説明

PPAR活性化剤

【課題】肥満予防・改善、体脂肪燃焼促進、脂肪酸代謝活性化、インスリン抵抗性予防・改善、糖尿病予防・改善、脂質異常症予防・改善、脂肪肝予防・改善、動脈硬化予防・改善、持久力向上、心肥大予防・改善、虚血性心疾患予防・改善に有効なペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)活性化剤の提供。
【解決手段】豆腐を発酵させることによって製造される中国の伝統的な発酵食品の総称である腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とするPPARα又はPPARδ活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満予防・改善、体脂肪燃焼促進、脂肪酸代謝活性化、インスリン抵抗性予防・改善、糖尿病予防・改善、脂質異常症予防・改善、脂肪肝予防・改善、動脈硬化予防・改善、持久力向上、心肥大予防・改善、虚血性心疾患予防・改善に有効なペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(Peroxisome Proliferator Activated Receptor、PPARと記載する)活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ステロイド、甲状腺ホルモン、レチノイドなどの低分子脂溶性リガンドはリガンド特異的な核内受容体を介して、個体発生における形態形成、細胞の増殖、分化、生体の恒常性の維持など多様な生理機能の調節に関与している。PPARは核内受容体の1種であり、1990年に脂肪分解に関与する細胞内小器官であるペルオキシソームを増加させる作用を仲介する蛋白として同定され、ペルオキシソーム増殖剤により活性化を受けるレセプターという意味でPeroxisome Proliferator Activated Receptorα(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体:PPARα)と名付けられた。その後α型と構造上類似したアイソフォーム遺伝子としてδ型及びγ型が同定され、合計3つのサブタイプから成ることが知られている。
【0003】
PPARの各サブタイプはリガンド依存的に活性化され、9−シスレチノイン酸をリガンドとするRXR(Retinoid X Receptor)とヘテロ2量体を形成することで、プロモーター領域にPPAR応答配列(PPAR responsivelement;PPRE)を有する種々の遺伝子の発現を制御している(非特許文献1及び2)。
例えば、脂肪酸β酸化の鍵酵素として知られるACO(Acyl-CoA oxidase)のPPREを用いたレポーターアッセイがなされており、それによると、PPARリガンドとして知られるリノール酸は、PPARα、δ、γのそれぞれを介してACO転写活性を亢進することが報告されている(非特許文献3)。
以下で述べるように、近年、PPARは非常に多くの生理、病理現象に関わっていることが明らかになってきた。
【0004】
具体的には、PPARαの機能は脂肪酸の合成・輸送・分泌、脂肪消費臓器におけるATP産生等幅広く生体のエネルギー代謝や恒常性の維持に関わるものと考えられている。特に脂肪酸代謝に重要なβ酸化関連酵素 (ACO,HMG-CoA synthase,Acyl-CoA synthase,Medium chain acyl-CoA dehydrogenase,Fatty acid binding protein,Lipoprotein lipase等)の遺伝子発現はPPARαの活性化に強く依存していることが明らかになっている。PPARαは肝臓、心臓、腎臓等での発現が高く、PPARα活性化剤はこれらの臓器の脂質代謝の活性化に有効であると広く認識されている。
【0005】
PPARαの活性化に伴う脂肪酸代謝の活性化は、肝臓脂肪の分解、脂肪肝の改善、内臓脂肪や皮下脂肪等の体脂肪の分解・燃焼の促進、肥満の抑制につながると考えられる。PPARα活性化剤として知られるフィブラート系の薬剤は、脂肪酸燃焼の促進作用、HDLコレステロール増加作用、そして最近ではアディポネクチン受容体発現増加作用等を持つことが明らかとなってきており、インスリン非依存性糖尿病の高血糖症、脂質異常症、高血糖症、アテローム性動脈硬化症等の治療薬として広く用いられている(非特許文献4、特許文献1及び2)。また、PPARα活性化剤が心肥大や虚血性心疾患に効果があることが報告されている(非特許文献5、6)。
【0006】
従って、PPARα活性化剤は、肥満の予防・改善、体脂肪の燃焼促進、脂肪酸代謝の活性化、インスリン抵抗性の予防・改善、糖尿病の予防・改善、脂質異常症の予防・改善、脂肪肝の予防・改善、動脈硬化の予防・改善、心肥大や虚血性心疾患の予防・改善等に広く有効であると考えられており、近年、PPARα活性化剤の探索、開発も盛んに行われている(特許文献3〜5)。
【0007】
PPARδ(別名:PPARβ、NUC1、FAAR)は1992年にクローニングされて以来、長らく機能が明らかにされていなかったが、近年、遺伝子改変動物を用いた研究やPPARδ選択的な作動薬の開発などにより様々な生理機能を持つことが明らかになってきた。PPARδを過剰発現させたマウスを用いた検討では、高脂肪食負荷による体重増加の抑制、脂肪重量の減少、血中中性脂肪の減少、脂肪肝の抑制が認められている(非特許文献7)。PPARδ選択的な作動薬であるGW501516を肥満アカゲザルに投与した実験では、HDLコレステロールを上昇させ、中性脂肪、LDLコレステロールを低下させた(非特許文献8)。
【0008】
また、GW501516を骨格筋由来細胞に作用させ、細胞の遺伝子発現への影響を検討した結果では、脂肪酸の取り込みや輸送、ミトコンドリアのβ酸化系酵素、脱共役タンパク質等の脂肪酸代謝関連遺伝子の発現を誘導することが示されている。さらにGW501516を投与したマウスにおいては、脂肪組織特異的PPARδ過剰発現マウスと同様に高脂肪食負荷による体重増加の抑制、脂肪重量の減少が認められ、インスリン抵抗性改善効果を示すことも明らかにされている。このマウスの骨格筋においては脂肪酸代謝関連遺伝子および脂肪酸β酸化の誘導が確認されていることから、PPARδの活性化によって、骨格筋のエネルギー消費が増大することにより末梢組織中の脂肪蓄積が抑制され、それによりインスリン抵抗性が改善されるのではないかと考えられている(非特許文献9)。また、遺伝的肥満マウスにGW501516を投与することにより、膵島の肥大が抑制されたことから、膵島の保護作用があると考えられている(非特許文献9)。
【0009】
また、骨格筋特異的にPPARδを過剰発現することにより、肥満やインスリン抵抗性が抑制されることが報告されている。さらに驚くことに、このマウスの骨格筋では一般的に赤筋と呼ばれるミトコンドリアを多く含む持久性の高い筋繊維の割合が非常に高くなっており、その結果、このマウスは、コントロールマウスの約2倍の距離を走ることができるという大変優れた持久力を持つマウスであることが示されている(非特許文献10)。従って、PPARδの活性化は、運動持久力の向上に有効であると考えられるようになった。
【0010】
また最近では、肝臓においてPPARδがインスリン感受性を制御しているという報告もなされており、そのメカニズムとして、PPARδの活性化が肝臓の解糖系およびペントースリン酸回路の活性化を介して肝臓からのグルコースの供給を減少させ、インスリン感受性を増加することが示唆されている(非特許文献11)。
【0011】
このように、PPARδの活性化は、HDLコレステロールの上昇、LDLコレステロールの低下、肥満の抑制、インスリン抵抗性の改善/インスリン感受性の向上、脂肪酸代謝の活性化、体脂肪の燃焼促進、血中中性脂肪の減少、脂肪肝の抑制、持久力の向上等につながる事から、PPARδの活性化剤は、肥満の予防・改善剤、体脂肪の燃焼促進剤、脂肪酸酸化活性化剤、インスリン抵抗性の予防・改善剤、脂質異常症予防・改善剤、脂肪肝の予防・改善剤、動脈硬化の予防・改善剤、持久力向上剤として有効であると考えられている。
そのため、このような目的でPPARδ活性化剤の探索、開発も盛んに行われ、これまでにフラボン類、フェノキシ酢酸誘導体等が報告されている(特許文献6及び7)。
【0012】
PPARγは栄養が十分にある状態でエネルギー貯蔵に作用し、いわゆる倹約遺伝子として働く分子である。特にPPARγ2は脂肪細胞に比較的強い特異性を持って発現しており、脂肪細胞分化の中心的役割を果たしていることが明らかになっている。PPARγのリガンドとして知られるチアゾリジン誘導体は脂肪細胞分化を強力に誘導することにより、脂肪細胞を小型化してインスリン感受性を高めることが知られており、インスリン抵抗性改善剤、糖尿病治療薬として広く使用されている。しかし、チアゾリジン誘導体の投与は体重や脂肪重量を増やし、肥満を誘導する問題点も指摘されている(非特許文献12)。
【0013】
このように、PPAR活性化剤は、肥満の予防・改善、体脂肪の燃焼促進、脂肪酸代謝の活性化、インスリン抵抗性の予防・改善、糖尿病の予防・改善、脂質異常症の予防・改善、脂肪肝の予防・改善、動脈硬化の予防・改善、持久力向上、心肥大の予防・改善や虚血性心疾患の予防・改善などに広く有効であり、いわゆる生活習慣病や内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)の予防・改善にも有効であると考えられる。
【0014】
腐乳は、豆腐を発酵させて製造される中国の伝統的な大豆発酵食品であり、製造される地域により様々な種類が存在するが、主に紅腐乳、白腐乳、臭豆腐の3種類に分けられる。腐乳は、蛋白質、脂質、多様なアミノ酸、炭水化物、ビタミン類(ビタミンB群など)、ミネラル類(カルシウム、リンなど)などを含む、栄養価に富む食品である。
しかしながら、腐乳がPPAR活性化に関与することや、肥満の抑制、体脂肪の燃焼促進、脂肪酸代謝の活性化等に有効であることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2002-502869号公報
【特許文献2】特表2002-533410号公報
【特許文献3】特開2001-354558号公報
【特許文献4】特開2002-80362号公報
【特許文献5】特開2003-34636号公報
【特許文献6】特開2007-119429号公報
【特許文献7】特表2007-536343号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】細胞:31(6)218-234, 1999
【非特許文献2】J Lipid Res. 37, 907-925, 1996
【非特許文献3】J Biol Chem. 274, 23368-23377, 1999
【非特許文献4】Curr Opin Lipidol. 10, 151-159, 1999
【非特許文献5】Endcrinology 144, 4187-4194, 2003
【非特許文献6】Circulation 108, 2393-2399, 2003
【非特許文献7】Cell. 113, 159-170, 2003
【非特許文献8】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98, 5306-5311, 2001
【非特許文献9】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100, 15924-15929, 2003
【非特許文献10】PloS Biol. 2, e294, 2004
【非特許文献11】Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 103, 3444-3449, 2006
【非特許文献12】Diabetes. 49, 759-767, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、優れたPPAR活性化作用を有し、且つ安全性の高い食品、医薬品又は医薬部外品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、食経験が豊富な天然物素材の中から、腐乳の疎水性溶媒抽出物にPPARα活性化作用及びPPARδ活性化作用があり、肥満予防・改善、体脂肪燃焼促進、脂肪酸代謝活性化、インスリン抵抗性予防・改善、糖尿病予防・改善、脂質異常症予防・改善、脂肪肝予防・改善、動脈硬化予防・改善、持久力向上、心肥大予防・改善、虚血性心疾患予防・改善等の効果を発揮する食品、医薬品又は医薬部外品の有効成分として配合する素材として有用であることを見出した。
【0019】
すなわち、本発明は以下の発明に係るものである。
〔1〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とするPPARα及び/又はPPARδ活性化剤。
〔2〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする肥満の予防・改善剤。
〔3〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする体脂肪の燃焼促進剤。
〔4〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする脂肪酸代謝の活性化剤。
〔5〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とするインスリン抵抗性の予防・改善剤。
〔6〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする糖尿病の予防・改善剤。
〔7〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする脂質異常症の予防・改善剤。
〔8〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする脂肪肝の予防・改善剤。
〔9〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする動脈硬化予防・改善剤。
〔10〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする持久力向上剤。
〔11〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする心肥大の予防・改善剤。
〔12〕腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする虚血性心疾患の予防・改善剤。
〔13〕腐乳の疎水性有機溶媒抽出物を調製することによるPPARα及び/又はPPARδ活性化剤の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のPPAR活性化剤は、優れたPPAR活性化作用を有し、かつ長期間摂取しても安全性も高いことから、肥満予防・改善、体脂肪燃焼促進、脂肪酸代謝活性化、インスリン抵抗性予防・改善、糖尿病予防・改善、脂質異常症予防・改善、脂肪肝予防・改善、動脈硬化予防・改善、持久力向上、心肥大予防・改善、虚血性心疾患予防・改善等の効果を発揮する飲食品、医薬品又は医薬部外品に有効成分として配合する素材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】PPARα活性化能を示したグラフ。図中、DWは水抽出物、EtOHは50%エタノール抽出物、Hexはヘキサン抽出物、Contは溶媒対照、WyはWy14643を示す。*は溶媒対照に対する有意差P<0.05を示す。
【図2】PPARδ活性化能を示したグラフ。図中、DWは水抽出物、EtOHは50%エタノール抽出物、Hexはヘキサン抽出物、Contは溶媒対照、GWはGW501516を示す。*は溶媒対照に対する有意差P<0.05を示す。
【図3】PPARγ活性化能を示したグラフ。図中、DWは水抽出物、EtOHは50%エタノール抽出物、Hexはヘキサン抽出物、Contは溶媒対照、Pioはピオグリタゾンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
腐乳とは、豆腐を発酵させることによって製造される中国の伝統的な発酵食品の総称である。腐乳は、製法や発酵に用いる菌の種類により主に紅腐乳、白腐乳、臭豆腐の3種類に分類され、さらに味付け等によって細分され得る。日本の沖縄地方で食される豆腐ようは、腐乳と同様の製法で製造される腐乳と同じものである。従って、本発明において使用される腐乳としては、紅腐乳、白腐乳、臭豆腐が挙げられ、さらに辣(ラー)腐乳、ダークァイ腐乳、豆腐ようなどを含み得る。腐乳は、例えば、下記に記載されている手順に従って、豆腐を発酵させることにより製造してもよく、あるいは市販の腐乳、臭豆腐、又は豆腐よう(例えば、北京甜辣腐乳、門丁腐乳、徐州青方腐乳、辣方腐乳、上海奉賢精製メイグイ腐乳(薔薇腐乳)、河南商丘白糖腐乳、湖南益陽金花精製腐乳、四川夾江腐乳、遂寧白菜腐乳、西安辣油方腐乳、広州辣椒腐乳など)を購入して用いてもよい。
【0023】
ここで、腐乳を製造するための菌としては、腐乳の製造に一般的に用いられているものであれば特に限定されず、例えば、紅腐乳の製造に通常用いられる Monascus ankaMonascus purpereus、Monascus fuliginocus、Monascus rubiginosusMonascus serorubescusなどのMonascus属菌;白腐乳又は臭豆腐の製造に通常用いられるMucor sufuiMucor rouxianusMucor wutengkiaoなどのMucor属菌;ならびにActinomucor elegansMicrococcus roseusなどを用いることができる。
【0024】
本発明において、腐乳の原料となる豆腐は、大豆から通常の方法によって製造されたものであればよい。ここで大豆とは、マメ科(Fabaceae)ダイズ属(Glycine)の一年草であるダイズの種子をいい、食用、加工食品の原料用に用いられるものであれば、品種や産地はいずれのものでもよい。
【0025】
豆腐は、圧搾等により、水分含量が約70%になるように予め調整される。次いで、適当な大きさ、好ましくは35〜45mm×35〜45mm×10〜20mm程度にカットされる。
次いで、この豆腐に上述の菌を接種し、発酵させる。接種する菌の量は特に限定されないが、加熱処理後に冷却した大豆に対し、通常0.1〜3.0質量%、好ましくは0.2〜0.5質量%の種菌を接種する。
発酵時の温度は特に限定されないが、例えば、15〜30℃とするのが好ましく、20〜25℃とするのがより好ましい。発酵時の湿度は、60%〜99%であるのが好ましく、80〜98%であるのがより好ましい。
発酵時間は、温度、菌の接種量などにより異なるが、30〜50時間とするのが好ましく、35〜50時間とするのがより好ましく、40〜48時間とするのが更に好ましい。
【0026】
続いて、発酵した豆腐を塩漬けにし、これに酒を主成分とする糖液を添加して熟成させる。あるいは、塩漬けを行わずに上記糖液を添加して熟成させてもよい。
塩漬け工程は、上記の手順で発行させた豆腐を15〜20%程度の食塩水に2〜10日間程度浸漬させて、塩分10〜18%程度、水分50%程度の豆腐を製造する。
糖液は、酒を主成分とし、他に糖分、塩分、香辛料、麹、酒粕、アルコール等を含み得るものである。糖液の例としては、もろみ(麹菌発酵物)が挙げられる。糖液のアルコール分は3〜20%程度にすればよい。
熟成期間は、糖液のアルコール分によって異なるが、1〜6ヶ月程度である。糖液のアルコール分が高いほど熟成期間は長くなる。好ましくは、アルコール分5%程度の場合の熟成期間は約1〜2ヶ月間であり、アルコール分5〜10%程度の場合の熟成期間は約2〜4ヶ月間であり、アルコール分が15%を超える場合の熟成期間は約4〜6ヶ月である。
【0027】
上述の条件で腐乳を得ることができる。当該腐乳は、そのまま又は乾燥して抽出に用いることができる。
【0028】
本発明で用いる腐乳の疎水性溶媒抽出物は、腐乳より、疎水性溶媒を用いて、常温(0〜30℃)又は加温下で抽出することにより得られるものである。
腐乳1質量部に対して、1/2〜10質量部の溶媒を用いるのが好ましく、このときの抽出温度は、0〜40℃が好ましく、10〜30℃がより好ましく、また抽出時間は1/10〜12時間が好ましく、1/2〜5時間がより好ましい。
当該抽出としては、固液抽出、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、攪拌等の手段を用いることができ、好ましくは攪拌を伴う固液抽出である。
当該疎水性有機溶媒としては、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、石油エーテル、ベンゼン、シクロヘキサン、n−ヘキサン(本明細書中ではヘキサンともいう)等が挙げられ、2種以上組み合わせてもよく、好ましくはn−ヘキサンである。
【0029】
斯くして得られる抽出物は、溶媒を除去した後そのまま使用できるが、公知の分離精製手段、例えば、活性炭処理、液々分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲルろ過、精密蒸留等を行った後、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、或いは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製してもよい。
【0030】
後記実施例に示すように、腐乳を疎水性有機溶媒で抽出することにより調製された腐乳の疎水性溶媒抽出物は、PPARα及び/又はPPARδに依存的な遺伝子の転写活性を亢進する作用を有する。前述のとおり、PPARα及び/又はPPARδは、広く生体のエネルギー代謝や恒常性の維持に関わっており、特に脂質代謝に重要なβ酸化関連酵素(ACO,HMG-CoA synthase,Acyl-CoA synthase,Medium chain acyl-CoA dehydrogenase,Fatty acid binding protein,Lipoprotein lipase等)の遺伝子発現はPPARα及び/又はPPARδの活性化に強く依存していることから(非特許文献1〜10、特許文献1〜7)、腐乳の疎水性溶媒抽出物は、肥満予防・改善、体脂肪燃焼促進、脂肪酸代謝活性化、インスリン抵抗性予防・改善、糖尿病予防・改善、脂質異常症予防・改善、脂肪肝予防・改善、動脈硬化予防・改善、持久力向上、心肥大予防・改善、虚血性心疾患予防・改善等に広く有効である。
【0031】
従って、腐乳の疎水性溶媒抽出物は、PPARα活性化作用及び/又はPPARδ活性化作用を有するので、PPARα及び/又はPPARδ活性化剤、肥満予防・改善剤、体脂肪燃焼促進剤、脂肪酸代謝活性化剤、インスリン抵抗性予防・改善剤、糖尿病予防・改善剤、脂質異常症予防・改善剤、脂肪肝予防・改善剤、動脈硬化予防・改善剤、持久力向上剤、心肥大予防・改善剤、虚血性心疾患予防・改善剤、等(以下、「PPAR活性化剤等」とする。)として使用することができ、PPAR活性化剤等の製造のために使用することができる。PPAR活性化剤等は、PPARα若しくはPPARδ活性化、肥満予防・改善、体脂肪燃焼促進、脂肪酸代謝活性化、インスリン抵抗性予防・改善、糖尿病予防・改善、脂質異常症予防・改善、脂肪肝予防・改善、動脈硬化予防・改善、持久力向上、心肥大予防・改善、虚血性心疾患予防・改善等の各効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の食品、医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分として使用可能である。また、腐乳の疎水性溶媒抽出物は、PPARα若しくはPPARδ活性化、肥満予防・改善、体脂肪燃焼促進、脂肪酸代謝活性化、インスリン抵抗性予防・改善、糖尿病予防・改善、脂質異常症予防・改善、脂肪肝予防・改善、動脈硬化予防・改善、持久力向上、心肥大予防・改善、虚血性心疾患予防・改善等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品に応用できる。
【0032】
さらに、本発明によれば、腐乳の疎水性有機溶媒抽出物を調製することによる、PPARα及び/又はPPARδ活性化剤の製造方法が提供される。さらに本発明によれば、腐乳の疎水性有機溶媒抽出物を調製することによる、肥満予防・改善剤、体脂肪燃焼促進剤、脂肪酸代謝活性化剤、インスリン抵抗性予防・改善剤、糖尿病予防・改善剤、脂質異常症予防・改善剤、脂肪肝予防・改善剤、動脈硬化予防・改善剤、持久力向上剤、心肥大予防・改善剤、虚血性心疾患予防・改善剤等の製造方法が提供される。
【0033】
本発明のPPAR活性化剤等を医薬品、医薬部外品の有効成分として用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。
また、このような種々の剤型の製剤を調製するには、本発明の腐乳の疎水性溶媒抽出物を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
また、これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口用液体製剤を調製する場合は、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤等を加えて常法により製造することができる。
【0034】
本発明のPPAR活性化剤等を化粧品の有効成分として用いる場合には、皮膚外用剤、洗浄剤、入浴剤、又はメイクアップ化粧料等とすることができ、使用方法に応じて、これらを、美容液、化粧水、マッサージ剤、ローション、乳液、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末剤、パック、パップ剤、顆粒剤、ファンデーション、口紅、シャンプー、コンディショナー、ヘアトニック、錠剤、カプセル、シート状製品等の種々の剤型で提供することができる。このような種々の剤型の化粧品を調製するには、本発明の腐乳の疎水性溶媒抽出物を単独で、又は化粧料に配合される、外用基材、油又は油状物質、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬効成分、香料、樹脂、防菌防黴剤、アルコール類、キレート類、無機酸、有機酸、ビタミン類、水溶性高分子、界面活性剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明のPPAR活性化剤等を食品の有効成分として用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料、スープ類等の各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
飲料は、例えば、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、ニアウオーター、スポーツ飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられる。また、飲料は、容器に充填した容器詰飲料とすることができる。
食用油としては、調理用油、調味料、マヨネーズ、ドレッシング、マーガリン等の油脂加工品類、パスタソース類等が挙げられる。
また、このような種々の形態の食品を調製するには、本発明のPPAR活性化剤等を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて、PPARα及び/又はPPARδ活性化用食品、肥満予防・改善用食品、体脂肪燃焼促進用食品、脂肪酸代謝活性化用食品、インスリン抵抗性予防・改善用食品、糖尿病予防・改善用食品、脂質異常症予防・改善用食品、脂肪肝予防・改善用食品、動脈硬化予防・改善用食品、持久力向上用食品、心肥大予防・改善用食品、虚血性心疾患予防・改善用食品、ペットフード等として用いることが可能である。
【0036】
これらのものに対するPPAR活性化剤等の配合量はその使用形態により異なるが、食品の形態では、全組成中、腐乳の疎水性溶媒抽出物の乾燥物換算で通常0.0001〜10質量%、さらに0.001〜5質量%、さらになお0.002〜2質量%とするのが好ましい。
例えば飲料の場合では、飲料中にPPAR活性化剤等は、全組成中、腐乳の疎水性溶媒抽出物の乾燥物換算で、0.001〜0.5質量%、さらに0.005〜0.25質量%、さらになお0.01〜0.1質量%とするのが好ましい。タブレット等の食品錠剤及び/またはカプセル剤の場合では、PPAR活性化剤等が、全組成中、腐乳の疎水性溶媒抽出物の乾燥物換算で、0.1〜95質量%、さらに1〜90質量%、さらになお5〜50質量%含有しているものが好ましい。
上記以外の医薬品、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合には、全組成中、腐乳の疎水性溶媒抽出物の乾燥物換算で通常0.01〜95質量%、さらに5〜90質量%、さらになお10〜50質量%とするのが好ましい。
化粧品の場合には、全組成中、腐乳の疎水性溶媒抽出物の乾燥物換算で通常0.00001〜5質量%、さらに0.0001〜3質量%、さらになお0.001〜1質量%とするのが好ましい。
【0037】
PPAR活性化剤等の投与量(有効摂取量)は、腐乳の疎水性溶媒抽出物の乾燥物換算で一日あたり1〜5000mg/60kg体重とするのが好ましい。更に好ましくは5〜3000mg/60kg体重であり、なお好ましくは10〜2000mg/60kg体重であり、100〜1000mg/60kg体重とするのがさらになお好ましい。
本発明のPPAR活性化剤等を投与又は摂取することによりPPARα及び/又はPPARδを活性化し、肥満予防・改善、体脂肪燃焼促進、脂肪酸代謝活性化、インスリン抵抗性予防・改善、糖尿病予防・改善、脂質異常症予防・改善、脂肪肝予防・改善、動脈硬化予防・改善、持久力向上、心肥大予防・改善、虚血性心疾患予防・改善等を促すことができる。従って、そのための方法に本発明のPPAR活性化剤等を使用することができる。投与又は摂取対象としては、それを必要としているヒトまたは動物であれば特に限定されないが、肥満、インスリン抵抗性、糖尿病、脂質異常症、脂肪肝、動脈硬化、心肥大や虚血性心疾患の患者やその予備軍、持久力の低下した者などが挙げられる。
【実施例】
【0038】
(製造例1−1)腐乳のヘキサン抽出物の調製−1
白腐乳(台湾黄日香社(Hwang Ryh Shiang CO.,LTD.)、市販品を購入)70gを細かく砕き、ヘキサン100mLを加えて室温(20℃)で2時間攪拌し、ヘキサン相を濾過した後ロータリーエバポレーターにより濃縮し、2.02gの抽出物を得た。次いで、得られた抽出物を濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(製造例1−2)腐乳のヘキサン抽出物の調製−2
製造例1−1と同様の手順で、辣腐乳(台湾黄日香社(Hwang Ryh Shiang CO.,LTD.)、市販品を購入)から3.41gのヘキサン抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(製造例1−3)腐乳のヘキサン抽出物の調製−3
製造例1−1と同様の手順で、紅腐乳(台湾黄日香社(Hwang Ryh Shiang CO.,LTD.)、市販品を購入)から0.46gのヘキサン抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(製造例1−4)腐乳のヘキサン抽出物の調製−4
製造例1−1と同様の手順で、ダークァイ腐乳(北京王致和食品集団有限公司、市販品を購入)から0.30gのヘキサン抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(製造例1−5)腐乳のヘキサン抽出物の調製−5
製造例1−1と同様の手順で、臭豆腐(北京王致和食品集団有限公司、市販品を購入)から0.20gのヘキサン抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
【0039】
(比較製造例1−1)腐乳の50%エタノール抽出物の調製−1
白腐乳(台湾黄日香社(Hwang Ryh Shiang CO.,LTD.)、市販品を購入)70gを細かく砕き、50%エタノール100mLを加えて室温(20℃)で2時間攪拌し、ろ液をロータリーエバポレーターにより濃縮し、10.62gの抽出物を得た。次いで、得られた抽出物を濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例1−2)腐乳の50%エタノール抽出物の調製−2
比較製造例1−1と同様の手順で、辣腐乳(台湾黄日香社(Hwang Ryh Shiang CO.,LTD.)、市販品を購入)から13.21gの50%エタノール抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例1−3)腐乳の50%エタノール抽出物の調製−3
比較製造例1−1と同様の手順で、紅腐乳(台湾黄日香社(Hwang Ryh Shiang CO.,LTD.)、市販品を購入)から10.61gの50%エタノール抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例1−4)腐乳の50%エタノール抽出物の調製−4
比較製造例1−1と同様の手順で、ダークァイ腐乳(北京王致和食品集団有限公司、市販品を購入)から11.82gの50%エタノール抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例1−5)腐乳の50%エタノール抽出物の調製−5
比較製造例1−1と同様の手順で、臭豆腐(北京王致和食品集団有限公司、市販品を購入)から5.81gの50%エタノール抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
【0040】
(比較製造例2−1)腐乳の水抽出物の調製−1
白腐乳(台湾黄日香社(Hwang Ryh Shiang CO.,LTD.)、市販品を購入)70gを細かく砕き、水100mLを加えて室温(20℃)で2時間攪拌し、ろ液を凍結乾燥により濃縮し、14.34gの抽出物を得た。次いで、得られた抽出物を濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例2−2)腐乳の水抽出物の調製−2
比較製造例2−1と同様の手順で、辣腐乳(台湾黄日香社(Hwang Ryh Shiang CO.,LTD.)、市販品を購入)から14.40gの水抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例2−3)腐乳の水抽出物の調製−3
比較製造例2−1と同様の手順で、紅腐乳(台湾黄日香社(Hwang Ryh Shiang CO.,LTD.)、市販品を購入)から4.22gの水抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例2−4)腐乳の水抽出物の調製−4
比較製造例2−1と同様の手順で、ダークァイ腐乳(北京王致和食品集団有限公司、市販品を購入)から11.27gの水抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例2−5)腐乳の水抽出物の調製−5
比較製造例2−1と同様の手順で、臭豆腐(北京王致和食品集団有限公司、市販品を購入)から7.38gの水抽出物を調製し、濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
【0041】
(比較製造例3−1)大豆のヘキサン抽出物の調製
蒸煮した大豆20gにヘキサン50mLを加えて室温(20℃)で2時間攪拌し、ヘキサン相を濾過した後ロータリーエバポレーターにより濃縮し0.10gの抽出物を得た。次いで、得られた抽出物を濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例3−2)大豆の50%エタノール抽出物の調製
蒸煮した大豆20gに50%エタノール50mLを加えて室温(20℃)で2時間攪拌し、ろ液をロータリーエバポレーターにより濃縮し、0.64gの抽出物を得た。次いで、得られた抽出物を濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
(比較製造例3−3)大豆の水抽出物の調製
蒸煮した大豆20gに水50mLを加えて室温(20℃)で2時間攪拌し、ろ液を凍結乾燥により濃縮し、0.68gの抽出物を得た。次いで、得られた抽出物を濃度が1%(w/v)となるようにエタノールに溶解した。
【0042】
製造例1〜5、ならびに比較製造例1−1〜3−3の抽出物を以下の実施例1〜3の被検物質として用いた。
【0043】
実施例1:PPARα活性化試験
Human colon total RNA(Clontech)を用い、PCRを行ってPPARαリガンド結合部位(NCBI RefSeq NM_001001928, nt183-1586、配列番号1)を増幅した。PCR増幅産物をpCR Blunt(Invitrogen)にクローニングし、制限酵素(MluI、KpnI;Takara)処理によりDNA断片を調製した。調製したDNA断片をpBIND vector(Promega)のマルチクローニングサイト(MluI/KpnI)に挿入し、pBIND−PPARα LBDを得た。本ベクターは細胞に導入するとPPARαリガンド結合部位とGAL4のDNA結合部位の融合蛋白質を発現し、当該融合蛋白質はPPARαリガンドと結合することによりGAL4結合配列に結合し、その下流の遺伝子の転写を活性化するものである。また本ベクターには別途ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子が組み込まれており、ベクターの導入効率を求めることができる。
アフリカミドリザル腎細胞株CV-1を24穴プレートにまき、DMEM(5% チャコール処理ウシ胎児血清)中で1日培養した。ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流にGAL4結合配列を含むレポータープラスミド(pG5−Luc;Promega)、およびpBIND−PPARα LBDを同時に各々0.2μg/wellとなるようトランスフェクション試薬(Superfect transfection reagent;QIAGEN)を用いて導入した。その後、培養液を、被験物質を0.005%(w/v)含むDMEM(-ウシ胎児血清)培地に交換し、さらに1日培養した。被験物質としては、製造例1−1〜1−5、ならびに比較製造例1−1〜2〜5、及び3−1〜3−3で得た抽出物を用い、対照(Control)として同量の溶媒(エタノール)を用いた。陽性対照として、Wy14643(BIOMOL (Plymouth Meeting DA)より入手したもの)10μMを用いた。
PBSにて洗浄後、デュアルルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いて細胞を溶解、溶解液にルシフェリンを含む基質溶液を加え、ルミノメーターにてホタル及びウミシイタケルシフェラーゼ活性を各々測定した。
本実験系でPPARα依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)を測定することにより、PPARα活性化物質の探索を行った。尚、PPARα依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)は以下のように定義した。
【0044】
PPARα依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)=(pG5−Lucによるホタルルシフェラーゼ活性)/(pBIND−PPARα LBDによるウミシイタケルシフェラーゼ活性)
【0045】
各被験物質によるPPARα活性化能を図1に示す。尚、コントロールにおけるPPARα依存的転写活性を1とし、それに対する相対値を示す。
【0046】
図1より、腐乳のヘキサン抽出物にPPARα活性化能がある一方、腐乳の水抽出物及び50%エタノール抽出物には活性化能がなかった。また大豆の抽出物にはいずれも活性化能がなかった。
【0047】
実施例2:PPARδ活性化試験
実施例1と同様にして、PPARδ活性化試験を行なった。
Rat IEC−6 total RNAを用い、PCRを行ってPPARδリガンド結合部位(NCBI RefSeq NM_011145, nt690-1595、配列番号2)を増幅した。PCR増幅産物をpCR Blunt(Invitrogen)にクローニングし、制限酵素(MluI、KpnI;Takara)処理によりDNA断片を調製した。調製したDNA断片をpBIND vector(Promega)のマルチクローニングサイト(MluI/KpnI)に挿入し、pBIND−PPARδ LBDを得た。
実施例1と同様の手順で上記ベクター導入した細胞を被験物質とともに培養し、ルシフェラーゼ活性を測定し、PPARδ活性化物質の探索を行った。陽性対照としては、GW501516(ALEXIS BIOCHEMICALS)1nMを用いた。PPARδ依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)は以下のように定義した。
【0048】
PPARδ依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)=(pG5−Lucによるホタルルシフェラーゼ活性)/(pBIND−PPARδ LBDによるウミシイタケルシフェラーゼ活性)
【0049】
各被験物質によるPPARδ活性化能を図2に示す。尚、コントロールにおけるPPARδ依存的転写活性を1とし、それに対する相対値を示す。
【0050】
図2より、腐乳のヘキサン抽出物にPPARδ活性化能がある一方、腐乳の水抽出物及び多くの腐乳の50%エタノール抽出物には活性化能がなかった。臭腐乳の50%エタノール抽出物には活性化能があったが、ヘキサン抽出物に比べると弱いものであった。また大豆の抽出物にはいずれも活性化能がなかった。
【0051】
実施例3:PPARγ活性化試験
実施例1と同様にして、PPARγ活性化試験を行なった。
Human colon total RNA(Clontech)を用い、PCRを行ってPPARγ2リガンド結合部位(NCBI RefSeq NM_015869, nt703-1606、配列番号3)を増幅した。PCR増幅産物をpCR Blunt(Invitrogen)にクローニングし、制限酵素(MluI、KpnI;Takara)処理によりDNA断片を調製した。調製したDNA断片をpBIND vector(Promega)のマルチクローニングサイト(MluI/KpnI)に挿入し、pBIND−PPARγ LBDを得た。
実施例1と同様の手順で上記ベクター導入した細胞を被験物質とともに培養し、ルシフェラーゼ活性を測定し、PPARγ活性化物質の探索を行った。陽性対照としては、ピオグリタゾン(CAYMAN)10μMを用いた。PPARγ依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)は以下のように定義した。
【0052】
PPARγ依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)=(pG5−Lucによるホタルルシフェラーゼ活性)/(pBIND−PPARγ LBDによるウミシイタケルシフェラーゼ活性)
【0053】
各被験物質によるPPARγ活性化能を図3に示す。尚、コントロールにおけるPPARγ依存的転写活性を1とし、それに対する相対値を示す。
【0054】
図3より、腐乳抽出物は、PPARγを活性化しないことがわかる。
【0055】
以上のように、腐乳の疎水性溶媒抽出物は、PPARα活性化作用及びPPARδ活性化作用を有するがPPARγ活性化作用は有しておらず、PPARα及びPPARδに特異性が高いことがわかる。すなわち、PPARα及びPPARδ選択的活性化剤として用いることができる。
更に、腐乳の疎水性溶媒抽出物は、PPARα又はPPARδ活性化作用を有するので、前述のとおり、肥満の予防・改善、体脂肪の燃焼促進、脂肪酸代謝の活性化、インスリン抵抗性の予防・改善、糖尿病の予防・改善、脂質異常症の予防・改善、脂肪肝の予防・改善、動脈硬化の予防・改善、持久力向上、心肥大の予防・改善や虚血性心疾患の予防・改善等に有効であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とするPPARα及び/又はPPARδ活性化剤。
【請求項2】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする肥満予防・改善剤。
【請求項3】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする体脂肪燃焼促進剤。
【請求項4】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする脂肪酸代謝活性化剤。
【請求項5】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とするインスリン抵抗性予防・改善剤。
【請求項6】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする糖尿病予防・改善剤。
【請求項7】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする脂質異常症予防・改善剤。
【請求項8】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする脂肪肝予防・改善剤。
【請求項9】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする動脈硬化予防・改善剤。
【請求項10】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする持久力向上剤。
【請求項11】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする心肥大の予防・改善剤。
【請求項12】
腐乳の疎水性溶媒抽出物を有効成分とする虚血性心疾患の予防・改善剤。
【請求項13】
腐乳の疎水性有機溶媒抽出物を調製することによるPPARα及び/又はPPARδ活性化剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171924(P2012−171924A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35923(P2011−35923)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】