説明

Pd電解質浴およびPd−Ni電解質浴

本発明は、パラジウムまたはパラジウム合金を金属支持体または導電性支持体上に電着するための電解質に関する。同時に、本発明は、前記の電解質を使用する、相応する電気化学技術的方法および特殊な好ましい、前記方法に使用可能なパラジウム塩に向けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウムまたはパラジウム合金を金属支持体または導電性支持体上に電着するための電解質に関する。殊に、この場合には、場合により他の金属および錯形成剤としての有機オリゴアミンを含有するPd電解質が問題であり、このPd電解質を用いて工業的用途および装飾的用途のために、例えばPd80%を有する合金被覆を析出することができる。同時に、本発明は、前記の電解質を使用する、相応する電気技術的方法および特殊な好ましい、前記方法に使用可能なパラジウム塩に向けられている。
【0002】
パラジウムまたはパラジウム合金を金属支持体上に電気化学的析出することは、しばしば装飾的用途および工業的用途を含む。電気化学的析出用の純粋パラジウムならびにパラジウムニッケル層は、場合によってはそれぞれ金フラッシュめっきを有し、例えば弱電流コンタクトまたは嵌め込みコンタクト(例えば、導体板上)のための公認の材料であり、硬質金のための代替物と見なすことができる[Galvanotechnik 5 (2002), 121 Off, Simon u, Yasumura: "Galvanische Palladiumschichten fuer technische Anwendungen in der Elektronik"]。また、いわゆるリードフレーム上での極めて僅かな層厚を有するパラジウム析出物は、半導体の製造において、結合範囲内で使用される銀を代替することができる[Galvanotechnik 6 (2002), 1473以降, SimonおよびYasumura: "Galvanische Palladiumschichten fuer technische Anwendung in der Elektronik"]。
【0003】
従来のパラジウム−ニッケル電解質は、アンモニアおよび塩化物を含有し、したがって、作業者の健康に対する予想される危険性を意味し、プラント材料の腐蝕に関連して有害である。アンモニアは、環境温度で蒸発する傾向にある。市場に出回っている多数の電解質は、40℃〜60℃で作業し、したがって、気道に対して刺激を与えるだけでなく、蒸発するアンモニアによってpH値を減少させる強力な放出を引き起こす。従って、電解質は、不断のアンモニア添加によって一定のpHで維持されなければならない。
【0004】
従って、若干のアンモニウム不含および/または塩化物不含の方法が公知である。例えば、1つのタイプは、有機アミンを含有するが、しかし、この有機アミンは、所定のアルカリ性作業条件(65℃まで、pH9〜12)で極めて急速に炭酸塩を形成し、沈殿物を生じる。更に、このような電解質の場合に発生する、ニッケルめっきされた支持体に対する不十分な付着力は、プレパラジウムめっき法(Vorpalladiumprozesse)によって補償されなければならず、それによって多額の費用が発生する(Plating & Surface Finishing, (2002) 8, 第57〜58頁, JA Abys"Palladium Plating")。
【0005】
最近発行された刊行物には、硫酸塩を基礎とする塩化物不含のパラジウム−ニッケル電解質が記載されている(Galvanotechnik, 99 (2008) 3, 第552-557頁; Kurtz, O.; Barhtelmes, J.; Ruether, R., "Die Abscheidung von Palladium-Nickel-Legierung aus chloridfreien Elektrolyten")。前記電解質から得られた被覆は、実際に望ましい性質を有するが、しかし、この電解質は、アンモニア性の弱アルカリ性電解質であり、公知の欠点を有する。
【0006】
有機アミンを用いる別の方法は、米国特許第4278514号明細書の記載から公知であり、3〜7のpH値で作業される。この種の浴は、イミド化合物(例えば、スクシンイミド)を光沢剤として含有する。この光沢剤は、主に装飾的目的のために適しており、それというのも、この光沢剤は、純粋なパラジウム浴であるからである。使用可能な電流密度は、最大4A/dm2である。記載された浴は、pH値を燐酸塩緩衝液で調節するために作業する。しかし、析出された層中への燐の組み込みは、析出物の品質を不利に損ないうる。
【0007】
ドイツ連邦共和国特許第4428966号明細書(米国特許第5415685号明細書)には、パラジウム化合物(即ち、パラジウムジアミノ二亜硝酸塩)および種々のアンモニウム塩(硫酸塩、クエン酸塩および燐酸塩)と共に光沢剤との組合せも記載されている。記載されたアンモニアを使用する方法は、5〜12のpH範囲で作業する。特許保護が請求された光沢剤は、スルホン酸と芳香族Nヘテロ環式化合物との組合せである。即ち、なかんずくo−ホルミルベンゼンスルホン酸および1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムベタインが挙げられる。更に、記載されたピリジン誘導体は、1−(3−スルホプロピルピリジニウムベタイン)および1−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピルピリジニウムベタインである。最後に記載された2つの物質は、発明者によれば、得られた被膜の光沢に対して不利な効果を示す。
【0008】
既に、1986年にエチレンジアミンを基礎とする電解質からなるパラジウム−ニッケル被覆の電気化学的析出は、RaubおよびWalzによって記載された(Metalloberflaeche, 40 (1986) 5, 第199-203頁, D. WalzおよびCh. J. Raub, Carl Hanser Verlag, Muenchen, "Die galvanische Palladium-Nickel-Abscheidung aus ammoniakfreien Grundelektrolyten mit Ethylendiamin als Komplexbildner")。この刊行物中には、錯形成剤のエチレンジアミンが、合金の析出が可能である限り2つの金属の析出ポテンシャルを一緒に十分に推進する状態にあることは、理想的であることが説明されている。
【0009】
米国特許第6743346号明細書に記載の方法は、エチレンジアミンも錯形成剤として使用し、パラジウムを硫酸パラジウムとエチレンジアミンとからなる固体の化合物の形で導入する。この塩は、パラジウム31〜41%を含有する(モル比[SO4]:[Pd]0.9〜1.15および[エチレンジアミン]:[Pd]0.8〜1.2)。この塩は、水溶性ではないが、しかし、エチレンジアミンに対して過剰量で電解質中で溶解する(Plating & Surface Finishing, (2007) 4, 第26-35頁, St. Burling, "Precious Metal Plating and the Environment")。この塩は、実際にパラジウムを通常よりも少ない量のエチレンジアミンを導入することを可能にするが、しかし、硫酸塩の濃度の増加によって電解質中での塩の濃度の増加を生じ、それによって浴の動作寿命を短縮させる。この場合、光沢剤として物質3−(3−ピリジル)アクリル酸または3−(3−キノイル)アクリル酸、またはこれらの塩が添加される。前記刊行物には、スルホン酸塩を基礎とする光沢剤は、殊に15〜150A/dm2の電流密度の際に電気めっき電解質中で望ましい光沢を保証する状態ではないことが述べられている。
【0010】
本発明の課題は、引用された公知技術水準の背景に対して、記載された欠点を克服するのに役立つ、さらなる電解質およびこの電解質で作業する方法を記載することであった。殊に、記載された電解質組成または相応する方法は、高い電流密度および迅速に進行する電解プロセスの場合でも光沢表面を形成させるのに役立ち、このことは、経済学的見地および生態学的見地から特に好ましいことと見なされるであろう。
【0011】
この課題ならびにこの明細書中には記載されていないが、しかし公知技術水準から容易に明らかになる課題は、本発明の請求項1の特徴に記載された電解質を使用することによって解決される。本発明による電解質の好ましい実施形式は、請求項1に依存する従属請求項2〜11に記載されている。請求項12および請求項12に依存する従属請求項13〜16は、好ましい実施可能性を有する本発明による方法に関連する。請求項17は、本発明による電解質の本発明による有利に使用可能な成分に向けられている。
【0012】
有機オリゴアミンと錯化された、析出すべき金属イオンを、対イオンとしてのオキシ水酸化物、水酸化物、炭酸水素塩および/または炭酸塩との塩の形で有し、および第4アンモニウム基とスルホン酸基とからなる内部塩を基礎とする光沢剤を有する水性電解質をパラジウムまたはパラジウム合金の電気化学的析出のために金属支持体または導電性支持体上に使用することによって、意外にも簡単な方法で成果を収めて課された課題が解決された。更に、本発明による電解質を用いて、または本発明による方法を使用することによって、低い電流密度の場合ならびに高い電流密度の場合に品質的に優れた結果を有する望ましい光沢表面を形成させることが可能である。この場合、本発明による電解質組成は、公知技術水準によって決して容易に発明をすることができるものではない。
【0013】
本発明による電解質は、パラジウムを単独でかまたは別の金属との合金の形で析出することを可能にする。更に、金属として、当業者にとって前記目的のために該当するものが使用されてよい。前記金属は、例えばニッケル、コバルト、鉄、インジウム、金、銀または錫、またはこれらの混合物である。特に、析出すべき金属イオンは、ニッケル、コバルト、鉄およびこれらの混合物からなる群から選択されたものである。電解質は、前記金属を可溶性塩の形で含有する。塩として、有利に燐酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物、硫酸塩、スルファミン酸塩、アルカンスルホネート、ピロリン酸塩、ホスホン酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩およびこれらの混合物の群から選択されたものがこれに該当する。
【0014】
当業者であれば、電解質中の使用すべき金属の濃度は、一般的な専門知識で選択される。パラジウムが電解質に対して1〜100g/l、特に2〜70g/l、極めて有利に4〜50g/l、殊に有利に5〜25g/lの濃度で存在する場合には、好ましい結果が達成されうることが判明した。更に、析出すべき金属イオンは、電解質に対して50g/l以下の濃度で存在することができる。特に、電解質中での前記イオンの濃度は、電解質に対して40g/l以下、さらに有利に30g/lである。
【0015】
冒頭に既に示唆したように、金属イオンの均一な析出は、本発明による条件下でなかんずく、この金属イオンが錯化されて存在する場合に有利に行なわれる。有機オリゴアミンは、前記錯体に適した配位子として有効であることが証明された。この場合、多座の配位子、殊にジアミン、トリアミンまたはテトラアミンを基礎とする配位子を使用することは、好ましい。この場合、特に好ましいのは、2〜11個のC原子を有するものである。エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、トリメチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミンからなる群から選択された配位子を使用することは、殊に好ましい。これに関連して、エチレンジアミン(EDA)は、極めて好ましい。
【0016】
当業者にとって、使用されるオリゴアミンの量は、自由裁量によるものである。前記量を推定する場合には、パラジウムまたはパラジウム合金のできるだけ均一な析出を得るために十分な量が存在しなければならないという事実は、指針として役立つであろう。他面、少なくとも経済的に検討することにより、大量のオリゴアミンの使用が制限される。電解質中のオリゴアミン0.1〜5モル/lの量は、好ましい。更に、有利には、濃度は、0.3〜3モル/lの範囲内にある。殊に有利には、オリゴアミンの濃度は、電解質1 l当たり0.5〜2モルである。
【0017】
また、本発明による電解質のpH値は、当業者によれば、それぞれの使用目的に対して酸性範囲ないし中性範囲で調節されうる。pH3〜pH7の範囲への調節は、好ましいと思われる。更に、好ましいのは、pH3.5〜pH6.5の範囲、特に好ましいのは、pH4〜pH6の範囲であり、殊に好ましいのは、約pH5〜pH5.5である。
【0018】
本発明による電解質は、第4アンモニウム基と酸基とからなる内部塩を基礎とする光沢剤を有する。第4アンモニウム化合物として、特にプラスの電荷を有する窒素原子が芳香族環系の一部分であるものがこれに該当する。この種の分子成分として、当業者によれば、特に、単核または多核の芳香族系、例えばピリジニウム誘導体、ピリミジニウム誘導体、ピラジニウム誘導体、ピロリニウム誘導体、イミダゾリニウム誘導体、チアゾリニウム誘導体、インドリニウム誘導体、カルバゾリニウム誘導体またはこの種の置換系がこれに該当する。殊に有利には、ピリジニウム誘導体、またはアルキル置換ピリジニウム誘導体またはアルケニル置換ピリジニウム誘導体が使用される。分子成分としてピリジニウム誘導体を基礎とする第4アンモニウム化合物を有する光沢剤を選択することは、極めて好ましい。
【0019】
光沢剤は、他の分子成分として酸基を含有し、したがって、本明細書中で光沢剤は、内部塩またはベタインである。本発明の目的のためには、酸基は、記載された条件下で電解質中に主に脱プロトン化された形で存在する基である。酸基は、燐酸、ホスホン酸、硫酸、スルホン酸、カルボン酸からなる群から選択されたものに由来することができる。特に好ましいのは、光沢剤の成分としてのスルホン酸である。
【0020】
光沢剤の酸基および第4アンモニウム部分は、場合によっては置換されて存在していてよい(C1〜C8)アルキレン、(C1〜C8)アルケニレン、(C6〜C18)アリーレンによって結合されていてよい。これに関連して、1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムベタイン、1−(3−スルホプロピル)ピリジニウムベタインおよび1−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)ピリジニウムベタインからなる群から選択されたものは、極めて好ましい化合物であることが証明された。
【0021】
光沢剤は、当業者に公知の量で電解質中で使用されてよい。光沢剤の使用の価格が達成される効果によってもはや正当化されない、光沢剤の量は、上限を形成する。それによって、電解質1 l当たり1〜10000mgの量での光沢剤の使用は、好ましい。特に有利には、光沢剤は、電解質1 l当たり5〜5000mgの濃度で使用され、極めて有利には、電解質1 l当たり10〜1000mgの量で使用される。
【0022】
本発明による電解質は、浴安定性、金属の析出挙動、析出された材料の品質および電解質条件に関連してプラスの影響を有する他の成分を含有することができる。当業者にとって考慮されるこのタイプの成分には、被覆物の内部応力を減少させる薬剤、湿潤剤、導電性塩、他の光沢剤および/または緩衝剤等がこれに該当する。電解質の表面張力を減少させる添加剤として、陰イオン性湿潤剤、例えばナトリウムラウリルスルフェート、ドデシルベンゼンスルホネートナトリウム塩、ナトリウムジオクチルスルホスクシネート、非イオン性湿潤剤、例えばポリエチレングリコール脂肪酸エステルおよび/または陽イオン性湿潤剤、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミドからなる群から選択された湿潤剤を使用することができる。
【0023】
電解質の導電性および均一電着性を改善するために、硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウム、燐酸カリウムまたは燐酸ナトリウム、硝酸カリウムまたは硝酸ナトリウム、アルカンスルホン酸カリウムまたはアルカンスルホン酸ナトリウム、スルファミド酸カリウムまたはスルファミド酸ナトリウムおよびこれらの混合物からなる群から選択された導電性塩が有利に使用されることができる。
【0024】
緩衝剤として、硼酸またはホスフェート、またはカルボン酸および/またはこれらの塩、例えば酢酸、クエン酸、酒石酸、蓚酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、フタル酸からなる群から選択されたものが有利に使用されることができる。
【0025】
更に、光沢剤として、N,N−ジエチル−2−プロピン−1−アミン、1,1−ジメチル−2−ピロピニル−1−アミン、2−ブチン−1,4−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオールエトキシレート、2−ブチン−1,4−ジオールプロポキシレート、3−ヘキシン−2,5−ジオールおよびスルホプロピル化2−ブチン−1,4−ジオールまたはこれらの塩の1つからなる群から選択されたものが有利に使用されることができる。更に、基本光沢剤として、アリルスルホン酸および/またはビニルスルホン酸および/またはプロパルギルスルホン酸またはこれらのアルカリ金属塩は、電解質1 l当たり0.01〜10gの量で存在することができる。
【0026】
被覆物中の内部応力を減少させる薬剤として、イミノジスクシン酸および/またはスルファミン酸および/またはナトリウムサッカリネート(Natriumsaccharinat)からなる群から選択されたものは、有利に使用されることができる。いずれにせよ、硫酸塩または硝酸塩、炭酸水素塩または炭酸塩イオンまたは酸化物、水酸化物またはこれらの混合物を除外して無機陰イオンを有する他の析出金属塩が電解質に添加されないことは、好ましい。これは、前記系中での種々の陰イオンの過剰の蓄積を阻止するのに役立つ。それというのも、析出金属塩は、電解プロセスの経過中に添加によって補充されなければならないからである。このような方法は、再び電解質の動作寿命にプラスに作用する。析出金属塩の陰イオンが炭酸水素塩または炭酸塩イオン、または酸化物、水酸化物またはこれらの混合物からなる析出金属塩だけを使用する実施態様は、特に好ましい。
【0027】
また、本発明の対象は、パラジウムまたはパラジウム合金を金属支持体または導電性支持体上に電気化学的に析出する方法であり、この場合には、本発明による電解質が使用される。
【0028】
パラジウムまたはパラジウム合金は、前記目的のために当業者に公知の支持体上に電着されることができる。金属支持体または導電性支持体は、有利にニッケル、ニッケル合金、金、銀、銅および銅合金、鉄、鉄合金からなる群から選択されている。本発明によれば、ニッケル、または銅または銅合金は、パラジウム層またはパラジウム含有層で特に有利に被覆される。しかし、導電性プラスチックは、本発明によれば、前記方法で被覆されてもよい。
【0029】
電着の際の温度は、当業者によって任意の選択されることができる。相応して望ましい析出を行うことができる温度を設定することは、有利である。これは、20℃〜80℃の温度の場合である。好ましくは、30℃〜70℃の温度、極めて有利には、40℃〜60℃の温度に設定される。
【0030】
同様に、本発明による電解中に調節すべき電流密度は、当業者によって使用される電解装置の1つの関数として選択されることができる。電流密度は、特に0.1〜150A/dm2である。特に好ましいのは、バレルおよびラックの適用に対して0.1〜10.0A/dm2であり、高速式の適用に対して5.0〜100A/dm2である。極めて有利には、高速式の適用に対して5.0〜70A/dm2に調節され、これに対して、バレルおよびラックの適用は、極めて有利に0.2〜5A/dm2に調節される。
【0031】
本発明による方法は、有利に析出が不溶性のアノードを使用しながら行なわれるように実施される。白金との合金にされたチタンからなる不溶性アノードまたは混合酸化物アノードを使用することは、特に有利である。前記アノードは、特に有利に白金との合金にされたチタンからなるかまたはイリジウム/ルテニウム/タンタル混合酸化物で被覆されたチタンまたはニオブまたはタンタルからなる不溶性アノードである。黒鉛または安定した特殊鋼からなるアノードも可能である。
【0032】
同様に、本発明の対象は、有利に本発明による方法に使用可能で適合した特殊なパラジウム塩である。このパラジウム塩は、2価パラジウム陽イオン、1つ以上の二座、三座または四座の有機アミン配位子および炭酸塩陰イオンまたは2個の炭酸水素塩陰イオンまたは水酸化物陰イオン、またはこれらの混合物からなるパラジウム錯体化合物である。この場合、ジアミン、トリアミンまたはテトラアミンを基礎とする多座の配位子を使用することは、好ましい。この場合、特に好ましいのは、2〜11個のC原子を有するものである。エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、トリメチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミンからなる群から選択された配位子を使用することは、殊に好ましい。これに関連して、エチレンジアミン(EDA)は、極めて好ましい。
【0033】
新規のパラジウム−エチレンジアミン化合物は、テトラアミンパラジウム(II)炭酸水素塩[Alfa Aesar Kat,-No.45082]をエチレンジアミンとモル比[Pd]:[エチレンジアミン]=1:1.0〜3.0、特に1:1.5〜2.5、特に有利に1:2.0〜2.1で次の方程式により製造することができる。反応温度は、特に20〜95℃、特に有利に40〜90℃、殊に有利に60〜80℃である。
[(NH34Pd](HCO32+2EDA→[(EDA)2Pd](HCO32+4NH3
この場合には、アンモニアとエチレンジアミンとの配位子交換が行なわれる。遊離されたアンモニアは、部分的に直接に溶液から逃出するか、または引続き空気または不活性ガス、例えば窒素を吹き込むことによって駆出される。このプロセスを促進するために、付加的に真空に印加することができる。別の本発明による錯体は、同様に製造されることができる。
【0034】
例えば、ビス(エチレンジアミノ)パラジウム(II)炭酸水素塩としてのパラジウム20g/l、硫酸ニッケル(II)としてのニッケル16g/lおよびエチレンジアミン50g/lを有する、本明細書中に記載された発明の電解質中で、光沢剤1−(3−スルホプロピルピリジニウムベタイン)または1−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピルピリジニウムベタイン)は、50〜500mg/lの量でなかんずく低い電流密度の範囲内で高光沢の被覆の析出を可能にする。更に、1−(3−スルホプロピルピリジニウムベタイン)または1−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピルピリジニウムベタイン)を使用することによって、電解質1 l当たり2gまでの高い濃度で使用可能な電流密度範囲は、拡張される。即ち、高速の析出に対して記載された電解質において、100A/dm2までの電流密度を使用することができる。
【0035】
1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムベタインを最も微少量で添加した場合には、さらに、例えば記載された電解質中でのビス(エチレンジアミノ)パラジウム(II)炭酸水素塩の好ましい作用に対する指摘が示される。既に10ppmで鏡面光沢を有する、応力が少なく、ひいては高延性の被覆を析出することが可能であるが、しかし、米国特許第5415685号明細書の記載と同様に、スルホン酸を付加的に使用することはない。
【0036】
更に、1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムベタイン約100〜200ppmを使用することによって、極めて緻密なパラジウムまたはパラジウム合金被覆を析出することは可能である。30μmまでの厚さの層は、高光沢を有し、亀裂を含まず、および極めて延性である。
【0037】
エチレンジアミンを基礎とする新規のパラジウム−ニッケル電解質を用いた場合には、同様にアンモニアおよび塩化物は、回避され、それによって、ヒトに対する危険の潜在性および臭いの負荷ならびにプラントの腐蝕は、明らかに減少される。エチレンジアミンを基礎とするこれまでのアンモニウム不含および塩化物不含の方法の欠点は、回避される。殊に、パラジウムおよびニッケルに対する対イオンとしての炭酸塩または炭酸水素塩の使用は、動作寿命の延長を可能にする。使用された陰イオンは、例えば3〜5.5の適用されたpH範囲内で不安定であり、二酸化炭素および水酸化物に金属塩を添加した際に直ちに崩壊する。易揮発性のCO2は、電解質から逃出し、即ち浴密度の上昇に貢献しない。電解質が電解質中のpH値を僅かに減少させる間に、それによって、炭酸の崩壊の際に生じる水酸化物イオンのアルカリ性の作用は、補償される。動作中のpH値は、こうして意外なことに他の本発明によるパラジウム塩の添加によって自動的に一定に維持される。これとは異なり、殊に硫酸塩の場合には、金属含量の補充の際に進行する浴動作中に浴密度は、最終的に塩の濃度が最大値を達成し、および電解質がもはや安定でなくなるまで、次第に上昇される。この事実は、引用された公知技術水準の背景から容易に推考できるものではない。
【実施例】
【0038】
電解質の例
5 lのビーカー中で、4 lの脱イオン水中に電解質の記載された成分を溶解する。引続き、黄銅薄板上に記載された電解質条件下でパラジウムまたはパラジウム合金を析出する。
【0039】
第1の実施例−電解質
組成:
パラジウム80質量%を有するPdNi層を析出するための電解質は、例えば次の組成を有する:
高速析出のための電解質:
ビス(エチレンジアミノ)パラジウム(II)炭酸水素塩としてのPd 20g/l
硫酸ニッケル(II)としてのNi 16g/l
EDA エチレンジアミン50g/l
1−(3−スルホプロピル)ピリジニウムベタイン500mg/l
析出パラメーター:
温度:60℃
pH値:5.0
電流密度:5〜70A/dm2
析出速度:26mg/アミン
支持体:場合によっては下方にニッケルを有する銅または銅合金
アノード:Pt/Ti
【0040】
得られた被覆(2μm)は、記載された電流密度の範囲内で均一に光沢を有し、明色で延性で亀裂を含まず、80〜83%の比較的一定のPd含量を有する。
【0041】
第2の実施例−電解質
めっきラックを用いる使用のための電解質:
ビス(エチレンジアミノ)パラジウム(II)炭酸水素塩としてのPd 10g/l
硫酸ニッケル(II)としてのNi 8g/l
エチレンジアミン 30g/l
1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムベタイン 100mg/l
析出パラメーター:
温度:60℃
pH値:5.0
電流密度:0.5〜5A/dm2
析出速度:26mg/アミン
支持体:場合によっては下方にニッケルを有する銅または銅合金
アノード:Pt/Ti
【0042】
得られた被覆(2μm)は、記載された電流密度の範囲内で均一に光沢を有し、光り輝く明色で極めて延性で亀裂を含まず、80〜83%の比較的一定のPd含量を有する。
【0043】
第3の実施例−エチレンジアミン(EDA)での配位子交換によるテトラアミンパラジウム(II)炭酸水素塩とエチレンジアミンとの反応
装置:
三口フラスコ、攪拌機、ヒーター、温度計、還流冷却器、pH電極
出発物質:
【表1】

モル比Pd:EDA=1:2.07
【0044】
使用された化学薬品の品質:
Alfa Aesar社のテトラアミンパラジウム(II)炭酸水素塩(製品No.45082)合成のためのエチレンジアミン99%(例えば、Merck社 No. 800947)
【0045】
Pd100gを含有する最終容量1 lのための方法:
1.反応容器中への脱イオン水500mlの装入
2.水中へのエチレンジアミンの添加(pH11.5〜12)
3.テトラアミンパラジウム(II)炭酸水素塩の少量ずつの添加、50℃を上廻る温度上昇。金色がかった黄色の溶液が形成する。全体量のパラジウム塩の添加後、pHは、約10.5である。
4.80℃に加熱し、1時間反応させる。加熱時に、溶液の色は、金色がかった黄色から緑がかった黄色に変化する。黒色の粒子によって僅かな混濁が発生する。
5.この混合物を50℃に冷却させる。
6.No.6のガラス繊維フィルターによる濾過:フィルター上での僅かな黒色残留物、強力なアンモニア臭を有する明黄色の溶液。
7.前記溶液を圧縮空気を導通させ、アンモニア濃度を減少させる。
8.脱イオン水を用いて最終容量に調節する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムまたはパラジウム合金を金属支持体または導電性支持体上で電気化学的に析出するための水性電解質において、この水性電解質が析出すべき金属イオンの有機オリゴアミン錯体を対イオンとしての酸化物水酸化物、水酸化物、炭酸水素塩および/または炭酸塩との前記錯体の塩の形で含有することを特徴とする、パラジウムまたはパラジウム合金を金属支持体または導電性支持体上で電気化学的に析出するための水性電解質。
【請求項2】
電解質がパラジウムを1〜100g/lの濃度で含有する、請求項1記載の電解質。
【請求項3】
電解質がさらにニッケル、コバルト、鉄、インジウム、金、銀または錫およびこれらの混合物からなる群から選択された析出すべき金属イオンを可溶性塩の形で含有する、請求項1または2記載の電解質。
【請求項4】
電解質がさらに析出すべき金属イオンを、電解質に対して50g/l以下の濃度で含有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の電解質。
【請求項5】
有機オリゴアミンが2〜11個のC原子を有するジアミン誘導体、トリアミン誘導体またはテトラアミン誘導体である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の電解質。
【請求項6】
電解質中の有機オリゴアミンの量が電解質1 l当たり0.1〜5モルの間で変動する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の電解質。
【請求項7】
電解質のpH値が3〜7である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の電解質。
【請求項8】
電解質が第4アンモニウム基と酸基とからなる内部塩を基礎とする光沢剤を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の電解質。
【請求項9】
1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムベタイン、1−(3−スルホプロピル)ピリジニウムベタイン、1−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)ピリジニウムベタインからなる群から選択された1つ以上の化合物が光沢剤として使用されている、請求項8記載の電解質。
【請求項10】
光沢剤が電解質1 l当たり1〜10000mgの量で存在する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の電解質。
【請求項11】
硫酸塩または硝酸塩、炭酸水素塩または炭酸塩イオンまたは酸化物、水酸化物またはこれらの混合物を除外して無機陰イオンを有する他の析出金属塩が電解質に添加されていない、請求項1から10までのいずれか1項に記載の電解質。
【請求項12】
パラジウムまたはパラジウム合金を金属支持体または導電性支持体上で電気化学的に析出させる方法において、請求項1から11までのいずれか1項に記載の電解質を使用することを特徴とする、パラジウムまたはパラジウム合金を金属支持体または導電性支持体上で電気化学的に析出させる方法。
【請求項13】
金属支持体が、ニッケル、ニッケル合金、金、銀、銅および銅合金、鉄、鉄合金からなる群から選択されている、請求項12記載の電解質。
【請求項14】
20℃〜80℃の温度で作業する、請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
析出のために電流密度を0.1〜150A/dm2に調節する、請求項12から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
析出を不溶性アノードを使用して実施する、請求項12から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
2価パラジウム陽イオン、1つ以上の二座、三座または四座のアミン配位子および炭酸塩陰イオンまたは2個の炭酸水素塩陰イオンまたはこれらの混合物からなるパラジウム錯体化合物。

【公表番号】特表2011−520036(P2011−520036A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507793(P2011−507793)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003667
【国際公開番号】WO2009/135505
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(507237679)ユミコア ガルヴァノテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (10)
【氏名又は名称原語表記】Umicore Galvanotechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Klarenbergstrasse 53−79, 73525 Schwaebisch Gmuend, Germany
【Fターム(参考)】