RNアーゼH2複合体およびその遺伝子
RNアーゼII2、即ち、RNASEH2A、RNASEH2B及びRNASEH2Cのコンポーネントに関する遺伝子とともに、当該遺伝子にコードされるタンパク質を提供する。これらの遺伝子を含む組み換えポリヌクレオチドを、場合によってはベクターとして記載する。組み換えRNaseH2も、試験物質又は修飾した(変異した)RNaseH2のコンポーネントの活性に対する影響を評価するアッセイとともに記載される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)H2のコンポーネントをコードする遺伝子、組み換えRNアーゼH2ならびにウイルス感染症や自己免疫疾患等を治療する目的により免疫反応を操作する上で有益なアゴニスト、アンタゴニストおよび調節因子を特定するためのアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
RNアーゼHは、RNA/DNA複合体のリボヌクレオチドのエンドヌクレアーゼ的切断を行う酵素複合体である。RNアーゼHは、分子生物学において頻繁に用いられており、cDNAの逆転写を行った後にRNAテンプレートの分解を行うために使用する。
【0003】
RNアーゼHには、生化学的特徴が異なる2種類のクラス(1/Iおよび2/II)が存在する。RNアーゼH2は、ヒトおよび酵母のいずれにおいても細胞性RNアーゼH活性の主要な働きを担っている。RNアーゼH2は、DNA複製におけるラギング鎖上の岡崎フラグメントからRNAプライマーを除去する作用やDNA−RNA二重鎖の単一リボヌクレオチドの切除に関わっていると考えられている。サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)において、Rnh2BpとRnh2Cpは、触媒サブユニットRnh2Apと共精製し、両者があれば十分にRNアーゼH2活性を再構成することができる。ヒトでは、RNアーゼH2の触媒サブユニットであるRNASEH2Aが、生化学的精製法により特定されており、酵母オルソログと明確な配列相同性を有している。しかし、別のヒトタンパクであるAYP1(現在ではRNASEH2Cと呼ばれる。)がRNASEH2Aタンパクと共精製したものの(Frank et al., PNAS USA 95:12872-7, 1998)、酵母以外ではRnh2BpおよびRnh2Cpサブユニットのオルソログは、特定されていない。
【0004】
アイカルディ・ゴーシェ症候群(AGS)は、病因不明の常染色体遺伝性疾患である。AGSは、臨床的には、重度の神経障害、進行性小頭症、痙攣、ジストニア姿勢および精神運動発達遅滞として現れる。小児では、しばしば死に至る(Goutieres, Brain Dev 27:201-206, 2005)。AGSは、先天性脳ウイルス感染症と形質的に強い類似性を示し(Aicardi & Goutieres, Ann Neurol 15:49-54, 1984)、AGSで見られるIFN−αレベルの上昇も、ウイルス感染によりホストが示す免疫反応と類似している。そのため、文献ではAGSの病因論に関し、見解の一致を見ていない。特に、AGSがウイルス性病原体に対する遺伝的感受性に起因するものであるのか、あるいはホストにおける免疫反応の調節機能の変異によるものであるのかという点では意見が分かれる。
【0005】
Crowら(Am J Hum Genet 67:213-221, 2000およびJ Med Genet 4O:183-187, 2003)は、2つのAGS遺伝子座を特定したが、それは染色体3p21上のAGS1と染色体13q14.3上のAGS2である(Ali et al., J Med Genet 43(5):444-50, May 2006. Epub 20th May 2005)。
【0006】
本願発明者らは、AGS2がヒトRNアーゼH2複合体のコンポーネントであることを発見し、この遺伝子を完全に特定した。AGS2は、ユビキタスな発現パターンを示し、予測できるドメイン構造や機能が類推できるヒトパラログは見当たらなかった。離れたオルソログがS.cerevisiaeで同定された(アミノ酸配列の相同性<5%)。発明者らは、AGS3およびAGS4遺伝子も特定した。この3種類のAGS遺伝子から発現したタンパク質は、合わせてRNアーゼH2複合体の一部分を構成する。
【0007】
AGSは、ウイルス感染症と形質的な類似性が高いが、この類似性は脳に限らない。症例の中には、神経学的特徴以外の症状(血小板減少症、肝脾腫大、肝トランスアミナーゼ値の上昇)を示す場合もあり、ウイルス感染症と類似の症状を呈するその他の遺伝病と共通する部分のあることが示唆されている。
【0008】
AGSと全身性エリテマトーデス(SLE)との類似性も指摘されている(Alarcan-Riquelme, Nat Genet 38:866-867, 27th July 2006参照)。特に、SLEでは先端部に血管炎型の皮膚病変を呈するが、この場合、真皮表皮接合部には免疫グロブリンの沈着が見られる(Crow et al., Nat Genet 38:917-920, 2006参照)。最近報告された家族性皮膚エリテマトーデス症患者で同一の皮膚病変を示した症例では、共通してAGS1遺伝子に変化が見られた(Lee-Kirsch et al., Am J Hum Genet 79:731-737, 19 July 2006参照)。また、AGSでは、高ガンマグロブリン血症および自己抗体が報告されている(Crow et al., Nat Genet 38:917-920, 2006参照)。更に、SLEでは、CSFインターフェロンαレベルが上昇していることが、ループス脳炎および全身で認められている。頭蓋内基底核石灰化も、中枢神経SLE患者の30%ほどで起こっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者らによる観察の結果、AGS、SLEおよびウイルス感染症には、RNアーゼH2に関係する病因が共通して存在する可能性が初めて考えられた。
【0010】
重要なこととして、発明者らは、AGS4遺伝子がF39ファミリーにG37S変異を起こしていることを特定した。この場合、患者はpseudo−TORCH症候群およびAGS両方の病態を示し、これらの疾患には共通の分子的原因があることが示されている。(pseudo−TORCH症候群とは、小児がトキソプラズマ症、風疹、CMVおよびHSV感染症と類似した症状を呈する遺伝性疾患である。)それゆえ、RNアーゼH2複合体の変異に起因する病態形質は、従来のAGSよりもはるかに広いと考えられ、「先天性ウイルス感染症」を有する多くの症例に存在する遺伝的な原因が現在のところ認識されてない可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明は、配列番号1、3もしくは5の塩基配列またはそのホモログからなるポリヌクレオチドを提供するものである。配列番号1はAGS2(RNASEH2B)の塩基配列を示し、配列番号3は、AGS3(RNASEH2C)の塩基配列を示し、SEQ IN No:5はAGS4(RNASEH2A)の塩基配列を示す。
これらのポリヌクレオチド配列は、NCBIに対して、NM_024570(AGS2/RNASEH2B、従来はFLJ11712と命名されていた。)、AF312034(AGS3/RNASEH2C、従来はAYP1と命名されていた。)、NM_006397(AGS4/RNASEH2A)のアクセッション番号で報告されている(機能については不明)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アイカルディ・ゴーシェ症候群における神経画像および臨床所見(a)基底核の石灰化を示す軸位CT像。(b)白質、特に前頭葉に影響を及ぼす高シグナル強度を示すMRIT2強調軸位像。比較用として、(c)基底核の石灰化を示す先天性HIV患者の軸位CT像(Belman et al., Neurology 36: 11 92-1 199 (1 986)より)。
【図2】AGS2の必須領域およびRNASEH2B(従来はFLJ11712と呼ばれた。)遺伝子の特定された突然変異の位置を示す図。(a)AGS2遺伝子座を示す染色体13q14.1の遺伝子地図。この遺伝子座は、非同族家系の同型接合染色体セグメントを重ね合わせることによって特定され、マイクロサテライトマーカーであるAC137880TG19とD13S788との間に位置する。(b)571kbpの必須領域の物理地図には、注釈情報の付いた4個の遺伝子が含まれる(UCSC Genome Browser May 2004アセンブリ)。(c)RNASEH2B(FLJll712)は、11個のエクソンを含む47kbpの塩基配列により構成され、308個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。コーディング領域を斜線で示す。突然変異の位置は、矢印で表示し、翻訳開始部位から数えた相対位置により示す。対応するアミノ酸の変化は、太字で示した。
【図3A】AGS3領域、RNASEH2C(AYP1)遺伝子、その突然変異および他の種における配列の保存を示す図。(a)染色体11q13.1の遺伝子地図。必須領域は、パキスタン人家族における連鎖不平衡データにより特定され、D11S4205からD11S987の間に位置する。RNASEH2C(AYP1)遺伝子は、マイナス鎖上のテロメアからセントロメアに向かうゲノム配列の65.2Mbpの位置から1.4kbpの範囲にある。(b)RNASEH2C(AYP1)遺伝子は、4個のエクソン(コーディング領域を斜線で表示。)を含み、164個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。突然変異の位置は、矢印で表示し、翻訳開始部位から数えた相対位置により示す。対応するアミノ酸の変化は、太字で示した。(c)両突然変異は、ほ乳類で保存されている残基で起こる。ほ乳類RNASEH2Cタンパク質の領域中、変異部位近傍の配列。Hs, Homo sapiens(ヒト); Bt, Bos Taurus(ウシ); Cf Canis familiaris(イヌ); Mm, Mus musculus(ハツカネズミ); Rn, Rattus nowegicus(ラット)。 置換アミノ酸を配列の上に示す。
【図3B】(d、e)電気泳動法によるRNASEH2C(AYP1)突然変異部位の配列決定。(d)c.428A>T(e)c.205C>T。
【図4A】図4 RNASEH2A遺伝子、ゲノムの位置、ゲノム構造および突然変異の位置。(a)染色体19p13.13の遺伝子地図。RNASEH2Aは、同族の又いとこの親から生まれた2人の子どもの患者(ファミリーF39)が同型接合SNPs(SNP A−1509361、1606327、l606325)を有する領域にあり、SNP A−1515950およびA−1508018と遺伝的に関連する可能性がある領域を規定する。(b)RNASEH2Aの遺伝子構造。RNASEH2Aは、ゲノム配列の12.8Mbpの位置(UCSC Genome Browser May 2004アセンブリ)から7kbpにわたって存在する。8個のエクソンを含み、299個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。(c)G37S変異は、バクテリアからヒトにいたるまで広範囲に保存されている残基で発生する。Hs, Homo sapiens(ヒト); Bt, Bos Taurus(ウシ); Cf Canis familiaris(イヌ); Mm, Mus musculus(ハツカネズミ); Rn, Rattus nowegicus(ラット);Ce, Caenorhabditis elegans(カンセンチュウ); Sp, Schizosaccharomyces pombe(分裂酵母); Sc, Saccharomyces cerevisiae(出芽酵母); Ec, Escherichia coli(大腸菌); Ph, Pyrococcus horikoshii(超好熱菌)。
【図4B】(d)RNASEH2A突然変異部位の電気泳動結果。(e)2型RNアーゼHタンパク質の決定した結晶構造をモデルにして推定したRNASEH2A触媒部位の三次元構造。突然変異を起こしたG37残基(中心)は、活性部位および基質結合部位と考えられるアミノ酸残基の近傍に位置する(Chapados et al., J Mol Biol 307:541-556 (2001 ))。
【図5A】ヒトRNASEH2B(FYJ111712)、RNASEH2C(AYP1)およびRNASEH2Aは、ほ乳類細胞中で発現すると、酵素活性を有するII型リボヌクレアーゼH複合体を形成する。(a)ヒトRNアーゼH2複合体およびそれに対応するS.cerevisiaeの複合体の模式図。(b)T7エピトープのタグを付けたFYJ11712およびAYP1は、mycタグが付いたRNASEH2Aと免疫共沈降(IP)する。(c,d)RNASEH2A/B/C複合体は、リボヌクレアーゼH活性を示す。
【図5B】(c)3種類のオリゴヌクレオチドのヘテロ二本鎖により、酵素活性を調べた。オリゴCは、3’末端蛍光タグ付きRNAオリゴヌクレオチドと、それに相補的な5’末端DABCYL標識DNAオリゴヌクレオチドとがハイブリダイズしたもので、いかなるリボヌクレアーゼHでも分解可能な基質である(DABCYLは、酵素により分解され、蛍光標識した3’末端フラグメントと分離するまで、蛍光を消光する。)。オリゴBは、II型リボヌクレアーゼHのみが分解可能な基質である。これは、3’末端蛍光標識したオリゴヌクレオチド鎖の15番目が1個のリボヌクレオチドに置き換わっているDNA二重鎖である。オリゴAは、オリゴC同様のRNA:DNAハイブリッドであるが、酵素による分解を受けない。3’末端蛍光標識オリゴヌクレオチドが2’O−メチルRNAヌクレオチドにより合成されているからである。
【図5C】(d)II型リボヌクレアーゼH活性は、エピトープタグの付いたRNASEH2A/B/Cを含むHEK293T細胞抽出液を用いた免疫沈降により測定することができる。myc IPは、マウス抗myc抗体により測定し、免疫沈降の対照として、IgG IPを正常なマウスIgG免疫グロブリンを用いて行った。ベクターとは、pCGT−DestおよびpcDNA3.1mychisベクターにより形質導入を行った細胞を言う。エラーバーは、標準誤差(SEM)を示す。
【図6】RNASEH2Aの突然変異は、RNアーゼH活性を低下させる。(a)野生型タグの付いたRNASEH2BとRNASEH2Cとを組み合わせて、RNASEH2Aタンパク質変異体による共導入を行ったHEK293T細胞から抽出したRNアーゼH2複合体の免疫沈降結果。RNASEH2AのG37S突然変異は、複合体形成の障害とはならないことが示される。Inは「インプット」、IPは「免疫沈降」、WTは「野生型」を表す。(b)RNASEH2Aの突然変異は、酵素活性を低下する。(a)に示した免疫沈降複合体と同じサンプルに対する蛍光RNアーゼH活性アッセイ。エラーバーは、標準誤差(SEM)を示す。
【図7】非同族の2家族におけるマイクロサテライトジェノタイピングにより、AGS2必須区間を限定する。同型接合マーカー領域を線で囲んである。
【図8A】代表的な真核生物の(a)RNASEH2B/Rnh2Bpホモログの配列。AGS患者において置換されたアミノ酸は、黒地に白抜きの文字で示し、置換したアミノ酸をその上方に示す。ヒトAYP1とS.cerevisiaeのRnh2Cpとの相同性を調べるために用いたKluyveromyces waltii のアミノ酸配列は、(b)に示した。アラインメントは、CHROMAソフトウェア(Goodstadt et al., Bioinformatics 17:845-846 (2001))を用いて行い、真核生物におけるコンセンサスシークエンスの割合を80%とした。アラインメントから除外された残基は、カッコで示した。ハイフン(−)は、配列表示の目的で使用しており、欠落しているアミノ酸を示すものではない。GI番号を配列の右に示す。コンセンサス配列の記号は、以下の通りである。a:芳香族(FHWY)、b:大きい(EFHIKLMQRWY)、c:有電荷(DEHKR)、h:疎水性(ACFGHILMTVWY)、l:脂肪族(ILV)、p:極性(CDEHKNQRST)、s:小さい(ACDGNPSTV)、Ser/Thr(ST)、+:プラスに帯電(HKR)、−:マイナスに帯電(DE)。種の略号は、以下の通りである。Ag:Anopheles gambiae、Am:Apis mellifera、An:Aspergillus nidulans、Bt:Bos taurus、Ca:Candida albicans、Ce:Caenorhabditis elegans、Cf:Canis familiaris、Cg:Candida glabrata、Cp:Cryptosporidium parvum、Dd:Dictyostelium discoideum、Dh:Debaryomyces hansenii、Dm:Drosophila melanogaster、Dr:Danio rerio、Eg:Eremothecium gossypii、Gz:Gibberella zeae、Hs:Homo sapiens、KI:Kluyveromyces lactis、Kw:Kluyveromyces waltii、Mm:Mus musculus、Nc:Neurospora crassa、Os:Oryza sativa、Rn:Rattus norvegicus、Sb:Saccharomyces bayanus、Sca:Saccharomyces castellii、Sce:Saccharomyces cerevisiae、Skl:Saccharomyces kluyveri、Sku: Saccharomyces kudriavzevii、Sm:Saccharomyces mikatae、Spa:Saccharomyces paradoxus、Spo:Schizosaccharomyces pombe、Tb:Trypanosoma brucei、Tc:Trypanosoma cruzi、Tn:Tetraodon nigroviridis、Xt:Xenopus tropicalisおよびYI:Yarrowia lipolytica。
【図8B】代表的な真核生物の(b)RNASEH2C/Rnh2Cpホモログの配列。その他は図8Aと同様。
【図9】染色体11q13.2のAGS3遺伝子地図。アジア系6家族におけるマイクロサテライトジェノタイピング結果。先祖のハプロタイプと考えられるものを太字で示し、同型接合マーカー領域を線で囲んだ。
【図10】ポリイノシン−ポリシトシン(poly(I:C))処理したHCT116細胞のRNアーゼH活性アッセイ。A:酵素耐性のあるオリゴヌクレオチド基質、B:RNアーゼH2特異的基質、C:リボヌクレアーゼH基質。
【図11】ヒツジ由来の抗RNアーゼH2A/B/C複合体に対するアフィニティー精製ポリクローナル抗体をHeK293細胞溶解物に反応させたウェスタンブロッティング。ここで、RNアーゼH2A/B.C複合体タンパク質は、エピトープタグ付きベクターにより過剰発現させてある。抗体により、過剰発現したタグ付きほ乳類RNアーゼH2A、H2BおよびH2C(下の方に見える2本の線)の検出が可能である。*は内因性物質によると思われるバンドである。
【図12】ES細胞に導入したRNASEH2BA177T ターゲティングコンストラクトの模式図。ターゲティングコンストラクトは、RNアーゼH2B遺伝子座由来の同型配列の2.5kbアームの他、エクソン6と7の間にLoxP配列(三角で表示)に挟まれたネオマイシン抵抗遺伝子カセットが挿入されてできている。ヌクレオチドの変化(矢印で表示)が導入されたことにより、AGS患者によく見られるコドン177におけるアラニンからトレオニンへの変異が生じる。このコンストラクトは、AGSのノックインマウスモデルを作成するために行う胚盤胞移植に現在用いられているES細胞株を作成するための相同組換えに用いられている。
【図13】AGS患者の不死化リンパ芽球様細胞株の野生型LCL(WT LCL)、RNアーゼH2A G37SおよびRNアーゼH2B A177Tに対するRNアーゼH2活性キネティックアッセイ。RNアーゼH2サブユニットに同型接合性変異を示す細胞株では、野生型リンパ芽球様細胞株(WT)と比較して、酵素活性が弱くなっている。
【図14】AGS患者のリンパ芽球様細胞株においてRNアーゼH2酵素活性が低下していることを示すエンドポイント蛍光RNアーゼHアッセイ。
【図15】a:可溶性組換えRNアーゼH2タンパク質複合体のSDS PAGEゲル電気泳動法。b:組換えGST、野生型GST−RNアーゼH2複合体およびAサブユニットにG37S変異を有するGST−RNアーゼH2複合体による酵素活性。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで、ポリヌクレオチドの「ホモログ」とは、ポリヌクレオチドに対して核酸の欠失、置換または付加による修飾を行い、配列番号1、3または5に示す塩基配列に対して、少なくとも65%以上の相同性、例えば、少なくとも70%や、例えば、少なくとも74%の相同性を有するものを言う。一つの実施態様では、ポリヌクレオチドは、配列番号1、3または5に示す塩基配列に対し、75%や80%以上の相同性を有し、好ましくは85%の相同性を有する。「ホモログ」には、オーソロガス遺伝子を含む。この遺伝子は、異なる種属における等価な遺伝子を言う。
【0014】
一つの実施態様では、ホモログは、配列番号1、3または5に示す塩基配列に対し、ダイレクトシークエンスや配列比較で評価した場合、90%以上の相同性を有し、例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有する。
【0015】
配列の相同性は、ダイレクトベストフィットシークエンスアラインメント比較法やBLASTなどの任意の相同性検索アルゴリズムによって、決定することができる。BLASTの解説は、Altschul et al., in J Mol Biol 25:403 (1990)に記載されている。アラインメントの相同性スコアSは、置換スコアとギャップスコアの和として計算される。「実質的な相同性」とは、BLASTで評価した場合に、期待値(E)が低い場合を言う。期待値とは、Sと同等以上のスコアを有するアラインメントであって、データベース検索を行った場合偶然に検出されるアラインメントの数を示す。E値が低いほど、重大な意味を持つ。
【0016】
特に、発現するアミノ酸に影響を及ぼさない塩基配列への修飾(遺伝子コードの重複(redundancy)によるもの)は、「ホモログ」の定義に該当する。また、「ホモログ」には、配列番号1、3または5の任意の配列のうちの15個の連続した塩基を有するポリヌクレオチドと、好ましくはストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズしうるポリヌクレオチドが該当する。一つの実施態様では、ポリヌクレオチドは、配列番号1、3または5の任意の配列のうちの20個以上の連続した塩基(例えば、25〜50の連続した塩基)を有するポリヌクレオチドと、好ましくはストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズする。
【0017】
ポリ核酸の安定なハイブリダイゼーションは、水素結合による塩基対形成によって起こる。水素結合による塩基対形成は、二本鎖構造に含まれる2本のポリヌクレオチド鎖の相補性の程度およびハイブリダイゼーションが起こる条件によって、影響を受ける。特に、塩濃度および温度は、ハイブリダイゼーションに影響を及ぼす。当業者であれば、ポリヌクレオチド二重鎖の有効な溶融温度(E Tm)は、以下の式で示されることは自明であろう。
ETm=81.5+16.6(logM[Na+])+
0.41(%G+C)−0.72(%ホルムアミド)
【0018】
ハイブリダイゼーションがストリンジェントな条件下で行われる場合、相補性が高い塩基対の配列のみが二重鎖として残る。ここで、ハイブリダーゼーションに関して「ストリンジェントな条件」とは、60℃から68℃の0.1×SSCで洗浄することを言う。洗浄条件には、適切な濃度のSDSを任意に加えて良く、例えば、0.1%SDSを加えて良い。
【0019】
ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、一重鎖であっても二重鎖であってもよい。二重鎖DNA(例えばcDNA)は、ほとんどの場合において、通常便宜良く応用することができる。ポリヌクレオチドは、ベクターの形であってよく、例えば発現ベクターであってよい。
【0020】
本発明のポリヌクレオチドは、分離したポリヌクレオチドであっても、組換えポリヌクレオチドであってもよい。ポリヌクレオチドは、発現ベクターやクローニングベクターに取り込むことができる。このようなベクターは、宿主細胞の形質移入や形質転換を行うために用いることができ、宿主細胞は、従来の培養培地を用いて、公知の方法に従い、培養されたものであってよい。
【0021】
クローンDNAを適切なベクターに取り込む方法、宿主細胞の形質移入や形質転換の方法および形質移入や形質転換を行った細胞の選別方法は、すべて当業者には公知であり、多数の適切な方法が、文献に記載されている(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001参照)。
【0022】
適切な宿主細胞には、バクテリア、酵母、昆虫、ほ乳類および植物の細胞が含まれる。通常、宿主細胞には、使用するベクターに適合性のものが選択される。
【0023】
一つの実施態様では、宿主細胞は、ヒトまたはヒト以外のES細胞であってよい。
別の態様では、本発明は、変異型RNアーゼH2を発現するリンパ芽球様細胞株を提供する。
【0024】
タンパク質(例えば、RNアーゼH2A、RNアーゼH2B、RNアーゼH2C)に関し「変異型」とは、野生型アミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するタンパク質を言う。RNアーゼH2Bの野生型配列は配列番号2に、RNアーゼH2Cの野生型配列は配列番号4に、RNアーゼH2Aの野生型配列は配列番号6に示してある。
【0025】
変異型タンパク質は、野生型タンパク質とは異なる機能や活性を示すことができるが、これは本質的なことではない。タンパク質複合体(例えば、RNアーゼH2)に関し「変異型」とは、複合体を構成するタンパク質のうち少なくとも1つが先に定めた変異型タンパク質である複合体を言う。変異型タンパク質複合体は、野生型複合体とは異なる機能や活性を示すことができるが、これは本質的なことではない。
【0026】
一つの実施態様では、本発明は、配列番号1に示す塩基配列またはそのホモログからなる組換えポリヌクレオチドおよびその配列によりコードされるタンパク質を提供する。
【0027】
一つの実施態様では、本発明は、配列番号3に示す塩基配列またはそのホモログからなる組換えポリヌクレオチドおよびその配列によりコードされるタンパク質を提供する。
【0028】
一つの実施態様では、本発明は、配列番号5に示す塩基配列またはそのホモログからなる組換えポリヌクレオチドおよびその配列によりコードされるタンパク質を提供する。
更に別の態様では、本発明は、配列番号2、4もしくは6のアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを提供する。
【0029】
ここで、タンパク質の「ホモログ」とは、タンパク質に対してアミノ酸の欠失、置換または付加による修飾を行い、配列番号2、4または6に示すアミノ酸配列に対して、少なくとも65%以上の相同性、例えば、少なくとも66%や、例えば、少なくとも70%の相同性を有するものを言う。一つの実施態様では、タンパク質は配列番号2、4または6に示すアミノ酸配列に対して、少なくとも75%の相同性または80%の相同性、好ましくは85%の相同性を有する。一つの実施態様では、ホモログは、配列番号2、4または6に示すアミノ酸配列に対し、90%以上の相同性を有し、例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有する。「ホモログ」には、異なる種属由来のオーソロガスタンパク質を含む。
【0030】
また、本発明は、配列番号1、3もしくは5のうちの任意の塩基配列またはそのホモログによってコードされるタンパク質を提供する。塩基配列は、ポリヌクレオチドの一部であってよく、そのポリヌクレオチドは任意の組換えポリヌクレオチドであってよい。ポリヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドの一部を形成することができ、更にベクターの一部を形成することができる。
【0031】
一つ実施態様では、本発明は、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを提供する。
一つ実施態様では、本発明は、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを提供する。
【0032】
一つ実施態様では、本発明は、配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを提供する。
一つの実施態様では、本発明のタンパク質は、キメラ(融合)タンパク質の一部を形成することができる。
【0033】
明確にしておくが、本明細書で使用される「タンパク質」とは、ペプチドまたはポリペプチドも意味し、ポリマーの特定の大きさについて示すものではない。
【0034】
更に別の態様では、本発明は、RNアーゼH2の組換え体であって、
i)配列番号1、配列番号3もしくは配列番号5の塩基配列によってコードされるタンパク質またはそのホモログと
ii)配列番号2、配列番号2もしくは配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログとからなる
ことを特徴とするRNアーゼH2の組換え体を提供する。
【0035】
一つの態様では、本発明は、RNアーゼH2の組換え体であって、
i)配列番号1の塩基配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Bまたは配列番号2のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2B、
ii)配列番号3の塩基配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Cまたは配列番号4のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2C、
iii)配列番号5の塩基配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Aまたは配列番号6のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2Aのうち少なくとも1つを含む
ことを特徴とするRNアーゼH2の組換え体を提供する。
【0036】
一つの実施態様では、コンポーネントi)、ii)およびiii)のうち、少なくとも2つが含まれる(例えば、i)とiii)、i)とii)、あるいはii)とiii))。一つの実施態様では、3つのコンポーネントi)、ii)およびiii)がすべて含まれる。複合体の他のコンポーネントも任意に含まれてよい。
【0037】
組換えRNアーゼH2複合体は、分子生物学で有用であり、特にcDNA生産その他のプロセスでDNA−RNAハイブリッドを分解したり抑制するプロセスにおいて有用である。また、単一または複数のリボヌクレオチドが埋め込まれたDNA二重鎖を開裂する場合にも有用である。組換えRNアーゼH2複合体は、複合体の基質特異性や活性を変化させることができる化合物を特定するアッセイにも有用である。複合体の活性を変化させることができる化合物は、コンポーネントの任意の一つまたは複合体全体に対して作用する活性化因子(アゴニスト)や不活性化因子(アンタゴニスト)である場合がある。あるいは、酵素活性を変化させることができる化合物は、RNアーゼH2の上流調節因子に対して作用する場合がある。アッセイは、細胞アッセイであってもよく、タンパク質アッセイであってもよい。複合体の1以上のコンポーネントは、例えば、AGS4遺伝子のG37Sのように、野生型から任意に突然変異を起こしていてもよい。このような突然変異が複合体の活性やその基質特異性に対して及ぼす影響については、アッセイにより評価することができる。
【0038】
また、コンポーネントi)、ii)またはiii)のうちの任意の1つは、分子生物学やアッセイにおいて、残りの2つのコンポーネントのうちの1つまたは両方とは独立して使用することができる。
【0039】
RNアーゼH2は、細胞中においてRNアーゼH活性の主要な働きを担っているため、この酵素の活性が低下することによって、RNA−DNAハイブリッドの代謝に依存する細胞プロセスに対して重大な影響を及ぼし、自己免疫疾患の病因を引き起こす原因となっていると考えられる。そのような自己免疫疾患には、AGSやSLEの他、細菌感染症、特にウイルス感染症が含まれるが、それに限定されるものではない。細菌感染症には、その他、バクテリア感染症や真菌感染症がある。ウイルス感染症に関しては、特に、パンデミックウイルス感染症について言及する必要がある。例えば、インフルエンザウイルスによるパンデミックがあり、先天性免疫反応が不適切な不活性化作用を受けることにより、高い死亡率につながる。
【0040】
RNアーゼH2は、ラギング鎖のDNA複製過程において、岡崎フラグメントのRNAプライマーを除去する働きに関与していると提唱されている。Rnh2を欠失したS.cerevisiaeの場合、生存能力に影響は生じないものの、ヒドロキシウレアに対する感受性が高くなる。
【0041】
RNアーゼH2は、1型RNアーゼHと異なり、DNA中に埋め込まれた単一リボヌクレオチドを認識することができる。それゆえ、この酵素は、ゲノムDNA中に不適切に取り込まれたリボヌクレオチドを認識し、処理する上で重要である。このような誤った取り込みは、dNTPが欠損した状態で頻繁に起こるが、このことは、Rnh2突然変異株でヒドロキシウレアに対する感受性が高いことに対する別の説明を提供している。
【0042】
一本鎖RNAが二重鎖DNAのうちの1本と結合すると、もう1本のDNA鎖は、一重鎖DNAの「R−ループ」を形成して移動する。このようなループは、真核細胞における転写後にRNA結合タンパク質の機能が阻害されたときにも起こる。RNアーゼHには、このような構造が起こることを抑制するとともに、その結果生じるゲノムDNAの不安定性を抑制する働きがあると考えられている。
【0043】
それゆえ、RNアーゼH活性が失活することは、DNA合成、DNA中に誤って取り込んだリボヌクレオチドの除去やR−ループ形成の抑制に関して、重大な結果をもたらす可能性がある。
【0044】
逆転写は、HIVその他のレトロウイルスの複製に不可欠なプロセスであり、抗ウイルス療法の重要な薬剤標的である。このプロセスで形成するDNA−RNAハイブリッドは、内因性RNアーゼHによる崩壊を起こす可能性があるため、抗ウイルス作用において重要な働きをすることができる。よって、RNアーゼH2の突然変異により、ホストの抗ウイルス防御反応に障害が生じ、通常のウイルス病原菌の結果としてAGSが引き起こされる場合が考えられる。
【0045】
あるいは、免疫不全がAGS、SLEの原因であることも考えられ、細胞性RNアーゼH活性の低下により内因性RNA−DNAハイブリッドレベルが上昇している場合には、免疫不全が、自己免疫疾患や細菌感染症に関して重要な作用を及ぼしている可能性がある。dsRNAおよびdsDNAは、自然免疫の活性因子であって、I型インターフェロンの生産を活性化する(Kawai et al., Nat lmmunol 7:131-137, 2006およびKrieg et al., Annu Rev lmmunol 20:709-760, 2002を参照)。その他のヌクレアーゼが損傷を受け、死細胞から細胞外に放出される核酸を除去する機能が低下することにより核酸が循環する結果として、多系統自己免疫疾患が引き起こされる可能性が考えられている。これを支持する証拠としては、SLE患者にはDNアーゼ1に異型接合突然変異が見られる場合があることや、DNアーゼ1-/-マウスが紅斑様表現型を示すことが挙げられる(Napirei et al., Nat Genet 25:177-181, 2000参照)。更に、DNアーゼII-/-|fnR-/-マウスが関節リウマチに似た慢性多発性関節炎を示すことが最近報告されており(Kawane et al., Nature 443:998-1002, October 2006参照)、RNA−DNAハイブリッドが自然免疫を刺激し、AGSの診断に有用な高インターフェロンα濃度が上昇する理由の説明を示すと考えられている。RNアーゼH2機能の障害も同様に、内因性RNA−DNAハイブリッドの濃度を上昇させ、その濃度上昇がdsRNAやdsDNAの場合と同様の機序によりインターフェロンαの産生を刺激することがある。以上のことから、中枢神経系に過剰に生産されたインターフェロンαによって、AGSの神経病理上の特徴を説明することができるが、それはトランスジェニックマウスモデルで示されており、このモデルでは神経膠細胞にインターフェロンαが常に発現している(Campbell et al., Brain Res 835146-61, 1999参照)。
【0046】
SLEと自己免疫疾患との関連性は、最近の研究において示されており、例えば、Kelly et al., Arthritis Rheum 54:1557-1567, 2006では、dsRNAがTLRに結合することによってIFNの産生が起こることを示し、Lovgren et al., Arthritis Rheum 50:1861-1872, 2004では、anti−RNA AbがIFN誘導に必要なことをin vitroSLEアッセイで示しており、Sigurdsson et al. Am J Hum. Genet. 76:528-537, 2005においては、SLEがIFN経路の機能障害により生じること、そしてGraham et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 104:6758-6763, 2007では、IFN調節因子の突然変異とSLEリスク増加との関連性を示している。
【0047】
最近の説では、インフルエンザに対する自然免疫反応にSLEと共通の病因が見られることが報告されている。例えば、Cheung et al., Lancet 360:1831-1837, 2002では、TNF―αの上昇はH5N1/97型による病態の悪化に関連していることを示しており、Kobasa et al., Nature 445:3l9-323, 2007では、非ヒト霊長類において1918年型インフルエンザウイルスに対して非定型自然免疫反応が見られたことが報告され、Lipatov et al., Journal of General Virology 86:1121-1130, 2005は、H5N1型インフルエンザに感染させた9種類のモデルにおいてサイトカインのバランスが崩れたことを示している。
【0048】
従って、RNアーゼH2の活性や基質特異性を変化させることができる化合物を提供することは、以下の目的において有益である:
a)RNアーゼH2活性を高めて、AGSの症状を抑えること。
b)RNアーゼH2活性を高めて、微生物感染症を抑えること。なかでもバクテリア感染症やウイルス感染症があるが、これに限定されるものではない。レトロウイルス感染(HIV感染等)については、特段の言及を要するが、この場合には、宿主細胞でウイルス複製が起こる際にDNA−RNAハイブリッドが形成される。また、インフルエンザのパンデミック株についても言及を要するが、例えば1918年型インフルエンザウイルス株やH5N1型インフルエンザウイルス株のような死亡率が高いウイルス株では、自然免疫反応の活性化が不十分であることが示唆されている(Cheung et al., The Lancet 360:1831-1837, 2002およびLipatov et al., Journal of General Virology 86: 1121-1130, 2005参照)。
c)RNアーゼH2活性を高めて、ゲノムDNAの不安定度を低くすること、特にR−ループ形成を抑制すること。
d)RNアーゼH2活性を高めて、自己免疫疾患を抑えること。自己免疫疾患の例としては、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、セリアック病、クローン病、糖尿病(I型)、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、アジソン病、関節リウマチ、乾癬および多発性硬化症があるが、これらに限定するものではない。
e)RNアーゼH2活性を高めて、cDNAの生産等、複合体による分子生物学的反応の効率を高めること。
f)RNアーゼH2活性を下げて、ウイルスを用いた遺伝子治療の効率を高めること。(RNアーゼH2活性は、この治療法の有用性を阻害するホスト応答の一部を形成する。RNアーゼH2活性を下げることにより、このホスト応答を少なくとも一部分抑制することにつながる。)
g)RNアーゼH2活性を下げて、ウイルス感染に対するホスト免疫反応を刺激すること(Akwa et al., J. Immunol 161:5016-26, 1998参照)。
【0049】
更に、本発明では、RNアーゼH2もしくはそのコンポーネントの活性化因子もしくは不活性化因子またはRNアーゼH2基質特異性の調節因子を特定するアッセイを提供し、当該アッセイは:
i)被験物質とRNアーゼH2またはそのコンポーネントと接触させ、該コンポーネントがRNASEH2B、RNASEH2C、RNASEH2Aまたはその任意の組み合わせである;
ii)RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、該被験物質存在下任意の時間にわたって測定する;及び
iii)該被験物質のRNアーゼH2またはそのコンポーネントに対する活性を測ることを含む。
【0050】
このアッセイは全てのRNアーゼH2複合体に対して実施することができ、その複合体は、上述の組換え複合体であってもよい。あるいは、このアッセイを修正して、RNアーゼH2複合体のコンポーネントに対して実施することができ、そのコンポーネントは、例えば組換え体であるRNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2Aであってもよい。
【0051】
また、上述のアッセイは、被験物質とRNアーゼH2の変異体またはその変異コンポーネント(例えば、RNASEH2A、RNASEH2BもしくはRNASEH2Cまたはその組み合わせ)とを接触させて実施してもよい。RNアーゼH2の変異体またはそのコンポーネントは、リンパ芽球様細胞株のような細胞株やげっ歯類のような非ヒトトランスジェニック動物で発現してもよい。
【0052】
一実施態様では、RNアーゼH2複合体は、細胞内に存在する。
一実施態様では、アッセイは、炎症調節因子に対して実施してよく、その調節因子は、向炎症性でも抗炎症性でもよい。一実施態様では、アッセイは、抗微生物(例えば、抗ウイルス)因子を特定するために実施してよい。
【0053】
そのアッセイは、内因性RNアーゼH2活性を測定する細胞系アッセイであってよい。このアッセイは、RNアーゼH2またはRNアーゼH2の上流にある経路に対して間接的に作用する調節因子を特定することができる。このアッセイは、ウイルスのRNアーゼHもしくはほ乳類(例えばヒト)のRNアーゼH2の不活性化因子または阻害因子の作用を測定するうえで有用であるが、それは、このような不活性化因子や阻害因子が、ウイルスRNアーゼHのみに対して特異性があれば、有効な抗ウイルス療法となりうるからである。ここで述べたようなRNアーゼH2複合体に作用すると推定されるこのような抗ウイルス因子は、その効果、特にほ乳類ホストに対する副作用と考えられる範囲を生体内で測定する上で重要である。
【0054】
前記アッセイの工程ii)は、例えば、標識化オリゴヌクレオチド基質を導入することにより、行うことができる。一実施態様では、標識化オリゴヌクレオチドは、RNアーゼH2で分解すると、蛍光タグを放出する。分解を受けていないオリゴヌクレオチドは、もう一方の塩基鎖上の近傍にクエンチャ分子が存在するため、蛍光を発しない。このようにして、蛍光強度はRNアーゼH2活性の指標となる。この実施態様では、オリゴヌクレオチドは、RNアーゼH2またはそのコンポーネントの基質として作用する。このオリゴヌクレオチドは、二重鎖DNAであっても、二重鎖RNAであっても、二重鎖DNA−RNAハイブリッド分子であってもよい。
【0055】
工程iii)は、被験物質が存在しない同一の条件下におけるRNアーゼH2活性と比較することによって、行うことができる。
【0056】
このアッセイは、一定の時間にわたって行うことができ(すなわち、動態アッセイ)、例えば、10分から60分間実施することができる。RNアーゼH2活性の測定は、測定中、適当な時間間隔(好ましくは、一定の間隔)で行うことができ、例えば、2分から20分間隔で実施することができる。一実施態様では、アッセイを30分にわたり実施し、活性測定を5分ごとに行う。
【0057】
更に、本発明は、RNアーゼH2の一以上のコンポーネントにおける修飾(例えば、アミノ酸変異)の影響を測定するアッセイを提供し、当該アッセイは:
i)少なくとも1つのコンポーネントが野生型に対して変異型であるRNアーゼH2を提供する;
ii)該RNアーゼH2とそれに対する基質とを接触させる;
iii)該RNアーゼH2の活性を、任意の時間にわたって測定する;及び、
iv)修飾されたコンポーネントがRNアーゼH2活性に及ぼす影響を測定すること含む。
【0058】
一実施態様では、RNASEH2Bの野生型は、配列番号2のアミノ酸配列を有する。一実施態様では、RNASEH2Cの野生型は、配列番号4のアミノ酸配列を有する。一実施態様では、RNASEH2Aの野生型は、配列番号6のアミノ酸配列を有する。
【0059】
一実施態様では、RNアーゼH2は、組換え体である。
一実施態様では、RNアーゼH2は、リンパ芽球様細胞株のような細胞株で発現する。あるいは、RNアーゼH2は、非ヒトトランスジェニック動物で発現することができる。
一実施態様では、RNアーゼH2複合体は、細胞内に存在する。
【0060】
上述アッセイの工程ii)は、例えば、標識化オリゴヌクレオチド基質を導入することにより、行うことができる。一実施態様では、標識化オリゴヌクレオチドは、RNアーゼH2で分解すると、蛍光タグを放出する。分解を受けていないオリゴヌクレオチドは、もう一方の塩基鎖上の近傍にクエンチャ分子が存在するため蛍光を発しない。このようにして、蛍光強度はRNアーゼH2活性の指標となる。この実施態様では、オリゴヌクレオチドは、RNアーゼH2またはそのコンポーネントの基質として作用する。このオリゴヌクレオチドは、リボヌクレオチドが埋め込まれた二重鎖DNAであっても、RNAであっても、二重鎖DNA−RNAハイブリッド分子であってもよい。
【0061】
工程iii)は、被験物質が存在しない同一の条件下におけるRNアーゼH2活性と比較することによって、行うことができる。
【0062】
一実施態様では、RNアーゼH2複合体の修飾コンポーネントのアッセイは、その他のコンポーネントの存在下、非存在下で実施する。このような実施態様では、例えば、RNASEH2A(AGS4)G37SやRNASEH2B(AGS2)A177Tのように、機能性に影響を及ぼすRNアーゼH2コンポーネント変異型を使用することが有益である場合があり、アッセイを実施することにより、RNアーゼH2活性の回復を調べることができる。あるいは、アッセイを実施することにより、RNアーゼH2活性の低下を調べることができる。あるいは、アッセイにより、RNアーゼH2の基質特異性の変化を調べることができる。
【0063】
このアッセイは、一定の時間にわたって行うことができ(すなわち、動態アッセイ)、例えば、10から60分間実施することができる。その場合、RNアーゼH2活性の測定は、測定中、適当な時間間隔(好ましくは、一定の間隔)で行うことができ、例えば、2分から20分間隔で実施することができる。一実施態様では、アッセイを30分にわたり実施し、活性測定を5分ごとに行う。
【0064】
RNASEH2ノックアウトマウスを標準的な手法により作成することができる。このようなマウスに対して、Akwa et al., J Immunology 161:5016-5026 (1998) に示すように、IFN−αを発現するトランスジェニックマウスで実施する方法に従ってウイルスでチャレンジを行った後、ほ乳類動物RNアーゼH2のアゴニストを検査する目的で使用し、任意に上述のアッセイによりin vivoで検査を行い、ウイルスの作用が改善したかどうかを確認することができる。このようなノックアウトマウスは、本発明の一部分である。
【0065】
別の態様では、本発明は、患者のゲノム中のRNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2A遺伝子における突然変異を検出するアッセイが提供され、当該アッセイは:
i)患者から採取した白血球細胞の溶解を行うこと、及び、
ii)溶解した白血球細胞のRNアーゼH2活性を測定することを含む。
【0066】
検出する突然変異は、RNアーゼH2活性に影響を及ぼす突然変異であって、その活性を野生型複合体の通常範囲に対して抑制または亢進するものである。
【0067】
場合によって、通常範囲と比較してRNアーゼH2活性の低下または亢進が認められた場合には、RNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2A遺伝子の配列決定を実施することができる。
【0068】
このアッセイは、RNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2Aの任意の遺伝子に異型または同型接合型突然変異によりRNアーゼH2活性が低下している患者を特定するので、AGSの診断上の補助としたり、あるいは子どもがAGS患者になるリスクがある親に対して適切なカウンセリングを行う上で用いることができる。このアッセイは、自己免疫疾患、先天的ウイルス感染症や(RNアーゼH2活性の低下により)ウイルス感染の危険性が高い人に対して、診断治療を行う上でも有益となりうる。
【0069】
同様に、このアッセイによって、SLEその他の自己免疫疾患患者や、子どもがSLEその他の自己免疫疾患に罹患するリスクがある患者を特定することもできる。更に、このアッセイは、ウイルス感染症の程度に関する情報を提供したり、ウイルス感染症の診断補助として用いたり、微生物感染症に罹患しやすい患者を特定するために用いることができるが、特にウイルス感染症に限定されるものではない。
【0070】
別の実施態様では、RNアーゼH2活性を測定するこのアッセイは、患者から得られた遺伝子サンプルの遺伝子型を特定することのみによって実施することができ、その方法には、フィンガープリント法やサテライト法、あるいはゲノム中の関連部分の塩基配列を特定する方法がある。得られた遺伝子情報は、RNアーゼH2活性が変化している患者を特定し、AGS、SLE、自己免疫疾患、細菌感染症に対する罹患しやすさを診断し、または遺伝的リスクやその傾向を特定するための補助として用いることができる。
【0071】
更に別の態様では、本発明には、配列番号1、3もしくは5のいずれかの塩基配列によりコードされるタンパク質もしくはそのホモログ、配列番号2、4もしくは6のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質もしくはそのホモログもしくは上述の組換えRNアーゼH2複合体と特異的に結合することができるポリクローナルまたはモノクローナル抗体が含まれる。RNアーゼH2複合体コンポーネントの内の任意の1つの変異体(例えば、RNASEH2AのG37S変異体)に対する抗体も、含まれる。モノクローナル抗体は、例えば、酵素活性を有する組換えRNアーゼH2複合体でマウスを免疫化した後、既知の方法によりハイブリドーマ融合を行うことにより産生することができる。クローンは、ELISA法により、スクリーニングを行い、更にエピトープタグを付けたコンストラクトを発現する細胞を用いた免疫蛍光法およびウエスタンブロットアッセイにより検証することができる。抗体は、分子生物学的手法の補助として、RNアーゼH2の精製(例えば、診断テスト用)にまたはRNアーゼH2複合体もしくはその機能の検査の補助として、用いることができる。
【0072】
一実施態様では、抗体は治療用抗体であって、ハイブリドーマのような細胞株で産生される(Kohler et al., Nature 256:495-497, 1975およびGalfre Meth Enzymol 73:3, 1981参照)。適切な治療用抗体には、げっ歯類動物抗体、キメラ抗体、scFvs、ヒト型化抗体およびヒト抗体が含まれる。キメラ抗体は、遺伝子工学的に作成した抗体であり、約三分の一が非ヒト由来のタンパク質、約三分の二がヒト由来のタンパク質で構成されている。ヒト型化抗体は、遺伝子工学的に製造され、ヒト抗体中に最低量の非ヒトタンパク質(通常では5から10%)を含み、有害なホスト免疫反応を最小限に抑えたものである(Riechmann et al., Nature 332:323-327, 1988参照)。
【0073】
F(ab’)2、FabおよびFvフラグメントなど、抗体のフラグメントも「抗体」に該当する。
【0074】
また、本発明は、RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cに対するプライマーを少なくとも1つ含む診断キットを提供する。適切なプライマーには、表1に示したものが含まれ、適切な補助要素と組み合わされる。ここで言う適切な補助要素には、バッファ、dNTP、酵素(例えば、TAQポリメラーゼ)、標識化化合物等が含まれる。キットは、核酸サンプル中の遺伝子異常を検出するために用いられ、その遺伝子異常は(検出された場合には)、AGS、SLE、自己免疫疾患や細菌感染症、特にウイルス感染症(ただし、これに限定されない。)に対する罹患しやすさに関する遺伝的傾向を示すことができる。
【0075】
一実施態様では、上述したRNアーゼH2複合体に特異的な抗体を用いて、変異タンパク質を含むRNアーゼH2を特定することができる。
【0076】
別の実施態様では、上述したRNアーゼH2複合体に特異的な抗体を治療に用いることができる。例えば、ウイルスを用いた遺伝子治療の効果を高めたり、ホストの免疫反応を刺激するために、この抗体を使用することが可能である。
【0077】
本発明は、変異型RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物の製造を提供し、糖が方法は:
a)変異型RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするポリヌクレオチドを含む組換え遺伝子コンストラクトを非ヒト接合体または非ヒト胚幹細胞に導入すること、
b)該接合体または胚幹細胞から非ヒトトランスジェニック動物を作成すること、
c)変異型RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物を製造することを含む。
【0078】
変異型RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするポリヌクレオチド配列は、好ましくは、タンパク質がトランスジェニック動物で発現されるように、プロモーターと連結する。
【0079】
変異型RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物は、本発明の更なる一態様である。
【0080】
非ヒトトランスジェニック動物は、任意の適当な動物であってよく、マウス、ラット、霊長類、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、魚、ウシ、ブタおよびヒツジを適当な例として挙げることができる。しかし、このリストは、網羅したものではなく、他の動物も使用することが可能である。
【0081】
一実施態様では、非ヒトトランスジェニック動物は、げっ歯類である。適当な例としては、ラットやマウスが含まれる。
【0082】
本発明の方法において使用してもよい公知の技術で使用されている胚幹細胞には、C57BL/6、CBA/、BALB/c、DBA/2およびSV129のマウス系列から得られた胚幹細胞があるが、これに限定されるものではない。好ましくは、C57BL/6マウス由来の胚幹細胞を使用する(Seong, E et al., Trends Genet. 20, 59-62, 2004; Wolfer et al., Trends Neurosci. 25:336-340, 2002)。
【0083】
導入遺伝子(RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cのコード遺伝子配列を含む。)は、種々の方法によって、動物の生殖細胞系列に導入することができる。例えば、導入遺伝子は、受精卵の雄性前核に直接インジェクトすることができる(例えば、Hogan et al., Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press (1994)参照)。その結果1つの遺伝子座には導入遺伝子の異なる数のコピーがランダムに、通常はヘッドツーテール状に、導入されることとなる(例えば、Costantini and Lacy, Nature, 294, 92, 1981参照)。インジェクトした卵は、偽妊娠誘起したレシピエント雌へ移植する。そのようにして生まれる子孫の中には、導入遺伝子のコピーを一以上ゲノムに組み込んでいる場合があり、その部位は通常1つである。これらの創始動物を交配させて、トランスジェニック動物系列を作り、戻し交配を行って選択する遺伝子背景を有する系を作成する。当業者であれば、両染色体に導入遺伝子を導入することの利点を理解できよう。あるいは、導入遺伝子は、胚幹(ES)細胞における相同組換えなどのジーンターゲッティングにより動物に導入することができる。導入遺伝子を導入する方法として適切な既知の方法には、胚盤胞移植がある。この方法では、導入遺伝子を含むターゲティングコンストラクトは、当該分野で公知の方法により調製される。
【0084】
導入遺伝子を含むターゲティングコンストラクトは、公知の方法により適当な宿主細胞に導入できる。トランスジェニック胚の生産およびそのスクリーニングは、例えば、Joyner ed., Gene Targeting, A Practical Approach, Oxford University press, 1993に記載されている既知の手法により行うことができる。トランスジェニック動物または胚のDNAのスクリーニングは、サザンブロット法やRCR法により行うことができる。
【0085】
非ヒトトランスジェニック動物は、健康な動物であってもよいし、導入遺伝子により導入した突然変異による疾患や障害の徴候を示してもよい。このようなトランスジェニック動物は、薬剤に関する薬理研究に適しており、例えばAGS、SLE、自己免疫疾患やウイルス感染症の疾患モデルとして使用可能である。このようなモデルでは、AGS、SLE、自己免疫疾患やウイルス感染症に対して罹患しやすくなっている。
【0086】
本発明について、以下に示す非限定的な実施例や図により更に説明する。
【実施例】
【0087】
実施例1:患者および被験者
本試験の対象患者は、全員AGSに関する診断規準を満たしており、早期脳障害を示す神経学的特徴を有し、出産前における一般感染症の感染を示す所見はなく、頭蓋内石灰沈着が典型的な領域に見られ、脳脊髄液(CSF)リンパ球増多症(>5細胞/mm3)またはCSF中にIFN−αが>2IU/mLであった。同意を得て、病気の子ども、その親および病気に罹患していない兄弟姉妹から血液サンプルを採取し、標準的な方法によりゲノムDNAを末梢血白血球から抽出した。本試験は、Leeds Health Authority/United Teaching Hospitals NHS Trust Research Ethics CommitteeおよびScottish Multicentre Research Ethics Committee (04:MRE00/19)の承認を受けて実施した。
【0088】
ジェノタイピングおよび連鎖解析
SNPアレイによるゲノムワイドなスキャンをMRC Geneservice(Cambridge、UK)のAffymetrix Human Mapping 10K Xba142 2.0 GeneChipsRを用いて行った。既報の方法(Jackson et al., Am J Hum Genet 63: 541-546 (1998))に従い、Marshfieldの遺伝子地図(http://research.marshfieldclinic.org/genetics)から選んだ確立されたマイクロサテライトマーカーおよびヒトゲノムブラウザ配列(2004年5月版、http://genome.ucsc.edu/)により特定された新しいマイクロサテライトを用いて、AGS2およびAGS3の座位の高密度ジェノタイピングを行った。連鎖解析は、GENHUNTER(2.0β)(Kruglyak et al., Am J Hum Genet 56: 1347-1363 (1996))を用いて、常染色体劣性遺伝モデルにより、疾患アレル頻度を1対100、浸透率を1とし、マーカーのアレル頻度は等しいと仮定して実施した。
【0089】
バイオインフォマティクス
データベース検索には、PSI−BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/、Altschul et al. Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997))を用い、E値の包含閾値を2×10−3として行ったが、このデータベースは、重複のない(non-redundant)タンパク質配列データベースである。
【0090】
タンパク質の構造解析は、SWISSMODEL(Schwede et al. Nucleic Acids Res 31:3381-3385 (2003))を用いたcomparative modelling法により、デフォルト設定を用いて行い、WHAT−CHECK(Hooft et al. Nature 381:272 (1996))により、RNASEH2Aタンパク質(NP−006388)の予測構造の精度を確認した。予測用テンプレートは、入手可能なもののなかでは最善のものである、構造が既知の4種類の古菌類RNアーゼH2相同タンパク質1uaxA、1io2A、1x1pAおよび1ekeBを用いた。活性部位および予測される基質結合部位(Chapados et al., J Mol Biol 307: 541 -556 (2001))は、VMD(V1.8.3)(Humphrey et al., J Mol Graph 14: 33-38, 27-28 (1 996))を用いて注釈付けを行った。
【0091】
変異部位の検出
プライマーは、RNASEH2B、RNASEH2CおよびRNASEH2Aのコーディングエクソンの増幅を行うように設計した(プライマー配列を表1に示す。)。 精製したPCR増幅産物の配列は、ダイターミネーター(Applied Biosystems)を用い、ABI 3700 キャピラリーシーケンサ(Applied Biosystems)またはMegabace 500 キャピラリーシーケンサ(Amersham Pharmacia)を用いた電気泳動により決定した。変異解析は、Mutation Surveyor(Softgenetics)を使用して行った。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
ベクター作製
ほ乳類発現ベクターの作製には、Gatewayベクターシステム(Invitrogen) を使用した。RNASEH2B、RNASEH2CおよびRNASEH2Aのコーディング領域は、プラズミドクローン(それぞれ、CSODF031YM15、CR602872(Invitrogen)およびクローンIRAUp969G0361D、BC011748(RZPD))から増幅し、pDONR221?に導入した。AYP1は、既製品のpENTRYベクター(クローンIOH27907、Human Ultimate? Full ORF Gateway Shuttle Clone、NM_032193、Invitrogen)を使用した。pcDNA3.1mychis−DestおよびpCGT−Destは、Gateway Vector Conversion Systemを用いて、GatewayリーディングフレームカセットをpcDNA3.1mychis (Invitrogen)およびpCGT (Van Aelst et al., Embo J 15:3778-3786 (1 996))のマルチクローニングサイトに挿入して作製した。部位特異的変異処理は、RNASEH2A pENTRYクローンを用い、Stratagene Quikchangeキットをメーカーの指示に従って使用して実施した。
【0097】
免疫沈降およびウェスタンブロッティング
HEK293T細胞に対して、リポフェクタミン(Invitrogen)をメーカーの指示に従って使用し、各コンストラクト1μgを一過的に共導入した。24時間後に50mM Tris(pH 7.8)、280mM NaCl、0.5% NP40、0.2mM EDTA、0.2mM EGTA、10%グリセロール、0.1mMオルトバナジン酸ナトリウム、1μM DTTおよび1μM PMSFにより4℃で10分間細胞を溶解した。溶解した細胞は、20mM Hepes(pH 7.9)、10mM KCI、1mM EGTA、10%グリセロールおよび0.1mMオルトバナジン酸ナトリウムで1:1に希釈し、10分後に遠心分離(15800g、10分間、4℃)を行い抽出液を採取した。タンパク質を含む細胞溶解液500μgに対して、メーカーの指示に従いProtein A/G PLUSアガロース(Santa Cruz)を用いて、1μgのマウス抗−myc 抗体(クローン9B11、Cell Signalling)または1μgのマウスIgG(Santa Cruz)により免疫沈降を行った。ウェスタンブロットには、マウス抗−mycモノクローナル抗体を1/1000、マウス抗−T7モノクローナル抗体(Novagen)を1/5000の濃度で使用した。
【0098】
RNアーゼHアッセイ
10μMのオリゴヌクレオチド(Eurogentec)に対して60mM KCI、50mM TrisHCl pH8中で95℃で5分間変性行った後徐々に室温に戻すことにより、アニーリングを行った。RNアーゼH活性蛍光測定法は、60mM KCI、50mM TrisHCl pH8、10mM MgC12および0.25μMオリゴヌクレオチド二重鎖を含有する100μLを96ウェル平底プレートで、オービタルシェーカーにより37℃で3時間60rpmで振とうさせて行った。各反応には、免疫沈降物の1/10の量を使用し、陽性対照に2.5単位のE.coliRNアーゼH(Invitrogen)を用いた。蛍光は、VICTOR2 1420マルチラベルカウンター(Perkin Elmer)を使用し、励起フィルターを480nm、透過フィルターを535nmとして100m秒間測定した。
【0099】
結果
AGS2座位の精査(refinement)およびRNASEH2B(FLJ11712)の同定
マイクロサテライトマーカーの高密度ジェノタイピングを10家族に対して実施し、AGS2座位の精製を行った。非同族の2家族(F8およびF10、図7)に、同型接合マーカーの重なりを示す小領域が発見された。このような領域は、同質接合を起こした染色体領域を示すと考えられ(Broman et al., Am J Hum Genet 65:1493-1550 (1999) およびGibson et al., Hum Mol Genet 15:789-795 (2006))、稀な劣性遺伝疾患の場合には疾患遺伝子を含む可能性が極めて高い(Lander et al., Science 265:2049-2054 (1987))。この同型接合マーカーの重なり領域を用いることによって、AGS2必須領域は、染色体13q14.3上の遺伝子マーカーAC1378890TG19とD13S788(図2)間の571kbp領域にまで精製することができた。必須領域にある注釈付き4遺伝子全てのコーディングエクソンについて、配列を特定した。
【0100】
RNASEH2B(FLJ11712)はAGS2遺伝子である
スクリーニングを行った家族中の7家族でFLJ11712のミスセンス変異が発見されたものの、病因変異は、DLEU7、GUCY1B2やFLJ30707には見られなかった。更に大きなコホートでFLJ11712の変異スクリーニングを実施したところ、この遺伝子の変異を示す家族が合計で18家族発見された(表2、図2)。変異は、ほとんどがミスセンスであり、2つは異なる民族グループで頻繁に見られた(A177T、V185G)。ミスセンス変異はすべて、ほ乳類で保存されている残基の非保存的置換であり(図8)、例外は単一の保存的残基変異(Y219H)であって、この残基はDictosteliumにさかのぼるまで保存されている。ナンセンス変異は、2家族で見られ、エクソン2の終止コドン(F17)およびイントロン6のスプライス供与部変異であった(F15)。この両方のケースとも、疾患のある人は、合成異型接合型であり、二番目の変異はミスセンス変異であった。以上のことから、観察された変異スペクトラムによれば、変異による影響は、FLJ11712タンパク質の完全な喪失ではなく、ハイポモルフ型(hypomorphic)であると考えられる。全家族において、変異は疾患と関連しており、親は全員この変異に関して異型接合型であった。各変異に対して、少なくとも160の対照アレルのジェノタイピングを行った。最も一般的な変異であるA177Tのみは、検査を実施した241個のサンプル中異型接合型と判明した人が1例であった。
【0101】
【表5】
【0102】
【表6】
【0103】
RNASEH2B(FLJ11712)はイーストRnh2Bpのオルソログである
FLJ11712は、308個のアミノ酸からなるタンパク質をコードするが、このタンパク質は、機能がこれまで不明であった。半定量的RT−PCR法により、FLJ11712は広範囲のヒト組織中に検出され、ユビキタスに発現することが示唆されている(データ示さず)。
【0104】
PSI−BLAST(Altschuhl et al., Nucleic Acids Res 25:3389-3402 (1997))を用いたデータベース検索により、4回検索繰り返しを行ったところ、ヒトFLJ11712とSaccharomyces cerevisiaeタンパク質であるRnh2Bp(Rnh202)には、かなりの類似性(E=4×10―5)が見られた(図8)。Rnh2Bpは、イーストRNアーゼH2酵素複合体の必須コンポーネントである(Jeong et al., Nucleic Acids Res 32:407-414 (2004))。この発見からは、FLJ11712がほ乳類でも同様の複合体で機能していることが考えられ、AGSの場合別のRNアーゼHコンポーネントにも変異が生じている可能性を示唆する。
【0105】
RNASEH2C(AYP1)はAGS3遺伝子である
SNPアレイゲノムスキャンを5パキスタン人家族(F30−34)および1バングラデシュ家族(F35)からなる非同族の6家族に対して行った。このスキャンとその後に行ったマイクロサテライトジェノタイピング(図9)により、染色体11q13.2上のマーカーD11S4205とD11S987間に新規座位AGS3を特定したが、これは最大多点LOD値が66.8cMで4.54であった(Marshfield遺伝子地図)。更に、5パキスタン人家族におけるジェノタイピングにより、祖先ハプロタイプ(太字で示したジェノタイプ、図9)の存在が示唆されたが、これとF30家族における小さな同型接合領域とにより、AGS3必須領域をD11S4205とD11S987との間にある4.9cmの区間に精製することができた。
【0106】
注目すべきこととして、ヒトRNアーゼH2Aと生化学的に共精製されるタンパク質(Frank et al., Proc Natl Acad Sci USA 95:12872-12877 (1988))をコードするAYP1は、この必須領域内に存在する(図3)。そこで、AYP1の配列を決定し、これらの6家族における非保存的ミスセンス変異を特定した(表3および図9参照)。コドン69(R69W)における同型接合性変異が、祖先ハプロタイプと考えられる遺伝子を共有する5パキスタン人家族の全患者に認められた。別の同型接合性変異であるK1431は、バングラデシュ家族に見られた。この変異は、家族内における疾患と関連しており、いずれの変異も少なくとも172個のアジア人対照アレルには見られなかった。RT−PCRによるAYP1の発現プロファイリングからは、FLJ11712と類似した広範な発現パターンが示された。
【0107】
【表7】
【0108】
同時に、発明者らは、AYP1がイーストRNアーゼH2の第2サブユニットであるS.cerevisiaeのRnh2Cp(Jeong et al., Nucleic Acids Res 32:4407-414 (2004))のオルソログであることを明らかにした。Kluyveromyces waltiiオープンリーディングフレームによるデータベース検索の4回の検索繰り返しにより、ヒトAYP1およびS.cerevisiae Rnh2Cpを特定した(図8)。
【0109】
RNASEH2AはAGS4遺伝子である
RNASEH2Aは、染色体19p13.13上にある7kbpのエクソン8遺伝子であり、299個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。RNASE2Aは、遺伝子地図が作製されたいずれのAGS座位とも共局在化しなかった。しかし、SNPアレイゲノムスキャンデータを精査すると、既報のスペイン系白人の先祖を持つ非同族AGS家族(Sanchis et al., J Pediatr 146:701-705, 2005参照)のRNASE2A座位に同型接合性を有する小さな領域を見出した(図4a)。この家族の2人の疾患小児に対して配列を調べると、c.109G→Aの同型接合性単一塩基転換が見られ、その結果G37Sの非保存的ミスセンス変異を起こしていた(図4b)。このアミノ酸は、ヒトから古細菌に至るまで広範囲に保存されており(図4c)、基質結合溝の底部にある最初のβシートの終端の曲がった箇所に位置し、RNアーゼH活性部位の近傍にある(図4d)(Chapados et al., J Mol Biol 307:541-546, 2001)。この変異は、178個の白人対照アレルでは検出されず、両親は、この変異に関して異型接合型であった。
【0110】
RNASEH2B(FLJ11712)、RNASEH2C(AYP1)およびRNASEH2Aは、in vitroでRNアーゼH2活性を有する複合体を形成する
S.cerevisiaeのRnh2Ap−Rnh2Bp−Rnh2Cp複合体との配列相同性に鑑みて、RNASEH2B、RNASEH2CおよびRNASEH2Aタンパク質は、RNアーゼH2活性を有するタンパク質複合体を形成すると考えられる(図5a)。このことを検証するため、Gatewayシステムを用いて3遺伝子のクローニングを行い、エピトープタグの付いたほ乳類発現ベクター(pCGT−Dest(T7)およびpCDNA3.1mychis−Dest)に導入し、この3種類のコンストラクトをHEK293細胞に一過的に共導入した。抗myc抗体によるC末端タグ付きFLJ11712−mycの免疫沈降により、N末端T7タグ付きAYP1およびT7タグ付きRNASE2Aのプルダウンが認められ(図5b)、この3種類のサブユニットがin vitroで相互作用を有することが確認された。
【0111】
既報の蛍光測定法(Parniak et al., Anal Biochem 33-39, 2003)を適用して、この複合体の酵素活性を調べた。蛍光標識オリゴヌクレオチドをDABCYL標識化して蛍光を消光する相補的なDNAオリゴヌクレオチドとアニーリングを行った(図5c)。蛍光色素が結合したオリゴヌクレオチドに対して酵素による開裂が起こると、蛍光色素が隣接する消光分子から遊離して、蛍光シグナルが発生する(図5c)。
【0112】
発明者らは、RNA:DNA二重鎖である「オリゴC」が免疫沈降を起こした複合体により効果的に開裂することを見出し、この複合体がRNアーゼH活性を示すことが確認された(図5d)。更に、この免疫沈降を起こした複合体は、DNA−DNA二重鎖中に埋め込まれた単一のリボヌクレオチドを認識し、「1型」RNアーゼHであるE.coliのRNアーゼHとは対照的に、「オリゴB」を効果的に開裂することから、必要とされる「2型」RNアーゼH活性を有していることが分かる。想定されたように、「オリゴA」は、ヌクレアーゼ抵抗性2−O’メチルRNA構造を用いて合成されていることから、開裂を起こさなかった。
【0113】
RNアーゼH2複合体の変異により酵素活性が低減する
選択した病因変異(FLJ11712、A177T、T1631;AYP1、R69W、K143I;RNASEH2A G37S)を、各遺伝子の部位特異的変異処理を用いて導入し、HEK293細胞に一過的に導入し、発現させた。. 免疫沈降を行って複合体の安定性に及ぼす影響を調べるとともに、酵素活性のアッセイを実施した(図6aおよび6b)。これらの実験により、RNASEH2A G37S変異は複合体の安定性には影響を及ぼさなかったものの、触媒部位における変異に想定されるように、酵素活性が顕著に低下したことが示された(図6b)。AYP1変異の場合には、他のサブユニットと複合体を形成してプルダウンを起こすAYPサブユニット量が低下した。この低下は、酵素活性の低下と関連があった。このことから、酵素活性の低下は、変異によって複合体の形成が阻害された結果であることが示された。
【0114】
実施例2:poly(I:C)処理したHCT116細胞のRNアーゼH2活性アッセイ
発明者らの観察によれば、AGSでは自然免疫が不適切に活性化されており、このことはRNアーゼH2が自然免疫反応に関与していることを示している。この検証を行うため、dsRNAの合成アナログであるpoly(I:C)処理したが、この合成アナログはウイルス感染症と関連があり、dsRNA誘導性タンパク質キナーゼ(PKR)またはトル様受容体3(toll−like receptor 3)を介するサイトカインの生産を誘発することにより自然免疫反応を刺激することが知られている。半密集(semi−confluent)な状態のHCT116結腸癌細胞に対して、25μg/mLのpoly(I:C)(Invivogen、アメリカ)により、経時的に10%FCSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有RPMI1640培地で処理を行った。細胞からタンパク質を含む細胞溶解液を調製し、RNアーゼH2蛍光測定アッセイを行った。
【0115】
結果を図10に示す。2時間後には酵素活性が2倍になったことから、RNアーゼH2がこの経路の下流に位置して、自然免疫反応の作動因子(effector)である可能性が示唆された。
【0116】
実施例3:ポリクローナル抗体
RNアーゼH2イムノゲン(免疫原)をバクテリア発現タンパク質として発現することにより、ポリクローナル抗体を生成した("Antibodies: A Laboratory Manual" HarlowおよびLane編集, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988年12月1日発行)ISBN 978-0879693145参照)。この発現タンパク質を、Bサブユニットに付けたGSTタグにより精製した。その後、このGSTタグをPreScissionプロテアーゼ(Amersham)により切り離して、得られたタンパク質をヒツジ(Eurogentec)に注入した。注入の際には、フロイントアジュバントを使用した。1回目の注入には、完全アジュバントを用い、その後は不完全アジュバントによりブーストを行った。その結果得られたヒツジ血清を抗原複合体が結合したカラムに通し、免疫アフィニティーを利用して精製した。この抗原複合体には、イムノゲンとして用いたものと同じものを使用した。ウェスタンブロット(図11参照)により、抗体は、過剰発現した適正な分子量のサブユニットを検出可能であることが示されている。すなわち、抗体は、RNアーゼH2のA、BおよびCサブユニットに対する特異性を有することが示された。別のバンド(*)は、内因性タンパク質のうちの1つを示している可能性がある。ウェスタンブロット法により得られたバンドについて、抗タグ抗体により再検索(reprobing)して、同定を行った。
【0117】
使用した免疫源配列は、以下のとおりである。
抗RNASEH2B用(プロテアーゼ切断から残ったリンカー残基を含む。)
LEVLFQGPLGSPEFPSTSLYKKAGSTMAAGVDCGDGVGARQHVFLVSE YLKDASKKMKNGLMFVKLVNPCSGEGAIYLFNMCLQQLFEVKVFKEKHH SWFINQSVQSGGLLHFATPVDPLFLLLHYLIKADKEGKFQPLDQVVVDNV FPNCILLLKLPGLEKLLHHVTEEKGNPEIDNKKYYKYSKEKTLKWLEKKVN QNAALKTNNVNVSSRVQSTAFFSGDQASTDKEEDYIRYAHGLISDYIPK ELSDDLSKYLKPEPSASLPNPPSKKIKLSDEPVEAKEDYTKFNTKDLKTE KKNSKMTAAQKALAKVDKSGMKSIDTFFGVKNKKKIGKV(配列番号52)。
【0118】
抗RNASEH2C用
MESGDEAAIERHRVHLRSATLRDAVPATLHLLPCEVAVDGPAPVGRFFT PAIRQGPEGLEVSFRGRCLRGEEVAVPPGLVGWMVTEEKKVSMGKPD PLRDSGTDDQEEEPLERDFDRFIGATANFSRFTLWGLETIPGPDAKVRG ALTWPSLAAAIHAQVPED(配列番号53)。
【0119】
抗RNASEH2A用
MDLSELERDNTGRCRLSSPVPAVCRKEPCVLGVDEAGRGPVLGPMVYA ICYCPLPRLADLEALKVADSKTLLESERERLFAKMEDTDFVGWALDVLSP NLISTSMLGRVKYNLNSLSHDTATGLIQYALDQGVNVTQVFVDTVGMPE TYQARLQQSFPGI EVNKAKADALYPVVSAASICAKVARDQAVKKWQFV EKLQDLDTDYGSGYPNDPKTKAWLKEHVEPVFGFPQFVRFSWRTAQTIL EKEAEDVIWEDSASENQEGLRKITSYFLNEGSQARPRSSHRYFLERGLE
SATSL(配列番号54)。
【0120】
実施例4:リンパ芽球様細胞株(LCL)
AGS患者の初代B細胞にEBVを感染させ、継続的に増殖する細胞株として、リンパ芽球様細胞株(LCL)を作成した。LCLを作成する適切な方法は公知であり、例えば、Penno et al., Methods in Cell Science 15(1):43-47, 1993に記載されている。LCLに対して形質転換を行い、患者のサブユニットに見られる代表的な変異を示すようにした。
【0121】
以下のLCLを作成した。
【表8】
【0122】
細胞性酵素活性は、すでに述べたRNアーゼH活性蛍光測定法によりアッセイすることができる。エンドポイントアッセイ(図13)の他、キネティックアッセイも内蔵型温度制御装置(37℃に設定)のついたPerkin Elmer Victor Ill型装置により一定の時間間隔(例えば、5分毎)で測定可能である。RNアーゼH2変異リンパ芽球様細胞株の活性を調べるアッセイ例を図13に示した。
【0123】
実施例5:組換えRNアーゼH2
3遺伝子を含むポリシストロン性バクテリア発現コンストラクトを用いて、酵素活性を有する組換えRNアーゼH2タンパク質複合体を合成、精製した(図15a参照)。変異型および野生型の複合体の活性は、図15bに示すように、酵素アッセイにより測定することができる。
【0124】
実施例6:ウイルス複製を抑制するRNアーゼH2
RNA−DNA中間体は、ウイルスの複製に必須である。それゆえ、内因性RNアーゼH2活性のアップレギュレーションは、ウイルス複製を抑制するためのホスト反応として有益であることが期待できる。発明者らは、この考えを支持する証拠を得ており、自然免疫シグナルの強力な活性因子であるdsRNA(polyl:C)によるHCT116細胞処理後数時間内に酵素活性が増大する(図10参照)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)H2のコンポーネントをコードする遺伝子、組み換えRNアーゼH2ならびにウイルス感染症や自己免疫疾患等を治療する目的により免疫反応を操作する上で有益なアゴニスト、アンタゴニストおよび調節因子を特定するためのアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
RNアーゼHは、RNA/DNA複合体のリボヌクレオチドのエンドヌクレアーゼ的切断を行う酵素複合体である。RNアーゼHは、分子生物学において頻繁に用いられており、cDNAの逆転写を行った後にRNAテンプレートの分解を行うために使用する。
【0003】
RNアーゼHには、生化学的特徴が異なる2種類のクラス(1/Iおよび2/II)が存在する。RNアーゼH2は、ヒトおよび酵母のいずれにおいても細胞性RNアーゼH活性の主要な働きを担っている。RNアーゼH2は、DNA複製におけるラギング鎖上の岡崎フラグメントからRNAプライマーを除去する作用やDNA−RNA二重鎖の単一リボヌクレオチドの切除に関わっていると考えられている。サッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)において、Rnh2BpとRnh2Cpは、触媒サブユニットRnh2Apと共精製し、両者があれば十分にRNアーゼH2活性を再構成することができる。ヒトでは、RNアーゼH2の触媒サブユニットであるRNASEH2Aが、生化学的精製法により特定されており、酵母オルソログと明確な配列相同性を有している。しかし、別のヒトタンパクであるAYP1(現在ではRNASEH2Cと呼ばれる。)がRNASEH2Aタンパクと共精製したものの(Frank et al., PNAS USA 95:12872-7, 1998)、酵母以外ではRnh2BpおよびRnh2Cpサブユニットのオルソログは、特定されていない。
【0004】
アイカルディ・ゴーシェ症候群(AGS)は、病因不明の常染色体遺伝性疾患である。AGSは、臨床的には、重度の神経障害、進行性小頭症、痙攣、ジストニア姿勢および精神運動発達遅滞として現れる。小児では、しばしば死に至る(Goutieres, Brain Dev 27:201-206, 2005)。AGSは、先天性脳ウイルス感染症と形質的に強い類似性を示し(Aicardi & Goutieres, Ann Neurol 15:49-54, 1984)、AGSで見られるIFN−αレベルの上昇も、ウイルス感染によりホストが示す免疫反応と類似している。そのため、文献ではAGSの病因論に関し、見解の一致を見ていない。特に、AGSがウイルス性病原体に対する遺伝的感受性に起因するものであるのか、あるいはホストにおける免疫反応の調節機能の変異によるものであるのかという点では意見が分かれる。
【0005】
Crowら(Am J Hum Genet 67:213-221, 2000およびJ Med Genet 4O:183-187, 2003)は、2つのAGS遺伝子座を特定したが、それは染色体3p21上のAGS1と染色体13q14.3上のAGS2である(Ali et al., J Med Genet 43(5):444-50, May 2006. Epub 20th May 2005)。
【0006】
本願発明者らは、AGS2がヒトRNアーゼH2複合体のコンポーネントであることを発見し、この遺伝子を完全に特定した。AGS2は、ユビキタスな発現パターンを示し、予測できるドメイン構造や機能が類推できるヒトパラログは見当たらなかった。離れたオルソログがS.cerevisiaeで同定された(アミノ酸配列の相同性<5%)。発明者らは、AGS3およびAGS4遺伝子も特定した。この3種類のAGS遺伝子から発現したタンパク質は、合わせてRNアーゼH2複合体の一部分を構成する。
【0007】
AGSは、ウイルス感染症と形質的な類似性が高いが、この類似性は脳に限らない。症例の中には、神経学的特徴以外の症状(血小板減少症、肝脾腫大、肝トランスアミナーゼ値の上昇)を示す場合もあり、ウイルス感染症と類似の症状を呈するその他の遺伝病と共通する部分のあることが示唆されている。
【0008】
AGSと全身性エリテマトーデス(SLE)との類似性も指摘されている(Alarcan-Riquelme, Nat Genet 38:866-867, 27th July 2006参照)。特に、SLEでは先端部に血管炎型の皮膚病変を呈するが、この場合、真皮表皮接合部には免疫グロブリンの沈着が見られる(Crow et al., Nat Genet 38:917-920, 2006参照)。最近報告された家族性皮膚エリテマトーデス症患者で同一の皮膚病変を示した症例では、共通してAGS1遺伝子に変化が見られた(Lee-Kirsch et al., Am J Hum Genet 79:731-737, 19 July 2006参照)。また、AGSでは、高ガンマグロブリン血症および自己抗体が報告されている(Crow et al., Nat Genet 38:917-920, 2006参照)。更に、SLEでは、CSFインターフェロンαレベルが上昇していることが、ループス脳炎および全身で認められている。頭蓋内基底核石灰化も、中枢神経SLE患者の30%ほどで起こっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者らによる観察の結果、AGS、SLEおよびウイルス感染症には、RNアーゼH2に関係する病因が共通して存在する可能性が初めて考えられた。
【0010】
重要なこととして、発明者らは、AGS4遺伝子がF39ファミリーにG37S変異を起こしていることを特定した。この場合、患者はpseudo−TORCH症候群およびAGS両方の病態を示し、これらの疾患には共通の分子的原因があることが示されている。(pseudo−TORCH症候群とは、小児がトキソプラズマ症、風疹、CMVおよびHSV感染症と類似した症状を呈する遺伝性疾患である。)それゆえ、RNアーゼH2複合体の変異に起因する病態形質は、従来のAGSよりもはるかに広いと考えられ、「先天性ウイルス感染症」を有する多くの症例に存在する遺伝的な原因が現在のところ認識されてない可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明は、配列番号1、3もしくは5の塩基配列またはそのホモログからなるポリヌクレオチドを提供するものである。配列番号1はAGS2(RNASEH2B)の塩基配列を示し、配列番号3は、AGS3(RNASEH2C)の塩基配列を示し、SEQ IN No:5はAGS4(RNASEH2A)の塩基配列を示す。
これらのポリヌクレオチド配列は、NCBIに対して、NM_024570(AGS2/RNASEH2B、従来はFLJ11712と命名されていた。)、AF312034(AGS3/RNASEH2C、従来はAYP1と命名されていた。)、NM_006397(AGS4/RNASEH2A)のアクセッション番号で報告されている(機能については不明)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アイカルディ・ゴーシェ症候群における神経画像および臨床所見(a)基底核の石灰化を示す軸位CT像。(b)白質、特に前頭葉に影響を及ぼす高シグナル強度を示すMRIT2強調軸位像。比較用として、(c)基底核の石灰化を示す先天性HIV患者の軸位CT像(Belman et al., Neurology 36: 11 92-1 199 (1 986)より)。
【図2】AGS2の必須領域およびRNASEH2B(従来はFLJ11712と呼ばれた。)遺伝子の特定された突然変異の位置を示す図。(a)AGS2遺伝子座を示す染色体13q14.1の遺伝子地図。この遺伝子座は、非同族家系の同型接合染色体セグメントを重ね合わせることによって特定され、マイクロサテライトマーカーであるAC137880TG19とD13S788との間に位置する。(b)571kbpの必須領域の物理地図には、注釈情報の付いた4個の遺伝子が含まれる(UCSC Genome Browser May 2004アセンブリ)。(c)RNASEH2B(FLJll712)は、11個のエクソンを含む47kbpの塩基配列により構成され、308個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。コーディング領域を斜線で示す。突然変異の位置は、矢印で表示し、翻訳開始部位から数えた相対位置により示す。対応するアミノ酸の変化は、太字で示した。
【図3A】AGS3領域、RNASEH2C(AYP1)遺伝子、その突然変異および他の種における配列の保存を示す図。(a)染色体11q13.1の遺伝子地図。必須領域は、パキスタン人家族における連鎖不平衡データにより特定され、D11S4205からD11S987の間に位置する。RNASEH2C(AYP1)遺伝子は、マイナス鎖上のテロメアからセントロメアに向かうゲノム配列の65.2Mbpの位置から1.4kbpの範囲にある。(b)RNASEH2C(AYP1)遺伝子は、4個のエクソン(コーディング領域を斜線で表示。)を含み、164個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。突然変異の位置は、矢印で表示し、翻訳開始部位から数えた相対位置により示す。対応するアミノ酸の変化は、太字で示した。(c)両突然変異は、ほ乳類で保存されている残基で起こる。ほ乳類RNASEH2Cタンパク質の領域中、変異部位近傍の配列。Hs, Homo sapiens(ヒト); Bt, Bos Taurus(ウシ); Cf Canis familiaris(イヌ); Mm, Mus musculus(ハツカネズミ); Rn, Rattus nowegicus(ラット)。 置換アミノ酸を配列の上に示す。
【図3B】(d、e)電気泳動法によるRNASEH2C(AYP1)突然変異部位の配列決定。(d)c.428A>T(e)c.205C>T。
【図4A】図4 RNASEH2A遺伝子、ゲノムの位置、ゲノム構造および突然変異の位置。(a)染色体19p13.13の遺伝子地図。RNASEH2Aは、同族の又いとこの親から生まれた2人の子どもの患者(ファミリーF39)が同型接合SNPs(SNP A−1509361、1606327、l606325)を有する領域にあり、SNP A−1515950およびA−1508018と遺伝的に関連する可能性がある領域を規定する。(b)RNASEH2Aの遺伝子構造。RNASEH2Aは、ゲノム配列の12.8Mbpの位置(UCSC Genome Browser May 2004アセンブリ)から7kbpにわたって存在する。8個のエクソンを含み、299個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。(c)G37S変異は、バクテリアからヒトにいたるまで広範囲に保存されている残基で発生する。Hs, Homo sapiens(ヒト); Bt, Bos Taurus(ウシ); Cf Canis familiaris(イヌ); Mm, Mus musculus(ハツカネズミ); Rn, Rattus nowegicus(ラット);Ce, Caenorhabditis elegans(カンセンチュウ); Sp, Schizosaccharomyces pombe(分裂酵母); Sc, Saccharomyces cerevisiae(出芽酵母); Ec, Escherichia coli(大腸菌); Ph, Pyrococcus horikoshii(超好熱菌)。
【図4B】(d)RNASEH2A突然変異部位の電気泳動結果。(e)2型RNアーゼHタンパク質の決定した結晶構造をモデルにして推定したRNASEH2A触媒部位の三次元構造。突然変異を起こしたG37残基(中心)は、活性部位および基質結合部位と考えられるアミノ酸残基の近傍に位置する(Chapados et al., J Mol Biol 307:541-556 (2001 ))。
【図5A】ヒトRNASEH2B(FYJ111712)、RNASEH2C(AYP1)およびRNASEH2Aは、ほ乳類細胞中で発現すると、酵素活性を有するII型リボヌクレアーゼH複合体を形成する。(a)ヒトRNアーゼH2複合体およびそれに対応するS.cerevisiaeの複合体の模式図。(b)T7エピトープのタグを付けたFYJ11712およびAYP1は、mycタグが付いたRNASEH2Aと免疫共沈降(IP)する。(c,d)RNASEH2A/B/C複合体は、リボヌクレアーゼH活性を示す。
【図5B】(c)3種類のオリゴヌクレオチドのヘテロ二本鎖により、酵素活性を調べた。オリゴCは、3’末端蛍光タグ付きRNAオリゴヌクレオチドと、それに相補的な5’末端DABCYL標識DNAオリゴヌクレオチドとがハイブリダイズしたもので、いかなるリボヌクレアーゼHでも分解可能な基質である(DABCYLは、酵素により分解され、蛍光標識した3’末端フラグメントと分離するまで、蛍光を消光する。)。オリゴBは、II型リボヌクレアーゼHのみが分解可能な基質である。これは、3’末端蛍光標識したオリゴヌクレオチド鎖の15番目が1個のリボヌクレオチドに置き換わっているDNA二重鎖である。オリゴAは、オリゴC同様のRNA:DNAハイブリッドであるが、酵素による分解を受けない。3’末端蛍光標識オリゴヌクレオチドが2’O−メチルRNAヌクレオチドにより合成されているからである。
【図5C】(d)II型リボヌクレアーゼH活性は、エピトープタグの付いたRNASEH2A/B/Cを含むHEK293T細胞抽出液を用いた免疫沈降により測定することができる。myc IPは、マウス抗myc抗体により測定し、免疫沈降の対照として、IgG IPを正常なマウスIgG免疫グロブリンを用いて行った。ベクターとは、pCGT−DestおよびpcDNA3.1mychisベクターにより形質導入を行った細胞を言う。エラーバーは、標準誤差(SEM)を示す。
【図6】RNASEH2Aの突然変異は、RNアーゼH活性を低下させる。(a)野生型タグの付いたRNASEH2BとRNASEH2Cとを組み合わせて、RNASEH2Aタンパク質変異体による共導入を行ったHEK293T細胞から抽出したRNアーゼH2複合体の免疫沈降結果。RNASEH2AのG37S突然変異は、複合体形成の障害とはならないことが示される。Inは「インプット」、IPは「免疫沈降」、WTは「野生型」を表す。(b)RNASEH2Aの突然変異は、酵素活性を低下する。(a)に示した免疫沈降複合体と同じサンプルに対する蛍光RNアーゼH活性アッセイ。エラーバーは、標準誤差(SEM)を示す。
【図7】非同族の2家族におけるマイクロサテライトジェノタイピングにより、AGS2必須区間を限定する。同型接合マーカー領域を線で囲んである。
【図8A】代表的な真核生物の(a)RNASEH2B/Rnh2Bpホモログの配列。AGS患者において置換されたアミノ酸は、黒地に白抜きの文字で示し、置換したアミノ酸をその上方に示す。ヒトAYP1とS.cerevisiaeのRnh2Cpとの相同性を調べるために用いたKluyveromyces waltii のアミノ酸配列は、(b)に示した。アラインメントは、CHROMAソフトウェア(Goodstadt et al., Bioinformatics 17:845-846 (2001))を用いて行い、真核生物におけるコンセンサスシークエンスの割合を80%とした。アラインメントから除外された残基は、カッコで示した。ハイフン(−)は、配列表示の目的で使用しており、欠落しているアミノ酸を示すものではない。GI番号を配列の右に示す。コンセンサス配列の記号は、以下の通りである。a:芳香族(FHWY)、b:大きい(EFHIKLMQRWY)、c:有電荷(DEHKR)、h:疎水性(ACFGHILMTVWY)、l:脂肪族(ILV)、p:極性(CDEHKNQRST)、s:小さい(ACDGNPSTV)、Ser/Thr(ST)、+:プラスに帯電(HKR)、−:マイナスに帯電(DE)。種の略号は、以下の通りである。Ag:Anopheles gambiae、Am:Apis mellifera、An:Aspergillus nidulans、Bt:Bos taurus、Ca:Candida albicans、Ce:Caenorhabditis elegans、Cf:Canis familiaris、Cg:Candida glabrata、Cp:Cryptosporidium parvum、Dd:Dictyostelium discoideum、Dh:Debaryomyces hansenii、Dm:Drosophila melanogaster、Dr:Danio rerio、Eg:Eremothecium gossypii、Gz:Gibberella zeae、Hs:Homo sapiens、KI:Kluyveromyces lactis、Kw:Kluyveromyces waltii、Mm:Mus musculus、Nc:Neurospora crassa、Os:Oryza sativa、Rn:Rattus norvegicus、Sb:Saccharomyces bayanus、Sca:Saccharomyces castellii、Sce:Saccharomyces cerevisiae、Skl:Saccharomyces kluyveri、Sku: Saccharomyces kudriavzevii、Sm:Saccharomyces mikatae、Spa:Saccharomyces paradoxus、Spo:Schizosaccharomyces pombe、Tb:Trypanosoma brucei、Tc:Trypanosoma cruzi、Tn:Tetraodon nigroviridis、Xt:Xenopus tropicalisおよびYI:Yarrowia lipolytica。
【図8B】代表的な真核生物の(b)RNASEH2C/Rnh2Cpホモログの配列。その他は図8Aと同様。
【図9】染色体11q13.2のAGS3遺伝子地図。アジア系6家族におけるマイクロサテライトジェノタイピング結果。先祖のハプロタイプと考えられるものを太字で示し、同型接合マーカー領域を線で囲んだ。
【図10】ポリイノシン−ポリシトシン(poly(I:C))処理したHCT116細胞のRNアーゼH活性アッセイ。A:酵素耐性のあるオリゴヌクレオチド基質、B:RNアーゼH2特異的基質、C:リボヌクレアーゼH基質。
【図11】ヒツジ由来の抗RNアーゼH2A/B/C複合体に対するアフィニティー精製ポリクローナル抗体をHeK293細胞溶解物に反応させたウェスタンブロッティング。ここで、RNアーゼH2A/B.C複合体タンパク質は、エピトープタグ付きベクターにより過剰発現させてある。抗体により、過剰発現したタグ付きほ乳類RNアーゼH2A、H2BおよびH2C(下の方に見える2本の線)の検出が可能である。*は内因性物質によると思われるバンドである。
【図12】ES細胞に導入したRNASEH2BA177T ターゲティングコンストラクトの模式図。ターゲティングコンストラクトは、RNアーゼH2B遺伝子座由来の同型配列の2.5kbアームの他、エクソン6と7の間にLoxP配列(三角で表示)に挟まれたネオマイシン抵抗遺伝子カセットが挿入されてできている。ヌクレオチドの変化(矢印で表示)が導入されたことにより、AGS患者によく見られるコドン177におけるアラニンからトレオニンへの変異が生じる。このコンストラクトは、AGSのノックインマウスモデルを作成するために行う胚盤胞移植に現在用いられているES細胞株を作成するための相同組換えに用いられている。
【図13】AGS患者の不死化リンパ芽球様細胞株の野生型LCL(WT LCL)、RNアーゼH2A G37SおよびRNアーゼH2B A177Tに対するRNアーゼH2活性キネティックアッセイ。RNアーゼH2サブユニットに同型接合性変異を示す細胞株では、野生型リンパ芽球様細胞株(WT)と比較して、酵素活性が弱くなっている。
【図14】AGS患者のリンパ芽球様細胞株においてRNアーゼH2酵素活性が低下していることを示すエンドポイント蛍光RNアーゼHアッセイ。
【図15】a:可溶性組換えRNアーゼH2タンパク質複合体のSDS PAGEゲル電気泳動法。b:組換えGST、野生型GST−RNアーゼH2複合体およびAサブユニットにG37S変異を有するGST−RNアーゼH2複合体による酵素活性。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで、ポリヌクレオチドの「ホモログ」とは、ポリヌクレオチドに対して核酸の欠失、置換または付加による修飾を行い、配列番号1、3または5に示す塩基配列に対して、少なくとも65%以上の相同性、例えば、少なくとも70%や、例えば、少なくとも74%の相同性を有するものを言う。一つの実施態様では、ポリヌクレオチドは、配列番号1、3または5に示す塩基配列に対し、75%や80%以上の相同性を有し、好ましくは85%の相同性を有する。「ホモログ」には、オーソロガス遺伝子を含む。この遺伝子は、異なる種属における等価な遺伝子を言う。
【0014】
一つの実施態様では、ホモログは、配列番号1、3または5に示す塩基配列に対し、ダイレクトシークエンスや配列比較で評価した場合、90%以上の相同性を有し、例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有する。
【0015】
配列の相同性は、ダイレクトベストフィットシークエンスアラインメント比較法やBLASTなどの任意の相同性検索アルゴリズムによって、決定することができる。BLASTの解説は、Altschul et al., in J Mol Biol 25:403 (1990)に記載されている。アラインメントの相同性スコアSは、置換スコアとギャップスコアの和として計算される。「実質的な相同性」とは、BLASTで評価した場合に、期待値(E)が低い場合を言う。期待値とは、Sと同等以上のスコアを有するアラインメントであって、データベース検索を行った場合偶然に検出されるアラインメントの数を示す。E値が低いほど、重大な意味を持つ。
【0016】
特に、発現するアミノ酸に影響を及ぼさない塩基配列への修飾(遺伝子コードの重複(redundancy)によるもの)は、「ホモログ」の定義に該当する。また、「ホモログ」には、配列番号1、3または5の任意の配列のうちの15個の連続した塩基を有するポリヌクレオチドと、好ましくはストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズしうるポリヌクレオチドが該当する。一つの実施態様では、ポリヌクレオチドは、配列番号1、3または5の任意の配列のうちの20個以上の連続した塩基(例えば、25〜50の連続した塩基)を有するポリヌクレオチドと、好ましくはストリンジェントな条件下で、ハイブリダイズする。
【0017】
ポリ核酸の安定なハイブリダイゼーションは、水素結合による塩基対形成によって起こる。水素結合による塩基対形成は、二本鎖構造に含まれる2本のポリヌクレオチド鎖の相補性の程度およびハイブリダイゼーションが起こる条件によって、影響を受ける。特に、塩濃度および温度は、ハイブリダイゼーションに影響を及ぼす。当業者であれば、ポリヌクレオチド二重鎖の有効な溶融温度(E Tm)は、以下の式で示されることは自明であろう。
ETm=81.5+16.6(logM[Na+])+
0.41(%G+C)−0.72(%ホルムアミド)
【0018】
ハイブリダイゼーションがストリンジェントな条件下で行われる場合、相補性が高い塩基対の配列のみが二重鎖として残る。ここで、ハイブリダーゼーションに関して「ストリンジェントな条件」とは、60℃から68℃の0.1×SSCで洗浄することを言う。洗浄条件には、適切な濃度のSDSを任意に加えて良く、例えば、0.1%SDSを加えて良い。
【0019】
ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、一重鎖であっても二重鎖であってもよい。二重鎖DNA(例えばcDNA)は、ほとんどの場合において、通常便宜良く応用することができる。ポリヌクレオチドは、ベクターの形であってよく、例えば発現ベクターであってよい。
【0020】
本発明のポリヌクレオチドは、分離したポリヌクレオチドであっても、組換えポリヌクレオチドであってもよい。ポリヌクレオチドは、発現ベクターやクローニングベクターに取り込むことができる。このようなベクターは、宿主細胞の形質移入や形質転換を行うために用いることができ、宿主細胞は、従来の培養培地を用いて、公知の方法に従い、培養されたものであってよい。
【0021】
クローンDNAを適切なベクターに取り込む方法、宿主細胞の形質移入や形質転換の方法および形質移入や形質転換を行った細胞の選別方法は、すべて当業者には公知であり、多数の適切な方法が、文献に記載されている(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001参照)。
【0022】
適切な宿主細胞には、バクテリア、酵母、昆虫、ほ乳類および植物の細胞が含まれる。通常、宿主細胞には、使用するベクターに適合性のものが選択される。
【0023】
一つの実施態様では、宿主細胞は、ヒトまたはヒト以外のES細胞であってよい。
別の態様では、本発明は、変異型RNアーゼH2を発現するリンパ芽球様細胞株を提供する。
【0024】
タンパク質(例えば、RNアーゼH2A、RNアーゼH2B、RNアーゼH2C)に関し「変異型」とは、野生型アミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するタンパク質を言う。RNアーゼH2Bの野生型配列は配列番号2に、RNアーゼH2Cの野生型配列は配列番号4に、RNアーゼH2Aの野生型配列は配列番号6に示してある。
【0025】
変異型タンパク質は、野生型タンパク質とは異なる機能や活性を示すことができるが、これは本質的なことではない。タンパク質複合体(例えば、RNアーゼH2)に関し「変異型」とは、複合体を構成するタンパク質のうち少なくとも1つが先に定めた変異型タンパク質である複合体を言う。変異型タンパク質複合体は、野生型複合体とは異なる機能や活性を示すことができるが、これは本質的なことではない。
【0026】
一つの実施態様では、本発明は、配列番号1に示す塩基配列またはそのホモログからなる組換えポリヌクレオチドおよびその配列によりコードされるタンパク質を提供する。
【0027】
一つの実施態様では、本発明は、配列番号3に示す塩基配列またはそのホモログからなる組換えポリヌクレオチドおよびその配列によりコードされるタンパク質を提供する。
【0028】
一つの実施態様では、本発明は、配列番号5に示す塩基配列またはそのホモログからなる組換えポリヌクレオチドおよびその配列によりコードされるタンパク質を提供する。
更に別の態様では、本発明は、配列番号2、4もしくは6のアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを提供する。
【0029】
ここで、タンパク質の「ホモログ」とは、タンパク質に対してアミノ酸の欠失、置換または付加による修飾を行い、配列番号2、4または6に示すアミノ酸配列に対して、少なくとも65%以上の相同性、例えば、少なくとも66%や、例えば、少なくとも70%の相同性を有するものを言う。一つの実施態様では、タンパク質は配列番号2、4または6に示すアミノ酸配列に対して、少なくとも75%の相同性または80%の相同性、好ましくは85%の相同性を有する。一つの実施態様では、ホモログは、配列番号2、4または6に示すアミノ酸配列に対し、90%以上の相同性を有し、例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有する。「ホモログ」には、異なる種属由来のオーソロガスタンパク質を含む。
【0030】
また、本発明は、配列番号1、3もしくは5のうちの任意の塩基配列またはそのホモログによってコードされるタンパク質を提供する。塩基配列は、ポリヌクレオチドの一部であってよく、そのポリヌクレオチドは任意の組換えポリヌクレオチドであってよい。ポリヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドの一部を形成することができ、更にベクターの一部を形成することができる。
【0031】
一つ実施態様では、本発明は、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを提供する。
一つ実施態様では、本発明は、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを提供する。
【0032】
一つ実施態様では、本発明は、配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを提供する。
一つの実施態様では、本発明のタンパク質は、キメラ(融合)タンパク質の一部を形成することができる。
【0033】
明確にしておくが、本明細書で使用される「タンパク質」とは、ペプチドまたはポリペプチドも意味し、ポリマーの特定の大きさについて示すものではない。
【0034】
更に別の態様では、本発明は、RNアーゼH2の組換え体であって、
i)配列番号1、配列番号3もしくは配列番号5の塩基配列によってコードされるタンパク質またはそのホモログと
ii)配列番号2、配列番号2もしくは配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログとからなる
ことを特徴とするRNアーゼH2の組換え体を提供する。
【0035】
一つの態様では、本発明は、RNアーゼH2の組換え体であって、
i)配列番号1の塩基配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Bまたは配列番号2のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2B、
ii)配列番号3の塩基配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Cまたは配列番号4のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2C、
iii)配列番号5の塩基配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Aまたは配列番号6のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2Aのうち少なくとも1つを含む
ことを特徴とするRNアーゼH2の組換え体を提供する。
【0036】
一つの実施態様では、コンポーネントi)、ii)およびiii)のうち、少なくとも2つが含まれる(例えば、i)とiii)、i)とii)、あるいはii)とiii))。一つの実施態様では、3つのコンポーネントi)、ii)およびiii)がすべて含まれる。複合体の他のコンポーネントも任意に含まれてよい。
【0037】
組換えRNアーゼH2複合体は、分子生物学で有用であり、特にcDNA生産その他のプロセスでDNA−RNAハイブリッドを分解したり抑制するプロセスにおいて有用である。また、単一または複数のリボヌクレオチドが埋め込まれたDNA二重鎖を開裂する場合にも有用である。組換えRNアーゼH2複合体は、複合体の基質特異性や活性を変化させることができる化合物を特定するアッセイにも有用である。複合体の活性を変化させることができる化合物は、コンポーネントの任意の一つまたは複合体全体に対して作用する活性化因子(アゴニスト)や不活性化因子(アンタゴニスト)である場合がある。あるいは、酵素活性を変化させることができる化合物は、RNアーゼH2の上流調節因子に対して作用する場合がある。アッセイは、細胞アッセイであってもよく、タンパク質アッセイであってもよい。複合体の1以上のコンポーネントは、例えば、AGS4遺伝子のG37Sのように、野生型から任意に突然変異を起こしていてもよい。このような突然変異が複合体の活性やその基質特異性に対して及ぼす影響については、アッセイにより評価することができる。
【0038】
また、コンポーネントi)、ii)またはiii)のうちの任意の1つは、分子生物学やアッセイにおいて、残りの2つのコンポーネントのうちの1つまたは両方とは独立して使用することができる。
【0039】
RNアーゼH2は、細胞中においてRNアーゼH活性の主要な働きを担っているため、この酵素の活性が低下することによって、RNA−DNAハイブリッドの代謝に依存する細胞プロセスに対して重大な影響を及ぼし、自己免疫疾患の病因を引き起こす原因となっていると考えられる。そのような自己免疫疾患には、AGSやSLEの他、細菌感染症、特にウイルス感染症が含まれるが、それに限定されるものではない。細菌感染症には、その他、バクテリア感染症や真菌感染症がある。ウイルス感染症に関しては、特に、パンデミックウイルス感染症について言及する必要がある。例えば、インフルエンザウイルスによるパンデミックがあり、先天性免疫反応が不適切な不活性化作用を受けることにより、高い死亡率につながる。
【0040】
RNアーゼH2は、ラギング鎖のDNA複製過程において、岡崎フラグメントのRNAプライマーを除去する働きに関与していると提唱されている。Rnh2を欠失したS.cerevisiaeの場合、生存能力に影響は生じないものの、ヒドロキシウレアに対する感受性が高くなる。
【0041】
RNアーゼH2は、1型RNアーゼHと異なり、DNA中に埋め込まれた単一リボヌクレオチドを認識することができる。それゆえ、この酵素は、ゲノムDNA中に不適切に取り込まれたリボヌクレオチドを認識し、処理する上で重要である。このような誤った取り込みは、dNTPが欠損した状態で頻繁に起こるが、このことは、Rnh2突然変異株でヒドロキシウレアに対する感受性が高いことに対する別の説明を提供している。
【0042】
一本鎖RNAが二重鎖DNAのうちの1本と結合すると、もう1本のDNA鎖は、一重鎖DNAの「R−ループ」を形成して移動する。このようなループは、真核細胞における転写後にRNA結合タンパク質の機能が阻害されたときにも起こる。RNアーゼHには、このような構造が起こることを抑制するとともに、その結果生じるゲノムDNAの不安定性を抑制する働きがあると考えられている。
【0043】
それゆえ、RNアーゼH活性が失活することは、DNA合成、DNA中に誤って取り込んだリボヌクレオチドの除去やR−ループ形成の抑制に関して、重大な結果をもたらす可能性がある。
【0044】
逆転写は、HIVその他のレトロウイルスの複製に不可欠なプロセスであり、抗ウイルス療法の重要な薬剤標的である。このプロセスで形成するDNA−RNAハイブリッドは、内因性RNアーゼHによる崩壊を起こす可能性があるため、抗ウイルス作用において重要な働きをすることができる。よって、RNアーゼH2の突然変異により、ホストの抗ウイルス防御反応に障害が生じ、通常のウイルス病原菌の結果としてAGSが引き起こされる場合が考えられる。
【0045】
あるいは、免疫不全がAGS、SLEの原因であることも考えられ、細胞性RNアーゼH活性の低下により内因性RNA−DNAハイブリッドレベルが上昇している場合には、免疫不全が、自己免疫疾患や細菌感染症に関して重要な作用を及ぼしている可能性がある。dsRNAおよびdsDNAは、自然免疫の活性因子であって、I型インターフェロンの生産を活性化する(Kawai et al., Nat lmmunol 7:131-137, 2006およびKrieg et al., Annu Rev lmmunol 20:709-760, 2002を参照)。その他のヌクレアーゼが損傷を受け、死細胞から細胞外に放出される核酸を除去する機能が低下することにより核酸が循環する結果として、多系統自己免疫疾患が引き起こされる可能性が考えられている。これを支持する証拠としては、SLE患者にはDNアーゼ1に異型接合突然変異が見られる場合があることや、DNアーゼ1-/-マウスが紅斑様表現型を示すことが挙げられる(Napirei et al., Nat Genet 25:177-181, 2000参照)。更に、DNアーゼII-/-|fnR-/-マウスが関節リウマチに似た慢性多発性関節炎を示すことが最近報告されており(Kawane et al., Nature 443:998-1002, October 2006参照)、RNA−DNAハイブリッドが自然免疫を刺激し、AGSの診断に有用な高インターフェロンα濃度が上昇する理由の説明を示すと考えられている。RNアーゼH2機能の障害も同様に、内因性RNA−DNAハイブリッドの濃度を上昇させ、その濃度上昇がdsRNAやdsDNAの場合と同様の機序によりインターフェロンαの産生を刺激することがある。以上のことから、中枢神経系に過剰に生産されたインターフェロンαによって、AGSの神経病理上の特徴を説明することができるが、それはトランスジェニックマウスモデルで示されており、このモデルでは神経膠細胞にインターフェロンαが常に発現している(Campbell et al., Brain Res 835146-61, 1999参照)。
【0046】
SLEと自己免疫疾患との関連性は、最近の研究において示されており、例えば、Kelly et al., Arthritis Rheum 54:1557-1567, 2006では、dsRNAがTLRに結合することによってIFNの産生が起こることを示し、Lovgren et al., Arthritis Rheum 50:1861-1872, 2004では、anti−RNA AbがIFN誘導に必要なことをin vitroSLEアッセイで示しており、Sigurdsson et al. Am J Hum. Genet. 76:528-537, 2005においては、SLEがIFN経路の機能障害により生じること、そしてGraham et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 104:6758-6763, 2007では、IFN調節因子の突然変異とSLEリスク増加との関連性を示している。
【0047】
最近の説では、インフルエンザに対する自然免疫反応にSLEと共通の病因が見られることが報告されている。例えば、Cheung et al., Lancet 360:1831-1837, 2002では、TNF―αの上昇はH5N1/97型による病態の悪化に関連していることを示しており、Kobasa et al., Nature 445:3l9-323, 2007では、非ヒト霊長類において1918年型インフルエンザウイルスに対して非定型自然免疫反応が見られたことが報告され、Lipatov et al., Journal of General Virology 86:1121-1130, 2005は、H5N1型インフルエンザに感染させた9種類のモデルにおいてサイトカインのバランスが崩れたことを示している。
【0048】
従って、RNアーゼH2の活性や基質特異性を変化させることができる化合物を提供することは、以下の目的において有益である:
a)RNアーゼH2活性を高めて、AGSの症状を抑えること。
b)RNアーゼH2活性を高めて、微生物感染症を抑えること。なかでもバクテリア感染症やウイルス感染症があるが、これに限定されるものではない。レトロウイルス感染(HIV感染等)については、特段の言及を要するが、この場合には、宿主細胞でウイルス複製が起こる際にDNA−RNAハイブリッドが形成される。また、インフルエンザのパンデミック株についても言及を要するが、例えば1918年型インフルエンザウイルス株やH5N1型インフルエンザウイルス株のような死亡率が高いウイルス株では、自然免疫反応の活性化が不十分であることが示唆されている(Cheung et al., The Lancet 360:1831-1837, 2002およびLipatov et al., Journal of General Virology 86: 1121-1130, 2005参照)。
c)RNアーゼH2活性を高めて、ゲノムDNAの不安定度を低くすること、特にR−ループ形成を抑制すること。
d)RNアーゼH2活性を高めて、自己免疫疾患を抑えること。自己免疫疾患の例としては、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、セリアック病、クローン病、糖尿病(I型)、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、アジソン病、関節リウマチ、乾癬および多発性硬化症があるが、これらに限定するものではない。
e)RNアーゼH2活性を高めて、cDNAの生産等、複合体による分子生物学的反応の効率を高めること。
f)RNアーゼH2活性を下げて、ウイルスを用いた遺伝子治療の効率を高めること。(RNアーゼH2活性は、この治療法の有用性を阻害するホスト応答の一部を形成する。RNアーゼH2活性を下げることにより、このホスト応答を少なくとも一部分抑制することにつながる。)
g)RNアーゼH2活性を下げて、ウイルス感染に対するホスト免疫反応を刺激すること(Akwa et al., J. Immunol 161:5016-26, 1998参照)。
【0049】
更に、本発明では、RNアーゼH2もしくはそのコンポーネントの活性化因子もしくは不活性化因子またはRNアーゼH2基質特異性の調節因子を特定するアッセイを提供し、当該アッセイは:
i)被験物質とRNアーゼH2またはそのコンポーネントと接触させ、該コンポーネントがRNASEH2B、RNASEH2C、RNASEH2Aまたはその任意の組み合わせである;
ii)RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、該被験物質存在下任意の時間にわたって測定する;及び
iii)該被験物質のRNアーゼH2またはそのコンポーネントに対する活性を測ることを含む。
【0050】
このアッセイは全てのRNアーゼH2複合体に対して実施することができ、その複合体は、上述の組換え複合体であってもよい。あるいは、このアッセイを修正して、RNアーゼH2複合体のコンポーネントに対して実施することができ、そのコンポーネントは、例えば組換え体であるRNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2Aであってもよい。
【0051】
また、上述のアッセイは、被験物質とRNアーゼH2の変異体またはその変異コンポーネント(例えば、RNASEH2A、RNASEH2BもしくはRNASEH2Cまたはその組み合わせ)とを接触させて実施してもよい。RNアーゼH2の変異体またはそのコンポーネントは、リンパ芽球様細胞株のような細胞株やげっ歯類のような非ヒトトランスジェニック動物で発現してもよい。
【0052】
一実施態様では、RNアーゼH2複合体は、細胞内に存在する。
一実施態様では、アッセイは、炎症調節因子に対して実施してよく、その調節因子は、向炎症性でも抗炎症性でもよい。一実施態様では、アッセイは、抗微生物(例えば、抗ウイルス)因子を特定するために実施してよい。
【0053】
そのアッセイは、内因性RNアーゼH2活性を測定する細胞系アッセイであってよい。このアッセイは、RNアーゼH2またはRNアーゼH2の上流にある経路に対して間接的に作用する調節因子を特定することができる。このアッセイは、ウイルスのRNアーゼHもしくはほ乳類(例えばヒト)のRNアーゼH2の不活性化因子または阻害因子の作用を測定するうえで有用であるが、それは、このような不活性化因子や阻害因子が、ウイルスRNアーゼHのみに対して特異性があれば、有効な抗ウイルス療法となりうるからである。ここで述べたようなRNアーゼH2複合体に作用すると推定されるこのような抗ウイルス因子は、その効果、特にほ乳類ホストに対する副作用と考えられる範囲を生体内で測定する上で重要である。
【0054】
前記アッセイの工程ii)は、例えば、標識化オリゴヌクレオチド基質を導入することにより、行うことができる。一実施態様では、標識化オリゴヌクレオチドは、RNアーゼH2で分解すると、蛍光タグを放出する。分解を受けていないオリゴヌクレオチドは、もう一方の塩基鎖上の近傍にクエンチャ分子が存在するため、蛍光を発しない。このようにして、蛍光強度はRNアーゼH2活性の指標となる。この実施態様では、オリゴヌクレオチドは、RNアーゼH2またはそのコンポーネントの基質として作用する。このオリゴヌクレオチドは、二重鎖DNAであっても、二重鎖RNAであっても、二重鎖DNA−RNAハイブリッド分子であってもよい。
【0055】
工程iii)は、被験物質が存在しない同一の条件下におけるRNアーゼH2活性と比較することによって、行うことができる。
【0056】
このアッセイは、一定の時間にわたって行うことができ(すなわち、動態アッセイ)、例えば、10分から60分間実施することができる。RNアーゼH2活性の測定は、測定中、適当な時間間隔(好ましくは、一定の間隔)で行うことができ、例えば、2分から20分間隔で実施することができる。一実施態様では、アッセイを30分にわたり実施し、活性測定を5分ごとに行う。
【0057】
更に、本発明は、RNアーゼH2の一以上のコンポーネントにおける修飾(例えば、アミノ酸変異)の影響を測定するアッセイを提供し、当該アッセイは:
i)少なくとも1つのコンポーネントが野生型に対して変異型であるRNアーゼH2を提供する;
ii)該RNアーゼH2とそれに対する基質とを接触させる;
iii)該RNアーゼH2の活性を、任意の時間にわたって測定する;及び、
iv)修飾されたコンポーネントがRNアーゼH2活性に及ぼす影響を測定すること含む。
【0058】
一実施態様では、RNASEH2Bの野生型は、配列番号2のアミノ酸配列を有する。一実施態様では、RNASEH2Cの野生型は、配列番号4のアミノ酸配列を有する。一実施態様では、RNASEH2Aの野生型は、配列番号6のアミノ酸配列を有する。
【0059】
一実施態様では、RNアーゼH2は、組換え体である。
一実施態様では、RNアーゼH2は、リンパ芽球様細胞株のような細胞株で発現する。あるいは、RNアーゼH2は、非ヒトトランスジェニック動物で発現することができる。
一実施態様では、RNアーゼH2複合体は、細胞内に存在する。
【0060】
上述アッセイの工程ii)は、例えば、標識化オリゴヌクレオチド基質を導入することにより、行うことができる。一実施態様では、標識化オリゴヌクレオチドは、RNアーゼH2で分解すると、蛍光タグを放出する。分解を受けていないオリゴヌクレオチドは、もう一方の塩基鎖上の近傍にクエンチャ分子が存在するため蛍光を発しない。このようにして、蛍光強度はRNアーゼH2活性の指標となる。この実施態様では、オリゴヌクレオチドは、RNアーゼH2またはそのコンポーネントの基質として作用する。このオリゴヌクレオチドは、リボヌクレオチドが埋め込まれた二重鎖DNAであっても、RNAであっても、二重鎖DNA−RNAハイブリッド分子であってもよい。
【0061】
工程iii)は、被験物質が存在しない同一の条件下におけるRNアーゼH2活性と比較することによって、行うことができる。
【0062】
一実施態様では、RNアーゼH2複合体の修飾コンポーネントのアッセイは、その他のコンポーネントの存在下、非存在下で実施する。このような実施態様では、例えば、RNASEH2A(AGS4)G37SやRNASEH2B(AGS2)A177Tのように、機能性に影響を及ぼすRNアーゼH2コンポーネント変異型を使用することが有益である場合があり、アッセイを実施することにより、RNアーゼH2活性の回復を調べることができる。あるいは、アッセイを実施することにより、RNアーゼH2活性の低下を調べることができる。あるいは、アッセイにより、RNアーゼH2の基質特異性の変化を調べることができる。
【0063】
このアッセイは、一定の時間にわたって行うことができ(すなわち、動態アッセイ)、例えば、10から60分間実施することができる。その場合、RNアーゼH2活性の測定は、測定中、適当な時間間隔(好ましくは、一定の間隔)で行うことができ、例えば、2分から20分間隔で実施することができる。一実施態様では、アッセイを30分にわたり実施し、活性測定を5分ごとに行う。
【0064】
RNASEH2ノックアウトマウスを標準的な手法により作成することができる。このようなマウスに対して、Akwa et al., J Immunology 161:5016-5026 (1998) に示すように、IFN−αを発現するトランスジェニックマウスで実施する方法に従ってウイルスでチャレンジを行った後、ほ乳類動物RNアーゼH2のアゴニストを検査する目的で使用し、任意に上述のアッセイによりin vivoで検査を行い、ウイルスの作用が改善したかどうかを確認することができる。このようなノックアウトマウスは、本発明の一部分である。
【0065】
別の態様では、本発明は、患者のゲノム中のRNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2A遺伝子における突然変異を検出するアッセイが提供され、当該アッセイは:
i)患者から採取した白血球細胞の溶解を行うこと、及び、
ii)溶解した白血球細胞のRNアーゼH2活性を測定することを含む。
【0066】
検出する突然変異は、RNアーゼH2活性に影響を及ぼす突然変異であって、その活性を野生型複合体の通常範囲に対して抑制または亢進するものである。
【0067】
場合によって、通常範囲と比較してRNアーゼH2活性の低下または亢進が認められた場合には、RNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2A遺伝子の配列決定を実施することができる。
【0068】
このアッセイは、RNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2Aの任意の遺伝子に異型または同型接合型突然変異によりRNアーゼH2活性が低下している患者を特定するので、AGSの診断上の補助としたり、あるいは子どもがAGS患者になるリスクがある親に対して適切なカウンセリングを行う上で用いることができる。このアッセイは、自己免疫疾患、先天的ウイルス感染症や(RNアーゼH2活性の低下により)ウイルス感染の危険性が高い人に対して、診断治療を行う上でも有益となりうる。
【0069】
同様に、このアッセイによって、SLEその他の自己免疫疾患患者や、子どもがSLEその他の自己免疫疾患に罹患するリスクがある患者を特定することもできる。更に、このアッセイは、ウイルス感染症の程度に関する情報を提供したり、ウイルス感染症の診断補助として用いたり、微生物感染症に罹患しやすい患者を特定するために用いることができるが、特にウイルス感染症に限定されるものではない。
【0070】
別の実施態様では、RNアーゼH2活性を測定するこのアッセイは、患者から得られた遺伝子サンプルの遺伝子型を特定することのみによって実施することができ、その方法には、フィンガープリント法やサテライト法、あるいはゲノム中の関連部分の塩基配列を特定する方法がある。得られた遺伝子情報は、RNアーゼH2活性が変化している患者を特定し、AGS、SLE、自己免疫疾患、細菌感染症に対する罹患しやすさを診断し、または遺伝的リスクやその傾向を特定するための補助として用いることができる。
【0071】
更に別の態様では、本発明には、配列番号1、3もしくは5のいずれかの塩基配列によりコードされるタンパク質もしくはそのホモログ、配列番号2、4もしくは6のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質もしくはそのホモログもしくは上述の組換えRNアーゼH2複合体と特異的に結合することができるポリクローナルまたはモノクローナル抗体が含まれる。RNアーゼH2複合体コンポーネントの内の任意の1つの変異体(例えば、RNASEH2AのG37S変異体)に対する抗体も、含まれる。モノクローナル抗体は、例えば、酵素活性を有する組換えRNアーゼH2複合体でマウスを免疫化した後、既知の方法によりハイブリドーマ融合を行うことにより産生することができる。クローンは、ELISA法により、スクリーニングを行い、更にエピトープタグを付けたコンストラクトを発現する細胞を用いた免疫蛍光法およびウエスタンブロットアッセイにより検証することができる。抗体は、分子生物学的手法の補助として、RNアーゼH2の精製(例えば、診断テスト用)にまたはRNアーゼH2複合体もしくはその機能の検査の補助として、用いることができる。
【0072】
一実施態様では、抗体は治療用抗体であって、ハイブリドーマのような細胞株で産生される(Kohler et al., Nature 256:495-497, 1975およびGalfre Meth Enzymol 73:3, 1981参照)。適切な治療用抗体には、げっ歯類動物抗体、キメラ抗体、scFvs、ヒト型化抗体およびヒト抗体が含まれる。キメラ抗体は、遺伝子工学的に作成した抗体であり、約三分の一が非ヒト由来のタンパク質、約三分の二がヒト由来のタンパク質で構成されている。ヒト型化抗体は、遺伝子工学的に製造され、ヒト抗体中に最低量の非ヒトタンパク質(通常では5から10%)を含み、有害なホスト免疫反応を最小限に抑えたものである(Riechmann et al., Nature 332:323-327, 1988参照)。
【0073】
F(ab’)2、FabおよびFvフラグメントなど、抗体のフラグメントも「抗体」に該当する。
【0074】
また、本発明は、RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cに対するプライマーを少なくとも1つ含む診断キットを提供する。適切なプライマーには、表1に示したものが含まれ、適切な補助要素と組み合わされる。ここで言う適切な補助要素には、バッファ、dNTP、酵素(例えば、TAQポリメラーゼ)、標識化化合物等が含まれる。キットは、核酸サンプル中の遺伝子異常を検出するために用いられ、その遺伝子異常は(検出された場合には)、AGS、SLE、自己免疫疾患や細菌感染症、特にウイルス感染症(ただし、これに限定されない。)に対する罹患しやすさに関する遺伝的傾向を示すことができる。
【0075】
一実施態様では、上述したRNアーゼH2複合体に特異的な抗体を用いて、変異タンパク質を含むRNアーゼH2を特定することができる。
【0076】
別の実施態様では、上述したRNアーゼH2複合体に特異的な抗体を治療に用いることができる。例えば、ウイルスを用いた遺伝子治療の効果を高めたり、ホストの免疫反応を刺激するために、この抗体を使用することが可能である。
【0077】
本発明は、変異型RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物の製造を提供し、糖が方法は:
a)変異型RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするポリヌクレオチドを含む組換え遺伝子コンストラクトを非ヒト接合体または非ヒト胚幹細胞に導入すること、
b)該接合体または胚幹細胞から非ヒトトランスジェニック動物を作成すること、
c)変異型RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物を製造することを含む。
【0078】
変異型RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするポリヌクレオチド配列は、好ましくは、タンパク質がトランスジェニック動物で発現されるように、プロモーターと連結する。
【0079】
変異型RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物は、本発明の更なる一態様である。
【0080】
非ヒトトランスジェニック動物は、任意の適当な動物であってよく、マウス、ラット、霊長類、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、魚、ウシ、ブタおよびヒツジを適当な例として挙げることができる。しかし、このリストは、網羅したものではなく、他の動物も使用することが可能である。
【0081】
一実施態様では、非ヒトトランスジェニック動物は、げっ歯類である。適当な例としては、ラットやマウスが含まれる。
【0082】
本発明の方法において使用してもよい公知の技術で使用されている胚幹細胞には、C57BL/6、CBA/、BALB/c、DBA/2およびSV129のマウス系列から得られた胚幹細胞があるが、これに限定されるものではない。好ましくは、C57BL/6マウス由来の胚幹細胞を使用する(Seong, E et al., Trends Genet. 20, 59-62, 2004; Wolfer et al., Trends Neurosci. 25:336-340, 2002)。
【0083】
導入遺伝子(RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cのコード遺伝子配列を含む。)は、種々の方法によって、動物の生殖細胞系列に導入することができる。例えば、導入遺伝子は、受精卵の雄性前核に直接インジェクトすることができる(例えば、Hogan et al., Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press (1994)参照)。その結果1つの遺伝子座には導入遺伝子の異なる数のコピーがランダムに、通常はヘッドツーテール状に、導入されることとなる(例えば、Costantini and Lacy, Nature, 294, 92, 1981参照)。インジェクトした卵は、偽妊娠誘起したレシピエント雌へ移植する。そのようにして生まれる子孫の中には、導入遺伝子のコピーを一以上ゲノムに組み込んでいる場合があり、その部位は通常1つである。これらの創始動物を交配させて、トランスジェニック動物系列を作り、戻し交配を行って選択する遺伝子背景を有する系を作成する。当業者であれば、両染色体に導入遺伝子を導入することの利点を理解できよう。あるいは、導入遺伝子は、胚幹(ES)細胞における相同組換えなどのジーンターゲッティングにより動物に導入することができる。導入遺伝子を導入する方法として適切な既知の方法には、胚盤胞移植がある。この方法では、導入遺伝子を含むターゲティングコンストラクトは、当該分野で公知の方法により調製される。
【0084】
導入遺伝子を含むターゲティングコンストラクトは、公知の方法により適当な宿主細胞に導入できる。トランスジェニック胚の生産およびそのスクリーニングは、例えば、Joyner ed., Gene Targeting, A Practical Approach, Oxford University press, 1993に記載されている既知の手法により行うことができる。トランスジェニック動物または胚のDNAのスクリーニングは、サザンブロット法やRCR法により行うことができる。
【0085】
非ヒトトランスジェニック動物は、健康な動物であってもよいし、導入遺伝子により導入した突然変異による疾患や障害の徴候を示してもよい。このようなトランスジェニック動物は、薬剤に関する薬理研究に適しており、例えばAGS、SLE、自己免疫疾患やウイルス感染症の疾患モデルとして使用可能である。このようなモデルでは、AGS、SLE、自己免疫疾患やウイルス感染症に対して罹患しやすくなっている。
【0086】
本発明について、以下に示す非限定的な実施例や図により更に説明する。
【実施例】
【0087】
実施例1:患者および被験者
本試験の対象患者は、全員AGSに関する診断規準を満たしており、早期脳障害を示す神経学的特徴を有し、出産前における一般感染症の感染を示す所見はなく、頭蓋内石灰沈着が典型的な領域に見られ、脳脊髄液(CSF)リンパ球増多症(>5細胞/mm3)またはCSF中にIFN−αが>2IU/mLであった。同意を得て、病気の子ども、その親および病気に罹患していない兄弟姉妹から血液サンプルを採取し、標準的な方法によりゲノムDNAを末梢血白血球から抽出した。本試験は、Leeds Health Authority/United Teaching Hospitals NHS Trust Research Ethics CommitteeおよびScottish Multicentre Research Ethics Committee (04:MRE00/19)の承認を受けて実施した。
【0088】
ジェノタイピングおよび連鎖解析
SNPアレイによるゲノムワイドなスキャンをMRC Geneservice(Cambridge、UK)のAffymetrix Human Mapping 10K Xba142 2.0 GeneChipsRを用いて行った。既報の方法(Jackson et al., Am J Hum Genet 63: 541-546 (1998))に従い、Marshfieldの遺伝子地図(http://research.marshfieldclinic.org/genetics)から選んだ確立されたマイクロサテライトマーカーおよびヒトゲノムブラウザ配列(2004年5月版、http://genome.ucsc.edu/)により特定された新しいマイクロサテライトを用いて、AGS2およびAGS3の座位の高密度ジェノタイピングを行った。連鎖解析は、GENHUNTER(2.0β)(Kruglyak et al., Am J Hum Genet 56: 1347-1363 (1996))を用いて、常染色体劣性遺伝モデルにより、疾患アレル頻度を1対100、浸透率を1とし、マーカーのアレル頻度は等しいと仮定して実施した。
【0089】
バイオインフォマティクス
データベース検索には、PSI−BLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/、Altschul et al. Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997))を用い、E値の包含閾値を2×10−3として行ったが、このデータベースは、重複のない(non-redundant)タンパク質配列データベースである。
【0090】
タンパク質の構造解析は、SWISSMODEL(Schwede et al. Nucleic Acids Res 31:3381-3385 (2003))を用いたcomparative modelling法により、デフォルト設定を用いて行い、WHAT−CHECK(Hooft et al. Nature 381:272 (1996))により、RNASEH2Aタンパク質(NP−006388)の予測構造の精度を確認した。予測用テンプレートは、入手可能なもののなかでは最善のものである、構造が既知の4種類の古菌類RNアーゼH2相同タンパク質1uaxA、1io2A、1x1pAおよび1ekeBを用いた。活性部位および予測される基質結合部位(Chapados et al., J Mol Biol 307: 541 -556 (2001))は、VMD(V1.8.3)(Humphrey et al., J Mol Graph 14: 33-38, 27-28 (1 996))を用いて注釈付けを行った。
【0091】
変異部位の検出
プライマーは、RNASEH2B、RNASEH2CおよびRNASEH2Aのコーディングエクソンの増幅を行うように設計した(プライマー配列を表1に示す。)。 精製したPCR増幅産物の配列は、ダイターミネーター(Applied Biosystems)を用い、ABI 3700 キャピラリーシーケンサ(Applied Biosystems)またはMegabace 500 キャピラリーシーケンサ(Amersham Pharmacia)を用いた電気泳動により決定した。変異解析は、Mutation Surveyor(Softgenetics)を使用して行った。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
ベクター作製
ほ乳類発現ベクターの作製には、Gatewayベクターシステム(Invitrogen) を使用した。RNASEH2B、RNASEH2CおよびRNASEH2Aのコーディング領域は、プラズミドクローン(それぞれ、CSODF031YM15、CR602872(Invitrogen)およびクローンIRAUp969G0361D、BC011748(RZPD))から増幅し、pDONR221?に導入した。AYP1は、既製品のpENTRYベクター(クローンIOH27907、Human Ultimate? Full ORF Gateway Shuttle Clone、NM_032193、Invitrogen)を使用した。pcDNA3.1mychis−DestおよびpCGT−Destは、Gateway Vector Conversion Systemを用いて、GatewayリーディングフレームカセットをpcDNA3.1mychis (Invitrogen)およびpCGT (Van Aelst et al., Embo J 15:3778-3786 (1 996))のマルチクローニングサイトに挿入して作製した。部位特異的変異処理は、RNASEH2A pENTRYクローンを用い、Stratagene Quikchangeキットをメーカーの指示に従って使用して実施した。
【0097】
免疫沈降およびウェスタンブロッティング
HEK293T細胞に対して、リポフェクタミン(Invitrogen)をメーカーの指示に従って使用し、各コンストラクト1μgを一過的に共導入した。24時間後に50mM Tris(pH 7.8)、280mM NaCl、0.5% NP40、0.2mM EDTA、0.2mM EGTA、10%グリセロール、0.1mMオルトバナジン酸ナトリウム、1μM DTTおよび1μM PMSFにより4℃で10分間細胞を溶解した。溶解した細胞は、20mM Hepes(pH 7.9)、10mM KCI、1mM EGTA、10%グリセロールおよび0.1mMオルトバナジン酸ナトリウムで1:1に希釈し、10分後に遠心分離(15800g、10分間、4℃)を行い抽出液を採取した。タンパク質を含む細胞溶解液500μgに対して、メーカーの指示に従いProtein A/G PLUSアガロース(Santa Cruz)を用いて、1μgのマウス抗−myc 抗体(クローン9B11、Cell Signalling)または1μgのマウスIgG(Santa Cruz)により免疫沈降を行った。ウェスタンブロットには、マウス抗−mycモノクローナル抗体を1/1000、マウス抗−T7モノクローナル抗体(Novagen)を1/5000の濃度で使用した。
【0098】
RNアーゼHアッセイ
10μMのオリゴヌクレオチド(Eurogentec)に対して60mM KCI、50mM TrisHCl pH8中で95℃で5分間変性行った後徐々に室温に戻すことにより、アニーリングを行った。RNアーゼH活性蛍光測定法は、60mM KCI、50mM TrisHCl pH8、10mM MgC12および0.25μMオリゴヌクレオチド二重鎖を含有する100μLを96ウェル平底プレートで、オービタルシェーカーにより37℃で3時間60rpmで振とうさせて行った。各反応には、免疫沈降物の1/10の量を使用し、陽性対照に2.5単位のE.coliRNアーゼH(Invitrogen)を用いた。蛍光は、VICTOR2 1420マルチラベルカウンター(Perkin Elmer)を使用し、励起フィルターを480nm、透過フィルターを535nmとして100m秒間測定した。
【0099】
結果
AGS2座位の精査(refinement)およびRNASEH2B(FLJ11712)の同定
マイクロサテライトマーカーの高密度ジェノタイピングを10家族に対して実施し、AGS2座位の精製を行った。非同族の2家族(F8およびF10、図7)に、同型接合マーカーの重なりを示す小領域が発見された。このような領域は、同質接合を起こした染色体領域を示すと考えられ(Broman et al., Am J Hum Genet 65:1493-1550 (1999) およびGibson et al., Hum Mol Genet 15:789-795 (2006))、稀な劣性遺伝疾患の場合には疾患遺伝子を含む可能性が極めて高い(Lander et al., Science 265:2049-2054 (1987))。この同型接合マーカーの重なり領域を用いることによって、AGS2必須領域は、染色体13q14.3上の遺伝子マーカーAC1378890TG19とD13S788(図2)間の571kbp領域にまで精製することができた。必須領域にある注釈付き4遺伝子全てのコーディングエクソンについて、配列を特定した。
【0100】
RNASEH2B(FLJ11712)はAGS2遺伝子である
スクリーニングを行った家族中の7家族でFLJ11712のミスセンス変異が発見されたものの、病因変異は、DLEU7、GUCY1B2やFLJ30707には見られなかった。更に大きなコホートでFLJ11712の変異スクリーニングを実施したところ、この遺伝子の変異を示す家族が合計で18家族発見された(表2、図2)。変異は、ほとんどがミスセンスであり、2つは異なる民族グループで頻繁に見られた(A177T、V185G)。ミスセンス変異はすべて、ほ乳類で保存されている残基の非保存的置換であり(図8)、例外は単一の保存的残基変異(Y219H)であって、この残基はDictosteliumにさかのぼるまで保存されている。ナンセンス変異は、2家族で見られ、エクソン2の終止コドン(F17)およびイントロン6のスプライス供与部変異であった(F15)。この両方のケースとも、疾患のある人は、合成異型接合型であり、二番目の変異はミスセンス変異であった。以上のことから、観察された変異スペクトラムによれば、変異による影響は、FLJ11712タンパク質の完全な喪失ではなく、ハイポモルフ型(hypomorphic)であると考えられる。全家族において、変異は疾患と関連しており、親は全員この変異に関して異型接合型であった。各変異に対して、少なくとも160の対照アレルのジェノタイピングを行った。最も一般的な変異であるA177Tのみは、検査を実施した241個のサンプル中異型接合型と判明した人が1例であった。
【0101】
【表5】
【0102】
【表6】
【0103】
RNASEH2B(FLJ11712)はイーストRnh2Bpのオルソログである
FLJ11712は、308個のアミノ酸からなるタンパク質をコードするが、このタンパク質は、機能がこれまで不明であった。半定量的RT−PCR法により、FLJ11712は広範囲のヒト組織中に検出され、ユビキタスに発現することが示唆されている(データ示さず)。
【0104】
PSI−BLAST(Altschuhl et al., Nucleic Acids Res 25:3389-3402 (1997))を用いたデータベース検索により、4回検索繰り返しを行ったところ、ヒトFLJ11712とSaccharomyces cerevisiaeタンパク質であるRnh2Bp(Rnh202)には、かなりの類似性(E=4×10―5)が見られた(図8)。Rnh2Bpは、イーストRNアーゼH2酵素複合体の必須コンポーネントである(Jeong et al., Nucleic Acids Res 32:407-414 (2004))。この発見からは、FLJ11712がほ乳類でも同様の複合体で機能していることが考えられ、AGSの場合別のRNアーゼHコンポーネントにも変異が生じている可能性を示唆する。
【0105】
RNASEH2C(AYP1)はAGS3遺伝子である
SNPアレイゲノムスキャンを5パキスタン人家族(F30−34)および1バングラデシュ家族(F35)からなる非同族の6家族に対して行った。このスキャンとその後に行ったマイクロサテライトジェノタイピング(図9)により、染色体11q13.2上のマーカーD11S4205とD11S987間に新規座位AGS3を特定したが、これは最大多点LOD値が66.8cMで4.54であった(Marshfield遺伝子地図)。更に、5パキスタン人家族におけるジェノタイピングにより、祖先ハプロタイプ(太字で示したジェノタイプ、図9)の存在が示唆されたが、これとF30家族における小さな同型接合領域とにより、AGS3必須領域をD11S4205とD11S987との間にある4.9cmの区間に精製することができた。
【0106】
注目すべきこととして、ヒトRNアーゼH2Aと生化学的に共精製されるタンパク質(Frank et al., Proc Natl Acad Sci USA 95:12872-12877 (1988))をコードするAYP1は、この必須領域内に存在する(図3)。そこで、AYP1の配列を決定し、これらの6家族における非保存的ミスセンス変異を特定した(表3および図9参照)。コドン69(R69W)における同型接合性変異が、祖先ハプロタイプと考えられる遺伝子を共有する5パキスタン人家族の全患者に認められた。別の同型接合性変異であるK1431は、バングラデシュ家族に見られた。この変異は、家族内における疾患と関連しており、いずれの変異も少なくとも172個のアジア人対照アレルには見られなかった。RT−PCRによるAYP1の発現プロファイリングからは、FLJ11712と類似した広範な発現パターンが示された。
【0107】
【表7】
【0108】
同時に、発明者らは、AYP1がイーストRNアーゼH2の第2サブユニットであるS.cerevisiaeのRnh2Cp(Jeong et al., Nucleic Acids Res 32:4407-414 (2004))のオルソログであることを明らかにした。Kluyveromyces waltiiオープンリーディングフレームによるデータベース検索の4回の検索繰り返しにより、ヒトAYP1およびS.cerevisiae Rnh2Cpを特定した(図8)。
【0109】
RNASEH2AはAGS4遺伝子である
RNASEH2Aは、染色体19p13.13上にある7kbpのエクソン8遺伝子であり、299個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。RNASE2Aは、遺伝子地図が作製されたいずれのAGS座位とも共局在化しなかった。しかし、SNPアレイゲノムスキャンデータを精査すると、既報のスペイン系白人の先祖を持つ非同族AGS家族(Sanchis et al., J Pediatr 146:701-705, 2005参照)のRNASE2A座位に同型接合性を有する小さな領域を見出した(図4a)。この家族の2人の疾患小児に対して配列を調べると、c.109G→Aの同型接合性単一塩基転換が見られ、その結果G37Sの非保存的ミスセンス変異を起こしていた(図4b)。このアミノ酸は、ヒトから古細菌に至るまで広範囲に保存されており(図4c)、基質結合溝の底部にある最初のβシートの終端の曲がった箇所に位置し、RNアーゼH活性部位の近傍にある(図4d)(Chapados et al., J Mol Biol 307:541-546, 2001)。この変異は、178個の白人対照アレルでは検出されず、両親は、この変異に関して異型接合型であった。
【0110】
RNASEH2B(FLJ11712)、RNASEH2C(AYP1)およびRNASEH2Aは、in vitroでRNアーゼH2活性を有する複合体を形成する
S.cerevisiaeのRnh2Ap−Rnh2Bp−Rnh2Cp複合体との配列相同性に鑑みて、RNASEH2B、RNASEH2CおよびRNASEH2Aタンパク質は、RNアーゼH2活性を有するタンパク質複合体を形成すると考えられる(図5a)。このことを検証するため、Gatewayシステムを用いて3遺伝子のクローニングを行い、エピトープタグの付いたほ乳類発現ベクター(pCGT−Dest(T7)およびpCDNA3.1mychis−Dest)に導入し、この3種類のコンストラクトをHEK293細胞に一過的に共導入した。抗myc抗体によるC末端タグ付きFLJ11712−mycの免疫沈降により、N末端T7タグ付きAYP1およびT7タグ付きRNASE2Aのプルダウンが認められ(図5b)、この3種類のサブユニットがin vitroで相互作用を有することが確認された。
【0111】
既報の蛍光測定法(Parniak et al., Anal Biochem 33-39, 2003)を適用して、この複合体の酵素活性を調べた。蛍光標識オリゴヌクレオチドをDABCYL標識化して蛍光を消光する相補的なDNAオリゴヌクレオチドとアニーリングを行った(図5c)。蛍光色素が結合したオリゴヌクレオチドに対して酵素による開裂が起こると、蛍光色素が隣接する消光分子から遊離して、蛍光シグナルが発生する(図5c)。
【0112】
発明者らは、RNA:DNA二重鎖である「オリゴC」が免疫沈降を起こした複合体により効果的に開裂することを見出し、この複合体がRNアーゼH活性を示すことが確認された(図5d)。更に、この免疫沈降を起こした複合体は、DNA−DNA二重鎖中に埋め込まれた単一のリボヌクレオチドを認識し、「1型」RNアーゼHであるE.coliのRNアーゼHとは対照的に、「オリゴB」を効果的に開裂することから、必要とされる「2型」RNアーゼH活性を有していることが分かる。想定されたように、「オリゴA」は、ヌクレアーゼ抵抗性2−O’メチルRNA構造を用いて合成されていることから、開裂を起こさなかった。
【0113】
RNアーゼH2複合体の変異により酵素活性が低減する
選択した病因変異(FLJ11712、A177T、T1631;AYP1、R69W、K143I;RNASEH2A G37S)を、各遺伝子の部位特異的変異処理を用いて導入し、HEK293細胞に一過的に導入し、発現させた。. 免疫沈降を行って複合体の安定性に及ぼす影響を調べるとともに、酵素活性のアッセイを実施した(図6aおよび6b)。これらの実験により、RNASEH2A G37S変異は複合体の安定性には影響を及ぼさなかったものの、触媒部位における変異に想定されるように、酵素活性が顕著に低下したことが示された(図6b)。AYP1変異の場合には、他のサブユニットと複合体を形成してプルダウンを起こすAYPサブユニット量が低下した。この低下は、酵素活性の低下と関連があった。このことから、酵素活性の低下は、変異によって複合体の形成が阻害された結果であることが示された。
【0114】
実施例2:poly(I:C)処理したHCT116細胞のRNアーゼH2活性アッセイ
発明者らの観察によれば、AGSでは自然免疫が不適切に活性化されており、このことはRNアーゼH2が自然免疫反応に関与していることを示している。この検証を行うため、dsRNAの合成アナログであるpoly(I:C)処理したが、この合成アナログはウイルス感染症と関連があり、dsRNA誘導性タンパク質キナーゼ(PKR)またはトル様受容体3(toll−like receptor 3)を介するサイトカインの生産を誘発することにより自然免疫反応を刺激することが知られている。半密集(semi−confluent)な状態のHCT116結腸癌細胞に対して、25μg/mLのpoly(I:C)(Invivogen、アメリカ)により、経時的に10%FCSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有RPMI1640培地で処理を行った。細胞からタンパク質を含む細胞溶解液を調製し、RNアーゼH2蛍光測定アッセイを行った。
【0115】
結果を図10に示す。2時間後には酵素活性が2倍になったことから、RNアーゼH2がこの経路の下流に位置して、自然免疫反応の作動因子(effector)である可能性が示唆された。
【0116】
実施例3:ポリクローナル抗体
RNアーゼH2イムノゲン(免疫原)をバクテリア発現タンパク質として発現することにより、ポリクローナル抗体を生成した("Antibodies: A Laboratory Manual" HarlowおよびLane編集, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988年12月1日発行)ISBN 978-0879693145参照)。この発現タンパク質を、Bサブユニットに付けたGSTタグにより精製した。その後、このGSTタグをPreScissionプロテアーゼ(Amersham)により切り離して、得られたタンパク質をヒツジ(Eurogentec)に注入した。注入の際には、フロイントアジュバントを使用した。1回目の注入には、完全アジュバントを用い、その後は不完全アジュバントによりブーストを行った。その結果得られたヒツジ血清を抗原複合体が結合したカラムに通し、免疫アフィニティーを利用して精製した。この抗原複合体には、イムノゲンとして用いたものと同じものを使用した。ウェスタンブロット(図11参照)により、抗体は、過剰発現した適正な分子量のサブユニットを検出可能であることが示されている。すなわち、抗体は、RNアーゼH2のA、BおよびCサブユニットに対する特異性を有することが示された。別のバンド(*)は、内因性タンパク質のうちの1つを示している可能性がある。ウェスタンブロット法により得られたバンドについて、抗タグ抗体により再検索(reprobing)して、同定を行った。
【0117】
使用した免疫源配列は、以下のとおりである。
抗RNASEH2B用(プロテアーゼ切断から残ったリンカー残基を含む。)
LEVLFQGPLGSPEFPSTSLYKKAGSTMAAGVDCGDGVGARQHVFLVSE YLKDASKKMKNGLMFVKLVNPCSGEGAIYLFNMCLQQLFEVKVFKEKHH SWFINQSVQSGGLLHFATPVDPLFLLLHYLIKADKEGKFQPLDQVVVDNV FPNCILLLKLPGLEKLLHHVTEEKGNPEIDNKKYYKYSKEKTLKWLEKKVN QNAALKTNNVNVSSRVQSTAFFSGDQASTDKEEDYIRYAHGLISDYIPK ELSDDLSKYLKPEPSASLPNPPSKKIKLSDEPVEAKEDYTKFNTKDLKTE KKNSKMTAAQKALAKVDKSGMKSIDTFFGVKNKKKIGKV(配列番号52)。
【0118】
抗RNASEH2C用
MESGDEAAIERHRVHLRSATLRDAVPATLHLLPCEVAVDGPAPVGRFFT PAIRQGPEGLEVSFRGRCLRGEEVAVPPGLVGWMVTEEKKVSMGKPD PLRDSGTDDQEEEPLERDFDRFIGATANFSRFTLWGLETIPGPDAKVRG ALTWPSLAAAIHAQVPED(配列番号53)。
【0119】
抗RNASEH2A用
MDLSELERDNTGRCRLSSPVPAVCRKEPCVLGVDEAGRGPVLGPMVYA ICYCPLPRLADLEALKVADSKTLLESERERLFAKMEDTDFVGWALDVLSP NLISTSMLGRVKYNLNSLSHDTATGLIQYALDQGVNVTQVFVDTVGMPE TYQARLQQSFPGI EVNKAKADALYPVVSAASICAKVARDQAVKKWQFV EKLQDLDTDYGSGYPNDPKTKAWLKEHVEPVFGFPQFVRFSWRTAQTIL EKEAEDVIWEDSASENQEGLRKITSYFLNEGSQARPRSSHRYFLERGLE
SATSL(配列番号54)。
【0120】
実施例4:リンパ芽球様細胞株(LCL)
AGS患者の初代B細胞にEBVを感染させ、継続的に増殖する細胞株として、リンパ芽球様細胞株(LCL)を作成した。LCLを作成する適切な方法は公知であり、例えば、Penno et al., Methods in Cell Science 15(1):43-47, 1993に記載されている。LCLに対して形質転換を行い、患者のサブユニットに見られる代表的な変異を示すようにした。
【0121】
以下のLCLを作成した。
【表8】
【0122】
細胞性酵素活性は、すでに述べたRNアーゼH活性蛍光測定法によりアッセイすることができる。エンドポイントアッセイ(図13)の他、キネティックアッセイも内蔵型温度制御装置(37℃に設定)のついたPerkin Elmer Victor Ill型装置により一定の時間間隔(例えば、5分毎)で測定可能である。RNアーゼH2変異リンパ芽球様細胞株の活性を調べるアッセイ例を図13に示した。
【0123】
実施例5:組換えRNアーゼH2
3遺伝子を含むポリシストロン性バクテリア発現コンストラクトを用いて、酵素活性を有する組換えRNアーゼH2タンパク質複合体を合成、精製した(図15a参照)。変異型および野生型の複合体の活性は、図15bに示すように、酵素アッセイにより測定することができる。
【0124】
実施例6:ウイルス複製を抑制するRNアーゼH2
RNA−DNA中間体は、ウイルスの複製に必須である。それゆえ、内因性RNアーゼH2活性のアップレギュレーションは、ウイルス複製を抑制するためのホスト反応として有益であることが期待できる。発明者らは、この考えを支持する証拠を得ており、自然免疫シグナルの強力な活性因子であるdsRNA(polyl:C)によるHCT116細胞処理後数時間内に酵素活性が増大する(図10参照)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNアーゼH2の組換え体であって、
i)配列番号1、配列番号3もしくは配列番号5のうちの1つからなる塩基配列によってコードされるタンパク質またはそのホモログと、
ii)配列番号2、配列番号2もしくは配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログとからなる
ことを特徴とするRNアーゼH2の組換え体。
【請求項2】
配列番号1に示すヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項3】
配列番号3に示すヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項4】
配列番号5に示すヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項5】
配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項6】
配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項7】
配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項8】
RNアーゼH2の組換え体であって、
i)配列番号1のヌクレオチド配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Bまたは配列番号2のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2B、
ii)配列番号3のヌクレオチド配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Cまたは配列番号4のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2C、および
iii)配列番号5のヌクレオチド配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Aまたは配列番号6のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2Aのうち少なくとも1つを含むことを特徴とするRNアーゼH2の組換え体。
【請求項9】
i)、ii)およびiii)のうち少なくとも2つを含むことを特徴とする請求項8のRNアーゼH2組換え体。
【請求項10】
i)、ii)およびiii)の各コンポーネントを含むことを特徴とする請求項8のRNアーゼH2組換え体。
【請求項11】
配列番号1、3もしくは5のヌクレオチド配列またはそのホモログからなることを特徴とする組換えポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
【請求項13】
配列番号2、4もしくは6のアミノ酸配列またはそのホモログからなるタンパク質。
【請求項14】
請求項13のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項11または14のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項16】
請求項15のベクターを導入した宿主細胞。
【請求項17】
RNアーゼH2の変異体を発現するリンパ芽球様細胞株(LCL)。
【請求項18】
請求項17の細胞株であって、該RNアーゼH2がRNアーゼH2BのA177T変異を有することを特徴とする細胞株。
【請求項19】
請求項17の細胞株であって、該RNアーゼH2がRNアーゼH2AのG37S変異を有することを特徴とする細胞株。
【請求項20】
ES細胞株である請求項16の宿主細胞。
【請求項21】
請求項12および13のいずれかのタンパク質に特異的な抗体。
【請求項22】
配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号1のポリヌクレオチドでコードされるタンパク質に特異的に結合することを特徴とする請求項21の抗体。
【請求項23】
配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号3のポリヌクレオチドでコードされるタンパク質に特異的に結合することを特徴とする請求項21の抗体。
【請求項24】
配列番号6に示すアミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号5のポリヌクレオチドでコードされるタンパク質に特異的に結合することを特徴とする請求項21の抗体。
【請求項25】
ポリクローナル抗体である請求項21から24のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項26】
モノクローナル抗体である請求項21から24のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項27】
ヒト型化抗体である請求項21から26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項28】
治療に使用する請求項21から27のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項29】
RNアーゼH2もしくはそのコンポーネントの活性化因子もしくは不活性化因子またはRNアーゼH2基質特異性の調節因子を特定するアッセイであって、
i)被験物質とRNアーゼH2組換え体またはそのコンポーネントと接触させる工程であって、該コンポーネントがRNASEH2B、RNASEH2C、RNASEH2Aもしくはその任意の組み合わせである工程、
ii)RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、被験物質存在下任意の時間で測定する工程、及び、
iii)該被験物質のRNアーゼH2またはそのコンポーネントに対する活性を測る工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項30】
ii)の工程を所定期間行い、RNアーゼH2活性をその期間中定期的に測定することを特徴とする請求項29のアッセイ。
【請求項31】
組換えRNアーゼH2複合体がi)の工程に存在する請求項29および30のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項32】
該RNアーゼH2複合体が細胞中に存在する請求項31のアッセイ。
【請求項33】
RNASEH2A、RNASEH2BおよびRNASEH2Cのうちの1つがi)の工程に存在する請求項29および30のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項34】
RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、標識化したオリゴヌクレオチドを導入することによって、ii)の工程で測定する請求項29から33のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項35】
RNアーゼH2もしくはそのコンポーネントの活性化因子もしくは不活性化因子またはRNアーゼH2基質特異性の調節因子を特定するアッセイであって、
i)被験物質と変異型RNアーゼH2またはその変異コンポーネントと接触させる工程であって、該コンポーネントがRNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2Cもしくはその任意の組み合わせである工程、
ii)該RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、該被験物質存在下任意の時間で測定する工程、及び、
iii)該被験物質のRNアーゼH2またはそのコンポーネントに対する活性を測る工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項36】
iii)の工程を一定期間行い、RNアーゼH2活性をその期間中定期的に測定することを特徴とする請求項35のアッセイ。
【請求項37】
該RNアーゼH2が組換え体である請求項35および36のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項38】
該RNアーゼH2がリンパ芽球様細胞株から発現した請求項35および36のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項39】
該RNアーゼH2が非ヒトトランスジェニック動物により発現した請求項35および36のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項40】
該RNアーゼH2複合体が細胞内に存在する請求項35および36のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項41】
RNアーゼH2の1以上のコンポーネントにおける修飾の影響を測定するアッセイであって、
i)少なくとも1つのコンポーネントが野生型に対して変異型であるRNアーゼH2を提供する工程、
ii)該RNアーゼH2とそれに対する基質とを接触させる工程、
iii)該RNアーゼH2の活性を、任意の時間にわたって測定する工程、及び、
iv)修飾されたコンポーネントがRNアーゼH2活性に及ぼす影響を測定する工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項42】
iii)の工程を一定期間行い、RNアーゼH2活性をその期間中定期的に測定することを特徴とする請求項41のアッセイ。
【請求項43】
該RNアーゼH2がリンパ芽球様細胞株から発現した請求項41および42のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項44】
該RNアーゼH2が非ヒトトランスジェニック動物により発現した請求項41および42のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項45】
該RNアーゼH2複合体が細胞内に存在する請求項41および42のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項46】
患者のゲノム中のRNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2A遺伝子における突然変異を検出するアッセイであって、
i)患者から採取した白血球の溶解を行う工程、
ii)溶解した白血球細胞のRNアーゼH2活性を測定する工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項47】
SLE、AGS、自己免疫疾患、細菌感染症に対する罹患しやすさまたはその遺伝的リスクの診断を補助する方法であって、患者のRNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2C遺伝子のジェノタイピングを行い、その結果を野生型と比較することを特徴とする方法。
【請求項48】
該細菌感染症がウイルス感染症である請求項47の方法。
【請求項49】
変異型RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物を製造する方法であって、
a)変異型RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするポリヌクレオチド配列を含む組換え遺伝子コンストラクトを非ヒト接合体または非ヒト胚幹細胞に導入する工程、
b)該接合体または胚幹細胞から非ヒトトランスジェニック動物を作成する工程、及び、
c)変異型RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物を製造する工程を含むことを特徴とするトランスジェニック動物の製造方法。
【請求項50】
該トランスジェニック動物がげっ歯類である請求項49の方法。
【請求項51】
該トランスジェニック動物がマウスまたはラットである請求項50の方法。
【請求項52】
RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cの変異遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項53】
RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cを発現する細胞を有する請求項52のトランスジェニック動物。
【請求項54】
げっ歯類である請求項52および53のいずれか一項に記載のトランスジェニック動物。
【請求項55】
マウスまたはラットである請求項54のトランスジェニック動物。
【請求項56】
AGS、SLE、自己免疫疾患または細菌感染症のモデルとしての、請求項52および53のいずれか一項に記載のトランスジェニック動物の使用。
【請求項57】
患者がAGS、SLE、自己免疫疾患もしくは細菌感染症に対する罹患しやすさまたはその傾向もしくはリスクを有するか否かの診断を行う診断キットであって、適切な補助剤と組み合わせた、RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cのプライマーを含むことを特徴とする診断キット。
【請求項58】
該細菌感染症がウイルス感染症である請求項57の診断キット。
【請求項59】
炎症調節活性を有する因子を特定するアッセイであって、
i)被験物質とRNアーゼH2組換え体またはそのコンポーネントと接触させる工程であって、該コンポーネントがRNASEH2B、RNASEH2C、RNASEH2Aもしくはその任意の組み合わせである工程、及び、
ii)RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、被験物質存在下任意の時間で測定する工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項60】
該因子が抗炎症性因子である請求項60のアッセイ。
【請求項61】
該因子が向炎症性因子である請求項60のアッセイ。
【請求項1】
RNアーゼH2の組換え体であって、
i)配列番号1、配列番号3もしくは配列番号5のうちの1つからなる塩基配列によってコードされるタンパク質またはそのホモログと、
ii)配列番号2、配列番号2もしくは配列番号6のアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログとからなる
ことを特徴とするRNアーゼH2の組換え体。
【請求項2】
配列番号1に示すヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項3】
配列番号3に示すヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項4】
配列番号5に示すヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項5】
配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項6】
配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項7】
配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質またはそのホモログを含むことを特徴とする請求項1のRNアーゼH2組換え体。
【請求項8】
RNアーゼH2の組換え体であって、
i)配列番号1のヌクレオチド配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Bまたは配列番号2のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2B、
ii)配列番号3のヌクレオチド配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Cまたは配列番号4のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2C、および
iii)配列番号5のヌクレオチド配列もしくはそのホモログによってコードされるRNASEH2Aまたは配列番号6のアミノ酸配列もしくはそのホモログを有するRNASEH2Aのうち少なくとも1つを含むことを特徴とするRNアーゼH2の組換え体。
【請求項9】
i)、ii)およびiii)のうち少なくとも2つを含むことを特徴とする請求項8のRNアーゼH2組換え体。
【請求項10】
i)、ii)およびiii)の各コンポーネントを含むことを特徴とする請求項8のRNアーゼH2組換え体。
【請求項11】
配列番号1、3もしくは5のヌクレオチド配列またはそのホモログからなることを特徴とする組換えポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11のポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
【請求項13】
配列番号2、4もしくは6のアミノ酸配列またはそのホモログからなるタンパク質。
【請求項14】
請求項13のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項15】
請求項11または14のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項16】
請求項15のベクターを導入した宿主細胞。
【請求項17】
RNアーゼH2の変異体を発現するリンパ芽球様細胞株(LCL)。
【請求項18】
請求項17の細胞株であって、該RNアーゼH2がRNアーゼH2BのA177T変異を有することを特徴とする細胞株。
【請求項19】
請求項17の細胞株であって、該RNアーゼH2がRNアーゼH2AのG37S変異を有することを特徴とする細胞株。
【請求項20】
ES細胞株である請求項16の宿主細胞。
【請求項21】
請求項12および13のいずれかのタンパク質に特異的な抗体。
【請求項22】
配列番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号1のポリヌクレオチドでコードされるタンパク質に特異的に結合することを特徴とする請求項21の抗体。
【請求項23】
配列番号4に示すアミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号3のポリヌクレオチドでコードされるタンパク質に特異的に結合することを特徴とする請求項21の抗体。
【請求項24】
配列番号6に示すアミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号5のポリヌクレオチドでコードされるタンパク質に特異的に結合することを特徴とする請求項21の抗体。
【請求項25】
ポリクローナル抗体である請求項21から24のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項26】
モノクローナル抗体である請求項21から24のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項27】
ヒト型化抗体である請求項21から26のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項28】
治療に使用する請求項21から27のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項29】
RNアーゼH2もしくはそのコンポーネントの活性化因子もしくは不活性化因子またはRNアーゼH2基質特異性の調節因子を特定するアッセイであって、
i)被験物質とRNアーゼH2組換え体またはそのコンポーネントと接触させる工程であって、該コンポーネントがRNASEH2B、RNASEH2C、RNASEH2Aもしくはその任意の組み合わせである工程、
ii)RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、被験物質存在下任意の時間で測定する工程、及び、
iii)該被験物質のRNアーゼH2またはそのコンポーネントに対する活性を測る工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項30】
ii)の工程を所定期間行い、RNアーゼH2活性をその期間中定期的に測定することを特徴とする請求項29のアッセイ。
【請求項31】
組換えRNアーゼH2複合体がi)の工程に存在する請求項29および30のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項32】
該RNアーゼH2複合体が細胞中に存在する請求項31のアッセイ。
【請求項33】
RNASEH2A、RNASEH2BおよびRNASEH2Cのうちの1つがi)の工程に存在する請求項29および30のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項34】
RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、標識化したオリゴヌクレオチドを導入することによって、ii)の工程で測定する請求項29から33のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項35】
RNアーゼH2もしくはそのコンポーネントの活性化因子もしくは不活性化因子またはRNアーゼH2基質特異性の調節因子を特定するアッセイであって、
i)被験物質と変異型RNアーゼH2またはその変異コンポーネントと接触させる工程であって、該コンポーネントがRNASEH2A、RNASEH2B、RNASEH2Cもしくはその任意の組み合わせである工程、
ii)該RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、該被験物質存在下任意の時間で測定する工程、及び、
iii)該被験物質のRNアーゼH2またはそのコンポーネントに対する活性を測る工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項36】
iii)の工程を一定期間行い、RNアーゼH2活性をその期間中定期的に測定することを特徴とする請求項35のアッセイ。
【請求項37】
該RNアーゼH2が組換え体である請求項35および36のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項38】
該RNアーゼH2がリンパ芽球様細胞株から発現した請求項35および36のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項39】
該RNアーゼH2が非ヒトトランスジェニック動物により発現した請求項35および36のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項40】
該RNアーゼH2複合体が細胞内に存在する請求項35および36のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項41】
RNアーゼH2の1以上のコンポーネントにおける修飾の影響を測定するアッセイであって、
i)少なくとも1つのコンポーネントが野生型に対して変異型であるRNアーゼH2を提供する工程、
ii)該RNアーゼH2とそれに対する基質とを接触させる工程、
iii)該RNアーゼH2の活性を、任意の時間にわたって測定する工程、及び、
iv)修飾されたコンポーネントがRNアーゼH2活性に及ぼす影響を測定する工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項42】
iii)の工程を一定期間行い、RNアーゼH2活性をその期間中定期的に測定することを特徴とする請求項41のアッセイ。
【請求項43】
該RNアーゼH2がリンパ芽球様細胞株から発現した請求項41および42のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項44】
該RNアーゼH2が非ヒトトランスジェニック動物により発現した請求項41および42のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項45】
該RNアーゼH2複合体が細胞内に存在する請求項41および42のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項46】
患者のゲノム中のRNASEH2B、RNASEH2CまたはRNASEH2A遺伝子における突然変異を検出するアッセイであって、
i)患者から採取した白血球の溶解を行う工程、
ii)溶解した白血球細胞のRNアーゼH2活性を測定する工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項47】
SLE、AGS、自己免疫疾患、細菌感染症に対する罹患しやすさまたはその遺伝的リスクの診断を補助する方法であって、患者のRNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2C遺伝子のジェノタイピングを行い、その結果を野生型と比較することを特徴とする方法。
【請求項48】
該細菌感染症がウイルス感染症である請求項47の方法。
【請求項49】
変異型RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物を製造する方法であって、
a)変異型RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするポリヌクレオチド配列を含む組換え遺伝子コンストラクトを非ヒト接合体または非ヒト胚幹細胞に導入する工程、
b)該接合体または胚幹細胞から非ヒトトランスジェニック動物を作成する工程、及び、
c)変異型RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cをコードするゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物を製造する工程を含むことを特徴とするトランスジェニック動物の製造方法。
【請求項50】
該トランスジェニック動物がげっ歯類である請求項49の方法。
【請求項51】
該トランスジェニック動物がマウスまたはラットである請求項50の方法。
【請求項52】
RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cの変異遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項53】
RNASEH2A、RHASEH2BまたはRNASEH2Cを発現する細胞を有する請求項52のトランスジェニック動物。
【請求項54】
げっ歯類である請求項52および53のいずれか一項に記載のトランスジェニック動物。
【請求項55】
マウスまたはラットである請求項54のトランスジェニック動物。
【請求項56】
AGS、SLE、自己免疫疾患または細菌感染症のモデルとしての、請求項52および53のいずれか一項に記載のトランスジェニック動物の使用。
【請求項57】
患者がAGS、SLE、自己免疫疾患もしくは細菌感染症に対する罹患しやすさまたはその傾向もしくはリスクを有するか否かの診断を行う診断キットであって、適切な補助剤と組み合わせた、RNASEH2A、RNASEH2BまたはRNASEH2Cのプライマーを含むことを特徴とする診断キット。
【請求項58】
該細菌感染症がウイルス感染症である請求項57の診断キット。
【請求項59】
炎症調節活性を有する因子を特定するアッセイであって、
i)被験物質とRNアーゼH2組換え体またはそのコンポーネントと接触させる工程であって、該コンポーネントがRNASEH2B、RNASEH2C、RNASEH2Aもしくはその任意の組み合わせである工程、及び、
ii)RNアーゼH2またはそのコンポーネントの活性を、被験物質存在下任意の時間で測定する工程を含むことを特徴とするアッセイ。
【請求項60】
該因子が抗炎症性因子である請求項60のアッセイ。
【請求項61】
該因子が向炎症性因子である請求項60のアッセイ。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2010−528582(P2010−528582A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513774(P2009−513774)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050331
【国際公開番号】WO2007/141580
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(597166578)メディカル リサーチ カウンシル (60)
【出願人】(501323583)ユニバーシティ オブ リーズ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050331
【国際公開番号】WO2007/141580
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(597166578)メディカル リサーチ カウンシル (60)
【出願人】(501323583)ユニバーシティ オブ リーズ (2)
【Fターム(参考)】
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