説明

PTFE材料のエッチング方法、及び、高周波導波管

【課題】従来よりも精度の良いPTFE材料のエッチング方法、及び、例えば、このエッチング方法を用いて製造した高周波導波管を提供する。
【解決手段】シンクロトロン放射光を少なくともエッチングに使用できない程度に透過させない材料からなり、パターンが形成されたマスク部材を介して、前記シンクロトロン放射光をPTFE材料に照射してエッチングを行うPTFE材料のエッチング方法であって、PTFE材料の加工部分の温度が85℃以上であり、該加工部分に0.05keV〜40keVの光子エネルギーの放射光を照射する工程を有している。この方法を用いて、高周波導波管の各部材を作製し組み立てて、高周波導波管を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)材料のエッチング方法、及び、高周波導波管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、PTFE材料のエッチング方法は下記特許文献1のようなものが公知となっている。具体的には、以下のようなエッチング方法である。第1の膜と、該第1の膜に密着し、シンクロトロン放射光によってエッチング可能な材料からなる第2の膜との2層を含んで構成される積層基板を準備する。シンクロトロン放射光を透過させない材料からなるパターンが形成されたマスク部材を、積層基板の第2の膜の表面上に密着させ、もしくはある間隔をおいて配置する。マスク部材を介して第2の膜の表面の一部にシンクロトロン放射光を照射し、該シンクロトロン放射光の照射された部分の第2の膜を該シンクロトロン放射光によりエッチングし、エッチングされた領域の底面に第1の膜の表面の一部を露出させる。第1の膜と、その表面の一部の領域上に残っている第2の膜とにより、プラスチックの型取りを行い、プラスチック製の微細構造体を作製する。
【0003】
【特許文献1】特開2003−145498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のPTFE材料のエッチング方法よりも、さらに精度の良いエッチング方法が要求されている。このようなPTFE材料のエッチング方法が確立されると、さらにPTFE材料の用途が広がると考えられる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、従来よりも精度の良いPTFE材料のエッチング方法、及び、例えば、このエッチング方法を用いて製造した高周波導波管を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
(1) 本発明は、シンクロトロン放射光を少なくともエッチングに使用できない程度に透過させない材料からなり、パターンが形成されたマスク部材を介して、前記シンクロトロン放射光をPTFE材料に照射してエッチングを行うPTFE材料のエッチング方法であって、PTFE材料の加工部分の温度が85℃以上であり、該加工部分に0.05keV〜40keVの光子エネルギーの放射光を照射する工程を有している。
【0007】
上記構成により、PTFE材料におけるシンクロトロン放射光が照射される部分を溶融できる。特に、PTFE材料の融点以下でも、シンクロトロン放射光が照射される部分を溶融できる。また、このとき溶融した部分が、溶融されていない部分のPTFE材料に染み込むとともに表面を覆うことになる。その結果として、PTFE材料の表面粗度を低下できるので、従来よりも精度良く、容易にPTFE材料のエッチングを行うことができる。
【0008】
(2) 別の観点として、シンクロトロン放射光を少なくともエッチングに使用できない程度に透過させない材料からなるパターンが形成されたマスク部材を介して、前記シンクロトロン放射光をPTFE材料に照射してエッチングを行うPTFE材料のエッチング方法であって、前記エッチングの際、前記マスク部材と前記PTFE材料との間に、前記シンクロトロン放射光を透過させるとともに前記PTFE材料から飛沫するPTFEを吸着するPTFE吸着用フィルムを配置するものであってもよい。また、上記(1)のPTFE材料のエッチング方法においては、前記エッチングの際、前記マスク部材と前記PTFE材料との間に、前記シンクロトロン放射光を透過させるとともに前記PTFE材料から飛沫するPTFEを吸着するPTFE吸着用フィルムを配置することが好ましい。このとき、前記PTFE吸着用フィルムが、樹脂フィルム、軽金属フィルム、半導体フィルム、又は、圧電体フィルムであることが好ましい。
【0009】
上記(2)の構成により、エッチングされた際に、PTFE材料から飛沫するPTFEを吸着することができるので、エッチング部分に、再付着することを抑制できる。したがって、従来よりも精度良くエッチングできる。
【0010】
(3) さらに別の観点として、本発明のPTFE材料のエッチング方法は、PTFE材料の所定箇所を脱離化学イオン化する脱離化学イオン化工程と、前記脱離化学イオン化工程で得られたCFに、SFガス又は/及びOガスを接触させるとともにシンクロトロン放射光を照射する光化学反応工程とを有しているものであってもよい。
【0011】
上記(3)の構成により、エッチング部分のPTFE材料を揮発性分子化できるとともに、PTFE材料への再付着を抑制できる。その結果として、従来よりも精度良く、PTFE材料のエッチングを行うことができる。
【0012】
(4) また、本発明の高周波導波管は、表面粗度Rmaxが0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下である面を有するPTFE材料を用いて構成されており、前記PTFE材料の表面が、高周波の染み出し長の値より大きい厚さの金薄膜、銀薄膜、銅薄膜、又はアルミニウム薄膜で被覆されていることが好ましい。
【0013】
上記(4)の構成により、高周波の損失が低い高周波導波管を提供できる。特に、高周波を反射させる面が、高周波の染み出し長より大きい厚さの金薄膜、銀薄膜、銅薄膜、又はアルミニウム薄膜で被覆されている場合には、高周波の損失をさらに低減できる。
【0014】
(5) また、上記(4)の高周波導波管においては、十字路を有した板状のPTFE材料において、前記十字路の外辺に沿って並設され、該PTFE材料の厚さ方向にそれぞれが埋め込まれた、金、銀、銅、又はアルミニウム製の複数の円柱部材からなる円柱部材群と、前記十字路中の複数の所定箇所それぞれにおいて、前記PTFE材料の厚さ方向に、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる円柱部材が埋め込まれており、前記十字路中の複数の所定箇所それぞれの位置と、前記十字路中の前記円柱部材の所定半径の値とが、短絡境界H面平面回路法に仮想ポート短絡法を用いて導出されたものであることが好ましい。なお、本明細書中での「短絡境界H面平面回路法」とは、「穴田哲夫、許瑞邦 “短絡境界平面回路の固有モードによる解析 −インピーダンス行列による−”、信学論(B)、vol.J61-B、no.7、pp.646-653、July 1978.」に記載されている解析方法のことである。また、本明細書中での「仮想ポート短絡法」とは、「岸原充佳、太田勲、山根國義 “金属/誘電体障害物を含む導波管H面不連続の解析”、信学論(C)、vol.J89-C、no.7、pp.475-484、July 2006.」に記載されている解析方法のことである。
【0015】
(6) また、別の観点として、本発明の高周波導波管は、略十字型形状に形成されたPTFE材料を有したものであり、前記PTFE材料の複数の所定箇所それぞれにおいて、前記PTFE材料の厚さ方向に、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる所定半径の穴が形成されているとともに、前記穴の内壁が前記PTFE材料の表面に形成された金薄膜、銀薄膜、銅薄膜、又はアルミニウム薄膜で被覆されており、前記PTFE材料の複数の所定箇所それぞれの位置と前記穴の所定半径の値とが、短絡境界H面平面回路法に仮想ポート短絡法を用いて導出されたものであってもよい。
【0016】
(7) 他の観点として、本発明の高周波導波管は、略十字型形状に形成されたPTFE材料を有したものであり、前記PTFE材料の複数の所定箇所それぞれにおいて、前記PTFE材料の厚さ方向に、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる所定半径の円柱状ピン部材が埋設されており、前記PTFE材料の複数の所定箇所それぞれの位置と、前記円柱状ピン部材の所定半径の値とが、短絡境界H面平面回路法に仮想ポート短絡法を用いて導出されたものであってもよい。
【0017】
上記(5)〜(7)のいずれかの構成によれば、高周波損失の低いPTFE材料を利用して、入出力ポートなどの様々な導波管回路系に用いることが可能な小型の高周波導波管を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<第1実施形態>
以下に、図1を用いて、本発明の第1実施形態に係るPTFE材料のエッチング方法について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るPTFE材料のエッチング方法の工程を順に示した模式図である。なお、図1(a)中の実線矢印は、シンクロトロン放射光である。
【0019】
まず、パターン1aを有するマスク部材1を介して、PTFE材料2の加工部分に、0.05keV〜40keVの光子エネルギーのシンクロトロン放射光を照射する(図1(a)参照)。なお、加工部分の温度は、ヒータなどによって85℃以上に保持されており、PTFEの融点以上であってもなくてもよいが、PTFEの融点以下であることが好ましい。この照射によって、PTFE材料2のシンクロトロン放射光が照射された部分表面から内部にわたって分子の結合の切断がおこり、溶融する。
【0020】
ここで、マスク部材1には、シンクロトロン放射光を透過させない材料、又は、例えシンクロトロン放射光が透過したとしても、PTFE材料を実質的にエッチングしない程度の強さでの透過しかさせない材料を用いている。また、ここでのシンクロトロン放射光は、X線の波長を有しているものである。
【0021】
次に、PTFE材料2が、その表面からエッチングされていく(図1(b)中の点線矢印及び図1(b)参照)。このとき、PTFE材料2の加工部分の深部においては、分子の結合の切断が継続している。また、PTFE材料2のうち溶融した部分は、溶融されていない部分のPTFE材料に染み込むとともに表面を覆う。
【0022】
続いて、PTFE材料2の加工部分内部で脱離分子ガスの滞留による泡3の生成・成長が始まる(図1(c)参照)。そして、エッチングの進行途中においては、凹凸表面なども形成される(図1(d)参照)。
【0023】
引き続き、PTFE材料2の加工部分がエッチングされることにより、貫通孔2aが形成され、エッチングが終了する。
【0024】
本実施形態のエッチング方法によれば、PTFE材料におけるシンクロトロン放射光が照射される部分を溶融できる。特に、PTFE材料の融点以下でも、シンクロトロン放射光が照射される部分を溶融できる。また、このとき溶融した部分が、溶融されていない部分のPTFE材料に染み込むとともに表面を覆うことになる。その結果として、PTFE材料の表面粗度を低下できるので、従来よりも精度良く、容易にPTFE材料のエッチングを行うことができる。
【0025】
<第2実施形態>
次に、図2を用いて、本発明の第2実施形態に係るPTFE材料のエッチング方法について説明する。図2は、本発明の第2実施形態に係るPTFE材料のエッチング方法の一工程を示す模式図である。なお、図2中の矢印は、シンクロトロン放射光である。
【0026】
図2に示すように、パターン11aを有するマスク部材11と、マスク部材1とPTFE材料12との間に設けられ、シンクロトロン放射光を透過させるとともにPTFE材料12から飛沫するPTFEを吸着するPTFE吸着用フィルム13とを介して、PTFE材料12の加工部分にシンクロトロン放射光を照射する。この照射によって、PTFE材料12のシンクロトロン放射光が照射された部分表面をエッチングする。
【0027】
ここで、マスク部材11には、シンクロトロン放射光を透過させない材料、又は、例えシンクロトロン放射光が透過したとしても、PTFE材料を実質的にエッチングしない程度の強さでの透過しかさせない材料を用いている。また、ここでのシンクロトロン放射光は、X線の波長を有しているものである。
【0028】
PTFE吸着用フィルム13は、ポリイミド、エポキシ等の樹脂フィルム、Be、Al等の軽金属フィルム、シリコン、ゲルマニウム等の半導体フィルム、又は、ニオブ酸リチウム等の圧電体フィルムである。
【0029】
本実施形態のエッチング方法によれば、エッチングされた際に、PTFE材料から飛沫するPTFEを吸着することができるので、エッチング部分に、再付着することを抑制できる。したがって、従来よりも精度良くエッチングできる。
【0030】
<第3実施形態>
次に、図3を用いて、本発明の第3実施形態に係るPTFE材料のエッチング方法について説明する。図3は、本発明の第3実施形態に係るPTFE材料のエッチング方法の一工程を示す模式図である。なお、図3中の実践矢印は、シンクロトロン放射光である。
【0031】
図3に示すように、SFガス雰囲気下において、パターン21aを有するマスク部材21を介して、PTFE材料22の加工部分にシンクロトロン放射光を照射し、PTFE材料22のシンクロトロン放射光が照射された部分をCFに変えて(脱離化学イオン化)、エッチングを行う。このとき、CFをSFガスと接触させるとともに、シンクロトロン放射光を照射して光化学反応が起こし、揮発性分子のCFを生成させる。ここで、一変形例として、OガスをSFガスの代わりに用いてもよいし、SFガスとOガスとを両方用いてもよい。
【0032】
ここで、マスク部材21には、シンクロトロン放射光を透過させない材料、又は、例えシンクロトロン放射光が透過したとしても、PTFE材料を実質的にエッチングしない程度の強さでの透過しかさせない材料を用いている。また、ここでのシンクロトロン放射光は、X線の波長を有しているものである。
【0033】
本実施形態のエッチング方法によれば、エッチング部分のPTFE材料を揮発性分子化できるとともに、PTFE材料への再付着を抑制できる。その結果として、従来よりも精度良く、PTFE材料のエッチングを行うことができる。
【0034】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る高周波導波管について説明する。図4(a)は、本発明の第4実施形態に係る高周波導波管を示す模式構成図である。
【0035】
高周波導波管31は、途中で蛇行するように形成されており、表面粗度Rmaxが0.2μm以下である面を外部側に有するPTFE材料31aと、PTFE材料31aの表面を被覆している薄膜31bとで構成されている。薄膜31bは、金、銀、銅、又はアルミニウムからなるものである。ここで、一変形例として、高周波導波管31を構成するPTFE材料31aの外部側面の表面粗度Rmaxは、0.1μm以下であってもよい。
【0036】
この高周波導波管31は、上述の第1〜第3実施形態のいずれかのエッチング方法で、精度良く製造することができる。例えば、簡単に説明すると以下の通りである。所定の厚みを有するPTFE材料からなる板の一面に、所定形状のマスク(例えば、図4(b)と同形状のマスク)を被せた状態として、該マスク側から上述の第1〜第3実施形態のいずれかのエッチングを行って、該マスクの形状に合わせたPTFE材料31aを得る。そして、このPTFE材料31aの外周面(長手方向の端面を除く)に、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる薄膜31bをメッキなどで被覆することで、高周波導波管31が完成する。
【0037】
なお、例えば、金からなる場合の薄膜31bの厚みは、4μm〜5μm程度あればよい。これは、以下の方法で導出される。導体表面上の1/e(=36.8%)の振幅に減少する厚さを「表皮の厚さ」と呼ぶ(「内藤喜之 マイクロ波・ミリ波工学 コロナ社(1986年) 第67頁 式(2.157)」参照)が、例えば、金薄膜の場合、図5に示すように、金薄膜の厚みが増えるにつれて、電磁界の振幅が指数関数的に減少していることがわかる。このグラフからすると、金薄膜の「表皮の厚さ」は、0.4μm〜0.5μm程度であるので、その10倍程度の4μm〜5μmが選択した。これにより、電磁波の侵入をほとんど抑止できる。なお、同様の方法は、薄膜31bが銀、銅、又はアルミニウムのいずれかからなる場合にも適用できる。
【0038】
本実施形態によれば、高周波損失の低いPTFE材料を利用して、入出力ポートなどの様々な導波管回路系に用いることが可能な小型の高周波導波管31を提供できる。
【0039】
なお、薄膜31bを被覆する前に、アルゴンなどを用いたスパッタリングで、PTFE材料31aの表面改質を行ってから、薄膜31bを外周面(長手方向の端面を除く)に施してもよい。これにより、薄膜31bが剥離しにくくなる。また、薄膜31bを形成する場合には、高周波の染み出し長よりも厚く形成する。これらにより、高周波の損失がさらに低減された高周波導波管を提供できる。この点は、後述する第5、第6実施形態においても同様である。
【0040】
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態に係る高周波導波管について説明する。図6(a)は、本発明の第5実施形態に係る高周波導波管を示す模式構成図、図6(b)は、図6(a)の高周波導波管の一例の寸法における散乱行列の周波数特性を示すグラフである。なお、図6(a)においては、説明の便宜上、透明図としている。また、図6(b)のグラフにおいては、図6(a)の高周波導波管の一例の周波数特性を線で示し、市販のシミュレータ(HFSS)による数値解析結果をドットで示している。また、図6(b)のグラフの周波数特性を得る図6(a)に示した各パラメータの具体的な値は、以下の通りである。W=4.0(mm)、W=4.318(mm)、c=1.643(mm)、A=2.442(mm)、A=1.505(mm)、Aν=3.363(mm)、後述するPTFE板41aの誘電率は2.04、後述する穴42a、42b、42c、42d、42e、42fの径は0.05mmとしている。
【0041】
本実施形態に係る高周波導波管41は、略十字型形状のPTFE板41aと、PTFE板41aの複数の所定箇所それぞれにおいて、PTFE板の厚さ方向に形成された、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる穴42a、42b、42c、42d、42e、42fと、PTFE板41aの外周面(高周波の入出力用の端面を除く)及び穴42a、42b、42c、42d、42e、42fにおける内壁を被覆している薄膜41bとを有している。
【0042】
なお、穴42a、42b、42c、42d、42e、42fの各位置及び各半径の値は、短絡境界H面平面回路法に仮想ポート短絡法を用いて導出し、決定している。このとき、決定された穴42a、42b、42c、42d、42e、42fの各位置及び各半径の値を、さらにPowell法(M.J.D.Powell、“An efficient method for finding the minimum of a function of several variables without calculating derivatives,”Computer J., vol.7, pp.155-162, July.1964.)によって、数学的に最適化してもよい。
【0043】
上述の短絡境界H面平面回路法に仮想ポート短絡法を用いた方法を示すと以下の通りである。
【0044】
周囲を短絡または開放としたH面平面回路の任意の座標点における電圧は、周辺s0からJ(s0)なる電流が流れ込んだ場合、平面回路の境界条件を満足するグリーン関数を用いて次の式(1)のように表現できる。
【数1】

【0045】
また、入出力ポートの伝送モードを導波管の固有モードで展開すれば、各ポート間のモードインピーダンス行列要素を以下の式(2)のように定義できる。
【数2】

【0046】
ここに、
【数3】

【0047】
【数4】

【0048】
【数5】

【0049】
【数6】

【0050】
【数7】

【0051】
薄膜41bにおいては、例えば、金薄膜である場合には、第4実施形態と同様に4μm〜5μmの厚さとすればよい。これにより、電磁波が薄膜41bをほぼ通り抜けることができないので、高周波損失をより低減できる。他の材料からなる薄膜においても、電磁波が薄膜41bをほぼ通り抜けることができない程度の厚みにしておけばよい。
【0052】
この高周波導波管41は、上述の第1〜第3実施形態のいずれかのエッチング方法で、精度良く製造することができる。例えば、簡単に説明すると以下の通りである。所定の厚みを有するPTFE材料からなる板の一面に、穴42a、42b、42c、42d、42e、42fを形成するための孔を有した十字形状のマスクを被せた状態として、該マスク側から上述の第1〜第3実施形態のいずれかのエッチングを行い、穴42a、42b、42c、42d、42e、42fが形成されているとともに上記マスクの形状と合致するPTFE板41aを得る。そして、このPTFE板41aの外周面(長手方向の端面を除く)及び穴42a、42b、42c、42d、42e、42fの各内壁に、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる薄膜41bをメッキなどで被覆することで、高周波導波管41が完成する。
【0053】
本実施形態によれば、第4実施形態と同様の効果を奏することができる十字路型の高周波導波管41を提供できる。
【0054】
ここで、本実施形態の一変形例として、PTFE板41aの表面と、穴42a、42b、42c、42d、42e、42fの内壁とを、薄膜41bで覆う代わりに、穴42a、42b、42c、42d、42e、42fに金、銀、銅、又はアルミニウムからなる円柱状のピン部材(図示せず)を埋め込むだけとしてもよい。このときのピン部材の半径の値は、穴42a、42b、42c、42d、42e、42fの半径の値と同様にする。これにより、本実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、本変形例の高周波導波管におけるPTFE板は、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる薄膜で覆われていてもよい。
【0055】
<第6実施形態>
次に、本発明の第6実施形態に係る高周波導波管について説明する。図7は、本発明の第6実施形態に係る高周波導波管を示す模式構成図であって、(a)が斜視透明図、(b)が上視透明図である。
【0056】
本実施形態に係る高周波導波管51は、十字路52を有したPTFE板51aと、PTFE板51aを被覆する金、銀、銅、又はアルミニウムからなる薄膜51bと、十字路52の外辺に沿って並設された、金、銀、銅、又はアルミニウム製の複数の円柱部材52aからなる円柱部材群と、十字路52中の複数の所定箇所それぞれにおいて、PTFE板51aの厚さ方向に埋め込まれた、円柱部材52aと同様の円柱部材53a、53b、53c、53d、53e、53fとを備えている。ここで、円柱部材53a、53b、53c、53d、53e、53fの両端も、薄膜51bによって覆われている。
【0057】
円柱部材53a、53b、53c、53d、53e、53fそれぞれの位置及び半径の値は、第5実施形態で説明したものと同様に、短絡境界H面平面回路法に仮想ポート短絡法を用いて導出されている。
【0058】
薄膜51bにおいては、例えば、金薄膜である場合には、第4実施形態と同様に4μm〜5μmの厚さとすればよい。これにより、電磁波が薄膜51bをほぼ通り抜けることができないので、高周波損失をより低減できる。他の材料からなる薄膜においても、電磁波が薄膜51bをほぼ通り抜けることができない程度の厚みにしておけばよい。
【0059】
この高周波導波管51は、上述の第1〜第3実施形態のいずれかのエッチング方法で、精度良く製造することができる。例えば、簡単に説明すると以下の通りである。所定の厚みを有するPTFE材料からなる板の一面に、円柱部材52aからなる円柱部材群、円柱部材53a、53b、53c、53d、53e、53fを埋め込むための穴を形成するための孔を有した板状マスクを被せた状態として、該マスク側から上述の第1〜第3実施形態のいずれかのエッチングを行い、円柱部材53a、53b、53c、53d、53e、53fを埋め込むための穴が形成されているPTFE板51aを得る。そして、このPTFE板51aにおける、円柱部材53a、53b、53c、53d、53e、53fを埋め込むための穴に、円柱部材53a、53b、53c、53d、53e、53fをメッキなどで埋め込むとともに、PTFE板51aの上下面の両方を、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる薄膜51bもメッキなどで被覆することで、高周波導波管51が完成する。
【0060】
本実施形態によれば、第4及び第5実施形態と同様の効果を奏することができる高周波導波管51を提供できる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例を用いて本発明を説明する。
【0062】
(実施例1)
上述の第1実施形態と同様のエッチング方法を用いて、実際にPTFE材料をエッチングした。本実施例でのシンクロトロン放射光の光子エネルギーは、1〜12keVとした。その結果を図8(a)のAFM写真として示す。図8(a)中、PTFE材料の温度を、(a−1)が135℃、(a−2)が165℃、(a−3)が185℃、(a−4)が221℃として、エッチングを行った。
【0063】
(比較例1)
PTFE材料の温度が異なる点と、シンクロトロン放射光の光子エネルギーを1〜12keVとした以外は、実施例1と同様にエッチングを行った。その結果を図8(b)のAFM写真として示す。図8(b)中、PTFE材料の温度を、(b−1)が107℃、(b−2)が116℃、(b−3)が142℃、(b−4)が164℃として、エッチングを行った。
【0064】
実施例1の(a−1)と比較例1の(b−3)とは、エッチングされるPTFE材料の温度が近いものであるが、全く様子が異なっている。つまり、実施例1の(a−1)においては溶融が起こっているが、比較例1の(b−3)においては全く起こっていない。また、実施例1の(a−2)と比較例1の(b−4)とでも、エッチングされるPTFE材料の温度が近いものであるが、全く様子が異なっている。つまり、実施例1の(a−2)においては溶融が進行しているが、比較例1の(b−3)においては全く起こっていない。したがって、PTFE材料の温度が135℃以上であり、シンクロトロン放射光の光子エネルギーが1〜12keVである場合、溶融させてのエッチングが可能であることがわかる。
【0065】
(実施例2)
次に、下記表1のように、PTFE材料の温度及びシンクロトロン放射光の光子エネルギーを変化させた際のエッチングによって、PTFE材料の表面がどのように変化するか、AFM観察を行った。これらの結果をAFM画像の写真として図9に示す。なお、表1での試料1〜5に、図9の(a)〜(e)が順に対応している。
【0066】
【表1】

【0067】
図9の(a)〜(c)に比べ、シンクロトロン放射光の光子エネルギーが1〜12keVであり、PTFE材料の温度が85℃以上の範囲に入っている図9の(d)、(e)は、表面が滑らかになっていることがわかる。
【0068】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第1、第2実施形態のエッチング方法は、組み合わせて使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態に係るPTFE材料のエッチング方法の工程を順に示した模式図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るPTFE材料のエッチング方法の一工程を示す模式図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るPTFE材料のエッチング方法の一工程を示す模式図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る高周波導波管を示す模式構成図、(b)が、本発明の第4実施形態に係る高周波導波管の製造に用いるマスクを示す上視図である。
【図5】金薄膜の厚みと金薄膜中の電磁界振幅との関係を示すグラフである。
【図6】(a)は、本発明の第5実施形態に係る高周波導波管を示す模式構成図、(b)は、(a)の高周波導波管の一例の寸法における散乱行列の周波数特性を示すグラフである。
【図7】本発明の第6実施形態に係る高周波導波管を示す模式構成図であって、(a)が斜視透明図、(b)が上視透明図である。
【図8】(a)が、実施例1の結果を示すAFM写真、(b)が、比較例1の結果を示すAFM写真である。
【図9】実施例2の結果を示すAFM画像の写真である。
【符号の説明】
【0070】
1、11、21 マスク部材
1a、11a、21a パターン
2、12、22、31a PTFE材料
2a 貫通孔
3 泡
13 吸着用フィルム
31 高周波導波管
31b 薄膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンクロトロン放射光を少なくともエッチングに使用できない程度に透過させない材料からなり、パターンが形成されたマスク部材を介して、前記シンクロトロン放射光をPTFE材料に照射してエッチングを行うPTFE材料のエッチング方法であって、
PTFE材料の加工部分の温度が85℃以上であり、該加工部分に0.05keV〜40keVの光子エネルギーのシンクロトロン放射光を照射する工程を有していることを特徴とするPTFE材料のエッチング方法。
【請求項2】
前記エッチングの際、前記マスク部材と前記PTFE材料との間に、前記シンクロトロン放射光を透過させるとともに前記PTFE材料から飛沫するPTFEを吸着するPTFE吸着用フィルムを配置することを特徴とする請求項1に記載のPTFE材料のエッチング方法。
【請求項3】
シンクロトロン放射光を少なくともエッチングに使用できない程度に透過させない材料からなるパターンが形成されたマスク部材を介して、前記シンクロトロン放射光をPTFE材料に照射してエッチングを行うPTFE材料のエッチング方法であって、
前記エッチングの際、前記マスク部材と前記PTFE材料との間に、前記シンクロトロン放射光を透過させるとともに前記PTFE材料から飛沫するPTFEを吸着するPTFE吸着用フィルムを配置することを特徴とするPTFE材料のエッチング方法。
【請求項4】
前記PTFE吸着用フィルムが、樹脂フィルム、軽金属フィルム、半導体フィルム、又は、圧電体フィルムであることを特徴とする請求項2又は3に記載のPTFE材料のエッチング方法。
【請求項5】
PTFE材料の所定箇所を脱離化学イオン化する脱離化学イオン化工程と、
前記脱離化学イオン化工程で得られたCFに、SFガス又は/及びOガスを接触させるとともにシンクロトロン放射光を照射する光化学反応工程とを有していることを特徴とするPTFE材料のエッチング方法。
【請求項6】
表面粗度Rmaxが0.2μm以下である所定形状のPTFE材料を用いて構成されており、
前記PTFE材料の表面が、高周波の染み出し長の値より大きい厚さの金薄膜、銀薄膜、銅薄膜、又はアルミニウム薄膜で被覆されていることを特徴とする高周波導波管。
【請求項7】
十字路を有した板状のPTFE材料において、前記十字路の外辺に沿って並設され、該PTFE材料の厚さ方向にそれぞれが埋め込まれた、金、銀、銅、又はアルミニウム製の複数の円柱部材からなる円柱部材群と、
前記十字路中の複数の所定箇所それぞれにおいて、前記PTFE材料の厚さ方向に、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる円柱部材が埋め込まれており、
前記十字路中の複数の所定箇所それぞれの位置と、前記十字路中の前記円柱部材の所定半径の値とが、短絡境界H面平面回路法に仮想ポート短絡法を用いて導出されたものであることを特徴とする請求項6に記載の高周波導波管。
【請求項8】
略十字型形状に形成されたPTFE材料を有したものであり、
前記PTFE材料の複数の所定箇所それぞれにおいて、前記PTFE材料の厚さ方向に、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる所定半径の穴が形成されているとともに、前記穴の内壁が前記PTFE材料の表面に形成された金薄膜、銀薄膜、銅薄膜、又はアルミニウム薄膜で被覆されており、
前記PTFE材料の複数の所定箇所それぞれの位置と前記穴の所定半径の値とが、短絡境界H面平面回路法に仮想ポート短絡法を用いて導出されたものであることを特徴とする高周波導波管。
【請求項9】
略十字型形状に形成されたPTFE材料を有したものであり、
前記PTFE材料の複数の所定箇所それぞれにおいて、前記PTFE材料の厚さ方向に、金、銀、銅、又はアルミニウムからなる所定半径の円柱状ピン部材が埋設されており、
前記PTFE材料の複数の所定箇所それぞれの位置と、前記円柱状ピン部材の所定半径の値とが、短絡境界H面平面回路法に仮想ポート短絡法を用いて導出されたものであることを特徴とする高周波導波管。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−51907(P2009−51907A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218602(P2007−218602)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月7日 社団法人 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会 2007年総合大会講演論文集」に発表、2007年5月14日 社団法人 電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告」 Vol.107 No.49に発表
【出願人】(507286932)
【出願人】(505032584)
【出願人】(507286389)
【Fターム(参考)】