説明

PPARγ活性化剤

【課題】ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)活性化剤の提供。
【解決手段】下記式(1)


(式中、R及びRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基であり、Rは、水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で示されるPPARγ活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、世界の2007年現在の糖尿病人口は2億4,600万人であり、2025年には3億8,000万人に増加すると予測されている。糖尿病は、未治療の状態、または血糖値管理が不十分の状態で放置すると、三大合併症である神経障害、網膜症及び腎症に加えて、脳梗塞、脳卒中、心筋梗塞、皮膚合併症や下肢合併症など、様々な病気を引き起こすことが知られている。そして、現在、世界中で年間約380万人が、糖尿病に起因して命を落としている。
【0003】
糖尿病の原因の一つに、インスリン抵抗性(グルコース代謝の異常)が挙げられる。インスリン抵抗性とは、インスリンの作用効果が低下している状態であり、場合によっては、血糖を調節しようとして体内のインスリン分泌が過剰になり、高インスリン血症に至る。インスリン抵抗性は、肥満体の人に比較的多く見られる。基礎代謝を上回る栄養分が継続的に細胞に取り込まれると脂肪細胞が肥大化し、これにより、インスリンの働きを向上させる物質(アディポネクチン)の分泌量が減る一方、インスリンの働きを阻害する物質(TNA−αや遊離脂肪酸)が多く分泌されるようになる。そのため、インスリンの作用効果が低下していき、やがて糖尿病を疾患しうる。
【0004】
さらに、インスリン抵抗性は、遺伝的影響、並びに特定の栄養素の欠乏、過剰なカロリー摂取及び運動不足などの環境の影響によって生じるものとされている。インスリン抵抗性は、メタボリックシンドロームの主要な因子の1つであることも分かっている。メタボリックシンドロームとは、空腹時の血糖値が高く、糖尿病、高血圧、異常脂血症、腹部肥満、痛風やアテローム性の動脈硬化などを発症させうる総合的な代謝異常をいう。米国では、約4,700万人もの人間(成人の約4人に1人)がメタボリックシンドロームに罹患していると報告されている(非特許文献1)。
【0005】
インスリン抵抗性を改善する治療薬の成分として、チアゾリジン誘導体が知られている。該治療薬の作用機序について説明すると、該誘導体が受容体であるPPARγに結合し、PPARγの活性を向上させる。PPARとは、ステロイド受容体スーパーファミリーに属する核内受容体タンパク質であり、現在までにα,γ,δの三つのサブタイプが報告されている。このうち、PPARαは、肝臓、膵臓、骨格筋に多く発現し、脂肪酸燃焼を調節し、PPARδは、骨格筋をはじめとする各組織に普遍的に存在し、PPARγは、脂肪細胞の分化に重要な役割を果たしている。活性化されたPPARγは、前駆脂肪細胞を肥大化していない正常な脂肪細胞に分化誘導すると同時に、肥大化した脂肪細胞のアポトーシスを誘導する。分化した脂肪細胞は、アディポネクチンを積極的に分泌するため、糖や脂質の代謝が活発になり、血液中からの糖の取り込みが促進され、インスリン抵抗性を改善する。このような脂肪細胞の働きは、糖尿病のみならず、高脂血症の予防や治療に繋がる。しかし、上記治療薬は、肝機能障害、浮腫、心肥大の副作用を引き起こす問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JAMA,287,p.356−359,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、チアゾリジン誘導体とは異なる構造を有する、PPARγのアゴニスト活性を向上させる安全性の高い物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、下記式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
上記式(1)中、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基であり、
は、水素原子、ヒドロキシル基または炭素数1〜4のアルキル基である、
物質である、PPARγ活性化剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チアゾリジン誘導体とは異なる構造を有する、PPARγのアゴニスト活性を向上させる安全性の高い物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、PPARγ活性化能の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本発明の第1>
本発明の第1は、下記式(1):
【0014】
【化2】

【0015】
上記式(1)中、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基であり、
は、水素原子、ヒドロキシル基または炭素数1〜4のアルキル基である、
物質である、PPARγ活性化剤である。
【0016】
(RおよびR
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基である。ここで、炭素数1〜4のアルキル基としては、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基などが挙げられる。中でも、PPARγ活性を高くするという観点で、ブチル基、プロピル基、エチル基、メチル基が好ましく、より好ましくは、エチル基またはメチル基である。また、炭素数1〜4のアシル基としては、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等が挙げられる。中でも、PPARγ活性を高くするという観点で、ブチリル基、プロピオニル基またはアセチル基が好ましい。
【0017】
およびRとしては、PPARγ活性を高くするという観点で、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、ブチル基、プロピル基、エチル基、メチル基である。より好ましくは、RおよびRは、水素原子、水素原子の組み合せ;水素原子、メチル基の組み合せ;メチル基、メチル基の組み合せ;メチル基、プロピル基の組み合せである。特に好ましくは、RおよびRいずれとも、水素原子の組み合わせである。
【0018】
(R
は、水素原子、ヒドロキシル基または炭素数1〜4のアルキル基である。ここで、炭素数1〜4のアルキル基の具体例は、(RおよびR)で述べた通りである。中でも、Rは、PPARγ活性を高くするという観点で、水素原子、メチル基またはエチル基が好ましく、特に好ましくは、メチル基である。
【0019】
以上より、R〜Rの好ましい組み合わせは、PPARγ活性を高くするという観点で、好ましくは、RおよびRが、水素原子であり、Rが、水素原子、メチル基またはエチル基である組み合せであり;さらに好ましくは、RおよびRが、水素原子であり、Rが、メチル基である組み合せである。
【0020】
なお、上記式(1)で示される物質がPPARγ活性を示すメカニズムは以下の通りと推測される。ただし、本発明の技術的範囲が、かかるメカニズムによって制限されないのは言うまでもない。すなわち、上記式(1)で示される物質が、PPARγのアゴニスト(作動薬)となって作用し、PPARγが核内受容体転写因子であるレチノイドX受容体(RXR)とヘテロダイマーを形成し、標的遺伝子のプロモーター領域にあるPPAR応答配列(PPRE)にリガンド依存的に結合し、標的遺伝子の転写を促進させることにある。
【0021】
なお、前記式(1)で示される物質は、様々な立体異性体が考えられるが、特に好ましくは、以下(2)の構造を有する。
【0022】
【化3】

【0023】
ここで、2’、3’、4’が、それぞれ独立して、逆の立体配置もありうる。
【0024】
前記式(1)で示される物質を準備する方法としては、従来公知の知見を参照し、あるいは組み合わせることによって、合成することができる。あるいは、市販品を購入することによって準備してもよい。市販品としては、シグマ社が型番D5011で市販している、5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシンがある。
【0025】
ここで、前記式(1)で示される物質を準備するための合成方法について説明すると、アデノシンの無水ジメチルホルムアミド溶液に、2,2−ジメトキシプロパン及び無水p−トルエンスルホン酸を加え撹拌し、2’,3’−イソプロピリデンアデノシン(化合物1)を得;ついで、化合物1の無水ピリジン溶液に、p−トルエンスルホニルクロリドを加え撹拌し、2’,3’−イソプロピリデンー5’−(p−トルエンスルホニル)アデノシン(化合物2)を得;ついで、ナトリウムチオメトキシドのジメチルホルムアミド−メタノール溶液に化合物2を加え撹拌し、2’,3’−イソプロピリデンー5’−メチルチオアデノシン(化合物3)を得;最後に、化合物3のテトラヒドロフラン溶液に、0.1Nの塩酸を加えることにより、5’−メチルチオアデノシンを合成することができる。(例えば、特表2007−531724 P23−26に記載の方法を参照し、本明細書に参考として引用される)。
【0026】
特に、前記式(1)中、RおよびRが水素原子であり、Rがメチル基である物質;は、例えば、食品(貴醸酒、清酒)などに含まれる成分であるので、それを抽出して、適宜精製をすることによって、準備してもよい。言い換えれば、前記式(1)で示される物質は、食品(貴醸酒、清酒)などに含まれる成分であり、PPARγ活性化剤として使用する際に、安全性が高いと言える(参考文献:日本醸造協会雑誌 Vol.71, No.6, Page.469-475、日本醸造協会雑誌 Vol.70, No.8, Page.585-587 (1975)、参考文献:生化学辞典、第3版、東京化学同人 P1402)。
【0027】
この安全性の高いPPARγ活性化剤は、前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞への細胞分化促進活性を有し、肥大化脂肪細胞のアポトーシスを誘導するため、本発明の第2で後述もするが、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、肥満症、アルツハイマーなどの予防または治療に用いることができる。
【0028】
<本発明の第2>
本発明の第2は、本発明の第1のPPARγ活性化剤を有効成分として含有する、医薬品である。本発明の第2の医薬品としては、インスリン抵抗性に起因する疾病に対する予防剤若しくは治療剤であれば特に制限させることはなく、例えば、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、肥満症、アルツハイマー(特開2008−285438号公報参照)などに対する予防剤または治療剤などが挙げられる。
【0029】
本発明の第2の医薬品としては、前記本発明の第1のPPARγ活性化剤を単体で、または製薬上許容される担体と配合した、または製薬上許容される溶剤に溶解もしくは懸濁した組成物として、治療の施行前または施行中、または施行後に、経口的または非経口的に患者に投与される。
【0030】
本剤を経口投与用とする場合には、前記本発明の第1のPPARγ活性化剤を単体で、または適当な添加剤、例えば、乳糖、ショ糖、マンニット、トウモロコシデンプン、合成もしくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、セルロース誘導体、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルロースカルシウム、カルボシキメチルセルロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤または希釈剤等と適宜混合して、錠剤、粉剤、乳剤、懸濁剤、液剤、散剤(粉末)、丸剤、および顆粒剤等の固形製剤にすることができる。また、硬質または軟質のゼラチンカプセル等を用いてカプセル剤としてもよい。これらの固形製剤には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、セルロースアセテートフタレート、メタアクリレートコポリマー等の被覆用基剤(コーティング剤)を用いて腸溶性被覆(腸溶性コーティング)を施してもよい。さらに、前記本発明の第1のPPARγ活性化剤を、精製水、生理食塩水等の一般的に用いられる不活性希釈剤に溶解して、必要に応じて、この溶液に浸潤剤、乳化剤、分散助剤、界面活性剤、甘味料、フレーバー、芳香物質等を適宜添加することにより、シロップ剤、エリキシル剤等の液状製剤とすることもできる。
【0031】
また、非経口投与用とする場合には、前記本発明の第1のPPARγ活性化剤を精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理的食塩水、リンガー溶液(リンゲル液)、ロック溶液等の生理的塩類溶液、エタノール、グリセリン及び慣用される界面活性剤等と適当に組み合わせた滅菌された水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソームまたはエマルジョンとして、好ましくは注射用滅菌水溶液として、静脈内、皮下、筋肉内等に投与される。この際、液状製剤は、生理学的なpH、好ましくは6〜8の範囲内のpHを有することが好ましい。また、ローション剤、懸濁剤、乳剤等の液状製剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏等の半固形製剤、散剤、粉剤(粉状)もしくは用時溶解(液状)して塗布するための顆粒剤等の固形製剤として、または貼付剤などの外用剤として、標的部位およびその周辺部位に経皮的に投与してもよい。さらに、ペレットによる埋め込み、または坐薬用基剤を用いた坐薬として投与されることも可能である。上述したうち、好ましい製剤や投与形態等は、担当の医師によって選択される。前記医薬品のローション剤、クリーム剤及び軟膏などの半固形製剤は、前記医薬品を、脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤及び懸濁化剤などよりなる群から選択される一種以上と適宜混和することにより得られる。
【0032】
本発明の第2の医薬品に含まれる、本発明の第1のPPARγ活性化剤の濃度は、投与形態、疾病の種類や重篤度や目的とする投与量などによって様々であるが、一般的には、医薬品の原料の全質量に対して0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜60質量%である。特に、本発明の製剤が経口投与される場合には、医薬品の原料の全質量に対して0.001〜100質量%、好ましくは0.01〜100質量%であり、非経口投与される場合には、医薬品の原料の全質量に対して0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜60質量%であることが好ましい。
【0033】
本発明の第2の医薬品に含まれる、本発明の第1のPPARγ活性化剤の用量は、患者の年齢、体重及び症状、目的とする投与形態や方法、治療効果、および処置期間等によって異なり、正確な量は医師により決定されるものであるが、通常、経口、非経口投与ともに、PPARγ活性化剤の投与量換算で、毎回0.1〜2000mg/kg体重の投与量の範囲である。より好ましくは、PPARγ活性化剤の投与量換算で、毎回0.5〜500mg/kg体重の投与量の範囲である。
【0034】
<本発明の第3>
本発明の第3は、下記式(1):
【0035】
【化4】

【0036】
上記式(1)中、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基であり、
は、水素原子、ヒドロキシル基または炭素数1〜4のアルキル基である、
物質を含む、食品である。
【0037】
本発明の第3において、「食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物が経口摂取可能な形態のものであれば特に制限はなく、その形態も液状物(溶液、懸濁液、乳濁液など)、半液体状物、粉末、または固体成形物のいずれのものであってもよい。このため食品は、例えば飲料の形態であってもよく、また、サプリメントのような栄養補助食品の錠剤形態であってもよい。
【0038】
食品として具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、ジュース、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、ようかん、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、牛乳、乳清飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、プリン、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品;栄養食品などが挙げられる。
【0039】
また、通常の食品原料として使用されているもの、すなわち、デキストリン、セルロース、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料及び保存剤よりなる群から選択される1種以上を適宜配合してもよい。
【0040】
本発明の第3の食品は、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、肥満症に罹患しているか、または罹患していることが疑われる者、あるいは糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、肥満症への罹患のリスクが高い者に対して好適に使用することができる。ここで、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、肥満症への罹患のリスクが高い者としては、例えば、体組成や食生活をはじめとする各種の指標を考慮して、または、健康診断等の診断・診察から、当該リスクが高いと判断された者や、そのようなリスクが高いと本人または周囲の者から認識されるに至った者が含まれる。
【0041】
本発明において「食品」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、栄養機能食品、または、病者用食品のような分類のものも包含される。さらに「食品」という用語は、ヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、飼料を含む意味で用いられうる。ここでいう特定保健用食品とは、体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品で、血圧、血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、おなかの調子を整えるのに役立つなどの特定の保健の用途に資する旨を表示するものをいう。このような食品は、食品が疾病リスクを低減する可能性があること表示した食品、すなわち、疾病リスク低減表示を付した食品であってもよい。ここで、疾病リスク低減表示とは、疾病リスクを低減する可能性のある食品の表示であって、FAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)の定める規格に基づいて、またはその規格を参考にして、定められた表示または認められた表示でありうる。
【0042】
本発明の他の形態によれば、前記式(1)で示される物質を有効量含有する食品であって、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、肥満症を予防および/または改善する機能を有し、その機能表示が付された食品が提供される。ここで食品に付される機能表示は、例えば、製品の本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかに付することができる。
【0043】
本発明の第3の食品の製造にあたっては、通常の食品の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤、安定剤などを適宜添加することができる。食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術を参照して実施することができる。
【0044】
本発明の第3の食品に含まれる、前記式(1)で示される物質の含有量は、各食品の組成などによって様々であるため特に限定されることはないが、前記食品の全質量に対して0.0001〜50質量%であることが好ましく、0.0001〜10質量%であることがより好ましい。上記した範囲内の場合、食事療法などの効果が有意に向上しうる。
【0045】
上記、本発明の第1〜第3で述べたように、上記式(1)で示される物質が、PPARγ活性を示し、インスリン抵抗性を改善する治療薬の成分として用いられることによって、つまり、本発明の第2の医薬品または本発明の第3の食品として用いられることによって、以下の機構を有する。すなわち、上記式(1)で示される物質がペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)に結合し、核内受容体転写因子であるレチノイドX受容体(RXR)とヘテロダイマーを形成し、標的遺伝子のプロモーター領域にあるPPAR応答配列(PPRE)にリガンド依存的に結合し、標的遺伝子の転写を促進させ、前駆脂肪細胞を肥大化していない正常な脂肪細胞(成熟脂肪細胞(小型脂肪細胞))に分化促進する。また、肥大化した脂肪細胞(肥大化脂肪細胞)のアポトーシスを誘導する。分化した脂肪細胞は、アディポネクチンを積極的に分泌するため、糖や脂質の代謝が活発になり、血液中からの糖の取り込みが促進され、インスリン抵抗性を改善する。
【0046】
なお、本発明の範囲は、上記した実施態様に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0047】
本発明について、下記の実施例によりさらに詳細に説明するが、当該実施例はあくまで例示にすぎず、本発明は以下に限定されることはない。
【0048】
<実施例1>
1.1
5’−デオキシ−5’−メチルチオアデノシン(MTA;シグマ社 型番D5011)をジメチルスルホキシド(DMSO)で1000μg/mLになるように、溶解させた。
【0049】
1.2 COS−1細胞の形質転換および被検試料の添加
COS−1細胞をトリプシン処理により回収し、1000rpm、4℃で、3分間遠心分離した後、上清を除去した。得られた細胞を、2mlの培地(DMEM培地)に分散して、60mm培養シャーレ(Corning社)に5×10cell/wellの密度で播いた後、37℃、5% CO存在下にて、24時間、培養した。
【0050】
形質転換には、Effectene Transfection Reagent(QIAGEN 社)を使用した。即ち、1.5mlのチューブに、Buffer EC 150μl、pM−hPPARγ−GAL4 1μg、pUASg−tk−Luc 1μg、pSEAP−control vector 1μg、及び最後にEnhancer 24μlを入れ、ボルテックス(vortex)で1秒間攪拌した。25℃で3分間放置した後、Effecteneを25μl加え、ボルテックス(vortex)で10秒間攪拌した後、25℃で7分間放置した。この間に、60mm培養シャーレの培地(DMEM培地)を除去し、新しく培地(DMEM培地)を4ml入れて培地交換をした。7分後、1.5mlのチューブに培地を1ml加え、2回、ピペッティングにより懸濁して60mm培養シャーレに全量を滴下し、37℃、5% CO存在下にて、16時間、培養した。
【0051】
形質転換した細胞をトリプシン処理により回収し、1000rpm、4℃で、3分間、遠心分離した後、上清を除去した。得られた細胞を、10mlの培地(DMEM培地)に懸濁して96well plate(NUNC)に125μl/well播き、37℃、5% CO存在下にて、1〜2時間、培養した。その後、1.2で調製した被検試料を最終濃度250μg/mLとなるように添加し、穏やかに攪拌して、37℃、5% CO存在下にて、24時間培養した。
【0052】
1.3 Luciferase活性測定
1.2における、被検試料添加から24時間後、96well plateから培地を25μl/well回収し、96well white plateに移した。その後、残りの100μl/wellに、37℃にて融解したルシフェラーゼ(Luciferase)活性測定用溶液を100μl/well添加し、暗所にて35分間反応させた後、それぞれのLuciferaseの発光強度(下記式中の、「被検試料のLuciferase発光強度」)を測定した。なお、上記方法において、比較対照として、被検試料を添加する代わりにDMSOを添加する以外は、同様の実験を行った(下記式中の、「DMSOのLuciferase発光強度」)。また、Luciferase活性測定用溶液は、下記に従って調製された。
【0053】
1.4 Secreted alkaline phosphatase(SEAP)活性の測定
1.2における、被検試料添加から24時間後、96well plateから回収した培地25μl/wellに、1×Dillution Buffer 25μl/wellを添加した。セロハンテープで蓋をした後、穏やかに攪拌し、65℃で30分間、放置した。その後、4℃に冷却し、25℃に戻してから、Assay Buffer 90μl/wellを添加して、穏やかに攪拌した。25℃で5分間放置し、MUP solution 10μl/wellを添加して、穏やかに攪拌した。暗所にて25℃で60分間反応させた後、4−methyl umbelliferoneに基づくSEAPの蛍光強度(Ex=360nm、Em=460nm)(下記式中の、「被検試料のSEAP蛍光強度」)を測定した。なお、上記方法において、比較対照として、被検試料を添加する代わりにDMSOを添加する以外は、同様の実験を行った(下記式中の、「DMSOのSEAP蛍光強度」)。また、1×Dillution Buffer、Assay Buffer及びMUP solutionは、1.5に従って調製された。
【0054】
1.5 試薬の調製法
1.3で使用されるLuciferase活性測定用溶液は、以下のようにして調製した。すなわち、60mM Tricine−NaOH(pH7.8)、16mM (MgCOMg(OH)・5HO(塩基性MgCO)、0.4mM EDTA、10% Surfact−Amps X−100(Thermo)、0.5mM D−Luciferin potassium salt(ナカライテスク)、1.5mM Adenosine 5’−triphosphate(SIGMA)、0.5mM Coenzyme A(SIGMA)、及び0.1mM β−Mercapto ethanolを超純水で調製し、10ml程度ずつ分注して使用直前まで−20℃に保存した。
【0055】
また、1.4で使用される1×Dillution Bufferは、以下のようにして調製した。すなわち、使用直前に、5×Dillution BufferをHOで希釈した。ここで、5×Dillution Bufferは、NaCl 4.38g、Tris 2.42gを90mlの超純水で溶解することによって調製した。12N HClを加えてpH7.2に調整し、使用直前まで4℃で保存した。
【0056】
また、1.4で使用されるAssay Bufferは、以下のようにして調製した。すなわち、L−homoarginine 0.9g、MgCl0.04gを超純水158mlに溶解し、diethanolamine 42mlを加えた。12N HClを加えてpH9.8に調整し、使用直前まで4℃で保存した。
【0057】
また、1.4で使用されるMUP solutionは、以下のようにして調製した。すなわち、1×Dillution Buffer 2.7μl/well、Assay Buffer 7μl/well、10×MUP 0.3μl/wellを混ぜた。10×MUP、4−methylumbelliferyl phosphate(MUP)2.56mgを超純水1000μlで溶解し、使用直前まで−20℃にて保存した。
【0058】
1.6 PPARγ活性化能の評価
1.3で測定されたLuciferaseの発光強度、および1.4で測定されたSEAPの蛍光強度から、下記数式1に従いPPARγ活性化能を算出した。結果、9373であった。PPARγ活性化能の結果を図1に示す。
【0059】
【数1】

【0060】
<実施例2>
最終濃度を125μg/mLとなるように添加した以外は、実施例1と同様に実験を行い、PPARγ活性化能を算出した。結果、6080であった。PPARγ活性化能の結果を図1に示す。
【0061】
<実施例3>
最終濃度を63μg/mLとなるように添加した以外は、実施例1と同様に実験を行い、PPARγ活性化能を算出した。結果、3348であった。PPARγ活性化能の結果を図1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

上記式(1)中、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基であり、
は、水素原子、ヒドロキシル基または炭素数1〜4のアルキル基である、
物質である、PPARγ活性化剤。
【請求項2】
およびRが、水素原子であり、
が、水素原子、メチル基またはエチル基である、請求項1に記載のPPARγ活性化剤。
【請求項3】
およびRが、水素原子であり、
が、メチル基である、請求項2に記載のPPARγ活性化剤。
【請求項4】
前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞への細胞分化促進活性を有し、肥大化脂肪細胞のアポトーシスを誘導する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のPPARγ活性化剤。
【請求項5】
糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、肥満症またはアルツハイマーの予防または治療に用いられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のPPARγ活性化剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のPPARγ活性化剤を有効成分として含有する、医薬品。
【請求項7】
糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症、肥満症またはアルツハイマーの予防または治療に用いられる、請求項6に記載の医薬品。
【請求項8】
下記式(1):
【化1】

上記式(1)中、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアシル基であり、
は、水素原子、ヒドロキシル基または炭素数1〜4のアルキル基である、
物質を含む、食品。
【請求項9】
健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、栄養機能食品または病者用食品である、請求項8に記載の食品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−184176(P2012−184176A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46966(P2011−46966)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】