説明

PTC導電性塗料の製造方法、PTC面状発熱体の製造方法、PTC導電性塗料及びPTC面状発熱体

【課題】優れたPTC特性を有するPTC導電性塗料及びPTC面状発熱体を安全且つ効率的に製造することができるPTC導電性塗料の製造方法、PTC面状発熱体の製造方法、PTC導電性塗料、及びPTC面状発熱体を提供する。
【解決手段】溶媒としての水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱暖房器具に好適に用いられるPTC導電性塗料の製造方法、PTC面状発熱体の製造方法、PTC導電性塗料及びPTC面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
面状発熱体は、ニクロム線ヒータ等の線状発熱体とは異なり、二次元的に広がる発熱体であることから、大面積を確保することが可能である。このため、面状発熱体は、例えばマット、床暖房用ヒータ、融雪用ヒータ等の熱暖房器具、乾燥用器具、農業用器具等に広く利用されている。
【0003】
このような面状発熱体の一種に、PTC(Positive Temperature Coefficient)特性(自己温度制御性:温度上昇につれて抵抗値が増大する性質)を示すものがある。PTC特性を示す面状発熱体(PTC面状発熱体)は、負荷電圧が一定の場合に電流値が低下し、発熱量が抑制されることにより、自己温度制御が可能となる。これにより、PTC面状発熱体は、日差しやこもり熱による過熱を自動的に制御するため、人体に対して火傷等の危険性を与えることがなく、また低消費電力を実現可能な発熱体として汎用されている。
【0004】
PTC面状発熱体は、PTC特性を有する導電性塗料(PTC導電性塗料)を不織布等の基布や高分子フィルム等の基材に含浸又は塗布し、焼成、乾燥、エイジング等の工程を経て製造される。PTC導電性塗料は、通常、PTC付与剤としてのパラフィン、導電性付与剤としてのカーボンブラック又はグラファイトや、構造材としての熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂等の樹脂成分、さらには有機溶剤成分等を含有する。
【0005】
しかしながら、従来、PTC導電性塗料を面状発熱体として実用化する場合には、性能上、必ずしも満足するものを得ることができなかった。具体的に、従来のPTC面状発熱体は、柔軟性に欠けて耐熱屈曲性に劣り、屈曲を繰り返すことで亀裂が生じ、抵抗を無視し得ないほど変化させることがあった。また、パラフィンの融点が低いことに起因して耐熱安定性に欠け、高いPTC倍率を取得しにくく、さらには、長時間使用後の経時変化を免れ得ない等の欠陥を有することがあった。
【0006】
そこで、例えば特許文献1に記載の技術では、PTC導電性塗料において、パラフィンの融点や重量、カーボンブラック又はグラファイトの重量等を適宜調整することで、このような問題を解決するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−150663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来のPTC導電性塗料及びPTC面状発熱体を製造する上では、各成分の条件を適宜調整することでPTC導電性塗料及びPTC面状発熱体の性能を向上させることができる。しかしながら、これまでのPTC導電性塗料及びPTC面状発熱体は、溶媒として有機溶剤成分を使用して製造することから、安全上好ましくなく、人体や環境に対して有害な影響を及ぼすおそれがあった。しかも、その製造においては、その有機溶剤成分を廃棄、除害するための大型の廃棄装置を設置することを要し、設備コストの増大や処理工程数の増加を招いていた。
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、優れたPTC特性を有するPTC導電性塗料及びPTC面状発熱体を安全且つ効率的に製造することができるPTC導電性塗料の製造方法、PTC面状発熱体の製造方法、PTC導電性塗料、及びPTC面状発熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明のPTC導電性塗料の製造方法は、水を溶媒とし、水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とを含有させる。
【0011】
また、上述の目的を達成するために、本発明のPTC面状発熱体の製造方法は、水を溶媒とし、水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とが含有されてなるPTC導電性塗料を基材に含有させ、PTC導電性塗料を含有させた基材に対して焼成を行い、焼成後、PTC導電性塗料を含有させた基材に対してエイジング又は通電により物性を安定させる。
【0012】
また、上述の目的を達成するために、本発明のPTC導電性塗料は、溶媒としての水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とが含有されてなる。
【0013】
また、上述の目的を達成するために、本発明のPTC面状発熱体は、溶媒としての水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とが含有されてなるPTC導電性塗料を基材に含有してなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水を溶媒とし、この水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とを含有させることから、優れたPTC特性を有するPTC導電性塗料及びPTC面状発熱体を安全且つ効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】恒温槽試験によるPTC特性の測定結果のグラフを示す図である。
【図2】通電試験によるPTC特性の測定結果のグラフを示す図である。
【図3】通電試験によるPTC特性の測定結果のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。
1.PTC導電性塗料の製造方法
2.PTC面状発熱体の製造方法
3.実施例
【0017】
<1. PTC導電性塗料の製造方法>
本実施の形態におけるPTC導電性塗料の製造方法は、溶媒として水を用いる。そして、この溶媒としての水に、構造材としてのアクリル酸エステル共重合体と、PTC付与剤としての結晶性熱硬化性樹脂と、含浸補助剤としてのパラフィンと、導電性付与剤としてのカーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とを含有させて製造する。
【0018】
このように本実施の形態におけるPTC導電性塗料の製造方法では、溶媒として水を用いて製造することから、人体や環境に対して有害な影響を及ぼすことなく安全にPTC導電性塗料を製造することができる。また、このPTC導電性塗料の製造方法では、有機溶剤成分を廃棄するための廃棄装置を設置する必要がないため、コストの拡大や工程数の増加を抑制することができ、効率良くPTC導電性塗料を製造することができる。
【0019】
溶媒としての水は、PTC導電性塗料の成分を溶解、分散させることができ、PTC特性に影響を与えるものでなければ、特に限定されないが、その中でも軟水を用いることが好ましい。軟水は、金属不純物濃度が極めて低く、このような軟水を用いることによって、PTC特性やPTC導電性塗料成分の種類に関係なく、効果的に各成分を溶解、分散させることができる。なお、軟水としては、特に限定されないが、例えば水道水、飲料水等を挙げることができる。また、水を所定の軟水化装置にて軟水化処理することにより水中の金属不純物を低減又は除去して得られたものを用いることができる。なお、水中のその他の不純物成分は、各成分の溶解、分散やPTC特性への影響がなければ、特に除去する必要はない。
【0020】
水の重量は、製造されるPTC導電性塗料全重量に対し、8〜60重量%とすることが好ましい。8重量%未満であると、他の固形成分を充分に分散又は溶解させることができないおそれがある。一方、60重量%を超えると、PTC面状発熱体において充分なPTC特性を発揮できないおそれがある。
【0021】
そして、本実施の形態におけるPTC導電性塗料の製造方法では、上述した溶媒としての水に、以下のPTC導電性塗料の各成分を含有させる。このように、水を溶媒として、以下のように特定される成分を溶解、分散させることによって、優れたPTC特性を有するPTC導電性塗料を安全に且つ効率的に製造することができる。
【0022】
具体的には、構造材として、アクリル酸エステル共重合体を含有させる。アクリル酸エステル共重合体の重量は、PTC導電性塗料の全重量に対し、2〜40重量%とすることが好ましい。2重量%未満であると、PTC特性が付与されないおそれがある。一方、40重量%を超えると、PTC特性が不安定になるおそれがある。
【0023】
また、PTC付与剤として、結晶性熱硬化性樹脂を含有させる。この結晶性熱硬化性樹脂としては、高分子量ポリマーと低分子量ポリマーとを組み合わせてなるものを用いる。結晶性熱硬化性樹脂の一例としては、重量平均分子量が100000以上の高分子量ポリエチレングリコールと、重量平均分子量が10000以下の低分子量ポリエチレングリコールとを組み合わせてなるものを挙げることができる。
【0024】
高分子量ポリエチレングリコールの重量は、PTC導電性塗料の全重量に対し、25〜70重量%とすることが好ましい。25重量%未満であると、PTC導電性塗料においてPTC特性が付与されないおそれがある。一方、70重量%を超えると、PTC導電性塗料においてPTC特性が安定しないおそれがある。
【0025】
低分子量ポリエチレングリコールの重量は、PTC導電性塗料の全重量に対し、2.5〜7重量%とすることが好ましい。2.5重量%未満であると、PTC導電性塗料においてPTC特性が付与されないおそれがある。一方、7重量%を超えると、PTC導電性塗料においてPTC特性が安定しないおそれがある。
【0026】
また、含浸補助剤として、パラフィンを含有させる。パラフィンとしては、その融点が40〜100℃であるものを用いる。融点が40℃未満であると、耐熱性が劣り、低温で軟化するおそれがある。一方、融点が100℃を超えると、含浸補助において支障が生じるおそれがある。一般に、パラフィンは、製造由来から石炭系パラフィンと石油系パラフィンとがあるが、本実施の形態においては、何れの系のパラフィンも使用可能である。
【0027】
パラフィンの重量は、結晶性熱硬化性樹脂の重量に対し、4〜15重量%とすることが好ましい。4重量%未満であると、充分に含浸補助ができないおそれがある。一方、15重量%を超えると、含浸補助に支障が生じるおそれがある。
【0028】
また、導電性付与剤として、カーボンブラック及びグラファイトを含有させる。導電性付与剤としては、例えばカーボンブラック及びグラファイトが水に分散、混合されてなる水分散体を挙げることができる。
【0029】
カーボンブラック及びグラファイトの水分散体の重量は、PTC導電性塗料全重量に対し、10〜75重量%とすることが好ましい。10重量%未満であると、PTC導電性塗料において導電性が無くなるおそれがある。一方、75重量%を超えるとPTC導電性塗料においてPTC特性が無くなるおそれがある。
【0030】
カーボンブラック及びグラファイトの合計重量は、PCT導電性塗料全重量に対し、3〜25重量%とすることが好ましい。3重量%未満であると、PTC導電性塗料において導電性が無くなるおそれがある。一方、25重量%を超えると、PTC導電性塗料においてPTC特性が無くなるおそれがある。なお、カーボンブラックとグラファイトとの重量比は、1:1であることが好ましい。
【0031】
また、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂との架橋反応を促進する架橋剤を含有させる。結晶性熱硬化性樹脂が例えば高分子量ポリエチレングリコール及び低分子量ポリエチレングリコールである場合、架橋剤は、アクリル酸エステル共重合体と高分子量ポリエチレングリコールと低分子量ポリエチレングリコールとの架橋反応を促進する。架橋剤としては、特に限定されず、アクリル酸エステル共重合体、結晶性熱硬化性樹脂それぞれの種類に応じて適宜選択することができ、例えばブロックイソシアネートを挙げることができる。また、結晶性熱硬化性樹脂が水酸基を有しない場合には、架橋剤として、例えばオキサゾリン基含有ポリマーを用いることができる。
【0032】
架橋剤の重量は、例えばブロックイソシアネートを用いる場合、ブロックイソシアネートの重量は、製造されるPTC導電性塗料全重量に対し、0.1〜3重量%とすることが好ましい。0.1重量%未満であると、架橋反応が充分に促進されないおそれがある。一方、3重量%を超えると、電気抵抗が安定しないおそれがある。
【0033】
なお、PTC導電性塗料の各成分の配合比率に応じ、さらに表面張力調整剤を含有させるようにしてもよい。表面張力調整剤としては、特に限定されないが、例えばスルホコハク酸誘導体を挙げることができる。スルホコハク酸誘導体の重量は、PTC導電性塗料全重量に対し、0.05〜3重量%とすることが好ましい。0.05重量%未満であると、表面張力調整の効果が得られないおそれがある。一方、3重量%を超えると電気抵抗が安定しないおそれがある。
【0034】
また、さらに熱硬化性樹脂を含有させるようにしてもよい。熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール系樹脂、エステル系樹脂、アルキド系樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド樹脂、ビニール変性エポキシエステル樹脂等を挙げることができる。
【0035】
本実施の形態におけるPTC導電性塗料の製造方法は、溶媒である水に、以上のように調整した成分を含有させることで、優れたPTC特性を有するPTC導電性塗料を製造することができる。すなわち、柔軟性に優れ、10〜80℃において極めて高い耐熱安定性を有るとともに、使用による経時変化が極めて少なく、良好な形態安定性を有するPTC導電性塗料を製造することができる。
【0036】
<2. PTC面状発熱体の製造方法>
本実施の形態におけるPTC面状発熱体の製造方法は、上述のPTC導電性塗料を含浸又は塗布によって基材に含有させ、続いて、PTC導電性塗料を含有させた基材に対して焼成を行い、その後、PTC導電性塗料を含有させた基材に対してエイジング又は通電を行うことにより製造することができる。
【0037】
(含有工程)
本実施の形態におけるPTC面状発熱体の製造方法では、基材としての基布にPTC導電性塗料を含有させる。基布としては、例えば不織布、綿、化学繊維、ガラス繊維等、又はこれらのうち少なくとも1種を含む紡績糸、又は混繊糸等によりなる繊維糸条を縦糸及び横糸として縦糸又は横糸の一部に銅線等の良導電性線条物を所定間隔で配置した繊維織物が挙げられる。化学繊維としては、例えばポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ビニロン系繊維等を挙げることができる。なお、基布としては、予め導線が例えば編み込み、織り込み等によって繊維に組み込まれた繊維織物を用いることが好ましい。基布内にPTC導電性塗料を含有させる方法としては、基布内部にPTC導電性塗料を内包させることができれば特に限定されず、例えば含浸、塗布、スプレー噴霧等、各種の方法を挙げることができる。また、基材は、基布に限定されず、例えば高分子フィルムあってもよい。
【0038】
(焼成工程)
次に、PTC導電性塗料を含有させた基布を連続焼成炉に入れ、130℃〜200℃の空気雰囲気中において30〜60分間焼成する。この処理により、PTC導電性塗料中の成分の特性を顕在化させる。焼成方法としては、特に限定されないが、例えば、遠赤外線照射、マイクロウエーブ照射、誘電加熱等を挙げることができる。
【0039】
(エイジング工程)
焼成後、PTC導電性塗料を含有させた基布を60〜120℃、24〜100時間エイジング又は通電処理することにより、PTC導電性塗料中の成分の特性を安定化させる。
【0040】
本実施の形態におけるPTC面状発熱体の製造方法は、上述の製造方法によって安全に製造したPTC導電性塗料を基材に含有させ、その後、焼成と、エイジング又は通電とを行うことで、優れたPTC特性を有するPTC面状発熱体を製造することができる。
【0041】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明が上述の実施の形態に限定されるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0042】
<3. 実施例>
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0043】
(3−1.PTC導電性塗料の製造)
先ず、常温(15〜25℃)の撹拌容器内に、溶媒としての軟水(水道水を軟水化装置(三浦工業 株式会社製)で軟水化処理したもの。)80gを入れた。次に、この軟水に、固形パラフィンを4.2重量%含有するアクリル酸エステル共重合体(NKクーパー NR301HN、新中村化学工業株式会社製)20gと、分子量500000の高分子量ポリエチレングリコール(PEG500,000、和光純薬工業株式会社製)200gと、分子量6000の低分子量ポリエチレングリコール(PEG6,000、和光純薬工業株式会社製)20gとを添加し、全ての固形成分が分散して溶解するまで撹拌を続けた。その後、カーボンブラック及びグラファイトの水分散体(PSMブラックA−1409(固形分濃度33重量%)、御国色素株式会社製)50gと、ブロックイソシアネート(NKリンカーBX、新中村化学工業株式会社)0.5gと、スルホコハク酸誘導体(ペネトゲンW、センカ株式会社製)0.74gとを撹拌容器内に添加し、全ての成分をそれぞれ溶解又は分散させて均一な分散体となるまで攪拌し、これによりPTC導電性塗料を製造した(合計371.24g)。
【0044】
カーボンブラック及びグラファイトの水分散体において、カーボンブラックとグラファイトとの配合比率は、1:1(カーボンブラック16.5重量%、グラファイト16.5重量%)である。また、カーボンブラックの粒径は、258nmである。
【0045】
このように、本実施例では、溶媒として水を用いていることから、PTC導電性塗料を安全に製造することができた。
【0046】
(3−2.PTC面状発熱体の製造)
(A.含浸工程)
製造したPTC導電性塗料(371.24g)を基布に含浸させ、基布内にPTC導電性塗料を含有させた(含浸工程)。基布としては、素材が綿(縦糸♯40、横糸♯10)であり、厚さ約0.63mm、幅258mm×長さ300mm、質量6.2gの基布(NS−10、西原織物株式会社製)を使用した。
【0047】
(B.焼成工程)
連続焼成炉内に、PTC導電性塗料を含浸させた基布を入れ、165℃で45分間焼成を行った。
【0048】
(C.エイジング工程)
焼成後、PTC導電性塗料を含浸させた基布を、温度80℃の大気である乾燥機(TOYO SEISAKUSYO CO. LTD製)内において72時間エイジングを行った。
【0049】
このように、本実施例では、PTC導電性塗料における溶媒を水としていることから、PTC面状発熱体を安全に製造することができた。
【0050】
(3−3.恒温槽試験によるPTC特性の測定)
製造したPTC面状発熱体のPTC特性を恒温槽試験により測定した。具体的には、恒温槽内に製造したPTC面状発熱体を入れ、恒温槽内を25℃から85℃まで5℃ずつ上昇させ、各温度におけるPTC面状発熱体の電気抵抗(kΩ)を電気抵抗測定計(日置電機株式会社製)により測定した。このような電気抵抗の測定を合計4回行った。各温度におけるPTC面状発熱体の電気抵抗の測定結果を[表1]に示すとともに、測定結果のグラフ(温度(℃)と電気抵抗(kΩ)との関係)を図1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
[表1]及び図1に示すように、製造したPTC面状発熱体は、温度(℃)と電気抵抗(kΩ)との関係において、高いRatio値が得られ、優れたPTC特性を発揮することがわかった。
【0053】
(3−4.通電試験によるPTC特性の測定)
製造したPTC面状発熱体のPTC特性を通電試験により測定した。具体的には、製造したPCT面状発熱体に対して電圧220Vとして電流を繰り返し通電し、PTC面状発熱体の温度(℃)及び電気抵抗(kΩ)の時間経過(分)を測定した。温度は、温度センサ(オムロン株式会社製)により測定し、電気抵抗は、電気抵抗測定器(日置電機株式会社製)により測定した。なお、外気温は、31〜33℃である。
【0054】
初状態(0分)のPTC面状発熱体の温度は、31℃であり、電気抵抗は1.518kΩであった。そして、初状態から10分経過時点まで連続して通電試験を行った。この10経過時点までの測定結果を[表2]に示すとともに、この10分経過時点までの測定結果のグラフ(温度(℃)及び電気抵抗(kΩ)の時間(分)変化)を図2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
初状態から30分経過時点までPTC面状発熱体に対して連続的な通電を行った。その後、PTC面状発熱体表面を座布団カバーで覆い、40分経過時点までこの状態を維持した。
【0057】
40分経過した時点から座布団カバーを覆うことで得られる蓄熱による通電を行い、165分経過時点までPTC面状発熱体に対してこの状態を維持した。40分経過時点から165分経過時点までの測定結果を[表3]に示すとともに、この40分経過時点から60分経過時点まで、60分経過時点から165分経過時点までの測定結果のグラフ(温度(℃)及び電気抵抗(kΩ)の時間(分)変化)をそれぞれ図3(A)、(B)に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
[表2]、[表3]及び図2、図3(A)、(B)に示すように、製造したPTC面状発熱体は、温度(℃)上昇に伴って電気抵抗(kΩ)も上昇することから、優れたPTC特性を発揮することがわかった。
【0060】
以上の結果から明らかなように、PTC面状発熱体が含有するPTC導電性塗料において、溶媒を水とした場合であっても、優れたPTC特性を発揮することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を溶媒とし、該水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とを含有させることを特徴とするPTC導電性塗料の製造方法。
【請求項2】
前記カーボンブラック及びグラファイトの合計重量は、前記PTC導電性塗料の全重量に対し、3〜25重量%であることを特徴とする請求項1記載のPTC導電性塗料の製造方法。
【請求項3】
前記結晶性熱硬化性樹脂として、重量平均分子量が100000以上の高分子量ポリマーと、重量平均分子量が10000以下の低分子量ポリマーとからなるものを用いることを特徴とする請求項1又は2記載のPTC導電性塗料の製造方法。
【請求項4】
前記高分子量ポリマーとして、重量平均分子量が100000以上の高分子量ポリエチレングリコールを用いるとともに、前記低分子量ポリマーとして、重量平均分子量が10000以下の低分子量ポリエチレングリコールを用いることを特徴とする請求項3記載のPTC導電性塗料の製造方法。
【請求項5】
前記架橋剤は、前記アクリル酸エステル共重合体と前記高分子量ポリエチレングリコールと前記低分子量ポリエチレングリコールとの架橋反応を促進することを特徴とする請求項4記載のPTC導電性塗料の製造方法。
【請求項6】
前記架橋剤として、ブロックイソシアネートを用いることを特徴とする請求項5記載のPTC導電性塗料の製造方法。
【請求項7】
前記パラフィンの重量は、前記結晶性熱硬化性樹脂の重量に対し、4〜15重量%とすることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載のPTC導電性塗料の製造方法。
【請求項8】
水を溶媒とし、該水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とが含有されてなるPTC導電性塗料を基材に含有させ、
前記PTC導電性塗料を含有させた基材に対して焼成を行い、
前記焼成後、前記PTC導電性塗料を含有させた基材に対してエイジング又は通電を行うことを特徴とするPTC面状発熱体の製造方法。
【請求項9】
溶媒としての水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とが含有されてなることを特徴とするPTC導電性塗料。
【請求項10】
溶媒としての水に、アクリル酸エステル共重合体と、結晶性熱硬化性樹脂と、パラフィンと、カーボンブラック及びグラファイトと、架橋剤とが含有されてなるPTC導電性塗料が基材に含有されてなることを特徴とするPTC面状発熱体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−181956(P2012−181956A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42709(P2011−42709)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(511053517)株式会社ホクト (2)
【Fターム(参考)】