説明

RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法

【課題】 本発明は、RE123相の熱分解工程を含まず、高温かつ長時間の溶融が不必要なプロセスを開発し、大型でかつ高性能、かつ、機械的特性に優れた超電導バルク体を作製する方法を提供する。
【解決手段】 RE−Ba−O系化合物(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)とBa−Cu−O系液相原料を出発原料とし、液相成分を溶融した後、結晶成長させることを特徴とするRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導軸受け、超電導磁気搬送装置、超電導永久磁石、磁気シールド等の多様な用途に用いられるRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体を作製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、バルク超電導体をフライホイールやリニアモーターカー等へ応用することを前提に、より高性能なバルク超電導体を作製することが望まれている。そして、応用を実現するために、バルク超電導体としては、REBa2Cu37-d系超電導体(RE123、REは希土類元素のうち1種又は2種以上)が好ましいと考えられている。
【0003】
超電導体と永久磁石との反発力は、臨界電流密度(Jc)と超電導体内に流れる遮蔽電流ループ(R)の大きさに比例するので、より高性能なバルク超電導体を作製するためには、Jc及びRを大きくすることが必要である。
【0004】
臨界電流密度(Jc)を向上させるためには、粒界など、電流の流れを妨げるような弱結合因子をできるだけ排除することが必要である。さらに、Jcは、低磁場において、123結晶のc軸に平行な方位で最大となる結晶方位依存性を持つので、この依存性を活用することが望ましい。また、遮蔽電流ループ(R)を大きくするためには、結晶の粒子径を大きくすることが必要となる。
【0005】
そして、現在では、結晶配向制御技術が進歩し,温度勾配下で種結晶を用いて溶融成長させる手法が開発され,大型の単一ドメインの超電導バルク材料が得られるようになっている。
【0006】
この大型バルク材料では,液体窒素温度(77K)において、5Tを越える磁場を捕捉することも原理的には可能である。これを実現する方法として、MTG法(非特許文献1、参照)、QMG法(非特許文献2、参照)やOCMG法(非特許文献3、参照)(いずれも溶融成長法)が用いられる。
【0007】
これらの方法は、原料粉末を、金属金型を用いて、一軸成型プレス装置及び/又は冷間静水圧プレス装置(CIP)で所定の形状に成型し、この超電導前駆体(成型体)を、一旦、RE123超電導相の融点以上に加熱し、その後、融点以下に冷却して結晶化させる方法である。この方法により、弱結合を排除した大型の超電導結晶を得ることができる。
【0008】
通常、上記溶融成長法は空気中にて実施される。
【0009】
しかし、Gd以上のイオン半径を有するLRE(LREは軽希土類元素:La、Nd、Sm、Eu、Gd)を含むRE123系材料を原料として用いる場合、結晶成長を酸素分圧が高い雰囲気下(空気中等)で行うと、LREイオンがBaイオンを置換し、超電導特性を劣化させる。それ故、上記元素を含む超電導体結晶を作製する場合には、溶融成長を低酸素分圧下において行い、固溶体の生成を防いでいる。
【0010】
また、機械的特性の向上を目的として、予め、超電導体原料に過剰な第2相(RE211又はRE422)及び/又は10質量%程度の銀を添加すると、破壊靭性などの機械的特性が向上することが報告されている(非特許文献4、参照)。
【0011】
【非特許文献1】S. Jin et. al., Appl. Phys. Lett., 52 (1988), 2074.
【非特許文献2】M. Murakami et. al., Jpn. J. Appl. Phys., 54 (1989), 2074.
【非特許文献3】S.I.Yoo et. al.: Appl. Phys. Lett. 65 (1994)、633.
【非特許文献4】J.P. Shigh et al. J. Appl. Phys. 66 (1989)、3154
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
通常の超電導バルク体は、RE123及びRE211からなる成形体を高温で部分溶融させた後、結晶成長を行うことにより作製できる。しかし、RE123の均一な熱分解を行うためには、高温かつ長時間の溶融が必要であるが、この溶融は、大型化を目指す場合は特に難しい。
【0013】
特に、LRE123系材料の作製においては、内部の酸素が十分に抜けないと、固溶体生成による特性劣化が生じ、超電導転移温度の低下や不均一分布を引き起こす可能性がある。
【0014】
また、高温かつ長時間の溶融により、溶融物と基板材との反応が生じ、成長した超電導結晶の特性を劣化させることがある。更に、従来の方法で作製した超電導試料には、初期原料として添加したRE211相とRE123の熱分解により生成したRE211相の2種類が存在する。
【0015】
前者のRE211相は、主に球状で、後者のRE211相は針状で、超電導結晶中には、両RE211相が混在する。その結果、超電導バルク体の性能向上に限界が生じる。
【0016】
そこで、本発明は、RE123相の熱分解工程を含まず、高温かつ長時間の溶融が不必要なプロセスを開発し、大型でかつ高性能、かつ、機械的特性に優れた超電導バルク体を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、RE123相の熱分解工程を含まないRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法について、鋭意研究した。
【0018】
その結果、RE2BaO4又はRE4Ba39(RE−Ba−O系化合物、REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)とBa−Cu−O系液相原料を出発原料とし、液相成分を溶融後、結晶成長させると、
RE−Ba−O化合物 + 液相1 → RE211 + 液相2 → RE123
の反応に従い、超電導結晶が成長することを見いだした。
【0019】
この方法によれば、結晶成長過程でRE123相の熱分解工程を省略し、RE211相を、新規に、均一に生成することができる。また、RE−Ba−O系化合物で形成された骨格構造体の空間域に、Ba−Cu−O系液相原料を全体的に溶融、浸透させ、その後、結晶成長させることも可能である。
【0020】
これら手法を、空間浸透・成長法(Universal Infiltration Growth Method、以下「UING法」)と呼ぶこととする。
【0021】
また、本発明者は、UING法によれば、溶融処理が、低温でかつ短時間で済むので、大型超電導バルク体の作製時間を短縮化でき、残留酸素による特性劣化を低減できること、更には、基板材料との反応による特性劣化を抑制できることを見いだした。
【0022】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は次のとおりである。
【0023】
(1) RE−Ba−O系化合物(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)とBa−Cu−O系液相原料を出発原料とし、液相成分を溶融した後、結晶成長させることを特徴とするRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【0024】
(2) RE−Ba−O系化合物(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)で形成された骨格構造体に、Ba−Cu−O系液相原料を浸透させ、その後、結晶成長させることを特徴とする前記(1)に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【0025】
(3) 前記骨格構造体がRE−Ba−O系化合物の微細粒子で形成されたものであることを特徴とする前記(2)に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【0026】
(4) 前記RE−Ba−O系化合物がRE2BaO4(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)であることを特徴とする前記(1)〜(3)に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【0027】
(5) 前記RE−Ba−O系化合物がRE4Ba39(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【0028】
(6) 前記RE−Ba−O系化合物とBa−Cu−O系液相原料からなる組成物の平均組成が、RE:Ba:Cu=X:Y:Z(1.1≦X≦2.0、2.2≦Y≦2.6、3.1≦Z≦3.6)であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【0029】
(7) 前記RE−Ba−O系化合物及び/又はBa−Cu−O系液相原料が、白金(Pt)又はCeO2を2質量%以下含有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【0030】
(8) 前記RE−Ba−O系化合物及び/又はBa−Cu−O系液相原料が、更に、分散相として銀(Ag)を30質量%以下含有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、結晶成長の低温短時間化、残留酸素の低減と基板材料との反応低減による特性向上、及び、超電導相の微細でかつ均一な分散が可能となり、大型で高性能な超電導バルク体を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、RE−Ba−O系化合物(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)とBa−Cu−O系液相原料を出発原料とし、液相成分を溶融後、結晶成長させることを特徴とする。
【0033】
ここで、RE−Ba−O系化合物で形成された骨格構造体に、Ba−Cu−O系液相原料を浸透させ、その後、結晶成長させることが好ましいが、RE−Ba−O系化合物とBa−Cu−O系液相原料を事前に混合した形態でもよく、その形態及び製造方法は特に限定されないものである。
【0034】
また、前記骨格構造体は、RE−Ba−O系化合物の微細粒子で形成されているものが好ましいが、Ba−Cu−O系液相原料が浸透できる空間域を全体的に備えていればよいものであり、その粒子形状(球状、針状等)、構造及び製造方法は特に限定されないものである。
【0035】
本発明において、上記骨格構造体の上にBa−Cu−O系液相原料を必ずしも載置する必要はない。即ち、RE−Ba−O系化合物とBa−Cu−O系液相原料の配置関係は、Ba−Cu−O系液相原料が、上記骨格構造体の空間域に全体的に浸透できる接触配置関係にあればよく、特に特定されるものではない。
【0036】
Ba−Cu−O系液相原料の組成は、RE−Ba−O系化合物との関連で選択するが、特に、臨界電流密度(Jc)向上と強度向上の点で、結晶化したRE123相内に、RE211相が10〜50モル%程度含まれることが好ましい。
【0037】
また、LRE123系材料を高酸素分圧中で作製した場合、固溶体形成による特性が生じ易いが、これを抑制するため、10モル%程度Baを過剰添加することも、特性向上に効果がある。
【0038】
このため、RE−Ba−O系化合物とBa−Cu−O系液相原料で形成される組成物の平均組成は、REBa2Cu37-d(RE123)+(10〜50モル%)RE2BaCuO5(RE211)+(0〜10モル%)BaO2とすることができる。つまり、RE:Ba:Cu=X:Y:Z(1.1≦X≦2.0、2.2≦Y≦2.6、3.1≦Z≦3.6)とすることが好ましい。
【0039】
RE−Ba−O系化合物としては、RE2BaO4あるいはRE4Ba39(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)を選択することが好ましい。
【0040】
本発明においては、前述したように、
RE−Ba−O化合物 + 液相1 → RE211 + 液相2 → RE123
の反応に従い、RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の結晶が成長する。この点が、本発明の特徴である。
【0041】
更に、本発明においては、前記RE−Ba−O系化合物及び/又はBa−Cu−O系液相原料に、第2相(RE211)及び/又はRE422の微細化分散効果を安定化するため、Pt及び/又はCeO2を2質量%以下含有せしめてもよい。
【0042】
また、RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の機械的特性を向上させるため、RE−Ba−O系化合物及び/又はBa−Cu−O系液相原料に、分散相として銀(Ag)を30質量%以下含有せしめてもよい。
【0043】
本発明の超電導体の製造方法の一例を挙げると次の通りである。
【0044】
・RE−Ba−O系化合物の作製
希土類酸化物及びBaO2からなる原料粉末を希土類元素:Baのモル比が2:1(又は4:3)になるように秤量して混合し、この混合粉末を、例えば、空気中で、900〜1100℃で24時間熱処理した後、再び粉砕混合することによって、RE2BaO4又はRE4Ba39化合物を作製する。
【0045】
この際、白金を0.1〜0.5質量%程度、銀を10質量%程度添加しておくと、常電導相の微細化及び強度向上に効果がある。
【0046】
・Ba−Cu−O系液相成分原料の合成
例えば、BaO2及びCuOからなる原料粉末をBa:Cuのモル比が1.5:3.4になるように秤量して混合し、この混合粉末を、例えば、空気中で、950℃で24時間熱処理した後、再び粉砕混合することによって、Ba−Cu−O系液相成分原料を作製する。
【0047】
・前駆体バルクの作製
RE−Ba−O系化合物とBa−Cu−O系液相成分原料を平均組成がREBa2Cu37-d(RE123)+(10〜50モル%)RE2BaCuO5(RE211)+(0〜10モル%)BaO2となるように混合し、一軸成型及びCIP成型により、前駆体バルク成型体を作製する。
【0048】
又は、RE−Ba−O系化合物を成型した上にBa−Cu−O系液相成分原料を設置したり、逆に、Ba−Cu−O系液相成分原料上にRE−Ba−O系化合物を設置することも可能である。
【0049】
また、有機溶媒にBa−Cu−O系液相成分原料を分散させて、RE−Ba−O系化合物骨格材料上に塗布することも可能である。RE−Ba−O系化合物とBa−Cu−O系液相成分原料の供給方法を制限するものではない。
【0050】
この際、形状は板状、円盤状に限るものではなく、Ba−Cu−O系液相成分原料が先に溶解し、RE−Ba−O系化合物と反応しさえすればよいため、薄膜状やすり鉢状など、より複雑な形状にも適用できる。
【0051】
また、RE−Ba−O化合物を骨格材料として用いる場合、ドリルで多数の細孔を設けておくことや、粒状の高分子材料を事前添加し、後に熱分解させるなど、一般的に用いられる多孔質材料の作製方法を適用して多孔質材料とすることも好ましい。
【0052】
・結晶成長
上記、成型体を不活性ガス中あるいは不活性ガスと酸素の混合気体中で加熱を行い、1000〜1100℃程度でBa−Cu−O系液相成分原料を溶解させて、RE−Ba−O系化合物と反応させる。この際、下記反応式に従い、RE211(針状結晶)と液相が生成する。
【0053】
RE−Ba−O化合物 + 液相1 → RE211(針状) + 液相2
その後、必要に応じて、種結晶を部分溶融材料上に配置した後、酸化性雰囲気下において、RE123の成長温度以下で徐冷を行い、RE123結晶を成長させる。
【0054】
・本発明で得られたバルク体の特徴
本発明によれば、結晶成長の低温短時間化、残留酸素の低減と基板材料との反応低減による特性向上、及び、超電導相の微細でかつ均一な分散が可能となり、大型で高性能な超電導バルク体を作製することができる。
【0055】
・他原料を用いた製法との比較
RE123及びRE211からなる原料を用いてバルク作製を行った場合、残留酸素により多核生成や固溶体生成に起因する特性劣化や超電導転移温度の低下や不均一分布を引き起こす可能性がある。また、高温かつ長時間の溶融により、溶融物と基板材との反応が生じ、成長した超電導結晶の特性を劣化させることがある。
【0056】
更に、この方法で作製した超電導試料には、初期原料として添加したRE211相とRE123の熱分解により生成したRE211相の2種類が存在する。前者のRE211相は、主に球状で、後者のRE211相は針状で、超電導結晶中には、両RE211相が混在する。その結果、超電導バルク体の性能向上に限界が生じる。
【0057】
RE23とBa−Cu−O系液相成分を原料とした場合と比較すると、RE−Ba−O系化合物を用いた方が固相分率が高く、成形体の形状変化が少ないという利点がある。
【0058】
また、RE211とBa−Cu−O系液相成分を原料とした場合と比較すると、RE−Ba−O系化合物を用いた場合、全てのRE211相が新たに生成し、更に針状となるため、液相の保持性および形状維持の点で優れている。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明の実施例を比較例と共に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
Gd23及びBaO2からなる原料粉末をGd:Baのモル比が2:1になるように秤量して混合し、この混合粉末を成型後、空気中で、950℃で24時間熱処理した後、再び粉砕混合することによって、Gd2BaO4粉末を作製した。
【0061】
また、BaO2及びCuOからなる原料粉末をBa:Cuのモル比が1.5:3.4になるように秤量して混合・成型し、これを、空気中で、850℃で24時間熱処理した後、再び粉砕混合することによって、Ba−Cu−O系液相成分原料を合成した。
【0062】
Gd2BaO4粉末とBa−Cu−O系液相成分原料を、平均組成におけるGd:Ba:Cuのモル比が1.8:2.4:3.4になるように秤量して混合し、直径60mmの金型を用いて、一軸成型及びCIP成型を施して、厚さ約20mmに成型した後、電気炉に入れ溶融成長を行った。この際、白金を0.5質量%、銀を20質量%添加した。
【0063】
溶融成長は、まず、アルゴン気流中で1050℃まで昇温し、1%酸素−アルゴンガスに置換し、30分経過した後、1020℃に降温させ、試料上部にNd123系種結晶を配置した後、980℃に冷却し、960℃まで0.5℃/時間の冷却速度で徐冷した後、室温まで100℃/時間で冷却することで、バルク体を得た。
【0064】
得られた試料を、酸素気流中、400℃で300時間アニール処理することで超電導体化を行った。得られた試料の破面観察より、試料内には針状の微細Gd211結晶が均一に分散していることが確認できた。
【0065】
研磨面の組織写真を、図1に示す。また、SQUIDによる磁化計測により、超電導転移温度は94.5K、77K、ゼロ磁場での臨界電流密度は、約80000A/cm2であった。
【0066】
(実施例2)
(Gd,Dy)2BaO4粉末を直径40mmの金型を用い、厚さ10mmに一軸成型した。この際、成型密度が相体密度の50%以下となるように圧力調整を行った。別途、Ba:Cuのモル比が1.6:3.5になるように秤量・混合・熱処理したBa−Cu−O系液相成分原料を、直径40mmの金型を用い一軸成型した。
【0067】
この際、平均組成がGd:Dy:Ba:Cu=1:1:2.6:3.5となるように、Ba−Cu−O液相成分原料の量を調整した。
【0068】
(Gd,Dy)2BaO4成型体の上にBa−Cu−O系液相成分成型体を重ね、空気中で1040℃まで急速昇温し、1時間保持した後、種結晶を設置した後、1010℃から0.3℃/時間の冷却速度で980℃まで徐冷した後、炉冷した。得られた試料を、酸素気流中、400℃で300時間アニール処理することで超電導体化を行った。
【0069】
SQUIDにより表面近傍の試料の磁化計測を行ったところ、超電導転移温度は93.5K、77K、ゼロ磁場での臨界電流密度は、約40000A/cm2であった。
【0070】
帯磁率の温度依存性を図2に、臨界電流密度の磁場依存性を図3に示す。
【0071】
(実施例3)
Ho23及びBaO2からなる原料粉末をHo:Baのモル比が4:3になるように秤量して混合し、この混合粉末を成型後、空気中で、950℃で24時間熱処理した後、再び粉砕混合することによって、Ho4Ba39粉末を作製した。
【0072】
また、BaO2及びCuOからなる原料粉末をBa:Cuのモル比が1.5:3.4になるように秤量して混合・成型し、これを、空気中で、850℃で24時間熱処理した後、再び粉砕混合することによって、Ba−Cu−O系液相成分原料を合成した。
【0073】
Ho4Ba39粉末をPVBバインダーをジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートに溶解させた有機溶媒に分散させ、表面研削を施したYSZ焼結体基板上にスクリーン印刷した。
【0074】
その上から、同様の溶媒に分散させたBa−Cu−O系液相成分原料を塗布し、加熱処理を行った。加熱処理は、空気中で1020℃まで昇温し、20分保持した後、1000℃から1℃/時間の冷却速度で980℃まで徐冷した後、炉冷した。得られた試料は、YSZ基板材とほとんど反応していなかった。
【0075】
また、得られた試料を、酸素気流中、400℃で300時間アニール処理することで超電導体化を行った。得られた厚膜を用いて液体窒素温度にて磁気シールド特性を評価したところ、3000Gの磁場を30%以下にまで低減させることができた。
【0076】
(比較例1)
Gd123及びGd211からなる原料粉末をGd:Ba:Cuのモル比が1.8:2.4:3.4になるように秤量・混合し、直径60mmの金型を用いて一軸成型及びCIP成型を施して、厚さ約20mmに成型した後、電気炉に入れ溶融成長を行った。この際、白金を0.5質量%、銀を20質量%添加した。
【0077】
溶融成長は、1%酸素−アルゴンガス下で行い、実施例1と同様に、1050℃で30分保持した後、1020℃に降温させ、試料上部にNd123系種結晶を配置した後、980℃に冷却し、960℃まで0.5℃/時間の冷却速度で徐冷した後、室温まで100℃/時間で冷却することで結晶成長を行った。
【0078】
しかしながら、得られた結晶は多結晶体であった。また、酸素気流中、400℃で300時間アニール処理することで超電導体化を行った試料をSQUIDにより磁化計測したところ、表面近傍では超電導転移温度は92.5Kあるものの、中心部では、約80Kで転移曲線もブロードなものとなった。
【0079】
これは、内部の酸素が完全に抜けきらなかったことが理由と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
前述したように、本発明によれば、結晶成長の低温短時間化、残留酸素の低減と基板材料との反応低減による特性向上、及び、超電導相の微細でかつ均一な分散が可能となり、大型で高性能な超電導バルク体を作製することができる。
【0081】
したがって、本発明は、超電導軸受け、超電導磁気搬送装置、超電導永久磁石、磁気シールド等の多様な用途に用いられるRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体を作製することができるので、超電導体の産業上への応用を推進するものであり、産業上利用可能性の大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の超電導体の組織を示す図(写真)である。
【図2】帯磁率の温度依存性を示す図である。
【図3】臨界電流密度の磁場依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RE−Ba−O系化合物(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)とBa−Cu−O系液相原料を出発原料とし、液相成分を溶融した後、結晶成長させることを特徴とするRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【請求項2】
RE−Ba−O系化合物(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)で形成された骨格構造体に、Ba−Cu−O系液相原料を浸透させ、その後、結晶成長させることを特徴とする請求項1に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【請求項3】
前記骨格構造体がRE−Ba−O系化合物の微細粒子で形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【請求項4】
前記RE−Ba−O系化合物がRE2BaO4(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【請求項5】
前記RE−Ba−O系化合物がRE4Ba39(REは希土類元素のうちの1種又は2種以上)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【請求項6】
前記RE−Ba−O系化合物とBa−Cu−O系液相原料からなる組成物の平均組成が、RE:Ba:Cu=X:Y:Z(1.1≦X≦2.0、2.2≦Y≦2.6、3.1≦Z≦3.6)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【請求項7】
前記RE−Ba−O系化合物及び/又はBa−Cu−O系液相原料が、白金(Pt)又はCeO2を2質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。
【請求項8】
前記RE−Ba−O系化合物及び/又はBa−Cu−O系液相原料が、更に、分散相として銀(Ag)を30質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導体の作製方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−36574(P2006−36574A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217594(P2004−217594)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「微少重力環境利用超電導材料製造技術の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】