説明

PTFE製ピストンを有するマイクロシリンジを備えた試料採取装置及び全有機体炭素測定装置

【課題】周囲温度が低下してもPTFE製の部品の摺動部に隙間が生じることを防ぐ。
【解決手段】マルチポートバルブ、シリンジ、マルチポートバルブとシリンジの相対的な位置関係を固定している支持機構を備えた試料採取装置であり、シリンジを加熱するシリンジ用ヒータと、シリンジの周囲の温度を検出し、その温度が所定の温度よりも低下したときにヒータに通電をしてシリンジを介してピストンを加温する温度制御装置を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPTFE製ピストンを有するシリンジを備えた試料採取装置と、そのような試料採取装置を備えた分析装置の一例としての全有機体炭素測定装置(TOC測定装置ともいう。)に関するものである。全有機体炭素測定装置は試料水中の全有機体炭素量(TOC)、全炭素(TC)又は無機体炭素(IC)を測定するものである。
【背景技術】
【0002】
製薬用水、半導体製造工程水、冷却水、ボイラー水又は水道水など、不純物の少ない試料水の管理を目的として、それらの水に含まれる有機物のTOC測定が行われている。
【0003】
TOC測定装置としては、加熱炉内に酸化触媒を収容した全炭素燃焼部を備えて試料水中のTOCをCO2ガスに変え、非分散型赤外分光光度計により気相中のCO2濃度を測定するTOC測定装置が普及している。そのようなTOC測定装置は、全炭素燃焼部の加熱炉が熱源となっているため、周囲の温度が例えば10℃以下に下がっても、装置内部は常に20℃以上というような加温状態に保たれている。
【0004】
それに対し、試料水が液相のままでTOC濃度を測定する装置も開発されている。そのような液相の測定装置では、試料水中の有機物を紫外線照射により酸化する酸化反応器で二酸化炭素へ転化させる。試料水は液相のままである。その試料水を試料水流路に流し、その試料水流路と測定水が流れる測定水流路とをガス透過膜を介して接触させ、試料水中の二酸化炭素を測定水へ移動させる。二酸化炭素が移動した測定水を導電率計へ送って導電率を測定する。測定水の導電率と試料水の二酸化炭素濃度の関係を予め検量線として求めておくことにより、測定された測定水の導電率から試料水の二酸化炭素濃度を求めることができる(特許文献1参照。)。本発明は、このように試料水を紫外線照射により酸化し液相のままでTOC濃度を測定する装置を対象とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2008/047405号パンフレット
【特許文献2】特開2005−274483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が対象とするTOC測定装置は、内部に加熱炉のような熱源となるものを備えていないため、周囲の温度が例えば10℃以下というような低温になると、装置内部の温度も下がる。TOC測定装置で試料水を採取して分析部に供給するため試料採取装置は、試料水を採取して供給するシリンジや、そのシリンジに接続されるべき流路を切り換えるマルチポートバルブを備えている。
【0007】
分析装置で一定温度に維持しなければならない箇所、例えば液体クロマトグラフのカラムや検出器などに対しては、オーブンを設けて一定温度になるように温度制御をしている。それは、温度が変動することにより保持時間が変化したり検出感度が変化して分析結果が変動するためである。
【0008】
しかし、TOC測定装置などに使用され、試料水を採取して分析部に供給する試料採取装置は、温度が変動しても分析結果には影響がないので、通常、温度制御はしない。
【0009】
試料採取装置のシリンジのピストンはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製である。マルチポートバルブは流路が接続されるステータにロータが組み合わされて流路の切換えがなされるが、ロータはステータとの摺動部がPTFE製のものがある。
【0010】
そのような、PTFE製のピストンを備えたシリンジやPTFE製のロータ摺動部をそなえたTOC測定装置では、装置内部の温度が10℃以下というような低温になると、PTFE製部品が収縮し、シリンジのシリンダとの摺動部や、マルチポートバルブのロータとステータとの摺動部に隙間ができる。そのような隙間ができると、隙間から試料水が漏れる。また、その隙間から空気が侵入することにより空気中の炭酸ガスが試料水に溶け込むことによってTOC測定精度が低下するといった問題も生じる。
【0011】
分析装置で一定温度に維持しなければならない箇所、例えば液体クロマトグラフのカラムや検出器などに対しては、オーブンを設けて一定温度になるように温度制御をしている。それは、温度が変動することにより保持時間が変化したり検出感度が変化して分析結果が変動するためである。しかし、全有機体炭素測定装置などに使用され、試料水を採取して分析部に供給する試料採取装置は、温度が変動しても分析結果には影響がないので、通常、温度制御はしない。
【0012】
本発明は試料水を採取する試料採取装置において、周囲温度が低下してもPTFE製の部品が収縮することを防いでPTFE製部品の摺動部に隙間が生じることを防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の試料採取装置は、ステータに試料水を供給する流路に接続されるポート、分析装置に接続されるポート及びそれらのポートに切り換えて接続される共通ポートを少なくとも備え、ステータに対してロータが摺動しながら回転をして流路を切り換えるマルチポートバルブと、マルチポートバルブの共通ポートに接続され、シリンダ内をPTFE製ピストンが上下方向に摺動することにより試料水の採取と送り出しを行うシリンジと、マルチポートバルブを取りつけて支持しているマルチポートバルブ支持板、シリンジを取りつけて支持しているシリンジ支持板及び両支持板を支持してマルチポートバルブとシリンジの相対的な位置関係を固定している基板からなる支持機構と、シリンジを加熱するシリンジ用ヒータと、シリンジの周囲の温度を検出し、その温度が所定の温度よりも低下したときにヒータに通電をしてシリンジを介してピストンを加温する温度制御装置とを備えている。
【0014】
パルス式流通型光触媒評価装置において、インジェクションポートやキャリアガス用のPTFEチューブにリボンヒータを巻きつけて加熱するようにしたものがある(特許文献2参照。)。しかし、特許文献2では加熱の目的は汚染物質の吸着を抑えることであり、液漏れや空気の侵入するを防止することとは関係がない。
【0015】
シリンジを介してピストンを加温する機構は、試料採取装置全体を加熱する必要がなく、シリンジのみを加熱することができればよい。そのための簡便な機構として、シリンジ用ヒータはシリンジ支持板に取りつけられ、シリンジ支持板を介してシリンジを加熱するものとすることができる。
【0016】
マルチポートバルブがロータのステータとの摺動部がPTFE製である場合には、マルチポートバルブにもマルチポートバルブ用ヒータが取りつけられていることが好ましい。その場合、温度制御装置はシリンジの周囲の温度が所定の温度よりも低下したときにシリンジ用とマルチポートバルブ用の両方のヒータに通電をするように温度制御を行う。
【0017】
マルチポートバルブ用ヒータも試料採取装置全体を加熱する必要がなく、マルチポートのみを加熱することができればよい。そのための簡便な機構として、マルチポートバルブ用ヒータはマルチポートバルブ支持板に取りつけられ、マルチポートバルブ支持板を介してシリンジを加熱するものとすることができる。
【0018】
本発明のTOC測定装置は、本発明の試料採取装置を使用した分析装置の一例である。そのTOC測定装置は、試料水を採取して供給するための試料採取装置として本発明の試料採取装置を使用し、試料採取装置のほかに、試料採取装置の分析装置接続用ポートに接続され、試料採取装置から供給された試料水中の有機物を紫外線照射により酸化して二酸化炭素に変換する酸化分解部と、酸化分解部を経た試料水が流される試料水流路及び脱イオン水からなる測定水が流される測定水流路を備え、試料水流路と測定水流路の間にはガス透過膜が介在して二酸化炭素の移動が可能になっている二酸化炭素分離部と、二酸化炭素分離部からの測定水の導電率を測定する導電率測定部と、導電率測定部による測定値から試料水のTOC濃度を算出する演算部を備えた演算処理部とを備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の試料採取装置は、PTFE製ピストンが上下方向に摺動するシリンダを加熱するシリンジ用ヒータを設けたので、周囲の温度が低下してもPTFE製ピストンが収縮するのを防止することができ、ピストンとシリンダとの間の摺動面に隙間が生じるのを防ぐことができる。
【0020】
その試料採取装置を採用した本発明のTOC測定装置は、試料採取装置での試料水の液漏れや試料採取装置で試料水に空気中の二酸化炭素が侵入することによりTOC測定値が誤差を含むことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】一実施例の試料採取装置を示す概略正面図である。
【図2】一実施例の全有機体炭素測定装置を示すブロックである。
【図3】同実施例の全有機体炭素測定装置における酸化分解部、二酸化炭素分離部及び導電率測定部の第3の形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
試料採取装置の一実施例を図1に示す。
マルチポートバルブである8ポートバルブ2はアルミニウム製マルチポートバルブ支持板28に取りつけられ、シリンジ10はアルミニウム製シリンジ支持板20に取りつけられている。両支持板28,20は基板8に固定されて一体化されていることにより、8ポートバルブ2とシリンジ10の相対的な位置関係が固定されている。両支持板28,20と基板8が支持機構を構成している。
【0023】
8ポートバルブ2はステータ4に複数のポート6を備えている。それらのポート6には、試料水を供給する流路に接続されるポート、分析装置に接続されるポート及びそれらのポートに切り換えて接続される共通ポートが少なくとも含まれる。ステータ4には、その内部にロータ(図には現れていない。)が回転可能に設けられている。ロータはステータ4に対して摺動しながら回転をしてポートに接続された流路を切り換える。
【0024】
シリンジ10は8ポートバルブ2の共通ポートに接続されている。シリンジ10はシリンダ内にシリンダ内面に摺動しながら上下方向に移動するPTFE製ピストン12(図2参照。)を備えている。そのピストン12がシリンダ内を摺動しながら上下方向に移動することにより試料水の採取と送り出しを行う。
【0025】
シリンジ10にはシリンジ用ヒータが設けられている。シリンジ用ヒータはシリンジ10に巻きつけるリボンヒータであってもよいが、この実施例では熱伝導性のよいアルミニウム製支持板20に密着して取りつけられたカートリッジヒータ22を用いる。シリンジ10は支持板20を介してヒータ22により加熱される。シリンジ10のシリンダは金属よりは熱伝導性の悪いガラス製であるが、支持板20を介して加熱されて内部のピストンを加熱することはできる。支持板20はシリンジ10のシリンダの全長にわたっていてもよく、シリンダの長さよりも短いものであってもよい。支持板20はアルミニウム製であるので、熱伝導性がよく、そのためヒータ22は支持板20の全長に及ぶ長さをもつ必要はなく、支持板20の一部と接触していればよい。
【0026】
シリンジ10の周囲の温度を検出し、その温度が所定の温度、例えば10℃、よりも低下したときにヒータ22に通電をしてシリンジ10を介してその中のピストンを加温する温度制御装置を備えている。温度制御装置は、この試料採取装置が配置されるTOC測定装置などの分析装置の外面又は内部の適当な位置に配置された温度センサ26と、その温度センサ26が検出する周囲温度が所定の温度よりも低下したときにヒータ22に通電をする制御回路24を備えている。制御回路24による通電の制御は、ヒータ22に一定電流を流すことにより行う。シリンジ10の温度制御は厳密なものである必要はないので、シリンジ10の温度が20〜30℃程度の適当な温度となるような電流値を予め求めて、制御回路24に設定しておけばよい。多少のコスト上昇が問題にならなければ、シリンジ10に温度センサを取りつけ、シリンジ10の温度が一定になるように電流値を制御するようにしてもよい。
【0027】
8ポートバルブ2のロータはステータ4との摺動部がPTFE製である。そのため、バルブ2にもカートリッジヒータなどのヒータ30が取りつけられている。ヒータ30はバルブ2の支持板28に取りつけられている。支持板28は熱伝導性のよいアルミニウム製であるので、ヒータ30は支持板28の全長に及ぶ長さをもつ必要はなく、支持板28の一部と接触していればよい。温度センサ26と制御回路24からなる温度制御装置はバルブ2用のヒータ30への通電も制御する。その制御はシリンジ10用のヒータ22との通電制御と同時に行う。制御回路24によるヒータ30への通電の制御も、ヒータ30に一定電流を流すことにより行う。バルブ2の温度制御も厳密なものである必要はないので、バルブ2の温度が20〜30℃程度の適当な温度となるような電流値を予め求めて、制御回路24に設定しておけばよい。この場合も、多少のコスト上昇が問題にならなければ、バルブ2に温度センサを取りつけ、バルブ2の温度が一定になるように電流値を制御するようにしてもよい。
【0028】
図2は図1の実施例の試料採取装置を適用した一実施例のTOC測定装置を概略的に表したものである。破線の枠で囲まれた部分はTOC測定装置100の筐体内に収納されていることを意味し、破線の枠の外側は筐体の外部であることを示している。
【0029】
TOC測定装置100内には試料採取装置102が設けられている。試料採取装置102は流路切換えバルブである8ポートバルブ2と、バルブ2の共通ポートに接続された採水用のシリンジ10を備えている。シリンジ10にはシリンジ10内に二酸化炭素を含まないガスを供給するガス供給流路120が接続されている。
【0030】
バルブ2のポートの1つにはTOC測定装置の筐体の外部から試料水を取り込むための流路110が接続され、他のポートには筐体の外部から純水を取り込むための流路112が接続され、さらに他のポートにはシリンジ10に採取した試料水又は純水を酸性にするための酸を筐体の外部から取り込むための流路114が接続されている。バルブ2の更に他のポートには酸化分解部118につながる流路116が接続されている。バルブ2の更に他のポートは大気に開放できるようになっている。
【0031】
酸としては塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸を使用する。酸を添加することにより、シリンジ10内の試料水又は純水のpHを4以下にするのが好ましい。
【0032】
バルブ2はステータに複数のポートが設けられたものであり、ロータを回転させることにより、共通ポートに接続されたシリンジ10をいずれかのポートに接続できるように切り換えられる。
【0033】
シリンジ10はシリンダの内部を、液密を保ってピストン12が上下方向に摺動することによってシリンジ10内に試料水又は純水を取り込み、更に酸を取り込むことができる。またピストンを上方向に押し込むことによって、採取した試料水又は純水を、バルブ2を介して流路116から酸化分解部118へ供給することができる。ピストン12はフランジャ14の先端に取りつけられている。フランジャ14がモータにより駆動されるシリンジ駆動部109により駆動されることにより、ピストン12がシリンダ内で上下方向に摺動する。
【0034】
シリンジ10のシリンダの下端部にはシリンジ10内に通気処理のために二酸化炭素を含まないガスを供給するガス供給流路120が接続されている。ガス供給流路120が接続されている位置は、ピストン12が下端まで移動した状態においてピストン12よりも上部にくる位置である。二酸化炭素を含まないガスは、例えばボンベ119に収容された高純度空気、又は炭酸ガスを吸着する充填材が充填されたカラムを通過して供給される高純度空気であるが、それらに限定されるものではない。
【0035】
酸化分解部118は試料水又は純水(以下単に試料水という場合は純水も含むものとする。)が有機物酸化部の流路を流れている間に紫外線が照射され、試料水中の有機物が酸化分解されて炭酸ガスとなるものである。
【0036】
酸化分解部118を経た試料水が二酸化炭素分離部124に導かれる。二酸化炭素分離部124では試料水中の炭酸ガス成分がガス透過膜を介して測定水中に移動する。二酸化炭素分離部124を経た試料水は廃棄される。
【0037】
二酸化炭素分離部124を経た測定水は導電率測定部126に導かれる。導電率測定部126は測定水と接触する電極を備えており、その電極により測定水の導電率が検出される。測定水の導電率は、二酸化炭素分離部124において試料水から測定水に移動した炭酸ガス成分の濃度に依存して変化するので、測定水の導電率検出値に基づいて試料水の炭酸ガス成分の濃度を求めることができる。この炭酸ガス成分は試料水中のTOC成分が酸化分解部118で酸化分解されることにより生じたものであることから、試料水中のTOC濃度を求めることができる。
【0038】
演算処理部128は導電率測定部126の導電率を測定するための電極に接続され、導電率測定部126が検出した導電率に基づいて試料水のTOC濃度を算出する。
【0039】
このTOC測定装置において、バルブ2はブランク測定時に純水を取り込む流路112がシリンジ10と接続されるように設定され、試料測定時に試料水を取り込む流路110がシリンジ10と接続されるように設定され、をシリンジ10中に適当な量、例えば3ml、の純水又は試料水が採取される。さらにバルブ2がシリンジ10を、酸を供給する流路114の接続されたポートに接続するように切り換えられ、シリンジのピストン12をさらに後退させることによって酸を所定量吸入して、純水又は試料水のpHを4以下になるように調整する。その後、バルブ2がシリンジ10を大気開放されたポートに接続されるように切り換えられた状態で、ピストン12が下端まで後退させられる。その状態で流路120から高純度空気がシリンジ10中に、例えば100ml/分の流速で90秒間供給され、シリンジ10内に採水されている純水又は試料水が通気処理され、純水又は試料水中に含まれていた無機炭素が大気中に放出されて除去される。
【0040】
通気処理の終了後、バルブ2がシリンジ10を流路116に接続するように切り換えられ、シリンジ10中の純水又は試料水が酸化分解部118に供給される。酸化分解部118では紫外線ランプからの紫外線照射により純水又は試料水中の有機体炭素が酸化分解されて二酸化炭素になる。酸化分解部118を経た純水又は試料水は二酸化炭素分離部124へ送られる。二酸化炭素分離部124で純水又は試料水がガス透過膜を介して測定水と接触して二酸化炭素が測定水に移動し、その測定水の導電率が導電率測定部126で検出される。
【0041】
次に、酸化分解部118、二酸化炭素分離部124及び導電率測定部126の具体的な一例を図3に示す。
【0042】
酸化分解部118は有機物酸化部224と紫外線ランプ226を備えている。有機物酸化部224は紫外線を透過させる材質からなり内部を試料水が流れる流路からなる。紫外線ランプ226は有機物酸化部224の外部から試料水に紫外線を照射する。有機物酸化部224は紫外線ランプ226からの紫外線が試料水に照射される紫外線照射部を備え、紫外線照射部を試料水が流れる間に紫外線照射により有機物が酸化されて二酸化炭素となる。
【0043】
酸化分解部118を通過した試料水は二酸化炭素分離部124の一例である二酸化炭素分離部220に供給される。二酸化炭素分離部220は、中間水部204を間に挟んで、試料水流路202、中間水部2044及び測定水流路206が上下方向に積層されて一体化されている。有機物酸化部224を経た試料水が試料水流路202に流される。中間水部204には試料水よりも高いpH値をもつ中性領域の中間水が流されるか封入されている。中間水部204は好ましくは流路となって中間水が流されるようになっている。測定水流路206には脱イオン水からなる測定水が流される。試料水流路202と中間水部204はガス透過膜208を介して接しており、中間水部204と測定水流路206もガス透過膜210を介して接している。ガス透過膜208,210としては高速測定を維持するために通常用いられている多孔質膜のように二酸化炭素に対する選択性をもたない膜を使用する。
【0044】
二酸化炭素分離部220としては、ここでは試料水側のガス交換部と測定水側のガス交換部が一体化されたものを示しているが、試料水側のガス交換部と測定水側のガス交換部が互いに分離され、それらのガス交換部の間を流路で接続したものとすることもできる。
【0045】
二酸化炭素分離部220の測定水流路206には、脱イオン水としてイオン交換水が供給される。イオン交換水は、液溜228に溜められている純水がポンプ232により吸引され、イオン交換樹脂230を経て二酸化炭素分離部220の測定水流路206に供給される。測定水流路206を通過した測定水は、導電率測定部126である導電率計234で導電率が測定される。その導電率は二酸化炭素分離部220で中間水から測定水に移動してきた二酸化炭素による導電率である。導電率計234を通過した測定水は液溜228に戻されて再利用される。導電率計234は二酸化炭素分離部220に一体として設けられていてもよく、又は離れて構成されて流路で接続されていてもよい。二酸化炭素分離部220の試料水流路202を通った試料水は排出される。
【0046】
中間水流路204には中間水として純水や脱イオン水が供給される。イオン交換樹脂230を経た脱イオン水を中間水としても供給する。中間水としては、測定水とは別のイオン交換樹脂を用いて作成された脱イオン水を使用してもよい。中間水は試料水流路側のガス透過膜208によって試料水と接触し、測定水流路側のガス透過膜210によって測定水とも接触する。
【0047】
中間水流量と測定水流量の流量比を一定に保つために共通のシリンジポンプを使用している。中間水と測定水として同じイオン交換樹脂230を介してポンプ232で供給されたものを使用している。測定水は測定水流路206から導電率計234を経て流される。中間水は中間水流路204を流される。中間水と測定水が液溜228に戻される流路にはそれぞれバルブ248と250が設けられており、それぞれの流量を調整するために一台のシリンジポンプ246の2つのシリンジ242,244がそれぞれの流路に接続されている。中間水と測定水を流すときは、バルブ248,250が閉じられた状態で、中間水と測定水がそれぞれシリンジ242,244中に同時に吸引され、それぞれのシリンジ242,244の内径で決まる流量で中間水と測定水が流される。測定終了後は、バルブ248と250が開けられ、シリンジ242,244が吐出方向に切り替えられることによってシリンジ242,244中に吸引されていた中間水と測定水が液溜228に戻される。
【0048】
このように、一台のシリンジポンプ246に2個のシリンジ242,244を装着し、中間水流路204から排出される中間水と測定水流路206から排出される測定水を同時に吸引する場合には、シリンジ242,244の径を選択することにより、中間水と測定水との流速比を所定の一定値に保つことができる。中間水と測定水の流速比が一定に保たれることによって中間水から測定水へのガス成分の分配比が一定に保たれ、測定の再現性が高まる。
【符号の説明】
【0049】
2 8ポートバルブ
8 基板
4 ステータ
6 ポート
10 シリンジ
12 ピストン
20 シリンジ支持板
22,30 ヒータ
24 制御回路
26 温度センサ
28 マルチポートバルブ支持板
100 TOC測定装置
102 試料採取装置
118 酸化分解部
124 二酸化炭素分離部
126 導電率測定部
128 演算処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータに試料水を供給する流路に接続されるポート、分析装置に接続されるポート及びそれらのポートに切り換えて接続される共通ポートを少なくとも備え、前記ステータに対してロータが摺動しながら回転をして流路を切り換えるマルチポートバルブと、
前記マルチポートバルブの共通ポートに接続され、シリンダ内をPTFE製ピストンが上下方向に摺動することにより試料水の採取と送り出しを行うシリンジと、
前記マルチポートバルブを取りつけて支持しているマルチポートバルブ支持板、前記シリンジを取りつけて支持しているシリンジ支持板及び両支持板を支持してマルチポートバルブとシリンジの相対的な位置関係を固定している基板からなる支持機構と、
前記シリンジを加熱するシリンジ用ヒータと、
前記シリンジの周囲の温度を検出し、その温度が所定の温度よりも低下したときに前記ヒータに通電をして前記シリンジを介して前記ピストンを加温する温度制御装置と、
を備えた試料採取装置。
【請求項2】
前記ヒータは前記シリンジ支持板に取りつけられ、シリンジ支持板を介してシリンジを加熱するものである請求項1に記載の試料採取装置。
【請求項3】
前記マルチポートバルブは前記ロータのステータとの摺動部がPTFE製であり、
前記マルチポートバルブにもマルチポートバルブ用ヒータが取りつけられており、
前記温度制御装置は前記シリンジの周囲の温度が所定の温度よりも低下したときにシリンジ用とマルチポートバルブ用の両方のヒータに通電をする請求項1又は2に記載の試料採取装置。
【請求項4】
前記マルチポートバルブ用ヒータは前記マルチポートバルブ支持板に取りつけられ、マルチポートバルブ支持板を介してシリンジを加熱するものである請求項3に記載の試料採取装置。
【請求項5】
試料水を採取して供給するための請求項1から4のいずれか一項に記載の試料採取装置と、
前記試料採取装置の分析装置接続用ポートに接続され、試料採取装置から供給された試料水中の有機物を紫外線照射により酸化して二酸化炭素に変換する酸化分解部と、
前記酸化分解部を経た試料水が流される試料水流路及び脱イオン水からなる測定水が流される測定水流路を備え、試料水流路と測定水流路の間にはガス透過膜が介在して二酸化炭素の移動が可能になっている二酸化炭素分離部と、
前記二酸化炭素分離部からの測定水の導電率を測定する導電率測定部と、
前記導電率測定部による測定値から試料水の全有機体炭素濃度を算出する演算部を備えた演算処理部と、
を備えた全有機体炭素測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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