説明

PVDFを含む無添加・無延伸の圧電体および圧電センサ

【課題】ポリフッ化ビニリデンを含んで構成される、延伸に起因する収縮を抑制した圧電体および該圧電体を用いた圧電センサを得ること。
【解決手段】本発明の圧電体は、結晶構造部分が無極性α型のフッ化ビニリデンポリマーを、無添加・無延伸で分極処理することにより得られる。無延伸であるため、延伸に起因する収縮を抑制した圧電体および該圧電体を用いた圧電センサを得ることができる。なお本発明の圧電体は、分極処理時の電界強度が200〜600MV/mであり、分極処理後のポリマーは、極性α型の結晶構造を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電体および圧電センサに関し、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含んで構成される圧電体、および該圧電体を用いた圧電センサに関する。
【背景技術】
【0002】
1969年に、ポリフッ化ビニリデンを一軸延伸し分極処理を施すと、ポリフッ化ビニリデンに高い圧電性が発現することが発見された。以来、ポリフッ化ビニリデンは、圧電性高分子(または焦電性高分子)として、例えば超音波センサや発振子、音響スピーカやマイク、人体や炎の赤外線を検知するセンサ、加速度センサなど、多種多様の用途に広く用いられている。
【0003】
ポリフッ化ビニリデンには数種の結晶構造が存在する。中でも溶融状態のポリフッ化ビニリデンを冷却し結晶化させると得られる、無極性α型(II型)が最も安定と考えられている。上記圧電性(焦電性)は、ポリフッ化ビニリデンを一軸延伸することにより、ポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分を無極性α型から極性を有するβ型(I型)へ転移させ、その上で分極処理を施すことに起因する。
【0004】
このように、一般にポリフッ化ビニリデンを圧電体(または焦電体)として用いる場合は、押出成型されたポリフッ化ビニリデンのフィルムを比較的低温で一軸延伸し、その後分極処理を施す。例えば、特許文献1では、圧電センサに用いる高分子圧電体2・4として、「フッ化ビニリデン系高分子の一種であるポリフッ化ビニリデンPVDF一軸延伸フィルム」が好適に用いられている(第6頁、段落0022)。特許文献2においても同様にポリフッ化ビニリデンPVDF一軸延伸フィルムが用いられている(第9頁、段落0040)。
【0005】
また、ポリフッ化ビニリデンのフィルムを用いて圧電センサ(または焦電センサ)を構成する場合、ポリフッ化ビニリデンは積層して用いられることがある。例えば、特許文献3(第4図)では、ポリフッ化ビニリデンからなる圧電体フィルムの両面に銀ペーストを塗布して、上側を陽電極層とし、下側を陰電極層(他方の電極層)として積層を構成している。また、特許文献1(段落0010、第1図)では、ポリフッ化ビニリデンからなる2枚の圧電体フィルムを、ポリフッ化ビニリデンフィルムと相溶性のよいウレタン系樹脂で形成された接着層を用いて接着し、複数の圧電体フィルムで積層を構成することにより、電気出力を大きくした圧電センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−304558号公報
【特許文献2】特開2009−80090号公報
【特許文献3】特開平10−332509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、延伸したフィルムは、積層したり、他の熱可塑性樹脂フィルムや基板などに接着したりする場合、比較的高温での熱ラミネーションや接着剤の硬化過程で収縮を起こし、平面性の良い積層体を得ることが困難となることがある。例えば一軸延伸フィルムでは、その延伸方向に収縮しやすく、収縮が起こると、積層体に、曲がり、そり、凹凸、剥れなどが発生する。そのため、この収縮を改善するためにエージング(緩和熱処理に相当)を行う必要がある。
そこで本発明は、フッ化ビニリデンポリマーから、従来に比し収縮を抑制した圧電体、および該圧電体を用いた圧電センサを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための、本発明の第1の態様に係る圧電体は、結晶構造部分が無極性α型のフッ化ビニリデンポリマーを分極処理して得られる圧電体であって;前記ポリマーは、無添加、無延伸で分極処理され;分極処理時の電界強度は200〜600MV/mであり;分極処理後の前記ポリマーは、極性α型の結晶構造を含む;圧電体である。
なお、「無添加」とは、ポリフッ化ビニリデンの結晶型に転移を生じさせるような物質を添加していないことをいう。例えば、無極性α型からβ型に転移を生じさせるアンモニウム塩やポリメチルメタクリレート(PMMA)などを添加していないことをいう。結晶構造に影響を及ぼさない、有機物やセラミクス、酸化物、金属、カーボンといった無機粉体などを加工助剤や安定剤等として少量添加する場合は除く。
また、「無延伸」とは、冷延伸加工(融点以下での延伸加工)を経ていないことをいう。例えば、フィルム状の樹脂を一方向(例えば長さ方向)に数倍に引き伸ばす一軸延伸、または、二方向(例えば長さおよび幅方向)にそれぞれ数倍に引き伸ばす二軸延伸といった加工工程を経ていないことをいう。
なお、本願において、「圧電体」といった場合は「焦電体」をも含むものとする。
さらに、上記圧電体は、分極処理後のポリフッ化ビニリデンの主たる結晶構造部分が、極性α型の圧電体であってもよい。「主たる結晶構造部分」とは、結晶構造部分の主成分(すなわち結晶構造部分の50%超)の部分をいう。例えば、ポリフッ化ビニリデンの主たる結晶構造部分が極性α型であるとは、半結晶性高分子であるポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分の50%超が極性α型であることをいう。
【0009】
このように構成すると、極性α型の結晶構造を含むフッ化ビニリデンのポリマーを得ることができ、該ポリマーには、工業的利用が十分に可能な程度の圧電性が発現する。なお、該ポリマーは無延伸であるため、延伸したポリフッ化ビニリデンのフィルムに生じるような収縮を抑制することができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る圧電体は、上記本発明の第1の態様に係る圧電体において、フッ化ビニリデンポリマーが、フッ化ビニリデンのホモポリマー、テトラフルオロエチレン(C)とのコポリマー、トリフルオロエチレン(CHF)とのコポリマー、クロロトリフルオロエチレン(CClF)とのコポリマー、フッ化ビニル(CF)とのコポリマー、ヘキサフルオロプロピレン(C)とのコポリマーのうちのいずれか1のポリマーであって;テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレンは、フッ化ビニリデン100重量部に対してそれぞれ10重量部以下含まれる;圧電体である。
【0011】
このように構成すると、フッ化ビニリデンポリマーとしてより適したポリマーからなる圧電体とすることができる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る圧電センサは、例えば図2に示すように、シグナル電極71と第1のグランド電極61とを絶縁し、第1の面41aと第1の面41aに対して表裏の関係にある第2の面41bを有する第1の圧電体41と;第1の圧電体41の第1の面41aに配置される第1のグランド電極61と;第1の圧電体41の第2の面41bに配置されるシグナル電極71とを備える。第1の圧電体41は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る圧電体である。
なお、本願において、「圧電センサ」といった場合は「焦電センサ」をも含むものとし、さらに圧電・焦電性を利用したセンサ(例えば「超音波発信・受信センサ」)をも含むものとする。
【0013】
このように構成すると、圧電体が無延伸であるため収縮が抑制され、圧電体と積層した電極との収縮率の差による反りや剥れを抑えることができる。
【0014】
本発明の第4の態様に係る圧電センサでは、上記本発明の第3の態様に係る圧電センサにおいて、例えば図2に示すように、シグナル電極71は、第1の圧電体41の外縁部分OTを避け第2の面41bに覆われるように配置され;第1のグランド電極61は、第1の圧電体41の第1の面41aにおいてシグナル電極71を投影する部分を覆うように配置され;第1のグランド電極61の第1の圧電体41が配置された面と表裏の関係にある面においてシグナル電極71が投影された部分INに段差81を設け、第1の圧電体41のシグナル電極71が配置された部分に生ずる応力を大きくする。
【0015】
このように構成すると、第1のグランド電極の第1の圧電体が配置された面と異なる面に段差が設けられるので、段差側から押されることにより、シグナル電極が配置された部分に生ずる応力が大きくなる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る圧電センサは、上記本発明の第3の態様または第4の態様に係る圧電センサにおいて、例えば図2に示すように、シグナル電極71の第1の圧電体41が配置された面と表裏の関係にある面に配置された接着層51と;接着層51のシグナル電極71が配置された面と表裏の関係にある面に配置された第2の圧電体42と;第2の圧電体42の接着層51が配置された面と表裏の関係にある面に配置された第2のグランド電極62とを備える。さらに、接着層51は絶縁性であり;第2の圧電体42は、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る圧電体であって、第1の圧電体41と極性が逆向きの圧電体である。
【0017】
このように構成すると、絶縁性の接着層を挟んで第1の圧電体と極性が逆向きの第2の圧電体を備えるので、圧電センサからの電気出力を大きくすることができる。
【0018】
本発明の第6の態様に係る圧電センサでは、上記本発明の第5の態様に係る圧電センサにおいて、例えば図3に示すように、接着層51はシグナル電極72より縦弾性係数が小さな材料で形成され;シグナル電極72は、第1の圧電体41および第2の圧電体42のシグナル電極72が配置された部分INに生ずる応力が、シグナル電極72が配置されていない外縁部分OTに生ずる応力より大きくなるように厚く形成される。
【0019】
このように構成すると、シグナル電極が厚く形成されているため、容易に2層の圧電体においてシグナル電極が配置された部分に生ずる応力を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フッ化ビニリデンポリマーを延伸していないため、延伸したフッ化ビニリデンポリマーからなる圧電体に比し収縮を抑制した圧電体を得ることができる。さらに、該圧電体を用いて、積層した際の反りや剥れを抑えた圧電センサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】コロナポーリングを行う装置20の概念図である。
【図2】第2の実施の形態に係る圧電センサ100の長手方向に直交する面での断面図である。
【図3】突起物で段差を形成せず、シグナル電極72を厚く形成している圧電センサ101の断面図である。
【図4】圧電センサ100の外形と突起物81の形状を説明する平面図であり、突起物81が連続的に配置された例を示す。
【図5】図4に示した圧電センサ100のシグナル電極71の形状を説明する端面図であり、シグナル電極71が連続的に配置された例を示す。
【図6】圧電センサ102の外形と突起物82の形状を説明する平面図であり、突起物82が断続的に配置された例を示す。
【図7】図6に示した圧電センサ102のシグナル電極73の形状を説明する端面図であり、シグナル電極73が断続的に配置された例を示す。
【図8】圧電センサ100を用いた電子弦楽器200を説明する斜視図である。
【図9】圧電センサ100を用いた電子弦楽器200のコマ220と圧電センサ100との関係を示す分解拡大図である。
【図10】実施例1〜実施例6、および、比較例2、比較例3の圧電定数を示す表である。
【図11】実施例1のポリフッ化ビニリデンフィルムのX線回折スペクトルを示す。
【図12】実施例2のポリフッ化ビニリデンフィルムのX線回折スペクトルを示す。
【図13】実施例5のポリフッ化ビニリデンフィルムのX線回折スペクトルを示す。
【図14】比較例1のポリフッ化ビニリデンフィルムのX線回折スペクトルを示す。
【図15】比較例2のポリフッ化ビニリデンフィルムのX線回折スペクトルを示す。
【図16】比較例3のポリフッ化ビニリデンフィルムのX線回折スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一または相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。また、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0023】
本発明の圧電体および圧電センサでは、延伸により生ずる「収縮」を抑制するという目的を、以下のようにフッ化ビニリデンポリマーを無添加・無延伸で成型した後、100〜600MV/mの電界強度で分極処理を施すといった構成により実現した。
【0024】
本発明の第1の実施の形態に係る圧電体について説明する。第1の実施の形態に係る圧電体は、ポリフッ化ビニリデンのペレットに、結晶型に転移を生じさせるような特定の化合物(例えば、第四級アンモニウム塩等)を添加することなく溶融押出し(無添加)、フィルム状に成型した後、一軸延伸または二軸延伸といった延伸工程を経ることなく(無延伸)、コロナポーリングで分極処理をすることにより得られる。
なお、「溶融押出」とは、溶融状態の樹脂を押出金型の吐出口(スリット)から押し出し成型することをいう。
【0025】
ここで、ポリフッ化ビニリデンの物性のうち絶縁破壊強度について説明する。「エンジニアリングポリマー ―エンプラから高機能性樹脂まで―」1)によると、ポリフッ化ビニリデンの絶縁破壊強度(試験法ASTM D−149)は、52〜74kV/mm(=52〜74MV/m)、または、260V/mil(=10.2MV/m、1mil=0.0254mmで換算)と記載されている。すなわち、この範囲を超えて分極処理を施そうとすると、ポリフッ化ビニリデンは絶縁破壊を起こす。
1)「エンジニアリングポリマー ―エンプラから高機能性樹脂まで―」(発行所:化学工業日報社、1996年3月29日発行、p.525、p.532)
しかし、本発明者等は、上記範囲をはるかに超えた100〜600MV/mの電界強度においてもポリフッ化ビニリデンに分極処理を施すことが可能であることを見出した。その結果、無添加・無延伸のポリフッ化ビニリデンであっても、産業上十分に利用可能な圧電性が発現することが確認された。
【0026】
まず、ポリフッ化ビニリデンを溶融押出することについて説明する。ポリフッ化ビニリデンのペレットを溶融状態(温度200〜280℃)にし、Tダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いて、例えば幅250mm厚さ40μmのフィルム状に成型する。単軸押出機の口金から押出されるとすぐにフィルムは冷却ロール上で40〜140℃まで冷却される。なお、押出されるフィルムの厚さは、10〜2000μmであることが好ましい。
このように、ポリフッ化ビニリデンのペレットには、結晶構造の転移を生じさせるような特定の化合物(例えば、第四級アンモニウム塩等)は添加されていない(すなわち無添加)。この時点での(溶融押出後の)ポリフッ化ビニリデンの結晶構造は、無極性α型である。
【0027】
次に、溶融押出されたポリフッ化ビニリデンフィルムを分極処理することについて説明する。分極処理は、図1に示す装置20を用いてコロナポーリングで行う。装置20は、溶融押出されたフィルム10を送る第1ロール21、第1ロールからのフィルム10を送る第2ロール22、および、第2ロールからのフィルム10を送る第3ロール23を備える。さらに、第2ロール22に接触したフィルム10を非接触で覆うように配置された尖端電極31を備える。コロナポーリング時は、第2ロール22が尖端電極31の対向電極として機能する。すなわち、第2ロール22は分極ロールとなる。対向電極として機能する場合の第2ロール22を以後電極32とする。さらに、尖端電極31と電極32は直流高圧電源33を介して接続される。直流高圧電源33は、尖端電極31と電極32の正負を逆にすることができる。
【0028】
尖端電極31は、その尖端に発生するコロナ放電によって生じた電荷をフィルム10の表面に保持させて対向電極(電極32)との間の直流電界により、フィルム10を分極処理する。尖端電極31は、効果的なコロナ放電を起こすために尖端を有することが好ましい。尖端電極の例としては、ステンレス、タングステン等の針状電極(文字通り針状の先端を有する電極)に加えて、針金状電極(すなわち、フィルム10の幅方向に、ほぼフィルム10の幅と同じ長さで延長する針金状の電極)も好ましく用いられる。
このような非接触型電極でなく、フィルム10に直接接触する電極を用いて、電極32との間で分極処理を行うことも可能である。しかし、フィルム10の絶縁破壊のおそれがある場合には、それに伴う電源のシャトダウンを回避するために、非接触型電極が好ましい。
【0029】
尖端電極31の先端と電極32との間隔は、5〜30mm程度が好ましい。間隔が過小であるとフィルム10の絶縁破壊が起り易くなり、過大の場合はコロナ放電が抑制され分極処理効果が低減する。また、尖端電極31が針金状電極の場合は、0.5〜2本/cm、針状電極の場合は、0.5〜3本/cm程度の密度で設けることが望ましい。
【0030】
フィルム10の温度を適温にするため、第2ロール22(電極32)は、ヒータとして機能する。また、フィルム10の急激な加熱を避けるために、第1ロール21をヒータの温度より低い温度の予熱ロールとしてもよい。あるいは、第1ロール21の上流に赤外線ヒータ(不図示)等の予熱手段を設けてもよい。
【0031】
装置20の第1ロール21、第2ロール22、第3ロール23のフィルムの供給速度を適度に調整しフィルムがたるまないように維持しながら、しかしフィルムを延伸することなく(すなわち無延伸)コロナポーリングにより分極処理する。
なお、フィルム10の両面から尖端電極を用いて分極処理を施してもよい。また、装置20以外の既存の装置(例えばカットフィルムを固定して分極処理を行う装置等)を用いてもよい。
【0032】
図1に示す装置20を用いて分極処理をする場合は、フィルム10を第2ロール22へ特定の速度で供給する。フィルム10は、電極32(第2ロール22)と接触する領域内で、直流高圧電源33に接続された尖端電極31と電極32との間の直流高電界の作用により分極処理される。分極処理されたフィルム10は、フィルムのたるみを発生しないように調整された速度で第2ロール22を離れる。しかしフィルム10は、延伸されることなく無延伸で分極処理される。さらに、必要に応じて寸法安定化のための熱処理等の後処理を受けた後、巻取ロール(不図示)に巻取られる。
【0033】
コロナポーリング時の電界強度は、フィルムが絶縁破壊を起こさなければ高いほどよい。また、低すぎると分極処理が不十分となり十分な圧電性が得られない。なお、室温では100MV/m程度から圧電性を発現するため、100〜600MV/mの範囲で分極処理を施すとよい。しかし、十分な圧電性を得るためには、好ましくは200〜550MV/m、特に好ましくは300〜500MV/mである。
また、コロナポーリング時にヒータとして機能する第2ロール22の温度(フィルム10の温度とほぼ同じ)は、ガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)であることが望ましく、好ましくは0〜140℃、より好ましくは室温〜130℃である。
【0034】
上記方法により、無延伸で高い圧電性を発現するポリフッ化ビニリデンフィルムを得ることができる。なお、分極処理されたポリフッ化ビニリデンフィルムは、後述の実施例で示すとおり極性α型の結晶構造を含むと考えられる。
【0035】
ここで、ポリフッ化ビニリデンの結晶構造について説明する。
溶融状態のポリフッ化ビニリデンを冷却し結晶化させると、その結晶構造部分が無極性α型のポリフッ化ビニリデンが得られる。無極性α型の結晶構造は、2/1らせんのTGTG’コンフォメーションをとる。結晶内のC−F、C−H結合の双極子モーメントにより分子は有極性分子であるが、結晶内に対称中心を有するために双極子モーメントを打ち消しあい、結晶としては無極性結晶となる。
【0036】
さらに、本実施の形態においては、分極処理を施すことにより、後述の実施例で示すとおり、ポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分が無極性α型から極性α型に転移したと考えられる。極性α型の分子鎖は、無極性α型と同様に、TGTG’コンフォメーションをとる2/1らせんである。しかし、双極子が回転により同一方向に並ぶため、結晶としては極性結晶となる。
【0037】
なお、背景技術で説明したように、従来ポリフッ化ビニリデンを圧電体として使用する場合は、無極性α型のポリフッ化ビニリデンを延伸(たとえば一軸延伸)する。すると、結晶構造部分が無極性α型からβ型へ転移する。β型の結晶構造は、平面ジグザクなTTコンフォメーションをとる。β型の結晶では、結晶内の分子鎖が垂直方向に双極子モーメントを有し、かつ結晶内で同一方向に向いているため、結晶としては極性結晶となる。このように、β型の結晶が、自発分極に基づく極性を有するため、その上で分極処理を施すことにより高い圧電性を得ていた。
【0038】
以上のとおり、本発明の第1の実施の形態に係るポリフッ化ビニリデンフィルムからなる圧電体は、延伸する工程を経ることなく製造される。しかし、後述の実施例で示す通り高い圧電性を有する。このポリフッ化ビニリデンフィルムは無延伸のため、延伸に起因する収縮が抑制されたフィルムとなる。
【0039】
さらに、一軸延伸したポリフッ化ビニリデンフィルムからなる圧電体には、延伸による物性の異方性が生じる。例えば、一軸延伸方向にx軸、それに直角にy軸、フィルム面に垂直にz軸をとり、x、y、z軸を決定する。x軸方向に応力または歪みを加えた時z軸方向の分極を示す圧電定数をd31、y軸方向に応力または歪みを加えた時z軸方向の圧電定数をd32とすると、ポリフッ化ビニリデンの一軸延伸フィルムからなる圧電体では、d31はd32の約10倍またはそれ以上の値を示す。この圧電体をスピーカの振動膜として使用した場合、フィルムの両面に電圧を印加するとx軸およびy軸方向の振幅が極端に異なるため、フィルムの延伸方向を適切に管理する必要がある。しかし、本発明の第1の実施の形態に係るポリフッ化ビニリデンフィルムは無延伸のため、一軸延伸フィルムに比し異方性の少ない圧電体フィルムとなる。そのため、該フィルムを圧電センサに用いると、よりセンサの信頼性を向上させることができる。また、該フィルムを例えば音響変換機等に用いると、設計が容易となる。
【0040】
さらに、一軸延伸フィルム(および二軸延伸フィルム)ではその厚み、形態が限られていたところ、本発明の第1の実施の形態に係る圧電体を用いると、極端に薄いフィルム、厚手のシート、パイプ、球状その他複雑な形状の成形物、コーティング皮膜等に高い圧電性を持たせることが可能となる。
【0041】
なお、上記実施の形態では、フッ化ビニリデンポリマーとして、フッ化ビニリデンのホモポリマー(同種重合体、ポリフッ化ビニリデン)を例として説明したが、フッ化ビニリデンポリマー中の結晶構造部分が無極性α型であれば、フッ化ビニリデンのコポリマー(共重合体)であってもよい。例えば、フッ化ビニリデン(C)とテトラフルオロエチレン(C)との共重合体、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレン(CHF)との共重合体、フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレン(CClF)との共重合体、フッ化ビニリデンとフッ化ビニル(CF)との共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン(C)との共重合体であってもよい。なお、フッ化ビニリデン100重量部に対してそれぞれ10重量部程度以下の共重合体であることが好ましい。
【0042】
本発明の第2の実施の形態に係る圧電センサについて説明する。第2の実施の形態に係る圧電センサは、上記第1の実施の形態に係る圧電体を用いて構成される。
図2は、第2の実施の形態に係る圧電センサ100の長手方向に直交する面での断面図である。圧電センサ100は、第1の面41aと第2の面41bとを有する第1の圧電体としての板状の圧電体41と、第2の圧電体としての板状の圧電体42と、圧電体41・42の間に挟まれて圧電体41・42を接着する接着層51とを備える。接着層51で接着された圧電体41・42を挟むように第1のグランド電極としてのグランド電極61と第2のグランド電極としてのグランド電極62が形成される。また、第1の圧電体41の第2の面41bの側、すなわち、接着層51の側にシグナル電極71が形成される。シグナル電極71は、圧電センサ100では、接着層51の内部で第1の圧電体41の第2の面41bに接する位置に形成されているが、圧電体41・42の間すなわち接着層51内に形成されればよい。ただし、荷重が作用する信号検出面に近い位置に配置した方が、信号の立ち上がりや微小信号の検出において好適である。圧電センサ100では、図2に示す上側の面が信号検出面となるので、シグナル電極71は第1の圧電体41の側に配設されている。シグナル電極71とグランド電極61・62との間に、絶縁体である圧電体41・42が配置されるので、シグナル電極71とグランド電極61・62との間は、それぞれ蓄電できるコンデンサのように構成される。
【0043】
圧電体41・42は、極性を逆にして配設される。すなわち、板厚方向に荷重を負荷した場合に、正(プラス)に帯電する側を接着層51側に、負(マイナス)に帯電する側をグランド電極61、62側に配設する。このように、圧電体41・42の極性を逆にして配設することにより、加算される蓄電量を有することとなり、圧電体が1つの場合に比べほぼ2倍の大きな電気出力を得ることができる。なお、実施の形態によっては、負(マイナス)に帯電する側を接着層51側に配設してもよい。
【0044】
シグナル電極71は、圧電センサ100の外縁部分OTを避けた中央部INに配置される。ここで、外縁部分OTとは、圧電センサ100の外部ノイズの影響を受ける範囲であり、圧電センサ100の厚さによっても異なるが、典型的には各圧電体41・42の厚さと同じ幅を有する。例えば圧電センサ100の厚さが0.3mmで圧電体41・42の厚さがそれぞれ0.1mmの場合、端部から0.1mmの範囲であり、端部からの距離を大きくすれば外部ノイズの影響をより取り除くことができる。このようにシグナル電極71を外縁部分OTを避けて配置することにより、外部ノイズは、薄い圧電センサ100を経路として厚さに比し深く入り込まなければシグナル電極71に到達しないので、外部ノイズの減衰が大きくなる。よって、圧電センサ100の幅方向(図2の横方向)からシグナル電極71への外部ノイズの影響を実質的に取り除くことができる。なおここでは、シグナル電極71が、外部ノイズの影響を受ける範囲である外縁部分OTだけを除いた範囲に配置されるものとして説明しているが、シグナル電極71は、外縁部分OTを避けつつより狭い範囲の中央部INに配置されてもよい。
【0045】
グランド電極61・62は、典型的には圧電センサ100の幅、すなわち、圧電体41・42の幅と同じ幅を有して配設される。グランド電極61・62が絶縁性を有する圧電体41・42を挟むことにより、グランド電極61・62はシールドとしての機能を有する。そこで、グランド電極61・62の幅をシグナル電極71より広くして配設することにより、圧電センサ100の厚さ方向(図2の縦方向)からシグナル電極71への外部ノイズの影響を実質的に取り除くことができる。圧電センサ100では、グランド電極61・62が圧電体41・42の幅と同じ幅を有して配設されているが、グランド電極61・62が配設される範囲は、少なくともシグナル電極71に対応する部分を覆う範囲であれば、ほぼ外部ノイズの影響を取り除くことができ、さらに広くすればより確実に外部ノイズの影響を取り除くことができるので好ましい。ここで「シグナル電極71に対応する部分」とは、シグナル電極71が配置された部分を、圧電センサ100の板厚方向(図2の上下方向)に投影したとき、所定の面上(ここではグランド電極61の外側の面上)にできる投影像の部分を指す。
【0046】
さらに圧電センサ100では、グランド電極61が圧電体41と接する面(以降、「内側の面」ともいう。)と反対側の面(以降、「外側の面」ともいう。)に突起物81が設けられて、外側の面の一部が凸となり段差を形成している。突起物81は、薄い板が挿入されてもよいし、周知の印刷技術によりグランド電極61の外側の面上に印刷により形成されてもよい。突起物81は、典型的にはシグナル電極71に対応する部分に設置されるが、前述の投影像の部分と一部でも重なっていれば、必ずしもシグナル電極71に対応する部分の全てに設置されなくてもよい。ただし、製造上の位置ずれを吸収するため、突起物81をシグナル電極71より少し大きめとすると、圧電センサ100の感度のバラツキを防ぐことができるので好ましい。
突起物81を、薄い板を挿入したり印刷により形成すると、硬い材料で形成できるので、突起物81の作用が確実に得られて好適である。突起物81は、例えば銀などの金属あるいはカーボンなどを含有する導電性ペーストを印刷後に固化することにより形成される。金属を含有する導電性ペーストとすると、導電性が高くなる。カーボンを含有する導電性ペーストとすると、酸化等の劣化をすることがなく、また、価格的にも安価となる。また、突起物81は、金属箔あるいはカーボン箔なども用いてもよい。金属箔を用いると、加工が容易で、かつ、靭性が高いので破損しにくい。また、カーボン箔を用いると、硬度が高く、かつ、軽量である。
【0047】
段差の高さは、圧電センサ100の寸法・形状、用途等によっても異なるが、5μm以上、好ましくは30μm以上とする。5μm以下の段差では、製造時のバラつきにより、段差の効果が得られなくなる可能性がある。30μm以上の段差があれば、より確実に段差のある部分で荷重を受けるようになる。なお、段差が大きすぎると段差の部分が破損し易くなったり、圧電体に特有の屈曲性が失われたりする。さらには製作上の理由により、段差の高さは0.5〜1mm以下とするのが好適である。
【0048】
グランド電極61および突起物81を覆って、保護層91が形成される。保護層91は、グランド電極61や突起物81を外部から保護するための層で、例えばポリイミドなどで形成される。また、グランド電極62を覆って、保護層91と同様の保護層92が形成される。保護層92に重ねてさらに弾性層としてのゴム層93が形成される。ゴム層93は、圧電センサ100を載置したときに、下部からの振動を減衰するためにゴムや軟質プラスチックなどで形成された層である。圧電センサ100の厚さは、例えば、保護層91・92間で250μm〜300μmで、ゴム層93の厚さは500μm程度である。
【0049】
続いて、圧電センサ100の作用について説明する。圧電センサ100をゴム層93を下にして平面(不図示)上に載置する。圧電センサ100の上部(保護層91側)に、圧電センサ100に面荷重を負荷する荷重作用体(不図示)を当接する。荷重作用体は突起物81より広い平面を有し、該平面から面荷重が圧電センサ100に作用する。なお、面荷重とは、大きな荷重が作用するような剛性を有する面から圧電センサ100に負荷される分布荷重で、典型的には圧電センサ100に対し実質的に剛である平面からの分布荷重である。荷重作用体の振動等の変位などにより、荷重作用体から圧電センサ100に面荷重が作用する。荷重作用体から圧電センサ100に作用する面荷重は、突起物81による段差に大きく作用し、その周縁部に作用する荷重は小さくなる。したがって、圧電体41・42において、段差が設けられた部分、すなわち、シグナル電極71が配置された部分INに生ずる応力は、その周囲に生ずる応力より大きくなり、シグナル電極71が配置された部分INにて高い電位を生ずる。
【0050】
また、シグナル電極71は、圧電体41・42で絶縁され、圧電体41・42を挟んでグランド電極61・62で板厚方向(上下方向)を覆われている。グランド電極61・62は接地されるので、グランド電極61・62がシールド作用を有し、外部ノイズの影響を低減する。さらに、シグナル電極71は、圧電センサ100の外縁部分OTを避けた中央部INに配置されるので、圧電センサ100の幅方向(図1の横方向)からのシグナル電極71への外部ノイズの影響が低減される。
【0051】
図3に圧電センサ100(図2参照)の変形例である圧電センサ101を示す。図3に示す圧電センサ101では、突起物で段差を形成せず、シグナル電極72を厚く形成している。シグナル電極72は、典型的には銅などの金属で形成され、シグナル電極72の周囲の接着層51は、例えば圧電体41としてのポリフッ化ビニリデンと相溶性のよいウレタン系樹脂で形成される。一般的に金属の縦弾性係数は樹脂の縦弾性係数より大きい。そのため、厚いシグナル電極72が配置された部分INでは、シグナル電極72が配置されていない外縁部OTより板厚方向(図3の上下方向)の剛性が高くなる。よって、圧電センサ101に荷重作用体(不図示)から面荷重が作用すると、シグナル電極72が配置され剛性が高い部分INの圧電体41・42に生ずる応力は、その周囲の外縁部分OTにて生ずる応力より大きくなる。シグナル電極72は、例えば、保護層91・92間の厚さの5分の1以上の厚さ、好ましくは4分の1以上の厚さとする。それにより、シグナル電極72が配置された部分INに高い電位を生ずる。
【0052】
次に、図4を参照して、これまで説明した圧電センサ100の具体的な形状について説明する。図4は、圧電センサ100の外形と突起物81の形状を説明する平面図であり、段差は連続的に形成される。なお、図4では、保護層を省略している。
【0053】
図4に示す圧電センサ100は、細長形状を有している。すなわち、矢印X方向に長く、矢印Y方向に短い。なお、圧電センサ100では、長手方向Xの一端(図4では左端)に、外部への電圧の取り出し口を設置する延長部96が形成されている。
【0054】
圧電センサ100では、突起物81により長手方向Xに延びる段差が形成される。段差が長手方向Xに長く形成されることにより、段差のほぼ全長にわたって高感度に信号を検知する圧電センサ100となる。ただし、幅方向、すなわち短手方向Yには、段差は、外縁部を避けて配置され、また長手方向Xでも先端(図4の右端)を避けて配置される。後述のように、外縁部を避けて配置されるシグナル電極71(図5参照)に対応する部分に配置するためである。
【0055】
図5は、図4に示した圧電センサ100のシグナル電極71の形状を説明する端面図である。圧電センサ100では、ほぼ全長にわたりシグナル電極71が形成されている。ただし、幅方向、すなわち短手方向Yでは外縁部を避けて中心部分に、また、長手方向Xでも先端(図5の右端)を避けて配置される。このように外縁部を避けてシグナル電極71を配置することにより、外部ノイズの影響を低減する。なお、グランド電極61・62(図2参照)は、少なくともシグナル電極71に対応する部分を覆い、典型的には圧電体41・42を紙面に垂直な方向で全面的に挟むように配設される。また、圧電センサ100では、図4および図5に示すように、第1の圧電体41および第2の圧電体42が延長された延長部96が形成される。延長部96には、図示しないが接着層51(図2参照)も延長される。そして、図5に示すように、シグナル電極71も、延長部96に延長される。また、図5に破線で示すように、グランド電極61・62も延長される。
【0056】
延長部96において、シグナル電極71とグランド電極61・62は、圧電体41の第1の面41a(図2参照)に垂直な方向から見て異なる位置に配置される。このように、シグナル電極71とグランド電極61・62とを異なる部分に配置すると、端子を取り出しやすい。
【0057】
圧電センサ100の延長部96には、シグナル端子およびグランド端子(不図示)がそれぞれ装着される。シグナル端子は、シグナル電極71が延長した部分に配置され、グランド端子は、グランド電極61・62が延長した部分に配置される。したがって、シグナル端子はシグナル電極71と導通し、グランド端子はグランド電極61・62と導通する。なお、シグナル端子およびグランド端子は、外部ノイズの影響を低減するためにシールドされる。
【0058】
次に、図8および図9を参照して、これまで説明した圧電センサ100の具体的な使用例について説明する。図8および図9は、圧電センサ100を用いた電子弦楽器200を説明する図で、図8は電子弦楽器200の斜視図、図9は電子弦楽器200のコマ220と圧電センサ100との関係を示す分解拡大図である。電子弦楽器200は、電子ギターとして説明するが、電子バイオリン、電子チェロ、その他の電子弦楽器でもよい。また、いわゆるサイレント楽器といわれる大きな音を発生せず、例えばヘッドホーンで演奏を聞く電子弦楽器でもよい。
【0059】
電子弦楽器200のコマ220は、音を出すために振動する弦を常に支持する。コマ220は、細長い略三角柱形状を有し、一の側面は平面に形成され、他の2側面は凸の湾曲を有している。コマ220は、平面の側面をボディ260上に面して載置される。
【0060】
圧電センサ100は、コマ220とボディ260との間に挿入される。圧電センサ100は、圧電体41・42(図2参照)として本発明の第1の実施の形態に係るポリフッ化ビニリデンフィルムを用いているので薄く、圧電センサ100を挿入しやすい。圧電センサ100のシグナル端子およびグランド端子にはシールド線140が接続される。シールド線140は、外部ノイズの影響を受けにくいシールドされたシールド線を用いるのが好適である。シールド線140は、電子弦楽器200の音を再現するアンプ、スピーカ等の音響装置(不図示)や記録装置(不図示)に接続される。
【0061】
以上、本発明の第1の実施の形態に係る圧電体を用いた、本発明の第2の実施の形態に係る圧電センサについて説明したが、本発明の圧電センサは上記実施例に限られるものではない。以下に、変形例としての圧電センサを説明する。
【0062】
図2・図3に示す圧電体41・42は、それぞれポリフッ化ビニリデンフィルムの単層で形成してもよく、または、ポリフッ化ビニリデンフィルムを複数枚重ねることにより圧電体を形成してもよい。
ポリフッ化ビニリデンフィルムで多層を形成する場合は、ポリフッ化ビニリデンフィルムと相溶性のよい他の熱可塑性樹脂を接着剤または接着層として用いてもよい。なお、他の熱可塑性樹脂とは、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等をいう。なお、本発明のポリフッ化ビニリデンフィルムはフィルム自体の収縮が抑制されているため、多層にした場合にフィルムの収縮による反り、剥れ等を抑えることができる。
【0063】
また、図2・図3では、圧電体41・42とグランド電極61・62をそれぞれ2層配設する例で圧電センサを説明したが、圧電体とグランド電極は1層だけ配設してもよく、またはそれぞれ3層以上配設してもよい。
【0064】
さらに、図2ではシグナル電極71は1層しか形成されていないが、第1の圧電体41に接するシグナル電極と第2の圧電体42に接するシグナル電極が形成されてもよい。
【0065】
さらに、図2に示す突起物81のように薄い板を挿入する代わりに、保護層91をシグナル電極71に対応する部分だけ厚く形成してもよい。特に、保護層91が硬く、典型的には圧電体41・42より硬くて変形しにくいときには、保護層91を厚く形成するとよい。保護層91の一部を厚くして段差を形成すると、段差の製作が容易となる。
【0066】
さらに図6の圧電センサ102の突起物82のように、突起物を断続的に配置してもよい。このようにすると、段差が断続的に形成される。なお、図6でも、保護層を省略している。段差が断続的に形成されることにより、段差が形成された部分での圧電体41・42(図2参照)に生ずる応力がより大きくなり、高い電位が生じ感度が良好になる。このように、荷重作用体(不図示)が連続的ではない場合には荷重作用体の形状に合わせた段差を形成し、荷重作用体が連続的な場合には適切な間隔を空けて断続的な段差を形成してもよい。段差を断続的とすると、段差に対応する部分の圧電体41・42に生ずる応力が大きくなり、高い電位が生ずる。
【0067】
図7は、図6に示す圧電センサ102のシグナル電極73の形状を示す。図7に示すように、圧電センサ102のシグナル電極73を断続的に配置し、間を導電線97で接続してもよい。段差に対応する位置にシグナル電極73を配置し、その間を導電線97で接続すると、結果として、導電線97が配置された部分は段差に対し凹部となる。よって、圧電センサ102が面加重を受けても、当該部分に生ずる応力は小さくなる。そのため、導電線97での不要な信号の混入が軽減されることになる。
また、荷重作用体が圧電センサ102の長手方向に傾いて作用する場合に、シグナル電極73を断続的に長手方向に短く配置すると、それぞれのシグナル電極73で個別に電位を検知するので、連続して配置されたシグナル電極71(図5参照)に比べて、感度よく検知することができる。
なお、圧電センサ102において、グランド電極61・62(図2参照)も、シグナル電極73に対応する部分にだけ形成してもよいが、圧電センサ102の長手方向Xに連続的に形成するのが好ましい。グランド電極61・62を長手方向Xに連続的に形成すると、圧電センサ102の板厚方向のシールドをより高く維持することができ、外部ノイズの影響を受けにくい。また、圧電センサ102でも、圧電センサ100と同様の延長部96が形成され、シグナル電極73は導電線97で接続される。このように導電線97で接続されても、シグナル電極73を延長するという。
【0068】
さらに、図2・図3では平板状の圧電センサを説明したが、高分子圧電体の屈曲性を活かし、屈曲面を有するような形状(例えばパラボラ板状)の圧電センサを構成してもよい。さらに、図4、図5、図6、図7では細長形状の圧電センサを説明したが、フィルムの特性を活かし、広面積の圧電センサを構成してもよい。このように、本発明に係る圧電センサは、電子弦楽器に限られず他の用途に用いることも可能である。
また、実施例を圧電センサとして説明したが、本発明に係る圧電体は当然に焦電性をも示す。したがって、焦電センサとすることもできる。さらに、圧電性や焦電性を利用したセンサ(超音波発信・受信センサ等)としてもよい。
【0069】
以上のように、本発明の第1の実施の形態に係る圧電体を用いて圧電センサを構成すると、積層しても反りや剥れを抑えることができるので、品質の安定した圧電センサを得ることができ、製造上の歩留まりも高くすることができる。
【実施例】
【0070】
本発明の第1の実施の形態に係る圧電体が圧電性を有することを実施例および比較例を用いて説明する。
図10に示す実施例1〜実施例6、および比較例1〜比較例3を以下のように調整した。なお、実施例1〜6、比較例1〜3のポリフッ化ビニリデンには、株式会社クレハ製KF#1000を用いた。
<実施例1〜実施例6>
ポリフッ化ビニリデンのペレットを、Tダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いて225℃で溶融後、幅250mm、厚さ40μmとなるようにフィルムを作成し、70℃に冷却した。次に、図1に示す装置20を用いて尖端電極31(複数の針状電極)に、図10に示す直流電圧を印加した。印加時間は、約12秒とした。フィルムの供給速度は、1m/minとした。分極処理時にヒータとして機能する第2ロール22の温度は、100℃とした。
<比較例1>
実施例と同様に調整したポリフッ化ビニリデンであって、溶融押出後(分極処理前)のポリフッ化ビニリデンのフィルムである。
<比較例2>
実施例と同様に調整したポリフッ化ビニリデンであって、溶融押出後、一軸延伸した後分極処理を施したポリフッ化ビニリデンのフィルムである。延伸前のフィルムの厚さは約160μmとした。
<比較例3>
実施例と同様に調整したポリフッ化ビニリデンであって、溶融押出後、同時二軸延伸機を用いて二軸延伸した後分極処理を施したポリフッ化ビニリデンのフィルムである。延伸前のフィルムの厚さは約320μmとした。
【0071】
図10に示す各表の項目は、以下のとおりである。
電圧Vpは、尖端電極(針状電極)に印加された電圧値である。
推測Epは、分極処理時の電界強度(計算値)である。本実施例では、コロナポーリングを行っているため、印加電圧から空気の電圧降下分を除きフィルムの厚さで割り電界強度を求めている。すなわち、推測Epは次式により求めた。なお、電圧降下分は、1μAのときを7.5kVとし、分極時の電流のモニタの結果に基づいた値を電圧降下分として除いた。
[推測Ep=(印加電圧―電圧降下分)/フィルム厚さ]
31は、高分子圧電体フィルムの長さ方向の圧電応力定数である。
32は、高分子圧電体フィルムの幅方向の圧電応力定数である。
33は、高分子圧電体フィルムの厚さ方向の圧電応力定数である。
【0072】
[圧電応力定数の測定方法]
得られた高分子圧電体フィルムの圧電応力定数は、以下のように測定した。
31(長さ方向の応力に対する)は、(株)東洋精機製作所製レオログラフソリッドを用いて測定した。
32(幅方向の応力に対する)は、(株)東洋精機製作所製レオログラフソリッドを用いて測定した。
33(厚さ方向の応力に対する)は、空圧プレス機を用いて一定の速度で厚み方向に応力を加え、発生する電荷をチャージアンプで測定し、算出した。
【0073】
図10に示すとおり、電界強度(推測Ep)の小さい実施例1では、圧電定数も小さい。しかし、電解強度が100MV/mを超える実施例2では、d31が7.9となり、さらに電解強度が200MV/mを超える実施例3〜実施例6では、d31が10を超える。このように、無添加、無延伸のポリフッ化ビニリデンのフィルムであっても、高電圧を印加することにより、産業上利用可能な高い圧電性が発現する圧電体となることがわかる。なお、参考値として、比較例2に一軸延伸フィルムの圧電定数、比較例3に二軸延伸フィルムの圧電定数を示す。比較例2では、d31(31.5)がd32(1.3)に対し10倍以上の値を示している(すなわち異方性が大きい)。しかし、実施例6では、d31が10.2であるのに対しd32が6.7であり、異方性が少ないことがわかる。
【0074】
図11〜図13は、実施例1、実施例2、実施例5のポリフッ化ビニリデンフィルムのX線回折スペクトルを示す。
図15は、比較例2のポリフッ化ビニリデンフィルムのX線回折スペクトルであるが、分極処理前のスペクトルを示す。すなわち一軸延伸後分極処理前のスペクトルである。ポリフッ化ビニリデンフィルムを一軸延伸すると、その結晶構造が無極性α型から極性を有するβ型に転移することが知られている。図15では、2θ:21deg近傍にβ型に起因すると思われる1つのピークのみが検出されている。しかし、図11〜図13のスペクトルは、図15のスペクトルと明らかに異なる波形を示し、実施例1〜実施例6のフィルムが、一軸延伸により得られる結晶構造とは異なる特徴を有する結晶構造であることがわかる。
【0075】
図16は比較例3、すなわち二軸延伸したポリフッ化ビニリデンフィルムであって分極処理後のX線回折スペクトルを示す。ポリフッ化ビニリデンフィルムを二軸延伸すると、その結晶構造は極性α型とβ型がおよそ半数の割合で混在することが知られている。図16では、2θ:20deg近傍と、2θ:21deg近傍に2つのピークが検出されている。しかし、図11〜図13のスペクトルは、図16のスペクトルと明らかに異なる波形を示し、実施例1〜実施例6のフィルムが、二軸延伸後分極処理することにより得られる結晶構造とは異なる特徴を有する結晶構造であることがわかる。
【0076】
図14は比較例1、すなわち溶融押出後のポリフッ化ビニリデンフィルムであって分極処理前のX線回折スペクトルを示す。ポリフッ化ビニリデンフィルムを溶融状態から冷却し結晶化させると、無極性α型の結晶構造が得られることが知られている。図14では、2θ:18degの前後に小さな2つのピーク、2θ:20deg近傍にメインのピークが検出されている。これらは、無極性α型結晶に特有のピーク100(α)、020(α)、110(α)である。
一方で、図11〜図13のスペクトルでは、印加電圧が高くなるにつれて各ピークに変化が表れ、特に100(α)、020(α)のピークの減少が顕著であり、結晶構造が変化していることがわかる。これらのスペクトルから、無極性α型の結晶構造が、極性α型に転移していることがわかる。すなわち、本発明の第1の実施の形態に係るポリフッ化ビニリデンフィルムは、極性α型の結晶構造を含む。
【符号の説明】
【0077】
10 フィルム
20 装置
21 第1ロール
22 第2ロール
23 第3ロール
31 尖端電極
32 電極
33 直流高圧電源
41、42 圧電体
41a 第1の面
41b 第2の面
51 接着層
61、62 グランド電極
71、72、73 シグナル電極
81、82 突起物
91、92 保護層
93 ゴム層
96 延長部
97 導電線
100、101、102 圧電センサ
140 シールド線
200 電子弦楽器
220 コマ
260 ボディ
OT 外縁部分
IN 中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造部分が無極性α型のフッ化ビニリデンポリマーを分極処理して得られる圧電体であって;
前記ポリマーは、無添加、無延伸で分極処理され;
前記分極処理時の電界強度は、200〜600MV/mであり;
前記分極処理後のポリマーは、極性α型の結晶構造を含む;
圧電体。
【請求項2】
前記フッ化ビニリデンポリマーは、フッ化ビニリデンのホモポリマー、テトラフルオロエチレン(C)とのコポリマー、トリフルオロエチレン(CHF)とのコポリマー、クロロトリフルオロエチレン(CClF)とのコポリマー、フッ化ビニル(CF)とのコポリマー、ヘキサフルオロプロピレン(C)とのコポリマーのうちのいずれか1のポリマーであって;
テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレンは、フッ化ビニリデン100重量部に対してそれぞれ10重量部以下含まれる;
請求項1に記載の圧電体。
【請求項3】
シグナル電極と第1のグランド電極とを絶縁し、第1の面と前記第1の面に対して表裏の関係にある第2の面を有する第1の圧電体と;
前記第1の圧電体の第1の面に配置される前記第1のグランド電極と;
前記第1の圧電体の第2の面に配置される前記シグナル電極とを備え;
前記第1の圧電体は、請求項1または請求項2に記載の圧電体である;
圧電センサ。
【請求項4】
前記シグナル電極は、前記第1の圧電体の外縁部分を避け前記第2の面に覆われるように配置され;
前記第1のグランド電極は、前記第1の圧電体の第1の面において前記シグナル電極を投影する部分を覆うように配置され;
前記第1のグランド電極の前記第1の圧電体が配置された面と表裏の関係にある面において前記シグナル電極が投影された部分に段差を設け、前記第1の圧電体の前記シグナル電極が配置された部分に生ずる応力を大きくする;
請求項3に記載の圧電センサ。
【請求項5】
前記シグナル電極の前記第1の圧電体が配置された面と表裏の関係にある面に配置された接着層と;
前記接着層の前記シグナル電極が配置された面と表裏の関係にある面に配置された第2の圧電体と;
前記第2の圧電体の前記接着層が配置された面と表裏の関係にある面に配置された第2のグランド電極とを備え;
前記接着層は絶縁性であり;
前記第2の圧電体は、請求項1または請求項2に記載の圧電体であって、前記第1の圧電体と極性が逆向きの圧電体である;
請求項3または請求項4に記載の圧電センサ。
【請求項6】
前記接着層は、前記シグナル電極より縦弾性係数が小さな材料で形成され;
前記シグナル電極は、前記第1の圧電体および前記第2の圧電体の前記シグナル電極が配置された部分に生ずる応力が、前記シグナル電極が配置されていない外縁部分に生ずる応力より大きくなるように厚く形成された;
請求項5に記載の圧電センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−192665(P2011−192665A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54830(P2010−54830)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】