REG4タンパク質を用いて膵癌を診断する方法
REGファミリーの新規メンバーであるREG4が膵臓腺癌のバイオマーカーとして同定された。本発明は、切除可能な膵癌、すなわちPDACを有する患者における血清REG4を検出するためのサンドイッチELISAを提供する。本発明はまた、血清学的マーカーとしてREG4を用いて膵癌を診断する方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年3月2日に出願された米国仮特許出願第60/779,161号の恩典を主張し、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、生物科学の分野、より具体的には癌診断の分野に関する。特に本発明は、血清学的マーカーとしてREG4タンパク質を用いて膵癌を診断する方法、ならびに診断に用いられる試薬およびキットに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
膵管腺癌(PDAC)は、西欧諸国における癌の死因の第5位であり、悪性腫瘍の中で最も高い死亡率を示し、その5年生存率はわずか4%である(DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.;117(6): 1464-84(非特許文献1)、Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.;11(1): 23-31(非特許文献2))。米国ではおよそ30,700人の患者が膵癌と診断されており、そのうち約30,000人がこの疾患で死亡する(Jemal A, et al., (2003) CA Cancer J Clin.; 53(1): 5-26(非特許文献3))。大多数のPDAC患者は進行期で診断されるため、現在のところ有効な治療法はなく;外科的切除術のみが治癒の可能性をわずかに有するが、手術を受けたPDAC患者の80〜90%は再発し、この疾患で死亡する(DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.;117(6):1464-84(非特許文献1)、Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.;11(1):23-31(非特許文献2))。放射線照射を伴うまたは伴わない、手術および5-FUもしくはゲムシタビンを含む化学療法におけるいくつかのアプローチにより、患者の生活の質を向上させることができるが(DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.; 117(6):1464-84(非特許文献1)、Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31(非特許文献2))、極度な高悪性度および化学療法耐性というその性質のために、これらの治療がPDAC患者の長期生存に与える効果はごく限られている。したがって、大部分の進行性PDAC患者の管理は、緩和処置に重点を置いている(DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.; 117(6):1464-84(非特許文献1)、Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31(非特許文献2))。
【0004】
PDACのこの劣悪な予後は、早期PDACの検出の難しさを含むいくつかの原因に起因する(Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31(非特許文献2))。超音波内視鏡検査(EUS)または磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)などの画像診断法における改善にもかかわらず、大部分の患者はその疾患経過の後期まで症状を起こさず、そのため症状が現れるまで画像診断を受けない。前立腺癌における前立腺特異抗原(PSA)のような正確かつ簡便な血清検査により、症状が現れていない早期PDACの検出が促進されると考えられ、早期PDACを検出するために、そのような検査によるスクリーニングを大勢の集団に適用することができる。進行性膵癌の生存率がわずか数%であるのに対し、早期膵癌の外科的切除は、5年生存率50〜60%という比較的良好な予後をもたらし得る(Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31(非特許文献2))。PDACの生物学的悪性度および化学療法に対する耐性を考慮すると、致死的なPDACの予後を改善するための最も現実的な方法の1つは、非侵襲的な血清検査によって高リスク集団をスクリーニングし、外科的切除によって治癒し得る早期PDACを検出することである。現在、CA19-9はPDACに対する唯一の市販の血清学的マーカーであるが、約10〜15%の個人はそのルイス抗原状態のためにCA19-9を分泌せず、また膵癌が早期段階にあり無症候性である間、CA19-9レベルは通常、正常範囲内にあるため、CA19-9は識別値が低い(Sawabu N, et al., (2004) Pancreas.;28(3):263-7(非特許文献4)、Pleskow DK, et al., (1989) Ann Intern Med.;110(9):704-9(非特許文献5))。したがって、PDACに対する新規腫瘍マーカーの同定、および前立腺癌におけるPSAのような血清学的マーカーを用いて早期膵癌を検出するためのスクリーニング法の確立が、緊急に求められている。
【0005】
【非特許文献1】DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.;117(6): 1464-84
【非特許文献2】Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31
【非特許文献3】Jemal A, et al., (2003) CA Cancer J Clin.; 53(1): 5-26
【非特許文献4】Sawabu N, et al., (2004) Pancreas.;28(3):263-7
【非特許文献5】Pleskow DK, et al., (1989) Ann Intern Med.;110(9):704-9
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、膵癌においてREG4遺伝子が特異的に過剰発現されるという発見に基づく。
【0007】
本発明者らの網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイ解析において、PDAC細胞中で上方制御されると同定された多くの遺伝子の中で(Nakamura T, et al., (2004) Oncogene.; 23(13):2385-400、WO2004/031412)、本発明者らは本研究に関してREG4(GenBankアクセッション番号AY126670;配列番号:14のアミノ酸配列をコードする配列番号:13のヌクレオチド配列)に着目した。顕微切断したPDAC細胞集団20種に関する本発明者らのマイクロアレイデータから、試験して情報の得られた症例のうち10例においてREG4が高レベルで上方制御されることが示されていたが(Nakamura T, et al., (2004) Oncogene; 23(13):2385-400)、今回、以前のマイクロアレイ解析に使用したもので、試験した12例の顕微切断済みPDAC細胞集団のうち6例において、その過剰発現がRT-PCRにより同様に確認された(図1A)。以前の研究では、REG4をREGIV(GenBankアクセッション番号AA316525)とも称したが、REG4とREGIVは同じ分子である。
【0008】
本発明者らは、REG4遺伝子を膵癌組織において上方制御されるものとして同定していたが、早期癌を有するまたは良好な予後を有すると予測されるPDAC患者の血液中でREG4レベルが上昇しているという知見は、本発明にとって新規である。さらに、膵癌患者の血液中のREG4レベルが上昇していることから、この遺伝子およびそのタンパク質が(全血、血清、または血漿における)新規な診断マーカーとして有用であると示唆される。さらに、本発明者らは、切除可能なPDACを有する患者において血清REG4を検出するためのサンドイッチELISAを確立した。
【0009】
したがって、本発明は、対象由来の血液試料中のREG4レベルを定量する段階、および、このレベルを参照試料、典型的には正常対照において認められるレベルと比較する段階を含む、対象における膵癌を診断する方法を提供する。試料中のREG4レベルが高いことは、対象が膵癌に罹患しているかまたはそのリスクを有することを示す。「正常対照レベル」という用語は、健常個体、または膵癌に罹患していないことが判明している個体の集団で認められるレベルを示す。
【0010】
REG4のレベルは、ELISAなどの免疫測定法を使用してREG4タンパク質を検出することにより定量することができる。
【0011】
対象由来の血液試料は、対象に、例えば膵癌を有することが判明しているかまたはその疑いがある患者に由来する、全血、血清、および血漿に由来し得る。
【0012】
加えて、本発明は、対象由来の血液試料中のCA19-9レベルを定量する段階、および、該CA19-9レベルを参照試料、典型的には正常対照において認められるレベルと比較する段階をさらに含む、上記方法を提供する。本発明者らは、REG4レベルおよびCA19-9レベルの両方を考慮することによって、膵癌患者をより高感度で同定できることを見出した。
【0013】
さらに、本発明はまた、抗REG4抗体を含む、REG4を検出するための免疫測定試薬も提供する。抗REG4抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、またはREG4の異なる抗原決定基を互いに認識する少なくとも2種類のモノクローナル抗体を含み得る。
【0014】
最後に、本発明はまた、(i) 血液試料中のREG4レベルを定量するための免疫測定試薬、および(ii) REG4の陽性対照試料を含む、膵癌を検出するためのキットも提供する。本キットは、(iii) 血液試料中のCA19-9レベルを定量するための免疫測定試薬;および(iv) CA19-9の陽性対照試料をさらに含み得る。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。本発明の上記概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであって、本発明または本発明のその他の代替的な態様を制限するものではないことが理解されるべきである。
【0016】
発明の詳細な説明
本明細書で使用する「1つの」、「ある」、および「その」という用語は、特記しない限り「少なくとも1つ」を意味する。
【0017】
本発明において、REG(再生膵島由来)ファミリーの新規メンバーであるREG4(Hartupee JC, et al., (2001) Biochim Biophys Acta.; 1518(3):287-93)を、膵臓腺癌のバイオマーカーとして同定した。本発明者らは、顕微切断した膵癌細胞の網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイについて報告していた(Nakamura T, et al., (2004) Oncogene.; 23(13):2385-400)。この報告において、REG4は膵癌細胞中で過剰発現されることが見出されたが、血液中のREG4レベルがどのように膵癌と関連するかに関する証拠は提供されていない。REGファミリーは消化器における組織再生および炎症と関連する分泌分子であり(Hartupee JC, et al., (2001) Biochim Biophys Acta.; 1518(3):287-93.、Watanabe T, et al., (1990) J Biol Chem.; 265(13):7432-9.、Unno M, et al., (1992) Adv Exp Med Biol.; 321:61-6; discussion 67-9)、REGファミリーは複数の胃腸癌において上方制御され(Unno M, et al., (1992) Adv Exp Med Biol.; 321:61-6; discussion 67-9.、Lasserre C, et al., (1992) Cancer Res.; 52(18):5089-95.、Kamarainen M, et al., (2003) Am J Pathol.; 163(1):11-20)、癌において栄養因子または抗アポトーシス因子として機能し得るが(Lasserre C, et al., (1992) Cancer Res.; 52(18):5089-95)、その病態生理学的機能、特に新規メンバーであるREG4の機能および発現パターンは依然として不明である。本発明者らはREG4特異的抗体を作製し、抗REG4抗体を使用した免疫組織化学により、PDAC細胞のその過剰発現を確認した。さらに本発明者らは、PDAC患者の血清中のREG4レベルを測定するためのサンドイッチELISA系を確立し、膵癌の新規血清学的マーカーとしてのREG4の使用を実証した。
【0018】
膵癌の診断:
対象由来の血液試料中のREG4レベルを測定することにより、対象における膵癌の発生、または膵癌を発症する素因を判定することができる。したがって、本発明は、血液試料中のREG4レベルを定量する(例えば、測定する)段階を含む。本発明において、膵癌を診断する方法は、膵癌を検査または検出するための方法も含む。あるいは、本発明において、膵癌の診断とは、対象における膵癌の疑い、リスク、または可能性を示すことも指す。
【0019】
REG4遺伝子またはREG4タンパク質のいずれかを試料中で検出できる限り、REG4レベルを定量するためには任意の血液試料を用いることができる。好ましくは、血液試料は全血、血清、および血漿を含む。
【0020】
本発明において、「血液試料中のREG4レベル」とは、全血中の血球体積を補正した後の血液中に存在するREG4の濃度を指す。当業者は、血液中の血球体積の割合が個体間で大きく異なることを理解するであろう。例えば、全血中の赤血球の割合は、男性と女性の間で全く異なる。さらに、個体間の差も無視できない。したがって、血球成分を含む全血中の物質の見かけの濃度は、血球体積の割合に応じて大きく異なる。例えば、血清中の濃度が同じであったとしても、大量の血球成分を有する試料についての測定値は、少量の血球成分を有する試料についての値よりも低くなる。したがって、血液中の成分の測定値を比較するためには、血球体積を補正した値が通常用いられる。
【0021】
例えば、全血からの血球分離によって得られた血清または血漿を試料として用いて血液中の成分を測定することにより、血球体積の影響が除外された測定値を得ることができる。したがって、本発明におけるREG4レベルは通常、血清または血漿中の濃度として測定され得る。または、REG4レベルを最初に全血中の濃度として測定してもよく、その後、血球体積の影響を補正することができる。全血試料中の血球体積を測定する方法は公知である。
【0022】
本方法に従って膵癌に関して診断される対象とは、好ましくは哺乳類であり、これにはヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシが含まれる。本発明の好ましい対象とは、ヒトである。本発明において、対象は、胃腸管系(例えば、膵臓)の癌を有することが疑われる患者または健常個体であってよい。患者は、臨床意志決定を促進するために本発明により診断され得る。別の態様において、本発明はまた、胃腸管系(すなわち、膵臓)の癌をスクリーニングするために健常個体に適用することもできる。
【0023】
本発明の1つの態様において、REG4レベルは、血液試料中のREG4タンパク質の量または濃度を測定することによって定量される。血液試料中のREG4タンパク質の量を定量するための方法には、免疫測定法が含まれる。
【0024】
本発明の診断法においては、膵癌を検出するために、REG4の血中濃度に加えて、CA19-9の血中濃度を定量してもよい。したがって本発明は、REG4の血中濃度もしくはCA19-9の血中濃度のいずれか、またはその両方が健常個体と比較して高い場合に膵癌が検出される、膵癌を診断するための方法を提供する。
【0025】
CA19-9が膵癌、結腸癌、胃癌、および卵巣癌の血清学的腫瘍マーカーであることは周知である。CA19-9のエピトープは、シアル酸残基が付加したルイス(a)血液型決定因子に相当する糖タンパク質(ムチン)上の糖脂質である。この抗原は、ヒト結腸直腸癌細胞株において認められる決定因子に対して作製されたモノクローナル抗体によって定義される。この抗原はまた、正常胎児組織、ならびに成体の膵臓、唾液管、胃および結腸上皮、膵液、胃液、唾液、および胎便においても認められる。CA19-9は、胆道系によって循環から排除される。この抗原は、人口の約5%に相当するルイス(a-b-)遺伝子型を有するヒトにおいては発現しない。
【0026】
上記のように、CA19-9は膵癌を診断または検出するための血清学的マーカーとして既に使用されている。しかし、膵癌のマーカーとしてのCA19-9の感度は、膵癌を完全に検出するには幾分不十分である。したがって、膵癌の診断感度を向上させることが必要である。
【0027】
本発明において、膵癌の新規血清学的マーカーであるREG4を提供する。本発明により、膵癌の診断法または検出法の感度の向上が達成され得る。すなわち、本発明は、
(a) 診断されるべき対象から血液試料を採取する段階;
(b) 血液試料中のREG4レベルを定量する段階;
(c) 段階(b)で定量したREG4レベルを正常対照のレベルと比較する段階であって、正常対照と比較して血液試料中のREG4レベルが高いことによって、対象が膵癌に罹患していることが示される、段階
を含む、対象における膵癌を診断するための方法を提供する。
【0028】
好ましい態様において、本発明の診断または検出の方法は以下の段階をさらに含みうる:
(e) 血液試料中のCA19-9レベルを定量する段階;
(f) 段階(e)で定量したCA19-9レベルを正常対照のレベルと比較する段階;および
(g) 正常対照と比較して血液試料中のREG4レベルが高いことおよびCA19-9レベルが高いことのいずれか一方または両方によって、対象が膵癌に罹患していると示されることを判断する段階。
【0029】
REG4とCA19-9の組み合わせにより、膵癌の検出感度が有意に向上し得る。例えば、以下で考察する実施例において解析した群では、膵癌に関するCA19-9の陽性率は約76.3%である。これに比べて、CA19-9とREG4の組み合わせの陽性率は88.1%まで増加する(図6)。本発明において、「CA19-9とREG4の組み合わせ」とは、マーカーとして用いられるCA19-9レベルおよびREG4レベルのいずれか一方または両方を指す。好ましい態様において、CA19-9およびREG4の両方が陽性である患者は、膵癌のリスクが高いと判断できる。膵癌に対する血清学的マーカーとしてのREG4とCA19-9の組み合わせの使用は新規である。
【0030】
したがって、本発明により、CA19-9のみの測定結果に基づく定量と比較して、膵癌患者の検出感度を大きく向上させることできる。この向上の背後には、CA19-9陽性患者の群とREG4陽性患者の群が完全に一致するわけではないという事実が存在する。この事実について、以下にさらに具体的に記載する。
【0031】
第一に、CA19-9測定の結果として基準値よりも低い値を有する(すなわち、膵癌を有さない)と判定された患者の中には、膵癌を有する患者が実際にはある程度の割合で存在する。そのような患者は、CA19-9偽陰性患者と称される。CA19-9に基づく判定とREG4に基づく判定を組み合わせることにより、基準値よりも高いREG4値を有する患者を、CA19-9偽陰性患者の中から見つけることができる。すなわち、本発明は、CA19-9の血中濃度が低いために「陰性」であると誤って判定された患者の中から、実際には膵癌を有する患者を同定する手段を提供する。したがって、膵癌患者の検出感度が本発明によって向上する。一般に、複数のマーカーを使用した判定の結果を単に組み合わせることによって検出感度は増大され得るが、その一方で特異度が減少する場合が多い。しかし、本発明は、感度と特異度の間の最良のバランスを決定することによって、特異度を損なうことなく検出感度を増加させ得る特徴的な組み合わせを決定した。
【0032】
本発明においては、CA19-9測定の結果を同時に考慮するために、例えば、上記のREG4の測定値と基準値との比較と同様の様式で、CA19-9の血中濃度を測定して、これを基準値と比較できる。例えば、CA19-9の血中濃度を測定し、それを基準値と比較する方法は既知である。さらに、CA19-9に関するELISAキットもまた市販されている。公知の報告に記載されているこれらの方法を、膵癌を診断または検出するための本発明の方法において用いることができる。
【0033】
本発明において、REG4の血中濃度の基準値を統計学的に決定することができる。例えば、健常個体におけるREG4の血中濃度を測定して、REG4の標準的な血中濃度を統計学的に決定することができる。統計学的に十分な集団を集めた場合、平均値から標準偏差(S.D.)の2倍または3倍の範囲内にある値を基準値として用いる場合が多い。したがって、平均値 + 2 x S.D.または平均値 + 3 x S.D.に対応する値を基準値として使用することができる。記載したように設定された基準値は理論的に、それぞれ健常個体の90%および99.7%を含む。
【0034】
または、膵癌患者におけるREG4の実際の血中濃度に基づいて、基準値を設定することもできる。一般に、このように設定した基準値は、偽陽性の割合を最小化し、かつ、検出感度を最大にし得る条件を満たす値の範囲から選択される。本明細書において、偽陽性の割合とは、健常個体の中で、REG4の血中濃度が基準値よりも高いと判断される患者の割合を指す。一方、健常個体の中で、REG4の血中濃度が基準値よりも低いと判断される患者の割合とは、特異度を示す。すなわち、偽陽性の割合と特異度の合計は常に1である。検出感度とは、膵癌が存在すると判定されている個体集団における全膵癌患者の中で、REG4の血中濃度が基準値よりも高いと判断される患者の割合を指す。
【0035】
さらに、本発明において、REG4濃度が基準値よりも高いと判断された患者の中の膵癌患者の割合は、陽性予測値を表す。一方、REG4濃度が基準値よりも低いと判断された患者の中の健常個体の割合は、陰性予測値を表す。これらの値の間の関係を表1に要約する。以下に示した関係から示されるように、膵癌診断の精度を評価するための指標である感度、特異度、陽性予測値、および陰性予測値の値はそれぞれ、REG4の血中濃度レベルを判断するための基準値に応じて変動する。
【0036】
【表1】
【0037】
既に言及した通り、基準値は通常、偽陽性率が低くかつ感度が高くなるように設定される。しかし、上で示した関係からも明らかなように、偽陽性率と感度とは二律背反する関係である。すなわち、基準値を低下させると検出感度が上昇する。しかし、偽陽性率もまた上昇するため、「低い偽陽性率」を有するための条件を満たすことは困難である。この状況を考慮して、例えば、以下の予測結果を与える値を、本発明における好ましい基準値として選択することができる:
偽陽性率が50%以下である基準値(すなわち、特異度が50%以上である基準値);
感度が20%以上である基準値。
【0038】
本発明において、受信者動作特性(ROC)曲線を用いて基準値を設定することができる。ROC曲線とは、縦軸に検出感度を示し、横軸に偽陽性率(すなわち、「1−特異度」)を示すグラフである。本発明において、REG4の血中濃度の程度の高さ/低さを判定するための基準値を連続して変更的に変動させた後に感度および偽陽性率の変化をプロットすることによってROC曲線を得ることができる。
【0039】
ROC曲線を得るための「基準値」とは、統計解析のため一時的に用いられる値である。ROC曲線を得るための「基準値」は一般に、選択可能な全基準値を網羅し得る範囲内で連続的に変動させることができる。例えば、基準値を、解析集団内の最小および最大のREG4測定値の間で変動させることができる。
【0040】
得られたROC曲線に基づいて、本発明において使用するべき好ましい基準値を、上記の条件を満たす範囲から選択することができる。あるいは、基準値を、基準値を変動させることによって作成されたROC曲線に基づいて、REG4測定値の大部分を含む範囲から選択することができる。
【0041】
血液中のREG4は、タンパク質を定量し得る任意の方法により測定することができる。本発明においては、例えば免疫測定法、液体クロマトグラフィー、表面プラズモン共鳴(SPR)、質量分析などを使用することができる。質量分析では、適切な内部標準を使用することによりタンパク質を定量できる。例えば、同位体標識したREG4を内部標準として使用することができる。血液中のREG4の濃度は、血液中のREG4のピーク強度および内部標準のピーク強度から定量することができる。一般に、タンパク質の質量分析のために、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)法が用いられる。質量分析または液体クロマトグラフィーを使用する解析法により、REG4を他の腫瘍マーカー(例えば、CA19-9)と同時に解析することも可能である。
【0042】
本発明における好ましいREG4測定法は免疫測定法である。REG4のアミノ酸配列は公知である(GenBankアクセッション番号AY126670)。REG4のアミノ酸配列を配列番号:14に示し、これをコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号:13に示す。したがって、当業者は、REG4のアミノ酸配列に基づいて必要な免疫原を合成することによって抗体を調製することができる。免疫原として用いるペプチドは、ペプチド合成装置を使用して容易に合成可能である。合成ペプチドを担体タンパク質に連結することによって、免疫原として使用することができる。
【0043】
キーホールリンペットヘモシアニン、ミオグロビン、アルブミンなどを担体タンパク質として使用することができる。好ましい担体タンパク質は、KLH、ウシ血清アルブミンなどである。合成ペプチドを担体タンパク質に連結するためには、マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル法(以下、MBS法と略称する)などが一般に用いられる。
【0044】
具体的には、システインを合成ペプチド中に導入し、システインのSH基を用いてMBSにより該ペプチドをKLHに架橋させる。システイン残基は、合成ペプチドのN末端またはC末端に導入されうる。
【0045】
あるいは、REG4は、REG4のヌクレオチド配列(GenBankアクセッション番号AY126670)またはその一部を用いて調製することができる。必要なヌクレオチド配列を含むDNAは、REG4発現組織から調製されたmRNAを用いてクローニングすることができる。または、市販のcDNAライブラリーをクローニング源として使用することができる。得られたREG4の遺伝子組換え体またはその断片もまた、免疫原として使用することができる。このように発現されたREG4組換え体は、本発明において使用される抗体を得るための免疫原として好ましい。市販のREG4組換え体(ProSpec-Tany TechnoGene Ltd.、製品番号:Pro-424)もまた、免疫原として使用できる。
【0046】
このようにして得られた免疫原を適切なアジュバントと混合して、動物を免疫するために用いる。公知のアジュバントには、フロイントの完全アジュバント(FCA)および不完全アジュバントが含まれる。抗体価の上昇が確認されるまで、免疫手順を適切な間隔で繰り返す。本発明において、免疫する動物は特に制限されない。具体的には、マウス、ラット、またはウサギなど、免疫化のために通常用いられる動物を使用することができる。
【0047】
モノクローナル抗体として抗体を入手する場合には、その産生に有利な動物を使用できる。例えばマウスでは、細胞融合のための多くの骨髄腫細胞株が公知であり、高い確率でハイブリドーマを樹立する技法が既に周知である。したがって、マウスは、モノクローナル抗体を得るための望ましい免疫動物である。
【0048】
さらに、免疫処理はインビトロ処理に限定されない。培養した免疫担当細胞をインビトロで免疫学的に感作するための方法もまた使用できる。これらの方法によって得られた抗体産生細胞を形質転換し、クローニングする。モノクローナル抗体を得るために抗体産生細胞を形質転換するための方法は、細胞融合に限定されない。例えば、ウイルス感染によりクローニング可能な形質転換体を得るための方法が知られている。
【0049】
本発明において使用されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、REG4に対するその反応性に基づいてスクリーニングすることができる。具体的には、まず、免疫原として使用したREG4またはそのドメインペプチドに対する結合活性を指標として用いて、抗体産生細胞を選択する。このスクリーニングにより選択された陽性クローンを、必要に応じてサブクローニングする。
【0050】
樹立されたハイブリドーマを適切な条件下で培養し、産生された抗体を回収することによって、本発明において使用するモノクローナル抗体を得ることができる。ハイブリドーマがホモハイブリドーマである場合には、これを同種同系動物に腹腔内接種することによってインビボで培養することができる。この場合、モノクローナル抗体は腹水として回収される。ヘテロハイブリドーマを使用する場合には、宿主としてヌードマウスを用いて、これらをインビボで培養することができる。
【0051】
インビボ培養に加えて、ハイブリドーマはまた一般に、適切な培養環境においてエクスビボでも培養される。例えば、RPMI 1640およびDMEMなどの基本培地が、ハイブリドーマの培地として通常用いられる。抗体産生能を高レベルに維持するために、動物血清などの添加物をこれらの培地に添加することができる。ハイブリドーマをエクスビボで培養する場合、モノクローナル抗体は培養上清として回収することができる。培養後に細胞から分離することによって、または、中空糸を使用する培養装置を用いて培養しながら連続的に回収することによって、培養上清を回収することができる。
【0052】
本発明において使用するモノクローナル抗体は、飽和硫安沈殿により免疫グロブリン画分を分離し、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーなどによってさらに精製することにより、腹水または培養上清として回収したモノクローナル抗体から調製する。加えて、モノクローナル抗体がIgGである場合には、プロテインAまたはプロテインGカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーに基づく精製法が有効である。
【0053】
本発明の免疫測定法において使用できるモノクローナル抗体の例は、マウスクローン21-1モノクローナル抗体である。より具体的には、マウスクローン21-1モノクローナル抗体、またはその可変領域を含む抗体断片が、本発明の免疫測定法において使用するモノクローナル抗体として好ましい。例えば、クローン21-1モノクローナル抗体、またはこの抗体と同等の抗原結合活性を有するモノクローナル抗体は、サンドイッチ法に基づく免疫測定法のための固定化抗体として有用である。本発明の好ましい態様において、担体上に固定化されたモノクローナル抗体および標識されたポリクローナル抗体を使用するサンドイッチ法により、REG4を測定することができる。このような抗体の組み合わせは、REG4の高感度検出を可能にする好ましい組み合わせである。
【0054】
クローン21-1モノクローナル抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:16および24に示す。当業者は、このアミノ酸配列情報に基づいた遺伝子操作によって、同様の結合活性を有するモノクローナル抗体を作製することができる。さらに、VHおよびVLのCDR1、CDR2、およびCDR3を他の免疫グロブリンのフレームワークに移植することにより、同等の抗原結合活性を有する抗体を再構成することができる。クローン21-1のVHおよびVLのCDRは、以下に示すアミノ酸配列から構成される。各アミノ酸配列は、以下に示す配列番号のヌクレオチド配列によってコードされる。したがって、その他の免疫グロブリンの対応するCDRをこれらのヌクレオチド配列を含むDNAで置換することにより、クローン21-1の抗原結合活性を他の免疫グロブリンに移植することができる。
【0055】
本発明によって提供されるクローン21-1は、REG4の免疫測定に有用な新規モノクローナル抗体である。したがって、本発明は、CDRとして前述のアミノ酸配列を含む抗REG4モノクローナル抗体を提供する。本発明のモノクローナル抗体は好ましくは、VHおよびVLのアミノ酸配列としてそれぞれ配列番号:16および24のアミノ酸配列を含む。
【0056】
可変領域に配列番号:16および24のアミノ酸配列を含む免疫グロブリンを、適切な発現ベクター中に該アミノ酸配列をコードするDNAを導入することによって発現させることができる。定常領域をコードするDNAと共に該DNAを発現させることにより、定常領域を備えた免疫グロブリンを得ることもできる。本発明の免疫測定法では、定常領域を備えた完全な免疫グロブリンを抗体として用いてよく、または抗原結合領域を保有する免疫グロブリン断片を抗体として用いてもよい。宿主細胞から発現産物を分泌させるために、可変領域のN末端にシグナル配列を付加することができる。シグナル配列が付加されたVHおよびVLのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:32および34に示し、これらのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号:31および33に示す。
【0057】
一方、本発明で使用する抗体をポリクローナル抗体として得るために、免疫後に抗体価が上昇した動物から血液を採取し、血清を分離して抗血清を得る。本発明において使用する抗体を調製するために、公知の方法により抗血清から免疫グロブリンを精製する。REG4をリガンドとして使用するイムノアフィニティークロマトグラフィーを免疫グロブリン精製と組み合わせることにより、REG4特異的抗体を調製することができる。
【0058】
REG4に対する抗体をREG4と接触させると、抗体は、抗原-抗体反応を介して抗体が認識する抗原決定基(エピトープ)に結合する。抗原に対する抗体の結合は、種々の免疫測定原理により検出することができる。免疫測定法は、異種解析法と同種解析法に大別され得る。免疫測定法の感度および特異性を高レベルに維持するためには、モノクローナル抗体を使用することが望ましい。種々の免疫測定形式によりREG4を測定するための本発明の方法を、具体的に説明する。
【0059】
最初に、異種免疫測定法を使用してREG4を測定する方法について記載する。異種免疫測定法では、REG4に結合した抗体を、REG4に結合しなかった抗体から分離した後に検出するための機構が必要である。
【0060】
分離を容易にするため、固定化試薬が一般に用いられる。例えば、REG4を認識する抗体が表面に固定化されている固相を、最初に調製する(固定化抗体)。REG4をこれに結合させ、二次抗体をさらにこれと反応させる。
【0061】
固相を液相から分離して、必要に応じてさらに洗浄すると、二次抗体はREG4の濃度に比例して固相上に残存する。二次抗体を標識することによって、標識に由来するシグナルの測定によりREG4を定量することができる。
【0062】
抗体を固相に結合させるために、任意の方法を用いることができる。例えば、抗体を、ポリスチレンなどの疎水性材料に物理的に吸着させることができる。または、抗体を、その表面上に官能基を有する種々の材料に対して化学的に結合させることができる。さらに、結合リガンドで標識した抗体を、リガンドの結合パートナーを用いて捕捉することによって固相に結合させることもできる。結合リガンドとその結合パートナーの組み合わせには、アビジン-ビオチンなどが含まれる。一次抗体とREG4の反応と同時に、またはその前に、固相と抗体を結合させることができる。
【0063】
同様に、二次抗体を直接標識する必要もない。すなわち、二次抗体を、抗体に対する抗体を用いて、またはアビジン-ビオチンなどの結合反応を用いて、間接的に標識することができる。
【0064】
試料中のREG4の濃度は、既知のREG4濃度を有する標準試料を用いて得られたシグナル強度に基づいて定量される。
【0065】
REG4を認識する抗体またはその抗原結合部位を含む断片である限り、任意の抗体を、上記の異種免疫測定法用の固定化抗体および二次抗体として使用することができる。したがって、これはモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または両者の混合物もしくは組み合わせであってよい。例えば、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の組み合わせは、本発明における好ましい組み合わせである。または、両抗体がモノクローナル抗体である場合には、異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を組み合わせることが好ましい。
【0066】
測定されるべき抗原を抗体によって挟み込むため、このような異種免疫測定法はサンドイッチ法と称される。サンドイッチ法は測定感度および再現性に優れているため、本発明において好ましい測定原理である。
【0067】
競合阻害反応の原理を、異種免疫測定法に適用することもできる。具体的には、これは、試料中のREG4が既知濃度のREG4と抗体の結合を競合的に阻害する現象に基づく免疫測定法である。既知濃度のREG4を標識し、抗体と反応した(または反応しなかった)REG4の量を測定することにより、試料中のREG4の濃度を定量することができる。
【0068】
既知濃度の抗原と試料中の抗原とを同時に抗体と反応させる場合に、競合反応系が確立される。さらに、抗体を試料中の抗原と反応させ、その後既知濃度の抗原を反応させる場合に、阻害反応系による解析が可能である。いずれの種類の反応系においても、試薬成分として用いられる既知濃度の抗原、または抗体のいずれか一方を標識成分として設定し、他方を固定化試薬として設定することにより、操作性に優れた反応系を構築することができる。
【0069】
放射性同位体、蛍光物質、発光物質、酵素活性を有する物質、肉眼で観察可能な物質、磁気的に観察可能な物質などが、これらの異種免疫測定法において用いられる。これらの標識物質の具体例を以下に示す。
酵素活性を有する物質:
ペルオキシダーゼ、
アルカリホスファターゼ、
ウレアーゼ、カタラーゼ
グルコースオキシダーゼ、
乳酸デヒドロゲナーゼ、または
アミラーゼなど。
蛍光物質:
フルオレセインイソチオシアネート、
テトラメチルローダミンイソチオシアネート、
置換ローダミンイソチオシアネート、または
ジクロロトリアジンイソチオシアネートなど。
放射性同位体:
トリチウム、
125I、または
131Iなど。
【0070】
これらのうち、酵素などの非放射性標識は、安全性、操作性、感度などの点で有利な標識である。酵素標識は、過ヨウ素酸法またはマレイミド法などの公知の方法によって、抗体またはREG4に連結することができる。
【0071】
固相としては、ビーズ、容器の内壁、微粒子、多孔質担体、磁性粒子などが用いられる。ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリル酸、ラテックス、ゼラチン、アガロース、ガラス、金属、セラミックなどの材料を用いて形成された固相を使用することができる。上記固体材料の表面上に、抗体などを化学的に結合させるための官能基が導入された固体材料もまた公知である。ポリ-L-リジンまたはグルタルアルデヒド処理などの化学的結合、および物理的吸着を含む公知の結合法を、固相および抗体(または抗原)に適用することができる。
【0072】
本明細書において例示するすべての異種免疫測定法において、液相から固相を分離する段階および洗浄段階が必要であるが、これらの段階は、サンドイッチ法の変形である免疫クロマトグラフィー法を用いて容易に実施可能である。
【0073】
具体的には、固定化されるべき抗体を、毛管現象によって試料溶液の移送が可能な多孔質担体上に固定化し、次に、REG4を含む試料と標識抗体との混合物をこの毛管現象により内部に展開させる。展開中に、REG4は標識抗体と反応し、また、これがさらに固定化抗体と接触した場合その位置で捕捉される。REG4と反応しない標識抗体は、固定化抗体に捕捉されることなく通過する。
【0074】
結果として、固定化抗体の位置に残存する標識抗体のシグナルを指標として用いて、REG4の存在を検出することができる。標識抗体が多孔質担体内の上流で予め維持されている場合、試料溶液の滴下だけによってすべての反応を開始し完了することができ、よって極めて簡便な反応系が構築され得る。免疫クロマトグラフィー法では、着色粒子のような肉眼で識別できる標識成分を組み合わせて、特殊な読取装置さえ不要な分析装置を構築することができる。
【0075】
さらに、免疫クロマトグラフィー法において、REG4の検出感度を調整することができる。例えば、後述するカットオフ値の近傍に検出感度を調整することによって、上記の標識成分は、カットオフ値を超えた場合に検出され得る。このような装置を使用することで、対象が陽性であるか陰性であるかを非常に簡便に判断することができる。肉眼による標識の識別を可能にする構成を採用することにより、単に血液試料を免疫クロマトグラフィーの装置に加えるだけで、必要な試験結果を得ることができる。
【0076】
免疫クロマトグラフィーの検出感度を調整するための種々の方法が知られている。例えば、検出感度を調整するための第2固定化抗体を、試料を加える位置と固定化抗体の間に配置することができる(特開平6-341989)。試料中のREG4は、試料が添加された位置から標識検出のための第1固定化抗体の位置へと展開しながら、第2固定化抗体に捕捉される。第2固定化抗体が飽和した後、REG4は、下流に位置する第1固定化抗体の位置へと到達できる。結果として、試料中に含まれるREG4の濃度が所定の濃度を超える場合、標識抗体に結合したREG4が、第1固定化抗体の位置で検出される。
【0077】
次に、同種免疫測定法について説明する。上記のように反応液の分離を必要とする異種免疫学的アッセイ法とは対照的に、同種解析法を用いてREG4を測定することもできる。同種解析法では、抗原-抗体反応産物を反応液から分離することなく検出することができる。
【0078】
代表的な同種解析法は、抗原-抗体反応後に生成された沈殿物を調べることにより抗原性物質を定量的に解析する、免疫沈降反応である。免疫沈降反応には一般的に、ポリクローナル抗体が用いられる。モノクローナル抗体を適用する場合には、REG4の様々なエピトープに結合する複数種のモノクローナル抗体を使用することが好ましい。免疫反応後の沈降反応の産物は、肉眼で観察することができるか、または、数値データへの変換のために光学測定することができる。
【0079】
抗体を感作した微粒子の抗原による凝集を指標として用いる免疫学的粒子凝集反応は、一般的な同種解析法である。この方法においても、上記の免疫沈降反応と同様に、ポリクローナル抗体または複数種のモノクローナル抗体の組み合わせを使用することができる。微粒子を、抗体混合物による感作により抗体を用いて感作することができ、または、各抗体で個別に感作された粒子を混合することによって調製することができる。このようにして得られた微粒子は、REG4との接触に際してマトリクス様の反応産物を生じる。反応産物は、粒子の凝集として検出することができる。粒子の凝集は、肉眼で観察してもよく、または、数値データへの変換のために光学測定することができる。
【0080】
同種免疫測定法として、エネルギー移動および酵素チャネリング(enzyme channeling)に基づく免疫学的解析法が知られている。エネルギー移動を利用する方法では、ドナー/アクセプター関係を持つ様々な光学標識を、抗原上の隣接したエピトープを認識する複数の抗体に結合させる。免疫反応が起こると、2つの部分が接近してエネルギー移動現象が起こり、これによって、失活または蛍光波長の変化といったシグナルが生じる。一方、酵素チャネリングでは、隣接したエピトープに結合する複数の抗体に対する標識を利用するが、該標識は、ある酵素の反応産物が別の酵素の基質となるような関係にある酵素の組み合わせである。免疫反応により2つの部分が接近すると、酵素反応が促進され、よって、酵素反応速度の変化としてそれらの結合を検出することができる。
【0081】
本発明において、REG4を測定するための血液は、患者から採取した血液から調製できる。好ましい血液試料は血清または血漿である。血清または血漿試料は、測定前に希釈することができる。または、全血を試料として測定してもよく、得られた測定値を補正して血清濃度を定量することができる。例えば、同じ血液試料中の血球体積の割合を定量することにより、全血中の濃度を血清濃度へと補正することができる。
【0082】
好ましい態様において、免疫測定法はELISAを含む。本発明者らは、切除可能なPDACを有する患者における血清REG4を検出するためのサンドイッチELISAを確立した。
【0083】
次に、血液試料中のREG4レベルを、正常対照試料などの参照試料に関連するREG4レベルと比較する。「正常対照レベル」という用語は、膵癌に罹患していない集団の血液試料において典型的に認められるREG4レベルを指す。参照試料は、試験試料と同じ種類であることが好ましい。例えば、試験試料が患者血清を含む場合、参照試料もまた血清であるべきである。対照および試験対象に由来する血液試料中のREG4レベルを同時に定量してもよく、あるいは、予め対照群から回収された試料中のREG4レベルを解析することによって得られた結果に基づき、統計法により正常対照レベルを定量してもよい。
【0084】
またREG4レベルは、膵癌の治療経過をモニターするために使用することもできる。この方法において、試験血液試料は、膵癌の治療中の対象から提供される。治療前、治療中、または治療後の様々な時点で、対象から複数の試験血液試料を得ることが好ましい。次に、治療後試料のREG4レベルを、治療前試料のREG4レベルまたは参照試料(例えば、正常対照レベル)と比較できる。例えば、治療後REG4レベルが治療前REG4レベルよりも低ければ、治療が有効であったと結論づけることができる。同様に、治療後REG4レベルが正常対照REG4レベルと同様であれば、やはり治療が有効であったと結論づけることができる。
【0085】
「有効な」治療とは、対象において、REG4レベルの低下、または、膵癌の大きさ、有病率、もしくは転移能の減少をもたらす治療である。治療が予防的に適用される場合、「有効」とは、治療によって、膵癌の発生が遅延されるかもしくは妨げられる、または膵癌の臨床症状が軽減されることを意味する。膵癌の評価は、標準的な臨床手順を用いて行うことができる。さらに、膵癌を診断または治療するための任意の公知の方法に関連して治療の有効性を判定することができる。例えば、膵癌は、病理組織学的に、または症候性異常を同定することによって、日常的に診断される。
【0086】
後述する実施例の結果によると、本発明によって提供される膵癌の血清学的マーカーであるREG4は、膵癌以外の癌を有する患者においても高い測定値を示し得る。具体的には、特に胃癌および結腸癌に関して高い血中濃度が認められた。REG4の高発現は実際に、胃癌(Oue N., et al., (2005) J. Pathol., 207(2):185-98)および結腸癌(Violette S., et al., (2003) Int. J. Cancer, 103(2):185-93)において免疫組織化学染色により確認された。しかし、そのような癌を有する可能性は、他の診断指標を用いて容易に排除することができる。したがって、REG4またはCA19-9とREG4の組み合わせに基づいて膵癌を有すると判断された患者が胃癌または結腸癌も有するという可能性は、容易に排除することができる。
【0087】
早期膵癌の診断および検出は非常に困難であるが、その他の胃腸管(GI)悪性腫瘍の診断またはスクリーニングは、当技術分野で周知である、内視鏡による方法または便潜血および血清ペプシノゲンのようなその他の非侵襲的な方法により確立されている。特許請求される方法を適用してGI疾患をスクリーニングし、高レベルの血清REG4が検出されたならば、信頼できる高感度の方法として既に確立されている内視鏡手順を用いて、GI疾患を検出することができる。内視鏡検査により胃または結腸直腸内に有意な病変が検出されない場合、次に、侵襲的または非侵襲的な診断手順(内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)など)を用いて、早期膵癌を検出することができる。しかし先行技術では、早期膵癌をスクリーニングするための信頼性のある手段は全く提供されていない。その他のGI悪性腫瘍をスクリーニングするためには、便潜血および血清ペプシノゲンが典型的に用いられる。特許請求される方法は、その他の血清マーカー(例えば、CA19-9)および侵襲的な内視鏡手順と組み合わせることによって膵癌をスクリーニングするための有用なツールである。
【0088】
本発明に従って膵癌の診断を行うために使用する構成要素を予め組み合わせて、試験キットとして提供することができる。したがって、本発明は、以下を含む、膵癌を検出するためのキットを提供する:
(i) 血液試料中のREG4レベルを定量するための免疫測定試薬;および
(ii) REG4の陽性対照試料。
【0089】
好ましい態様において、本発明のキットは、以下をさらに含み得る:
(iii) 血液試料中のCA19-9レベルを定量するための免疫測定試薬;および
(iv) CA19-9の陽性対照試料。
【0090】
本発明のキットを構成する免疫測定法のための試薬は、上記の種々の免疫測定法に必要な試薬を含み得る。具体的には、免疫測定法のための試薬は、測定されるべき物質を認識する抗体を含む。抗体は、免疫測定法のアッセイ形式に応じて修飾することができる。本発明の好ましいアッセイ形式として、ELISAを用いることができる。ELISAでは、例えば、固相上に固定化された一次抗体および標識を有する二次抗体が一般に用いられる。
【0091】
したがって、ELISA用の免疫測定試薬は、固相担体上に固定化された一次抗体を含み得る。微粒子または反応容器の内壁を固相担体として用いることができる。磁性粒子を微粒子として使用することができる。または、96ウェルマイクロプレートなどのマルチウェルプレートを反応容器として用いることが多い。96ウェルマイクロプレートよりも容量の小さなウェルを高密度で備えた、多数の試料を処理するための容器もまた知られている。本発明では、これらの反応容器の内壁を固相担体として使用できる。
【0092】
ELISA用の免疫測定試薬は、標識を有する二次抗体をさらに含み得る。ELISA用の二次抗体は、酵素が直接または間接的に連結している抗体であってよい。酵素を抗体に化学的に連結する方法は公知である。例えば、免疫グロブリンを酵素的に切断して、可変領域を含む断片を得ることができる。これらの断片中に含まれる-SS-結合を-SH基に還元して、二官能性リンカーを結合させることができる。酵素を予め二官能性リンカーに連結しておくことにより、酵素を抗体断片に連結することができる。
【0093】
または、酵素を間接的に連結するために、例えばアビジン-ビオチン結合を使用することができる。すなわち、ビオチン化抗体と、アビジンが結合している酵素とを接触させることにより、酵素を抗体へと間接的に連結することができる。加えて、二次抗体を認識する酵素標識抗体である三次抗体を用いて、酵素を二次抗体へと間接的に連結することができる。例えば、上記で例示したような酵素を、抗体を標識するための酵素として使用することができる。
【0094】
本発明のキットはREG4の陽性対照を含む。REG4の陽性対照は、濃度が予め定量されたREG4を含む。好ましい濃度とは、例えば、本発明の試験法において基準値として設定される濃度である。または、より高い濃度を有する陽性対照を組み合わせることもできる。本発明におけるREG4の陽性対照は、濃度が予め定量されたCA19-9をさらに含み得る。REG4およびCA19-9の両方を含む陽性対照は、本発明の陽性対照として好ましい。
【0095】
したがって、本発明は、正常値よりも高い濃度のREG4およびCA19-9の両方を含む、膵癌検出のための陽性対照を提供する。または、本発明は、膵癌検出のための陽性対照の作製における、正常値よりも高い濃度のREG4およびCA19-9を含む血液試料の使用に関する。CA19-9が膵癌の指標として役立ち得ることは知られているが、REG4が膵癌の指標として役立ち得ることは、本発明によって得られた新規知見である。したがって、CA19-9に加えてREG4を含む陽性対照は新規である。本発明の陽性対照は、基準値よりも高い濃度のCA19-9およびREG4を血液試料に添加することによって調製できる。例えば、基準値よりも高い濃度のCA19-9およびREG4を含む血清は、本発明の陽性対照として好ましい。
【0096】
本発明における陽性対照は、好ましくは液状形態である。本発明において、試料として血液試料が用いられる。したがって、対照として使用される試料もまた液体形態である必要がある。または、使用時に乾燥陽性試料を所定量の液体で溶解することにより、試験濃度を付与する対照を調製することができる。乾燥陽性対照と共に、それを溶解するのに必要な一定量の液体を封入することによって、使用者はそれらを混合するだけで必要な陽性対照を得ることができる。陽性対照として用いるREG4は天然由来のタンパク質であってよく、または組換えタンパク質であってもよい。糖鎖抗原であるCA19-9に関しても同様に、天然由来の糖鎖抗原または化学合成されたシアリルルイス型糖鎖抗原を対照として用いることができる。陽性対照だけでなく陰性対照もまた、本発明のキットにおいて組み合わせることができる。陽性対照または陰性対照は、免疫測定によって示された結果が正しいことを実証するために用いられる。
【0097】
以下の実施例は、本発明を説明し、本発明の作製および使用の際に当業者を支援するために提示される。本実施例は、本発明の範囲を制限することを決して意図したものではない。
【0098】
特記しない限り、本明細書で使用する科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本発明を実施または検討するにあたって、本明細書に記載のものと類似のまたは同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で引用した特許、特許出願、および出版物はいずれも、参照により本明細書に組み入れられる。
【0099】
以下に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されると解釈されるべきではない。
【0100】
実施例
[実施例1]臨床試料
膵臓腺癌のために膵頭十二指腸切除術を受けた患者7名から、術前および術後(手術の1カ月後)の血清試料を、インフォームドコンセントの適切な規定の下で得た。インフォームドコンセントの適切な規定の下で、PDAC由来の従来的なパラフィン包埋組織切片を外科標本から得た。膵癌患者59名、その他の膵臓疾患患者35名、および健常ドナー56名から血清試料を得た。
【0101】
[実施例2]REG4の半定量的RT-PCR解析
PDAC細胞および正常膵管上皮の精製については、以前に記載されている(Nakamura T, et al., (2004) Oncogene.;23(13):2385-400)。精製細胞集団由来のRNAを、T7に基づくインビトロ転写による2ラウンドの増幅に供した(Epicentre Technologies、ウィスコンシン州、マディソン)。本発明者らは、その後のPCR増幅のため、定量対照としてβ-アクチン(ACTB)をモニターすることにより、各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製した。プライマー配列は、ACTBについては、
5'-CATCCACGAAACTACCTTCAACT-3'(配列番号:1)および
5'-TCTCCTTAGAGAGAAGTGGGGTG-3'(配列番号:2)
であり、REG4については、
5'-CCAATTGCTATGGTTACTTCAGG-3'(配列番号:3)および
5'-GAAAAACAAGCAGGAGTTGAGTG -3'(配列番号:4)
であった。反応はすべて、GeneAmp PCRシステム9700(PE Applied Biosystems、カリフォルニア州、フォスターシティー)において、以下の条件下で行った:最初の変性を94℃で2分間;ならびに、94℃で30秒間、58℃で30秒間、および72℃で1分間を21サイクル(ACTBの場合)または28サイクル(REG4の場合)。
【0102】
[実施例3]組換えhREG4(rhREG4)の作製
(1) 発現カセットベクターの構築
CMVプロモーターの制御下でIRESにより標的遺伝子およびピューロマイシン-EGFP融合タンパク質を同時に発現する標的遺伝子発現ベクターを構築した。
【0103】
遺伝子増幅のための全PCR過程について、KOD-Plus-(TOYOBO;KOD-201)を使用した。
【0104】
まず、
5'-TTAATTAACTCGAGGGATCCCCCTTCGAACAAAAACTCATC-3'(配列番号:5)および
5'-GGCGAGAAAGGAAGGGAAG-3'(配列番号:6)
を用いたPCRによりpcDNA3.1/myc-His A(Invitrogen;V800-2)からmyc-Hisタグ遺伝子を増幅し、pBluescriptII SK+(TOYOBO)のSmaI部位に挿入してpBlue/myc-Hisを構築した。次に、
5'-ATCAGATCTATGGTGAGCAAGGGCGAGGA-3'(配列番号:7)および
5'-ATCTTACTTGTACAGCTCGTCCATGC-3'(配列番号:8)
を用いて増幅したEGFP遺伝子をpBlue/myc-HisのEcoRV部位に挿入することによって、pBlue/myc-His/EGFPを調製した。さらに、
5'-AATAGATATCCGCCCCTCTCCCTCCCC-3'(配列番号:9)および
5'-AATAGGATCCGGCACCGGGCTTGCG-3'(配列番号:10)
を用いてpQCXIP(Clontech;9136-1)からIRES-ピューロマイシン遺伝子配列を増幅し、次にEcoRVおよびBamHIで制限酵素処理し、pBlue/myc-His/EGFPのPmeI-BglII部位に導入して、pBlue/mys-His/IRES-Puro-EGFPを構築した。最後に、pQCXIPのPacI-EcoRV断片を、pBlue/myc-His/IRES-Puro-EGFPからPacIおよびEcoRVによって切り出したmyc-His/IRES-Puro-EGFPの遺伝子セグメントで置換して、標的遺伝子発現ベクターpQCXmHIPGを構築した。
【0105】
(2) REG4mH発現ベクターの構築
5'-AATATTAATTAAGGAAGATGGCTTCCAGAAGCA-3'(配列番号:11)および
5'-AATAGGATCCTGGTCGGTACTTGCACAGGA-3'(配列番号:12)
を用いたPCRによりREG4遺伝子を増幅し、次にpQCXmHIPGのPacI-BamHI部位に挿入して、pQC/REG4mH/IPGを構築した。
【0106】
(3) 発現細胞株の樹立
向汎性レトロウイルス発現系(Clontech;K1063-1)を用いて、抗原発現細胞株を樹立した。
【0107】
コラーゲン被覆100 mmディッシュ上でコンフルエントなGP2-293細胞(Clontech;K1063-1)を調製し、リポフェクタミン2000を用いて、それぞれ11.2μgのpQC/REG4mH/IPGおよびpVSV-G(Clontech;K1063-1)を同時トランスフェクションした。48時間後、ウイルス粒子を含む上清を回収し、超遠心(18,000 rpm、1.5時間、4℃)によりウイルスを沈降させ、沈降物をTNE(50 mM Tris-HCl [pH 7.8]、130 mM NaCl、1 mM EDTA)30μLに懸濁してレトロウイルスベクター溶液を調製した。
【0108】
レトロウイルスベクター溶液5μLを、8μg/mL臭化ヘキサジメトリン(SIGMA;H-9268)を含む、150μLのDMEM(SIGMA;D5796)-10% FBSで希釈して、ウイルス粒子を含む培地を調製した。96ウェルプレート中で293T細胞が約40%コンフルエントとなるまで増殖した培地を、調製済みのウイルス粒子含有培地で置換し、これにより、pQC/REG4mH/IPGを細胞に導入した。遺伝子導入後、細胞を、5μg/mLピューロマイシン(SIGMA;P8833)を含むDMEM(SIGMA;D5796)-10% FBSで培養して、発現細胞株(REG4mH/293T)を樹立した。
【0109】
(4) 抗原の精製
樹立した発現細胞株の培養上清約1 Lを回収し、TALON精製キット(Clontech;K1253-1)によりHisタグ化タンパク質を精製するために用いた。次に精製タンパク質をPBSで透析し、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングにより確認した。タンパク質アッセイキットII(BioRad;500-0002JA)を用いて、タンパク質濃度を定量した。このタンパク質を精製抗原とした。
【0110】
[実施例4]ポリクローナル抗体
アジュバント(フロイントの完全アジュバント)で抗原溶液を乳化させることにより、rhREG4タンパク質を注射用に調製した。精製された全長rhREG4タンパク質に対して、ポリクローナル抗REG4抗体(抗REG4 pAb)を、ウサギ(Medical & Biological Laboratories、日本、名古屋)で産生させた。
【0111】
抗血清のアフィニティー精製を以下の通りに行った。セファロース4B(Amersham)樹脂をブロモシアン溶液で活性化し、rhREG4タンパク質と結合させた。濾過した抗血清を上記の樹脂に添加し、次にリン酸緩衝液(pH 8.0)で3回洗浄した。グリシン-HCl緩衝液(pH 2.3)によりrhREG4特異的抗体を溶出し、tris-HCl(pH 8.0)で中和し、PBSで透析した。
【0112】
[実施例5]モノクローナル抗体
(1) 免疫化
BALB/Cマウス(4週齢、雌性)(日本SLC)を免疫用の動物として使用し、足蹠法により免疫を行った。0.1 mg/mlに調整した免疫原100μLおよびアジュバント(フロイント) 完全アジュバント;三菱化学ヤトロンRM606-1)を混合することによって調製したエマルジョン50μLを、マウス4匹の両足蹠にそれぞれ注射した。2回目および3回目(最終)の免疫化を3日ごとに(2日間隔)行い、3回目の免疫の3日後に細胞融合を行った。
【0113】
(2) 細胞融合
免疫マウスのうち2匹の両足から肥大リンパ節を切除し、該リンパ節を切断して鉗子などで細胞を押し出し、該リンパ節から得られた該細胞を遠心分離により回収した。次に、骨髄腫細胞(P3U1)を2:1〜10:1の比で混合した。混合物を遠心分離した後、得られたペレットに、等量のRPMI(RPMI1640;SIGMAカタログ番号R8758)で希釈した50% PEG(PEG4000;MERCKカタログ番号1097270100)を添加して、細胞融合を行った。洗浄後、HAT補助剤(x 50)(GIBCOカタログ番号21060-017)を添加した15% FBS-HAT培地160 mlで細胞を懸濁し、96ウェルプレート16枚に200μL/ウェルでプレーティングした。3日後に培地を交換し、コロニー形成が確認された後(1〜2週間後)、免疫沈降により1回目のスクリーニングを行った。
【0114】
(3) 免疫沈降
PBSで洗浄したプロテインGセファロースビーズ50μLをディープウェルプレートの各ウェル中に調製し、ハイブリドーマ培養上清350μLをビーズ上に分注して、回転させながら4℃で1時間反応させた。PBSで洗浄した後、培養上清(プロテインGセファロースビーズによって吸着される非特異的結合物質)350μLを抗原として各ウェルに添加し、回転下で4℃で1時間、抗原-抗体反応を実施した。プレートをPBSで再度洗浄した。2×試料緩衝液30μLを各ウェルに添加し、煮沸して試料を調製し、ウェスタンブロッティングによりタグ化抗原を検出することにより、免疫沈降され得るクローンを選択した。
【0115】
(4) モノクローナルハイブリドーマの調製
選択されたハイブリドーマを限界希釈法によりクローニングして、モノクローナルハイブリドーマを得た。ハイブリドーマを96ウェルプレートにプレーティングし、単一コロニーを有するウェルの培養上清を回収し、上記の免疫沈降により抗体活性を確認した。活性が確認されたウェル中の細胞を増殖させて、免疫沈降において強い陽性を示したクローン21-1、24-1、および34-1を得た。
【0116】
(5) 抗体の精製
ハイブリドーマの培養上清を毎秒1滴の速度でプロテインAカラムに供して抗体を吸着させ、(吸光度計で測定した場合にA280が0.05以下になるまで)PBS/0.1% NaN3で洗浄し、吸着した抗体を、0.5 Mアルギニン-HCl緩衝液(pH 4.1)で溶出させた。溶出段階では、中和のため、1/5量の1 M Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)を溶出試料に直ちに添加した。各画分のA280を測定した後、A280が0.1以上の画分をプールし、PBS中で透析した。透析後、以下の式に基づいて濃度を定量した:濃度 = A280×0.7 [mg/mL]。
【0117】
[実施例6]免疫組織化学染色
PDAC組織31例および内分泌腫瘍組織2例が二つ組でスポットされている膵癌の組織マイクロアレイ切片(AccuMaxアレイ)を、Petagene Inc.(韓国、ソウル)から購入した。切片を脱パラフィンし、クエン酸緩衝液、pH 6.0中で108℃で15分間高圧滅菌した。メタノールで希釈した0.33%過酸化水素中で30分間インキュベーションすることにより、内因性のペルオキシダーゼ活性を失活させた。ブロッキングのためウシ胎仔血清と共にインキュベーションした後、切片を抗REG4ポリクローナル抗体と共に室温で1時間インキュベーションした。PBSで洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗マウス免疫グロブリン(Envisionキット、Dako Cytomation、カリフォルニア州、カーピンテリア)で免疫検出を行った。最後に、3,3'-ジアミノベンジジン(Dako)を用いて反応物を顕色させ、細胞をヘマトキシリンで対比染色した。
【0118】
別の系列のPDAC組織における、REG4に対するポリクローナル抗体を使用した免疫組織化学的解析によって、癌細胞の細胞質におけるREG4の強いシグナルが明らかになったが、一方、膵臓の腺房細胞はREG4の弱い染色を示した(図1B)。加えて、他の系列のPDAC組織31例がスポットされた組織マイクロアレイから、31例のPDACのうち15例が高レベルのREG4を発現したことが示された(データは示さず)。全体として64例のPDACのうち35例(55%)が、抗REG4抗体による陽性染色を示した(データは示さず)。この結果は、顕微切断した細胞の以前のRNA試験による結果と一致する。
【0119】
[実施例7]ELISAアッセイ系
(1) 抗体評価のためのサンドイッチELISA系
C8 MAXI NUNC-Immuno BreakApart Module(NUNC)をサンドイッチELISA用のマイクロプレートとして使用した。抗REG4モノクローナル抗体(クローン21-1、24-1、および34-1)を0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.6)で希釈して10μg/mLとし、50μL/ウェルでマイクロプレートに添加し、4℃で一晩静置して、各抗体を物理的吸着により固定化した。1% BAS/PBSでブロッキングした後(室温、2時間)、ブロッキング液を捨てて残渣を風乾し、アッセイプレートを調製した。試料を反応緩衝液(PBS、0.1% Tween20、1% BSA、pH 7.3)で5倍希釈し、50μL/ウェルでアッセイプレートに添加し、室温で1時間反応させた。洗浄緩衝液(0.13% Tween20、0.15 M NaCl/10 mM NaH2PO4)で4回洗浄した後、HRP標識抗REG4ポリクローナル抗体を酵素標識抗体希釈液(1% BAS、0.135 M NaCl/20 mM HEPES)で1.5μg/mLに調整し、50μL/ウェルで添加した。室温で1時間反応させた後、プレートを洗浄緩衝液で4回洗浄した。呈色のため酵素基質溶液(Moss Inc.;TMB超感受性基質)を50μL/ウェルで添加し、30分後、0.36 N H2SO4を50μL/ウェルで添加して呈色反応を停止させた。吸光度(A450/A620)を測定して、各抗体の検量線に基づいて血清中のREG4濃度を計算した(図7)。
【0120】
上記のサンドイッチELISA系を用いて、膵癌患者9名および健常者28名由来の試料中のREG4濃度を定量して、各クローンの抗体価を評価した。クローン24-1および34-1の検出感度はクローン21-1と比較して低く(図7)、膵癌患者の試料中のREG4はクローン21-1においてしか検出できなかった(図8)。さらに、クローン21-1を用いたサンドイッチELISA系により測定された試料中のREG4濃度は、健常者と比較して膵癌患者で高い値を示し、これによって、健常者および膵癌患者に由来する試料中のREG4濃度における有意差が確認された(P<0.05)(図8)。
【0121】
クローン21-1における可変領域および各CDRのアミノ酸配列、ならびにこれらをコードするDNAのヌクレオチド配列は以下の通りである。
【0122】
さらに、重鎖および軽鎖が、それぞれ配列番号:32および34に示すようなシグナル配列を有することが見出された。シグナル配列を含む、重鎖および軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を、配列番号:31および33に示す。
【0123】
(2) サンドイッチELISA系
サンドイッチELISA系のマイクロプレートとして、C8 MAXI NUNC-Immuno BreakApart Module(NUNC)を使用した。抗REG4モノクローナル抗体(クローン21-1)を0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.6)で希釈して10μg/mLとし、100μL/ウェルでマイクロプレートに添加し、4℃で一晩静置して、物理的吸着により抗体を感作させた。ブロッキング(室温、2時間)の後、ブロッキング液を捨て、残渣を乾燥させてアッセイプレートを調製した。0.5μg/mLビオチン化抗PEG4ポリクローナル抗体を添加した試料希釈液(PBS、0.1% Tween20、1% BSA、pH 7.3)により、患者由来の血清を5倍希釈した。15分間反応させた後、血清を100μL/ウェルでアッセイプレートに添加し、2時間反応させた。5回洗浄した後、8000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Amersham;RPN4401)を100μL/ウェルで添加し、1時間反応させ、その後5回洗浄した。呈色のため、100μL/ウェルのTMB基質溶液(Moss Inc.;TMB超感受性基質)を添加した。15分後、100μL/ウェルの0.18 M硫酸を添加して呈色反応を停止させ、患者7名から得られた術前および術後の血清中のREG4濃度を、吸光度(A450/A620)を用いて定量した。
【0124】
上記のサンドイッチELISA系をさらに改良し、膵癌患者59名、炎症性膵臓疾患患者35名、および健常者56名の血清中のREG4濃度を、以下のサンドイッチELISA系によって測定した。C8_MAXI NUNC-Immuno BreakApart Module(NUNC)をマイクロプレートとして使用した。抗REG4モノクローナル抗体(クローン21-1)を0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.6)で希釈して10μg/mLとし、50μL/ウェルでマイクロプレートに添加し、4℃で一晩静置して、物理的吸着により抗体を感作させた。1% BSA/PBSでブロッキングした(室温、2時間)後、ブロッキング液を捨て、残渣を乾燥させてアッセイプレートを調製した。0.5μg/mLビオチン化抗REG4ポリクローナル抗体を添加した試料希釈液(PBS、0.1% Tween20、1% BSA、pH 7.3)で、患者由来の血清を5倍希釈した。15分間反応させた後、血清を50μL/ウェルでアッセイプレートに添加し、1時間反応させた。洗浄緩衝液(0.13% Tween20、0.15 M NaCl/10 mM NaH2PO4)で4回洗浄した後、反応緩衝液(上記と同じ)によってREG4特異的ポリクローナル抗体を0.25μg/mLに調整し、50μL/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。洗浄緩衝液で4回洗浄した後、酵素標識抗体希釈液(1% BSA、0.135 M NaCl/20 mM HEPES)で150,000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Amersham;RPN4401)を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた後、洗浄緩衝液で4回洗浄した。50μL/ウェルのTMB基質溶液(Moss Inc.;TMB超感受性基質)を添加し、呈色のためこれを室温で30分間静置した。50μL/ウェルの0.36 N硫酸を添加して呈色反応を停止させ、次に吸光度(A450/620)を測定して、検量線を用いて血清中のREG4濃度を定量した(図5)。
【0125】
(3) ELISAによって測定された血清REG4レベル
REG4は分泌タンパク質である。本発明者らは、本発明者らが作製した抗体を用いた免疫沈降により、REG4タンパク質が膵癌細胞株の培養培地中に分泌されることを確認した(データは示さず)。膵癌患者の血清中のREG4レベルを測定するため、本発明者らは、ヒトREG4に対して最も強い親和性を示したマウスモノクローナル抗体(クローン21-1)とヒトREG4に対するウサギポリクローナル抗体とを使用する、サンドイッチELISA系を確立した。本サンドイッチELISAの性能特性(検量線)を図2に示す。加えて、本発明者らは、これらの抗体を使用する改良型サンドイッチELISAを確立した。本改良型サンドイッチELISAの性能特性(検量線)を図5に示す。
【0126】
診断検査としてのREG4上昇の感度を定量するため、本発明者らは、健常者123名の血清REG4を測定して、これらの健常対照における平均REG4レベルを2 SD上回るレベルである9.0 ng/mlをカットオフ値と規定した(図3)。
【0127】
次に、本発明者らは、手術可能な膵臓腺癌を有する患者7名由来の術前および術後の血清を解析した(図4)。これら7例のうち4例は、術前に9.0 ng/mlよりも高いREG4レベルを示したが(症例2、3、4、および5)、これら4例のREG4レベルは、腫瘍摘出から4週間後に正常範囲のREG4レベルまで低下した。これらの結果から、血清REG4が膵癌組織に由来したこと、およびREG4が膵癌の潜在的血清マーカーであったことが示唆される。残りの症例は、術前および術後のいずれにおいても9.0 ng/mlよりも低いREG4を示した。
【0128】
さらに、本発明者らは、膵癌59例、その他の膵臓疾患35例、および健常者56例の血清REG4を、改良型サンドイッチELISAを用いて測定した。膵癌症例と健常者の間(p<0.01)、および膵癌症例とその他の膵臓疾患症例の間(p<0.05)に有意差が認められた。診断検査としてのREG4上昇の感度を定量するため、本発明者らは、これらの健常対照における平均REG4レベルを3 SD上回るレベルである3.78 ng/mlをカットオフ値と規定した。結果として、膵癌59例のうち29例(49.2%)、他の膵癌疾患35例のうち10例(28.6%)、および健常対照56例のうち1例(1.8%)が陽性と判断された。一方、膵癌59例のうち45例(76.3%)、他の膵癌疾患35例のうち13例(37.1%)、および健常対照56例のうち5例(8.9%)が、CA19-9を検出するためのELISA系によって陽性と判断された(カットオフ値25 ng/ml)(CA-19-9 EIAキット、CanAg Diagnostics AB)。膵癌59例のうち52例(88.1%)、その他の膵臓疾患35例のうち19例(54.3%)、および健常者56例のうち6例(10.7%)において、2つのタンパク質のうち少なくとも一方が陽性であった(図6)。
【0129】
本明細書において本発明者らは、PDACの約半数がREG4タンパク質の過剰発現を示すこと、および、本発明者らの構築したELISA系により一部のPDAC患者で血清REG4が検出され得ることを見出した。表2に、本発明者らが調べた症例7例における臨床病理学的特徴、ならびにREG4、CA19-9、およびCEAの術前血清レベルを要約したが、これら7例のうち4例は、血清REG4レベルが健常対照よりも高かった(9.0 ng/mlよりも高かった)。興味深いことに、血清REG4は、早期のまたは非浸潤性の膵癌患者(症例3および4)において、および同じく長期生存患者(症例3、4、および5)において高レベルであり、このことは、早期癌を有するまたは予後が良好であると予想されるPDAC患者において血清REG4が検出され得る可能性が高いことを示唆している。血清CA19-9およびCEAはこれらの早期または非浸潤性の癌を検出せず、血清REG4は膵癌をスクリーニングするための有望な血清マーカーであると考えられる。
【0130】
【表2】
1)正常範囲 < 9.0 ng/ml
2)正常範囲 < 36 U/ml
3)正常範囲 < 5.0 ng/ml、各マーカーの正常範囲よりも高い値には下線を付す
4)M:月
【0131】
PDACの腫瘍マーカーとしての血清REG4の感度および特異度は、多くの研究の解析によって定量されるべきである。以前のいくつかの研究から、結腸直腸癌(Violette S, et al., (2003) Int J Cancer.; 103(2):185-93)、胃癌(Oue N, et al., (2005) Cancer Res.; 64(7):2397-405)、および炎症性腸疾患(Hartupee JC, et al., (2004) Biochim Biophys Acta.; 1518(3):287-93)におけるREG4発現が報告されており、血清REG4がこれらの疾患から膵癌を識別できるかどうかを調べるためにさらなる研究が必要である。加えて、慢性膵炎は、本発明者らによってPDACから識別されるべき良性疾患のうちの一つである。REGファミリーは組織再生に関与している可能性が高いことを考慮すると、本発明者らはまた、慢性膵炎患者由来の血清を解析する必要もある。しかし、膵癌、特に早期PDACは極めて検出が困難である一方で、高レベルの血清REG4と関連しうるその他の腸または胃の病変は内視鏡検査によって容易に検出され、かつ、これらの消化器疾患において血清REG4が高いとしても、血清REG4測定は膵癌のスクリーニングにとって価値があると考えられる。他の腫瘍マーカーと同様に、血清REG4は、PDACの全症例を検出するのにまたは他の疾患からPDACを識別するのに十分な能力を有さないかもしれないが、血清REG4をCA19-9などの他の腫瘍マーカーまたは画像診断と組み合わせることにより、PDACの早期病変または前駆病変の検出に取り組みかつこれら疾患をより効率的にスクリーニングする有望な能力を提供できる。
【0132】
産業上の利用可能性
本発明は、膵癌患者の血清中では正常対照と比較してREG4レベルが上昇しているという発見を含む。したがって、REG4タンパク質は診断マーカー(すなわち、血清)としての有用性を有する。REG4レベルを指標として用いることで、本発明は、癌患者を診断するため、および癌患者の癌治療の経過をモニターするための方法を提供する。先行技術では、膵癌の適切な血清学的マーカーは提供されていない。本発明の新規血清学的マーカーREG4は、膵癌検出の感度を向上させうる。加えて、REG4とCA19-9の組み合わせは膵癌検出に関する感度の上昇に寄与する。
【0133】
本発明をその特定の態様に関して詳細に説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正がなされ得ることは、当業者には明らかであろう。
【0134】
特記しない限り、本明細書で使用した科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本発明を実施または検討するにあたって、本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で言及した出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含め、本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【0135】
本発明を、具体的な実施例および好ましい態様を参照して説明してきた。本発明は上記の説明によって限定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびその同等物によって規定されると意図されることが、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】(A) 顕微切断したPDAC細胞(1〜12)における、同じく顕微切断した正常膵管上皮細胞(N)と比較したREG4およびACTBのmRNA発現に関するRT-PCR;ならびに(B) 抗REG4抗体を使用した免疫組織化学的検査における一部のPDAC細胞での強い染色(上方パネル、元の倍率×200)を示す。REG4の陽性染色が細胞質で認められた。正常膵臓組織においては、腺房細胞が弱い染色を示したが(下方パネル、元の倍率×200)、正常管上皮細胞および島細胞では染色は示されなかった。
【図2】REG4レベルを定量するためのサンドイッチELISAの検量線を示す。
【図3】健常個体123名のREG4レベルの分布を示す。血清REG4濃度はELISA法により定量した。
【図4】切除可能なPDACを有する患者7名の術前および術後の血清REG4レベルを示す。白バーは術前であり;黒バーは術後である。血清REG4の正常範囲は、推定上9.0 ng/mL未満と規定した(点線)。
【図5】REG4レベルを測定するための改良型サンドイッチELISAの検量線を示す。
【図6】(A) マーカーとしてREG4またはCA19-9を使用した診断結果の一覧;および(B) REG4陽性集団とCA19-9陽性集団との間の重複のベン図を示す。「+」は陽性結果を示し、「-」は陰性結果を示す。膵癌試料59例、REG4陽性試料29例、およびCA19-9陽性試料45例が存在した。そのうち、22例の試料はREG4およびCA19-9の両方に関して陽性であり、7例の試料はREG4およびCA19-9の両方に関して陰性であった。
【図7】REG4レベルを定量するための、各抗REG4モノクローナル抗体(クローン21-1、24-1、および34-1)を使用するサンドイッチELISAの検量線を示す。
【図8】膵癌患者9名および健常個体28名の血清中のREG4タンパク質の検出を示す。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年3月2日に出願された米国仮特許出願第60/779,161号の恩典を主張し、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、生物科学の分野、より具体的には癌診断の分野に関する。特に本発明は、血清学的マーカーとしてREG4タンパク質を用いて膵癌を診断する方法、ならびに診断に用いられる試薬およびキットに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
膵管腺癌(PDAC)は、西欧諸国における癌の死因の第5位であり、悪性腫瘍の中で最も高い死亡率を示し、その5年生存率はわずか4%である(DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.;117(6): 1464-84(非特許文献1)、Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.;11(1): 23-31(非特許文献2))。米国ではおよそ30,700人の患者が膵癌と診断されており、そのうち約30,000人がこの疾患で死亡する(Jemal A, et al., (2003) CA Cancer J Clin.; 53(1): 5-26(非特許文献3))。大多数のPDAC患者は進行期で診断されるため、現在のところ有効な治療法はなく;外科的切除術のみが治癒の可能性をわずかに有するが、手術を受けたPDAC患者の80〜90%は再発し、この疾患で死亡する(DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.;117(6):1464-84(非特許文献1)、Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.;11(1):23-31(非特許文献2))。放射線照射を伴うまたは伴わない、手術および5-FUもしくはゲムシタビンを含む化学療法におけるいくつかのアプローチにより、患者の生活の質を向上させることができるが(DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.; 117(6):1464-84(非特許文献1)、Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31(非特許文献2))、極度な高悪性度および化学療法耐性というその性質のために、これらの治療がPDAC患者の長期生存に与える効果はごく限られている。したがって、大部分の進行性PDAC患者の管理は、緩和処置に重点を置いている(DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.; 117(6):1464-84(非特許文献1)、Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31(非特許文献2))。
【0004】
PDACのこの劣悪な予後は、早期PDACの検出の難しさを含むいくつかの原因に起因する(Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31(非特許文献2))。超音波内視鏡検査(EUS)または磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)などの画像診断法における改善にもかかわらず、大部分の患者はその疾患経過の後期まで症状を起こさず、そのため症状が現れるまで画像診断を受けない。前立腺癌における前立腺特異抗原(PSA)のような正確かつ簡便な血清検査により、症状が現れていない早期PDACの検出が促進されると考えられ、早期PDACを検出するために、そのような検査によるスクリーニングを大勢の集団に適用することができる。進行性膵癌の生存率がわずか数%であるのに対し、早期膵癌の外科的切除は、5年生存率50〜60%という比較的良好な予後をもたらし得る(Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31(非特許文献2))。PDACの生物学的悪性度および化学療法に対する耐性を考慮すると、致死的なPDACの予後を改善するための最も現実的な方法の1つは、非侵襲的な血清検査によって高リスク集団をスクリーニングし、外科的切除によって治癒し得る早期PDACを検出することである。現在、CA19-9はPDACに対する唯一の市販の血清学的マーカーであるが、約10〜15%の個人はそのルイス抗原状態のためにCA19-9を分泌せず、また膵癌が早期段階にあり無症候性である間、CA19-9レベルは通常、正常範囲内にあるため、CA19-9は識別値が低い(Sawabu N, et al., (2004) Pancreas.;28(3):263-7(非特許文献4)、Pleskow DK, et al., (1989) Ann Intern Med.;110(9):704-9(非特許文献5))。したがって、PDACに対する新規腫瘍マーカーの同定、および前立腺癌におけるPSAのような血清学的マーカーを用いて早期膵癌を検出するためのスクリーニング法の確立が、緊急に求められている。
【0005】
【非特許文献1】DiMagno EP, et al., (1999) Gastroenterology.;117(6): 1464-84
【非特許文献2】Zervos EE, et al., (2004) Cancer Control.; 11(1):23-31
【非特許文献3】Jemal A, et al., (2003) CA Cancer J Clin.; 53(1): 5-26
【非特許文献4】Sawabu N, et al., (2004) Pancreas.;28(3):263-7
【非特許文献5】Pleskow DK, et al., (1989) Ann Intern Med.;110(9):704-9
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、膵癌においてREG4遺伝子が特異的に過剰発現されるという発見に基づく。
【0007】
本発明者らの網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイ解析において、PDAC細胞中で上方制御されると同定された多くの遺伝子の中で(Nakamura T, et al., (2004) Oncogene.; 23(13):2385-400、WO2004/031412)、本発明者らは本研究に関してREG4(GenBankアクセッション番号AY126670;配列番号:14のアミノ酸配列をコードする配列番号:13のヌクレオチド配列)に着目した。顕微切断したPDAC細胞集団20種に関する本発明者らのマイクロアレイデータから、試験して情報の得られた症例のうち10例においてREG4が高レベルで上方制御されることが示されていたが(Nakamura T, et al., (2004) Oncogene; 23(13):2385-400)、今回、以前のマイクロアレイ解析に使用したもので、試験した12例の顕微切断済みPDAC細胞集団のうち6例において、その過剰発現がRT-PCRにより同様に確認された(図1A)。以前の研究では、REG4をREGIV(GenBankアクセッション番号AA316525)とも称したが、REG4とREGIVは同じ分子である。
【0008】
本発明者らは、REG4遺伝子を膵癌組織において上方制御されるものとして同定していたが、早期癌を有するまたは良好な予後を有すると予測されるPDAC患者の血液中でREG4レベルが上昇しているという知見は、本発明にとって新規である。さらに、膵癌患者の血液中のREG4レベルが上昇していることから、この遺伝子およびそのタンパク質が(全血、血清、または血漿における)新規な診断マーカーとして有用であると示唆される。さらに、本発明者らは、切除可能なPDACを有する患者において血清REG4を検出するためのサンドイッチELISAを確立した。
【0009】
したがって、本発明は、対象由来の血液試料中のREG4レベルを定量する段階、および、このレベルを参照試料、典型的には正常対照において認められるレベルと比較する段階を含む、対象における膵癌を診断する方法を提供する。試料中のREG4レベルが高いことは、対象が膵癌に罹患しているかまたはそのリスクを有することを示す。「正常対照レベル」という用語は、健常個体、または膵癌に罹患していないことが判明している個体の集団で認められるレベルを示す。
【0010】
REG4のレベルは、ELISAなどの免疫測定法を使用してREG4タンパク質を検出することにより定量することができる。
【0011】
対象由来の血液試料は、対象に、例えば膵癌を有することが判明しているかまたはその疑いがある患者に由来する、全血、血清、および血漿に由来し得る。
【0012】
加えて、本発明は、対象由来の血液試料中のCA19-9レベルを定量する段階、および、該CA19-9レベルを参照試料、典型的には正常対照において認められるレベルと比較する段階をさらに含む、上記方法を提供する。本発明者らは、REG4レベルおよびCA19-9レベルの両方を考慮することによって、膵癌患者をより高感度で同定できることを見出した。
【0013】
さらに、本発明はまた、抗REG4抗体を含む、REG4を検出するための免疫測定試薬も提供する。抗REG4抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、またはREG4の異なる抗原決定基を互いに認識する少なくとも2種類のモノクローナル抗体を含み得る。
【0014】
最後に、本発明はまた、(i) 血液試料中のREG4レベルを定量するための免疫測定試薬、および(ii) REG4の陽性対照試料を含む、膵癌を検出するためのキットも提供する。本キットは、(iii) 血液試料中のCA19-9レベルを定量するための免疫測定試薬;および(iv) CA19-9の陽性対照試料をさらに含み得る。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。本発明の上記概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであって、本発明または本発明のその他の代替的な態様を制限するものではないことが理解されるべきである。
【0016】
発明の詳細な説明
本明細書で使用する「1つの」、「ある」、および「その」という用語は、特記しない限り「少なくとも1つ」を意味する。
【0017】
本発明において、REG(再生膵島由来)ファミリーの新規メンバーであるREG4(Hartupee JC, et al., (2001) Biochim Biophys Acta.; 1518(3):287-93)を、膵臓腺癌のバイオマーカーとして同定した。本発明者らは、顕微切断した膵癌細胞の網羅的ゲノムcDNAマイクロアレイについて報告していた(Nakamura T, et al., (2004) Oncogene.; 23(13):2385-400)。この報告において、REG4は膵癌細胞中で過剰発現されることが見出されたが、血液中のREG4レベルがどのように膵癌と関連するかに関する証拠は提供されていない。REGファミリーは消化器における組織再生および炎症と関連する分泌分子であり(Hartupee JC, et al., (2001) Biochim Biophys Acta.; 1518(3):287-93.、Watanabe T, et al., (1990) J Biol Chem.; 265(13):7432-9.、Unno M, et al., (1992) Adv Exp Med Biol.; 321:61-6; discussion 67-9)、REGファミリーは複数の胃腸癌において上方制御され(Unno M, et al., (1992) Adv Exp Med Biol.; 321:61-6; discussion 67-9.、Lasserre C, et al., (1992) Cancer Res.; 52(18):5089-95.、Kamarainen M, et al., (2003) Am J Pathol.; 163(1):11-20)、癌において栄養因子または抗アポトーシス因子として機能し得るが(Lasserre C, et al., (1992) Cancer Res.; 52(18):5089-95)、その病態生理学的機能、特に新規メンバーであるREG4の機能および発現パターンは依然として不明である。本発明者らはREG4特異的抗体を作製し、抗REG4抗体を使用した免疫組織化学により、PDAC細胞のその過剰発現を確認した。さらに本発明者らは、PDAC患者の血清中のREG4レベルを測定するためのサンドイッチELISA系を確立し、膵癌の新規血清学的マーカーとしてのREG4の使用を実証した。
【0018】
膵癌の診断:
対象由来の血液試料中のREG4レベルを測定することにより、対象における膵癌の発生、または膵癌を発症する素因を判定することができる。したがって、本発明は、血液試料中のREG4レベルを定量する(例えば、測定する)段階を含む。本発明において、膵癌を診断する方法は、膵癌を検査または検出するための方法も含む。あるいは、本発明において、膵癌の診断とは、対象における膵癌の疑い、リスク、または可能性を示すことも指す。
【0019】
REG4遺伝子またはREG4タンパク質のいずれかを試料中で検出できる限り、REG4レベルを定量するためには任意の血液試料を用いることができる。好ましくは、血液試料は全血、血清、および血漿を含む。
【0020】
本発明において、「血液試料中のREG4レベル」とは、全血中の血球体積を補正した後の血液中に存在するREG4の濃度を指す。当業者は、血液中の血球体積の割合が個体間で大きく異なることを理解するであろう。例えば、全血中の赤血球の割合は、男性と女性の間で全く異なる。さらに、個体間の差も無視できない。したがって、血球成分を含む全血中の物質の見かけの濃度は、血球体積の割合に応じて大きく異なる。例えば、血清中の濃度が同じであったとしても、大量の血球成分を有する試料についての測定値は、少量の血球成分を有する試料についての値よりも低くなる。したがって、血液中の成分の測定値を比較するためには、血球体積を補正した値が通常用いられる。
【0021】
例えば、全血からの血球分離によって得られた血清または血漿を試料として用いて血液中の成分を測定することにより、血球体積の影響が除外された測定値を得ることができる。したがって、本発明におけるREG4レベルは通常、血清または血漿中の濃度として測定され得る。または、REG4レベルを最初に全血中の濃度として測定してもよく、その後、血球体積の影響を補正することができる。全血試料中の血球体積を測定する方法は公知である。
【0022】
本方法に従って膵癌に関して診断される対象とは、好ましくは哺乳類であり、これにはヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシが含まれる。本発明の好ましい対象とは、ヒトである。本発明において、対象は、胃腸管系(例えば、膵臓)の癌を有することが疑われる患者または健常個体であってよい。患者は、臨床意志決定を促進するために本発明により診断され得る。別の態様において、本発明はまた、胃腸管系(すなわち、膵臓)の癌をスクリーニングするために健常個体に適用することもできる。
【0023】
本発明の1つの態様において、REG4レベルは、血液試料中のREG4タンパク質の量または濃度を測定することによって定量される。血液試料中のREG4タンパク質の量を定量するための方法には、免疫測定法が含まれる。
【0024】
本発明の診断法においては、膵癌を検出するために、REG4の血中濃度に加えて、CA19-9の血中濃度を定量してもよい。したがって本発明は、REG4の血中濃度もしくはCA19-9の血中濃度のいずれか、またはその両方が健常個体と比較して高い場合に膵癌が検出される、膵癌を診断するための方法を提供する。
【0025】
CA19-9が膵癌、結腸癌、胃癌、および卵巣癌の血清学的腫瘍マーカーであることは周知である。CA19-9のエピトープは、シアル酸残基が付加したルイス(a)血液型決定因子に相当する糖タンパク質(ムチン)上の糖脂質である。この抗原は、ヒト結腸直腸癌細胞株において認められる決定因子に対して作製されたモノクローナル抗体によって定義される。この抗原はまた、正常胎児組織、ならびに成体の膵臓、唾液管、胃および結腸上皮、膵液、胃液、唾液、および胎便においても認められる。CA19-9は、胆道系によって循環から排除される。この抗原は、人口の約5%に相当するルイス(a-b-)遺伝子型を有するヒトにおいては発現しない。
【0026】
上記のように、CA19-9は膵癌を診断または検出するための血清学的マーカーとして既に使用されている。しかし、膵癌のマーカーとしてのCA19-9の感度は、膵癌を完全に検出するには幾分不十分である。したがって、膵癌の診断感度を向上させることが必要である。
【0027】
本発明において、膵癌の新規血清学的マーカーであるREG4を提供する。本発明により、膵癌の診断法または検出法の感度の向上が達成され得る。すなわち、本発明は、
(a) 診断されるべき対象から血液試料を採取する段階;
(b) 血液試料中のREG4レベルを定量する段階;
(c) 段階(b)で定量したREG4レベルを正常対照のレベルと比較する段階であって、正常対照と比較して血液試料中のREG4レベルが高いことによって、対象が膵癌に罹患していることが示される、段階
を含む、対象における膵癌を診断するための方法を提供する。
【0028】
好ましい態様において、本発明の診断または検出の方法は以下の段階をさらに含みうる:
(e) 血液試料中のCA19-9レベルを定量する段階;
(f) 段階(e)で定量したCA19-9レベルを正常対照のレベルと比較する段階;および
(g) 正常対照と比較して血液試料中のREG4レベルが高いことおよびCA19-9レベルが高いことのいずれか一方または両方によって、対象が膵癌に罹患していると示されることを判断する段階。
【0029】
REG4とCA19-9の組み合わせにより、膵癌の検出感度が有意に向上し得る。例えば、以下で考察する実施例において解析した群では、膵癌に関するCA19-9の陽性率は約76.3%である。これに比べて、CA19-9とREG4の組み合わせの陽性率は88.1%まで増加する(図6)。本発明において、「CA19-9とREG4の組み合わせ」とは、マーカーとして用いられるCA19-9レベルおよびREG4レベルのいずれか一方または両方を指す。好ましい態様において、CA19-9およびREG4の両方が陽性である患者は、膵癌のリスクが高いと判断できる。膵癌に対する血清学的マーカーとしてのREG4とCA19-9の組み合わせの使用は新規である。
【0030】
したがって、本発明により、CA19-9のみの測定結果に基づく定量と比較して、膵癌患者の検出感度を大きく向上させることできる。この向上の背後には、CA19-9陽性患者の群とREG4陽性患者の群が完全に一致するわけではないという事実が存在する。この事実について、以下にさらに具体的に記載する。
【0031】
第一に、CA19-9測定の結果として基準値よりも低い値を有する(すなわち、膵癌を有さない)と判定された患者の中には、膵癌を有する患者が実際にはある程度の割合で存在する。そのような患者は、CA19-9偽陰性患者と称される。CA19-9に基づく判定とREG4に基づく判定を組み合わせることにより、基準値よりも高いREG4値を有する患者を、CA19-9偽陰性患者の中から見つけることができる。すなわち、本発明は、CA19-9の血中濃度が低いために「陰性」であると誤って判定された患者の中から、実際には膵癌を有する患者を同定する手段を提供する。したがって、膵癌患者の検出感度が本発明によって向上する。一般に、複数のマーカーを使用した判定の結果を単に組み合わせることによって検出感度は増大され得るが、その一方で特異度が減少する場合が多い。しかし、本発明は、感度と特異度の間の最良のバランスを決定することによって、特異度を損なうことなく検出感度を増加させ得る特徴的な組み合わせを決定した。
【0032】
本発明においては、CA19-9測定の結果を同時に考慮するために、例えば、上記のREG4の測定値と基準値との比較と同様の様式で、CA19-9の血中濃度を測定して、これを基準値と比較できる。例えば、CA19-9の血中濃度を測定し、それを基準値と比較する方法は既知である。さらに、CA19-9に関するELISAキットもまた市販されている。公知の報告に記載されているこれらの方法を、膵癌を診断または検出するための本発明の方法において用いることができる。
【0033】
本発明において、REG4の血中濃度の基準値を統計学的に決定することができる。例えば、健常個体におけるREG4の血中濃度を測定して、REG4の標準的な血中濃度を統計学的に決定することができる。統計学的に十分な集団を集めた場合、平均値から標準偏差(S.D.)の2倍または3倍の範囲内にある値を基準値として用いる場合が多い。したがって、平均値 + 2 x S.D.または平均値 + 3 x S.D.に対応する値を基準値として使用することができる。記載したように設定された基準値は理論的に、それぞれ健常個体の90%および99.7%を含む。
【0034】
または、膵癌患者におけるREG4の実際の血中濃度に基づいて、基準値を設定することもできる。一般に、このように設定した基準値は、偽陽性の割合を最小化し、かつ、検出感度を最大にし得る条件を満たす値の範囲から選択される。本明細書において、偽陽性の割合とは、健常個体の中で、REG4の血中濃度が基準値よりも高いと判断される患者の割合を指す。一方、健常個体の中で、REG4の血中濃度が基準値よりも低いと判断される患者の割合とは、特異度を示す。すなわち、偽陽性の割合と特異度の合計は常に1である。検出感度とは、膵癌が存在すると判定されている個体集団における全膵癌患者の中で、REG4の血中濃度が基準値よりも高いと判断される患者の割合を指す。
【0035】
さらに、本発明において、REG4濃度が基準値よりも高いと判断された患者の中の膵癌患者の割合は、陽性予測値を表す。一方、REG4濃度が基準値よりも低いと判断された患者の中の健常個体の割合は、陰性予測値を表す。これらの値の間の関係を表1に要約する。以下に示した関係から示されるように、膵癌診断の精度を評価するための指標である感度、特異度、陽性予測値、および陰性予測値の値はそれぞれ、REG4の血中濃度レベルを判断するための基準値に応じて変動する。
【0036】
【表1】
【0037】
既に言及した通り、基準値は通常、偽陽性率が低くかつ感度が高くなるように設定される。しかし、上で示した関係からも明らかなように、偽陽性率と感度とは二律背反する関係である。すなわち、基準値を低下させると検出感度が上昇する。しかし、偽陽性率もまた上昇するため、「低い偽陽性率」を有するための条件を満たすことは困難である。この状況を考慮して、例えば、以下の予測結果を与える値を、本発明における好ましい基準値として選択することができる:
偽陽性率が50%以下である基準値(すなわち、特異度が50%以上である基準値);
感度が20%以上である基準値。
【0038】
本発明において、受信者動作特性(ROC)曲線を用いて基準値を設定することができる。ROC曲線とは、縦軸に検出感度を示し、横軸に偽陽性率(すなわち、「1−特異度」)を示すグラフである。本発明において、REG4の血中濃度の程度の高さ/低さを判定するための基準値を連続して変更的に変動させた後に感度および偽陽性率の変化をプロットすることによってROC曲線を得ることができる。
【0039】
ROC曲線を得るための「基準値」とは、統計解析のため一時的に用いられる値である。ROC曲線を得るための「基準値」は一般に、選択可能な全基準値を網羅し得る範囲内で連続的に変動させることができる。例えば、基準値を、解析集団内の最小および最大のREG4測定値の間で変動させることができる。
【0040】
得られたROC曲線に基づいて、本発明において使用するべき好ましい基準値を、上記の条件を満たす範囲から選択することができる。あるいは、基準値を、基準値を変動させることによって作成されたROC曲線に基づいて、REG4測定値の大部分を含む範囲から選択することができる。
【0041】
血液中のREG4は、タンパク質を定量し得る任意の方法により測定することができる。本発明においては、例えば免疫測定法、液体クロマトグラフィー、表面プラズモン共鳴(SPR)、質量分析などを使用することができる。質量分析では、適切な内部標準を使用することによりタンパク質を定量できる。例えば、同位体標識したREG4を内部標準として使用することができる。血液中のREG4の濃度は、血液中のREG4のピーク強度および内部標準のピーク強度から定量することができる。一般に、タンパク質の質量分析のために、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)法が用いられる。質量分析または液体クロマトグラフィーを使用する解析法により、REG4を他の腫瘍マーカー(例えば、CA19-9)と同時に解析することも可能である。
【0042】
本発明における好ましいREG4測定法は免疫測定法である。REG4のアミノ酸配列は公知である(GenBankアクセッション番号AY126670)。REG4のアミノ酸配列を配列番号:14に示し、これをコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号:13に示す。したがって、当業者は、REG4のアミノ酸配列に基づいて必要な免疫原を合成することによって抗体を調製することができる。免疫原として用いるペプチドは、ペプチド合成装置を使用して容易に合成可能である。合成ペプチドを担体タンパク質に連結することによって、免疫原として使用することができる。
【0043】
キーホールリンペットヘモシアニン、ミオグロビン、アルブミンなどを担体タンパク質として使用することができる。好ましい担体タンパク質は、KLH、ウシ血清アルブミンなどである。合成ペプチドを担体タンパク質に連結するためには、マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル法(以下、MBS法と略称する)などが一般に用いられる。
【0044】
具体的には、システインを合成ペプチド中に導入し、システインのSH基を用いてMBSにより該ペプチドをKLHに架橋させる。システイン残基は、合成ペプチドのN末端またはC末端に導入されうる。
【0045】
あるいは、REG4は、REG4のヌクレオチド配列(GenBankアクセッション番号AY126670)またはその一部を用いて調製することができる。必要なヌクレオチド配列を含むDNAは、REG4発現組織から調製されたmRNAを用いてクローニングすることができる。または、市販のcDNAライブラリーをクローニング源として使用することができる。得られたREG4の遺伝子組換え体またはその断片もまた、免疫原として使用することができる。このように発現されたREG4組換え体は、本発明において使用される抗体を得るための免疫原として好ましい。市販のREG4組換え体(ProSpec-Tany TechnoGene Ltd.、製品番号:Pro-424)もまた、免疫原として使用できる。
【0046】
このようにして得られた免疫原を適切なアジュバントと混合して、動物を免疫するために用いる。公知のアジュバントには、フロイントの完全アジュバント(FCA)および不完全アジュバントが含まれる。抗体価の上昇が確認されるまで、免疫手順を適切な間隔で繰り返す。本発明において、免疫する動物は特に制限されない。具体的には、マウス、ラット、またはウサギなど、免疫化のために通常用いられる動物を使用することができる。
【0047】
モノクローナル抗体として抗体を入手する場合には、その産生に有利な動物を使用できる。例えばマウスでは、細胞融合のための多くの骨髄腫細胞株が公知であり、高い確率でハイブリドーマを樹立する技法が既に周知である。したがって、マウスは、モノクローナル抗体を得るための望ましい免疫動物である。
【0048】
さらに、免疫処理はインビトロ処理に限定されない。培養した免疫担当細胞をインビトロで免疫学的に感作するための方法もまた使用できる。これらの方法によって得られた抗体産生細胞を形質転換し、クローニングする。モノクローナル抗体を得るために抗体産生細胞を形質転換するための方法は、細胞融合に限定されない。例えば、ウイルス感染によりクローニング可能な形質転換体を得るための方法が知られている。
【0049】
本発明において使用されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、REG4に対するその反応性に基づいてスクリーニングすることができる。具体的には、まず、免疫原として使用したREG4またはそのドメインペプチドに対する結合活性を指標として用いて、抗体産生細胞を選択する。このスクリーニングにより選択された陽性クローンを、必要に応じてサブクローニングする。
【0050】
樹立されたハイブリドーマを適切な条件下で培養し、産生された抗体を回収することによって、本発明において使用するモノクローナル抗体を得ることができる。ハイブリドーマがホモハイブリドーマである場合には、これを同種同系動物に腹腔内接種することによってインビボで培養することができる。この場合、モノクローナル抗体は腹水として回収される。ヘテロハイブリドーマを使用する場合には、宿主としてヌードマウスを用いて、これらをインビボで培養することができる。
【0051】
インビボ培養に加えて、ハイブリドーマはまた一般に、適切な培養環境においてエクスビボでも培養される。例えば、RPMI 1640およびDMEMなどの基本培地が、ハイブリドーマの培地として通常用いられる。抗体産生能を高レベルに維持するために、動物血清などの添加物をこれらの培地に添加することができる。ハイブリドーマをエクスビボで培養する場合、モノクローナル抗体は培養上清として回収することができる。培養後に細胞から分離することによって、または、中空糸を使用する培養装置を用いて培養しながら連続的に回収することによって、培養上清を回収することができる。
【0052】
本発明において使用するモノクローナル抗体は、飽和硫安沈殿により免疫グロブリン画分を分離し、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーなどによってさらに精製することにより、腹水または培養上清として回収したモノクローナル抗体から調製する。加えて、モノクローナル抗体がIgGである場合には、プロテインAまたはプロテインGカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーに基づく精製法が有効である。
【0053】
本発明の免疫測定法において使用できるモノクローナル抗体の例は、マウスクローン21-1モノクローナル抗体である。より具体的には、マウスクローン21-1モノクローナル抗体、またはその可変領域を含む抗体断片が、本発明の免疫測定法において使用するモノクローナル抗体として好ましい。例えば、クローン21-1モノクローナル抗体、またはこの抗体と同等の抗原結合活性を有するモノクローナル抗体は、サンドイッチ法に基づく免疫測定法のための固定化抗体として有用である。本発明の好ましい態様において、担体上に固定化されたモノクローナル抗体および標識されたポリクローナル抗体を使用するサンドイッチ法により、REG4を測定することができる。このような抗体の組み合わせは、REG4の高感度検出を可能にする好ましい組み合わせである。
【0054】
クローン21-1モノクローナル抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号:16および24に示す。当業者は、このアミノ酸配列情報に基づいた遺伝子操作によって、同様の結合活性を有するモノクローナル抗体を作製することができる。さらに、VHおよびVLのCDR1、CDR2、およびCDR3を他の免疫グロブリンのフレームワークに移植することにより、同等の抗原結合活性を有する抗体を再構成することができる。クローン21-1のVHおよびVLのCDRは、以下に示すアミノ酸配列から構成される。各アミノ酸配列は、以下に示す配列番号のヌクレオチド配列によってコードされる。したがって、その他の免疫グロブリンの対応するCDRをこれらのヌクレオチド配列を含むDNAで置換することにより、クローン21-1の抗原結合活性を他の免疫グロブリンに移植することができる。
【0055】
本発明によって提供されるクローン21-1は、REG4の免疫測定に有用な新規モノクローナル抗体である。したがって、本発明は、CDRとして前述のアミノ酸配列を含む抗REG4モノクローナル抗体を提供する。本発明のモノクローナル抗体は好ましくは、VHおよびVLのアミノ酸配列としてそれぞれ配列番号:16および24のアミノ酸配列を含む。
【0056】
可変領域に配列番号:16および24のアミノ酸配列を含む免疫グロブリンを、適切な発現ベクター中に該アミノ酸配列をコードするDNAを導入することによって発現させることができる。定常領域をコードするDNAと共に該DNAを発現させることにより、定常領域を備えた免疫グロブリンを得ることもできる。本発明の免疫測定法では、定常領域を備えた完全な免疫グロブリンを抗体として用いてよく、または抗原結合領域を保有する免疫グロブリン断片を抗体として用いてもよい。宿主細胞から発現産物を分泌させるために、可変領域のN末端にシグナル配列を付加することができる。シグナル配列が付加されたVHおよびVLのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:32および34に示し、これらのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号:31および33に示す。
【0057】
一方、本発明で使用する抗体をポリクローナル抗体として得るために、免疫後に抗体価が上昇した動物から血液を採取し、血清を分離して抗血清を得る。本発明において使用する抗体を調製するために、公知の方法により抗血清から免疫グロブリンを精製する。REG4をリガンドとして使用するイムノアフィニティークロマトグラフィーを免疫グロブリン精製と組み合わせることにより、REG4特異的抗体を調製することができる。
【0058】
REG4に対する抗体をREG4と接触させると、抗体は、抗原-抗体反応を介して抗体が認識する抗原決定基(エピトープ)に結合する。抗原に対する抗体の結合は、種々の免疫測定原理により検出することができる。免疫測定法は、異種解析法と同種解析法に大別され得る。免疫測定法の感度および特異性を高レベルに維持するためには、モノクローナル抗体を使用することが望ましい。種々の免疫測定形式によりREG4を測定するための本発明の方法を、具体的に説明する。
【0059】
最初に、異種免疫測定法を使用してREG4を測定する方法について記載する。異種免疫測定法では、REG4に結合した抗体を、REG4に結合しなかった抗体から分離した後に検出するための機構が必要である。
【0060】
分離を容易にするため、固定化試薬が一般に用いられる。例えば、REG4を認識する抗体が表面に固定化されている固相を、最初に調製する(固定化抗体)。REG4をこれに結合させ、二次抗体をさらにこれと反応させる。
【0061】
固相を液相から分離して、必要に応じてさらに洗浄すると、二次抗体はREG4の濃度に比例して固相上に残存する。二次抗体を標識することによって、標識に由来するシグナルの測定によりREG4を定量することができる。
【0062】
抗体を固相に結合させるために、任意の方法を用いることができる。例えば、抗体を、ポリスチレンなどの疎水性材料に物理的に吸着させることができる。または、抗体を、その表面上に官能基を有する種々の材料に対して化学的に結合させることができる。さらに、結合リガンドで標識した抗体を、リガンドの結合パートナーを用いて捕捉することによって固相に結合させることもできる。結合リガンドとその結合パートナーの組み合わせには、アビジン-ビオチンなどが含まれる。一次抗体とREG4の反応と同時に、またはその前に、固相と抗体を結合させることができる。
【0063】
同様に、二次抗体を直接標識する必要もない。すなわち、二次抗体を、抗体に対する抗体を用いて、またはアビジン-ビオチンなどの結合反応を用いて、間接的に標識することができる。
【0064】
試料中のREG4の濃度は、既知のREG4濃度を有する標準試料を用いて得られたシグナル強度に基づいて定量される。
【0065】
REG4を認識する抗体またはその抗原結合部位を含む断片である限り、任意の抗体を、上記の異種免疫測定法用の固定化抗体および二次抗体として使用することができる。したがって、これはモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または両者の混合物もしくは組み合わせであってよい。例えば、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の組み合わせは、本発明における好ましい組み合わせである。または、両抗体がモノクローナル抗体である場合には、異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を組み合わせることが好ましい。
【0066】
測定されるべき抗原を抗体によって挟み込むため、このような異種免疫測定法はサンドイッチ法と称される。サンドイッチ法は測定感度および再現性に優れているため、本発明において好ましい測定原理である。
【0067】
競合阻害反応の原理を、異種免疫測定法に適用することもできる。具体的には、これは、試料中のREG4が既知濃度のREG4と抗体の結合を競合的に阻害する現象に基づく免疫測定法である。既知濃度のREG4を標識し、抗体と反応した(または反応しなかった)REG4の量を測定することにより、試料中のREG4の濃度を定量することができる。
【0068】
既知濃度の抗原と試料中の抗原とを同時に抗体と反応させる場合に、競合反応系が確立される。さらに、抗体を試料中の抗原と反応させ、その後既知濃度の抗原を反応させる場合に、阻害反応系による解析が可能である。いずれの種類の反応系においても、試薬成分として用いられる既知濃度の抗原、または抗体のいずれか一方を標識成分として設定し、他方を固定化試薬として設定することにより、操作性に優れた反応系を構築することができる。
【0069】
放射性同位体、蛍光物質、発光物質、酵素活性を有する物質、肉眼で観察可能な物質、磁気的に観察可能な物質などが、これらの異種免疫測定法において用いられる。これらの標識物質の具体例を以下に示す。
酵素活性を有する物質:
ペルオキシダーゼ、
アルカリホスファターゼ、
ウレアーゼ、カタラーゼ
グルコースオキシダーゼ、
乳酸デヒドロゲナーゼ、または
アミラーゼなど。
蛍光物質:
フルオレセインイソチオシアネート、
テトラメチルローダミンイソチオシアネート、
置換ローダミンイソチオシアネート、または
ジクロロトリアジンイソチオシアネートなど。
放射性同位体:
トリチウム、
125I、または
131Iなど。
【0070】
これらのうち、酵素などの非放射性標識は、安全性、操作性、感度などの点で有利な標識である。酵素標識は、過ヨウ素酸法またはマレイミド法などの公知の方法によって、抗体またはREG4に連結することができる。
【0071】
固相としては、ビーズ、容器の内壁、微粒子、多孔質担体、磁性粒子などが用いられる。ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリル酸、ラテックス、ゼラチン、アガロース、ガラス、金属、セラミックなどの材料を用いて形成された固相を使用することができる。上記固体材料の表面上に、抗体などを化学的に結合させるための官能基が導入された固体材料もまた公知である。ポリ-L-リジンまたはグルタルアルデヒド処理などの化学的結合、および物理的吸着を含む公知の結合法を、固相および抗体(または抗原)に適用することができる。
【0072】
本明細書において例示するすべての異種免疫測定法において、液相から固相を分離する段階および洗浄段階が必要であるが、これらの段階は、サンドイッチ法の変形である免疫クロマトグラフィー法を用いて容易に実施可能である。
【0073】
具体的には、固定化されるべき抗体を、毛管現象によって試料溶液の移送が可能な多孔質担体上に固定化し、次に、REG4を含む試料と標識抗体との混合物をこの毛管現象により内部に展開させる。展開中に、REG4は標識抗体と反応し、また、これがさらに固定化抗体と接触した場合その位置で捕捉される。REG4と反応しない標識抗体は、固定化抗体に捕捉されることなく通過する。
【0074】
結果として、固定化抗体の位置に残存する標識抗体のシグナルを指標として用いて、REG4の存在を検出することができる。標識抗体が多孔質担体内の上流で予め維持されている場合、試料溶液の滴下だけによってすべての反応を開始し完了することができ、よって極めて簡便な反応系が構築され得る。免疫クロマトグラフィー法では、着色粒子のような肉眼で識別できる標識成分を組み合わせて、特殊な読取装置さえ不要な分析装置を構築することができる。
【0075】
さらに、免疫クロマトグラフィー法において、REG4の検出感度を調整することができる。例えば、後述するカットオフ値の近傍に検出感度を調整することによって、上記の標識成分は、カットオフ値を超えた場合に検出され得る。このような装置を使用することで、対象が陽性であるか陰性であるかを非常に簡便に判断することができる。肉眼による標識の識別を可能にする構成を採用することにより、単に血液試料を免疫クロマトグラフィーの装置に加えるだけで、必要な試験結果を得ることができる。
【0076】
免疫クロマトグラフィーの検出感度を調整するための種々の方法が知られている。例えば、検出感度を調整するための第2固定化抗体を、試料を加える位置と固定化抗体の間に配置することができる(特開平6-341989)。試料中のREG4は、試料が添加された位置から標識検出のための第1固定化抗体の位置へと展開しながら、第2固定化抗体に捕捉される。第2固定化抗体が飽和した後、REG4は、下流に位置する第1固定化抗体の位置へと到達できる。結果として、試料中に含まれるREG4の濃度が所定の濃度を超える場合、標識抗体に結合したREG4が、第1固定化抗体の位置で検出される。
【0077】
次に、同種免疫測定法について説明する。上記のように反応液の分離を必要とする異種免疫学的アッセイ法とは対照的に、同種解析法を用いてREG4を測定することもできる。同種解析法では、抗原-抗体反応産物を反応液から分離することなく検出することができる。
【0078】
代表的な同種解析法は、抗原-抗体反応後に生成された沈殿物を調べることにより抗原性物質を定量的に解析する、免疫沈降反応である。免疫沈降反応には一般的に、ポリクローナル抗体が用いられる。モノクローナル抗体を適用する場合には、REG4の様々なエピトープに結合する複数種のモノクローナル抗体を使用することが好ましい。免疫反応後の沈降反応の産物は、肉眼で観察することができるか、または、数値データへの変換のために光学測定することができる。
【0079】
抗体を感作した微粒子の抗原による凝集を指標として用いる免疫学的粒子凝集反応は、一般的な同種解析法である。この方法においても、上記の免疫沈降反応と同様に、ポリクローナル抗体または複数種のモノクローナル抗体の組み合わせを使用することができる。微粒子を、抗体混合物による感作により抗体を用いて感作することができ、または、各抗体で個別に感作された粒子を混合することによって調製することができる。このようにして得られた微粒子は、REG4との接触に際してマトリクス様の反応産物を生じる。反応産物は、粒子の凝集として検出することができる。粒子の凝集は、肉眼で観察してもよく、または、数値データへの変換のために光学測定することができる。
【0080】
同種免疫測定法として、エネルギー移動および酵素チャネリング(enzyme channeling)に基づく免疫学的解析法が知られている。エネルギー移動を利用する方法では、ドナー/アクセプター関係を持つ様々な光学標識を、抗原上の隣接したエピトープを認識する複数の抗体に結合させる。免疫反応が起こると、2つの部分が接近してエネルギー移動現象が起こり、これによって、失活または蛍光波長の変化といったシグナルが生じる。一方、酵素チャネリングでは、隣接したエピトープに結合する複数の抗体に対する標識を利用するが、該標識は、ある酵素の反応産物が別の酵素の基質となるような関係にある酵素の組み合わせである。免疫反応により2つの部分が接近すると、酵素反応が促進され、よって、酵素反応速度の変化としてそれらの結合を検出することができる。
【0081】
本発明において、REG4を測定するための血液は、患者から採取した血液から調製できる。好ましい血液試料は血清または血漿である。血清または血漿試料は、測定前に希釈することができる。または、全血を試料として測定してもよく、得られた測定値を補正して血清濃度を定量することができる。例えば、同じ血液試料中の血球体積の割合を定量することにより、全血中の濃度を血清濃度へと補正することができる。
【0082】
好ましい態様において、免疫測定法はELISAを含む。本発明者らは、切除可能なPDACを有する患者における血清REG4を検出するためのサンドイッチELISAを確立した。
【0083】
次に、血液試料中のREG4レベルを、正常対照試料などの参照試料に関連するREG4レベルと比較する。「正常対照レベル」という用語は、膵癌に罹患していない集団の血液試料において典型的に認められるREG4レベルを指す。参照試料は、試験試料と同じ種類であることが好ましい。例えば、試験試料が患者血清を含む場合、参照試料もまた血清であるべきである。対照および試験対象に由来する血液試料中のREG4レベルを同時に定量してもよく、あるいは、予め対照群から回収された試料中のREG4レベルを解析することによって得られた結果に基づき、統計法により正常対照レベルを定量してもよい。
【0084】
またREG4レベルは、膵癌の治療経過をモニターするために使用することもできる。この方法において、試験血液試料は、膵癌の治療中の対象から提供される。治療前、治療中、または治療後の様々な時点で、対象から複数の試験血液試料を得ることが好ましい。次に、治療後試料のREG4レベルを、治療前試料のREG4レベルまたは参照試料(例えば、正常対照レベル)と比較できる。例えば、治療後REG4レベルが治療前REG4レベルよりも低ければ、治療が有効であったと結論づけることができる。同様に、治療後REG4レベルが正常対照REG4レベルと同様であれば、やはり治療が有効であったと結論づけることができる。
【0085】
「有効な」治療とは、対象において、REG4レベルの低下、または、膵癌の大きさ、有病率、もしくは転移能の減少をもたらす治療である。治療が予防的に適用される場合、「有効」とは、治療によって、膵癌の発生が遅延されるかもしくは妨げられる、または膵癌の臨床症状が軽減されることを意味する。膵癌の評価は、標準的な臨床手順を用いて行うことができる。さらに、膵癌を診断または治療するための任意の公知の方法に関連して治療の有効性を判定することができる。例えば、膵癌は、病理組織学的に、または症候性異常を同定することによって、日常的に診断される。
【0086】
後述する実施例の結果によると、本発明によって提供される膵癌の血清学的マーカーであるREG4は、膵癌以外の癌を有する患者においても高い測定値を示し得る。具体的には、特に胃癌および結腸癌に関して高い血中濃度が認められた。REG4の高発現は実際に、胃癌(Oue N., et al., (2005) J. Pathol., 207(2):185-98)および結腸癌(Violette S., et al., (2003) Int. J. Cancer, 103(2):185-93)において免疫組織化学染色により確認された。しかし、そのような癌を有する可能性は、他の診断指標を用いて容易に排除することができる。したがって、REG4またはCA19-9とREG4の組み合わせに基づいて膵癌を有すると判断された患者が胃癌または結腸癌も有するという可能性は、容易に排除することができる。
【0087】
早期膵癌の診断および検出は非常に困難であるが、その他の胃腸管(GI)悪性腫瘍の診断またはスクリーニングは、当技術分野で周知である、内視鏡による方法または便潜血および血清ペプシノゲンのようなその他の非侵襲的な方法により確立されている。特許請求される方法を適用してGI疾患をスクリーニングし、高レベルの血清REG4が検出されたならば、信頼できる高感度の方法として既に確立されている内視鏡手順を用いて、GI疾患を検出することができる。内視鏡検査により胃または結腸直腸内に有意な病変が検出されない場合、次に、侵襲的または非侵襲的な診断手順(内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)など)を用いて、早期膵癌を検出することができる。しかし先行技術では、早期膵癌をスクリーニングするための信頼性のある手段は全く提供されていない。その他のGI悪性腫瘍をスクリーニングするためには、便潜血および血清ペプシノゲンが典型的に用いられる。特許請求される方法は、その他の血清マーカー(例えば、CA19-9)および侵襲的な内視鏡手順と組み合わせることによって膵癌をスクリーニングするための有用なツールである。
【0088】
本発明に従って膵癌の診断を行うために使用する構成要素を予め組み合わせて、試験キットとして提供することができる。したがって、本発明は、以下を含む、膵癌を検出するためのキットを提供する:
(i) 血液試料中のREG4レベルを定量するための免疫測定試薬;および
(ii) REG4の陽性対照試料。
【0089】
好ましい態様において、本発明のキットは、以下をさらに含み得る:
(iii) 血液試料中のCA19-9レベルを定量するための免疫測定試薬;および
(iv) CA19-9の陽性対照試料。
【0090】
本発明のキットを構成する免疫測定法のための試薬は、上記の種々の免疫測定法に必要な試薬を含み得る。具体的には、免疫測定法のための試薬は、測定されるべき物質を認識する抗体を含む。抗体は、免疫測定法のアッセイ形式に応じて修飾することができる。本発明の好ましいアッセイ形式として、ELISAを用いることができる。ELISAでは、例えば、固相上に固定化された一次抗体および標識を有する二次抗体が一般に用いられる。
【0091】
したがって、ELISA用の免疫測定試薬は、固相担体上に固定化された一次抗体を含み得る。微粒子または反応容器の内壁を固相担体として用いることができる。磁性粒子を微粒子として使用することができる。または、96ウェルマイクロプレートなどのマルチウェルプレートを反応容器として用いることが多い。96ウェルマイクロプレートよりも容量の小さなウェルを高密度で備えた、多数の試料を処理するための容器もまた知られている。本発明では、これらの反応容器の内壁を固相担体として使用できる。
【0092】
ELISA用の免疫測定試薬は、標識を有する二次抗体をさらに含み得る。ELISA用の二次抗体は、酵素が直接または間接的に連結している抗体であってよい。酵素を抗体に化学的に連結する方法は公知である。例えば、免疫グロブリンを酵素的に切断して、可変領域を含む断片を得ることができる。これらの断片中に含まれる-SS-結合を-SH基に還元して、二官能性リンカーを結合させることができる。酵素を予め二官能性リンカーに連結しておくことにより、酵素を抗体断片に連結することができる。
【0093】
または、酵素を間接的に連結するために、例えばアビジン-ビオチン結合を使用することができる。すなわち、ビオチン化抗体と、アビジンが結合している酵素とを接触させることにより、酵素を抗体へと間接的に連結することができる。加えて、二次抗体を認識する酵素標識抗体である三次抗体を用いて、酵素を二次抗体へと間接的に連結することができる。例えば、上記で例示したような酵素を、抗体を標識するための酵素として使用することができる。
【0094】
本発明のキットはREG4の陽性対照を含む。REG4の陽性対照は、濃度が予め定量されたREG4を含む。好ましい濃度とは、例えば、本発明の試験法において基準値として設定される濃度である。または、より高い濃度を有する陽性対照を組み合わせることもできる。本発明におけるREG4の陽性対照は、濃度が予め定量されたCA19-9をさらに含み得る。REG4およびCA19-9の両方を含む陽性対照は、本発明の陽性対照として好ましい。
【0095】
したがって、本発明は、正常値よりも高い濃度のREG4およびCA19-9の両方を含む、膵癌検出のための陽性対照を提供する。または、本発明は、膵癌検出のための陽性対照の作製における、正常値よりも高い濃度のREG4およびCA19-9を含む血液試料の使用に関する。CA19-9が膵癌の指標として役立ち得ることは知られているが、REG4が膵癌の指標として役立ち得ることは、本発明によって得られた新規知見である。したがって、CA19-9に加えてREG4を含む陽性対照は新規である。本発明の陽性対照は、基準値よりも高い濃度のCA19-9およびREG4を血液試料に添加することによって調製できる。例えば、基準値よりも高い濃度のCA19-9およびREG4を含む血清は、本発明の陽性対照として好ましい。
【0096】
本発明における陽性対照は、好ましくは液状形態である。本発明において、試料として血液試料が用いられる。したがって、対照として使用される試料もまた液体形態である必要がある。または、使用時に乾燥陽性試料を所定量の液体で溶解することにより、試験濃度を付与する対照を調製することができる。乾燥陽性対照と共に、それを溶解するのに必要な一定量の液体を封入することによって、使用者はそれらを混合するだけで必要な陽性対照を得ることができる。陽性対照として用いるREG4は天然由来のタンパク質であってよく、または組換えタンパク質であってもよい。糖鎖抗原であるCA19-9に関しても同様に、天然由来の糖鎖抗原または化学合成されたシアリルルイス型糖鎖抗原を対照として用いることができる。陽性対照だけでなく陰性対照もまた、本発明のキットにおいて組み合わせることができる。陽性対照または陰性対照は、免疫測定によって示された結果が正しいことを実証するために用いられる。
【0097】
以下の実施例は、本発明を説明し、本発明の作製および使用の際に当業者を支援するために提示される。本実施例は、本発明の範囲を制限することを決して意図したものではない。
【0098】
特記しない限り、本明細書で使用する科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本発明を実施または検討するにあたって、本明細書に記載のものと類似のまたは同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で引用した特許、特許出願、および出版物はいずれも、参照により本明細書に組み入れられる。
【0099】
以下に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されると解釈されるべきではない。
【0100】
実施例
[実施例1]臨床試料
膵臓腺癌のために膵頭十二指腸切除術を受けた患者7名から、術前および術後(手術の1カ月後)の血清試料を、インフォームドコンセントの適切な規定の下で得た。インフォームドコンセントの適切な規定の下で、PDAC由来の従来的なパラフィン包埋組織切片を外科標本から得た。膵癌患者59名、その他の膵臓疾患患者35名、および健常ドナー56名から血清試料を得た。
【0101】
[実施例2]REG4の半定量的RT-PCR解析
PDAC細胞および正常膵管上皮の精製については、以前に記載されている(Nakamura T, et al., (2004) Oncogene.;23(13):2385-400)。精製細胞集団由来のRNAを、T7に基づくインビトロ転写による2ラウンドの増幅に供した(Epicentre Technologies、ウィスコンシン州、マディソン)。本発明者らは、その後のPCR増幅のため、定量対照としてβ-アクチン(ACTB)をモニターすることにより、各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製した。プライマー配列は、ACTBについては、
5'-CATCCACGAAACTACCTTCAACT-3'(配列番号:1)および
5'-TCTCCTTAGAGAGAAGTGGGGTG-3'(配列番号:2)
であり、REG4については、
5'-CCAATTGCTATGGTTACTTCAGG-3'(配列番号:3)および
5'-GAAAAACAAGCAGGAGTTGAGTG -3'(配列番号:4)
であった。反応はすべて、GeneAmp PCRシステム9700(PE Applied Biosystems、カリフォルニア州、フォスターシティー)において、以下の条件下で行った:最初の変性を94℃で2分間;ならびに、94℃で30秒間、58℃で30秒間、および72℃で1分間を21サイクル(ACTBの場合)または28サイクル(REG4の場合)。
【0102】
[実施例3]組換えhREG4(rhREG4)の作製
(1) 発現カセットベクターの構築
CMVプロモーターの制御下でIRESにより標的遺伝子およびピューロマイシン-EGFP融合タンパク質を同時に発現する標的遺伝子発現ベクターを構築した。
【0103】
遺伝子増幅のための全PCR過程について、KOD-Plus-(TOYOBO;KOD-201)を使用した。
【0104】
まず、
5'-TTAATTAACTCGAGGGATCCCCCTTCGAACAAAAACTCATC-3'(配列番号:5)および
5'-GGCGAGAAAGGAAGGGAAG-3'(配列番号:6)
を用いたPCRによりpcDNA3.1/myc-His A(Invitrogen;V800-2)からmyc-Hisタグ遺伝子を増幅し、pBluescriptII SK+(TOYOBO)のSmaI部位に挿入してpBlue/myc-Hisを構築した。次に、
5'-ATCAGATCTATGGTGAGCAAGGGCGAGGA-3'(配列番号:7)および
5'-ATCTTACTTGTACAGCTCGTCCATGC-3'(配列番号:8)
を用いて増幅したEGFP遺伝子をpBlue/myc-HisのEcoRV部位に挿入することによって、pBlue/myc-His/EGFPを調製した。さらに、
5'-AATAGATATCCGCCCCTCTCCCTCCCC-3'(配列番号:9)および
5'-AATAGGATCCGGCACCGGGCTTGCG-3'(配列番号:10)
を用いてpQCXIP(Clontech;9136-1)からIRES-ピューロマイシン遺伝子配列を増幅し、次にEcoRVおよびBamHIで制限酵素処理し、pBlue/myc-His/EGFPのPmeI-BglII部位に導入して、pBlue/mys-His/IRES-Puro-EGFPを構築した。最後に、pQCXIPのPacI-EcoRV断片を、pBlue/myc-His/IRES-Puro-EGFPからPacIおよびEcoRVによって切り出したmyc-His/IRES-Puro-EGFPの遺伝子セグメントで置換して、標的遺伝子発現ベクターpQCXmHIPGを構築した。
【0105】
(2) REG4mH発現ベクターの構築
5'-AATATTAATTAAGGAAGATGGCTTCCAGAAGCA-3'(配列番号:11)および
5'-AATAGGATCCTGGTCGGTACTTGCACAGGA-3'(配列番号:12)
を用いたPCRによりREG4遺伝子を増幅し、次にpQCXmHIPGのPacI-BamHI部位に挿入して、pQC/REG4mH/IPGを構築した。
【0106】
(3) 発現細胞株の樹立
向汎性レトロウイルス発現系(Clontech;K1063-1)を用いて、抗原発現細胞株を樹立した。
【0107】
コラーゲン被覆100 mmディッシュ上でコンフルエントなGP2-293細胞(Clontech;K1063-1)を調製し、リポフェクタミン2000を用いて、それぞれ11.2μgのpQC/REG4mH/IPGおよびpVSV-G(Clontech;K1063-1)を同時トランスフェクションした。48時間後、ウイルス粒子を含む上清を回収し、超遠心(18,000 rpm、1.5時間、4℃)によりウイルスを沈降させ、沈降物をTNE(50 mM Tris-HCl [pH 7.8]、130 mM NaCl、1 mM EDTA)30μLに懸濁してレトロウイルスベクター溶液を調製した。
【0108】
レトロウイルスベクター溶液5μLを、8μg/mL臭化ヘキサジメトリン(SIGMA;H-9268)を含む、150μLのDMEM(SIGMA;D5796)-10% FBSで希釈して、ウイルス粒子を含む培地を調製した。96ウェルプレート中で293T細胞が約40%コンフルエントとなるまで増殖した培地を、調製済みのウイルス粒子含有培地で置換し、これにより、pQC/REG4mH/IPGを細胞に導入した。遺伝子導入後、細胞を、5μg/mLピューロマイシン(SIGMA;P8833)を含むDMEM(SIGMA;D5796)-10% FBSで培養して、発現細胞株(REG4mH/293T)を樹立した。
【0109】
(4) 抗原の精製
樹立した発現細胞株の培養上清約1 Lを回収し、TALON精製キット(Clontech;K1253-1)によりHisタグ化タンパク質を精製するために用いた。次に精製タンパク質をPBSで透析し、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングにより確認した。タンパク質アッセイキットII(BioRad;500-0002JA)を用いて、タンパク質濃度を定量した。このタンパク質を精製抗原とした。
【0110】
[実施例4]ポリクローナル抗体
アジュバント(フロイントの完全アジュバント)で抗原溶液を乳化させることにより、rhREG4タンパク質を注射用に調製した。精製された全長rhREG4タンパク質に対して、ポリクローナル抗REG4抗体(抗REG4 pAb)を、ウサギ(Medical & Biological Laboratories、日本、名古屋)で産生させた。
【0111】
抗血清のアフィニティー精製を以下の通りに行った。セファロース4B(Amersham)樹脂をブロモシアン溶液で活性化し、rhREG4タンパク質と結合させた。濾過した抗血清を上記の樹脂に添加し、次にリン酸緩衝液(pH 8.0)で3回洗浄した。グリシン-HCl緩衝液(pH 2.3)によりrhREG4特異的抗体を溶出し、tris-HCl(pH 8.0)で中和し、PBSで透析した。
【0112】
[実施例5]モノクローナル抗体
(1) 免疫化
BALB/Cマウス(4週齢、雌性)(日本SLC)を免疫用の動物として使用し、足蹠法により免疫を行った。0.1 mg/mlに調整した免疫原100μLおよびアジュバント(フロイント) 完全アジュバント;三菱化学ヤトロンRM606-1)を混合することによって調製したエマルジョン50μLを、マウス4匹の両足蹠にそれぞれ注射した。2回目および3回目(最終)の免疫化を3日ごとに(2日間隔)行い、3回目の免疫の3日後に細胞融合を行った。
【0113】
(2) 細胞融合
免疫マウスのうち2匹の両足から肥大リンパ節を切除し、該リンパ節を切断して鉗子などで細胞を押し出し、該リンパ節から得られた該細胞を遠心分離により回収した。次に、骨髄腫細胞(P3U1)を2:1〜10:1の比で混合した。混合物を遠心分離した後、得られたペレットに、等量のRPMI(RPMI1640;SIGMAカタログ番号R8758)で希釈した50% PEG(PEG4000;MERCKカタログ番号1097270100)を添加して、細胞融合を行った。洗浄後、HAT補助剤(x 50)(GIBCOカタログ番号21060-017)を添加した15% FBS-HAT培地160 mlで細胞を懸濁し、96ウェルプレート16枚に200μL/ウェルでプレーティングした。3日後に培地を交換し、コロニー形成が確認された後(1〜2週間後)、免疫沈降により1回目のスクリーニングを行った。
【0114】
(3) 免疫沈降
PBSで洗浄したプロテインGセファロースビーズ50μLをディープウェルプレートの各ウェル中に調製し、ハイブリドーマ培養上清350μLをビーズ上に分注して、回転させながら4℃で1時間反応させた。PBSで洗浄した後、培養上清(プロテインGセファロースビーズによって吸着される非特異的結合物質)350μLを抗原として各ウェルに添加し、回転下で4℃で1時間、抗原-抗体反応を実施した。プレートをPBSで再度洗浄した。2×試料緩衝液30μLを各ウェルに添加し、煮沸して試料を調製し、ウェスタンブロッティングによりタグ化抗原を検出することにより、免疫沈降され得るクローンを選択した。
【0115】
(4) モノクローナルハイブリドーマの調製
選択されたハイブリドーマを限界希釈法によりクローニングして、モノクローナルハイブリドーマを得た。ハイブリドーマを96ウェルプレートにプレーティングし、単一コロニーを有するウェルの培養上清を回収し、上記の免疫沈降により抗体活性を確認した。活性が確認されたウェル中の細胞を増殖させて、免疫沈降において強い陽性を示したクローン21-1、24-1、および34-1を得た。
【0116】
(5) 抗体の精製
ハイブリドーマの培養上清を毎秒1滴の速度でプロテインAカラムに供して抗体を吸着させ、(吸光度計で測定した場合にA280が0.05以下になるまで)PBS/0.1% NaN3で洗浄し、吸着した抗体を、0.5 Mアルギニン-HCl緩衝液(pH 4.1)で溶出させた。溶出段階では、中和のため、1/5量の1 M Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)を溶出試料に直ちに添加した。各画分のA280を測定した後、A280が0.1以上の画分をプールし、PBS中で透析した。透析後、以下の式に基づいて濃度を定量した:濃度 = A280×0.7 [mg/mL]。
【0117】
[実施例6]免疫組織化学染色
PDAC組織31例および内分泌腫瘍組織2例が二つ組でスポットされている膵癌の組織マイクロアレイ切片(AccuMaxアレイ)を、Petagene Inc.(韓国、ソウル)から購入した。切片を脱パラフィンし、クエン酸緩衝液、pH 6.0中で108℃で15分間高圧滅菌した。メタノールで希釈した0.33%過酸化水素中で30分間インキュベーションすることにより、内因性のペルオキシダーゼ活性を失活させた。ブロッキングのためウシ胎仔血清と共にインキュベーションした後、切片を抗REG4ポリクローナル抗体と共に室温で1時間インキュベーションした。PBSで洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗マウス免疫グロブリン(Envisionキット、Dako Cytomation、カリフォルニア州、カーピンテリア)で免疫検出を行った。最後に、3,3'-ジアミノベンジジン(Dako)を用いて反応物を顕色させ、細胞をヘマトキシリンで対比染色した。
【0118】
別の系列のPDAC組織における、REG4に対するポリクローナル抗体を使用した免疫組織化学的解析によって、癌細胞の細胞質におけるREG4の強いシグナルが明らかになったが、一方、膵臓の腺房細胞はREG4の弱い染色を示した(図1B)。加えて、他の系列のPDAC組織31例がスポットされた組織マイクロアレイから、31例のPDACのうち15例が高レベルのREG4を発現したことが示された(データは示さず)。全体として64例のPDACのうち35例(55%)が、抗REG4抗体による陽性染色を示した(データは示さず)。この結果は、顕微切断した細胞の以前のRNA試験による結果と一致する。
【0119】
[実施例7]ELISAアッセイ系
(1) 抗体評価のためのサンドイッチELISA系
C8 MAXI NUNC-Immuno BreakApart Module(NUNC)をサンドイッチELISA用のマイクロプレートとして使用した。抗REG4モノクローナル抗体(クローン21-1、24-1、および34-1)を0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.6)で希釈して10μg/mLとし、50μL/ウェルでマイクロプレートに添加し、4℃で一晩静置して、各抗体を物理的吸着により固定化した。1% BAS/PBSでブロッキングした後(室温、2時間)、ブロッキング液を捨てて残渣を風乾し、アッセイプレートを調製した。試料を反応緩衝液(PBS、0.1% Tween20、1% BSA、pH 7.3)で5倍希釈し、50μL/ウェルでアッセイプレートに添加し、室温で1時間反応させた。洗浄緩衝液(0.13% Tween20、0.15 M NaCl/10 mM NaH2PO4)で4回洗浄した後、HRP標識抗REG4ポリクローナル抗体を酵素標識抗体希釈液(1% BAS、0.135 M NaCl/20 mM HEPES)で1.5μg/mLに調整し、50μL/ウェルで添加した。室温で1時間反応させた後、プレートを洗浄緩衝液で4回洗浄した。呈色のため酵素基質溶液(Moss Inc.;TMB超感受性基質)を50μL/ウェルで添加し、30分後、0.36 N H2SO4を50μL/ウェルで添加して呈色反応を停止させた。吸光度(A450/A620)を測定して、各抗体の検量線に基づいて血清中のREG4濃度を計算した(図7)。
【0120】
上記のサンドイッチELISA系を用いて、膵癌患者9名および健常者28名由来の試料中のREG4濃度を定量して、各クローンの抗体価を評価した。クローン24-1および34-1の検出感度はクローン21-1と比較して低く(図7)、膵癌患者の試料中のREG4はクローン21-1においてしか検出できなかった(図8)。さらに、クローン21-1を用いたサンドイッチELISA系により測定された試料中のREG4濃度は、健常者と比較して膵癌患者で高い値を示し、これによって、健常者および膵癌患者に由来する試料中のREG4濃度における有意差が確認された(P<0.05)(図8)。
【0121】
クローン21-1における可変領域および各CDRのアミノ酸配列、ならびにこれらをコードするDNAのヌクレオチド配列は以下の通りである。
【0122】
さらに、重鎖および軽鎖が、それぞれ配列番号:32および34に示すようなシグナル配列を有することが見出された。シグナル配列を含む、重鎖および軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を、配列番号:31および33に示す。
【0123】
(2) サンドイッチELISA系
サンドイッチELISA系のマイクロプレートとして、C8 MAXI NUNC-Immuno BreakApart Module(NUNC)を使用した。抗REG4モノクローナル抗体(クローン21-1)を0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.6)で希釈して10μg/mLとし、100μL/ウェルでマイクロプレートに添加し、4℃で一晩静置して、物理的吸着により抗体を感作させた。ブロッキング(室温、2時間)の後、ブロッキング液を捨て、残渣を乾燥させてアッセイプレートを調製した。0.5μg/mLビオチン化抗PEG4ポリクローナル抗体を添加した試料希釈液(PBS、0.1% Tween20、1% BSA、pH 7.3)により、患者由来の血清を5倍希釈した。15分間反応させた後、血清を100μL/ウェルでアッセイプレートに添加し、2時間反応させた。5回洗浄した後、8000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Amersham;RPN4401)を100μL/ウェルで添加し、1時間反応させ、その後5回洗浄した。呈色のため、100μL/ウェルのTMB基質溶液(Moss Inc.;TMB超感受性基質)を添加した。15分後、100μL/ウェルの0.18 M硫酸を添加して呈色反応を停止させ、患者7名から得られた術前および術後の血清中のREG4濃度を、吸光度(A450/A620)を用いて定量した。
【0124】
上記のサンドイッチELISA系をさらに改良し、膵癌患者59名、炎症性膵臓疾患患者35名、および健常者56名の血清中のREG4濃度を、以下のサンドイッチELISA系によって測定した。C8_MAXI NUNC-Immuno BreakApart Module(NUNC)をマイクロプレートとして使用した。抗REG4モノクローナル抗体(クローン21-1)を0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.6)で希釈して10μg/mLとし、50μL/ウェルでマイクロプレートに添加し、4℃で一晩静置して、物理的吸着により抗体を感作させた。1% BSA/PBSでブロッキングした(室温、2時間)後、ブロッキング液を捨て、残渣を乾燥させてアッセイプレートを調製した。0.5μg/mLビオチン化抗REG4ポリクローナル抗体を添加した試料希釈液(PBS、0.1% Tween20、1% BSA、pH 7.3)で、患者由来の血清を5倍希釈した。15分間反応させた後、血清を50μL/ウェルでアッセイプレートに添加し、1時間反応させた。洗浄緩衝液(0.13% Tween20、0.15 M NaCl/10 mM NaH2PO4)で4回洗浄した後、反応緩衝液(上記と同じ)によってREG4特異的ポリクローナル抗体を0.25μg/mLに調整し、50μL/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。洗浄緩衝液で4回洗浄した後、酵素標識抗体希釈液(1% BSA、0.135 M NaCl/20 mM HEPES)で150,000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Amersham;RPN4401)を50μL/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた後、洗浄緩衝液で4回洗浄した。50μL/ウェルのTMB基質溶液(Moss Inc.;TMB超感受性基質)を添加し、呈色のためこれを室温で30分間静置した。50μL/ウェルの0.36 N硫酸を添加して呈色反応を停止させ、次に吸光度(A450/620)を測定して、検量線を用いて血清中のREG4濃度を定量した(図5)。
【0125】
(3) ELISAによって測定された血清REG4レベル
REG4は分泌タンパク質である。本発明者らは、本発明者らが作製した抗体を用いた免疫沈降により、REG4タンパク質が膵癌細胞株の培養培地中に分泌されることを確認した(データは示さず)。膵癌患者の血清中のREG4レベルを測定するため、本発明者らは、ヒトREG4に対して最も強い親和性を示したマウスモノクローナル抗体(クローン21-1)とヒトREG4に対するウサギポリクローナル抗体とを使用する、サンドイッチELISA系を確立した。本サンドイッチELISAの性能特性(検量線)を図2に示す。加えて、本発明者らは、これらの抗体を使用する改良型サンドイッチELISAを確立した。本改良型サンドイッチELISAの性能特性(検量線)を図5に示す。
【0126】
診断検査としてのREG4上昇の感度を定量するため、本発明者らは、健常者123名の血清REG4を測定して、これらの健常対照における平均REG4レベルを2 SD上回るレベルである9.0 ng/mlをカットオフ値と規定した(図3)。
【0127】
次に、本発明者らは、手術可能な膵臓腺癌を有する患者7名由来の術前および術後の血清を解析した(図4)。これら7例のうち4例は、術前に9.0 ng/mlよりも高いREG4レベルを示したが(症例2、3、4、および5)、これら4例のREG4レベルは、腫瘍摘出から4週間後に正常範囲のREG4レベルまで低下した。これらの結果から、血清REG4が膵癌組織に由来したこと、およびREG4が膵癌の潜在的血清マーカーであったことが示唆される。残りの症例は、術前および術後のいずれにおいても9.0 ng/mlよりも低いREG4を示した。
【0128】
さらに、本発明者らは、膵癌59例、その他の膵臓疾患35例、および健常者56例の血清REG4を、改良型サンドイッチELISAを用いて測定した。膵癌症例と健常者の間(p<0.01)、および膵癌症例とその他の膵臓疾患症例の間(p<0.05)に有意差が認められた。診断検査としてのREG4上昇の感度を定量するため、本発明者らは、これらの健常対照における平均REG4レベルを3 SD上回るレベルである3.78 ng/mlをカットオフ値と規定した。結果として、膵癌59例のうち29例(49.2%)、他の膵癌疾患35例のうち10例(28.6%)、および健常対照56例のうち1例(1.8%)が陽性と判断された。一方、膵癌59例のうち45例(76.3%)、他の膵癌疾患35例のうち13例(37.1%)、および健常対照56例のうち5例(8.9%)が、CA19-9を検出するためのELISA系によって陽性と判断された(カットオフ値25 ng/ml)(CA-19-9 EIAキット、CanAg Diagnostics AB)。膵癌59例のうち52例(88.1%)、その他の膵臓疾患35例のうち19例(54.3%)、および健常者56例のうち6例(10.7%)において、2つのタンパク質のうち少なくとも一方が陽性であった(図6)。
【0129】
本明細書において本発明者らは、PDACの約半数がREG4タンパク質の過剰発現を示すこと、および、本発明者らの構築したELISA系により一部のPDAC患者で血清REG4が検出され得ることを見出した。表2に、本発明者らが調べた症例7例における臨床病理学的特徴、ならびにREG4、CA19-9、およびCEAの術前血清レベルを要約したが、これら7例のうち4例は、血清REG4レベルが健常対照よりも高かった(9.0 ng/mlよりも高かった)。興味深いことに、血清REG4は、早期のまたは非浸潤性の膵癌患者(症例3および4)において、および同じく長期生存患者(症例3、4、および5)において高レベルであり、このことは、早期癌を有するまたは予後が良好であると予想されるPDAC患者において血清REG4が検出され得る可能性が高いことを示唆している。血清CA19-9およびCEAはこれらの早期または非浸潤性の癌を検出せず、血清REG4は膵癌をスクリーニングするための有望な血清マーカーであると考えられる。
【0130】
【表2】
1)正常範囲 < 9.0 ng/ml
2)正常範囲 < 36 U/ml
3)正常範囲 < 5.0 ng/ml、各マーカーの正常範囲よりも高い値には下線を付す
4)M:月
【0131】
PDACの腫瘍マーカーとしての血清REG4の感度および特異度は、多くの研究の解析によって定量されるべきである。以前のいくつかの研究から、結腸直腸癌(Violette S, et al., (2003) Int J Cancer.; 103(2):185-93)、胃癌(Oue N, et al., (2005) Cancer Res.; 64(7):2397-405)、および炎症性腸疾患(Hartupee JC, et al., (2004) Biochim Biophys Acta.; 1518(3):287-93)におけるREG4発現が報告されており、血清REG4がこれらの疾患から膵癌を識別できるかどうかを調べるためにさらなる研究が必要である。加えて、慢性膵炎は、本発明者らによってPDACから識別されるべき良性疾患のうちの一つである。REGファミリーは組織再生に関与している可能性が高いことを考慮すると、本発明者らはまた、慢性膵炎患者由来の血清を解析する必要もある。しかし、膵癌、特に早期PDACは極めて検出が困難である一方で、高レベルの血清REG4と関連しうるその他の腸または胃の病変は内視鏡検査によって容易に検出され、かつ、これらの消化器疾患において血清REG4が高いとしても、血清REG4測定は膵癌のスクリーニングにとって価値があると考えられる。他の腫瘍マーカーと同様に、血清REG4は、PDACの全症例を検出するのにまたは他の疾患からPDACを識別するのに十分な能力を有さないかもしれないが、血清REG4をCA19-9などの他の腫瘍マーカーまたは画像診断と組み合わせることにより、PDACの早期病変または前駆病変の検出に取り組みかつこれら疾患をより効率的にスクリーニングする有望な能力を提供できる。
【0132】
産業上の利用可能性
本発明は、膵癌患者の血清中では正常対照と比較してREG4レベルが上昇しているという発見を含む。したがって、REG4タンパク質は診断マーカー(すなわち、血清)としての有用性を有する。REG4レベルを指標として用いることで、本発明は、癌患者を診断するため、および癌患者の癌治療の経過をモニターするための方法を提供する。先行技術では、膵癌の適切な血清学的マーカーは提供されていない。本発明の新規血清学的マーカーREG4は、膵癌検出の感度を向上させうる。加えて、REG4とCA19-9の組み合わせは膵癌検出に関する感度の上昇に寄与する。
【0133】
本発明をその特定の態様に関して詳細に説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正がなされ得ることは、当業者には明らかであろう。
【0134】
特記しない限り、本明細書で使用した科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。本発明を実施または検討するにあたって、本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で言及した出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含め、本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【0135】
本発明を、具体的な実施例および好ましい態様を参照して説明してきた。本発明は上記の説明によって限定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびその同等物によって規定されると意図されることが、理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】(A) 顕微切断したPDAC細胞(1〜12)における、同じく顕微切断した正常膵管上皮細胞(N)と比較したREG4およびACTBのmRNA発現に関するRT-PCR;ならびに(B) 抗REG4抗体を使用した免疫組織化学的検査における一部のPDAC細胞での強い染色(上方パネル、元の倍率×200)を示す。REG4の陽性染色が細胞質で認められた。正常膵臓組織においては、腺房細胞が弱い染色を示したが(下方パネル、元の倍率×200)、正常管上皮細胞および島細胞では染色は示されなかった。
【図2】REG4レベルを定量するためのサンドイッチELISAの検量線を示す。
【図3】健常個体123名のREG4レベルの分布を示す。血清REG4濃度はELISA法により定量した。
【図4】切除可能なPDACを有する患者7名の術前および術後の血清REG4レベルを示す。白バーは術前であり;黒バーは術後である。血清REG4の正常範囲は、推定上9.0 ng/mL未満と規定した(点線)。
【図5】REG4レベルを測定するための改良型サンドイッチELISAの検量線を示す。
【図6】(A) マーカーとしてREG4またはCA19-9を使用した診断結果の一覧;および(B) REG4陽性集団とCA19-9陽性集団との間の重複のベン図を示す。「+」は陽性結果を示し、「-」は陰性結果を示す。膵癌試料59例、REG4陽性試料29例、およびCA19-9陽性試料45例が存在した。そのうち、22例の試料はREG4およびCA19-9の両方に関して陽性であり、7例の試料はREG4およびCA19-9の両方に関して陰性であった。
【図7】REG4レベルを定量するための、各抗REG4モノクローナル抗体(クローン21-1、24-1、および34-1)を使用するサンドイッチELISAの検量線を示す。
【図8】膵癌患者9名および健常個体28名の血清中のREG4タンパク質の検出を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、対象における膵癌を診断する方法:
(a) 診断されるべき対象由来の血液試料を提供する段階;
(b) 血液試料中のREG4レベルを定量する段階;
(c) 段階(b)で定量したREG4レベルを正常対照のレベルと比較する段階であって、正常対照と比較して血液試料中のREG4レベルが高いことによって、対象が膵癌に罹患していることが示される、段階。
【請求項2】
血液試料が、全血、血清、および血漿からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
血液試料中のREG4タンパク質を検出することによってREG4レベルが定量される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
REG4タンパク質が免疫測定法により検出される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
免疫測定法がELISAである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
免疫測定法が、担体上に固定化された抗REG4モノクローナル抗体を使用するサンドイッチ法である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
モノクローナル抗体がVH鎖およびVL鎖を含み、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と称するCDRアミノ酸配列を含み、各VH鎖およびVL鎖中の各CDRのアミノ酸配列が、
VH CDR1: 配列番号:18、
VH CDR2: 配列番号:20、
VH CDR3: 配列番号:22、
VL CDR1: 配列番号:26、
VL CDR2: 配列番号:28、および
VL CDR3: 配列番号:30、
またはその抗原結合領域を含む断片
からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
VHが配列番号:16のアミノ酸配列を含み、かつVLが配列番号:24のアミノ酸配列を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
(e) 血液試料中のCA19-9レベルを定量する段階;
(f) 段階(e)で定量したCA19-9レベルを正常対照のCA19-9レベルと比較する段階であって、正常対照と比較して血液試料中のREG4レベルが高いことおよびCA19-9レベルが高いことのいずれか一方または両方によって、対象が膵癌に罹患していることが示される段階。
【請求項10】
抗REG4抗体を含む、血液試料中のREG4を検出するための免疫測定試薬。
【請求項11】
モノクローナル抗体が担体上に固定化される、請求項10記載の試薬。
【請求項12】
抗REG4抗体が、VH鎖およびVL鎖を含むモノクローナル抗体を含み、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と称するCDRアミノ酸配列を含み、各VH鎖およびVL鎖中の各CDRのアミノ酸配列が、
VH CDR1: 配列番号:18、
VH CDR2: 配列番号:20、
VH CDR3: 配列番号:22、
VL CDR1: 配列番号:26、
VL CDR2: 配列番号:28、および
VL CDR3: 配列番号:30、
またはその抗原結合領域を含む断片
からなる群より選択される、請求項11記載の試薬。
【請求項13】
VHが配列番号:16のアミノ酸配列を含み、かつVLが配列番号:24のアミノ酸配列を含む、請求項12記載の試薬。
【請求項14】
(i) 血液試料中のREG4レベルを定量するための免疫測定試薬;および
(ii) REG4の陽性対照試料
を含む、膵癌を検出するためのキット。
【請求項15】
(iii) 血液試料中のCA19-9レベルを定量するための免疫測定試薬;および
(iv) CA19-9の陽性対照試料
をさらに含む、請求項14記載のキット。
【請求項16】
陽性対照試料がREG4およびVA19-9の両方について陽性である、請求項15記載のキット。
【請求項17】
陽性対照試料が液体形態である、請求項16記載のキット。
【請求項18】
正常レベルよりも高いREG4およびCA19-9の両方を含む、膵癌検出のための陽性対照血液試料。
【請求項19】
VH鎖およびVL鎖を含む抗REG4モノクローナル抗体であって、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と称するCDRアミノ酸配列を含み、各VH鎖およびVL鎖中の各CDRのアミノ酸配列が、
VH CDR1: 配列番号:18、
VH CDR2: 配列番号:20、
VH CDR3: 配列番号:22、
VL CDR1: 配列番号:26、
VL CDR2: 配列番号:28、および
VL CDR3: 配列番号:30、
またはその抗原結合領域を含む断片
からなる群より選択される、抗REG4モノクローナル抗体。
【請求項20】
VHが配列番号:16のアミノ酸配列を含み、かつVLが配列番号:24のアミノ酸配列を含む、請求項19記載のモノクローナル抗体。
【請求項1】
以下の段階を含む、対象における膵癌を診断する方法:
(a) 診断されるべき対象由来の血液試料を提供する段階;
(b) 血液試料中のREG4レベルを定量する段階;
(c) 段階(b)で定量したREG4レベルを正常対照のレベルと比較する段階であって、正常対照と比較して血液試料中のREG4レベルが高いことによって、対象が膵癌に罹患していることが示される、段階。
【請求項2】
血液試料が、全血、血清、および血漿からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
血液試料中のREG4タンパク質を検出することによってREG4レベルが定量される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
REG4タンパク質が免疫測定法により検出される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
免疫測定法がELISAである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
免疫測定法が、担体上に固定化された抗REG4モノクローナル抗体を使用するサンドイッチ法である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
モノクローナル抗体がVH鎖およびVL鎖を含み、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と称するCDRアミノ酸配列を含み、各VH鎖およびVL鎖中の各CDRのアミノ酸配列が、
VH CDR1: 配列番号:18、
VH CDR2: 配列番号:20、
VH CDR3: 配列番号:22、
VL CDR1: 配列番号:26、
VL CDR2: 配列番号:28、および
VL CDR3: 配列番号:30、
またはその抗原結合領域を含む断片
からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
VHが配列番号:16のアミノ酸配列を含み、かつVLが配列番号:24のアミノ酸配列を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
(e) 血液試料中のCA19-9レベルを定量する段階;
(f) 段階(e)で定量したCA19-9レベルを正常対照のCA19-9レベルと比較する段階であって、正常対照と比較して血液試料中のREG4レベルが高いことおよびCA19-9レベルが高いことのいずれか一方または両方によって、対象が膵癌に罹患していることが示される段階。
【請求項10】
抗REG4抗体を含む、血液試料中のREG4を検出するための免疫測定試薬。
【請求項11】
モノクローナル抗体が担体上に固定化される、請求項10記載の試薬。
【請求項12】
抗REG4抗体が、VH鎖およびVL鎖を含むモノクローナル抗体を含み、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と称するCDRアミノ酸配列を含み、各VH鎖およびVL鎖中の各CDRのアミノ酸配列が、
VH CDR1: 配列番号:18、
VH CDR2: 配列番号:20、
VH CDR3: 配列番号:22、
VL CDR1: 配列番号:26、
VL CDR2: 配列番号:28、および
VL CDR3: 配列番号:30、
またはその抗原結合領域を含む断片
からなる群より選択される、請求項11記載の試薬。
【請求項13】
VHが配列番号:16のアミノ酸配列を含み、かつVLが配列番号:24のアミノ酸配列を含む、請求項12記載の試薬。
【請求項14】
(i) 血液試料中のREG4レベルを定量するための免疫測定試薬;および
(ii) REG4の陽性対照試料
を含む、膵癌を検出するためのキット。
【請求項15】
(iii) 血液試料中のCA19-9レベルを定量するための免疫測定試薬;および
(iv) CA19-9の陽性対照試料
をさらに含む、請求項14記載のキット。
【請求項16】
陽性対照試料がREG4およびVA19-9の両方について陽性である、請求項15記載のキット。
【請求項17】
陽性対照試料が液体形態である、請求項16記載のキット。
【請求項18】
正常レベルよりも高いREG4およびCA19-9の両方を含む、膵癌検出のための陽性対照血液試料。
【請求項19】
VH鎖およびVL鎖を含む抗REG4モノクローナル抗体であって、各VH鎖およびVL鎖が、フレームワークアミノ酸配列によって隔てられたCDR1、CDR2、およびCDR3と称するCDRアミノ酸配列を含み、各VH鎖およびVL鎖中の各CDRのアミノ酸配列が、
VH CDR1: 配列番号:18、
VH CDR2: 配列番号:20、
VH CDR3: 配列番号:22、
VL CDR1: 配列番号:26、
VL CDR2: 配列番号:28、および
VL CDR3: 配列番号:30、
またはその抗原結合領域を含む断片
からなる群より選択される、抗REG4モノクローナル抗体。
【請求項20】
VHが配列番号:16のアミノ酸配列を含み、かつVLが配列番号:24のアミノ酸配列を含む、請求項19記載のモノクローナル抗体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2009−528507(P2009−528507A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540394(P2008−540394)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/JP2007/054375
【国際公開番号】WO2007/102526
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/JP2007/054375
【国際公開番号】WO2007/102526
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
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