説明

RFID読取装置及び方法

【課題】搬送波信号の無線周波数変調が起こる前にベースバンド信号のデジタル処理によって達成される、アップリンク搬送波信号とダウンリンク搬送波信号との間の搬送波偏移を用いるRFID通信の装置および技術を提供する。
【解決手段】搬送波信号の発生および搬送波信号の変調はデジタル技術を用いて達成される。ベースバンド信号のデジタル表現は変調されて、ダウンリンク搬送周波数とアップリンク搬送周波数との間の差に等しい負の周波数を掛けた複素ベースバンド信号を生成する。この信号はアップリンク周波数の搬送波信号により、アナログ-デジタル変換および変調を受ける。複素ベースバンド信号は同相成分および直角位相成分を含む。アップリンク通信中、複素ベースバンド信号の同相成分は定値によって置き換えられる。直角位相成分はゼロ信号によって置き換えられる。その結果、アップリンク通信中、アップリンク周波数の非変調搬送波信号が発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に無線識別(RFID)通信の改善に関する。より詳細には、本発明は、ダウンリンク通信用の単側波帯振幅偏移変調のデジタル実現を用いて変調される搬送波信号を発生させる、改善された装置および技術に関するものであり、デジタル実現によって、実際の物理的搬送波信号を変調する前に実行されるダウンリンク周波数とアップリンク周波数との間の高速スイッチングが可能になる。
【背景技術】
【0002】
RFID装置は、通常、RFID読取り装置による搬送波信号の伝送によって動作する。搬送波信号はRFIDタグによって変調され、変調信号は読取り装置によって受信され、解釈される。RFID装置は通信用の多くの様々な変調技術の1つを用いることができる。受動RFIDタグを用いる通信では、RFID読取り装置はアップリンクおよびダウンリンク通信用の搬送波信号を伝送する。ダウンリンク通信では、読取り装置はデータをタグに送信し、データを伝えるために搬送波信号を変調する。アップリンク通信では、RFIDタグは読取り装置によって送信される搬送波信号を変調し、信号は変調後方散乱の形で読取り装置へ戻される。アップリンク通信中、読取り装置によって送信される搬送波信号は変調されない。搬送波信号はタグに電力を供給し、タグによる通信を読取り装置へ与えるためにタグによって変調される。
【0003】
用いる特定の変調技術は多くの要素、例えば組織の選好およびこのような使用に割り当てられる無線周波数スペクトルなどに依存する。使用可能なスペクトル、および使用可能なスペクトルの部分のアップリンクおよびダウンリンク通信への割当ては、多くの要素、例えば政府の規制または業界標準などに依存する。多くの応用では、比較的狭い周波数スペクトルが使用可能である。この状況はヨーロッパの応用では特に一般的であり、そこでは比較的狭い周波数範囲がRFID読取り装置の通信に対して確保される。
【0004】
さらに、多数の読取り装置を用いる設備は、通常、1つの読取り装置のダウンリンク通信が別の読取り装置のアップリンク通信と周波数が重複しないように、周波数割当てを管理する。このような応用では、ダウンリンク通信によって使用される周波数スペクトル、すなわち、読取り装置からRFIDタグへ伝送される変調信号が比較的狭くできるので、単側波帯振幅偏移変調はよく使用される。単側波帯振幅偏移変調通信では、RFID読取り装置はダウンリンク通信とアップリンク通信の搬送波信号について別の搬送周波数を使用する。従って、読取り装置は、切り換えがアップリンク通信とダウンリンク通信との間で行われる毎に、搬送周波数を変更する必要がある。
【0005】
先行技術の装置は、通常、必要とされる周波数の変化をハードウェアで達成する。高速の周波数変換は急速に変化する局部発振器を必要とする。急速に変化する発振器の使用は不安定な動作およびスプリアスの帯域外放射を生じることがある。また一方、遅く変化する発振器の使用は、周波数変化が比較的遅く、かつ通信が周波数変化中に生じることができず、それどころか搬送波信号が新しい周波数で安定するまで待つ必要があるので、性能に悪影響を与える。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、アップリンク搬送波信号とダウンリンク搬送波信号との間の搬送波偏移の組み込みが、搬送波信号の実際の無線周波数変調が起こる前に、データ信号のデジタル処理によって実行されるように変調を実行することによって、このような問題および他にも対処する。搬送波信号の発生、および搬送波信号の変調は、必要に応じて、デジタル信号処理技術を用いて適切に達成され得る。ベースバンド信号のデジタル表現は、RFID読取り装置によって送信される搬送波信号のダウンリンク搬送周波数とアップリンク搬送周波数との間の周波数偏移に等しい負の周波数を有する搬送波信号で変調される。この変調は同相成分および直角位相成分を有する複素ベースバンド信号を生成する。
【0007】
次にこの複素ベースバンド信号はアナログ−デジタル変換および変調を受ける。同相成分および直角位相成分はアナログ方式に適切に変換され、同相/直角位相変調器へ伝えられ、この変調器は同相成分をアップリンク周波数の搬送波信号で変調し、直角位相成分をアップリンク周波数の搬送波信号の90度位相偏移で変調する。アップリンク通信中、一定信号が同相成分に加えられる。ゼロ信号すなわち無信号が直角位相成分と置き換えられる。アップリンク通信中、従って、同相/直角位相変調器は搬送波信号を非変調アップリンク周波数で生成する。
【0008】
本発明についてのより完全な理解、ならびに本発明のさらなる特徴および利点は、次の詳細な説明および添付図面から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の態様によるRFID読取り装置100を示す。読取り装置100はデータ処理ユニット102および通信ユニット104を備え、RFIDタグへ伝えられるデータを受信し、かつRFIDタグから受信したデータを中継するために、外部インタフェースも含むことができる。通信ユニット104は、ダウンリンク通信のために単側波帯振幅偏移変調(SSB−ASK)を用いて変調され、そしてアップリンク通信中は変調されない搬送波信号を用いてRFIDタグと通信する。タグ106のようなタグへデータを送信するために、通信ユニット104はデータをデータ処理ユニット102から受信し、ダウンリンク通信中にデータをタグ106へ伝えるために用いる搬送波信号を変調するためにデータを使用する。ダウンリンク通信中、搬送波信号は選ばれた周波数(便宜的にダウンリンク周波数と呼ばれる)で送信される。
【0010】
通信ユニット104はタグ106へのダウンリンク送信とタグ106とのアップリンク通信を交代にし、この間に通信ユニット104はデータをタグ106から受信する。アップリンク中、通信ユニット104によってタグ106へ送信される搬送波信号は変調されず、ダウンリンク通信中の搬送波信号の周波数と異なる周波数である。ダウンリンク周波数は適切に負である周波数偏移だけアップリンク周波数と異なる。
【0011】
アップリンク通信中、搬送波信号はタグ106に電力を供給し、変調された後方散乱によって情報を通信ユニット104へ伝えるためにタグ106によって変調される。アップリンクおよびダウンリンク通信の両方を実行するために、通信ユニット104はアップリンク周波数とダウンリンク周波数を急速に切り換える必要があり、搬送波信号は、タグ106がダウンリンク伝送を受信した後にできるだけ早くアップリンク周波数を帯び、アップリンク通信を受信した後にできるだけ早くダウンリンク周波数に切り換わる。アップリンク周波数とダウンリンク周波数の急速な切り換えを達成するために、通信ユニット104はデジタル信号処理技術を用いて、信号を生成し、搬送波信号の無線周波数変調が起こる前に搬送周波数偏移を実施する。
【0012】
SSB−ASK変調を実行するために、通信ユニット104はデジタル信号プロセッサ(DSP)108を用いて、データ処理ユニット102によって生成されるデジタルデータ信号を処理し、搬送波信号のデジタル表現を生成する。このデジタル表現はアナログ形式に変換され、通信ユニット104によって送信される信号を発生するためにさらに変調される。デジタル信号プロセッサは、データ処理ユニット102によって生成されたデータ信号を、デジタル信号プロセッサ108のIおよびQ出力109および110として生成される、同相すなわちI成分と直角位相すなわちQ成分に分離する。IおよびQ出力109および110は、デジタル−アナログ変換器(D/A変換器)111および112へ与えられ、それぞれにデジタル信号をアナログ信号に変換する。次にD/A変換器111および112によって生成されたアナログ信号はI/Q変調器114へ与えられる。I/Q変調器114はタグ106へ送信される無線周波信号を発生させる。
【0013】
ダウンリンク通信中、搬送波信号は単側波帯振幅偏移変調を用いて変調される。これは抑制搬送波付きの両側波帯変調信号と、90度位相偏移搬送波信号に基づいている両側波帯抑制搬送波信号とを発生させることによって達成され得る。
【0014】
この結果を達成する工程を次の定義および動作によって説明できる。
(t)は、論理“1”である正数および論理“0”である大きさの等しい負数によって表わされる論理“1”および“0”データ記号のシーケンスから成る、非ゼロ復帰符号化ベースバンド(データ)信号である。ここに示すように、S(t)はデータ処理ユニット102の出力である。
【数1】

はS(t)の90度位相偏移(ヒルベルト変換)コピーであり、ここでcos(ωt)は変調搬送波信号であり、sin(ωt)は−90度シフター搬送波信号である。
cos(ωt)は変調搬送波信号である。
sin(ωt)は搬送波信号の負の90すなわち−90度偏移である。
(t)は通信ユニット104によって送信される送信単側波帯無線周波信号である。すなわち、S(t)はI/Q変調器114の出力である。
複素ドメインで、S(t)を次のように表わすことができる。
(t)=Re{S(t)×ejωt
ここで
【数2】

であり、ejωtは複素搬送波である。
【0015】
所与の例では、通信ユニット104によって送信される物理的出力信号は虚数乗法の実数部であり、I/Q変調器114によってハードウェアに組み込まれる。
【0016】
DSP108はデータ信号S(t)をデータ処理ユニット102から受信し、信号を処理する。DSP108は説明を簡単にするために種々の処理素子を含むとして本明細書に示されているが、本明細書に示す素子は、適切なプログラミングによってDSP108に組み込まれる機能を表わすことを認識すべきである。
【0017】
具体的に言えば、DSP108は、適用される規制および標準に従って発生する信号スペクトルを制限するために、フィルタ動作116を先ず実施する。次にフィルタ処理した信号は分割され、ヒルベルト変換118を施されて、上の複素式の虚数部を発生する。信号はまた遅延動作120を施され、そのため信号の実数部は、ヒルベルト変換118によって発生する遅延を施される虚数部のタイミングに一致する。
【0018】
次に信号の実数部および虚数部は、DSPの出力109および110としてD/A変換器111および112へ伝えられる。D/A変換器111および112の出力は入力としてI/Q変調器114へ供給される。I/Q変調器114はまた入力として搬送波信号cos(ωt)も受信する。搬送波信号は乗算器122へ伝えられ、DSP108の実数部出力を掛けられる。搬送波信号はまた位相シフター124へ伝えられ、90度位相偏移が施され、そしてこの90度位相偏移搬送波信号は乗算器126へ伝えられ、DSP108の虚数部出力を掛けられる。次に乗算器122および126の出力は合計ユニット128へ供給され、I/Q変調器114の出力として送信信号S(t)を発生させる。送信信号S(t)はアンテナ120を経由してタグ106へ送信される。
【0019】
ヒルベルト変換118および遅延動作120の出力がさらなる処理をされずにI/Q変調器114へ供給される場合は、単側波帯変調信号が生成され、ダウンリンク通信中にI/Q変調器114によって生成される変調信号とアップリンク通信中に読取り装置100によって生成される非変調信号を切り換えるために、局部発振器および追加のハードウェアを必要とする。この非変調信号は、レンジ内のタグ106のようなRFIDタグに電力を供給するために、アップリンク通信中に読取り装置100によって送信される。非変調信号は、タグと読取り装置100との間に通信を施すために、RFIDタグによって変調され、読取り装置へ戻される。
【0020】
しかしながら、局部発振器および追加のハードウェアを回避するために、ヒルベルト変換118および遅延動作120の出力は、以下に説明するように、DSP108によって追加処理が施される。
【0021】
DSP108は、ダウンリンク伝送とアップリンク伝送との間の所望の周波数偏移に等しい負の搬送周波数でベースバンド信号S(t)を変調する。所望の搬送周波数がωとして表わされる場合は、アップリンクの非変調搬送周波数はωとして表わされ、周波数偏移はωδとして表わされる。この関係は次のように表わされる。
ω=ω−ωδ
【0022】
(t)は複素表現であり、負の周波数偏移の使用を可能にする。
【0023】
(t)=S(t)+jHilbert(S(t))
ここで、S(t)はデータ処理ユニット102の出力であり、jHilbert(S(t))はS(t)の複素ヒルベルト変換である。
【0024】
上に説明した単側波帯信号S(t)を次のように表わすことができる。
(t)=Re{S(t)×ejωt
【0025】
関係ω=ω−ωδで置換すると、次式になる。
【数3】

【0026】
この式は次式と等しい。
【数4】

【0027】
単側波帯搬送周波数偏移は、先ずDSP108で複素ベースバンド信号を負の搬送周波数で変調し、次に、複素ベースバンド信号を非変調アップリンク信号に変調するために、同相/直角位相変調器を用いて、上に述べたように変調された複素ベースバンド信号をさらに変調することによって、複素ベースバンド信号を伝送用の物理的信号に変換することによって実施され得る。負の搬送周波数で変調された複素ベースバンド信号の同相成分および直角位相成分はI/Q変調器114へ供給される。
【0028】
上で述べたように、DSP108は、適用される規制および標準に従って発生する信号スペクトルを制限するために、信号S(t)についてフィルタ動作116を先ず実施する。次にフィルタ処理した信号は分割され、ヒルベルト変換118を施されて、S(t)の虚数部を発生する。信号はまた遅延動作120を施され、これは出力としてS(t)の実数部を生成する。遅延動作120は、S(t)の実数部が、ヒルベルト変換118によって発生する遅延を施される虚数部のタイミングに一致することを確実にする。
【0029】
次の動作は複素信号S(t)の複素負周波数信号
【数5】

との複素乗算である。この複素乗算はcos(−ωδt)+sin(−ωδt)と等しい。複素乗算は、乗算器132、134、136、および138によって実行される、4つの乗算によって達成される。乗算器136および138の出力の和は複素乗算の実数部を発生させるのに対して、乗算器132および134の出力の和は乗算の虚数部を発生させる。
【0030】
この実施は、ヒルベルト変換118および遅延動作120から発生する信号を先ず分割することによって、図1に示される。ヒルベルト変換118からの信号は、乗算器132および134へ伝えられ、−sin(−ωδ)およびcos(−ωδ)をそれぞれ掛けられる。−sin(−ωδ)による乗算は、ヒルベルト変換118の出力を周波数偏移搬送波に対する−90度位相偏移で変調して、搬送波のネガティブになる。cos(−ωδ)による乗算はヒルベルト変換118の出力を周波数偏移搬送波で変調する。
【0031】
遅延動作120からの信号は、乗算器136および138へ伝えられ、上に述べたように、cos(−ωδ)およびsin(−ωδ)をそれぞれ掛けられる。遅延動作120からの信号は、上に述べたように、周波数偏移のために同相および−90度位相偏移搬送波信号で変調される。
【0032】
乗算器136および乗算器132の出力は合計ユニット140へ伝えられて、周波数偏移の虚の−90度位相偏移搬送波信号を周波数偏移の実の同相搬送波信号から引く。乗算器138および136の出力は合計ユニット142へ伝えられて、周波数偏移の実の−90度位相偏移搬送波信号と周波数偏移の虚の同相搬送波信号を加算する。合計ユニット140および合計ユニット142の出力は合計ユニット出力144および146を生成する。
【0033】
変調信号を発生させるために、合計ユニット144および146の出力はDSP108の出力109および110として使用される。これらの信号はD/A変換器111および112を用いてリアルタイム信号に変換される。次に、搬送波信号との複素乗算が信号S(t)を発生させるために実行される。これは直角位相変調器114を用いて達成される。実信号だけを発生させる必要があるので、2つの乗算だけを実行する必要がある。信号S(t)の虚数部を無視できる。この時点で、負の周波数情報が搬送波信号を乗じることによって除かれるので、それは全く無い。この動作の出力は出力128における送信信号S(t)である。
【0034】
動作のダウンリンク通信段階からアップリンク通信段階への変化のための変調搬送周波数ωと非変調搬送周波数ωとの間の高速偏移を与えるために、DSP108は、それ自体の出力を合計ユニット140および142の出力144および146と置き換えることができる追加素子を組み込む。スイッチング機能148は、合計ユニット140の出力144および一定信号源150を出力109に接続する。DSP108はまた、合計ユニット142の出力146と出力110との間にスイッチング機能152も組み込む。
【0035】
DSP108の出力109および110はD/A変換器111および112にそれぞれ供給され、これらの変換器はそれらをリアルタイム信号に変換する。ダウンリンク通信段階中、スイッチング機能148および152は、合計ユニット140および合計ユニット142の出力144および146をDSP108の出力109および110へ導く。D/A変換器111および112は出力109および110に現れる信号をデジタル形式に変換し、それらをI/Q変調器114へ伝え、そこでそれらは非変調アップリンク信号および負の90度位相偏移アップリンク信号で変調されて、変調ダウンリンク信号をダウンリンク周波数で形成する。
【0036】
アップリンク通信段階中、スイッチング機能148は一定信号源150の出力144を出力109に伝える。スイッチング機能152は合計ユニット142の出力146を遮断し、そのため無信号すなわちゼロ信号が出力110に現れる。アップリンク通信段階中、また一方、一定信号源はI/Q変調器114に供給され、非変調搬送周波数の搬送波で変調される。スイッチング機能148および152は、DSP108の他の動作と同様、ソフトウェア動作として実施され、そのためDSP108のダウンリンク動作によって生成される変調搬送周波数とDSP108のアップリンク動作との間の偏移は非常に高速で起こる。
【0037】
図2は本発明の態様によるRFID読取り装置によって発生する通信信号のプロセス200を示す。ステップ202で、変調ダウンリンク信号、およびRFID受信機によって送信される非変調アップリンク信号のための搬送周波数が選択される。ステップ204で、変調アップリンク信号と変調ダウンリンク信号との差を表わす周波数偏移が計算される。
【0038】
ステップ206で、ベースバンド信号が周波数偏移と等しい負の搬送周波数を用いて変調される。変調は、上に述べたように、ベースバンド信号のデジタル表現について適切な動作を実行することによって適切に達成され、デジタル信号プロセッサを用いて適切に達成され得る。このプロセスは負の周波数偏移を掛けた複素ベースバンド信号を生成する。
【0039】
ステップ208で、複素ベースバンド信号は、ダウンリンク搬送周波数を用いて、複素ベースバンド信号について同相/直角位相変調を実行することによって、実際の物理的ダウンリンク信号に変換される。この変換は、同相信号および直角位相信号の各々に対してデジタル−アナログ変換器を用いて、同相信号および直角位相信号のデジタル表現をアナログ形式に変換し、かつ入力としての同相信号および直角位相信号、ならびにダウンリンク搬送波信号を有する同相/直角位相変調器を用いて、同相信号および直角位相信号を変調することによって適切に達成される。ステップ210で、物理的ダウンリンク信号がダウンリンク通信段階中に送信される。ステップ212で、アップリンク通信段階中、複素ベースバンド信号は抑制されて、非変調アップリンク搬送波信号の送信を引き起こす。
【0040】
この結果は複素信号のデジタル表現の同相部分に一定信号を課すことによって達成されによって達成され、複素信号のデジタル表現の直角位相部分は遮断されて、非変調アップリンク搬送波信号の送信を引き起こす。
【0041】
図3は本発明の態様による無線周波識別装置300を示す。装置300はデータウェアハウス302に適切に配置され、在庫管理に使用できる。複数の据え置きのRFID読取り装置304A〜304Dは扉306A〜306Dにそれぞれ隣接して置かれる。読取り装置304A〜304Dの各々は、周波数偏移が物理的送信信号を生成する前のデジタル処理によって達成される単側波帯振幅偏移変調を用いる、上に説明した図1の読取り装置によく類似している。
【0042】
読取り装置304A〜304Dは問合せを送信して、タグ308A〜308EのようなRFIDタグの存在を検出する。タグ308A〜308Eは包装箱309A〜309Eにそれぞれ適切に貼られ、商品を包含する包装箱309A〜309Eは追跡され得る。読取り装置304A〜304Dの1つ、例えば読取り装置304Cがレンジ内のタグを検出する場合に、それはサーバ312に適切に格納されている状況データベース310を調べて、タグと関連付けられた商品を識別し、商品の除去が許可されるかどうかを決定する。除去が許可されない場合は、読取り装置は警報を出して、さらなるアクションのために警報をサーバ312へ適切に送信するか、警報器314のような局所警報器を鳴らすか、または両方を行う。
【0043】
装置300はまた読取り装置316A〜316Cのような移動できるRFID読取り装置も含むことがあり、この読取り装置は図1の読取り装置100に類似することが好ましい。読取り装置316A〜316Cはデータウェアハウス302の周辺に運ばれて、例えば、在庫管理作業者によって携行されるか、または商品を輸送するのに用いるフォークリフトに取り付けられ得る。読取り装置316A〜316CはRFIDタグが貼られている商品を探すために使用されて、RFIDタグが貼られている商品がその割り当てられた位置にあるがどうかを決定するか、または商品の識別などのかなり多くの他のタスクの実行に役立つことができる。
【0044】
装置300は多くのRFID読取り装置を互いに比較的近接して含むことが分かる。具体的に言えば、移動できる読取り装置316A〜316Cの1つ以上はいつでも他の読取り装置に近接して動くことができる。読取り装置304A〜304Dおよび読取り装置316A〜316Cの各々は、読取り装置の通信の間の競合および重複を避けるために、他の読取り装置によって使用されるチャンネルと別の個別チャンネルを適切に用いる。
【0045】
読取り装置の通信需要に対応するために、読取り装置304A〜304Dおよび316A〜316Cの各々に割り当てられた通信チャンネルは比較的狭く、装置300のような装置は、各RFID読取り装置による伝送のために比較的狭い周波数スペクトルを用いて通信を達成するために、単側波帯振幅偏移変調を適切に用いることができる。さらに、上記の読取り装置100と類似した読取り装置304A〜304Dおよび316A〜316Cを用いることによって、読取り装置の各々が、安定に、かつ帯域外放射無しに比較的高速の周波数推移を達成するので、装置300は高性能を達成する。
【0046】
図4は、周波数スペクトルが、本発明の態様によって実施されうる単側波帯振幅偏移変調、および通信の種々の要素によって占められる周波数範囲を用いて実施されるRFID通信にどのように割り当てられるかの例を示すグラフである。
【0047】
図4で、RFID読取り装置のアップリンクおよびダウンリンク通信に割り当てられる周波数は200kHzチャンネル402であり、これは多数の読取り装置環境において様々の読取り装置によって用いられる多くのチャンネルの1つである。このチャンネルは保護周波数帯404Aおよび404Bを含み、RFID読取り装置によって発生する伝送はそれらの保護周波数帯の間に入る周波数に限定される。非変調アップリンク搬送波信号406、およびアップリンク搬送波信号406と別の周波数を有する変調ダウンリンク搬送波信号408が示されている。搬送波信号408の変調によって生成される単側波帯信号の例示的な波形410もまた、RFIDタグからのアップリンク応答412Aおよび412Bとともに示されている。
【0048】
図示の周波数スペクトルで動作するRFID読取り装置は、アップリンク通信からダウンリンク通信への変化毎に非変調信号406と変調信号408との間で、かつダウンリンク通信からアップリンク通信への変化毎に変調信号408と非変調アップリンク信号406との間で切り換わる必要がある。本発明は高速シンセサイザーを必要とせずに高速の搬送波変化を提供し、それによって帯域外伝送および結果として生じる隣接チャンネルの読取り装置との妨害を最小化または除く。
【0049】
本発明が現在好ましい実施形態の態様との関連で開示されるとはいえ、さまざまな実施が、上の説明および特許請求の範囲と一致して、当業者によってなされうることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の態様によるRFID読取り装置を示す。
【図2】本発明の態様によるRFID通信のプロセスを示す。
【図3】本発明の態様によるRFID通信装置を示す。
【図4】本発明の態様による単側波帯振幅偏移変調通信で用いられる、例示的な周波数スペクトルおよび信号を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波信号をRFIDタグへ送信することによってRFIDタグと通信する無線周波識別(RFID)読取り装置であって、
データ信号を発生させるデータ処理ユニットと、
前記データ信号を受信し、単側波帯振幅偏移変調を用いて前記信号を変調して、前記読取り装置と前記タグとの間のダウンリンク通信中に、変調ダウンリンク信号をダウンリンク周波数で発生させる通信ユニットであって、非変調アップリンク信号を、前記ダウンリンク周波数と周波数偏移だけ異なるアップリンク周波数で発生させるようさらに作動し、そして前記通信ユニットによって送信される前記搬送波信号の発生前の前記データ信号のデジタル処理によって、前記アップリンク周波数と前記ダウンリンク周波数との間の前記周波数偏移を組み込むようさらに作動する通信ユニットと、
を備えるRFID読取装置。
【請求項2】
前記データ信号がデジタルベースバンド信号であり、前記デジタルベースバンド信号は、前記アップリンク周波数と前記ダウンリンク周波数との間の前記周波数偏移を表わす、負の搬送周波数を用いて変調される、請求項1に記載のRFID読取装置。
【請求項3】
前記デジタルベースバンド信号の前記変調が負の周波数偏移を掛けた複素ベースバンド信号を生成し、前記複素ベースバンド信号は、前記搬送波信号の前記アップリンク周波数を用いて前記複素ベースバンド信号について同相/直角位相変調を実行することによって、前記通信ユニットによって送信される変調信号に変換される、請求項2に記載のRFID読取装置。
【請求項4】
前記デジタルベースバンド信号の前記変調が、デジタル信号プロセッサによって実行される、請求項3に記載のRFID読取装置。
【請求項5】
アップリンク通信中、前記デジタル信号プロセッサが、ダウンリンク通信中に前記複素ベースバンド信号の同相成分および直角位相成分を表わす同相出力および直角位相出力を発生させる、請求項4に記載のRFID読取装置。
【請求項6】
前記デジタル信号プロセッサが、アップリンク通信中、前記同相出力として一定信号を発生させ、前記直角位相出力として無信号すなわちゼロ信号を発生させ、それによってアップリンク通信中に発生する前記通信搬送波信号が、前記同相/直角位相変調器に供給される前記非変調アップリンク周波数信号であることを可能にする、請求項5に記載のRFID読取装置。
【請求項7】
無線周波識別(RFID)読取り装置によって通信信号を発生させる方法であって、
ベースバンドデータ信号を発生させるステップと、
前記搬送波信号のアップリンク周波数と前記通信信号のダウンリンク周波数との間の周波数推移と等しい負の周波数を有する搬送波信号を用いて、前記ベースバンドデータ信号を変調して、前記搬送波信号のダウンリンク周波数とアップリンク周波数との間の前記周波数差と等しい負の周波数偏移を掛けた複素ベースバンド信号を生成するステップと、
前記複素搬送波信号の同相/直角位相変調を実行して、前記読取り装置による伝送のために物理的通信信号を生成するステップと、
の各ステップを有するRFID読取方法。
【請求項8】
前記ベースバンドデータ信号がデジタル信号であり、前記ベースバンド信号の前記変調が前記デジタル信号のデジタル処理によって実行される、請求項7に記載のRFID読取方法。
【請求項9】
前記複素ベースバンド信号が同相成分および直角位相成分を含む、請求項8に記載のRFID読取方法。
【請求項10】
アップリンク通信中、前記複素ベースバンド信号の前記同相成分を定値に置き換え、前記複素ベースバンド信号の前記直角位相成分をゼロ信号すなわち無信号に置き換え、そのため前記RFID読取り装置によって発生する前記搬送波信号が前記非変調アップリンク周波数を有する、請求項9に記載のRFID読取方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−167430(P2008−167430A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327464(P2007−327464)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(391007161)エヌ・シー・アール・コーポレイション (85)
【氏名又は名称原語表記】NCR CORPORATION
【Fターム(参考)】