説明

POD型推進装置および船舶

【課題】簡素な構成で製造コストを安価に抑えながら、液体の流れに剥離現象を発生させないで、推進抵抗を低減することができるPOD型推進装置、およびこれを有する船舶を提供する。
【解決手段】POD型推進装置1は、プロペラ40と、ポッド本体30とストラット10と、を有し、ポッド本体30の側面にはポッド本体の軸方向に平行で、ポッド本体の側面の法線方向(半径方向に同じ)に位置するように、矩形板からなるVANE(整流板)21、22、23、24(VANE20)が固定されている。VANE20の突出量は、プロペラ40の半径の40%以下、望ましくは15〜30%が好適であって、従来の公知のFINに比べ、突出量が極端に小さくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPOD型推進装置、特に、船舶に設置され、ポッドがプロペラ後流の中に位置することになるトラクター型のPOD型推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶のPOD型推進装置は、船体の下方に突き出すように設置されるものであって、流線形の収納容器(以下、「ポッド」と称す)と、ポッドの先端側に形成された回転部(以下、「ハブ」と称す)と、ハブに固定されたプロペラと、ポッドを船体に固定するストラットと、ポッドに収納されたプロペラ回転手段または船体側からプロペラに回転を伝達する回転伝達手段と、を有している。
そして、プロペラによってその後方に形成された流体の流れ(以下、「プロペラ後流」と称す)は、ポッドにまとわりつくように螺旋状を呈するとの認識の元に、推進性能の向上を図ろうとする発明が開示されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−249874号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献2】特開2003−200892号公報(第3−4頁、図2)
【特許文献3】特開2003−200891号公報(第3−4頁、図4)
【特許文献4】特開平7−1956085号公報(第3−4頁、図1)
【特許文献5】特開2004−90841号公報(第4−5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1−5に記載された発明は、何れも、ポッドの側面に翼形状のフィンを設置して、プロペラ後流によってフィンに揚力を発生させ、その推進方向成分を利用しようとすることを特徴としている。
しかしながら、フィンにより旋回流を回収するためには、フィンの迎角をプロペラピッチや回転数に応じて最適な値とする必要があり、フィンの迎角が最適で無い場合は、揚力として旋回流を回収できないだけではなく、フィン自体が剥離を生じ、抵抗増加のもととなり、ポッド単独の性能よりフィンを取り付けた場合の方が性能悪化する可能性があるという問題があった。また、旋回自体がポッドに取り付けられたストラットなどの影響で、軸対象な流れとならず、これもフィンによる旋回流の回収を困難にする原因になっているという問題があった。
【0005】
また、翼形状のフィンは製作が困難であるため、製造コストが上昇するという問題があった。また、当該フィンのポッドの側面からの突出量が大きいため、当該フィンに作用する力が大きくなり、当該フィンをポッドの側面に固定するために相当の補強をする必要が生じることからも、製造コストが上昇するという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題を解決するものであって、簡素な構成で製造コストを安価に抑えながら、液体の流れに剥離現象を発生させないで、推進抵抗を低減することができるPOD型推進装置、および該POD型推進装置を有する船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るPOD型推進装置は、船体に固定されたストラットと、
該ストラットに固定されたポッドと、
該ポッドの先端側に回転自在に設置されたプロペラと、
該プロペラを回転させる回転手段または回転伝達手段と、
前記ポッドの側面に、前記ポッドの軸方向に平行で、前記ポッドの側面の法線方向に位置するように固定された整流板と、
を有し、
前記整流板によって前記プロペラが形成する後流が整流されることを特徴とする。
【0008】
(2)前記(1)において、前記整流板の前記ポッドの側面からの突出量が、前記プロペラの半径の10〜40%であることを特徴とする。
(3)前記(1)または(2)において、前記ポッドの先端側に前記プロペラと一緒に回転するハブが形成され、
前記整流板の先端が、前記ハブに近接し、
前記整流板の軸方向の長さが、前記ポッドの後端と前記ハブの後端との距離の50〜100%であることを特徴とする。
【0009】
(4)前記(1)乃至(3)の何れかにおいて、前記整流板の前記ポッドの側面からの突出量が、軸方向で均一なことを特徴とする。
(5)前記(1)乃至(4)の何れかにおいて、前記整流板の断面が矩形であることを特徴とする。
【0010】
(6)本発明に係る船舶は、船体と、
該船体に固定された前記(1)乃至(5)の何れかに記載のPOD型推進装置と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るPOD型推進装置および船舶は以上の構成であるから、以下の効果を奏する。
(i)ポッドの軸方向に平行で、側面の法線方向に位置するように固定された整流板によって、プロペラが形成する後流が整流されるから、ポッドに作用する流れの抵抗が低減するため、推進性能が向上する。すなわち、ポッドの表面を流れる斜流をまっすぐな流れにすることで、ポッドの抵抗を下げている。なお、当該整流板(軸方向に平行)は、揚力を主として用いるものではないため、仮に部分的に失速しても問題になることはない。
さらに、当該整流板は、迎角をもって取り付けられるものではないため、非常に簡単に取り付けることができ、POD型推進装置の製造コストが安価になる。
【0012】
(ii)整流板のポッドの側面からの突出量(例えば、ポッドの側面の法線方向)が、プロペラの半径の10〜40%であるから、整流板に作用する力は小さく、補強等をすることなく、ポッドの側面に容易に固定することができるため、製造コストを安価に抑えることができる。
【0013】
(iii)整流板の先端がハブに近接し、軸方向の長さが、ポッドの後端とハブの後端との距離の50〜100%であるから、ストラットよりもプロペラに近い範囲から、プロペラ後流の整流を開始するから、より確実に整流効果が得られる。
【0014】
(iv)整流板のポッドの側面からの突出量(例えば、ポッドの側面の法線方向)が、軸方向で均一であるから、製造が容易になり製造コストを安価に抑えることができる。特に、ポッドが円筒部分を有し、該円筒部分に整流板を固定する場合には、当該整流板は矩形板になるため、製造コストがさらに安価になる。
【0015】
(v)整流板の断面が矩形であるから、通常の鋼板を切り出して使用することができるため、断面を翼形状にする場合と比較して、製造コストが格段に安価になる。
【0016】
(vi)本発明に係る船舶は、前記効果を奏する前記(1)乃至(5)の何れかに記載のPOD型推進装置を有するから、製造コストを低く抑えたまま、推進性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係るPOD型推進装置を説明するものであって、(a)は側面図、(b)は背面図である。なお、各図において、それぞれの部材は模式的に示されているため、その寸法および数量等は図示されたものに限定されるものではない。
【0018】
(POD型推進装置)
図1において、POD型推進装置1は、船舶の船体2に設置されるものであって、プロペラ40と、プロペラ40を具備するポッド本体30と、ポッド本体30を船体1に設置するためのストラット10と、を有している。
ポッド本体30は、船首側に紡錘状のハブ(ポッド後端部)31と、船尾側に紡錘状のコーン(ポッド後端部)33と、円筒状または樽状のポッド中央部32と、を具備している。そして、プロペラ40によってポッド本体30に向かう水流が形成されるもの、すなわち、プロペラ40によってポッド本体30が牽引されるものである。
なお、本発明はプロペラ40を回転する機構を限定するものではなく、ポッド本体30内に回転駆動手段が配置されたものでも、船体2に設置された回転駆動手段からの回転をストラット10を経由して伝達するものであってもよい。
【0019】
(VANE)
ポッド本体30の側面にはポッド本体の軸方向に平行で、ポッド本体の側面の法線方向(半径方向に同じ)に位置するように、矩形板からなる整流板(以下「VANE」と称す)21、22、23、24(以下、まとめてまたはそれぞれを「VANE20」と称す場合がある)が固定されている。また、VANE21は、ストラット10を跨いで、同一位相(所謂12時の位置)になるように設置されたVANE21aおよびVANE21bから構成されている。
【0020】
ポッド本体30は、船首側に紡錘状のハブ(ポッド後端部)31と、船尾側に紡錘状のコーン(ポッド後端部)33と、円筒状または樽状のポッド中央部32と、を具備している。なお、本発明はプロペラ40を回転する機構を限定するものではなく、ポッド本体30内に回転駆動手段が配置されたものでも、船体2に設置された回転駆動手段からの回転をストラット10を経由して伝達するものであってもよい。
【0021】
(抵抗成分)
図2および図3は、本発明の実施形態1に係るPOD型推進装置の動作原理を説明するものであって、それぞれの(a)は模式的に示す側面図、それぞれの(b)は側面から観たCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)を用いたシミュレーション計算結果である。
図2および図3において、前記のようにPOD型推進装置1はプロペラ40がポッド本体の前方に装着されたものであって、公知の「POD型推進装置」に、構造上簡便な板状のVANE20をポッド本体30に装着したものである。そして、装着されたVANE20によってPOD本体の抵抗成分を低減することで、POD型推進装置としての推力を向上させ、引いては推進装置としての単独効率を向上させるものである。
【0022】
図2の(a)および図3の(a)に示すように、VANE20が装着されない場合には、プロペラ40で発生した旋回流は後方(下流側)に位置するポッド本体30の周りを螺旋状に流れている。旋回流はその流れを回転方向に変えながら流れるため、1つの大きな渦の中にポッド本体30が存在することとなる。かかる様子は、シミュレーション結果による流線をリボンにより可視化した図3の(a)において、ポッド本体30を斜めの流れが横切っており、POD後流でもはっきりした渦が流れ去っているのがわかる。
【0023】
一方、図2の(b)および図3の(b)に示すように、VANE20が装着された場合には、VANE20によって旋回流が強制的に真っ直ぐな流れとされ、ポッド本体30まわりの旋回流がまっすぐな流れに変換されている。かかる様子は、シミュレーション結果による流線をリボンにより可視化した図3の(b)において、ポッド本体30を通過する流れもほぼ真っ直ぐになっており、POD後方の渦も緩やかに崩れていることがわかる。
すなわち、この計算結果からもVANE20が旋回流を直進流に変換しているから、旋回流の中にある場合と比較するとPOD自体の抵抗成分は低減する。
また、CFD(数値流体力学)を用いたシミュレーション結果(前進率J=0.25の場合)では、VANE20による推力増加効果のうち、約93%がポッド本体30の抵抗成分の低減であり、残りの7%はVANE20が発生する前向きのスラストであることが判明している。すなわち、POD型推進装置1におけるVANE20による推力向上は、主としてPOD本体の抵抗低減によってもたらされている。
【0024】
(スラスト)
図4は、本発明の実施形態1に係るPOD型推進装置におけるスラストの発生メカニズムを説明するものであって、(a)は模式的に示す側面図、(b)は模式的に示す背面図である。 図4において、VANE20に対して角度を持った流れに対して、前向き成分を持った揚力Lが発生する。そして、揚力Lの前向き成分が推力Tとして作用する。
【0025】
POD型推進装置1の推力TPODは、プロペラの推力TPROPからポッド本体30の抵抗RPODを引いたものであるから、次式にて示される。
POD =TPROP−RPOD ・・・・・式1
したがって、ポッド本体30の抵抗RPODが小さくなれば小さくなるほど、同じ馬力でのPOD型推進装置1の推力TPODは向上する。
また、POD型推進装置1の効率η0は次式のように表される。
η0 = (Va ・TPOD )/(2πn・QPROP ) ・・・・・式2
ここで、nはプロペラ40の回転数、Vaはプロペラ40の前進速度、QPROPはプロペラ40のトルクである。したがって、POD型推進装置1の推力TPODが大きくなるとPOD型推進装置1の効率η0も向上する。
以上より、主としてポッド本体30の抵抗成分の低減により、POD型推進装置1の推力向上、並びに効率向上が達成されることになる。
【0026】
(VANEの突出量)
図5および図6は、本発明の実施形態1に係るPOD型推進装置におけるVANEの突出量の効果を説明するものであって、図5の縦軸は推力増加率、図6の縦軸はポッド本体の抵抗成分、それぞれの横軸はプロペラ半径に対する割合であるVANEの無次元化した突出量(r/R)である。
【0027】
図5において、実線で示す計算結果と、VANE20の突出量r/R=15%、r/R=30%、については実施した試験結果を黒四角で示している。このとき、Rはプロペラ40の半径である。
縦軸である推力増加率は、r/R=15%では2.2%を、r/R=30%では1.8%であった。そして、推力増加率は、VANE20の突出量の増加に伴って除々に減少するため、本試験結果に関する限り、突出量の最大は、r/R=50%程度であると考えられる。
【0028】
図6において、VANE20の突出量r(正確には無次元化した突出量r/R)が大きくなると、ポッド本体30の抵抗成分が増加している。
すなわち、VANE20はポッド本体30の表面の流れを斜流から真っ直ぐの流れに変換することで、ポッド本体30の抵抗成分を低減するものであるところ、かかる突出量r/Rが大きくなると、VANE20自体の抵抗成分が大きくなりポッド本体30抵抗成分の低減量よりも、VANE20の抵抗成分の増加量が逆転してしまう。この抵抗増加の理由は、VANE20の面積増加による摩擦抵抗の増加と、VANE20の突出量rが大きくなることによりVANE20自体が、流速の遅いポッドの境界層から速度の速い流場に突出する部分が大きくなるため、VANE20自体の形状抵抗が増加するという2点に起因する。
【0029】
以上、図5および図6を合わせて検討すると、VANE20のSpan方向の突出量r(Span wise)は、プロペラ40の半径の40%以下、望ましくは15〜30%が好適である。すなわち、従来の公知のFINに比べ、突出量が極端に小さくなっている。
また、VANE20の軸方向の長さは、ポッド本体30の長さの5〜100%、望ましくは50〜100%が好適である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は以上の構成であるから、安価に推進抵抗を低減することができるから、各種POD型推進装置、およびこれを有する各種船舶として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態1に係るPOD型推進装置を説明する側面図と背面図。
【図2】図1に示すPOD型推進装置の動作原理を説明する模式的に示す側面図。
【図3】図1に示すPOD型推進装置の動作原理を説明するシミュレーション計算結果図。
【図4】図1に示すPOD型推進装置におけるスラストの発生メカニズムを説明する側面図と背面図。
【図5】図1に示すPOD型推進装置におけるVANEの突出量の推力増加率に及ぼす効果を説明する線図。
【図6】図1に示すPOD型推進装置におけるVANEの突出量の推力増加率に及ぼす効果を説明する線図。
【符号の説明】
【0032】
1 POD型推進装置
2 船体
10 ストラット
20 VANE
30 ポッド本体
31 ハブ(ポッド後端部)
32 ポッド中央部
33 コーン(ポッド後端部)
40 プロペラ
r VANEの突出量
R プロペラの半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に固定されたストラットと、
該ストラットに固定されたポッドと、
該ポッドの先端側に回転自在に設置されたプロペラと、
該プロペラを回転させる回転手段または回転伝達手段と、
前記ポッドの側面に、前記ポッドの軸方向に平行で、前記ポッドの側面の法線方向に位置するように固定された整流板と、
を有し、
前記整流板によって前記プロペラが形成する後流が整流されることを特徴とするPOD型推進装置。
【請求項2】
前記整流板の前記ポッドの側面からの突出量が、前記プロペラの半径の10〜40%であることを特徴とする請求項1記載のPOD型推進装置。
【請求項3】
前記ポッドの先端側に前記プロペラと一緒に回転するハブが形成され、
前記整流板の先端が、前記ハブに近接し、
前記整流板の軸方向の長さが、前記ポッドの後端と前記ハブの後端との距離の50〜100%であることを特徴とする請求項1または2記載のPOD型推進装置。
【請求項4】
前記整流板の前記ポッドの側面からの突出量が、軸方向で均一なことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のPOD型推進装置。
【請求項5】
前記整流板の断面が矩形であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のPOD型推進装置。
【請求項6】
船体と、
該船体に固定された請求項1乃至5の何れかに記載のPOD型推進装置と、
を有することを特徴とする船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−214650(P2009−214650A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59164(P2008−59164)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)