説明

RNA干渉によりラブドウイルスに対して抵抗性を得るためのウイルス遺伝子の同定

【課題】実用化に結びつく、ラブドウイルス科のウイルスに対して抵抗性植物の作出方法および抵抗性型品種を提供する。
【解決手段】ラブドウイルス科のウイルスゲノムに存在する少なくとも1つの遺伝子の発現抑制剤を含む、ラブドウイルス科のウイルス病に抵抗性を付与するための組成物、ならびに、ラブドウイルス科のウイルス病に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科のウイルスに感染し得るイネ科植物を生産する方法であって、A)ラブドウイルス科のウイルスゲノムに存在する少なくとも1つの遺伝子の発現抑制剤を提供する工程;B)該発現抑制剤を該植物の細胞に導入する工程;C)該発現抑制剤が導入された植物の細胞を選択する工程;およびD)該選択された細胞を再分化させて、トランスジェニック植物を作出する工程;を包含する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラブドウイルス科のウイルスに対して抵抗性植物を作出する方法に関する。より具体的には、ラブドウイルス科のウイルスのヌクレオタンパク質(NP)、ホスホタンパク質(P)、移行タンパク質(P3)およびP6タンパク質等の遺伝子をコードする核酸分子を用いた、ラブドウイルス科のウイルスに対して抵抗性植物を作出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、植物ウイルス病の防除には抵抗性品種の利用が最も有効な方法のひとつであるが、抵抗性遺伝子源には限りがあり、また、特定の遺伝子を長期間使用するとそれを侵すウイルス系統の出現によって導入遺伝子の有効性がやがて失われ、結果的にその抵抗性が崩壊してしまうというケースがしばしば起こる。
【0003】
ラブドウイルス科のウイルスには、イネ黄葉ウイルス(RTYV)などの重要ウイルスが含まれ、特に東南アジアの米の生産に多大な被害を及ぼし、脅威となっている。
【0004】
このような状況の突破口として、植物自身が生来有するRNA干渉能に関する知見の集積とその応用を可能にした遺伝子工学技術を駆使して、しばしば大発生して食料安定供給を脅かすラブドウイルス科のウイルスに対して強力な抵抗性を発揮するイネ品種の開発が望まれている。
【0005】
特許文献1は、イネ萎縮ウイルス(RDV)を標的としたRNA干渉(RNAi)を用いたウイルス抵抗性を開示する。
【0006】
特許文献2は、イネ縞葉枯ウイルス(RSV)を標的としたRNAiを用いたウイルス抵抗性を開示する。
【0007】
非特許文献1は、植物でヌクレオキャプシドタンパク質、移行タンパク質を標的としたRNAiを用いたウイルス抵抗性を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2009/020237号パンフレット
【特許文献2】特開2011−67115号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Shimizu T,Nakazono-Nagaoka E, Uehara-Ichiki T, Sasaya T, Omura T. (2011) Targeting specific genes for RNA interference is crucial to the development of strong resistance to Rice stripe virus. Plant Biotechnol J. 2011 May;9(4):503-12.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意研究した結果、ラブドウイルス科に属するウイルス(例えば、イネ黄葉ウイルス(RTYV))のゲノムに存在する少なくとも1つの遺伝子の発現抑制剤を含む、ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる疾患に対する抵抗性を付与するための組成物が、予想外に、完全な抵抗性を付与することを見出したことにより実用化に結びつく、ラブドウイルス科のウイルスに対して抵抗性植物の作出方法および抵抗性型品種を得ることに成功した。
【0011】
一般に、RNA干渉(RNAi)では遺伝子の発現を完全に抑制することができないという共通認識が存在する(RNAi実験なるほどQ & A,羊土社,2006年、pp.4)。
【0012】
RTYVは、他のイネ病変の原因となるウイルスであるイネ萎縮病ウイルス(RDV)やイネ縞葉枯ウイルス(RSV)とは違い、1本のマイナス鎖RNAのゲノムの中に7つの遺伝子(NP,P,P3,M,G,P6,L)が存在し、その部分からCAPおよびpoly(A)を持つmRNAが転写される。また、そのゲノムの両末端付近にleader配列、trailer配列と呼ばれる領域があり、その部分からはCAPおよびpoly(A)を持たないRNAが転写されているとされる。
【0013】
そこで、イネ黄葉ウイルスがコードする全遺伝子について個々の遺伝子を、従来ラブドウイルスに対する抵抗性付与に関する研究で通常行われている20数塩基で比較する方法ではなく、500塩基程度の長さで各遺伝子についてRNA干渉で発現抑制を試みたところ、NP、P、P3およびP6等を発現抑制させるとイネに抵抗性が付与されることが判明した。
【0014】
また本発明は、以下の項目を提供する。
(1)ラブドウイルス科に属するウイルスのヌクレオタンパク質(NP)、ホスホタンパク質(P)、移行タンパク質(P3)またはP6タンパク質をコードする核酸配列の、ラブドウイルス科に属するウイルスに対する抵抗性を付与するための使用。
(2)前記NP、P、P3またはP6は、それぞれ配列番号1、3、5もしくは11に示すヌクレオチド配列、または該ヌクレオチド配列において1もしくは数個の置換、付加、挿入、および/もしくは欠失を有する改変配列を含むか、あるいはそれぞれ配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個の置換、付加、挿入、および/もしくは欠失を有する改変配列を含むアミノ酸配列をコードする、項目1に記載に記載の使用。
(3)前記ウイルスは、イネ黄葉ウイルス(RTYV)である、項目1または2に記載の使用。
(4)前記抵抗性はイネ属植物に対して付与される、項目1〜3のいずれかに記載の使用。
(5)前記抵抗性はイネに対して付与される、項目1〜4のいずれかに記載の使用。
(6)ラブドウイルス科に属するウイルスのゲノムに存在するNP、P、P3またはP6のうち少なくとも1つの遺伝子の発現抑制剤を含む、ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる病変または疾患に対する抵抗性を付与するための組成物。
(7)前記NP、P、P3またはP6は、それぞれ配列番号1、3、5もしくは11に示すヌクレオチド配列、または該ヌクレオチド配列において1もしくは数個の置換、付加、挿入、および/もしくは欠失を有する改変配列を含むか、あるいはそれぞれ配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個の置換、付加、挿入、および/もしくは欠失を有する改変配列を含むアミノ酸配列をコードする、項目6に記載に記載の組成物。
(8)前記ウイルスは、イネ黄葉ウイルス(RTYV)である、項目6または7に記載に記載の組成物。
(9)前記抵抗性はイネ属植物に対して付与される、項目6〜8のいずれかに記載に記載の組成物。
(10)前記抵抗性はイネに対して付与される、項目6〜9のいずれかに記載に記載の組成物。
(11)前記発現抑制剤は、前記遺伝子のRNAi、コサプレッション、リボザイム、キメラオリゴ、アンチセンスサプレッションを行うものか、前記遺伝子産物に対する抗体である、項目6〜10のいずれかに記載の組成物。
(12)前記発現抑制剤は、前記遺伝子のRNAiであって、20塩基以上の長さを有する、項目11に記載の組成物。
(12A)前記発現抑制剤は、前記遺伝子のRNAiであって、30塩基以上の長さを有する、項目11に記載の組成物。
(13)前記RNAiの長さは約500塩基である、項目12に記載の組成物。
(14)前記RNAiは、配列番号16、17、18、19および22からなる群より選択されるヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列において1または数個の置換、付加、挿入、および/または欠失を有する改変配列を有する、項目13に記載の組成物。
(15)前記発現抑制剤は、前記遺伝子のRNAiであり
(a)配列番号46に示される核酸配列からなるユビキチンプロモーター;
(b)(i)配列番号1、3、5または11に示される核酸配列か、または配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列;あるいは
(ii)配列番号1、3、5または11に示される核酸配列または配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列において1または数個の置換、付加、挿入、および/または欠失を有する改変体、
と相補的なアンチセンス配列;
(c)配列番号45に示される核酸配列からなるトリミング配列;
(d)(i)配列番号1、3、5または11に示される核酸配列か、または配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列;あるいは
(ii)配列番号1、3、5または11に示される核酸配列または配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列において1または数個の置換、付加、挿入、および/または欠失を有する改変体、
からなるセンス配列;ならびに
(e)ターミネーター配列、
を含む、項目6〜14のいずれかに記載の組成物。
(16)ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる病変または疾患に対する抵抗性を付与するための、ラブドウイルス科に属するウイルスのゲノムに存在するNP、P、P3またはP6のうち少なくとも1つの遺伝子の発現抑制剤。
(17)項目16に記載の発現抑制剤を含む、ベクター。
(18)項目17に記載のベクターを含む、植物細胞。
(19)項目17に記載のベクターを含む、植物体。
(20)項目17に記載のベクターを含む、種子。
(21)ラブドウイルス科に属するウイルスに対する抵抗性を示す、項目19に記載の植物体。
(22)ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる疾患に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科に属するウイルスに感染し得るイネ属植物を生産する方法であって、
A)項目17に記載のベクターを提供する工程;
B)該ベクターを該植物の細胞に導入する工程;
C)該ベクターが導入された植物の細胞を選択する工程;および
D)該選択された細胞を再分化させて、トランスジェニック植物を作出する工程;
を包含する、方法。
(23)ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる疾患に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科に属するウイルスに感染し得る植物のイネ属植物の種子を生産する方法であって、
A)項目17に記載のベクターを提供する工程;
B)該ベクターを該植物の細胞に導入する工程;
C)該ベクターが導入された植物の細胞を選択する工程;
D)該選択された細胞を再分化させて、トランスジェニック植物を作出する工程;および
E)該トランスジェニック植物から種子を得る工程;
を包含する、方法。
(24)ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる疾患に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科に属するウイルスに感染し得るイネ属植物を再生産する方法であって、
A)項目17に記載のベクターを含む、種子を提供する工程;
B)該種子を生長させて、成熟した植物体を得る工程;
C)該植物体から、種子を得る工程、
を包含する、方法。
(25)項目16に記載の発現抑制剤を含む植物体または種子、あるいはその加工品。
【0015】
上記のように、本発明によって、ラブドウイルス科のウイルスの、ヌクレオタンパク質(NP)、ホスホタンパク質(P)、移行タンパク質(P3)またはP6タンパク質の遺伝子をコードする分節ゲノムを標的とした発現抑制剤を含む組成物が提供され、好ましくは、完全抵抗性を持つ集団(ラブドウイルス科のウイルス感染植物体の個体数総計に対して100%が抵抗性を示す)、少なくとも、部分的な抵抗性を持つ集団(ラブドウイルス科のウイルス感染率が野生型の植物と比較して低下する)が提供され、また、安定した抵抗性が付与されたラブドウイルス科のウイルス抵抗型イネの作出方法および抵抗型品種が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、よりウイルス感染抑制あるいは無病徴のレベルの高い抵抗性を示し、または安定した抵抗性が付与されたラブドウイルス科のウイルス抵抗型イネの作出方法および抵抗型品種が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、イネ黄葉ウイルス(RTYV)の標的遺伝子領域を含むゲノム構造(上パネル)および各遺伝子を発現抑制するためのRNAi誘起ベクターの構築模式図(下パネル)を示す。
【図2】図2は、イネ黄葉ウイルス(RTYV)の各遺伝子標的RNAiイネにおける導入遺伝子由来siRNAの検出を示す図である。RNAiが誘導されると24、22および21塩基のRNA断片が蓄積する。Cはコントロール(日本晴)を示す。
【図3】図3は、イネ黄葉ウイルス(RTYV)の各遺伝子標的RNAiイネにおけるウイルス病抵抗性の付与を示す図である。RTYV接種後約60日のイネ葉を用いた感染を検定し、日本晴れを100としたときの感染率を計算した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞または形容詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0019】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0020】
本明細書において「イネ黄葉ウイルス」とは、RTYVともいわれ、ラブドウイルス科に属するウイルスのメンバーである。このウイルス粒子の形状は、幅が100nmで長さが180〜210nmの弾丸状粒子である。また、このウイルスは1本のマイナス鎖RNAをゲノムとし、(そのゲノム配列は配列番号25に示す。)、このマイナス鎖に7種のタンパク質(NP、P、P3、M、G、P6およびL)をコードしている。RTYV粒子は、ゲノムRNA、NP、P、M、G、P6およびLから成るとされている。このウイルスは、イネ科の植物に分布している。また、本発明において例示され実施例1において使用したRTYV(日本株)とは別に、中国で分離された同種のウイルス株はRiceyellow stunt virus (RYSV)と命名されており(GenBank accession No.NC_003746)(以下中国株(RYSV)とする)、同様にRTYVには多くの系統および変種系統が存在することが予想される。従って、本明細書において使用される場合、用語「RTYV」は、当然のことながら、この用語がRTYVの種々の系統および変種系統も意図していることは、当業者であれば容易に明らかである。RTYV日本株全長の標的配列と中国株(RYSV)全長の塩基配列を比較したところ、1.5%の違いが認められた。この程度の置換があるとしても、最低限発現抑制が起こる塩基長、すなわち、24ヌクレオチド以上実質的に一致した部分塩基配列が他の系統もしくは変異株間に存在していれば、ある1種の系統に由来する分節ゲノムを含む本発明の発現抑制剤は、別の1種の系統においても、その効果を発揮し得る。他方、RTYVのどの株由来の配列を用いたとしても、当業者は本明細書の記載に基づいて他の株に対しても効果を有するsiRNAなどの発現抑制剤を製造することができることが理解される。
【0021】
本明細書においてウイルスの「系統」および「株」は、同じウイルス種内でのバリエーションをいうために使用され得るが、これらの用語は、交換可能に使用され得ることが理解される。
【0022】
RTYVについて、本明細書において「NP」とは、(1)配列番号1に示される核酸配列または配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(2)上記核酸配列と中程度または高程度にあるいは任意の程度のストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列と相補的な配列;(3)上記核酸配列において1もしくは数個のヌクレオチドの置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体または上記アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸の置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体;(4)上記核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する改変体;(5)上記核酸配列に対して少なくとも80%以上の相同性を有する改変体;(6)RTYVの他の系統もしくは変種株に由来するNPをコードする核酸配列によって示される、マイナス鎖のRTYVゲノム上に存在する。上記の同一性または相同性は、配列分析用ツールであるBLAST(例えば、BLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行))を用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。ストリンジェントな条件は配列に依存して変化し、このような条件の決定は、当業者の技術範囲内である。NPによってコードされるタンパク質は、ゲノムRNAと結合しヌクレオキャプシド構造をつくる(ヌクレオタンパク質)。また、NPによってコードされるタンパク質は、RNA合成において、複製酵素と相互作用し、その役割を果たす。
【0023】
RTYVについて、本明細書において「P」とは、(1)配列番号3に示される核酸配列または配列番号4に示されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(2)上記核酸配列と中程度または高程度にあるいは任意の程度のストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列と相補的な配列;(3)上記核酸配列において1もしくは数個のヌクレオチドの置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体または上記アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸の置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体;(4)上記核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する改変体;(5)上記核酸配列に対して少なくとも80%以上の相同性を有する改変体;(6)RTYVの他の系統もしくは変種株に由来するPをコードする核酸配列によって示される、マイナス鎖のRTYVゲノム上に存在する。上記の同一性または相同性は、配列分析用ツールであるBLAST(例えば、BLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行))を用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。ストリンジェントな条件は配列に依存して変化し、このような条件の決定は、当業者の技術範囲内である。Pによってコードされるタンパク質は、構造タンパク質(ホスホタンパク質)として機能する。また、Pによってコードされるタンパク質は、RNA合成において、複製酵素と相互作用し、その役割を果たす。
【0024】
RTYVについて、本明細書において「P3」とは、(1)配列番号5に示される核酸配列または配列番号6に示されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(2)上記核酸配列と中程度または高程度にあるいは任意の程度のストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列と相補的な配列;(3)上記核酸配列において1もしくは数個のヌクレオチドの置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体または上記アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸の置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体;(4)上記核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する改変体;(5)上記核酸配列に対して少なくとも80%以上の相同性を有する改変体;(6)RTYVの他の系統もしくは変種株に由来するP3をコードする核酸配列によって示される、マイナス鎖のRTYVゲノム上に存在する。上記の同一性または相同性は、配列分析用ツールであるBLAST(例えば、BLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行))を用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。ストリンジェントな条件は配列に依存して変化し、このような条件の決定は、当業者の技術範囲内である。P3によってコードされるタンパク質は、移行タンパク質として機能し、RTYVの感染細胞に隣接する細胞への移行において、その役割を果たす。
【0025】
RTYVについて、本明細書において「M」とは、(1)配列番号7に示される核酸配列または配列番号8に示されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(2)上記核酸配列と中程度または高程度にあるいは任意の程度のストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列と相補的な配列;(3)上記核酸配列において1もしくは数個のヌクレオチドの置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体または上記アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸の置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体;(4)上記核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する改変体;(5)上記核酸配列に対して少なくとも80%以上の相同性を有する改変体;(6)RTYVの他の系統もしくは変種株に由来するMをコードする核酸配列によって示される、マイナス鎖のRTYVゲノム上に存在する。上記の同一性または相同性は、配列分析用ツールであるBLAST(例えば、BLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行))を用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。ストリンジェントな条件は配列に依存して変化し、このような条件の決定は、当業者の技術範囲内である。Mによってコードされるタンパク質は、構造タンパク質として機能し、粒子の形を形成する過程において、その役割を果たす。
【0026】
RTYVについて、本明細書において「G」とは、(1)配列番号9に示される核酸配列または配列番号10に示されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(2)上記核酸配列と中程度または高程度にあるいは任意の程度のストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列と相補的な配列;(3)上記核酸配列において1もしくは数個のヌクレオチドの置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体または上記アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸の置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体;(4)上記核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する改変体;(5)上記核酸配列に対して少なくとも80%以上の相同性を有する改変体;(6)RTYVの他の系統もしくは変種株に由来するGをコードする核酸配列によって示される、マイナス鎖のRTYVゲノム上に存在する。上記の同一性または相同性は、配列分析用ツールであるBLAST(例えば、BLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行))を用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。ストリンジェントな条件は配列に依存して変化し、このような条件の決定は、当業者の技術範囲内である。Gによってコードされるタンパク質は、構造タンパク質として機能する。また、Gによってコードされるタンパク質は、粒子形成、およびウイルスの宿主細胞への侵入において、その役割を果たす。
【0027】
RTYVについて、本明細書において「P6」とは、(1)配列番号11に示される核酸配列または配列番号12に示されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(2)上記核酸配列と中程度または高程度にあるいは任意の程度のストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列と相補的な配列;(3)上記核酸配列において1もしくは数個のヌクレオチドの置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体または上記アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸の置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体;(4)上記核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する改変体;(5)上記核酸配列に対して少なくとも80%以上の相同性を有する改変体;(6)RTYVの他の系統もしくは変種株に由来するP6をコードする核酸配列によって示される、マイナス鎖のRTYVゲノム上に存在する。上記の同一性または相同性は、配列分析用ツールであるBLAST(例えば、BLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行))を用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。ストリンジェントな条件は配列に依存して変化し、このような条件の決定は、当業者の技術範囲内である。P6によってコードされるタンパク質は、構造タンパク質として機能するが、その役割は不明である。
【0028】
RTYVについて、本明細書において「L」とは、(1)配列番号13に示される核酸配列または配列番号14に示されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(2)上記核酸配列と中程度または高程度にあるいは任意の程度のストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列と相補的な配列;(3)上記核酸配列において1もしくは数個のヌクレオチドの置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体または上記アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸の置換、付加、挿入および/もしくは欠失を有する改変体;(4)上記核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する改変体;(5)上記核酸配列に対して少なくとも80%以上の相同性を有する改変体;(6)RTYVの他の系統もしくは変種株に由来するLをコードする核酸配列によって示される、マイナス鎖のRTYVゲノム上に存在する。上記の同一性または相同性は、配列分析用ツールであるBLAST(例えば、BLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行))を用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。ストリンジェントな条件は配列に依存して変化し、このような条件の決定は、当業者の技術範囲内である。Lによってコードされるタンパク質は、RTYVの粒子に付随されるタンパク質である。また、Lによってコードされるタンパク質は、RNA複製酵素として機能し、RTYVのRNA合成において、その主たる役割を果たす。
【0029】
本明細書において、ウイルス(例えば、RTYV等のラブドウイルス科のウイルス)等に対する「抵抗性」または「耐性」とは、ウイルス等が侵入しようとする宿主生体(本明細書では、植物)が、ウイルス等の侵入に対して抵抗力を持つことをいう。本明細書では、抵抗力とは、宿主生体の通常の生存・増殖が維持される程度の性質のことをいう。その評価手法は、本明細書において以下に規定され、本明細書では特に断らない限り、この評価手法によって抵抗性かどうかが判断される。
【0030】
本明細書において、病害(例えば、ラブドウイルス科のウイルス病としてイネ黄葉病(イネトランジトリーイエローイング病)等)に対する「耐性」または「抵抗性」とは、その病害に対して宿主生体(本明細書では、植物)が抵抗力を持つことをいう。従って、ウイルスの侵入の如何にかかわらず、植物体の生長、目的物質の収量において、変化が見られない限り、病害に対する耐性はあるといえる。病害についてもその評価手法は、本明細書において以下に規定され、本明細書では特に断らない限り、この評価手法によって抵抗性かどうかが判断される。
【0031】
本明細書において、病害に対する「抵抗性」は、病害を引き起こす原因因子(例えば、RTYV)に感染する機会が与えられた場合において、その原因因子の感染または増殖が認められず、その原因因子の感染していない植物体(非感染植物体)と比較して、植物体の生長(例えば、分けつ、伸長)、目的物質の収量において、非感染生物体と何ら変化が見られないことを検定および観察することによって判定することができる。さらに「感受性」は、目的の植物体に上記病原体を感染させたときに、野生型の感染植物体との違いが認められないことを検定および観察することによって判定することができる。
【0032】
病害に対する「完全抵抗性」とは、目的の植物集団に対して上記病原体に感染する機会が与えられた場合において、その全てが「抵抗性」であった場合をいう。
【0033】
また、「部分的な抵抗性」とは、目的の植物集団に対して上記病原体に感染する機会が与えられた場合において、野生型植物集団に対して同様に上記病原体に感染する機会が与えられた場合と比較して、「感受性」が出現する割合が低くなる事をいう。本明細書では、感染に失敗した個体(すなわち、ツマグロヨコバイが吸汁したにも拘わらず、発病に至らなかったもの)を除くことによって病原体に対する抵抗性を正しく評価するために、野生型植物集団において「感受性」が出現する率を100とした時の目的の植物集団における「感受性」が出現する率を計算し、この率が100以下のXとなる場合、目的の植物集団はX%の「部分的な抵抗性」を持つという。
【0034】
本明細書において、「安定した抵抗性」とは、複数の世代において保持される抵抗性をいう。複数の世代において保持されるとは、好ましくは3世代、より好ましくは5世代、さらにより好ましくは7世代、最も好ましくは永久に保持されることを意味する。
【0035】
本明細書では、特に言及するときは、抵抗性は、ウイルスに対する性質をいい、耐性は病害に対する性質をいうが、交換可能に使用され得ることが理解される。
【0036】
本明細書において、「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。通常、本明細書では、RTYVが感染する植物を指す。好ましい植物は、イネ科に属する単子葉植物であり、本発明にとって最も好ましい植物は、イネである。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物組織の例としては、維管束組織(篩部組織、木部組織などを含む)、頂端分裂組織、葉肉組織、厚角組織、柔組織などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
【0037】
本明細書において「野生型」植物とは、形質転換などの人為的手段による遺伝的改変がなされていない天然に存在する植物をいう。
【0038】
本明細書において生物の「器官」とは、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。例えば、茎、根、葉、花、種子などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0039】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、器官の一部であり得る。器官内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。
【0040】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine-modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。
【0041】
本明細書では「核酸分子」もまた、核酸、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドと互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNA、siRNA、shRNA,RNAとDNAとの複合分子などを含む。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。
【0042】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常ゲノム上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、遺伝子というときは、通常、本発明の遺伝子の構造遺伝子ならびにそのプロモーターなどの転写および/または翻訳の調節配列の両方を包含する。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現されたタンパク質、ポリペプチド等のほか、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
【0043】
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0044】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。ヌクレオチドの配列は、本明細書において「ヌクレオチド配列」または「塩基配列」という。
【0045】
本明細書において「ヌクレオチド誘導体」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのようなヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのようなヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。本明細書では、ヌクレオチド誘導体およびヌクレオチドアナログは、ヌクレオチドと同じ生物学的機能、特にRNAiの機能を果たす限り、ヌクレオチドの代替として使用され得ることが理解される。
【0046】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
【0047】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9 (2004.5.12 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
【0048】
本明細書において、「対応する」ヌクレオチドとは、ある核酸分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となる核酸分子またはポリヌクレオチドにおける所定のヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるヌクレオチドをいい、RNAiにあっては、RNA干渉作用において、同様の寄与をするヌクレオチドをいう。アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。
【0049】
本明細書において、「対応する」遺伝子とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子(例えば、RTYVのNP、P、P3、P6等)に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、ウイルスの遺伝子に対応する遺伝子は、他のウイルス(ラブドウイルス科の他のウイルスなど)においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、あるウイルスにおける対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子の配列をクエリ配列として用いてそのウイルス(例えば、ラブドウイルス科の他のウイルス)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
【0050】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100、150、200、250およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100、200、300、400、500およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
【0051】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本発明においては、これらのタンパク質自体の機能のほか、例えば、植物におけるラブドウイルス科のウイルスの増殖への関与、ラブドウイルス科のウイルスに対する抵抗性または感受性への関与、ラブドウイルス科のウイルス病に対する耐性、これらの具体的な機能について直接的または間接的に関連する機能(例えば、ウイルスタンパク質との結合など)などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、ウイルスタンパク質との結合など)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子との間の結合およびそれによって生じる生物学的変化、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。したがって、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。
【0052】
したがって、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が、挙げられる。
【0053】
本明細書において「相互作用」とは、2つの物質についていうとき、一方の物質と他方の物質との間で力(例えば、分子間力(ファンデルワールス力)、水素結合、疎水性相互作用など)を及ぼし合うこという。通常、相互作用をした2つの物質は、会合または結合している状態にある。
【0054】
本明細書中で使用される用語「結合」は、2つのタンパク質もしくは化合物または関連するタンパク質もしくは化合物の間、あるいはそれらの組み合わせの間での、物理的相互作用または化学的相互作用を意味する。結合には、イオン結合、非イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性相互作用などが含まれる。物理的相互作用(結合)は、直接的または間接的であり得、間接的なものは、別のタンパク質または化合物の効果を介するかまたは起因する。直接的な結合とは、別のタンパク質または化合物の効果を介してもまたはそれらに起因しても起こらず、他の実質的な化学中間体を伴わない、相互作用をいう。
【0055】
本明細書中で使用される用語「調節する(modulate)」または「改変する(modify)」は、特定の活性、因子またはタンパク質の量、質または効果における増加または減少あるいは維持を意味する。
【0056】
本明細書において「アンチセンス(活性)」とは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制または低減することができる活性をいう。アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子の核酸配列の全部または一部、あるいは上記の核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、少なくとも100の連続するヌクレオチド長の、少なくとも200の連続するヌクレオチド長の、少なくとも300の連続するヌクレオチド長の、少なくとも400の連続するヌクレオチド長の、少なくとも500の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列を有する分子を本明細書において「アンチセンス分子」、「アンチセンス核酸分子」または「アンチセンス核酸」と称し、これらは互換的に使用される。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、もっとも好ましくは95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加、挿入および/または欠失を有するものもまた含まれる。本明細書中で開示される核酸配列(例えば、配列番号1)が与えられれば、本発明のアンチセンス核酸は、WatsonおよびCrick塩基対形成の法則またはHoogsteen塩基対形成の法則に従い設計され得る。アンチセンス核酸分子は、シグナル伝達因子のmRNAの全コード領域に相補的であり得るが、より好ましくは、mRNAのコード領域または非コード領域の一部のみに対してアンチセンスであるオリゴヌクレオチドである。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNAの翻訳開始部位の周辺の領域に相補的であり得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、または約50ヌクレオチド長であり得る。1つの好ましい実施形態では、本発明の発現抑制剤において使用されるアンチセンス核酸は、その長さの下限において少なくとも約100ヌクレオチド、少なくとも約150ヌクレオチド、少なくとも約200ヌクレオチド、少なくとも約250ヌクレオチド、少なくとも約300ヌクレオチド、少なくとも約350ヌクレオチド、好ましくは、少なくとも約400ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約450ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも約500ヌクレオチドの長さであり得るが、これらの長さに限定されず、約100ヌクレオチド〜約500ヌクレオチドの間のいずれの長さであってもよい;上記アンチセンス核酸は、その長さの上限においては、たとえば、約1050ヌクレオチドまで、約1100ヌクレオチドまで、約1200ヌクレオチドまで、約1300ヌクレオチドまで、約1400ヌクレオチドまで、約1500ヌクレオチドまで、約2000ヌクレオチドまで、または約2500ヌクレオチドの長さ、あるいは対象となる核酸の全長であり得るが、これらの長さに限定されず、約500〜全長までの間の何れの長さであってもよい。理論に束縛されることを望まないが、標的遺伝子を上記範囲(たとえば、500塩基程度)に設計することによって、ウイルス系統間で幅広くアンチセンス現象に基づく遺伝子発現抑制効果を誘起させることができると考えられるからである。本発明のアンチセンス核酸は、当該分野で公知の手順を用いて、化学合成または酵素的連結反応を用いて構築され得る。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に存在するヌクレオチド、またはその分子の生物学的安定性を増加させるかもしくはアンチセンス核酸とセンス核酸との間で形成された二本鎖の物理的安定性を増加させるように設計された種々の改変ヌクレオチドを用いて(例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドが使用され得る)化学合成され得る。アンチセンス核酸を生成するために使用され得る改変ヌクレオチドの例として、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルキューオシン(queosine)、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルキューオシン、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキシン(wybutoxosine)、プソイドウラシル、キューオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、3−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)ウラシル、および2,6−ジアミノプリンなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0057】
本明細書において「RNA干渉」または「RNAi(RNA interference)」とは、交換可能に使用され、二本鎖RNA(double stranded RNA:dsRNA)によって配列特異的にRNAが分解されることによって、タンパク質への翻訳が阻害され、遺伝子発現が抑制される現象をいう。遺伝子発現抑制手法としての植物におけるRNAiについての総説は、例えば、三木ら、「植物におけるRNAiの分子機構とその応用」(実験医学 Vol.22 No.4(3月号)2004)(本明細書中で、参考として援用される)などが挙げられる。RNAiの利点の一つとして、弱いものから強いものまで様々なレベルの発現抑制が個々の遺伝子によって取得され得ること挙げられる。現在、RNAiは、簡便かつ有効な遺伝子発現抑制法として利用されている。好ましい実施形態において、「RNAi」は、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書において用語「RNAi」はまた、文脈に応じて、RNAiを引き起こす因子と同義に用いられ得る。RNAiが因子を示すときは、例えば、20塩基以上であり、通常25塩基以上であり、好ましくは、30塩基以上でありうる。
【0058】
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部、あるいは上記の核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する核酸配列に対して少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0059】
本明細書において「トリミング配列」とは、センス配列およびアンチセンス配列に相当する配列とそれら二つの配列の間に位置する配列(スペーサー、ヘアピン、トリミング等と呼ばれている)ものをいう。下記のような構造:
センス配列−トリミング配列−アンチセンス配列;または
アンチセンス配列−トリミング配列−センス配列
を有する核酸分子が導入され得たベクターで細胞が形質転換されると、センス配列とアンチセンス配列とが二本鎖RNAを形成し、それら二つの鎖の間に位置する部分はループまたはヘアピン部分として保持された、その一部にループ又はヘアピン構造の一本鎖部分を含む二本鎖RNA(shRNA)が形成される。このトリミング配列の長さは、センス配列とアンチセンス配列とが二本鎖RNAを形成するときに、このトリミング配列の構成する一本鎖部分がループまたはヘアピン構造をとる限りにおいてどのような長さのものであってもよい。上記shRNAは、核から細胞質に移動し、その導入された細胞内でDicerによって切断されてsiRNAとなり、RNA干渉を引き起こす。トリミング配列の例としては、例えば、配列番号45に示すものが挙げられる。
【0060】
1つの実施形態では、RNAiを引き起こす因子において使用されるセンス配列またはアンチセンス配列の長さは、その下限において少なくとも約100ヌクレオチド、少なくとも約150ヌクレオチド、少なくとも約200ヌクレオチド、少なくとも約250ヌクレオチド、少なくとも約300ヌクレオチド、少なくとも約350ヌクレオチド、好ましくは、少なくとも約400ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約450ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも約500ヌクレオチドの長さであり得るが、これらの長さに限定されず、約100ヌクレオチド〜約500ヌクレオチドの間のいずれの長さであってもよい;上記センス配列またはアンチセンス配列の長さは、その上限においては、たとえば、約1050まで、約1100ヌクレオチドまで、約1200ヌクレオチドまで、約1300ヌクレオチドまで、約1400ヌクレオチドまで、約1500ヌクレオチドまで、約2000ヌクレオチドまで、または約2500ヌクレオチドの長さ、あるいは対象となる核酸の全長であり得るが、これらの長さに限定されず、約500〜全長までの間の何れの長さであってもよい。理論に束縛されることを望まないが、標的遺伝子を上記範囲(たとえば、500塩基程度)に設計することによって、ウイルス系統間で幅広くRNAiを誘起させることができると考えられるからである。
【0061】
本明細書において第1の物質または因子が第2の物質または因子に「特異的に相互作用する」とは、第1の物質または因子が、第2の物質または因子に対して、第2の物質または因子以外の物質または因子(特に、第2の物質または因子を含むサンプル中に存在する他の物質または因子)に対するよりも高い親和性で相互作用することをいう。物質または因子について特異的な相互作用としては、例えば、核酸におけるハイブリダイゼーション、タンパク質における抗原抗体反応、リガンド−レセプター反応、酵素−基質反応など、核酸およびタンパク質の両方が関係する場合、転写因子とその転写因子の結合部位との反応など、タンパク質−脂質相互作用、核酸−脂質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、物質または因子がともに核酸である場合、第1の物質または因子が第2の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、第1の物質または因子が、第2の物質または因子に対して少なくとも一部に相補性を有することが包含される。また例えば、物質または因子がともにタンパク質である場合、第1の物質または因子が第2の物質または因子に「特異的に相互作用する」こととしては、例えば、抗原抗体反応による相互作用、レセプター−リガンド反応による相互作用、酵素−基質相互作用などが挙げられるがそれらに限定されない。2種類の物質または因子がタンパク質および核酸を含む場合、第1の物質または因子が第2の物質または因子に「特異的に相互作用する」ことには、転写因子と、その転写因子が対象とする核酸分子の結合領域との間の相互作用が包含される。したがって、本明細書においてポリヌクレオチドまたはポリペプチドなどの生物学的因子に対して「特異的に相互作用する因子」とは、そのポリヌクレオチドまたはそのポリペプチドなどの生物学的因子に対する親和性が、他の無関連の(特に、同一性が30%未満の)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対する親和性よりも、代表的には同等またはより高いか、好ましくは有意に(例えば、統計学的に有意に)高いものを包含する。そのような親和性は、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ、結合アッセイなどによって測定することができる。
【0062】
本明細書において「発現抑制剤」とは、広義には、遺伝子の細胞内における発現、すなわち、ゲノムの複製、転写、翻訳を抑制することができるあらゆる因子をいう。
【0063】
本明細書において「因子」(agent)としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAあるいはゲノムRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)などであって、代表的には分子量約10,000以下のもの(例えば、約1,000以下のもの)を指すがそれらに限定されない)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0064】
本明細書において「複合分子」とは、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖、低分子などの分子が複数種連結してできた分子をいう。そのような複合分子としては、例えば、RNAとDNAとの複合分子、糖脂質、糖ペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書では、配列番号2のアミノ酸を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントであって、ラブドウイルス科のウイルスの増殖に関与する生物学的な活性を有する限り、それぞれの改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸分子も使用することができる。また、そのような核酸分子を含む複合分子も使用することができる。
【0065】
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、細胞、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0066】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、細胞、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0067】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味し、その対象物を天然物から区別するために用いられる。
【0068】
本明細書で使用される場合、「遺伝子導入」とは、生体内またはインビトロにおいて、標的細胞内に、天然、合成または組換えの所望の遺伝子または遺伝子断片を、導入された遺伝子がその機能を維持するように、導入することをいう。本発明において導入される遺伝子または遺伝子断片は、特定の配列を有するDNA、RNAまたはこれらの合成アナログである核酸を包含する。また、本明細書において使用される場合、遺伝子導入、形質転換、トランスフェクション、およびトランスフェクトは、互換可能に使用される。
【0069】
本明細書で使用される場合、「遺伝子導入ベクター」および「遺伝子ベクター」は互換可能に使用される。「遺伝子導入ベクター」および「遺伝子ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。「遺伝子導入ベクター」および「遺伝子ベクター」としては、プラスミドベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
本明細書で使用される場合、「遺伝子導入活性」とは、ベクターによる「遺伝子導入」の活性をいい、導入された遺伝子の機能(例えば、発現ベクターの場合、コードされるタンパク質の発現および/またはそのタンパク質の活性など)を指標として検出され得る。
【0071】
本明細書で使用される場合、「外来」の核酸分子とは、ある対象核酸分子内に含まれるその対象核酸分子以外の起源の核酸分子などをいう。この外来の核酸分子は、遺伝子導入ベクターによって導入された遺伝子が発現するために適切な調節配列(例えば、転写に必要なプロモーター、エンハンサー、ターミネーター、およびポリA付加シグナル、ならびに翻訳に必要なリボゾーム結合部位、開始コドン、終止コドンなど)と作動可能に連結される。本発明の別の局面において、外来遺伝子は、この外来遺伝子の発現のための調節配列を含まない。
【0072】
遺伝子導入ベクター内に含まれる外来の核酸分子は、代表的にはDNAまたはRNAの核酸分子であるが、導入される核酸分子は、目的(例えば、RNA干渉)を果たす核酸アナログ分子を含んでもよい。遺伝子導入ベクター内に含まれる分子種は、単一の遺伝子分子種であっても、複数の異なる遺伝子分子種であってもよい。
【0073】
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「減少」または「抑制」とは、交換可能に使用され、ある因子(すなわち、発現抑制剤)を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。
【0074】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「増加」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、ポリペプチドの発現量の増加を含む。本明細書において「発現」の「誘導」とは、ある細胞にある因子を作用させてその遺伝子の発現量を増加させることをいう。したがって、発現の誘導は、まったくその遺伝子の発現が見られなかった場合にその遺伝子が発現するようにすること、およびすでにその遺伝子の発現が見られていた場合にその遺伝子の発現が増大することを包含する。
【0075】
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、植物等の生物の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
【0076】
本明細書中で使用される場合、「ジーンサイレンシング」とは、遺伝子発現の抑制現象を意味する。「ジーンサイレンシング」と呼ばれる現象としては、ゲノムインプリンティング、X染色体の不活性化、PEV(position effect variegation)、トウモロコシのパラミューテションなどが挙げられる。植物におけるトランスジーン(導入遺伝子)の不活性化の一つとして、相同性依存型ジーンサイレンシング(Homology-dependent gene silencing;HDGS)があり、そのHDGS様の現象は、植物内在性遺伝子、植物以外のトランスジェニックにおいても見られており、生物のなんらかの遺伝子制御機構であると考えられる。
【0077】
本明細書中で使用される場合、「相同性依存型ジーンサイレンシング」または「HDGS」は、複数の遺伝子が、その塩基配列の相同性またはその配列の類似性に依存して起こる遺伝子発現の抑制現象をいう。特に、特定の導入された遺伝子(導入遺伝子)を過剰発現させると、その導入遺伝子とともに本来ゲノムに存在していた(すなわち、内在的な)同一または相同な遺伝子が抑制される現象をいう。「HDGS」としては、例えば、「PTGS」が挙げられる。
【0078】
本明細書中で使用される場合、「転写後型ジーンサイレンシング」または「PTGS」は、転写後に起こる遺伝子発現の抑制現象をいう。RNAiもPTGSの一種である。
【0079】
本明細書中において使用される場合、「コサプレッション」、「コーサプレッション」および「共抑制」は、同意義語として使用され得る。「コサプレッション」とは、導入遺伝子を含む植物において、その導入遺伝子と相同な配列を有する内在性の遺伝子(その植物において、その植物のゲノム上の存在していた、その導入遺伝子と同一であるかまたは相同である遺伝子)の両方の発現が抑制される現象をいう。この現象は、ペチュニアの花の色素合成にかかる遺伝子の発現機構を研究している過程に発見された(Napoli,C.,Lemieux,C.&Joergensen,R.:Plant Cell 2,291-299(1990);ならびにvan der Krol,R et al:Plant Cell 2,291-299(1990))。その後、植物のみでなくアカパンカビ、ショウジョウバエ、線虫、哺乳動物細胞などにおいてもそれらの同様の現象が発見されている。このような「コサプレッション」を、育種目的に利用した例は、SCIENCE Vol.309 29 July 2005 p.741-745などに記載されている。
【0080】
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA-induced-silencing-complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものをRNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
【0081】
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
【0082】
本発明においてsiRNAと呼ばれる、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患の治療、予防、予後などに使用することができる。
【0083】
本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態をとっていてもよい。
【0084】
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0085】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
【0086】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
【0087】
本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明の方法および組成物において有用である。
【0088】
本明細書において、RTYVについて、配列番号2(NP)、配列番号4(P)、配列番号6(P3)または配列番号12(P6)等、好ましくは配列番号4(P)、配列番号6(P3)または配列番号12(P6)のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどのタンパク質をコードする天然の核酸は、例えば、配列番号1(NPコード領域)、配列番号3(Pコード領域)、配列番号5(P3コード領域)または配列番号11(P6コード領域)等、好ましくは、配列番号3(Pコード領域)、配列番号5(P3コード領域)または配列番号11(P6コード領域)に示される核酸配列の一部またはその改変体を含むPCRプライマーおよびハイブリダイゼーションプローブを有するcDNAライブラリーから容易に分離される。
【0089】
本明細書において、ハイブリダイゼーションのための「ストリンジェントな条件」とは、標的配列に対して類似性または相同性を有するヌクレオチド鎖の相補鎖が標的配列に優先的にハイブリダイズし、そして類似性または相同性を有さないヌクレオチド鎖の相補鎖が実質的にハイブリダイズしない条件を意味する。ある核酸配列の「相補鎖」とは、核酸の塩基間の水素結合に基づいて対合する核酸配列(例えば、Aに対するT、Gに対するC)をいう。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、そして種々の状況で異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。一般に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度およびpHでの特定の配列についての熱融解温度(Tm)より約5℃低く選択される。Tは、規定されたイオン強度、pH、および核酸濃度下で、標的配列に相補的なヌクレオチドの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である。「ストリンジェントな条件」は配列依存的であり、そして種々の環境パラメーターによって異なる。核酸のハイブリダイゼーションの一般的な指針は、Tijssen(Tijssen(1993)、Laboratory Techniques In Biochemistry And Molecular Biology-Hybridization With Nucleic Acid Probes Part I、第2章 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assay」、Elsevier,New York)に見出される。
【0090】
代表的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が約1.0M Na未満であり、代表的には、pH7.0〜8.3で約0.01〜1.0MのNa濃度(または他の塩)であり、そして温度は、短いヌクレオチド(例えば、10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃、そして長いヌクレオチド(例えば、50ヌクレオチドより長い)については少なくとも約60℃である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によって達成され得る。本明細書におけるストリンジェントな条件として、50%のホルムアミド、1MのNaCl、1%のSDS(37℃)の緩衝溶液中でのハイブリダイゼーション、および0.1×SSCで60℃での洗浄が挙げられる。
【0091】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、90%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0092】
本明細書において「高度にストリンジェントな条件」は、核酸配列において高度の相補性を有するDNA鎖のハイブリダイゼーションを可能にし、そしてミスマッチを有意に有するDNAのハイブリダイゼーションを除外するように設計された条件をいう。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、およびホルムアミドのような変性剤の条件によって決定される。このようなハイブリダイゼーションおよび洗浄に関する「高度にストリンジェントな条件」の例は、0.0015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、65〜68℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および50% ホルムアミド、42℃である。このような高度にストリンジェントな条件については、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory(Cold Spring Harbor,N,Y.1989);およびAnderson et al.、Nucleic Acid Hybridization:a Practical approach、IV、IRL Press Limited(Oxford,England).Limited,Oxford,Englandを参照のこと。必要により、よりストリンジェントな条件(例えば、より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤)を、使用してもよい。他の薬剤が、非特異的なハイブリダイゼーションおよび/またはバックグラウンドのハイブリダイゼーションを減少する目的で、ハイブリダイゼーション緩衝液および洗浄緩衝液に含まれ得る。そのような他の薬剤の例としては、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSOまたはSDS)、Ficoll、Denhardt溶液、超音波処理されたサケ精子DNA(または別の非相補的DNA)および硫酸デキストランであるが、他の適切な薬剤もまた、使用され得る。これらの添加物の濃度および型は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を与えることなく変更され得る。ハイブリダイゼーション実験は、通常、pH6.8〜7.4で実施されるが;代表的なイオン強度条件において、ハイブリダイゼーションの速度は、ほとんどpH独立である。Anderson et al.,Nucleic Acid Hybridization:a Practical Approach、第4章、IRL Press Limited(Oxford,England)を参照のこと。
【0093】
DNA二重鎖の安定性に影響を与える因子としては、塩基の組成、長さおよび塩基対不一致の程度が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、当業者によって調整され得、これらの変数を適用させ、そして異なる配列関連性のDNAがハイブリッドを形成するのを可能にする。完全に一致したDNA二重鎖の融解温度は、以下の式によって概算され得る。
(℃)=81.5+16.6(log[Na+])+0.41(%G+C)−600/N-0.72(%ホルムアミド)
ここで、Nは、形成される二重鎖の長さであり、[Na]は、ハイブリダイゼーション溶液または洗浄溶液中のナトリウムイオンのモル濃度であり、%G+Cは、ハイブリッド中の(グアニン+シトシン)塩基のパーセンテージである。不完全に一致したハイブリッドに関して、融解温度は、各1%不一致(ミスマッチ)に対して約1℃ずつ減少する。
【0094】
本明細書において「中程度にストリンジェントな条件」とは、「高度にストリンジェントな条件」下で生じ得るよりも高い程度の塩基対不一致を有するDNA二重鎖が、形成し得る条件をいう。代表的な「中程度にストリンジェントな条件」の例は、0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、50〜65℃、または0.015M 塩化ナトリウム、0.0015M クエン酸ナトリウム、および20%ホルムアミド、37〜50℃である。例として、0.015M ナトリウムイオン中、50℃の「中程度にストリンジェントな」条件は、約21%の不一致を許容する。
【0095】
本明細書において「高度」にストリンジェントな条件と「中程度」にストリンジェントな条件との間に完全な区別は存在しないことがあり得ることが、当業者によって理解される。例えば、0.015M ナトリウムイオン(ホルムアミドなし)において、完全に一致した長いDNAの融解温度は、約71℃である。65℃(同じイオン強度)での洗浄において、これは、約6%不一致を許容にする。より離れた関連する配列を捕獲するために、当業者は、単に温度を低下させ得るか、またはイオン強度を上昇し得る。
【0096】
約20ヌクレオチドまでのオリゴヌクレオチドプローブについて、1M NaClにおける融解温度の適切な概算は、
Tm=(1つのA−T塩基につき2℃)+(1つのG−C塩基対につき4℃)
によって提供される。なお、6×クエン酸ナトリウム塩(SSC)におけるナトリウムイオン濃度は、1Mである(Suggsら、Developmental Biology Using Purified Genes、683頁、BrownおよびFox(編)(1981)を参照のこと)。
【0097】
配列番号2(NP)、配列番号4(P)、配列番号6(P3)または配列番号12(P6)等、好ましくは、配列番号4(P)、配列番号6(P3)または配列番号12(P6)のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその改変体もしくはフラグメントなどをコードする核酸は、本質的に1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);1mM EDTA;42℃の温度で 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に2×SSC(600mM NaCl;60mM クエン酸ナトリウム);50℃の0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、さらに好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);500mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA; 7% SDS を含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に50℃の1×SSC(300mM NaCl;30mM クエン酸ナトリウム);1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下、最も好ましくは本質的に50℃の温度での1%ウシ血清アルブミン(BSA);200mM リン酸ナトリウム(NaPO);15%ホルムアミド;1mM EDTA;7%SDSを含むハイブリダイゼーション緩衝液、および本質的に65℃の0.5×SSC(150mM NaCl;15mM クエン酸ナトリウム);0.1% SDSを含む洗浄緩衝液によって定義される低ストリンジェント条件下で、配列番号1(NP)、配列番号3(P)、配列番号5(P3)または配列番号11(P6)等、好ましくは、配列番号3(P)、配列番号5(P3)または配列番号11(P6)に示す核酸配列の1つまたはその一部とハイブリダイズし得る。
【0098】
本明細書において「相同性」は、2以上の配列の比較において、それらの配列が進化的に祖先を共有することを示す。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較により類似性に基づいた判定をおこなうか、またはストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。配列の直接の比較により類似性に基づいた判定をおこなう場合、その類似性測定過程のアライメントにおける最も単純な解釈として、同一な(もしくは等価である)文字列(塩基、アミノ酸残基など)で並置されている文字列が、これらの領域が祖先配列のまま変化しなかったものであることを示し、同一でない(もしくは、等価でない)文字列が、突然変異が一方の配列で起こったものであるとの考察が可能である。アライメントにおけるギャップ(インデル)は、配列の一方で、挿入または欠失が起こったものであると考えられる。つまり、それらの配列の同一性または類似性は高いことは、それらの配列における相同性を強く示唆することが理解される。相同性は、発現抑制剤の設計において参照される。
【0099】
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
【0100】
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましくは少なくとも10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは少なくとも11の連続するヌクレオチド長の、少なくとも12の連続するヌクレオチド長の、少なくとも13の連続するヌクレオチド長の、少なくとも14の連続するヌクレオチド長の、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の、少なくとも16の連続するヌクレオチド長の、少なくとも17の連続するヌクレオチド長の、少なくとも18の連続するヌクレオチド長の、少なくとも19の連続するヌクレオチド長の、少なくとも20の連続するヌクレオチド長の、少なくとも25の連続するヌクレオチド長の、少なくとも30の連続するヌクレオチド長の、少なくとも40の連続するヌクレオチド長の、少なくとも50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、少なくとも90%相同な、少なくとも95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0101】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、挿入改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。そのような改変体としては、基準となる核酸分子またはポリペプチドに対して、1または数個の置換、付加、挿入および/または欠失、あるいは1つ以上の置換、付加、挿入および/または欠失を含むものが挙げられるがそれらに限定されない。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。オルソログは、通常別のウイルス株において、もとのウイルス株と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0102】
本明細書において「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468-500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
【0103】
本明細書において使用される核酸分子は、目的とする遺伝子の発現を抑制する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0104】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0105】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加、挿入および/または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わること、挿入されること、または取り除かれることをいう。このような置換、付加、挿入および/または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。基準となる核酸分子またはポリペプチドにおけるこれらの変化は、この核酸分子の5’末端もしくは3’末端で生じ得るか、またはこのポリペプチドを示すアミノ酸配列のアミノ末端部位もしくはカルボキシ末端部位で生じ得るか、またはそれらの末端部位の間のどこにでも生じ得、基準配列中の残基間で個々に散在する。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、15%以内、10%以内、5%以内、または150個以下、100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0106】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0107】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0108】
(遺伝子工学)
本発明において用いられる配列番号2(NP)、配列番号4(P)、配列番号6(P3)または配列番号12(P6)等、好ましくは、配列番号4(P)、配列番号6(P3)または配列番号12(P6)のアミノ酸配列を有するポリペプチドならびにそのフラグメントおよび改変体は、遺伝子工学技術を用いて生産することができる。
【0109】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」または「組み換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体などの宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。ベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」という。そのようなクローニングベクターは通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。そのような制限酵素部位およびマルチプルクローニング部位は、当該分野において周知であり、当業者は、目的に合わせて適宜選択して使用することができる。そのような技術は、本明細書に記載される文献(例えば、Sambrookら、前出)に記載されている。好ましいベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、エピソーム、ウイルス粒子またはウイルスおよび組み込み可能なDNAフラグメント(すなわち、相同組換えによって宿主ゲノム中に組み込み可能なフラグメント)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
ベクターの1つの型は、「プラスミド」であり、これは、さらなるDNAセグメントが連結され得る環状二重鎖DNAループをいう。別の型のベクターは、ウイルスベクターであり、ここで、さらなるDNAセグメントは、ウイルスゲノム中に連結され得る。特定のベクター(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)は、これらが導入される宿主細胞中で自律的に複製し得る。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞中への導入の際に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それにより、宿主ゲノムと共に複製される。さらに、特定のベクターは、これらが作動可能に連結される遺伝子の発現を指向し得る。このようなベクターは、本明細書中で、「発現ベクター」といわれる。
【0111】
従って、本明細書において「発現ベクター」または「発現プラスミド」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、植物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0112】
本発明において用いられ得る原核生物細胞に対する「組み換えベクター」としては、pcDNA3(+)、pBluescript-SK(+/-)、pGEM-T、pEF-BOS、pEGFP、pHAT、pUC18、pFT-DESTTM42GATEWAY、pENTRTM/D-TOPO(Invitrogen)などが例示される。原核生物細胞は、遺伝子の増幅、改変などに用いることができる。
【0113】
本明細書において用いられ得る植物細胞に対する「組み換えベクター」としては、pANDA(奈良先端大学院大学島本教授より分譲、Miki D, Itoh R,and Shimamoto K (2005) RNA Silencing of Single and Multiple Members in a GeneFamily of Rice. Plant Physiol. 138: 1903-1913)、pBE7133-GUS-Hygro(pE7ΩIGUS-Hygro)、pPZP2H-lacを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0114】
本明細書において「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、およびポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に寄与し、そして遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターの例としては、CaMV35Sターミネーター、およびノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0115】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。
【0116】
プロモーターは、誘導性であっても、構成的であっても、部位特異的であっても、時期特異的であってもよいが、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターが好ましい。プロモーターとしては、例えば、哺乳動物細胞、大腸菌、酵母などの宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。
【0117】
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、植物の部位におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、植物の発達段階に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。部位特異的調節エレメントを使用して核酸を発現することによって、組換え植物発現ベクターでは、特定の細胞型において核酸の発現を優先的に指向し得る。部位特異的調節エレメントは、当該分野で公知である。
【0118】
本明細書において、「部位特異的発現プロモーター」とは、器官(例えば、根、茎、葉、果実、種子ならびにそれらの組合せなど)、組織(例えば、表皮、篩部、柔組織、木部、維管束、ならびにそれらの組合せなど)、発達段階(例えば、発芽期、生長期、開花期、登期ならびにそれらの組み合わせなど)などにおいて、特異的なプロモーターである。原理的には、個体において特異的に発現している遺伝子を単離し、そのプロモーター、発現制御シス領域を単離することによって得られる。
【0119】
本明細書において、プロモーターの発現が「構成的」であるとは、生物のすべての組織において、その生物の成長/増殖のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、ノーザンブロット分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上(例えば、5日目および15日目))の同一または対応する部位のいずれにおいても、ほぼ同程度の発現量がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。本発明のプロモーターの発現が「応答性」であるとは、少なくとも1つの因子が生物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を因子に対して「誘導性」といい、発現量が減少する性質を因子に対して「減少性」という。「減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、生物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析で発現量を分析することまたは発現されたタンパク質をウェスタンブロットにより定量することにより決定することができる。因子に対して誘導性のプロモーターを本発明の部位特異的組換え誘導因子をコードする核酸とともに組み込んだベクターで形質転換された哺乳動物細胞または哺乳動物(特定の組織などを含む)は、そのプロモーターの誘導活性をもつ刺激因子を用いることにより、ある条件下での部位特異的組換え配列の部位特異的組換えを行うことができる。
【0120】
本発明のポリヌクレオチドは、そのままでまたは改変されて、当業者に周知の方法を用いて、適切な植物発現ベクターに連結され、公知の遺伝子組換え技術により、植物細胞に導入され得る。導入された遺伝子は、植物細胞中のDNAに組み込まれて存在する。なお、植物細胞中のDNAとは、染色体のみならず、植物細胞中に含まれる各種オルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉緑体など)に含まれるDNAを含む。
【0121】
本明細書において「植物発現ベクター」は、本発明の遺伝子の発現を調節するプロモーターなどの種々の調節エレメントが宿主植物の細胞中で作動可能に連結されている核酸配列をいう。本願明細書で用いる用語「制御配列」は、機能的プロモーターおよび、任意の関連する転写要素(例えば、エンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位など)を有するDNA配列をいう。本願明細書で用いる用語「作動可能に連結」は、遺伝子が発現し得るように、それに関するポリヌクレオチドと、その発現を調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の調節エレメントとが宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。植物発現ベクターは、好適には、植物遺伝子、プロモーター、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子およびエンハンサーを含み得る。発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。本発明に用いる植物発現ベクターは、さらにT−DNA領域を有し得る。T−DNA領域は、特にアグロバクテリウムを用いて植物を形質転換する場合に遺伝子の導入の効率を高める。
【0122】
本明細書において「植物遺伝子プロモーター」は、植物で発現するプロモーターを意味する。再生植物のすべての組織において、本発明のポリヌクレオチドの発現を指向させる植物プロモーターフラグメントを採用し得る。構成的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Langridge,1985,Plant Cell Rep.4,355)、カリフラワーモザイクウイルス19S−RNAを生じるプロモーター(Guilley,1982,Cell 30,763)、カリフラワーモザイクウイルス35S−RNAを生じるプロモーター(Odell,1985,Nature 313,810)、イネのアクチンプロモーター(Zhang,1991,Plant Cell 3,1155)、トウモロコシユビキチンプロモーター(Cornejo 1993,Plant Mol.Biol.23,567)、REXφプロモ−タ−(Mitsuhara,1996,Plant Cell Physiol.37,49)などを用いることができる。
【0123】
あるいは、植物プロモーターは、特定組織において本発明のポリヌクレオチドの発現を指向させ得るか、またはそうでなければ、より特異的な環境または発達の制御下にあり得る。このようなプロモーターは、本明細書では、「誘導可能な」プロモーターと称する。誘導可能なプロモーターとしては、例えば、光、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。この様なプロモーターとしては、例えば、光照射によって発現するリブロース−1,5−2リン酸カルボキシラーゼ小サブユニットをコードする遺伝子のプロモーター(Fluhr,1986,Pro.Natl.Acad.Sci.USA 83,2358)、低温によって誘導されるイネのlip19遺伝子のプロモーター(Aguan,1993,Mol.Gen.Genet.240,1)、高温によって誘導されるイネのhsp72、hsp80遺伝子のプロモーター(Van Breusegem,1994,Planta 193,57)、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナのrab16遺伝子のプロモーター(Nundy,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,1406)、紫外線の照射によって誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefert,1989,EMBO J.8,651)などが挙げられる。また、rab16遺伝子のプロモーターは植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
【0124】
本明細書において「薬剤耐性遺伝子」は、形質転換植物の選抜を容易にするものであることが望ましい。カナマイシン耐性を付与するためのネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼII(NPTII)遺伝子、およびハイグロマイシン耐性を付与するためのハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子などが好適に用いられ得るが、これらに限定されない。これらの薬剤耐性遺伝子は、本発明においてスクリーニング技術などにおいて用いられる。
【0125】
上記のような植物発現ベクターは、当業者に周知の遺伝子組換え技術を用いて作製され得る。植物発現ベクターの構築には、例えば、pBI系のベクターまたはpUC系のベクターが好適に用いられるが、これらに限定されない。
【0126】
DNA導入のための植物材料としては、導入法などに応じて、葉、茎、根、塊茎、プロトプラスト、カルス、花粉、種子胚、苗条原基などから適当なものを選択することができる。「植物細胞」とは、任意の植物細胞であり得る。「植物細胞」の例としては、葉および根などの植物器官の細胞、カルスならびに懸濁培養細胞が挙げられる。植物細胞は、培養細胞、培養組織、培養器官、または植物体のいずれの形態であってもよい。好ましくは、培養細胞、培養組織、または培養器官であり、より好ましくは培養細胞である。
【0127】
また一般に、植物培養細胞へDNAを導入する場合、材料としてプロトプラストが用いられ、エレクトロポーレーション法、ポリエチレングリコール法などの物理・化学的方法によってDNAの導入が行われるのに対して、植物組織へDNAを導入する場合、材料としては葉、茎、根、塊茎、カルス、花粉、種子胚、苗条原基など、好ましくは葉、茎、カルスが用いられ、ウイルスもしくはアグロバクテリウムを用いた生物学的方法、またはパーティクルガン法などの物理・化学的方法によってDNAの導入が行われる。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Microbiol.Lett.,67,325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、植物発現ベクターで(例えば、エレクトロポレーションによって)アグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをリーフディスク法などの周知の方法により植物組織に導入する方法である。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
【0128】
植物発現ベクターを導入された細胞は、例えば、カナマイシン耐性などの薬剤耐性を基準として選択される。選択された細胞は、常法により植物体に再生され得る。
【0129】
本発明のポリヌクレオチドが導入された植物細胞から植物を再生させるには、このような植物細胞を、再分化培地、ホルモンフリーのMS培地などに培養すればよい。発根した幼植物体は、土壌に移植して栽培することにより植物体とすることができる。再生(再分化)の方法は植物細胞の種類により異なる。様々な文献にイネ(Fujimura,1995,Plant Tissue CultureLett.2,74)、トウモロコシ(Shillito,1989,Bio/Technol.7,581、Gorden-Kamm,1990,Plant Cell 2,603)、ジャガイモ(Visser,1989,Theor.Appl.Genet.78,594)、タバコ(Nagata,1971,Planta 99,12)など各種の植物に対しての再分化の方法が記載されている。
【0130】
再生した植物体においては、当業者に周知の手法を用いて、導入された本発明の遺伝子の発現を確認し得る。この確認は、例えば、ノーザンブロット解析を用いて行い得る。具体的には、植物の葉から全RNAを抽出し、変性アガロースでの電気泳動の後、適切なメンブランにブロットする。このブロットに、導入遺伝子の一部分と相補的な標識したRNAプローブをハイブリダイズさせることにより、本発明の遺伝子のmRNAを検出し得る。
【0131】
本発明のポリヌクレオチドを用いて形質転換され得る植物は、遺伝子導入の可能ないずれの植物をも包含する。
【0132】
大腸菌を宿主細胞として使用する場合、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌およびファージ等に由来するプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp x2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0133】
本明細書において「複製起点」とは、DNA複製が開始する染色体上の特定領域をいう。複製起点は、内因性起点を含むようにそのベクターを構築することによって提供され得るか、または宿主細胞の染色体複製機構により提供され得るかのいずれかであり得る。そのベクターが、宿主細胞染色体中に組み込まれる場合、後者が十分であり得る。あるいは、ウイルス複製起点を含むベクターを使用するよりも、当業者は、選択マーカーと本発明のDNAとを同時形質転換する方法によって、哺乳動物細胞を形質転換し得る。適切な選択マーカーの例は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)またはチミジンキナーゼである(米国特許第4,399,216号を参照)。
【0134】
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられる配列をいう。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。例えば、エンハンサーとして、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が用いられるが、これらに限定されない。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0135】
本発明において「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。エンハンサーとしては、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好適である。エンハンサーは、1つの植物発現ベクターあたり複数個用いられ得る。
【0136】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0137】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0138】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)が挙げられる。
【0139】
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれる。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
【0140】
本発明において遺伝子操作などにおいて原核生物細胞が使用される場合、原核生物細胞としては、Escherichia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属などに属する原核生物細胞、例えば、Escherichia coli XL1-Blue、Escherichia coli XL2-Blue、Escherichia coli DH1が例示される。
【0141】
本明細書において使用される場合、組換えベクターの導入方法としては、DNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法[Methods.Enzymol.,194,182(1990)]、リポフェクション法、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978)]、酢酸リチウム法などが挙げられる。
【0142】
本明細書において遺伝子発現(たとえば、mRNA発現、ポリペプチド発現)の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526-32に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
【0143】
(抵抗性の評価)
本発明の方法によって作出された遺伝子組換え植物が、病原体に対する抵抗性を有しているか否かは、病徴の観察および病原体感染の可否の検定で確認し得る。例えば、ラブドウイルス科のウイルス病の場合は、特定のイネ品種にツマグロヨコバイなどのRTYVを媒介する昆虫を温室中で放飼してウイルス感染させた場合、病斑形成やイネの背丈などを、原品種または野生型と組換え体とを比較すること、およびELISA法によりウイルス感染の可否を検定することが可能であるが、これに限定されることはない。
【0144】
本明細書において「発現量」とは、対象となる細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、RT−PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0145】
本明細書において「上流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの5’末端に向かう位置を示す。
【0146】
本明細書において「下流」という用語は、特定の基準点からポリヌクレオチドの3’末端に向かう位置を示す。
【0147】
本明細書において「相補的」または「相補体」という用語は、本明細書では、相補領域全体がそのまま別の特定のポリヌクレオチドとWatson & Crick塩基対を形成することのできるポリヌクレオチドの配列を示す。本発明の目的で、第1のポリヌクレオチドの各塩基がその相補塩基と対になっている場合に、この第1のポリヌクレオチドは第2のポリヌクレオチドと相補であるとみなす。相補塩基は一般に、AとT(あるいはAとU)、またはCとGである。本願明細書では、「相補」という語を「相補ポリヌクレオチド」、「相補核酸」および「相補ヌクレオチド配列」の同義語として使用する。これらの用語は、その配列のみに基づいてポリヌクレオチドの対に適用されるものであり、2つのポリヌクレオチドが事実上結合状態にある特定のセットに適用されるものではない。
【0148】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。
【0149】
RTYVがコードする各タンパク質の感染細胞内での挙動について、ほとんど解析がなされていないことから、個々に標的遺伝子を設定して発現抑制剤を作製し、RTYV抵抗性イネの作出を試みた。また、本発明では、コンストラクトの対象として従来の20数塩基のものではなく500塩基程度の長い配列を目的として上記抵抗性イネの作出を試みた。
【0150】
一局面において、本発明は、ラブドウイルス科のウイルスゲノムに存在する少なくとも1つの遺伝子の発現抑制剤を含む、ラブドウイルス科のウイルス病に抵抗性を付与するための組成物を提供する。
【0151】
本発明の一実施形態において、上記少なくとも1つの遺伝子をコードする核酸配列は、配列番号1(NP)、配列番号3(P)、配列番号5(P3)または配列番号11(P6)からなる群より選択され得る。
【0152】
一実施形態において、好ましいアンチセンス配列は、配列番号16(Trigger leader+NP)、配列番号17(Trigger NP)、配列番号18(Trigger P)、配列番号19(Trigger P3)、配列番号20(Trigger M)、配列番号22(Trigger P6)または配列番号24(Trigger trailer+L)に相補的な配列であり得る。より好ましいアンチセンス配列は、配列番号16(Trigger leader+NP)、配列番号17(Trigger NP)、配列番号18(Trigger P)、配列番号19(Trigger P3)または配列番号22(Trigger P6)に相補的な配列であり得る。さらにより好ましいアンチセンス配列は、配列番号18(Trigger P)、配列番号19(Trigger P3)または配列番号22(Trigger P6)に相補的な配列であり得る。
【0153】
一実施形態において、トリミング配列は、5〜32個またはそれ以上のヌクレオチド配列を有し得る。好ましいトリミング配列としては、GUS配列、ピルビン酸オルトリン酸ジキナーゼ(pyruvate orthophosphate dikinase)イントロン、dof affecting germination(DAG1)イントロンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0154】
本発明のプロモーターは、誘導性であっても、構成的であっても、部位特異的であっても、時期特異的であってもよいが、好ましいプロモーターとしては、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターとしては、ストレス誘導性プロモーター(例えば、感染誘導性プロモーター)が好ましい。恒常性プロモーターとしては、ユビキチンプロモーター(例えば、配列番号46のユビキチンプロモーター配列(Genbankアクセッション番号AY452736由来))、アクチンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。感染誘導性プロモーターとしては、WRKY転写因子プロモーター、PR1プロモーター、PBZ1遺伝子プロモーター、ペルオキシダーゼプロモーター、マイトジェン活性化プロモーターなどが挙げられるが、これらには限定されない。
【0155】
本発明は、一局面において、ラブドウイルス科のウイルスゲノムに存在する少なくとも1つの遺伝子をコードする核酸配列と相補的なアンチセンス配列、トリミング配列、および該アンチセンス配列と相補的なセンス配列を含む、発現カセットを提供する。
【0156】
別の好ましい実施形態において、使用されるアンチセンス配列は、例えば、Invitrogenのウェブサイトにおいて利用可能なrnai_designer(http://www.invitrogen.co.jp/rnai/rnai_designer.shtml/)、Promegaのウェブサイトにおいて利用可能なsiRNADesigner(http://www.promega.com.siRNADesigner/)、AmbionのウェブサイトのsiRNA Target Finder、DharmaconのsiDESIGN Center、GenScriptのsiRNA Target Finder、およびGene specific siRNA selector(これらの方法に限定されない)を使用することによって容易に設計可能である。
【0157】
本発明は、一局面において、上記発現カセットを含むベクターを提供する。本発明において使用されるベクターは、所望の目的(発現、送達、挿入、導入など)を達成する限り、どのようなベクターを用いても良いことが理解される。
【0158】
本発明のベクターは、目的の細胞に導入された否かを確認するために、薬剤耐性遺伝子を含み得る。薬剤耐性遺伝子としては、カナマイシン耐性を付与するためのネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼII(NPTII)遺伝子、およびハイグロマイシン耐性を付与するためのハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子などが好適に用いられ得るが、これらに限定されない。
【0159】
本発明は、一局面において、上記ベクターを含む植物細胞、植物体、種子を提供する。
【0160】
このような植物としては、どのようなものでも良いが、好ましくは、イネ黄葉ウイルス(RTYV)などのラブドウイルス科のウイルスに罹患する植物であり、さらに好ましくは、イネ科植物(コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ソルガムなど)、さらにより好ましくはイネ属植物、さらにより好ましくは、イネ(例えば、ジャポニカ種またはインディカ種)であり得る。
【0161】
一実施形態において、本発明の植物体は、ラブドウイルス科のウイルスに対する完全抵抗性を示す。
【0162】
(抵抗性・耐性植物の作出)
本発明は、一局面において、ラブドウイルス科のウイルス病に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科のウイルスに感染し得るイネ科植物を生産する方法;ラブドウイルス科のウイルス病に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科のウイルスに感染し得る植物の種子を生産する方法;およびラブドウイルス科のウイルス病に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科のウイルスに感染し得る植物を再生産する方法を提供する。
【0163】
上記に示される方法は、本発明の発現抑制剤を、イネ科植物の細胞に導入する工程を包含する。一般的に、本発明のベクターは、種々の慣用的技術を用いて所望の植物宿主(例えば、イネ科植物の細胞)のゲノムに導入することができる。好ましい導入法としては、アグロバクテリウム法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法が挙げられるが、これらに限定されない。上記方法はさらに、ラブドウイルス科のウイルスに対して抵抗性を有する植物を選択する工程を包含する。このような選択は、抵抗性を有するトランスジェニック植物を選択することができる限り、どのような方法を用いてもよく、細胞レベルの選択でもよいし、植物体レベルの選択でもよい。
【0164】
本発明のベクターが導入されたか否かを確認するために、薬剤耐性遺伝子(例えば、ハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子)を含むベクターの場合、上記の導入工程後に得られた細胞は、その薬剤耐性遺伝子が細胞中で発現したか否かを検出するための薬剤(例えば、ハイグロマイシン)を含む選択培地中で増殖させることによって選択される。当然のことながら、このような選択培地中に含まれる薬剤は、上記ベクター中に含まれる薬剤耐性遺伝子に依存して変更され得る。
【0165】
上記のようにして選択された細胞を、当該分野で一般的に使用される再生培地中で培養することにより、例えば、根およびシュートが確認できるまで再分化させる。このような再生培地としては、以下の実施例に記載されるような再分化培地(MSRE)などのような当該分野で公知の培地が挙げられるが、これらに限定されない。
【0166】
上記のようにして再分化させることによって得られた根およびシュートは、鉢上げされ、試験に適した時期(例えば、9葉期)まで、または成熟期まで生長させられることによって、トランスジェニック植物(T0)が作出される。
【0167】
さらに、このようにして得られたトランスジェニック植物中に本発明のベクターが含まれているか否かについては、上記植物から細胞を採取して全細胞DNAを得、ゲノムに組み込まれた薬剤耐性遺伝子をサザンブロットなどで、得られたトランスジェニック植物中に実際に本発明のベクターが含まれているか否かを確認できる。また、低分子RNAを得、Trigger領域をプローブにノザンブロットを行うことで、トランスジェニック植物中で実際にRNAiを誘起できていることも確認できる。さらには、得られたトランスジェニック植物に、実際にRTYVを感染させて、感染トランスジェニック植物とコントロール野生型植物とを比較することによって、本発明のベクターが含まれているか否かを検出することもできる。
【0168】
さらに、本発明のトランスジェニック植物は、T0植物から得られた種子、さらに後代のT1植物、T2植物、T3植物などから得ることもできる。
【0169】
(使用)
別の局面において、本発明は、本発明の発現抑制剤の、ラブドウイルス科のウイルスに対する抵抗性、ラブドウイルス科のウイルス病に対する耐性を付与するための、またはその耐性もしくは抵抗性を付与する農薬を製造するための使用を提供する。ここで使用される核酸分子および因子は、本明細書において上記される任意の核酸分子であり得ることが理解される。
【0170】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0171】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0172】
(材料および方法)
以下に示す実施例において、特段の記載がない場合、一般的に、以下に記載される材料および方法を用いて実験を行った。
【0173】
1.イネの生育
実験系統として、イネ(Oryza sativa cv.Nipponbare)を使用した。イネ植物を温室(20℃〜32℃)において栽培し、9葉期まで生育させてから、以下の実験に使用した。イネへのRTYV接種試験においては、各形質転換体系統およびコントロールの野生型イネのいずれも、2〜3葉期まで生育させてから使用した。なぜなら、RTYVの病徴は新しく展開した葉において観察される、すなわち、イネの生育期において、2〜3葉期がRTYVに対する感受性が最も高いと考えられるからである。
【0174】
2.培地および試薬
(0)N6−ビタミン 1.2L
グリシン 2g
ニコチン酸 0.5g
ピリドキシンHCl 0.5g
チアミンHCl 1g
ミオイノシトール 100g
蒸留水で1.2Lにする。
【0175】
1.2mlずつ分注し、使用時まで−20℃で保存する。
【0176】
(1)MS−ビタミン 1.2L
ニコチン酸 0.5g
ピリドキシンHCl 0.5g
チアミンHCl 0.1g
ミオイノシトール 100g
蒸留水で1.2Lにする。
【0177】
1.2mlずつ分注し、使用時まで−20℃で保存する。
【0178】
(2)カルス誘導培地(N6D) 1L
スクロース 30g
カザミノ酸 0.3g
Chu(N6) Basal Salt Mixture Powder (Sigma社から購入)
3.981g
プロリン 2.9g
N6−ビタミン 1.2ml
2,4−D(0.1M KOH中1mg/ml) 2ml
1N KOHでpH5.8に調節して、蒸留水で1Lにする。
【0179】
ゲルライト 4gを加えて、オートクレーブにかける。
【0180】
(3)共存培養培地(N6CO) 1L
スクロース 30g
グルコース 10g
カザミノ酸 0.3g
Chu(N6) Basal Salt Mixture Powder (Sigma社から購入)
3.981g
N6−ビタミン 1.2ml
2,4−D(0.1M KOH中1mg/ml) 2ml
1N KOHでpH5.2に調節し、蒸留水で1Lにする。
【0181】
ゲルライト 4gを加えてオートクレーブにかける。
温度が50℃未満に下がるまで待ってから、アセトシリンゴン(50mg/ml)を400μl加える。
【0182】
(4)選抜培地(N6SE) 1L
スクロース 30g
カザミノ酸 0.3g
Chu(N6) Basal Salt Mixture Powder(Sigma社から購入)
3.981g
プロリン 2.9g
N6−ビタミン 1.2ml
2,4−D(0.1M KOH中1mg/ml) 2ml
1N KOHでpH5.8に調節して、蒸留水で1Lにする。
【0183】
ゲルライト 4gを加えて、オートクレーブにかける。温度が50℃未満に下がるまで待ってから、カルベニシリン(250mg/ml) 2mlおよびハイグロマイシン(50mg/ml) 0.5mlを添加する。
【0184】
(5)再分化培地(MSRE) 1L
スクロース 30g
D−ソルビトール 30g
カザミノ酸 2g
ムラシゲ・スクーグ植物培地用混合塩類(和光純薬社から購入) 4.4g
MS−ビタミン 1.2ml
カイネチン(DMSO中10mg/ml) 0.2ml
α−ナフタレン酢酸(NAA)
(DMSO中1mg/ml) 0.2ml
1N KOHでpH5.8に調節して、蒸留水で1Lにする。
【0185】
ゲルライト 4gを加えて、オートクレーブにかける。
温度が50℃未満に下がるまで待ってから、カルベニシリン(250mg/ml) 1mlおよびハイグロマイシン(50mg/ml) 0.5mlを添加する。
【0186】
(6)ホルモンフリー(HF)培地 1L
スクロース 30g
ムラシゲ・スクーグ植物培地用混合塩類(和光純薬社から購入)4.4g
MS−ビタミン 1.2ml
1N KOHでpH5.8に調節して、蒸留水で1Lにする。
【0187】
ゲルライト 4gを加えて、オートクレーブにかける。
温度が50℃未満に下がるまで待ってから、ハイグロマイシン(50mg/ml) 0.5mlを添加する。
【0188】
実施例1:RTYVのleader配列、leader配列+NP遺伝子、NP遺伝子、P遺伝子、P3遺伝子、M遺伝子、G遺伝子、P6遺伝子、L遺伝子およびL遺伝子+trailer配列を用いたRNAi誘起ベクターの構築
(1)RTYVのleader配列、leader配列+NP遺伝子、NP遺伝子、P遺伝子、P3遺伝子、M遺伝子、G遺伝子、P6遺伝子、L遺伝子およびL遺伝子+trailer配列を、特異的なプライマーセットを用いて増幅する:
RTYV感染イネの葉から、定法に従って総RNAを抽出した。総RNAの抽出は、RNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を使用して、添付の説明書に従って行った。総RNA 1μgを用いて、SuperScriptIII(Invitrogen)のマニュアルに従って逆転写反応を行い、cDNAを合成し、以下のプライマーセット:
trigger leaderについてプライマーセット1:
フォワードプライマー:CACCACACCACCAGATACATTC(配列番号26);と
リバースプライマー:TTTTTAAATCCTATCTCTTATTGACAT(配列番号27)、
trigger leader+NPについてプライマーセット2:
フォワードプライマー:CACCACACCACCAGATACATTC(配列番号26);と
リバースプライマー:GCATGCTATCTTTACGATGCTTC(配列番号28)、
Trigger NPについてプライマーセット3:
フォワードプライマー:CACCAACACCACATTAATCATG(配列番号29);と
リバースプライマー:ACATATAAACGCAATGGCGCG(配列番号30)、
Trigger Pについてプライマーセット4:
フォワードプライマー:CACCAACACCTCATCACAAC(配列番号31);と
リバースプライマー:CTATGTTGGTACATTCGGCC(配列番号32)、
Trigger P3についてプライマーセット5:
フォワードプライマー:CACCAACTCCACATAGAAGG(配列番号33);と
リバースプライマー:TGTCTTGTATAAACCCGCCC(配列番号34)、
trigger Mについてプライマーセット6:
フォワードプライマー:CACCAACACCACATAATAAACA(配列番号35);と
リバースプライマー:TATACTGTGGTAATGATCTCTC(配列番号36)、
trigger Gについてプライマーセット7:
フォワードプライマー:CACCAACAACATCATACGTATC(配列番号37);と
リバースプライマー: GACTGTGCTGTTTATGGCCC(配列番号38)
trigger P6についてプライマーセット8:
フォワードプライマー:CACCAATACCTCAACATTCTCAA(配列番号39);と
リバースプライマー: TTATTTAATATACCAAGTCTTATGC(配列番号40)
trigger Lについてプライマーセット9:
フォワードプライマー:CACCAACATATCCATTTTTCATTTC(配列番号41);と
リバースプライマー: AAAGAAGTGATATGCACCTGCG(配列番号42)
trigger trailer+Lについてプライマーセット10:
フォワードプライマー:CACCCTGGACTGTGACGAGA(配列番号43);と
リバースプライマー: ACACCACCATATCCAAAGCCG(配列番号44)
を用いてそれぞれPCRを行う。Trigger leader(配列番号15)、Trigger leader+NP(配列番号16)、Trigger NP(配列番号17)、Trigger P(配列番号18)、Trigger P3(配列番号19)、Trigger G(配列番号21)、Trigger P6(配列番号22)、およびTrigger L(配列番号23)については、PCRを行った結果、核酸配列の各増幅産物を得た。Trigger M(配列番号20)、およびTrigger trailer+L(配列番号24)についても、同様に増幅産物を得ることができる。
【0189】
(2)制限酵素またはGateway(Invitrogen)システムなどを用いて、形質転換用のRNAiバイナリーベクターを作製する:
上記(1)で得た各増幅産物を、pENTRTM/D-TOPO(登録商標)クローニングキット(Invitrogen cat.K2435-20)を用いて、製造業者の説明書に従ってpENTR/D-TOPO(Invitrogen)にクローン化し、エントリーベクターpENTR/trigger leader、pENTR/trigger leader+NP、pENTR/trigger NP、pENTR/trigger P、pENTR/trigger P3、pENTR/trigger G、pENTR/trigger P6、およびpENTR/trigger Lを得た。pENTR/trigger M、およびpENTR/trigger trailer+Lについても、同様の操作でこれらを得ることができる。
【0190】
このクローニングベクターを、キットに付属のE.coli株に形質転換し、同様に、製造業者の説明書に従って、適切な条件下で、形質転換E.coliを50μg/ml カナマイシンを含むLBプレート上で選択した。単一のコロニーを単離して、50μg/ml カナマイシンを含む1〜2mlのLB培地中に接種し、定法に従って、このクローニングベクターを含む形質転換E.coliを増殖させた。定法に従って、形質転換体からプラスミドDNAを単離し、配列決定することによって、目的の領域がクローニングされていることを確認した。
【0191】
(3)RNAiを引き起こす因子を形質転換ベクターにクローニングする:
上記のようにして得られたプラスミドDNAを、Gateway(Invitrogen)システムのLRクロナーゼ反応系を用いて、pANDAベクター(奈良先端大学院大学島本教授より分譲)へクローン化し、pANDA/trigger leader、pANDA/trigger leader+NP、pANDA/trigger NP、pANDA/trigger P、pANDA/trigger P3、pANDA/trigger G、pANDA/trigger P6、およびpANDA/trigger Lを得た。pANDA/trigger M、およびpANDA/trigger trailer+Lについても、同様の操作で得ることができる。簡潔にいうと、2μl LR反応緩衝液(5×)、100〜300ngの上記エントリーベクター、300ng pANDAベクター、TEを添加して総容積8μlにした。2μlのLRクロナーゼ酵素ミックス(Invitrogen cat.11791-019)を加えて攪拌し、25℃で一晩インキュベートした。その後、プロテイナーゼK溶液を1μl添加し、37℃で10分間インキュベートした。得られたベクターをE.coli DH5αに形質転換し、50μg/ml カナマイシンおよび50μg/ml ハイグロマイシンを含む培地中で増殖させた。
【0192】
実施例2:RTYV各遺伝子のRNA干渉イネの作出
(1)実施例1において作製した上記ベクターをエレクトロポレーション法などによってアグロバクテリウムへ導入する:
上記各ベクターを、エレクトロポレーション法によってGenePulser(BioRad)を用いて、製造業者の説明書に従ってアグロバクテリウムへ導入した。アグロバクテリウムの系統は、EHA101(Hood,1986,J.Bacteriol.168,1291)を用いた。実施例1で構築した発現ベクターを、エレクトロポーレーション法でアグロバクテリウムEHA101に形質転換した。エレクトロポーレーション装置はGENE PULSER(登録商標)II(BIO-RAD)を用い、導入条件を200Ω、25μF、2.5kV、0.2cmキュベットに設定した。エレクトロポーレーションを行ったアグロバクテリウムをSOC培地に懸濁し、28℃で2時間振盪培養した。この培養液を20mg/l カナマイシン、100mg/l スペクチノマイシンを含むLBプレート培地(10g/l トリプトン、5g/l 酵母エキス、10g/l 塩化ナトリウム)上に拡散し、増殖した形質転換個体を選抜した。増殖させた形質転換アグロバクテリウムを、YEP培地に播種して、一晩インキュベートし、この培養液と等量のグリセロールを入れてボルテックスミキサーで十分に混合し、−80℃で使用時までストック溶液として保存した。
【0193】
(2)アグロバクテリウムにベクターが導入されていることを、PCRなどにより確認する;
アグロバクテリウムにベクターが導入されていることを、アルカリSDS法(Molecular Cloning 第3版を参照のこと)によりプラスミドを抽出した後、PCRにより確認した。
【0194】
(3)カルス化したイネにアグロバクテリウムを感染させ、感染確認後、再分化させ、RTYV各遺伝子のRNA干渉イネを作出する;
RTYV各遺伝子のRNA干渉イネを作出するために、カルス化したイネを作製した。簡潔には、イネの完熟種子を小型籾すり機にかけ、籾を除去した種子100〜150粒を50mlの使い捨て遠心管に入れた。70% エタノールを遠心管に入れて、数秒間種子を滅菌し、滅菌水で種子をすすいだ。滅菌水を吸引した後、40mlの2.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液を上記遠心管に入れ、振盪機で20分間、150rpmで振盪して滅菌した。滅菌水を除去して、蒸留水で3回洗浄した。ピンセットで種子をカルス誘導培地(N6D培地)に25種子/シャーレで置床し、シャーレの周りをテープでシールした。60μmol/ms、24時間明期の条件下で、30〜33℃において18〜21日間培養することによってカルス誘導した。カルス誘導の間、培地を、7〜10日毎に新しいN6D培地と交換した。
【0195】
誘導して3週間後の種子の胚乳とシュート部分をメスで切り取るか、あるいはピンセットでもぎ取り、胚盤由来カルスのみを新しいカルス誘導培地N6D培地に16カルス/シャーレで置床し、シャーレの周りをテープでシールして、24時間明期の条件下で、30〜33℃において3日間、カルスを前培養した。カルスの前培養を始めるのと並行して、上記(1)において得られたアグロバクテリウムのストック溶液から滅菌した爪楊枝で菌体を採取し、AB培地に塗布した。塗布した菌体を滅菌した白金耳で培地全体に拡げ、3日間28℃において遮光して前培養した。
【0196】
AB培地で増殖したアグロバクテリウムを滅菌した小さい薬さじで掻き取り、10mlの水に10mg/mlのアセトシリンゴンを5μl入れ、この溶液にアグロバクテリウムをOD600=0.01になるように懸濁した。懸濁液を滅菌シャーレに入れた。1シャーレ分の前培養したカルスを、一方の端をメッシュで覆った筒状のガラス管の中に入れ、ときどき軽く振って、1.5〜2分間メッシュ付きのガラス管ごと、上記懸濁液中に浸漬した。浸漬後、メッシュ付きのガラス管を滅菌ペーパータオルの上に置いて余分な水分を除去した。N6CO培地に16カルス/シャーレで置床し、シャーレをテープでシールして、23℃において遮光して3日間培養した。
【0197】
培養後、全てのカルスをN6SE培地に、9カルス/シャーレで移植し、30〜33℃において24時間明期の条件下で、14日間培養した。その間、カルスを、1回だけ新しいシャーレに移した。選択されたカルスをRE培地に移し、30〜33℃において再分化してくるまで培養した。その間、7〜10日間毎に、新しい培地を入れたシャーレにカルスを移した。再分化したイネをHF培地に移し、2〜3週間培養した後、鉢上げした。
【0198】
(4)形質転換体当代(T0)株における導入遺伝子の確認
上記(3)において作出した形質転換体当代(T0)株において目的の遺伝子が導入されているか否かを確認するために、T0株からCTAB法により調製したDNAを鋳型に形質転換ベクター内のGus−linker特異的プライマーおよび内在コントロールとしてアクチン特異的プライマーの4種混合プライマーでPCRを行い、アガロース電気泳動にて2本のDNAバンドが増幅されることにより行った。T0株における導入遺伝子の転写産物の断片化によるsiRNAの検出は、低分子RNAを抽出(基本的に、Hamilton,1999,Science.286,950に従った)した後、Trigger leader(配列番号15)、Trigger leader+NP(配列番号16)、Trigger NP(配列番号17)、Trigger P(配列番号18)、Trigger P3(配列番号19)、Trigger G(配列番号21)、Trigger P6(配列番号22)、Trigger L(配列番号23)の核酸配列をプローブとしてノーザンハイブリダイゼーションすることにより行った。その結果を図2に示す。示されるように、目的の遺伝子がT0株において導入され、かつ導入された配列が切断されたことが明らかになった。
【0199】
実施例3:形質転換体T1におけるRTYV抵抗性検定
(1)実施例1で作製したpANDA/trigger leader、pANDA/trigger leader+NP、pANDA/trigger NP、pANDA/trigger P、pANDA/trigger P3、pANDA/trigger G、pANDA/trigger P6、pANDA/trigger Lで形質転換したT1植物へのRTYV感染;
得られたT0イネの各々を1株とし、それぞれの株から全てのT1種子を回収した。イネへのRTYVの接種は、2〜3葉期まで生育させた各形質転換体系統につきT1イネおよそ15株に対して、約20%がRTYVを保毒したツマグロヨコバイの成虫を健全イネ1株当たり5頭程度になるように放飼、26℃程度の温室で約2日間イネを吸汁させて行った。
【0200】
(2)感染後のTrigger leader(配列番号15)、Trigger leader+NP(配列番号16)、Trigger NP(配列番号17)、Trigger P(配列番号18)、Trigger P3(配列番号19)、Trigger G(配列番号21)、Trigger P6(配列番号22)、Trigger L(配列番号23)の核酸配列を導入したT1植物の抵抗性検定;
(1)で接種したTrigger leader(配列番号15)、Trigger leader+NP(配列番号16)、Trigger NP(配列番号17)、Trigger P(配列番号18)、Trigger P3(配列番号19)、Trigger G(配列番号21)、Trigger P6(配列番号22)、Trigger L(配列番号23)の核酸配列のいずれかで形質転換したT1植物から(1)のRTYV接種検定約60日後においてイネ葉を採取し、ELISA法によってRTYV感染の有無を検定し、スコアリングを行った。なお、CTAB法によりT1植物から調製したDNAを鋳型にして、植物形質転換ベクター内のGUS配列をプライマーとして用いてPCRを行い、導入遺伝子が後代T1に受け継がれなかった個体はスコアリングから除外した。接種試験のスコアリングの結果から、日本晴を100とした時の感染率を計算し、まとめた結果を以下の図3および表1に示す。
【0201】
表1:RTYV各遺伝子標的形質転換イネ自殖第1代(T1)のRTYV接種検定
【表1】

【0202】
Pを標的とした形質転換イネは、全てRTYV抵抗性であった(すなわち、「完全抵抗性」集団を得た)。コントロールとして供した野生型イネ(日本晴)においては、全22株のうち4株が感染に失敗したが、残りの18株は全てRTYVに感染した。
【0203】
P3を標的とした形質転換イネは、全てRTYV抵抗性であった(すなわち、「完全抵抗性」集団を得た)。コントロールとして供した野生型イネ(日本晴)においては、全14株のうち12株が感染に失敗したが、残りの2株は全てRTYVに感染した。
【0204】
P6を標的とした形質転換イネは、全てRTYV抵抗性であった(すなわち、「完全抵抗性」集団を得た)。コントロールとして供した野生型イネ(日本晴)においては、全17株のうち5株が感染に失敗したが、残りの12株は全てRTYVに感染した。
【0205】
NPを標的とした形質転換イネは、全13株のうち8株が抵抗性、5株が感受性であり、全体の38%が感染した。コントロールとして供した野生型イネ(日本晴)においては、全14株のうち2株が感染に失敗したが、残りの12株は全てRTYVに感染し、感染率は86%であった。すなわち、野生型イネの感染率を100とすると、NPを標的とした形質転換イネは45%の「部分的な抵抗性」を持つことが分かった。
【0206】
leader+NPを標的とした形質転換イネは、全12株のうち11株が抵抗性、1株が感受性であり、全体の8%が感染した。コントロールとして供した野生型イネ(日本晴)においては、全14株のうち12株が感染に失敗したが、残りの2株は全てRTYVに感染し、感染率は14%であった。すなわち、野生型イネの感染率を100とすると、leader+NPを標的とした形質転換イネは58%の「部分的な抵抗性」を持つことが分かった。
【0207】
leader、G、Lを標的とした形質転換イネは、コントロールとして供した野生型イネ(日本晴)に比べ、感染率の低下は見られなかった。
【0208】
Pを標的とした形質転換イネは、完全抵抗性を示した。Pは、複製酵素と相互作用し、RNA合成において、役割を果たすと考えられているため、Pの発現を抑制すると、ウイルスの複製が阻害され、結果的にウイルスの活動を静止することができ、完全型抵抗性の表現型を示したと考えられる。以上の事から、Pが植物に対する感染および植物中での増殖において特に重要な働きを担っている可能性が示された。
【0209】
P3を標的とした形質転換イネは、完全抵抗性を示した。P3は、ウイルスの細胞間移行タンパク質であることから、おそらくP3の発現を抑制すると、感染細胞から隣り合った未感染細胞へのウイルスの拡がりが効果的に阻害され、結果的にウイルスの活動を静止することができ、完全型抵抗性の表現型を示したと考えられる。以上の事から、P3は植物に対する感染および植物中での増殖において特に重要な働きを担っている可能性が示された。
【0210】
P6を標的とした形質転換イネは、完全抵抗性を示した。現段階でP6は、ウイルス粒子に含まれること以外は機能未知であるが、本結果から、P6は、おそらく植物での感染および(あるいは)増殖に必須であり、特に重要なタンパク質であることが予想できる。また、1本のマイナス鎖RNAをゲノムとする他のウイルスにおいて、ゲノム上同様な場所に位置する遺伝子がコードするタンパク質は生体膜と直接相互作用することが知られており、RTYVにおいてもP6は感染・増殖の過程で核膜もしくは細胞膜と相互作用する重要な働きを持っている可能性が考えられる。
【0211】
NPを標的とした形質転換イネおよびleader+NPを標的とした形質転換イネは、約50%の部分的な抵抗性を示した。NPは、ウイルスのヌクレオタンパク質であることから、おそらくNPの発現を抑制すると、ヌクレオキャプシド構造の形成が阻害され、結果的にウイルスの活動を抑制することができ、部分的な抵抗性の表現型を示したと考えられる。
【0212】
上記の結果から、本発明の形質転換イネ、すなわちP、P3およびP6の発現を抑制させたイネは、RTYVに対する完全抵抗性を、NPの発現を抑制させたイネは、RTYVに対する部分的な抵抗性を示すことが明らかになった。
【0213】
(3)作出されたRTYV抵抗性イネの後代T3植物における接種検定;
後代植物においてもRTYV抵抗性が受け継がれているか否かを確認するために、T1植物からT2種子を取得して、T2植物を生育させる。このT2植物からT3種子を得、9葉期まで生育させて、試験用T3植物を得る。得られたT3植物において、上記(2)と同様に、各形質転換体系統につきT1イネおよそ10株に対して、約20%がRTYVを保毒したツマグロヨコバイの成虫を健全イネ1株当たり5頭程度になるように放飼、26℃程度の温室で約2日間イネを吸汁させて行う。上記(2)と同様に接種検定を行うと、T3植物においても、RTYV抵抗性ないし発病遅延型抵抗性が受け継がれていることが確認できる。
【0214】
上記の結果から、本発明の形質転換イネが、RTYVに対する抵抗性を示すことが明らかになる。
【0215】
実施例4:形質転換体T1における他のRTYV株感染とRNAi誘導の確認
(1)T1植物への他のRTYV株感染;
実施例1において得られたベクターを使用して、実施例2に記載されるようにRTYV抵抗性イネを作出し、T0イネの各々を1株とする。それぞれの株から全てのT1種子を回収する。イネへのRTYVの中国株(RYSV)の接種は、各形質転換体系統につきT1イネおよそ10株に対して、約20%がRTYV各株を保毒したツマグロヨコバイの成虫を健全イネ1株当たり5頭以上になるように放飼、26℃程度の温室で約2日間イネを吸汁させて行う。これらの実験を行うことによって、日本株に基づく発現抑制剤がRTYVの日本株感染に対する抵抗性のみならず、日本株以外のRTYV株の感染に対する抵抗性も付与することを確認することができる。
【0216】
実施例5:中国株(RYSV)のタンパク質(P、P3、P6、NP等)の発現抑制イネの作出およびRNAi誘導の確認
(中国株(RYSV)株)
RTYVの中国株(RYSV)感染イネの葉から、実施例1に記載されるように、配列情報としては、アクセッション番号NC_003746を用いて、定法に従って総RNAを抽出して、逆転写反応を行い、cDNAを合成し、目的の領域(Trigger P(中国株(RYSV))、Trigger P3(中国株(RYSV))あるいはTrigger P6(中国株(RYSV)))に特異的なプライマーセットを用いてPCRを行い、目的の領域の増幅産物を得る。
【0217】
上記実施例1(2)に記載されるように、上記で得た増幅産物を、pENTRTM/D-TOPO(登録商標)クローニングキット(Invitrogen cat.K2435-20)を用いて、製造業者の説明書に従ってpENTR/D-TOPO(Invitrogen)にクローン化し、エントリーベクターpENTR/Trigger P(中国株(RYSV))、pENTR/Trigger P3(中国株(RYSV))あるいはpENTR/Trigger P6(中国株(RYSV))を得る。
【0218】
このクローニングベクターを、同様に上記実施例1(2)に記載されるようにE.coli株に形質転換し、形質転換E.coliを50μg/ml カナマイシンを含むLBプレート上で選択する。定法に従って、単一のコロニーを単離してこのクローニングベクターを含む形質転換E.coliを増殖させる。形質転換体からプラスミドDNAを単離し、配列決定することによって、目的の領域がクローニングされていることを確認する。
【0219】
上記のようにして得られたプラスミドDNAを、上記実施例1に記載されるように、Gateway(Invitrogen)システムのLRクロナーゼ反応系を用いて、pANDAベクター(奈良先端大学院大学島本教授より分譲)へクローン化する。
【0220】
実施例2に記載されるようにRTYV抵抗性イネを作出し、T0イネの各々を1株とする。それぞれの株から全てのT1種子を回収する。イネへのRTYVの日本株および中国株(RYSV)の接種は、各形質転換体系統につきT1イネおよそ10株に対して、約20%がRTYV各株を保毒したツマグロヨコバイの成虫を健全イネ1株当たり5頭以上になるように放飼、26℃程度の温室で約2日間イネを吸汁させて行う。これらの実験を行うことによって、中国株(RYSV)株の情報に基づいて設計したTrigger P(中国株(RYSV))、Trigger P3(中国株(RYSV))あるいはTrigger P6(中国株(RYSV))を含む発現抑制剤は、RTYVの中国株(RYSV)感染に対する抵抗性のみならず、RTYVの中国株(RYSV)以外の株感染に対する抵抗性も付与することを確認することができる。
【0221】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0222】
本発明により、よりウイルス感染抑制あるいは無病徴のレベルの高い抵抗性を示し、安定した抵抗性が付与されたラブドウイルス科のウイルス抵抗型イネの作出方法および抵抗型品種が提供され、ラブドウイルス病の防除対策手段のひとつとして活用される。
【配列表フリーテキスト】
【0223】
配列番号1は、RTYVのNP遺伝子をコードする核酸配列である。
配列番号2は、RTYVのNP遺伝子のアミノ酸配列である。
配列番号3は、RTYVのP遺伝子をコードする核酸配列である。
配列番号4は、RTYVのP遺伝子のアミノ酸配列である。
配列番号5は、RTYVのP3遺伝子をコードする核酸配列である。
配列番号6は、RTYVのP3遺伝子のアミノ酸配列である。
配列番号7は、RTYVのM遺伝子をコードする核酸配列である。
配列番号8は、RTYVのM遺伝子のアミノ酸配列である。
配列番号9は、RTYVのG遺伝子をコードする核酸配列である。
配列番号10は、RTYVのG遺伝子のアミノ酸配列である。
配列番号11は、RTYVのP6遺伝子をコードする核酸配列である。
配列番号12は、RTYVのP6遺伝子のアミノ酸配列である。
配列番号13は、RTYVのL遺伝子をコードする核酸配列である。
配列番号14は、RTYVのL遺伝子のアミノ酸配列である。
配列番号15は、実施例で用いたleader配列領域の核酸配列である。(Trigger leader)
配列番号16は、実施例で用いたleader配列+NP遺伝子領域の核酸配列である。(Trigger leader+NP)
配列番号17は、実施例で用いたNP遺伝子領域の核酸配列である。(Trigger NP)
配列番号18は、実施例で用いたP遺伝子領域の核酸配列である。(Trigger P)
配列番号19は、実施例で用いたP3遺伝子領域の核酸配列である。(Trigger P3)
配列番号20は、実施例で用いたM遺伝子領域の核酸配列である。(Trigger M)
配列番号21は、実施例で用いたG遺伝子領域の核酸配列である。(Trigger G)
配列番号22は、実施例で用いたP6遺伝子領域の核酸配列である。(Trigger P6)
配列番号23は、実施例で用いたL遺伝子領域の核酸配列である。(Trigger L)
配列番号24は、実施例で用いたtrailer配列+L遺伝子領域の核酸配列である。
配列番号25は、RTYVのゲノム配列である(Rice yellow stunt virus viral cRNA, complete genome,country: Japan:Okinawa, ishigaki;GenBank accession No. AB516283)。
配列番号26は、leader配列の確認用のフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号27は、leader配列の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号28は、leader配列+NP遺伝子の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号29は、NP遺伝子の確認用のフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号30は、NP遺伝子の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号31は、P遺伝子の確認用のフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号32は、P遺伝子の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号33は、P3遺伝子の確認用のフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号34は、P3遺伝子の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号35は、M遺伝子の確認用のフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号36は、M遺伝子の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号37は、G遺伝子の確認用のフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号38は、G遺伝子の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号39は、P6遺伝子の確認用のフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号40は、P6遺伝子の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号41は、L遺伝子の確認用のフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号42は、L遺伝子の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号43は、trailer配列+L遺伝子の確認用のフォワードプライマーの核酸配列である。
配列番号44は、trailer配列+L遺伝子の確認用のリバースプライマーの核酸配列である。
配列番号45は、トリミング配列である。
配列番号46は、ユビキチンプロモーター配列(Genbankアクセッション番号AY452736由来)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラブドウイルス科に属するウイルスのヌクレオタンパク質(NP)、ホスホタンパク質(P)、移行タンパク質(P3)またはP6タンパク質をコードする核酸配列の、ラブドウイルス科に属するウイルスに対する抵抗性を付与するための使用。
【請求項2】
前記NP、P、P3またはP6は、それぞれ配列番号1、3、5もしくは11に示すヌクレオチド配列、または該ヌクレオチド配列において1もしくは数個の置換、付加、挿入、および/もしくは欠失を有する改変配列を含むか、あるいはそれぞれ配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個の置換、付加、挿入、および/もしくは欠失を有する改変配列を含むアミノ酸配列をコードする、請求項1に記載に記載の使用。
【請求項3】
前記ウイルスは、イネ黄葉ウイルス(RTYV)である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記抵抗性はイネ属植物に対して付与される、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記抵抗性はイネに対して付与される、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
ラブドウイルス科に属するウイルスのゲノムに存在するNP、P、P3またはP6のうち少なくとも1つの遺伝子の発現抑制剤を含む、ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる病変または疾患に対する抵抗性を付与するための組成物。
【請求項7】
前記NP、P、P3またはP6は、それぞれ配列番号1、3、5もしくは11に示すヌクレオチド配列、または該ヌクレオチド配列において1もしくは数個の置換、付加、挿入、および/もしくは欠失を有する改変配列を含むか、あるいはそれぞれ配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個の置換、付加、挿入、および/もしくは欠失を有する改変配列を含むアミノ酸配列をコードする、請求項6に記載に記載の組成物。
【請求項8】
前記ウイルスは、イネ黄葉ウイルス(RTYV)である、請求項6に記載に記載の組成物。
【請求項9】
前記抵抗性はイネ属植物に対して付与される、請求項6に記載に記載の組成物。
【請求項10】
前記抵抗性はイネに対して付与される、請求項6に記載に記載の組成物。
【請求項11】
前記発現抑制剤は、前記遺伝子のRNAi、コサプレッション、リボザイム、キメラオリゴ、アンチセンスサプレッションを行うものか、前記遺伝子産物に対する抗体である、請求項6に記載の組成物。
【請求項12】
前記発現抑制剤は、前記遺伝子のRNAiであって、20塩基以上の長さを有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記RNAiの長さは約500塩基である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記RNAiは、配列番号16、17、18、19および22からなる群より選択されるヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列において1または数個の置換、付加、挿入、および/または欠失を有する改変配列を有する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記発現抑制剤は、前記遺伝子のRNAiであり
(a)配列番号46に示される核酸配列からなるユビキチンプロモーター;
(b)(i)配列番号1、3、5または11に示される核酸配列か、または配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列;あるいは
(ii)配列番号1、3、5または11に示される核酸配列または配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列において1または数個の置換、付加、挿入、および/または欠失を有する改変体、
と相補的なアンチセンス配列;
(c)配列番号45に示される核酸配列からなるトリミング配列;
(d)(i)配列番号1、3、5または11に示される核酸配列か、または配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列;あるいは
(ii)配列番号1、3、5または11に示される核酸配列または配列番号2、4、6もしくは12に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列において1または数個の置換、付加、挿入、および/または欠失を有する改変体、
からなるセンス配列;ならびに
(e)ターミネーター配列、
を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項16】
ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる病変または疾患に対する抵抗性を付与するための、ラブドウイルス科に属するウイルスのゲノムに存在するNP、P、P3またはP6のうち少なくとも1つの遺伝子の発現抑制剤。
【請求項17】
請求項16に記載の発現抑制剤を含む、ベクター。
【請求項18】
請求項17に記載のベクターを含む、植物細胞。
【請求項19】
請求項17に記載のベクターを含む、植物体。
【請求項20】
請求項17に記載のベクターを含む、種子。
【請求項21】
ラブドウイルス科に属するウイルスに対する抵抗性を示す、請求項19に記載の植物体。
【請求項22】
ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる疾患に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科に属するウイルスに感染し得るイネ属植物を生産する方法であって、
A)請求項17に記載のベクターを提供する工程;
B)該ベクターを該植物の細胞に導入する工程;
C)該ベクターが導入された植物の細胞を選択する工程;および
D)該選択された細胞を再分化させて、トランスジェニック植物を作出する工程;
を包含する、方法。
【請求項23】
ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる疾患に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科に属するウイルスに感染し得る植物のイネ属植物の種子を生産する方法であって、
A)請求項17に記載のベクターを提供する工程;
B)該ベクターを該植物の細胞に導入する工程;
C)該ベクターが導入された植物の細胞を選択する工程;
D)該選択された細胞を再分化させて、トランスジェニック植物を作出する工程;および
E)該トランスジェニック植物から種子を得る工程;
を包含する、方法。
【請求項24】
ラブドウイルス科に属するウイルスまたはラブドウイルス科に属するウイルスが原因となる疾患に対する耐性が付与された、ラブドウイルス科に属するウイルスに感染し得るイネ属植物を再生産する方法であって、
A)請求項17に記載のベクターを含む、種子を提供する工程;
B)該種子を生長させて、成熟した植物体を得る工程;
C)該植物体から、種子を得る工程、
を包含する、方法。
【請求項25】
請求項16に記載の発現抑制剤を含む植物体または種子、あるいはその加工品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−39066(P2013−39066A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177342(P2011−177342)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター、新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業「植物ウイルスの媒介昆虫・植物間応答機構の解明と制御技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】