説明

PPARαアゴニストを有効成分として含有する網脈絡膜疾患の予防又は治療剤

【課題】網脈絡膜疾患の新たな予防又は治療剤を提供すること。
【解決手段】PPARαアゴニストであるフェノフィブレート、GW7647等は、網脈絡膜において、優れた血管新生阻害作用及び視細胞障害抑制作用作用を発揮するので、加齢黄斑変性などの網脈絡膜疾患の予防又は治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アゴニストを有効成分として含有する網脈絡膜疾患の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜は、角膜や水晶体によって構成される眼球の光学系によって屈折した像が結像する部位である。網膜には光を受容する視細胞が存在し、視細胞で感知された光は電気信号に変換され、視神経を通して脳中枢へと信号を伝達する。脈絡膜は、強膜と網膜の間に存在する0.1〜0.3mmの血管と色素に富んだ膜状の組織である。脈絡膜の機能は、網膜への栄養の供給、眼内温度の調節、および遮光などである。
【0003】
このように、視機能にとって重要な役割を果たす網膜又は脈絡膜に生じる疾患は視機能低下を伴うものが多い。
【0004】
加齢黄斑変性は、加齢に伴い黄斑部の網膜組織に障害が生じ、視力障害を来たすことを特徴とする疾患であり、失明にいたることもある、高齢者の視力障害の原因の一つである。加齢黄斑変性は3つの主要な病型に分類できる。即ち、(1)ドルーゼンの形成と色素沈着又は色素脱落を特徴とする初期加齢黄斑変性、(2)黄斑部の網膜色素上皮細胞の萎縮変性、及び、網膜色素上皮細胞の萎縮変性に続発する網膜視細胞の萎縮変性を本態とする萎縮型加齢黄斑変性、ならびに、(3)黄斑部の網膜下に脈絡膜由来の新生血管が発育し、出血や細胞の滲出を来す滲出型加齢黄斑変性とに分類できる。
【0005】
一方、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)αは、肝臓及び骨格筋に多く発現する核内受容体の1つである。これは、レチノイドX受容体(RXR)等の核内受容体とヘテロ二量体を形成し、転写因子として脂質代謝に関連する遺伝子の発現を調節することが知られている。このような特性から、PPARαアゴニストは、高脂血症等の脂質代謝異常の治療薬として利用されている。
【0006】
非特許文献1には、フェノフィブレートがPPARαアゴニスト活性を備え、脂質代謝異常の治療に有用であることが記載されており、また、特許文献1には、2-(4-(2-(3-シクロヘキシル- 1-(4-シクロヘキシルブチル)ウレイド)エチル)フェニルスルファニル)-2-メチルプロピオン酸(以下、GW7647ともいう)が、PPARαアゴニスト活性を備え、脂質代謝異常の治療に有用であることが記載されている。
【0007】
しかしながら、フェノフィブレート、GW7647といったPPARαアゴニストに関する報告として、網膜又は脈絡膜において、血管新生阻害作用や視細胞障害抑制作用を検討した報告はない。また、該アゴニストの網脈絡膜疾患に対する薬理作用を検討した報告はなく、特に、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症などに対する予防、改善効果について検討した報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2000/023407号
【非特許文献】
【0009】
【特許文献1】Staels B他;Atherosclerosis XI. 249-257ページ、Elsevier Science (Singapore) Pte Ltd.、1998年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
PPARαアゴニストに関して、新たな医薬用途を探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、PPARαアゴニスト(以下、本化合物ともいう)の新たな医薬用途を探索すべく鋭意研究を行ったところ、該アゴニストであるフェノフィブレート及びGW7647が、網脈絡膜において、優れた血管新生阻害作用及び視細胞障害抑制作用を有することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、PPARαアゴニストを有効成分として含有する、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、増殖性硝子体網膜症、未熟児網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、錐体ジストロフィー、網膜剥離又は、網膜色素変性症等の網脈絡膜疾患の予防又は治療剤に関する。
【0013】
本化合物における『塩』とは、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属元素との塩、アンモニア (アンモニウムイオン)、低級アミン類等の塩基性含窒素化合物との塩等が挙げられる。
【0014】
本化合物に幾何異性体又は光学異性体が存在する場合は、それらの異性体も本発明の範囲に含まれる。また、本化合物は水和物又は溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0015】
本発明におけるPPARαアゴニストとは、PPARαのアゴニスト活性を備える化合物をいう。好ましくは、本化合物におけるPPARαアゴニストは、PPARαアゴニスト活性を備える化合物のうち、PPARαサブタイプに対するアゴニスト活性が他のサブタイプに対するアゴニスト活性と比較して同等又はより高いものである。
【0016】
本化合物における好ましい例として、フェノフィブレート、2-(4-(2-(3-シクロヘキシル- 1-(4-シクロヘキシルブチル)ウレイド)エチル)フェニルスルファニル)-2-メチルプロピオン酸(GW7647)、(αS)−α−エチル−3−[[[[4−(フルオロフェノキシ)フェニル]メチル]アミノ]カルボニル]−4−メトキシベンゼンプロパン酸(KRP−101)、[4−クロロ−6−(2,3−キシリジノ)−2−ピリミジニルチオ]酢酸(Wy−14643)、又はそれらの塩が挙げられる。
【0017】
本化合物におけるより好ましい例として、フェノフィブレート、GW7647、又はそれらの塩が挙げられる。
【0018】
本化合物における最も好ましい例としては、下記式(1)で示されるフェノフィブレート、下記式(2)で示されるGW7647が挙げられる。
【化1】

【化2】

【0019】
本発明において網脈絡膜疾患とは、網膜又は脈絡膜における疾患、特に、視細胞障害及び/又は脈絡膜血管新生を伴う疾患をいい、例えば、加齢黄斑変性(初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性)、糖尿病網膜症(単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症)、糖尿病黄斑浮腫、増殖性硝子体網膜症、未熟児網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、錐体ジストロフィー、網膜剥離、網膜色素変性症といった網脈絡膜疾患が挙げられ、好ましくは、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、網膜色素変性症といった網脈絡膜疾患が挙げられる。さらに好ましくは、本発明の網脈絡膜疾患は加齢黄斑変性である。
【0020】
本化合物は、必要に応じて、医薬として許容される添加剤を加え、単独製剤又は配合製剤として汎用されている技術を用いて製剤化することができる。
【0021】
本化合物は、前述の眼疾患の予防又は治療に使用する場合、患者に対して経口的又は非経口的に投与することができ、投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与等)、静脈内投与、経皮投与等が挙げられ、必要に応じて、製薬学的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、例えば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル、挿入剤等が挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。また、本化合物はこれらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアー等のDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0022】
例えば、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤などを適宜選択して用い、調製することができる。
【0023】
注射剤は、塩化ナトリウム等の等張化剤;リン酸ナトリウム等の緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の界面活性剤;メチルセルロース等の増粘剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0024】
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0025】
挿入剤は、生体分解性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸等の生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤を用いることができる。眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース等の生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0026】
本化合物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断等に応じて適宜変えるこができるが、経口投与の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは0.5〜1000mgを1回又は数回に分けて投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し0.0001〜2000mgを1回又は数回に分けて投与することができる。また、点眼剤又は挿入剤の場合には、0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)、より好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)の有効成分濃度のものを1日1回又は数回投与することができる。さらに、貼布剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mgを含有する貼布剤を貼布することができ、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。
【発明の効果】
【0027】
後述の試験を実施したところ、薬理試験において、本化合物であるフェノフィブレート(以下、「化合物A」ともいう)及びGW7647(以下、「化合物B」ともいう)が、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて脈絡膜血管新生を顕著に阻害することが示された。すなわち、化合物A及び化合物B等に代表されるPPARαアゴニストは、網脈絡膜疾患、特に、浸出型加齢黄斑変性などの血管新生を伴う網脈絡膜疾患の予防又は治療剤として有用である。一方、化合物A及び化合物Bは、マウス光障害モデルにおいて視細胞障害を抑制することが示された。すなわち、化合物A及び化合物B等に代表されるPPARαアゴニストは、網脈絡膜疾患、特に、萎縮型加齢黄斑変性、又は、網膜色素変性症などの視細胞障害を伴う網脈絡膜疾患の予防又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、薬理試験及び製剤例の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
[薬理試験1]
レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデル(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 40(2), 459−466 (1999))を用いて、本化合物の有用性を評価した。
【0030】
(クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデル動物の作製方法)
ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、クリプトンレーザー光凝固装置により光凝固を行った。光凝固は、眼底後局部において、太い網膜血管を避け、焦点を網膜深層に合わせて1眼につき8ヶ所散在状に実施した(凝固条件:スポットサイズ100μm、出力100mW、凝固時間0.1秒)。光凝固後、眼底撮影を行い、レーザー照射部位を確認した。
【0031】
(薬物投与方法)
化合物Aを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に60mg/mlになるように懸濁し、300mg/kgの用量で化合物A溶液を光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回経口投与した。化合物Bも同様に経口投与した。すなわち、化合物Bを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に0.2mg/mlまたは2mg/mlになるように懸濁し、1mg/kgまたは10mg/kgの用量で化合物B溶液を光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回経口投与した。なお、基剤投与群には1%(W/V)メチルセルロース液を同様に投与した。
【0032】
(評価方法)
光凝固後7日目、ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、10%フルオレセイン溶液0.1mlを陰茎静脈から注入して、蛍光眼底造影を行った。蛍光眼底造影で、蛍光漏出が認められなかったスポットを陰性(血管新生なし)、蛍光漏出が認められたスポットを陽性と判断した。また、若干の蛍光漏出が認められる光凝固部位は、それが2箇所存在した時に陽性(血管新生あり)と判定した。その後、式1に従い、レーザー照射8ヶ所のスポットに対する陽性スポット数から脈絡膜血管新生発生率(%)を算出し、式2に従い、評価薬物の抑制率(%)を算出した。化合物AおよびBの結果を図1に示す。なお各投与群の例数は7又は8である。
【0033】
[式1]
脈絡膜血管新生発生率(%)=(陽性スポット数/全光凝固部位数)×100
[式2]
抑制率(%)=(A−A)/A×100
:基剤投与群の脈絡膜血管新生発生率
:薬物投与群の脈絡膜血管新生発生率
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、化合物A及び化合物Bが、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデル動物において脈絡膜血管新生を阻害することが示された。以上の結果から、化合物A又は化合物Bに代表される本化合物が、網脈絡膜において優れた血管新生阻害作用を有し、加齢黄斑変性(特に滲出型加齢黄斑変性)などの血管新生が関与する網脈絡膜疾患に対して顕著な予防又は治療効果を有することが示された。
【0035】
[薬理試験2]
マウス光障害モデル動物を用いて、本化合物の有用性を評価した。なお、マウス光障害モデルは光照射により、主に視細胞及び網膜色素上皮細胞層に障害を誘発させた疾患モデルであり、該モデル動物は主に網膜変性(例えば、加齢黄斑変性、特に萎縮型加齢黄斑変性や、網膜色素変性症)のモデル動物として汎用されている(Invest. Ophthalmol. Vis.Sci., 2005; 46: 979-987)。
【0036】
(マウス光障害モデル動物の作製方法)
マウスに0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、光障害装置(酒見医科器機)によりマウスに光照射(照射条件:照度5000Lux、照射時間2時間)を行うことで、光障害を誘発させた。
【0037】
(薬物投与方法)
化合物Aを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に60mg/mlになるように溶解して薬物A溶液を調製した。300mg/kgの用量で化合物A溶液を光照射1時間前に1回経口投与した。また、化合物Bも同様に経口投与した。すなわち、化合物Bを1%(W/V)メチルセルロース液に10mg/mlになるように溶解して化合物B溶液を調製した。50mg/kgの用量で化合物B溶液を光照射1時間前に1回経口投与した。なお、基剤投与群には1%(W/V)メチルセルロース液を同様に投与した。
【0038】
(評価方法)
光照射1日後、マウスに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、ポータブルERG&VEP LE−3000(株式会社トーメーコーポレーション)を用いてElectroretinogram(ERG;網膜電位図)を測定し(測定条件:刺激輝度3000 cd/m、刺激時間10 msec、背景光輝度0 cd/m)、得られた波形からa波およびb波の振幅を算出した。その後、式3及び4に従い、光照射が引き起こすa波及びb波の振幅減少(視細胞障害)に対する、評価薬物の抑制率(%)を算出した。化合物A及び化合物Bの結果を図2に示す。なお各投与群の例数は1群あたり4乃至8であり、その平均値を抑制率算出に用いた。
【0039】
[式3] a波視細胞障害抑制率(%)=(AAZ−AAY)/(AAX−AAY)×100
AX:正常群(無処置)のa波振幅
AY:光照射+基剤投与群のa波振幅
AZ:光照射+薬物投与群のa波振幅
[式4] b波視細胞障害抑制率(%)=(ABZ−ABY)/(ABX−ABY)×100
BX:正常群(無処置)のb波振幅
BY:光照射+基剤投与群のb波振幅
BZ:光照射+薬物投与群のb波振幅

【表2】

【0040】
表2から明らかなように、化合物A及び化合物Bが、マウス光障害モデル動物における視細胞障害を抑制することが示された。以上の結果から、化合物Aまたは化合物Bに代表されるPPARαアゴニストが、視細胞障害が関与する網脈絡膜疾患において優れた視細胞障害抑制効果を有し、これらの化合物が加齢黄斑変性、特に萎縮型加齢黄斑変性、又は、網膜色素変性症などの視細胞障害が関与する網脈絡膜疾患に対して予防又は治療効果を有することが示された。
【0041】

[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0042】
処方例1 点眼剤
100ml中
化合物A 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に化合物A及びそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合し溶解又は懸濁して点眼液を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【0043】
処方例2 点眼剤
100ml中
化合物B 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に化合物B及びそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合し溶解又は懸濁して点眼液を調製する。化合物Bの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【0044】
処方例3 眼軟膏
100g中
化合物B 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリン及び流動パラフィンに、化合物Bを加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。化合物Bの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/w)の眼軟膏を調製できる。
【0045】
処方例4 錠剤
100mg中
化合物A 1mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg
化合物A、乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウム及びヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、化合物Aの添加量、及び、必要に応じ他の添加物の添加量を変えることにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mg、50mgの錠剤を調製できる。
【0046】
処方例5 注射剤
10ml中
化合物B 10mg
塩化ナトリウム 90mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
化合物B及び塩化ナトリウムを滅菌精製水に溶解または懸濁して注射剤を調製する。化合物Bの添加量を変えることにより、10ml中の含有量が0.1mg、10mg、50mgの注射剤を調製できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキシソーム増殖剤活性化レセプターαアゴニストを有効成分として含有する網脈絡膜疾患の予防又は治療剤。
【請求項2】
該アゴニストがフェノフィブレート、KRP−101,GW7647、WY−14643、又はそれらの塩である、請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
該アゴニストがフェノフィブレート、GW7647、又はそれらの塩である、請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項4】
網脈絡膜疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、増殖性硝子体網膜症、未熟児網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、錘体ジストロフィー、網膜剥離、又は網膜色素変性症である請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項5】
網脈絡膜疾患が加齢黄斑変性、ポリープ状脈絡膜血管症、網膜血管腫状増殖、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫又は網膜色素変性症である、請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項6】
投与形態が点眼投与、硝子体内投与、結膜下投与、結膜嚢内投与、テノン嚢下投与又は経口投与である請求項1〜5いずれか1記載の予防又は治療剤。
【請求項7】
剤型が、点眼剤、眼軟膏、挿入剤、貼布剤、注射剤、錠剤、細粒剤又はカプセル剤である請求項1〜5いずれか1記載の予防又は治療剤。

【公開番号】特開2010−235535(P2010−235535A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86810(P2009−86810)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】