説明

RFIDタグ付き布およびRFIDタグ付き布管理システム

【課題】RFIDタグの通信に適したRFIDタグ付き布およびRFIDタグ付き布管理システムを提供する。
【解決手段】医療用ガーゼ1に線状アンテナ6を一体形成して、タグICチップを埋め込むため、医療用ガーゼ1自体でリーダ61と通信を行うことができる。したがって、手術の前後での医療用ガーゼ1の枚数を迅速かつ正確に管理でき、患者の体内に医療用ガーゼ1を置き忘れる事故を確実に防止できる。また、医療用ガーゼ1を用いたガーゼ管理システムを構築し、このガーゼ管理システム内に、専用ICタグ読取装置とベッドに内蔵されたアンテナシートを設けるため、医療用ガーゼ1の枚数管理だけでなく、患者の出血量などの管理も簡易かつ正確に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグによる無線通信が可能なRFIDタグ付き布およびRFIDタグ付き布管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン繊維や金属繊維等を用いて平面アンテナを構成したり、導電性布を用いてウェアラブルアンテナを構成する手法が提案されている。例えば、特許文献1には、電磁波により共振して高周波電流を発生する受信アンテナを衣服の一部に取り付けた電磁波防護衣服が開示されている。また、特許文献2には、導電性繊維を含有させた伸縮自在の布地にて、携帯電話機の上側にある電磁波送受信部を着脱自在に被覆する電磁波拡散防止具が開示されている。さらに、特許文献3は、複数本の経糸と複数本の緯糸の間に情報記録糸を織り込んだスキミング防止織物を用意し、このスキミング防止織物の中に磁気カードを収納する。そして、スキミング装置を使って磁気カードの情報を読み取ろうとしたときに、情報記録糸に記録された情報により、その情報の読み取りを妨害する技術が開示されている。
【0003】
これら特許文献1〜3は、導電性繊維によりアンテナを構成して、電磁波の遮蔽を図っているが、RFIDタグの通信用アンテナとして導電性繊維を積極的に利用するものではない。
【0004】
RFIDタグは、安価で、小型化が可能で、電力供給も不要で、かつメンテナンス・フリーであることから、種々の業種で利用されているが、RFIDタグ用のアンテナパターンをタグチップとともにフィルム基板上に形成するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−42223号公報
【特許文献2】特開平11−31892号公報
【特許文献3】特開2007−39819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RFIDタグを利用可能な業種の一つとして医療分野がある。例えば、外科手術では、大量のガーゼを使用するが、ガーゼを患者の体内に置き忘れる事故が後を絶たない。このような事故を防止するために、ガーゼにX線造影糸を織り込んでおき、レントゲン撮影によりガーゼの有無を検出できるようにした医療用ガーゼも使用されているが、体内の場所によってはX線造影糸がレントゲン撮影で検出できない場合もあり、体内に存在するガーゼを完全には検出できない。
【0007】
このため、現実には、手術前と手術後にガーゼの枚数を人間が数えて、両者が一致するか否かをチェックするという原始的で手間のかかる作業を行っている。また、外科手術では、手術前のガーゼの総重量と手術後のガーゼの総重量を比較して、出血量を推測するが、この目的のためにも、手術に使用するガーゼの枚数を正確に数える必要がある。
【0008】
ガーゼは、紙と異なり、生地が柔らかいことから、枚数を手作業で数えるのは医療スタッフの大きな負担であり、また、時間もかかるという問題がある。さらに、計測違いをなくすには、二重に数えたりしなければならず、医療スタッフの作業負担が大きい。
【0009】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、RFIDタグの通信に適したRFIDタグ付き布およびRFIDタグ付き布管理システムを提供することにある。本発明に係るRFIDタグ付き布を医療用ガーゼに適用した場合には、例えば、以下の1)〜3)に示すような優れた効果が得られる。
1)手術後の患者の体内に置き忘れたガーゼを非接触で簡易かつ正確に検出できる。
2)手術前後のガーゼの枚数を人手を煩わすことなく迅速かつ正確に計測できる。
3)手術による患者の出血量を簡易かつ正確に検出できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様によれば、織布または不織布からなる布状部材と、
前記第1の布状部材の上に貼付される無線通信が可能なRFIDフィルムと、
前記RFIDフィルムの表面全体を覆うように前記布状部材と接合される接合部材と、を備え、
前記RFIDフィルムは、
フィルム基材と、
前記フィルム基材の上に銀粒子を含む導電性インキまたは金属箔を付着させて形成される、ループアンテナ部と、このループアンテナ部の両側に一体形成される線状アンテナ部と、
前記ループアンテナ部の中央付近にフリップチップ実装される、UHF帯で通信可能なRFIDタグICと、を有することを特徴とするRFIDタグ付き布が提供される。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、織布または不織布からなる第1の布状部材と、
前記第1の布状部材の上に配置されるフィルムと、
前記フィルム上に付着される銀粒子を含む導電性インキまたは金属箔からなる線状アンテナと、
前記線状アンテナの上に実装される、UHF帯で通信可能なRFIDタグICと、を備えることを特徴とするRFIDタグ付き布が提供される。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、織布または不織布からなる第1の布状部材と、
前記第1の布状部材の一部に接合されるフィルムと、
前記フィルム上に実装される、UHF帯で通信可能なRFIDタグICと、
前記RFIDタグICを取り囲むように前記フィルム上に形成されるループアンテナと、
前記ループアンテナと交差するように前記フィルムの下方に形成され、前記ループアンテナと容量結合にて接続される線状アンテナと、
前記フィルムの上面を覆うようにして前記第1の布状部材に接合され、前記第1の布状部材と同種の材料からなる第2の布状部材と、を備え、
前記線状アンテナは、前記第1の布状部材に織り込まれるか、あるいは前記第1の布状部材に一体形成される少なくとも1本の導電性繊維を含むことを特徴とするRFIDタグ付き布が提供される。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、複数のRFIDタグ付き布を収納可能な容器と、
前記容器を回転可能に載置するターンテーブルと、
前記容器および前記ターンテーブルを取り囲むように配置され、その外表面に複数の第1アンテナ群が取り付けられるフードと、
前記ターンテーブルを回転駆動する回転ユニットと、
前記回転ユニットの重量を計測する重量計測装置と、
患者が横たわるベッドに内蔵される複数の第2アンテナ群と、
前記複数のRFIDタグ付き布と通信を行うリーダと、
前記複数の第1アンテナ群および前記複数の第2アンテナ群で受信した信号を時分割で前記リーダに伝送するマルチプレクサと、
前記リーダおよび前記重量計測装置からの信号により、前記複数のRFIDタグ付き布の枚数と重量を管理する制御装置と、を備えるRFIDタグ付き布管理システムが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、RFIDタグの通信に適したRFIDタグ付き布およびRFIDタグ付き布管理システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る医療用ガーゼ1の平面図。
【図2】図1のRFIDタグモジュール2周辺を拡大した平面図。
【図3】導電性繊維の構造を説明する図。
【図4】織布からなる医療用ガーゼ1に線状アンテナ6を織り込んだ例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図。
【図5】不織布からなる医療用ガーゼ1に線状アンテナ6を漉き込んだ例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【図6】RFIDタグモジュール2の長手方向の断面構造を示す図。
【図7】RFIDタグモジュール2の短手方向の断面構造を示す図。
【図8】ループアンテナ5の作用を説明する図。
【図9】線状アンテナ6の作用を説明する図。
【図10】本実施形態に係る導電性繊維7を水槽31の底面に置かれた高さ調整台32の上に置いて、導電性繊維7の数を変えながら最大水中読取距離を測定した実験の様子を示す図。
【図11】図12の実験結果を示す図。
【図12】第2の実施形態に係る医療用ガーゼ1aの平面図。
【図13】図12のRFIDフィルム13の拡大平面図。
【図14】図13のA−A線断面図。
【図15】図12の変形例を示す医療用ガーゼ1aの平面図。
【図16】図12の他の変形例を示す医療用ガーゼ1aの平面図。
【図17】第3の実施形態によるRFIDフィルムの平面図。
【図18】図17の要部を拡大した平面図。
【図19】図18のさらに一部を拡大した平面図。
【図20】RFIDフィルムの断面構造を示す断面図。
【図21】RFIDフィルムを実装したリールテープの平面図。
【図22】タグICチップ4の内部構成の一例を示すブロック図。
【図23】図10のメモリ部25に格納されるデータ構造の一例を示す図。
【図24】本実施形態に係るガーゼ管理システムの概略構成を示すブロック図。
【図25】専用ICタグ読取装置41の概略構成を示すブロック図。
【図26】図15の主要部の構造を詳細に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、RFIDタグ付き布の一例として、医療用ガーゼについて説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る医療用ガーゼ1の平面図である。図1の医療用ガーゼ1は、RFIDタグモジュール2を内蔵している。図2は図1のRFIDタグモジュール2周辺を拡大した平面図である。RFIDタグモジュール2は、フィルム3上に実装されるタグICチップ4と、このタグICチップ4を取り囲むようにフィルム3上に形成されるループアンテナ5とを有する。
【0018】
RFIDタグモジュール2は、図1に示すように、医療用ガーゼ1の縦横辺のそれぞれの中心線からずれた位置に配置されている。このように、中心線からずれた位置にRFIDタグモジュール2を配置する理由は、医療用ガーゼ1は四つ折りにされて保管等することが多く、RFIDタグモジュール2が折り目にかかってしまうと、RFIDタグモジュール2の破損や剥がれ等の原因になりうるためである。
【0019】
後述するように、フィルム3は、医療用ガーゼ1と同じ材料からなる被覆用ガーゼで覆われて、この被覆用ガーゼの周縁部にて医療用ガーゼ1と接合する。接合力を高めるために、フィルム3の裏面側と医療用ガーゼ1とを接着剤等で接着してもよい。
【0020】
医療用ガーゼ1には、ループアンテナ5に容量結合にて接続される線状アンテナ6が一体に形成されている。線状アンテナ6は、少なくとも1本(例えば4本)の導電性繊維7からなり、各導電性繊維7は、図3に示すように、レーヨン樹脂やナイロン樹脂などの合成樹脂からなる芯材の外周面に、螺旋状に導電性箔膜8を巻き付けた構造である。この導電性箔膜8は、ポリエステルからなるベースフィルム上に、金、銀、銅またはアルミニウムなどの導電性金属箔を形成したものである。なお、導電性箔膜8を螺旋状に巻き付ける代わりに、芯材の外周面にめっき等により導電性箔膜8を形成してもよい。
【0021】
医療用ガーゼ1は、織布または不織布を材料としているが、織布からなる医療用ガーゼ1の場合は、線状アンテナ6が一体に織り込まれる。また、不織布からなる医療用ガーゼ1の場合は、線状アンテナ6が不織布と一体形成される。
【0022】
図4は織布からなる医療用ガーゼ1に線状アンテナ6を織り込んだ例を示す図であり、図4(a)は平面図、図4(b)は図4(a)のA−A線断面図である。また、図5は不織布からなる医療用ガーゼ1に線状アンテナ6を漉き込んだ例を示す図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)のB−B線断面図である。
【0023】
図4に示す織布からなる医療用ガーゼ1は、縦糸と横糸を交互に上下に配置している。線状アンテナ6を構成する例えば4本の導電性繊維7は、隣接する2本の横糸の間に密着配置されて、交差する縦糸と交互に上下に配置されて、織り込まれる。
【0024】
図5に示す不織布からなる医療用ガーゼ1は、もともと2層構造になっており、これら2層の間に線状アンテナ6を構成する各導電性繊維7を挟み込んだ状態で、圧着されて一体化される。
【0025】
図6および図7はRFIDタグモジュール2周辺の断面構造を示す図であり、図6はRFIDタグモジュール2の長手方向の断面構造を示し、図7はRFIDタグモジュール2の短手方向の断面構造を示している。
【0026】
RFIDタグモジュール2は、医療用ガーゼ1の上に接合されるフィルム3と、フィルム3の上に実装されるタグICチップ4と、このタグICチップ4に電気的に接続されるとともに、タグICチップ4を取り囲むようにフィルム3上に形成されるループアンテナ5と、タグICチップ4の表面を保護するポッティング材9と、ポッティング材9の表面および周囲のフィルム3を覆うように形成される保護フィルム10と、保護フィルム10上に形成される熱融着剤11と、熱融着剤11の表面を覆うように形成される被覆用ガーゼ12とを有する。上述したように、被覆用ガーゼ12は、医療用ガーゼ1と同質の材料であり、これにより、外面上、RFIDタグモジュール2が目立たなくなる。
【0027】
図6に示すように、線状アンテナ6を構成する各導電性繊維7は、RFIDタグモジュール2のループアンテナ5と交差するように、ループアンテナ5の下方に配置される。したがって、ループアンテナ5と線状アンテナ6とは、交差部分において容量結合し、両アンテナの間に電磁波による誘導電流が流れて、誘導電流による電力がタグICチップ4内に蓄積される。したがって、タグICチップ4は、バッテリ駆動しなくても、非接触で無線通信に必要な電力を蓄積できる。以下、図8および図9を用いて、タグICチップ4の電力蓄積の原理を説明する。
【0028】
図8はループアンテナ5の作用を説明する図である。RFIDタグモジュール2の近くに、タグICチップ4の記憶データを読み出すためのリーダを配置すると、リーダから放射された電磁波の磁場成分は、図8の矢印y1で示すように、ループアンテナ5の内部を通って上方または下方に向かう。この磁場により、ループアンテナ5には、図8の矢印y2で示す向きに交流の誘導電流が流れる。この誘導電流の周波数は、RFIDタグモジュール2の動作周波数に等しい。例えば、UHF帯で無線通信を行う場合は、800〜954MHzの周波数になる。この誘導電流による電力はタグICチップ4に蓄積される。
【0029】
上述したループアンテナ5は、全長をL、無線通信帯域の搬送波信号の波長をλとすると、L=λ/n(n=1,2,4,8,16…)を満たすように全長が予め設定されている。
【0030】
上述したループアンテナ5による無線通信は、リーダが近距離に配置されている場合に限られる。その理由は、リーダの距離が離れてしまうと、磁場成分が弱くなり、誘導電流も小さくなるためである。
【0031】
一方、図9は線状アンテナ6の作用を説明する図である。RFIDタグモジュール2の近くにリーダを配置すると、線状アンテナ6はリーダから放射された電磁波の電場成分の影響を受ける。これにより、線状アンテナ6には、図9の矢印y3で示す向きに交流の振動電流が流れる。この振動電流による電力はタグICチップ4に蓄積される。
【0032】
リーダからの距離が比較的離れていても、図9の線状アンテナ6には振動電流が流れる。したがって、本実施形態に係るタグICチップ4は、リーダが近距離に配置されている場合は主にループアンテナ5を利用してリーダと安定に無線通信を行うことができ、リーダが遠くに配置されている場合は主に線状アンテナ6を利用してリーダと安定に無線通信を行うことができる。
【0033】
このように、ループアンテナ5と線状アンテナ6を設けることにより、リーダが比較的広い範囲に配置されていても、タグICチップ4はリーダとの間で安定して無線通信を行うことができる。
【0034】
本実施形態の動作原理をまとめると、以下のようになる。リーダから放射される電磁波は、磁場成分と電場成分を含んでいる。ループアンテナ5は、ループアンテナ5の内部を貫通する磁場成分により、ループアンテナ5の環状線路に交流の誘導電流を発生させ、この誘導電流を電力として利用して、タグICチップ4内のコンデンサに電荷を蓄積する。一方、線状アンテナ6には、リーダからの電磁波の電場成分によって交流の振動電流が流れ、この電流を電力として利用して、タグICチップ4内のコンデンサに電荷を蓄積する。
【0035】
リーダからの距離が近いほど、電磁波の磁場成分と電場成分はいずれも強くなる。本実施形態では、近距離で最大性能を発揮するループアンテナ5と、中遠距離でも性能を発揮するフレキシブルな線状アンテナ6を組合わせることで、リーダからの電磁波の磁場成分のエネルギーも含めて効率的に同調させて電力変換を行うことができる。
【0036】
UHF帯の電磁波は、2.45GHz帯のマイクロ波帯と比べて、水分に対する吸収率が低い。したがって、本実施形態によれば、医療用ガーゼ1が水分を含んでいても、リーダからの電磁波の磁場成分をループアンテナ5で検出でき、リーダとの間で安定した無線通信を行うことができる。また、本実施形態の線状アンテナ6は、リーダが比較的遠くに位置していても、リーダからの電磁波に含まれる電場成分を検出できる。
【0037】
このように、ループアンテナ5と線状アンテナ6を共に備えることにより、リーダとの距離が変化しても、また、医療用ガーゼ1が水分を含んでいても、リーダとの間で安定した無線通信が可能となり、読み落しが生じにくくなる。
【0038】
本実施形態のタグICチップ4は、特殊なチップを用いる必要はなく、汎用的なチップを用いることができる。例えば、EPCグローバルClass 1 Generation 2に準拠したチップが用いられる。
【0039】
ただし、本実施形態では、タグICチップ4の無線通信帯域をUHF帯(例えば800〜924MHz)に限定している。これは、従来のRFIDタグ通信でよく用いられた125kHzや13.56MHz帯の周波数を用いた長波および短波の電磁誘導方式では、指向性が強い方向での読み落しが原理的に生じることや、タグ側のアンテナを小型化すると、無線通信距離が短くなってリーダとの安定した無線通信ができないこと等の問題があるためである。
【0040】
また、2.45GHzのマイクロ波帯は、血液や体液等の水分がある環境で、電磁波エネルギーが吸収および減衰されて、ほとんど読取り不能になるという問題がある。
【0041】
本実施形態は、医療用ガーゼ1が血液や体液等に含まれる水分を存分に吸い込んだ状態でも、医療用ガーゼ1に内蔵されたタグICチップ4と安定かつ信頼性よく無線通信を行う必要があり、水分によって電磁波エネルギーが吸収および減衰されやすい周波数帯域を採用するわけにはいかない。
【0042】
このように、タグ側のアンテナを小型化できて、かつこのアンテナを医療用ガーゼ1に違和感なく内蔵でき、かつ、電磁波エネルギーが水分によって吸収および減衰されにくいという条件を満足させるために、本実施形態では、UHF帯の通信帯域を選択している。
【0043】
上述したように、線状アンテナ6は少なくとも1本の導電性繊維7からなる。図10は本実施形態に係る導電性繊維7を水槽31の底面に置かれた高さ調整台32の上に置いて、導電性繊維7の数を変えながら最大水中読取距離を測定した実験の様子を示す図である。図10では、高さ調整台32の上に導電性繊維7を載置した状態で、水槽31の上方に設置したリーダ33から電磁波を放射して、高さ調整台7の高さを変えながら、最大水中読取距離を計測する。
【0044】
図11は図10の実験結果を示す図である。図10に示すように、導電性繊維7の数が増えるほど、最大水中読取距離が長くなる傾向にあるが、導電性繊維7の数が4本を超えると、最大水中読取距離はほとんど変化しなくなる。このことから、本実施形態では、導電性繊維7の数を4本とした。ただ、これは一例であり、導電性繊維7の数には特に制限はない。
【0045】
このように、第1の実施形態では、医療用ガーゼ1に線状アンテナ6を一体形成して、タグICチップ4を埋め込むため、医療用ガーゼ1自体でリーダ61と通信を行うことができる。したがって、手術の前後での医療用ガーゼ1の枚数を迅速かつ正確に管理でき、患者の体内に医療用ガーゼ1を置き忘れる事故を確実に防止できる。
【0046】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、導電性繊維でアンテナを構成する代わりに、導電性インクを用いてアンテナを構成するものである。
【0047】
図12は第2の実施形態に係る医療用ガーゼ1aの平面図である。図12のガーゼ1aは、織布または不織布からなるガーゼ1aの上に実装されたRFIDフィルム13を備えている。
【0048】
ガーゼ1aは約30cm四方の大きさであり、RFIDフィルム13は、ガーゼ1aの中心線からずれた位置に実装されている。中心線からずれた位置に実装する理由は、ガーゼ1aは二つ折りや四つ折りにされることが多く、折り線上にRFIDフィルム13が重なると、ガーゼ1aを折りにくくなるとともに、折る方向にタグICチップ4やアンテナ部16に物理的な力が加わり、破損や剥離等が生じやすくなるためである。
【0049】
図12では、RFIDフィルム13をガーゼ1aの端辺に合わせて、端辺に略平行に配置しているが、ガーゼ1aの具体的な実装場所には、上述した折り線上を避ける以外には特に制限はない。例えば、ガーゼ1aの端辺に対して斜めに実装してもよい。
【0050】
図13は図12のRFIDフィルム13の拡大平面図、図14は図13のA−A線断面図である。RFIDフィルム13は、ガーゼ1aに接着されるPETフィルム14と、PETフィルム14上に付着される白インキ15と、PETフィルム14の白インキ15塗布面上に付着される銀粒子を含む導電性インキ16と、この導電性インキ16の表面を覆うヒートシール剤17と、ヒートシール剤17の上に接合されるRFIDタグICチップ4と、このタグICチップ4の表面を覆うホットメルト剤18と、PETフィルム14上に形成された各層の表面を覆うカバー材19とを備えている。
【0051】
PETフィルム14上に付着される白インキ15は、その上の銀粒子を含む導電性インキ16の色が外部に視認されにくくするためであり、必ずしも必須の構成要件ではなく、白インキ15の付着を省略してもよい。
【0052】
銀粒子を含む導電性インキ16は、アンテナ部16として作用する。図13からわかるように、アンテナ部16は、タグICチップ4部を間に挟んでその両側に直線状に配置されている。導電性インキ16は、銀粒子を含有しているため、電気伝導率に優れており、銅やアルミニウムを材料とするよりも、無線通信範囲が3割程度広くなる。また、銅やアルミニウムは、経時変化により電気伝導率が時間とともに劣化する傾向にあるが、銀は経時変化を受けにくく、長期にわたって一定の電気伝導率を維持できる。
【0053】
導電性インキ16によるアンテナ部16の幅は1〜2mm程度であるが、実際には必要とされる無線通信距離を勘案して決定する必要がある。
【0054】
導電性インキ16によるアンテナ部16の厚さは、2〜10μm程度であり、5μmの厚さがあれば十分な通信距離が得られる。銀粒子は、ナノ粒子でもよく、あるいはナノ粒子とそれ以上の粒径の粒子との混合でもよい。
【0055】
白インキ15や導電性インキ16の付着方法としては、例えば、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、またはオフセット印刷など、種々の印刷技術を利用できる。インキの厚さを厚くしたい場合は、スクリーン印刷やグラビア印刷が望ましい。
【0056】
個々の印刷方式により、使用すべき有機溶剤が異なるが、本実施形態では汎用的な有機溶剤が使用可能である。ただし、本実施形態では、アンテナ部16を形成する目的から、通常の印刷で使用するインキよりも銀粒子の含有量を多くする必要がある。印刷工程後に残存したインキから、銀を回収して再度インキの材料として用いることで、コストダウンを図ることができる。
【0057】
ヒートシール剤17は、導電性インキ16を保護するとともに、タグICチップ4の接着に優れた材料である必要があり、グラビア印刷で多用されているエチレン酢酸ビニール、ポリエステル、アクリル等の樹脂系の材料から任意に選定すればよい。
【0058】
タグICチップ4の表面を覆うホットメルト剤18としては、ナイロン系、エチレン酢酸ビニール系またはポリエステル系などの樹脂系の材料が用いられる。カバー材19としては、例えば目の粗い不織布が用いられ、できるだけ可撓性に優れた材料が望ましい。可撓性を持たせることで、RFIDフィルムの実装箇所付近の柔らかさを維持でき、RFIDフィルム付きのガーゼ1aであっても、違和感なく取り扱うことができるようになる。
【0059】
銀粒子を含む導電性インキ16からなるアンテナ部16が人間の体内に晒されるのは問題があるため、導電性インキ16の表面を覆うヒートシール剤17は、導電性インキ16の表面全体を覆うように形成するのが望ましい。
【0060】
カバー材19の材料が、非常に目の粗い不織布の場合には、カバー材19の上にさらに当て布を置いて、ヒートシール性の向上を図ってもよい。
【0061】
図13のRFIDフィルム13は、UHF帯で通信を行うことを想定している。本発明者の実験によると、図13および図14の構造にすることで、2〜3mの通信距離を確保できることがわかった。実験で使用したタグICチップ4のサイズは、幅が約5mm、長さが約13mm、厚さが約0.3mmである。タグICチップ4内のメモリ容量は用途に応じて任意に調整すればよい。
【0062】
UHF帯で無線通信を行う場合は、800〜954MHzの周波数になる。無線通信帯域の搬送波信号の波長をλとすると、アンテナ部16の全長Lは、L=λ/n(nは2以上の正の整数)に設定される。例えば、アンテナ部16の全長Lをλの半波長にする場合は、Lは15cm程度になる。
【0063】
なお、アンテナ部16は、必ずしも銀粒子を含む導電性インキ16で作製する必要はない。例えば、アルミ箔や銅箔などの金属を用いてもよい。アルミ箔の厚さは約9〜15μm、銅箔の厚さは約18μm程度で十分である。ただし、アルミ箔や銅箔などの金属材料は、導電性インキ16よりも可撓性に劣るため、ガーゼ1a上のRFIDフィルム13の実装箇所付近が硬くなり、使用者が違和感を感じるおそれがある。また、上述したように、銀粒子を含む導電性インキ16と比べると、電気伝導率に劣るため、通信距離が短くなるおそれがある。さらには、経時変化により電気伝導率が劣化するおそれもある。
【0064】
図13のRFIDフィルム13の一部(例えば、PETフィルム14、アンテナ部16およびタグICチップ4)は、チップ部品と同様に、供給リール上に巻装されたキャリアテープにて供給され、連続的にガーゼ1a上に実装することができ、ガーゼ1aの製造スループットを向上できる。
【0065】
本発明者は、図12のガーゼ1aを動物の体内に入れて通信性能を確認する実験を行った。その結果、生きている動物の肉の厚みを経ても、十分に動物体内のガーゼ1aの存在を検知できることがわかった。
【0066】
図14は、ガーゼ1aの上に、PETフィルム14、導電性インキ16およびタグICチップ4の順に配置する例を示したが、図15のように、ガーゼ1aの上に、タグICチップ4、導電性インキ16およびPETフィルム14の順に配置してもよい。図14の場合は、タグICチップ4が外表面の近くに配置されるのに対して、図15の場合は、タグICチップ4がガーゼ1aとPETフィルム14の間に配置されることになる。図14の方が通信距離をより伸ばすことが可能であるが、図15の場合でも実用上問題のない程度の通信距離を得ることができる。
【0067】
図16はもう一つの変形例であり、ガーゼ1aの上に、導電性インキ16、PETフィルム14およびタグICチップ4の順に配置する例を示している。図16の場合も、タグICチップ4が外表面近くに配置されているため、図14と同程度の通信距離が得られる。
【0068】
このように、第2の実施形態では、2つの線状アンテナ部16とタグICチップ4を有するRFIDフィルム13をガーゼ1aに実装しただけの簡易な構成で2〜3m程度の通信距離を得られるため、通常のガーゼ1aとほぼ変わらない柔らかさが得られ、かつコスト上昇も最小限に抑えた医療用ガーゼ1aを作製できる。したがって、本実施形態のガーゼ1aを手術に用いて、誤って人間の体内に置き忘れても、人間の体内のガーゼ1aとの間との間で安定した無線通信を行うことができ、残置ガーゼ1aを迅速かつ確実に検出できる。
【0069】
また、本実施形態のRFIDフィルム13では、銀粒子を含む導電性インキ16を用いてアンテナ部16を形成するため、公知の印刷技術を用いて簡易にアンテナ部16を製造でき、かつ銀粒子は電気伝導率に優れるため、必要十分な通信距離を確保できる。
【0070】
さらに、RFIDフィルム13の表面全体を可撓性に優れたカバー材19で覆うため、RFIDフィルム13の実装箇所でも十分な可撓性が得られ、使用者に違和感を感じさせることがなく、通常のガーゼ1aと同様に取り扱うことができる。
【0071】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、第2の実施形態の変形例であり、第2の実施形態よりもRFIDフィルムをより薄くしたことを特徴とする。
【0072】
図17は第3の実施形態によるRFIDフィルム13aの平面図、図18は図17の要部を拡大した平面図、図19は図18のさらに一部を拡大した平面図である。
【0073】
図17〜図19に示すように、本実施形態のRFIDフィルム13aは、中央部に形成されるループアンテナ部13bと、このループアンテナ部13bの両側に配置される2つの線状アンテナ部13cとを有し、ループアンテナ部13bの中央付近にタグICチップ4が実装されている。タグICチップ4は、バンプを用いて、ループアンテナ部13bにフリップチップ実装される。
【0074】
ループアンテナ部13bは、図18および図19に示すように、ループ状のパターンの他に、対角線上に配置された2個の矩形状パターン13dを有する。これら2個の矩形状パターン13dは、電気的には電位が不定であり、ループアンテナ部13bのパターンとも電気的には接続されていない。これら2個の矩形状パターン13d上と、ループアンテナ部13bのパターン上の2箇所とを合わせた4箇所で、バンプを介してタグICチップ4が接合される。これにより、タグICチップ4は、ガタツキなく、ループアンテナ部13b上に実装される。
【0075】
本実施形態のRFIDフィルム13aは、例えば医療用ガーゼに貼付されて、UHF帯で無線通信を行う。RFIDフィルム13aは、例えば図12と同様に、ガーゼ1aの中心線からずれた位置に実装される。
【0076】
図20はRFIDフィルム13aの断面構造を示す断面図である。以下、この断面図を用いて、本実施形態に係るRFIDフィルム13aを医療用ガーゼ1aに貼付する製造工程を説明する。
【0077】
まず、RFIDフィルム13aの製造方法について説明する。RFIDフィルム13aの基板はPETフィルム14である。このPETフィルム14上に、導電性インキを付着させて、上述したループアンテナ部13bと線状アンテナ部13cを形成する。次に、ループアンテナ部13b上に、タグICチップ4をフリップチップ実装する。以上により、RFIDフィルム13aが完成する。使用する導電性インキとしては、第2の実施形態と同様に、導電性に優れた銀粒子を含むインキが望ましい。あるいは、導電性インキの代わりに、金属箔によりループアンテナ部13bと線状アンテナ部13cを形成してもよい。
【0078】
次に、RFIDフィルム13aを裏返しにして、接着剤20にてガーゼ1a上に接着し、RFIDフィルム13aの表面全体をヒートシール剤17で封止する。これにより、RFIDフィルム13aとガーゼ1aが一体化する。
【0079】
RFIDフィルム13aとヒートシール剤17を合わせた厚さは180μm程度しかなく、ガーゼ1a上のRFIDフィルム13aの貼付位置付近を指で触っても、凹凸感はほとんどない。また、ガーゼ1aを折り曲げても柔軟性にほとんど変化がない。したがって、使用者は、通常のガーゼ1aと同様に取り扱うことができる。
【0080】
本実施形態に係るRFIDフィルム13aは、UHF帯での無線通信を想定しており、RFIDフィルム13aの長手方向の全長Lは、L=λ/n(nは2以上の正の整数)に設定される。例えば、アンテナ部16の全長Lをλの1/3波長にする場合は、Lは10cm程度になる。
【0081】
本実施形態に係るRFIDフィルム13aは、ループアンテナ部13bの両側に線状アンテナ部13cが一体に形成されており、第2の実施形態におけるRFIDフィルム13aのように線状アンテナだけを備える場合よりも、無線通信範囲を広げることができる。本発明者が実験したところ、第2の実施形態によるRFIDフィルム13aは3mほどの通信距離だったのに対して、本実施形態によるRFIDフィルム13aでは3.5〜4m程度の通信距離が安定して得られた。
【0082】
また、本実施形態によるRFIDフィルム13aを貼付した医療用ガーゼ1aを生体動物の体内に入れて、外部から通信を行ったところ、体内のどこに置いても、確実に通信ができることを確認した。
【0083】
上述したRFIDフィルム13aを予め製造しておき、図21に示すように、RFIDフィルム13aの完成品をリールテープ上に実装しておけば、ガーゼ1aへの貼付を容易に行うことができる。また、RFIDフィルム13aを製造する工場とガーゼ1aを製造する工場が別々の場合にも問題なく対応できる。
【0084】
このように、第3の実施形態では、ループアンテナ部13bと線状アンテナ部13cを導電性インキで一体成形し、ループアンテナ部13b上にタグICチップ4をフリップチップ実装したRFIDフィルム13aを形成するため、RFIDフィルム13aを薄膜化でき、このRFIDフィルム13aを医療用ガーゼ1aに貼付したときに、通常のガーゼ1aと同様の柔軟性と肌触りを得ることができる。また、このRFIDフィルム13aは製造が容易であり、このRFIDフィルム13aを貼付した医療用ガーゼ1aの製造コストを安く抑えることができる。
【0085】
なお、上述した第2および第3の実施形態で用いられる医療用ガーゼ1aは、織布でもよいし、不織布でもよい。
【0086】
(第4の実施形態)
次に、第1および第2の実施形態で共通して用いられるタグICチップ4について説明する。
【0087】
図22はタグICチップ4の内部構成の一例を示すブロック図である。図22のタグICチップ4は、アンテナ端子21,22と、アナログ回路部23と、デジタル回路部24と、メモリ部25と、誘導電流による電力を電荷の形態で蓄積するコンデンサ26と、このコンデンサ26の充放電を制御するトランジスタ27,28とを有する。アナログ回路部23は、ループアンテナ5および線状アンテナ6に誘起された交流の誘導電流を整流する機能と、サージ電流から保護する機能と、変復調を行う機能と、内部クロックを発生する機能とを有する。デジタル回路部24は、入力制御を行う機能と、出力制御を行う機能と、メモリ制御を行う機能とを有する。
【0088】
図23は図22のメモリ部25に格納されるデータ構造の一例を示す図である。このデータ構造は、EPCグローバルClass 1 Generation 2の規格で定めるデータ構造であり、一例にすぎない。図23の例では、96ビットのデータを格納することができる。
【0089】
本実施形態のタグICチップ4は、医療用ガーゼ1の管理を目的としているため、メモリ部25には、医療用ガーゼ1に関する種々の情報(例えば、ガーゼの製造日、種類、サイズなど)が格納される。
【0090】
(第5の実施形態)
第1および第2の実施形態に係る医療用ガーゼ1を用いることにより、ガーゼ管理システムを構築することができる。
【0091】
図24は本実施形態に係るガーゼ管理システムの概略構成を示すブロック図である。図24のガーゼ管理システムは、手術の際に医療用ガーゼ1を患者の体内に置き忘れる事故をなくすとともに、患者の出血量を正確に検出したり、手術に使用した医療用ガーゼ1の枚数等を正確に管理するものである。
【0092】
図24のガーゼ管理システムは、専用ICタグ読取装置41と、患者が横たわるベッド42に組み込まれた複数のアンテナシート43とを備えている。このガーゼ管理システムは、ネットワーク44を介して、外部コンピュータ45とデータ通信を行って、外部コンピュータ45の表示装置に医療用ガーゼ1の管理状況を表示することができる。また、場合によっては、電子カルテシステム46とも接続して、患者の出血量等を電子カルテシステム46に伝送することも可能である。
【0093】
図25は専用ICタグ読取装置41の概略構成を示すブロック図、図26は図25の主要部の構造を詳細に示した図である。図25の専用ICタグ読取装置41は、手術に用いられる複数の医療用ガーゼ1を収納可能なドラム型容器51と、ドラム型容器51を載置する回転可能なターンテーブル52と、ドラム型容器51およびターンテーブル52を取り囲むように配置されるフード53と、フード53の周囲に取り付けられる複数の平面状アンテナ54と、ドラム型容器51の装脱を検知する赤外線フォトセンサ55と、ターンテーブル52の回転軸となる挿抜シャフト56と、挿抜シャフト56を回転駆動する回転ユニット57と、回転ユニット57の回転を制御するモータコントローラ58と、回転ユニット57の底面側に設置されて容器51内の医療用ガーゼ1の総重量を計測する電子秤59と、専用ICタグ読取装置41内の各部を制御する制御装置60と、複数の平面状アンテナ54に接続されるリーダ61と、複数の平面状アンテナ54からの信号を時分割でリーダ61に伝送するマルチプレクサ62と、表示装置63と、プリンタ64と、ネットワークインタフェース65とを有する。
【0094】
回転ユニット57は、図26(a)に詳細構造を示すように、挿抜シャフト56の基端部に取り付けられる回転板71と、この回転板71に掛け渡されるベルト72と、このベルト72に掛け渡されて回転板71を回転駆動するモータ73と、回転板71の回転制限を行うトルクリミッタ74と、バランサ75とを有する。
【0095】
フード53の周囲に複数の平面状アンテナ54が取り付けられているため、ドラム型容器51内に多数の医療用ガーゼ1が収納されていても、各医療用ガーゼ1のタグICチップ4から送信されたデータを確実に読み取ることができる。これら平面状アンテナ54は、高性能のニアフィールド(Near-Field)型超小型アンテナである。
【0096】
また、リーダ61は、ターンテーブル52によりドラム型容器51を回転させながら各タグICチップ4と通信を行うため、医療用ガーゼ1が偏って収納されていても、読取り精度が落ちるおそれはなく、読取り性能のムラを抑制できる。
【0097】
リーダ61を用いることで、ドラム型容器51内に収納された医療用ガーゼ1の枚数を瞬時に計測できる。例えば、手術前に、手術に用いるすべての医療用ガーゼ1をドラム型容器51に収納してその枚数を計測しておき、手術後にも、すべての医療用ガーゼ1をドラム型容器51に収納してその枚数を計測すれば、医療用ガーゼ1の紛失の有無を瞬時に確認でき、患者の体内に医療用ガーゼ1を置き忘れる事故を確実に防止できる。
【0098】
なお、ターンテーブル52上にドラム型容器51が偏って載置されると、ターンテーブル52を回転させたときに遠心力によりドラム型容器51が大きく位置ずれを起こすおそれがある。そこで、図26(b)に示すように、ターンテーブル52の周縁部に突起部76を設けて、この突起部76に当接するようにドラム型容器51を載置して位置ずれ防止を図ってもよい。
【0099】
専用ICタグ読取装置41は、医療用ガーゼ1の枚数を計測する以外の目的にも利用できる。例えば、制御装置60は、手術前の医療用ガーゼ1の総重量を電子秤59にて計測し、その計測結果を記憶しておく。そして、制御装置60は、手術終了後に、再度すべての医療用ガーゼ1をドラム型容器51に入れた状態で、医療用ガーゼ1の総重量を電子秤59にて計測し、手術前の総重量との重量差を計算する。この重量差は、医療用ガーゼ1の枚数が同じであると仮定すると、医療用ガーゼ1が吸収した患者の体液や血液の総量となる。したがって、本実施形態に係るガーゼ管理システムを利用すれば、手術による患者の出血量を正確かつ簡易に検出することができる。
【0100】
図24のガーゼ管理システムは、専用ICタグ読取装置41を設けた以外に、患者用のベッド42の内部に複数のアンテナシート43を敷き詰めた点にも特徴がある。例えば、患者が横たわる位置に合わせて、ベッド42内部に縦横に小型のニアフィールドアンテナを数十枚敷き詰める。
【0101】
これらアンテナに接続されるリーダ61は、専用ICタグ読取装置41内に設けられるリーダ61を利用する。通常のリーダ61は、同時には、4〜6個のアンテナとの通信しかできないため、多数のアンテナからの信号を時分割で処理できるマルチプレクサ62を設ける。これにより、一つのリーダ61で、専用ICタグ読取装置41内のドラム型容器51に取り付けられたアンテナ54と、ベッド42に内蔵されたアンテナシート42との通信が可能となり、システム構成を簡略化できる。なお、専用ICタグ読取り装置内のリーダ61とは別個のリーダを設けて、ベッド42内部の複数のアンテナと接続してもよい。
【0102】
ベッド42に内蔵されたアンテナは、ベッド42に横たわった患者の体内に医療用ガーゼ1が残存していないかを検査するために、患者に向かって電波を放射して、応答があるか否かを検出する。これにより、万が一、専用ICタグ読取装置41で医療用ガーゼ1の紛失を検出できなくても、患者の体内に医療用ガーゼ1を置き忘れたことを確実に検出できるようになる。
【0103】
このように、第4の実施形態では、上述した第1および第2の実施形態に係る医療用ガーゼ1を用いたガーゼ管理システムを構築し、このガーゼ管理システム内に、専用ICタグ読取装置41とベッド42に内蔵されたアンテナシート43を設けるため、医療用ガーゼ1の枚数管理だけでなく、患者の出血量などの管理も簡易かつ正確に行うことができる。さらに、ベッド42にアンテナシート43を内蔵することで、ベッド42に横たわった患者の体内に医療用ガーゼ1が残存していないかを直接検査でき、医療用ガーゼ1の置き忘れを確実に防止できる。
【0104】
図24のガーゼ管理システムは、専用ICタグ読取装置41と、ベッド42に内蔵された複数のアンテナシート43とを設けたが、いずれか一方だけであっても、本実施形態による医療用ガーゼ1を利用する限りは、医療用ガーゼ1の患者体内への置き忘れを防止できる。
【0105】
上述した実施形態では、本発明のRFIDタグ付き布の一例として医療用ガーゼ1を説明したが、本発明のRFIDタグ付き布は、医療用ガーゼ1以外の目的にも利用可能である。例えば、衣服などの、種々の織布または不織布からなる種々の布状部材に導電性繊維7を織り込むか、あるいは一体的に形成することで、外見上ほとんど目出させることなく、RFIDタグチップを内蔵した布状部材を製造できる。これにより、衣服などの種々の布状部材の管理を短時間で効率よく行うことができる。
【0106】
本発明のRFIDタグ付き布を用いてRFIDタグ付き布管理システムを構築する際、RFIDタグ付き布の重量を計測する必要がない場合は、図25で説明した電子秤59は省略すればよい。すなわち、RFIDタグ付き布の使用目的などに応じて、RFIDタグ付き布管理システムの具体的な構成を種々変更すればよい。
【符号の説明】
【0107】
1 医療用ガーゼ
2 RFIDタグモジュール
3 フィルム
4 タグICチップ
5 ループアンテナ
6 線状アンテナ
7 導電性繊維
8 導電性箔膜
9 ポッティング材
10 保護フィルム
11 熱融着剤
12 被覆用ガーゼ
13 RFIDフィルム
14 PETフィルム
15 白インキ
16 導電性インキ(アンテナ部)
21,22 アンテナ端子
23 アナログ回路部
24 デジタル回路部
25 メモリ部
26 コンデンサ
27,28 トランジスタ
31 水槽
32 高さ調整台
33 リーダ
41 専用ICタグ読取装置
42 ベッド
43 アンテナシート
51 ドラム型容器
52 ターンテーブル
53 フード
54 平面状アンテナ
55 赤外線フォトセンサ
56 挿抜シャフト
57 回転ユニット
58 モータコントローラ
59 電子秤
60 制御装置
61 リーダ
62 マルチプレクサ
73 モータ
74 トルクリミッタ
75 バランサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布または不織布からなる布状部材と、
前記第1の布状部材の上に貼付される無線通信が可能なRFIDフィルムと、
前記RFIDフィルムの表面全体を覆うように前記布状部材と接合される接合部材と、を備え、
前記RFIDフィルムは、
フィルム基材と、
前記フィルム基材の上に銀粒子を含む導電性インキまたは金属箔を付着させて形成される、ループアンテナ部と、このループアンテナ部の両側に一体形成される線状アンテナ部と、
前記ループアンテナ部の中央付近にフリップチップ実装される、UHF帯で通信可能なRFIDタグICと、を有することを特徴とするRFIDタグ付き布。
【請求項2】
前記RFIDフィルムは、前記布状部材の中心線とずらして配置されることを特徴とする請求項1に記載のRFIDタグ付き布。
【請求項3】
織布または不織布からなる第1の布状部材と、
前記第1の布状部材の上に配置されるフィルムと、
前記フィルム上に付着される銀粒子を含む導電性インキまたは金属箔からなる線状アンテナと、
前記線状アンテナの上に実装される、UHF帯で通信可能なRFIDタグICと、を備えることを特徴とするRFIDタグ付き布。
【請求項4】
前記フィルム上に形成された前記線状アンテナおよび前記RFIDタグICの表面全体を覆う、織布または不織布からなる第2の布状部材を備えることを特徴とする請求項3に記載のRFIDタグ付き布。
【請求項5】
前記フィルム上に付着される白色インキを備え、
前記線状アンテナの色が目立たないように、前記線状アンテナの配置面積全体を包含する広い面積に前記白色インキを付着することを特徴とする請求項3または4に記載のRFIDタグ付き布。
【請求項6】
前記線状アンテナは、前記RFIDタグICを間に挟んで、二つに分割されており、これら分割された前記線状アンテナの全長は、前記RFIDタグICの通信波長のn分の1(nは2以上の整数)の波長に略等しいことを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載のRFIDタグ付き布。
【請求項7】
前記フィルムは、前記第1の布状部材の中心線とずらして配置されることを特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載のRFIDタグ付き布。
【請求項8】
織布または不織布からなる第1の布状部材と、
前記第1の布状部材の一部に接合されるフィルムと、
前記フィルム上に実装される、UHF帯で通信可能なRFIDタグICと、
前記RFIDタグICを取り囲むように前記フィルム上に形成されるループアンテナと、
前記ループアンテナと交差するように前記フィルムの下方に形成され、前記ループアンテナと容量結合にて接続される線状アンテナと、
前記フィルムの上面を覆うようにして前記第1の布状部材に接合され、前記第1の布状部材と同種の材料からなる第2の布状部材と、を備え、
前記線状アンテナは、前記第1の布状部材に織り込まれるか、あるいは前記第1の布状部材に一体形成される少なくとも1本の導電性繊維を含むことを特徴とするRFIDタグ付き布。
【請求項9】
前記導電性繊維は、
合成樹脂からなる芯材と、
前記芯材の外周面に、螺旋状に巻き付けられる導電性箔膜と、を有することを特徴とする請求項8に記載のRFIDタグ付き布。
【請求項10】
前記第1の布状部材は、医療用ガーゼであることを特徴とする請求項8または9に記載のRFIDタグ付き布。
【請求項11】
前記医療用ガーゼに織り込まれるか、あるいは前記医療用ガーゼに一体形成されるX線造影糸を備え、
前記線状アンテナおよび前記X線造影糸は、前記医療用ガーゼの一辺に略平行に配置されることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載のRFIDタグ付き布。
【請求項12】
前記ループアンテナは、前記線状アンテナよりも近距離での通信を行うために用いられることを特徴とする請求項8乃至11のいずれかに記載のRFIDタグ付き布。
【請求項13】
前記フィルムは、前記第1の布状部材の縦辺および横辺それぞれの中心線からずれた位置に接合されることを特徴とする請求項8乃至12のいずれかに記載のRFIDタグ付き布。
【請求項14】
複数のRFIDタグ付き布を収納可能な容器と、
前記容器を回転可能に載置するターンテーブルと、
前記容器および前記ターンテーブルを取り囲むように配置され、その外表面に複数の第1アンテナ群が取り付けられるフードと、
前記ターンテーブルを回転駆動する回転ユニットと、
前記回転ユニットの重量を計測する重量計測装置と、
患者が横たわるベッドに内蔵される複数の第2アンテナ群と、
前記複数のRFIDタグ付き布と通信を行うリーダと、
前記複数の第1アンテナ群および前記複数の第2アンテナ群で受信した信号を時分割で前記リーダに伝送するマルチプレクサと、
前記リーダおよび前記重量計測装置からの信号により、前記複数のRFIDタグ付き布の枚数と重量を管理する制御装置と、を備えるRFIDタグ付き布管理システム。

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate


【公開番号】特開2011−15395(P2011−15395A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127723(P2010−127723)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(595162563)株式会社日本インフォメーションシステム (3)
【Fターム(参考)】