説明

RGDを含有する組換えゼラチン

本発明は、不均一に分布したRGDモチーフを含み、細胞付着を伴う幾つかの用途、たとえば細胞培養作業、および足場依存性細胞の細胞培養を伴う用途、ならびに多様な医療用途にも特に有用な、組換えゼラチンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え製造したゼラチンの分野のものである。本発明のゼラチンは、細胞付着を伴う幾つかの用途、たとえば細胞培養作業、および足場依存性細胞の細胞培養を伴う用途、ならびに多様な医療用途にも特に有用である。
【背景技術】
【0002】
動物細胞、特に哺乳動物細胞(ヒト細胞を含む)の細胞培養系は、多くの重要な(遺伝子工学的に処理した)生物材料、たとえばワクチン、酵素、ホルモンおよび抗体の製造のために重要である。大部分の動物細胞は足場依存性であり、それらの生存および増殖のために表面または細胞培養支持体に付着する必要がある。
【0003】
細胞付着は、医療用途、たとえば創傷の処置(人工皮膚材料を含む)、骨および軟骨の(再)増殖、ならびに移植および人工血管材料においても重要な役割を果たす。したがって医療用途において、インプラントまたは移植材料などの材料は細胞付着に関して生体適合性のコーティングを含むことがしばしば要求される。
【0004】
細胞付着に関連して関心のある他の領域は、細胞の付着受容体の遮断である。たとえば、付着受容体の遮断により、癌転移が影響または阻害を受ける、抗血栓組成物において血小板凝集が影響を受ける、ならびにたとえば外科手術後の組織癒着が阻止される、あるいはたとえば歯科製品または他の医療製品に対する組織接着が促進されるという可能性がある。
【0005】
US 2006/0241032には、最小(増加)レベルのRGDモチーフをもち、かつそのRGDモチーフの一定の分布をもつ、RGD富化したゼラチン様タンパク質が開示されており、これは医療およびバイオテクノロジー用途における細胞接着および細胞結合にきわめて適切なことが見いだされた。そこに記載された細胞結合ペプチドは良好な細胞付着特性をもつ。
【0006】
Watson et al, J Pharm Pharmacol. 2006 58(7):959-66には、インテグリン仲介による細胞接着に関する四価RGDリガンドが記載されている。Maheshwari et al., J Cell Sci. 2000 113 (Pt 10):1677-86には、細胞の接着および運動性はナノスケールのRGDクラスタリングに依存すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US 2006/0241032
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Watson et al, J Pharm Pharmacol. 2006 58(7):959-66
【非特許文献2】Maheshwari et al., J Cell Sci. 2000 113 (Pt 10):1677-86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、細胞付着を伴う用途に使用するための材料をさらに改良することが常に求められている。本発明は、細胞付着に特に有用な改良されたゼラチン様ポリペプチドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
細胞接着および細胞付着に適切なRGDモチーフを含むゼラチンをさらに改良するための研究において、本発明者らは特に有利なゼラチンを同定した。それは、ポリペプチドの全長にわたってRGDモチーフが不均一に分布した組換えゼラチンである。ポリペプチドの全長にわたってRGDモチーフが不均一に分布したモノマーを含むマルチマーも製造でき、これらはきわめて良好なポリペプチド安定性および細胞接着特性をもつ。これらのマルチマーは、一般にモノマーより著しく高い収量で製造されるという利点をもつ。たとえば、本明細書に開示するCBEモノマーについて得られる収量は一般に3〜5g/l清澄ブロス(clarified broth)であり、一方CBEマルチマーは10g/lを超える量で製造された。したがって本発明の1態様においては、組換えゼラチン、ならびにそれでコートした細胞支持体、および組換えゼラチンを含む制御放出組成物が提供される。組換えゼラチンおよび/または細胞支持体もしくは制御放出組成物を細胞接着関連の医療用途に使用する方法も提供される。
【0011】
一般的な定義
用語’コラーゲン’、’コラーゲン関連’、’コラーゲン由来’なども当技術分野でしばしば用いられるが、本明細書の他の箇所全体において用語’ゼラチン’または’ゼラチン様’タンパク質を用いる。天然ゼラチンは5,000から400,000ダルトンより大きい範囲にわたるMWをもつ個々のポリマーの混合物である。
【0012】
用語”細胞接着(cell adhesion)”と”細胞付着(cell attachment)”は互換性をもって用いられる。
用語”RGD配列”と”RGDモチーフ”も互換性をもって用いられる。
【0013】
用語”タンパク質”または”ポリペプチド”または”ペプチド”は互換性をもって用いられ、アミノ酸の鎖からなる分子を表わし、特定の作用様式、サイズ、三次元構造または由来を表わすものではない。
【0014】
用語”支持体”または”細胞付着支持体”は本明細書中で、細胞の付着および/または増殖を容易にするために使用できるいずれかの支持体、たとえば培養皿、マイクロキャリヤー(たとえばマイクロキャリヤービーズ)、ステント、インプラントなどを表わす。
【0015】
用語”配列同一性”、”実質的に同一”、”実質的同一性”、または”本質的に類似”または”本質的類似性”は、2つのポリペプチドをデフォルトパラメーターのスミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)アルゴリズムを用いてペアワイズアラインメントした際に少なくとも76%、77%もしくは78%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を構成することを意味する。より好ましくは、ポリペプチドはそのアラインメントにおいて3つを超えないギャップ、好ましくは2つを超えないギャップ、さらに好ましくは1つを超えないギャップをもつ状態、最も好ましくは0ギャップの状態で、そのアミノ酸配列同一性を構成する。配列アラインメント、および配列同一性パーセントに関するスコアは、コンピュータープログラム、たとえばGCG Wisconsin Package,Version 10.3(Accelrys Inc.から入手できる;9685 Scranton Road, San Diego, CA 92121-3752 USA)を用いて、またはEmboss WIN(たとえばversion 2.10.0)を用いて決定できる。2つの配列間の配列同一性を比較するためには、局所アラインメントアルゴリズム、たとえばEmbossWINプログラム“water”に使用されるスミス−ウォーターマンアルゴリズム(Smith TF, Waterman MS (1981) J. MoI. Biol 147(l);195-7)を用いるのが好ましい。デフォルトパラメーターは、タンパク質に関するBlosum62置換マトリックスを用いて、ギャップオープニングペナルティー10.0およびギャップエクステンションペナルティー0.5である(Henikoff & Henikoff, 1992, PNAS 89, 915-919)。
【0016】
本明細書中で用いる用語”作動可能な状態で連結している(operably linked)”は、機能性関係にある要素(核酸またはタンパク質もしくはペプチド)の結合を表わす。ある要素が他の要素と機能性関係に置かれている場合、それは”作動可能な状態で連結している”。たとえばプロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作動可能な状態で連結している。作動可能な状態で連結しているとは、連結した要素が一般に近接していること、また2つのタンパク質コード領域を結合するために必要な場合は近接しかつ読み枠内にあることを意味する。
【0017】
用語”含む”は、記載した部分、工程または構成要素の存在を特定するけれども追加の1以上の部分、工程または構成要素の存在を除外するものではないと解釈すべきである。
さらに、不定冠詞”a”または”an”による要素の表記は、その状況から1つ、かつ1つだけの要素があることが明らかに要求されない限り、1より多い要素が存在する可能性を除外するものではない。したがって、不定冠詞”a”または”an”は通常は”少なくとも1つ”を意味する。
【0018】
”モノマー”は、ポリペプチド単位であって、その単位を線状に反復させてより長いポリペプチドを生成させることによって”マルチマー”を生成させるのに使用できるものを表わす。モノマー単位は好ましくは介在アミノ酸なしに反復されるが、場合により1、2、3、4または5個の連結アミノ酸がモノマー単位間に存在してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、細胞接着にきわめて適切であって医療およびバイオテクノロジー用途に使用できるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質、特にゼラチンまたはゼラチン様タンパク質に関する。より詳細には、本発明は、既知の組換えゼラチン様のRGD含有ポリペプチド、たとえばUS 2006/0241032に記載のもの、特にそこにSEQ ID NO:2と表示された配列と比較して改良された特性をもつ、細胞結合性のペプチドまたはポリペプチドに関する。
【0020】
意外にも、卓越した細胞付着特性および高い製造収量をもつ改良されたペプチドまたはポリペプチドを得るのが可能なことが見いだされた;これらは改良された安定性、改良された細胞付着特性(おそらく改良された安定性に帰因するものであろう)などの利点を含み、および/または組換えポリペプチドでコートしたキャリヤー(たとえばコアマイクロキャリヤービーズ)のより均一な粒度分布を生じる。
【0021】
これらのポリペプチドは、抗原性が低く、かつウイルス、プリオンなどの病的因子を伝達するリスクなしに使用できるので、いかなる健康関連リスクを示すこともない。
本発明を限定するわけではないが、これらのポリペプチドの特性を判定する際にRGDモチーフの分布および量が重要なだけではないと考えられる。たとえば、細胞付着特性のほかに、ポリペプチドの安定性および/または三次元フォールディングがこれらのポリペプチドの有用性を決定する重要な要因である。これに関して、RGDモチーフの数およびそれらの分布だけでなく、介在アミノ酸配列も改良された特性に寄与する可能性があることが見いだされた。本発明によるモノマーCBEポリペプチドは、たとえばUS2006/0241032のSEQ ID NO:2に対して若干の配列類似体をもち、同様に4つのRGDモノマーを含むが、その配列とはそれでもなお実質的に異なる。アラインメントした場合、これら2つのポリペプチドは72.8%の配列同一性をもつにすぎず、かつアラインメントにおいて多数のギャップも含まれる(54のギャップ、すなわち54の不適合アミノ酸)。特に、各RGD配列の隣のアミノ酸のうちの1つは、本発明によるポリペプチドにおいてEであり(すなわちERGD)、一方、前記の米国特許出願に記載されたポリペプチドにおいてはDである(DRGD)。また、本発明によるモノマー(およびマルチマー)の場合はRGDモチーフ間の間隔がより短く、RGD間にあるアミノ酸は最大で54個であり(第1と第2、第2と第3、および第3と第4のRGD間に、それぞれ33、39および54個のアミノ酸)、一方、先行技術の配列はRGD間に60個のアミノ酸を含む。ポリペプチドの全長にわたるRGDモチーフの不均一な分布が、ポリペプチドの機能特性、たとえば細胞付着特性を改良すると考えられる。さらに、先行技術配列と比較して本発明の組換えポリペプチドの特にRGDモチーフの不定分布に関する不定性(variability)の増大が、細胞付着について種々の細胞タイプにポリペプチドをより適応性にしていると考えられる。特に、RGD配列へのインテグリンの結合による細胞の付着だけでなく運動性も、これらのRGDリガンドの空間分布に依存すると考えられる。不定の空間分布は、RGDモチーフのクラスタリングをも生じ、ある細胞タイプにはこれも有利であると考えられる。異なる細胞タイプは効果的な結合のために異なる空間分布を必要とする。同様に、RGDモチーフが不均一に分布したポリペプチドは、細胞のタイプまたは運動状態に関係なく細胞の骨格として作用することができ、多様性のある(polyvalent)細胞骨格となる。したがって本発明は、RGDモチーフの多様な提示によって改良された細胞付着性および運動適合性をもつ組換えポリペプチドを提供する。
【0022】
本発明によるゼラチン様ポリペプチド
したがって1態様においては、少なくとも3つのRGDモチーフを含み、一対の2つの続くRGDモチーフ間のアミノ酸の数が、異なる対の2つの続くRGDモチーフ間のアミノ酸の数と異なる、組換えゼラチン様タンパク質が提供される。たとえば、続く第1と第2のRGDモチーフ間のアミノ酸の数は、第2と続く第3のRGDモチーフ間のアミノ酸の数とは異なる。1態様において、ゼラチン様タンパク質は少なくとも4つのRGDモチーフを含み、好ましくは少なくとも3対の2つの続くRGDモチーフ間ではアミノ酸の数が異なる。たとえば、続く第1と第2のRGDモチーフ間のアミノ酸の数は、第2と続く第3のRGDモチーフ間のアミノ酸の数とは異なり、第1と第2のRGDモチーフ間のアミノ酸の数および第2と第3のRGDモチーフ間のアミノ酸の数は、第3と続く第4のアミノ酸間のアミノ酸の数とは異なる。さらに他の態様において、ゼラチン様タンパク質は少なくとも5つのRGDモチーフを含み、好ましくは少なくとも4対の2つの続くRGDモチーフ間ではアミノ酸の数が異なる。これは、たとえば前記態様を延長して、第4と第5のRGDモチーフ間のアミノ酸の数は、それより前の対のRGDモチーフ間のアミノ酸の数とは異なることを意味する。
【0023】
2つの続くRGDモチーフ間のアミノ酸の数は0〜1000、好ましくは0〜500、より好ましくは0〜250、よりさらに好ましくは0〜100、さらに好ましくは10〜100、より好ましくは20〜100、よりさらに好ましくは10〜75であり、最も好ましくはいずれの2つの続くRGDモチーフ間のアミノ酸の数も20〜75である。
【0024】
1態様において、組換えゼラチン様タンパク質はERGDモチーフを含む。場合によってはより多数、たとえば6、7または8つのRGDおよび/またはERGDモチーフが存在してもよい。
【0025】
前記のゼラチン様タンパク質は、好ましくは相当数のGXY三つ組を含むか、またはそれからなり、ここでGはグリシンであり、XおよびYはいずれかのアミノ酸である。相当数のGXY三つ組とは、少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、または最も好ましくは100%のアミノ酸トリプレットがGXYであることを表わす。同様に、分子量は好ましくは少なくとも約5kDa(計算分子量)、または少なくとも約10kDa、またはより好ましくは少なくとも約11、12、13、14もしくは約15kDa、または少なくとも約16、17、18、19もしくは約20kDa、またはそれ以上である。
【0026】
天然ゼラチンはRGD配列を含むことが知られている。しかし、ゼラチン分子はRGDモチーフの無い大きすぎる部分を含まないことが重要である。RGD配列の無いゼラチン部分が大きすぎると、そのようなゼラチンをたとえばマイクロキャリヤー上のコーティングとして用いた場合に細胞付着能が低下する。ゼラチン中のすべてのRGD配列がすべての状況下で細胞付着に利用できるわけではないように思われる。本発明によるゼラチンにおいてはRGDモチーフ間に一定して60個の長さのアミノ酸をもつゼラチンと比較して細胞付着が顕著に改良されることが見いだされた。
【0027】
好ましい態様においては、RGDを含有するゼラチンを組換えDNA技術により製造する。本発明の組換えゼラチンは、好ましくは天然コラーゲン系配列から誘導または選択され(たとえば”コピーされ”)、好ましくは本明細書の他の箇所に記載するアミノ酸配列基準を満たすためにさらに修飾される。コラーゲンをコードする核酸配列は、当技術分野で一般に記載されている(たとえば、Fuller and Boedtker (1981) Biochemistry 20: 996-1006; Sandell et al. (1984), J Biol Chem 259: 7826-34; Kohno et al. (1984) J Biol Chem 259: 13668-13673; French et al. (1985) Gene 39: 311-312; Metsaranta et al. (1991) J Biol Chem 266: 16862-16869; Metsaranta et al. (1991) Biochim Biophys Acta 1089: 241-243; Wood et al. (1987) Gene 61: 225-230; Glumoff et al. (1994) Biochim Biophys Acta 1217: 41-48 ; Shirai et al. (1998) Matrix Biology 17: 85-88; Tromp et al. (1988) Biochem J 253: 919-912; Kuivaniemi et al. (1988) Biochem J 252: 633640;およびAla-Kokko et al. (1989) Biochem J 260: 509-516を参照)。
【0028】
本発明によるゼラチン様ポリペプチドマルチマー
さらに他の態様において本発明は、本発明のゼラチン様タンパク質の反復配列またはマルチマーに関する。これは、前記のようにRGDモチーフが不均一に分布したポリペプチドが数回反復されることを意味する。したがって、前記のポリペプチドをモノマーとみなすことができる。モノマーの第1アミノ酸から第1RGDモチーフまでのアミノ酸の数が、モノマーの最終RGDモチーフから最終アミノ酸までのアミノ酸の数と比較して異なるため、そのようなモノマーを反復すると、実際にRGDモチーフの分布の不定性が増大する。したがって、そのようなマルチマーはモノマー配列の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10の反復配列を含むか、またはそれからなる。したがって、さらに他の態様においては、前記のモノマー配列のマルチマーを含むか、またはそれからなる、組換えゼラチンポリペプチドが提供される。好ましくは、モノマー反復配列は同じモノマー単位(同一アミノ酸配列をもつもの)の反復配列であるが、場合により異なるモノマー単位(それぞれ前記の基準に含まれる異なるアミノ酸配列をもつもの)の組合わせも使用できる。
【0029】
好ましくはモノマー単位はスペーシングアミノ酸により分離されていないが、短い連結アミノ酸、たとえば1、2、3、4または5個のアミノ酸が1以上のモノマー間に挿入されていてもよい。
【0030】
本発明のポリペプチドの(計算)分子量は、モノマーであってもマルチマーであっても、約5kDaから約400kDaの範囲にあることができる。
マルチマーは既知の標準的な分子生物学的方法を用いて作製できる。一例はWerten et al., Protein Engineering vol 14, pp 447-454, 2001に見ることができる。この方法を用いると、マルチマーの構築のために制限酵素部位を用いることにより、マルチマータンパク質の前後に数個の余分なアミノ酸がある可能性がある。
【0031】
本発明の他の好ましい態様は下記のものである:
さらに他の好ましい態様において、RGDを含有するゼラチンまたはゼラチン様タンパク質は本質的にヒドロキシプロリン残基を含まない。ゼラチンの特徴は異例な高いプロリン残基含量である。さらに他の特徴は、天然ゼラチンでは多数のプロリン残基がヒドロキシル化されていることである。ヒドロキシル化の最も顕著な部位は4−位であり、その結果、ゼラチン分子中に異例なアミノ酸4−ヒドロキシプロリンが存在する。GXYトリプレットにおいて、4−ヒドロキシプロリンは常にYの位置にみられる。ヒドロキシプロリン残基の存在は、ゼラチン分子がそれの二次構造においてらせんコンホメーションをとる可能性があるという事実の原因となる。したがって、ゲル化特性が好ましくない用途において本発明に従って使用するためのゼラチンは、5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満のヒドロキシプロリン残基を含有することが好ましく、組換えゼラチンのゲル化能が好ましくない用途においては組換えゼラチンはヒドロキシプロリンを含まないことが最も好ましい。WO 02/070000 Alに記載されるように、本質的にヒドロキシプロリンを含まない組換えゼラチンは、天然ゼラチンと対照的にIgEを伴う免疫反応を示さない。
【0032】
さらに他の態様において、本発明はグリコシル化されていないRGD含有ゼラチンに関する。グリコシル化はアミノ酸Asnにおいて(N−グリコシド構造体)、またはSerもしくはThrにおいて(O−グリコシド構造体)行われる。グリコシル化は、免疫応答を望まない用途については好ましくは阻止すべきである。一次配列中にAsn、SerおよびThrアミノ酸を存在させないことは、たとえば酵母細胞培養を用いるバイオテクノロジーによる製造系においてグリコシル化を阻止するための有効な方法である。
【0033】
本発明のさらに他の態様は、たとえば追加のアルギニン、リジンまたはヒスチジンをゼラチンに含有させた結果として正に荷電した追加の基を含む、RGD含有ゼラチンに関する。ゼラチンの組換え製造により、生成タンパク質中の正に荷電したアミノ酸の数を容易に操作することができる。特にアルギニン、リジンおよびヒスチジンは正の電荷をもつ。目的とする特定のpHにおいて正味正電荷をもつゼラチンを設計するのは、当業者が十分に達成しうる範囲である。したがって、本発明のさらに他の態様は、pH7〜7.5で正味正電荷をもつRGD含有ゼラチンに関する。好ましくは、正味正電荷は+2、+3、+4、+5、+10またはそれ以上である。1態様において本発明は、pH7〜7.5で正味正電荷が+2、+3、+4、+5、+10またはそれ以上である量の追加のアルギニン、リジンまたはヒスチジンを含む、RGD含有ゼラチンに関する。
【0034】
RGDを含有する組換えゼラチンを含む材料および組成物
本発明による組換えゼラチンは細胞培養支持体をコートするのにきわめて適切であり、これをバイオテクノロジー法または医療用途に使用できることが見いだされた。ゼラチン中のRGD配列は、細胞壁上のインテグリンと呼ばれる特異的受容体に接着できる。これらのインテグリンは、細胞結合アミノ酸配列の認識に際してのそれらの特異性が異なる。
【0035】
組換えにより製造したゼラチンは、それからゼラチンが得られた動物を起源とする病原体による汚染という欠点をもたない。
細胞培養支持体として、またはそれと組み合わせて使用する場合、本発明によるゼラチン様ポリペプチドは細胞結合ポリペプチドとして機能する。それは、その上で増殖する細胞がそれを代謝することもできるという、他のポリペプチドを上回る利点をもつ。さらに他の利点は、それは容易に酵素消化できるので細胞をほぼ100%の収率で採取できることである。
【0036】
組換え製造したゼラチンのさらに他の利点は、分子量(MW)を均一に維持できることである。天然ゼラチンは、その調製方法の結果として、5,000kDより小さいペプチドから400,000kDより大きい分子量をもつ大型ポリマーまでを含む幅広い分子量分布をもつことを避けられない。特に、細胞培養支持体としてのマイクロキャリヤーコアビーズと組み合わせる際に、小型ペプチドの欠点は、細胞が到達できないマイクロキャリヤー内部の微細孔にペプチドが粘着するため添加したゼラチンの一部が使用されないことである。組換え製造法によれば、目的分子量をもつゼラチンを設計でき、この望ましくない材料損失が阻止される。
【0037】
本発明による組換えゼラチンを含む細胞支持体が提供される。そのような細胞支持体は、下記よりなる群から選択できる:
1)細胞培養支持体、たとえばコアビーズ(たとえばマイクロキャリヤービーズ)もしくはペトリ皿またはこれらに類するものを、1種類以上の本発明によるゼラチン様ポリペプチドでコートしたもの;
2)インプラントまたは移植装具(たとえば股関節−、歯−、または他のインプラント、ステントなど)を、1種類以上の本発明による組換えゼラチンでコートしたもの;
3)組織工学のための骨格またはマトリックス、たとえば人工皮膚マトリックス材料を、1種類以上の組換えゼラチン様ポリペプチドでコートしたもの;
4)創傷修復製品を、1種類以上の組換えゼラチン様ポリペプチドでコートしたもの;
5)1種類以上の組換えゼラチン様ポリペプチドを含むか、またはそれからなる、組織接着剤;
6)皮膚充填剤。
【0038】
前記の組換えゼラチン様タンパク質は、このポリペプチドでコートした細胞支持体、たとえばマイクロキャリヤーが有利な特性をもつという利点をもたらす。マイクロキャリヤーコアビーズのコーティング過程における重要な問題は、ビーズ相互の凝集である。特に、そのような凝集により、細胞付着に利用できる表面積が少なくなり、マイクロキャリヤーのサイズ分布が乱れてそれらは役に立たなくなる。本発明によるポリペプチドを使用するとコートされた粒子のサイズ分布がより均一になることが見いだされた。支持体の細胞接着特性も改良された;これはおそらくタンパク質安定性の増大がみられたことに帰因するものであろう。
【0039】
1態様において、本明細書中で提供される細胞支持体は本発明による組換えゼラチン1種類のみ、すなわち提供されるポリペプチドの1つから選択されるものを含む。したがって、生成物のアミノ酸配列、分子量などは均一である。場合により、ペプチドはたとえば化学架橋により架橋していてもよい。
【0040】
別態様においては、本発明によるポリペプチドの混合物、たとえば本発明による2、3、4、5種類またはそれ以上の異なるアミノ酸配列を使用できる。混合物の比率は多様であってよく、たとえば1:1、または10:1、50:1、100:1、1:100、1:50、1:10、およびこれらの間の比率である。場合により、これらの混合物もたとえば化学架橋により架橋していてもよい。
【0041】
本発明の組換えゼラチン様タンパク質を多孔質マイクロキャリヤービーズのコーティングに用いる場合、好ましくは少なくとも約30kDa、たとえば少なくとも約30kDa、40kDa、50kDa、60kDaもしくは70kDaまたはそれ以上の分子量をもつポリペプチドを使用する。その理由は、より小さいポリペプチドは細孔に侵入し、このためコートされたビーズの細胞付着特性に寄与せず、特に低濃度のポリペプチドをコーティング処理に用いる場合にその処理が非効率的となる可能性があるからである。
【0042】
前記に特定した範囲内の分子量をコーティング処理に際して選択することにより、ゼラチンまたはゼラチン様タンパク質コーティング溶液の粘度を厳密に制御できる。可能な限り高い濃度のゼラチンを選択できる一方で、そのようなゼラチン溶液の完全なゲル化またはより重大な部分ゲル化を阻止することができる。均一なゼラチンは、均等にコートされたマイクロキャリヤーの処理を確実にする。均一なコーティング処理により、最小量のゼラチンの使用、および最小体積のゼラチンコーティング溶液の使用が可能になる。これらすべての結果として、当技術分野で既知のものよりはるかに効率的なコーティング処理が得られる。
【0043】
本発明の1態様においては、非孔質コアビーズを本発明のゼラチンでコートする。適切には非孔質コアビーズはポリスチレンまたはガラスで作製される。他の適切な非孔質材料は当業者に既知である。
【0044】
特に有利な態様は、多孔質コアビーズ、たとえば修飾デキストランまたは架橋セルロースまたは(多孔質)ポリスチレン、特にDEAE−デキストラン製のビーズを、本発明のRGD含有ゼラチンでコートする、本発明の方法である。他の適切な多孔質材料は当業者に既知であり、たとえば化学修飾した、または修飾していない、他の多糖類が含まれる。
【0045】
ビーズのサイズは50μmから500μmにまで及ぶことができる。マイクロキャリヤービーズの一般的な平均サイズは、生理食塩水中で約100、約150または約200μmである。少なくとも90%のビーズがその範囲内にあるサイズ範囲は、80〜120μm、100〜150μm、125〜175μmまたは150〜200μmに及ぶことができる。
【0046】
広範な細胞をマイクロキャリヤー上で培養できる。たとえば、無脊椎動物、魚類、鳥類からの細胞、および哺乳動物由来の細胞をマイクロキャリヤー上で培養できる。トランスフォームした細胞系および正常細胞系、線維芽細胞および上皮細胞、ならびに遺伝子工学的に処理した細胞ですら、多様な生物学的用途のために、たとえば免疫物質、たとえばインターフェロン、インターロイキン、増殖因子などの製造のために、マイクロキャリヤー上で培養できる。マイクロキャリヤー上で培養した細胞は、手足口病または狂犬病などのワクチンとして使用される多様なウイルスのための宿主としても役立つ。
【0047】
マイクロキャリヤー培養は、大量培養のほかにも多数の用途をもつ。マイクロキャリヤー上で増殖している細胞は、細胞生物学の種々の観点、たとえば細胞−対−細胞または細胞−対−培養基板の相互作用を研究するための卓越した道具として役立つ。細胞の分化および成熟、代謝の研究も、マイクロキャリヤーを用いて実施できる。そのような細胞は、電子顕微鏡による研究のために、または細胞小器官、たとえば細胞膜の単離のためにも使用できる。この系は本質的に三次元系であり、良好な三次元モデルとしても役立つ。同様に、この系を用いて細胞の共培養を行なうことができる。したがって用途には、細胞、ウイルスおよび細胞産物(たとえばインターフェロン、酵素、核酸、ホルモン)の大量生産、細胞の接着、分化および細胞機能に関する研究、潅流カラム培養系、顕微鏡による研究、有糸分裂細胞の採取、細胞の単離、膜の研究、細胞の貯蔵および輸送、細胞伝達を伴うアッセイ、ならびに標識化合物の取込みに関する研究が含まれる。
【0048】
マイクロキャリヤーは、脾細胞集団からマクロファージを枯渇させるためにも使用できる。本発明のRGD含有ゼラチンでコートしたDEAE−デキストランマイクロキャリヤーは、コンカナバリンA(con A)によるリンパ球刺激を増強することができる。同種腫瘍細胞で周密状態にしたマイクロキャリヤービーズをマウスに注射して、体液性免疫および細胞仲介性免疫を高めることができる。植物プロトプラストを、本発明のRGD含有ゼラチンでコートしたDEAE−デキストランマイクロキャリヤー上に固定化することができる。
【0049】
マイクロキャリヤーにより提供される大きな表面積−対−体積比の結果として、それらは実験室的規模およびたとえば4000リットル以上もの工業的規模での多様な生物学的生産に効果的に使用できる。
【0050】
ゼラチンでコートしたマイクロキャリヤーを用いて、発現生成物の大規模生産を達成できる。生産規模のバイオリアクター内へのマイクロキャリヤーの充填は、一般に20g/lであるが、40g/lまで高めることができる。マイクロキャリヤーをバッチおよび潅流システムに、撹拌培養、およびウェーブバイオリアクター(wave biorector)に、ならびに伝統的な固定単層培養およびローラー培養の表面積を拡大するために使用できる。
【0051】
本発明のヒドロキシプロリンを含まないRGD含有組換えゼラチンはより高い濃度でこの方法に使用でき、その溶液はより粘度が低く、激しい撹拌の必要性がより少なく、その結果、培養細胞に対する剪断力がより少ないであろう。
【0052】
コラーゲンコートしたマイクロキャリヤーの製造方法はUS 4,994,388に記載されている。要約すると、コアビーズへのコラーゲンコーティングの付与は2工程で行われる:コーティングおよび固定。コアビーズを酸性コラーゲン水溶液(0.01〜0.1N酢酸)に懸濁し、溶液を蒸発乾固させる。乾固したコラーゲンコートしたビーズを、次いでタンパク質架橋剤、たとえばグルタルアルデヒドを含有する溶液に懸濁し、こうしてコラーゲンコーティングを架橋させる。あるいは、コラーゲン溶液で湿潤させたコアビーズを固定工程の開始前に完全には乾燥させない。コーティング条件の変更および別のコーティング処理も当業者が容易になしうる範囲のものである。
【0053】
組換え構造体は、US 5,512,474に従って追加のアルギニン、リジンまたはヒスチジンを組み込むことにより、正に荷電した追加の基を含むように設計することもできる。ゼラチンの組換え製造により、生成タンパク質中の正に荷電したアミノ酸(細胞培養のpHにおいて正に荷電していることを意味する)の数を容易に操作することができる。特にアルギニン、リジンおよびヒスチジンは正の電荷をもつ。目的とする特定の細胞培養のpHにおいて正味正電荷をもつゼラチンを設計するのは、当業者が十分に達成しうる範囲である。細胞は普通はpH7〜7.5で培養される。したがって、本発明のさらに他の態様においては、pH7〜7.5で正味正電荷をもつゼラチンまたはゼラチン様タンパク質を使用する。好ましくは、正味正電荷は+2、+3、+4、+5、+10またはそれ以上である。したがって、さらに他の態様において本発明は、pH7〜7.5で正味正電荷をもつゼラチンに関する。好ましくは、正味正電荷は+2、+3、+4、+5、+10またはそれ以上である。
【0054】
さらに他の態様において本発明は、細胞の表面受容体を遮断するための、およびそのような受容体を遮断する組成物を調製するための、本発明によるRGD含有ゼラチンの使用に関する。細胞の受容体の遮断は、たとえば血管形成の阻害または心臓線維芽細胞上のインテグリンの遮断に適用される。
【0055】
本発明による組換えゼラチンでコートし、その上で細胞を増殖させた細胞支持体は、たとえば皮膚の移植もしくは創傷の処置に際して、または骨もしくは軟骨の(再)増殖を増強するために適用できる。インプラント材料を本発明の組換えゼラチンでコートして細胞を接着させ、これにより移植を促進することもできる。
【0056】
本発明のさらに他の態様においては、1種類以上の本発明による組換えゼラチンを含む制御放出組成物が提供される。したがって、この組成物はさらに1種類以上の薬物を含むことができる。制御放出組成物は、注射(皮下、静脈内または筋肉内)または経口により、または吸入により投与できる。しかし、使用する制御放出組成物を外科的に埋め込むこともできる。さらに他の適切な投与経路は、外部創傷包帯、またはさらに経皮によるものである。
【0057】
制御放出組成物は、好ましくは架橋した形の、たとえば化学架橋した組換えゼラチンを含む。本発明はさらに、痛み、癌療法、心血管疾患、心筋修復、血管形成、骨の修復および再生、創傷の処置、神経刺激/療法、または糖尿病を処置する医薬を製造するための、本明細書に記載する制御放出組成物の使用を提供する。
【0058】
本発明によるRGD含有ゼラチンは、EP−A−0926543、EP−A−1014176またはWO 01/34646に開示された組換え法により製造できる。本発明のゼラチンの製造および精製を可能にするために、EP−A−0926543およびEP−A−1014176中の例も参照される。
【0059】
コラーゲン(の一部)をコードする天然核酸配列から出発して、本発明によるRGD含有ゼラチンをコードする配列が得られるような点変異を適用することもできる。既知のコドンに基づいて、RGX配列が変異後にRGD配列を生成するような点変異を行なうことができ、あるいはYGD配列を変異させてRGD配列を生成させることもできる。YGX配列がRGD配列を生成するように、2つの変異を行なうことも可能である。1個以上のヌクレオチドを挿入し、または1個以上のヌクレオチドを欠失させて、目的とするRGD配列を生成させることも可能であろう。同様な方法で、ERGD配列を含む構造体を製造することができる。
【0060】
したがって、前記のゼラチン様タンパク質は、それらのポリペプチドをコードする核酸配列を適切な微生物により発現させることによって製造できる。この方法は、真菌細胞または酵母細胞を用いて適切に実施できる。適切には、宿主細胞は高発現性の宿主細胞、たとえばハンゼヌラ属(Hansenula)、トリコデルマ属(Trichoderma)、コウジカビ属(Aspergillus)、アオカビ属(Penicillium)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、アカパンカビ属(Neurospora)またはピキア属(Pichia)である。真菌および酵母細胞は反復配列の不適切な発現を生じにくいので、それらの方が細菌より好ましい。最も好ましくは、宿主は発現したコラーゲン構造体を攻撃する高レベルのプロテアーゼをもたないであろう。特に、メチロトローフ酵母(methylotrophic yeast)が好ましい。これに関して、ピキア属またはハンゼヌラ属はきわめて適切な発現系の例である。発現系としてのピキア・パストリス(Pichia pastoris)の使用は、EP−A−0926543およびEP−A−1014176に開示されている。1態様において、微生物は活性な翻訳後プロセシング機序、たとえば特にプロリンのヒドロキシル化を伴わず、リジンのヒドロキシル化も伴わない。他の態様において、宿主系は内因性のプロリンヒドロキシル化活性をもち、これにより組換えゼラチンはきわめて効果的にヒドロキシル化される。既知の工業用の酵素産生真菌宿主細胞、特に酵母細胞から、宿主細胞を本発明による組成物に適切な組換えゼラチン様タンパク質の発現に適切なものにするために必要な本明細書に記載するパラメーターと宿主細胞および発現させる配列に関する知識とを合わせたものに基づいて適切な宿主細胞を選択することは、当業者がなしうるであろう。
【0061】
したがって、1観点において本発明は、本発明による組換えゼラチンを製造するための方法であって、下記を含む方法にも関する:
−少なくとも3つのRGDモチーフを含む組換えゼラチンをコードする核酸配列が適切なプロモーターに作動可能な状態で連結したものを含む発現ベクターを調製し、
−前記の核酸配列をメチロトローフ酵母において発現させ、
−前記の核酸配列を発現させるのに適切な発酵条件下でその酵母を培養し、
−場合により前記ポリペプチドを培養物から精製する。
【0062】
配列
SEQ ID NO 1:CBE
SEQ ID NO 2:CBE
SEQ ID NO 3:CBE
SEQ ID NO 4:CBE
SEQ ID NO 5:CBE
SEQ ID NO 6:CBE
SEQ ID NO 7:CBE
SEQ ID NO 8:CBE
SEQ ID NO 9:CBE
SEQ ID NO 10:CBE10
SEQ ID NO 11:CBEモノマー。
【0063】
1態様において、本発明によるゼラチンはSEQ ID NO:2、3、4、5、6、7、8、9または10を含むか、またはそれからなる。1態様において、本発明によるマルチマー組換えゼラチン、たとえばSEQ ID NO:2〜10は、カルボキシ末端がグリシン(G)で延長されている。1態様において、本発明によるマルチマー組換えゼラチン、たとえばSEQ ID NO:2〜10は、グリシン−アラニン−プロリントリプレット(GAP)をアミノ末端の前に含む。したがって、本発明による組換えゼラチンはGAP(SEQ ID NO 11)Gを含み、ここでxは2〜10から選択される整数である。
【実施例】
【0064】
実施例1:
ヒトCOL1A1−1のゼラチンアミノ酸配列の一部をコードする核酸配列に基づき、この核酸配列を修飾して、RGD含有ゼラチンを製造した。EP−A−0926543、EP−A−1014176およびWO 01/34646に開示された方法を用いた。このRGD含有ゼラチンをCBEと命名し、本発明によるこのRGD含有ゼラチンをSEQ ID NO:1に示す。標準サブクローニング法により、CBEモノマー(SEQ ID NO:11;すなわち最初のGAPを含まず、かつ末端イソロイシンがプロリンで置換されたCBE)のマルチマーを製造した。
【0065】
以下の実施例に用いたCBEモノマーのアミノ酸配列(SEQ ID NO:11):
【0066】
【化1】

【0067】
計算分子量は17.2kDaである;189個のアミノ酸の長さ。
以下の実施例に用いたアミノ酸配列:これはCBE(SEQ ID NO:3)であり、グリシン(G)で延長され、かつ前にGAPを含む:
【0068】
【化2】

【0069】
計算分子量は51.7kDaである;571個のアミノ酸の長さ。
以下の実施例に用いたアミノ酸配列:これはCBE(SEQ ID NO:5)であり、グリシン(G)で延長され、かつ前にGAPを含む:
【0070】
【化3】

【0071】
計算分子量は86.1kDaである;949個のアミノ酸の長さ。
実施例2:
マイクロキャリヤービーズの調製
平均直径100マイクロメートルのポリスチレンビーズを用いる。ヘテロ二官能性架橋剤BBA−EAC−NOSを用いて、ゼラチンをポリスチレンビーズ上に共有結合により固定化する。BBA−EAC−NOSをポリスチレンビーズに添加し、吸着させる。次いでゼラチンを添加し、このNOS合成ポリマーと反応させて、このスペーサーへの共有結合を生じさせる。次いでビーズを(320nmで)光活性化して、スペーサー(および共有結合したゼラチン)をポリスチレンビーズに共有結合により固定化する。最後に、リン酸緩衝化生理食塩水(pH7.2)中の緩和な界面活性剤Tween 20で一夜洗浄することにより、ゆるく付着したゼラチンを除去する。
【0072】
細胞タイプおよび培養条件
ミドリザル(Green monkey)腎(Vero)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、正常ラット腎線維芽(NRK−49F)細胞、およびMadin Darbyイヌ腎(MDCK)細胞を、ATCCから購入した。4種類すべての細胞タイプを75cmのフラスコ内で37℃において5% COの環境で継代および維持した。VeroおよびNRK−49F細胞はダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中で培養され、CHO細胞はハム(Ham)のF−12栄養素混合物中で培養され、MDCK細胞はアールの塩類(Earle’s salts)を含む最少必須培地(MEM)中で培養された。
【0073】
VeroおよびCHO細胞については、培地に10%のウシ胎仔血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、20mMのHEPES緩衝液、1mMのピルビン酸ナトリウム、100ug/mlのストレプトマイシン、および100単位/mlのペニシリンを補充した(最終pH7.1)。NRK−49F細胞については、DMEMに5%のFBS、2mMのL−グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸(各0.1mM)、100μg/mlのストレプトマイシン、100単位/mlのペニシリン、および0.25μg/mlのアンホテリシンBを補充した(最終pH7.1)。MDCK細胞については、MEMに10%のFBS、2mMのL−グルタミン、非必須アミノ酸(各0.1mM)、ならびに100μg/mlのストレプトマイシン、100単位/mlのペニシリン、および0.25μg/mlのアンホテリシンBを補充した(最終pH7.1)。
【0074】
各実験の前に細胞の生理的状態を標準化するために、マイクロキャリヤービーズ接種の2〜3日前に細胞を150cmのフラスコに継代した。細胞をフラスコから離脱させるためにトリプシン処理した(PBS中、0.05%のトリプシン、0.53mMのEDTA)。マイクロキャリヤー実験のために、細胞を遠心してトリプシン培地を除去し、培養培地に再懸濁して約1×10細胞/mlにした。生存細胞濃度をトリパン色素排除により判定した(0.9%生理食塩水中の0.4%トリパンブルー)。
【0075】
撹拌フラスコにおける細胞培養およびアッセイ
細胞付着アッセイのために、20mg/mlのコートしたポリスチレンビーズを用い、細胞濃度はそれぞれの細胞タイプにつき1.5×10細胞/mlであった。
【0076】
100mlの培養物を250mlの撹拌容器内に維持し、懸垂型の磁気インペラーで撹拌しながら(50rpm)、マイクロキャリヤーを培養した。
細胞付着の動態を上清細胞濃度の低下としてアッセイした。試料を取り出すために撹拌を短時間(約30秒間)停止し、この時点でマイクロキャリヤーは沈降し、下記に従って細胞を定量するために上清試料を取り出した。
【0077】
細胞計数のために、細胞を0.1Mクエン酸中のクリスタルバイオレット(0.1% w/w)等体積と混合することにより染色し、次いで血球計数器で計数した。培地からの細胞枯渇をビーズに付着した細胞の指標として用いた。
【0078】
培地から除かれた細胞が実際にマイクロキャリヤーに付着した(かつ細胞溶解していない)ことを証明するために、マイクロキャリヤーに付着した細胞をそれぞれの細胞付着アッセイの終了時に定量した。十分に撹拌したキャリヤー培地1mlずつを取り出し、マイクロキャリヤーを沈降させ、沈降したマイクロキャリヤーを前記のクリスタルバイオレット/クエン酸に再懸濁した。37℃で1時間インキュベートした後、懸濁液をパスツールピペットに吸入排出することにより剪断して核を放出させ、これを血球計数器で定量した。
【0079】
ゼラチンCBE(SEQ ID NO:1)を前記操作に従ってマイクロキャリヤーコーティングとして用い、US 2006/0241032に開示された4つのRGD配列をもつ配列識別番号2の参照RGD含有ゼラチンと比較した。CBEは、出発培地からの細胞枯渇数に関して、またマイクロキャリヤーへの細胞付着に関しても、改良された結果を示した。この改良は、US 2006/0241032に開示された識別番号2の配列と比較してRGDモチーフの不均一な分布に帰因する改良された不定性の指標である。
【0080】
同様にCBEおよびCBEを含むゼラチンを前記の操作に従ってマイクロキャリヤーコーティングとして用い、US 2006/0241032に開示された配列識別番号2のRGD含有ゼラチンのトリマー、テトラマーおよびクインタマーと比較する。CBEおよびCBEを含むゼラチンは、RGDモチーフの不均一な分布に帰因する改良されたそれらの不定性に帰因すると思われるが、US 2006/0241032に開示された識別番号2の配列に基づくマルチマーゼラチンと比較して、マイクロキャリヤーへの改良された細胞付着を示す。CBEおよびCBEを含むゼラチンでコートしたマイクロキャリヤーの粒度測定も、コートしたマイクロキャリヤーの24時間保持後および細胞付着アッセイ直後に、US 2006/0241032に開示された識別番号2の配列に基づくマルチマーゼラチンと比較して、より均一な粒度分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つのRGDモチーフを含み、一対の2つの続くRGDモチーフ間のアミノ酸の数が0〜100であり、異なる対の2つの続くRGDモチーフ間のアミノ酸の数0〜100と異なり、アミノ酸の数が0〜100である、組換えゼラチン。
【請求項2】
少なくとも4つのRGDモチーフを含み、少なくとも3対の2つの続くRGDモチーフ間においてアミノ酸の数が異なる、請求項1に記載の組換えゼラチン。
【請求項3】
少なくとも5つのRGDモチーフを含み、少なくとも4対の2つの続くRGDモチーフ間においてアミノ酸の数が異なる、請求項1または2に記載の組換えゼラチン。
【請求項4】
いずれかの対の続くRGDモチーフ間のアミノ酸の数が10〜75である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えゼラチン。
【請求項5】
ゼラチンがSEQ ID NO:2、3、4、5、6、7、8、9または10を含むか、またはそれからなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換えゼラチン。
【請求項6】
ゼラチンが5%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満のヒドロキシプロリン残基を含み、最も好ましくは組換えゼラチンがヒドロキシプロリンを含まない、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組換えゼラチン。
【請求項7】
グリコシル化されていない、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組換えゼラチン。
【請求項8】
pH7〜7.5において+2、+3、+4、+5、+10またはそれ以上の正味正電荷を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組換えゼラチン。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組換えゼラチンを含む、細胞支持体。
【請求項10】
細胞支持体が、組換えゼラチンでコートしたインプラントまたは移植材料、組換えゼラチンでコートした組織工学用骨格、歯科製品(の一部)、創傷修復製品(の一部)、人工皮膚マトリックス材料(の一部)、および組織接着剤(の一部)よりなる群から選択される、請求項9に記載の細胞支持体。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組換えゼラチンを含む、制御放出組成物。
【請求項12】
組換えゼラチンが架橋している、請求項11に記載の制御放出組成物。
【請求項13】
癌の転移を阻害し、血小板の凝集を阻止し、または外科手術後に組織の癒着を阻止する医薬を調製するための、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組換えゼラチンの使用。
【請求項14】
制御放出組成物を調製するための、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組換えゼラチンの使用。
【請求項15】
請求項1〜8に記載の組換えゼラチンを製造するための方法であって、下記を含む方法:
a)請求項1〜8に記載のポリペプチドをコードする核酸配列が適切なプロモーターに作動可能な状態で連結したものを含む発現ベクターを調製し、
b)前記の核酸配列をメチロトローフ酵母において発現させ、
c)前記の核酸配列を発現させるのに適切な発酵条件下でその酵母を培養し、
d)場合により前記ポリペプチドを培養物から精製する。

【公表番号】特表2010−519252(P2010−519252A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550599(P2009−550599)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050103
【国際公開番号】WO2008/103043
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509077761)フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ (25)
【Fターム(参考)】