数の変化が生じることはない(特許文献1参照)。よって、この場合、上記の周波数判別回路は不要となる。なお、上記議論は図20(b)、図21(b)に関しても同じである。
【0114】
以上説明したように、本実施の形態3では、VDIVとVREFの位相をTDCでそれぞれディジタル変換し、位相を減算することで位相差を求める。これにより、位相差をディジタルに直す方法に対して、0近傍の位相差の検出が根本的に改善される。
【0115】
(実施の形態4)
本実施の形態4では、前記実施の形態1〜3によるADPLLの応用例を説明する。
【0116】
図30は、欧州ディジタルセルラシステムGSM用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【0117】
図30のBRIGHTは、受信にダイレクトコンバージョン方式、送信にオフセットPLL方式を採用する。ローカル発振器としてADPLL周波数シンセサイザを採用する事が考えられる。
【0118】
図31は、欧州ディジタルセルラシステムEDGE用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【0119】
図31のBRIGHTは、受信にダイレクトコンバージョン方式、送信にポーラループ方式を採用している。ローカル発振器とADPLL周波数シンセサイザを採用する事が考えられる。
【0120】
図32は、欧州ディジタルセルラシステムEDGE/WCDMA用送受信RF−IC(BRIGHT)の構成を示すブロック図である。
【0121】
図32のBRIGHTは、EDGE/WCDMAともに受信はダイレクトコンバージョン方式を採用する。WCDMAの送信はダイレクトコンバージョン方式を採用し、EDGEの送信はADPLLを直接変調する位相変調パスと振幅変調パスからなるポーラモジュレーション方式を採用する。EDGE/WCDMAの受信、WCDMAの送信用のローカル発振器としてADPLL周波数シンセサイザを採用する。また、EDGEの送信の位相変調用としてADPLLを採用する(非特許文献4参照)。
【0122】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、前記実施の形態1〜3をそれぞれ適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、無線LAN用のRF−ICやその他PLL周波数シンセサイザに全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0124】
101 加算器
201,202 遅延器
401 遅延列(Delay−Line)
402 コントロールロジック(Control Logic)
403 サンプラ(Sampler)
404 カウンタ(Counter)
405 加算器
406 オフセットコントロール(Offset Control)
407 プリスケーラ(Prescaler)
408 プログラマブルカウンタ
409 スワロウカウンタ
901 ディレイライン(Delay−Line)部
902 カウンタ(Counter)部
903 遅延素子
904 デコーダ(DEC)
905 サンプラ(D型フリップフロップ)
906 積分器
907 減算器
ALF アナログループフィルタ
CP チャージポンプ
DCO ディジタル制御発振器
DFF D型フリップフロップ
DIV 分周器
DLF ディジタルループフィルタ
PFD 位相周波数比較器
TDC 位相差ディジタル変換器
VCO 電圧制御発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準信号とフィードバック信号との位相及び周波数を比較し、その比較結果をディジタル値に変換する位相周波数比較器・位相差ディジタル変換器と、
前記位相周波数比較器・位相差ディジタル変換器の出力から高周波雑音成分を除去するディジタルループフィルタと、
前記ディジタルループフィルタの出力に基づいて制御されるディジタル制御発振器と、
前記ディジタル制御発振器の出力を分周し、前記フィードバック信号を出力する分周器と、によりフィードバックループが構成されたPLL回路であって、
前記位相周波数比較器・位相差ディジタル変換器は、
前記基準信号と前記フィードバック信号との位相差を第1の精度で測定するカウンタと、
前記基準信号と前記フィードバック信号との位相差を前記第1の精度より微小な第2の精度で測定する遅延列と、を有することを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
請求項1記載のPLL回路において、
前記分周器は、
前記ディジタル制御発振器の出力を分周してクロック信号を出力する第1分周器と、
前記第1分周器の出力を分周して前記フィードバック信号を出力する第2分周器と、を有し、
前記クロック信号が前記カウンタのクロックとして入力されていることを特徴とするPLL回路。
【請求項3】
請求項1記載のPLL回路において、
前記ディジタル制御発振器の出力を分周してクロック信号を出力する第3分周器をさらに有し、
前記クロック信号が前記カウンタのクロックとして入力されていることを特徴とするPLL回路。
【請求項4】
請求項1記載のPLL回路において、
前記ディジタル制御発振器の出力が前記カウンタのクロックとして入力されていることを特徴とするPLL回路。
【請求項5】
請求項1記載のPLL回路において、
常に2系統以上のパスで位相差を測定し、前記遅延列の値から問題がないと判断できる位相差を採用し、前記カウンタと前記遅延列の位相差結合時のエラーを回避する機能を有することを特徴とするPLL回路。
【請求項6】
請求項2記載のPLL回路において、
前記位相周波数比較器・位相差ディジタル変換器は、
前記カウンタと前記遅延列の測定結果に基づいて位相差を求めるコントロールロジックと、
前記コントロールロジックの後段に設けられたオフセット回路と、をさらに有し、
ロック時の位相関係を調整し、前記第1分周器の分周比が一定となる期間で、位相比較動作が出来るようになっていることを特徴とするPLL回路。
【請求項7】
請求項1記載のPLL回路において、
前記カウンタの出力端と前記ディジタルループフィルタの入力端の間のいずれかの箇所にオフセット値が加算され、前記フィードバック信号の位相が制御され、ロック時に前記基準信号と前記フィードバック信号との位相差が0ではない値が入力されることを特徴とするPLL回路。
【請求項8】
請求項1記載のPLL回路において、
前記遅延列の出力端と前記ディジタルループフィルタの入力端の間のいずれかの箇所にオフセット値が加算され、前記フィードバック信号の位相が制御され、ロック時に前記基準信号と前記フィードバック信号との位相差が0ではない値が入力されることを特徴とするPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2013−102458(P2013−102458A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−275665(P2012−275665)
【出願日】平成24年12月18日(2012.12.18)
【分割の表示】特願2008−151603(P2008−151603)の分割
【原出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
2.WCDMA
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【出願人】(503153953)エポック・マイクロエレクトロニクス・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】