説明

PPARリガンド活性を有する組成物

【課題】 本発明は肝臓、骨格筋、脂肪組織における脂肪酸代謝を調節することにより、末梢組織でのインスリン感受性に影響を与える血中遊離脂肪酸やアディポサイトカインの分泌を調節することで抗肥満、インスリン抵抗性改善、血清脂質低下作用を発揮し、動脈硬化性危険因子が一個人に集積するメタボリックシンドロームの予防および改善に役立つ組成物を提供する。

【解決手段】 ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸および/又はこれらヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を、脂肪酸構成成分として少なくとも1つを含むグリセリドをPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドとして含有し、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満、高脂血症、動脈硬化および冠動脈疾患の予防又は改善のための組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PPARαおよび/又はPPARγリガンド活性を有するヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を含有することを特徴とする組成物に関する。さらに詳細には、肝臓、骨格筋、脂肪組織における脂肪酸代謝を調節することにより、末梢組織でのインスリン感受性に影響を与える血中遊離脂肪酸やアディポサイトカインの分泌を調節することで抗肥満、インスリン抵抗性改善、血清脂質低下作用を発揮し、動脈硬化性危険因子が一個人に集積するメタボリックシンドロームの予防および改善に役立つPPARαおよび/又はγリガンドであるヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を含有することを特徴とする組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食生活の欧米化、慢性的な運動不足といった生活習慣により、肥満とくに内臓脂肪の蓄積が問題視されており、内臓脂肪の蓄積は耐糖能異常、高脂血症、高血圧など生活習慣病を引き起こす要因であることが明らかとなった。また近年これら4つの病態が一個人に重積する病態であるメタボリックシンドロームを呈する患者が増加している。メタボリックシンドロームの改善には、食事療法、運動療法あるいは禁煙や飲酒量の調整など種々の生活習慣の改善が必須であるとされ、これらを遵守するため患者のQOLの著しい低下は否めなかった。一方、最近の分子生物学的なアプローチにより肝臓、骨格筋、脂肪細胞に働きかけ、インスリン抵抗性を改善し、ひいては上記に挙げたような生活習慣病全般の予防、治療効果を有する核内レセプターであるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome proliferators activated receptor:PPAR)が発見され、創薬を目的としてのPPARリガンドに関する探索研究が盛んに行われるようになった(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。
【0003】
PPAR(Peroxisome proliferators activated receptor)はリガンド依存的に転写活性を調節する核内受容体の一種であり、これまでに3種類のアイソフォーム(α、γ、δ)の存在が知られている。PPARαは肝臓や骨格筋に高発現することが知られており、高脂血症薬として知られるフィブラート系の薬剤はPPARαのリガンドとして働き、肝臓での脂肪酸代謝を促進させて血清脂質低下作用を示すほか、動脈硬化の発症に対して抑制的に働くHDL−コレステロールの上昇作用を有することが知られている(非特許文献4参照)。またフィブラート系の薬剤であるフェノフィブラートは上記の作用の他に、ラットにおいて摂餌量を変えず体重増加を抑制することが知られている(非特許文献5参照)。また2型糖尿病治療薬として知られるチアゾリジンジオン誘導体はPPARγを活性化し、脂肪細胞の分化を促進しアディポサイトカインの分泌量を正常に近づける他、骨格筋や肝臓での脂質代謝を改善してインスリン感受性を改善し、脂肪組織での脂肪酸の取り込みを促進する(非特許文献4参照)。PPARδはほぼ普遍的に組織に発現することが知られており、近年脂肪組織や骨格筋の脂肪酸代謝に関与すること、PPARδ選択的リガンドが抗肥満、インスリン抵抗性改善作用を持つことが報告されている(非特許文献6参照)。 このようにPPARリガンドは脂肪酸代謝を調節することにより、肥満、インスリン抵抗性、高脂血症に対する治療効果を発揮する。
【0004】
現在、臨床ではインスリン抵抗性改善薬としてチアゾリジンジオン誘導体が使用されているが、チアゾリジンジオン誘導体は強力なインスリン抵抗性改善作用を示す一方で、脂肪組織重量の増加による体重増加や、体液貯留による浮腫など副作用が認められることがある。これらのことより、チアゾリジンジオン誘導体に認められる体重増加などの副作用が少ない薬剤、あるいは脂肪組織への脂肪蓄積を抑制する目的で、肝臓や骨格筋での脂肪酸代謝を亢進させるPPARαやPPARδの活性化能をPPARγ活性化能と併せ持つ薬剤(デュアルリガンド)の開発が進められている(非特許文献4参照)。
実際に、PPARαリガンドおよびPPARγリガンド活性能を合わせ持つ薬剤(PPARα/γデュアルリガンド)としてのDRF2655は、2型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスにおいて、PPARαリガンドおよびPPARγリガンド活性を示し、血清脂質低下作用、インスリン抵抗性改善、体重増加抑制効果を示し、メタボリックシンドロームの改善効果が期待されている薬剤である(非特許文献7参照)。
【0005】
このような背景をもとに、身近な食品成分についても注目が集まっており、これまでポップに含まれるフムロン類(特許文献1参照)やハーブに含まれるイソプレノール類(非特許文献8参照)などPPARαリガンドおよびPPARγリガンド活性を有する成分について報告がなされている。
これまでに不飽和脂肪酸であるリノール酸、アラキドン酸、ドコサへキサエン酸、エイコサペンタエン酸などもPPARα及びγリガンド活性を有することが知られているが(非特許文献9)、その活性化能は弱く、不飽和結合を有するため過酸化を受けやすいなど安定性に問題がある。また生体内にて酵素反応等で生成される(内因性)PPARリガンドとして、アラキドン酸よりシクロオキシゲナーゼによって生成される15d−delta−12,14−PGJ2がPPARγのリガンド活性を有していること、またリポキシゲナーゼによって生成される8(S)−ヒドロキシエイコサテトラエン酸(8−HETE)がPPARαリガンドの活性を有していること、アラキドン酸から生成されるロイコトリエンB4がPPARαリガンド活性を有していることが報告されている。またリノール酸の過酸化反応により生成される9−ヒドロキシオクタジエン酸(9−HODE)、13−ヒドロキシオクタジエン酸(13−HODE)がPPARγリガンド活性を有していることが報告されている(非特許文献10)。これらリノール酸(炭素数18)、アラキドン酸(炭素数20)から生成される内因性のPPARリガンドは、ヒドロキシル基、エポキシ基を含む脂肪酸であり、不飽和結合を2つ以上含むヒドロキシ不飽和脂肪酸およびエポキシ不飽和脂肪酸と言える。
【0006】
ところで、天然物においてもヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸が存在することが知れられている(非特許文献11)。その中で代表的なものとして、ヒマシ油にはリシノール酸(12−ヒドロキシ−9−オクタデセン酸)が豊富に含まれており、水素添加によりヒマシ硬化油(12−ヒドロキシステアリン酸)が工業的に生産され、化粧品、ワックス等に利用されている。またサルシード原油にはジヒドロキシステアリン酸やエポキシステアリン酸を含有するトリグリセリドが存在することが知られている。またヒドロキシステアリン酸は不飽和結合を有さないため安定であり、これまでに12−ヒドロキシステアリン酸と中鎖脂肪酸を構成成分とするトリグリセリド(特許文献2参照)、ジヒドロキシステアリン酸を構成成分とするトリグリセリド(特許文献3参照)について、ヒドロキシ脂肪酸の低吸収性を利用した低カロリー油脂、低吸収性油脂に関する報告がなされている。
しかし、これら天然に存在するヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸についてPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドとしての活性、またそれを示唆するような脂肪細胞分化に関する活性やβ酸化酵素の活性化に関わる活性については報告がされていない。またこれら天然に存在するヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸について、体脂肪蓄積や肝脂肪蓄積抑制効果、抗肥満、インスリン抵抗性改善効果および糖尿病改善効果、脂質代謝改善による高脂血症改善効果についてはいずれも開示されていない。

【非特許文献1】船橋徹「メタボリックシンドロームの診断」医学のあゆみ Vol213(6),573−578,(2005),医歯薬出版
【非特許文献2】坂田利家「肥満症の治療」医学のあゆみ Vol213(6),601−548,(2005), 医歯薬出版
【非特許文献3】島野仁「PPARsの機能と病態」ザ・リピッド Vol.13,12−13,(2002),メディカルレビュー社
【非特許文献4】田中十志也「PPAR作動薬の将来」メタボリックシンドローム 病態の分子生物学,141−155,(2005),南山堂
【非特許文献5】Chaput E. et al. BBRC, 271, 445−450,(2000)
【非特許文献6】酒井寿郎「PPARδと代謝症候群」細胞工学Vol.23,NO2, 165−168,(2004),秀潤社
【非特許文献7】Vikramadithyan RK. et al. Obes Res. , 11(2), 292−303, (2003)
【非特許文献8】Takahashi N et al.FEBS Letters,514,315−322,(2002)
【非特許文献9】Krey G.et al. Mol Endocrinol.,11(6),779−91,(1997)
【非特許文献10】Delerive P et al.,FEBS Letters,471,34−38,2000
【非特許文献11】THE LIPD HANDBOOK,19−22
【非特許文献12】Wilson R. et al,European journal of clinical investigation,32,79−83,(2002)
【特許文献1】特開2004−224795号公報
【特許文献2】特許第3119895号
【特許文献3】特開2001−149012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は肝臓、骨格筋、脂肪組織における脂肪酸代謝を調節することにより、末梢組織でのインスリン感受性に影響を与える血中遊離脂肪酸やアディポサイトカインの分泌を調節することで抗肥満、インスリン抵抗性改善、血清脂質低下作用を発揮し、動脈硬化性危険因子が一個人に集積するメタボリックシンドロームの予防および改善に役立つPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドを有する組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸が優れたPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンド活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸からなる群から選択される1種以上の脂肪酸をPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドとして含有することを特徴とする組成物。
(2)ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸がヒドロキシ飽和脂肪酸、エポキシ飽和脂肪酸である請求項1記載の組成物。
(3)ヒドロキシ飽和脂肪酸、エポキシ飽和脂肪酸がヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ジヒドロキシパルミチン酸、エポキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシステアリン酸、エポキシステアリン酸、ヒドロキシベヘン酸、ジヒドロキシベヘン酸からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項2記載の組成物。
(4)ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸がヒドロキシ不飽和脂肪酸、エポキシ不飽和脂肪酸である請求項1記載の組成物
(5)ヒドロキシ不飽和脂肪酸、エポキシ不飽和脂肪酸がヒドロキシデセン酸、エポキシオレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、ジヒドロキシオクタデセン酸、エポキシオクタデセン酸からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項4記載の組成物。
(6)請求項1〜5のいずれかに記載のヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を、脂肪酸構成成分として少なくとも1つ含むモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドからなる群から選択される少なくとも1種をPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドとして含有する組成物。
(7)インスリン抵抗性、糖尿病、肥満、高脂血症、動脈硬化および冠動脈疾患の予防または改善する作用を有する請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
(8)請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする飲食品。
(9)請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする医薬品。
(10)
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明のPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンド活性を有するヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を含有することを特徴とする組成物は、骨格筋、脂肪組織における脂肪酸代謝を調節することにより、末梢組織でのインスリン感受性に影響を与える血中遊離脂肪酸やアディポサイトカインの分泌を調節する。よって、本発明のPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンド活性を有するヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を含有する組成物は、抗肥満、インスリン抵抗性改善、血清脂質低下作用を発揮し、動脈硬化性危険因子が一個人に集積するメタボリックシンドロームの予防および改善のための医薬品、飲食品として利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で、ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸とは水酸基またはエポキシ基をひとつまたはそれ以上含む脂肪酸を指し、脂肪酸部に不飽和結合を含まないヒドロキシ飽和脂肪酸、エポキシ飽和脂肪酸、不飽和結合を含むヒドロキシ不飽和脂肪酸、エポキシ不飽和脂肪酸に分けられる。またヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸の炭素数は8から22が好ましく、ヒドロキシル基、エポキシ基をひとつまたはそれ以上含み、その位置は限定されない。

さらに具体的には、ヒドロキシ飽和脂肪酸、エポキシ飽和脂肪酸が2−ヒドロキシカプリル酸、8−ヒドロキシカプリル酸、2−ヒドロキシカプリン酸、10−ヒドロキシカプリン酸、12−ヒドロキシラウリン酸、2−ヒドロキシミリスチン酸、6−ヒドロキシミリスチン酸、2−ヒドロキシパルミチン酸、3−ヒドロキシパルミチン酸、10−ヒドロキシパルミチン酸、9,10−エポキシパルミチン酸、9,10−ジヒドロキシパルミチン酸、2−ヒドロキシステアリン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、スレオ−9,10 −ジヒドロキシステアリン酸、 エリスロ−9,10−ジヒドロキシステアリン酸、シス−9,10− エポキシステアリン酸、トランス−9,10−エポキシステアリン酸、11,12−ジヒドロキシベヘン酸である。 ヒドロキシ不飽和脂肪酸、エポキシ不飽和脂肪酸が10−ヒドロキシ−2−デセン酸、12,13−エポキシオレイン酸、9,10−エポキシ−12−オクタデセン酸、12−ヒドロキシ−9−オクタデセン酸、12,13−ジヒドロキシオレイン酸である。
下記に一般式(I)〜(VI)で表される一部のヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸の構造式を示す。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
【化6】

【0018】
本発明のPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドであるヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸は、その薬学的に許容される塩とすることができる。このような塩の好ましい例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ金属およびアルカリ土類金属塩、あるいは酸付加塩などが挙げられる。
また、本発明のPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドであるヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸は溶媒和物とすることができる。このような溶媒和物としては、水和物、アルコール和物およびアセトン和物などが挙げられる。
本発明のPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドであるヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸は脂肪酸の形態のみならず、公知のエステル交換反応などグリセリドを合成する手法および油脂の分別操作により、これら脂肪酸を、脂肪酸構成成分として少なくとも1つ含むモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドとして利用することができる。これまでにエポキシステアリン酸についてヒトでの消化吸収が報告されており(非特許文献12)、ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を含有するグリセリドは、消化吸収された後、遊離脂肪酸を生じることで本発明のPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンド活性を発揮する。
【0019】
本発明のPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドであるヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸およびそれらを含有するグリセリドを製造する方法としては、微生物によるオレイン酸からの製造、アルコールやアセトン、ヘキサンなどの有機溶媒にて油脂を分別する溶媒分別、溶媒を用いない乾式分別、水蒸気蒸留、分子蒸留が挙げられる。これらの製造方法により、遊離脂肪酸としてのヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸、あるいはヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を含有する各種グリセリドとして得ることができる。
【0020】
本発明の組成物は、薬学的に許容される担体とともに含んでなる医薬品として提供することができる。この医薬品は、具体的には、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満、高脂血症、動脈硬化および冠動脈疾患などの予防および治療剤として適用される。
医薬品として用いる場合には、前記のヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸は、経口または非経口(例えば、静注、筋注、皮下投与、腹腔内投与、直腸投与、経皮投与など)のいずれかの投与経路で、ヒトおよびヒト以外の動物に投与することができる。また、投与経路に応じて適当な剤形とすることができる。具体的には主として静注、筋注などの注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、トローチ錠などの経口剤、直腸投与剤、油脂性坐剤、水性坐剤などの各種製剤形態に調製することができる。
これらの各種製剤は通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、浸潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤などを用いて常法により製造することができる。賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット、結晶セルロースなどが、崩壊剤としては、例えば澱粉、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウムなどが、結合剤としては、例えばメチルセルロースまたはその塩、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが、滑沢剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、硬化植物油などが、その他の添加剤としては、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硝酸ソーダ、リン酸ナトリウムなどがそれぞれ挙げられる。
【0021】
本発明の組成物は、飲食品に添加して前記のような疾患の予防または改善のための飲食品として提供できる。飲食品の形態としては特に制限はなく、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシングなどに用いられる油脂全般、栄養ドリンク、紅茶、緑茶などの飲料、錠菓、ゼリー状などの菓子の他、麺、パン、米飯などの穀類加工品、ソーセージ、ハム、かまぼこなどの練り製品、バター、ヨーグルトなどの乳製品、ふりかけ、調味料などが挙げられる。
【0022】
本発明の組成物は、皮膚外用剤に添加して前記のような疾患の予防または改善のための皮膚外用剤として提供できる。本明細書において、「皮膚外用剤」とは、外皮(頭皮を含む)に適用する外用剤を意味するものであり、例えば、外皮に適用される化粧料、医薬品、医薬部外品等を含む。また、その剤型も、水溶液系、可溶化系、乳化系、ゲル系、エアゾール系など、任意の剤型を含む。例えば本願発明の皮膚外用剤はクリーム製剤とすることができる。
【0023】
本発明の医薬品における有効成分としての投与量または摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせなどに依存して決定できる。例えば、本発明による有効成分を医薬として肥満、高脂血症、動脈硬化、慢性心疾患などを予防、改善するために経口投与する場合、通常成人1日1人当り0.5-100mg/kg体重(好ましくは1〜50mg/kg体重)、非経口的に投与する場合は0.05-50mg/kg体重(好ましくは0.5-50mg/kg体重)の投与量であり、これを1日1回または数回に分けて投与することができる。
また飲食品として摂取する場合に、飲食品中の有効成分としての含有量は通常0.0001〜100重量%、好ましくは1〜95重量%、程度であり、有効成分として成人1日1人当たり30mg−30g間の範囲(好ましくは300mg−28.5g)の摂取量となるように摂取すればよい。
また本発明の医薬品あるいは飲食品中のいずれにおいても、有効成分としてのヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸の組成は単一、もしくは2種以上の混合物でもよいし、これらヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸の少なくとも1つを脂肪酸構成成分とするグリセリドの形でもよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0025】
実施例1
医薬品の配合例
(例1)錠組成物
以下に示す配合比率にて、各物質をよく混合し、この混合物を打錠して一錠300mgの錠組成物を得た。

ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリド 250.0mg
トウモロコシデンプン 14.5mg
結晶セルロース 25.0mg
カルボキシメチルセルロース 10.5mg

(例2)カプセル組成物
以下に示す配合比率にて、各物質をよく混合したものをカプセルに充填してカプセル組成物を得た。

ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリド 150.0mg
乳糖 70.0mg
トウモロコシデンプン 38.0mg
ステアリン酸マグネシウム 2.0mg

(例3)散剤
以下に示す配合比率にてまずヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリドと乳糖をよく混合した後、ヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒する。これを乾燥後に整粒し、軟質無水ケイ酸を加えてさらによく混合して、散剤を得た。

ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリド 200mg
乳糖 791.0mg
ヒドロキシプロピルセルロース 4.0mg
軟質無水ケイ酸 5.0mg

(例4)注射剤
以下に示す配合比率にて、まずヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリドをポリオキシエチレン硬化ヒマシ油によく混合した後、無水エタノールを適量加えて全量1mLとして注射剤を得た。この溶液を生理食塩水で希釈することにより投与が可能となる。

ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリド 200.0mg
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 200.0mg
無水エタノール適量
【0026】
実施例2
飲食品の配合例
(例1)食用調合油脂
以下の配合比率にて、攪拌機を用いて溶解を行い、食用調合油脂を製造した。

ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリド 10.0g
大豆油 90.0g

(例2)マーガリン
以下の材料を混合し、コンビネーターを用い急冷混捏処理してマーガリンを得た。
菜種油 37.0g
ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリド 2.0g
菜種硬化油 42.0g
水 17.0g
食塩 0.5g
レシチン 0.5g
モノグリセリド 0.4g
香料適量
カロチン微量

(例3)ドレッシング
以下の配合比率にて、まず大豆サラダ油、ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリドを除く原料を攪拌機付の加温可能な容器に投入し、プロペラ攪拌機を用いて攪拌しながら品温が90℃まで加熱し、品温を90℃に保持しながら25分間攪拌した。その後品温が20℃になるまで冷却して大豆サラダ油、ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリドと合わせてドレッシングを得た。
水 46.6g
キサンタンガム 0.1g
果糖ぶどう糖液 5.0g
食塩 5.0g
MSG 0.3g
米酢 10.0g
こしょう適量
ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリド 10.0g
大豆サラダ油 22.0g

(例4)マヨネーズ
以下の配合比率でまず大豆サラダ油、ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリド、加塩卵黄を除く原材料を混合攪拌しながら90℃まで加熱し、90℃に保持しながら25分間攪拌を行った。20℃まで冷却した後、大豆サラダ油、ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有トリグリセリド、加塩卵黄を合わせて減圧下で攪拌し、マヨネーズを得た。

大豆サラダ油 45.0g
ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸トリグリセリド 30.0g
水 8.4g
砂糖 1.0g
グルタミン酸ナトリウム 0.3g
粉末マスタード 0.3g
食塩 1.0g
米酢 4.0g
加塩卵黄 10.0g
【0027】
(試験例1)ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸のPPARα、PPARγリガンド活性測定
レポータージーンアッセイを用いてPPARα、PPARγリガンド活性を測定した。ヒトPPARα、PPARγのリガンド結合部位配列と酵母の転写因子であるGAL-4のDNA結合タンパクのキメラ分子を発現するレポータープラスミドを作製し(pBIND−PPARα、pBIND−PPARγ)、これらとGAL−4のDNA結合配列の下流にホタルルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだプラスミド(pG5−luc)とを、アフリカミドリザル腎臓細胞(CV−1細胞)にFuGene6(Roche社)を用いて一過性にトランスフェクションした。尚、pBIND−PPARベクターにはトランスフェクション効率を補正するためのウミシイタケルシフェラーゼが組み込まれていた。既存のPPARリガンドおよびヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸をジメチルスルフォキシドに溶解して、トランスフェクションした細胞に添加し、24時間後にルシフェラーゼの発光を測定してリガンド活性を求めた。尚、PPAR依存的な遺伝子の転写活性(PPARリガンド活性)は以下のように定義した。
PPAR依存的な遺伝子の転写活性(PPARリガンド活性)=(pG5-lucによるホタルルシフェラーゼ活性)/(pBIND−PPARによるウミシイタケルシフェラーゼ活性)

図1にコントロールにおける転写活性を1としたときのヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸のPPARαリガンド活性を示す。尚ここで言うコントロールとはジメチルスルフォキシドのみを添加したものを言う。各ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸とも濃度依存的にPPARαリガンド活性を有しており、不飽和脂肪酸としてオレイン酸、リノール酸より強いリガンド活性を有しており、また現在臨床で利用されているPPARαリガンドであるベザフィブラートと同程度もしくはそれ以上の活性化能を有していることが明らかとなった。
図2にコントロールにおける転写活性を1としたときのヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸PPARγリガンド活性を示す。尚ここで言うコントロールとはジメチルスルフォキシドのみを添加したものを言う。各ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸とも濃度依存的にPPARγリガンド活性を有しており、不飽和脂肪酸としてオレイン酸、リノール酸より強いリガンド活性を有していることが明らかとなった。

図1、図2に示した結果より、各ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸はPPARαおよびγリガンド活性を有していることが明らかとなった。
【0028】
(試験例2)ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を含有する組成物A、組成物Bの体脂肪率低減効果
PPARαおよびγのリガンド摂取により、脂質代謝が改善され肝臓脂肪率、体脂肪率、脂肪組織重量の減少が期待される。食餌性肥満誘発マウスにおいてヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸の効果を確認するため以下の実験を行った。ICRマウス6週齢雄性マウスを各群15匹、3群に分け1週間の予備飼育後、表1記載の高脂肪食で4週間飼育した。飼育中、組成物A、組成物Bを1%カルボキシメチルセルロースに溶解して1日1回、経口投与した。投与した組成物A、組成物B中の3種のヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸含有量を表2に示す。また組成物A、組成物BのPPARαおよびγリガンド活性を試験例1と同様の方法で測定した。
【表1】


【表2】


またコントロール群にはカルボキシメチルセルロースのみを投与した。4週間飼育後、ペントバルビタール麻酔を行い、体脂肪率、肝臓脂肪率をPIXImus2(GEルナー社製)で測定した。測定後、鼠径部脂肪組織、腸間膜脂肪組織を摘出し重量を測定した。
表3に示すように組成物Aおよび組成物BはそれぞれPPARαおよびγリガンド活性を有していた。また表4に示すようにコントロール群に比べ組成物A投与群については体脂肪率、肝臓脂肪率、鼠径部脂肪組織重量に有意な減少を認め、組成物B投与群において有意な体脂肪率、鼠径部脂肪組織重量、腸間膜脂肪組織重量の低下を認めた。これらの結果より、PPARαおよびγリガンド活性を有するヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を含む組成物を摂取することにより、体脂肪率、肝臓脂肪率、鼠径部脂肪組織重量および腸間膜脂肪組織重量の減少が認められ、これらの効果はヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸によりPPARαおよびγが活性化され、脂質代謝の改善がされたことによると推察された。
【表3】


【表4】





【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のPPARαおよびγリガンド活性を有するヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を含有することを特徴とする組成物は、肝臓、骨格筋、脂肪組織における脂肪酸代謝を調節することにより、末梢組織でのインスリン感受性に影響を与える血中遊離脂肪酸やアディポサイトカインの分泌を調節することで抗肥満、インスリン抵抗性改善、血清脂質低下作用を発揮し、動脈硬化性危険因子が一個人に集積するメタボリックシンドロームの予防および改善のための医薬品、飲食品として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】試験例1における、脂肪酸およびヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸のPPARαリガンド活性を表すグラフである。
【図2】試験例1における、脂肪酸およびヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸のPPARγリガンド活性を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸からなる群から選択される1種以上の脂肪酸をPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドとして含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸がヒドロキシ飽和脂肪酸、エポキシ飽和脂肪酸である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ヒドロキシ飽和脂肪酸、エポキシ飽和脂肪酸がヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ジヒドロキシパルミチン酸、エポキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシステアリン酸、エポキシステアリン酸、ヒドロキシベヘン酸、ジヒドロキシベヘン酸からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項2記載の組成物。
【請求項4】
ヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸がヒドロキシ不飽和脂肪酸、エポキシ不飽和脂肪酸である請求項1記載の組成物
【請求項5】
ヒドロキシ不飽和脂肪酸、エポキシ不飽和脂肪酸がヒドロキシデセン酸、エポキシオレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、ジヒドロキシオクタデセン酸、エポキシオクタデセン酸からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のヒドロキシ脂肪酸、エポキシ脂肪酸を、脂肪酸構成成分として少なくとも1つ含むモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドからなる群から選択される少なくとも1種をPPARαリガンドおよび/又はPPARγリガンドとして含有する組成物。
【請求項7】
インスリン抵抗性、糖尿病、肥満、高脂血症、動脈硬化および冠動脈疾患の予防または改善する作用を有する請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−51732(P2009−51732A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359113(P2005−359113)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】