説明

PSMA7、NEDD1およびRAE1遺伝子発現抑制剤の用途

【課題】
PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤およびRAE1遺伝子発現抑制剤の新規用途を提供する。
【解決手段】
本発明は、PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤およびRAE1遺伝子発現抑制剤のいずれか一つを含むガン細胞増殖抑制剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PSMA7、NEDD1およびRAE1遺伝子発現抑制剤の用途、すなわちガン細胞増殖抑制剤、このガン細胞増殖抑制剤を含む抗ガン剤、およびPSMA7、NEDD1およびRAE1遺伝子発現抑制剤の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PSMA7は巨大な酵素複合体であるプロテアソーム(proteasome)を構成する複数のタンパク質の1つである。プロテアソームは、非常に規則正しい環の形の20Sコア構造をもち、そのコア構造は28個の非同一サブユニットの4つの環で構成されており(2つの環は7個のαサブユニット、もう2つの環は7個のβサブユニットで構成される)、PSMA7はαサブユニットを構成する複数のタンパク質の1つである。プロテアソームは真核細胞中に高濃度で分布し、非リソソーム経路のATP/ユビキチン依存過程でペプチドを切断する(非特許文献1)。20Sコアのαサブユニットは、ウイルスの複製に重要なタンパク質であるB型肝炎ウイルスXタンパク質と特異的に相互作用することが示されている。また、このαサブユニットは、酸素分圧への細胞応答に重要な転写因子である、HIF−1αの調節にも関与している。
【0003】
NEDD1はマウスの中枢神経系において個体の発生に係わる遺伝子として同定された。多くの生物種でNEDD1は存在し、動物種間の相同性が高いことが知られている。ヒトにおいてはNEDD1が細胞の中心体(centrosome)や紡錘体(mitotic spindle)に存在することが最近明らかになり、中心体(centrosome)や紡錘体(mitotic spindle)におけるγ−チューブリン環状複合体(gamma-tubulin ring complex)を形成する因子の1つではないかと推測されている。実際、NEDD1の消去により微小管の核形成(microtubule nucleation)や紡錘体の集合(spindle assembly)過程に異常が生じること、また、細胞分裂中のNEDD1のリン酸化がγ−チューブリンとの結合を介した紡錘体形成(targeting gamma-tubulin to the spindle)に重要であることなどが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
RAE1(RNA export 1 homolog)は、核質、nuclear rim、および細胞質を貫通する網様構造に、それぞれ集中して(distinct foci in the nucleoplasm, to the nuclear rim, and to meshwork-like structures throughout the cytoplasm)存在しており、RNAの輸送に係わっていることが示唆されている。さらに、RAE1ノックアウトマウスについては、体節形成前に胚性致死となること、細胞周期チェックポイントの異常が生じることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Elenich LAら, Immunogenetics Volume:49 Issue: 10 Date: 1999 Sep ,Pages: 835-42
【非特許文献2】Manning J.ら, Int J Biochem Cell Biol. 2007 39:7-11.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、PSMA7、NEDD1およびRAE1遺伝子のそれぞれとヒトを含むほ乳類の病気との関係は知られていない。
【0007】
そこで、本発明者等は、ガン細胞において高発現している遺伝子の発現抑制が、ガン細胞の増殖に及ぼす影響を調べたところ、特定の遺伝子の発現抑制を行うことで、ガン細胞の増殖を抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(21)を提供する。
(1)PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤およびRAE1遺伝子発現抑制剤のいずれか一つを含むガン細胞増殖抑制剤。
(2)PSMA7遺伝子発現抑制剤を含有する(1)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(3)PSMA7遺伝子発現抑制剤がポリヌクレオチドである(2)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(4)ポリヌクレオチドが、二本鎖ポリヌクレオチドである(3)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(5)二本鎖ポリヌクレオチドのうち1本が下記(a)〜(d)から選択されるいずれか1つの塩基配列における、連続する15〜33塩基長の塩基配列のポリヌクレオチドを干渉配列の相補鎖として含む、(4)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(a)配列番号1に記載の塩基配列、
(b)配列番号1に記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列、
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列。
(6)二本鎖ポリヌクレオチドが二本鎖RNAである(5)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(7)ガンが大腸ガン又は食道ガンである(2)〜(6)のいずれか一項に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(8)NEDD1遺伝子発現抑制剤を含有する(1)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(9)NEDD1遺伝子発現抑制剤がポリヌクレオチドである(8)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(10)ポリヌクレオチドが、二本鎖ポリヌクレオチドである(9)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(11)二本鎖ポリヌクレオチドのうち1本が下記(e)〜(h)から選択されるいずれか1つの塩基配列における、連続する15〜33塩基長の塩基配列のポリヌクレオチドを干渉配列の相補鎖として含む、(10)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(e)配列番号3に記載の塩基配列、
(f)配列番号3に記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列、
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列。
(12)二本鎖ポリヌクレオチドが二本鎖RNAである(11)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(13)ガンが胃ガンである(8)〜(12)のいずれか一項に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(14)RAE1遺伝子発現抑制剤を含有する(1)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(15)RAE1遺伝子発現抑制剤がポリヌクレオチドである(14)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(16)ポリヌクレオチドが、二本鎖ポリヌクレオチドである(15)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(17)二本鎖ポリヌクレオチドのうち1本が下記(i)〜(l)から選択されるいずれか1つの塩基配列における、連続する15〜33塩基長の塩基配列のポリヌクレオチドを干渉配列の相補鎖として含む、(16)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(i)配列番号5に記載の塩基配列、
(j)配列番号5に記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列、
(k)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、
(l)配列番号6に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列。
(18)二本鎖ポリヌクレオチドが二本鎖RNAである(17)に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(19)ガンが食道ガンである(14)〜(18)のいずれか一項に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(20)(1)から(19)のいずれか一項に記載のガン細胞増殖抑制剤を含む抗ガン剤。
(21)PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤またはRAE1遺伝子発現抑制剤の抗ガン剤としての使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤およびRAE1遺伝子発現抑制剤の新規用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】大腸ガン組織で高発現している97遺伝子に対するsiRNAを大腸ガン細胞に導入した際の細胞のアポトーシス誘導量を示すグラフである。
【図2】PSMA7のsiRNAを用いたアポトーシス誘導試験の結果を示す図である。
【図3】PSMA7のsiRNAを用いたノックダウン効率試験の結果を示すグラフである。
【図4】PSMA7に対するsiRNAのノックダウン効率試験に用いた塩基配列を示す図である。
【図5】PSMA7に対するsiRNAのノックダウン効率試験の結果を示すグラフである。
【図6】様々な大腸ガン細胞株におけるPSMA7の発現試験の結果を示すグラフである。
【図7】図5にて行った試験に用いるRT−PCR試験に用いる内部標準のプライマー配列およびPSMA7のプライマー配列を示す図である。
【図8】各種ガン組織および正常組織におけるPSMA7の発現量の結果を示すグラフである。
【図9】動物モデルを用いたPSMA7siRNAの大腸ガン皮下移植腫瘍に及ぼす影響試験の手順を示す図である。
【図10】ヌードマウスにおける大腸ガン皮下移植腫瘍でのmRNA発現抑制試験の結果を示すグラフである。
【図11】ヌードマウスにおける大腸ガン皮下移植腫瘍でのアポトーシス誘導試験の結果を示す図である。
【図12】食道ガン細胞におけるPSMA7遺伝子の発現試験の結果を示す図である。
【図13】食道ガン細胞におけるRAE1遺伝子の発現試験の結果を示す図である。
【図14】PSMA7およびRAE1siRNAによる食道ガン細胞の増殖抑制試験の結果を示すグラフである。
【図15】胃ガン細胞におけるNEDD1遺伝子の発現試験の結果を示す図である。
【図16】NEDD1siRNAによる胃ガン細胞の増殖抑制試験の結果を示すグラフである。
【図17】PSMA7siRNA投与によるヒト大腸ガン肝転移抑制実験の観察結果を模式的に示す図である。
【図18】NEDD1siRNAの腹腔内投与によるin vivo腹膜再発抑制の結果を説明するグラフである。
【図19】NEDD1siRNAによる腹膜再発モデルマウスの延命効果を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
「ストリンジェントな条件」としては、例えば「2×SSC,0.1%SDS,50℃」、「2×SSC,0.1%SDS,42℃」、「1×SSC,0.1%SDS,37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば「2×SSC,0.1%SDS,65℃」、「0.5×SSC,0.1%SDS,42℃」、「0.2×SSC,0.1%SDS,65℃」等の条件が挙げられる。
【0012】
塩基配列について「相同性」とは、比較される配列間において、各々の下位列を構成するアミノ酸残基の一致の程度の意味で用いられる。このときギャップの存在及びアミノ酸の性質が考慮される。相同性の計算には、市販のソフトであるBLAST(Altschul, J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990))、FASTA(Peasron, Methods in Enzymology 183:63-69 (1990))等を用いることができる。相同性の数値は、例えば全米バイオテクノロジー(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST (Basic local alignment search tool、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)において算出することができる。本発明における相同性を有するポリヌクレオチドとしては、具体的には配列番号1(または3または5)で示される塩基配列のポリヌクレオチドと少なくとも90%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは99%以上の相同性を有するポリヌクレオチドが挙げられる。
【0013】
「PSMA7(またはNEDD1またはRAE1)遺伝子の発現を抑制する」とは、PSMA7(またはNEDD1またはRAE1)のmRNA及び/又はタンパク質の発現量を少なくとも10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上低下させることを意味する。特定遺伝子の発現を抑制するメカニズムは、詳細には一つには特定されないが、例えば転写開始抑制、mRNAの伸長抑制、mRNAの分解、翻訳抑制などが挙げられる。
【0014】
「PSMA7(またはNEDD1またはRAE1)遺伝子の発現を抑制する物質」とは、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、二本鎖RNA、非ペプチド性化合物、合成化合物などが挙げられる。より好ましくはポリヌクレオチドであり、さらに好ましくは二本鎖RNAである。
【0015】
本発明における「二本鎖RNA」とは、RNA干渉を起こしてmRNAを分解することにより、PSMA7、NEDD1又はRAE1遺伝子の発現を抑制するものである。PSMA7、NEDD1又はRAE1遺伝子に対する二本鎖RNAは、それぞれの遺伝子に対して完全に相補的である必要はなく、それぞれの発現を効果的に抑制できるものであればよい。「効果的に抑制」とは、未処置またはコントロール配列の二本鎖RNAを加えた細胞におけるそれぞれの遺伝子の発現量に対して、それぞれの遺伝に対する二本鎖RNAを加えた細胞におけるそれぞれの遺伝子の発現量が、少なくとも10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは70%以上、抑制されるものをいう。また、「効果的に抑制」されるかぎり、RNA鎖の一部が修飾されていてもよい。
また、本発明における「干渉配列」とは、標的RNAと実際に結合して当該標的RNAの機能を抑制する機能を有する配列をいう。干渉配列およびその相補的な配列は、その両端または一端に干渉配列を保護するための保護配列を有していてもよい。保護配列としては、たとえばdTdT,dUdU等があげられる。
【0016】
このような二本鎖RNAは、化学的に合成することができ、例えばDNA化学合成でも使用されるホスホアミダイト法により、3'末端から5'末端に向かって一塩基ずつ順番に縮合反応させることにより得られる。ただし、合成過程でRNaseによる分解を防ぐために、個々のリボヌクレオチドの2'末端の水酸基を保護して行う。この保護基としては、2'-O-t-butyldimethylsilyl(2'-tBDMS)基、2'-O-triisopropylsilyloxymethyl(2'-TOM)基、5'-silyl-2'-acetoxyethoxy(2'-ACE)基などが挙げられる。
【0017】
また、遺伝子の発現抑制は、二本鎖RNAによるRNA干渉により生じることが考えられる。ここで、RNA干渉とは、低分子のnon-coding二重鎖(ds)RNA分子により配列特異的に遺伝子発現を抑制する現象をいい、例えばsi(small interfering)RNAによる標的mRNAの切断、siRNAによる標的DNA領域のヘテロクロマチン化を介した遺伝子サイレンシング、mi(micro)RNAによる翻訳抑制、転写抑制、mRNAの分解等を指す。
【0018】
従来より、mRNAに作用し、遺伝子発現を抑制する方法として、mRNAに相補的なアンチセンス鎖を結合させ、タンパク質への翻訳を阻害するアンチセンス法が知られているが、人工アンチセンス核酸は、mRNAの高次構造の影響により標的部位に有効に結合できない場合があるため活性が弱いという問題点があった。
【0019】
一方、二本鎖RNAを用いたRNA干渉の場合には、mRNAの高次構造に無関係に作用することで、mRNAの局所的な構造に依存して活性が弱くなるという問題が低減される。
【0020】
(PSMA7遺伝子発現抑制剤)
PSMA7遺伝子発現抑制剤は、PSMA7遺伝子の発現を抑制する物質であり、PSMA7の生成を抑制する。
このようなPSMA7遺伝子発現抑制剤がポリヌクレオチドであり、好ましくは二本鎖RNAである。
【0021】
ここで、「PSMA7」とは、配列番号2(GenBankアクセッション番号:NP_002783.1)で示されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0022】
「配列番号2で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド」としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列を含み、かつPSMA7と実質的に同じ機能を有するポリペプチドが挙げられる。欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸の数は、配列番号2の全アミノ酸配列中の1〜9個、好ましくは、1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個である。
【0023】
また、PSMA7には配列番号1(GenBankアクセッション番号:NM_002792.2)に記載の塩基配列と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質も含まれる。「配列番号1で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列」としては、配列番号1で示される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列であり、かつ、実質的に同じ機能を有するタンパク質をコードする塩基配列が挙げられる。
【0024】
PSMA7に対する二本鎖RNAは、例えばAmbion website (http:///www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)のコンピュータープログラムを用いて設計することが可能である。好ましくは以下の(a)〜(d)から選択されるいずれか1つの塩基配列において連続する塩基配列を含むポリヌクレオチドなどが挙げられる。当該塩基配列の長さの下限は、好ましくは15塩基長、より好ましくは18塩基長、さらに好ましくは20塩基長であり、上限は、好ましくは33塩基長、より好ましくは27塩基長、さらに好ましくは23塩基長である。
【0025】
(a)配列番号1に記載の塩基配列、
(b)配列番号1に記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列、
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列。
【0026】
(NEDD1遺伝子発現抑制剤)
NEDD1遺伝子発現抑制剤は、NEDD1遺伝子の発現を抑制する物質であり、NEDD1の生成を抑制する。
このようなNEDD1遺伝子発現抑制剤がポリヌクレオチドであり、好ましくは二本鎖RNAである。
【0027】
ここで、NEDD1とは、配列番号4(GenBankアクセッション番号:NP_690869.1)で示されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0028】
「配列番号4で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド」としては、配列番号4に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列を含み、かつNEDD1と実質的に同じ機能を有するポリペプチドが挙げられる。欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸の数は、配列番号4の全アミノ酸配列中の1〜9個、好ましくは、1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個である。
【0029】
また、NEDD1には配列番号3(GenBankアクセッション番号:NM_152905.2)に記載の塩基配列と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質も含まれる。「配列番号3で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列」としては、配列番号3で示される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列であり、かつ、実質的に同じ機能を有するタンパク質をコードする塩基配列が挙げられる。
【0030】
NEDD1に対する二本鎖RNAは、例えばAmbion website (http:///www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)のコンピュータープログラムを用いて設計することが可能である。好ましくは以下の(e)〜(h)から選択されるいずれか1つの塩基配列において連続する塩基配列を含むポリヌクレオチドなどが挙げられる。当該塩基配列の長さの下限は、好ましくは15塩基長、より好ましくは18塩基長、さらに好ましくは20塩基長であり、上限は、好ましくは33塩基長、より好ましくは27塩基長、さらに好ましくは23塩基長である。
【0031】
(e)配列番号3に記載の塩基配列、
(f)配列番号3に記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列、
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列。
【0032】
(RAE1遺伝子発現抑制剤)
RAE1遺伝子発現抑制剤は、RAE1遺伝子の発現を抑制する物質であり、RAE1の生成を抑制する。
このようなRAE1遺伝子発現抑制剤がポリヌクレオチドであり、好ましくは二本鎖RNAである。
【0033】
ここで、RAE1とは、配列番号6(GenBankアクセッション番号:NP_001015885.1)で示されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0034】
「配列番号6で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド」としては、配列番号6に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列を含み、かつRAE1と実質的に同じ機能を有するポリペプチドが挙げられる。欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸の数は、配列番号6の全アミノ酸配列中の1〜9個、好ましくは、1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個である。
【0035】
また、RAE1には配列番号5(GenBankアクセッション番号:NM_001015885.1)に記載の塩基配列と同一又は実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質も含まれる。「配列番号5で示される塩基配列と実質的に同一の塩基配列」としては、配列番号5で示される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列であり、かつ、実質的に同じ機能を有するタンパク質をコードする塩基配列が挙げられる。
【0036】
RAE1に対する二本鎖RNAは、例えばAmbion website (http:///www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)のコンピュータープログラムを用いて設計することが可能である。好ましくは以下の(i)〜(l)から選択されるいずれか1つの塩基配列において連続する塩基配列を含むポリヌクレオチドなどが挙げられる。当該塩基配列の長さの下限は、好ましくは15塩基長、より好ましくは18塩基長、さらに好ましくは20塩基長であり、上限は、好ましくは33塩基長、より好ましくは27塩基長、さらに好ましくは23塩基長である。
【0037】
(i)配列番号5に記載の塩基配列、
(j)配列番号5に記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列、
(k)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、
(l)配列番号6に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列。
【0038】
(ガン細胞増殖抑制剤)
本発明のガン細胞増殖抑制剤は、PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤およびRAE1遺伝子発現抑制剤のいずれか一つを含むものである。なお、ガン細胞増殖抑制により、ガン細胞数の減少、他の臓器へのガンの転移の防止などの効果が期待される。
【0039】
ここでいうガンとは、大腸ガン、胃ガン、食道ガン、乳ガン、子宮ガン、甲状腺ガン、肝臓ガン、膀胱ガン、腎臓ガン、卵巣ガン、精巣ガン、小腸ガン、肺ガン、前立腺ガン、膵臓ガン、舌ガン、脳腫瘍、喉頭ガン、卵巣ガン、急性白血病、慢性白血病、リンパ腫等が含まれる。PSMA7遺伝子発現抑制剤を含有する抗ガン剤としては、好ましくは大腸ガン、胃ガン、食道ガン、乳ガン、子宮ガン、甲状腺ガン、肝臓ガン、膀胱ガン、腎臓ガン、卵巣ガン、精巣ガン、小腸ガンに作用するものであり、より好ましくは大腸ガン、食道ガンに作用するものであり、さらに好ましくは大腸ガンに作用するものである。NEDD1遺伝子発現抑制剤を含有する抗ガン剤としては、好ましくは胃ガンに作用するものである。RAE1遺伝子発現抑制剤を含有する抗ガン剤としては、好ましくは食道ガンに作用するものである。
【0040】
(遺伝子発現抑制剤の用途)
別の観点から、本発明は、前述したPSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤およびRAE1遺伝子発現抑制剤の用途を提供する。
例えば、PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤またはRAE1遺伝子発現抑制剤は、必要に応じてアテロコラーゲンとともに、ガン患者に投与され、ガン化された細胞のアポトーシスを促進させる抗ガン剤として用いることができる。なお、PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤またはRAE1遺伝子発現抑制剤の細胞への作用はアポトーシスの促進に限られるものではなく、最終的に細胞死を誘発したり、細胞増殖を抑制することができれば、ガン細胞増殖抑制剤として有用である。ここで、アテロコラーゲンとは、酵素可溶化コラーゲンおよびその修飾物のことをいい、例えばWO01/097857に記載されている。
【0041】
すなわち、本発明は、PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤またはRAE1遺伝子発現抑制剤の抗ガン剤としての使用方法を提供する。また、さらなる観点から、本発明は、前述したガン細胞増殖抑制剤を含む抗ガン剤を提供する。
【0042】
このような用途において、PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤またはRAE1遺伝子発現抑制剤の使用量は、投与方法、腫瘍の種類、大きさによって異なるが、例えばPSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤またはRAE1遺伝子発現抑制剤については局所投与では1nmol/kg以上10nmol/kg以下、全身投与では2nmol/kg以上50nmol/kg以下が望ましい。また、アテロコラーゲンと併用する場合には、このアテロコラーゲンの濃度は例えば局所投与では0.1mg/ml(w/vol)以上30mg/ml(w/vol)以下、全身投与では1mg/ml(w/vol)以上50mg/ml(w/vol)以下が望ましく、その使用量はPSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤またはRAE1遺伝子発現抑制剤との混合後、局所投与で5ml以上100ml以下、全身投与で10ml以上500ml以下が望ましい。
【0043】
このような用途によれば、PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤またはRAE1遺伝子発現抑制剤を、ガン化細胞のアポトーシスを促進させる等の機序で細胞死を誘発させ、又は細胞増殖を抑制させることにより、結果としてガンの治療を行うことが可能になる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を試験例に基づいて説明するが、本発明はこれら試験例に限定されることはない。
(試験例1)大腸ガン細胞の増殖抑制試験
大腸ガン組織で高発現している97遺伝子(以下の表)に対するsiRNAを大腸ガン細胞に導入し、各遺伝子の発現抑制が細胞のアポトーシス誘導に及ぼす影響を調べた。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
(1)アテロコラーゲンセルトランスフェクションアレイの作製
以下のようにして、siRNAおよびアテロコラーゲンの混合物を、96穴マイクロプレートにコーティングし、siRNAをリバーストランスフェクションできるアテロコラーゲンセルトランスフェクションアレイを作製した。
すなわち、アテロコラーゲン(PBS中で160mg/ml、pH7.4)とsiRNA希釈液(PBS中で0.4mM)を1:1の割合で混合、4℃で20分間、転倒混和し、siRNAとアテロコラーゲンのコンプレックスを調製した。アテロコラーゲンの最終濃度は80mg/ml、siRNAの最終濃度は0.2mMとなる。siRNA/アテロコラーゲン−コンプレックス50mlを96穴プレートの各ウェルに添加、ウェル底面をコーティングして、siRNA/アテロコラーゲン−コンプレックスをアレイ化し(siRNA 10pmol/well)、アテロコラーゲンセルトランスフェクションアレイを作製した。そこに培養細胞を播種し、siRNAをトランスフェクションした。
【0048】
(2)増殖細胞数の測定
作製したアテロコラーゲンセルトランスフェクションアレイに、HT−29大腸ガン細胞(The American Type Culture Collection (以下「ATCC」という)より入手)を5×103細胞/well播種し、3日間培養した。増殖した細胞数を、プロメガ社推奨のCellTiter-Blue Reagentのプロトコールにしたがって測定した。すなわち、CellTiter-Blue Reagent(プロメガ社製)をPBS(−)で4倍に希釈し、細胞培養プレートの各ウェルに添加し、CO2インキュベーター(37℃)で1時間インキュベート後、プレートリーダー(パーキンエルマー社製)で蛍光値(Ex560/Em590)を測定した。
【0049】
(3)機能的スクリーニング試験
細胞増殖測定後、プロメガ社推奨のCaspase-Glo 3/7 ReagentのプロトコールにしたがってCaspase-3/7活性測定試薬(プロメガ社製)を添加して、室温で60分間インキュベート後、プレートリーダー(パーキンエルマー社製)で発光値を測定し、Caspase活性を測定した。
【0050】
Caspase-3/7活性値を細胞増殖値で除し、コントロールsiRNAとして下記の配列(siCONTROL Non-targeting siRNA #1:Dharmacon社、以下の試験例において特筆しない限り、コントロールsiRNAとして全て同じものを使用した)を用い、コントロールsiRNAの値を100%としたときの細胞あたりのCaspase-3/7活性の上昇を解析した。
センス鎖 :5'-UAGCGACUAAACACAUCAAUU-3'(配列表の配列番号7)
アンチセンス鎖:5'-UUGAUGUGUUUAGUCGCUAUU-3'(配列表の配列番号8)
上記の各遺伝子のノックダウンによりアポトーシス誘導を指標とした機能的スクリーニング試験(functional screening)の結果、特にPSMA7のノックダウンにより、HT−29大腸ガン細胞において、他の遺伝子のノックダウンと比較して、アポトーシスが著しく誘導されることが明らかになった(図1)。このことは、PSMA7が大腸ガンにおけるアポトース抑制因子である可能性を示唆している。
【0051】
(試験例2)PSMA7のsiRNAを用いたアポトーシス誘導試験
試験例1にて作製したアテロコラーゲンセルトランスフェクションアレイを用い、HT−29細胞にPSMA7siRNA(図4に示した配列#1〜#4(それぞれ配列表の配列番号9〜16)のsiRNAの混合物;SMARTpool、Dharmacon社)またはコントロールsiRNAを導入し、3日間培養後、ヘキスト染色を行い、細胞核の凝縮や断片化にみられる核形態の変化を観察して、各siRNAを導入した系におけるアポトーシス誘導を調べた。試験結果を図2に示す。
なお、ヘキスト染色を行った観察とは、細胞をPBS(−)(phosphate buffered saline (-);(-)はCaイオン及びMgイオンが成分として入っていないことを示す)で洗浄後、4%PFA(paraformaldehyde)、0.1%Triton X-100(シグマ社)、1mg/ml Hoechst 33342(PBS(−)中)を添加し、室温で20分間固定し、染色した後に、PBS(−)で洗浄後、蛍光顕微鏡下で観察することをいう。
【0052】
図2によれば、PSMA7のsiRNAを導入したHT−29細胞では、図中の矢印に示したように、多くのアポトーシス細胞が確認された。一方、コントロールsiRNAを導入したHT−29細胞では、ほとんどアポトーシス細胞は認められなかった。
Caspase-3/7の活性化と同様に、ヘキスト染色による観察結果は、PSMA7のノックダウンにより、HT−29細胞においてアポトーシスが誘導されることを示し、PSMA7が、大腸ガンにおいてアポトーシス抑制的に働くことを裏付けている。
【0053】
(試験例3)PSMA7のsiRNAを用いたノックダウン効率
試験例1にて作製したアテロコラーゲンセルトランスフェクションアレイを用い、PSMA7siRNA(図4に示した配列#1〜#4(それぞれ配列表の配列番号9〜16)のsiRNAの混合物;SMARTpool、Dharmacon社)またはコントロールsiRNAを導入したときにおけるmRNAのノックダウン効率を調べた。mRNAの発現量は、FastLane Cell cDNA Kit (キアゲン社)およびQuantiTect SYBR Green PCR Kit (キアゲン社)のプロトコールにしたがい、リアルタイムPCRシステム(ABI)を使用し測定した。内部標準遺伝子として、GAPDHを用いた。結果を図3に示す。
図3によれば、PSMA7siRNAをHT−29細胞に導入したとき、コントロールsiRNAと比較して、mRNAの80%が発現抑制されていたことがわかった。
【0054】
(試験例4)PSMA7に対する4配列のsiRNAのノックダウン効率
HT−29細胞にLipofectAmine 2000(Invitrogen社)を用いて、図4に示した各配列のsiRNAをトランスフェクションし、3日後にトータルRNAを抽出し、mRNA発現量をSYBRR PrimeScriptR RT-PCR Kit II(TaKaRa社)のプロトコールにしたがい、リアルタイムPCRシステム(ABI)で測定した。内部標準遺伝子として、GAPDHを用いた。コントロールsiRNA導入細胞における発現量を100%として表す。結果を図5に示す。
図5によれば、4種のPSMA7siRNAうち、図4の配列#2(配列表の配列番号11,12)の配列がノックダウン効率約70%を示し、その他の3種のsiRNAと比較して、最も高い発現抑制を示すことがわかる。以後、配列#2のsiRNAを大腸ガン皮下腫瘍モデル(ヌードマウス)での実験に用いた。
【0055】
(試験例5)大腸ガン細胞株におけるPSMA7の発現
大腸ガン細胞株5種(CaCo2:ヒト結腸腺ガン、HCT116:ヒト結腸腺ガン、HT-29:ヒト結腸腺ガン、LoVo:ヒト結腸腺ガン(鎖骨リンパ節転移巣)、T84:ヒト結腸ガン:肺転移巣;全てATCCより入手)と、正常大腸組織におけるPSMA7の発現量を比較した。
mRNAの発現量を、リアルタイムRT−PCR(SYBRR PrimeScriptR RT-PCR Kit II : TaKaRa社; リアルタイムPCRシステム: ABI使用)により測定した。PSMA7遺伝子のプライマー(配列表の配列番号17、18)を用いるとともに、18s rRNA(配列表の配列番号19、20)の発現を内部標準として補正した。正常大腸組織試料1、2の平均値を1とした。結果を図6に示す。配列表の配列番号17〜20の配列を、図7に示す。
図6によれば、5種類すべての大腸ガン細胞株で、正常大腸組織よりも高いPSMA7の発現が認められた。
【0056】
(試験例6)各種ガン組織および正常組織におけるPSMA7の発現量の比較
腫瘍とその隣接正常組織とから抽出したRNAセット(FirstChoice Tumor/Normal Adjacent Tissue RNA: Ambion社)を用い、各種ガン組織および正常組織におけるPSMA7の発現量を比較した。mRNAの発現量を、リアルタイムRT−PCR(SYBRR PrimeScriptR RT-PCR Kit II : TaKaRa社; リアルタイムPCRシステム: ABI使用)により測定した。18s rRNAの発現を内部標準として補正した。正常大腸組織試料1、2の平均値を1とした。結果を図8に示す。
図8によれば、大腸ガン組織およびその他のガン組織(乳ガン、子宮ガン、甲状腺ガン、肝臓ガン、膀胱ガン、腎臓ガン、卵巣ガン、精巣ガン、胃ガン、リンフォーマ、小腸ガン)において、PSMA7の発現の亢進が認められた。よって、PSMA7は、これらのガン種において、腫瘍のガン化、悪性化に関与すると考えられる。
【0057】
(試験例7)動物モデルを用いたPSMA7siRNAの大腸ガン皮下移植腫瘍に及ぼす影響
図9は、本試験の手順の概略を示す。
図9に示したように、4週齢のメスのヌードマウス後背部皮下にHT−29細胞(5x106 細胞/部位)を移植し、腫瘍径が約5−6mmに達した7日後に、図4の配列#2(配列表の配列番号11、12)のsiRNA(1nmol/部位)を、アテロコラーゲン(最終濃度:0.5%)を導入担体として腫瘍内投与した。
【0058】
(mRNAの発現抑制)
siRNAの投与24時間後に腫瘍を採取し、mRNAを抽出し、mRNAの発現量をリアルタイムRT−PCRで測定した(SYBRR PrimeScriptR RT-PCR Kit II : TaKaRa社; リアルタイムPCRシステム: ABI使用)。内部標準遺伝子には、GAPDHを用いた。コントロールsiRNA導入細胞における発現量を100%として表す。結果を図10に示す。
図10によれば、コントロールsiRNA投与群と比較し、PSMA7siRNA投与群はPSMA7のmRNAの発現が約35%減少していることがわかった。大腸ガン皮下移植腫瘍組織においても、siRNAの投与によりPSMA7の発現が抑制されることが示された。
【0059】
(アポトーシス誘導)
siRNAの投与72時間後に腫瘍を採取し、凍結組織切片を作製し、TUNEL染色(In Situ Cell Death Detection Kit: Roche社)した。結果を図11に示す。なお、図11において明確に示されていないが、核はDAPI染色で青色に、TUNEL陽性細胞はフルオレセイン標識による緑色に染色される。
図11によれば、PSMA7siRNAを投与したHT−29腫瘍では、多くのTUNEL陽性細胞が観察された。一方、コントロールsiRNAを導入したHT−29腫瘍では、ほとんどTUNEL陽性細胞は認められなかった。よって、PSMA7の発現抑制により、大腸ガン皮下移植腫瘍組織においてもアポトーシスが誘導されることが確認された。
【0060】
(試験例8)食道ガン細胞におけるPSMA7遺伝子の発現試験
図12は、PSMA7遺伝子について、食道ガンの患者から採取した42サンプルにおいて行った発現試験の結果を示す。この発現試験は、食道ガン非ガン部および42症例の食道ガン部から抽出したRNA10μgを鋳型としてfirst strand cDNA合成キット(GEヘルスケア)を用いてcDNAを合成後、1/20量のcDNAを鋳型にPCRを行い、さらにPCR産物をアガロースゲル電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色することによって行った。
図12によれば、コントロールのβ−アクチン(Operon社、以下の試験例においてコントロールのβ−アクチンとして全て同じものを使用した)の発現量が各サンプルについてほぼ同程度であることから、サンプル間で含まれるmRNA量に大きな差がないことが示される。また、食道非ガン部からのサンプルにおける結果と比較して、いずれのガン細胞からのサンプルにおいても発現量に多少の差があるものの、PSMA7遺伝子が発現していることがわかる。
【0061】
(試験例9)食道ガン細胞におけるRAE1遺伝子の発現試験
図13は、RAE1遺伝子について、食道ガンの患者から採取した42サンプルにおいて行った発現試験の結果を示す。この発現試験は、食道ガン非ガン部および42症例の食道ガン部から抽出したRNA10μgを鋳型としてfirst strand cDNA合成キット(GEヘルスケア社)を用いてcDNAを合成後、1/20量のcDNAを鋳型にPCRを行い、さらにPCR産物をアガロースゲル電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色することによって行った。
図13によれば、コントロールのβ−アクチンの発現量が各サンプルについてほぼ同程度であることから、サンプル間で含まれるmRNA量に大きな差がないことが示される。また、食道非ガン部からのサンプルにおける結果と比較して、いずれのガン細胞からのサンプルにおいても発現量に多少の差があるものの、RAE1遺伝子が発現していることがわかる。
【0062】
(試験例10)PSMA7およびRAE1siRNAによる食道ガン細胞の増殖抑制試験
この増殖抑制試験は、TE3(食道扁平上皮ガン由来)細胞にDhamaFECT(Dharmacon社)を用いて、以下の各配列のsiRNAをトランスフェクションし、3日後に細胞数を血球計算盤を用いて計測することによって行った。コントロールsiRNA(QIAGEN社)導入時の細胞数を100として、PSMA7およびRAE1siRNA導入時の細胞数を図14に示した。以下の各配列中の小文字のt、c、gはそれぞれ保護配列としてのデオキシチミン、デオキシシトシン、デオキシグアニンを示す。

PSMA7のsiRNA(Ambion, siRNAID#11945):
センス鎖 :5'-GGAAGAGACAUUGUUGUUCtt -3'(配列表の配列番号21)
アンチセンス鎖:5'-GAACAACAAUGUCUCUUCCtc-3'(配列表の配列番号22)

RAE1のsiRNA(Ambion, siRNAID#139221):
センス鎖 :5'-GCUAGAGAAUCAACCUUCUtt-3'(配列表の配列番号23)
アンチセンス鎖:5'-AGAAGGUUGAUUCUCUAGCtg-3'(配列表の配列番号24)

コントロールのsiRNA(QIUAGEN, 1022076):
センス鎖 :5'-UUCUCCGAACGUGUCACGUtt-3'(配列表の配列番号25)
アンチセンス鎖:5'-ACGUGACACGUUCGGAGAAtt-3'(配列表の配列番号26)

図14によれば、PSMA7siRNAおよびRAE1siRNAを投与することにより、食道ガン細胞の増殖が抑制されたことがわかる。
【0063】
(試験例11)胃ガン細胞におけるNEDD1遺伝子の発現試験
図15は、NEDD1遺伝子について、胃ガンの患者から採取したサンプルにおいて行った発現検査の結果を示す。この発現試験は、非ガン部胃粘膜の3層(pit, neck, gland)、8症例の分化型胃ガン部および10症例の未分化型胃ガン部から抽出したRNA10μgを鋳型としてfirst strand cDNA合成キット(GEヘルスケア)を用いてcDNAを合成後、1/20量のcDNAを鋳型にPCRを行い、さらにPCR産物をアガロースゲル電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色することによって行った。非ガン部胃粘膜3層の鋳型cDNAの合成は、Fukaya M et al., Gastroenterology 2006; 131: 14-29に記載されている。
図15によれば、コントロールのβ−アクチンの発現量が各サンプルについてほぼ同程度であることから、サンプル間で含まれるmRNA量に大きな差がないことが示される。また、非ガン部(Normal)からのサンプルにおける結果と比較して、いずれのガン組織からのサンプルにおいても発現量に多少の差があるものの、NEDD1遺伝子が発現していることがわかる。
【0064】
(試験例12)NEDD1siRNAによる胃ガン細胞の増殖抑制試験
この増殖抑制試験は、HSC60(未分化胃ガン由来)細胞にDhamaFECT(Dharmacon社)を用いて、以下の配列のsiRNAをトランスフェクションし、2日間、細胞数を血球計算板を用いて計測することによって行った。コントロールsiRNAは前記試験例10に記載したQIAGEN,1022076を用いた。

NEDD1のsiRNA(Ambion, siRNAID#122064):
センス鎖 :5'-CGAAGUGUUAAUGUGAAUGtt-3'(配列表の配列番号27)
アンチセンス鎖:5'-CAUUCACAUUAACACUUCGtt-3'(配列表の配列番号28)

図16によれば、NEDD1siRNAを投与することにより、特に投与後二日目にて胃ガン細胞の増殖が抑制されたことがわかる。
【0065】
(試験例13)PSMA7siRNA投与によるヒト大腸ガン肝転移抑制実験
ヌードマウス(BALB/c-nu/nu)6週齢のオスに、2x106個のヒト大腸ガン細胞HT-29-P-VLを脾臓に注入した。ガン細胞の注入から5日後および10日後のそれぞれにおいて計2回、ネガティブ・コントロールsiRNA(AllStars, Qiagen)またはPSMA7siRNA(SIGMA)をJetPEI(6.4mL, Poly-plus transfection)と混合し、2.5mg/kg、200μL/mouseで尾静脈より投与した。ガンの転移の有無を、ガン細胞の注入から15日後における、イメージング画像により評価した。
図17に、得られた画像を模式的に示した図を示す。図17において、左側にネガティブ・コントロールsiRNA投与マウスで得られた評価画像を示し、右側のPSMA7siRNA投与マウスで得られた評価画像を示す。
図17によれば、ネガティブ・コントロールsiRNA投与マウスでは、肝臓にガン細胞由来のシグナルが検出されたのに対し、PSMA7siRNA投与マウスではそのようなガン細胞由来のシグナルは検出されず、PSMA7siRNAの投与により肝臓への転移抑制効果が認められたことがわかる。
【0066】
(試験例14)マウス腹腔内ヒト移植腫瘍増殖に対するNEDD1siRNAの抑制試験
40万個のルシフェラーゼ遺伝子を導入したヒト未分化胃ガン由来60As6細胞をC,B17/lcr-scidマウスの腹腔に投与後、1日目から14日目までに、50μgのNEDD1siRNAを0.5%アテロコラーゲン(株式会社高研)および10μlのDharmaFECT(Dharmacon社)を混合して得られた混合物を合計6回腹腔内に投与した6匹、およびsiRNAを含まない混合物を投与した6匹のそれぞれのマウスを、IVIS(Xenogen社)によってイメージングし、腹腔内での60As6細胞の増殖を、ルシフェラーゼが発する光(光子)を計数(測定)することによって見積もった。
図18に、このNEDD1siRNAの腹腔内投与によるin vivo腹膜再発抑制の結果を経時的なガン細胞の増殖抑制の観点から説明するグラフを示す。
図18によれば、NEDD1siRNAをマウス腹腔内に投与することによって、60As6細胞の増殖が有意に抑えられていることがわかる。
【0067】
(試験例15)マウス腹腔内ヒト移植腫瘍増殖に対するNEDD1siRNAの抑制試験
10万個のヒト未分化胃ガン由来60As6細胞をC,B17/lcr-scidマウスの腹腔に投与後、1日目から22日目までに、50μgのNEDD1siRNAを0.5%アテロコラーゲン(株式会社高研)および10μlのDharmaFECT(Dharmacon社)を混合して得られた混合物を合計9回腹腔内に投与した8匹、およびsiRNAを含まない混合物を投与した9匹のそれぞれのマウスの生存状態を約100日間観察した。
図19に、siRNAを投与したグループと、投与しなかったグループとにおけるマウスの生存率の変化を説明するグラフを示す。
図19によれば、siRNAを投与したグループと、投与しなかったグループとで比較すると、NEDD1siRNAをマウス腹腔内に投与することによって、有為に延命できたことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤およびRAE1遺伝子発現抑制剤のいずれか一つを含むガン細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
PSMA7遺伝子発現抑制剤を含有する請求項1に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
PSMA7遺伝子発現抑制剤がポリヌクレオチドである請求項2に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
ポリヌクレオチドが、二本鎖ポリヌクレオチドである請求項3に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
二本鎖ポリヌクレオチドのうち1本が下記(a)〜(d)から選択されるいずれか1つの塩基配列における、連続する15〜33塩基長の塩基配列のポリヌクレオチドを干渉配列の相補鎖として含む、請求項4に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(a)配列番号1に記載の塩基配列、
(b)配列番号1に記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列、
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列。
【請求項6】
二本鎖ポリヌクレオチドが二本鎖RNAである請求項5に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項7】
ガンが大腸ガン又は食道ガンである請求項2〜6のいずれか一項に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項8】
NEDD1遺伝子発現抑制剤を含有する請求項1に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項9】
NEDD1遺伝子発現抑制剤がポリヌクレオチドである請求項8に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項10】
ポリヌクレオチドが、二本鎖ポリヌクレオチドである請求項9に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項11】
二本鎖ポリヌクレオチドのうち1本が下記(e)〜(h)から選択されるいずれか1つの塩基配列における、連続する15〜33塩基長の塩基配列のポリヌクレオチドを干渉配列の相補鎖として含む、請求項10に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(e)配列番号3に記載の塩基配列、
(f)配列番号3に記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列、
(g)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、
(h)配列番号4に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列。
【請求項12】
二本鎖ポリヌクレオチドが二本鎖RNAである請求項11に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項13】
ガンが胃ガンである請求項8〜12のいずれか一項に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項14】
RAE1遺伝子発現抑制剤を含有する請求項1に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項15】
RAE1遺伝子発現抑制剤がポリヌクレオチドである請求項14に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項16】
ポリヌクレオチドが、二本鎖ポリヌクレオチドである請求項15に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項17】
二本鎖ポリヌクレオチドのうち1本が下記(i)〜(l)から選択されるいずれか1つの塩基配列における、連続する15〜33塩基長の塩基配列のポリヌクレオチドを干渉配列の相補鎖として含む、請求項16に記載のガン細胞増殖抑制剤。
(i)配列番号5に記載の塩基配列、
(j)配列番号5に記載の塩基配列に対して90%以上の相同性を有する塩基配列、
(k)配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、
(l)配列番号6に記載のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加され、またはその組み合わせにより変異されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列。
【請求項18】
二本鎖ポリヌクレオチドが二本鎖RNAである請求項17に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項19】
ガンが食道ガンである請求項14〜18のいずれか一項に記載のガン細胞増殖抑制剤。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか一項に記載のガン細胞増殖抑制剤を含む抗ガン剤。
【請求項21】
PSMA7遺伝子発現抑制剤、NEDD1遺伝子発現抑制剤またはRAE1遺伝子発現抑制剤の抗ガン剤としての使用方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−168368(P2010−168368A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292525(P2009−292525)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月31日 日本癌学会発行の「第68回日本癌学会学術総会」に発表
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)
【Fターム(参考)】