説明

PTEN阻害剤またはMaxi−Kチャンネルオープナー

【課題】新規なPTEN阻害剤または大きな伝導性のCa2+で活性化されるKチャンネル(Maxi−Kチャンネル)の新規なオープナーであり、正常の細胞、脳細胞、心臓細胞、及び皮膚の生存を促進し、更にPTENの阻害によるグラム陰性敗血症並びに細胞遊走および細胞浸潤を阻害する薬物として有用であり、更に神経系障害の治療に有用な治療剤の提供。
【解決手段】式(I):


[式中、Rはシクロアルキルであり、Aは低級アルキレンであり、及びカルボスチリル環の3および4位の間の結合は単結合または二重結合である]のテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物またはその塩、及び該化合物を活性成分として含む治療剤。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は新規なPTEN阻害剤または新規なMaxi−Kチャンネルオープナー(開口剤)に関する。より具体的には式(I):
【化1】

[式中、
Rはシクロアルキル基であり、Aは低級アルキレン基であり、およびカルボスチリル環の3および4位の結合は単結合または二重結合を意味する]
のテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物またはその塩を活性成分として含むPTEN阻害剤または新規なMaxi−Kチャンネルオープナーに関する。
【0002】
(背景技術)
PTEN(ホスファターゼおよび染色体Tenで欠失されるテンシン類似体:Phosphatase and Tensin homolog deleted on chromosome Ten)は、1997年に癌抑制遺伝子として単離され、以来その生理的機能は様々な観点から分析されてきている。PTEN遺伝子生成物が新たなホスファターゼ活性を示すこと、すなわち脂質二次メッセンジャーであるフォスファチジルイノシトール 3,4,5−三リン酸(PIP3)基質をそのD3位で脱リン酸化できることが、1998年に報告されている(参照:Beitner-Johnson D, Millhorn DE, J. Biol. Chem., 273: pp. 13375-13378, 1998)。
【0003】
PTENの機能の観点から、PTENの阻害が、正常の細胞、脳細胞、心臓細胞、および皮膚の生存を促進するのに効果的である場合、更にグラム陰性敗血症並びに細胞遊走および細胞浸潤を阻害するのに効果的であることが期待される。
【0004】
また、カリウムチャンネルの開口が細胞内陰性電位を生じた細胞からの細胞内カリウムイオンの流出を誘発することは知られており、そして該カリウムチャンネルが電位依存性であり、細胞内カルシウム濃度および細胞内ATPで制御されることも知られている。Maxi−Kチャンネルはある種の大きな伝導性のカルシウム感受性カリウムチャンネルであり、該Maxi−Kチャンネルの活性は細胞内カルシウム濃度および膜電位などによって制御される。Maxi−Kチャンネルは神経細胞、心臓細胞、平滑筋細胞のような生体内に広く分布しており、Maxi−Kチャンネルの開口は細胞の過分極を誘発する。該Maxi−Kチャンネルの開口は神経系障害の治療に、例えば以下のような薬物として有用であることも知られている。
(1)抗痙攣剤
(2)局所脳浮腫および神経性運動障害、認知障害、外傷性脳傷害、パーキンソン病、てんかん、片頭痛、およびアルツハイマー病の治療用神経保護剤
(3)痛みを制御するための薬物
(4)切迫性尿失禁、腸管の過剰運動、子宮収縮、不安症、およびうつ病の治療剤。
【0005】
(発明の開示)
PTENの研究の中で、本発明者は上記で述べたような式(I)のテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物またはその塩、特に血小板凝集阻害活性および血管拡張活性を有することが知られている6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロ−カルボスチリルまたはその塩がPTENを阻害する活性を示し、これによってPTEN阻害剤として有用であることを見出し、次いで本発明を完成するに至った。
【0006】
更に、Maxi−Kチャンネルの機能解析の研究の中で、本発明者は、上記で述べたような式(I)のテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物またはその塩、特に6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩が血小板凝集阻害活性および血管拡張活性を有することは知られていたが、Maxi−Kチャンネルの開口活性を示すことを新たに見出し、次いで本発明を完成するに至った。
【0007】
(発明の詳細な説明)
本発明は、活性成分として式(I)のテトラゾリルアルコキシカルボスチリル化合物またはその塩を含む新規なPTEN阻害剤または新規なMaxi−Kチャンネルオープナーを提供する。本発明は更に、テトラゾリルアルコキシカルボスチリル化合物(I)またはその塩をかかる治療が必要な患者に投与することからなる、PTENを阻害する方法およびMaxi−Kチャンネルを開口する方法を提供し、更に、PTENの阻害のための、並びにMaxi−Kチャンネルの開口のための、テトラゾリルアルコキシカルボスチリル化合物(I)またはその塩の使用を提供する。
【0008】
式(I)の化合物またはその塩は優れたPTEN阻害効果を有し、これにより活性成分として式(I)の化合物またはその塩を含む本発明のPTEN阻害剤は、正常の細胞、脳細胞、心臓細胞、および皮膚の生存を促進し、更にPTENの阻害による副作用も全くなく、グラム陰性敗血症並びに細胞遊走および細胞浸潤を阻害する薬物として有用である。
【0009】
更に、式(I)の化合物またはその塩は、大きな伝導性を持つカルシウムで活性化されるKチャンネル(Maxi−Kチャンネル)の開口に優れた効果を有し、これにより活性成分として式(I)の化合物またはその塩を含む本発明のMaxi−Kチャンネルオープナーは、神経系障害の治療剤、例えば、抗痙攣剤、神経保護剤、局所脳浮腫および神経性運動障害、認知障害、外傷性脳傷害、パーキンソン病、てんかん、片頭痛、およびアルツハイマー病、痛み、切迫性尿失禁、腸管の過剰運動、子宮収縮、不安症、およびうつ病の治療剤として有用である。
【0010】
式(I)のテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物およびその製造方法はJP-63-20235に開示されている。
【0011】
式(I)において、「シクロアルキル基」には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどのようなC3−8シクロアルキル基が含まれ、好ましくはシクロヘキシルである。「低級アルキレン基」には、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのようなC1−6アルキレン基が含まれ、好ましくはブチレンである。
【0012】
特に好ましい化合物は、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロ−カルボスチリルであり、シロスタゾールの商品名の下、血管拡張剤として販売されている。
【0013】
本発明の式(I)の化合物は、バルクで、または好ましくは通常の医薬担体もしくは希釈剤で医薬製剤の形態で用いられ得る。投与形態は特定の形態に制限されないが、いずれの通常の投与形態、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤のような経口投与の製剤、経口投与に適した様々な液体製剤、または注射剤、坐剤のような非経口投与用製剤であってもよい。用量は特定の範囲に制限されないが、通常、成人(体重50kg)で100〜400 mg/日の範囲にあり、1回または1〜数回に分けて投与される。活性化合物は好ましくは、投与単位あたり50〜100 mgの量で製剤中含まれる。
【0014】
注射用製剤は通常、液剤、乳濁液、または懸濁液の形態で調製され、無菌化し、更に好ましくは血液に対して等張にされる。液体、乳濁液または懸濁液の形態の製剤は一般的に、通常の医薬希釈剤、例えば、水、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いて調製される。これらの製剤には、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリンのような等張剤と、等張にするのに十分な量で混合してもよく、更に通常の可溶化剤、緩衝剤、麻酔剤、および適宜、着色剤、保存剤、芳香物質、香料、甘味料、および他の薬剤で混合してもよい。
【0015】
錠剤、カプセル剤、経口投与用液剤のような製剤は、通常の方法で調製され得る。錠剤は、ゼラチン、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアガムなどのような通常の医薬担体と混合して調製され得る。カプセル剤は、不活性な医薬充填剤または希釈剤と共に混合して調製し、硬ゼラチンカプセルまたは軟カプセルに詰められ得る。シロップ剤またはエリキシル剤のような経口液体製剤は、活性化合物と、甘味料(例えば、ショ糖)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、着色料、香料などとを混合して調製する。非経口投与用製剤はまた、通常の方法、例えば本発明の化合物(I)を無菌の水性担体、好ましくは水または生理食塩水溶液に溶解しても調製され得る。非経口投与に適した好ましい液体製剤は、約50〜100 mgの活性化合物(I)を、水および有機溶媒中に、更に分子量300〜5000を有するポリエチレングリコール中に溶解して調製し、好ましくは、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびポリビニルアルコールのような滑沢剤と混合される。上記の液体製剤には好ましくは更に、消毒剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール、チメロサール)、殺菌剤、および更に適宜、等張剤(例えば、ショ糖、塩化ナトリウム)、局所麻酔剤、安定化剤、緩衝剤などを加えてよい。安定性を保つために、非経口投与用製剤は、小さな容器に充填し、続いて通常の凍結乾燥技術で水性溶媒を除いてもよく、これを使用に際して水性溶媒に溶解して液体製剤に戻す。
【0016】
(発明を実施するための最良の形態)
本発明は以下の製造例、およびTNF−αによって刺激されるPTENリン酸化の増大またはMaxi−Kチャンネル開口における化合物の抑制効果の実験によって説明されるが、本発明はこれらに限定して解釈されない。
【0017】
製造1
注射製剤の製造:

【0018】
上記のパラベン、メタ重亜硫酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを、80℃で攪拌しながら上記蒸留水の半分の量に溶かす。該混合物を40℃に冷却し、そこに活性化合物、および更にポリエチレングリコールおよびモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンを溶かす。残っている注射用蒸留水を該混合物に加え、濾紙で濾過して滅菌し、目的の注射製剤を得る。
【0019】
製造2
錠剤の製造:

【0020】
上記の本発明の化合物、乳糖、トウモロコシデンプンおよび結晶セルロースをよく混ぜ、該混合物を5%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液で造粒し、造粒した混合物を200メッシュで篩にかけ、得られた造粒物を注意深く乾燥し、次いで造粒物を通常の方法で打錠し、錠剤(1000錠)を得る。
【0021】
薬理実験
TNF−αの刺激により増加するPTENリン酸化レベルが、本発明の代表的な化合物:シロスタゾールによって抑制される効果を試験した。
更に、本発明の代表的な化合物:シロスタゾールおよびいくつかの市販品として入手可能なMaxi−Kチャンネルオープナーまたは遮断薬によるMaxi−Kチャンネルの開口の効果を試験した。
【0022】
実験1
TNF−αよって刺激されるPTENリン酸化レベルの増大におけるシロスタゾールの抑制効果:
物質:
細胞培養:SK−N−SH(KCLB 30011,ヒト脳神経芽細胞腫)細胞は、2 mM L−グルタミンおよび1.0mM ピルビン酸ナトリウムを含み、熱で不活性化された10%ウシ胎児血清(FBS)で補充されたイーグルの基礎培地(MEM)中で培養した。細胞は5%CO中37℃で集密に増殖し、20継代未満で実験に用いた。
TNF−α溶液の調製:TNF−α(アップステイト バイオテクノロジー社,ニューヨーク州レークプラシッド)をリン酸緩衝された生理食塩水に溶解し、10μg/ml ストック溶液とした。
【0023】
方法:
ウェスタンブロット分析法:集密的に培養された細胞を、TNF−αでの刺激の3時間前に、シロスタゾールを加えたFBSを1%含むMEM培地に交換し、次いで1時間TNF−αに曝した。
該細胞を50 mM トリス−Cl(pH 8.0)、150 mM NaCl、0.02% アジ化ナトリウム、100μg/ml フェニルメチルスルホニルフルオリド、1μg/ml アプロチニンおよび1%トライトンX−100を含む溶解緩衝液に溶解した。12,000rpmでの遠心分離に続いて、全タンパク質の50μgを8または10%SDS−PAGEゲルに負荷して、ニトロセルロース膜(アメルシャム ファルマシア バイオテック、ニュージャージー州ピスカタウェイ)に移した。ブロックされた膜は次いで指示抗体と共にインキュベートし、免疫反応性のバンドは、スーパーシグナル ウェスト ドゥラ エクステンディド デュレーション サブストレート キット(Supersignal West Dura Extended Duration Substrate Kit)(ピアス社、イリノイ州ロックフォード)で勧められているような化学発光剤を用いて可視化された。該バンドのシグナルはGS−710校正された画像デンシトメーター(バイオ ラド ラボラトリィズ、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて定量した。結果は相対密度として表した。PTEN、リン酸化−PTEN(Ser380/Thr382/383)に対するポリクローナル抗体は、セル シグナリング テクノロジー(マサチューセッツ州ベヴァリー)から得た。
統計解析:結果は平均±SEMとして表す。グループ間の統計的な差はスチューデントのt検定で決定した。p<0.05は有意であると考えた。
【0024】
結果:
ウェウタンブロットおよびデンシトメーターによる濃度測定解析は添付の図1に示す。
図1からわかるように、シロスタゾール(1、10および100μM)濃度に依存してTNF−α (50 ng/ml)で刺激される増大したPTENリン酸化レベルを抑制した。
上記の実験の結果から、シロスタゾールがPTENリン酸化を阻害する強い活性を示すことは明らかである。
【0025】
実験2
物質:
細胞培養:SK−N−SH(KCLB 30011,ヒト脳神経芽細胞腫)細胞は、2 mM L−グルタミンおよび1.0mM ピルビン酸ナトリウムを含み、熱で不活性化された10%ウシ胎児血清で補充されたイーグルの基礎培地(MEM)中で培養した。細胞は5%CO中37℃で集密に増殖し、20継代未満で実験に用いた。
【0026】
試験薬物:
(1)シロスタゾール(本発明の化合物、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)−ブトキシ]−3,4−ジヒドロ−カルボスチリルの商品名)
(2)グリベンクラミド(「GBC」と略される。一般名:グリブリド,化学名:5−クロロ−N−[2−[4−[[[(シクロヘキシルアミノ)カルボニル]アミノ]スルホニル]フェニル]エチル]−2−メトキシベンズアミド,市販品として入手可能な抗糖尿病薬,ATP感受性Kチャンネルの遮断薬である。)
(3)イベリオトキシン(「Ibtx」と略される。Maxi−K+チャンネル遮断薬として知られている。)
【0027】
方法:
細胞全体のK電流の記録:実験は倒立顕微鏡(ニコン製 TE300モデル,日本、東京)のステージ上に据え付けられ、1 ml/分の流速で絶えず灌流された小さな槽(0.5 mL)の中で行った。パッチクランプ技術の細胞全体の立体配置を用いて、K電流を室温で(20〜22℃)アキソパッチ(Axopatch)−200B パッチクランプ増幅器(アクソン機器社(Axon Instruments), カリフォルニア州フォスターシティ)で記録した。0.5〜5kHzでアンチエイリアスフィルター処理した後、1〜10 kHzで電流を採取した。データの取得および命令の電位は、pClamp 6.0.3ソフトウェア(アクソン機器社(Axon Instruments), カリフォルニア州フォスターシティ)で制御した。電圧クランプの品質を保証するために、電極抵抗を3MΩ以下に保った。接合部電位は標準槽溶液中の電極でゼロにした。ギガオームシール形成(Gigaohm seal formation)は吸引によって行われ、細胞全体の立体構造を確立した後、-80mVから対称的10mV電位固定過程によって導かれた容量性過電流を、細胞電気容量の計算のため50kHzで記録した。細胞全体の記録用の通常の槽溶液は、130 mM NaCl、5 mM KCl、1.2 mM MgCl、1.8 mM CaCl、10 mM HEPES、5.2 mM ブドウ糖であり、pHはNaOHで7.4に調整された。ピペットは140 mM KCl、0.5 mM MgCl、0.1 mM CaCl、0.09 mM エチレンビス(オキソニトリロ)四酢酸(EGTA)、10 mM HEPES、10 mM ブドウ糖で満たし、pHはKOHで7.4に調整した。
細胞全体の記録を確立し、脱分極で導かれた電流が安定化するまで約5分間コントロール対照の記録を収集した後、シロスタゾールを該槽に適用した。グリベンクラミドまたはイベリオトキシンを用いる実験においては、シロスタゾールはグリベンクラミドまたはイベリオトキシンを投与した後約20分に該槽に適用した。
【0028】
結果:
試験結果は添付の図2に示す。この中で図2Aはシロスタゾールの効果を示し、図2Bはシロスタゾールおよび/またはグリベンクラミド(「GBC」,Maxi−Kチャンネルの開口を示唆)の効果を示し、および図2Cはシロスタゾールおよび/またはイベリオトキシン(「Ibtx」,Maxi−Kチャンネル遮断薬)の効果を示す
図2からわかるように、電流はシロスタゾールによって有意に増加したが、一方、イベリオトキシン(100nM)の該槽への添加によって可逆的にブロックされたが、グリベンクラミド(10μM)ではブロックされなかった。Maxi−Kチャンネルで媒介される電流の増加は、グリベンクラミドの共存下でさえシロスタゾールによって得られ、一方、グリベンクラミド単独ではMaxi−Kチャンネルで媒介される電流は増加し得なかった。シロスタゾールがMaxi−Kチャンネル遮断薬であるイベリオトキシンと共に細胞に加えられた場合、電流の増加はイベリオトキシン単独よりやや少なかった。
【0029】
実験3
1.化合物の調製
ベヒクル対照;0.5% カルボキシメチルセルロース、毎日2回(n=10)
シロスタゾール;100 mg/kg、毎日2回(n=10)
少量の粉末(シロスタゾール)をメノウ乳鉢ですりつぶす。0.5% カルボキシ−メチルセルロース(CMC)を2、3滴加え、よくすりつぶす。4〜5mlの0.5%CMCを加え、懸濁したシロスタゾールを遮光された瓶に戻す。
1000 mg/50mlの濃度で毎週の試験化合物を調製し、および4℃での遮光下保存する。
化合物の投与:
投与前、超音波ソニケーターで試験化合物のストック瓶を超音波処理し、よく混ぜる。
化合物は各群毎に毎日2回経口で強制投与。
ベヒクル対照(0.5% カルボキシメチルセルロース:CMC; 1kg/5ml)は毎日2回強制投与。試験化合物(シロスタゾール; 100 mg/kg/5ml)は毎日2回強制投与。
【0030】
2.観察、試験および測定方法
a.動物(8週齢,変異体ヒトAPPK670N,M6711/系 Tg2576を発現する半接合性遺伝子組み換えマウス)を、2群の二重の遺伝子組み換えAPP/PS1マウス(対照群およびシロスタゾール群,全数=20マウス)にランダムに分けた。以下の表に示すように、各マウスに6週間強制投与法で毎日2回投与した。

b.マウスは試験の開始時と終了時に遺伝子型を同定した。
c.マウスは生存期が完了する前までY字型迷路行動試験を受けさせた。
d.マウスは14週齢で屠殺した。
e.屠殺後、1 mLの血液をシロスタゾールの血中濃度測定用に集め、APP/PS1マウスを生理食塩水で灌流した。脳は二等分し、一方の半球は固定し、他方の半球は凍結した。
f.凍結した半球はホモジネートし、ELISAで全アミロイドベータ濃度を分析した。
マウスの脳における全A−ベータ40および全A−ベータ42レベルを、対照群とシロスタゾール処置群で測定した。結果は添付の図3に示す。
【0031】
3.方法
以下の方法は「Y字型迷路における自発的交替」の試験を行うのに取られる過程を概説する。マウスは周りを探し回る生来の性質を有する。探索が成功するかは、短時間前に訪れた場所(食物が枯渇または存在しない)を避ける能力に依存する(「自発的交替」)。Y字型迷路は報酬の引渡しを含まない行動学に基づく試験である。損なわれた「作業記憶」機能を有するマウスは、作業記憶内に、今まさに訪れた場所に関する情報を保持することができない。従って自発的交替の減少を示す。
開示した結果では、自発的交替の減少と、ある遺伝子組み換えマウスの系統、例えばAPP/PS1マウスにおける探索の増加を示している。
シロスタゾールは抗血小板および血管拡張活性を有し、ASOの適用を有し、二次的脳梗塞を予防する。
これらのシロスタゾールの活性は、アミロイドベータタンパク質の析出を減少させるのに寄与し得、アルツハイマー病の痴呆の行動を改善し得る。
【0032】
i.試験室に試験されるマウスを持ってくる。マウスの行動に影響を与え得るので、一度に試験場所に多くのマウス(3ケージ以上)を持ってくるのを避ける。(適宜、別の方法、例えばトランスポンダーまたははっきり見える入れ墨でマークしていないときだけ行うが)以下の順で無毒性の色マーカーで尾にマークする。
1:赤
2:緑
3:青
4:黒
【0033】
ii.実験はビデオに記録してもよい。これは永久の記録を行い、調査者になんらかの疑問があれば実験を再考させるものである。
【0034】
iii.ホームケージから試験される最初のマウスを尾に基づいて取り出し、重さを量る。Y字型迷路データスプレッドシート中の重さを量る。マウスをケージに戻す。(あるいは、実験開始前、例えば前日にマウスの重さを量ってもよい。)
【0035】
iv.マウスを試験室に順応させるために、試験の開始前1時間平静にしておいた。ついでに注意しておくべき事として、例えばにおいがマウスの単一アームに入るのに影響を与え得るので、ケージを1つの特定のアームに隣接して置かないようにすることである。従って、ケージを器具から離して置くか、またはケージを試験室の周りに均等に配置(例えば、1つのアームに1つずつ各アームの近接に3つのケージを導入してもよい)するようにする。試験室には技術者は居てもよいが、マウスに刺激を与えてはいけない。
【0036】
v.試験開始前に、イソプロパノールでY字型迷路の内部を拭く。
【0037】
vi.マウスを優しく扱い、尾をつかんでアームに静止させ、迷路に最初マウスの頭を突っ込ませないように注意する。マウスは個々に、3つのアーム(アームA、アームBおよびアームC)すべてで8分間の探索が可能であるY字型迷路の中央に置く。
【0038】
vii.すべての選択行使をY字型迷路のデータシートのプリントアウトに記録する。もしマウスが完全にアームAに入ったなら、ARM ENTERED欄に「A」が入る等である。同じ列において、もしマウスが終わりまでアームを探索したなら、OBSERVATIONSに「終わり」が入り、マウスが後ろ足で立つ(前足を自由にして後ろ足に座る)度毎に「R」、またはもたれる(前足で壁に触って「壁を徹底的に探索する」)場合は「L」、およびじっとしている(5秒以上静止のまま)であれば「F」が入る。もしマウスがアームAに中で前後したなら、同列でOBSERVATIONSに別の「bf」が入る。全テキストにいずれの他の観察結果も入る。もし観察結果を入れるのに十分な時間がないときは、それらは飛ばされる。マウスが中央に戻れば新たな列が始まる。もしマウスがアームAに戻ったなら新たな列に「A」が入り、アームBなら「B」、またはアームCなら「C」が入る。
【0039】
viii.8分後、尾でマウスを除き、ホームケージにマウスを戻す。糞の数を記録し、Y字型迷路のスプレッドシートに排尿したかどうか記録する。イソプロパノールでY字型迷路の内部を拭う。ブラシを用いて隅に入れて、壁も床もきれいにした。Y字型迷路がきれいであり、先のマウスが迷路に持ち込んでいるかも知れないあらゆるにおい、床敷または食物がないことを確認する。Y字型迷路がアルコールで清掃後乾燥していることを確認する。清掃用の物質(例えばティッシュペーパー)が迷路に残っていないことを確認する。
【0040】
ix.試験されるすべてのマウスに過程を繰り返す。
【0041】
x.試験後、データをハードコピーからエクセルスプレッドシートに移す。
Y字型迷路行動パラダイムから得られた結果を添付の図4にまとめる。
【0042】
xi.データ解析:交替は再進入(選択)することなく3つのアームすべてへの訪問として定義される(ABC、ACB、BAC、BCA、CABまたはCBA)。アームへの進入(選択)の各々を別々に解析し、交替が完了したかどうか決定する。順序ABCABCは4つの交替を有し、最初がCで終了し、次がAで、次いでB、次いでCである。順序ABCBACは3つだけの交代で、最初がCで終了し、第二がAで終了し、第三がCである。交代の%は(観察された交替の数)/(可能な交替の数)である。n回アームを訪れたなら、交替の最も高い可能性のある数はn−2である。動物がランダムに動くなら、22%の交替が期待される(3×2×1/3×3×3)。全体的な活性は異なるアームに訪問した全数において反映される。活性は従って、(アーム進入(選択)の全数)/(観察の時間(分))である。
【0043】
このように、本発明のテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物(I)またはその塩は、Maxi−Kチャンネルの開口に効果があり、神経系障害の治療、特にアルツハイマー病の治療に有用である。
【0044】
(産業上の利用可能性)
本発明は、テトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物(I)またはその塩を活性成分として含む組成物を提供し、これは優れたPTEN阻害効果を有し、正常の細胞、脳細胞、心臓細胞、および皮膚の生存を促進し、更にPTENの阻害による副作用も全くなく、グラム陰性敗血症並びに細胞遊走および細胞浸潤を阻害する薬物として有用である。本発明の組成物は大きな伝導性のCa2+で活性化されたKチャンネル(Maxi−Kチャンネル)のオープナー(開口剤)として更に有用であり、これにより神経系障害の治療剤、例えば、抗痙攣剤、神経保護剤、局所脳浮腫および神経性運動障害、認知障害、外傷性脳傷害、パーキンソン病、てんかん、片頭痛、およびアルツハイマー病などの治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、TNF−α(50 ng/ml)によって刺激される増加したPTENリン酸化レベルの、シロスタゾール(6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロ−カルボスチリルの商品名)による抑制を示す。
【図2】図2はSK−N−SH細胞でのカルシウムで活性化されたK電流の開口における薬物の効果を示し、図2Aはシロスタゾール(6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルの商品名)の効果を示し、図2Bはシロスタゾールおよび/またはグリベンクラミド(「GBC」と略される。市販品として入手可能な抗糖尿病薬,ATP感受性Kチャンネルの開口の非存在を示唆するものである)の効果を示し、図2Cはシロスタゾールおよび/またはイベリオトキシン(「Ibtx」,Maxi−Kチャンネル遮断薬として知られ、Maxi−K+チャンネルの開口を示唆)の効果を示す。
【図3】図3は、対照群とシロスタゾール処置群での、マウスの脳中の全アミロイドベータ濃度(A−ベータ40およびA−ベータ42レベル)ELISA測定を示す。
【図4】図4は、本発明の化合物のアルツハイマー病における効果を試験するために行ったY字型迷路行動の指標から得られた実験結果の概要を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、
Rはシクロアルキル基であり、Aは低級アルキレン基であり、およびカルボスチリル環の3および4位の間の結合は単結合または二重結合を意味する]
のテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物またはその塩を活性成分として含むPTEN阻害剤。
【請求項2】
該活性成分が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である、請求項1のPTEN阻害剤。
【請求項3】
活性成分の請求項1に示すテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物(I)またはその塩、および通常の医薬的に許容される担体または希釈剤からなるPTENを阻害するための医薬組成物。
【請求項4】
該活性成分が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である、請求項3の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1に示すテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物(I)またはその塩の有効量を、治療が必要な患者に投与することからなる、PTENの阻害方法。
【請求項6】
該活性成分が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である、請求項5の方法。
【請求項7】
PTEN阻害剤を製造するための、請求項1に示すテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物(I)またはその塩の使用。
【請求項8】
該活性成分が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である、請求項7の使用。
【請求項9】
式(I):
【化2】

[式中、
Rはシクロアルキル基であり、Aは低級アルキレン基であり、およびカルボスチリル環の3および4位の間の結合は単結合または二重結合を意味する]
のテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物またはその塩を活性成分として含むMaxi−Kチャンネルオープナー。
【請求項10】
該活性成分が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である、請求項9のMaxi−Kチャンネルオープナー。
【請求項11】
活性成分として請求項9に示す式(I)のテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物またはその塩、および通常の医薬的に許容される担体または希釈剤からなるMaxi−Kチャンネルを開口するための医薬組成物。
【請求項12】
該活性成分が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である、請求項11の医薬組成物。
【請求項13】
神経系障害の治療用である、請求項11または12の医薬組成物。
【請求項14】
該神経系障害がアルツハイマー病である、請求項13の医薬組成物。
【請求項15】
請求項9に示すテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物(I)またはその塩の有効量を、治療が必要な患者に投与することからなる、Maxi−Kチャンネルの開口方法。
【請求項16】
該活性成分が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である、請求項15の方法。
【請求項17】
神経系障害の治療のための請求項15または16の方法。
【請求項18】
該神経系障害がアルツハイマー病である、請求項17の方法。
【請求項19】
Maxi−Kチャンネルの開口用薬剤の製造のための、請求項9に示すテトラゾリルアルコキシジヒドロカルボスチリル化合物(I)またはその塩の使用。
【請求項20】
該活性成分が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルまたはその塩である、請求項19の使用。
【請求項21】
神経系障害の治療剤の製造のための、請求項19または20の使用。
【請求項22】
該神経系障害がアルツハイマー病である、請求項21の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285456(P2010−285456A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−180661(P2010−180661)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【分割の表示】特願2006−502683(P2006−502683)の分割
【原出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】