説明

PM発生方法

【課題】排気ガス浄化装置へ供給する評価用の排気ガスであって、PMが所望の(特定の)粒径分布を有するものを、安定して製造し供給するために好適な手段を提供すること。
【解決手段】空気の中に、軽油(燃料)を、空気過剰率λを特定して、間欠で噴射し、750℃以上、1050℃以下、の温度で燃焼させ、ガスの中に、特定の粒径分布からなるパティキュレートマター(PM)を発生させるPM発生方法の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DPFや触媒等を備えた排気ガス浄化装置を評価するために、ガス中にパティキュレートマター(PM)を発生させるPM発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の内燃機関等から排出される排気ガス中の微粒子や有害物質は、人体、環境への影響が大きく、これらの大気への放出を防止する必要性が高まっている。特にディーゼルエンジンから排出される粒子状物質(Particulate Matter(PM))や窒素酸化物(NO)等は影響が甚大であり、それらにかかる規制は世界的に強化されている。
【0003】
このような状況の下、PMを除去するためのフィルタ(Diesel Particulate Filter(DPF))やNOを窒素と水に還元するため等に有用な触媒を備えた排気ガス浄化装置の研究・開発が進められ、現在では、高性能な浄化装置が市場に提供されるようになっている。
【0004】
ところが、その排気ガス浄化装置を試験し、その性能や耐久性を、正確に高い精度で評価する手段は提案されていない、というのが現状である。又、このような技術に関連する先行文献も多くはない。
【0005】
このような現状を打破すべく、先に、本願出願人は、特許文献1,2にかかる技術を開発し、これを開示している。これらにより、排気ガス浄化装置を評価するために、実際のディーゼルエンジン等から排出される排気ガスを十分に模擬した排気ガスを、安定的に供給することが可能になっている。尚、他の先行技術文献として、特許文献3を挙げることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−155712号公報
【特許文献2】特開2007−155708号公報
【特許文献3】特開2005−214742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、実際の排気ガスには、それを排出するディーゼルエンジン等の条件によって、PMが特有な粒径分布を形成するものがある。そのため、あるディーゼルエンジンの排気ガスに対する排気ガス浄化装置の性能や耐久性を試験し、正確に高い精度で評価するために、PMが所望の粒径分布を有する排気ガスを供給することが必要な場合がある。本願出願人の開示した特許文献1,2や上記特許文献3に係る技術は、このような要望に応えられているとはいえない。
【0008】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、排気ガス浄化装置へ供給する評価用の排気ガスであって、PMが所望の(特定の)粒径分布を有するものを、安定して製造し供給するために好適な手段を提供することである。研究が重ねられた結果、以下に示す手段により、上記課題を解決し得ることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、先ず、本発明によれば、燃焼用空気の中に、軽油(燃料)を、空気過剰率λを特定して、間欠で噴射し、750℃以上、1050℃以下、の温度で燃焼させ、ガスの中に、特定の粒径分布からなるパティキュレートマター(PM)を発生させるPM発生方法が提供される(第1のPM発生方法という)。
【0010】
又、本発明によれば、燃焼用空気の中に、軽油(燃料)を噴射し、燃焼させて、ガスの中にパティキュレートマター(PM)を発生させる方法であって、噴射を、間欠で行い、燃焼させる温度を、750℃以上、1050℃以下、とし、空気過剰率λを変更することにより、ガスの中に発生するパティキュレートマター(PM)の粒径分布を変更するPM発生方法が提供される(第2のPM発生方法という)。
【0011】
本発明に係るPM発生方法においては、空気過剰率λが、0.7以上、1.1以下、であり、パティキュレートマター(PM)の粒径分布におけるピーク値が、80μm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明に係るPM発生方法においては、軽油は、日本国内で市販されているものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るPM発生方法によれば、空気過剰率λを変更することにより、ガスの中に発生するパティキュレートマター(PM)の粒径分布を変更することが出来、空気過剰率λを特定することによって、ガスの中に特定の粒径分布からなるパティキュレートマター(PM)を発生させることが可能である。よって、排出するディーゼルエンジン等の条件によって、特有な粒径分布を形成することがあるという現実に対応することが出来、ディーゼルエンジンの排気ガスに対する排気ガス浄化装置の性能や耐久性を試験し、正確に高い精度で評価することが可能である。
【0014】
例えば、実際のディーゼルエンジンから排出される排気ガス中のPMの粒径分布は、そのピーク値が80μm以上100μm以下である場合が多いが、このようなPMを含む排気ガスは、空気過剰率λを0.7以上1.1以下にすることで得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るPM発生方法の実施に好適な装置の形態を示す上面図である。
【図2】図1に示される装置の側面図である。
【図3】図1におけるPP断面を示す断面図である。
【図4】図2におけるQQ断面を示す断面図である。
【図5】図1に示される装置の内部を分解して表す斜視図である。
【図6】図4と同じ断面を示す図であり、筐体部を拡大し軽油噴射手段を簡略化して描いた断面図である。
【図7】本発明に係るPM発生方法の効果を表す図であり、本発明に係るPM発生方法で発生させた(PM含有ガス中の)PMの粒径分布(左側の縦軸)と、実際のエンジン(6.6リッターディーゼルエンジン)から排出された排気ガス中のPMの粒径分布(右側の縦軸)と、を表すグラフである。
【図8】実施例の結果を示す図であり、PM含有ガス中のPMの粒径分布を示すグラフである。
【図9】フィルタ評価装置を模式的に現す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明に係る要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明に係る実施形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0017】
本発明に係るPM発生方法は、燃焼用空気の中に、軽油(燃料)を、空気過剰率λを特定して、間欠で噴射し、750℃以上、1050℃以下、の温度で燃焼させ、ガスの中に、特定の粒径分布からなるパティキュレートマター(PM)を発生させるPM発生方法(第1のPM発生方法という)と、燃焼用空気の中に、軽油(燃料)を噴射し、燃焼させて、ガスの中にパティキュレートマター(PM)を発生させる方法であって、噴射を、間欠で行い、燃焼させる温度を、750℃以上、1050℃以下、とし、空気過剰率λを変更することにより、ガスの中に発生するパティキュレートマター(PM)の粒径分布を変更するPM発生方法(第2のPM発生方法という)で構成される。本明細書において、単に、本発明に係るPM発生方法というとき、第1のPM発生方法と第2のPM発生方法の両方を指すものとする。
【0018】
本発明に係るPM発生方法は、ガスの中にPMを発生させる方法であり、換言すれば、本発明に係るPM発生方法は、PMを発生させたガス(PM含有ガス)を製造し供給する方法ということが出来る。
【0019】
本発明は、排気ガス浄化装置へ供給する評価用の排気ガスであって、PMが所望の(特定の)粒径分布を有するものを、安定して製造し供給するために、研究が重ねられた結果、空気過剰率λを変化させると、ガスの中に発生するパティキュレートマター(PM)の粒径分布が変化することを見出して、完成したものである。この観点から、実質的には、第1のPM発生方法と第2のPM発生方法は、同一の発明ということが出来る。即ち、空気過剰率λを特定すれば、ガスの中に発生するパティキュレートマター(PM)は特定の粒径分布を形成するし(第1のPM発生方法)、空気過剰率λを変更すれば、ガスの中に発生するパティキュレートマター(PM)の粒径分布も変更される。
【0020】
図7に示されるように、本発明に係るPM発生方法で発生させたPMの粒径分布(左側の縦軸)と、実際のエンジン(6.6リッターディーゼルエンジン、3000rpm、80Nm)から排出された排気ガス中のPMの粒径分布(右側の縦軸)と、は概ね同じ粒径分布を表す。換言すれば、本発明に係るPM発生方法は、実際のエンジンから排出される排気ガス中のPMと略同じ粒径分布を有するPMを発生させることが出来るものである。尚、図7において、SGはSootGenerater(スート(PM)発生手段)を意味し、E/GはEngine(エンジン)を意味する。PMは、有機溶媒可溶成分とスート(Soot)とサルフェートの3成分として検出されるものであり、通常、スートが主な成分である。図7のデータは、TSI社製のパーティクルカウンタ3022とアナライザ3096によって測定されたものである。
【0021】
ラムダ(λ)は、本明細書において、空気過剰率と表現される。これは、実際の空燃比が理論値から、どれだけ離れているかを示す割合であり、λ=(供給される(燃焼用)空気の量)/(理論的に必要な(燃焼用)空気の量)で求められる。λ<1であれば、(既述のように本明細書において空気過剰率λと呼ぶが、)空気不足であり、濃厚な混合気である。一方、λ>1であれば、空気過剰であり、希薄な混合気である。
【0022】
本発明に係るPM発生方法において特定される燃料は軽油であるが、噴射を間欠で行うことが出来れば、液体及び気体のうちの何れか又は両方の燃料、例えば、重油、プロパン等であっても、本発明と同様の効果を得ることが出来るものと推定される。但し、重油の場合、粘性が大きく噴射し難いので、使用する装置に留意する必要がある。又、燃焼させる温度は、使用する燃料に合わせて調節する必要がある。
【0023】
特許文献2に開示されたPM発生装置は、本発明に係るPM発生方法を実施するのに好適な装置である。そこで、以下、本発明に係るPM発生方法の実施において、好適に使用することが出来るPM発生装置について説明する。
【0024】
図1〜図6は、PM発生装置の一例を示す図である。図1は上面図であり、図2は側面図であり、図3は図1におけるPP断面を示す図であり、図4は図2におけるQQ断面を示す図である。又、図5は内部を分解して表す斜視図であり、図6は、軽油及び燃焼用空気の流れを説明するために図4において筐体部を拡大し軽油噴射手段を簡略化して描いた図である。
【0025】
図1〜図6に示されるPM発生装置10は、軽油131を間欠で噴射する軽油噴射手段3と燃焼を生じる燃焼室1とを具備する装置である。PM発生装置10は、燃焼用空気132を、空気入口113から燃焼室1へ、連続して供給するとともに、軽油131を、軽油噴射手段3によって、間欠で燃焼室1へ噴射することにより、軽油の混合気を生成し、この軽油の混合気が、燃焼室1において、燃焼用空気と接する側(外側)から燃焼するため、燃焼用空気と接しない側(内側)の軽油が燃焼用空気と遮断され、燃焼の熱によって蒸し焼き状態となり、排気ガスの中にPMが発生する装置である。即ち、PM発生装置10は、PMを発生させたガス(PM含有ガス133)を製造することが可能な装置である。
【0026】
PM発生装置10の軽油噴射手段3は、自らが噴射する軽油131の噴射方向(図6を参照)が、円筒状の外筒部6の中心軸方向(図5において横方向)に対し概ね直角であり、且つ、外筒部6の中心軸方向に垂直な断面(円形又は円輪形)の接線方向に傾くように、筐体部5に設けられる(図4及び図6を参照)。軽油噴射手段3としては、例えば、筐体部5と外筒部6との間の空間101に、軽油131を間欠で噴射することが可能な電磁式インジェクタが採用される。
【0027】
PM発生装置10の燃焼室1は、分割面53で2つに分割し内部を開くことが可能な筐体部5と、その筐体部5の円筒状部分5aの中に収められた外筒部6、内筒部7、及び外筒部6を保持するリング4を有する。外筒部6は円筒状を呈し、筐体部5の円筒状部分5aの中に、その筐体部5の円筒状部分5aと同軸になるように組み込まれ、更に、円筒状の内筒部7が、外筒部6の中に、外筒部6と中心軸方向を同じくし且つ偏心して(図3及び図4を参照)、組み込まれている。又、燃焼室1の筐体部5には、温度測定器23が取り付けられ、燃焼室1の壁内温度を測定可能となっている。温度測定器23の先端は前板部8には接していない。温度測定器23として好ましいものは熱電対である。
【0028】
PM発生装置10の燃焼室1では、円筒状の外筒部6は、燃焼用空気が供給される空気入口113と連通しており、円筒状の内筒部7は、空気入口113と直接連通しておらず、パイロットバーナ2に通じる火炎入口51と連通している(図3を参照)。外筒部6、前板部8、及び後板部9の中心軸方向の長さは、筐体部5の円筒状部分5aの内側における中心軸方向の長さD(図3を参照)に対し、98%の大きさである。換言すれば、外筒部6、前板部8、及び後板部9の中心軸方向の長さと、筐体部5の円筒状部分5aの軸方向の長さDと、の比が98:100になっている。
【0029】
筐体部5には、パイロットバーナ2に通じる火炎入口51及びPMを発生させたガスを送出するガス出口52が形成され、前板部8は、ガス出口52に通じる開口81を備え、筐体部5の円筒状部分5aの中に組み込まれてガス出口52側の端面を構成し、後板部9は、火炎入口51に通じる開口91を備え、筐体部5の円筒状部分5aの中に組み込まれて火炎入口51側の端面を構成する。ガス出口52の径Cは、外筒部6の内径Aに対し、25%の大きさである(図3を参照)。換言すれば、ガス出口52の径Cと、外筒部6の内径Aと、の比C:Aは、25:100になっている。燃焼室1では、前板部8と外筒部6とは一体化していないが、後板部9と内筒部7とは一体化している。又、リング4と筐体部5の間にはガスケット301が挿入され、後板部9と筐体部5の間には図示しない非膨張セラミックス繊維性マットが挿入されている。
【0030】
燃焼室1において、外筒部6は、その周面に貫通孔61を備えている。貫通孔61は、円筒状の外筒部6の中心軸方向(図5において横方向)に3つの層を形成するように設けられ、各層毎に、円筒状の外筒部6の中心軸方向に垂直な断面の周上に、均等間隔で(中心角が90°になるように)4つ配設されている。即ち、外筒部6には、合計で(3×4=)12の貫通孔61が備わっている。外筒部6の貫通孔61は、全て、外筒部6の中心軸方向に垂直な断面(円形又は円輪形)の接線方向(外筒部の周面の方向)に傾いて形成されており(図4を参照)、貫通孔61が傾く結果、外筒部6の表面には楕円形の開口が形成される(図5を参照)。貫通孔61の径Bは、外筒部6の内径Aに対して7%の大きさである(図4を参照)。換言すれば、貫通孔61の径Bと、外筒部6の内径Aと、の比B:Aは7:100になっている。尚、貫通孔61の径Bは、図4に示されるように、外筒部6の表面の楕円形の開口で定められるのではなく、貫通孔61自体の中心軸方向に垂直な断面の直径として求められる。
【0031】
一方、内筒部7は、その周面に貫通孔71を備えている。貫通孔71は、円筒状の内筒部7の中心軸方向(図5において横方向)に2つの層を形成するように設けられ、各層毎に、円筒状の内筒部7の中心軸方向に垂直な断面の周上に、均等間隔で(中心角が90°になるように)4つ配設されている。即ち、内筒部7には、合計で(2×4=)8の貫通孔71が備わっている。内筒部7の貫通孔71は、全て、傾いて形成されておらず、内筒部7の中心軸方向に垂直な断面(円形又は円輪形)の法線方向(周面から中心軸へ向けた方向)に向けて形成され(図4を参照)、その結果、内筒部7の表面には円形の開口が形成される(図5を参照)。
【0032】
PM発生装置10において、外筒部6は、燃焼用空気が供給される空気入口113と連通しており、円筒状の内筒部7は空気入口113とは、直接、連通しておらず、パイロットバーナ2(に通じる火炎入口51)と連通している(図3を参照)。軽油噴射手段3によって筐体部5と外筒部6との間の空間101に噴射された軽油131は、気化し、外筒部6の貫通孔61を介して外筒部6と内筒部7との間の空間102へ導入され、燃焼する。このとき、軽油噴射手段3は、軽油131の噴射方向が既述の如く傾くように、筐体部5に設けられるから、軽油噴射手段3によって筐体部5と外筒部6との間の空間101へ噴射された軽油は、外筒部6の周面を廻りながら、外筒部6の貫通孔61を介して、外筒部6と内筒部7との間の空間102へ導入される(図6を参照)。
【0033】
空気入口113から筐体部5と外筒部6との間の空間101に連続供給された燃焼用空気132は、外筒部6の周面を廻りながら、外筒部6の貫通孔61を介して、外筒部6と内筒部7との間の空間102へ導入される(図6を参照)。そして、筐体部5と外筒部6との間の空間101に、間欠で噴射された軽油131は、外筒部6の周面を廻りながら、外筒部6の貫通孔61を介して、外筒部6と内筒部7との間の空間102へ導入され、燃焼用空気132と接する側(外側)が燃焼し、接しない側(内側)の軽油は、空気と遮断され、燃焼の熱によって蒸し焼き状態となり、PMが発生し、PM含有ガス133となって、ガス出口52から、排気ガス浄化装置等へ供給される。PM発生装置10は、外筒部6、内筒部7、前板部8、後板部9は全て、インコネル材料で形成されたものであり、上記PMを発生させる不完全な燃焼は、全てインコネル材料からなる部材で囲われた空間で生じる。空気入口113は、軽油噴射手段3の近傍に設けられており、装置のコンパクト化、メンテナンス性向上の観点から都合がよい構造になっている。
【0034】
PM発生装置10は、外筒部6、内筒部7、前板部8、後板部9を全て、インコネル材料で形成する代わりに、セラミック材料(窒化珪素)で形成されたものとすることも出来る。このようにセラミック材料(窒化珪素)で形成すると、PM発生装置10の耐久性能が向上する。更に、セラミック材料は、金属材料に比べて熱変形が生じ難いため、熱変形に起因するPM発生量の低下を防止することが出来るという利点がある。
【0035】
ここで、図6に示された座標軸を用いて、PM発生装置10における軽油噴射手段3及び貫通孔61の位置、並びに外筒部6の中心軸に対し内筒部7の中心軸がずれる方向について説明する。図6における座標軸は、筐体部5の円筒状部分の中心軸方向に垂直な断面に、その中心軸を通り相互に直角をなすように設定されたX軸及びY軸からなるものである。
【0036】
PM発生装置10では、座標軸上において、筐体部5の円筒状部分の内壁がY=+100に位置するとき、それに対し、軽油噴射手段3は、Y=+60の位置に、且つ、軽油の噴射方向がX軸に平行になるように、筐体部5に設けられている。外筒部6の貫通孔61のうちの1つである貫通孔61aの設けられる位置は、Y=+70の位置である。そして、既述のように外筒部6と内筒部7とは偏心しているが、それは内筒部7の中心軸が外筒部6の中心軸より−Y側にずれることによって実現されている。即ち、座標軸上で、軽油噴射手段3は+Y側に設けられ、それとは反対の−Y側で、外筒部6と内筒部7とが偏心している。又、PM発生装置10では、外筒部6の貫通孔61のうちの1つである貫通孔61aと座標軸の原点Oと軽油噴射手段3とが形成する角度θは、27°になっている。
【0037】
図9に示されるフィルタ評価装置は、上記したPM発生装置10(図9では模式的に描かれている)と、収納室と、を具備し、それらが配管で接続されているものである。このフィルタ評価装置は、排気ガス浄化装置の主たる構成要素であるフィルタ(DPF)が収納される収納室に、本発明に係るPM発生方法で製造したPM含有ガスを供給して、DPF(フィルタ)を試験し、その性能や耐久性を正確に高い精度で評価し得る装置である。
【0038】
PM発生装置10の(PM含有ガスの)出口側(図9におけるPM発生装置10の左側)には、二次空気が流量調整弁を介して供給されており、その二次空気でPM含有ガスを任意の比率に希釈することが可能である。又、PM発生装置10へ送られる燃焼用空気132の流量を制御する流量調整弁が備わるとともに、軽油131の流量を測定する流量計が設けられている。
【0039】
収納室は、DPF(フィルタ)を収納する空間を有するものであり、DPFの入口側(図9における収納室の右側)に温度測定器として熱電対を備えている。又、DPFの入口と出口のPM含有ガスを採取するために、プローブ及びそれに続く試料採取管が設けられ、それぞれにマスフローが設けられている。図示しない吸引ポンプによりプローブからPM含有ガスを吸引することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)図1〜図6に示されるPM発生装置10を含む、図9に示されるフィルタ評価装置使用し、軽油として国内市販の軽油(JIS規格2号、硫黄成分10ppm以下のもの)を用い、PM発生装置10に備わる軽油噴射手段3による軽油の噴射圧力、開弁時間(軽油の噴射時間)、開弁周期(軽油の噴射周期)、デューティー比(Duty比)、空気過剰率λを、表1に示すように設定して、PM含有ガスを製造した。その際、予め、PM発生装置10の燃焼室1の壁内温度を、プロパンガス燃料と燃焼用空気で燃焼させて、350〜400℃に昇温し、その温度になった燃焼室1において、上記軽油を軽油噴射手段3(電磁インジェクタ)を用いて噴射し、燃焼させ、更に、750℃以上まで昇温することによって、PM含有ガスを製造し、そして、DPF(フィルタ)へ供給した。その後、収納室(DPF)の入口側から、プローブを通じて、PM含有ガスを吸引し、PMの粒径分布を測定した。結果を、軽油使用量とともに、表1及び図8に示す。
【0042】
尚、この実施例1(表1を参照)では、開弁周期を固定にしたが、開弁周期を固定せずに開弁時間で空気過剰率λを調整することも出来、そうしても、同じようなPM含有ガスが得られる。但し、開弁時間による空気過剰率λへの調整量は小さく、開弁時間を調整する方が容易である。
【0043】
[粒径分布]PM含有ガスを吸引し、TSI社製の走査式モビリティーパーティクルサイザー(型番DMA−3081)を用いて、粒径毎のPMの個数を求めた。
【0044】
[空気過剰率λ]燃焼室に供給される軽油の量と燃焼用空気の1分間における流量から算出した。
【0045】
[デューティー比]開弁時間と開弁周期との比であり、開弁時間/開弁周期で表される。弁の開くと軽油が噴射され、弁の閉じると軽油の噴射が停止される(噴射されない)。
【0046】
(実施例2〜6)開弁時間及び開弁周期(デューティー比)、空気過剰率λを変更し、実施例1と同様にして、PM含有ガスを製造した。そして、そのPM含有ガスを吸引して、粒径分布を測定した。結果を、軽油使用量とともに、表1及び図8に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(考察)表1及び図8に示される結果より、空気過剰率λを変更することにより、ガスの中に発生するPMの粒径分布を変更することが出来ることがわかる。又、空気過剰率λを特定することによって、ガスの中に特定のピークを有する粒径分布のPMを発生させることが可能なことがわかる。
【0049】
尚、軽油として国内市販ではないものを用いた場合は、上記実施例1〜6と同一の条件であっても、得られる結果は異なることが、確認されている。例えば、米国市販の軽油を使用すると、同じ空気過剰率λ=0.90の条件でも、(図8に示される結果と対比して理解されるように)粒径のピーク値は低くなり、40〜60nmとなる。但し、空気過剰率λを変動させれば粒径分布が変化することに、変わりはない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るPM発生方法は、排気ガス中の微粒子を除去するフィルタや、排気ガス中の有害物質を分解するための触媒を備えた排気ガス浄化装置の、性能や耐久性の評価を行うために、好適に利用される。
【符号の説明】
【0051】
1:燃焼室、2:パイロットバーナ、3:軽油噴射手段、5:筐体部、5a:(筐体部の)円筒状部分、6:外筒部、7:内筒部、8前板部、9:後板部、10:PM発生装置、11:火炎検知器、23:温度測定器、51:火炎入口、52:(PMを発生させた)ガス出口、53:分割面、61,61a:貫通孔、71:貫通孔、113:空気入口、132:燃焼用空気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼用空気の中に、軽油を、空気過剰率λを特定して、間欠で噴射し、750℃以上、1050℃以下、の温度で燃焼させ、ガスの中に、特定の粒径分布からなるパティキュレートマター(PM)を発生させるPM発生方法。
【請求項2】
燃焼用空気の中に、軽油を噴射し、燃焼させて、ガスの中にパティキュレートマター(PM)を発生させる方法であって、
前記噴射を、間欠で行い、
前記燃焼させる温度を、750℃以上、1050℃以下、とし、
空気過剰率λを変更することにより、前記ガスの中に発生するパティキュレートマター(PM)の粒径分布を変更するPM発生方法。
【請求項3】
前記空気過剰率λが、0.7以上、1.1以下、であり、
前記パティキュレートマター(PM)の粒径分布におけるピーク値が、80μm以上、100μm以下である請求項1又は2に記載のPM発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−223877(P2010−223877A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73887(P2009−73887)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】