説明

PM燃焼触媒用複合酸化物およびフィルター

【課題】貴金属元素を含まずにディーゼルエンジン排ガスのPMを低温で燃焼させることができ、かつPM燃焼時の発熱に耐えうる耐熱性を備えた複合酸化物を提供する。
【解決手段】Ce、Coおよび1種以上の下記元素Mと、酸素で構成され、Ce、Coおよび元素Mのモル比が下記[b]を満たすPM燃焼触媒用複合酸化物。
[b]Ce、Coおよび元素Mのモル比を、Ce:Co:M=(1−x−y):x:yとするとき、0<x≦0.5、0<y≦0.4、x+y<1が成立する。
ただし元素Mは、Ce以外の希土類元素(Yも希土類元素として扱う)およびアルカリ土類金属元素からなる元素群から選ばれる元素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディーゼルエンジンから排出されるPM(粒子状物質)を燃焼するための触媒に適した複合酸化物、並びにそれを用いたPM燃焼触媒およびディーゼル排ガス浄化用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスに関しては、特に窒素酸化物(NOx)とPMが問題となっている。このうちPMはカーボンを主体とする微粒子であり、その除去方法として排気ガス流路にパーティキュレート・フィルター(DPF)を設置してPMをトラップする方法が一般化されつつある。トラップされたPMは間欠的または連続的に燃焼され、当該DPFは再生される。
【0003】
このDPF再生処理には、電気ヒーターやバーナー等を用いて外部加熱によりPMを燃焼させる方法、DPFよりもエンジン側に酸化触媒を設置し、排ガス中のNOを酸化触媒によりNO2にし、NO2の酸化力によりPMを燃焼させる方法などがある。しかし、電気ヒーターやバーナーなどは外部からエネルギーを加える必要があり、システムが複雑化する。また、酸化触媒については触媒活性が十分発揮されるほど排ガス温度が高くないことや、ある一定の運転状況下でなければPM燃焼に必要なNOが排ガス中に含まれてこないことなど、種々の問題がある。そのような中、DPFに触媒を担持させ、その触媒作用によりPMの燃焼温度を低下させ、排ガス温度にて連続的に燃焼させる触媒方式が望ましいとされている。
【0004】
特許文献1には触媒金属としてPtを担持したものが開示されている。しかし、排ガス温度レベルではPtはPMを燃焼させる触媒作用が低いため、燃料排ガス温度にてPMを連続的に燃焼させるのは困難と考えられる。また、貴金属を使用しているためコストの増大が避けられない。
【0005】
特許文献2には白金族金属を含まない種々の元素を用いた触媒が開示されている。その多くはAgを含むものである。Agを含まない組成でPMの燃焼に効果が見られた組成物は、NO2存在下ではPMに対する高い燃焼活性を示すが、酸素が唯一の酸化剤である雰囲気では十分な燃焼活性を示さず、燃焼雰囲気に大きく左右されるものであった。排ガス組成は一定ではないため、排ガスに含まれるガス濃度に影響されず、PMに対する高い燃焼活性を示すものが望まれる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−253757号公報
【特許文献2】特開2004−42021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は、貴金属元素を使用しない触媒として、Ceと遷移金属元素の複合酸化物を含むPM燃焼触媒を特願2005−336408号にて提案し、これによりPM燃焼温度の大幅な低温化が実現されている。しかし、この技術ではPM燃焼触媒の耐熱性については特段の配慮がなされておらず、PM燃焼時の発熱により触媒温度が急激に上昇した場合を考慮すると、高温の熱履歴を受けた場合にも触媒活性が高く維持できる耐熱性を具備した触媒物質の開発が待たれている。
【0008】
本発明は、貴金属元素を含まずにディーゼルエンジン排ガスのPMを低温で燃焼させることができる触媒活性を有し、かつPM燃焼時の発熱に耐えうる耐熱性を備えた複合酸化物を開発し提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、CeおよびCoと、酸素で構成され、CeおよびCoのモル比が下記[a]を満たすPM燃焼触媒用複合酸化物によって達成される。
[a]CeおよびCoのモル比を、Ce:Co=(1−x):xとするとき、0<x≦0.5が成立する。
また、Ce、Coおよび1種以上の元素Mと、酸素で構成され、Ce、Coおよび元素Mのモル比が下記[b]を満たすPM燃焼触媒用複合酸化物が提供される。
[b]Ce、Coおよび元素Mのモル比を、Ce:Co:M=(1−x−y):x:yとするとき、0<x≦0.5、0<y≦0.4、x+y<1が成立する。
ただし元素Mは、Ce以外の希土類元素(Yも希土類元素として扱う)およびアルカリ土類金属元素からなる元素群から選択される元素であり、例えばY、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、BaおよびSrからなる元素群から選択される元素が挙げられる。
【0010】
これらの複合酸化物は、酸化セリウム(CeO2)構造を主体とするものであり、下記組成式(1)において、0<x≦0.5、0≦y≦0.4、x+y<1を満たす組成の複合酸化物である。
Ce(1-x-y)Coxyδ ……(1)
ここで、δ>0であり、代表的にはδ=2あるいはそれに近い値、例えば1≦δ≦3、あるいは1.3≦δ≦2.5が挙げられる。この複合酸化物はX線回折によれば酸化セリウム構造のピークが認められ、また、ミクロ的な分析手段から、酸化セリウム相の他に、コバルト酸化物相が検出される場合がある。
【0011】
前記複合酸化物は、酸化セリウム構造の結晶子径Dxが20nm以下であることにより、高い触媒活性を呈する。大気中800℃×2hの加熱処理に供した後においても、当該結晶子径Dxは20nm以下を維持する性質を有する。前記複合酸化物のBET比表面積は5〜70m2/gの範囲にある。また、前記複合酸化物は200〜500℃の温度域で雰囲気ガス中のNOをNO2に変換することができる性質を有する。
【0012】
このような複合酸化物は、ディーゼルエンジン排ガス中のPMを燃焼させる触媒(PM燃焼触媒)として極めて好適である。この複合酸化物を触媒物質として用いた触媒を、例えばSiC、コージェライト、ムライト、アルミナなどの多孔質物質からなるDPFに担持させることにより、捕集されたPMを排ガスの熱を有効利用して燃焼除去することのできるディーゼル排ガス浄化用フィルターが構築される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合酸化物は比較的低温から高い触媒活性を発揮するので、これを触媒物質として用いるとPM燃焼温度を低下させることができ、排ガス温度を有効利用してPMを燃焼除去することのできるディーゼル排ガス浄化フィルターを構築することが可能になる。排ガス中のNO2濃度が希薄な場合でも高い触媒活性が得られるので、排ガス濃度の変動にも対応できる。また、本発明の複合酸化物は耐熱性に優れるため、PM燃焼による急激な発熱が生じた場合でも、高い触媒活性が維持される。さらに、貴金属元素を必要としないのでDPFの材料コスト低減にも寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の複合酸化物では、CeとCoを必須成分として含有し、かつ必要に応じて前記の元素Mを含有する。この複合酸化物は、酸化セリウム構造体にCoあるいはさらに元素Mが複合化した形態を有する酸化物相が主体となっている。代表的な組成式は前述の(1)式のように表示される。
【0015】
この酸化セリウム構造体のセリウム原子の一部はコバルト原子で置換されている。このとき、セリウム原子を主とする複合酸化物の陽イオンの見かけ上の価数変化が起こり、また、イオン半径が異なる元素同士の置換による格子の歪のため、格子中の酸素が格子外に放出されやすい状態となり、これによって比較的低温の温度域からPMの燃焼に必要な活性酸素がPMに供給され、PM燃焼温度の低下が実現されるものと考えられる。Coを含有しない、従来知られている単なる酸化セリウム(CeO2)の場合は、格子中の酸素の放出が起こりにくい安定な構造をとると考えられるため、PMの燃焼に対する高い触媒活性を得ることは困難である。
【0016】
発明者らの検討によれば、後述の製造法によって得られる、Coで一部を置換した酸化セリウム構造の複合酸化物は、PMに対する高い触媒活性が得られ、800℃といった高温に加熱される熱履歴を受けても、触媒活性は高く維持される。
【0017】
前記元素Mを添加した複合酸化物構造とすることによっても、Coで一部を置換した酸化セリウム構造の複合酸化物が本来有する優れた触媒活性が得られ、さらに耐熱性が向上する傾向が見られる。元素Mにより耐熱性が向上するメカニズムは現時点で十分解明されていないが、元素Mの添加によって熱による複合酸化物粒子の粗大化が抑制されることが影響しているものと推察される。
【0018】
前記[a]に示されるように、Coのモル比を表すxは、0<x≦0.5の範囲にあることが望ましい。x=0、すなわちCoが存在しない場合は前述のように高い触媒活性が得られない。xが0.5より大きくなるとCoが酸化セリウム構造体に複合化せずに酸化コバルトとして存在しやすくなるため、酸化セリウム構造体と酸化コバルトの混合相が形成されやすい。そうなると、酸化コバルトはPMの燃焼に対する触媒活性が低いため、酸化コバルトの存在が複合酸化物の触媒活性点を低減させ、触媒活性が低下すると考えられる。xの範囲は0.05≦x≦0.5であることがより好ましく、0.10≦x≦0.45が一層好ましい。
【0019】
前記[b]に示されるように、元素Mのモル比を表すyは、0≦y≦0.4の範囲にあることが望ましい。y=0、すなわち元素Mが存在しない場合でも、後述する製法により得られる複合酸化物では比較的良好な耐熱性を有するが、0<y≦0.4となるように元素Mが含まれるとさらに耐熱性が向上する傾向が見られる。ただし、yが0.4を超えて元素M含有量が多くなると、複合酸化物粒子の粗大化は抑制されるが、粒子同士のネッキングが過剰に起こりやすくなり、PM燃焼の活性点減少によって触媒活性の低下が生じやすくなると考えられる。yの範囲は0<y≦0.35であることがより好ましく、0.01≦y≦0.30が一層好ましい。
【0020】
また、発明者らの研究によれば、PMの燃焼開始温度に関して注目すべき点として、触媒物質である複合酸化物の結晶子径が挙げられ、結晶子径が小さいほど高いPM燃焼活性を示すことがわかった。PMの燃焼活性は格子中の酸素、すなわち格子表面の酸素の出入りが関与すると考えられ、結晶子径が小さくなるに従い格子中の酸素原子数に対し、結晶格子表面の酸素原子数の割合が高くなり、酸素の出入りが起こりやすくなると考えられる。酸化セリウム構造体にCoを含有させた本発明対象の複合酸化物の結晶子径(X線粒径Dx)は20nm以下と小さいことから、比較的低温域でも酸素の出入りが活発に起こり、PM燃焼温度の低下をもたらしているものと推察される。本発明の複合酸化物は、大気中800℃×2hの加熱処理を受けた場合でも20nm以下の結晶子径Dxを維持する性質を持つ。
【0021】
格子から出た活性酸素(以下「格子酸素」という)が滞りなくPMに到達するためには、触媒粉体の比表面積が適切であることが必要である。比表面積は細孔径や粒子径に依存しており、比表面積が大きい場合は細孔径が小さい可能性がある。その場合、格子酸素の円滑な通過が妨げられ、PMに格子酸素が迅速に供給されないおそれがある。したがって、触媒活性を高めるためには必ずしも比表面積が大きい方が有利とは言えず、触媒物質の種類に応じて適切な比表面積の範囲が存在する。種々検討の結果、酸化セリウム構造体の一部をCoで置換した複合酸化物においては、BET比表面積が概ね5〜70m2/gの範囲において、PMに対する優れた燃焼活性が得られる。10〜40m2/gの範囲とすることが一層好ましい。
【0022】
本発明の複合酸化物は、例えば、通常の共沈法、有機錯体法、非晶質前駆体を用いた製法などによって製造することができる。以下、各製法について説明する。
〔共沈法〕
共沈法では、複合酸化物を構成する各元素の塩を、Ce、Coあるいはさらに元素Mのモル比が前述のようになる複合酸化物を生成するにふさわしい化学量論比で含む原料塩水溶液を調整し、この水溶液と中和剤を混合して共沈させた後、得られた共沈物を乾燥後、熱処理する。各元素の塩としては特に限定されないが、例えば硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩化物などの無機塩、酢酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩などが使用できる。中でも酢酸塩、硝酸塩が好適に使用できる。原料塩水溶液は、上記の各元素の塩を目的の化学量論比となるように水に加えて、撹拌することにより調製することができる。
【0023】
そして、この原料塩水溶液と中和剤を混合し、共沈させる。中和剤としては特に限定されないが、例えばアンモニア、苛性ソーダ、苛性カリなどの無機塩基、トリエチルアミン、ピリジンなどの有機塩基が使用できる。また中和剤は、その中和剤を加えた後に生成されるスラリーのpHが6〜14となるように混合する。このように混合することにより、結晶性のよい各元素の水酸化物の共沈物を得ることができる。
【0024】
得られた共沈物は必要に応じて水洗され、例えば、真空乾燥や通風乾燥などにより乾燥させた後、例えば500〜1200℃、好ましくは550〜1000℃で熱処理することにより、目的とする組成の複合酸化物を得ることができる。この際、熱処理時の雰囲気は上記複合酸化物が生成される範囲であれば特に制限されず、例えば空気中、窒素中、アルゴン中、水素中およびそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気、好ましくは空気中、窒素中およびそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気が使用できる。
【0025】
〔有機錯体法〕
有機錯体法では、例えばクエン酸、リンゴ酸、エチレンジアミン4酢酸ナトリウムなどの有機錯体を形成する塩と、前述の各元素の塩とを目的の化学量論比となるように水に加えて、攪拌することにより調製することができる。
この原料水溶液を乾固させ、前述の各元素の有機錯体を形成させた後、仮焼成・熱処理することによりCe、Coあるいはさらに元素Mのモル比が前述のようになる組成の複合酸化物を得ることができる。
【0026】
各元素の塩としては、共沈法の場合と同様の塩が使用でき、また原料塩水溶液は各元素の原料塩を目的の化学量論比に混合して水に溶解した後、有機錯体を形成する塩の水溶液と混合することにより、調製することができる。なお、有機錯体を形成する塩の配合比率は得られる複合酸化物1モルに対して1.2〜3モル程度であることが好ましい。
その後、この原料溶液を乾固させて、前述の有機錯体を得る。乾固は有機錯体が分解しない温度であれば特に限定されず、例えば室温〜150℃程度、好ましくは室温〜110℃で、速やかに水分を除去する。これにより前述の有機錯体が得られる。
【0027】
得られた有機錯体は仮焼成後に熱処理される。仮焼成は、例えば真空または不活性ガス雰囲気下において250℃以上で加熱すればよい。その後、例えば500〜1000℃、好ましくは550〜950℃で熱処理することにより、目的とする組成の複合酸化物を得ることができる。この際、熱処理時の雰囲気は上記複合酸化物が生成される範囲であれば特に制限されず、例えば空気中、窒素中、アルゴン中、水素中およびそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気、好ましくは空気中、窒素中およびそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気が使用できる。
【0028】
〔非晶質前駆体を用いた製法〕
非晶質前駆体を用いた製法では、Ce、Coあるいはさらに元素Mのモル比が前述のようになる組成の複合酸化物を生成するにふさわしい化学量論比で前述の各元素を含む、粉状の非晶質からなる前駆体物質を、低温で熱処理することによって得ることができる。
【0029】
このような非晶質の前駆体は、前述の各元素の塩を目的組成の複合酸化物を生成するにふさわしい化学量論比で含む原料塩水溶液を調整し、それと炭酸アルカリまたはアンモニウムイオンを含む炭酸塩などの沈殿剤とを、反応温度60℃以下、pH6以上で反応させて沈殿生成物を作り、その濾過物を乾燥させて得ることができる。
【0030】
より具体的には、まず、各元素の硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の水溶性鉱酸塩を目的とする組成のモル比となるように溶解させた水溶液を用意する。沈殿を生成させる液中の構成元素のイオン濃度は、用いる塩類の溶解度によって上限が決まるが、構成元素の結晶性化合物が析出しない状態が望ましく、通常は、前述の各元素の合計イオン濃度が0.01〜0.60mol/L程度の範囲であるのが望ましいが、場合によっては、0.60mol/Lを超えてもよい。
【0031】
この液から非晶質の沈殿を得るには、炭酸アルカリまたはアンモニウムイオンを含む炭酸塩からなる沈殿剤を用いるのがよく、このような沈殿剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等を使用することができ、必要に応じて、水酸化ナトリウム、アンモニア等の塩基を加えることも可能である。また、水酸化ナトリウム、アンモニア等を用いて沈殿を形成した後、炭酸ガスを吹き込むことによっても本発明の複合酸化物を得るための前駆体物質に適した非晶質を得ることができる。非晶質の沈殿を得る際、液のpHを6〜11の範囲に制御するのがよい。pHが6未満の領域では、希土類元素類が沈殿を形成しない場合があるので不適切である。他方、pHが11を超える領域では、沈殿剤単独の場合には生成する沈殿の非晶質化が十分に進行せずに、水酸化物などの結晶性の沈殿を形成する場合がある。また、反応温度は60℃以下にするのがよい。60℃を超える温度で反応を開始した場合、構成元素の結晶性の化合物粒子が生成する場合があり、前駆体物質の非晶質化を妨げるので好ましくない。
【0032】
得られた非晶質前駆体は必要に応じて水洗され、真空乾燥や通風乾燥などにより乾燥させた後、例えば500〜1000℃、好ましくは500〜800℃で熱処理することにより、目的とする組成の複合酸化物を得ることができる。この際、熱処理時の雰囲気は上記複合酸化物が生成される範囲であれば特に制限されず、例えば空気中、窒素中、アルゴン中、水素中およびそれらに水蒸気を組合わせた雰囲気、好ましくは空気中、窒素中およびそれらに水蒸気を組合わせた雰囲気が使用できる。
【実施例】
【0033】
《触媒物質の作製》
各実施例、比較例の触媒物質を以下のようにして作製した。
〔実施例1〜3〕
硝酸セリウム、硝酸コバルトを、Ce:Coのモル比が表1に示す値になるように混合した。この混合物を、CeおよびCoの液中合計モル濃度が0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液を得た。この溶液を撹拌しながら溶液の温度を15℃に調整し、温度が15℃に達した段階で、沈殿剤として炭酸アンモニウムを添加しながら、pH=8に調整した。得られた沈殿物を濾過して回収した後、水洗し、125℃で乾燥した。得られた粉末を前駆体粉という。
【0034】
次に、この前駆体粉を大気雰囲気下において600℃で2h熱処理して焼成した。得られた粉体を「焼成品」という。焼成品の一部を用い、耐熱性を評価するために、さらに大気雰囲気下において800℃で2h加熱処理を施した。この加熱処理を「耐熱処理」といい、耐熱処理後の粉体を「800℃熱処理品」という。
この耐熱処理は、アルミナ製るつぼ(容量50cc、外径54mm、高さ43mm)に粉体3gを入れ、そのるつぼを炉内温度800℃のマッフル炉に入れて2h保持し、その後炉外の大気中で急冷する方法で行った。
【0035】
〔実施例4〜8〕
硝酸セリウム、硝酸コバルトおよび硝酸ランタンを、Ce:Co:Laのモル比が表1に示す値になるように混合し、Ce、Co、Laの液中合計モル濃度が0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液を得た以外は、実施例1〜3と同様の条件で作製した。
【0036】
〔実施例9〕
硝酸セリウム、硝酸コバルトおよび硝酸ネオジムを、Ce:Co:Ndのモル比が表1に示す値になるように混合し、Ce、CoおよびNdの液中合計モル濃度が0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液を得た以外は、実施例1〜3と同様の条件で作製した。
【0037】
〔実施例10〕
硝酸セリウム、硝酸コバルトおよび硝酸プラセオジムを、Ce:Co:Prのモル比が表1に示す値になるように混合し、Ce、CoおよびPrの液中合計モル濃度が0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液を得た以外は、実施例1〜3と同様の条件で作製した。
【0038】
〔実施例11〕
硝酸セリウム、硝酸コバルトおよび硝酸バリウムを、Ce:Co:Baのモル比が表1に示す値になるように混合し、Ce、CoおよびBaの液中合計モル濃度が0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液を得た以外は、実施例1〜3と同様の条件で作製した。
【0039】
〔実施例12〕
硝酸セリウム、硝酸コバルト、硝酸ランタンおよび硝酸ネオジムを、Ce:Co:La:Ndのモル比が表1に示す値になるように混合し、Ce、Co、La、Ndの液中合計モル濃度が0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液を得た以外は、実施例1〜3と同様の条件で作製した。
【0040】
〔比較例1〕
市販のγアルミナ(比表面積250m2/g)に、ジニトロジアミン白金水溶液を用いてPtを含浸させた後、90℃で12h通風乾燥を行った。Pt固着のために得られた含浸物を大気雰囲気下で500℃×1h熱処理して、Pt担持アルミナを得た。これを大気中600℃×2hまたは大気中800℃×2hの熱処理に供して、試験用の触媒物質とした。600℃で熱処理したものを「焼成品」、800℃で熱処理したものを「800℃熱処理品」と呼ぶ。「800℃熱処理品」は、アルミナ中におけるPt含有量が3.42質量%であった。
【0041】
〔比較例2〕
硝酸コバルトを0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液を得た以外は、実施例1〜3と同様の条件で作製した。
【0042】
〔比較例3〕
硝酸セリウムを0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液を得た以外は、実施例1〜3と同様の条件で作製した。
【0043】
以上のようにして得られた触媒物質を用いて以下の実験を行った。
《X線回折測定》
各実施例で得られた「焼成品」について、X線回折測定を行った。測定条件は以下のとおりである。
・X線回折装置: 株式会社リガク製、RINT−2100
・測定範囲: 2θ=10〜90°
・管球: Co管球
・管電圧: 40kV
・管電流: 30mA
測定の結果、各実施例で得られた触媒物質はいずれもCeO2構造をもつ複合酸化物であることが確かめられた。
図1に実施例1の触媒物質についてのX線回折パターンを例示する。
【0044】
《結晶子径Dxの測定》
各実施例および比較例3で得られた「焼成品」および「800℃熱処理品」について、酸化セリウム構造の(220)面のブラッグ条件を満たす2θの近傍でX線回折測定を行い、結晶子径Dxを測定した。測定条件は以下のとおりである。
・X線回折装置: 株式会社リガク製、RINT−2100
・測定範囲: 2θ=53.5〜58.5°
・サンプリング幅: 0.02°
・計数時間: 5sec
・積算回数: 5回
・管球: Co管球
・管電圧: 40kV
・管電流: 30mA
結晶子径Dxの算出には下記のシェラーの式を用いた。
t=0.9λ/B・cosθ
ただし、t:結晶子径(nm)
λ:CoのKα1の波長(nm)
B:ピークの半価幅(°)
θ:CeO2の(220)面のブラッグ条件を満たす角度(°)
結果を表1に示す。
【0045】
《BET比表面積の測定》
各実施例、比較例で得られた「焼成品」および「800℃熱処理品」について、メノウ乳鉢で解粒し、粉末とした後、BET法により比表面積を求めた。測定はユアサイオニクス製の4ソーブUSを用いて行った。
結果を表1に示す。
【0046】
《粉体試料によるPM燃焼開始温度評価》
各実施例、比較例で得られた「焼成品」および「800℃熱処理品」について、カーボンブラックとの混合粉を作り、カーボンブラック燃焼開始温度を求めることによってPM燃焼開始温度を評価した。具体的には以下のようにした。
【0047】
模擬PMとして市販のカーボンブラック(三菱化学製、平均粒径2.09μm)を用い、触媒物質の粉体とカーボンブラックの質量比が6:1になるように秤量し、自動乳鉢機(石川工場製AGA型)で20分混合し、カーボンブラックと各粉体の混合粉体を得た。この混合粉体について熱重量測定(TG)を行い、カーボンブラックの燃焼に伴う重量減少からカーボンブラックの燃焼温度を求めた。評価方法はTG/DTA装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6300型)を用い、混合粉体20mgを昇温速度10℃/minにて常温から700℃まで大気中で昇温し、重量測定を行った。図1に、重量変化曲線(TG曲線)を模式的に示す。カーボンブラック燃焼開始温度は、TG曲線において、重量減少が始まる前の接線と、重量減少率(傾き)が最大となる点での接線とが交わる点の温度とした(図2参照)。
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示した実験結果から、各実施例の触媒物質は、Pt触媒(比較例1)や、酸化コバルト(比較例2)と比較してカーボンブラック燃焼開始温度を大幅に低下させていることがわかる。なお、酸化セリウム(比較例3)は、この実験におけるカーボンブラック燃焼開始温度については比較的良好であったが、後述の粒状試料による評価が劣る。
【0050】
前述のように、CeとCoの複合酸化物では、酸化セリウム構造体のセリウム原子の一部をコバルト原子で置換することにより、セリウムを主とする複合酸化物の陽イオンの見かけ上の価数変化が起こり、またはイオン半径が異なる元素置換による格子の歪みが起こることにより、格子中の酸素が格子外に放出されやすくなり、この酸素の酸化力によりPM燃焼に対する触媒活性が向上するものと考えられる。BET比表面積が例えば70m2/gを超えるものや、結晶子径Dxが20nmを超えるものでは、各実施例で得られた触媒物質のようなPM燃焼開始温度の顕著な低下は期待できない。
【0051】
また、元素Mを添加した実施例4〜12の触媒物質は、元素Mを添加していない実施例1〜3の触媒物質と同様、優れた耐熱性を有する。表1中には「800℃熱処理品」と「焼成品」のカーボンブラック燃焼開始温度の差ΔTを表示してあるが、元素Mを添加することによりΔTは小さくなる傾向が見られ、元素Mは耐熱性の向上に寄与すると考えられる。
【0052】
《粒状試料によるPM燃焼開始温度評価》
実施例2、実施例4および比較例3で得られた「焼成品」を、それぞれ金型プレスにより100kg/cm2で圧縮成形した後、粉砕して、粒子径0.5〜1.0mmの粒状試料を作製した。この粒状試料にカーボンブラックを5質量%となるように添加し、ガラス瓶中で回転することによりこれらを混合した。
【0053】
カーボンブラックを混合した上記粒状試料を流通式固定床に充填した状態にし、「500ppmNO+10%O2+残部N2」の模擬ディーゼルエンジン排ガスを空間速度SV75000/hで流通し、昇温速度10℃/minで常温から800℃まで昇温しながら、流通式固定床から排出されるCO2、NOおよびNO2濃度を連続的に測定した。測定にはNICOLET製Nicolet4700FT−IRを用いた。
図3に、実施例4について、排出されるCO2、NOおよびNO2濃度の変化を表す曲線を例示する。流通式固定床から排出されたCO2の総発生量に対して、CO2の合計排出量が10%となる時点の温度をここでのカーボンブラック燃焼開始温度T10として求めた。
結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2からわかるように、実施例2および実施例4の複合酸化物は、CO2排出量から見たカーボンブラック燃焼開始温度T10が低く、高い活性を示した。この場合もTG曲線による前述の評価と同様、複合酸化物の見かけ上の陽イオンの価数変化、またはイオン半径が異なる元素置換による格子の歪みが起こったため、格子中の酸素が格子外に放出されやすくなり、この酸素の酸化力によりカーボンブラックの燃焼が低温域から起こったものと考えられる。
【0056】
また、図3に見られるように、上記の製法によって得られた、酸化セリウム構造の一部をCoで置換した複合酸化物は、200〜500℃の温度域において模擬ディーゼル排ガス中のNOをNO2に変換することができる構造を有しており、NO2の酸化力を利用してカーボンブラックの燃焼が生じるものと考えられる。このタイプの複合酸化物により生成したNO2はカーボンブラックの燃焼によりNOとなるため、500℃以上の温度においてNO2の排出量は非常に低くなる。
Coを含まない酸化セリウム(比較例3)では200〜500℃の温度域におけるNO→NO2の変換が十分に起こらないことが考えられ、結果的にCO2排出量から見たカーボンブラック燃焼開始温度T10は実施例のものより高かった。本発明に従う実施例のものでは雰囲気によらず高い活性が得られ、それに加えて排ガス中のNOをカーボンブラックの燃焼に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1で得られた複合酸化物(耐熱処理前)についてのX線回折パターン。
【図2】TG曲線を模式的に示した図。
【図3】実施例4の触媒物質について、模擬ディーゼル排ガスを用いたカーボンブラック燃焼試験における排出CO2、NOおよびNO2濃度の変化を例示したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CeおよびCoと、酸素で構成され、CeおよびCoのモル比が下記[a]を満たすPM燃焼触媒用複合酸化物。
[a]CeおよびCoのモル比を、Ce:Co=(1−x):xとするとき、0<x≦0.5が成立する。
【請求項2】
Ce、Coおよび1種以上の下記元素Mと、酸素で構成され、Ce、Coおよび元素Mのモル比が下記[b]を満たすPM燃焼触媒用複合酸化物。
[b]Ce、Coおよび元素Mのモル比を、Ce:Co:M=(1−x−y):x:yとするとき、0<x≦0.5、0<y≦0.4、x+y<1が成立する。
ただし元素Mは、Ce以外の希土類元素(Yも希土類元素として扱う)およびアルカリ土類金属元素からなる元素群から選ばれる元素である。
【請求項3】
前記元素Mは、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、BaおよびSrからなる元素群から選ばれる元素である請求項2に記載のPM燃焼触媒用複合酸化物。
【請求項4】
酸化セリウム構造における結晶子径Dxが20nm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のPM燃焼触媒用複合酸化物。
【請求項5】
大気中800℃×2hの加熱処理に供した後に、酸化セリウム構造における結晶子径Dxが20nm以下を維持する性質を有する請求項1〜3のいずれかに記載のPM燃焼触媒用複合酸化物。
【請求項6】
BET比表面積が5〜70m2/gである請求項1〜5のいずれかに記載のPM燃焼触媒用複合酸化物。
【請求項7】
200〜500℃の温度域で雰囲気ガス中のNOをNO2に変換することができる性質を有する請求項1〜6のいずれかに記載のPM燃焼触媒用複合酸化物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の複合酸化物を触媒物質として用いたPM燃焼触媒。
【請求項9】
請求項8に記載の触媒を用いたディーゼル排ガス浄化用フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−229619(P2007−229619A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54383(P2006−54383)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】