説明

RFIDシステムおよび移動方向判定方法

【課題】 特別なセンサを用いることなく、ICタグの移動方向を確実に判定することが可能なRFIDシステムおよび移動方向判定方法を提供する。
【解決手段】 第1のアンテナ6と第2のアンテナ7の読み取り信号レベルまたは読み取り回数を受信し、同一読み取り時刻における、第1のアンテナ6の読み取り信号レベルまたは読み取り回数から、第2のアンテナ7の読み取り信号レベルまたは読み取り回数を減算して差を逐次計算し、差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出する演算手段と、最終値によりICタグ9の移動方向を判定する判定手段とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグの移動方向を判定するRFIDシステムおよび移動方向判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICタグと識別情報等の通信を行うRFID(Radio Frequency IDentification:電波による固体識別)リーダは、無線通信を行うためのアンテナが接続されており、このアンテナから送出された電波によってICタグとの通信を行っている。このRFIDリーダを建物等のゲートに組み込んだRFIDシステムは、ICタグを所持した人物の入退室管理や、ICタグを取り付けた荷物の搬入出管理等に用いられている。
【0003】
このようなRFIDシステムでは、ICタグの識別情報を読み取り、入退室等を管理することに加え、ゲート内におけるICタグの移動方向の判定、すなわち入室か退室か等の情報の管理も重要である。
【0004】
従来のRFIDシステムでは、ICタグの移動方向を判定するため、赤外線等を用いた検知センサをゲート内の移動経路に沿って複数配置し、各センサの検知順から移動方向を判定する方法が提案されている。図7は、従来のRFIDシステムを用いた移動方向判定方法を説明するブロック図である。
【0005】
図7では、人や荷物に取り付けられたICタグ19が通過するゲート内の移動経路に沿って、第1の検知センサ21および第2の検知センサ22が配置された構成となっている。また、ゲートにはRFIDリーダ11が組み込まれており、このRFIDリーダ11には、ICタグ19の識別情報を読み取るための無線通信を行うアンテナ18が設けられている。
【0006】
RFIDリーダ11がICタグ19と通信を行う場合、制御回路12の指示により論理回路13で送受信信号の符号化および復号化を行い、高周波アナログ回路14でアナログ信号の増幅および送受信分離等を行い、アンテナスイッチ回路15でアンテナ18の動作および非動作を切り替え、アンテナ18の動作時にはICタグ19に向けて電波を送出する。図中破線は、アンテナ18の通信が可能な範囲、すなわち通信エリア110を表す。
【0007】
ICタグ19が矢印で示した移動方向20に移動した場合、最初に第1の検知センサ21で、次に第2の検知センサ22で、人や荷物に取り付けられたICタグ19が検知される。これにより、ICタグ19の移動方向を判定することができる。
【0008】
上述したような複数のセンサを用いて移動方向を判定する方法として、たとえば特許文献1には通行人の入退場者管理システムが開示されている。特許文献1には、部外者の立ち入りが制限されるセキュリティゾーンへの出入りを行うゲートに、赤外線センサからなる第1センサと第2センサが通行方向に沿って設置され、通行人が所持するタグからの微弱な電波波形を検知する第3センサも設置された構成が開示されている。特許文献1では、第1センサおよび第2センサの検知順により、通行人の移動方向を判断し、および第3センサの検知情報により、通行人を特定する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−303382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図7に示すような従来のRFIDシステムは、ICタグの移動方向を判定するために、人や荷物を検出する複数の検知センサを別途備える必要があり、システムの価格が上昇するとともに設置に必要なスペースも大きくなるという課題がある。さらに、複数の人や荷物が同時に通過するような場合には、移動方向の判定が確実に行えないという課題もある。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、その目的は、特別なセンサを用いることなく、ICタグの移動方向を確実に判定することが可能なRFIDシステムおよび移動方向判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、RFIDリーダが有する複数のアンテナでICタグの識別情報を読み取り、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り信号レベルまたは読み取り回数を記録し、任意の2つの前記アンテナについての前記読み取り信号レベルまたは前記読み取り回数を減算して差を逐次計算し、前記差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出し、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定することを特徴としている。
【0013】
すなわち、本発明によれば、移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダを備え、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナを有し、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記アンテナにより前記ICタグの識別情報を読み取る受信手段と、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り信号レベルを記録する記録手段と、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り信号レベルを抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り信号レベルから前記第2のアンテナの前記読み取り信号レベルを減算して差を逐次計算し、前記差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出する演算手段と、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定する判定手段とから構成されることを特徴とするRFIDシステムが得られる。
【0014】
また、本発明によれば、移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダを備え、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナを有し、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記アンテナにより前記ICタグの識別情報を読み取る受信手段と、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り回数を記録する記録手段と、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り回数を抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り回数から前記第2のアンテナの前記読み取り回数を減算して差を逐次計算し、前記差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出する演算手段と、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定する判定手段とから構成されることを特徴とするRFIDシステムが得られる。
【0015】
また、本発明によれば、移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダと、前記RFIDリーダと通信を行うサーバ装置を備え、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナを有し、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記アンテナにより前記ICタグの識別情報を読み取る受信手段と、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り信号レベルを記録する記録手段と、前記識別情報および前記読み取り信号レベルを前記サーバ装置に送信する送信手段とから構成され、前記サーバ装置は、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り信号レベルを抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り信号レベルから前記第2のアンテナの前記読み取り信号レベルを減算して差を逐次計算し、前記差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出する演算手段と、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定する判定手段とから構成されることを特徴とするRFIDシステムが得られる。
【0016】
また、本発明によれば、移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダと、前記RFIDリーダと通信を行うサーバ装置を備え、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナを有し、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記アンテナにより前記ICタグの識別情報を読み取る受信手段と、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り回数を記録する記録手段と、前記識別情報および前記読み取り回数を前記サーバ装置に送信する送信手段とから構成され、前記サーバ装置は、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り回数を抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り回数から前記第2のアンテナの前記読み取り回数を減算して差を逐次計算し、前記差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出する演算手段と、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定する判定手段とから構成されることを特徴とするRFIDシステムが得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記最終値の正負の符号により、前記ICタグの移動方向の判定を行うことを特徴とする上記のRFIDシステムが得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記最終値の絶対値が、予め設定した閾値を超えた場合に、前記ICタグの移動方向の判定を行うことを特徴とする上記のRFIDシステムが得られる。
【0019】
また、本発明によれば、移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダから構成され、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナにより、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記ICタグの識別情報を読み取るステップと、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り信号レベルを記録するステップと、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り信号レベルを抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り信号レベルから前記第2のアンテナの前記読み取り信号レベルを減算して差を逐次計算するステップと、前記差を累積加算するステップと、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出するステップと、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定するステップを有することを特徴とする移動方向判定方法が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダから構成され、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナにより、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記ICタグの識別情報を読み取るステップと、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り回数を記録するステップと、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り回数を抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り回数から前記第2のアンテナの前記読み取り回数を減算して差を逐次計算するステップと、前記差を累積加算するステップと、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出するステップと、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定するステップを有することを特徴とする移動方向判定方法が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダと、前記RFIDリーダと通信を行うサーバ装置から構成され、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナにより、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記ICタグの識別情報を読み取るステップと、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り信号レベルを記録するステップと、前記識別情報および前記読み取り信号レベルを前記サーバ装置に送信するステップを有し、前記サーバ装置は、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り信号レベルを抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り信号レベルから前記第2のアンテナの前記読み取り信号レベルを減算して差を逐次計算するステップと、前記差を累積加算するステップと、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出するステップと、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定するステップを有することを特徴とする移動方向判定方法が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダと、前記RFIDリーダと通信を行うサーバ装置から構成され、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナにより、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記ICタグの識別情報を読み取るステップと、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り回数を記録するステップと、前記識別情報および前記読み取り回数を前記サーバ装置に送信するステップを有し、前記サーバ装置は、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り回数を抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り回数から前記第2のアンテナの前記読み取り回数を減算して差を逐次計算するステップと、前記差を累積加算するステップと、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出するステップと、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定するステップを有することを特徴とする移動方向判定方法が得られる。
【0023】
また、本発明によれば、前記最終値の正負の符号により、前記ICタグの移動方向の判定を行うことを特徴とする上記の移動方向判定方法が得られる。
【0024】
また、本発明によれば、前記最終値が、予め設定した閾値を超えた場合に、前記ICタグの移動方向の判定を行うことを特徴とする上記の移動方向判定方法が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、特別なセンサを用いることなく、ICタグの移動方向を確実に判定することが可能なRFIDシステムおよび移動方向判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるRFIDシステムを説明するブロック図。
【図2】本発明による移動方向判定方法を説明するフローチャート。
【図3】本発明の実施の形態に係るシミュレーション結果を示す図。図3(a)は、読み取り信号レベル、図3(b)は、読み取り信号レベルの差、図3(c)は、差を累積加算した値、図3(d)は、図3(c)の値を累積加算した最終値。
【図4】本発明の他の実施の形態に係るシミュレーション結果を示す図。図4(a)は、読み取り信号レベル、図4(b)は、読み取り信号レベルの差、図4(c)は、差を累積加算した値、図4(d)は、図4(c)の値を累積加算した最終値。
【図5】本発明の実施例1に係る移動方向判定結果を示す図。図5(a)は、読み取り信号レベル、図5(b)は、読み取り信号レベルの差、図5(c)は、差を累積加算した値、図5(d)は、図5(c)の値を累積加算した最終値。
【図6】本発明の実施例2に係る移動方向判定結果を示す図。図6(a)は、読み取り回数、図6(b)は、読み取り回数の差、図6(c)は、差を累積加算した値、図6(d)は、図6(c)の値を累積加算した最終値。
【図7】従来のRFIDシステムを用いた移動方向判定方法を説明するブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0028】
図1は、本発明によるRFIDシステムを説明するブロック図である。図2は、本発明による移動方向判定方法を説明するフローチャートである。図1および図2では、2つのアンテナを使用した場合の例を示している。人や荷物に取り付けられたICタグ9が通過するゲートにRFIDリーダ1が組み込まれており、このRFIDリーダ1には、ICタグ9の移動経路に沿って、第1のアンテナ6および第2のアンテナ7が配置された構成となっている。RFIDリーダ1がICタグ9と通信を行う場合、制御回路2の指示により論理回路3で符号化、復号化を行い、高周波アナログ回路4でアナログ信号の増幅、送受信分離等を行う。アンテナスイッチ回路5で第1のアンテナ6および第2のアンテナ7の動作や切り替え等を行い、動作時には第1のアンテナ6および第2のアンテナ7からICタグ9に向けて電波を送出する。図中破線は、各アンテナでの通信エリアを示している。
【0029】
本実施の形態において、各アンテナでのICタグ9の読み取りが始まる前に、累積加算値および最終値を0に設定しておく(ステップ0)。ICタグ9が矢印で示した移動方向10に移動した場合、最初に第1のアンテナ6の通信エリア101で、次に第1のアンテナ6と第2のアンテナ7の通信エリアが一部重なる通信エリア102で、最後に第2のアンテナ7の通信エリア103で、ICタグ9の識別情報が予め定めた一定の単位時間毎に読み取られる(ステップ1)。
【0030】
読み取られた識別情報は、読み取り時刻と読み取り信号レベルまたは読み取り回数とともに、制御回路2に記録される(ステップ2)。さらに、制御回路2では、同一読み取り時刻での読み取り信号レベルまたは読み取り回数に関して、アンテナ6の値からアンテナ7の値を減算し差を逐次計算し(ステップ3)、この差を、累積加算して(一つ前の読み取り時刻までの累積加算値に加算する)累積加算値を算出し(ステップ4)、この累積加算値をさらに累積加算して(一つ前の読み取り時刻までの最終値に加算する)最終値を算出する(ステップ5)演算処理を行う。読み取りを完了するまで、上記ステップを繰り返す(ステップ6)。最終的に第1のアンテナ6および第2のアンテナ7の両方の読み取りが終了したら、この最終値の正負の符号を用いて、ICタグ9の移動方向を判定する(ステップ7)。なお、RFIDリーダ1と別にコンピュータ等のサーバ装置を設け、制御回路2で記録された読み取り信号レベルまたは読み取り回数をサーバ装置に送信し、サーバ装置にて上記の演算処理および判定を行うことも可能である。また、全ての情報を取得後、オフラインで上記の演算処理および判定を行うことも可能である。
【0031】
ICタグの移動方向判定方法について、シミュレーションによる実施の形態を用いて詳細に説明するする。本実施の形態では、最終値の正負の符号によりICタグの移動方向を判定し、正の符号の場合には移動方向10に移動し、負の符号の場合には移動方向10の反対方向に移動するものとした。
【0032】
図3は、本発明の実施の形態に係るシミュレーション結果を示す図で、図3(a)は、読み取り信号レベル、図3(b)は、読み取り信号レベルの差、図3(c)は、差を累積加算した値、図3(d)は、図3(c)の値を累積加算した最終値である。ここで横軸は単位時間毎の経過時間tを示し、左から右にかけて時間が経過していく。ここでは、図1に示す第1のアンテナ6から第2のアンテナ7への方向、すなわち移動方向10にICタグ9が移動する場合の、読み取り信号レベルを用いたシミュレーションを行った。本実施の形態では、ICタグ9がほぼ一定の速度で移動する場合についてシミュレーションを行った。
【0033】
図3(a)において、P1は第1のアンテナ6の読み取り信号レベル、P2は第2のアンテナ7の読み取り信号レベルを示している。本実施の形態の演算処理は、まず、図3(b)に示すように、P1からP2を減算し差(P1−P2)を計算する。次に、図3(c)に示すように、図3(b)の差を累積加算し、累積加算値(Σ(P1−P2))を算出する。さらに、図3(c)の累積加算値をもう一度累積加算し、最終値(Σ{Σ(P1−P2)})を算出する。この最終値の符号は正となり、移動方向10にICタグが移動していると判断できる。
【0034】
図4は、本発明の他の実施の形態に係るシミュレーション結果を示す図で、図4(a)は、読み取り信号レベル、図4(b)は、読み取り信号レベルの差、図4(c)は、差を累積加算した値、図4(d)は、図4(c)の値を累積加算した最終値である。ここで横軸は単位時間毎の経過時間tを示し、左から右にかけて時間が経過していく。ここでは、図1に示す第2のアンテナ7から第1のアンテナ6への方向、すなわち移動方向10の反対方向にICタグ9が移動する場合の、読み取り信号レベルを用いたシミュレーションを行った。本実施の形態では、ICタグ9がほぼ一定の速度で移動する場合についてシミュレーションを行った。
【0035】
図4(a)においても、P1は第1のアンテナ6の読み取り信号レベル、P2は第2のアンテナ7の読み取り信号レベルを示している。本実施の形態の演算処理も図2の場合と同様に、まず、図4(b)に示すように、P1からP2を減算し差(P1−P2)を計算する。次に、図4(c)に示すように、図4(b)の差を累積加算し、累積加算値(Σ(P1−P2))を算出する。さらに、図4(c)の累積加算値をもう一度累積加算し、最終値(Σ{Σ(P1−P2)})を算出する。この最終値の符号は負となり、移動方向10と反対方向にICタグが移動していると判断できる。
【0036】
本実施の形態では、読み取り信号レベルを演算処理し、ICタグの移動方向を判定したが、この読み取り信号レベルを読み取り回数に置き換えて、同様の演算処理を行う場合においても、本発明の効果が得られることもシミュレーションにより確認した。
【0037】
また、最終値の絶対値に予め閾値を設定し、最終値の絶対値が、この閾値以上の場合のみ判定を行う処理を加えてもよい。これは、例えば、ICタグが読み取りにくい位置に取り付けてある場合や、電波が反射するような床等がある場所で、通信エリアを通過した後も読み取りを行ったりするという場合に、ICタグとRFIDリーダのアンテナ間での通信に、読み取り誤差やばらつきが発生する可能性がある。このような場合に、上記の閾値を設定し、判定範囲を狭くすることにより、誤判定を防止することが可能となる。この閾値は、使用状況や周囲環境に応じて、適宜設定すればよい。さらに、上記説明はICタグが1個の場合の例を示しているが、複数のICタグが同時に移動したとしても、各ICタグの識別情報毎に上述した演算処理を行えばよい。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
実施例1では、図1に示すICタグ9が第1のアンテナ6から第2のアンテナ7へ移動した場合の、読み取り信号レベルを測定し、演算を行い、移動方向を判定する実験を行った。なお、最終値が正の符号となる場合に、ICタグ9は第1のアンテナ6から第2のアンテナ7へ移動し、最終値が負の符号となる場合に、反対方向に移動すると判定するように設定した。
【0039】
図5は、本発明の実施例1に係る移動方向判定結果を示す図で、図5(a)は、読み取り信号レベル、図5(b)は、読み取り信号レベルの差、図5(c)は、差を累積加算した値、図5(d)は、図5(c)の値を累積加算した最終値である。本発明の演算処理を行った結果、図5(d)に示す最終値の符号は正となり、第1のアンテナ6から第2のアンテナ7への移動したことを正しく判定できた。
【0040】
(実施例2)
実施例2では、図1に示すICタグ9が第1のアンテナ6から第2のアンテナ7へ移動した場合の、読み取り回数を測定し、演算を行い、移動方向を判定する実験を行った。なお、実施例1と同様に、最終値が正の符号となる場合に、ICタグ9は第1のアンテナ6から第2のアンテナ7へ移動し、最終値が負の符号となる場合に、反対方向に移動すると判定するように設定した。
【0041】
図6は、本発明の実施例2に係る移動方向判定結果を示す図で、図6(a)は、読み取り回数、図6(b)は、読み取り回数の差、図6(c)は、差を累積加算した値、図6(d)は、図6(c)の値を累積加算した最終値である。図6(a)において、N1は第1のアンテナ6の読み取り回数、N2は第2のアンテナ7の読み取り回数を示している。本実施例の演算処理は、まず、図6(b)に示すように、N1からN2を減算し差(N1−N2)を計算する。次に、図6(c)に示すように、図6(b)の差を累積加算し、累積加算値(Σ(N1−N2))を算出する。さらに、図6(c)の累積加算値をもう一度累積加算し、最終値(Σ{Σ(N1−N2)})を算出する。本発明の演算処理を行った結果、図6(d)に示す最終値の符号は正となり、第1のアンテナ6から第2のアンテナ7への移動したことを正しく判定できた。
【0042】
以上、図面を用いて本発明の実施の形態および実施例を説明したが、本発明はこれら実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、部材や構成の変更があっても本発明に含まれる。例えば、アンテナの構成は2個に限定されるものではなく、複数のアンテナ設置時におけるICタグの読み取り結果について、本発明の演算処理を適用することにより、同様にICタグの移動方向を判定することが可能であることは言うまでもない。
【0043】
また、単位時間毎の経過時間tは、どのように設定したとしても、経過時刻の前後関係が正しく認識されるものであれば判定に支障はない。すなわち、当業者であれば当然なしえるであろう各種変形や修正もまた、本発明に含まれるものであることは自明である。
【符号の説明】
【0044】
1、11 RFIDリーダ
2、12 制御回路
3、13 論理回路
4、14 高周波アナログ回路
5、15 アンテナスイッチ回路
6 第1のアンテナ
7 第2のアンテナ
18 アンテナ
9、19 ICタグ
10、20 移動方向
21 第1の検知センサ
22 第2の検知センサ
101、102、103、110 通信エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダを備え、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナを有し、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記アンテナにより前記ICタグの識別情報を読み取る受信手段と、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り信号レベルを記録する記録手段と、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り信号レベルを抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り信号レベルから前記第2のアンテナの前記読み取り信号レベルを減算して差を逐次計算し、前記差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出する演算手段と、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定する判定手段とから構成されることを特徴とするRFIDシステム。
【請求項2】
移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダを備え、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナを有し、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記アンテナにより前記ICタグの識別情報を読み取る受信手段と、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り回数を記録する記録手段と、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り回数を抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り回数から前記第2のアンテナの前記読み取り回数を減算して差を逐次計算し、前記差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出する演算手段と、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定する判定手段とから構成されることを特徴とするRFIDシステム。
【請求項3】
移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダと、前記RFIDリーダと通信を行うサーバ装置を備え、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナを有し、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記アンテナにより前記ICタグの識別情報を読み取る受信手段と、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り信号レベルを記録する記録手段と、前記識別情報および前記読み取り信号レベルを前記サーバ装置に送信する送信手段とから構成され、前記サーバ装置は、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り信号レベルを抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り信号レベルから前記第2のアンテナの前記読み取り信号レベルを減算して差を逐次計算し、前記差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出する演算手段と、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定する判定手段とから構成されることを特徴とするRFIDシステム。
【請求項4】
移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダと、前記RFIDリーダと通信を行うサーバ装置を備え、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナを有し、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記アンテナにより前記ICタグの識別情報を読み取る受信手段と、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り回数を記録する記録手段と、前記識別情報および前記読み取り回数を前記サーバ装置に送信する送信手段とから構成され、前記サーバ装置は、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り回数を抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り回数から前記第2のアンテナの前記読み取り回数を減算して差を逐次計算し、前記差を累積加算し、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出する演算手段と、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定する判定手段とから構成されることを特徴とするRFIDシステム。
【請求項5】
前記最終値の正負の符号により、前記ICタグの移動方向の判定を行うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のRFIDシステム。
【請求項6】
前記最終値の絶対値が、予め設定した閾値を超えた場合に、前記ICタグの移動方向の判定を行うことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のRFIDシステム。
【請求項7】
移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダから構成され、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナにより、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記ICタグの識別情報を読み取るステップと、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り信号レベルを記録するステップと、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り信号レベルを抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り信号レベルから前記第2のアンテナの前記読み取り信号レベルを減算して差を逐次計算するステップと、前記差を累積加算するステップと、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出するステップと、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定するステップを有することを特徴とする移動方向判定方法。
【請求項8】
移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダから構成され、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナにより、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記ICタグの識別情報を読み取るステップと、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り回数を記録するステップと、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り回数を抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り回数から前記第2のアンテナの前記読み取り回数を減算して差を逐次計算するステップと、前記差を累積加算するステップと、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出するステップと、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定するステップを有することを特徴とする移動方向判定方法。
【請求項9】
移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダと、前記RFIDリーダと通信を行うサーバ装置から構成され、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナにより、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記ICタグの識別情報を読み取るステップと、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り信号レベルを記録するステップと、前記識別情報および前記読み取り信号レベルを前記サーバ装置に送信するステップを有し、前記サーバ装置は、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り信号レベルを抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り信号レベルから前記第2のアンテナの前記読み取り信号レベルを減算して差を逐次計算するステップと、前記差を累積加算するステップと、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出するステップと、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定するステップを有することを特徴とする移動方向判定方法。
【請求項10】
移動可能な物体に取り付けてなるICタグと、前記ICタグと無線通信を行うRFIDリーダと、前記RFIDリーダと通信を行うサーバ装置から構成され、前記RFIDリーダは、前記ICタグと通信可能な範囲の少なくとも一部が重なるように移動経路に沿って配置した複数のアンテナにより、予め設定した一定の時間である単位時間毎に、前記ICタグの識別情報を読み取るステップと、前記識別情報と読み取り時刻および前記読み取り時刻での読み取り回数を記録するステップと、前記識別情報および前記読み取り回数を前記サーバ装置に送信するステップを有し、前記サーバ装置は、前記複数のアンテナから第1のアンテナと第2のアンテナを選択し、それぞれの前記読み取り回数を抽出し、同一読み取り時刻における、前記第1のアンテナの前記読み取り回数から前記第2のアンテナの前記読み取り回数を減算して差を逐次計算するステップと、前記差を累積加算するステップと、累積加算された値を更に累積加算して最終値を算出するステップと、前記最終値により前記ICタグの移動方向を判定するステップを有することを特徴とする移動方向判定方法。
【請求項11】
前記最終値の正負の符号により、前記ICタグの移動方向の判定を行うことを特徴とする請求項7〜請求項10のいずれか一項に記載の移動方向判定方法。
【請求項12】
前記最終値の絶対値が、予め設定した閾値を超えた場合に、前記ICタグの移動方向の判定を行うことを特徴とする請求項7〜請求項11のいずれか一項に記載の移動方向判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−58055(P2013−58055A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195563(P2011−195563)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】