説明

R−T−B系焼結磁石

【課題】高い磁気特性を維持し、かつ、重希土類元素の使用量を削減したR−T−B系焼結磁石を提供すること。
【解決手段】R−T−B系焼結磁石であって、主相粒子と粒界相を有し、前記主相粒子は、コア部とシェル部を含み、前記コア部の主相LR(2−x)HR14B(LR:Ndを必須とし、Y、La、Ce、Pr、Smの1種または2種以上を含む軽希土類元素、HR:Dyまたは/およびTbを必須とし、Gd、Ho、Er、Tm、Yb,Luの1種または2種以上を含む重希土類元素、T:Feまたは/およびCoを必須とし、Mn、Niの1種または2種を含む、B:(ホウ素、一部C(炭素)で置換されているものを含む))においてx=0.00〜0.07であり、前記シェル部の主相LR(2−x)HR14Bにおいてx=0.02〜0.40であり、かつ前記シェル部の最大厚みが7nm〜100nmであることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−T−B(RはY(イットリウム)および希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素、Bはホウ素、一部C(炭素)で置換されているものを含む)系焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類永久磁石の中でもR−T−B系焼結磁石は、磁気特性に優れていることから、各種電気機器に使用されている。ところが、優れた磁気特性を有するR−T−B系焼結磁石にもいくつかの解消すべき技術的な課題がある。その一つが、熱安定性が低いために温度上昇に伴う保磁力の低下が著しいということである。このため、Dy、Tb、Hoに代表される重希土類元素を添加することにより室温の保磁力を高めることで、温度上昇によって保磁力が低下しても使用に支障をきたさない程度に維持できるようにすることが、例えば、特許文献1(特公平5−10806号公報)に開示されている。これらの重希土類元素を添加したR14B化合物は、Nd、Pr等の軽希土類元素を用いたR14B化合物よりも異方性磁界が高く、高い保磁力を得ることができる。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、R14B化合物からなる主相結晶粒子と、この主相よりRを多く含む粒界相とを少なくとも含む焼結体から構成される。特許文献2(特開平7−122413号公報)及び特許文献3(国際公開番号WO2006/098204)には、磁気特性への影響が大きい主相結晶粒子における重希土類元素の最適な濃度分布及びその制御方法についての開示がある。
【0004】
特許文献2は、R14B化合物(Rは希土類元素の1種又は2種以上、Tは遷移金属の1種又は2種以上)を主体とする主相と、Rリッチ相(Rは希土類元素の1種又は2種以上)とを主構成相とする希土類永久磁石において、この主相粒子内で重希土類元素を少なくとも3ヵ所高濃度に分布させることを提案している。特許文献2のR−T−B系焼結磁石は、R14B化合物を主構成相とするR−T−B系合金と、重希土類元素を少なくとも1種含有するR−T共晶の面積率が50%以下であるR−T系合金をそれぞれ粉砕・混合後、成形、焼結することにより得られるとしている。このR−T−B系合金はR14B化合物を主構成相とするのが望ましく、27wt%(mass%)≦R≦30wt%(mass%)、1.0wt%(mass%)≦B≦1.2wt%(mass%)、T:balの組成とすることを推奨している。
【0005】
特許文献3は、R14B化合物を主体とし、かつ、重希土類元素としてのDy及びTbの少なくとも1種、並びに軽希土類元素としてのNd及びPrの少なくとも1種を含有し、内殻部と、内殻部を囲む外殻部とを含むコア・シェル構造を有する結晶粒子において、内殻部における重希土類元素の濃度が外殻部の周縁よりも10%以上低く、その結晶粒子の周縁から内殻部までの最短の距離をL、結晶粒子の円相当径をrとしたとき、(L/r)aveが0.03〜0.40の範囲にあり、その断面において、焼結体を形成している全結晶粒子の粒子数に対する前記コア・シェル構造を有する結晶粒子の粒子数の割合が20%以上とすることで高い残留磁束密度及び高い保磁力を兼備するR−T−B系焼結磁石が得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5−10806号公報
【特許文献2】特開平7−122413号公報
【特許文献3】国際公開番号WO2006/098204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、重希土類元素は、以前から高価であったが、近年はかつてないほどの急激な価格上昇をみせており、従来の重希土類元素の使用量では製品を製造することすら危ぶまれている。そのため、これまでの高い磁気特性を維持し、かつ、重希土類元素の使用量を削減したR−T−B系焼結磁石が強くもとめられている。
【0008】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、これまでの高い磁気特性を維持しながら、重希土類元素の使用量を削減したR−T−B系焼結磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的のもと、本発明のR−T−B系焼結磁石は、主相粒子と粒界相を有し、前記主相粒子は、重希土類元素の含有量が相対的に高いコア部と重希土類元素の含有量が相対的に低いシェル部を含み、前記コア部の主相LR(2−x)HR14B(LR:Ndを必須とし、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジウム)、Sm(サマリウム)の1種または2種以上を含む軽希土類元素、HR:Dy(ジスプロシウム)または/およびTb(テルビウム)を必須とし、Gd(ガドリニウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム),Lu(ルチウム)の1種または2種以上を含む重希土類元素、T:Fe(鉄)または/およびCo(コバルト)を必須とし、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)の1種または2種を含む、B:(ホウ素、一部C(炭素)で置換されているものを含む))においてx=0.00〜0.07であり、前記シェル部の主相LR(2−x)HR14Bにおいてx=0.02〜0.40であり、かつ前記シェル部の最大厚みが7nm〜100nmであることを特徴とする。
好ましくは、前記主相粒子の2粒子粒界の粒界相において、R(RはY(イットリウム)および希土類元素の1種又は2種以上)が10〜30at%であり、T(Fe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属)が65〜85at%であって、Cuが0.70〜4.0at%、Alが0.07〜2.0at%、である。
また、より好ましくは、前記LRはNdまたは/およびPrであり、HRはDyまたは/およびTbである。
また、より好ましくは、前記主相粒子全体に占めるコア部の体積比率が90.0%以上である。
また、より好ましくは前記R−T−B系焼結磁石の組成は、LRが29.4〜31.5mass%、HRが0.15〜0.65mass%、Alが0.03〜0.40mass%、Coが0.03〜1.10mass%、Cuが0.03〜0.18mass%、Bが0.75〜1.25mass%、残部がFeである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い磁気特性を維持しながら、重希土類元素の使用量を削減したR−T−B系焼結磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明によるコア部とシェル部をもった主相粒子の模式図を示す図である。
【図2】図2は、実施例1、実施例2、実施例3、および、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4のDy含有量に対する得られたHcJの数値を示す図である。
【図3】図3は、実施例1、実施例2、実施例3、および、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4のDy含有量に対する得られたBrの数値を示す図である。
【図4】図4は、実施例1、実施例2および実施例3の、STEM−EDSによる2粒子粒界から主相粒子内の方向でのDyとNdの濃度変化を示す図である。
【図5】図5は、実施例1の、アトムプローブ解析による2粒子粒界近傍でのDyとNdの濃度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<構造>
本発明のR−T−B系焼結磁石は、主相LR(2−x)HR14B(LR:Ndを必須とし、Y、La、Ce、Pr、Smの1種または2種以上を含む軽希土類元素、HR:Dyまたは/およびTbを必須とし、Gd、Ho、Er、Tm、Yb,Luの1種または2種以上を含む重希土類元素、T:Feまたは/およびCoを必須とし、Mn、Niの1種または2種を含む、B:(ホウ素、一部C(炭素)で置換されているものを含む))を主相とする主相粒子と、R(RはY(イットリウム)および希土類元素の1種又は2種以上)、およびT(TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上)を主組成とする粒界相とから構成される。さらに、主相粒子は、主相LR(2−x)HR14Bがx=0.00〜0.07の範囲であるコア部と、主相LR(2−x)HR14Bがx=0.02〜0.40の範囲であるシェル部から形成された構造をもつ。
図1はコア部2とシェル部3をもつ本発明の主相粒子1の模式図を示している。このコア部2はシェル部3に比べHR濃度が低い。シェル部の最大厚み4は、観察した主相粒子1のシェル部において最大の厚みをとる。
【0013】
逆磁区発生の起点となる主相粒子と粒界相との界面近傍で、主相LR(2−x)HR14Bのxを大きくし、主相LR(2−x)HR14Bの異方性磁界を高めることで、保磁力(HcJ)を高めることができるが、主相のHR含有量が多いほど、その飽和磁化が低下し、磁石の磁力強さを表す残留磁束密度(Br)も低下する。そのため、HcJへの影響が小さい主相粒子のコア部ではHRを少なくし、そのコア部の磁石全体に対する体積比を多くすることで、Brを高く維持することができる。このような理由から、本発明のR−T−B系焼結磁石において、高いBrを維持しつつHcJを大きく向上させる観点から、主相LR(2−x)HR14Bでx=0.00〜0.07の範囲にあるコア部の体積比が90.0%以上であることが望ましい。
【0014】
<組成>
本発明のR−T−B系焼結磁石において、主相粒子のコア部の主相LR(2−x)HR14Bのxは、好ましくは、0.00〜0.02であり、主相粒子のシェル部の主相LR(2−x)HR14Bのxは、好ましくは0.20〜0.40の範囲である。本発明のR−T−B系焼結磁石において、主相粒子のコア部のHR量を少なくすることでBrを高く維持でき、シェル部のHR量を多くすることでHcJを大きく向上することができるが、主相粒子のコア部の主相LR(2−x)HR14Bのxが0.00〜0.02であると、解析の誤差を含めて、コア部にHRが含まれておらず、Brを十分に高くすることができ、主相粒子のシェル部の主相LR(2−x)HR14Bのxが0.20〜0.40であると、シェル部にHRを多く含ませた状態にでき、HcJの向上が大きくできる。
【0015】
本発明のR−T−B系焼結磁石においては、前記主相粒子の2粒子粒界の粒界相において、R(RはY(イットリウム)および希土類元素の1種又は2種以上)が10〜30at%であり、T(Fe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属)が65〜85at%であることで、2粒子粒界の粒界相と主相粒子の界面における、RとTを含有する前記粒界相の濡れ性を維持することができる。また、前記粒界相にCuが0.70〜4.0at%、Alが0.07〜2.0at%、の範囲で含まれることで、RとTを含有する前記粒界相の濡れ性をさらに改善して、保磁力をより向上させることができる。
前記2粒子粒界の粒界相は、粒界相のうち、隣り合う2つの主相粒子の間に存在し、RならびにTを主組成とする相、および組成によっては針状や板状の析出物を有する、幅数nm程度の領域で、粒界3重点とは区別される。
【0016】
本発明のR−T−B系焼結磁石において、主相粒子の主相LR(2−x)HR14BのLRは、原材料コストおよび磁気特性観点から、Ndまたは/およびPr、HRはDyまたは/およびTbであることが望ましい。
【0017】
本発明のR−T−B系焼結磁石において、主相粒子の主相LR(2−x)HR14BのBについては、Bの一部をCにより置換することで、主相の異方性磁界が高まるので、保磁力の向上につながるが、Cの量が多すぎると粒界相の希土類元素と炭化物を形成する反応が顕著になり、粒界相の希土類元素量が不足して保磁力は低下する。さらに、粒界相の希土類元素量が低下すると、本発明で使用した高融点コーティングした添加合金との反応が阻害され、本発明が目的とするコア部とシェル部をもつ主相粒子の形成が困難となる。これらの観点から、Bの含有量は0.75〜1.25mass%の範囲であることが望ましい。
【0018】
本発明のR−T−B系焼結磁石において、添加元素として、Si(珪素)、Ga(ガリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Ag(銀)、Sn(錫)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Au(金)、Bi(ビスマス)などが含有されてもよい。また、不可避の不純物として、微量のCa(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)、300〜1200ppmのO(酸素)、100〜900ppmのN(窒素)を含んでもよい。さらにCについては、主相粒子の主相LR(2−x)HR14Bにおいて、Bの一部を置換する元素ではあるが、希土類元素と炭化物を形成しやすいため、500〜2300ppmの範囲であることが望ましい。
【0019】
<製造方法>
本発明のR−T−B系焼結磁石は、好適には原料合金が1種類の1合金法、および原料合金が2種類の2合金法において、前記原料合金とは別に準備された、HRを含有し、表面を高融点成分によりコーティングされた化合物粉を、原料合金の微粉砕粉にごく少量添加して成形体を作製し、前記成形体の焼結工程において、原料合金の微粉砕粉のみでの焼結に対し、高温でごく短時間の焼結過程を、冷却を挟まずに行うことで得られる。
【0020】
本発明のR−T−B系焼結磁石の原料合金は、主相LR(2−x)HR14Bを形成させるために、R(Y(イットリウム)および希土類元素の1種又は2種以上)、T(Fe又はFe及び Coを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)、B(ホウ素、一部C(炭素)で置換されているものを含む)を含む組成からなる。組成は、R:26.5〜35.0mass%、T:63.75〜72.65mass%、B:0.75〜1.25mass%の範囲であることが望ましい。また、第2合金を用いる2合金法により、本発明のR−T−B系焼結磁石を作製することでより高いBrを維持できることから、2合金法で行うことが望ましい。2合金法の場合、第2合金は、R:29.0〜60.0mass%、T:40.0〜71.0mass%の範囲にあることが望ましく、主相を含む第1合金と混合する場合、その混合比(第1合金/第2合金)は0.97/0.03から0.70/0.30の範囲で、高い磁気特性を得る観点から、0.95/0・05から0.80/0.20が好ましく、0.95/0.05から0.85/0.25であることがより好ましい。
【0021】
原料合金は、インゴット、ストリップキャスト、遠心鋳造などで作製することができる。
【0022】
前記原料合金の組成範囲から、作製される本発明のR−T−B系焼結磁石の組成は、LRが29.4〜31.5mass%、HRが0.15〜0.65mass%、Alが0.03〜0.40mass%、Coが0.03〜1.10mass%、Cuが0.03〜0.18mass%、Bが0.75〜1.25mass%、残部がFeの範囲であり、不可避不純物として、O:0.03〜0.12mass%、N:0.01〜0.09mass%、C:0.05〜0.23mass%となる。また、AlとCu以外の添加元素として、Si(珪素)、Ga(ガリウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Ag(銀)、Sn(錫)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Au(金)、Bi(ビスマス)などが含有されてもよい。
【0023】
原料合金は別々に又は一緒に粉砕される。粉砕工程は、一般に粗粉砕工程と微粉砕工程とに分けられる。まず、粗粉砕工程において原料合金は、粒径数百μm程度になるまで粉砕される。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行なうことが望ましい。粗粉砕性を向上させるために、水素の吸蔵・放出処理をさせた後、粗粉砕を行なうことが効果的である。
【0024】
粗粉砕工程後、微粉砕工程に移る。粒径数百μm程度の粗粉砕粉は、平均粒径2〜8μmになるまで微粉砕される。微粉砕には窒素やアルゴンなど不活性ガスを粉砕ガスとするジェットミルを用いることができる。微粉砕時にステアリン酸亜鉛やオレイン酸アミド等の添加剤を0.01〜0.25mass%程度添加することにより、成形時の配向性を向上することができる。R−T−B系焼結磁石では、主相粒子の粒径を微細な焼結組織とすると、主相粒子個々の反磁界が小さくなり磁化状態が安定化してHcJが向上する。この微細な焼結組織を作製するには、微粉砕粉の粒径を微細化して使用することが最も一般的な方法である。しかしながら、ジェットミルの粉砕ガスとして窒素を使用する場合は、粗粉砕粉が微粉砕されていく過程でRと窒素が反応し焼結に必要なRリッチな液相成分が不足しかねないため、粉砕粒径として3μm以上、好ましくは4μm以上とすることがよい。平均粒径2〜3μm未満に微粉砕する場合はRと反応しないアルゴンを粉砕ガスとするとよい。平均粒径2μm未満まで微粉砕した微粉砕粉を使用するとさらに大きなHcJが期待できるが、アルゴンを粉砕ガスとすると粉砕効率が低いため材料歩留まりが低下し好ましくない。一般に2μm未満のきわめて微細な微粉砕粉を高い材料歩留まりで作製する場合は、粉砕ガスに希土類に対し不活性かつ粉砕効率が高いヘリウムを使用するが、ヘリウムはきわめて高価でプロセスコストが大きくなるため量産に適用するのは難しい。一方、微粉砕粉の粒径が大きくなり過ぎると製品として使用するのに十分高いHcJが得られ難くなるので、平均粒径は8μm以下が適当である。そのため、磁気特性と量産でのプロセスコストのバランスを考慮した微粉砕粉の平均粒径は2〜8μmがよい。
【0025】
前記微粉砕を行った微粉に、HRを含有し、表面を高融点成分によりコーティングされた添加化合物粉を添加し、混合を行う。混合にはナウタミキサー、プラネタリミキサーなどを用いることができる。
添加する添加化合物粉は、HRを25.0mass%以上で含有することが必須とする。HRの含有量が25.0mass%よりも少な過ぎると、十分なHcJ向上の効果が得られなかったり、R−T−B系焼結磁石の焼結において緻密化を阻害する成分や、磁気特性、特にHcJを低下させる成分の影響が顕著になる。HRを含有する化合物として、HR単体、ハロゲン化物、水素化物、合金などが利用できる。
コーティング層に使用する高融点成分としては、焼結において容易に溶解しない程度の融点が必要となる。また、焼結中に発生するRリッチな液相成分との濡れ性が低い層であれば、添加化合物の反応開始を焼結温度により制御し易くなるので好ましい。コーティング層の例としては、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ハフニウム、炭化タングステンなどがある。コーティングの方法としてはPVD、CVD、蒸着法、HR化合物表面に化学反応を利用して形成するなど、使用するコーティング層の成分に適したコーティング方法を選択すればよい。
また、コーティング層の厚みに特に制限はないが、焼結において容易に反応して溶解したり、あるいは反応し切らないまま残ることがない程度の厚みがよい。コーティング層の成分に含まれる元素について、炭素、窒素などはR−T−B系焼結磁石の組織においては不純物として磁気特性の低下につながりやすく、ホウ素も過剰に存在すると粒界にFeBなど軟磁性相あるいは非磁性相を形成して磁気特性の低下につながる。そのため、過剰に厚いコーティング層を形成することは避けることが好ましい。使用する成分により変わるが、コーティング層の厚みとしては100nm〜1μm未満の層が形成できれば十分である。
【0026】
続いて、原料合金の混合粉末を磁場中成形する。この磁場中成形は、窒素やアルゴンなど不活性ガス雰囲気にて、酸素濃度を100ppm未満として行い、原料合金の微粉砕粉の酸化を防ぐ。配向磁場については、12〜17kOe(960〜1360kA/m)で、成形圧については、0.7〜2.0tonf/cm2(70〜200MPa)程度で行なえばよい。
【0027】
続いて、前記磁場中成形で得られた成形体を真空中または不活性ガス雰囲気中にて焼結を行う。焼結過程開始から途中までは、原料合金組成、微粉粒径など、添加化合物粉が無い場合での適正な焼結温度を含めた条件で行い、この温度での加熱から冷却に移る前に、添加化合物粉が無い場合での適正な焼結温度よりも高温まで急昇温し、短時間維持する過程を組み入れる。
この高温過程により、前記適正な焼結温度では反応が抑制されていた高融点成分にコーティングされた添加化合物粉と、Rリッチな液相成分との反応を促進させ、主相粒子の粒界近傍で主相のLRをHRで置換させる。この高温過程の温度は、多数の成形体を焼結する場合の均熱と添加化合物粉からのHR放出のバランスを考慮し、前記適正な焼結温度に対し40℃〜80℃高い温度範囲とすることが好ましい。
昇温速度は8〜20℃/分が好ましく、これより遅い場合は添加化合物粉のHRの主相内への拡散が進行し過ぎてBr低下が顕著になる恐れがある。また、昇温速度がこれより速い場合は、均熱がとりにくくなって、磁石表面での異常粒成長が急速に促進され、1つの焼結体内および焼結炉内の位置が異なる焼結体でHcJのばらつきが無視できなくなり、磁気特性および生産安定性を悪化させる恐れがある。また、維持時間は60分以下が好ましく、これより長時間となると異常粒成長が促進してHcJ低下が顕著となる。焼結過程でサブナノサイズのきわめて微細な主相粒子が溶解−再析出によって大きな主相粒子に取り込まれて無くなるが、ジェットミルで粉砕した微粉砕粉の粒度分布では少ない存在量なので、過剰な粒成長が起きない適切な焼結条件で作製した焼結体では主相粒子の平均粒径は使用した微粉砕粉の平均粒径とほぼ同じ大きさと考えてよい。
【0028】
次に、得られた焼結体を、焼結温度よりも低温で熱処理する時効処理を行う。時効処理は、真空中または不活性ガス雰囲気中にて430〜630℃で30分〜180分程度で行う。また、時効処理を2段過程で行うと、1段過程よりさらにHcJが向上するため好ましい。時効処理を2段過程で行う場合、1段目は2段目よりも高温とするとよく、真空中または不活性ガス雰囲気中にて650〜950℃で30分〜180分程度で行う。また、より均一なシェル部をもつ主相粒子を、磁石全体で数多く形成させる観点から、1段目を700〜800℃で60分〜180分程度、または、850〜950℃で30分〜50分程度の条件で行うことが好ましい。
【0029】
本発明のR−T−B系焼結磁石は、前記微粉砕を行った微粉に、HRを含有し高融点成分によりコーティングされた添加化合物粉を添加する方法だけによらず、焼結体表面にHRを含有する粉末を付着、あるいはHRを含有する層を成膜して熱処理する粒界拡散法によって形成してもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づいて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0031】
<実施例1>
表1のAとDの組成の原料合金を、ストリップキャストにて作製した。
作製した原料合金Aと原料合金Dを混合比0.95/0.05で混合し、室温にて90分間の水素吸蔵をさせた後、アルゴンガス雰囲気中で650℃×60分の脱水素処理を施して粗粉砕を行った。
原料合金の粗粉砕粉に粉砕助剤としてオレイン酸アミドを0.10mass%添加した。その後、高圧窒素ガスを用いたジェットミルによる微粉砕を行い、平均粒径4.0μmの微粉砕粉を得た。
【0032】
【表1】

【0033】
表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を、Gの組成に合わせたインゴットを高周波溶解し、その溶湯をロール急冷にて薄帯とし作製した。作製した薄帯を乾式メディア粉砕にて平均粒径10μm未満の粉とし、その表面へ立方晶系窒化ホウ素(c−BN)の板をターゲットとして、被コーティング粉を震動で緩やかに攪拌しながらスパッタ処理を行い、c−BNコーティング層を形成した。
前記コーティングした化合物粉を、前記原料合金の微粉砕粉へ0.25mass%で添加し、小型のナウタミキサーにて混合を行った。
次に、化合物粉と混合した微粉砕粉を、窒素ガス雰囲気中にて、15kOe(1200kA/m)の磁場中で1.5tonf/cm2(150MPa)の圧力で成形して成形体を得た。
【0034】
得られた成形体を、10−2Pa以下の減圧雰囲気中にて、初めに1010℃にて100分間の焼結を行い、冷却を挟まずに、10℃/分で1070℃まで昇温し、20分間維持を行い、アルゴンガス加圧により急速冷却を行った。
続いて、得られた焼結体を、大気圧アルゴンガス雰囲気中にて780℃/90分の熱処理(1段目時効処理)を行い、冷却後、大気圧アルゴンガス雰囲気中にて540℃/90分の熱処理(2段目時効処理)を行い、評価試料を作製した。
【0035】
得られた評価試料は、BHトレーサーにて磁気特性を評価し、STEM−EDSとアトムプローブ解析にて構造の評価を行った。また、焼結体の組成については、蛍光X線定量分析にて分析し確認した。
【0036】
<実施例2>
表1のAとDの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を、実施例1と同様に準備し、原料合金の微粉砕粉へ0.80mass%で添加し、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0037】
<実施例3>
表1のBとDの組成の原料合金を用いることを除き、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0038】
<実施例4>
表1のBとDの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のGの組成を含む合金の化合物を、実施例1と同様に準備し、原料合金の微粉砕粉へ0.40mass%で添加し、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0039】
<実施例5>
表1のAとDの組成の原料合金を、実施例1と同様に粗粉砕まで行い、粉砕助剤としてオレイン酸アミドを0.10mass%添加して、高圧アルゴンガスを用いたジェットミルによる微粉砕を行い、平均粒径2.0μmの微粉砕粉を得た。
【0040】
表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を、実施例1と同様に準備し、原料合金の微粉砕粉へ0.25mass%で添加し、小型のナウタミキサーにて混合を行った。その後、窒素ガス雰囲気中にて、15kOe(1200kA/m)の磁場中で1.5tonf/cm2(150MPa)の圧力で成形して成形体を得た。
【0041】
得られた成形体を、10−2Pa以下の減圧雰囲気中にて、初めに940℃にて100分間の焼結を行い、冷却を挟まずに、8℃/分で980℃まで昇温し、20分間維持を行い、アルゴンガス加圧により急速冷却を行った。
続いて、得られた焼結体を、大気圧アルゴンガス雰囲気中にて780℃/90分の熱処理(1段目時効処理)を行い、冷却後、大気圧アルゴンガス雰囲気中にて540℃/90分の熱処理(2段目時効処理)を行い、評価試料を作製した。
【0042】
<実施例6>
表1のAとDの組成の原料合金を、実施例1と同様に粗粉砕まで行い、砕助剤としてオレイン酸アミドを0.10mass%添加して、高圧アルゴンガスを用いたジェットミルによる微粉砕を行い、平均粒径3.0μmの微粉砕粉を得た。その後、表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を、実施例1と同様に準備し、原料合金の微粉砕粉へ0.25mass%で添加し、小型のナウタミキサーにて混合を行った。その後、窒素ガス雰囲気中にて、15kOe(1200kA/m)の磁場中で1.5tonf/cm2(150MPa)の圧力で成形して成形体を得た。
【0043】
得られた成形体を、10−2Pa以下の減圧雰囲気中にて、初めに1000℃にて100分間の焼結を行い、冷却を挟まずに、10℃/分で1040℃まで昇温し、20分間維持を行い、アルゴンガス加圧により急速冷却を行った。
続いて、得られた焼結体を、大気圧アルゴンガス雰囲気中にて780℃/90分の熱処理(1段目時効処理)を行い、冷却後、大気圧アルゴンガス雰囲気中にて540℃/90分の熱処理(2段目時効処理)を行い、評価試料を作製した。
【0044】
<実施例7>
表1のJとDの組成の原料合金を用いることを除き、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0045】
<実施例8>
表1のHとDの組成の原料合金を用いることを除き、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0046】
<実施例9>
表1のIとDの組成の原料合金を用いることを除き、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0047】
<実施例10>
表1のAとDの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のLの組成を含む合金の化合物を、実施例1と同様に準備し、原料合金の微粉砕粉へ0.25mass%で添加し、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0048】
<実施例11>
表1のAとDの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のMの組成を含む合金の化合物を、実施例1と同様に準備し、原料合金の微粉砕粉へ0.25mass%で添加し、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0049】
<実施例12>
表1のAとDの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のNの組成を含む合金の化合物を、実施例1と同様に準備し、原料合金の微粉砕粉へ0.30mass%で添加し、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0050】
<実施例13>
表1のAとFの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のGの組成を含む合金の化合物を、実施例1と同様に準備し、原料合金の微粉砕粉へ0.25mass%で添加し、実施例1と同様に評価試料を作製した。
<比較例1>
表1のBとDの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を添加せずに、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0051】
<比較例2>
表1のAとDの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を実施例1と同様に粉砕した後、c−BNのコーティングは形成せずに、前記原料合金の微粉砕粉へ0.25mass%で添加し、小型のナウタミキサーにて混合を行った。得られた混合粉は、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0052】
<比較例3>
表1のBとEの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を添加せずに、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0053】
<比較例4>
表1のCとEの組成の原料合金を、実施例1と同様に微粉砕まで行い、表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を添加せずに、実施例1と同様に評価試料を作製した。
【0054】
<比較例5>
表1のAとDの組成の原料合金を、実施例5と同様に微粉砕まで行い、表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を実施例5と同様に粉砕した後、c−BNのコーティングは形成せずに、前記原料合金の微粉砕粉へ0.25mass%で添加し、小型のナウタミキサーにて混合を行った。得られた混合粉は、実施例5と同様に評価試料を作製した。
【0055】
<比較例6>
表1のAとDの組成の原料合金を、実施例6と同様に微粉砕まで行い、表1のGの組成のDyを含む合金の化合物を実施例6と同様に粉砕した後、c−BNのコーティングは形成せずに、前記原料合金の微粉砕粉へ0.25mass%で添加し、小型のナウタミキサーにて混合を行った。得られた混合粉は、実施例6と同様に評価試料を作製した。
【0056】
実施例1〜13、比較例1〜6および参考例1〜7で、試料のHR含有量、BHトレーサーで評価した磁気特性、STEM−EDSおよびアトムプローブ解析の結果から見積もったxの最小値および最大値、シェル幅の最大値、焼結体の平均結晶粒径、コア部体積割合、B含有量について、表2に示した。また。蛍光X線定量分析にて確認した各試料の組成分析値を表3にまとめた。
また、実施例1〜3および比較例1〜4のHcJをDy含有量に対する変化として図2に、実施例1〜3および比較例1〜4のBrをDy含有量に対する変化として図3に示した。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
図2から、実施例1および実施例2は、それぞれほぼ同量のDyを含有する比較例1および比較例4に対し、大幅にHcJが向上していることが確認できる。つまり、同じHcJを得る場合に必要とするDy含有量が、本発明によれば大幅に削減することができることを示す。 図2、図3の参考例1は実施例1の原料合金の微粉砕粉へ、添加化合物を加えなかったときのHcJ、Brである。図2から、参考例1のHcJに対し、実施例1と実施例2では、Dy含有量がそれぞれ0.22mass%と0.61mass%の増加で、HcJは401kA/mと479kA/mの向上となっている。一方、実施例1と実施例2とほぼ同量のDyになるよう原料合金からDyを含有させた比較例1と比較例4では、Dy含有量がそれぞれ0.19mass%と0.66mass%の増加で、HcJは35kA/mと105kA/mの向上にとどまっており、本発明による実施例1と実施例2では、Dy含有によるHcJ向上の効果が顕著であることが示されている。
【0060】
また、比較例2では、表1のGの組成の添加化合物粉に、c−BNコーティングを形成せずに、原料合金の微粉砕粉へ実施例1と同量添加しており、比較例1よりも高いHcJが得られている。しかし、実施例1のHcJよりも144kA/m低く、添加化合物粉の表面にc−BNコーティング層を形成しなかったため、焼結過程で添加化合物がRリッチな液相と容易に反応して、主相粒子のコア部深くまでDy置換が進み、本発明の効果が十分に得られていない。
【0061】
図3では、実施例1は、ほぼ同量Dyを含有する比較例1に対し、ほぼ同等のBrとなっており、実施例2も、ほぼ同量Dyを含有する比較例4に対し、ほぼ同等のBrであり、本発明によりBrを維持しながらHcJを大きく向上させていることが示されている。
【0062】
図2および図3で、実施例1は、ほぼ同量のDyおよびほぼ同量のCoとCuを添加した比較例3に対し、HcJは149kA/m大きく、Brもほぼ同等である。CoやCuといった添加元素によってもHcJは向上させることができるが、CoとCuによるHcJ向上を差し引いても、本発明によるHcJの向上が顕著であることが示されている。
【0063】
図4では、実施例1、実施例2および実施例3のSTEM−EDSによる2粒子粒界から主相粒子内の方向でのDyとNdの濃度定量値を示すが、粒界界面から主相粒子内にかけてのDy置換範囲がもっとも大きいのは、実施例2でおよそ100nmと確認され、Dy濃度ももっとも高く、添加化合物の添加量が多いことでDy置換範囲およびその濃度が大きくなっていることを示す。
実施例3のDy置換範囲は、およそ75nmであるが、Dy濃度は実施例2より小さい。これは、主相粒子内にあらかじめDyが存在することで、主相のDy置換が抑制されていることを示すと思われる。
【0064】
比較例1、比較例2、比較例3および比較例4についても、STEM−EDSによる2粒子粒界から主相粒子内の方向でのDyとNdの濃度分布を調べたが、比較例1と比較例3ではDy置換範囲を明確に分けられるほど、Dyの明確な濃度差が確認できなかった。比較例2では、小さいがDy濃度差が確認されDy置換範囲を判断できたが、その幅は最大で1280nmと実施例に比べかなり広い。同様に比較例4でもDy置換範囲を判断できたが、その幅は最大で2120nmと実施例だけでなく、比較例2よりもさらに広いことが分かった。
【0065】
図4において、実施例2と実施例3のDy置換範囲をシェル部最大幅ととり、そのシェル部最大幅の中でのxの最小値〜最大値を見積もると、実施例2では0.09〜0.40、実施例3では0.13〜0.18であった。
また、Ndの濃度分布が、シェル部に比べほぼ一定となっている範囲をコア部ととり、そのコア部の中でxの最小値〜最大値を見積もると、実施例2では0.00〜0.03、実施例3では0.05〜0.07であった。
【0066】
比較例1、比較例2、比較例3および比較例4についても、実施例2と実施例3と同様に、シェル部とコア部のxの最小値〜最大値を見積もった。なお、比較例1と比較例3ではシェル部の判別が明確でなかったため、シェル部1000nmと仮定して、シェル部とコア部のxの最小値〜最大値を見積もった。
シェル部のxの最小値〜最大値は、比較例1が0.01〜0.02、比較例2が0.03〜0.05、比較例3が0.01〜0.02、比較例4が0.06〜0.11となった。またコア部のxの最小値〜最大値は、比較例1が0.01〜0.02、比較例2が0.01〜0.03、比較例3が0.00〜0.02、比較例4が0.04〜0.0.07となった。
【0067】
実施例1については、粒界でDyが高濃度になっているが、STEM−EDSでは主相粒子内でのDy置換範囲を明確にするに至っていない。そのため、より高分解能で定量可能なアトムプローブ解析を実施した。他の実施例についてもSTEM−EDSにてDy置換範囲を明確にできなかった場合についてアトムプローブ解析を実施した。
【0068】
図5では、実施例1のアトムプローブ解析による2粒子粒界近傍でのDyとNdの定量値を示すが、主相粒子と粒界相の界面でDy濃度が最大となり、Dy濃度が高いほどNdの濃度が低下していることから、主相粒子内でのDy置換範囲は最小で7nmであることが示されている。
Dy置換によりHcJが向上されるのは、Dyの高い異方性磁界によって逆磁区の核形成が抑制されるためであるとされるが、実施例1における7nmのDy置換範囲でも、その効果が大きく作用して高いHcJが得られている。
【0069】
実施例1について、アトムプローブ解析で確認されたDy置換範囲をシェル部最大幅ととり、そのシェル部最大幅の中でのxの最小値〜最大値を見積もると、実施例2では0.02〜0.08であった。また、Ndの濃度分布が、シェル部に比べほぼ一定となっている範囲をコア部ととり、そのコア部の中でxの最小値〜最大値を見積もると、実施例1では0.00〜0.01であった。
【0070】
実施例5および6では、微粉砕粉の粒径をそれぞれ約2μm、約3μmとして実施例4よりも微粉砕粉を微細化しており、そこへ実施例4と同様にDyを含有する合金を添加している。実施例5および6では微細焼結組織での主相粒子径もほぼそれに近い状態となっており、主相粒子のシェル部最大厚みもほぼ同じ厚みとなっている。そのため、より微細な実施例5では主相粒子のコア部体積割合がより小さくなっており、磁気特性としてはBrが低くなっているが、HcJが大きく向上しており発明の効果が現われている。
一方、比較例5および比較例6は、実施例5および実施例6で添加したDyを含有する合金の微粉砕粉にc−BNコーティングを施していないため、焼結過程において主相粒子中にDyが多量に取り込まれて厚いシェル部が形成されており、原料合金のみより作製した場合よりBrが大きく低下しているが、HcJが実施例5および実施例6ほど大きくは向上していない。
しかしながら、実施例5において、磁気特性としては大きな問題ではないが、原料合金のみの場合に対しBrの低下がやや大きくなっており、Brも十分に高く維持しながらHcJを向上させる上では主相粒子のコア部体積割合を90%以上とすることが好ましい。
【0071】
実施例7では、B含有量が0.72と少なくなっておりHcJも892kA/mと小さいが、これは原料合金のみで作製した場合のHcJが413kA/mときわめて小さいことによるもので、Dyを含む合金の添加によって479kA/mの向上がなされており、本発明による効果は得られている。
しかしながら、製品として適するHcJを得る上では原料合金のみによるもともとのHcJもある程度必要であるといえ、実施例7のようにB含有量を少なくし過ぎることはFeを含む軟磁性相を形成してHcJが低くなることにつながるため、B含有量は0.75mass%以上とすることが好ましい。
【0072】
実施例8では実施例1の原料合金のNdの全て、実施例9ではNdの一部をPrで置換した原料合金をそれぞれ使用して試料を作製しているが、Ndのみを使用している実施例1と同様に本発明による効果が得られている。
【0073】
実施例10では、実施例1で使用したDyを含有する合金のDyを全て、実施例11では半分をTbで置換した合金をそれぞれ使用して試料を作製しているが、Dyのみ含有した合金の添加よりもHcJが大きく向上している。これは、Tbで主相を構成するNdなどLRを置換した場合は、HcJに大きく影響する異方性磁界がDyで置換した場合より大きくなることによる。
【0074】
表4に実施例1、実施例7、実施例12における2粒子粒界におけるR量(Nd+Dy)、T量(Fe+Co)、Cu、Alの含有比率を示す。実施例12では、実施例1で使用したDyを含有する合金のDyの一部をAlに置換した合金を使用して試料を作製しているが、実施例1よりも大きくHcJが向上している。アトムプローブ解析から実施例12の2粒子粒界の粒界相において、NdとDyを合わせたR量が20.36at%、FeとCoを合わせたT量が73.51at%、Cuが0.93at%、Alが0.12at%であった。一方で、Dyを含有する合金にAlを含ませていない実施例1では、NdとDyを合わせた希土類が17.87at%、FeとCoを合わせたT量が77.15at%、Cuが0.71at%、Alが0.05at%であった。このことから、実施例12において実施例1よりもにHcJ向上が大きくなったのは、HcJ向上に効果のあるAlが加えられ2粒子粒界に存在したことによると考えられる。
また、実施例7について2粒子粒界のアトムプローブ解析を行ったところ、NdとDyを合わせたR量が7.39at%、FeとCoを合わせたT量が91.01at%、Cuが0.80at%、Alが0.02at%で、R量が少なくなり、T量が多く存在している。このことから、実施例7ではB含有量を過剰に少なくしているため主相を組まないFeやCoの余剰ができて粒界相においてRと軟磁性相を形成してしまい、もともとのHcJが小さい結果となっていると考えられる。ただ、実施例7においても本発明によるHcJ向上の効果は現れている。
したがって、製品として適するHcJを得る上で、焼結体の2粒子粒界においてR(RはY(イットリウム)および希土類元素の1種又は2種以上)が10〜30at%であり、T(Fe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属)が65〜85at%であって、Cuが0.70〜4.0at%、Alが0.07〜2.0at%、であることが好ましい。
【0075】
【表4】

【0076】
参考例7は、比較例3および4によりも多量のCo、Cu、Alを原料合金から加えており、Co、Cu、Alを含まない以外は組成と組織がほぼ同じである参考例1と比べHcJが高い。しかし、参考例7へ表1のGの組成の合金を添加した実施例13では、他の実施例と同様にBr低下を抑えつつHcJを向上できているものの、参考例1に表1のGの組成の合金を添加した実施例1ほど大きなHcJの向上が得られていない。実施例13でHcJの向上がやや小さい原因は確定できていない。しかし、Co、Alは主相に固溶しTのFeを置換できるので、混合添加して加えたHRの主相LRとの置換し易さに影響を及ぼすことは否定できない。また、Cuは主相に固溶することはほとんどないものの、存在量が多い場合は主相のLR、主にNdとも反応して主相を壊していくため、粒界に濃縮されて過剰に存在したCuにより結晶粒径の小さな主相粒子が壊されて高HcJな主相粒子が少なくなったとも予想される。
いずれにせよ、多量のCo、Cu、AlによるHcJの向上を完全に残しながらDyによるHcJのさらなる向上を実現するのは難しい。しかし、DyによるHcJの向上は原料合金からDyを単純に含有させるよりもずっと大きな効果が得られており、十分に実用可能な手法である。このことから、Co、Cu、Alの含有量の上限については、Coが1.10mass%、Cuが0.18mass%、Alが0.40mass%である。
【0077】
本発明により、少ないDy含有量でHcJを顕著に向上させたR−T−B系焼結磁石を得ることができ、さらに、従来の磁気特性を維持する場合は、Dy含有量を大幅に削減したR−T−B系焼結磁石を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明は、高い磁気特性を維持しつつ、重希土類元素の使用量を削減したR−T−B系焼結磁石を提供することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 主相粒子
2 コア部
3 シェル部
4 シェル部の最大厚み


【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−T−B系焼結磁石であって、主相粒子と粒界相を有し、前記主相粒子は、コア部とシェル部を含み、前記コア部の主相LR(2−x)HR14B(LR:Ndを必須とし、Y、La、Ce、Pr、Smの1種または2種以上を含む軽希土類元素、HR:Dyまたは/およびTbを必須とし、Gd、Ho、Er、Tm、Yb,Luの1種または2種以上を含む重希土類元素、T:Feまたは/およびCoを必須とし、Mn、Niの1種または2種を含む、B:(ホウ素、一部C(炭素)で置換されているものを含む)においてx=0.00〜0.07であり、前記シェル部の主相LR(2−x)HR14Bにおいてx=0.02〜0.40であり、かつ前記シェル部の最大厚みが、7nm〜100nmであることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【請求項2】
請求項1記載のR−T−B系焼結磁石であって、前記主相粒子の2粒子粒界の粒界相において、R(RはY(イットリウム)および希土類元素の1種又は2種以上)が10〜30at%であり、T(Fe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属)が65〜85at%であって、Cuが0.70〜4.0at%、Alが0.07〜2.0at%、であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【請求項3】
請求項1記載のR−T−B系焼結磁石であって、前記LRはNdまたは/およびPrであり、HRはDyまたは/およびTbであることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【請求項4】
請求項1乃至請求項2記載のR−T−B系焼結磁石であって、前記主相粒子全体に占めるコア部の体積比率が、90.0%以上であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のR−T−B系焼結磁石であって、組成がLRが29.4〜31.5mass%、HRが0.15〜0.65mass%、Alが0.03〜0.40mass%、Coが0.03〜1.10mass%、Cuが0.03〜0.18mass%、Bが0.75〜1.25mass%、残部がFeであることを特徴とするR−T−B系焼結磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−110387(P2013−110387A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−212333(P2012−212333)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】