説明

PPM型電磁超音波トランスデューサ、これを用いた超音波探傷方法及び装置

【課題】開口径を大きくすることが可能なトランスデューサ構造を提供することにより、PPM型電磁超音波トランスデューサによって表面沿いに伝わるSH波を送受波する場合の感度を向上させ、これによって球形の微小な欠陥の検出を可能ならしめる。
【解決手段】上下方向で極性が逆転し、かつ、円弧状の形状をした永久磁石12を複数、交互に極性が変わるように配列した扇形の交番磁界形成用磁石列14a〜dを、極性の位相が異なるように隣り合わせて円環形に配列した磁石アレイ10と、該磁石アレイにおける円環形の中心に向かう放射状の成分を有する略8の字の外形を有する送信用渦巻きコイル30と、該送信用渦巻きコイルを所定角度回転させた位置にある、送信用渦巻きコイルと同等の形状をした受信用渦巻きコイル40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PPM型電磁超音波トランスデューサ、これを用いた超音波探傷方法及び装置に係り、特に、電磁気的に励起され、電磁気的に受波される超音波を用いて、表面が粗い、あるいは、高温の被検体の表層に存在する略球形の内部欠陥を検出する際に用いるのに好適な、PPM型電磁超音波トランスデューサ、これを用いた超音波探傷方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表面が粗い物体や高温の物体に対して超音波を送受波する方法として、電磁気的に超音波を送受信する方法、所謂、電磁超音波法が有効とされている。又、被検体の表層に存在する内部欠陥を検出する方法としては、表面沿いに伝わるSH波を用いる探傷法が実用されている。従って、表面が粗い、あるいは、高温の被検体の表層に存在する内部欠陥を検出する方法として、電磁超音波法によって表面沿いに伝わるSH波を送受波する方法が有効と考えられる。
【0003】
しかし、電磁超音波法は、圧電振動子を用いた超音波送受波に比べて、電気−機械結合係数が40〜60dBも低い(感度が低い)ために、微小なエコー信号を検出することによって内部欠陥を検出する超音波探傷法への適用が難しいのが実情であった。
【0004】
電磁超音波法の低感度の問題を克服するための先行技術として、特許文献1が挙げられる。この特許文献1は、電磁気的に送受波する超音波を集束させることにより感度を向上させるための焦点型電磁超音波トランスデューサや、これを用いた電磁超音波探傷方法を開示している。しかし、該トランスデューサは、表面沿いに伝わるSH波を送受波できる構造では無かった。
【0005】
表面沿いに伝わる表面SH波を送受波でき、かつ、超音波ビームを集束させる構造を開示した特許文献として、特許文献2が挙げられる。
【0006】
この特許文献2には、「各永久磁石3aを中間軸Caを延長した仮想延長軸上の仮想点Rを曲率中心とした円弧状に形成し、各永久磁石3aを仮想点Rを中心とした扇型状に配置する。これに対して、スパイラルコイル4の直線状横側辺部4dを仮想点Rに向かうように絞り形成する。このような構成によって、PPM型電磁超音波トランスデューサ2から発信される超音波の伝播方向が仮想点Rに向かうものとなる。」PPM型電磁超音波トランスデューサが開示されている。
【0007】
ここでPPM型電磁超音波トランスデューサとは、Periodic Permanent Magnet型電磁超音波トランスデューサの略称であり、S極とN極が交互になるように複数の永久磁石を各列内に並設して備えた交番磁界形成用磁石列を備えた電磁超音波トランスデューサのことであって、その構成例は特許文献2や特許文献3に開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平10−267899号公報
【特許文献2】特開2000−88816号公報
【特許文献3】米国特許第4,522,071号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2が目的とするところは、PPM型電磁超音波トランスデューサから発信される超音波の伝播方向を非測定領域に拡散しないようにすることであり,感度向上を目的とした発明ではない点に注意が必要である。
【0010】
ところで、PPM型電磁超音波トランスデューサから送波されるSH波の波長は、交互にN−S−N−S−‥‥と並べられた磁石のN−S一組分の長さに等しい。例えば、1つの磁石の厚さが2mmであれば、SH波の波長は4mmであり、鋼に対してSH波を送受波する場合には、波長4mmは周波数およそ0.75MHzに相当する。又、磁石の厚さを小さくすればSH波の周波数を向上させることができる。しかし、薄い磁石は磁力が低下するため、PPM型電磁超音波トランスデューサの周波数の上限は1MHz程度とされている。
【0011】
球面振動子を用いて超音波ビームの集束を行う場合の集束係数Jは、
J=D2/4・λ・F (1)
と表される。ここでD:振動子径(開口径)、λ:超音波の波長、F:焦点距離である。即ち、集束係数Jは開口径Dの2乗に比例し、波長λ及び焦点距離Fに反比例する。周波数を高くできないという前提に立って考えると、焦点距離Fを短く(小さく)し、開口径Dを大きくすることが有効であると言える。なお、(1)式は球面振動子を用いた3次元的なビームの集束の場合に成り立つが、表面SH波を表面沿いに送受波する場合にも近似的には成立する。
【0012】
上記観点に立って、特許文献2に開示されたトランスデューサ構造を解析すると、開口径を大きくするための工夫がなされていないため、あまりビームの集束効果がなく、小さな感度向上しか期待できないことがわかる。
【0013】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、開口径を大きくすることが可能なトランスデューサ構造を提供することにより、PPM型電磁超音波トランスデューサによって表面沿いに伝わるSH波を送受波する場合の感度を向上させ、これによって球形の微小な欠陥の検出を可能ならしめることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、物体の表面沿いにSH波を送信し、表面近くの内部欠陥や表面きずからのエコーを受信することにより、表面近くの内部欠陥や表面きずを検出するための超音波探傷用のPPM型電磁超音波トランスデューサであって、上下方向で極性が逆転し、かつ、円弧状の形状をした永久磁石を複数、交互に極性が変わるように配列した複数の扇形の交番磁界形成用磁石列を、極性の位相が異なるように隣り合わせて円環形に配列した磁石アレイと、該磁石アレイにおける円環形の中心に向かう放射状の成分を有する略8の字の外形を有する送信用渦巻きコイルと、前記送信用渦巻きコイルを所定角度回転させた位置にある、送信用渦巻きコイルと同等の形状をした受信用渦巻きコイルと、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0015】
又、前記磁石アレイを、上下方向で極性が逆転し、かつ、開口角略90°に相当する円弧状の形状をした永久磁石を複数、交互に極性が変わるように配列した扇形の交番磁界形成用磁石列を4個、隣合う磁石列の極性の位相が180°異なるようにして、円環形に配列したものとし、前記送信用渦巻きコイルを、前記4個の磁石列が円環形磁石アレイにおいて占める範囲をそれぞれ0〜90°、90°〜180°、180°〜270°、270°〜360°としたときに、315°〜45°および135°〜225°の範囲で円環形の中心に向かう放射状の成分を有する略8の字の外形を有するものとし、前記受信用渦巻きコイルが、該送信用渦巻きコイルを90°回転させた位置にあるようにしたものである。
【0016】
あるいは、前記磁石アレイを、上下方向で極性が逆転した複数の永久磁石を交互に極性が変わるように一列にならべた交番磁界形成用磁石列を開口角略90°に相当する範囲内で円弧状に配列して、略扇形の交番磁界形成用磁石集合体を形成し、前記略扇形の交番磁界形成用磁石集合体を4個、隣合う磁石集合体の極性の位相が180°異なるようにして、円環形に配列したものとし、前記送信用渦巻きコイルを、前記4個の磁石列が円環形磁石アレイにおいて占める範囲をそれぞれ0〜90°、90°〜180°、180°〜270°、270°〜360°としたときに、315°〜45°および135°〜225°の範囲で円環形の中心に向かう放射状の成分を有する略8の字の外形を有するものとし、前記受信用渦巻きコイルが、該送信用渦巻きコイルを90°回転させた位置にあるようにしたものである。
【0017】
本発明は、又、前記のPPM型電磁超音波トランスデューサを用いて、物体の表面沿いにSH波を送信し、表面近くの内部欠陥や表面きずからのエコーを受信することにより、表面近くの内部欠陥や表面きずを検出することを特徴とする超音波探傷方法を提供するものである。
【0018】
本発明は、又、前記のPPM型電磁超音波トランスデューサと、該トランスデューサから物体の表面沿いにSH波を送信する手段と、表面近くの内部欠陥や表面きずからのエコーを受信する手段と、該エコーにより表面近くの内部欠陥や表面きずを検出するための信号処理手段と、を備えたことを特徴とする超音波探傷装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、PPM型電磁超音波トランスデューサの開口径を大きくすることが可能となり、該PPM型電磁超音波トランスデューサを用いて、表面が粗い、あるいは、高温な被検体の表層に存在する内部欠陥を検出するに当たり、大幅な感度向上を達成することができ、微小な内部欠陥を検出することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
図1から図3に、本発明にかかわるPPM型電磁超音波トランスデューサを構成するための円環形磁石アレイの構造を示す。
【0022】
図1に示す第1実施形態の円環形磁石アレイ10では、上下方向で極性が逆転し、かつ、開口角略90°に相当する円弧状の形状をした永久磁石12を複数、交互に極性が変わるように配列した扇形の交番磁界形成用磁石列14a〜dを4個、隣合う磁石列の極性の位相が180°異なるようにして、円環形に配列している。図2は、図1の磁石アレイ10の形状を立体的に示している。
【0023】
図3に示す第2実施形態の磁石アレイ20では、上下方向で極性が逆転した複数の永久磁石22を交互に極性が変わるように一列にならべた交番磁界形成用磁石列24を開口角略90°に相当する範囲内で円弧状に配列して、略扇形の交番磁界形成用磁石集合体26a〜dを形成し、該略扇形の交番磁界形成用磁石集合体26a〜dを4個、隣合う磁石集合体の極性の位相が180°異なるようにして、円環形に配列している。
【0024】
本発明にかかわるPPM型電磁超音波トランスデューサを構成するための送波用コイル30の構造を図4に示す。該送波用コイル30は、渦巻きコイルを略8の字に構成している。前記コイル30を図1あるいは図3の磁石と合わせたときに磁石と重なる部分は、円環形磁石の中心に向かうように放射状に形成している。
【0025】
図5は受波用コイル40の構造を示している。該受波用コイル40は略8の字を横倒しにした形状の渦巻きコイルであり、送波用コイル30と同様に、該コイルを図1あるいは図3の磁石と合わせたときに磁石と重なる部分は、円環形磁石の中心に向かうように放射状に形成している。
【0026】
前記送波用コイル30と受波用コイル40を合わせたときの構造を図6に示す。両コイルは丁度直交するように配置される。なお、両コイルが重なる部分には絶縁体が介挿されていることは言うまでも無い。
【0027】
図1あるいは図3に示した円環形の磁石アレイ10、20と、図6に示した送波用コイル30および受波用コイル40を重ねてPPM型電磁超音波トランスデューサ50、52を構成したときの構造を図7及び図8に示す。これらの図面では、図1及び図3の磁石アレイ10、20の裏側から磁石アレイ10、20と送波用コイル30及び受波用コイル40との重なり具合を示している。
【0028】
図9にトランスデューサ側面の45°方向(図7又は図8のIX方向)から見た状態を示す如く、図7又は図8のように構成したPPM型電磁超音波トランスデューサ50又は52を被検体8に対して所定のギャップGを設けて当接させ、送波用コイル30に高周波信号発生回路60を、受波用コイル40に高周波信号増幅回路62を接続し、送波用コイル30に高周波電流を通電すると、円環形磁石アレイ10(20)の315°〜45°および135°〜225°の範囲の直下で円環形磁石アレイ10(20)の中心に向かうSH波が送波される。円環形磁石アレイ10(20)の中心に球状の内部欠陥が存在すれば、これによって生起された反射波(エコー)は様々な方向に一様に伝搬するので、送波用コイル30と直交する方向に置かれた受波用コイル40によってエコーを受信して、信号処理回路64で探傷出力を得ることができる。
【0029】
本発明のPPM型電磁超音波トランスデューサでは、送波を行う開口角の合計が約90°+約90°=約180°と極めて大きいので、(1)式に示した集束係数Jを極めて大きくすることができる。受波についても同様の効果がある。従って本発明のPPM型電磁超音波トランスデューサによれば、感度を大幅に向上させることができ、また微小な球状欠陥からのエコーをS/N良く検出することが可能になる。
【実施例】
【0030】
図10は、本発明のPPM型電磁超音波トランスデューサを用いて、温度600℃の連続鋳造スラブの表面下3mmの位置にあったφ500μmの非金属介在物を検出したときの波形信号である。PPM型電磁超音波トランスデューサとしては、図7に示したタイプのものを用いた。厚さ1.5mmの磁石を6個並べた構造をもつ円環形磁石アレイを用い、周波数1MHzのパルス波を送波コイルに通電することにより、周波数1MHzのSH波を送波し、エコーを受波コイルにより受波した。PPM型電磁超音波トランスデューサと被検体との間の距離は0.5mmとした。これにより、図10に示したように、φ500μmの微小欠陥をS/N≧10dBにて検出することができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るPPM型電磁超音波トランスデューサの第1実施形態の磁石アレイを示す平面図
【図2】同じく斜視図
【図3】本発明に係るPPM型電磁超音波トランスデューサの第2実施形態の磁石アレイを示す平面図
【図4】前記PPM型電磁超音波トランスデューサの送波用コイルを示す平面図
【図5】同じく受波用コイルを示す平面図
【図6】同じく送波用コイルと受波用コイルを重ねた状態を示す平面図
【図7】前記PPM型電磁超音波トランスデューサの第1実施形態を示す平面図
【図8】前記PPM型電磁超音波トランスデューサの第2実施形態を示す平面図
【図9】前記実施形態を用いて探傷している状態を示す、トランスデューサの45°方向(図7又は図8の矢印IX方向)から見た側面図
【図10】実施例の波形を示す線図
【符号の説明】
【0032】
8…被検体
10、20…円環形磁石アレイ
30…送波用コイル
40…受波用コイル
50、52…PPM型電磁超音波トランスデューサ
60…高周波信号発生回路
62…高周波信号増幅回路
64…信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の表面沿いにSH波を送信し、表面近くの内部欠陥や表面きずからのエコーを受信することにより、表面近くの内部欠陥や表面きずを検出するための超音波探傷用のPPM型電磁超音波トランスデューサであって、
上下方向で極性が逆転し、かつ、円弧状の形状をした永久磁石を複数、交互に極性が変わるように配列した複数の扇形の交番磁界形成用磁石列を、極性の位相が異なるように隣り合わせて円環形に配列した磁石アレイと、
該磁石アレイにおける円環形の中心に向かう放射状の成分を有する略8の字の外形を有する送信用渦巻きコイルと、
前記送信用渦巻きコイルを所定角度回転させた位置にある、送信用渦巻きコイルと同等の形状をした受信用渦巻きコイルと、
を備えたことを特徴とするPPM型電磁超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記磁石アレイが、上下方向で極性が逆転し、かつ、開口角略90°に相当する円弧状の形状をした永久磁石を複数、交互に極性が変わるように配列した扇形の交番磁界形成用磁石列を4個、隣合う磁石列の極性の位相が180°異なるようにして、円環形に配列したものとされ、
前記送信用渦巻きコイルが、前記4個の磁石列が円環形磁石アレイにおいて占める範囲をそれぞれ0〜90°、90°〜180°、180°〜270°、270°〜360°としたときに、315°〜45°および135°〜225°の範囲で円環形の中心に向かう放射状の成分を有する略8の字の外形を有するものとされ、
前記受信用渦巻きコイルが、該送信用渦巻きコイルを90°回転させた位置にあることを特徴とする請求項1に記載のPPM型電磁超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記磁石アレイが、上下方向で極性が逆転した複数の永久磁石を交互に極性が変わるように一列にならべた交番磁界形成用磁石列を開口角略90°に相当する範囲内で円弧状に配列して、略扇形の交番磁界形成用磁石集合体を形成し、前記略扇形の交番磁界形成用磁石集合体を4個、隣合う磁石集合体の極性の位相が180°異なるようにして、円環形に配列したものとされ、
前記送信用渦巻きコイルが、前記4個の磁石列が円環形磁石アレイにおいて占める範囲をそれぞれ0〜90°、90°〜180°、180°〜270°、270°〜360°としたときに、315°〜45°および135°〜225°の範囲で円環形の中心に向かう放射状の成分を有する略8の字の外形を有するものとされ、
前記受信用渦巻きコイルが、該送信用渦巻きコイルを90°回転させた位置にあることを特徴とするPPM型電磁超音波トランスデューサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のPPM型電磁超音波トランスデューサを用いて、物体の表面沿いにSH波を送信し、表面近くの内部欠陥や表面きずからのエコーを受信することにより、表面近くの内部欠陥や表面きずを検出することを特徴とする超音波探傷方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のPPM型電磁超音波トランスデューサと、
該トランスデューサから物体の表面沿いにSH波を送信する手段と、
表面近くの内部欠陥や表面きずからのエコーを受信する手段と、
該エコーにより表面近くの内部欠陥や表面きずを検出するための信号処理手段と、
を備えたことを特徴とする超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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