説明

RI化合物合成装置

【課題】 低コスト化及び信頼性の向上が図られると共に、反応の安定化及びRI化合物の高純度化が図られるRI化合物合成装置を提供する。
【解決手段】 反応器16に導入するための複数の試薬を各々供給する各経路L6〜L10と、これらの経路L6〜L10を集合し選択的に切り換える切換弁V4,V5と、この切換弁V4,V5で切り換えられた経路L6〜L10の試薬を反応器16に導く共通経路L4,L5と、を備える組を、複数の試薬を無機物とする組3と有機物とする組4とに分けることで、経路、弁の個数を低減しつつ、切換弁V4,V5及び共通経路L4,L5での無機物と有機物との混合を無くし反応の阻害や不純物の発生を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RI化合物合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば病院等のPET検査(陽電子断層撮影検査)等に使用される放射性同位元素標識化合物(RI化合物)は、放射性同位元素(RI)を所定の原料試薬と化学反応させるRI化合物合成装置で合成される。このRI化合物合成装置にあっては、化学反応を行う反応器に対して原料試薬及び洗浄試薬等の各種試薬が導入され、所定のプロセスが実行される。
【0003】
このようなRI化合物合成装置としては、各試薬を充填する各々の充填口と反応器とを専用配管で各々接続すると共に、各配管に試薬の流れを制御する例えば電磁弁等を各々設け、各試薬を各々の配管を通して独立して反応器に導くものが知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、上記独立する全配管を、多方向入口及び一方向出口を備えるロータリバルブの各入口に接続し、当該ロータリバルブで各配管を選択的に切り換えると共に、選択された試薬を、当該ロータリバルブの出口と反応器とを接続する共通配管を通して反応器に導くものも知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】Nuclear Medicine & Biology, Vol. 23, pp. 497-501, 1996
【非特許文献2】Appl. Radiat. Isot. Vol. 46, No. 9, pp. 887-891, 1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記前者にあっては、配管及び弁が各試薬に応じた個数必要で、数が多く高コスト化すると共に、数が多い分故障の確率が上がりRI化合物合成装置の信頼性が低下する。
【0005】
また、後者にあっては、配管及び弁の個数が前者に比して減っているため、高コスト化及び信頼性の低下が解消されているが、各試薬をロータリバルブ及び共通配管を通して反応器に導くため、これらのロータリバルブ及び共通配管に残留する試薬同士が混じり、反応を阻害したり不純物を生じせしめたり等、反応の安定化が図れないと共にRI化合物の品質が確保されないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、低コスト化及び信頼性の向上が図られると共に、反応の安定化及びRI化合物の高純度化が図られるRI化合物合成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるRI化合物合成装置は、放射性同位元素、複数の試薬を反応器に導入し放射性同位元素標識化合物を得るRI化合物合成装置であって、複数の試薬を各々供給する各経路と、これらの経路を集合し選択的に切り換える切換弁と、この切換弁と反応器とを接続し切換弁で切り換えられた経路の試薬を反応器に導く共通経路とを備え、複数の経路、切換弁及び共通経路を備える組が、複数の試薬を無機物とする組と有機物とする組とに分けられているため、経路、弁の個数が低減されつつ、切換弁及び共通経路での無機物と有機物との混合が無くされ反応の阻害や不純物の発生が防止される。
【0008】
ここで、パージ流体を供給するパージ経路が、各経路と共に切換弁に集合され選択的に切り換えられる構成であると、所望の時期に、切換弁、共通経路及び反応器がパージされ、反応の阻害や不純物の発生が一層防止される。
【0009】
また、切換弁としては種々のものが採用され得るが、上記作用を効果的に奏する切換弁としては、具体的には、各経路に接続される各入口、共通経路に接続される一出口を備え、ローターが回転することで入口を選択的に切り換えるロータリバルブが挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明によるRI化合物合成装置によれば、経路、弁の個数が低減されるため、低コスト化及び信頼性の向上が可能となると共に、切換弁及び共通経路での無機物と有機物との混合が無くされ反応の阻害や不純物の発生が防止されるため、反応の安定化及びRI化合物の高純度化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明によるRI化合物合成装置の好適な実施形態について図1〜図3を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係るFDG合成装置の配管系統図、図2は、図1中のロータリバルブの一部断面側面図、図3は、図2のIII−III矢視図である。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態のRI化合物合成装置は、例えば、病院等のPET検査等に使用される放射性薬剤としての18F−FDG(フルオロデオキシグルコース)を合成反応により生成するFDG合成装置1である。
【0013】
このFDG合成装置1は、略矩形状の箱型を成し側面に開閉可能な扉(不図示)を備える、所謂ホットセル2を具備し、このホットセル2は、例えば鉛、鉄、タングステン、アルミニウム等の放射線を遮蔽することができる放射線遮蔽物を用いて放射線を遮蔽可能な適切な厚さとされ、放射線の漏出を防止する密閉構造とされている。
【0014】
このFDG合成装置1、あるいはホットセル2内部に各種試薬を充填する試薬槽13a〜13fと、これらの各種試薬を導入し合成反応を行う反応器16とを備えている。
【0015】
以下詳説すると、反応器16には、系外から18を導入する18供給配管L1が接続され、この18供給配管L1には、三方弁V1が設置されている。また、反応器16の近傍には、当該反応器16を加温する加温器28が設けられている。
【0016】
試薬槽13a〜13fは、当該試薬槽13a〜13fに各種試薬を充填する充填口17を各々具備し、試薬槽13a,13bには洗浄試薬である水が、試薬槽13cには酸加水分解を行う塩酸(アルカリ加水分解の場合には例えば水酸化ナトリウム等)が、試薬槽13dにはFDG原料であるトリフレート溶液が、試薬槽13eにはアセトニトリル溶液が、試薬槽13fには相間移動触媒K222(クリプトフィックス222)を溶解させたKCO水・アセトニトリル溶液が、各々充填されている。これらの試薬槽13a〜13fには、各種試薬を導出する試薬供給配管(経路)L6〜L11が各々接続されている。試薬供給配管L11には、上記三方弁V1が接続されている。
【0017】
ここで、本実施形態のFDG合成装置1にあっては、無機物系の試薬(水/塩酸)を充填する試薬槽13a〜13cは、試薬供給配管L6〜L8を介してロータリバルブV4(切換弁)と各々接続され、有機物系の試薬(トリフレート溶液/アセトニトリル溶液)を充填する試薬槽13d,13eは、試薬供給配管L9,L10を介してロータリバルブV5と各々接続され、ロータリバルブV4には、共通配管(共通経路)L4を介して反応器16が、ロータリバルブV5には、共通配管L5を介して反応器16が、各々接続されている。
【0018】
すなわち、無機物系の試薬は、試薬供給配管L6〜L8、ロータリバルブV4、共通配管L4を通して反応器16へ供給され、有機物系の試薬は、試薬供給配管L9,L10、ロータリバルブV5、共通配管L5を通して反応器16へ供給され、このように、試薬供給配管L6〜L10、ロータリバルブV4,V5、共通配管L4,L5は、試薬供給配管L6〜L8、ロータリバルブV4、共通配管L4を備える無機物の組3と、試薬供給配管L9,L10、ロータリバルブV5、共通配管L5を備える有機物の組4とに分けられている。また、ロータリバルブV4,V5の入口には、Heを導入するHe配管L12(パージ経路)が各々接続されている。
【0019】
ロータリバルブV4,V5は、ローター(不図示)が回動することで複数の入口を選択的に切り換える切換弁である。ロータリバルブV4は四入口、ロータリバルブV5は三入口であるが、構成は略同じのため、ここではロータリバルブV5を代表として図2及び図3を用い説明する。ロータリバルブV5は、略円筒状の弁箱30の周面に、上記供給配管L9,L10,L12に接続される複数の入口31a〜31cを備えると共に、一端面に、上記共通配管L5に接続される出口31oを備え、動力源であるモータ32を駆動することで、このモータ32に連結され、弁箱30内に収容されるローターが回動し、一出口に連通する入口が選択的に切り換えられる。このローターによる入口の切り換えは、各入口に対応して弁箱30の外方に設けられているリミットスイッチ35を、ローターと共に回動するキッカー34が遮蔽することで検出される。
【0020】
図1に示すように、反応器16には、更に、反応器16内の蒸気を系外にへ排出する排気配管L3、反応器16で合成されたFDGを排出する製品回収配管L2が接続されている。排気配管L3には、電磁弁V3が設置され、製品回収配管L2には、電磁弁V2、反応器16で合成されたFDGを精製する精製カラム27、この精製カラム27で精製されたFDGを回収する製品回収容器29がこの順で設置されている。
【0021】
次に、このように構成されたFDG合成装置1の作用について図1を参照しながら説明する。
【0022】
系外から供給された18は、試薬槽13fに充填された、相間移動触媒K222を溶解させたKCO水・アセトニトリル溶液と共に三方弁V1、18供給配管L1を介して反応器16へ導入され、加温器28により反応器16が加温されると共に、系外から供給されたHeがHe配管L12、ロータリバルブV4,V5、共通配管L4,L5を通り反応器16へ導入され、反応器16内のアセトニトリル及び水が蒸発しこの蒸発物は排気配管L3を通り系外に排出される。この加温処理により18/K222錯体が形成され、18Fが固定化及び乾燥される。
【0023】
次いで、試薬槽13eのアセトニトリル溶液が試薬供給配管L10、ロータリバルブV5、共通配管L5を通り反応器16へ供給され、再び、加温器28により反応器16が加温されてこの反応器16内の水分が蒸発する。
【0024】
次いで、試薬槽13dのFDG原料であるトリフレート溶液が試薬供給配管L9、ロータリバルブV5、共通配管L5を通り反応器16へ供給され、弁V1〜V5が閉じられて反応器16内は密閉状態とされ、さらに、加温器28により反応器16が加温されてこの反応器16内の18Fとトリフレートとが合成反応する。
【0025】
次いで、HeがHe配管L12を通って反応器16へ導入され、再び、加温器28により反応器16が加温されてこの反応器16内のアセトニトリルが蒸発する。
【0026】
この状態で、試薬槽13cの塩酸が試薬供給配管L8、ロータリバルブV4、共通配管L4を通り反応器16へ導入され、弁V1〜V5が閉じられて反応器16内は密閉状態とされ、さらに、加温器28により反応器16が加温されてこの反応器16内のFDG前駆体が加水分解される。
【0027】
次いで、HeがHe配管L12を通って反応器16へ導入され、反応器16に生成されている粗精製のFDGが製品回収配管L2を通ってフィルタを備える精製カラム27へ移送され、この精製カラム27で精製されたFDGが製品として製品回収容器29に回収される。
【0028】
次いで、試薬槽13a又は試薬槽13bの水が試薬供給配管L6,L7、ロータリバルブV4、共通配管L4を通り反応器16へ導入され、反応器16に付着した残留するFDGを洗浄し洗い落とす。次いで、Heが反応器16に導入され、この反応器16に残留するFDGは水と共に、製品回収配管L2を通り製品回収容器29に回収される。これにより、1サイクルの工程が終了し、放射性薬剤としての18F−FDGが得られる。
【0029】
このようなFDG合成装置1では、複数の配管L6〜L10、ロータリバルブV4,V5及び共通配管L4,L5を備える組が、複数の試薬を無機物とする組3と有機物とする組4とに分けられているため、配管、弁の個数が低減されつつ、ロータリバルブV4,V5及び共通配管L4,L5での無機物と有機物との混合が無くされ反応の阻害や不純物の発生が防止されている。その結果、低コスト化及び信頼性の向上が可能とされていると共に、反応の安定化、RI化合物の高純度化、さらには、収率の向上が可能とされている。
【0030】
また、He配管L12が、各試薬供給配管L6〜L8、L9,L10と共にロータリバルブV4,V5に集合され選択的に切り換えられるため、所望の時期に、ロータリバルブV4,V5、共通配管L4,L5及び反応器16がHeによりパージされ、反応の阻害や不純物の発生が一層防止されている。
【0031】
また、ロータリバルブV4,V5が耐圧性に優れると共に、接液部の材質を内部流体に対応するように選定することにより耐腐食性にも優れているため、腐食損傷による各種試薬等の内部流体の漏洩が無くされ、FDG合成装置1を安全且つ安定に運転することが可能とされている。
【0032】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、上記実施形態においては、切換弁をロータリバルブとしているが、例えばその他の多方弁を採用しても良い。
【0033】
また、上記実施形態では、RI/RI化合物、各試薬の移送経路として配管を採用しているが、例えば連続した凹部を有する板状部材を張り合わせて移送経路を形成しても良い。
【0034】
また、上記実施形態では、RI化合物であるFDGを合成するFDG合成装置に対する適用を述べているが、その他のRI化合物を合成するRI化合物合成装置に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係るFDG合成装置の配管系統図である。
【図2】図1中のロータリバルブの一部断面側面図である。
【図3】図2のIII−III矢視図である。
【符号の説明】
【0036】
1…RI化合物合成装置、3…無機物の組、4…有機物の組、16…反応器、31a〜31c…ロータリバルブの入口、31o…ロータリバルブの出口、L4,L5…共通配管(共通経路)、L6〜L10…配管(経路)、L12…パージ配管(パージ経路)、V4,V5…ロータリバルブ(切換弁)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性同位元素、複数の試薬を反応器に導入し放射性同位元素標識化合物を得るRI化合物合成装置であって、
前記複数の試薬を各々供給する各経路と、
これらの経路を集合し選択的に切り換える切換弁と、
この切換弁と前記反応器とを接続し前記切換弁で切り換えられた経路の試薬を前記反応器に導く共通経路と、を備え、
前記複数の経路、前記切換弁及び前記共通経路を備える組が、前記複数の試薬を無機物とする組と有機物とする組とに分けられていることを特徴とするRI化合物合成装置。
【請求項2】
パージ流体を供給するパージ経路が、前記各経路と共に前記切換弁に集合され選択的に切り換えられることを特徴とする請求項1記載のRI化合物合成装置。
【請求項3】
前記切換弁は、前記各経路に接続される各入口、前記共通経路に接続される一出口を備え、ローターが回転することで前記入口を選択的に切り換えるロータリバルブであることを特徴とする請求項1又は2記載のRI化合物合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−342139(P2006−342139A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171471(P2005−171471)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】