説明

RNA検出用試薬およびRNA検出方法

【課題】PCR法によるRNA検出方法において、検出感度を向上させることのできるRNA検出用試薬、およびRNA検出方法を提供することを課題とする。
【解決手段】RNA検出用試薬においては、RNAウイルスを含む試料から前記RNAウイルスのRNAを抽出し、前記抽出されたRNAをPCR法により増幅させて前記RNAを検出するために前記試料に添加されるRNA検出用試薬であって、下記一般式(1)で表される多糖類を含むことを特徴とするRNA検出用試薬。
【化1】


・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いてRNAウイルスのRNAを検出する方法において使用されるRNA検出用試薬、およびこれらの試薬を用いてRNAを検出するRNA検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染性ウイルスのスクリーニングや、疾患患者のウイルス感染の有無を判断する場合にRNAウイルス中のRNAを検出する方法としてRT(逆転写)−PCR法を含むPCR法(以下、単にPCR法と記載する場合がある。)が広く用いられている。
【0003】
PCR法によって試料中のRNAウイルスのRNAを検出するには、フェノールを含む抽出液によって試料から抽出されたRNAを、逆転写して相補的DNA(cDNA)を得、得られたcDNAをPCR法によって増幅させてその増幅産物を測定する事で、試料中のRNAを検出する。
【0004】
PCR法の中でも、特にリアルタイムPCR法は、cDNAの増幅を、例えば、蛍光色素存在下で行い、蛍光検出により増幅産物量をリアルタイムで測定しながら増幅量を測定するために、高感度のRNA検出が行うことができる。
前記リアルタイムPCR法は、通常のPCR法に比べるとRNAを高感度で検出できるものの、例えば感染初期の患者から試料を採取してRNAの検出を行った場合には、ウイルスの量が少ないため、リアルタイムPCR法を用いてもRNAを検出できない場合があり、実際には感染していたとしても陰性と判断されることがある。
【0005】
また、RNAは同じ核酸であるDNAと比較すると、環境中に多く存在するRNA分解酵素で分解されてしまうため、RNAが少量の場合には検出が困難になる。
さらに、RNAを検出する場合にはRNAを逆転写する工程が増えるためDNAを検出する場合に比べて試料のロスも生じやすく、RNA量が少ない試料の検出が難しい。
従って、初期においても感染しているかどうかを判断したい病原性ウイルスなど、少量のRNAウイルスのRNA検出についてはさらに高感度の検出方法が望まれている。
【0006】
前記PCR法におけるRNA検出感度を高める方法としては、(1)試料からのRNAの抽出時、(2)逆転写時、(3)PCR反応時などにおける各処理の効率や感度を向上させることが考えられるが、この中でも(1)のRNA抽出時における抽出効率を向上させることで、効果的にRNA検出の感度を向上させることが可能である。
【0007】
前記(1)のRNAを試料から抽出する抽出工程における具体的な処理としては、例えば、フェノ−ルやクロロホルムを含む抽出液に試料を溶解して試料中のタンパクや炭水化物を沈殿させて、RNAを含む水溶液を上澄みとして分離する工程と、前記上澄みとして分離されたRNAを含む水溶液に、さらにアルコールなどを添加して、水溶液中のRNAを沈殿させて分離工程とを行なうことで、試料中のRNAを抽出する処理が行なわれる。
【0008】
前記RNAの分離工程において、RNAの量が極めて少量の場合には、RNAを確実に沈殿させることが困難になる。
そこで、微量のRNAを確実に沈殿させるために、RNAの沈殿を促す共沈剤を添加することで、抽出効率を向上させることが検討されている。
【0009】
例えば、特許文献1乃至5には、RNAまたはDNA等の核酸を含む水溶液にデキストランを共沈剤として添加して、核酸の沈殿を促進することが記載されている。
共沈剤としては、デキストランの他に、アクリルアミドまたはカルボキシメチル(特許文献2)や、グリコーゲン(特許文献3および5)、あるいはセルロースやデンプン(特許文献6)、あるいはアミロペクチンアズール(特許文献7)なども各文献に記載されている。
【0010】
しかしながら、前記のような共沈剤を用いるいずれの方法においても、核酸、特にウイルスRNAのRNA検出感度を十分に向上させうるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−238101号公報
【特許文献2】特開平7−59572号公報
【特許文献3】特開2001−17173号公報
【特許文献4】特開2003−248号公報
【特許文献5】特開2006−87394号公報
【特許文献6】特許第4264133号公報
【特許文献7】特許第3108105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題を鑑みて、RNAの検出感度を向上させることのできるRNA検出用試薬、およびRNA検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段として、本発明のRNA検出用試薬は、RNAウイルスを含む試料から前記RNAウイルスのRNAを抽出し、前記抽出されたRNAをPCR法により増幅させて前記RNAを検出するために前記試料に添加されるRNA検出用試薬であって、下記一般式(1)で表される多糖類を含むことを特徴としている。
【化1】

・・・・(1)
【0014】
また、本発明のRNA検出方法は、RNAウイルスを含む試料からRNAウイルスのRNAを抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出されたRNAをPCR法によって増幅するPCR反応工程とを備えるRNA検出方法において、前記試料に下記一般式(2)で表される多糖類を含む試薬を添加することを特徴としている。
【化2】

・・・・(2)
【0015】
前記のようにRNAウイルスを含む試料に前記一般式(1)で表される多糖類を含むRNA検出用試薬を添加して、ウイルスのRNAの抽出を行い、さらにPCR法によってRNAを増幅させることによって、PCR法におけるRNAの検出感度が向上し、微量なRNAでも検出することが可能になる。
【0016】
また、本発明のRNA検出方法では、前記抽出工程の前に、前記試料に前記試薬を添加することが好ましい。
【0017】
前記抽出工程の前に前記試薬を添加することによって、よりRNA検出感度を向上させることができる。
【0018】
本発明において、前記抽出工程では、前記試料にフェノールを含む液を接触させることで試料からRNAを抽出することを実施することが好ましい。
【0019】
試料とフェノールを含む液を接触させる抽出を行なう方法において、試料に前記多糖類を含む試薬を添加することで、効果的にRNAの検出感度が向上する。
【0020】
また、本発明においては、RNAウイルスがインフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、ノロウイルス、デングウイルスからなる群から選択される一種または二種以上であることが好ましい。
【0021】
前記RNAウイルスを含む試料からのRNA検出を行なう場合には、本発明のRNA検出用試薬、またはRNA検出方法によれば、特に高い検出感度が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、RNAの検出感度を向上させることができ、従って、試料中に含まれるRNAウイルスが微量あっても、精度よくRNAウイルスのRNAを検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本実施形態のRNA検出用試薬およびこれらの試薬を用いたRNA検出方法について具体的に説明する。
【0024】
本実施形態のRNA検出用試薬は、下記一般式(1)で表される多糖類を含むものである。
【0025】
【化1】

・・・(1)
【0026】
前記多糖類は、一般式に示すように、グルコース3分子が、α−1,4グリコシド結合したマルトトリオースが、α−1,6グリコシド結合によって連結している多糖類である。
かかる多糖類の具体例としては、食品添加物として広く用いられているプルランが挙げられる。
【0027】
本実施形態で用いられる前記多糖類としてのプルランは、重量平均分子量(Mw)が約10000〜250万程度好ましくは約10万〜約100万程度のものが好ましく使用できる。
【0028】
前記プルランとしては、例えば、昭和電工株式会社製(商品名『プルランP−5』、『プルランP−10』、『プルランP−20』、『プルランP−50』、『プルランP−100』、『プルランP−200』、『プルランP−400』、『プルランP−800』)等の市販の各種プルランを好適に使用することができる。
【0029】
前記プルラン重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により、例えば、下記装置および条件で求められる。
【0030】
(分析装置)
恒温槽:昭和電工株式会社製 SHODEX OVEN A0−30
送液ポンプ:昭和電工株式会社製 SHODEX DS−4
検出器:昭和電工株式会社製 SHODEX RI−101
デガッサー:昭和電工株式会社製 SHODEX ERC−3115α
解析ソフト:システムインスルツメンツ社製 SIC 480II データステーション
カラム:昭和電工株式会社製 SB−806MHQ + SB−804HQ 直列
【0031】
(分析条件)
溶離液:0.1M NaNO3水溶液
恒温槽温度:40℃
流量:1ml/分
GPCカラム用標準試料:昭和電工株式会社製 プルラン(商品名) P−5、P−10、P−20、P−50、P−100、P−200、P−400、P−800、
試料注入量:前記試料の1質量%水溶液を50μl注入
【0032】
前記標準試料のピーク時間から検量線を作成し、試料のクロマトグラムを、前記解析ソフトを用いて解析し、分子量を算出する。
【0033】
本実施形態のRNA検出用試薬は、前記多糖類を水その他の溶媒に溶解させて、試薬として調製することができる。
前記RNA検出用試薬における多糖類の濃度は、10〜2000μg/ml、好ましくは20〜1000μg/mlである。
【0034】
前記多糖類を試薬として調製する調製方法としては、例えば、溶媒の温度2℃〜10℃、好ましくは4℃〜8℃で、1時間〜30時間、好ましくは、6時間〜24時間程度攪拌することで調製することができる。
【0035】
本実施形態のRNA検出用試薬には、さらに抗生物質などが添加されていてもよい。
使用可能な抗生物質としては、例えば、ペニシリンやストレプトマイシンなどが挙げられる。
さらに本実施形態のRNA検出用試薬には、抽出性を高めるために界面活性剤などが添加されていてもよい。
【0036】
あるいは、本実施形態のRNA検出用試薬は、RNA検出に使用される他の試薬、例えば、タンパク質変性剤、RNA分解酵素阻害剤などと共に混合した混合液として調製してもよい。このように他の試薬と混合しておくことで、試薬をその都度添加する手間が省略できる。
【0037】
次に前記のようなRNA検出用試薬を用いて試料中のRNAを検出する方法について説明する。
【0038】
(1)試料の準備
血液などの検査用試料を準備する。通常の検出方法と同様に必要に応じて適当な倍率に希釈してもよい。
また、検査用試料としては血液の他、咽頭ぬぐい液や気管吸引液(例インフルエンザウイルス)、血清(例:C型肝炎ウイルス)、組織、細胞の他に、尿・便(例ノロウイルス)等の排泄物、環境試料(下水、河川水等)などを検査用試料として用いることが可能である。
【0039】
本発明では、種々のRNAウイルスから抽出されるRNAの検出に適用可能であるが、例えば、エンベロープを有するA型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、デングウイルス、エンベローブを有しないノロウイルスの実験室での代替ウイルスとして用いられることが多いネコカリシウイルスなどのウイルスRNAの検出に用いることができる。
これらのウイルスの中でも、特に、エンベロープを有するウイルスには検出感度向上効果が高い。
【0040】
(2)RNAの抽出工程
前記試料からRNAを抽出する。
まず、前記試料に前記のRNA検出用試薬を添加する。
試料に対するRNA検出用試薬の添加量は、試料の濃度や、ウイルスの種類などによって適宜調整可能である。例えば、前記多糖類が、10〜2000μg/ml、好ましくは20〜1000μg/mlとなるようにRNA検出用試薬を試料に添加することが好ましい。
【0041】
前記RNA検出用試薬を添加した試料から、公知の手法、例えばフェノール・クロロフォルム抽出法によってRNAを抽出する。
RNA抽出には市販のRNA抽出用試薬キット、例えば、TRIZOL試薬(インビトロジェン社製))等を添付のプロトコールに従って使用することができる。
例えば、下記のような手順でRNA抽出を行なう。
【0042】
まず、試料をTRIZOL試薬に溶解させる。試料が血液などの液体の場合には、適宜希釈した液を、試料が培養細胞などの固体の場合には予めホモジェナイズしておいたものを、TRIZOL試薬に混合して溶解させる。
TRIZOL試薬に試料を溶解させた液を15分間静置して、クロロホルムを添加し、チューブに入れ遠心分離(12000×g、15分間、4℃)する。
遠心分離後、RNAを含む上澄みと、その他の成分(タンパク質、炭水化物など)を含む沈殿に分離し、上澄みを取り出すことでRNA成分を含む水溶液が抽出できる。
さらに、上澄みを別のチューブにいれて、イソプロパノールを添加し、10分間静置した後、遠心分離(12000×g、15分間、4℃)した上澄みを除去するとRNAの沈殿が生成する。その沈殿にエタノール(75%)を添加しさらに遠心分離(7500×g、5分間、4℃)するとRNAが洗浄できる。
沈殿・洗浄したRNA沈殿を乾燥後、DNase Waterに再溶解させることで、RNAが回収できる。
【0043】
(3)逆転写工程
前記のように試料から抽出されたRNAを用いて、逆転写によって相補的DNA(cDNA)を合成する。
逆転写は、市販の逆転写酵素用試薬キット、例えば、High Capacity cDNA逆転写キット(アプライドバイオシステムズ社製)等を、添付のプロトコールに従って使用することができる。
例えば、逆転写酵素、ランダムプライマー、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)、RNA分解酵素阻害剤(RNase inhibitor)、付属のバッファーおよびRNase−free水をプロトコールに従って調製し(1試料あたり全量で10μlとなるように調製)、前記回収されたRNAを調製した試薬に同量の10μl添加してピペッティングで混合する。
混合後、10分間室温で静置し、37℃で2時間逆転写を行い、cDNAを合成する。
逆転写反応後のcDNAは、85℃で10秒保温させることで、酵素を不活化させておく。
【0044】
(4)PCR反応工程
次に、前記逆転写によって生成されたcDNAをPCR反応によって増幅させて検出を行う。
PCR反応によるcDNAの検出は、公知のPCR法を用いたPCR装置を適宜用いて行うことができる。
PCR装置で検出されるデータはcDNAの量であるため、これを元の試料中に含まれるRNA量に換算することで、試料中に含まれていたRNA量およびRNAウイルスの検出が可能となる。
尚、RNA量とcDNA量は同量であるが、生データとして得られるcDNA量は、最終的にPCR反応させたcDNA量であるため、元の試料中に含まれるRNA量に換算する場合には、希釈を考慮して換算する。
【0045】
前記のようなPCR反応工程において試料中に含まれるウイルスRNAを検出する場合、血液などの試料に含まれている不純物が残存物質として各工程における酵素反応などを阻害している可能性があり、これらの残存物質が、最終的なウイルスRNAの検出感度に悪影響を及ぼしていると考えられる。
【0046】
本発明のRNA検出用試薬が実際にどのような作用でRNA検出の感度を向上させているのか、その詳細な原理は不明だが、おそらく、前記RNAの抽出工程において、RNAの抽出効率を向上させていると考えられる。
また、本発明のRNA検出用試薬は前記のようにRNAの抽出前の試料に添加し、その後試料を抽出工程、逆転写工程、PCR反応工程において各処理を実施するため、各工程における残存物質の阻害作用を低下させて、RNA検出感度を向上させているとも考えられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
(RNA検出用試薬)
RNA検出用試薬として、下記に記載の各多糖類(プルランA〜H)、単糖類のグルコース、2糖類のマルトース、多糖類のデンプン、エチルセルロースおよびメチルセルロースを試薬成分として、各試薬成分の濃度が1000μg/mlとなるように水(超純水)に溶解させたものを準備した。
尚、プルランGについては、100mg/mlとなるように水(超純水)に溶解させたものも準備した。
【0049】
各多糖類、グルコース、マルトース、およびデンプンは下記のものを使用した。
また、下記の分子量は、前記装置および条件でGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定した重量平均分子量であって、測定値の有効数値を2桁または1桁で示した。

プルランA:商品名:プルランP−10 (昭和電工株式会社製、分子量10000)
プルランB:商品名:プルランP−20 (昭和電工株式会社製、分子量20000)
プルランC:商品名:プルランP−50 (昭和電工株式会社製、分子量50000)
プルランD:商品名:プルランP−100 (昭和電工株式会社製分子量100000)
プルランE:商品名:プルランP−200 (昭和電工株式会社製分子量200000)
プルランF:商品名:プルランP−400 (昭和電工株式会社製分子量400000)
プルランG:商品名:プルランP−800 (昭和電工株式会社製分子量800000)
プルランH:商品名:プルランP−2500 (昭和電工株式会社製、分子量2500000)
グルコース:(和光純薬工業社製 試薬特級)
マルトース:マルトース1水和物(和光純薬工業社製 和光1級)
デンプン:でんぷん(とうもろこし由来)(和光純薬工業社製 試薬特級)
メチルセルロース(和光純薬工業社製)
エチルセルロース(和光純薬工業社製)
【0050】
(試料)
ウイルスとしてA型インフルエンザウイルス(株:A/PR/8/34)を用い、ウイルス液の濃度が250μl中に1×104PFUとなるように調整した。
培養液として、MEM培地、L−グリタミン、非必須アミノ酸、炭酸水素ナトリウム(pH調整用)からなる培養液を用いた。
【0051】
表1に示すように、前記RNA検出用試薬を5〜245μlと前記培養液を合わせ各250μlになるように調製した試験例、および、RNA検出用試薬を添加せずにウイルス液5μlと培養液245μlからなる標準液を準備した。
尚、試験例25については、プルランGを使用したRNA検出用試薬であって1000μg/mlとなるように調製したものをさらに1000倍希釈したものを用い、試験例26については同試薬を100倍希釈したものを用いた。
また、試験例31〜33については、プルランGを使用したRNA検出用試薬であって100mg/mlの濃度に調整したRNA検出用試薬を用いて、表1の含有量になるように調整して用いた。
【0052】
(RNA抽出工程)
抽出用の試薬としては、TRIZOL(商品名、invitrogen社製)を用いた。
各液250μlに対し、前記TRIZOLを750μl添加した。
この溶液をよく混和し、15分間室温で静置した後、200μlのクロロホルムを添加して、遠心分離(12000×g、15分間、4℃)する。
その後、水層を回収した。
回収した水層約700μlあたり500μlのイソプロパノールを添加して、10分間室温で静置し、遠心分離(12000×g、15分間、4℃)して、RNA成分を沈殿させ、上澄みを除去する。
残ったRNA沈殿物に、75%エタノールを 1ml添加し、ボルテックス後、5分間室温で静置し、さらに遠心分離(9000×g、5分間、4℃)することによってRNA沈殿を洗浄した。
一度、上清を除去した後、さらに遠心分離(9000×g、2分間、4℃)し、残存している上清を除去した。上清除去後のRNA沈殿物を、15分間風乾させ、エタノールを除去した。風乾後のRNA沈殿物に、DEPC処理水を15μl加え、ピペッティングし、RNA溶解液を得た。
【0053】
(逆転写工程およびPCR反応工程)
前記抽出されたRNAを、DEPC処理水15μlで溶解し、そのうちの10μlのRNAを用いて、20μlのcDNAを合成した(逆転写工程)。
合成したcDNAのうち5μlを使用し、下記のPCR装置を用いてRNA量を測定した。
(PCR反応工程)
前記逆転写工程および、PCR反応の手順は、以下の試薬またはキットの方法に準拠した。
尚、ウイルスのプライマーおよびプローブは、ウイルス株の遺伝子配列を基に、遺伝子解析ソフトウエアPrimer Express 3.0(アプライドバイオシステム社製)を用いて設計した。
本実施例のウイルスのプライマーおよびプローブは、A型インフルエンザウイルス株を141株抽出し、その中で相同性の高い共通プライマー、プローブとなるプライマーおよびプローブを選定した。
【0054】
逆転写キット:High Capacity cDNA逆転写キット(アプライドバイオシステムズ社製)
PCR反応キット:イーグルタックマスターミックス(ROX)(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)
PCR装置(リアルタイムPCR):アプライドバイオシステムズ 7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ社製)
【0055】
各試験例および標準液においてPCR装置で測定した生データと、この生データから換算した250μl中のRNA量(copy)を表1に記載した。
尚、換算値は、生データを0.167で除した数値である。その理由は、前記抽出したRNA15μlのうち、10μlをcDNA合成に使い、合成したcDNA20μlのうち、5μlをPCR装置にかけてPCR反応させたため、生データ(cDNA数)を0.167で除した値が250μlの検査用試料に含まれるRNA量となるためである。
すなわち、換算値が検出されたRNA量となる。
【0056】
尚、今回のPCR測定条件において、使用したPCR装置の検出限界値は、10copyであった。
【0057】
【表1】

【0058】
RNA検出用試薬を添加しない標準液では、検出されたRNA量(換算値)が1.7×102copyであった。
この標準液に対して、各プルランを添加した試験例1〜37では、前記標準液と同等以上のRNA量(copy数)が検出された。
特に、プルランの分子量が高くなると、プルランの含有量が少なくても、前記標準液よりも、多くのRNA量(copy数)が検出された。
一方、試験例38〜57では、特に標準液と比べても有意な差は見られなかった。
【0059】
[実施例2]
実施例2では、前記実施例1のRNA検出用試薬の中から、プルランGを用いたRNA検出用試薬を準備し、ウイルスとして、ネコカリシウイルス(株:FCV−2280)を用いた。
前記実施例1と同様に、濃度が1.0×104PFU/250μlとなるように調整したウイルス液を各5μlずつ準備し、これに対して前記RNA検出用試薬を50μl、培養液を195μl準備した。比較として、培養液242.5μlのみのものを準備した。
前記以外の条件は実施例1と同様に、RNA抽出工程、逆転写工程およびPCR反応工程を実施し、RNA検出量を測定した(250μl中のウイルス量換算値copy)。
結果を表2に示す。
【0060】
尚、逆転写に必要な各ウイルスのプライマーおよびプローブは、前記ネコシリカウイルス株の遺伝子配列を基に、遺伝子解析ソフトウエアPrimer Express 3.0(アプライドバイオシステム社製)を用いて、アプライド社の設計ガイドラインに最も近くなる、Primer Express 3.0で示されるペナルティスコアが最も低くなるものを選定して用いた。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例1と同様に、RNA検出用試薬を添加した試験例58では標準液よりも100倍程度多いRNA量(copy数)が検出された。
【0063】
[実施例3]
実施例3では、前記実施例1のRNA検出用試薬の中から、プルランGを用いたRNA検出用試薬を準備し、ウイルスとして、デングウイルス(株:NEW Guinea C)を用い、前記実施例1と同様に、濃度が1.0×104PFU/250μlとなるように調整したウイルス液を各5μlずつ準備し、これに対して前記RNA検出用試薬を50μl、培養液を195μl準備した。比較として、培養液242.5μlのみのものを準備した。
前記以外の条件は実施例1と同様に、RNA抽出工程、逆転写工程およびPCR反応工程を実施し、RNA検出量を測定した(250μl中のウイルス量換算値copy)。
結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例1と同様に、RNA検出用試薬を添加した試験例59では標準液よりも100倍程度多いRNA量(copy数)が検出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAウイルスを含む試料から前記RNAウイルスのRNAを抽出し、前記抽出されたRNAをPCR法により増幅させて前記RNAを検出するために前記試料に添加されるRNA検出用試薬であって、
下記一般式(1)で表される多糖類を含むことを特徴とするRNA検出用試薬。
【化1】

・・・(1)
【請求項2】
前記RNAウイルスがインフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、ノロウイルス及びデングウイルスからなる群から選択される一種または二種以上である請求項1に記載のRNA検出用試薬。
【請求項3】
RNAウイルスを含む試料からRNAウイルスのRNAを抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出されたRNAをPCR法によって増幅するPCR反応工程とを備えるRNA検出方法において、
前記試料に下記一般式(2)で表される多糖類を含む試薬を添加することを特徴とするRNA検出方法。
【化2】

・・・(2)
【請求項4】
前記抽出工程の前に、前記試料に前記試薬を添加する請求項3に記載のRNA検出方法。
【請求項5】
前記抽出工程では、前記試料にフェノールを含む液を接触させることで試料からRNAを抽出することを実施する請求項3または4に記載のRNA検出方法。
【請求項6】
前記RNAウイルスがインフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、ノロウイルス及びデングウイルスからなる群から選択される一種または二種以上である請求項3乃至5のいずれか一項に記載のRNA検出方法。

【公開番号】特開2012−235743(P2012−235743A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107194(P2011−107194)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】