説明

PM量検出システム

【課題】本発明は、内燃機関の排気中に含まれるPM量をより正確に検出することができるPM量検出システムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係わるPM量検出システムは、上記した課題を解決するために、排気の流れ方向に配列された一対の電極と、それら電極間に介装された固体電解質と、を含む多孔質の構造体を内燃機関の排気通路に配置し、前記電極間に生じる電位差をパラメータとして排気中のPM量を特定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された内燃機関の排気通路に設けられ、排気中に含まれる粒子状物質(PM)の量を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
排気中に含まれる粒子状物質(PM)の量を検出する方法としては、酸化触媒と、酸化触媒を加熱するヒータと、酸化触媒の温度を検出する温度センサと、を備えた検出装置を用いる方法が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−261322号公報
【特許文献2】特開2009−019557号公報
【特許文献3】特開2008−119618号公報
【特許文献4】特開2005−256717号公報
【特許文献5】特開平11−218516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来の技術は、酸化触媒に捕集または堆積されたPMが酸化する際に発生する熱量をパラメータとして、酸化触媒に捕集または堆積されたPM量を特定しようとする技術である。
【0005】
しかしながら、近年の排気浄化技術の進歩により、内燃機関から排出されるPMの小径化が進んでいる。特に、上記した検出装置がパティキュレートフィルタより下流の排気通路に配置される場合は、該パティキュレートフィルタから漏洩するPMの粒子径はさらに小さいものとなっている。
【0006】
よって、酸化触媒が排気中のPMを捕集または堆積しきれない可能性がある。そのような場合は、排気中に含まれるPM量と酸化触媒に捕集または堆積されるPM量との相関が低くなるため、PM量の検出精度が低下する。
【0007】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の排気中に含まれるPM量をより正確に検出することができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するために、排気の流れ方向に配列された一対の電極と、それら電極間に介装された固体電解質と、を含む多孔質の構造体を内燃機関の排気通路に配置し、前記電極間に生じる電位差をパラメータとして排気中のPM量を特定するようにした。
【0009】
詳細には、本発明に係わるPM量検出システムは、
内燃機関の排気通路に設けられた多孔質の第1電極と、
前記第1電極より下流の排気通路に設けられた多孔質の第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極の間に介装された多孔質の固体電解質と、
前記第1電極と前記第2電極の電位差を測定する測定部と、
前記測定部により測定された電位差をパラメータにして排気中のPM量を特定する特定
部と、
を備えるようにした。
【0010】
排気中に含まれるPMは、構造体の細孔によって捕集される。その際、排気中のPMは、構造体における排気流れ方向の上流側の部位(第1電極およびその周辺の固体電解質)に捕集される。そのため、第1電極の少なくとも一部は、PMによって覆われるようになる。その結果、第1電極と第2電極との間に酸素分圧の差が生じる。上記した酸素分圧の差は、第1電極を覆うPM量が多くなるほど(第1電極のうち、PMによって覆われていない部位が少なくなるほど)大きくなる。
【0011】
ここで、第1電極と第2電極との間に酸素分圧の差が生じた場合は、酸素分圧の差に応じた分極が生じるため、第1電極と第2電極との間に電位差が発生する。よって、電極間の電位差を測定することにより、構造体に捕集されたPM量を求めることができる。
【0012】
なお、本発明に係わる構造体は多孔質の固体電解質および電極によって形成されるため、排気中の小径なPMも構造体に捕集されることになる。その結果、排気中に含まれるPM量と構造体に捕集されるPM量との相関が強くなる。よって、排気中に含まれるPM量が多くなるほど、構造体に捕集されるPM量が多くなる。言い換えると、排気中に含まれるPM量が多くなるほど、電極間の酸素分圧の差(電位差)が大きくなる。
【0013】
その際、電極間の電位差と排気中のPM量との関係(たとえば、電位差をPM量に換算する関数式、または電位差の絶対量とPM量の絶対量との関係を示すマップなど)を予め実験などを利用した適合作業によって求めておくことにより、電極間の電位差から排気中のPM量を特定することが可能になる。
【0014】
従って、本発明に係わるPM量検出システムによれば、排気中に含まれるPMの量をより正確に特定することが可能になる。なお、固体電解質は活性温度以上であるときに電解質としての機能が活性する。そのため、内燃機関が冷間始動された直後や排気温度が低くなる運転状態(たとえば、減速運転状態やアイドル運転状態など)が継続された場合は、固体電解質の温度が活性温度より低くなる可能性がある。そこで、本発明に係るPM量検出システムは、固体電解質を活性温度以上に保つ温度調整部を備えるようにしてもよい。
【0015】
ところで、構造体のPM捕集量が増加していくと、第1電極の露出部位(PMによって覆われていない部位、または排気と接触可能な部位)が減少し、それに応じて第1電極およびその周辺の酸素分圧が低下していくことになる。しかしながら、PM捕集量が一定量を超えると、酸素分圧がそれ以上低下しなくなる。その結果、構造体のPM捕集量が一定量(たとえば、第1電極の全域がPMによって覆われるときのPM捕集量)を超えた後は、電極間の電位差と構造体のPM捕集量とが相関しなくなる。よって、構造体のPM捕集量を一定量未満に抑える必要がある。
【0016】
これに対し、本発明のPM量検出システムは、構造体のPM捕集量が上限量に達したときに、第1電極を昇温させる温度調整部を備えるようにしてもよい。ここでいう上限量は、前記した一定量から所定のマージンを差し引いた量である。なお、上記した一定量は、構造体の形状・大きさ、或いは内燃機関の仕様などによって異なるため、予め実験的に求めておくことが望ましい。
【0017】
構造体のPM捕集量が上限量に達したときに第1電極が昇温させられると、第1電極およびその周辺の固体電解質に捕集されているPMが酸化および除去される。その結果、構造体のPM捕集量を前記一定量以下に抑えることができる。
【0018】
構造体のPM捕集量が上限量に達したか否かを判別する方法としては、電極間の電位差が上限値に達したか否かを判別する方法を利用することができる。上限値は、PM捕集量が上限量に達したときの電位差に相当する値である。
【0019】
構造体のPM捕集量が上限量に達したか否かを判別する他の方法としては、内燃機関の運転状態(燃料噴射量、吸入空気量、EGRガス量など)をパラメータとして排気中に含まれるPM量を推定し、その推定値が上限量以上であるか否かを判別する方法を用いることもできる。
【0020】
なお、本発明の構造体がパティキュレートフィルタより下流の排気通路に配置される構成においては、内燃機関の運転状態とパティキュレートフィルタの状態(前後差圧や温度)とをパラメータとしてパティキュレートフィルタから流出するPM量を推定し、その推定値が上限量以上であるか否かを判別する方法を用いることができる。
【0021】
一方、構造体の温度(特に、第1電極周辺の温度)が高くなると、単位時間当たりのPM捕集量に対し、単位時間当たりのPM酸化量が過多になる可能性がある。その場合、PMの一部が構造体に捕集されることなく酸化されるため、排気中のPM量と電極間の電位差との相関が弱くなる可能性がある。よって、PM酸化量がPM捕集量を上回らないように構造体の温度を調整する必要がある。
【0022】
これに対し、本発明の温度調整部は、単位時間当たりのPM酸化量が単位時間当たりのPM捕集量を上回ったとき(または、単位時間当たりのPM酸化量が単位時間当たりのPM捕集量を上回ると予測されるとき)に、第1電極の温度を低下させるようにしてもよい。その場合、単位時間当たりのPM酸化量が少なくなるため、PM酸化量がPM捕集量を上回る事態を回避することができる。
【0023】
PM酸化量がPM捕集量を上回っているか否かを判別する方法としては、電極間の電位差が下限値まで低下したか否かを判別する方法を利用することができる。下限値は、PM酸化量がPM捕集量を上回っているときの電位差に所定のマージンを加算した値である。また、下限値は、内燃機関の全運転領域のうちPM排出量が最も少なくなる運転状態におけるPM排出量、またはパティキュレートフィルタから流出するPM量が最も少なくなるときのPM量に所定のマージンを加算した値としてもよい。
【0024】
PM酸化量がPM捕集量を上回っているか否かを判別する他の方法としては、内燃機関の運転状態やパティキュレートフィルタの状態をパラメータとして排気中に含まれるPM量を推定し、その推定値と前記特定部により特定されたPM量(特定値)との差(推定値から特定値を減算した量)が許容値より大きいか否かを判別する方法を用いることもできる。なお、許容値は、前記した推定値に含まれる誤差に所定のマージンを加算した値である。
【0025】
上記したように電極間の電位差が上限値と下限値との間に収まるように構造体の温度が調整されると、排気中のPM量をリアルタイムに且つ連続して検出することが可能となる。
【0026】
なお、電極間の電位差の大きさは、第1電極が曝される圧力と第2電極が曝される圧力との差の大きさによって変化する場合がある。そこで、電極間の圧力差によって生じる電位差を特定し、特定された電位差によって測定部の測定値が補正されるようにしてもよい。その際、上記した圧力差の大きさと、圧力差によって生じる電位差の大きさと、の関係は、予め実験的に求めておくようにしてもよい。
【0027】
このように電極間の圧力差により測定部の測定値が補正されると、排気中のPM量をより正確に求めることが可能となる。
【0028】
また、電極間の電位差の大きさは、第1電極が曝されるガスの空燃比と第2電極が曝されるガスの空燃比との差の大きさによって変化する場合もある。そこで、上記した空燃比差によって生じる電位差を特定し、特定された電位差によって測定部の測定値が補正されるようにしてもよい。その際、上記した空燃比の差と、空燃比の差によって生じる電位差と、の関係は、予め実験的に求めておくようにしてもよい。
【0029】
このように電極間の空燃比差により測定部の測定値が補正されると、排気中のPM量をより正確に求めることができる。
【0030】
なお、電極間の圧力差に基づく補正処理と電極間の空燃比差に基づく補正処理とは、何れか一方のみが実施されてもよく、双方の補正処理が実施されてもよい。双方の補正処理が行われた場合は、PM量の検出精度をより高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、内燃機関の排気中に含まれるPM量をより正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を適用する内燃機関とその排気系の概略構成を示す図である。
【図2】第1の実施例における測定ユニットの概略構成を示す縦断面図である。
【図3】第1の実施例における測定ユニットの概略構成を示す横断面図である。
【図4】測定ユニットの他の配置例を示す図である。
【図5】第2の実施例における測定ユニットの構成を示す縦断面図である。
【図6】差圧と電位差オフセット量との関係を規定したマップを模式的に示す図である。
【図7】第3の実施例における測定ユニットの構成を示す縦断面図である。
【図8】空燃比の比と補正係数との関係を規定したマップを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態に記載される構成部品の寸法、材質、形状、相対配置等は、特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0034】
<実施例1>
先ず、本発明の第1の実施例について図1乃至図4に基づいて説明する。図1は、本発明を適用する内燃機関とその排気系の概略構成を示す図である。
【0035】
図1に示す内燃機関1は、圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)または火花点火式内燃機関(ガソリンエンジン)である。内燃機関1には、排気管2が接続されている。排気管2の途中には、酸化触媒とパティキュレートフィルタを含む排気浄化装置3が配置されている。排気浄化装置3より下流の排気管2内には、排気中に含まれるPM量と相関する物理量を測定する測定ユニット4が配置されている。
【0036】
ここで、測定ユニット4の構成について、図2,3に基づいて説明する。図2は、排気管2を軸方向と平行に切断したときの断面(縦断面)を示す図である。図3は、排気管2を軸方向と垂直に切断したときの断面(横断面)を示す図である。
【0037】
測定ユニット4は、円柱状の固体電解質40と、固体電解質40の両端面に配置された一対の電極41,42と、を含む構造体を備えている。固体電解質40は、酸素イオン伝導性を有する多孔質の固体電解質であり、多孔質の安定化ジルコニアなどにより形成されている。電極41,42は、膜状に形成された多孔質の電気伝導体であり、たとえばポーラス金属により形成されている。
【0038】
固体電解質40には、通電によって発熱する発熱体を含むヒータ基板44が積層されている。ヒータ基板44は、固体電解質40および電極41,42を含む構造体の全域を加熱可能に配置および構成されてもよく、または一対の電極41,42のうち一方の電極41およびその周辺の固体電解質40を優先的に加熱することができるように配置および構成されてもよい。
【0039】
このように構成された構造体は、両端が漏斗状に形成された筒状のダクト45に嵌挿されている。ダクト45は、排気管2の内壁面に突設された支柱400により、排気管2と同軸に支持されている。その際、ダクト45は、図2に示すように、構造体の一方の電極41(以下、「第1電極41」と称する)が排気流れ方向の上流側(図2中の左側)に位置し、他方の電極42(以下、「第2電極42」と称する)42が排気流れ方向の下流側(図2中の右側)に位置するように配置されるものとする。
【0040】
図2に示すような配置によれば、ダクト45内に流入した排気は、第1電極41、固体電解質40、および第2電極42を順次通過して流れることになる。そのため、排気中に含まれるPMは、第1電極41およびその周辺の固体電解質40に捕集される。第1電極41にPMが捕集されると、第1電極41の少なくとも一部がPMによって覆われる。その結果、第1電極41周囲の酸素分圧は、第2電極42周囲の酸素分圧より低くなる。すなわち、第1電極41と第2電極42との間に酸素分圧の差が生じる。
【0041】
第1電極41と第2電極42との間に酸素分圧の差が生じた場合は、酸素分圧の差に応じた分極が生じるため、第1電極41と第2電極42との間に電位差が発生する。その際、第1電極41に捕集または堆積したPM量が多くなるほど、前記した電位差が大きくなる。また、第1電極41および固体電解質40は多孔質の材料によって形成されているため、排気中に含まれるPMの略すべてを捕集することができる。よって、前記した電位差の大きさは、排気中に含まれるPM量と強い相関を持つことになる。
【0042】
そこで、本実施例のPM量検出システムは、第1電極41および第2電極42と電気的に接続される電圧計43と、電圧計43の測定値をPM量に換算するECU5と、を備えるようにした。ECU5は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAMなどから構成される電子制御ユニットである。なお、ECU5は、内燃機関1の運転状態を制御するためのECUと兼用されてもよく、内燃機関1の運転状態を制御するためのECUとは別個に設けられてもてもよい。
【0043】
ECU5のROMには、電圧計43の測定値とPM量との関係(たとえば、測定値を引数としてPM量を算出する関数式、または測定値の絶対量とPM量の絶対量との関係を規定したマップなど)が記憶されている。電圧計43の測定値とPM量との関係は、予め実験等を利用した適合作業により求められたものである。ECU5は、上記した関数式またはマップを利用することにより、電圧計43の測定値をPM量に換算する。このようにECU5が電圧計43の測定値をPM量に換算することにより、本発明に係わる特定部が実現される。その結果、排気中のPM量を正確に求めることが可能となる。
【0044】
ところで、固体電解質40は、固有の活性温度を持っている。すなわち、固体電解質40は、活性温度以上であるときに電解質としての機能(酸素イオン伝導性)が活性する。
よって、固体電解質40の温度を活性温度以上に保つ必要がある。
【0045】
そこで、ECU5は、固体電解質40の温度が下限値(活性温度にマージンを加算した温度)まで低下したときに、ヒータ基板44へ通電(またはヒータ基板44の通電量を増加)させる。このようにヒータ基板44が制御されると、固体電解質40の温度を活性温度以上に保つことができる。
【0046】
固体電解質40の温度が下限値まで低下したか否かを判別する方法としては、固体電解質40の温度を計測する温度センサを取付け、該温度センサの測定値が下限値以下であるか否かを判別する方法を用いることができる。
【0047】
固体電解質40の温度が下限値まで低下したか否かを判別する他の方法としては、構造体へ流入する排気の温度または構造体から流出する排気の温度を計測する温度センサを取付け、該温度センサの測定値が下限値以下であるか否かを判別する方法を用いることができる。
【0048】
なお、固体電解質40の温度が活性温度より低くなると、第1電極41と第2電極42との電位差が略零になる。そのため、ECU5は、電圧計43の測定値が零または零に近い値であることを条件として、固体電解質40の温度が活性温度未満であると判定することもできる。この方法によれば、新たなに温度センサを設ける必要がないため、車載性の向上や製造コストの低減を図ることも可能となる。
【0049】
また、第1電極41およびその周辺の固体電解質40に捕集または堆積したPMの量(以下、「PM捕集量」と称する)が一定量を超えると、第1電極41の全域がPMによって覆われるようになる。その結果、PM捕集量が前記した一定量を超えた後は、PM捕集量がさらに増加しても第1電極41の電位が殆ど変化しなくなる。すなわち、PM捕集量が一定量を超えた後は、電圧計43の測定値とPM捕集量との相関が弱くなる。さらに、PM捕集量が前記した一定量を超えると、構造体が目詰まりを起こして圧力損失(背圧)の増加を招く可能性もある。よって、PM捕集量を前記した一定量未満に抑える必要がある。
【0050】
そこで、ECU5は、PM捕集量が上限量に達したときに、ヒータ基板44へ通電(またはヒータ基板44の通電量を増加)させることにより、第1電極41およびその周辺の固体電解質40に捕集または堆積しているPMを酸化および除去するようにした。ここでいう「上限量」は、前記した一定量から所定のマージンを差し引いた量である。このようにヒータ基板44が制御されると、PM捕集量を一定量未満に保つことができる。
【0051】
PM捕集量が上限量に達したか否かを判別する方法としては、電圧計43の測定値が上限値に達したか否かを判別する方法を利用することができる。ここでいう「上限値」は、PM捕集量が前記した上限量に達した場合における第1電極41と第2電極42との電位差に相当する値である。
【0052】
PM捕集量が上限量に達したか否かを判別する他の方法としては、内燃機関1の運転状態(燃料噴射量、吸入空気量、EGRガス量など)やパティキュレートフィルタの状態(前後差圧や温度)をパラメータとして構造体へ流入するPM量を推定演算し、その推定値が上限量以上であるか否かを判別する方法を用いることができる。
【0053】
なお、PM捕集量が前記した一定量に達した後は、電圧計43の測定値が変化しなくなる。そのため、ECU5は、電圧計43の測定値の変化量が予め定められた所定量以下であることを条件として、PM捕集量が前記した一定量に達したと判定することもできる。
【0054】
一方、構造体の温度(特に、第1電極41およびその周辺の固体電解質40の温度)が高くなると、単位時間当たりのPM捕集量に対し、単位時間当たりのPM酸化量が多くなる可能性がある。言い換えれば、単位時間当たりに構造体へ流入するPM量に対し、単位時間当たりに酸化されるPM量が多くなる可能性がある。その場合、PMの一部が構造体に捕集されることなく酸化されるため、電圧計43の測定値と排気中のPM量との相関が弱くなる可能性がある。よって、単位時間当たりのPM酸化量を単位時間当たりのPM捕集量より少なく抑える必要がある。
【0055】
そこで、ECU5は、単位時間当たりのPM酸化量が単位時間当たりのPM捕集量を上回ったときに、ヒータ基板44を停止(またはヒータ基板44の通電量を減少)させることにより、構造体の温度を低下させるようにした。このようにヒータ基板44が制御されると、単位時間当たりのPM酸化量が単位時間当たりのPM捕集量を上回る事態を回避することができる。
【0056】
単位時間当たりのPM酸化量が単位時間当たりのPM捕集量を上回っているか否かを判別する方法としては、電圧計43の測定値が下限値まで低下したか否かを判別する方法を利用することができる。ここでいう「下限値」は、PM酸化量がPM捕集量を上回っている場合における第1電極41と第2電極42との電位差に所定のマージンを加算した値である。
【0057】
単位時間当たりのPM酸化量が単位時間当たりのPM捕集量を上回っているか否かを判別する他の方法としては、内燃機関1の運転状態やパティキュレートフィルタの状態をパラメータとして構造体へ流入するPM量を推定演算し、その推定値を電圧計43の測定値から特定されるPM量(特定値)と比較する方法を用いることができる。
【0058】
単位時間当たりのPM酸化量が単位時間当たりのPM捕集量を上回ると、特定値は、構造体へ流入するPM量より少なくなる。そのため、構造体へ流入するPM量の推定値と特定値との差が(推定値から特定値を減算した値)が許容値より大きいことを条件に、単位時間当たりのPM酸化量が単位時間当たりのPM捕集量を上回っていると判定することができる。
【0059】
以上述べたようにECU5がヒータ基板44を制御することにより、本発明に係わる温度調整部が実現される。その結果、排気中のPM量をリアルタイムに検出することが可能になる。よって、本実施例のPM量検出システムによれば、排気中に含まれるPM量をリアルタイムに且つ正確に検出することが可能になる。
【0060】
なお、本実施例では、電極41,42および固体電解質40を含む構造体がダクト45内に設けられる構成を例に挙げたが、構造体が直に排気管2内に配置されてもよい。ただし、構造体が直に排気管2に配置されると、排気流量(排気流速)の変動や排気脈動などによって検出精度が低下する可能性もある。
【0061】
よって、図4に示すように、排気管2の一部を迂回するバイパス管20を排気管2に取付け、該バイパス管20内に構造体が配置されるようにしてもよい。このように構造体がバイパス通路内に配置されると、排気管2内の圧力損失を増加させることなくPM量を検出することも可能となる。その際、排気管2内の排気をバイパス管20内へ引き込むポンプを設け、バイパス管20内の排気流量を安定させるようにしてもよい。
【0062】
<実施例2>
次に、本発明の第2の実施例について図5乃至図6に基づいて説明する。ここでは、前
述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0063】
前述した第1の実施例と本実施例との相違点は、第1電極41周囲の圧力と第2電極42周囲の圧力との差に応じて電圧計43の測定値を補正する点にある。
【0064】
第1電極41と第2電極42との電位差は、第1電極41が曝される圧力と第2電極42が曝される圧力との差の大きさによって変化する場合がある。たとえば、第1電極41周囲の圧力が第2電極42周囲の圧力より高くなると、第1電極41と第2電極42との電位差が小さくなる。そのため、第1電極41周囲の圧力が第2電極42周囲の圧力より高いときは、電圧計43の測定値が実際の酸素分圧の差に対応した電位差より小さくなる。
【0065】
そこで、本実施例のPM量検出システムは、上記した圧力差によって生じる電位差のオフセット量(以下、「電位差オフセット量」と称する)を特定し、特定された電位差オフセット量によって電圧計43の測定値を補正するようにした。
【0066】
図5は、本実施例における測定ユニット4の構成を示す縦断面図である。図5に示すように、測定ユニット4のダクト45には、該ダクト45内における固体電解質40より上流の圧力と固体電解質40より下流の圧力との差圧(上流側の圧力から下流側の圧力を差し引いた圧力)ΔPを測定する差圧センサ46が取り付けられている。差圧センサ46の測定値(差圧)ΔPは、ECU5へ入力されるようになっている。なお、差圧センサ46の代わりに、2つの圧力センサをダクト45に取付け、それら圧力センサの測定値の差を求めてもよい。
【0067】
ECU5は、差圧センサ46の測定値(差圧)ΔPに基づいて電位差オフセット量Δvを決定し、決定された電位差オフセット量Δvを電圧計43の測定値Vに加算する(V+Δv)。
【0068】
その際、ECU5は、図6に示すようなマップを用いて電位差オフセット量Δvを決定する。図6は、電位差オフセット量Δvと差圧ΔPとの関係を規定したマップを模式的に示す図である。図6において、差圧ΔPが大きいときは小さいときに比べ、電位差オフセット量Δvが大きくなっている。これは、前述したように差圧ΔPが大きいときは小さいときに比べ、第1電極41と第2電極42との電位差が小さくなるからである。
【0069】
このような方法により電圧計43の測定値Vが補正されると、第1電極41と第2電極42との間に圧力の差が生じた場合であっても、酸素分圧の差に応じた電位差を正確に求めることができる。その結果、排気中のPM量を正確に求めることが可能となる。
【0070】
<実施例3>
次に、本発明の第2の実施例について図7乃至図8に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0071】
前述した第1の実施例と本実施例との相違点は、第1電極41周囲の空燃比と第2電極42周囲の空燃比との差に応じて電圧計43の測定値を補正する点にある。
【0072】
第1電極41と第2電極42との電位差は、第1電極41が曝される雰囲気の空燃比と第2電極42が曝される雰囲気の空燃比との差の大きさによって変化する場合がある。たとえば、第1電極41周囲の空燃比が第2電極42周囲の空燃比より高い場合は、第1電
極41周囲の酸素分圧が高まるため、第1電極41と第2電極42との電位差が小さくなる。そのため、第1電極41周囲の空燃比が第2電極42周囲の空燃比より高いときは、電圧計43の測定値が実際の酸素分圧の差に対応した電位差より小さくなる。
【0073】
一方、第1電極41周囲の空燃比が第2電極42周囲の空燃比より低くい場合は、第1電極41周囲の酸素分圧が低下するため、第1電極41と第2電極42との電位差が大きくなる。そのため、第1電極41周囲の空燃比が第2電極42周囲の空燃比より低いときは、電圧計43の測定値が実際の酸素分圧の差に対応した電位差より大きくなる。
【0074】
そこで、本実施例のPM量検出システムは、上記した空燃比差によって生じる電位差の補正係数を特定し、特定された補正係数により電圧計43の測定値を補正するようにした。
【0075】
図7は、本実施例における測定ユニット4の構成を示す縦断面図である。図7に示すように、測定ユニット4のダクト45には、該ダクト45内における固体電解質40より上流の空燃比を計測する第1空燃比センサ47と、電解質40より下流の空燃比を計測する第2空燃比センサ48とが取り付けられている。第1空燃比センサ47および第2空燃比センサ48の測定値は、ECU5に入力されるようになっている。
【0076】
ECU5は、第2空燃比センサ48の測定値af2に対する第1空燃比センサ47の測定値af1の比(af1/af2)を基づいて補正係数αを決定し、決定された補正係数αを電圧計43の測定値Vに乗算する(V*α)。
【0077】
その際、ECU5は、図8に示すようなマップを用いて補正係数αを決定する。図8は、前記した空燃比の比(af1/af2)と補正係数αとの関係を規定したマップを模式的に示す図である。図8において、比(af1/af2)が大きいときは小さいときに比して、補正係数αが大きくなっている。さらに、比(af1/af2)が“1”より小さいときは補正係数αも“1”より小さい値に設定され、比(af1/af2)が“1”より大きいときは補正係数αも“1”より大きな値に設定されている。これは、比(af1/af2)が“1”より大きいときは第1電極41と第2電極42との電位差が小さくなり、比(af1/af2)が“1”より小さいとき第1電極41と第2電極42との電位差が大きくなるからである。
【0078】
このような方法により電圧計43の測定値Vが補正されると、第1電極41と第2電極42との間に空燃比の差が生じた場合であっても、酸素分圧の差に応じた電位差を正確に求めることができる。その結果、排気中のPM量を正確に求めることが可能となる。
【0079】
なお、前述した第2の実施例で述べた圧力差に基づく補正と本実施例で述べた空燃比差に基づく補正とは組み合わせて実行されてもよい。その場合、第1電極41と第2電極42との間に圧力の差や空燃比の差が生じた場合であっても、排気中のPM量を正確に求めることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 内燃機関
2 排気管
3 排気浄化装置
4 測定ユニット
5 ECU
20 バイパス管
40 固体電解質
40 電解質
41 第1電極
42 第2電極
43 電圧計
44 ヒータ基板
45 ダクト
46 差圧センサ
47 第1空燃比センサ
48 第2空燃比センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた多孔質の第1電極と、
前記第1電極より下流の排気通路に設けられた多孔質の第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極の間に介装された多孔質の固体電解質と、
前記第1電極と前記第2電極の電位差を測定する測定部と、
前記測定部により測定された電位差をパラメータにして排気中のPM量を特定する特定部と、
を備えるPM量検出システム。
【請求項2】
請求項1において、前記第1電極の温度を調整する温度調整部をさらに備え、
前記温度調整部は、前記測定部により測定された電位差が予め定められた上限値に達したときに前記第1電極の温度を上昇させ、前記測定部により測定された電位差が予め定められた下限値に低下したときに前記第1電極の温度を低下させるPM量検出システム。
【請求項3】
請求項1において、前記第1電極の温度を調整する温度調整部と、
内燃機関の運転状態をパラメータにして排気中に含まれるPM量を推定する推定部と、をさらに備え、
前記温度調整部は、前記推定部の推定値が予め定められた上限値に達したときに前記第1電極の温度を上昇させ、前記推定部の推定値に比して前記特定部の特定値が少なく且つ前記推定値と前記特定値の差が許容値を超えたときに前記第1電極の温度を低下させるPM量検出システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項において、前記特定部は、前記第1電極と前記第2電極の圧力差により前記測定部の測定結果を補正し、補正後の値をパラメータにして排気中のPM量を特定するPM量検出システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項において、前記第1電極と前記第2電極の空燃比の差により前記測定部の測定結果を補正し、補正後の値をパラメータにして排気中のPM量を特定するPM量検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−256811(P2011−256811A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133048(P2010−133048)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】