説明

PPARα刺激物質を有効成分とするNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤及び当該活性化剤を含有する医薬

【課題】PPARαを介した、新たな活性化機構に基づく薬剤又は医薬を提供すること。
【解決手段】ペルオキシソーム増殖応答性受容体α(PPARα)刺激物質を有効成分とするNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤、並びに、該NO産生及び/又はcGMP合成活性化剤を含有する医薬又は消化器官粘液分泌促進用医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、ペルオキシソーム増殖応答性受容体α(以下、「PPARα」ともいう)刺激物質を有効成分とするNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤及び当該活性化剤を含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アラキドン酸は、生体内に存在する必須脂肪酸で、種々の生理機構に関与していることが知られている。
【0003】
これまで、アラキドン酸が、細胞内の信号経路に関わることは知られていたが、その具体的なメカニズムは明らかにされていなかった(非特許文献1参照)。
【0004】
一方、アラキドン酸は、生体内の代謝経路において、プロスタグランジンやトロンボキサン、ロイコトリエン等の生理活性物質の出発物質となることが知られている。このアラキドン酸の代謝をインドメタシンにより阻害すると、細胞内のアラキドン酸の蓄積により胃粘液分泌が増加することが報告されている(非特許文献2参照)。
【0005】
一方、ペルオキシソーム増殖応答性受容体(PPAR)は、遺伝子群の転写を介して細胞機能を制御することが知られている(非特許文献3参照)。しかし、転写を介さない作用機構については明らかにされていない。
【非特許文献1】Biochem.J., 370, pp.439-448,(2003)
【非特許文献2】Exp.Physiol., 91.1, pp.249-259,(2006)
【非特許文献3】Toxicological Science, 90(2), pp.269-295,(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、PPARαを介した、新たな活性化機構に基づく医薬を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、アラキドン酸が、PPARα受容体を介して、直接胃粘液分泌を増強していることを見出し、更に鋭意検討を重ねて本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の活性化剤及び医薬に関する。
【0008】
項1:ペルオキシソーム増殖応答性受容体α(PPARα)刺激物質を有効成分とするNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤。
【0009】
項2:PPARα刺激物質が、長鎖脂肪酸及びフィブラート系薬剤からなる群から選ばれる1以上の物質である項1に記載のNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤。
【0010】
好ましくは、炭素数12〜30の長鎖脂肪酸であるPPARα刺激物質を有効成分とするNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤。別言すると、炭素数12〜30の長鎖脂肪酸を有効成分とするPPARαを介したNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤。
【0011】
項3:項1又は2に記載のNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤を含有する医薬。
【0012】
項4:消化器官粘液分泌促進用医薬である項3に記載の医薬。
【0013】
好ましくは、消化器官粘液分泌促進薬、消化器官粘膜保護薬又は消化性潰瘍予防乃至治療薬である項3に記載の医薬。
【0014】
更に好ましくは、胃粘液分泌促進薬、胃粘膜保護薬又は胃潰瘍予防乃至治療薬である項3に記載の医薬。
【0015】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
【0016】
PPARα刺激物質
PPARα刺激物質は、PPARαと結合して、細胞内信号を伝達可能な物質から適宜選択することができる。例えば、PPARα刺激物質としては、長鎖脂肪酸及びフィブラート系物質からなる群から選ばれる1以上の物質等が挙げられる。
【0017】
長鎖脂肪酸としては、アラキドン酸、リノール酸、エイコサペンタエン酸、ETYAなどの炭素数12〜30程度、特に12〜26程度の飽和又は不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0018】
フィブラート系物質としては、クロフィブラート、WY14643、フェノフィブラート、ベザフィブラートなどが含まれる。
【0019】
このうち、特に、アラキドン酸、リノール酸、エイコサペンタエン酸などの長鎖脂肪酸又はそれらの代謝物が、即効性があること、また代謝が早く、副作用を生じにくいと考えられることなどから好適に用いられる。
【0020】
NO産生及び/又はcGMP合成活性化剤
本発明のNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤は、PPARα刺激物質を有効成分とする。
【0021】
PPARα刺激物質により、PPARαが刺激されると、NO合成酵素が刺激されてNO産生が活性化し、それにより、cGMP合成が活性化する。このようなNO-cGMPを介した活性化機構により、生体内の様々な生理機能が調整される。
【0022】
即ち、本発明のNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤は、PPARαを介したNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤とも換言できる。
【0023】
上記活性化機構により奏される作用としては、消化器官粘液分泌促進、線毛運動活性化、血管平滑筋弛緩などが挙げられる。
【0024】
本発明の活性化剤の有効成分として用いるPPARα刺激物質は、1種の化合物であってもよく、2種以上の化合物からなる混合物であってもよい。
【0025】
例えば、本発明の活性化剤は、長鎖脂肪酸及びクロフィブラート系物質からなる群から選ばれる1又は2種以上のPPARα刺激物質を有効成分とすることができる。
【0026】
本発明のNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤は、PPARα刺激物質のみからなるものであってもよく、それを有効成分として薬学上又は衛生上許容される担体又は添加物等の他の成分が配合されているものであってもよい。
【0027】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、他のNO産生及び/又はcGMP合成活性化作用やそれらの増強作用を有する化合物を含んでもよい。
【0028】
本発明の活性化剤は、PPARα刺激物質を有効成分として含んでいることから、PPARαを介してNO産生及び/又はcGMP合成を活性化する作用を奏する。
【0029】
医薬
本発明の医薬は、上記本発明のNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤を含む。
【0030】
例えば、本発明の医薬は、上記NO産生及び/又はcGMP合成活性化剤の有効成分であるPPARα刺激物質を、遊離形、塩または溶媒和物の形態で含有する。
【0031】
本発明の医薬は、NO産生及び/又はcGMP合成活性化剤そのものからなるものであってもよいし、それを有効成分として薬学上又は衛生上許容される担体又は添加物等の他の成分が配合されているものであってもよい。
【0032】
また、本発明の医薬には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の薬学的活性成分を配合することもできる。
【0033】
かかる他の成分の種類及び配合量は、本発明の効果を損なわないことを限度として、医薬の剤型又は適用対象に応じて、適宜選択調整することができる。
【0034】
本発明の医薬は、上記成分を含むものとして、公知の方法により適宜製造することができる。
【0035】
本発明の医薬の形態も特に制限されず、適用される製品等の剤型、形態、用途等に応じて適宜調製することができる。
【0036】
本発明の医薬の剤型の種類も、特に制限されず、投与対象、投与経路、投与方法等によって適宜設定し得る。例えば、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、あるいはシロップ剤等の経口用剤が挙げられる。
【0037】
本発明の医薬における活性化剤の割合は、投与対象、剤型、投与方法等によって異なり、一律に規定することはできないが、通常、組織内におけるPPARα刺激物質の濃度が10nM〜100μM程度、更には10nM〜10μM程度、特に100nM〜10μM程度となることをもたらすような量で設定される。
【0038】
本発明の医薬は、上記NO産生及び/又はcGMP合成活性化剤を含有するものであり、PPARα刺激によるNO-cGMPを介した活性化機構により奏される作用、例えば、消化器官粘液分泌促進、線毛運動活性化、血管平滑筋弛緩等を奏する。
【0039】
これにより、本発明の医薬は、消化器官粘液分泌促進用医薬、消化器官粘膜保護薬、消化性潰瘍予防・治療薬、線毛運動活性化薬、血管平滑筋弛緩薬等として使用し得る。
【0040】
消化器官粘液分泌促進用医薬
本発明の消化器官粘液分泌促進用医薬は、上記本発明のNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤を含む。
【0041】
例えば、本発明の粘液分泌促進用医薬は、上記NO産生及び/又はcGMP合成活性化剤の有効成分であるPPARα刺激物質を、遊離形、塩または溶媒和物の形態で含有する。
【0042】
本発明の粘液分泌促進用医薬の対象とする消化器官には、胃、小腸、大腸などが含まれる。
【0043】
本発明の粘液分泌促進用医薬の作用は、例えば、粘液分泌の指標として、粘液細胞からの開口放出頻度を測定することにより、確認することができる。
【0044】
粘液細胞からの開口放出頻度を測定する方法としては、消化器官粘液細胞を取り出し、顕微鏡下に直接観察する方法が挙げられる。粘液顆粒内にはムチンが蓄えられており、屈折率が異なるため容易に顕微鏡下で識別することができる。開口放出が起こると粘液顆粒膜が細胞膜と癒合し、内容物が細胞外に放出される。そのため、ムチン放出と入れ替わりに顆粒内に細胞外液が流入する。細胞外液とムチンでは屈折率が異なるため、顕微鏡下では急激な屈折率の変化に伴う輝度変化として観察することができる。この輝度変化の数を数えることにより、粘液細胞から放出されたムチン(粘液の主成分)量として、粘液分泌の指標とすることができる。
【0045】
本発明の粘液分泌促進用医薬は、このような方法で測定される、粘液細胞からの開口放出頻度を増強する作用を有する。
【0046】
本発明の粘液分泌促進用医薬は、NO産生及び/又はcGMP合成活性化剤そのものからなるものであってもよいし、それを有効成分として薬学上又は衛生上許容される担体又は添加物等の他の成分が配合されているものであってもよい。
【0047】
また、本発明の粘液分泌促進用医薬には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の消化器官粘膜保護剤や、酸分泌抑制剤などの薬学的活性成分を配合することもできる。
【0048】
かかる他の成分の種類及び配合量は、本発明の効果を損なわないことを限度として、医薬の剤型又は適用対象に応じて、適宜選択調整することができる。
【0049】
本発明の粘液分泌促進用医薬は、上記成分を含むものとして、公知の方法により適宜製造することができる。
【0050】
本発明の粘液分泌促進用医薬の形態も特に制限されず、適用される製品等の剤型、形態、用途等に応じて適宜調製することができる。
【0051】
本発明の粘液分泌促進用医薬の剤型の種類も、特に制限されず、投与対象、投与経路、投与方法等によって適宜設定し得るが、例えば、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、あるいはシロップ剤等の経口用剤が挙げられる。
【0052】
本発明の粘液分泌促進用医薬における活性化剤の割合は、投与対象、剤型、投与方法等によって異なり、一律に規定することはできないが、通常、組織内におけるPPARα刺激物質の濃度が10nM〜100μM程度、更には10nM〜10μM程度、特に100nM〜10μM程度となることをもたらすような量で設定される。
【0053】
本発明の粘液分泌促進用医薬は、上記NO産生及び/又はcGMP合成活性化剤を含有するものであり、PPARα刺激によるNO-cGMPを介した活性化機構により奏される粘液分泌作用を有する。このような作用により、本発明の消化器官粘液分泌促進用医薬は、消化器官粘膜保護薬、消化性潰瘍予防乃至治療薬等としても使用し得る。
【発明の効果】
【0054】
本発明により、PPARαを介して、NO-cGMPが関与する細胞内信号経路を活性化される新たな活性化機構が明らかになった。
【0055】
本発明によれば、当該活性化機構を利用した新たな医薬並びにその利用方法が提供される。即ち、本発明によれば、PPARα刺激物質を有効成分とするNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤、及び当該活性化剤を含有する医薬が提供される。
【0056】
特にPPARα刺激物質として、アラキドン酸やエイコサペンタエン酸などの長鎖脂肪酸を用いる場合、これらは胃粘膜の粘液細胞に直接吸収され、PPARαを介して直接胃粘液分泌を増強する。従って、本発明により低濃度で即効性のある効果を奏する医薬が得られる。更に、それらは代謝も早いことから副作用のほとんどない医薬が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明をより詳細に説明するために、実施例や比較例等を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0058】
<材料及び測定方法>
溶液及び化合物
溶液Iとして、塩化ナトリウム(NaCl)121mM、塩化カリウム(KCl)4.5mM、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)25mM、塩化マグネシウム(MgCl2)1mM、塩化カルシウム(CaCl2)1.4mM、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸ナトリウム(Na-HEPES)5mM、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(H-HEPES)5mM及びグルコース5mMを含む溶液を調製した。
【0059】
アスピリン(ASA)、8-ブロモ-cGMP(8-BrcGMP)はSigma社から購入した。
【0060】
アセチルコリン(ACh)は第一製薬株式会社から購入した。
【0061】
アラキドン酸(AA)、PKI、ETYA(5,8,11,14-Eicosatetraynoic Acid)、WY14643、MK886、Rp-8Br-PET-cGMPS、L-NAME、コラゲナーゼ(細胞分散液用,180-220U/mg)及びBSA(牛血清アルブミン)は和光純薬工業株式会社から購入した。
【0062】
全ての試薬はDMSOに溶解し、使用直前に最終濃度に希釈した。DMSOの濃度は0.1%を超えないようにした。この濃度内ではDMSOは胃幽門線粘液細胞(antral mucous cells)の分泌に影響を与えない。
【0063】
細胞の調製
体重250g以下のHartley strain雄モルモットを清水実験動物株式会社から購入し、標準実験動物用飼料及び水を与えた。それらのモルモットをペントバルビタールナトリウムの腹腔内注射により麻酔をかけ、その後、頸椎脱臼により屠殺した。当該実験は大阪医科大学の動物試験委員会により承認を受けたものであり、委員会のガイドラインに沿って行った。
【0064】
胃幽門部を切り出し 、saline液(4℃)中で、ガラススライドを使用して、粘膜層を筋層から取り除いた。取り除いた粘膜を細かく切断し、0.1%コラゲナーゼ及び2%BSAを含む溶液I中で10分間37℃でインキュベートした。消化した粘膜を150μm径のナイロンメッシュで濾過、洗浄した。細胞は2%BSAを含む溶液I(4℃)中に浮遊させた。細胞は4℃で保管し、3時間以内に実験で使用した。
【0065】
開口分泌の測定
単離した胃幽門線粘膜細胞を、細胞接着剤Cell-Tak(Becton Dickinson Labware)でコートしたカバーグラス上に載せた。このカバーグラスを、ビデオ変換コントラスト(VEC)システム(ARGUS-10,浜松ホトニクス)に接続された微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡(BX50Wi,オリンパス)のステージ上に載せた灌流装置にセットした。画像はビデオレコーダーを使って継続的に記録した。実験は37℃で行った。灌流装置の体積は20μlで、流速は200μl/分とした。粘液顆粒の輝度変化で検出されるムチン放出量(顆粒数)を、30秒ごと5〜6細胞でカウントし、単位時間ごとの細胞あたりの数(個/1細胞/30秒)として定量化した。
【0066】
各実験は4〜7回行い、放出量は平均値±標準誤差(SEM)で得られた値で表した。実験から得られた結果の統計的な比較においては、初期分泌相(Initial peak frequency)を用いた。ここで、初期分泌相は、ACh刺激開始から2分以内に得られる最大粘液開口分泌速度の値とした。
【0067】
<実験例>
実験手順
粘膜細胞を、溶液I(10mL)中で、混合気体(95%酸素、5%二酸化炭素)で通気しながら、10分間インキュベートした。次いで、被験物質、及び、アセチルコリン(ACh)を投与して、更にインキュベートした。
【0068】
AChは、正常の状態の迷走神経刺激の代わりに使用するものであり、ACh濃度は、1 μM又は10μMとした。1μMはやや弱い刺激を示すものであり、増強効果を調べるためにこの濃度を使用した。また、10μMは最大刺激を示すものであり、抑制効果を調べるためにこの濃度を使用した。
【0069】
上述の方法により粘液細胞における粘液顆粒からのムチン放出量(顆粒数)を30秒間数え、細胞1個あたりに換算した値(個/1細胞/30秒)を用い、粘液分泌に対する作用を調べた。
【0070】
例1
被験物質として、PPARaの刺激物質であるアラキドン酸(AA)を用いて、開口放出(粘液分泌)増強作用を調べた。
【0071】
(1a)被験物質として、2μMのAAを投与して5分間インキュベートし、1μMのAChを投与して更にインキュベートした。また、コントロールとして、AChのみを投与して同様の実験を行った。図1Aに測定結果を示す。その結果、図1Aに示されるように、2μM のAAは、1 μMの AChによる開口放出反応を約2倍に増強することがわかった。
【0072】
(1b)Achの濃度を、10μMに変える以外は、1aと同様に実験を行った。図1Bに測定結果を示す。その結果、2μM のAAは10μMのAChによる開口放出反応に対して20-30%の増強しか示さなかった。これは、それ以上に増強できないことを示すものと考えられた。
【0073】
(1c)cGMPの作用はcAMPとリンクすることがあるため、AAによる効果がcAMPに関連する効果であるかを調べるため、cAMP依存性の蛋白リン酸化酵素(PKA)の阻害薬であるPKIを存在させてAAの開口放出に対する効果を調べた。1μMのPKIを予め存在させておく以外は、1bと同様にして実験を行った。図1Cに測定結果を示す。その結果、PKIを存在させてcAMP信号を完全に抑制した条件においても、AAは開口放出を増強することがわかった。
【0074】
(1d)1cの実験結果を確かめるために、cAMPの活性化の主たる経路であるプロスタグランジンE2産生を阻害するアスピリン(ASA)を用いて実験を行った。10μMのASAを予め存在させておく以外は、1bと同様に実験を行った。図1Dに測定結果を示す。その結果、1cと同様に、ASAを存在させた条件下でも、AAは開口放出を増強することがわかった。
【0075】
これらの結果から、AAは、cAMPでなく、cGMP経路を介して粘液細胞の開口放出を増強することが確認された。
【0076】
例2
被験物質として、PPARaの刺激物質であるETYAと、WY14643を用いて開口放出増強作用を調べた。
【0077】
(2a)2μMのAAに代えて、2nMのEYTAを用いる以外は、1aと同様に実験を行った。結果を図2Aに示す。その結果、ETYAはAAと同程度に胃粘液分泌を増強した。
【0078】
(2b)更に、2aの実験において、2nMのEYTAに2μMのAAを更に加えて同様に実験を行った。図2Bに測定結果を示す。その結果、ETYAの増強効果がさらに大きくなることはなかった。この結果、ETYAとAAが同じ部位に働いていると考えられた。
【0079】
(2c)2μMのAAに代えて、1μMのWY14643を用いる以外は、1aに示す実験と同様に実験を行った。図2Cに結果を示す。その結果、図2Cに示されるように、WY14643は、AAと同程度に胃粘液分泌を増強した。
【0080】
例3
PPARαを介する効果であるかを確認するため、PPARaの阻害薬MK886を存在させて、開口放出増強作用を調べた。
【0081】
(3a)50μMのMK886を予め存在させておく以外は、1aと同様にして実験を行った。また比較のために、MK886を存在させない以外は同様の実験を行った。また、AChのみを投与して実験を行った。図3Aに測定結果を示す。その結果、50 μM MK886によりAAの開口放出増強作用は完全に阻害されることがわかった。
【0082】
(3b)2μMのAAに代えて、2nMのEYTAを用いる以外は、3aと同様にして実験を行った。また比較のために、MK886を存在させない以外は同様の実験を行った。結果を図3Bに示す。その結果、50 μM MK886によりEYTAの開口放出増強作用は完全に阻害されることがわかった。
【0083】
(3c)2μMのAAに代えて、1μMのWY14643を用いる以外は、3aと同様にして実験を行った。また比較のために、MK886を存在させない以外は同様の実験を行った。結果を図3Cに示す。その結果、50 μM MK886によりWY14643の開口放出増強作用は完全に阻害されることがわかった。
【0084】
図3A〜Cに示されるように、50 μM MK886により各PPARα刺激物質の開口放出増強作用は完全に阻害されることがわかった。
【0085】
(3d)WY14643を用いてMK886の阻害作用の濃度依存性を調べた。図3Dに結果を示す。これから50 μMの濃度ではWY14643による開口放出の増強効果が完全に抑制されていることが示された。
【0086】
例4
cGMP依存性蛋白リン酸化酵素(PKG)の阻害薬であるRp-8Br-PET-cGMPSを用いて、開口放出(粘液分泌)の増強作用を調べた。Rp-8Br-PET-cGMPS(500nM)は完全にPKGを阻害することが報告されている(Wei et al. Biochemitry 35, 16815, 1996)。
【0087】
また、細胞外から非代謝性でかつ膜透過型のcGMP(8BrcGMP)を十分量添加して、人為的に細胞内cGMPを増加させた状態で開口放出増強作用を調べた。
【0088】
(4a)500nMのRp-8Br-PET-cGMPS を予め存在させておく以外は、1aと同様にして実験を行った。また比較のために、Rp-8Br-PET-cGMPSを存在させずに同様の実験を行った。結果を図4Aに示す。その結果、AAによる胃粘液分泌の増強効果はRp-8Br-PET-cGMPSにより完全に抑制された。
【0089】
(4b)200μMの8BrcGMPを予め存在させておく以外は、1aと同様にして実験を行った。結果を図4Bに示す。その結果、8BrcGMPを投与し、人為的に細胞内cGMPを増加させた条件下では、AAの粘液分泌を増強させる作用は観察されなかった。
【0090】
このことから、AAが、cGMPの産生を増加させることにより開口放出を増強していることがわかった。
【0091】
(4c)2μMのAAに代えて、2nMのEYTAを用いる以外は、4aと同様にして実験を行った。また比較のために、Rp-8Br-PET-cGMPSを存在させずに同様の実験を行った。結果を図4Cに示す。
【0092】
(4d)2μMのAAに代えて、1μMのWY14643を用いる以外は、4aと同様にして実験を行った。また比較のために、Rp-8Br-PET-cGMPSを存在させずに同様の実験を行った。結果を図4Dに示す。
【0093】
図4C及び4Dに示されるように、ETYA, WY14643の増強効果もRp-8Br-PET-cGMPSにより完全に抑制された。
【0094】
例5
NO合成酵素の阻害剤L-NAMEを存在させて、開口放出(胃粘液分泌)の増強作用を調べた。
【0095】
(5a)100μMのL-NAME を予め存在させておく以外は、1aと同様にして実験を行った。また比較のために、L-NAMEを存在させずに同様の実験を行った。結果を図5Aに示す。
【0096】
(5b)2μMのAAに代えて、1μMのWY14643を用いる以外は、5aと同様にして実験を行った。また比較のために、L-NAMEを存在させずに同様の実験を行った。結果を図5Bに示す。
【0097】
その結果、L-NAMEはAA, WY14643の粘液分泌増強効果を完全に抑制した。
【0098】
このことから、AA、WY14643はNO合成酵素を刺激して、NO産生を活性化させることにより開口放出を増強していることがわかった。
【0099】
6.上記実験例1〜5から結果から考えられる図式を図6に示した。
【0100】
図6に示されるように、上記実験結果から、AA、ETYA、WY14643などが、PPARαを介して、NO合成酵素を刺激し、 NO産生及び/又はcGMP合成を活性化することが明らかになった。
【0101】
また、PPARαを介したNO産生及び/又はcGMP合成活性化により、粘液細胞の開口分泌増強などの作用が生じることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】AAを用いて開口放出(粘液分泌)増強作用を調べた結果を示す。図1A〜Dの縦軸は、開口放出された顆粒数(個/1細胞/30秒)を示す。図1A〜Dの横軸はACh投与を基準とするインキュベート時間を示す。図1A〜D上部の枠は、投与物質の種類とその濃度を示す。
【図2】ETYAとWY14643を用いて開口放出(粘液分泌)増強作用を調べた結果を示す。図2A〜Cの縦軸は、開口放出された顆粒数(個/1細胞/30秒)を示す。図2A〜Cの横軸はACh投与を基準とするインキュベート時間を示す。図2A〜Cの上部の枠は投与物質の種類とその濃度を示す。
【図3】PPARα阻害薬MK886を存在させて、PPARα刺激物質の開口放出(粘液分泌)の増強作用を調べた結果を示す。図3A〜Dの縦軸は、開口放出された顆粒数(個/1細胞/30秒)を示す。図3A〜Cの横軸はACh投与を基準とするインキュベート時間を示す。図3Dの横軸は、MK886の濃度を示す。図3A〜Cの上部の枠は、投与物質の種類とその濃度を示す。
【図4】図4A、4C、4Dは、cGMP依存性蛋白リン酸化酵素(PKG)の阻害薬を存在させて、開口放出(胃粘液分泌)の増強作用を調べた結果を示す。図4Bは、非代謝性でかつ膜透過型のcGMP(8BrcGMP)を添加して開口放出増強作用を調べた結果を示す。図4A〜Dの縦軸は、開口放出された顆粒数(個/1細胞/30秒)を示す。図4A〜Dの横軸はACh投与を基準とするインキュベート時間を示す。図4A〜Dの上部の枠は投与物質の種類とその濃度を示す。
【図5】NO合成酵素の阻害剤L-NAMEを存在させて、PPARα刺激物質の開口放出(粘液分泌)の増強作用を調べた結果を示す。図5A及びBの縦軸は、開口放出された顆粒数(個/1細胞/30秒)を示す。図5A及びBの横軸はACh投与を基準とするインキュベート時間を示す。図5A及びBの上部の枠は、投与物質の種類とその濃度を示す。
【図6】PPARαを介したNO産生及び/又はcGMP合成活性化機構を図式化した図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキシソーム増殖応答性受容体α(PPARα)刺激物質を有効成分とするNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤。
【請求項2】
PPARα刺激物質が、長鎖脂肪酸及びフィブラート系薬剤からなる群から選ばれる1以上の物質である請求項1に記載のNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のNO産生及び/又はcGMP合成活性化剤を含有する医薬。
【請求項4】
消化器官粘液分泌促進用医薬である請求項3に記載の医薬。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−56627(P2008−56627A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237500(P2006−237500)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(502437894)学校法人大阪医科大学 (8)
【Fターム(参考)】