説明

PbフリーZn系はんだ合金

【課題】 半導体装置の組立などに好適な300〜400℃程度の融点を有し、加工性や応力緩和性を大幅に改善向上でき、濡れ性及び信頼性にも優れた高温用のPbフリーZn系はんだ合金を提供する。
【解決手段】 Znを主成分とし且つPbを含まないPbフリーZn系はんだ合金であって、Alを1.0質量%以上9.0質量%以下含有し、Cuを0.001質量%以上3.000質量%以下含有し、残部がZn及び不可避不純物からなる。このPbフリーZn系はんだ合金は、濡れ性などの更なる向上のために、Agを4.0質量%以下及び/又はPを0.500質量%以下含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pbを含まないPbフリーはんだ合金に関し、特に高温用として好適なZnを主成分とするPbフリーはんだ合金に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタのダイボンディングを始めとして、各種半導体装置の組立工程におけるはんだ付では高温はんだ付が行われており、300〜400℃程度の比較的高温の融点を有する高温用はんだ合金が用いられている。このような高温用はんだ合金としては、Pb−5質量%Sn合金に代表されるPb系はんだ合金が従来から主に用いられている。
【0003】
しかし、近年では環境汚染に対する配慮からPbの使用を制限する動きが強くなってきており、例えばRohs指令などではPbが規制対象物質になっている。こうした動きに対応して、半導体装置などの組立の分野においても、使用するはんだ合金としてPbを含まないもの、即ちPbフリーはんだ合金の提供が求められている。
【0004】
中低温用(約140〜230℃)のはんだ合金に関しては、Snを主成分とするPbフリーのはんだ合金が既に実用化されている。例えば、特許文献1には、Snを主成分とし、Agを1.0〜4.0質量%、Cuを2.0質量%以下、Niを1.0質量%以下、Pを0.2質量%以下含有するPbフリーはんだ合金などが記載されている。また、特許文献2には、Agを0.5〜3.5質量%、Cuを0.5〜2.0質量%含有し、残部がSnからなるPbフリーはんだ合金が記載されている。
【0005】
一方、高温用のはんだ合金に関しても、Pbフリーを実現するため、Bi系はんだ合金やZn系はんだ合金などが研究されている。例えばBi系はんだ合金では、特許文献3に、Biを30〜80質量%含有し、溶融温度が350〜500℃であるBi/Ag系のろう材が記載されている。また、特許文献4には、Biを含む共晶合金に共晶点温度が異なる2元共晶合金を加え、更にPdなどの添加元素を加えることによって、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能な高温はんだ材料の生産方法が開示されている。
【0006】
また、Zn系はんだ合金については、例えば特許文献5に、Znに融点を下げるべくAlが添加されたZn−Al合金を基本とし、これにGe又はMgを添加した高温用Zn系はんだ合金が記載されている。この特許文献5には、更にSn又はInを添加することによって、より一層融点を下げる効果があることも記載されている。
【0007】
具体的には、上記特許文献5には、Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを5〜9質量%、Mgを0.01〜0.5質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%、Mgを0.01〜0.5質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%、Sn及び/又はInを0.1〜25質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを1〜9質量%、Mgを0.01〜0.5質量%、In及び/又はnを0.1〜25質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金;Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%、Mgを0.01〜0.5質量%、Sn及び/又はInを0.1〜25質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなるZn合金が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−077366号公報
【特許文献2】特開平08−215880号公報
【特許文献3】特開2002−160089号公報
【特許文献4】特開2006−167790号公報
【特許文献5】特許第3850135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のPbフリーの高温用はんだ合金において、上記特許文献3のBi/Ag系ろう材は、液相線温度が400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測され、半導体素子や基板等が耐えうる温度を超えていると考えられる。また、上記特許文献4の方法は、液相線の温度調整のみで4元系以上の多元系はんだ合金になるうえ、Biの脆弱な機械的特性については効果的な改善がされていない。
【0010】
更に、特許文献5に開示されているZn系はんだ合金は、その組成の範囲内では合金の濡れ性が不十分である場合が多い。即ち、主成分であるZnは還元性が強く自らが酸化されやすいため、濡れ性が極めて悪いことが問題となっている。しかもAlはZnよりも還元性が強いため、例えば1質量%以上添加した場合、濡れ性を低下させてしまうことがある。そして、これら酸化したZnやAlに対しては、熱力学の平衡論的にはGeやSnが添加されていても還元することができず、濡れ性を向上させることはできないと考えられる。ただし、はんだ接合のように非常に短い時間で溶融と固化が行われる場合、金属反応は非平衡的な反応が支配的な場合も多く、必ずしも平衡論で全てが説明できるわけではない。
【0011】
しかも、上記特許文献5に開示されているZn系はんだ合金は、上記した濡れ性の問題以外にも、はんだ接合における更に重要な課題として、加工性や応力緩和性に対する課題がある。即ち、ZnとAlは共晶合金を作り、ある程度の柔軟性を有する柔らかい合金である。しかし、接合温度が比較的高い(Zn−Al合金の共晶温度:381℃)ため、接合後に半導体素子(主成分:Si)や基板(主成分:Cu)が常温まで冷却される際に、大きな温度差とSiとCuの冷却時における収縮率の差により大きな応力を発生してしまう。従って、中低温用のはんだに比較して、高温用はんだは温度差が大きい分、一層優れた応力緩和性が要求される。
【0012】
また、上記Zn−Al系合金は、融点については300〜400℃程度(Zn−Al共晶温度:381℃)と好ましい範囲にあるものの、加工性等の観点から必ずしも最適と言える合金ではない。更に、Zn−Al合金にMgなどが添加されると金属間化合物を生成して極めて硬くなり、良好な加工性や応力緩和性が得られない場合が生じる。例えばMgを5質量%以上含有した場合、ワイヤ状やシート状などに加工することが実質的にできなくなる。
【0013】
以上述べたように、従来のPb−5質量%Sn合金に代表されるPb系はんだ合金を代替できる高温用のPbフリーはんだ合金は未だ実用化されていないのが実状である。特にZnを主成分とするPbフリーはんだ合金については、濡れ性等の諸特性とのバランスを取りながら、主として加工性や応力緩和性を改善することが大きな課題となっているが、この課題は未だ解決されていない。
【0014】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、半導体装置の組立などで用いるのに好適な300〜400℃程度の融点を有し、加工性と応力緩和性を大幅に改善向上でき、濡れ性及び信頼性に優れた高温用のPbフリーZn系はんだ合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明が提供する第1のPbフリーZn系はんだ合金は、Znを主成分とし且つPbを含まず、Alを1.0質量%以上9.0質量%以下含有し、Cuを0.001質量%以上3.000質量%以下含有し、残部がZn及び不可避不純物からなることを特徴とする。
【0016】
上記本発明による第1のPbフリーZn系はんだ合金においては、Alを3.0質量%以上7.0質量%以下含有し、Cuを0.003質量%以上1.000質量%以下含有することが好ましい。
【0017】
また、本発明が提供する第2のPbフリーZn系はんだ合金は、Znを主成分とし且つPbを含まず、Alを1.0質量%以上9.0質量%以下含有し、Cuを0.001質量%以上3.000質量%以下含有すると共に、Agを4.0質量%以下及び/又はPを0.500質量%以下含有し、残部がZn及び不可避不純物からなることを特徴とする。
【0018】
上記本発明による第2のPbフリーZn系はんだ合金においては、Alを3.0質量%以上7.0質量%以下含有し、Cuを0.003質量%以上1.000質量%以下含有すると共に、Agを3.0質量%以下及び/又はPを0.300質量%以下含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特に加工性や応力緩和性に優れ、濡れ性、接合性及び信頼性等にも優れると同時に、300℃程度のリフロー温度に十分耐えることができ、例えばパワートランジスタ用素子のダイボンディングなどの組立工程におけるはんだ付に好適な高温用のPbフリーZn系はんだ合金を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による第1のPbフリーZn系はんだ合金は、Pbを含まず、AlとCuを含有し、残部がZnと製造上不可避的に含まれる不純物元素からなる。主成分であるZnは融点が419℃であり、半導体素子の接合温度である300〜400℃に対して高すぎるという欠点がある。このようなZnの欠点に対して、本発明においては、必須の元素としてAlを含有させることによりZnとの共晶合金を形成させて、融点を約400℃以下のはんだとして使い易い温度まで下げている。また、Alを含有することによって結晶を微細化させ、加工性を向上させるという効果を得ることもできる。
【0021】
しかし、上記のごとくAlを添加したZn−Al合金では、中低温用はんだに比較して高い応力緩和性を要求される高温用はんだとして応力緩和性や加工性が不十分である。そこで、本発明では、Zn−Al合金の応力緩和性や加工性を向上させ、使い易い材料とするために必須の元素として更にCuを添加している。即ち、Cuを含有させることにより、はんだの溶融後冷却固化するまでに、まず融点の高いCuが析出し、それを核として結晶が形成されるため、結晶が微細化してはんだの柔軟性を格段に向上させる。また、Cu自身が柔らかい金属であることもZn−Al合金の柔軟性向上に寄与する。その結果、高温用はんだとして十分な応力緩和性と加工性を得ることができる。
【0022】
また、本発明による第2のPbフリーZn系はんだ合金は、上記Znを主成分としAlとCuを必須成分とする第1のPbフリーZn系はんだ合金に、更にAg及びPの少なくとも1種を添加含有させたものである。この第2のPbフリーZn系はんだ合金は、Ag及びPの少なくとも1種を添加することによって、濡れ性や接合強度等を目的に合わせて適宜調整することができ、高温用はんだとしての信頼性を更に高めることが可能となる。
【0023】
上記した本発明による第1及び第2のPbフリーZn系はんだ合金における必須の元素、並びに状況に応じて添加含有させる元素について、以下に詳細に説明する。
【0024】
<Al>
Alは、本発明のPbフリーZn系はんだ合金において、重要な役割を果たす必須の元素である。本発明のZn系はんだ合金にAlを含有させる効果は、上述したように融点の調整、即ちZn−Al合金として固相線温度の381℃まで融点を下げることにある。また、Zn−Al合金は共晶合金であるため、金属が柔らかくなり、加工性や応力緩和性が向上する。ただし、高温用はんだは高い応力緩和性を求められるため、次に述べるCuを同時に含有させることが必須条件となる。
【0025】
Alの含有量は1.0質量%以上9.0質量%以下である。Alの含有量が1.0質量%未満では、他の元素を添加したとしても融点の低下が不十分となるため、接合性が低下してしまう。一方、Alの含有量が9.0質量%を超えると、Zn−Al合金の液相線温度が高くなりすぎ、電子部品等の実際の接合温度では十分に溶融せず、ボイドの発生率が高くなりすぎたり接合部の合金化が不十分となったりするため、実用に耐えうる接合ができなくなる。
【0026】
更に好ましいAlの含有量は3.0質量%以上7.0質量%以下である。その理由は、Alの含有量が上記3.0〜7.0質量%の範囲内であれば、Zn−Al二元系合金の共晶組成(Zn=95質量%、Al=5質量%)に近くなって融点が下がるうえ、結晶も微細化して加工性が向上し、より一層使い易いはんだに近づくからである。
【0027】
<Cu>
Cuは、本発明のPbフリーZn系はんだ合金において、応力緩和性や加工性を向上させるために重要な役割を果たす必須の元素である。CuはZnやAlに比べて融点が高く(Znの融点:419℃、Alの融点:660℃、Cuの融点:1084℃)、はんだ合金の溶融後の冷却過程で固化する際に融点の高いCuがまず析出し、核となって結晶が形成されるため、はんだ合金の結晶が微細化する。この結晶の微細化によって、クラックが進展し難い柔らかなはんだとすることが可能となる。
【0028】
このような柔軟な性質を有するはんだ合金は、加工性や応力緩和性において非常に優れた性質を示す。即ち、ワイヤやシートなどに加工する際、はんだが柔らかいためクラックや欠けなどが発生し難く、硬いはんだ材料に比べてワイヤへの押出速度やシートへの圧延速度等、各種加工速度を速くできるため、生産性が優れ、不良品が発生せず、収率を高めることができる。更に、プリフォーム材に加工する際等には、バリや反りが少なくて加工しやすく、単位量当りの品質検査コストも少なくて済む。このように柔らかいはんだ合金は容易に変形できるため、半導体素子の接合時にはんだの反りなどが少なく、実質的な接触面積が大きくなるために、濡れ性や接合性が非常に優れている。
【0029】
また、Cuは金属の中でも非常に柔らかい金属であり、当然、Znよりも柔らかく、このCu自身の柔らかさがZn−Al合金中においても発揮される。そして、はんだ接合は非常に短時間で行われ、非平衡的な現象が起こるため、Cu含有量がZnやAlより圧倒的に少なくても、はんだ組成や接合条件によってCuのリッチ相が生成される。Cu−Zn及びCu−Alの各2元系状態図から分かるようにCuはAl及びZnの固溶量が多いため、Cuリッチ相は多少ZnやAlを含有するが、Cu自身の柔軟性を維持し、このためCuリッチ相でもはんだに加わる応力を吸収することができ、はんだ合金を更に柔らかくする。
【0030】
そして、本発明のはんだ合金の柔軟な性質が最も顕著に現れるのが応力緩和性である。つまり、半導体素子をはんだ接合した電子部品は自動車や家電、各種装置などに搭載されるが、その使用時に電子部品には電流が流れて発熱し、あるいは外気温が変わるなどして熱応力が加わる。Cuを基本とする基板とSiを基本とする半導体素子で組み立てられた電子部品は熱膨張率が5倍程度異なり、繰り返し加わる熱応力も大きい。本発明のはんだ合金は、この大きな熱応力を吸収する応力緩和性に優れ、厳しい環境下における電子部品の長期使用を可能にするものである。
【0031】
Cuの含有量は0.001質量%以上3.000質量%以下である。Cuの添加による効果は、ははんだ合金の微細化とCuリッチ相生成による加工性や柔軟性等の向上である。従って、微細化効果を優先させる場合、Cu含有量は微量でよく、その下限値は0.001質量%で十分である。一方、Cuリッチ相生成による効果を優先する場合、Cu含有量は多いほどよいが、限度を超えると液相線温度が高くなりすぎて良好な接合ができなくなるため、その上限値は3.000質量%とする。更に、Cu含有量が0.003質量%以上1.000質量%以下であれば、上記効果がより一層現れ易くなるため好ましい。
【0032】
<Ag>
Agは、本発明のPbフリーZn系はんだ合金の諸特性を目的に合わせて調整する際に適宜添加含有される元素であり、その添加による主な効果は濡れ性の向上にある。即ち、Agは基板や半導体素子のメタライズの最上層に用いられることからも分かるように、濡れ性を向上させる効果が大きい。これはAgが酸化しづらい性質に起因するものである。また、Zn−Ag合金においてZnリッチ側でAg含有量を増やしていくと液相温度は単調に増加するため、Agは本発明のはんだ合金の融点に影響を与える。
【0033】
このように、Agは濡れ性向上の面からすると多い方がよいが、融点から考えれば少ない方がよい。従って、融点や濡れ性のバランスを考えてAgを含有させることになるが、Agが4.0質量%を超えて多くなると、Alを含有していても液相温度が高くなりすぎて良好な接合を得ることが難しくなるため、Agの含有量は4.0質量%以下とし、好ましくは3.0質量%以下とする。
【0034】
<P>
Pは、Agと同様に本発明のPbフリーZn系はんだ合金の諸特性を目的に合わせて調整する際に適宜含有される元素であり、その添加による主な効果は上記Agと同様に濡れ性の向上にある。即ち、Pは還元性が強く、自ら酸化することによりはんだ合金表面の酸化を抑制する。特に本発明では酸化しやすいZnが主成分であり、更にZnより酸化し易いAlを含有しているため、濡れ性が不足する場合においてPの含有による濡れ性向上の役割は大きい。
【0035】
また、Pの含有により、接合時にボイドの発生を低減させる効果も得られる。即ち、既に述べたようにPは自らが酸化しやすいため、接合時にはんだ合金の主成分であるZnやAlよりも優先的に酸化が進む。その結果、はんだ母相の酸化を防ぎ、半導体素子や基板の接合面を還元して濡れ性を確保することができる。この接合の際には、はんだ表面や半導体素子等の接合面表面の酸化物がなくなるため、酸化膜によって形成される隙間(ボイド)が発生し難くなり、接合性や信頼性等を向上させることができる。
【0036】
尚、Pは、上記のごとくはんだ合金や基板など接合面を還元して酸化物になると、気化して雰囲気ガスに流されるため、はんだや基板表面等に残らない。このため、Pの残渣が信頼性等に悪影響を及ぼす可能性はなく、この点からも優れた添加元素と言える。
【0037】
Pの含有量は0.500質量%以下とする。Pは非常に還元性が強いため、微量を含有させれば濡れ性向上の効果が得られるが、0.500質量%を超えて含有しても濡れ性向上の効果はあまり変わらず、過剰な含有によってPやP酸化物の気体が多量に発生してボイドの発生率を上げてしまったり、Pが脆弱な相を形成して偏析したり、はんだ接合部を脆化して信頼性を低下させたりする恐れがある。特にワイヤなどの形状に加工する場合、断線の原因になりやすいことが確認されている。また、Pの含有量が0.300重量%以下であれば、還元効果を発揮すると共に脆いP化合物を生成する可能性も低くなるため更に好ましい。
【実施例】
【0038】
原料として、それぞれ純度99.99重量%以上のZn、Al、Cu、Ag及びPを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく均一になるように留意しながら、切断及び粉砕などにより3mm以下の大きさに細かくした。次に、これらの原料から所定量を秤量して、高周波溶解炉用のグラファイト製坩堝に入れた。
【0039】
上記各原料の入った坩堝を高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7リットル/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融し始めたら混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混合した。全ての原料が十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかに坩堝を取り出して、坩堝内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型は、はんだ母合金の製造の際に一般的に使用している形状と同様のものを使用した。
【0040】
このようにして、上記各原料の混合比率を変えることにより、試料1〜19のPbフリーのZn系はんだ母合金を作製した。得られた試料1〜19について、各Zn系はんだ母合金の組成をICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて分析した。得られた分析結果をはんだ組成として下記表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
次に、上記試料1〜19の各Zn系はんだ母合金について、下記のごとく圧延機でシート状に加工し、PbフリーZn系はんだ合金の加工性を評価した。また、引張試験機(テンシロン万能試験機)を用いて機械的特性(引張強度、伸び率)を測定した。更に、シート状に加工した各はんだ合金について、下記の方法により濡れ性(接合性)の評価及びヒートサイクル試験による信頼性の評価を行った。尚、はんだの濡れ性ないし接合性等の評価は、はんだ形状に依存しないためワイヤ、ボール、ペーストなどの形状で評価してもよいが、本実施例においてはシートの形状で評価した。
【0043】
<加工性の評価>
上記表1に示す試料1〜19の各はんだ母合金(厚さ5mmの板状インゴット)を、圧延機を用いて厚さ0.05mmまで圧延した。その際、インゴットの送り速度を調整しながら圧延していき、その後スリッター加工により25mmの幅に裁断した。
【0044】
このようにしてシート状に加工した後、得られたシート状のZn系はんだ合金を観察し、傷やクラックが全くなかった場合を「○」、シート長さ10m当たり割れやクラックが1〜3箇所ある場合を「△」、4箇所以上ある場合を「×」として、評価結果を下記表2に示した。
【0045】
<機械的特性の評価>
機械的特性を評価するため、上記のごとく厚さ0.05mmまで圧延した試料1〜19のシート状のZn系はんだ合金を、スリッターで3mmの幅に加工し、長さを約15cmに切断した。以上のようにして機械的特性を測定するための試料を準備し、引張試験機により引張強度及び伸び率を測定した。引張強度及び伸び率ともに試料1の測定値を100%として相対評価し、評価結果を下記表2に示した。尚、試料1の測定値は、引張強度が135MPa及び伸び率が110%であった。
【0046】
<濡れ性(接合性)の評価>
上記のごとくシート状に加工した試料1〜19の各はんだ合金を、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を用いて評価した。即ち、濡れ性試験機のヒーター部に2重のカバーをして、ヒーター部の周囲4箇所から窒素を12リットル/分の流量で流しながら、ヒーター設定温度を各試料の融点より約10℃高い温度に設定して加熱した。設定したヒーター温度が安定した後、Cu基板(板厚:約0.70mm)をヒーター部にセッティングして25秒間加熱した。
【0047】
次に、各試料のはんだ合金をCu基板の上に載せ、25秒間加熱した。加熱が完了した後、Cu基板をヒーター部から取り上げ、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却した。十分に冷却した後、大気中に取り出して接合部分を確認した。
【0048】
各試料のはんだ合金とCu基板との接合部分を目視で確認し、接合できなかった場合を「×」、接合できたが濡れ広がりが悪い場合(はんだが広がらなかった場合)を「△」、接合でき且つ濡れ広がりが良い場合(はんだが薄く濡れ広がった状態)を「○」と評価し、評価結果を下記表2に示した。
【0049】
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。尚、この試験は、上記した濡れ性の評価においてはんだ合金がCu基板に接合できた試料(濡れ性の評価が○又は△の試料)を各々2個ずつ用いて行った。即ち、各試料のはんだ合金が接合されたCu基板2個のうちの1個に対しては、−40℃の冷却と+150℃の加熱を1サイクルとするヒートサイクル試験を途中確認のため300サイクルまで繰り返し、残る1個に対しては同様のヒートサイクル試験を500サイクルまで繰り返した。
【0050】
その後、300サイクル及び500サイクルのヒートサイクル試験を実施した各試料について、はんだ合金が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(装置名:HITACHI S−4800)により接合面を観察した。この観察の結果、接合面に剥がれが生じるか又ははんだにクラックが入った場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。これらの評価結果を下記表2に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
上記の表1〜2から分かるように、本発明の実施例である試料1〜13の各Zn系はんだ合金は、全ての評価項目において良好な特性を示している。即ち、シート状に加工しても傷やクラックの発生が無く、引張強度及び伸び率は良好な値を示し、濡れ性及び信頼性も良好であった。
【0053】
試料1〜13の各Zn系はんだ合金における加工性や濡れ性が良好であった理由は、Zn−Al合金にCuが含有されたことにより、はんだ合金の柔軟性が増し、圧延してもクラック等が発生せず、このため加工性が向上したこと、更に、このような柔軟性を有することによって、はんだと基板の接合時にはんだの反りやバリが発生せず、実質的な接合面積が広くとれたことにより濡れ性が向上したものと考えられる。
【0054】
更に、ヒートサイクル試験においても、試料1〜13の各Zn系はんだ合金は500回まで割れなどが発生せず、良好な接合性と信頼性を示した。この理由についてもCuの添加による効果が大きく、柔らかさの増したZn系はんだ合金が繰り返し加わる熱応力を吸収・緩和したためであると考えられる。
【0055】
一方、比較例である試料14〜19の各Zn系はんだ合金は、Al、Cu、Ag及びPのいずれかの含有量が適切でないかったため、好ましくない評価結果となった。具体的には、加工性の評価において全ての試料で傷やクラックが発生し、引張強度及び伸び率も高くなく、濡れ性についても全ての試料が好ましくない結果となり、特にヒートサイクル試験では全ての試料(接合できなかった試料14、15を除く)で300回までに不良が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを主成分とし且つPbを含まず、Alを1.0質量%以上9.0質量%以下含有し、Cuを0.001質量%以上3.000質量%以下含有し、残部がZn及び不可避不純物からなることを特徴とするPbフリーZn系はんだ合金。
【請求項2】
Alを3.0質量%以上7.0質量%以下含有し、Cuを0.003質量%以上1.000質量%以下含有することを特徴とする、請求項1に記載のPbフリーZn系はんだ合金。
【請求項3】
Znを主成分とし且つPbを含まず、Alを1.0質量%以上9.0質量%以下含有し、Cuを0.001質量%以上3.000質量%以下含有すると共に、Agを4.0質量%以下及び/又はPを0.500質量%以下含有し、残部がZn及び不可避不純物からなることを特徴とするPbフリーZn系はんだ合金。
【請求項4】
Alを3.0質量%以上7.0質量%以下含有し、Cuを0.003質量%以上1.000質量%以下含有すると共に、Agを3.0質量%以下及び/又はPを0.300質量%以下含有することを特徴とする、請求項3に記載のPbフリーZn系はんだ合金。

【公開番号】特開2013−52433(P2013−52433A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193548(P2011−193548)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】