説明

Pd−Cr−W系スパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】ルテニウムターゲットを代替することができ、かつ、安価なスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Pd、Cr、Wを主要成分として含有するPd−Cr−W系スパッタリングターゲットとし、該ターゲットの構造を、CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる合金マトリックス中に、Cr相およびW相のうちの少なくとも1種の相が分散した構造とし、前記ターゲット全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pd−Cr−W系スパッタリングターゲット及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、ルテニウムターゲットの代替として用いることができるPd−Cr−W系スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウムは、DRAM、FeRAM等の半導体デバイス用の薄膜電極として用いられている他、ハードディスク等の記録媒体の中間層等にも用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、ハードディスクにおいては、高密度記録を安定して行うことができる垂直磁気記録方式が主流となりつつある。
【0004】
図1に、垂直磁気記録方式ハードディスクの一例について、厚さ方向断面を模式的に示す。このハードディスク100は、図1に示すように、ガラス等の基材102の上に軟磁性裏打ち層104が積層され、該軟磁性裏打ち層104の上に中間層106が積層され、該中間層106の上にCoCrPt−SiO2記録層(磁性層)108が積層されている。各層は、組成に応じたターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成される。
【0005】
中間層106は、CoCrPt−SiO2記録層(磁性層)108を良好にエピタキシャル成長させる働きのあるルテニウム層となっており、ルテニウムターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成される。中間層106をルテニウム層とすることにより、Ru(001)配向の上にCo(001)がエピタキシャル成長し、記録層(磁性層)108は良好なC軸配向を実現し、これにより、ハードディスク100は良好な垂直磁気記録特性を実現できる。
【0006】
ここで、ルテニウムは、面内磁気記録媒体においても用いられており、記録の熱的不安定性を抑制するために、数原子層のルテニウム層を記録層(磁性層)の間に挟むことが行われているが、垂直磁気記録媒体における中間層106として用いられるルテニウム層の厚さは、面内磁気記録媒体において用いられるルテニウム層の厚さの10〜20倍である。
【0007】
このため、ハードディスクのデータ記録方式が面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式へと変更になっていくのに伴い、ルテニウムの需要が急増しており、ルテニウムの価格は高騰している。
【0008】
ルテニウム価格の高騰に対応するため、ルテニウムターゲットの代替となり得る安価なスパッタリングターゲットの出現が待たれている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−113174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであって、ルテニウムターゲットを代替することができ、かつ、安価なスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決した本発明に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの第1の態様は、Pd、Cr、Wを主要成分として含有するPd−Cr−W系スパッタリングターゲットであって、CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる合金マトリックス中に、Cr相およびW相のうちの少なくとも1種の相が分散した構造を有し、前記ターゲット全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%であることを特徴とする。
【0012】
前記合金マトリックス中のCr、Wの含有量は、それぞれ例えば0〜35at%、0〜22at%とすることができる。
【0013】
また、前記Pd−Cr−W系スパッタリングターゲット中のCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズが3〜100μmであることが好ましい。ここで、Cr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズは、倍率140倍の金属顕微鏡写真に無作為に平行な直線を引き、その直線がCr相およびW相の両者を合わせた相と重なった全ての部分の長さを計測し、その長さの平均値を算出することにより求める。金属顕微鏡写真に引く平行な直線の本数は、Cr相およびW相の両者を合わせた相と重なる部分が200点以上となる本数とする。
【0014】
また、前記Pd−Cr−W系スパッタリングターゲット中の酸素濃度が1500質量ppm以下であることが好ましい。
【0015】
前記Pd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、磁気記録媒体用として好適に用いることができる。
【0016】
前記課題を解決した本発明に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法は、CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる合金粉末をアトマイズ法で作製し、作製した該合金粉末に、粉末全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%となるようにCr粉末およびW粉末のうちの少なくとも1種の粉末を混合して混合粉末を作製した後、作製した該混合粉末を加圧下で加熱して成形することを特徴とする。
【0017】
前記合金マトリックス中のCr、Wの含有量は、それぞれ例えば0〜35at%、0〜22at%とすることができる。
【0018】
得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲット中のCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを3〜100μmとすることが好ましい。
【0019】
また、得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲット中の酸素濃度を1500質量ppm以下とすることが好ましい。
【0020】
前記アトマイズ法は、アルゴンガスまたは窒素ガスを用いて行うことが好ましい。
【0021】
また、前記アトマイズ法は、噴射温度を1600〜2100℃にして行うことが好ましい。
【0022】
また、作製した前記混合粉末は、放電プラズマ焼結法で成形することが好ましい。
【0023】
得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、磁気記録媒体用として好適に用いることができる。
【0024】
前記課題を解決した本発明に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの第2の態様は、前記製造方法により製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、ルテニウムターゲットを代替することができ、かつ、安価である。
【0026】
前記Pd−Cr−W系スパッタリングターゲット中のCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズが3〜100μmである場合、該ターゲットを用いてのスパッタリングはより良好なものとなる。
【0027】
また、前記Pd−Cr−W系スパッタリングターゲット中の酸素濃度を1500質量ppm以下に抑えた場合には、該ターゲットを用いてのスパッタリングはより良好なものとなる。
【0028】
本発明に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットを用いて形成される層は、ルテニウムの結晶構造に近似しているので、本発明に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、磁気記録媒体の中間層を作製することに適する。
【0029】
本発明に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法によれば、ルテニウムターゲットを代替することができ、かつ、安価なスパッタリングターゲットを製造することができる。
【0030】
得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲット中のCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを3〜100μmとするように製造した場合には、該ターゲットを用いてのスパッタリングはより良好なものとなる。
【0031】
また、得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲット中の酸素濃度を1500質量ppm以下に抑えるように製造した場合には、該ターゲットを用いてのスパッタリングはより良好なものとなる。
【0032】
前記アトマイズ法をアルゴンガスまたは窒素ガスを用いて行う場合、得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲット中の酸素濃度をより低く抑えることができる。
【0033】
前記アトマイズ法を噴射温度1600〜2100℃で行う場合、マグネシア製のルツボを用いても、ルツボから溶湯中に入り込む酸素量は少なく、また、溶湯の粘度はアトマイズに適した粘度となる。
【0034】
作製した前記混合粉末を放電プラズマ焼結法で成形する場合、得られるターゲット中の不純物の量を減らすことができる。
【0035】
また、得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲットを用いて形成される層は、ルテニウムの結晶構造に近似しているので、得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、磁気記録媒体の中間層を作製することに適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0037】
1.スパッタリングターゲットの構成成分および構造
本発明の実施形態に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、Pd、Cr、Wを主要成分として含有するPd−Cr−W系スパッタリングターゲットであって、CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる合金マトリックス中に、Cr相およびW相のうちの少なくとも1種の相が分散した構造を有し、前記ターゲット全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%であることを特徴とする。
【0038】
1−1.Pdについて
PdはRuと同じく貴金属であり、また、Pdの原子番号は46であってRuの原子番号44と近く、原子半径等の特性がPdはRuと近似している。さらに、Pdは貴金属の中では比較的安価である。このため、Pdは、Ruターゲットの代替となり得るターゲットの主成分となるという役割を有する。
【0039】
1−2.Cr、Wについて
Cr、Wは体心立方構造(bcc)であり、面心立方構造(fcc)であるPdの結晶構造に積層欠陥を導入して、スパッタリングにより得られる中間層におけるPdの結晶構造を、六方最密充填構造(hcp)であるRuの結晶構造に近づけるという役割を有する。また、Crは、スパッタリングによって得られるPd−W層の耐久性を向上させる役割も有する。
【0040】
ターゲット全体に対するCrの含有量は5〜50at%、Wの含有量は5〜40at%である。
【0041】
Crの含有量が5at%未満、もしくはWの含有量が5at%未満であると、該ターゲットを用いてスパッタリングにより形成される中間層において、Pdの結晶構造中へ導入される積層欠陥の量が少なすぎ、該中間層におけるPdの結晶構造がRuの六方最密充填構造(hcp)に近づかず、該中間層の上に、良好にc軸配向した記録層(磁性層)を形成することができない。また、Crの含有量が5at%未満であると、スパッタリングによって得られるPd−W層の耐久性が悪くなる。
【0042】
一方、Crの含有量が50at%を上回ると、スパッタリングによって得られるPd−W層の配向性が損なわれてRu層の代替とすることができない。また、Wの含有量が40at%を上回ると、該ターゲットを用いてスパッタリングにより形成される中間層においてWの特性の影響が大きくなりすぎ、該中間層の上に、良好にc軸配向した記録層(磁性層)を形成することができない。
【0043】
1−3.合金マトリックスについて
本実施形態に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットにおいて、合金マトリックスは、CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有している。このため、ターゲット全体においてPdのみが存在する箇所がなくなり、Pdは常にCrまたはWと併存するか、CrおよびWと併存することになる。この結果、本実施形態に係るターゲットを用いてのスパッタリングにおいて、特定の箇所の削られる速度が極端に大きくなるということがなくなり、スパッタリングは良好なものとなる。
【0044】
合金マトリックス中のCrの含有量は0〜35at%とすることが好ましく、Wの含有量は0〜22at%とすることが好ましい。合金マトリックス中のCrの含有量が35at%を上回ると、アトマイズの際にノズルとCrが反応してしまうおそれがある。また、Wの含有量が22at%を上回るようにするためには、該合金の溶湯の温度を2100℃より高温に加熱する必要があるが、マグネシア製のルツボでは2100℃より高温に加熱することができないため、製造コストが高くなる。
【0045】
1−4.分散構造について
本実施形態に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、前記合金マトリックス中に、Cr相およびW相のうちの少なくとも1種の相が分散した構造を有する。Cr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズは3〜100μmであることが好ましい。Cr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを3μmよりも小さくするためには、製造に用いるCr粉末およびW粉末の粒径を十分に小さくする必要があるが、Cr粉末およびW粉末の粒径をこのように小さくするとCr粉末およびW粉末の酸素含有量が多くなり、ターゲット中の酸素含有量が多くなりすぎてしまう。一方、Cr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズが100μmよりも大きいと、スパッタリングにより成膜した際、膜中にCrの偏析ができやすくなったり、スパッタリングの際の均一なエロージョンが得られにくくなったりする。
【0046】
このような分散構造を有することにより、本実施形態では、前記合金マトリックス中のCrの含有量が例えば0〜35at%、Wの含有量が例えば0〜22at%と少なくても、ターゲット全体に対するCrの含有量を5〜50at%、Wの含有量を5〜40at%と多くすることができる。
【0047】
なお、実施例で後述するように、ターゲットが本実施形態のような分散構造であっても、スパッタリングを行って中間層を形成して作製した、図1に示す構造のハードディスクの記録特性は、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がないことを本発明者は確認している。
【0048】
1−5.酸素濃度について
ターゲット中の酸素濃度が高いと、ターゲット中に酸化物が生じて介在物となる。該介在物は、スパッタリング中の異常放電の基点となるとともにパーティクルとなるおそれがある。また、ターゲット中の酸素は、スパッタリングによって得られる膜中の不純物となり、膜の特性を劣化させる。このため、ターゲット中の酸素濃度は低いほどよく、1500質量ppm以下であることが好ましい。
【0049】
1−6.不可避的不純物について
本発明の実施形態に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットにおいて、酸素以外の不可避的不純物としては、Pt、Au、Ag、Rh、Ir、Ru、Cu、Ni、Sb、Si、Mn、C、S、N、Fe、Mo等が挙げられる。
【0050】
2.製造方法について
本発明の実施形態に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法は、CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる合金粉末をアトマイズ法で作製し、作製した該合金粉末に、粉末全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%となるようにCr粉末およびW粉末のうちの少なくとも1種の粉末を混合して混合粉末を作製した後、作製した該混合粉末を加圧下で加熱して成形することを特徴とする。
【0051】
このような製造方法を採ることにより、得られるターゲットは、CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる合金マトリックス中に、Cr相およびW相のうちの少なくとも1種の相が分散した構造を有することとなる。
【0052】
2−1.アトマイズ合金粉末の作製について
CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有(好ましくはCrを0〜35at%、Wを0〜22at%含有)し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる溶湯に、アトマイズ法を適用して、該溶湯と同一組成のアトマイズ合金粉末(以下、単に合金粉末と記すことがある。)を作製する。
【0053】
アトマイズを行う際の溶湯の温度は、高すぎるとマグネシア製のルツボから溶湯中に酸素が奪われて、溶湯中の酸素濃度が上昇してしまう。一方、低すぎると溶湯の粘性が高くなり、アトマイズのための噴霧ができなくなる。このため、アトマイズ行う際の溶湯の温度は溶湯合金の融点プラス200〜350℃が好ましく、本実施形態の場合、1600〜2100℃が好ましい。より好ましくは1700〜2000℃である。
【0054】
作製したアトマイズ合金粉末は、CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有するため、該合金粉末を用いて得られるターゲットにおいて、Pdのみが存在する箇所がなくなり、Pdは常にCrまたはWと併存するか、CrおよびWと併存することになる。この結果、得られるターゲットを用いてのスパッタリングにおいて、特定の箇所の削られる速度が極端に大きくなるということがなくなり、該ターゲットを用いてのスパッタリングは良好なものとなる。
【0055】
作製したアトマイズ合金粉末中のCrの含有量は0〜35at%であることが好ましい。アトマイズ合金粉末中のCrの含有量が35at%を上回るようにするためには、アトマイズ法に用いる溶湯中のCrの含有量が35at%を上回るようにする必要があるが、溶湯中のCrの含有量が35at%を上回るようにすると、アトマイズの際にノズルとCrが反応してしまうおそれがある。
【0056】
また、アトマイズ合金粉末中のWの含有量は0〜22at%であることが好ましい。アトマイズ合金粉末中のWの含有量が22at%を上回るようにするためには、アトマイズ法に用いる溶湯中のWの含有量が22at%を上回るようにする必要があり、溶湯の温度を2100℃より高温に加熱する必要があるが、マグネシア製のルツボでは2100℃より高温に加熱することができないため、製造コストが高くなる。
【0057】
なお、合金粉末の作製に用いるアトマイズ法は、アトマイズ法の種類を問わず適用可能であり、例えばガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心力アトマイズ法のいずれを用いてもよい。
【0058】
本発明の実施形態に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法では、アトマイズ法により合金粉末を作製するため、原料金属はいったん高温まで加熱されて溶湯となるので、その段階で、Na、K等のアルカリ金属やCa等のアルカリ土類金属、酸素や窒素等のガス不純物は外部に揮発して除去される。このため、得られる合金粉末中の不純物量は少なくなる。
【0059】
したがって、アトマイズ法により得られた合金粉末を用いて得られるターゲット中の不純物も少なくなり、例えば、酸素濃度は1500質量ppm以下に抑えることができ、該ターゲットを用いてのスパッタリングは良好なものとなる。
【0060】
なお、アルゴンガスまたは窒素ガスを使用したガスアトマイズ法で作製すると、得られる合金粉末において、酸素濃度をより低く抑えることができ、より良好な原料粉末となる。
【0061】
2−2.混合粉末について
前記のようにしてアトマイズ法により得られた合金粉末に、粉末全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%となるように平均粒径10〜100μm(好ましくは30〜70μm)のCr粉末および平均粒径4〜40μmのW粉末を混合して混合粉末を作製する。混合粉末の平均粒径は、得られるターゲットにおいて、Cr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズが3〜100μmとなるようにすることが好ましく、混合粉末の平均粒径は2〜90μmとすることが好ましい。
【0062】
ここで、良好なターゲットを得るためには、Cr粉末およびW粉末中の酸素、窒素、炭素、硫黄等の不純物を減らす必要があり、そのためにはCr粉末およびW粉末を水素中で加熱する必要がある。Cr粉末およびW粉末を水素中で加熱することにより、酸素、窒素、炭素、硫黄等の不純物を減らしたCr粉末およびW粉末を製造することが可能であるが、前記不純物を減らしたCr粉末およびW粉末は、活性が高く、不安定であるため、Cr粉末の場合に平均粒径が10μm未満、W粉末の場合に平均粒径が2μm未満であると、爆発の危険があり、取り扱いが難しい。一方、混合するCr粉末の平均粒径が100μmを上回ると、得られるターゲットを用いてスパッタリングにより成膜した際、膜中にCrの偏析ができやすくなってしまう。混合するW粉末の平均粒径が40μmより大きいと、得られるターゲットを用いてスパッタリングを行う際の均一なエロージョンが得られにくくなる。
【0063】
混合粉末全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%となることで、得られるターゲットにおいても、Cr、Wの含有量は、ターゲット全体に対してそれぞれ5〜50at%、5〜40at%となる。このため、該ターゲットを用いてスパッタリングにより形成される中間層におけるPdの結晶構造がRuの六方最密充填構造(hcp)に近づき、該中間層の上には、良好にc軸配向した記録層(磁性層)を形成することができる。
【0064】
なお、本実施形態の製造方法では、アトマイズ合金粉末にCr粉末およびW粉末を混合して混合粉末にしてからターゲットに成形しているが、アトマイズ法により得られた合金粉末のみを用いて成形を行い、ターゲットを得ることもできる。具体的には、例えばCrの含有量が0〜35at%、Wの含有量が0〜22at%、残部がPdおよび不可避的不純物からなるように合金溶湯を作製し、噴射温度1600〜2100℃でアトマイズを行って合金粉末を得て、その合金粉末のみを用いて後述の成形方法により成形してターゲットを得ることもできる(後述する参考例1が該当)。ただし、この場合は、ターゲット全体に対するCr、Wの含有量が、それぞれ0〜35at%、0〜22at%であるターゲットしか作製することができない。
【0065】
一方、本実施形態の製造方法では、アトマイズ法により得られた合金粉末に、粉末全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%となるようにCr粉末およびW粉末を混合して混合粉末を作製し、得られた混合粉末を後述の成形方法により成形してターゲットを得ることにより、ターゲット全体に対するCr、Wの含有量が、それぞれ5〜50at%、5〜40at%であるターゲットを作製することができる。
【0066】
2−3.成形方法について
前記混合粉末を加圧下で加熱して成形する方法は特に限定されず、例えば、ホットプレス法、熱間静水圧プレス法(HIP法)、放電プラズマ焼結法(SPS法)等を用いることができる。
【0067】
いずれの成形方法を用いた場合であっても、焼結温度が低すぎると焼結体の密度が上がらず、一方、焼結温度が高すぎると焼結の際に用いる鋳型からカーボンが混入するおそれがある。このため、焼結温度は1000〜1500℃が好ましく、より好ましくは1200〜1400℃である。
【0068】
なお、ホットプレス法を用いた場合、焼結時の圧力は、焼結体の密度を十分に上昇させる点で、10MPa以上が好ましく、より好ましくは15MPa以上である。また、焼結時間は、短すぎると焼結体の密度が十分に上昇せず、一方長すぎると組織が粗大化するので、30〜120minが好ましく、より好ましくは45〜90minである。また、雰囲気は、得られる焼結体中の酸素濃度を低くする点で、1×10-1Pa以下が好ましく、より好ましくは5×10-2Pa以下である。
【0069】
ただし、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて成形を行うことにより、得られるターゲット中の不純物の量を減らすことができるので、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて成形を行うことがより好ましい。放電プラズマ焼結では、焼結過程で粉末粒子間にプラズマが発生し、粉末に吸着した酸素、窒素等を速やかに解離させることが可能になる。前記混合粉末を放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて成形することにより、得られるターゲット中の不純物の量は、例えば、酸素濃度は400質量ppm以下、窒素濃度は100質量ppm以下、炭素濃度は200質量ppm以下、硫黄濃度は50質量ppm以下に抑えることができる。
【0070】
3.効果について
本発明の実施形態に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、以上説明したような構成成分および構造からなり、ルテニウムターゲットの代替となり得る。さらに、本実施形態に係るターゲットは、安価な材料を用いており、かつ、特殊な方法を用いずに安価な製造方法により製造することができるので、安価である。
【0071】
前述したように、本実施形態に係るターゲットを安価に製造できる理由は、Crを0〜35at%、Wを0〜22at%含有し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる合金マトリックス中に、Cr相およびW相のうちの少なくとも1種の相が分散した構造となるようにしているからであり、このような構造とすることにより、製造に用いるアトマイズ合金粉末中のCrの含有量が例えば35at%以下、Wの含有量が例えば22at%以下であっても、ターゲット全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%であるターゲットを生産効率よく、経済的に製造することができる。
【0072】
4.用途について
本実施形態に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットを用いて形成される層は、ルテニウムの結晶構造に近似しているので、このPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、磁気記録媒体の中間層、特に垂直磁気記録媒体の中間層を作製することに適する。ただし、本実施形態に係るPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、磁気記録媒体作製という用途に限定されず、ルテニウム層が用いられている用途であれば、磁気記録媒体作製以外の用途にも用いることができる。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
合金組成がPd:95at%、W:5at%となるように各金属を秤量し、1850℃まで加熱してPd−W合金溶湯とし、噴射温度1850℃でガスアトマイズを行ってPd−5at%W合金粉末を作製した。作製した合金粉末の平均粒径を日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000により測定したところ、50μmであった。
【0074】
得られたPd−5at%W合金粉末に、Crの含有量が粉末全体に対して20at%となるように平均粒径63μmのCr粉末を添加するとともに、Wの含有量が粉末全体に対して20at%となるように平均粒径30μmのW粉末を添加し、ボールミルで4時間混合して混合粉末を作製した。添加したCr粉末は、混合粉末全体に対して20at%であり、添加したW粉末は、混合粉末全体に対して16at%であった。
【0075】
作製した混合粉末を、温度:1300℃、圧力:20MPa、時間:45min、雰囲気:5×10-2Pa以下の真空中の条件でホットプレスを行い、焼結体を得た。得られた焼結体の密度をアルキメデス法により計測したところ、12.3(g/cm3)であった。理論密度は12.8(g/cm3)であるので、相対密度は96.1%であった。
【0076】
また、得られた焼結体の断面を金属顕微鏡で観察した。図2に金属顕微鏡により撮像した写真を示す。図2において、色の濃い部分がW相であり、色の薄い部分がPd−5at%W合金であり、得られた焼結体は、Pd−5at%W合金マトリックス中にCr相およびW相が分散した構造となっていることがわかる。
【0077】
また、倍率140倍の金属顕微鏡写真に無作為に平行な直線を引き、その直線がCr相およびW相の両者を合わせた相と重なった全ての部分の長さを計測し、その長さの平均値を算出することにより、Cr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを求めたところ、40μmであった。金属顕微鏡写真に引く平行な直線の本数は、Cr相およびW相の両者を合わせた相と重なる部分が200箇所以上となる本数とし、本実施例では金属顕微鏡写真の長手方向と平行な方向に直線をランダムな間隔で20本引いた。
【0078】
次に、得られた焼結体を、直径180mm、厚さ7mmに加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、LECO社製のTC−600型酸素窒素同時分析装置により酸素濃度を測定したところ、229質量ppmであった。
【0079】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いてキャノンアネルバ株式会社製のスパッタリング装置によりスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。なお、本実施例1および以下の実施例2〜10、比較例1〜3におけるハードディスクの記録特性の評価では、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がない場合を○、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性が劣る場合を×として、表1に記載している。
【0080】
(実施例2)
合金組成がPd:75at%、Cr:25at%となるように各金属を秤量し、1650℃まで加熱してPd−W合金溶湯とし、噴射温度1650℃でガスアトマイズを行ってPd−25at%Cr合金粉末を作製した。作製した合金粉末の平均粒径を実施例1と同様に測定したところ、50μmであった。
【0081】
得られたPd−25at%Cr合金粉末に、Wの含有量が粉末全体に対して20at%となるように平均粒径30μmのW粉末を添加し、実施例1と同様にボールミルで4時間混合して混合粉末を作製した。添加したW粉末は、混合粉末全体に対して20at%であった。
【0082】
作製した混合粉末を、ホットプレス温度を1335℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、焼結体を得た。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、12.3(g/cm3)であった。理論密度は12.8(g/cm3)であるので、相対密度は96.1%であった。
【0083】
また、得られた焼結体の断面を実施例1と同様に金属顕微鏡により観察した。図3に金属顕微鏡により撮像した写真を示す。図3において、色の濃い部分がW相であり、色の薄い部分がPd−25at%Cr合金であり、得られた焼結体は、Pd−25at%Cr合金マトリックス中にW相が分散した構造となっていることがわかる。また、実施例1と同様にしてCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを求めたところ、32μmであった。
【0084】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、345質量ppmであった。
【0085】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。
【0086】
(実施例3)
合金組成がPd:71.2at%、Cr:23.8at%、W:5at%となるように各金属を秤量し、1850℃まで加熱してPd−Cr−W合金溶湯とし、噴射温度1850℃でガスアトマイズを行ってPd−23.8at%Cr−5at%W合金粉末を作製した。作製した合金粉末の平均粒径を実施例1と同様に測定したところ、50μmであった。
【0087】
得られたPd−23.8at%Cr−5at%W合金粉末に、Wの含有量が粉末全体に対して20at%となるように平均粒径30μmのW粉末を添加し、実施例1と同様にボールミルで4時間混合して混合粉末を作製した。添加したW粉末は、混合粉末全体に対して15.8at%であった。
【0088】
作製した混合粉末を、実施例2と同様の条件でホットプレスを行い、焼結体を得た。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、12.5(g/cm3)であった。理論密度は12.8(g/cm3)であるので、相対密度は97.7%であった。
【0089】
また、得られた焼結体の断面を実施例1と同様に金属顕微鏡により観察した。図4に金属顕微鏡により撮像した写真を示す。図4において、色の濃い部分がW相であり、色の薄い部分がPd−23.8at%Cr−5at%W合金であり、得られた焼結体は、Pd−23.8at%Cr−5at%W合金マトリックス中にW相が分散した構造となっていることがわかる。また、実施例1と同様にしてCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを求めたところ、28μmであった。
【0090】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、678質量ppmであった。
【0091】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。
【0092】
(実施例4)
合金組成がPd:67.5at%、Cr:22.5at%、W:10at%となるように各金属を秤量し、1900℃まで加熱してPd−Cr−W合金溶湯とし、噴射温度1900℃でガスアトマイズを行ってPd−22.5at%Cr−10at%W合金粉末を作製した。作製した合金粉末の平均粒径を実施例1と同様に測定したところ、50μmであった。
【0093】
得られたPd−22.5at%Cr−10at%W合金粉末に、Wの含有量が混合粉末全体に対して20at%となるように平均粒径30μmのW粉末を添加し、実施例1と同様にボールミルで4時間混合して混合粉末を作製した。添加したW粉末は、混合粉末全体に対して11.1at%であった。
【0094】
作製した混合粉末を、実施例2と同様の条件でホットプレスを行い、焼結体を得た。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、12.5(g/cm3)であった。理論密度は12.8(g/cm3)であるので、相対密度は97.7%であった。
【0095】
また、得られた焼結体の断面を実施例1と同様に金属顕微鏡により観察した。図5に金属顕微鏡により撮像した写真を示す。図5において、色の濃い部分がW相であり、色の薄い部分がPd−22.5at%Cr−10at%W合金であり、得られた焼結体は、Pd−22.5at%Cr−10at%W合金マトリックス中にW相が分散した構造となっていることがわかる。また、実施例1と同様にしてCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを求めたところ、31μmであった。
【0096】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、339質量ppmであった。
【0097】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。
【0098】
(実施例5)
アトマイズ法で作製したPd−22.5at%Cr−10at%W合金粉末に添加するW粉末の平均粒径が12μmである以外は実施例4と同様にして混合粉末を作製した。作製した混合粉末を、実施例4と同様の条件でホットプレスを行い、焼結体を得た。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、12.3(g/cm3)であった。理論密度は12.8(g/cm3)であるので、相対密度は96.1%であった。
【0099】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、751質量ppmであった。
【0100】
また、実施例1と同様にしてCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを求めたところ、15μmであった。
【0101】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。
【0102】
(実施例6)
アトマイズ法で作製したPd−22.5at%Cr−10at%W合金粉末に添加するW粉末の平均粒径が4μmである以外は実施例4と同様にして混合粉末を作製した。作製した混合粉末を、実施例4と同様の条件でホットプレスを行い、焼結体を得た。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、12.4(g/cm3)であった。理論密度は12.8(g/cm3)であるので、相対密度は96.9%であった。
【0103】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、1120質量ppmであった。
【0104】
また、実施例1と同様にしてCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを求めたところ、6μmであった。
【0105】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。
【0106】
(実施例7)
アトマイズ法で作製したPd−22.5at%Cr−10at%W合金粉末に添加するW粉末の平均粒径が2μmである以外は実施例4と同様にして混合粉末を作製した。作製した混合粉末を、実施例4と同様の条件でホットプレスを行い、焼結体を得た。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、12.3(g/cm3)であった。理論密度は12.8(g/cm3)であるので、相対密度は96.1%であった。
【0107】
また、得られた焼結体の断面を実施例1と同様に金属顕微鏡により観察した。図6に金属顕微鏡により撮像した写真を示す。図6において、色の濃い部分がW相であり、色の薄い部分がPd−22.5at%Cr−10at%W合金であり、得られた焼結体は、Pd−22.5at%Cr−10at%W合金マトリックス中にW相が分散した構造となっていることがわかる。また、実施例1〜4(図2〜図5)と比べて組織が微細になっていることがわかる。
【0108】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、2187質量ppmであった。
【0109】
また、実施例1と同様にしてCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズを求めたところ、3μmであった。
【0110】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。
【0111】
(実施例8)
合金組成がPd:60at%、Cr:35at%、W:5at%となるように各金属を秤量し、1850℃まで加熱してPd−W合金溶湯とし、噴射温度1850℃でガスアトマイズを行ってPd−35at%Cr−5at%W合金粉末を作製した。作製した合金粉末の平均粒径を実施例1と同様に測定したところ、50μmであった。
【0112】
得られたPd−35at%Cr−5at%W合金粉末に、Crの含有量が粉末全体に対して50at%となるように平均粒径63μmのCr粉末を添加するとともに、Wの含有量が粉末全体に対して40at%となるように平均粒径30μmのW粉末を添加し、ボールミルで4時間混合して混合粉末を作製した。添加したCr粉末は、混合粉末全体に対して44.2at%であり、添加したW粉末は、混合粉末全体に対して39.2at%であった。
【0113】
作製した混合粉末を、ホットプレス温度を1350℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、焼結体を得た。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、12.73(g/cm3)であった。理論密度は13.25(g/cm3)であるので、相対密度は96.1%であった。
【0114】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、535質量ppmであった。
【0115】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。
【0116】
(実施例9)
合金組成がPd:60at%、Cr:30at%、W:10at%となるように各金属を秤量し、1900℃まで加熱してPd−W合金溶湯とし、噴射温度1900℃でガスアトマイズを行ってPd−30at%Cr−10at%W合金粉末を作製した。作製した合金粉末の平均粒径を実施例1と同様に測定したところ、50μmであった。
【0117】
得られたPd−30at%Cr−10at%W合金粉末に、Wの含有量が粉末全体に対して40at%となるように平均粒径30μmのW粉末を添加し、ボールミルで4時間混合して混合粉末を作製した。添加したW粉末は、混合粉末全体に対して33.3at%であった。
【0118】
作製した混合粉末を、ホットプレス温度を1350℃とした以外は実施例1と同様の条件でホットプレスを行い、焼結体を得た。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、13.86(g/cm3)であった。理論密度は14.36(g/cm3)であるので、相対密度は96.5%であった。
【0119】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、953質量ppmであった。
【0120】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。
【0121】
(参考例1)
合金組成がPd:90at%、Cr:5at%、W:5at%となるように各金属を秤量し、1850℃まで加熱してPd−Cr−W合金溶湯とし、噴射温度1850℃でガスアトマイズを行ってPd−5at%Cr−5at%W合金粉末を作製した。作製した合金粉末の平均粒径を実施例1と同様に測定したところ、50μmであった。
【0122】
実施例1〜9では、アトマイズを行って得られた合金粉末(以下、アトマイズ粉末と記すことがある)に、Cr粉末および/またはW粉末を添加して混合粉末を作製し、作製した混合粉末をホットプレスして焼結体を得ているが、参考例1では、アトマイズ粉末に、Cr粉末、W粉末のどちらも添加せず、アトマイズ粉末のみを用いてホットプレスを行い、焼結体を得ている。ホットプレス条件は、ホットプレス温度を1220℃とした以外は実施例1と同様である。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、12.09(g/cm3)であった。理論密度は12.22(g/cm3)であるので、相対密度は98.9%であった。
【0123】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、185質量ppmであった。
【0124】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性に差がなかった。
【0125】
(比較例1)
ガスアトマイズを行ってPd−25at%W合金粉末を作製し、作製した該合金粉末(アトマイズ粉末)にCr粉末を添加して、Pd−20at%Cr−20at%W合金粉末を作製し、ホットプレスを行って焼結体を得ることを試みた。
【0126】
しかしながら、合金組成がPd:75at%、W:25at%となるように各金属を秤量し、2100℃まで加熱したが溶融せず、合金溶湯を得ることができず、アトマイズ粉末を得ることができなかった。このため、ホットプレスを行っておらず、ターゲットを得ることはできなかった。
【0127】
(比較例2)
ガスアトマイズを行ってPd−20at%Cr−25at%W合金粉末を作製し、作製した該合金粉末(アトマイズ粉末)のみで、ホットプレスを行って焼結体を得ることを試みた。
【0128】
しかしながら、合金組成がPd:55at%、Cr:20at%、W:25at%となるように各金属を秤量し、2100℃まで加熱したが溶融せず、合金溶湯を得ることができず、アトマイズ粉末を得ることができなかった。このため、ホットプレスを行っておらず、ターゲットを得ることはできなかった。
【0129】
(比較例3)
ガスアトマイズを行ってアトマイズ粉末を作製することをせず、アトマイズ粉末ではないPd粉末(平均粒径50μm)、Cr粉末(平均粒径63μm)、W粉末(平均粒径30μm)をボールミルで4時間混合して、Pd−20at%Cr−20at%W混合粉末を作製した。作製した該混合粉末に対して、実施例2と同様の条件でホットプレスを行って焼結体を得た。得られた焼結体の密度を実施例1と同様に計測したところ、12.02(g/cm3)であった。理論密度は12.79(g/cm3)であるので、相対密度は94.0%であった。
【0130】
次に、得られた焼結体を、実施例1と同様に加工し、スパッタリングターゲットとした。得られたスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に酸素濃度を測定したところ、4530質量ppmであった。
【0131】
次に、得られたスパッタリングターゲットを用いて実施例1と同様にスパッタリングを行い、図1に示す中間層を形成し、図1に示す構造のハードディスクを作製した。作製したハードディスクの記録特性を評価したところ、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて記録特性が劣り、実施例1〜9におけるハードディスクと比べて記録特性が劣った。
【0132】
【表1】

【0133】
各金属の含有割合が本発明の範囲内である実施例1〜10においては、いずれも、得られたハードディスクの記録特性が、中間層にルテニウムRuを用いたハードディスクと比べて差がなく、良好な結果が得られた。
【0134】
一方、比較例1、2は、アトマイズ粉末作製に用いる合金溶湯の原料金属として、Wの含有量が25at%となるように秤量しており、アトマイズ粉末作製に用いる合金溶湯の原料金属には、Wが22at%より多く含まれている。このため、2100℃まで加熱したが溶融せず、合金溶湯を得ることができず、アトマイズ粉末を得ることができなかった。このため、ホットプレスを行っておらず、ターゲットを得ることはできなかった。比較例1、2において秤量された原料金属で合金溶湯を得てアトマイズを行うためには、2100℃よりもさらに高温まで加熱する必要があると考えられる。
【0135】
比較例3は、ターゲット全体に対する各金属の含有割合は本発明の範囲内であるが、CrおよびWの両方が含有されるか、Crが含有されるアトマイズ粉末を用いて混合粉末を作製することを行っておらず、ホットプレスにより得られたターゲットには、CrおよびWのどちらも含有されていないPdのみの領域が存在する。このため、スパッタリングによって良好な膜が得られなかったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】垂直磁気記録方式ハードディスクの一例について、厚さ方向断面を模式的に示す図
【図2】実施例1における焼結体の金属顕微鏡写真
【図3】実施例2における焼結体の金属顕微鏡写真
【図4】実施例3における焼結体の金属顕微鏡写真
【図5】実施例4における焼結体の金属顕微鏡写真
【図6】実施例7における焼結体の金属顕微鏡写真
【符号の説明】
【0137】
100…ハードディスク
102…基材
104…軟磁性裏打ち層
106…中間層
108…記録層(磁性層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pd、Cr、Wを主要成分として含有するPd−Cr−W系スパッタリングターゲットであって、
CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる合金マトリックス中に、Cr相およびW相のうちの少なくとも1種の相が分散した構造を有し、前記ターゲット全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%であることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1において、
前記合金マトリックスは、Crを0〜35at%、Wを0〜22at%含有していることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記Pd−Cr−W系スパッタリングターゲット中のCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズが3〜100μmであることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記Pd−Cr−W系スパッタリングターゲット中の酸素濃度が1500質量ppm以下であることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
磁気記録媒体用であることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲット。
【請求項6】
CrおよびWのうちの少なくとも1種を含有し、残部がPdおよび不可避的不純物からなる合金粉末をアトマイズ法で作製し、作製した該合金粉末に、粉末全体に対するCrの含有量が5〜50at%、Wの含有量が5〜40at%となるようにCr粉末およびW粉末のうちの少なくとも1種の粉末を混合して混合粉末を作製した後、作製した該混合粉末を加圧下で加熱して成形することを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
アトマイズ法で作製された前記合金粉末が、Crを0〜35at%、Wを0〜22at%含有していることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7において、
前記Pd−Cr−W系スパッタリングターゲット中のCr相およびW相の両者を合わせた相の平均サイズが3〜100μmであることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかにおいて、
得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲット中の酸素濃度を1500質量ppm以下とすることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかにおいて、
前記アトマイズ法は、アルゴンガスまたは窒素ガスを用いて行うことを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれかにおいて、
前記アトマイズ法は、噴射温度を1600〜2100℃にして行うことを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれかにおいて、
作製した前記混合粉末を放電プラズマ焼結法で成形することを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項13】
請求項6〜12のいずれかにおいて、
得られるPd−Cr−W系スパッタリングターゲットは、磁気記録媒体用であることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項14】
請求項6〜13のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とするPd−Cr−W系スパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90412(P2010−90412A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259086(P2008−259086)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000217228)TANAKAホールディングス株式会社 (146)
【Fターム(参考)】