説明

RAB6KIFL/KIF20Aエピトープペプチドおよびそれを含むワクチン

本発明は、SEQ ID NO:3、4、および5からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むオリゴペプチドを提供する。本発明はまた、対象における癌を治療または予防するために製剤化された、SEQ ID NO:3、4、および5からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む薬学的組成物を提供する。さらに本発明は、そのようなオリゴペプチドおよび薬剤を用いて免疫応答を誘導する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2008年10月22日に出願された米国仮特許出願第61/197,106号の恩典を主張し、その内容の全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、生物科学の分野、より具体的には癌治療の分野に関連する。特に本発明は、新規オリゴペプチドおよびその使用に関連する。
【背景技術】
【0003】
CD8陽性CTLは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子上に見出される腫瘍関連抗原(TAA)由来のエピトープペプチドを認識し、その後、腫瘍細胞を殺傷することが実証されている。TAAの最初の例としてメラノーマ抗原(MAGE)ファミリーが発見されて以来、他の多くのTAAが、主に免疫学的アプローチによって発見されている(Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80(非特許文献1);Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9(非特許文献2))。TAAのいくつかは、現在、免疫療法の標的として臨床開発の過程にある。
【0004】
強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導し得る新規TAAの同定により、様々な種類の癌に対するペプチドワクチン接種戦略のさらなる発展および臨床応用が保証される(Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55(非特許文献3);Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42(非特許文献4);Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9(非特許文献5);van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14(非特許文献6);Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8(非特許文献7);Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72(非特許文献8);Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66(非特許文献9);Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94(非特許文献10))。これまでに、これらの腫瘍関連抗原由来ペプチドを用いた臨床試験がいくつか報告されている。残念ながらこれまでのところ、これらの癌ワクチン試験では低い客観的奏功率しか観察されていない(Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80(非特許文献11);Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42(非特許文献12);Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15(非特許文献13))。
【0005】
最近では、アルゴリズムを用いて、HLAクラスI結合性ペプチド配列を予測することができる(Journal of Immunological Methods, (1995), Vol.185, pp.181-190(非特許文献14)、J. Immunol., (1994), Vol.152, pp.163-175(非特許文献15)、protein science, (2000), Vol.9, pp.1838-1846(非特許文献16))。しかしながら、予測されたエピトープペプチドが標的細胞において天然でプロセシングされ、HLA分子と共に標的細胞表面上に提示され得るとは言い難い。さらに、アルゴリズム、例えばBIMAS(http://bimas.dcrt.nih.gov/cgi−bin/molbio/ken_parker_comboform)(Parker KC, et al., (1994) J Immunol.;152(1):163-75(非特許文献17);Kuzushima K, et al., (2001) Blood.;98(6):1872-81(非特許文献18))は、HLA分子結合性ペプチドを示唆することができるが、示唆されたペプチドはそれほど厳密ではない(Bachinsky MM, et. al., Cancer Immun. 2005 Mar 22;5:6(非特許文献19))。したがって、TAAスクリーニングには依然として多くの課題および困難が残っている。
【0006】
膵癌は予後が不良であり、全5年生存率は約5%である(1)。長期生存には外科的切除が依然として唯一の選択肢であるが、切除可能な膵癌を有する患者は少数である(9〜22%)(Sener SF, et al. J Am Coll Surg 1999;189:1-7(非特許文献20)、Eloubeidi MA, et al. Am J Surg 2006;192:322-9(非特許文献21)、Goonetilleke KS, et al. Int J Surg 2007;5:147-51(非特許文献22))。しかしながらこれらの患者でさえ、治癒目的で手術したにもかかわらず、5年生存率はおよそ20%にとどまっている(Smeenk HG, et al. Langenbecks Arch Surg 2005;390:94-103(非特許文献23)、Yeo CJ, et al. Ann Surg 1995;221:721-31(非特許文献24))。最大80%の患者は局所進行性または転移性の疾患を呈し、この患者らの生存期間中央値は6〜9カ月の範囲である(Lockhart AC, et al. Gastroenterology 2005;128:1642-54(非特許文献25))。したがって、新規治療様式の開発は非常に重要な課題であり、免疫療法は膵癌の潜在的な治療法である可能性がある。
【0007】
RAB6KIFL(KIF20A)は、Rab6低分子GTPaseとの直接的な相互作用を介して、ゴルジ体の動態において役割を果たすことが最初に確認された(Echard A, et al. Science 1998;279:580-5(非特許文献26))。RAB6KIFLは、分子および細胞小器官の輸送において重要な機能を有するモータータンパク質のキネシンスーパーファミリーに属する(Echard A, et al. Science 1998;279:580-5(非特許文献26)、Hirokawa N, et al. Curr Opin Cell Biol 1998;10:60-73(非特許文献27)、Allan VJ, and Schroer TA. Curr Opin Cell Biol 1999;11:476-82(非特許文献28))。最近、Taniuchi Kらは、RAB6KIFLが膵癌組織において過剰発現したことを報告した(Taniuchi K, et al. Cancer Res 2005;65:105-12(非特許文献29))。彼らは、膵臓の発癌におけるRAB6KIFLの重要な役割に関する証拠を見出した。
【0008】
23,040種の遺伝子を含むゲノムワイドcDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現プロファイル解析を通して、膀胱癌(WO2006/085684(特許文献1))、小細胞肺癌(SCLC)(WO2007/013665(特許文献2))、およびホルモン不応性前立腺癌(HRPC)(WO2008/102906(特許文献3))などのいくつかの癌においてRAB6KIFL(KIF20A)が上方制御されることが最近示された(これらの開示は参照により本明細書に組み入れられる)。さらに、KIF20A遺伝子産物のいくつかのエピトープペプチドも同定された(WO2008/102557(特許文献4))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2006/085684
【特許文献2】WO2007/013665
【特許文献3】WO2008/102906
【特許文献4】WO2008/102557
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80
【非特許文献2】Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9
【非特許文献3】Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55
【非特許文献4】Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42
【非特許文献5】Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9
【非特許文献6】van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14
【非特許文献7】Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8
【非特許文献8】Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72
【非特許文献9】Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66
【非特許文献10】Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94
【非特許文献11】Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80
【非特許文献12】Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42
【非特許文献13】Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15
【非特許文献14】Jounal of Immunological Methods, (1995), Vol.185, pp.181-190
【非特許文献15】J. Immunol., (1994), Vol.152, pp.163-175
【非特許文献16】protein science, (2000), Vol.9, pp.1838-1846
【非特許文献17】Parker KC, et al., (1994) J Immunol.;152(1):163-75.
【非特許文献18】Kuzushima K, et al., (2001) Blood.;98(6):1872-81.
【非特許文献19】Bachinsky MM, et. al., Cancer Immun. 2005 Mar 22;5:6.
【非特許文献20】Sener S F, et al. J Am Coll Surg 1999;189:1-7.
【非特許文献21】Eloubeidi M A, et al. Am J Surg 2006;192:322-9.
【非特許文献22】Goonetilleke K S,et al. Int J Surg 2007;5:147-51.
【非特許文献23】Smeenk H G, et al. Langenbecks Arch Surg 2005;390:94-103.
【非特許文献24】Yeo C J, et al. Ann Surg 1995;221:721-31.
【非特許文献25】Lockhart A C, et al. Gastroenterology 2005;128:1642-54.
【非特許文献26】Echard A, et al. Science 1998;279:580-5.
【非特許文献27】Hirokawa N, et al. Curr Opin Cell Biol 1998;10:60-73.
【非特許文献28】Allan VJ, and Schroer TA. Curr Opin Cell Biol 1999;11:476-82.
【非特許文献29】Taniuchi K, et al. Cancer Res 2005;65:105-12.
【発明の概要】
【0011】
本発明は、免疫療法の新規標的の発見に一部基づいている。TAAは免疫原性がない場合が多いため、適切な標的を発見することは極めて重要である。詳細には、膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)などのいくつかの癌においてRAB6KIFLが上方制御されると同定されたため、本発明は、NM_005733(SEQ ID NO:1)によっても示される、GenBankアクセッション番号AF153329またはCR598555の遺伝子によってコードされるRAB6KIFL(SEQ ID NO:2)を対象とする。本発明は、対応する分子に特異的な、驚くほど強力なCTL応答を引き起こすエピトープペプチドを含むRAB6KIFL遺伝子産物を提供する。健常ドナーから採取された末梢血単核細胞(PBMC)を、本発明のペプチドを用いて刺激した。本発明はさらに、各ペプチドをパルスしたHLA−A2(A*0201)陽性標的細胞を特異的に認識する樹立されたCTL、および腫瘍上に発現されたRAB6KIFLに対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導することができるHLA−A2(A*0201)拘束性エピトープペプチドを提供する。これらの結果から、RAB6KIFLは免疫原性が強く、そのエピトープは腫瘍免疫療法の有効な標的であることが実証される。
【0012】
したがって、CTL誘導能、ならびにSEQ ID NO:3、4、および5の群より選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドを提供することが、本発明の目的である。加えて、本発明の別の態様では、得られた改変オリゴペプチドが元のペプチドのCTL誘導能を保持する限り、1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されていてもよい。
【0013】
対象に投与した場合、本発明のオリゴペプチドは抗原発現細胞の表面上に提示され、その後各ペプチドを標的とするCTLを誘導する。したがって、本発明の目的は、本発明のペプチドのいずれかを提示する抗原提示細胞およびエキソソーム、ならびに抗原提示細胞を誘導する方法を提供することにある。
【0014】
本発明のRAB6KIFLオリゴペプチドまたは該オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびにRAB6KIFLオリゴペプチドを提示するエキソソームおよび抗原提示細胞の投与によって、抗腫瘍免疫応答が誘導される。したがって、本発明のさらなる別の目的は、有効成分として、該オリゴペプチドまたはそれらをコードするポリヌクレオチド、ならびに該エキソソームおよび抗原提示細胞を含む薬剤または薬学的組成物を提供することにある。本発明の薬剤または薬学的組成物はワクチンとして使用される。
【0015】
さらに、本発明のさらなる目的は、RAB6KIFLオリゴペプチド、RAB6KIFLオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチド、RAB6KIFLポリペプチドを提示するエキソソームもしくは抗原提示細胞、または本発明の薬剤を投与する段階を含む、癌(腫瘍)の治療および/もしくは予防(prophylaxis)(すなわち、prevention)、ならびに/またはその術後再発の予防のための方法、ならびにCTLを誘導するための方法、抗腫瘍免疫を誘導するための方法を提供することにある。加えて、本発明のCTLもまた、癌に対するワクチンとして使用される。標的となる癌の例には、膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)が含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
本発明の前述の概要および以下の詳細な説明はいずれも例示的な態様のものであり、本発明または本発明のその他の代替的な態様を限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の様々な局面および適用は、以下の図面の簡単な説明ならびに発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することで、当業者に明白となるであろう。
【図1】cDNAマイクロアレイ解析に基づいた、膵癌組織におけるRAB6KIFL mRNAの顕著でかつ高頻度に増強された発現を示す。Aは、膵癌細胞における上方制御遺伝子のリストを示す。これらの遺伝子は、癌細胞においてそれらの正常対応物と比較して過剰発現していた。膵癌細胞におけるRAB6KIFL mRNAの発現は、6名の膵癌患者の全員で顕著に増強されていた。Bは、cDNAマイクロアレイ解析に基づいた、正常組織におけるRAB6KIFL遺伝子の相対発現比を示す。RAB6KIFL遺伝子は、精巣および胸腺においてのみわずかに発現していた。Cは、以前のcDNAマイクロアレイ解析に基づくと、RAB6KIFL遺伝子の発現レベルが、膵癌に加えて、多くの肺癌および膀胱癌においても増強されていたことを示す。
【図2】ヒト正常組織、癌細胞株、および癌組織において発現されたRAB6KIFL mRNAの解析を示す。Aは、RT−PCR解析を用いて、RAB6KIFL mRNAの発現を様々な正常組織において調べたこと示す。RAB6KIFL mRNAは、精巣においてのみわずかに発現していた。Bは、様々な癌細胞株におけるRAB6KIFL発現のRT−PCR解析を示す。Cは、膵臓腫瘍組織(T)およびそれらの正常対応物(N)におけるRAB6KIFL発現のRT−PCR解析を示す。8例の膵癌組織のうち5例において、RAB6KIFL遺伝子の発現が検出された。対照的に、それらの正常対応物では発現はほとんど検出されなかった。
【図3】ウェスタンブロット解析により検出されたRAB6KIFLタンパク質の膵癌特異的過剰発現を示す。Aは、RAB6KIFLタンパク質が8例の正常組織において検出されなかったのに対し、精巣が、PANC1細胞溶解物において確認された移動度と類似した移動度を有するかすかなバンドを示したことを示す。Bは、2名の膵癌患者において、RAB6KIFLタンパク質が癌組織(T)では検出されたが、隣接正常組織(N)では検出されなかったことを示す。等量のタンパク質をロードしたことをモニターするために、抗βアクチンブロットもまた行った。
【図4】膵癌(A)および様々な正常組織(B)におけるRAB6KIFLタンパク質の免疫組織化学解析を示す。Aは、9例の症例のうち6例において、主に癌細胞の細胞質および核においてRAB6KIFLの強い染色が観察されたのに対して、それらの正常隣接膵臓組織の腺房細胞および正常管上皮では非常に弱い染色が観察されたことを示す。腹膜の転移巣においても、同様の強い染色が観察された。腫瘤形成性膵炎では、染色はほとんど検出されなかった。Bは、正常な脳、肺、肝臓、腎臓、胃、小腸、結腸、脾臓、骨格筋、皮膚、および胸腺において、RAB6KIFLが染色されなかったことを示す。精巣において、かすかな染色の可能性が認められた。陽性染色シグナルは茶褐色で示される。スケールバーは100μmを示す。
【図5】HLA−A2.1(HHD)Tgmを用いることによる、ヒトRAB6KIFLのHLA−A2拘束性マウスCTLエピトープの同定を示す。Aは、HLA−A2.1(HHD)Tgmを、36種の候補ペプチドより選択された3種のペプチドの混合物12セットをパルスした5×10個の同系のBM−DCで7日目および14日目にインビボで免疫したことを示す。21日目に、免疫したマウスから単離したCD4−脾臓細胞を、各ペプチドをパルスしたBM−DCで6日間刺激した。CTLの産生したIFN−γをELISPOTアッセイにより検出した。RAB6KIFL−A2−9−12(SEQ ID NO:3)、RAB6KIFL−A2−9−809(SEQ ID NO:4)、およびRAB6KIFL−A2−10−284(SEQ ID NO:5)ペプチドがペプチド反応性CTLを誘導することが示された。これらのアッセイは2回行ったが、同様の結果が得られた。Bは、RAB6KIFL−A2−9−809ペプチドで免疫したHLA−A2(HHD)Tgmの組織標本における、抗CD4 mAbまたは抗CD8 mAbによる免疫組織化学染色を示す。2回のワクチン接種の後、これらの標本を切除し、解析した。
【図6−1】HLA−A2陽性健常ドナーのPBMCからのRAB6KIFL特異的ヒトCTLの誘導を示す。Aは、HLA−A2陽性健常ドナーのPBMCからRAB6KIFLペプチド反応性CTLが作製されたことを示す。RAB6KIFL−A2−9−12(SEQ ID NO:3)、RAB6KIFL−A2−9−809(SEQ ID NO:4)、およびRAB6KIFL−A2−10−284(SEQ ID NO:5)ペプチドをパルスした自己単球由来DCで3回刺激した後、各ペプチドをパルスしたT2細胞(HLA−A2、TAP欠失)またはペプチドをパルスしなかったT2細胞に対するCTLの細胞傷害性を、標準的な51Cr放出アッセイにより検出した。これらのCTLは、RAB6KIFL−A2−9−12(左)、RAB6KIFL−A2−9−809(中央)、およびRAB6KIFL−A2−10−284(右)ペプチドをパルスしたT2細胞に対して細胞傷害性を示したが、無関係のHIVペプチドをパルスしたT2細胞およびペプチドをパルスしなかったT2細胞に対しては細胞傷害性を示さなかった。Bは、これらのCTLが、RAB6KIFL HLA−A2(A*0201)ヒト膵癌細胞株PANC1および結腸癌細胞株CaCo−2に対して細胞傷害性を示したが、RAB6KIFL HLA−A2(A*0201)ヒト膵癌細胞株PK8に対しては細胞傷害性を示さなかったことを示す。
【図6−2】HLA−A2陽性健常ドナーのPBMCからのRAB6KIFL特異的ヒトCTLの誘導を示す。Cは、これらのCTLの細胞傷害性がRAB6KIFL特異的であったことを示す。これらのCTLは、ヒトRAB6KIFL遺伝子をトランスフェクトしたRAB6KIFLlow HLA−A2+ヒト肝癌細胞株SKHep1であるSKHep1/RAB6KIFLを死滅させたが、SKHep1/モックは死滅させなかった。Dは、抗HLAクラスI mAbによる細胞傷害性の阻害を示す。標的細胞PANC1をそれぞれ抗HLAクラスI mAb(W6/32、IgG2a)または抗HLA−DR mAb(H−DR−1、IgG2a)と共に1時間インキュベートした後、RAB6KIFL−A2−9−12(上)、RAB6KIFL−A2−9−809(中央)、およびRAB6KIFL−A2−10−284(下)ペプチドによる刺激によって健常ドナーのPBMCから作製されたCTLを添加した。IFN−γ産生はW6/32によって顕著に阻害されたが、H−DR−1では阻害されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
態様の説明
本発明の態様を実施または試験するにあたって、本明細書に記載の方法および材料と類似のまたは同等な任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料をここに記載する。しかしながら、本材料および方法について記載する前に、本明細書に記載の特定の大きさ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコール等は慣行的な実験法および最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載に使用する専門用語は特定の型または態様のみを説明する目的のためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、同様に理解されるべきである。
【0019】
本明細書において言及される各出版物、特許、または特許出願の開示は、その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる。しかしながら、本明細書中のいかなるものも、本発明が先の発明によるそのような開示に先行する権利を与えられないことを承認するものとしては解釈されるべきではない。
【0020】
矛盾する場合には、定義を含めて本明細書に照らし合わせるものとする。加えて、材料、方法、および実施例は単に例示であり、限定することを意図しない。
【0021】
I.定義
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、特に他に具体的に指示がない限り「少なくとも1つの」を意味する。
【0022】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、1個または複数個のアミノ酸残基が修飾された残基であるか、または対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体などの非天然残基であるアミノ酸ポリマーと、天然アミノ酸ポリマーとに適用される。
【0023】
本明細書において時折用いられる「オリゴペプチド」という用語は、20残基またはそれ未満、典型的には15残基またはそれ未満の長さであり、通常は約8〜約11残基、多くの場合には9または10残基からなる本発明のペプチドを指すために用いられる。
【0024】
本明細書で用いる「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、および細胞内で翻訳後に修飾されたアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素)を有するが、修飾されたR基または修飾された骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指す。「アミノ酸模倣体」という語句は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、同様の機能を有する化合物を指す。
【0025】
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)の推奨する、一般に公知の3文字表記または1文字表記により参照されてもよい。
【0026】
「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、他に特記しない限り、これらは、一般に受け入れられている1文字コードにより参照されるアミノ酸と同様である。
【0027】
特記しない限り、「癌」という用語は、RAB6KIFL遺伝子を過剰発現している癌を指す。RAB6KIFLを過剰発現している癌の例には、膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
特記しない限り、「細胞傷害性Tリンパ球」、「細胞傷害性T細胞」、および「CTL」という用語は本明細書において互換的に用いられ、特に別段の定めのない限り、非自己細胞(例えば、腫瘍細胞、ウイルス感染細胞)を認識し、そのような細胞の死滅を誘導することができるTリンパ球のサブグループを指す。
【0029】
特記しない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。
【0030】
II.ペプチド
RAB6KIFL由来のペプチドが、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって認識される抗原として機能することを実証するために、RAB6KIFL(SEQ ID NO:2)由来のペプチドを解析して、それらが、一般的に遭遇するHLA対立遺伝子であるHLA−A2(A*0201)によって拘束される抗原エピトープであるかどうかを判定した(Date Y et al., Tissue Antigens 47: 93-101, 1996;Kondo A et al., J Immunol 155: 4307-12, 1995;Kubo RT et al., J Immunol 152: 3913-24, 1994)。RAB6KIFL由来のHLA−A2結合性ペプチドの候補を、HLA−A2に対するそれらの結合親和性に関する情報を用いて同定した。これらのペプチドを負荷した樹状細胞(DC)によってT細胞をインビトロで刺激した後、ペプチド、詳細には以下のペプチドのそれぞれを用いてCTLの樹立に成功した:
RAB6KIFL−A2−9−12(SEQ ID NO:3)、
RAB6KIFL−A2−9−809(SEQ ID NO:4)、
および
RAB6KIFL−A2−10−284(SEQ ID NO:5)。
【0031】
樹立されたこれらのCTLは、各ペプチドをパルスした標的細胞に対して強力な特異的CTL活性を示す。本明細書における結果から、RAB6KIFLがCTLによって認識される抗原であること、および前記ペプチドがHLA−A2(A*0201)によって拘束されるRAB6KIFLのエピトープペプチドである可能性があることが実証される。
【0032】
RAB6KIFL遺伝子は、膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)などの大部分の癌組織で過剰発現するため、これは免疫療法のための優れた標的である。したがって本発明は、CTLに認識されるRAB6KIFLのエピトープに相当するノナペプチド(アミノ酸残基9個からなるペプチド)およびデカペプチド(アミノ酸残基10個からなるペプチド)などのオリゴペプチドを提供する。本発明のオリゴペプチドの特に好ましい例には、SEQ ID NO:3、4、および5の中より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドが含まれる。
【0033】
一般的に、インターネット上で現在利用可能なソフトウェアプログラム、例えばParker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75に記載されているソフトウェアプログラムなどを用いて、インシリコで種々のペプチドとHLA抗原との間の結合親和性を算出することができる。例えばParker KC et al., J Immunol 1994 Jan 1, 152(1): 163-75;およびKuzushima K et al., Blood 2001, 98(6): 1872-81に記載されているように、HLA抗原との結合親和性を測定することができる。結合親和性を判定するための方法は、例えばJournal of Immunological Methods, 1995, 185: 181-190.;Protein Science, 2000, 9: 1838-1846に記載されている。したがって本発明は、そのような公知のプログラムにより、HLA抗原と結合すると判定されるRAB6KIFLのペプチドを包含する。
【0034】
さらに、本発明のこれらのペプチドには、ペプチドがそのCTL誘導能を保持する限り、付加的アミノ酸残基を隣接させることができる。CTL誘導能を有するそのようなペプチドは、例えば約40アミノ酸未満であり、多くの場合には約20アミノ酸未満であり、通常は約15アミノ酸未満である。SEQ ID NO:3、4、および5の群より選択されるアミノ酸配列からなるペプチドに隣接するアミノ酸配列は、それが元のペプチドのCTL誘導能を損なわない限り、限定されず、任意の種類のアミノ酸から構成され得る。したがって本発明はまた、SEQ ID NO:3、4、および5の群より選択されるアミノ酸配列を含む、CTL誘導能を有するペプチドを提供する。
【0035】
一般的に、あるタンパク質中の1個、2個、または数個のアミノ酸の改変は、該タンパク質の機能に影響を及ぼさず、または、場合によっては元のタンパク質の所望の機能を増強することさえある。実際に、改変ペプチド(すなわち、元の参照配列と比較して、1個、2個、および/または数個のアミノ酸残基が改変された(すなわち、置換、欠失、付加、および/または挿入された)アミノ酸配列から構成されるペプチド)は、元のペプチドの生物活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 1984, 81: 5662-6;Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 1982, 10: 6487-500;Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 1982, 79: 6409-13)。したがって、1つの態様において、本発明のオリゴペプチドは、CTL誘導能と、1個、2個、または数個のアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/または置換されている、SEQ ID NO:3、4、および5の群より選択されるアミノ酸配列との双方を有してよい。
【0036】
当業者は、単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の付加または置換が、元のアミノ酸側鎖の特性の保存をもたらす傾向があることを認識する。したがって、それらは通常「保存的置換」または「保存的改変」と称され、この場合、タンパク質の変化により元のタンパク質と類似の特性および機能を有する改変タンパク質が生じる。機能的に類似しているアミノ酸を提示する保存的置換の表は、当技術分野において周知である。保存するのが望ましいアミノ酸側鎖の特性の例には、例えば、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖が含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8群はそれぞれ、相互に保存的置換であるとして当技術分野で認められるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
【0037】
このような保存的改変ペプチドもまた、本発明のペプチドと見なされる。しかしながら、本発明のペプチドはこれらに限定されず、ペプチドが元のペプチドのCTL誘導能を保持する限り、非保存的な改変を含み得る。さらに、改変ペプチドは、RAB6KIFLの多型バリアント、種間相同体、および対立遺伝子のCTL誘導可能なペプチドを排除しない。
【0038】
必要なCTL誘導能を保持するために、少数の(例えば、1個、2個、または数個の)またはわずかな割合のアミノ酸を改変する(付加または置換する)ことができる。本明細書において、「数個」という用語は、5個またはそれ未満のアミノ酸、例えば3個またはそれ未満を意味する。改変するアミノ酸の割合は、20%またはそれ未満、例えば15%またはそれ未満、例えば10%または1〜5%であってよい。
【0039】
免疫療法との関連で用いられた場合、本発明のペプチドは、好ましくはHLA抗原との複合体として、細胞またはエキソソームの表面上に提示されるべきである。したがって、CTLを誘導するばかりでなく、HLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドを選択することが好ましい。そのために、アミノ酸残基の置換、挿入、欠失、および/または付加によってペプチドを改変して、結合親和性が改善された改変ペプチドを得ることができる。天然に提示されるペプチドに加えて、HLA抗原への結合によって提示されるペプチドの配列の規則性は既知であるため(J Immunol 1994, 152: 3913;Immunogenetics 1995, 41: 178;J Immunol 1994, 155: 4307)、そのような規則性に基づいた改変を本発明の免疫原性ペプチドに導入することができる。例えば、高いHLA−A2(A*0201)結合親和性を有するペプチドは、そのN末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンで置換されており、ペプチドのC末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンで置換されている。したがって、N末端から2番目のアミノ酸がロイシンもしくはメチオニンで置換されている、および/またはC末端がバリンもしくはロイシンで置換されている、SEQ ID NO:3、4、または5のアミノ酸配列を有するペプチドは、本発明によって包含される。末端のアミノ酸においてだけでなく、ペプチドの潜在的なTCR認識の部位においても、置換を導入することができる。いくつかの研究は、例えばCAP1、p53(264−272)、Her−2/neu(369−377)、またはgp100(209−217)など、ペプチド中のアミノ酸置換が元のものと同等であるかまたはより優れたものであり得ることを実証している(Zaremba et al. Cancer Res. 57, 4570-4577, 1997、T. K. Hoffmann et al. J Immunol. (2002) Feb 1;168(3):1338-47.、S. O. Dionne et al. Cancer Immunol immunother. (2003) 52: 199-206、およびS. O. Dionne et al. Cancer Immunology, Immunotherapy (2004) 53, 307-314)。
【0040】
本発明はまた、本明細書に開示の配列に対するアミノ酸の付加も意図する。例えば、1個、2個、または数個のアミノ酸はまた、本ペプチドのN末端および/またはC末端にも付加され得る。高いHLA抗原結合親和性を有し、かつCTL誘導能を保持するそのような改変ペプチドもまた、本発明に包含される。
【0041】
しかしながら、ペプチド配列が、異なる機能を有する内因性または外因性のタンパク質のアミノ酸配列の一部と同一である場合、自己免疫障害および/または特定の物質に対するアレルギー症状などの副作用が誘発される可能性がある。したがって、ペプチドの配列が別のタンパク質のアミノ酸配列と一致する状況を回避するために、まず、利用可能なデータベースを用いて相同性検索を行うことが好ましい。相同性検索から、対象ペプチドと比較してわずか1個または2個のアミノ酸しか相違しないペプチドが存在しないことが明らかになった場合には、前記副作用のいかなる危険も伴わずに、HLA抗原とのその結合親和性を増大させるために、および/またはそのCTL誘導能を増大させるために、該対象ペプチドを改変することができる。
【0042】
上記のようにHLA抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドは非常に効果的であると予測されるが、指標として高い結合親和性の存在に従って選択された候補ペプチドを、さらにCTL誘導能の存在について試験する。本明細書において「CTL誘導能」という語句は、抗原提示細胞上に提示された場合に、細胞傷害性リンパ球(CTL)を誘導するペプチドの能力を示す。さらに、「CTL誘導能」は、CTL活性化を誘導する、CTL増殖を誘導する、CTLによる標的細胞の溶解を促進する、およびCTLのIFN−γ産生を増加させる、ペプチドの能力を含む。
【0043】
CTL誘導能の確認は、ヒトMHC抗原を保有する抗原提示細胞(例えば、Bリンパ球、マクロファージ、および樹状細胞(DC))、または、より具体的にはヒト末梢血単核白血球由来のDCを誘導し、ペプチドで刺激した後にCD8陽性細胞と混合し、その後、標的細胞に対してCTLによって産生および放出されたIFN−γを測定することにより達成される。反応系として、ヒトHLA抗原を発現するように作製されたトランスジェニック動物(例えば、BenMohamed L, Krishnan R, Longmate J, Auge C, Low L, Primus J, Diamond DJ, Hum Immunol 2000 Aug, 61(8): 764-79, Related Articles, Books, Linkout Induction of CTL response by a minimal epitope vaccine in HLA A*0201/DR1 transgenic mice: dependence on HLA class II restricted T(H) responseに記載のもの)を用いることができる。例えば、標的細胞を51Cr等で放射標識することが可能であり、標的細胞から放出された放射能から細胞傷害活性を算出することができる。あるいは、固定化したペプチドを保有する抗原提示細胞(APC)の存在下で、CTLによって産生かつ放出されたIFN−γを測定し、抗IFN−γモノクローナル抗体を用いて培地上の阻害領域を可視化することによって、CTL誘導能を評価することができる。
【0044】
上記のようにペプチドのCTL誘導能を調べた結果として、HLA抗原に対して高い結合親和性を有するこれらのペプチドが、必ずしも高いCTL誘導能を有するわけではないことが見出された。しかしながら、同定および評価したそれらのペプチドのうち、SEQ ID NO:3、4、および5によって示されるアミノ酸配列を有するペプチドより選択されるノナペプチドまたはデカペプチドは、HLA抗原に対する高い結合親和性に加えて、特に高いCTL誘導能を示すことが判明した。したがって、これらのペプチドは本発明の好ましい態様として例示される。
【0045】
上記の改変に加えて、本発明のペプチドは、結果として生じる連結ペプチドが元のペプチドの必要なCTL誘導能を保持する限り、他の物質に連結させることもできる。適切な物質の例には、限定するわけではないが、ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマー等が含まれる。前記ペプチドは、修飾によって元のペプチドの生物活性が損なわれない限り、例えば、糖鎖付加、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含み得る。このような種類の修飾を行って、付加的な機能(例えば、標的化機能および送達機能)を付与すること、またはポリペプチドを安定化することができる。
【0046】
例えば、ポリペプチドのインビボ安定性を高めるために、D−アミノ酸、アミノ酸模倣体、または非天然アミノ酸を導入することが当技術分野において公知であり、この概念を本ペプチドに適合させることもできる。ポリペプチドの安定性は、いくつかの方法でアッセイすることができる。例えば、ペプチダーゼ、ならびにヒトの血漿および血清などの様々な生物学的媒質を用いて、安定性を試験することができる(例えば、Verhoef et al., Eur J Drug Metab Pharmacokin 1986, 11: 291-302を参照されたい)。
【0047】
さらに、本発明のペプチドを、スペーサーまたはリンカーを介して他のペプチドに連結させてもよい。他のペプチドの例には、他のTAAに由来するCTL誘導性ペプチドが含まれるが、これに限定されない。あるいは、本発明の2つまたはそれ以上のペプチドを、スペーサーまたはリンカーを介して連結させてもよい。スペーサーまたはリンカーを介して連結させるペプチドは、互いに同じであっても異なってもよい。スペーサーまたはリンカーは具体的に限定されないが、好ましくはペプチド、より好ましくは、ペプチダーゼ、プロテアーゼ、およびプロテアソームなどの酵素によって切断され得る1つまたは複数の切断部位を有するペプチドである。リンカーまたはスペーサーの例には、AAY(P. M. Daftarian et al., J Trans Med 2007, 5:26)、AAA、NKRK(R. P. M. Sutmuller et al., J Immunol. 2000, 165: 7308-7315)、または1個〜数個のリジン残基(S. Ota et al., Can Res. 62, 1471-1476、K. S. Kawamura et al., J Immunol. 2002, 168: 5709-5715)が含まれるが、これらに限定されない。本発明のペプチドは、スペーサーまたはリンカーを介して他のペプチドに連結されたペプチドも包含する。
【0048】
本明細書において、本発明のペプチドは「RAB6KIFLペプチド」、「RAB6KIFLポリペプチド」、または「RAB6KIFLオリゴペプチド」と記載することもできる。
【0049】
III.RAB6KIFLペプチドの調製
周知の技法を用いて、本発明のペプチドを調製することができる。例えば、組換えDNA技術または化学合成を用いて、ペプチドを合成的に調製することができる。本発明のペプチドは、個々に、または2つもしくはそれ以上のペプチドから構成されるより長いポリペプチドとして、合成することができる。その後ペプチドを単離すること、すなわち他の天然の宿主細胞タンパク質およびそれらの断片、または他の任意の化学物質を実質的に含まないように、精製または単離することができる。
【0050】
選択されたアミノ酸配列に基づいた化学合成によって、本発明のペプチドを得ることができる。該合成に適合させることのできる従来のペプチド合成法の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されない。
(i)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(ii)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
(iii)Peptide Synthesis (日本語), Maruzen Co., 1975;
(iv)Basics and Experiment of Peptide Synthesis (日本語), Maruzen Co., 1985;
(v)Development of Pharmaceuticals (second volume) (日本語), Vol. 14 (peptide synthesis), Hirokawa, 1991;
(vi)WO99/67288;および
(vii)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, 「Solid Phase Peptide Synthesis」, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0051】
あるいは、ペプチドを作製するための任意の公知の遺伝子工学的方法(例えば、Morrison J, J Bacteriology 1977, 132: 349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (eds. Wu et al.) 1983, 101: 347-62)を適合させて、本発明のペプチドを得ることができる。例えば、最初に、発現可能な形態で(例えば、プロモーター配列に相当する調節配列の下流に)目的のペプチドをコードするポリヌクレオチドを有する適切なベクターを調製し、適切な宿主細胞に入れて形質転換する。次いで、該宿主細胞を培養して、関心対象のペプチドを産生させる。インビトロ翻訳系を用いて、ペプチドをインビトロで作製することもできる。
【0052】
IV.ポリヌクレオチド
本発明はまた、前述の本発明のペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを提供する。これらは、天然のRAB6KIFL/KIF20A遺伝子(GenBankアクセッション番号NM_005733(SEQ ID NO:1))由来のポリヌクレオチド、およびその保存的に改変されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含む。本明細書において「保存的に改変されたヌクレオチド配列」という語句は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする配列を指す。遺伝暗号の縮重のため、数多くの機能的に同一な核酸が任意の特定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸のアラニンをコードする。したがって、あるコドンによってアラニンが指定されるあらゆる位置において、コードされるポリペプチドを変化させることなく、該コドンを記載された対応するコドンのいずれかに変更することができる。このような核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。ペプチドをコードする本明細書中のあらゆる核酸配列は、該核酸の可能性のあるあらゆるサイレント変異をも表す。核酸中の各コドン(通常メチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して、機能的に同一な分子を得ることができることを、当業者は認識するであろう。したがって、ペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、公開した各配列において非明示的に記載されている。
【0053】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNA、およびそれらの誘導体から構成され得る。DNAはA、T、C、およびGなどの塩基から適切に構成され、RNAではTはUに置き換えられる。
【0054】
本発明のポリヌクレオチドは、介在するアミノ酸配列を間に伴って、または伴わずに、本発明の複数のペプチドをコードし得る。例えば、介在するアミノ酸配列は、ポリヌクレオチドまたは翻訳されたペプチドの切断部位(例えば、酵素認識配列)を提供し得る。さらに、ポリヌクレオチドは、本発明のペプチドをコードするコード配列に対する任意の付加的配列を含み得る。例えば、ポリヌクレオチドは、ペプチドの発現に必要な調節配列を含む組換えポリヌクレオチドであってよく、またはマーカー遺伝子等を有する発現ベクター(プラスミド)であってもよい。一般に、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いる従来の組換え技法によりポリヌクレオチドを操作することによって、そのような組換えポリヌクレオチドを調製することができる。
【0055】
組換え技法および化学合成技法の両方を用いて、本発明のポリヌクレオチドを作製することができる。例えば、適切なベクター内に挿入することによってポリヌクレオチドを作製することができ、これはコンピテント細胞にトランスフェクトした場合に発現され得る。あるいは、PCR技法または適切な宿主内での発現を用いて、ポリヌクレオチドを増幅することができる(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1989を参照されたい)。あるいは、Beaucage SL & Iyer RP, Tetrahedron 1992, 48: 2223-311;Matthes et al., EMBO J 1984, 3: 801-5に記載されているような固相技法を用いて、ポリヌクレオチドを合成することができる。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、および該ベクターを有する宿主細胞もまた本発明に含まれる。
【0057】
V.エキソソーム
本発明は、本発明のペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体を自身の表面上に提示する、エキソソームと称される細胞内小胞をさらに提供する。エキソソームは、例えば公表特許公報 特表平11−510507号およびWO99/03499に詳述されている方法を用いることによって調製することができ、治療および/または予防の対象となる患者から得られたAPCを用いて調製することができる。本発明のエキソソームは、本発明のペプチドと同様の様式で、ワクチンとして接種することができる。
【0058】
前記複合体中に含まれるHLA抗原の型は、治療および/または予防を必要とする対象のものと一致しなければならない。日本人および白人の間で高発現するHLA−A2型の使用は、有効な結果を得るのに好ましく、HLA−A2(A*0201)およびHLA−A2(A*0206)などのサブタイプも使用される。典型的には、臨床では、治療を必要とする患者のHLA抗原の型があらかじめ調べられ、これにより、この抗原に対して高レベルの結合親和性を有するか、または抗原提示によるCTL誘導能を有するペプチドの適切な選択が可能となる。さらに、高い結合親和性およびCTL誘導能を示すペプチドを取得するために、天然のRAB6KIFL部分ペプチドのアミノ酸配列に基づいて、1個、2個、または数個のアミノ酸の置換または付加を行うことができる。
【0059】
本発明のエキソソームに対してHLA−A2(A*0201)抗原を用いる場合、SEQ ID NO:3、4、および5の配列選択ペプチドを有するペプチドが使用される。
【0060】
VI.抗原提示細胞(APC)
本発明はまた、HLA抗原と本発明のペプチドとの間に形成される複合体を自身の表面上に提示する単離されたAPCを提供する。本発明のペプチドを接触させることによって、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現可能な形態で導入することによって得られるAPCは、治療および/または予防の対象となる患者に由来してよく、かつ、単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、もしくは細胞傷害性T細胞を含む他の薬物と組み合わせて、ワクチンとして投与することができる。
【0061】
前記APCは、特定の種類の細胞に限定されず、リンパ球によって認識されるように自身の細胞表面上にタンパク質性抗原を提示することが知られている樹状細胞(DC)、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、および活性化T細胞を含む。DCは、APCの中で最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCであるため、DCは本発明のAPCとして使用される。
【0062】
例えば、末梢血単球からDCを誘導し、次にそれらをインビトロ、エクスビボ、またはインビボで本発明のペプチドと接触させる(で刺激する)ことによってAPCを得ることができる。本発明のペプチドを対象に投与した場合、本発明のペプチドを提示するAPCが該対象の体内で誘導される。「APCを誘導する」という語句は、細胞を本発明のペプチドまたは本発明のペプチドをコードするヌクレオチドと接触させて(で刺激して)、HLA抗原と本発明のペプチドとの間に形成される複合体を細胞表面上に提示させることを含む。あるいは、APCが本発明のペプチドを提示できるように該ペプチドをAPCに導入した後、APCをワクチンとして対象に投与することができる。例えば、エクスビボ投与は、以下の段階を含み得る:
a:第1の対象からAPCを回収する段階;
b:段階aのAPCとペプチドを接触させる段階;および
c:前記ペプチドを負荷したAPCを、第2の対象に投与する段階。
【0063】
第1の対象と第2の対象は同一の個体であってよく、または異なる個体であってもよい。あるいは、本発明に従って、抗原提示細胞を誘導する薬学的組成物を製造するための本発明のペプチドの使用を提供する。加えて、本発明は、抗原提示細胞を誘導するための薬学的組成物を製造する方法またはプロセスであって、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体と共に混合するまたは製剤化する段階を含む方法を提供する。あるいは、本発明は、膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)を含む癌を治療するための薬学的組成物を製造する方法またはプロセスであって、本発明のペプチドを薬学的に許容される担体と共に混合するまたは製剤化する段階を含む方法を提供する。さらに、本発明はまた、抗原提示細胞を誘導するための本発明のペプチドを提供する。段階bによって得られたAPCを、ワクチンとして対象に投与することができる。あるいは、本発明は、膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)を含む癌を治療するためのペプチドを提供する。
【0064】
本発明の1つの局面によると、本発明のAPCは高レベルのCTL誘導能を有する。「高レベルのCTL誘導能」という用語において、高レベルとは、ペプチドと接触させていないAPC、またはCTLを誘導することができないペプチドと接触させたAPCによるCTL誘導能のレベルと比較したものである。高レベルのCTL誘導能を有するそのようなAPCは、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子をインビトロでAPCに導入する段階を含む方法によって、調製することができる。導入する遺伝子は、DNAまたはRNAの形態であってよい。導入のための方法の例には、特に限定されることなく、当分野において従来より実施される様々な方法が含まれ、例えばリポフェクション、エレクトロポレーション、およびリン酸カルシウム法などを用いることができる。より具体的には、Cancer Res 1996, 56: 5672-7;J Immunol 1998, 161: 5607-13;J Exp Med 1996, 184: 465-72;公表特許公報第2000−509281号に記載されているように、それを実施することができる。遺伝子をAPCに導入することによって、遺伝子は細胞内で転写、翻訳等を受け、次いで、得られたタンパク質はMHCクラスIまたはクラスIIによって処理されて、提示経路を経てペプチドが提示される。
【0065】
好ましい態様において、本発明のAPCはその表面上に、HLA抗原とSEQ ID NO:3、4、および5の中より選択されるアミノ酸配列を含むオリゴペプチドとの複合体を提示する。好ましくは、本発明のAPCはHLA−A2抗原、特にHLA−A2(A*0201)をその表面上に保有する。あるいは、HLA抗原と共に複合体を形成するためのオリゴペプチドは、1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失、および/または付加されている、SEQ ID NO:3、4、および5の中より選択されるアミノ酸配列を含むオリゴペプチドであってよく、例えばN末端から2番目のアミノ酸がロイシンもしくはメチオニンで置換されていてもよく、および/またはC末端のアミノ酸がバリンもしくはロイシンで置換されていてもよい。
【0066】
VII.細胞傷害性T細胞(CTL)
本発明のペプチドのいずれかに対して誘導された細胞傷害性T細胞は、インビボで腫瘍関連内皮を標的とする免疫応答を増強させるため、ペプチド自体と同様の様式でワクチンとして用いることができる。したがって本発明はまた、本ペプチドのいずれかよって特異的に誘導または活性化された、単離された細胞傷害性T細胞を提供する。
【0067】
そのような細胞傷害性T細胞は、(1)対象に投与し、次いで対象から細胞傷害性T細胞を回収すること、または(2)対象由来のAPCおよびCD8陽性細胞、もしくは末梢血単核白血球をインビトロで本発明のペプチドと接触させ(で刺激し)、次いで細胞傷害性T細胞を単離することにより得ることができる。
【0068】
本発明のペプチドを提示するAPCからの刺激によって誘導された細胞傷害性T細胞は、治療および/または予防の対象となる患者に由来してよく、かつ、単独で投与すること、または効果を調節する目的で本発明のペプチドもしくはエキソソームを含む他の薬物と組み合わせて投与することができる。得られた細胞傷害性T細胞は、本発明のペプチド、または例えば誘導に用いた同一のペプチドを提示する標的細胞に対して特異的に作用する。言い換えれば、細胞傷害性T細胞は、T細胞受容体により、標的細胞の表面上でHLA抗原と本発明のペプチドとの間に形成された複合体を認識(すなわち、これに結合)し、次いで該標的細胞を攻撃して標的細胞の死を誘導することができる。標的細胞は、RAB6KIFLを内因的に発現する細胞、またはRAB6KIFL遺伝子をトランスフェクトされた細胞であってよく、かつ、本発明のペプチドによる刺激によって該ペプチドを細胞表面上に提示する細胞もまた、活性化されたCTLの攻撃の標的となり得る。好ましい態様において、標的細胞は、HLA−A2抗原、特にHLA−A2(A*020)をその表面上に保有する。
【0069】
VIII.T細胞受容体(TCR)
本発明はまた、T細胞受容体(TCR)のサブユニットを形成することが可能なポリペプチドをコードする核酸配列から構成される組成物、およびそれを使用する方法を提供する。TCRαおよびTCRβは、RAB6KIFLを発現する腫瘍細胞に対する特異性をT細胞に付与するTCRを形成する能力を有する。当技術分野における公知の方法を用いることにより、本発明の1種または複数種のペプチドで誘導されたCTLにおいて発現したTCRのTCRα鎖およびβ鎖の核酸配列を単離し、初代ヒトリンパ球への高効率遺伝子導入を媒介し得る適切なベクターを構築することができる(WO2007/032255、およびMorgan RA, et al., J Immunol, 171, 3287 (2003))。例えば、これらのベクターはレトロウイルスベクターである。有利には、本発明は、患者自身のT細胞(または別の哺乳動物のT細胞)の迅速な改変を可能にして、優れた癌細胞殺傷特性を有する改変T細胞を迅速かつ容易に作製する、既製(off−the−shelf)組成物を提供する。
【0070】
また本発明は、HLA−A2(A*0201)との関連で、例えばSEQ ID NO:3、4、および5のRAB6KIFLペプチドに結合するTCRサブユニットポリペプチドをコードする核酸を形質導入することによって調製されたCTLを提供する。形質導入されたCTLは、インビボで癌細胞にホーミングすることができ、かつ周知の培養法によってインビトロで増殖させることができる(例えば、Kawakami et al., J Immunol., 142, 3452-3461 (1989))。本発明のT細胞は、治療または予防を必要としている患者における癌の治療または予防に有用な免疫原性組成物を形成するために使用することができる(WO2006/031221)。
【0071】
IX.薬剤または薬学的組成物
「予防(preventionおよびprophylaxis)」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、疾患による死亡率または罹患率の負荷を軽減させる任意の行為を指す。予防(preventionおよびprophylaxis)は、「第一次、第二次、および第三次の予防レベルで」行われ得る。第一次の予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の発生を回避するのに対し、第二次および第三次レベルの予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の進行および症状の出現を予防(preventionおよびprophylaxis)することに加え、機能を回復させ、かつ疾患関連の合併症を減少させることによって、既存の疾患の悪影響を低下させることを目的とした行為を包含する。あるいは、予防(preventionおよびprophylaxis)は、特定の障害の重症度を軽減すること、例えば腫瘍の増殖および転移を減少させることを目的とした広範囲の予防的治療を含み得る。
【0072】
癌の治療および/もしくは予防、ならびに/または術後のその再発の予防は、以下の段階、例えば癌細胞の外科的除去、癌性細胞の成長の阻害、腫瘍の退行または退縮、寛解の誘導および癌の発生の抑制、腫瘍の退縮、ならびに転移の低減または阻害などの段階のいずれかを含む。癌の効果的な治療および/または予防は、死亡率を減少させ、癌を有する個体の予後を改善し、血中の腫瘍マーカーのレベルを低下させ、かつ癌に伴う検出可能な症状を軽減する。例えば、症状の軽減または改善は効果的な治療を構成し、および/または予防は10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減または安定した疾患を含む。
【0073】
RAB6KIFLの発現は、正常組織と比較していくつかの癌において上方制御されるため、本発明のペプチドまたはそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドを、癌の治療および/もしくは予防のために、ならびに/または術後のその再発の予防に用いることができる。したがって本発明は、本発明のペプチドの1種もしくは複数種、または該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを有効成分として含む、癌の治療および/もしくは予防のための、ならびに/または術後のその再発の予防のための薬剤または薬学的組成物を提供する。あるいは、薬剤または薬学的組成物として用いるために、本発明のペプチドを、前述のエキソソームまたはAPCなどの細胞のいずれかの表面上に発現させることができる。加えて、本発明のペプチドのいずれかを標的とする前述の細胞傷害性T細胞もまた、本薬剤または薬学的組成物の有効成分として用いることができる。本発明との関連において、「ペプチドを標的とする」という語句は、T細胞受容体により、標的細胞の表面上でHLA抗原とペプチドとの間に形成された複合体を認識(すなわち、これに結合)し、次いで該標的細胞を攻撃して標的細胞の死を誘導することを意味する。
【0074】
別の態様において、本発明はまた、癌または腫瘍を治療するための薬学的組成物または薬剤の製造における、以下の中より選択される有効成分の使用を提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示する当該ペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0075】
あるいは、本発明はさらに、癌の治療において用いるための、以下の中より選択される有効成分を提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示する当該ペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0076】
あるいは、本発明はさらに、癌を治療するための薬学的組成物または薬剤を製造するための方法または工程であって、有効成分として以下の中より選択される有効成分と共に、薬学的にまたは生理学的に許容される担体を製剤化する段階を含む、方法または工程を提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示する当該ペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0077】
別の態様において、本発明はまた、癌を治療するための薬学的組成物または薬剤を製造するための方法または工程であって、以下の中より選択される有効成分を薬学的にまたは生理学的に許容される担体と混合する段階を含む、方法または工程を提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示する当該ペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0078】
あるいは、本発明の薬学的組成物または薬剤は、癌の予防および術後のその再発の予防のいずれかまたは双方に用いることができる。
【0079】
本発明の薬剤または薬学的組成物は、ワクチンとして使用される。本発明の文脈において、「ワクチン」(免疫原性組成物とも称される)という語句は、動物に接種した際に、抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。
【0080】
本発明の薬剤または薬学的組成物は、ヒト、ならびに非限定的にマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、サル、ヒヒ、およびチンパンジー、特に商業的に重要な動物または家畜を含む任意の他の哺乳動物を含む対象または患者において、癌を治療および/もしくは予防するため、ならびに/または術後のその再発を予防するために用いることができる。
【0081】
本発明により、SEQ ID NO:3、4、および5の中より選択されるアミノ酸配列を有するオリゴペプチドが、強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A2(A*0201)拘束性エピトープペプチドであることが判明した。したがって、SEQ ID NO:3、4、または5のアミノ酸配列を有するこれらのオリゴペプチドのいずれかを含む本発明の薬剤または薬学的組成物は、HLA抗原がHLA−A2(A*0201)である対象に投与するのに特に適している。同じことが、これらのオリゴペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを含む薬剤または薬学的組成物にも当てはまる。
【0082】
本発明の薬剤または薬学的組成物によって治療される癌は限定されず、これには、例えば膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)を含む、RAB6KIFLが関与するすべての種類の癌が含まれる。詳細には、本発明の薬剤または薬学的組成物は、好ましくは膵癌に適用される。
【0083】
本薬剤または薬学的組成物は、前述の有効成分に加えて、癌性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチド、該その他のペプチドをコードするその他のポリヌクレオチド、該その他のペプチドを提示するその他の細胞等を含み得る。本明細書において、癌性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチドは、癌特異的抗原(例えば、同定されたTAA)が例示されるが、これに限定されない。
【0084】
必要に応じて、本発明の薬剤または薬学的組成物は、例えば本発明のペプチドのいずれかといった有効成分の抗腫瘍効果をその他の治療物質が阻害しない限り、有効成分として該治療物質を任意に含み得る。例えば、製剤は、抗炎症剤または組成物、鎮痛剤、化学療法剤等を含み得る。医薬自体に他の治療物質を含めることに加えて、本発明の医薬を、1つまたは複数の他の薬理学的な剤または組成物と連続してまたは同時に投与することもできる。医薬および薬理学的な剤または組成物の量は、例えば、使用される薬理学的な剤または組成物の種類、治療する疾患、ならびに投与のスケジュールおよび投与経路に依存する。
【0085】
本明細書において特に言及される成分に加えて、本発明の薬剤または薬学的組成物は、問題の製剤の種類を考慮して、当技術分野において慣例的な他の剤または組成物も含み得ることが理解されるべきである。
【0086】
本発明の1つの態様において、本薬剤または薬学的組成物を、例えば癌のような治療されるべき疾患の病態を治療するのに有用な材料を含む製品およびキットに含めることができる。該製品は、ラベルを有する本薬剤または薬学的組成物のいずれかの容器を含み得る。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。該容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。容器上のラベルには、剤または組成物が、疾患の1つまたは複数の状態の治療または予防のために用いられることが示されるべきである。ラベルはまた、投与等に関する指示も示し得る。
【0087】
上記の容器に加えて、本発明の薬剤または薬学的組成物を含むキットは、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収容した第2の容器をさらに含み得る。それは、使用のための説明書と共に、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、注射針、シリンジ、および添付文書を含む、商業上および使用者の立場から見て望ましい他の材料をさらに含み得る。
【0088】
必要に応じて、有効成分を含む1つまたは複数の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサー装置にて、薬学的組成物を提供することができる。該パックは、例えば、ブリスターパックのように金属またはプラスチックホイルを含み得る。パックまたはディスペンサー装置には、投与に関する説明書が添付され得る。
【0089】
(1)有効成分としてペプチドを含む薬剤または薬学的組成物
本発明のペプチドは、薬剤もしくは薬学的組成物として直接投与することができ、または必要であれば、従来の製剤方法によって製剤化される。後者の場合、本発明のペプチドに加えて、薬物に通常用いられる担体、賦形剤等が特に制限なく適宜含まれ得る。そのような担体の例は、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液等である。さらに、薬剤または薬学的組成物は、必要に応じて、安定剤、懸濁液、保存剤、界面活性剤等を含み得る。本発明の薬剤または薬学的組成物は、抗癌目的に用いることができる。
【0090】
インビボでCTLを誘導するために、本発明のペプチドを、本発明のペプチドの2種またはそれ以上から構成される組み合わせとして調製することができる。ペプチドの組み合わせはカクテルの形態をとってよく、または標準的な技法を用いて互いにコンジュゲートしてもよい。例えば、該ペプチドを化学的に結合させても、または単一の融合ポリペプチド配列として発現させてもよい。組み合わせにおけるペプチドは、同一であっても異なっていてもよい。本発明のペプチドを投与することにより、ペプチドはAPC上のHLA抗原によって高密度で提示され、次いで、提示されたペプチドとHLA抗原との間に形成された複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導される。あるいは、本発明のペプチドで刺激した対象からAPC(例えば、DC)を取り出すことにより、本発明のペプチドのいずれかをその細胞表面上に提示するAPCを得て、これらのAPC(例えば、DC)を対象に再度投与することにより対象においてCTLを誘導し、結果として、膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)などの癌細胞に対する攻撃性を増大させることができる。
【0091】
有効成分として本発明のペプチドを含む、癌の治療および/または予防のための薬剤または薬学的組成物は、効率的に細胞性免疫を確立させることが知られているアジュバントもまた含み得る。あるいは、これらは、他の有効成分と共に投与することができ、顆粒内への製剤化によって投与することもできる。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合に、該タンパク質に対する免疫応答を増強させる化合物を指す。本明細書において意図されるアジュバントには、文献(Clin Microbiol Rev 1994, 7: 277-89)に記載されているものが含まれる。適切なアジュバントの例には、これに限定されないが、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン、コレラ毒素、サルモネラ毒素等が含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
さらに、リポソーム製剤、直径数マイクロメートルのビーズにペプチドが結合している顆粒製剤、およびペプチドに脂質が結合している製剤を好都合に用いてもよい。
【0093】
いくつかの態様において、本発明の薬剤または薬学的組成物は、CTLを刺激する(prime)成分をさらに含み得る。脂質は、ウイルス抗原に対してインビボでCTLを刺激し得る剤または組成物として同定された。例えば、パルミチン酸残基をリジン残基のεアミノ基およびαアミノ基に付着させ、次に本発明のペプチドに連結させることができる。次いで、脂質付加したペプチドを、ミセルもしくは粒子の状態で直接投与すること、リポソーム中に取り込ませること、またはアジュバント中に乳化させることができる。CTL応答の脂質による刺激の別の例として、適切なペプチドに共有結合している場合、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイニルセリル−セリン(P3CSS)などの大腸菌(E.coli)リポタンパク質を用いてCTLを刺激することができる(例えば、Deres et al., Nature 1989, 342: 561-4を参照されたい)。
【0094】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等、および全身投与または標的部位の近傍への局所投与であってよい。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によって強化することもできる。本発明のペプチドの用量を、治療する疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に従って適切に調節することができ、これは通常0.001 mg〜1000 mg、例えば0.001 mg〜1000 mg、例えば0.1 mg〜10 mgであり、数日から数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適切に選択することができる。
【0095】
(2)有効成分としてポリヌクレオチドを含む薬剤または薬学的組成物
本発明の薬剤または薬学的組成物はまた、本明細書に開示するペプチドをコードする核酸を発現可能な形態で含み得る。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、ポリヌクレオチドが、細胞内に導入された場合に、抗腫瘍免疫を誘導するポリペプチドとしてインビボで発現され得ることを意味する。例示的な態様において、関心対象のポリヌクレオチドの核酸配列は、該ポリヌクレオチドの発現に必要な調節エレメントを含む。ポリヌクレオチドには、標的細胞のゲノム中への安定的な組み込みが達成されるように、必要なものを備えさせることができる(相同組換えカセットベクターの説明に関しては、例えばThomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8;米国特許第5,580,859号;第5,589,466号;第5,804,566号;第5,739,118号;第5,736,524号;第5,679,647号;およびWO 98/04720を参照されたい。DNAに基づく送達技術の例には、「裸のDNA(naked DNA)」、促進された(ブピバカイン、ポリマー、ペプチド媒介性)送達、カチオン性脂質複合体、および粒子媒介性(「遺伝子銃」)または圧力媒介性の送達が含まれる(例えば、米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0096】
ウイルスベクターまたは細菌ベクターによって、本発明のペプチドを発現させることもできる。発現ベクターの例には、ワクシニアウイルスまたは鶏痘ウイルスなどの弱毒化ウイルス宿主が含まれる。このアプローチは、例えば、ペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとして、ワクシニアウイルスの使用を伴う。宿主内に導入すると、組換えワクシニアウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それによって免疫応答を引き起こす。免疫化プロトコールに有用なワクシニアベクターおよび方法は、例えば米国特許第4,722,848号に記載されている。別のベクターの例はBCG(カルメット・ゲラン桿菌)である。BCGベクターは、Stover et al., Nature 1991, 351: 456-60に記載されている。治療的投与または免疫化に有用である多種多様な他のベクター、例えばアデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽毒素ベクター等が明らかであろう。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71;Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806;Hipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85を参照されたい。
【0097】
ポリヌクレオチドの対象内への送達は、直接的であってもよいし(この場合、ポリヌクレオチドを保有するベクターに対象を直接曝露する)、または間接的であってもよい(この場合、まずインビトロで細胞を関心対象のポリヌクレオチドで形質転換し、次いで該細胞を対象内に移植する)。これら2つのアプローチはそれぞれ、インビボおよびエクスビボの遺伝子治療として公知である。
【0098】
遺伝子治療の方法の一般的な総説に関しては、Goldspiel et al., Clinical Pharmacy 1993, 12: 488-505;Wu and Wu, Biotherapy 1991, 3: 87-95;Tolstoshev, Ann Rev Pharmacol Toxicol 1993, 33: 573-96;Mulligan, Science 1993, 260: 926-32;Morgan & Anderson, Ann Rev Biochem 1993, 62: 191-217;Trends in Biotechnology 1993, 11(5): 155-215を参照されたい。本発明にも用いることのできる、組換えDNA技術の分野において一般に公知の方法は、eds. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY, 1993;およびKrieger, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY, 1990に記載されている。
【0099】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等であってよく、全身投与または標的部位の近傍への局所投与が用いられる。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によって強化することもできる。適切な担体中のポリヌクレオチドの用量、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換した細胞の用量を、治療する疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に従って適切に調節することができ、これは通常0.001 mg〜1000 mg、例えば0.001 mg〜1000 mg、例えば0.1 mg〜10 mgであり、数日に1度〜数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適切に選択することができる。
【0100】
X.ペプチド、エキソソーム、APC、およびCTLを用いる方法
APCおよびCTLを誘導するために、本発明のペプチドおよびそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いることができる。CTLを誘導するために、本発明のエキソソームおよびAPCを用いることもできる。ペプチド、ポリヌクレオチド、エキソソーム、およびAPCは、任意の他の化合物がそれらのCTL誘導能を阻害しない限り、該化合物と組み合わせて用いることができる。したがって、前述の本発明の薬剤または薬学的組成物のいずれかをCTLを誘導するために用いることができ、それに加えて、前記ペプチドおよびポリヌクレオチドを含むそれらを、以下に議論されるように、APCを誘導するために用いることもできる。
【0101】
(1)抗原提示細胞(APC)を誘導する方法
本発明は、本発明のペプチドまたは該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いた、APCを誘導する方法を提供する。APCの誘導は、「VI.抗原提示細胞」の章に上記したように行うことができる。本発明はまた、高レベルのCTL誘導能を有するAPCを誘導するための方法も提供し、その誘導もまた上記の「VI.抗原提示細胞」の項目で言及されている。
【0102】
好ましくは、APCを誘導するための方法は、以下の中より選択される少なくとも1つの段階を含む:
a:APCを本発明のペプチドと接触させる段階、および
b:発現可能な形態で本発明のポリペプチドを、APCに導入する段階。
【0103】
APCを誘導するそのような方法は、好ましくはインビトロまたはエクスビボで行う。この方法をインビトロまたはエクスビボで行う場合、誘導すべきAPCは、治療すべき対象、またはHLA抗原が対象のものと同じである他者から取得してよい。好ましい態様において、本発明の方法によって誘導されるAPCは、HLA−A2抗原、特にHLA−A2(A*0201)をその表面上に保有する。
【0104】
(2)CTLを誘導する方法
さらに本発明は、本発明のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ペプチドを提示するエキソソームもしくはAPCを用いてCTLを誘導するための方法を提供する。
【0105】
本発明はまた、細胞表面上の本発明のペプチドとHLA抗原との複合体を認識する(すなわち、これに結合する)T細胞受容体(TCR)サブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いてCTLを誘導するための方法を提供する。好ましくは、CTLを誘導するための方法は、以下の中より選択される少なくとも1つの段階を含む:
a:CD8陽性T細胞を、HLA抗原と本発明のペプチドの複合体を自身の表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階、ならびに
b:本発明のペプチドとHLA抗原の複合体を認識するTCRサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性T細胞に導入する段階。
【0106】
本発明のペプチドを対象に投与した場合、該対象の体内でCTLが誘導され、腫瘍関連内皮を標的とする免疫応答の強度が増強される。あるいは、対象由来のAPC、およびCD8陽性細胞、または末梢血単核白血球を、インビトロで本発明のペプチドと接触させ(で刺激し)、CTLを誘導した後、活性化したCTL細胞を該対象に戻すエクスビボ治療法に、前記ペプチドおよび前記ペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いることができる。例えば、本方法は以下の段階を含み得る:
a:対象からAPCを回収する段階;
b:段階aのAPCと前記ペプチドとを接触させる段階;
c:段階bのAPCをCD8 T細胞と混合し、CTLを誘導するために共培養する段階;および
d:段階cの共培養物からCD8 T細胞を回収する段階。
【0107】
あるいは、本発明に従って、CTLを誘導する薬学的組成物を製造するための本発明のペプチドの使用を提供する。加えて、本発明は、CTLを誘導する薬剤または薬学的組成物を製造するための方法または工程を提供し、ここで、該方法は、薬学的に許容される担体と共に本発明のペプチドを混合または製剤化する工程を含む。さらに、本発明はまた、CTLを誘導するための本発明のペプチドを提供する。
【0108】
段階dによって得られた細胞傷害活性を有するCD8 T細胞を、ワクチンとして前記対象に投与することができる。上記の段階cにおいてCD8 T細胞と混合するAPCは、上記の「VI.抗原提示細胞」の章で詳述されているように、本ペプチドをコードする遺伝子をAPCに導入することによって調製することもできるが、これに限定されず、本発明のペプチドをT細胞に対して効果的に提示する任意のAPCまたはエキソソームを、本発明の方法に用いることができる。
【0109】
本発明を実施または試験するにあたって、本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料は記載のものである。本明細書において言及した出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書に照らし合わせるものとする。加えて、材料、方法、および実施例は例示に過ぎず、限定を意図するものではない。
【0110】
以下の実施例は、本発明を例証し、当業者がそれを作製および使用するのを補助するために提供される。実施例は、いかなる形であれ他の方法で本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0111】
材料および方法
cDNAマイクロアレイ解析
cDNAマイクロアレイ解析による遺伝子発現のプロファイリングは、以前に記載された通りに行った(Nakamura T, et al. Oncogene 2004;23:2385-400)。膵癌および隣接する非癌性正常膵臓組織からの組織試料は外科検体から採取し、患者は全員、本研究に参加するために書面によるインフォームドコンセントを提出した。図1Cでは、癌細胞におけるRAB6KIFL mRNAの発現の値を、正常対応物におけるmRNAの発現の値で割ることにより、相対発現比を算出した。図1Bでは、各正常組織におけるRAB6KIFL mRNAの発現の値を、図1Bに示した40例の正常組織からのRNA試料の等量の混合物である対照RNAにおけるRAB6KIFL mRNAの発現の値で割ることにより、正常組織の相対発現比を算出した。
【0112】
マウス
HLA−A2.1(HHD)Tgm;ヒトβ2m−HLA−A2.1(α1、α2)−H−2D(α3膜貫通細胞質;HHD)単鎖構築遺伝子を導入したH−2Db−/− β2m−/−ダブルノックアウトマウスは、Department SIDA−Retrovirus, Unite d’ Immunite Cellulaire Antivirale, Institute Pasteur、Franceにおいて作製され(Pascolo S, et al. J Exp Med 1997;185:2043-51、Firat H, et al. Eur J Immunol 1999;29:3112-21)、F.A. Lemonnier博士により供与された。マウスは熊本大学の動物資源開発研究部門において維持し、熊本大学の動物の取り扱いに関するガイドラインに従って取り扱った。
【0113】
細胞株およびHLA発現
ヒト膵癌細胞株PANC1、ヒト結腸癌細胞株CaCo−2、およびTAP欠損かつHLA−A2(A*0201)陽性細胞株T2は、理研細胞バンク(つくば、日本)から購入した。ヒト膵癌細胞株PK8は、東北大学加齢医学研究所附属医用細胞資源センター(仙台、日本)により供与された。ヒト肝癌細胞株SKHep1は、久留米大学(久留米、日本)、伊東恭悟博士により供与された。HLA−A2陽性血液ドナーおよび細胞傷害性アッセイ用の標的細胞株を選択するために、抗HLA−A2モノクローナル抗体(mAb)、BB7.2(One Lambda, Inc.、Canoga Park, CA)を用いたフローサイトメトリーを使用して、HLA−A2の発現を調べた。これらの細胞は、5% CO雰囲気中、37℃にて、10% FCSを補充したRPMI 1640またはDMEM培地中でインビトロで維持した。
【0114】
患者、血液試料、および腫瘍組織
ドナー由来のPBMCを用いた臨床研究は、熊本大学(熊本、日本)の施設内治験審査委員会によって承認された。血液試料、ならびに癌組織および隣接非癌性組織は、熊本大学医学部付属病院において患者より正式な書面によるインフォームドコンセントを得た後に、慣行的な診断手順の中で採取された。血液試料は、書面によるインフォームドコンセントを得たのち、健常ドナーからも採取された。試料はすべて無記名であり、ランダムに番号をつけ、使用時まで−80℃で保存した。患者および健常ドナーは全員、日本国籍であった。
【0115】
逆転写PCRおよびノーザンブロット解析
正常組織および癌組織ならびに細胞株の逆転写PCR(RT−PCR)解析を行い、RAB6KIFLの発現をmRNAレベルで評価した。プライマー配列は以下の通りであった:
RAB6KIFL、センス
5’−CTACAAGCACCCAAGGACTCT−3’(SEQ ID NO:6)
およびアンチセンス
5’−AGATGGAGAAGCGAATGTTT−3’(SEQ ID NO:7)
、ならびにβアクチン、センス
5’−CATCCACGAAACTACCTTCAACT−3’(SEQ ID NO:8)
およびアンチセンス
5’−TCTCCTTAGAGAGAAGTGGGGTG−3’(SEQ ID NO:9)。
94℃で5分間の最初の変性、および58℃のアニーリング温度での32〜35回の増幅サイクルからなるRT−PCR反応を使用した。対照としてのβアクチンmRNAにより正規化した後、RAB6KIFL mRNAの発現を組織および細胞株において比較した。
【0116】
ウェスタンブロット解析および免疫組織化学検査
RAB6KIFLタンパク質のウェスタンブロットおよび免疫組織化学染色は、以前に記載された通りに行った(Nakatsura T, et al. Biochem Biophys Res Commun 2001;281:936-44、Yoshitake Y, et al. Clin Cancer Res 2004;10:6437-48)。ヒト正常組織のウェスタンブロット解析については、予め作製されたヒト成人正常組織ブロット(Biochain、Hayward, CA)を使用した。本明細書で使用した一次抗体である抗RAB6KIFLポリクローナル抗体およびモノクローナル抗bアクチン抗体は、それぞれBethyl Laboratories, Inc.(Montgomery, TX, USA)およびSigma(Steinheim, Germany)から購入した。RAB6KIFL−A2−10−284ペプチドで免疫したHLA−A2.1(HHD)Tgmの組織標本におけるCD4またはCD8の免疫組織化学染色は、以前に記載された通りに行った(Matsuyoshi H, et al. 2004;172:776-86)。
【0117】
レンチウイルス遺伝子導入
レンチウイルスベクターを介した遺伝子導入は、以前に記載された通りに行った(Imai K, et al. Clin Cancer Res 2008;14:6487-95、Tahara-Hanaoka S, et al. Exp Hematol 2002;30:11-7)。簡潔に説明すると、RAB6KIFL cDNAを保有する17μgのCSII−CMV−RfAおよびCSIIEF−RfA自己不活化ベクター(Miyoshi H, et al. J Virol 1998;72:8150-7)、ならびに10μgのpCMV−VSV−G−RSV−RevおよびpCAG−HIVgpを、Lipofectamine 2000試薬(Invitrogen Corporation、Carlsbad, CA, USA)を用いて、10cm培養ディッシュ中で増殖させた293T細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの60時間後に培地を回収し、超遠心(50,000×g、2時間)によりウイルス粒子をペレット化した。ペレットを50μLのRPMI 1640培地に懸濁し、10μLのウイルス懸濁液を平底96ウェルプレート中の1ウェル当たり5×10個のSKHep1細胞に添加した。トランスフェクトしたRAB6KIFL遺伝子の発現を、ウェスタンブロット解析により確認した。
【0118】
RAB6KIFL反応性マウスCTLの誘導、およびIFN−γ酵素結合免疫スポットアッセイ
HLA−A2(A*0201)コード分子に対する結合モチーフを保有するヒトRAB6KIFL由来のペプチド(純度>95%)を、BIMASソフトウェアプログラム(BioInformatics and Molecular Analysis Section, Center for information Technology, NIH、Bethesda, MD)を用いて選択し、36種のペプチドを合成した(American Peptide Company、CA, USA)。HLA−A2拘束性HIVペプチド(SLYNTYATL)(SEQ ID NO:10)を無関係のペプチドとして使用した。ペプチドによるマウスの免疫化は、以前に記載された通りに行った(Nakatsura T, et al. Biochem Biophys Res Commun 2003;306:16-25)。各ペプチドをパルスしたまたはパルスしていない同系BM−DC(1×10個/ウェル)で刺激した場合の、CD4−脾臓細胞1×10個あたりのIFN−γ産生細胞の頻度を、以前に記載されている通りに酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイにより解析した(Komori H, et al. Clin Cancer Res 2006;12:2689-97)。
【0119】
RAB6KIFL反応性ヒトCTLの誘導
HLA−A2(A*0201)コード分子に対する結合モチーフを保有するヒトRAB6KIFL由来ペプチド(純度>95%)を、BIMASソフトウェアプログラム(BioInformatics and Molecular Analysis Section, Center for Information Technology, NIH、Bethesda, MD)を用いて選択し、36種のペプチドを合成した(American Peptide Company、CA, USA)(表1AおよびB)。単球由来のDCを抗原提示細胞として用いて、HLAと関連して提示されたペプチドに対するCTL応答を誘導した。DCは、以前に記載された通りにインビトロ培養で作製した(Yoshitake Y, et al. Clin Cancer Res 2004;10:6437-48、Harao M, et al. Int J Cancer 2008;in press、Imai K, et al. Clin Cancer Res 2008;in press)。簡潔に説明すると、Ficoll−Plaque(GE Healthcare UK, Ltd.、Buckinghamshire, UK)溶液を用いて、HLA−A2に関して陽性である正常ボランティアから単離されたPBMCを、マイクロビーズ(Miltenyi Biotec、Bergisch Gladbach, Germany)によりCD8集団とCD14集団に分別した。DCを作製するために、2%加熱非働化自己血清を含むAIM−V(Invitrogen)中で、100 ng/mL顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF;PeproTec Inc.、NJ, USA)および10 ng/mLインターロイキン(IL)−4(PeproTec)の存在下、CD14集団を培養した。培養の5日後、DCを成熟させるためにOK−432をディッシュに添加した。サイトカインで作製したDCの培養を開始してから7日後に、AIM−V中で、4μg/mL β2ミクログロブリン(Sigma−Aldrich、St. Louis, MO, USA)の存在下、DCに20 ng/mL HLA−A2結合性ペプチドを37℃にて2時間パルスした。次いで、ペプチドパルスしたこれらのDCに放射線照射(40 Gy)を行い、抗CD8マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を用いたPBMCの陽性選択によって得られた自己CD8 T細胞と1:50の比率で混合した。これらの培養物を24ウェルプレート中に準備したが、各ウェルは、2%自己血漿を含むAIM−V 2 mL中に、ペプチドパルスしたDC 1×10個、CD8 T細胞 2×10個、および5 ng/mLヒト組換えIL−7(和光純薬工業株式会社、大阪、日本)を含んだ。2日後、これらの培養物に、ヒト組換えIL−2(PeproTec Inc.)を最終濃度20 IU/mLになるように補充した。7日目および14日目に、同じ手順を用いて、ペプチド負荷した自己DCによる週に1度の刺激をさらに2回行った。最終刺激の6日後、51Cr放出アッセイおよびIFN−γ ELISPOTアッセイにより、誘導されたCTLの抗原特異的応答を調べた。
【0120】
癌細胞株に対するCTL応答
CTLを、標的細胞(5×10個/ウェル)としての癌細胞またはペプチドパルスしたT2細胞の各々と共に指示されたエフェクター/標的比で共培養し、以前に記載された通りに標準的な51Cr放出アッセイを行った(Yoshitake Y, et al. Clin Cancer Res 2004;10:6437-48、Imai K, et al. Clin Cancer Res 2008;in press)。簡潔に説明すると、COインキュベーター中で、標的細胞を3.7 KBq Na 51Cr(Perkin Elmer Life Sciences)により37℃で1時間標識した。標識した標的細胞を3回リンスし、細胞を20μg/mLペプチドと共に37℃で3時間インキュベートすることによりペプチドパルスした標的細胞を調製した。平底マイクロタイタープレート中、最終量200μL中で標的細胞をエフェクター細胞と混合し、インキュベートした。6時間のインキュベーション後、各ウェルから上清50μLを回収し、γカウンターを用いて放射活性を定量した。特異的な51Cr放出の割合を算出することにより、特異的細胞傷害性を評価した。
【0121】
HLAクラスIまたはHLA−DRのブロッキングは、以前に記載された通りに行った(Yoshitake Y, et al. Clin Cancer Res 2004;10:6437-48、Imai K, et al. Clin Cancer Res 2008;in press)。簡潔に説明すると、51Cr放出アッセイまたはELISPOTアッセイにおいてCTLと癌細胞株を共培養する前に、標的癌細胞を10μg/mL抗クラスI mAb、W6/32または10μg/mL抗HLA−DR mAb、H−DR−1と共に1時間インキュベートし、次いでCTLによる細胞傷害活性またはIFN−γ産生のいずれかに及ぼすmAbの効果を調べた。
【0122】
統計解析
両側スチューデントt検定を用いて、ELISPOTアッセイによって得られたデータの差、および処置群間の腫瘍サイズの差についての統計的有意性を評価した。P値<0.05を有意であるとみなした。統計解析は、市販の統計ソフトウェアパッケージ(SPSS for Windows, version 11.0、Chicago, IL, USA)を用いて実施した。
【0123】
結果
cDNAマイクロアレイに基づいた、膵癌および様々な悪性腫瘍において上方制御されるRAB6KIFL遺伝子の同定
27,648種の遺伝子を含むゲノムワイドcDNAマイクロアレイを用いて、6例の膵癌組織およびそれらの隣接正常対応物の遺伝子発現プロファイルを以前に調べていた。解析後、6種の遺伝子が選択された。これらの遺伝子の相対発現比は、膵癌組織において、その正常対応物と比較して5倍超高かった(図1A)(Imai K, et al. Clin Cancer Res 2008;14:6487-95)。4例の胎児組織を含む29種の正常組織において、cDNAマイクロアレイ解析を用いてこれらの遺伝子の発現を解析した(図1B)。結果として、膵癌の新規TAAとしてRAB6KIFL/KIF20Aに着目した。膵癌組織におけるRAB6KIFL遺伝子の発現は、調べた6名の患者の全員で顕著に増強されていた(相対発現比の平均値:32,000、範囲:15〜72,000)。加えて、RAB6KIFL遺伝子は、精巣および胸腺においてのみかすかに発現していた(図1B)。以前のcDNAマイクロアレイ解析に基づくと、RAB6KIFL遺伝子の発現レベルは、肺癌および膀胱癌においても増強されていた(図1C)(Nakamura T, et al. Oncogene 2004;23:2385-400、Kitahara O, et al. Cancer Res 2001;61:3544-9、Hasegawa S, et al. Cancer Res 2002;62:7012-7、Kikuchi T, et al. Oncogene 2003;22:2192-205、Obama K, et al. Hepatology 2005;41:1339-48)。
【0124】
正常器官、癌細胞株、および膵癌組織におけるRAB6KIFLのmRNAおよびタンパク質の発現
RT−PCR解析を用いて、正常組織におけるRAB6KIFL遺伝子のmRNAレベルでの発現を解析した。正常組織におけるRAB6KIFLの半定量的RT−PCR解析から、これが精巣においてのみ発現したことが明らかになった(図2A)。RT−PCR解析を用いて、ほとんどすべての膵癌細胞株およびその他のHLA−A2陽性癌細胞株において、RAB6KIFL遺伝子の発現が検出された(図2B)。
【0125】
続いて、外科的に切除された膵癌組織およびそれらの隣接正常対応物において、RT−PCR解析を用いてRAB6KIFL遺伝子の発現を解析した。8例の膵癌組織のうち5例でRAB6KIFL遺伝子の発現が検出されたが、それらの正常対応物では発現はほとんど検出されなかった(図2C)。加えて、その発現は皮膚および腹膜の転移巣でも検出された。
【0126】
ウェスタンブロットにより、癌性組織およびいくつかの正常組織におけるRAB6KIFLタンパク質の発現もまた調べた(図3A、B)。RAB6KIFLタンパク質は8例の正常組織では検出され得ず、精巣は、PANC1細胞の溶解物において観察された移動度と類似した移動度を有する非常にかすかなバンドを示した(図3A)。一方、RAB6KIFLタンパク質は調べた2名の患者の膵癌組織において検出されたが、隣接正常組織では検出されなかった(図3B)。
【0127】
RAB6KIFLタンパク質の腫瘍に関連した過剰発現を確認するために、次に、多くのパラフィン包埋膵癌組織標本を免疫組織化学解析により調べた。RAB6KIFLの強い染色が主に膵癌の癌細胞の細胞質で観察されたのに対し、それらの正常隣接膵臓組織の腺房細胞および正常管上皮では非常に弱い染色が観察された(図4A)。加えて、腹膜の転移巣においても類似の強い染色が観察された(図4A)。腫瘤形成性膵炎の組織標本では、染色は検出されなかった(図4A)。RAB6KIFLは、正常な脳、肺、肝臓、腎臓、胃、小腸、結腸、脾臓、骨格筋、皮膚、胸腺、および精巣では染色されなかった(図4B)。
【0128】
RAB6KIFL由来のHLA−A2(A*0201)結合性ペプチドの予測
表1AおよびBは、RAB6KIFLタンパク質のHLA−A2(A*0201)結合性ペプチドを、予測される高い結合親和性のスコア順に示す。潜在的なHLA−A2結合能を有する全部で36種のペプチドを選択した。
【0129】
(表1A)RAB6KIFL由来のHLA−A2(A*0201)結合性9merペプチド

開始位置は、RAB6KIFLのN末端からのアミノ酸数を示す。
結合スコアは材料および方法に由来する。
【0130】
(表1B)RAB6KIFL由来のHLA−A2(A*0201)結合性10merペプチド

開始位置は、RAB6KIFLのN末端からのアミノ酸数を示す。
結合スコアは材料および方法に由来する。
【0131】
HLA−A2.1(HHD)トランスジェニックマウスを用いた、RAB6KIFLに由来しかつHLA−A2拘束性のマウスCTLエピトープの同定
RAB6KIFLに由来しかつHLA−A2拘束性のCTLエピトープを同定するために、36種の異なる候補ペプチドを選択した。それぞれが、NIH BIMASによって提供されるHLAペプチド結合予測アルゴリズムに基づき、世界中で最もよく見られるHLA対立遺伝子産物であるHLA−A2(A*0201)に対して高い予測結合スコアを有する9アミノ酸または10アミノ酸からなった(表1A、B)。どれがペプチド反応性CTLを誘導することが可能であるかを判定するために、これら36種のペプチドより選択された3種のペプチドの混合物12セットをパルスしたBM−DCで2回腹腔内免疫したHLA−A2.1(HHD)Tgmから単離したCD4脾臓細胞を、各ペプチドをパルスしたBM−DCでインビトロにて再度刺激した。結果から、ELISPOTアッセイにおいて、RAB6KIFL−A2−9−12、RAB6KIFL−A2−9−809、およびRAB6KIFL−A2−10−284ペプチドで刺激したCD4脾臓細胞が、有意な量のIFN−γをペプチド特異的様式で産生することが示された(図5A)。これらのCD4脾臓細胞(2×10個)は、ペプチドを負荷していないBM−DCの存在下では32.6 +/− 9.9スポットカウント/ウェルを示したのに対し、RAB6KIFL−A2−9−12ペプチドをパルスしたBM−DCに応答して149.0 +/− 22.2スポットカウント/ウェルを示した(P<0.01)。同様に、CD4脾臓細胞は、ペプチドを負荷していないBM−DCの存在下では51.4 +/− 7.8スポットカウント/ウェルを示したのに対し、RAB6KIFL−A2−9−809ペプチドをパルスしたBM−DCで刺激したCD4脾臓細胞は117.2 +/− 23.4スポットカウント/ウェルを示した(P<0.01)。さらに、CD4脾臓細胞は、ペプチドを負荷していないBM−DCの存在下では19.2 +/− 5.2スポットカウント/ウェルを示したのに対し、RAB6KIFL−A2−10−284ペプチドをパルスしたBM−DCで刺激したCD4脾臓細胞もまた141.2 +/− 5.5スポットカウント/ウェルを示した(P<0.01)。他のペプチドでは、有意なペプチド特異的応答は認められなかった。これらの結果から、RAB6KIFL−A2−9−12、RAB6KIFL−A2−9−809、およびRAB6KIFL−A2−10−284ペプチドは、HLA−A2.1(HHD)TgmにおけるHLA−A2拘束性CTLエピトープペプチドであり得ることが示唆され、これらのペプチドがヒトCTLのエピトープであることが予測された。
【0132】
HLA−A2.1(HHD)Tgmにおいて、エピトープペプチドであるRAB6KIFL−A2−9−809による免疫化によって誘導されない自己免疫現象
RAB6KIFLペプチドによる免疫化が自己免疫応答を誘導するか否かを調べることは非常に重要である。したがって本発明者らは、アミノ酸配列がヒトとマウスのRAB6KIFL間で完全に保存されているRAB6KIFL−A2−9−809ペプチドを2回ワクチン接種した後、HLA−A2(HHD)Tgmにおいて、抗CD4 mAbおよび抗CD8 mAbによるいくつかの重要器官の免疫組織化学解析を行った。結果として、自己免疫状態を示唆するリンパ球浸潤または組織破壊などの病的変化は認められなかった(図5B)。異常な毛および皮膚、下痢、ならびに体重減少などの、自己免疫疾患に罹患したマウスにおいて頻繁に認められる異常もまた、これらのマウスでは認められなかった。これらの結果から、RAB6KIFL−A2−9−809ペプチドで刺激されたリンパ球は、少なくともHLA−A2 Tgmにおいて正常組織を攻撃しなかったことが示される。
【0133】
HLA−A2(A*0201)陽性健常ドナーのPBMCからのRAB6KIFL反応性CTLの誘導
RAB6KIFL−A2−9−12(SEQ ID NO:3)、RAB6KIFL−A2−9−809(SEQ ID NO:4)、およびRAB6KIFL−A2−10−284(SEQ ID NO:5)ペプチドによる刺激によって、HLA−A2(A*0201)陽性健常ドナーのPBMCからRAB6KIFL特異的CTLを作製することを試みた。HLA−A2陽性健常ドナーからPBMCを単離し、PBMCから分別したCD8 T細胞を、各ペプチドをパルスした自己単球由来DCと共にインキュベートした。3回刺激した後、ペプチドをパルスしたT2細胞に対する細胞傷害活性を、51Cr放出アッセイ(図6A)およびIFN−γ ELISPOTアッセイ(データは示さず)によって調べた。2名の健常ドナーのPBMCから誘導されたCTLは、RAB6KIFL−A2−9−12(SEQ ID NO:3)、RAB6KIFL−A2−9−809(SEQ ID NO:4)、またはRAB6KIFL−A2−10−284(SEQ ID NO:5)ペプチドをパルスしたT2細胞に対して細胞傷害活性を示したが、無関係のHLA−A2拘束性HIVペプチドをパルスした、またはペプチドを負荷しなかったT2細胞に対しては細胞傷害活性を示さなかった。他のドナーにおいても同様の応答が認められた(データは示さず)。これらの結果から、これらのCTLがペプチド特異的な細胞傷害性を有したことが示される。
【0134】
続いて、これらのCTLが、RAB6KIFLおよびHLA−A2(A*0201)を発現しているヒト癌細胞株を死滅させることができるかどうかを調べた。図6Bに示したように、健常ドナーにおいて、RAB6KIFL−A2−9−12(左)、RAB6KIFL−A2−9−809(中央)、またはRAB6KIFL−A2−10−284(右)ペプチドで刺激したRAB6KIFL反応性CTLは、PANC1(RAB6KIFL、HLA−A2)、CaCo−2(RAB6KIFL、HLA−A2)に対して細胞傷害性を示したが、PK8(RAB6KIFL, HLA−A2)に対しては細胞傷害性を示さなかった。
【0135】
さらに、癌細胞においてこれらのペプチドがRAB6KIFLタンパク質から天然でプロセシングされることを確認するために、RAB6KIFL遺伝子をトランスフェクトしたSKHep1細胞(RAB6KIFLlow、HLA−A2)であるSKHep1/RAB6KIFL細胞(RAB6KIFLhigh、HLA−A2)(図2B)を標的細胞として使用した。図6Cに示したように、RAB6KIFL−A2−9−12(左)、RAB6KIFL−A2−9−809(中央)、およびRAB6KIFL−A2−10−284(右)ペプチドによる刺激によって誘導されたCTLは、SKHep1/RAB6KIFLに対して細胞傷害性を示したが、SKHep1/モックに対しては細胞傷害性を示さなかった。これらの結果から、これらのペプチドが天然でプロセシングされ、HLA−A2分子と関連して癌細胞の表面上に提示され得ることが示唆される。
【0136】
誘導されたCTLがHLAクラスI拘束性様式で標的細胞を認識したことを確認するために、HLAクラスIに対するmAb(W6/32)を用いてCTLによる癌細胞の認識を阻止することにより、HLAクラスIブロッキングアッセイを行った(図6D)。結果として、抗HLAクラスI抗体は、RAB6KIFL−A2−9−12(左)、RAB6KIFL−A2−9−809(中央)、またはRAB6KIFL−A2−10−284(右)ペプチドによる刺激によって作製されたCTLのELISPOTアッセイにおいて、PANC1細胞により刺激されるIFN−γ産生を統計的有意性をもって顕著に阻害することができた(図6D、P<0.01)。これらの結果は、誘導されたこれらのCTLが、HLAクラスI拘束性様式で、RAB6KIFLを発現している標的細胞を認識したことを明らかに示している。
【0137】
考察
実施例に従って、RAB6KIFLが膵癌の抗癌免疫療法の有望な標的としてのTAAであることが示された。抗癌免疫療法を確立するには、腫瘍細胞では強く発現するが、正常細胞ではそうではないTAAを同定することが重要である。cDNAマイクロアレイ解析から、RAB6KIFL mRNAが膵癌細胞で過剰発現し(Imai K, Hirata S, Irie A, Senju S, Ikuta Y, Yokomine K, Harao M, Inoue M, Tsunoda T, Nakatsuru S, Nakagawa H, Nakamura Y, et al. Clin Cancer Res 2008;14:6487-95)、それらの正常対応物、ならびに精巣および胸腺を除く多くの正常成人組織ではほとんど発現しないことが示された(図1B)。加えて、RAB6KIFL遺伝子は、膵癌のほかに肺癌および膀胱癌でも過剰発現した(図1C)。RT−PCR解析により、RAB6KIFL mRNAはいくつかの癌細胞株および膵癌組織では高頻度で発現するが、骨髄を含み精巣を除く成人正常組織ではそうではないことが実証された(図2)。同様に、ウェスタンブロット解析および免疫組織化学解析から、RAB6KIFLタンパク質は膵癌細胞では検出されるが、それらの正常対応物、および胸腺を含み精巣を除く正常成人組織では検出されないことが明らかになった(図3、4)。これらの知見により、癌精巣様TAAとしてのRAB6KIFLの特徴がタンパク質レベルで裏付けられる。
【0138】
抗癌免疫療法の有用な標的としてTAAを同定することに関して、別の重要な点は、癌細胞の増殖、浸潤、転移、および生存に不可欠である抗原を選択することである。最近、Taniuchiらは、RAB6KIFLが、膜輸送(Echard A, et al. Science 1998;279:580-5)およびサイトカイン(Fontijn RD, et al. Mol Cell Biol 2001;21:2944-55、Hill E, Clarke M, Barr FA. EMBO J 2000;19:5711-9)における以前に記載された役割に加えて、膵臓の発癌にも関与することを報告した(Taniuchi K, et al. Cancer Res 2005;65:105-12)。彼らは、低分子干渉RNAによる膵癌細胞における内因性RAB6KIFLの下方制御によって、RAB6KIFLのカーゴタンパク質であるdisc, large homologue 5(DLG5)との相互作用を介した癌細胞増殖の劇的な減弱が起こることを示し(Taniuchi K, et al. Cancer Res 2005;65:105-12)、RAB6KIFLがこのようにして膵臓の発癌において重要な役割を果たすように見え、したがって抗癌免疫療法の潜在的に有用な標的であることを示唆した。
【0139】
HLA−A2拘束性エピトープペプチドを同定し、それらの免疫原性を評価することにより、免疫療法の標的としてのRAB6KIFLの可能性を本明細書において検証した。HLA−A2(HHD)Tgmを用いる実験から、BIMASアルゴリズムによりHLA−A2(A*0201)に対する結合親和性を有すると予測された36種の候補ペプチドをワクチン接種することによって、リンパ球浸潤または組織破壊などの自己免疫現象を引き起こすことなく、HLA−A2拘束性マウスCTLの作製を促進することが可能な3種のHLA−A2拘束性RAB6KIFLエピトープペプチドが同定された(図5)。さらに、3名の独立した健常ドナーにおいて、これら3種のどのペプチドにより刺激したPBMCからも、RAB6KIFL反応性CTLを作製することができた(図6)。これらのCTLは、その同族ペプチドでパルスしたT2細胞ばかりでなく、RAB6KIFLおよびHLA−A2の両方を発現している癌細胞株もまた死滅させることができた。これらのCTLはヒトRAB6KIFL遺伝子をトランスフェクトしたSKHep1細胞に対して細胞傷害性を示したが、モックをトランスフェクトしたSKHep1に対しては細胞傷害性を示さなかったという知見により、これらのペプチドに対するCTLの抗原特異性が確認された。これらのデータから、これらのRAB6KIFLペプチド(RAB6KIFL−A2−9−12、RAB6KIFL−A2−9−809、およびRAB6KIFL−A2−10−284)は癌細胞においてRAB6KIFLタンパク質から天然でプロセシングされ、HLA−A2分子と共に細胞表面上に提示され、CTLによって認識されることが示唆される。加えて、RAB6KIFL−A2−9−809ペプチドで誘導されたCTLが、RAB6KIFL−A2−9−12またはRAB6KIFL−A2−10−284ペプチドによる刺激によって誘導されたCTLにより媒介される細胞傷害性と比較して、RAB6KIFLおよびHLA−A2の両方を発現している癌細胞に対してより強力な細胞傷害性を示したため、癌細胞においてRAB6KIFL−A2−9−809ペプチドは、RAB6KIFL−A2−9−12およびRAB6KIFL−A2−10−284ペプチドと比較して、RAB6KIFLタンパク質からより効率的にプロセシングされ得る可能性がある。
【0140】
内因性マウスH−2コードクラスI分子の発現を欠いているHLA−A2.1(HHD)Tgmを用いて、RAB6KIFLのHLA−A2拘束性CTLエピトープペプチドを同定した。HLA−A2.1(HHD)Tgmは、ペプチドに基づいた免疫療法の前臨床評価の汎用動物モデルであることが報告された(Imai K, et al. Clin Cancer Res 2008;14:6487-95、Komori H, et al. Clin Cancer Res 2006;12:2689-97、Harao M, et al. Int J Cancer 2008;123:2616-25、Pascolo S, et al. J Exp Med 1997;185:2043-51、Firat H, et al. Eur J Immunol 1999;29:3112-21)。
【0141】
TAAのワクチン接種によって誘導される有害作用を回避するために、成人正常組織においてほとんど発現しない標的としてRAB6KIFLを選択した。しかしながら、RAB6KIFLのワクチン接種が抗癌免疫療法中またはその後のいずれかに自己免疫疾患を誘導することが可能であるかどうかを判定することは非常に重要であった。ここで、3種のエピトープペプチドのうち2種のアミノ酸配列は、ヒトとマウスの間で保存されていない(RAB6KIFL−A2−9−12、ヒト:LLSDDDVVV(SEQ ID NO:3)、マウス:LLSDEDVVD(SEQ ID NO:11);RAB6KIFL−A2−10−284、ヒト:AQPDTAPLPV(SEQ ID NO:5)、マウス:AQPDTVPVSV(SEQ ID NO:12))。したがって、アミノ酸配列がヒトとマウスの間で完全に保存されているRAB6KIFL−A2−9−809ペプチドを2回ワクチン接種した後に、HLA−A2 Tgmにおける自己免疫現象を調べた。HLA−A2 Tgmを使用することの利点の1つは、自己免疫現象の可能性をインビボで調べることができることである。当然のことながら、本明細書において調べた正常組織の数は限られているため、本明細書で調べていないいくつかの正常組織におけるRAB6KIFLの発現の可能性を排除することは不可能である。したがって、癌免疫療法にRAB6KIFLペプチドを使用する場合には、自己免疫疾患の誘導に関して注意しなければならない。
【0142】
結論として、現在の結果から、RAB6KIFLが、RAB6KIFLおよびHLA−A2の両方を発現している癌細胞に対して反応するCTLを生じさせることができるエピトープペプチドを含むTAAであることが示唆される。RAB6KIFLは様々なヒト悪性腫瘍において高度に発現するため、RAB6KIFLは、幅広い悪性腫瘍、特に膵癌の治療のためのペプチドに基づいた免疫療法の有望な標的である。したがって、膵癌患者においてRAB6KIFL特異的CTLを誘導する能力に関するさらなる研究が、臨床応用に関する非常な重要な課題として残っている。
【0143】
産業上の利用可能性
本発明は、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導し、幅広い癌のタイプに対する適用性を有する新規TAA、詳細にはRAB6KIFL由来の新規TAAについて記載する。このようなTAAは、RAB6KIFLに関連した疾患、例えば膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)などの癌に対するペプチドワクチンとしてのさらなる発展を保証する。
【0144】
本発明はその特定の態様に関して本明細書において詳細に記載されるが、前述の説明は本質的に例示的かつ説明的なものであって、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるべきである。慣行的な実験を通して、当業者は、その境域および境界が添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がなされ得ることを容易に認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:3、4、および5からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたオリゴペプチド。
【請求項2】
1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されているオリゴペプチドであって、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有する、請求項1記載のオリゴペプチド。
【請求項3】
(a)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンであること、および
(b)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンであること
からなる群より選択される少なくとも1つの置換を有する、請求項2記載のオリゴペプチド。
【請求項4】
薬学的に許容される担体と、請求項1〜3のいずれか一項記載の1つもしくは複数のオリゴペプチドまたは該オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドとを含む、癌を治療および/もしくは予防するための、ならびに/またはその術後再発を予防するための薬剤。
【請求項5】
HLA抗原がHLA−A2である対象に投与するために製剤化されている、請求項4記載の薬剤。
【請求項6】
癌が、膀胱癌、乳癌、胆管細胞癌、食道癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、膵癌、前立腺癌、腎癌、および小細胞肺癌(SCLC)からなる群より選択される、請求項4記載の薬剤。
【請求項7】
ワクチンである、請求項4記載の薬剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原とを含む複合体をその表面上に提示するエキソソーム。
【請求項9】
HLA抗原がHLA−A2である、請求項8記載のエキソソーム。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることにより抗原提示細胞を誘導するための方法。
【請求項11】
(a)抗原提示細胞を、請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドと接触させる段階、および
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを抗原提示細胞に導入する段階
からなる群より選択される段階を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによりCTLを誘導するための方法。
【請求項13】
(a)CD8陽性T細胞を、請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドをその表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階、ならびに
(b)抗原提示細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体に結合するT細胞受容体(TCR)サブユニットを形成することが可能なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性T細胞に導入する段階
からなる群より選択される段階を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを標的とする、単離されたCTL。
【請求項15】
抗原提示細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体に結合することが可能である、請求項14記載のCTL。
【請求項16】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを用いることによって誘導される、単離されたCTL。
【請求項17】
請求項13記載の方法により誘導される、請求項16記載のCTL。
【請求項18】
HLA抗原と請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとの複合体をその表面上に提示する、単離された抗原提示細胞。
【請求項19】
請求項10または11記載の方法により誘導される、請求項18記載の抗原提示細胞。
【請求項20】
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1つもしくは複数のオリゴペプチド、またはその免疫学的に活性のある断片;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドまたはその免疫学的に活性のある断片をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド;
(c)請求項14〜17のいずれか一項記載の1つまたは複数の単離されたCTL;
(d)請求項18または19記載の1つまたは複数の単離された抗原提示細胞
からなる群より選択される少なくとも1つの有効成分を含むワクチンを対象に投与する段階を含む、対象において癌に対する免疫応答を誘導する方法。
【請求項21】
薬学的に許容される担体と、請求項1〜3のいずれか一項記載の1つもしくは複数のオリゴペプチド、該オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチド、または請求項18もしくは19記載の単離された抗原提示細胞とを含む、CTLを誘導するための薬剤。
【請求項22】
癌を治療するための薬学的組成物または薬剤の製造における、
(a)請求項1〜3のいずれか一項記載の1つまたは複数のオリゴペプチド;
(b)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを発現可能な形態でコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド;
(c)請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドを提示する1つまたは複数の抗原提示細胞;および
(d)抗原提示細胞表面上の請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドとHLA抗原との複合体に結合することが可能である、1つまたは複数のCTL
からなる群より選択される有効成分の使用。
【請求項23】
請求項1〜3のいずれか一項記載のオリゴペプチドをコードするポリヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【公表番号】特表2012−506235(P2012−506235A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517539(P2011−517539)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際出願番号】PCT/JP2009/005382
【国際公開番号】WO2010/047062
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】