説明

RC躯体間の耐火止水継手構造

【課題】RC躯体が並んで構成する地下構造物において、継手の設置に際して比較的狭い設置スペースしか存在しないRC躯体間においても、耐震性を備え、かつ耐火板によってトンネル内火災時の熱から止水材を防護することのできる耐火止水継手構造を提供すること。
【解決手段】複数のRC躯体が並んで構成する地下構造物において、隣接するRC躯体A,B間に形成される耐火止水継手構造10であって、RC躯体A,B間に跨る凹溝Gが双方のRC躯体表面に設けてあり、双方のRC躯体A,Bに接続された撓み姿勢の止水材1が凹溝G内に配設されており、凹溝Gを塞ぐようにして略扁平な耐火板3が配設され、その一端は一方のRC躯体Bに固定され、その他端は他方のRC躯体Aに固定されていない耐火止水継手構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RC筐体やRCセグメント等のRC躯体が並んで構成する地下構造物において、隣接するRC躯体間に形成される耐火止水継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、特に都市部の地下においては、地下道路や地下路線用の地下トンネル、電力やガス、上下水道用管路等が収容される共同溝等が施工されており、地上交通手段と合わせて生活基盤を成している。
【0003】
たとえば複数のRC筐体(RC躯体、RC:鉄筋コンクリート)がトンネル軸方向に並んで構成される所定延長および所定線形の道路トンネルを取り上げると、隣接するRC躯体間には耐震止水ゴムが設けられているのが一般的であり、地震時にRC躯体間に変位が生じた場合であってもこの止水ゴムが変形することにより、その止水性が保証されている。
【0004】
ところで、道路トンネル内で危惧される災害の一つにガソリン火災が挙げられるが、このガソリン火災によって耐震止水ゴムが破損すると、この破損箇所から道路トンネル内に地下水や土壌が浸入し、交通災害をはじめとする大惨事に至る危険性がある。そして、土壌がトンネル内に浸入することで地表面の陥没に至ることもあり、災害が地上へも波及することになり得る。
【0005】
したがって、RC躯体同士の接続箇所には、耐震性と止水性を併せ持つ繋ぎ構造であることに加えて、ガソリン火災に対する耐火性能を有する耐火止水継手構造である必要がある。
【0006】
ここで、従来の耐震性を有する耐火止水継手構造として特許文献1,2に開示の技術を挙げることができる。
【0007】
特許文献1で開示する継手構造は、主として隣接する鋼製セグメント同士を繋ぐ継手構造であるが、鋼製セグメント故に広範な内空(継手設置スペース)が確保できることから、伸縮可能で屈曲させた耐火材を適用するものである。すなわち、鋼製セグメントの場合には、RCセグメントのように継手構造を設ける際に障害となり得るセグメント内に配筋される鉄筋が存在しないことから、RC躯体同士を繋ぐ場合に比して広範な内空が確保されるのである。
【0008】
一方、特許文献2で開示する継手構造も、特許文献1の場合と同様に広範な内空が確保できる鋼殻同士を繋ぐものであることから、やはり伸縮可能で屈曲させた耐火材が適用されている。
【0009】
一方、道路トンネル等が上記するRC躯体から構成される場合には、特許文献1,2で開示される技術のように、伸縮可能で屈曲させた耐火材を適用できる十分なスペースが存在しないことから、仮に耐火材を適用する場合には屈曲のないトンネル内空面に適合した略扁平な耐火材を適用せざるを得ず、したがって、これに耐震性を要求する場合には別途の構造を模索しなければならない。
【0010】
しかしながら、継手構造体の設置に際して極めて狭いスペースしか確保できないRC躯体から構成された道路トンネルのRC躯体間に適用される耐火止水継手構造において、地下の土水圧に耐え、かつ耐震性を備えた耐火止水継手構造が存在しないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−344352号公報
【特許文献2】特開2007−211487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、RC躯体が並んで構成する地下構造物において、継手の設置に際して比較的狭い設置スペースしか存在しないRC躯体間においても、耐震性を備え、かつ耐火板によってトンネル内火災時の熱から止水材を防護することのできる耐火止水継手構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明によるRC躯体間の耐火止水継手構造は、複数のRC躯体が並んで構成する地下構造物において、隣接するRC躯体間に形成される止水耐火構造であって、隣接する2つのRC躯体間に跨る凹溝が双方のRC躯体表面に設けてあり、双方のRC躯体に接続された撓み姿勢の止水材が前記凹溝内に配設されており、前記凹溝を塞ぐようにして略扁平な耐火板が配設され、その一端は一方のRC躯体に固定され、その他端は他方のRC躯体に固定されていないものである。
【0014】
一般にRC躯体間には、たとえば発泡ゴム等からなる目地材が介在して双方が併設しており、地震時に双方のRC躯体が相対的に近寄ろうとする方向へ変位した際には、この目地材が圧縮変形してRC躯体の変位に対応するようになっている。この隣接するRC躯体間に跨るようにして凹溝を形成しておき、この凹溝内に撓み姿勢の止水材の一方端が一方のRC躯体に、他方端が他方のRC躯体に接続されていることにより、地震時に双方のRC躯体が離れようとする方向に変位した際には、撓んだ止水材が広がる方向に変位してRC躯体の変位に追随することができる。一方、地震時に双方のRC躯体がより近寄ろうとする方向に変位した際には、撓んだ止水材がより一層撓むことでRC躯体の変位に追随することができる。
【0015】
一方、凹溝を塞ぐ略扁平な耐火板が一方のRC躯体には不動姿勢で固定され、他方のRC躯体には固定されずにスライド自在なフリー姿勢を有していることで、地震時に双方のRC躯体が離れようとする方向に変位した際に、あるいは近寄ろうとする方向に変位した際に、耐火板は止水材を収容する凹溝を塞ぎながら、固定されていない他方のRC躯体表面上でその一部がスライドしながらRC躯体の変位に追随することができる。
【0016】
ここで、「略扁平」とは、従来技術で適用される耐火材の有する屈曲した形状でなく、トンネル内空の面形状に適合した曲率を有しながらも平板に近い形状や、完全にフラットな扁平形状の双方を含む意味である。
【0017】
適用される止水材は止水ゴムをはじめとする変形性と止水性の双方の性能を備えた公知のものが適用できる。
【0018】
このように、略扁平な耐火板を適用しながらもこの一部が一方のRC躯体表面上をスライドしながら止水材が収容された凹溝の閉塞を保証できる構成としたことで、継手設置スペースの狭いRC躯体間においても、耐震性を具備した耐火止水継手を形成することができる。
【0019】
ここで、上記するRC躯体間の耐火止水継手構造の一実施の形態において、前記凹溝は、RC躯体表面側にある第1の凹溝と、この第1の凹溝よりも幅狭の第2の凹溝とからなり、前記第2の凹溝内に前記止水材が配設され、前記第1の凹溝内に前記耐火板が配設されるとともに該耐火板のRC躯体に固定されていない前記他端と第1の凹溝の内面の間には隙間が設けてあり、耐火板の一端が固定されているRC躯体の表面に脱落防止板が固定され、かつ脱落防止板が前記耐火板の表面にも固定されていて、脱落防止板にスライド自在に係合された案内板が他方のRC躯体の表面に固定されているものである。
【0020】
本実施の形態の耐火止水継手構造によれば、段状の凹溝を有し、相対的に幅広の表面側の第1の凹溝内に耐火板を収容し、さらに、この耐火板を一方のRC躯体に固定された脱落防止板に固定し、他方のRC躯体に固定された案内板をこの脱落防止板にスライド自在に係合させたことで、耐火板のトンネル内への脱落を抑止しながら、しかも、地震時のRC躯体変位に対してスムースな耐火板の移動を保証することができる。
【0021】
なお、この継手構造では、耐火板の一方端と第1の凹溝の内面の間に形成されている一つの空隙が地震時にRC躯体同士が近寄ろうとする方向へ変位した際に耐火板が移動できるバッファースペースとなる。
【0022】
また、本発明によるRC躯体間の耐火止水継手構造の他の実施の形態は、複数のRC躯体が並んで構成する地下構造物において、隣接するRC躯体間に形成される耐火止水継手構造であって、隣接する2つのRC躯体間に跨る凹溝が双方のRC躯体表面に設けてあり、双方のRC躯体に接続された撓み姿勢の止水材が前記凹溝内に配設されており、前記凹溝を塞ぐようにして配設された略扁平な耐火板が伸縮材を介して双方のRC躯体に接続されているものである。
【0023】
本実施の形態の耐火止水継手構造は、耐火板が一方のRC躯体に不動固定される代わりに、双方のRC躯体に伸縮材を介して変位自在に耐火板が接続されるものである。この伸縮材としては、たとえば伸縮バネやこれを袋内に収容した袋構造のバネなどを適用できる。
【0024】
ここで、上記するRC躯体間の耐火止水継手構造の一実施の形態において、前記凹溝は、RC躯体表面側にある第1の凹溝と、この第1の凹溝よりも幅狭の第2の凹溝とからなり、前記第2の凹溝内に前記止水材が配設され、前記第1の凹溝内に前記耐火板が配設されるとともに該耐火板のRC躯体に固定されていない前記他端と第1の凹溝の内面の間には隙間が設けてあり、耐火板の表面から該耐火板が固定されている一方のRC躯体の表面に亘って該耐火板が脱落するのを防止する脱落防止板が固定されていて、脱落防止板にスライド自在に係合された案内板が他方のRC躯体の表面に固定されているものである。
【0025】
耐火板が双方のRC躯体にスライド自在に接続され、かつ耐火板の両端と第1の凹溝の内面の間で、すなわち耐火板の左右端に隙間を具備する構成としたことで、止水材に大きな伸縮量を期待する場合、すなわち、地震時のRC躯体の変位量が大きく、これに追随して変形する止水材の伸縮量が大きな場合に有利である。すなわち、既述する耐火板の一方端のみに空隙がある形態では、耐火板がその一端のみでRC躯体に固定されていることから構造上の制約が生じてくるが、本実施の形態のように耐火板の両端にバッファースペースが存在し、耐火板を双方のRC躯体のそれぞれで変位自在に接続することで、このような制約が解消される。
【0026】
また、本発明によるRC躯体間の耐火止水継手構造の好ましい実施の形態は、前記耐火板の両端部の少なくともRC躯体側に熱膨張性材が配設されているものである。
【0027】
上記するいずれの形態の耐火止水継手構造においても、耐火板が一方のRC躯体表面をスライドしたり、双方のRC躯体から伸縮材を介して相対的に移動することから、この耐火板とRC躯体(の凹溝の内面)の間に多少の隙間が形成されるのは避けられない。したがって、場合によっては、火災時の炎や熱風などが耐火板で防護された止水材へ浸入する可能性を完全に否定できない。
【0028】
そこで、本実施の形態では、耐火板のうち、特にそのRC躯体側、すなわち、その止水材側に熱膨張性材を配設しておくことで、本来は耐火板とRC躯体が密着しているべき領域にできた隙間を火災時の熱で膨らんだ熱膨張材が閉塞し、熱風等が止水材にまで及ばないようにしたものであり、より一層高い耐火性能を有する耐火止水継手構造を形成することができる。
【0029】
また、上記する耐火板は特に限定されるものでないが、2枚の断熱ブランケットもしくは2枚の断熱板と、これらに挟持された低熱伝導シートもしくは熱伝導遮断シートからなる形態のものを適用することができる。
【0030】
ここで、断熱ブランケットとは、たとえば生体溶解性繊維を連続的に積層してブランケット状に成形したものである。一方、低熱伝導シートとは、たとえばガラスクロスで被覆された粉状混合物の板状成型体であり、縦横にミシン目を入れてフレキシブルに曲がるように加工されたシートである。
【0031】
上記する本発明のRC躯体間の耐火止水継手構造によれば、鋼製躯体に比して継手構造体の設置スペースが狭い隣接するRC躯体間においても、略扁平な耐火板にて内部の止水材を効果的に断熱でき、しかも、耐震性に優れた耐火止水継手構造となる。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から理解できるように、本発明のRC躯体間の耐火止水継手構造によれば、隣接するRC躯体間に跨る凹溝内に撓み姿勢の止水材を配設し、この凹溝を塞ぐように配設された略扁平な耐火板が一方のRC躯体表面を相対移動したり、あるいは双方のRC躯体から伸縮材を介して相対移動しながら地震時のRC躯体の変位に追随して止水材の閉塞状態を保証できるため、継手構造体の設置スペースが狭いRC躯体間に設置可能で、耐震性に優れ、止水性および耐火性に優れた耐火止水継手構造となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の耐火止水継手構造の一実施の形態の横断面図であり、常時の状態を示した図である。
【図2】図1の耐火止水継手構造に関し、地震時に双方のRC躯体が近寄る方向に変位した状態を示した図である。
【図3】図1の耐火止水継手構造に関し、地震時に双方のRC躯体が離れる方向に変位した状態を示した図である。
【図4】本発明の耐火止水継手構造の他の実施の形態の横断面図であり、常時の状態を示した図である。
【図5】図4の耐火止水継手構造に関し、地震時に双方のRC躯体が近寄る方向に変位した状態を示した図である。
【図6】図5の耐火止水継手構造に関し、地震時に双方のRC躯体が離れる方向に変位した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の耐火止水継手構造を説明する。なお、図示例は隣接するRC躯体同士の特に継手箇所のみを取り出して示したものであり、このRC躯体は、鉄筋コンクリート製の筐体やセグメントなど、その構造形態は任意であり、その断面形状も正方形、矩形、円形、楕円形などの多様な形状形態がある。また、実際には、図示するように隣接するRC躯体同士が目地材を介して並べられ、そのトンネルの内空側に耐火板が面するようにして双方のRC躯体の対向する端面間に図示する継手構造が連続して(無端状に)設けられるものである。
【0035】
図1は耐火止水継手構造の一実施の形態の横断面図であって常時の状態を示した図であり、図2はその地震時に双方のRC躯体が近寄る方向に変位した状態を示した図であり、図3はその地震時に双方のRC躯体が離れる方向に変位した状態を示した図である。
【0036】
図1で示す耐火止水継手構造10は、伸縮性の目地材Mを介して繋がれた筒状のRC躯体A,Bの内空側に形成される継手構造である。
【0037】
双方のRC躯体A,Bに跨るようにして凹溝Gが形成され、この凹溝Gは、RC躯体表面側(内空側)で相対的に幅広の第1の凹溝G1と、これに連続して相対的に幅狭の第2の凹溝G2から構成されている。
【0038】
RC躯体A,B双方の第2の凹溝G2の内面には留め具2がアンカー固定されており、双方の留め具2,2に常時の状態で撓んだ止水材1の両端が、接着剤とボルトにてシール性を有した状態で緊密に接続されている。
【0039】
第1の凹溝G1内には、略扁平な耐火板3が収容されている。具体的には、耐火板3の一端は一方のRC躯体Bに対して、該RC駆体Bにアンカー42にて固定された脱落防止板41とともに別途のアンカー45にて不動姿勢で固定され、耐火板3の他端はRC躯体Aに固定されることなくフリーな状態で第1の凹溝G1内に収容されている。そして、耐火板3の他端表面は、RC躯体Aにアンカー44にて固定されて脱落防止板41の係合ナット41aがスライド自在に係合するスリット43aを備えた案内板43が配設されている。ここで、略扁平な耐火板3とは、屈曲した形状を有して比較的広い設置スペースを必要とする形態の耐火板ではなく、トンネル内空の面形状に適合した曲率を有しながらも平板に近い形状の耐火板や、完全にフラットな形状耐火板のことである。
【0040】
これら相互にスライド自在に係合された脱落防止板41と案内板43によって、耐火板3がトンネル内空側に脱落するのが抑止され、かつ、第1の凹溝G1内でその内面と耐火板3を密着させることができる。
【0041】
なお、ここで「耐火板の一端」、「耐火板の他端」とは、耐火板の端部のみならず、端部周辺の領域をも含む意味であり、図1からも明らかなように、RC躯体Bに固定される耐火板3の一端は、端部よりも内側に入った任意箇所となっている。
【0042】
図示する耐火板3は、2枚の低熱伝導シート31,31を2枚の断熱ブランケットが挟持した構造で略扁平な板材である。この低熱伝導シート31は、ガラスクロスで被覆された粉状混合物の板状成型体で縦横にミシン目を入れてフレキシブルに曲がるように加工された、微細多孔構造のシートであり、たとえば、ニチアス株式会社製の低熱伝導シートを使用することができる。また、断熱ブランケットは、生体溶解性繊維を連続的に積層し、ブランケット状に成形してニードルパンチ処理したものであり、たとえば、ニチアス株式会社製のビオールブランケットを使用することができる。なお、耐火板3のトンネル内空側表面には、炭酸カルシウムやアルミナ等を含有したシリコンをコーティングしておいてもよい。
【0043】
耐火板3の一端は一方のRC躯体Bに不動姿勢で固定され、他端は他方のRC躯体Aに固定されない構成となっており、さらに、この他端とRC躯体A側の第1の凹溝G1の内面との間には隙間Sが形成されている。
【0044】
地震時に双方のRC躯体A,Bが、図2で示すように介在する目地材Mを圧縮しながら(圧縮力P)相互に近寄る方向に変位した際に(圧縮された目地材M’)、第2の凹溝G2内では変形自在な止水材1が変形しながらこの変位に追随し、第1の凹溝G1内では、案内板43に対して脱落防止板41がスライドしながら移動し、当初の隙間Sが隙間S’となる。この移動によっても、当初の隙間S内でスライド量(δ1)が収まるように隙間Sの幅が設計されているために、内部の止水材1を塞いだ姿勢を保持しながら、耐火板3は第1の凹溝G1内で押し潰されることもない。なお、仮に、隙間Sの幅に比して脱落防止板41のスライド量が多い場合でも、耐火板3にはある程度の伸縮変形性能があることから、耐火板3自身の変形にて隙間Sの幅を超えるスライド量分を吸収することが可能である。
【0045】
一方、地震時に双方のRC躯体A,Bが、図3で示すように相互に離れる方向に変位した際には、第2の凹溝G2内では変形自在な止水材1が変形しながらこの変位に追随し、第1の凹溝G1内では、案内板43に対して脱落防止板41が図2とは反対方向にスライドしながら移動する(スライド量δ2)し、当初の隙間Sが隙間S”となる。この移動によっても、スライド量(δ2)が収まるようにスリット43aの長さが設計されているために、内部の止水材1を塞いだ姿勢を保持しながら、耐火板3は第1の凹溝G1内で何等拘束されることなくスライドすることができる。
【0046】
このように、地震時に想定される隣接するRC躯体A,Bの2方向の変位に対して、耐火板3は止水材1が収容された第2の凹溝G2の内面との間で相互に密着して第2の凹溝G2を塞いだ姿勢を保持しながら、自身が破損することなくスライドすることができる。したがって、地震時にトンネル内でガソリン火災が発生したとする最悪のシナリオを想定した場合であっても、耐火板3は地震時の変位に追随しながら、止水材1を火災の熱から防護することができる。
【0047】
ここで、図示例においては、耐火板3の両端部の少なくともRC躯体A,B側に熱膨張性材5が配設されている。
【0048】
耐火板3が一方のRC躯体表面をスライドすることから、実際には、この耐火板3とRC躯体Aの第1の凹溝G1の内面の間に多少の隙間が形成される可能性がある。そして、この隙間が形成された場合には、火災時の炎や熱風などが耐火板3で防護された止水材1へ浸入する可能性を完全に否定できない。そこで、このような事態を想定し、耐火板3のうちで特にそのRC躯体A,B側、すなわち、その止水材1側に熱膨張性材5を配設しておくことにより、本来は耐火板3とRC躯体A,Bが密着しているべき領域にできた隙間を火災時の熱で膨らんだ熱膨張材5が閉塞し、熱風等が止水材1にまで及ばないようにすることができる。なお、この熱膨張材5には、たとえば株式会社十川ゴム製の熱膨張ゴムを使用することができる。
【0049】
図4は耐火止水継手構造の他の実施の形態の横断面図であって常時の状態を示した図であり、図5はその地震時に双方のRC躯体が近寄る方向に変位した状態を示した図であり、図6はその地震時に双方のRC躯体が離れる方向に変位した状態を示した図である。
【0050】
図示する耐火止水継手構造10Aは、隣接する2つのRC躯体A,Bの第1の凹溝G1内に収容された耐火板3をRC躯体A,Bのいずれか一方に不動姿勢で固定する代わりに、その左右の任意箇所をRC躯体A,Bに対してそれぞれ圧縮バネ6を介して接続したものである。
【0051】
RC躯体A,Bそれぞれの第1の凹溝G1に収容溝m1が開設され、耐火板3にも同様に収容溝m2を開設されており、さらに、図4で示すように常時の状態で双方の収容溝m1、m2が連通するようになっており、この連通された収容溝m1、m2のそれぞれに圧縮バネ6の両端が固定される。
【0052】
また、耐火板3の表面には脱落防止板41が固定され、RC躯体A,B双方の表面に固定された案内板47,47のスリット47a,47aに、脱落防止板41の端部に設けられた係合ナット41a,41aがそれぞれスライド自在に係合している。
【0053】
そして、この常時の状態において、耐火板3の両端部と第1の凹溝G1の間には、すなわち耐火板3の左右には隙間S,Sが形成されている。
【0054】
地震時に双方のRC躯体A,Bが、図5で示すように介在する目地材Mを圧縮しながら相互に近寄る方向に変位した際に(圧縮された目地材M’)、第2の凹溝G2内では変形自在な止水材1が変形しながらこの変位に追随し、第1の凹溝G1内では、2つの案内板47,47に対して脱落防止板41がスライドしながら移動し、当初の双方の隙間S,Sが隙間S’、S’となる(双方が異なる隙間となってもよいことは勿論のことである)。この移動の際には、双方の圧縮バネ6,6が伸びて耐火板3がスライドし、このスライド量が当初の2つの隙間Sの合計幅内に収まるように設計されている。
【0055】
特に、図1で示す1つの隙間Sを有する耐火止水継手構造10と比較すると違いが明りょうであるが、耐火止水継手構造10ではその耐火板3が一方のRC躯体Bにのみ固定されている片持ち構造となるために、耐火板3の幅(図1における左右長さ)が長い場合に固定箇所のアンカーを大きくする等の必要が生じてこのアンカーとRC躯体内の鉄筋が干渉し易くなるといった問題が生じる可能性がある。
【0056】
それに対して、図4で示す耐火止水継手構造10Aは、耐火板3の左右2箇所で変位自在にRC躯体A,Bに支持されていることから、耐火板3の幅が長くなった場合でもその取り付け構造に関して上記課題は生じ得ない。
【0057】
地震時に双方のRC躯体A,Bが、図6で示すように相互に離れる方向に変位した際には、第2の凹溝G2内では変形自在な止水材1が変形しながらこの変位に追随し、第1の凹溝G1内では、案内板47,47に対して脱落防止板41が図5とは反対方向にスライドしながら移動し、当初の双方の隙間S,Sが隙間S”、S”となるこの移動によっても、スライド量が収まるようにスリット47aの長さが設計されているために、内部の止水材1を塞いだ姿勢を保持しながら、耐火板3は第1の凹溝G1内で何等拘束されることなくスライドすることができる。
【0058】
このように、図示する耐火止水継手構造10,10Aは、地下トンネルを構成するRC躯体同士の継手箇所に設けられる耐火止水継手構造であり、鋼製躯体に比して継手構造体の設置スペースが狭い場合であっても、耐震性に優れ、止水性および耐火性に優れた耐火止水継手構造である。そして、特に地震時にトンネル内でガソリン火災が生じるという最悪のケースにおいて、トンネルの止水性を保証し、トンネル内火災が地上交通等へ影響を与えないことを保証することができるものである。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
1…止水材、2…留め具、3…耐火板、31…低熱伝道シート、32…断熱ブランケット、41…脱落防止板、41a…係合ナット、42…固定アンカー、43…案内板、43a…スリット、44…固定アンカー、45…固定アンカー、5…熱膨張性材、6…伸縮材(圧縮バネ)、10,10A…耐火止水継手構造、A、B…RC躯体、G…凹溝、G1…第1の凹溝、G2…第2の凹溝、S,S',S”…隙間、M,M’…目地材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のRC躯体が並んで構成する地下構造物において、隣接するRC躯体間に形成される耐火止水継手構造であって、
隣接する2つのRC躯体間に跨る凹溝が双方のRC躯体表面に設けてあり、
双方のRC躯体に接続された撓み姿勢の止水材が前記凹溝内に配設されており、
前記凹溝を塞ぐようにして略扁平な耐火板が配設され、その一端は一方のRC躯体に固定され、その他端は他方のRC躯体に固定されていないRC躯体間の耐火止水継手構造。
【請求項2】
前記凹溝は、RC躯体表面側にある第1の凹溝と、この第1の凹溝よりも幅狭の第2の凹溝とからなり、
前記第2の凹溝内に前記止水材が配設され、前記第1の凹溝内に前記耐火板が配設されるとともに該耐火板のRC躯体に固定されていない前記他端と第1の凹溝の内面の間には隙間が設けてあり、
耐火板の表面から該耐火板が固定されている一方のRC躯体の表面に亘って該耐火板が脱落するのを防止する脱落防止板が固定されていて、脱落防止板にスライド自在に係合された案内板が他方のRC躯体の表面に固定されている請求項1に記載のRC躯体間の耐火止水継手構造。
【請求項3】
複数のRC躯体が並んで構成する地下構造物において、隣接するRC躯体間に形成される耐火止水継手構造であって、
隣接する2つのRC躯体間に跨る凹溝が双方のRC躯体表面に設けてあり、
双方のRC躯体に接続された撓み姿勢の止水材が前記凹溝内に配設されており、
前記凹溝を塞ぐようにして配設された略扁平な耐火板が伸縮材を介して双方のRC躯体に接続されているRC躯体間の耐火止水継手構造。
【請求項4】
前記凹溝は、RC躯体表面側にある第1の凹溝と、この第1の凹溝よりも幅狭の第2の凹溝とからなり、
前記第2の凹溝内に前記止水材が配設され、前記第1の凹溝内に前記耐火板が配設されるとともに該耐火板の両端と凹溝の内面の間にはそれぞれ隙間が設けてあり、
前記耐火板の表面に該耐火板が脱落するのを防止する脱落防止板が固定され、かつ脱落防止板にスライド自在に係合された案内板が双方のRC躯体の表面に固定されている請求項3に記載のRC躯体間の耐火止水継手構造。
【請求項5】
前記耐火板の両端部の少なくともRC躯体側に熱膨張性材が配設されている請求項1〜4のいずれかに記載のRC躯体間の耐火止水継手構造。
【請求項6】
前記耐火板は、2枚の断熱ブランケットもしくは2枚の断熱板と、これらに挟持された低熱伝導シートもしくは熱伝導遮断シートからなる請求項1〜5のいずれかに記載のRC躯体間の耐火止水継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−132183(P2012−132183A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284303(P2010−284303)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000196624)西武ポリマ化成株式会社 (60)
【出願人】(591101113)岩野物産株式会社 (1)
【Fターム(参考)】