説明

PTFE製のニット製品とニット・メッシュ

配向した複数のフィブリルを含む少なくとも1本のPTFE繊維を有するニット構造を含んでいて、そのPTFE繊維が多数の繊維交差点を形成し、そのPTFE繊維がその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合しているニット製品と、そのような製品の製造法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
この出願は、2007年8月3日に出願された同時係属中の出願USSN 11/833,566の一部継続出願である。
【背景技術】
【0002】
メッシュ状の生地からなるプロテーゼがさまざまな外科手続きで使用されており、その中には、腹壁、隔膜、胸壁の解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系の欠陥の補正、外傷によって傷んだ臓器(例えば脾臓、肝臓、腎臓)の修復などが含まれる。ヘルニアの修復は、このようなプロテーゼを用いる非常に一般的な外科手術の1つである。
【0003】
外科的修復用のメッシュ状生地は、さまざまな合成繊維が編まれた生地や織布の形態にされたものから構成される。
【0004】
腹壁ヘルニアは、開腹法または腹腔鏡法を利用して修復することができる。これらの方法には、プロテーゼ用生体材料(例えばメッシュやパッチ)を腹腔内または腹腔前に配置する操作が含まれる。アメリカ合衆国では、腹壁ヘルニアの約16%(軟組織修復に関するアメリカ合衆国市場2006、ミレニアム・リサーチ・グループ)が開腹腹腔前法を利用して修復されるのに対し、ヨーロッパではこの割合がはるかに高く、約69%である(軟組織修復に関するヨーロッパ市場2006、ミレニアム・リサーチ・グループ)。このようなケースでは、ポリプロピレンからなる開放ニット・メッシュは選択された材料を含んでいるため、組織が内部でよく成長し、病原菌が感染した場合に治療することができ、プロテーゼが埋め込まれている間を通じて容易に使用できるだけの十分な初期剛性を有する。しかし文献によれば、ポリプロピレンから構成したメッシュは、長引く炎症反応(Klosterhalfen他、Expert Rev. Med. Devices、2005年、1月2日(1)、103〜117ページ)(Kliinge他、Eur. J. Surg.、1999年、第165巻、665〜673ページ)または慢性異物反応(FBR)を誘導することが報告されている。この組織反応は、深刻な長期にわたる合併症(例えば内臓と接触したときのメッシュの腐食、メッシュの移動、瘻孔、強力な癒着)や、手術後のコンプライアンスの低下につながり、患者が不快になる可能性がある。文献に見られる研究では、こうした反応を減らす方法が検討されてきた。最もよく研究されてきた解決法は、モノフィラメントで、孔が大きく、材料が少ないポリプロピレン製メッシュを用いることである。このメッシュは、生物学的相互作用をする表面積が少なくなっているため、異物反応が減る。改良された1つの方法は、ポリプロピレンをより生体適合性のある材料(例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE))で置き換えるというものである。PTFE製ニット・メッシュは現在市販されており、例えばそのような1つのブランドはBard(登録商標)PTFEメッシュである。しかしこのPTFE製ニット・メッシュには、モノフィラメントで、材料が少なく、孔が大きい適切な構造が欠けている。たとえそうだとしても、この材料の弾性率は元々より小さいため、PTFE製ニット製品は、ポリプロピレン製メッシュが取り扱いやすい(優れた剛性)という好ましい特性を有するのと比べてその特性が劣っている。ニット製品の剛性を大きくする従来の方法では、異物が増加したり、構造体の生体適合性を損なう追加の材料が導入されたりする。プロテーゼ用の理想的なPTFE製ニット・メッシュは、取り扱いやすいという望ましい性質を犠牲にすることなく、理想的な構造と材料の両方を兼ね備えるように構成せねばならない。本発明はこの制約を乗り越えようとするものであり、本発明により、生体適合性が大きく、モノフィラメントで、材料が少なく、孔が大きいプロテーゼ用メッシュとして、ヘルニアや他の軟組織の欠陥を再構成するのに適した取り扱いやすさであるものの製造が可能になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施態様では、配向した複数のフィブリルからなる少なくとも1本のPTFE繊維を有するニット構造を含んでいて、そのPTFE繊維が多数の繊維交差点を形成しているニット製品であって、そのPTFE繊維がその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合しているニット製品が提供される。ニット構造のフィブリルは互いに実質的に平行でない方向を向いた状態で自己接合することができる。別の一実施態様では、PTFE繊維は、モノフィラメントPTFE繊維である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1A】熱処理する前のPTFE製ニット製品の電子顕微鏡写真である。
【図1B】熱処理する前のPTFE製ニット製品の電子顕微鏡写真である。
【図1C】熱処理後のPTFE製ニット製品を示している。
【図1D】熱処理後のPTFE製ニット製品を示している。
【図2】PTFE製ニット製品のためのさまざまな形状のニット・メッシュの例である。
【図3A】層にした吸収性材料、または非吸収性材料、または生物細胞と組み合わせて利用されるPTFE製ニット製品の断面図である。
【図3B】層にした吸収性材料、または非吸収性材料、または生物細胞と組み合わせて利用されるPTFE製ニット製品の断面図である。
【図3C】層にした吸収性材料、または非吸収性材料、または生物細胞と組み合わせて利用されるPTFE製ニット製品の断面図である。
【図3D】層にした吸収性材料、または非吸収性材料、または生物細胞と組み合わせて利用されるPTFE製ニット製品の断面図である。
【図3E】層にした吸収性材料、または非吸収性材料、または生物細胞と組み合わせて利用されるPTFE製ニット製品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
PTFE製外科用ニット・メッシュとして、接着剤を必要とすることなく、望ましい材料であることと独自の取り扱い特性を有することの両方を兼ね備えたものが提供される。PTFE製ニットが接着剤を添加することなく製品を形成し、組織の一体化を実現し、好ましい抗炎症結果を実現し、軟組織の修復に関して優れた生体力学的抵抗力を実現するという独自の能力は、本発明から得られる予期しない結果である。
【0008】
ニット製品は、少なくとも1種類のPTFE繊維を含む糸で構成される。PTFEという用語には、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)が含まれるものとする。PTFE繊維は配向フィブリルを含む。PTFE繊維は、微孔性または非微孔性のものが可能である。1つの特徴では、PTFE繊維4は、モノフィラメントPTFE繊維である。別の特徴では、PTFE繊維は、デニール、密度、長さ、サイズのいずれかが異なる少なくとも2種類の異なったPTFE繊維にすることができる。本発明の別の特徴では、少なくとも1種類のPTFE繊維と、少なくとも1種類のPTFEではない他のタイプの繊維を含む多重撚りの糸をニットにすることができる。この特徴では、多重撚りの糸に含まれるPTFE繊維は、PTFE繊維とPTFE繊維の交差点で自己接合する。そのPTFE繊維は、同じ多重撚りの糸の中の同じ撚り線のものでも異なる撚り線のものでもよい。交差点における自己接合は、自己接合法を利用して接着剤なしに生成させることができる。
【0009】
非微孔性PTFE繊維は、細菌の侵入と棲息を阻止する。開放ニット構造は、組織をその内部で成長させ、しかも感染症を治療できるより優れたインプラントになる可能性がある。この構造を治療薬で満たす、またはこの構造に治療薬を装填することにより、例えば望みのままに薬を容易に送達することができる。
【0010】
PTFE繊維をニット製品にし、多数の繊維交差点を形成する。そのときPTFE繊維は自らと接触している。PTFE糸は望むニット・パターンにされ、そのニット・パターンを熱処理して剛性を大きくする。熱によってPTFE繊維が自己接合し、少なくとも1つの交差点になる。
【0011】
図1Aは、熱処理前のPTFE製ニット製品の構造の一例を示している。PTFE繊維4がニット構造2にされて多数の繊維交差点8を形成する。そのときPTFE繊維4は、交差点8のうちの少なくとも1つの中に自己接合領域10を有する。図1Bは、ニット構造内の2本のPTFE繊維4の交差点8を示している。この場合には、接触領域同士の間に接合の証拠がないため繊維が互いに独立に動けることからわかるように、自己接合領域がない。
【0012】
本発明のニット構造2を形成する1つの方法は、PTFE繊維4を、拘束手段12の表面に形成した、または取り付けたニット・パターンにし、そのニット構造2を完全に拘束したままの状態で熱に曝露することで、そのニット構造が収縮または運動することを阻止するというものである。拘束手段12として、ピン付き環状部材、締め具、フレーム、またはニットをしっかりと固定して加熱することのできる適切な任意の機構が可能である。PTFE繊維4は、熱に曝露されると主に長手方向に収縮する。この収縮によって拘束された製品がピン付き環状部材上に得られてぴんと張った状態になり、ニット製品内の繊維の交差点または交点に圧力が発生する。
【0013】
PTFE繊維が、外部から加える圧力や熱なしに、または接合剤なしに自己接合するのは予想外であった。このタイプの接合は、完全にPTFEからなるニット製品、または完全にePTFEからなるニット製品を製造する上で1つの利点である。フィブリルが自己接合できる温度範囲は327〜400℃である。温度を350〜370℃の間に制御し、暴露時間を約5〜10分に制御することが、メッシュの処理において望ましかろう。
【0014】
ニットの剛性は、制御された温度設定で加熱時間をより長くすると大きくなる。配向した複数のフィブリルを含む2本以上のPTFE繊維の自己接合は、加熱下で繊維間に張力を加えた状態で接触させた結果である。そのため接合剤を必要とすることなく繊維の界面で繊維を溶融させること、またはロックすることができる。フィブリルが互いに溶融したとき、互いの間で相対運動することが阻止される。それを交差フィブリル・ロッキングと呼ぶ。ニット構造2を冷却した後に拘束手段から外すことができる。次に、冷却された製品を従来技術で知られているさまざまな方法で切断して最終形状にする。繊維製品内に多数ある繊維交差点において接合されることでその製品の剛性が著しく大きくなるため、より好ましい取り扱い特性が提供される。例えば、望むのであれば、このニット構造で得られる剛性を、非自己接合形態の同じニット構造と比べて少なくとも50%大きくすることができる。したがってさまざまなニット・パターンと繊維のさまざまなデニールにより、異なる剛性測定結果が得られる。
【0015】
PTFE製ニット構造の剛性は、材料の厚さと組成を選択することによって望みのままに変えることができ、標準試験、すなわち不織布のINDA標準試験IST 90.3 (95)ハンドル-オ-メーターによって測定できる。例えば厚さが単一であるメッシュの形態になったPTFE製ニット構造として、重量がそれぞれ50〜70g/m2、70〜90g/m2、90〜165g/m2で、剛性がそれぞれ25g、35g、50gよりも大きいものを形成することができる。
【0016】
図2は、PTFE繊維4で形成されたニット構造2を有する製品1の図である。これら実施態様のニット構造は、さまざまな形状のニット・メッシュの形態になったものだけである。以下に説明する図3A〜図3Eに示してあるように、このニット構造を他の要素と組み合わせて望む製品を形成することができる。
【0017】
ニット構造2の驚くべき1つの特徴は、PTFE繊維4が、それほど平行ではない構成で自己接合させることのできる配向した複数のフィブリル6を含んでいることである。そのため安定性と剛性を大きくすることができる。
【0018】
本発明のPTFE製ニット構造は、自己接合領域があるために取り扱いが容易である。そのため安定性と剛性が付加されて従来のPTFE製品に付随する捩じれや皺が防止される。同様に、本発明に従って形成された製品は、より快適な製品を患者に提供し、怪我の領域をサポートするとともに、患者にとって設置場所での製品の可撓性をより大きくすることができる。
【0019】
図3A〜図3Eに例示してあるように、PTFE製ニット構造2は、複合構造を形成するため、少なくとも1つのニット構造と少なくとも1つの他の材料を含む製品にすることができる。図3Aは、PTFE製ニット構造2と機能層14で形成された製品1を示している。ニット構造は、少なくとも1本のPTFE繊維4がニット構造2にされたものを含んでいて、PTFE繊維4が多数の繊維交差点を形成し、その交差点の少なくとも1つに自己接合領域10を有する。機能層14は、吸収性材料、または非吸収性材料、または吸収性材料と非吸収性材料の組み合わせを含むことができる。非吸収性材料の例として、ePTFE、ポリプロピレン、ポリエステル、フルオロポリマーなどがある。吸収性材料の例として、吸収性材料のポリマー、コポリマー、混合物などがある。ニット構造2と機能層14は、図3A〜図3Cに示してあるように、従来技術で知られているさまざまな方法で、または以下の実施例に記載したようにして、貼り合わせること、または接合することができる。
【0020】
図3Bは、PTFE製ニット構造2と2つの機能層14で形成された複合構造を持つ製品を示している。この図では、上面と下面を有するPTFE製ニット構造2を含む1つの層が、上面で1つの機能層14に接合され、下面で1つに機能層14に接合されることで、製品を形成している。上述のように、機能層14は、吸収性材料、または非吸収性材料、または吸収性材料と非吸収性材料の組み合わせにすることができる。2つ以上のニット構造が単一の製品の中に存在することも本発明の範囲に含まれる。さらに、2つ以上の機能層が単一の製品の中に存在することも本発明の範囲に含まれる。この製品にはさまざまな使用法がある。例えば、外科用材料、外科用メッシュ、ヘルニア修復、軟組織修復、軟組織補強、解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系の欠陥の補正、損傷したいろいろな臓器(例えば脾臓、肝臓、腎臓や、これらの任意の組み合わせ)の修復、解剖学的欠陥の修復(例えば腹壁、隔膜、胸壁の欠陥)に用いることや、適切な任意の使用、これらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
図3Cは、PTFE製ニット構造2を製品にしたものを示しており、ニット構造が2つの機能層14の間に完全に取り囲まれて複合構造を形成している。機能層は似た材料または異なる材料で構成することが可能であり、それぞれが似た特性または異なる特性(例えば吸収速度、薬溶離特性、力学的特性(剛性など))を持つことも可能である。機能層は、上記のように、貼り合わせ、吸収性接着剤や、他の接合手段によって互いに接合または結合させることができる。
【0022】
PTFE製ニット構造2は、離散パターンにした接着剤を用いてグラビア印刷することも可能である。このパターンは、ニット・パターンとパターンがよく一致するように設計することができる。すると吸収可能な接着剤で表面をできるだけ多く覆うことが可能になる。次に、接着剤が存在しているニット構造2を貼り合わせて不織自己接合性ウェブにすることができる。複合製品を製造するための他の方法として、熱接合、縫製、溶媒接合、層同士を接合するための独立した吸収材料からなる連結層の利用、永続的な層被覆の利用、複合製品を形成するための同様の公知の方法などがある。当業者であれば、これらの方法を利用し、PTFE製ニット構造2と少なくとも1つの機能層を含む多層複合製品を実現できるであろう。
【0023】
本発明による製品の別の例として、図3Dと図3Eに示してあるように、PTFE製ニット構造が外科用メッシュにされたものがある。PTFE製ニット構造は、それぞれ吸収層と非吸収層を有する多層複合体構造物に組み込まれており、吸収層は、そのPTFE製ニット構造2の少なくとも一部の全体に吸収されている。
【0024】
図3Dは、生物材料13が接合されたPTFE製ニット構造2を含む製品1を示している。生物材料は、傷の治癒を促進する調節物質、または宿主の中で接触している細胞または組織の増殖を誘導する調節物質、またはその生物材料そのものの細胞または組織の増殖を誘導する調節物質である。
【0025】
図3Eは、PTFE製ニット構造2と2つの機能層14で形成された複合構造を持つ製品を示している。この図では、自己接合される領域10を備えていて上面と下面を有するPTFE製ニット構造2を含む1つの層が、上面で1つの機能層14に接合され、下面で1つに機能層14に接合されることで、製品を形成している。図からわかるように、機能層14はニット構造に吸収させることができる。機能層は、ニット構造に一部または全体を吸収させることができよう。機能層14は、吸収性材料、または非吸収性材料、または吸収性材料と非吸収性材料の組み合わせにすることができる。2つ以上のニット構造が単一の製品の中に存在することも本発明の範囲に含まれる。
【0026】
一実施態様では、ニット製品またはニット・メッシュは、配向した複数のフィブリルからなる少なくとも1本のPTFE繊維を有するニット構造を含んでいる。PTFE繊維は多数の繊維交差点を形成し、そのPTFE繊維はその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合している(接着剤を使用することなく繊維交差点において自らに接合して接合を形成する)。PTFE繊維は、初期の剛性と第2の剛性を持つ多孔性構造である。第2の剛性は初期の剛性よりも小さい。初期の剛性は、多孔性構造に表面張力を加えたときに小さくなって第2の剛性に到達する。人が座る、立つ、咳をする、跳ぶときに及ぼされる典型的な腹部筋肉の張力以下の張力下でニット製品が剛性を軟化または低下させることが望ましい。以下の実施例に示すように、張力下での剛性の軟化または低下は、ニット構造に腹部内圧力以下の表面張力が加わって上記交差点の少なくとも1つにおける接合部が壊れるときに起こる。繊維は、編むこと、織ること、組み紐にすることが可能である。
【0027】
PTFE製外科用メッシュは、以下の実施例で説明するようにして、または従来技術で知られている被覆法により、吸収性組成物または薬溶離組成物で被覆することができる。それに加え、生物活性剤および/または殺菌剤および/または抗生物質を薬溶離組成物の中に埋め込んだ後にPTFE製外科用メッシュを被覆することも、本発明の範囲に含まれる。生物活性剤として、鎮痛剤、非ステロイド系消炎薬(NSAID)、麻酔薬が可能である。
【実施例1】
【0028】
表1は、本発明で使用するニット・メッシュの典型例を示している。これらの例は単なる例示であり、本発明の範囲がこれらの例に限定されることは想定していない。さまざまなニット・パターンを用いて本発明で使用されるPTFE製ニットを形成することができる。
【0029】
【表1】

【実施例2】
【0030】
剛性の測定
【0031】
不織布のINDA標準試験IST 90.3(95)ハンドル-オ-メーター剛性測定法に従い、繊維製品の全体的触感による剛性すなわち平均剛性を、表1のニットの各実施例について測定した。元の剛性のまとめを以下の表2に見いだすことができる。表1と表2からわかるように、ニット・パターンと繊維のデニールをさまざまに変えることによって剛性の異なる測定値が得られる。
【実施例3】
【0032】
剛性を大きくする処理
【0033】
繊維製品をピン付き環状部材に取り付け、熱に曝露するときにその製品が完全に拘束されていて収縮しないようにして表1に例示した未処理のPTFE製ニットを処理することにより、剛性を大きくした。ピン付き環状部材はステンレス鋼で構成されており、直径が約24インチであり、周辺部のまわりに1〜2インチの均等な間隔で配置した長さ約1インチで直径0.020インチのピン針を有する。次に、繊維製品がしっかりと固定された状態のピン付き環状部材を7分間にわたって365℃に加熱した。この処理によって繊維交差点の位置に自己接合が生じる。
【実施例4】
【0034】
実施例3で説明した製品を室温まで冷却し、ピン付き環状部材から外した。冷却したこの製品を切断して最終形状にした。繊維製品内の多数の繊維交差点における接合(自己接合)によって製品の剛性が著しく増大するため、より好ましい取り扱い特性が提供される。表2に、表1に示したPTFE製ニットについて、繊維交差点における自己接合に関する処理前と処理後の剛性の測定結果を示してある。
【0035】
【表2】

【0036】
ここではいくつかの実施例例について説明するが、当業者であれば、縫製パターン、繊維のデニール、繊維の密度を変えて簡単にメッシュの重量に影響を与えることで、メッシュの最終的な剛性に影響を与えることができよう。当業者であれば、同様の結果を得るのに異なる拘束法と熱処理法も利用できよう。
【実施例5】
【0037】
変形時の剛性の変化
【0038】
以下の特徴を持つニットのサンプルを製造した:
ニットのパターン:六角形
ニットのタイプ;二重棒
フィラメント:モノフィラメント
WPI:28±5
CPI:44±5
PTFE繊維の直径:127μm以下
メッシュの質量:2.8±0.4オンス/ヤード2
孔のサイズ:1000μm超
実験温度:室温。
【0039】
上記のサンプルを3分間にわたって365℃に加熱した。熱処理した上記のニットからサイズが4インチ×4インチの多数のサンプルを切断した。
【0040】
各サンプルに対して以下の操作を行なった。
【0041】
応力の方向がニットの加工方向と一致するようにしてサンプルをインストロン(モデル#5564)ユニバーサル試験機械の顎部に装着した。サンプルを80mm/分の速度で9mmの距離変位させた。負荷と変位の関係を示すデータを取得した。このデータから、ニットの加工方向に沿った弾性率を得た。それを第1の弾性率と呼ぶ。弾性率は、負荷と変位の関係を示す曲線の傾きとして定義される。次にサンプルを取り出し、90°回転させた。そのため今や応力の方向は、ニットのウェブを横断する方向になっている。サンプルを80mm/分の速度で9mmの距離変位させた。終了後、サンプルを90°回転させ、引っ張る方向を再び加工方向に戻した。同じ80mm/分の速度と最大変位9mmを利用し、負荷と変位の関係を示すデータを再度取得した。このようにして2回目に取得したニットの加工方向の弾性率を第2の弾性率と呼ぶ。
【0042】
17個のサンプルについて測定を行なった。テストした各サンプルで第2の弾性率は第1の弾性率よりも小さかった。弾性率の平均低下率は47.8%であり、変化の最小値は26.1%、最大値は64.5%であった。自己接合したニットは剛性が顕著に低下した。それは、最大応力まで約10%引き伸ばしたときの弾性率の変化として表わされる。
【実施例6】
【0043】
腹部メッシュ張力の計算
【0044】
平均腹部内圧力(IAP)の値をCobbらの論文(Cobb他、「健康な成人の正常な腹部内圧力」、J. Surg. Res.、2005年12月、第129巻(2)、231〜235ページ参照。電子出版2005年9月2日)から取り出し、腹部メッシュ張力を計算するため代表的な圧力測定値として利用した。腹部メッシュ張力は、埋め込まれたニット・メッシュまたはニット製品を人の腹壁の欠陥を修復するのに使用したときにその埋め込まれたニット・メッシュまたはニット製品に及ぼされる張力であると考えられる。測定値は、人が軽い活動(例えば座る、立つ、咳をする、跳ぶ)をしているときにニット・メッシュまたはニット製品に及ぼされる張力を表わす。
【0045】
腹部メッシュ張力(以下の表4参照)の計算方法は、Klingeらが記載している(Klinge他、「腹壁の生理学に適合したヘルニア修復用改変メッシュ」、Eur. J. Surg.、1998年12月、第164巻(12)、951〜960ページ)。
メッシュ張力周方向(N/cm)=PD/2
メッシュ張力長さ方向(N/cm)=PD/4
ただし、
P=圧力(N/cm)
D=直径(32cm)である。
【0046】
【表3】

【実施例7】
【0047】
腹部メッシュ張力試験
【0048】
繊維製品の破裂強度を求める横断方向定速(CRT)ボール破裂試験に関するASTM D3787-01標準試験法を改変した方法によって負荷と変位の関係を示すデータを取得した。このASTM試験に対する改変は、横断方向の定速(CRT)を300mm/分から50mm/分に変更し、試験に使用する鋼球の直径を25mmから38mmに変更するというものであった(今後は改変した試験を“BB”と呼ぶ)。
【0049】
BB試験では、ボールをメッシュに押し込んで変位と負荷を記録する。グラフ1に、実施例5に記載した異なる3つのサンプルに関するBB測定結果を示してある。この実験は室温で実施した。メッシュ張力は、以下の式を用いて計算した。
メッシュ張力=負荷/(π×W)
ただし、
W:変位点における鋼球の幅
負荷:変位したときの負荷である。
【0050】
【化1】

【0051】
【化2】

【実施例8】
【0052】
最小メッシュ張力
【0053】
弾性率が変化する点は、グラフ1に示した負荷と変位の関係を示す曲線の傾きが突然小さくなる点として定義される。弾性率が変化する点で計算したメッシュの表面張力を最小メッシュ張力と定義する(今後は“MMT”と呼ぶ)。最小メッシュ張力は、実施例7に記載したようにして計算される。
【0054】
グラフ1に示してあるように、弾性率が変化する点においてWの値は2.33cmと計算され、負荷は約18Nである。この情報に基づいてこれらサンプルの平均MMTを計算すると、2.5N/mになる(MMT=18N/(3.14×2.33cm)=2.5N/m)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向した複数のフィブリルを含む少なくとも1本のPTFE繊維を有するニット構造を含んでいて、そのPTFE繊維が多数の繊維交差点を形成しているニット製品であって、そのPTFE繊維がその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合しているニット製品。
【請求項2】
上記フィブリルが互いに平行でない方向を向いている、請求項1に記載のニット製品。
【請求項3】
ヘルニア修復用メッシュである、請求項1に記載のニット製品。
【請求項4】
軟組織修復用メッシュである、請求項1に記載のニット製品。
【請求項5】
軟組織補強用メッシュである、請求項1に記載のニット製品。
【請求項6】
解剖学的欠陥の修復用である、請求項1に記載のニット製品。
【請求項7】
尿生殖器系の欠陥の補正用である、請求項1に記載のニット製品。
【請求項8】
いろいろな臓器の修復用である、請求項1に記載のニット製品。
【請求項9】
上記解剖学的欠陥が腹壁の欠陥である、請求項6に記載のニット製品。
【請求項10】
少なくとも1つの機能層をさらに備える、請求項1に記載のニット製品。
【請求項11】
少なくとも1本のモノフィラメントPTFE繊維を有するニット構造を含んでいて、そのPTFE繊維が多数の繊維交差点を形成し、そのPTFE繊維がその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合しているニット製品。
【請求項12】
配向した複数のフィブリルを含む少なくとも1本のPTFE繊維を含んでいて、そのPTFE繊維が編まれることで多数の繊維交差点を形成しているニット・メッシュであって、そのPTFE繊維がその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合していて、このメッシュは、質量が50〜70g/m2であり、INDA標準試験法90.3によって測定された剛性が25gよりも大きい、ニット・メッシュ。
【請求項13】
配向した複数のフィブリルを含む少なくとも1本のPTFE繊維を含んでいて、そのPTFE繊維が編まれることで多数の繊維交差点を形成しているニット・メッシュであって、そのPTFE繊維がその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合していて、このメッシュは、質量が70〜90g/m2であり、INDA標準試験法90.3によって測定された剛性が35gよりも大きい、ニット・メッシュ。
【請求項14】
配向した複数のフィブリルを含む少なくとも1本のPTFE繊維を含んでいて、そのPTFE繊維が編まれることで多数の繊維交差点を形成しているニット・メッシュであって、そのPTFE繊維がその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合していて、このメッシュは、質量が90〜165g/m2であり、INDA標準試験法90.3によって測定された剛性が50gよりも大きい、ニット・メッシュ。
【請求項15】
配向した複数のフィブリルを含む少なくとも1本のPTFE繊維を有するニット構造を含んでいて、そのPTFE繊維が多数の繊維交差点を形成し、そのPTFE繊維が、その交差点の少なくとも1つにおいて交差したフィブリルによってロックされている、ニット製品。
【請求項16】
張力下での熱処理により、上記交差点の少なくとも1つにおいて上記PTFE繊維が自己接合している、請求項1に記載のニット製品。
【請求項17】
上記熱処理が350〜375℃の範囲でなされる、請求項15に記載のニット製品。
【請求項18】
配向した複数のフィブリルを含む少なくとも1本のPTFE繊維を含んでいて、そのPTFE繊維が編まれることで多数の繊維交差点を形成しているメッシュであって、そのPTFE繊維がその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合していて、そのメッシュは、質量が70g/m2よりも大きく、INDA標準試験法90.3によって測定された剛性が25gよりも大きい、メッシュ。
【請求項19】
上記ニット構造がPTFEだけでできている、請求項1に記載のニット製品。
【請求項20】
少なくとも1つの非ニット層をさらに含む、請求項1に記載のニット製品。
【請求項21】
上記ニット構造の少なくとも一部を覆う少なくとも1つの被覆をさらに備える、請求項1に記載のニット製品。
【請求項22】
上記被覆が生物活性剤である、請求項21に記載のニット製品。
【請求項23】
上記被覆が殺菌剤である、請求項21に記載のニット製品。
【請求項24】
上記被覆が抗生物質である、請求項21に記載のニット製品。
【請求項25】
配向した複数のフィブリルを含む少なくとも1本のPTFE繊維を有するニット構造を含むニット製品であって、そのPTFE繊維が多数の繊維交差点を形成し、そのPTFE繊維がその交差点の少なくとも1つにおいて自己接合し、このニット製品が、初期の剛性と、腹部メッシュ張力の状態にされたときに初期の剛性よりも小さい第2の剛性とを持つ多孔性構造を有する、ニット製品。
【請求項26】
第2の剛性が初期の剛性よりも少なくとも20%小さい、請求項25に記載のニット製品。
【請求項27】
第2の剛性が初期の剛性よりも少なくとも30%小さい、請求項25に記載のニット製品。
【請求項28】
第2の剛性が初期の剛性よりも少なくとも40%小さい、請求項25に記載のニット製品。
【請求項29】
第2の剛性が初期の剛性よりも少なくとも50%小さい、請求項25に記載のニット製品。
【請求項30】
第2の剛性が初期の剛性よりも少なくとも60%小さい、請求項25に記載のニット製品。
【請求項31】
上記腹部メッシュ張力が16N/cm未満である、請求項25に記載のニット製品。
【請求項32】
多数の繊維交差点を形成する少なくとも1本の繊維を有するニット構造を含んでいて、その少なくとも1本の繊維が、その交差点の少なくとも1つにおいて接合部を持ち、上記ニット構造に腹部内圧力以下の表面張力が加えられたときにその接合部が壊れる、外科用メッシュ。
【請求項33】
上記接合部が、接着剤なしで形成された自己接合部である、請求項32に記載の外科用メッシュ。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【公表番号】特表2010−535949(P2010−535949A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519935(P2010−519935)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/009291
【国際公開番号】WO2009/020557
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】