説明

RUNXのユビキチン化方法

【課題】 RUNXと相互作用してその作用を調節する蛋白質を見出し、RUNXの作用を調節する手段を提供すること、およびRUNXの異常に起因する疾患の予防および/または治療に有用な手段を提供すること。
【解決手段】 HECT型E3リガーゼーであるNEDD4がRUNXをユビキチン化し、それによりRUNXが分解されることを見出し、それに基づき、NEDD4を使用することを特徴とするRUNXのユビキチン化方法および分解方法、RUNXのユビキチン化剤および分解剤、NEDD4によるRUNXのユビキチン化および分解の阻害方法、RUNXのユビキチン化阻害剤および分解阻害剤、RUNXのユビキチン化を阻害または促進する化合物の同定方法、RUNXとNEDD4の結合を阻害または促進する化合物の同定方法、試薬キット、RUNXの異常に起因する疾患の予防および/または治療方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RUNX(Runt−related transcription factor)のユビキチン化方法および分解方法に関する。より詳しくは、本発明はRUNXとNEDD4(Neural precursor cell Expressed,developmentally down−regulated 4)とを共存させることを特徴とするRUNXのユビキチン化方法および分解方法に関する。
【0002】
本発明はまた、RUNXのユビキチン化剤および分解剤に関する。
【0003】
本発明はさらにRUNXのユビキチン化および分解の阻害方法に関する。より詳しくは、本発明はNEDD4とRUNXの結合、NEDD4の酵素活性、およびNEDD4の発現のうちの少なくとも1を阻害することを特徴とする、NEDD4によるRUNXのユビキチン化および分解の阻害方法に関する。
【0004】
本発明はまた、NEDD4によるRUNXのユビキチン化阻害剤および分解阻害剤に関する。
【0005】
本発明はまた、骨形成促進方法および骨形成促進剤に関する。より詳しくは、本発明は、NEDD4の発現および/または機能を阻害することを特徴とする骨形成促進方法および骨形成促進剤に関する。
【0006】
本発明はさらに、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法、並びにNEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法に関する。
【0007】
本発明はまた、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法に関する。
【0008】
本発明はさらに、NEDD4、NEDD4をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターおよび該ベクターを含有する形質転換体のうちの少なくともいずれか1つと、RUNX、RUNXをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターおよび該ベクターを含有する形質転換体のうちの少なくともいずれか1つとを含んでなる試薬キットに関する。
【0009】
本発明はまた、RUNXの異常に起因する疾患、例えばRUNXの機能および/または発現の亢進や低下に起因する疾患、具体的には癌疾患等の予防および/または治療剤、並びに予防および/または治療方法に関する。
【0010】
本発明はさらに、骨損失を伴う疾患の予防および/または治療剤、並びに予防および/または治療方法に関する。
【背景技術】
【0011】
RUNXは、Runtドメインを有することを特徴とする蛋白質であり、数々のファミリー蛋白質が知られている。Runtドメインは、(1)ヒトの急性骨髄性白血病に関連するAML1(acute myelocytic leukemia 1)、(2)レトロウイルスのエンハンサーに共通するコアに結合する転写因子として同定されたCBF(core binding factor)、および(3)ポリオーマウイルスの遺伝子発現とDNA複製を制御するエンハンサーとして同定された転写因子PEBP2(polyomavirus enhancer binding protein 2)のαサブユニットが共有する約130アミノ酸残基からなる非常に相同性の高い配列である。
【0012】
RUNXは、PEBP2 CBF βサブユニット(PEBP2β/CBFβ)とヘテロ二量体を形成し、転写因子として作用することが知られている。Runtドメインは、DNA結合およびβサブユニットとのヘテロ二量体化を共に担い、RUNXの転写因子としての作用に重要なドメインである。
【0013】
RUNXは、哺乳動物では3種類のファミリー蛋白質、すなわちRUNX1、RUNX2およびRUNX3が知られている(非特許文献1および2)。ヒトRUNX3とヒトRUNX1およびヒトRUNX2との相同性は、アミノ酸レベルでそれぞれ57%および54%である。
【0014】
RUNXファミリーは、転写因子として作用し、正常な分化や腫瘍形成に重要な役割を果たす。
【0015】
RUNX1はヒト第21染色体(21q22)上に存在し、急性骨髄性白血病(AML)で染色体転座が最も高頻度にみられる遺伝子として同定された(非特許文献3)。一方、RUNX1が造血細胞の分化調節にも決定的な役割を果たしていることが報告されている(非特許文献4および5)。AMLでは第8染色体と第21染色体の長腕が入れ替わる相互転座(t(8;21))が高頻度に見られ、該染色体転座によりRUNX1に対してドミナントネガティブに作用するキメラ蛋白質が生じることが知られている。このキメラ蛋白質を発現している増殖細胞に、RUNX1を大量に発現させると細胞の増殖は抑制され分化が促進されたことが報告されている(非特許文献6)。一方、染色体転座のみられない白血病細胞でも、点突然変異によるRUNX1転写活性化能の消失が報告されており、その機能消失が白血病の発症に重要な役割を果たしていると考えられる(非特許文献7)。
【0016】
RUNX2は骨形成に関わる重要な転写因子であり、軟骨細胞の分化・成熟、骨芽細胞の分化、骨髄形成に必須である(非特許文献26および27)。RUNX2のノックアウトマウスでは膜性骨化および軟骨内骨化の両方が欠損しているため、骨格は軟骨のみから形成される(非特許文献8)。骨格は、骨芽細胞から直接形成される膜性骨化と、軟骨が形成された後に該軟骨が骨に置換される軟骨内骨化により構築される。骨芽細胞と軟骨細胞はいずれも間葉系幹細胞より分化する。これら細胞の間葉系幹細胞からの分化には、BMP(bone morphogenetic protein)等のサイトカインおよび各種の転写因子群が関与している。RUNX2は細胞内で、BPM刺激による骨形成遺伝子の発現誘導に関与する転写因子Smad1と結合することから、BMP刺激を介した骨形成シグナルに関与していると考えられている(非特許文献28)。また、RUNX2は骨細胞の分化に作用する他、骨基質遺伝子群(Col1a1、Col1a2、オステオポンチン(osteopontin)、オステオカルシン(osteocalcin)、骨シアロプロテイン(bone sialoprotein)等)の発現を活性化させることが明らかにされている(非特許文献29)。
【0017】
一方、RUNX2の過剰発現がT細胞分化に異常をもたらし、c−mycとの相乗作用によりリンパ腫形成に関与することが報告されている(非特許文献9)。
【0018】
RUNX3はTGF−β(tumor growth factor−β)の細胞内メディエーターであるSmadと結合することから、TGF−βシグナル伝達への関与が考えられている(非特許文献10)。TGF−βレセプターやSmadの変異は、多くの癌で知られており(非特許文献11)、RUNX3についても癌への関与が考えられている。RUNX3は正常の胃粘膜上皮で高発現しているが(非特許文献12)、RUNX3をノックアウトすると胃粘膜上皮細胞の増殖亢進による粘膜肥厚がみられる。この細胞増殖亢進は、アポトーシスの抑制に起因することが明らかにされている。さらにRUNX3ノックアウトマウスの胃粘膜上皮細胞は、TGF−βの増殖抑制作用に対して抵抗性を示すことから、粘膜肥厚はRUNX3欠損によるTGF−βシグナル伝達の異常が原因と考えられている(非特許文献13)。これは、TGF−βのノックアウトマウスにおいても、同様に胃粘膜上皮細胞の増殖による粘膜肥厚がみられることからも支持される(非特許文献14)。また、ヒト食道癌細胞株のSEG−1細胞でもRUNX3が欠損しており、TGF−βの増殖抑制作用に対して抵抗性を示すが、RUNX3を発現させると反応性が回復する(非特許文献15)。これらの事象は、RUNX3がTGF−βシグナルを介して癌に関与することを示唆する。
【0019】
ヒトの癌とRUNX3との関連性については既にいくつかの報告がある。RUNX3は多くの癌抑制遺伝子が存在する第1染色体(1p36)上にあり、ここは胃癌、大腸癌、胆管癌、膵臓癌等で頻繁に欠損がみられる領域である。胃癌細胞でのRUNX3の発現は癌の進行と共に低下しており、ステージ4の胃癌では約90%でRUNX3の遺伝子発現が低下していた(非特許文献13)。また、60%以上の胆管癌、膵臓癌および大腸癌細胞株でRUNX3の遺伝子発現が低下していたという報告もある(非特許文献16および17)。RUNX3発現低下の原因は、半接合体欠失(hemizygous deletion)およびRUNX3のプロモーター領域のメチル化が原因と考えられている。RUNX3の腫瘍形成抑制作用は、移植モデルを使用した動物実験で確認されており、RUNX3欠損ヒト胃癌細胞にRUNX3遺伝子を発現させると、ヌードマウス移植後の腫瘍増殖が著しく抑制された(非特許文献13)。
【0020】
NEDD4は、蛋白質分解機構であるユビキチンプロテアソームシステムを構成するHECT(homologous to the papillomavirus E6−associated protein carboxyl terminus)型ユビキチンリガーゼである。NEDD4は、N末端領域に膜脂質との結合に関与するC2ドメイン、中央部に基質との結合に関与する4つのWWドメイン、およびC末端領域にユビキチン化の触媒ドメインでありユビキチンリガーゼ活性を示すHECTドメインを有する(非特許文献18)。
【0021】
ユビキチンプロテアソームシステムは、選択的かつ能動的な蛋白質分解機構であり、細胞周期やシグナル伝達等の様々な生理現象を調節し、それにより蛋白質や細胞の恒常性維持に関与している(非特許文献19)。ユビキチンは真核生物に存在する進化的に保存された76アミノ酸残基からなる蛋白質であり、これが標的蛋白質に鎖状に共有結合し、分解シグナルとして作用する。標的蛋白質へのユビキチンの結合はユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)およびユビキチンリガーゼ(E3)の連続的な触媒作用で起こる。これら酵素の中で、ユビキチンリガーゼ(E3)が基質選択性を担う酵素として重要である。ユビキチン化された標的蛋白質は、該蛋白質に鎖状に結合したユビキチンを認識するプロテアソームにより分解される。ユビキチンプロテアソームシステムの異常は、標的蛋白質の過剰な分解による蛋白質の欠乏、あるいは標的蛋白質の分解阻害による蛋白質の蓄積を招き、それにより様々な疾患を引き起こす。具体的には、たとえば癌疾患におけるユビキチンプロテアソームシステムの関与が報告されている(非特許文献20)。
【0022】
NEDD4の組織分布は正常組織では筋肉で発現が高い。また、いくつかの癌細胞株においてNEDD4の高い発現が確認されている(非特許文献21)。また、NEDD4は神経細胞の分化とともに発現が減少することが知られている(非特許文献22)。
【0023】
NEDD4の基質として、NF−κB(nuclear factor−κB)の制御因子であるBcl10が報告されている(非特許文献23)。NEDD4の基質にはその他、アミロイド感受性上皮ナトリウムチャネル(ENaC)が知られている(非特許文献24)。
【0024】
RUNXの安定性に対するユビキチンプロテアソームシステムの関与についていくつかの報告がある。例えば、RUNX2の細胞内での安定性は、ユビキチン化依存的に制御されている(非特許文献30)。RUNX2のE3リガーゼとして既に、HECT型E3リガーゼとして知られているSmurf1(Smad ubiquitination regulatory factor 1)が報告されている(非特許文献31)。プロテアソームインヒビター処理により、インビトロ(in vitro)での骨芽細胞の分化の誘導および個体での骨形成の促進が報告されている(非特許文献31および32)。しかしながら、Smurf1のノックアウトマウスにおけるRUNX2の発現量およびSmadシグナルは野生型マウスのものと差はなく、生体内でRUNX2がSmurf1依存的に分解されているかは不明である(非特許文献33)。また、RUNX3が、Smurf1およびSmurf2によってユビキチン化され、分解することが報告されている(非特許文献25)。
【0025】
しかしながら、NEDD4によるRUNXファミリーのユビキチン化は報告されていない。また、NEDD4とSmurf1およびSmurf2との相同性は低く、アミノ酸レベルでそれぞれ39%および43%である。
【0026】
【非特許文献1】ランド(LundA.H.)ら、「キャンサー セル(Cancer Cell)」、2002年、第1巻、第3号、p.213−215。
【非特許文献2】オットー(Otto F.)ら、「ジャーナル オブ セルラー バイオケミストリー(Journal of Cellular Biochemistry)」、2003年、第89巻、第1号、p.9−18。
【非特許文献3】ミヨシ(Miyoshi H.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1991年、第88巻、第23号、p.10431−10434。
【非特許文献4】オクダ(Okuda T.)ら、「セル(Cell)」、1996年、第84巻、第2号、p。321−330。
【非特許文献5】ワン(Wang Q.)ら、「セル(Cell)」、1996年、第87巻、第4号、p。697−708。
【非特許文献6】キタバヤシ(Kitabayashi I.)ら、「エンボ ジャーナル(EMBO Journal)」、1998年、第17巻、第11号、p.2994−3004。
【非特許文献7】オーサト(Osato M.)ら、「ブラッド(Blood)」、1999年、第93巻、第6号、p.1817−1824。
【非特許文献8】オットー(Otto F.)ら、「セル(Cell)」、1997年、第89巻、第5号、p。765−771。
【非特許文献9】ヴァリアント(Valliant F.)ら、「オンコジーン(Oncogene)」、1999年、第18巻、第50号、p.7124−7134。
【非特許文献10】イトー(Ito Y.)ら、「カレント オピニオン イン ジェネティクス アンド ディベロプメント(Current Opinion in Genetics and Development)」,2003年、第13巻、第1号、p.43−47。
【非特許文献11】カワバタ(Kawabata M.)ら、「ジャーナル オブ バイオケミストリー(Journal of Biochemistry)」、1999年、第125巻、第1号、p.9−16。
【非特許文献12】オーサキ(Osaki M.)ら、「ヨーロピアン ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション(European Journal of Clinical Investigation)」、2004年、第34巻、第9号、p.605−612。
【非特許文献13】リ(Li Q.L.)ら、「セル(Cell)」、2002年、第109巻、第1号、p.113−124。
【非特許文献14】クラウフォード(Crawford S.E.)ら、「セル(Cell)」、1998年、第93巻、第7号、p.1159−1170。
【非特許文献15】トークワッティ(Torquati A.)ら、「サージェリー(Surgery)」、2004年、第136巻、第2号、p.310−316。
【非特許文献16】ワダ(Wada M.)ら、「オンコジーン(Oncogene)」、2004年、第23巻、第13号、p.2401−2407。
【非特許文献17】グール(Goel A.)ら、「インターナショナル ジャーナル オブ キャンサー(International Journal of Cancer)」、2004年、第112巻、第5号、p.754−759。
【非特許文献18】ハーベイ(Harvey K.F.)ら、「トレンズ イン セル バイオロジー(Trends in Cell Biology)」、1999年、第9巻、第5号、p.166−169。
【非特許文献19】ハーシコ(Hershko A.)ら、「アニュアル レビュー オブ バイオケミストリー(Annual Review of Biochemistry)」、1998年、第67巻、p.425−479。
【非特許文献20】バーガー(Burger A.M.)ら、「ヨーロピアン ジャーナル オブ キャンサー(Eurpoean Journal of Cancer)」、2004年、第40巻、第15号、p.2217−2229。
【非特許文献21】アナン(Anan T.)ら、「ジーンズ トゥ セルズ(Genes to Cells)」、1998年、第3巻、第11号、p.751−763。
【非特許文献22】クマール(Kumar S.)ら、「バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications)」、1992年、第185巻、第3号、p.1155−1161。
【非特許文献23】シャールシュミット(Scharschmidt E)ら、「モレキュラー アンド セルラー バイオロジー(Molecular and Cellular Biology)」、2004年、第24巻、第9号、p.3860−3873。
【非特許文献24】スタウブ(Staub O.)ら、「エンボ ジャーナル(EMBO Journal)」、1996年、第15巻、第10号、p.2371−2380。
【非特許文献25】ジン(Jin Y.H.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2004年、第279巻、第28号、p.29409−29417。
【非特許文献26】コモリ(Komori,T.)「ジャーナル オブ セルラー バイオケミストリー(Journal of Cellular Biochemistry)」、2005年、第95巻、p.445−453。
【非特許文献27】ヒメノ(Himeno,M.)ら、「ジャーナル オブ ボーン アンド ミネラル リサーチ(Journal of Bone and Mineral Research)」、2002年、第17巻、p.1297−1305。
【非特許文献28】ハナイ(Hanai,J.I.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、1999年、第274巻、p.31577−31582。
【非特許文献29】コモリ(Komori,T.)、「ジャーナル オブ セルラー バイオケミストリー(Journal of Cellular Biochemistry)」、2002年、第87巻、p.1−8。
【非特許文献30】チンタット(Tintut,Y.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、1999年、第274巻、p.28875−28879。
【非特許文献31】ザオ(Zhao M.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2003年、第278巻、p.27939−27944。
【非特許文献32】ガレット(Garrett,I.R.)ら、「ザ ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション(The Journal of Clinical Investigation)」、2003年、第111巻、p.1771−1782。
【非特許文献33】ヤマシタ(Yamashita,M.)ら、「セル(Cell)」、2005年、第121巻、p.101−113。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
RUNXは、転写因子として作用し、正常な分化や腫瘍形成に重要な役割を果たす蛋白質である。RUNXの異常により、例えば、分化の異常や腫瘍形成が引き起こされる。したがって、RUNXの作用を調節することにより、RUNXの異常に起因する疾患を予防および/または治療できる。
【0028】
本発明の課題は、RUNXと相互作用してその作用を調節する蛋白質を見出して提供することである。また、本発明の課題には、RUNXの作用を調節する手段を提供することが含まれる。さらに、本発明の課題には、RUNXの異常に起因する疾患、例えば癌疾患の予防および/または治療に有用な手段を提供することが含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意努力し、HECT型E3リガーゼであるNEDD4がRUNX3と相互作用することをインシリコ(in silico)で予測した。
【0030】
そして、NEDD4がRUNXをユビキチン化し、それによりRUNXの安定性を低下させることを実証した。具体的には、(1)NEDD4がRUNX3と細胞内で結合すること、(2)NEDD4によりRUNX3が細胞内でユビキチン化されること、および(3)NEDD4によりRUNX3の安定性が低下することを実証した。さらに、(4)NEDD4がRUNX1と細胞内で結合すること、(5)NEDD4によりRUNX1がユビキチン化されること、および(6)NEDD4によりRUNX1の安定性が低下することを実証した。また、(7)癌細胞では、N末端側のアミノ酸残基が欠失している短鎖型NEDD4が発現していることを見出し、(8)短鎖型NEDD4とRUNX1、RUNX2およびRUNX3とがそれぞれ結合すること、および(9)短鎖型NEDD4によりRUNX1、RUNX2およびRUNX3がユビキチン化されることを実証した。
【0031】
本発明における実証結果から、NEDD4がRUNXと結合してRUNXのユビキチン化を触媒し、その結果ユビキチン化されたRUNXがユビキチンプロテアソームシステムにより分解されてその安定性が低下すると考える。RUNXの分解が、NEDD4が関与するユビキチンプロテアソームシステムにより調節されることにより、RUNXの機能、例えば転写因子としての機能が調節され、その結果、RUNXが関与する様々な生理現象、例えば細胞周期やシグナル伝達等が調節される。
【0032】
したがって、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を調節することにより、RUNXの分解を調節でき、それによりRUNXの機能、例えば転写因子としての機能を調節できる。RUNXの機能を調節することにより、RUNXの異常に起因する疾患を予防および/または治療できる。
【0033】
具体的には、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害することにより、RUNXのユビキチンプロテアソームシステムによる分解を阻害できるため、RUNXの低減を阻害できる。RUNXの低減を阻害することにより、RUNXが関与する生理現象を回復できるため、RUNXの低減やその機能の低減に起因する疾患を予防および/または治療できる。また、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を促進することにより、RUNXのユビキチンプロテアソームシステムによる分解を促進できるため、RUNXを低減させることができる。RUNXを低減させることにより、RUNXが関与する生理現象を阻害できるため、RUNXの増加やその機能の亢進に起因する疾患を予防および/または治療できる。
【0034】
本発明においてはまた、NEDD4または短鎖型NEDD4がRUNXと結合してRUNXのユビキチン化を触媒するのに対し、RUNXと結合するがE3リガーゼ活性を有さない不活性型NEDD4および不活性型短鎖NEDD4はRUNXをユビキチン化しないことを実証した。不活性型NEDD4および不活性型短鎖NEDD4は、いずれもRUNXと結合するがE3リガーゼ活性を有さないことから、NEDD4または短鎖型NEDD4とRUNXとの結合を拮抗的に阻害し、その結果、NEDD4または短鎖型NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害すると考える。
【0035】
このように、NEDD4によるRUNXのユビキチン化には、NEDD4のE3リガーゼ活性が重要であること、またRUNXと結合するがE3リガーゼ活性を有さないNEDD4不活性型変異体によりRUNXのユビキチン化を阻害できることが明らかになった。
【0036】
また本発明において、RUNXと結合するがE3リガーゼ活性を有さないNEDD4不活性型変異体、および、NEDD4の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るsiRNA(small interfering RNA)が、骨形成のモデル細胞においてBMP刺激による骨分化を促進することを見出した。
【0037】
このことから、NEDD4の発現および/または機能を阻害することにより、骨分化を促進し、その結果、骨形成を促進できると考える。
【0038】
本発明は、これら知見により完成した。
【0039】
すなわち本発明は、RUNXとNEDD4とを共存させることを特徴とするRUNXのユビキチン化方法に関する。
【0040】
また本発明は、RUNXが、ヒトRUNX1、ヒトRUNX2およびヒトRUNX3から選ばれるいずれか1である前記RUNXのユビキチン化方法に関する。
【0041】
さらに本発明は、NEDD4を含んでなるRUNXのユビキチン化剤に関する。
【0042】
さらにまた本発明は、RUNXが、ヒトRUNX1、ヒトRUNX2およびヒトRUNX3から選らばれるいずれか1である前記RUNXのユビキチン化剤に関する。
【0043】
また本発明は、前記RUNXのユビキチン化方法を使用することを特徴とするRUNXの分解方法に関する。
【0044】
さらに本発明は、前記RUNXのユビキチン化剤を使用してRUNXを処理することを特徴とするRUNXの分解方法に関する。
【0045】
さらにまた本発明は、NEDD4を含んでなるRUNXの分解剤に関する。
【0046】
また本発明は、RUNXとNEDD4の結合を阻害することを特徴とするRUNXのユビキチン化阻害方法に関する。
【0047】
さらに本発明は、配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を使用することを特徴とする前記RUNXのユビキチン化阻害方法に関する。
【0048】
さらにまた本発明は、NEDD4の酵素活性を阻害することを特徴とするRUNXのユビキチン化阻害方法に関する。
【0049】
また本発明は、NEDD4の発現を阻害することを特徴とするRUNXのユビキチン化阻害方法に関する。
【0050】
さらに本発明は、RUNXが、ヒトRUNX1、ヒトRUNX2およびヒトRUNX3から選ばれるいずれか1である前記いずれかのRUNXのユビキチン化阻害方法に関する。
【0051】
さらにまた本発明は、配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなるRUNXのユビキチン化阻害剤に関する。
【0052】
また本発明は、RUNXが、ヒトRUNX1、ヒトRUNX2およびヒトRUNX3から選らばれるいずれか1である前記RUNXのユビキチン化阻害剤に関する。
【0053】
さらに本発明は、前記いずれかのRUNXのユビキチン化阻害方法を使用することを特徴とするRUNXの分解阻害方法に関する。
【0054】
さらにまた本発明は、前記RUNXのユビキチン化阻害剤を使用することを特徴とするRUNXの分解阻害方法に関する。
【0055】
また本発明は、配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなるRUNXの分解阻害剤に関する。
【0056】
さらに本発明は、NEDD4の発現および/または機能を阻害することを特徴とする骨形成促進方法に関する。
【0057】
さらにまた本発明は、配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を使用することを特徴とする骨形成促進方法に関する。
【0058】
また本発明は、NEDD4の発現を阻害し得るsiRNAを使用することを特徴とする骨形成促進方法に関する。
【0059】
さらに本発明は、配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなる骨形成促進剤に関する。
【0060】
さらにまた本発明は、NEDD4の発現を阻害し得るsiRNAを含んでなる骨形成促進剤に関する。
【0061】
また本発明は、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法であって、NEDD4および/またはRUNXとある化合物(被検化合物)とを接触させ、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を使用し、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がNEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害するか否かまたは促進するか否かを決定する工程を含む同定方法に関する。
【0062】
さらに本発明は、NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法であって、NEDD4および/またはRUNXとある化合物とを接触させ、次いで、NEDD4とRUNXの結合により生じるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を使用して、該シグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物がNEDD4とRUNXの結合を阻害するか否かまたは促進するか否かを決定する工程を含む同定方法に関する。
【0063】
さらにまた本発明は、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法であって、被検化合物がNEDD4の発現および/または機能を阻害するか否かを測定する工程を含む方法に関する。
【0064】
また本発明は、NEDD4の発現および/または機能を阻害することが明らかになった被検化合物が、骨形成を促進させ得るか否かを測定する工程をさらに含む、前記同定方法に関する。
【0065】
さらに本発明は、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法であって、NEDD4をコードするポリヌクレオチドと被検化合物とを接触させ、次いで、NEDD4を測定することにより、該被検化合物がNEDD4の発現を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法に関する。
【0066】
さらにまた本発明は、NEDD4の発現を阻害することが明らかになった被検化合物が、骨形成を促進させ得るか否かを測定する工程をさらに含む、前記同定方法に関する。
【0067】
また本発明は、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法であって、NEDD4および/またはRUNXと被検化合物とを接触させ、NEDD4によるNEDD4および/またはRUNXのユビキチン化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を使用して、該シグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該被検化合物がNEDD4によるNEDD4および/またはRUNXのユビキチン化を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法に関する。
【0068】
さらに本発明は、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害することが明らかになった被検化合物が、骨形成を促進させ得るか否かを測定する工程をさらに含む、前記同定方法に関する。
【0069】
さらにまた本発明は、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法であって、NEDD4および/またはRUNXと被検化合物とを接触させ、次いで、NEDD4とRUNXの結合により生じるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を使用して、該シグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該被検化合物がNEDD4とRUNXの結合を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法に関する。
【0070】
また本発明は、NEDD4とRUNXの結合を阻害することが明らかになった被検化合物が、骨形成を促進させ得るか否かを測定する工程をさらに含む、前記同定方法に関する。
【0071】
さらに本発明は、NEDD4、NEDD4をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび該組換えベクターを含有する形質転換体のうち少なくともいずれか1つ、およびRUNX、RUNXをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび該組換えベクターを含有する形質転換体のうち少なくともいずれか1つを含有してなる試薬キットに関する。
【0072】
さらにまた本発明は、前記RUNXのユビキチン化剤および/または前記RUNXの分解剤を有効量含んでなる、RUNXの機能および/または発現の亢進に起因する疾患の予防および/または治療剤に関する。
【0073】
また本発明は、前記RUNXのユビキチン化阻害剤および/または前記RUNXの分解阻害剤を有効量含んでなる、RUNXの機能および/または発現の低下に起因する疾患の予防および/または治療剤に関する。
【0074】
さらに本発明は、前記RUNXのユビキチン化方法、前記RUNXのユビキチン化剤、前記RUNXの分解方法、および前記RUNXの分解剤のうち少なくともいずれか1の方法または剤を使用することを特徴とするRUNXの機能および/または発現の亢進に起因する疾患の予防および/または治療方法に関する。
【0075】
さらにまた本発明は、前記いずれかのRUNXのユビキチン化阻害方法、前記RUNXのユビキチン化阻害剤、前記RUNXの分解阻害方法、および前記RUNXの分解阻害剤のうち少なくともいずれか1の方法または剤を使用することを特徴とするRUNXの機能および/または発現の低下に起因する疾患の予防および/または治療方法に関する。
【0076】
また本発明は、前記骨形成促進剤を有効量含んでなる、骨損失を伴う疾患の予防および/または治療剤に関する。
【0077】
さらに本発明は、前記骨形成促進剤および前記骨形成促進方法のうち少なくともいずれか1の剤または方法を使用することを特徴とする骨損失を伴う疾患の予防および/または治療方法に関する。
【発明の効果】
【0078】
本発明により、RUNXのユビキチン化方法および分解方法を提供できる。例えば、RUNXとNEDD4とを共存させることを特徴とするRUNXのユビキチン化方法および分解方法を提供できる。また、RUNXのユビキチン化剤および分解剤を提供できる。さらに本発明により、NEDD4によるRUNXのユビキチン化および分解、の阻害方法を提供できる。例えば、NEDD4とRUNXの結合、NEDD4の酵素活性、およびNEDD4の発現のうちの少なくとも1を阻害することを特徴とする、RUNXのユビキチン化および分解、の阻害方法を提供できる。また、NEDD4によるRUNXのユビキチン化の阻害剤およびNEDD4によるRUNXの分解の阻害剤を提供できる。さらに、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法、並びにNEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法を提供できる。また、NEDD4、NEDD4をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターおよび該ベクターを含有する形質転換体のうちの少なくともいずれか1つと、RUNX、RUNXをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有するベクターおよび該ベクターを含有する形質転換体のうちの少なくともいずれか1つとを含んでなる試薬キットを提供できる。さらに、RUNXの異常に起因する疾患、例えばRUNXの機能および/または発現の亢進や低下に起因する疾患、具体的には癌疾患等の予防および/または治療剤、並びに予防および/または治療方法を提供できる。
【0079】
また本発明により、NEDD4の発現および/または機能を阻害することを特徴とする骨形成促進方法および骨形成促進剤を提供できる。さらに本発明により、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法を提供できる。また、骨損失を伴う疾患の予防および/または治療剤、並びに予防および/または治療方法を提供できる。
【0080】
したがって、本発明により、RUNXのユビキチン化を、例えばNEDD4を使用して実施できる。また、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を促進する化合物の同定方法により取得された化合物を使用して促進できる。NEDD4によるRUNXのユビキチン化を促進することにより、RUNXの分解を促進できるため、RUNXの増加やその機能の亢進に起因する疾患の予防および/または治療が期待できる。
【0081】
また、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を、例えばRUNXに結合するがE3リガーゼ活性を有さない不活性型NEDD4変異体を使用してNEDD4とRUNXとの結合を阻害することにより、阻害できる。また、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物の同定方法により取得された化合物を使用して阻害できる。NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害することにより、RUNXの分解を阻害できるため、RUNXの低減やその機能の低減に起因する疾患の予防および/または治療が期待できる。
【0082】
さらに、骨形成、例えばBMP−2刺激による骨形成を、例えばRUNXに結合するがE3リガーゼ活性を有さない不活性型NEDD4変異体、または、NEDD4の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るsiRNAを使用して促進できる。また、骨形成、例えばBMP−2刺激による骨形成を、本発明に係る骨形成を促進させ得る化合物の同定方法により取得された化合物を使用して促進できる。これら骨形成を促進させ得る化合物を使用することにより、骨損失を伴う疾患の予防および/または治療が期待できる。
【0083】
このように、NEDD4または短鎖型NEDD4によるRUNXのユビキチン化を調節することにより、RUNXの分解を調節でき、その結果、RUNXの機能、例えば転写因子としての機能を調節できる。RUNXの機能を調節することにより、RUNXの異常に起因する疾患の予防および/または治療が期待できる。また、NEDD4の発現および/または機能を阻害することにより、骨形成を促進でき、骨損失を伴う疾患の予防および/または治療が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0084】
以下、本発明について発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。
本明細書においては単離された若しくは合成の完全長蛋白質;単離された若しくは合成の完全長ポリペプチド;または単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドを意味する総称的用語として「蛋白質」という用語を使用することがある。ここで蛋白質、ポリペプチド若しくはオリゴペプチドはペプチド結合または修飾されたペプチド結合により互いに結合している2個以上のアミノ酸を含むものである。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字または3文字にて表記することがある。
【0085】
本発明においては、RUNX3がHECT型E3リガーゼであるNEDD4と相互作用する可能性をインシリコで予測し、さらにその可能性を実験的に検証した。その結果、(1)NEDD4がRUNX3と細胞内で結合すること、(2)NEDD4によりRUNX3が細胞内でユビキチン化されること、および(3)NEDD4によりRUNX3の安定性が低下することを実証した。さらに、(4)NEDD4がRUNX1と細胞内で結合すること、(5)NEDD4によりRUNX1がユビキチン化されること、および(6)NEDD4によりRUNX1の安定性が低下することを実証した。また、(7)癌細胞では、N末端側のアミノ酸残基が欠失している短鎖型NEDD4が発現していることを見出し、(8)短鎖型NEDD4とRUNX1、RUNX2およびRUNX3とがそれぞれ結合すること、および(9)短鎖型NEDD4によりRUNX1、RUNX2およびRUNX3がユビキチン化されることを実証した。
【0086】
本実証結果から、NEDD4がRUNXと結合してRUNXのユビキチン化を触媒し、その結果ユビキチン化されたRUNXがユビキチンプロテアソームシステムにより分解されてその安定性が低下すると発明者らは考えている。
【0087】
RUNXの分解が、NEDD4が関与するユビキチンプロテアソームシステムにより調節されることにより、RUNXの機能、例えば転写因子としての機能が調節され、その結果、RUNXが関与する様々な生理現象、例えば細胞周期やシグナル伝達等が調節される。
【0088】
したがって、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を調節することにより、RUNXの分解を調節でき、それによりRUNXの機能、例えば転写因子としての機能を調節できる。RUNXの機能を調節することにより、RUNXの異常に起因する疾患を予防および/または治療できる。
【0089】
「ユビキチン化」とは、1分子の蛋白質に1以上のユビキチンが共有結合することによる、ユビキチンによる該蛋白質の修飾を意味する。ユビキチンは、標的蛋白質内のリジン残基に共有結合する。蛋白質のユビキチン化と同様、標的蛋白質内のリジン残基に結合したユビキチン内のリジン残基に、別のユビキチンがさらに共有結合することにより、蛋白質には複数のユビキチンが鎖状に結合する。
【0090】
「ユビキチン」は、真核生物に普遍的に存在するアミノ酸76個からなる蛋白質であり、進化的に保存性が高い。ユビキチンは、蛋白質分解機構として知られているユビキチンプロテアソームシステムにおいて、標的蛋白質に鎖状に共有結合することにより、蛋白質分解の標識として働く。すなわち、蛋白質がユビキチン化されると、該蛋白質に鎖状に結合したユビキチンが該蛋白質の分解の標識となり、該標識を認識するプロテアソームにより該蛋白質が分解される。
【0091】
標的蛋白質へのユビキチンの結合はユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)およびユビキチンリガーゼ(E3)の連続的な触媒作用で起こる。これら酵素の中で、ユビキチンリガーゼ(E3)が基質選択性を担う酵素として重要である。ユビキチンリガーゼ(E3)は、E3リガーゼとも称する。
【0092】
ここで「標的蛋白質」とは、ユビキチン化される蛋白質を意味する。「基質」とは、酵素によって触媒作用を受ける分子を意味する。
【0093】
「ユビキチンプロテアソームシステム」は、選択的かつ能動的な蛋白質分解機構であり、細胞周期やシグナル伝達等の様々な生理現象を調節し、それにより蛋白質や細胞の恒常性維持に関与している(非特許文献19)。ユビキチン化された標的蛋白質は、該蛋白質に鎖状に結合したユビキチンを認識するプロテアソームにより分解される。ユビキチンプロテアソームシステムの異常は、標的蛋白質の過剰な分解による蛋白質の欠乏、あるいは標的蛋白質の分解阻害による蛋白質の蓄積を招き、それにより様々な疾患を引き起こす。具体的には例えば、癌疾患におけるユビキチンプロテアソームシステムの関与が報告されている(非特許文献20)。
【0094】
「NEDD4」は、蛋白質分解機構であるユビキチンプロテアソームシステムに関与するHECT型E3リガーゼである。NEDD4は、膜脂質との結合に関与するC2ドメイン、基質との結合に関与する4つのWWドメイン、およびユビキチン化の触媒ドメインでありE3リガーゼ活性を示すHECTドメインを有する(非特許文献18)。
【0095】
NEDD4が関与する蛋白質ユビキチン化において、NEDD4の基質として、例えばRUNXを挙げることができる。また、E3リガーゼの多くが自己ユビキチン化作用を有することから、NEDD4の基質として、自己蛋白質を挙げることができる。
【0096】
本明細書において、単にNEDD4と称するときは、E3リガーゼ活性を有する野生型のNEDD4を意味する。
【0097】
「E3リガーゼ活性」とは、蛋白質のユビキチン化において、標的蛋白質を基質として認識し、ユビキチン活性化酵素(E1)により活性化されユビキチン結合酵素(E2)に結合したユビキチンを、標的蛋白質に結合させる作用を意味する。
【0098】
NEDD4のE3リガーゼ活性は、具体的には例えば、RUNXのユビキチン化において、RUNXを基質として認識し、そして、ユビキチン活性化酵素(E1)により活性化されユビキチン結合酵素(E2)に結合したユビキチンをRUNXに結合させる、NEDD4の作用である。また、NEDD4のE3リガーゼ活性とは、具体的には例えば、自己蛋白質のユビキチン化において、自己蛋白質を基質として認識し、そして、ユビキチン活性化酵素(E1)により活性化されユビキチン結合酵素(E2)に結合したユビキチンを自己蛋白質に結合させる、NEDD4の作用である。
【0099】
E3リガーゼ活性の測定は、E3リガーゼによる標的蛋白質へのユビキチンの結合を指標にして実施できる。標的蛋白質へのユビキチンの結合は、ユビキチン化された標的蛋白質の検出により測定できる。ユビキチン化された標的蛋白質の検出は、公知のウエスタンブロッティング等の方法により実施できる(実施例3、5、8および9参照)。
【0100】
NEDD4のE3リガーゼ活性の測定は、具体的には例えば、基質としてRUNXを用い、ユビキチン化されたRUNXを検出することにより実施できる。または、基質として自己蛋白質を用い、ユビキチン化された自己蛋白質を検出することによっても実施できる。
【0101】
NEDD4は、好ましくは例えば、配列番号1に記載の塩基配列で表されるヒト由来のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質である。配列番号1に記載の塩基配列で表されるヒト由来のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質は、好ましくは配列番号2に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質である。配列番号2に記載のアミノ酸配列は、Swiss plotデータベースにP46934として登録されている。
【0102】
NEDD4は、上記蛋白質に制限されず、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と配列相同性を有し、かつ該蛋白質と同様の構造的特徴および生物学的機能を有する蛋白質である限りにおいていずれの蛋白質も包含される。また、NEDD4をコードする遺伝子は、上記ポリヌクレオチドに制限されず、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と同様の構造的特徴や生物学的機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドである限りにおいていずれのポリヌクレオチドも包含される。
【0103】
配列相同性は、通常、アミノ酸配列または塩基配列の全体で50%以上、好ましくは少なくとも70%であることが適当である。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
【0104】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と配列相同性を有する蛋白質には、該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列において、1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜数個のアミノ酸残基の欠失、置換、付加または挿入といった変異が存するアミノ酸配列で表される蛋白質が含まれる。また、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと配列相同性を有するポリヌクレオチドには、該塩基配列において、1個以上、例えば1〜300個、好ましくは1〜90個、より好ましくは1〜60個、さらに好ましくは1〜30個、特に好ましくは1〜数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるポリヌクレオチドが含まれる。変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有する蛋白質あるいは該変異を有するポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質が、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と同様の構造的特徴および生物学的機能を有するものである限り特に制限されない。変異を有する蛋白質およびポリヌクレオチドは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。
【0105】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の構造的特徴は、例えば、膜脂質との結合に関与するC2ドメイン、基質との結合に関与するWWドメイン、およびユビキチン化の触媒ドメインでありE3リガーゼ活性を示すHECTドメインである。配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と同様の構造的特徴とは、該蛋白質に存在する上記ドメインと配列相同性を有しかつ同様の機能を有するドメインを意味する。ドメインの配列相同性は、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
【0106】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の生物学的機能は、例えば、E3リガーゼ活性である。
【0107】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と配列相同性を有し、かつ該蛋白質と同様の構造的特徴および生物学的機能を有する蛋白質は、好ましくは例えば、配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質である。配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質は、好ましくは配列番号4に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質である。配列番号3に記載の塩基配列および配列番号4に記載のアミノ酸配列は、NCBIデータベースにそれぞれアクセッションナンバーNM_006154およびNP_006145として登録されている。
【0108】
配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質のN末端側第1番目から第100番目の100個のアミノ酸残基が欠失した蛋白質である。言い換えれば、配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質のN末端側第1番目から第100番目の100個のアミノ酸残基が欠失した蛋白質である。
【0109】
配列番号3に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質を、「短鎖型NEDD4」と称することがある。それに対し、配列番号1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質を「全長NEDD4」と称することがある。
【0110】
「短鎖型NEDD4」は、全長NEDD4においてそのN末端側のアミノ酸残基が欠失しているが、全長NEDD4と同様、C2ドメイン、WWドメインおよびHECTドメインを有し、HECT型E3リガーゼとして機能する蛋白質である。
【0111】
本明細書において、単に短鎖型NEDD4と称するときは、E3リガーゼ活性を有する短鎖型NEDD4を意味する。
【0112】
「RUNX」は、Runtドメインを有することを特徴とする蛋白質であり、PEBP2β/CBFβとヘテロ二量体を形成し、転写因子として作用する。RUNXには数々のファミリー蛋白質が知られている。哺乳動物では3種類のファミリー蛋白質、すなわちRUNX1、RUNX2およびRUNX3が知られている(非特許文献1および2)。ヒトRUNX3とヒトRUNX1およびヒトRUNX2との相同性は、アミノ酸レベルでそれぞれ57%および54%である。
【0113】
本発明においてRUNXは、RUNX1、RUNX2およびRUNX3のいずれであってもよい。
【0114】
RUNX1は、好ましくは例えば、配列番号5に記載の塩基配列で表されるヒト由来のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質である。配列番号5に記載の塩基配列で表されるヒト由来のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質は、好ましくは配列番号6に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質である。配列番号5に記載の塩基配列および配列番号6に記載のアミノ酸配列は、NCBIデータベースにそれぞれアクセッションナンバーNM_001754およびNP_001745として登録されている。
【0115】
RUNX2は、好ましくは例えば、配列番号7に記載の塩基配列で表されるヒト由来のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質である。配列番号7に記載の塩基配列で表されるヒト由来のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質は、好ましくは配列番号8に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質である。配列番号7に記載の塩基配列および配列番号8に記載のアミノ酸配列は、NCBIデータベースにそれぞれアクセッションナンバーNM_004348およびNP_004339として登録されている。
【0116】
RUNX3は、好ましくは例えば、配列番号9に記載の塩基配列で表されるヒト由来のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質である。配列番号9に記載の塩基配列で表されるヒト由来のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質は、好ましくは配列番号10に記載のアミノ酸配列で表されるヒト由来の蛋白質である。配列番号9に記載の塩基配列および配列番号10に記載のアミノ酸配列は、NCBIデータベースにそれぞれアクセッションナンバーNM_004350およびNP_004341として登録されている。
【0117】
RUNXは、上記蛋白質に制限されず、配列番号5、7および9のいずれか1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と配列相同性を有し、かつ該蛋白質と同様の構造的特徴および生物学的機能を有する蛋白質である限りにおいていずれの蛋白質も包含される。また、RUNXをコードする遺伝子は、上記ポリヌクレオチドに制限されず、配列番号5、7および9のいずれか1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと配列相同性を有し、かつ該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と同様の構造的特徴や生物学的機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドである限りにおいていずれのポリヌクレオチドも包含される。
【0118】
配列相同性は、通常、アミノ酸配列または塩基配列の全体で50%以上、好ましくは少なくとも70%であることが適当である。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
【0119】
配列番号5、7および9のいずれか1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と配列相同性を有する蛋白質には、該ポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列において、1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜数個のアミノ酸残基の欠失、置換、付加または挿入といった変異が存するアミノ酸配列で表される蛋白質が含まれる。また、配列番号5、7および9のいずれか1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドと配列相同性を有するポリヌクレオチドには、該塩基配列において、1個以上、例えば1〜300個、好ましくは1〜90個、より好ましくは1〜60個、さらに好ましくは1〜30個、特に好ましくは1〜数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるポリヌクレオチドが含まれる。変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有する蛋白質あるいは該変異を有するポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質が、配列番号5、7および9のいずれか1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質と同様の構造的特徴および生物学的機能を有するものである限り特に制限されない。変異を有する蛋白質およびポリヌクレオチドは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。
【0120】
配列番号5、7および9のいずれか1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の構造的特徴は、例えばRuntドメインである。配列番号5、7および9のいずれか1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の構造的特徴とは、該蛋白質に存在するRuntドメインと配列相同性を有しかつ同様の機能を有するRuntドメインを意味する。Runtドメインの配列相同性は、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
【0121】
配列番号5、7および9のいずれか1に記載の塩基配列で表されるポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質の生物学的機能は、例えば転写因子活性である。
【0122】
「転写因子活性」とは、DNAからRNAを合成する転写反応において、該DNA内の特徴的な塩基配列を認識して結合し、直接または間接に転写装置(真核生物における基本転写因子群を含む)に作用して、転写を正または負に調節する作用を意味する。
【0123】
転写因子活性の測定は、公知の転写活性測定方法を使用して実施できる。RUNXはPEBP2β/CBFβと二量体を形成して転写因子として様々な遺伝子の発現に関与している(非特許文献2)。RUNXの転写因子活性の測定は、例えば、この二量体が転写因子として作用する遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー部位の下流に、該遺伝子の代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターをトランスフェクションした細胞、例えば真核細胞等とRUNXとを接触させ、レポーター遺伝子の発現の有無および変化を測定することにより実施できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に使用されている遺伝子を使用できる。例えば、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素活性を有する遺伝子を使用できる。レポーター遺伝子の発現の測定は、その遺伝子産物自体または該遺伝子産物の活性を検出することにより実施できる。例えば、上記のようなレポーター遺伝子の発現は、その遺伝子産物自体または該遺伝子産物の酵素活性を検出することにより測定できる。
【0124】
(RUNXのユビキチン化方法、分解方法、ユビキチン化剤および分解剤)
本発明の一態様は、NEDD4を使用することを特徴とするRUNXのユビキチン化方法、および該方法を使用することを特徴とするRUNXの分解方法に関する。
【0125】
また、本発明の一態様は、NEDD4を含んでなるRUNXのユビキチン化剤およびRUNXの分解剤に関する。
【0126】
さらに、本発明の一態様は、RUNXのユビキチン化剤を使用してRUNXを処理することを特徴とするRUNXの分解方法に関する。
【0127】
NEDD4を使用することを特徴とするRUNXのユビキチン化方法および該方法を使用することを特徴とするRUNXの分解方法は、NEDD4とRUNXとを共存させることにより実施できる。
【0128】
NEDD4とRUNXとの共存は、インビボ(in vivo)およびインビトロ(in vitro)のいずれの条件においても実施できる。
【0129】
NEDD4とRUNXとの共存は好ましくは細胞において実施できる。具体的には、RUNXを発現していることが認められた真核細胞または培養細胞株を使用し、該細胞または細胞株にNEDD4をコードするポリヌクレオチドを含むベクターをトランスフェクションしてNEDD4とRUNXとを共存させることにより、RUNXのユビキチン化方法および該方法を使用することを特徴とするRUNXの分解方法を実施できる(実施例3、5、8および9参照)。また、RUNXを発現していない真核細胞または培養細胞株を使用し、該細胞または細胞株にNEDD4をコードするポリヌクレオチドを含むベクターおよびRUNXをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを共にトランスフェクションしてNEDD4とRUNXとを共存させることにより、RUNXのユビキチン化方法および該方法を使用することを特徴とするRUNXの分解方法を実施できる。
【0130】
NEDD4とRUNXとを細胞において共存させてRUNXのユビキチン化方法および該方法を使用することを特徴とするRUNXの分解方法を実施するとき、上記のようにNEDD4とRUNXとを発現しているまたは発現させた細胞に、さらにユビキチンをコードするポリヌクレオチドを含むベクターをトランスフェクションすることができる。
【0131】
NEDD4とRUNXとの共存をインビトロで実施する場合、標的蛋白質のユビキチン化反応にはNEDD4以外に、ユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)およびユビキチンが必要とされるため、これら酵素およびユビキチンをNEDD4と共に使用することが適当である。また、NEDD4によるRUNXの分解方法を実施する場合、ユビキチン化された標的蛋白質の分解にはプロテアソームが関与しているため、プロテアソームをこれら酵素やユビキチンと共に使用することが好ましい。プロテアソームは、プロテアソームを有する細胞から調製できる。好ましい細胞として、例えば、ヒト赤血球を使用できる。プロテアソームの調製は、エマーリッチらの方法(「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2000年、第275巻、p.21140−21148)に従って実施できる。あるいは、市販のプロテアソームを使用することもできる。例えば、アフィニティーリサーチプロダクツ社(AFFINITI Research Products Ltd.、UK)からプロテアソームを購入できる。
【0132】
ユビキチン化の検出は、ユビキチン化された標的蛋白質の検出により測定できる。ユビキチン化された標的蛋白質の検出は、公知のウエスタンブロッティング等の方法により実施できる(実施例3、5、8および9参照)。標的蛋白質のユビキチン化反応を行なう前と比較して、ユビキチン化反応を行った後に、分子量が増加した標的蛋白質が検出された場合、該標的蛋白質はユビキチン化されたと判定できる。
【0133】
蛋白質の分解の検出は、公知のウエスタンブロッティング等の方法により実施できる(実施例4、6、8および9参照)。標的蛋白質のユビキチン化反応を行なう前と比較して、ユビキチン化反応を行った後に、標的蛋白質量が低減した場合、該標的蛋白質は分解されたと判定できる。
【0134】
RUNXのユビキチン化剤およびRUNXの分解剤は、NEDD4を含んでなることを特徴とする。本発明に係るRUNXのユビキチン化剤を使用して、RUNXのユビキチン化方法およびRUNXの分解方法を実施できる。
【0135】
(RUNXのユビキチン化阻害方法、分解阻害方法、ユビキチン化阻害剤および分解阻害剤)
本発明の一態様は、RUNXのユビキチン化阻害方法、および該阻害方法を使用することを特徴とするRUNXの分解阻害方法に関する。RUNXのユビキチン化阻害方法、および該阻害方法を使用することを特徴とするRUNXの分解阻害方法は、インビボおよびインビトロのいずれの条件においても実施できる。
【0136】
また、本発明の一態様は、RUNXのユビキチン化阻害剤、および分解阻害剤に関する。
【0137】
さらに、本発明の一態様は、RUNXのユビキチン化阻害剤を使用することを特徴とするRUNXの分解阻害方法に関する。
【0138】
RUNXのユビキチン化阻害方法は、RUNXとNEDD4の結合、NEDD4の酵素活性、およびNEDD4の発現のうちの少なくとも1を阻害することにより実施できる。RUNXのユビキチン化が阻害されれば、RUNXがプロテアソームにより認識されなくなるため、RUNXのユビキチンプロテアソームシステムによる分解が阻害できる。
【0139】
具体的には、RUNXのユビキチン化阻害方法は、例えばRUNXとNEDD4との結合を阻害する化合物、NEDD4の酵素活性を阻害する化合物、およびNEDD4の発現を阻害する化合物のうちの少なくとも1を使用することにより実施できる。ここでは、このような阻害効果を有する化合物(例えば競合阻害効果を有するポリペプチド類、抗体および低分子化合物等を挙げられる)を阻害剤と称する。
【0140】
「RUNXとNEDD4の結合」とは、RUNXとNEDD4とが、複合体を形成するように、水素結合、疎水結合または静電的相互作用等の非共有結合により相互作用することを意味する。ここでの結合とは、RUNXとNEDD4がその一部分において結合すれば足りる。例えば、RUNXまたはNEDD4を構成するアミノ酸の中に、RUNXとNEDD4との結合に関与しないアミノ酸が含まれていてもよい。
【0141】
RUNXとNEDD4との結合の測定は、ウエスタンブロッティング、免疫沈降法、プルダウン法、ツーハイブリッド法および蛍光共鳴エネルギー転移法等の自体公知の方法により実施できる。これらの方法は、組合わせて利用することができる。
【0142】
RUNXとNEDD4の結合を阻害する化合物は、好ましくは当該結合を特異的に阻害する化合物、より好ましくは当該結合を特異的に阻害する低分子量化合物である。RUNXとNEDD4の結合を特異的に阻害するとは、当該結合を強く阻害するが、他の蛋白質間結合は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。
【0143】
RUNXとNEDD4の結合を阻害する化合物は、例えば、NEDD4の不活性型変異体(以下、不活性型NEDD4と称することがある)であり得る。好ましい不活性型NEDD4として、RUNXとの結合能を有するが、E3リガーゼ活性を有さない不活性型NEDD4を使用できる。このような不活性型NEDD4は、野生型のNEDD4と拮抗してRUNXと結合することにより、RUNXに対するNEDD4の作用を阻害できる。したがって、このような不活性型NEDD4は、RUNXのユビキチン化を阻害できる。不活性型NEDD4は、NEDD4のアミノ酸配列に基づいて所望の蛋白質を設計して公知の方法で製造し、取得した蛋白質の中からRUNXとNEDD4の結合を阻害するものを、後述の化合物の同定方法に記載の方法を使用して選別することにより取得できる。
【0144】
「NEDD4の不活性型変異体」とは、NEDD4に、アミノ酸の欠失、置換、付加または挿入等の変異が導入されたNEDD4変異体であって、野生型のNEDD4と比較してE3リガーゼ活性が減弱したまたは消失したNEDD4変異体を意味する。不活性型NEDD4は、天然に存在するものであってもよく、人工的に変異を導入したものであってもよい。
【0145】
不活性型NEDD4における変異部位は、例えば、NEDD4のアミノ酸配列においてNEDD4のE3リガーゼ活性に必要な部位である。具体的には本部位は、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第967番目のシステイン残基である。該システイン残基は、配列番号4に記載のアミノ酸配列においては第867番目のシステイン残基に相当する。該システイン残基は、ユビキチンが結合するE3リガーゼ活性の活性部位であり、NEDD4のE3リガーゼ活性に必須なアミノ酸残基である。
【0146】
不活性型NEDD4は、好ましくは例えば、配列番号11または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質である。配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において第967番目のシステイン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列で表される蛋白質である。配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質は、配列番号4に記載のアミノ酸配列において第867番目のシステイン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列で表される蛋白質である(以下、不活性型短鎖NEDD4と称することがある)。
【0147】
上記不活性型NEDD4はいずれも、RUNXと結合するがE3リガーゼ活性を有さず、RUNXをユビキチン化しない(実施例3、4、5、6、8および9参照)。このことから、これら不活性型変異体はいずれも、NEDD4または短鎖型NEDD4とRUNXとの結合を拮抗的に阻害し、その結果、NEDD4または短鎖型NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害し得ると発明者らは考えている。
【0148】
また、RUNXとNEDD4の結合を阻害する化合物は、RUNXとNEDD4とが結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドであり得る。このようなポリペプチドは、蛋白質間の結合を競合的に阻害できる。このようなポリペプチドは、RUNXまたはNEDD4のアミノ酸配列から設計し、自体公知のペプチド合成法により合成したものから、RUNXとNEDD4の結合を阻害するものを選択することにより取得できる。このように特定されたポリペプチドに、1〜数個のアミノ酸残基の欠失、置換、付加または挿入等の変異を導入したものも本発明の範囲に包含される。このような変異を導入したポリペプチドは、RUNXとNEDD4の結合を阻害するものが好ましい。変異を有するポリペプチドは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。これらポリペプチドは、後述する一般的な製造方法により取得できる。
【0149】
また、RUNXとNEDD4の結合を阻害する化合物は、RUNXまたはNEDD4を認識する抗体であって、RUNXとNEDD4の結合を阻害する抗体およびそのフラグメントであり得る。かかる抗体は、RUNXまたはNEDD4自体、またはこれらの断片、好ましくはRUNXとNEDD4が結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として自体公知の抗体作製法により取得できる。
【0150】
RUNXとNEDD4の結合を阻害する化合物はさらにまた、RUNXまたはNEDD4を特異的に認識するアプタマーであって、RUNXとNEDD4の結合を阻害するアプタマーであり得る。アプタマーは、核酸アプタマーあるいはペプチドアプタマーであることができ、かかるアプタマーは、公知の方法(例えば、ハーマン(Hermann T.)ら、「サイエンス(Science)」、2000年、第287巻、第5454号、p.820−825;バーグスタラー(Burgstaller P.)ら、「カレント オピニオン イン ドラッグ ディスカバリー アンド ディベロプメント(Current Opinion in Drug Discovery and Development)」、2002年、第5巻、第5号、p.690−700;およびホップ−セイラー(Hoppe−Seyler F.)ら、「カレント モレキュラー メディシン(Current Molecular Medicine)」、2004年、第4巻、第5号、p.529−538)に記載された方法)を使用して取得できる。
【0151】
「NEDD4の酵素活性」とは、NEDD4のE3リガーゼ活性を意味する。
【0152】
NEDD4の酵素活性を阻害する化合物は、後述する化合物の同定方法を使用して取得できる。NEDD4の酵素活性を阻害する化合物は、例えば、NEDD4の酵素活性を阻害する抗体またはそのフラグメントであってもよいし、NEDD4に特異的に結合しその活性を阻害する作用を有するアプタマーであることもできる。抗体あるいはアプタマーは上述の方法で取得でき、これらのNEDD4の酵素活性の阻害作用を後述する化合物の同定方法に記載の方法で測定することにより、NEDD4の酵素活性を阻害する作用を有する抗体あるいはアプタマーを取得できる。
【0153】
「NEDD4の発現」とは、NEDD4をコードするDNAの遺伝子情報がmRNAに転写されること、または、mRNAに転写され、かつ蛋白質(NEDD4)のアミノ酸配列として翻訳されることをいう。
【0154】
NEDD4の発現を阻害する化合物は、後述する化合物の同定方法を使用して取得できる。NEDD4の発現を阻害する化合物は、例えば、NEDD4遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドであり得る。また、NEDD4の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るsiRNA(small interfering RNA)を、RUNXとNEDD4の発現を阻害する化合物として使用できる。
【0155】
RUNXのユビキチン化阻害剤およびRUNXの分解阻害剤は、RUNXとNEDD4の結合を阻害する化合物、NEDD4の酵素活性の阻害する化合物、およびNEDD4の発現を阻害する化合物のうちいずれか1を少なくとも含んでなる。好ましくは、本発明に係るRUNXのユビキチン化阻害剤およびRUNXの分解阻害剤は、配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を有効量含んでなる。本発明に係るRUNXのユビキチン化阻害剤を使用して、RUNXのユビキチン化阻害方法およびRUNXの分解阻害方法を実施できる。
【0156】
(医薬組成物)
本発明の一態様は、本発明に係るRUNXのユビキチン化剤および/または本発明に係るRUNXの分解剤を有効成分としてその有効量含んでなる医薬組成物に関する。また、本発明の別の一態様は、本発明に係るRUNXのユビキチン化阻害剤および/または本発明に係るRUNXの分解阻害剤を有効成分としてその有効量含んでなる医薬組成物に関する。
【0157】
本発明に係るRUNXのユビキチン化剤、本発明に係るRUNXの分解剤、並びに該ユビキチン化剤および/または該RUNXの分解剤を有効量含んでなる医薬組成物は、RUNXのユビキチン化および該ユビキチン化によるRUNXの分解の低減に起因する疾患の予防および/または治療剤として使用できる。これら薬剤および医薬組成物を使用して、このような疾患の予防および/または治療方法を実施できる。
【0158】
本発明に係るRUNXのユビキチン化阻害剤、本発明に係るRUNXの分解阻害剤、並びに該ユビキチン化阻害剤および/または該RUNXの分解阻害剤を有効量含んでなる医薬組成物は、RUNXのユビキチン化および該ユビキチン化によるRUNXの分解の亢進に起因する疾患の予防および/または治療剤として使用できる。これら薬剤および医薬組成物を使用して、このような疾患の予防および/または治療方法を実施できる。
【0159】
RUNX1は造血細胞の分化に関与しており、白血病の原因遺伝子である(非特許文献4および5)。具体的には、RUNX1機能の消失が白血病の発症に関与することを示す報告がある(非特許文献6および7)。このことから、RUNX1の低減が白血病等の癌疾患の発症や増悪に関与すると発明者らは考えている。
【0160】
NEDD4によるRUNX1のユビキチン化および該ユビキチン化によるRUNX1の分解を阻害することにより、RUNX1の低減を阻害でき、その結果、白血病等の癌疾患を予防および/または治療できると発明者らは考えている。
【0161】
RUNX2は骨形成に関わる重要な転写因子であり、軟骨細胞の分化・成熟、骨芽細胞の分化、骨髄形成に必須である(非特許文献26および27)。例えば、RUNX2のノックアウトマウスでは骨形成が認められないことから、その欠損は骨形成不全を引き起こすと考えられる(非特許文献8)。RUNX2は細胞内で、BPM刺激による骨形成遺伝子の発現誘導に関与する転写因子Smad1と結合することから、BMP刺激を介した骨形成シグナルに関与していると考えられている(非特許文献28)。また、RUNX2は骨細胞の分化に作用する他、骨基質遺伝子群(Col1a1、Col1a2、オステオポンチン(osteopontin)、オステオカルシン(osteocalcin)、骨シアロプロテイン(bone sialoprotein)等)の発現を活性化させることが明らかにされている(非特許文献29)。これらから、RUNX2の低減は骨形成の異常、例えば骨損失に関与すると発明者らは考えている。
【0162】
実際、BPM−2で刺激した骨形成モデル細胞において、RUNXと結合するがE3リガーゼ活性を有さない不活性型NEDD4、または、NEDD4の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るsiRNAを使用して、NEDD4の発現および/または機能を阻害することにより、骨形成の指標であるアルカリホスファターゼ活性が上昇することを本発明において見出した(実施例10および11参照)。骨芽細胞膜に存在する骨型アルカリホスファターゼは、早期の骨芽細胞の活性、例えば前骨芽細胞が骨芽細胞へ分化し、さらにその増殖期から基質合成期に移行するといった活性を反映している。すなわち、NEDD4の発現および/または機能の阻害は、BPM−2刺激による骨芽細胞の骨分化を促進すると考えることができる。
【0163】
BMPは生体内で未分化間葉系幹細胞を軟骨細胞、骨芽細胞に分化、増殖させ骨組織を誘導するサイトカインである。BMP−2は骨折治癒過程の初期に発現することが確認されており、骨修復における一連のカスケードの進行に関与している。また、BMPを筋肉内に作用させると異所性に骨を形成し、骨表面に作用させると仮骨様の骨新生を生じる。これらの事実から、骨折や骨欠損疾患、歯根手術等の骨組織の修復にBMP−2を使用することが考えられている(チェン(Chen,D.)ら、「グロース ファクター(Growth Factor)」、2004年、第22巻、第4号、p.233−241)。また、骨粗しょう症は、骨芽細胞機能の低下と骨吸収の亢進により骨収支が不均衡となり、骨量が減少し骨折を来たしやすくなる疾患であるため、BMP−2シグナルの増強は、本疾患に対し骨芽細胞機能の回復と骨折治癒の促進の両面を補強すると考えられる。
【0164】
したがって、NEDD4の発現および/または機能を阻害することにより、骨芽細胞の分化および骨形成を促進することができ、さらに、骨形成の異常を伴う疾患、例えば骨損失疾患、より具体的には例えば骨粗しょう症を予防および/または治療できると発明者らは考えている。
【0165】
本知見に基づく本発明の一態様は、NEDD4の発現および/または機能を阻害することを特徴とする骨形成促進剤に関する。本発明に係る骨形成促進剤は、NEDD4の酵素活性の阻害する化合物、およびNEDD4の発現を阻害する化合物のうちいずれか1を少なくとも含んでなる。また、本発明に係る骨形成促進剤は、RUNXとNEDD4の結合を阻害する化合物含んでなる骨形成促進剤であり得る。好ましくは、本発明に係る骨形成促進剤は、RUNXと結合するがE3リガーゼ活性を有さない不活性型NEDD4、例えば、配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を有効量含んでなる。また、本発明に係る骨形成促進剤は、NEDD4の発現を阻害し得るsiRNAを含んでなる骨形成促進剤であり得る。本発明に係るRUNXの骨形成促進剤を使用して骨形成促進方法を実施できる。
【0166】
また本発明の一態様は、本発明に係る骨形成促進剤を有効成分としてその有効量含んでなる医薬組成物に関する。このような医薬組成物は、骨形成の異常、例えば骨損失疾患、より具体的には例えば骨粗しょう症の予防および/または治療剤として使用できる。これら薬剤および医薬組成物を使用して、このような疾患の予防および/または治療方法を実施できる。
【0167】
本発明においては、NEDD4の発現および/または機能の阻害により、BPM−2で刺激した骨形成モデル細胞のアルカリホスファターゼ活性が上昇すること、および上述のように短鎖型NEDD4とRUNX2が結合することを見出した。これらの知見から、NEDD4の発現および/または機能の阻害は、BPM−2刺激による骨形成シグナルに関与するRUNX2のNEDD4によるユビキチン化の阻害を引き起こし、その結果、RUNX2の安定化とそれによる該骨形成シグナルの促進を引き起こしたと考えることができる。そして、骨形成シグナルが促進された結果、骨形成モデル細胞の骨分化が促進され、そのアルカリホスファターゼ活性が上昇したと考えることができる。
【0168】
NEDD4の発現および/または機能を阻害することにより、NEDD4によるRUNX2のユビキチン化および該ユビキチン化によるRUNX2の分解を阻害でき、RUNX2を安定化することができる。その結果、RUNX2が関与する骨形成シグナルを促進でき、さらに骨芽細胞の分化および骨形成を促進することができる。このように骨芽細胞の分化および骨形成を促進することにより、骨形成の異常、例えば骨損失疾患、より具体的には例えば骨粗しょう症を予防および/または治療できると発明者らは考えている。
【0169】
RUNX2はまた、その過剰発現がT細胞分化に異常をもたらし、c−mycとの相乗作用によりリンパ腫形成に関与することが報告されている(非特許文献9)。このことから、RUNX2の増加がリンパ腫発症や増悪に関与すると発明者らは考えている。
【0170】
NEDD4によりRUNX2をユビキチン化してRUNX2を分解することにより、RUNX2を低減させることができ、その結果、リンパ腫を予防および/または治療できると発明者らは考えている。
【0171】
RUNX3はTGF−βの細胞内メディエーターであるSmadと結合することから、TGF−βシグナル伝達への関与が考えられている(非特許文献10)。TGF−βレセプターやSmadの変異は、多くの癌で認められており(非特許文献11)、RUNX3はTGF−βシグナルを介して癌に関与すると考えられている(非特許文献12、14および15)。その他、RUNX3とヒト癌疾患、例えば胃癌、大腸癌、胆管癌、膵臓癌との関連性について既にいくつかの報告がある(非特許文献13、16および17)。また、RUNX3の腫瘍形成抑制作用が、移植モデルを使用した動物実験で確認されている(非特許文献13)。これらから、RUNX3の低減が胃癌、大腸癌、胆管癌、膵臓癌等の癌疾患の発症や増悪に関与すると発明者らは考えている。
【0172】
NEDD4によるRUNX3のユビキチン化および該ユビキチン化によるRUNX3の分解を阻害することにより、RUNX3の低減を阻害でき、その結果、胃癌、大腸癌、胆管癌、膵臓癌等の癌疾患を予防および/または治療できると発明者らは考えている。
【0173】
本発明に係る医薬組成物は、通常、有効成分に加えて1種または2種以上の医薬用担体を含む医薬組成物として製造することが好ましい。
【0174】
本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常、約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0175】
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて一般的に使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤および賦形剤等が使用される。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して使用される。
【0176】
より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトールおよびラクトース等を医薬用単体として使用できる。これらは、本医薬組成物の剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合わせて使用される。
【0177】
所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば、安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、およびpH調整剤を適宜使用することもできる。
【0178】
安定化剤は、例えば、ヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体等を使用できる。これらは単独でまたは界面活性剤等と組合わせて使用できる。特にこの組合わせによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えば、グリシン、システイン、グルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトースおよび果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトールおよびキシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトースおよび乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸およびヒアルロン酸等の多糖類、並びにそれらの誘導体のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。
【0179】
界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、例えば、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系が包含される。
【0180】
緩衝剤は、例えば、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を使用できる。
【0181】
等張化剤は、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンを使用できる。
【0182】
キレート剤は、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸を使用できる。
【0183】
本発明に係る医薬および医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。
【0184】
医薬および医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を使用してこれらの用量の変更を行い得る。上記投与量は1日1回〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0185】
本発明に係る医薬組成物を投与するときは、該医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは目的の疾患の予防および/または治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。例えば、抗腫瘍用医薬の有効成分等を配合してもよい。
【0186】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択できる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内等への投与を挙げることができる。あるいは経口経路で投与することもできる。さらに、経粘膜投与または経皮投与も可能である。癌疾患に使用する場合は、腫瘍に注射等により直接投与することが好ましい。
【0187】
投与形態は、各種の形態が目的に応じて選択できる。その代表的なものは、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらはさらに投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製できる。
【0188】
(化合物の同定方法)
本発明の一態様は、RUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法に関する。
【0189】
RUNXのユビキチン化は、NEDD4がE3リガーゼとして関与し、RUNXと結合してRUNXのユビキチン化を触媒することにより行われると考えることができる。
【0190】
したがって、RUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法は、好ましくはNEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法である。
【0191】
本発明に係る化合物の同定方法は、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して実施できる。例えば、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法は、一般的にE3リガーゼの阻害剤のスクリーニングで用いられている方法を利用して実施できる。E3リガーゼの阻害剤のスクリーニングでは、E3リガーゼの基質として、生体内における基質またはE3リガーゼ自身が用いられている。本同定方法ではNEDD4の基質として、RUNXまたはNEDD4自身を用いることができる。基質としてRUNXを用いた同定方法では、NEDD4の酵素活性を阻害する化合物の他に、NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物を得ることができるので、基質としてRUNXを用いることがより好ましい。
【0192】
RUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法は、例えば、本発明に係るNEDD4によるRUNXのユビキチン化方法を利用した実験系を使用して実施できる。本発明に係るNEDD4によるRUNXのユビキチン化方法を利用した実験系とは、NEDD4とRUNXとを共存させて、NEDD4によりRUNXをユビキチン化させる実験系をいう。このような実験系を使用した同定方法で同定される化合物は、NEDD4の酵素活性を阻害する化合物または促進する化合物、および、NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物を含む。
【0193】
具体的には、このような実験系において、ある化合物(以下、被検化合物と称する)とNEDD4および/またはRUNXとを接触させ、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を使用して、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出し、被検化合物がNEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害するか否かまたは促進するか否かを決定することにより、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物を同定できる。
【0194】
被検化合物はNEDD4によるRUNXのユビキチン化反応に共存させることもできるし、被検化合物を予めNEDD4および/またはRUNXと接触させ、その後にNEDD4によるRUNXのユビキチン化反応を行うこともできる。NEDD4によるRUNXのユビキチン化により生じるシグナルまたはユビキチン化のマーカーが、被検化合物をNEDD4および/またはRUNXと接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物はNEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害すると判定できる。これに対して、該シグナルまたはマーカーが、被検化合物をNEDD4および/またはRUNXと接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して増加するあるいは発生する等の変化を示す場合、当該被検化合物はNEDD4によるRUNXのユビキチン化を促進すると判定できる。
【0195】
このような実験系は、インビボおよびインビトロのいずれの条件においても実施できる。
【0196】
インビトロの実験系においては、標的蛋白質のユビキチン化反応にNEDD4の他、ユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)、およびユビキチンが必要とされるため、これら酵素およびユビキチンを共に使用することが適当である。
【0197】
インビボの実験系は、好ましくは例えば、NEDD4とRUNXとを共に発現している真核細胞または培養細胞株を使用した実験系であり得る。また、RUNXやNEDD4を発現させた真核細胞または培養細胞株を使用できる。さらに、NEDD4とRUNXとを共に発現した真核細胞または培養細胞株、あるいはNEDD4やRUNXを発現させた真核細胞または培養細胞株に、さらにユビキチン発現させた細胞を使用できる。細胞におけるこれら蛋白質の発現は、NEDD4をコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクター、RUNXをコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクター、および/または、ユビキチンをコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクターを使用して慣用の遺伝子工学的手法でこれらベクターを細胞にトランスフェクションすることにより達成できる。
【0198】
NEDD4とRUNXとを共に発現した細胞を使用した実験系において、被検化合物により該細胞を処理し、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を使用して、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出し、被検化合物がNEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害するか否かまたは促進するか否かを決定することにより、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物を同定できる。細胞を被検化合物により処理したときに、NEDD4によるRUNXのユビキチン化により生じるシグナルまたはユビキチン化のマーカーが、細胞を被検化合物により処理しないときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物はNEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害すると判定できる。これに対して、該シグナルまたはマーカーが、細胞を被検化合物により処理したときに、細胞を被検化合物により処理しないときと比較して増加するあるいは発生する等の変化を示す場合、当該被検化合物はNEDD4によるRUNXのユビキチン化を促進すると判定できる。
【0199】
上記インビトロまたはインビボの実験系において、RUNXを用いず、NEDD4による自己ユビキチン化を測定することによって、NEDD4の酵素活性を阻害する化合物を同定することができる。NEDD4の酵素活性を阻害する化合物は、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害し得る。したがって、上記実験系においてRUNXを用いず、NEDD4による自己ユビキチン化を測定することによっても、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害し得る化合物を同定できる。
【0200】
ユビキチン化の検出は、ユビキチン化された標的蛋白質の検出により測定できる。ユビキチン化された標的蛋白質の検出は、公知のウエスタンブロッティング等の方法により実施できる(実施例3、5、8および9参照)。標的蛋白質のユビキチン化反応を行なう前と比較して、ユビキチン化反応を行った後に、分子量が増加した標的蛋白質が検出された場合、該標的蛋白質はユビキチン化されたと判定できる。また、適当な標識物質により標識したユビキチンを使用することにより、該標識物質を指標にしてユビキチン化された標識蛋白質を容易に検出できるため、このような標識化ユビキチンの使用は有用である。標識物質として、HA−tagやFLAG−tag等のタグペプチド類が好ましく使用できるが、これらに制限されず、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害しない物質である限りにおいていずれの物質も使用できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を使用して実施できる。例えば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、HRP(ホースラディッシュ・パーオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼ、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチン等で標識した抗体を使用することにより検出がより容易に実施できる。あるいは、上記酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を使用してもよい。
【0201】
具体的には、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法は、例えば、RUNX遺伝子を含む適当なベクター、NEDD4を含む適当なベクターおよびHA−tagがN末端に付加されたユビキチンをコードする遺伝子を含む適当なベクターをトランスフェクションした細胞(実施例3、5、8および9参照)を使用して実施できる。該細胞を、被検化合物で処理した後、細胞を回収し、適当な方法で細胞を溶解してセルライセートを調製し、該セルライセート中に含まれるユビキチン化RUNXを測定し、被検化合物で処理しない細胞と比較して、ユビキチン化RUNXが低減または消失したとき、該被検化合物は、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物と判定できる。これに対して、ユビキチン化RUNXが増加したとき、該被検化合物は、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を促進する化合物と判定できる。セルライセート中に含まれるユビキチン化RUNXの測定は、例えば、HRP標識抗HA抗体によりRUNXに結合したユビキチンを検出することにより実施できる。
【0202】
その他、一般的にユビキチンE3リガーゼの阻害剤のスクリーニングで用いられている方法であれば制限無く、いずれの方法を使用することも可能であり、特に高速で多検体をスクリーニングする場合には、蛍光共鳴エネルギー転移アッセイ(FRET Assay)を応用した系、ディソシエーション−エンハンスド ランタニド フルオロイムノアッセイ(DELFIA Assay)、電気化学発光(ECL)を応用した系、シンチレーション プロキミシティー アッセイ(SPA)を応用した系等を好適に使用できる(サン(Yi Sun)、「メソッズ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、2005年、第399巻、p.654−663)。この時、ユビキチン化の基質としては、RUNXを使用することもできるし、NEDD4自身を基質とする自己ユビキチン化活性を検出することも可能であるが、RUNXを基質として使用することが望ましい。
【0203】
本発明の一態様はまた、NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法に関する。
【0204】
NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法は、一般的に結合阻害剤のスクリーニングで用いられているバインディングアッセイを利用して実施できる。
【0205】
NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法は、例えば、NEDD4とRUNXとを共存させて、NEDD4とRUNXを結合させる実験系を使用して実施できる。
【0206】
このような実験系において、被検化合物とNEDD4および/またはRUNXとを接触させ、NEDD4とRUNXの結合を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を使用して、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出し、被検化合物がNEDD4とRUNXの結合を阻害するか否かまたは促進するか否かを決定することにより、NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物を同定できる。
【0207】
被検化合物はNEDD4とRUNXの結合反応に共存させることもできるし、被検化合物を予めNEDD4および/またはRUNXと接触させ、その後にNEDD4とRUNXの結合反応を行うこともできる。NEDD4とRUNXの結合により生じるシグナルまたは結合のマーカーが、被検化合物をNEDD4および/またはRUNXと接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物はNEDD4とRUNXの結合を阻害すると判定できる。これに対して、該シグナルまたはマーカーが、被検化合物をNEDD4および/またはRUNXと接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して増加するあるいは発生する等の変化を示す場合、当該被検化合物はNEDD4とRUNXの結合を促進すると判定できる。
【0208】
このような実験系は、インビボおよびインビトロのいずれの条件においても実施できる。
【0209】
インビトロの実験系は、蛋白質の結合阻害剤のスクリーニングにおいて一般的に使用されている同定方法を参考にして実施できる。インビトロの実験系は、例えば、NEDD4とRUNXとをインビトロで反応させて、プルダウン法により両蛋白質の結合を検出する実験系であり得る。
【0210】
インビボの実験系は、好ましくは例えば、NEDD4とRUNXとを共に発現している真核細胞または培養細胞株を使用した実験系であり得る。RUNXやNEDD4を発現させた真核細胞または培養細胞株をこのような実験系に使用することもできる。細胞におけるこれら蛋白質の発現は、NEDD4をコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクターおよび/またはRUNXをコードするポリヌクレオチドを含む適当なベクターを使用して慣用の遺伝子工学的手法でこれらベクターを細胞にトランスフェクションすることにより達成できる。
【0211】
NEDD4とRUNXの結合の検出は、自体公知の蛋白質の検出方法、例えば免疫沈降法、プルダウン法、ツーハイブリッド法、ウエスタンブロッティングおよび蛍光共鳴エネルギー転移法等の方法またはこれらの方法を組合わせて、NEDD4とRUNXにより形成される複合体を検出することにより実施できる。NEDD4とRUNXの複合体の検出を容易にするために、NEDD4および/またはRUNXは、適当な標識物質により標識されたものを使用することが好ましい。標識物質として、FLAG−tag、Myc−tagおよびHA−tag等のタグペプチド類が好ましく使用できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を使用して実施できる。例えば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、HRP(ホースラディッシュ・パーオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼ、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチン等で標識した抗体を使用することにより検出がより容易に実施できる。あるいは、上記酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を使用してもよい。
【0212】
具体的には、NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法は、例えば、N末端にFLAG−tagが付加されたRUNXをコードする遺伝子を含む適当なベクターおよびN末端にMyc−tagが付加されたNEDD4をコードする遺伝子を含む適当なベクターをトランスフェクションした細胞(実施例2参照)を使用して実施できる。該細胞を、被検化合物で処理した後、細胞を回収し、適当な方法で細胞を溶解してセルライセートを調製し、該セルライセート中に含まれるNEDD4とRUNXの複合体を検出する。セルライセート中に含まれる該複合体の測定は、抗FLAG抗体を使用した免疫沈降の後に、抗Myc抗体を使用してウエスタンブロッティングを行うことにより実施できる。細胞を被検化合物で処理したときに検出されるNEDD4とRUNXの複合体の量が、細胞を被検化合物で処理しないときに検出される複合体の量と比較して低減または消失する場合には、被検化合物はNEDD4とRUNXの結合を阻害すると判定できる。これに対して、細胞を被検化合物で処理したときに検出されるNEDD4とRUNXの複合体の量が、細胞を被検化合物で処理しないときに検出される複合体の量と比較して増加する場合には、被検化合物はNEDD4とRUNXの結合を促進すると判定できる。
【0213】
NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法はまた、公知のツーハイブリッド(two−hybrid)法を使用して実施できる。例えば、NEDD4とDNA結合蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、RUNXと転写活性化蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、および適切なプロモーター遺伝子に接続したlacZ等レポーター遺伝子を含有するプラスミドを酵母や真核細胞等の細胞にトランスフェクションし、該細胞を被検化合物で処理したときのレポーター遺伝子の発現量を、被検化合物で該細胞を処理しないときのレポーター遺伝子の発現量とを比較する。被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して低減または消失する場合、該被検化合物はNEDD4とRUNXの結合を阻害すると判定できる。これに対し、被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して増加する場合、該被検化合物はNEDD4とRUNXの結合を促進すると判定できる。
【0214】
上記同定方法により同定される化合物は、NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物である。
【0215】
本発明においてはまた、NEDD4の発現を阻害するまたは促進する化合物の同定方法を実施できる。NEDD4の発現を阻害する化合物の同定方法は、NEDD4の発現を測定できる実験系を使用して実施できる。このような実験系において、NEDD4をコードする遺伝子と被検化合物とを共存させてその発現を測定し、ついで、被検化合物の非存在下での測定結果との比較における発現の変化(低減、消失または増加)を検出することにより、NEDD4の発現を阻害するまたは促進する化合物を同定できる。
【0216】
NEDD4の発現を測定できる実験系は、具体的には例えば、NEDD4をコードする遺伝子を含む発現ベクターをトランスフェクションした細胞を使用してNEDD4を発現させる実験系であり得る。このような実験系において、該細胞を、被検化合物で処理した後、細胞を回収し、適当な方法で細胞を溶解してセルライセートを調製し、該セルライセート中に含まれるNEDD4を検出する。細胞を被検化合物で処理したときに検出されるNEDD4の量が、細胞を被検化合物で処理しないときに検出されるNEDD4の量と比較して低減または消失する場合には、被検化合物はNEDD4の発現を阻害すると判定できる。これに対して、細胞を被検化合物で処理したときに検出されるNEDD4の量が、細胞を被検化合物で処理しないときに検出されるNEDD4の量と比較して増加する場合には、被検化合物はNEDD4の発現を促進すると判定できる。
【0217】
NEDD4の発現の測定は、自体公知の蛋白質の検出方法、例えばウエスタンブロッティング等の方法により、NEDD4を直接的に検出することにより実施できる。また、発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより、NEDD4の測定を容易に実施できる。発現の指標となるシグナルとして、例えば、標識物質を使用できる。標識物質でNEDD4を標識し、該標識物質を測定することにより、NEDD4の測定を容易に実施できる。標識物質として、FLAG−tag、Myc−tagおよびHA−tag等のタグペプチド類を好ましく使用できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を使用して実施できる。例えば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、HRP(ホースラディッシュ・パーオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼ、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチン等で標識した抗体を使用することにより検出がより容易に実施できる。あるいは、上記酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を使用してもよい。
【0218】
また、NEDD4の発現を測定できる実験系は、NEDD4をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、該遺伝子の代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターをトランスフェクションした細胞、例えば真核細胞等を使用した実験系であり得る。このような実験系において、該細胞を被検化合物で処理したときのレポーター遺伝子の発現量を、被検化合物で該細胞を処理しないときのレポーター遺伝子の発現量とを比較する。被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して低減または消失する場合、該被検化合物はNEDD4の発現を阻害すると判定できる。これに対し、被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して増加する場合、該被検化合物はNEDD4の発現を促進すると判定できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に使用されている遺伝子を使用でき、例えば、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素活性を有する遺伝子を使用できる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記レポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施できる。
【0219】
被検化合物として、例えば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、またはNEDD4およびRUNXの一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等を使用できる。あるいは、NEDD4とRUNXの結合部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドの構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等も被検化合物として好適である。
【0220】
また本発明の一態様は、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法に関する。本発明に係る骨形成を促進させ得る化合物の同定方法は、被検化合物がNEDD4の発現および/または機能を阻害するか否かを測定することを特徴とする。
【0221】
本発明において、NEDD4の発現および/または機能を阻害することにより、BPM−2で刺激した骨形成モデル細胞において、骨形成の指標であるアルカリホスファターゼ活性(実施例10および11参照)が上昇することを見出した。上述のように短鎖型NEDD4とRUNX2が結合することから、NEDD4の発現および/または機能の阻害は、BPM−2刺激による骨形成シグナルに関与するRUNX2のNEDD4によるユビキチン化の阻害を引き起こし、その結果、RUNX2の安定化とそれによる該骨形成シグナルの促進を引き起こしたと考えることができる。そして、骨形成シグナルが促進された結果、骨形成モデル細胞の骨分化が促進され、そのアルカリホスファターゼ活性が上昇したと考えることができる。
【0222】
すなわち、NEDD4の発現および/または機能を阻害する化合物は、RUNX2のNEDD4によるユビキチン化の阻害を引き起こし、その結果、RUNX2の安定化とそれによる該骨形成シグナルを促進すると考えることができる。そして、このような化合物は、骨形成シグナルを促進することにより、骨分化および骨形成を促進すると考えることができる。
【0223】
被検化合物がNEDD4の発現を阻害するか否かを測定することを特徴とする、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法は、上記のNEDD4の発現を阻害する化合物の同定方法を利用して実施できる。被検化合物によりNEDD4の発現が阻害された場合、該被検化合物は、骨形成を促進させ得ると判定できる。
【0224】
NEDD4の機能は、例えば、そのE3リガーゼ活性やRUNXとの結合能の測定により評価できる。NEDD4のE3リガーゼ活性は、例えば基質としてRUNXまたはNEDD4を使用して、RUNXのユビキチン化または自己ユビキチン化を検出することにより測定できる。好ましくは、RUNXを基質としてそのユビキチン化活性を検出することが適当である。
【0225】
したがって、被検化合物がNEDD4の機能を阻害するか否かを測定することを特徴とする、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法は、例えば、上記のNEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物の同定方法を利用して実施できる。また、RUNXの代わりにNEDD4自身を基質として用い、NEDD4による自己ユビキチン化を阻害する化合物を同定することにより実施できる。被検化合物により、NEDD4によるRUNXのユビキチン化または自己ユビキチン化が阻害された場合、該被検化合物は、骨形成を促進させ得ると判定できる。
【0226】
また、被検化合物がNEDD4の機能を阻害するか否かを測定することを特徴とする、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法は、例えば、上記のNEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物の同定方法を利用して実施できる。被検化合物によりNEDD4とRUNXの結合が阻害された場合、該被検化合物は、骨形成を促進させ得ると判定できる。
【0227】
RUNXファミリー蛋白質のうち、RUNX2が骨形成に重要な役割を果たすことが知られていることから、被検化合物がNEDD4の機能を阻害するか否かを測定することを特徴とする、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法では、RUNX2を使用することが好ましい。
【0228】
本発明に係る骨形成を促進させ得る化合物の同定方法は、さらに、上記同定方法によりNEDD4の発現および/または機能を阻害することが明らかになった被検化合物が、骨形成を促進させ得るか否かを測定する工程をさらに含む同定方法であり得る。
【0229】
骨形成の促進を測定できる実験系として、例えば、骨形成モデル細胞を使用した実験系を使用できる。骨形成モデル細胞として、例えばマウスC2C12細胞を使用できる。マウスC2C12細胞は、筋芽細胞であり、骨芽細胞や軟骨細胞と同じ間葉系幹細胞に由来する。C2C12細胞はBMP−2刺激により典型的な骨芽細胞のフェノタイプ、例えばアルカリホスファターゼ活性の上昇やオステオカルシンの産生等を示すことから、BMP−2シグナルに依存した骨分化および骨形成のモデル細胞として利用されている(カタギリ(Katagiri T.)ら、「ザ ジャーナル オブ セル バイオロジー(The Journal of Cell Biology)」、1994年、第127巻、p.1755−1766)。
【0230】
具体的には、骨形成モデル細胞を使用した実験系において、骨形成を促進するサイトカイン存在下で該細胞を培養した後、該細胞の中の骨形成マーカーを測定することにより、該細胞の骨形成の促進を測定できる。サイトカイン存在下で細胞を培養したとき、サイトカイン非存在下で細胞を培養したときと比較して、骨形成マーカーが増加する場合、該細胞の骨分化および骨形成が促進されたと判定できる。
【0231】
骨形成を促進するサイトカインとして、例えば、BMP−2が好ましく使用できる。また、骨形成マーカーとして、例えば、アルカリホスファターゼやオステオカルシンを使用できる。骨形成を促進するサイトカインや骨形成マーカーは、これらに限定されず、一般的に骨形成の評価に使用されるサイトカインやマーカーをいずれも使用できる。骨形成マーカーの測定は、一般的に使用されている骨形成マーカーの測定方法により実施できる。
【0232】
このような骨形成モデル細胞を使用した実験系において、該細胞を被検化合物で処理することにより、骨形成を促進させ得る被検化合物を同定できる。被検化合物で処理した細胞における骨形成マーカーが、被検化合物で処理していない細胞に該骨形成マーカーと比較して増加した場合、該細胞の骨分化および骨形成が促進されたと判定できる。
【0233】
(試薬キット)
本発明の一態様は、試薬キットに関する。本試薬キットは、NEDD4、NEDD4をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび該組換えベクターを含有する形質転換体のうち少なくともいずれか1つと、RUNX、RUNXをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび該組換えベクターを含有する形質転換体のうち少なくともいずれか1つとを含んでなる試薬キットであり得る。本試薬キットはさらに、ユビキチン、ユビキチンをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび該組換えベクターを含有する形質転換体のうち少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キットであり得る。本試薬キットは、例えば本発明に係る化合物の同定方法に使用できる。
【0234】
本発明に係る試薬キットは、上記同定方法において使用するシグナルおよび/またはマーカー、緩衝液、並びに塩等、必要とされる物質を含むことができる。さらに、安定化剤および/または防腐剤等の物質を含んでいてもよい。製剤化にあたっては、使用する各物質それぞれに応じた製剤化手段を導入すればよい。
【0235】
(NEDD4、RUNXおよびユビキチンの取得)
【0236】
NEDD4、RUNXおよびユビキチンはヒト由来の蛋白質であることが好ましいが、該ヒト由来の蛋白質と同質の機能を有し、かつ構造的相同性を有する哺乳動物由来の蛋白質、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマ、ラットまたはウサギ等の蛋白質であることができる。また、NEDD4、RUNXおよびユビキチンをそれぞれコードする遺伝子は、ヒト由来の遺伝子であることが好ましいが、該ヒト由来の蛋白質と同質の機能を有しかつ構造的相同性を有する哺乳動物由来の蛋白質をコードする遺伝子であれば、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマ、ラットまたはウサギ等の遺伝子であることができる。NEDD4、RUNXおよびユビキチンの性質や機能は、例えば、NEDD4とRUNXの結合、NEDD4によるRUNXへのユビキチンの結合(ユビキチン化)、NEDD4のリガーゼ活性等である。
【0237】
NEDD4、RUNXおよびユビキチンは、これらを遺伝子工学的手法で発現させた細胞や生体試料から調製したもの、無細胞系合成産物または化学合成産物であってよく、あるいはこれらからさらに精製されたものであってもよい。また、NEDD4、RUNXおよびユビキチンのうち少なくとも1を遺伝子工学的手法で発現させた細胞を使用することもできる。NEDD4、RUNXおよびユビキチンは、その性質や機能に影響がない限りにおいて、N末端側やC末端側に別の蛋白質やポリペプチドを、直接的にまたはリンカーペプチド等を介して間接的に、遺伝子工学的手法等を使用して付加してもよい。別の蛋白質やポリペプチドとして、例えば、グルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(ALP)等の酵素類、His−tag、Myc−tag、あるいはHA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類を使用できる。
【0238】
遺伝子工学的手法として、公知の方法がいずれも使用できる。例えば、成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス等を参照)を使用できる。
【0239】
NEDD4、RUNXおよびユビキチンをそれぞれコードする遺伝子は、例えば、各遺伝子の発現が認められる適当な起源から、自体公知のクローニング方法等を使用して容易に取得できる。これら遺伝子の起源として、該遺伝子の発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞等を使用できる。NEDD4遺伝子の起源として、例えば、ヒトの筋肉由来の細胞や筋肉組織を使用できる。RUNX遺伝子の起源として、例えば、各種癌細胞株を使用できる。ユビキチンの起源として、例えば、ヒトの脳由来の細胞や脳組織を使用できる。
【0240】
起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施できる。また、市販されているcDNAライブラリーを使用することもできる。所望のクローンをcDNAライブラリーから選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を使用できる。例えば、目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを使用したプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等やこれらを組合せた方法等を使用できる。ここで使用するプローブとして、NEDD4、RUNXおよびユビキチンをそれぞれコードする遺伝子の塩基配列に関する情報に基づいて化学合成されたDNA等が一般的に使用できる。また、該遺伝子の塩基配列情報に基づき設計したセンスプライマー、アンチセンスプライマーをこのようなプローブとして使用できる。cDNAライブラリーからの目的クローンの選択は、例えば公知の蛋白質発現系を利用して各クローンについて発現蛋白質の確認を行い、その生物学的機能を指標にして実施できる。
【0241】
遺伝子の取得にはその他、PCR(ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス;サイキ(Saiki R.K.)ら、「サイエンス(Science)」、1985年、第230巻、p.1350−1354))によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法(「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35−)、特に5´−RACE法(フローマン(Frohman M.A.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002)等の採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、DNAの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により取得できる。増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は、常法により実施できる。例えばゲル電気泳動法等によりDNA/RNA断片の単離精製を実施できる。
【0242】
遺伝子は、その機能、例えばコードする蛋白質の発現や、発現された蛋白質の機能が阻害されない限りにおいて、5´末端側や3´末端側に、例えばGST、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、あるいはHA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類等の遺伝子が、1つまたは2つ以上付加されたDNAであることができる。これら遺伝子の付加は、慣用の遺伝子工学的手法により実施できる。
【0243】
NEDD4、RUNXおよびユビキチンをそれぞれコードする遺伝子を含む組換えベクターを構築し、該組換えベクターを使用して適当な宿主細胞で該遺伝子を発現させることにより、NEDD4、RUNXおよびユビキチンのうち少なくとも1を発現する細胞を取得できる。また、該細胞から、公知の方法でNEDD4、RUNXおよびユビキチンを調製するとができる。
【0244】
ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するものを抽出したもののほか、複製に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているものでもよい。代表的なベクターDNAは、例えば、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAである。プラスミドDNAとして、例えば、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドを使用できる。バクテリオファージDNAとして、例えば、λファージを使用できる。ウイルス由来のベクターDNAとして、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを使用できる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNA等を使用できる。あるいは、これらを組合せて作成したベクターDNA、例えば、プラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組合せて作成したベクターDNA(コスミドやファージミド等)を使用できる。また、所望により、発現ベクターやクローニングベクターのいずれも使用できる。
【0245】
ベクターDNAには、目的遺伝子の機能が発揮されるように遺伝子を組込むことが必要であり、少なくとも目的遺伝子配列とプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列、例えば、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー等から選択した1つまたは複数の遺伝子配列を自体公知の方法により組合せてベクターDNAに組込むことができる。選択マーカーとして、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子を使用できる。
【0246】
ベクターDNAに目的遺伝子配列を組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、目的遺伝子配列を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼによって再結合する方法が使用される。あるいは、目的遺伝子配列に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組換えベクターが得られる。
【0247】
NEDD4、RUNXおよびユビキチンをそれぞれコードする遺伝子を含む組換えベクターを宿主にトランスフェクションすることにより、形質転換体が得られる。ベクターDNAとして発現ベクターを使用すれば、これら遺伝子のうち少なくとも1を発現する細胞を取得でき、さらに該細胞使用して公知の方法によりNEDD4、RUNXまたはユビキチンを製造できる。該形質転換体には、NEDD4、RUNXおよびユビキチンをそれぞれコードする遺伝子以外の所望の遺伝子を組込んだベクターDNAの1つまたは2つ以上をさらにトランスフェクションすることもできる。
【0248】
宿主として、原核生物および真核生物のいずれも使用できる。原核生物として、例えば、腸菌(エシェリヒアコリ(Escherichia coli))等のエシェリヒア属、枯草菌等のバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を使用できる。真核生物として、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、Sf9やSf21等の昆虫細胞、あるいはサル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒトHEK293T細胞等の動物細胞を使用できる。好ましくは動物細胞を使用する。
【0249】
ベクターDNAの宿主細胞へのトランスフェクションは、自体公知の手段が応用でき、例えば成書に記載されている標準的な方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー)により実施できる。より好ましい方法として、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法を使用できる。簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的な方法は、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)および感染等である。
【0250】
NEDD4、RUNXおよびユビキチンは、NEDD4、RUNXおよびユビキチンをそれぞれコードする遺伝子を遺伝子工学的手法で発現させた細胞や生体試料から調製したもの、無細胞系合成産物または化学合成産物であってよく、あるいはこれらからさらに精製されたものであってもよい。また、本蛋白質は、本蛋白質をコードする遺伝子を含む細胞において発現しているものであり得る。該細胞は、本蛋白質をコードする遺伝子を含むベクターをトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。
【0251】
NEDD4、RUNXおよびユビキチンはさらに、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない限りにおいて改変できる。また、N末端側やC末端側に別の蛋白質等を、直接的にまたはリンカーペプチド等を介して間接的に遺伝子工学的手法等を使用して付加することにより標識化したものであってもよい。好ましくは、本蛋白質の基本的な性質が阻害されないような標識化が望ましい。付加する蛋白質等として、例えば、GST、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)等の蛍光色素類、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片あるいはビオチンを使用できるが、これらに限定されない。また、放射性同位元素により標識することもできる。標識化に使用する物質は、1つまたは2つ以上を組合せて付加できる。これら標識化に使用した物質自体、またはその機能を測定することにより、本蛋白質を容易に検出または精製でき、また、例えば本蛋白質と他の蛋白質との相互作用を検出できる。
【0252】
具体的には例えば、NEDD4、RUNXまたはユビキチンを含むベクターDNAをトランスフェクションした形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から目的とする蛋白質を回収することによりこれら蛋白質を製造できる。形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法で実施できる。培養は、形質転換体により発現される本蛋白質自体またはその機能を指標にして実施できる。あるいは、宿主中または宿主外に産生された本蛋白質自体またはその蛋白質量を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチ培養を行ってもよい。
【0253】
目的とする蛋白質が形質転換体の細胞内あるいは細胞膜上に発現する場合には、形質転換体を破砕して目的とする蛋白質を抽出する。また、目的とする蛋白質が形質転換体外に分泌される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離処理等により形質転換体を除去した培養液を使用する。
【0254】
NEDD4、RUNXまたはユビキチンはまた、一般的な化学合成法により製造できる。例えば、成書(「ペプチド合成」、丸善株式会社、1975年および「ペプチド シンテシス(Peptide Synthesis)」、インターサイエンス(Interscience)、ニューヨーク(New York)、1996年)に記載の方法が使用されるが、これらに限らず公知の方法が広く利用できる。蛋白質の化学合成方法として、固相合成方法や液相合成方法等が知られているがいずれを使用することもできる。このような蛋白質合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含し、本蛋白質の合成は、そのいずれによっても実施できる。上記蛋白質合成において使用される縮合法も、常法に従うことができ、例えば、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法等を使用できる。また、市販のアミノ酸合成装置を使用してこれら蛋白質を製造できる。
【0255】
NEDD4、RUNXまたはユビキチンに、変異が導入されたものも本発明において使用できる。蛋白質、ポリペプチドおよびポリペプチドに変異を導入する手段は自体公知であり、例えばウルマーの技術(ウルマー(K.M.Ulmer)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671)を利用して実施できる。このような変異の導入において、当該の基本的な性質(物性、機能または免疫学的活性等)を変化させないという観点から、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。さらに、これら利用できるポリペプチドは、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない程度に改変できる。
【0256】
NEDD4、RUNXまたはユビキチンは、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により精製および/または分離できる。分離および/または精製は、本蛋白質の機能を指標にして実施できる。分離操作方法として、例えば硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、透析法等を単独でまたは適宜組合せて使用できる。好ましくは、本蛋白質のアミノ酸配列情報に基づき、これらに対する特異的抗体を作成し、該抗体を使用して特異的に吸着する方法、例えば該抗体を結合させたカラムを利用するアフィニティクロマトグラフィーを使用することが推奨される。
【0257】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0258】
(RUNX3と相互作用する機能を有する蛋白質のインシリコでの探索)
RUNX3と相互作用する機能を有する蛋白質の予測を、国際公開第WO01/67299号パンフレットに記載のインシリコでの予測方法に従って次のように実施した:(i)RUNX3のアミノ酸配列をある長さのオリゴペプチドに分解し、(ii)各オリゴペプチドのアミノ酸配列あるいはそのアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を持った蛋白質をデータベース中で検索し、(iii)得られた蛋白質とRUNX3との間でローカルアライメントを行い、(iv)ローカルアライメントのスコアの高いものをRUNX3と相互作用する蛋白質であると予測する。
【0259】
解析の結果(図1)、RUNX3と相互作用する機能を有すると予測される蛋白質としてNEDD4を見出した。RUNX3の部分アミノ酸配列からなるオリゴペプチドFPYSAT(配列番号13)、AELRNA(配列番号15)およびLSVAGM(配列番号17)とそれぞれ相同なオリゴペプチドFEYSAT(配列番号14)、AEELNA(配列番号16)およびGRVAGM(配列番号18)がNEDD4のアミノ酸配列中に認められた。
【実施例2】
【0260】
(RUNX3とNEDD4の結合解析)
ヒトRUNK3とヒトNEDD4の結合を、ヒト培養細胞における一過性共発現系を使用して免疫沈降法により検討した。
【0261】
<材料と方法>
ヒトRUNX3発現プラスミドを以下に述べるように構築した。ヒトRUNX3 cDNAはOpen Biosystems社より購入した(クローン番号 MHS1011−74936)。購入したヒトRUNX3 cDNAを鋳型とし、EcoRIおよびXhoIサイトを付加したプライマーを使用してPCRによりORFを増幅し、シーケンスにより塩基配列を確認した。その後、獲得したORF領域を、N末端FLAG−tag結合蛋白質を発現させるための動物細胞用発現プラスミドpCMV−Tag2(STRATAGENE社製)にEcoRI/XhoIサイトで組み込み、ヒトRUNX3発現プラスミドを構築した。本ヒトRUNX3発現プラスミドにより、N末端FLAG−tag結合ヒトRUNX3(以下、FLAG−RUNX3と称する)が発現する。なお、クローニングしたヒトRUNX3 cDNAによりコードされる推定アミノ酸配列はNCBIプロテインデータベースのアクセッションナンバーNP_004341(登録遺伝子名はRUNX3)に公開されたものと同一であった。
【0262】
ヒトNEDD4発現プラスミドを以下に述べるように構築した。ヒトNEDD4 cDNAは、KIAA0093クローンの塩基配列(NCBIアクセッションナンバー D42055)に基づいて調製した。KIAA0093クローンの塩基配列は、ゲノム配列と比較して5´末端側の218bpが欠失していると考えられた。そこで、ゲノム配列を参考に、KIAA0093クローンの塩基配列の5´末端側にさらに218bp延長したcDNAを調製した。延長部分の218bpはヒト骨格筋由来cDNA(QUICK−clone cDNA、Clontech社製)からPCRによって獲得し、シーケンスにより塩基配列を確認した。獲得したヒトNEDD4 cDNAは、5´末端にMyc−tagコード配列を付加した後に、動物細胞用発現プラスミドpCI(Promega社製)に組み込み、ヒトNEDD4発現プラスミドを構築した。本ヒトNEDD4発現プラスミドにより、N末端Myc−tag結合ヒトNEDD4(以下、Myc−NEDD4と称する)が発現する。なお、クローニングしたヒトNEDD4 cDNAによりコードされる推定アミノ酸配列はSwiss−ProtデータベースのアクセッションナンバーP46934(登録遺伝子名はNEDD4)に公開されたものと同一であった。
【0263】
免疫沈降実験は以下に述べるように実施した。細胞数1.0×10のHEK293T細胞を6cm ディッシュに播種し、10% 牛胎仔血清(FBS)含有DMEM培地中で37℃にて5% CO/95 エアの条件下で一晩培養後、ヒトNEDD4発現プラスミド 1.75μgをヒトRUNX3発現プラスミド 0.25μgと共にフュージーン6(FuGENE6、Roche diagnostics社製)を使用して細胞にトランスフェクションした。ヒトRUNX3発現プラスミドの代わりに、ヒトRUNX3遺伝子を組み込んでいないpCMV−Tag2ベクター(以下、空ベクターと称する)を、同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製してコントロールとして使用した。2日間培養後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと略称する)で洗浄し、セルスクレーパーを使用して回収した。回収した細胞に、プロテアーゼ阻害剤カクテル Complete,Mini(Roche diagnostics社製)を含むリシスバッファー(20mM Tris−HCl(pH8.0)/150mM NaCl/0.5% TritonX−100/5mM NaF/5mM NaVO)を500μL加え、ピペッティングにて細胞をけん濁し、氷上で20分間静置して細胞を溶解させた。その後、15,000rpmで15分間、4℃にて遠心処理して上清を回収し、セルライセートとして使用した。次いで、セルライセートにプロテインG セファロース4 ファストフロー(protein G sepharose 4 FastFlow、Amersham Biosciences社製)の50% スラリーを40μL加え、4℃で1時間転倒混和した。その後、10,000rpmで15秒間、4℃にて遠心処理し、回収した上清に抗FLAG M2抗体(Sigma社製)0.5μLを加え、4℃にて2時間転倒混和した後、新たにprotein G sepharose 4 FastFlow 50%スラリーを40μL加え、再度4℃にて2時間転倒混和した。Protein G sepharose 4 FastFlowを遠心処理により回収し、リシスバッファーで3回洗浄後、20μLの2×SDS サンプルバッファーを加え、100℃で5分間加熱処理したものをSDS−PAGE試料として使用した。試料は5−20% SDS−PAGEにより分離した後、ウエスタンブロッティングにより、ペルオキシダーゼ標識抗c−Myc抗体(ナカライテスク社製)でMyc−NEDD4を、ペルオキシダーゼ標識抗FLAG M2抗体(Sigma社製)でFLAG−RUNX3をそれぞれ検出した。検出はイーシーエル ウエスタンブロッティング ディテクション キット(ECL western blotting detection kit、Amersham Biosciences社製)を使用して実施した。
【0264】
<結果>
図2のパネルAに示すように、Myc−NEDD4とFLAG−RUNX3とを共発現させた細胞から調製した試料でのみ、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降(図中IPと記載)によりMyc−NEDD4とFLAG−RUNX3の共沈が認められた。これに対し、FLAG−RUNX3非発現細胞から調製した試料では、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降によるMyc−NEDD4の共沈が認められなかった。このことから、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降により認められたMyc−NEDD4の共沈降はMyc−NEDD4のアガロースビーズへの非特異的吸着によるものではなく、Myc−NEDD4とFLAG−RUNX3の結合を示すものと判断した。両試料におけるMyc−NEDD4の発現は同程度であった(図2のパネルAにおいてセルライセートと記載したレーン参照)。また、細胞で発現したFLAG−RUNX3が抗FLAG M2抗体により回収されていることが確認された(図2のパネルB)。
【0265】
上記結果から、ヒトNEDD4とヒトRUNX3が細胞内で結合することが明らかになった。
【実施例3】
【0266】
(NEDD4によるRUNX3のin vivoユビキチン化)
NEDD4によるRUNX3のin vivoユビキチン化を、ヒトRUNX3、ヒトNEDD4およびヒトユビキチンを一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により検討した。また、変異の導入によりそのE3リガーゼ活性が不活性化されたヒトNEDD4変異体(以下、E3リガーゼ不活性型ヒトNEDD4と称することがある)を使用して同様の検討を行った。
【0267】
<材料と方法>
ヒトRUNX3発現プラスミドは、実施例2で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトRUNX3発現プラスミドにより、FLAG−RUNX3が発現する。
【0268】
ヒトNEDD4発現プラスミドは、実施例2で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトNEDD4発現プラスミドにより、Myc−NEDD4が発現する。
【0269】
ヒトNEDD4変異体として、HECTドメインに変異が導入されたヒトNEDD4変異体であるヒトNEDD4(C967A)を使用した。ヒトNEDD4(C967A)は、ヒトNEDD4のアミノ酸配列において第967番目のシステイン残基がアラニン残基に置換され、それによりE3リガーゼ活性が不活化されたヒトNEDD4変異体である。
【0270】
ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドは、ヒト NEDD4発現プラスミド(実施例2参照)を鋳型とし、ヒトNEDD4の第967番目のシステイン残基のアラニン残基への置換を導入し得るプライマーを設計および合成して使用し、クイックチェンジサイトダイレクティッドミュータジェネシスキット(QuikChange Site−Directed Mutagenesis kit、STRATAGENE社製)により構築した。構築した発現プラスミドのシーケンスを行い、該発現プラスミドに変異が導入されていることを確認した。本ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドにより、N末端Myc−tag結合ヒトNEDD4(C967A)(以下、Myc−NEDD4(C967A)と称する)が発現する。
【0271】
ヒトユビキチン(Ub)発現プラスミドを以下に述べるように構築した。ヒトUb cDNAはヒト脳由来cDNA(QUICK−clone cDNA、Clontech社製)からPCRにより獲得し、シーケンスにより塩基配列を確認した。その後、ヒトUb cDNAを、N末端HA−tag結合蛋白質を発現させるための動物細胞用発現プラスミドpCMV−HA(Clontech社製)に組み込むことにより、Ub発現プラスミドを構築した。本Ub発現プラスミドにより、N末端HA−tag結合Ub(以下、HA−Ubと称する)が発現する。なお、クローニングしたUb cDNAによりコードされる推定アミノ酸配列はNCBIプロテインデータベースのアクセッションナンバーNP_066289(登録遺伝子名はUBC)に公開されたものと同一であった。
【0272】
In vivoユビキチン化実験は以下に述べるように実施した。細胞数1.0×10のHEK293T細胞を6cm ディッシュに播種し、10%FBS含有DMEM培地中で37℃にて5% CO/95% エアの条件下で一晩培養後、ヒトRUNX3発現プラスミド 0.1μg、ヒトNEDD4発現プラスミド 2.0μg、およびヒトUb発現プラスミド 0.25μgをFuGENE6(Roche diagnostics社製)を使用して細胞にトランスフェクションした。また、ヒトNEDD4発現プラスミドの代わりに、ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドを同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。さらに、ヒトRUNX3発現プラスミドのみをトランスフェクションした細胞、およびヒトRUNX3発現プラスミドとヒトUb発現プラスミドとをトランスフェクションした細胞を同様の方法で調製し、コントロールとして使用した。総DNA導入量は空ベクターにより補正した。トランスフェクション後2日間培養した細胞を実施例2と同様の方法で処理してセルライセートを調製した。次いで、セルライセートにprotein G sepharose 4 FastFlow(Amersham Biosciences社製)50%スラリーを40μL加え、4℃にて1時間転倒混和した。その後、10,000rpmで15秒間、4℃にて遠心処理し、回収した上清に抗FLAG M2抗体(Sigma社製)0.5μLを加え4℃にて2.5時間転倒混和した後、新たにprotein G sepharose 4 FastFlow 50%スラリーを40μL加え、再度、4℃にて2時間転倒混和した。Protein G sepharose 4 FastFlowを遠心処理により回収し、リシスバッファー(実施例2のものと同一組成)で3回洗浄後、20μLの2×SDSサンプルバッファーを加え、100℃で5分間加熱処理したものをSDS−PAGE試料として使用した。試料は5−20% SDS−PAGEにより分離した後、ウエスタンブロッティングにより、ペルオキシダーゼ標識抗c−Myc抗体(ナカライテスク社製)でMyc−NEDD4およびMyc−NEDD4(C967A)を、ペルオキシダーゼ標識抗FLAG M2抗体(Sigma社製)でFLAG−RUNX3を、ペルオキシダーゼ標識抗HA抗体(Roche diagnostics社製)でHA−Ubをそれぞれ検出した。検出はECL western blotting detection kit(Amersham Biosciences社製)を使用して実施した。
【0273】
<結果>
図3のパネルAに示すように、FLAG−RUNX3、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、FLAG−RUNX3より高い分子量を有する複数の蛋白質が抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降により検出された。一方、Myc−NEDD4の代わりにE3リガーゼ活性が不活化されたMyc−NEDD4(C967A)を共発現させた細胞から調製した試料においても、FLAG−RUNX3より高い分子量を有する蛋白質が検出されたがその量はMyc−NEDD4を発現させた細胞から調製した試料のものに比べ少なかった。FLAG−RUNX3、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−NEDD4の発現、およびMyc−NEDD4の代わりにMyc−NEDD4(C967A)を共発現させた細胞におけるMyc−NEDD4(C967A)の発現は同程度であった(図3のパネルC)。
【0274】
図3のパネルBに示すように、FLAG−RUNX3、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降および抗HA抗体を使用したイムノブロットにより検出された蛋白質が、Myc−NEDD4を発現させなかった細胞から調製した試料と比較して顕著に増加した。検出された蛋白質は、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3である。すなわち、FLAG−RUNX3、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3の増加が認められた。一方、Myc−NEDD4の代わりにMyc−NEDD4(C967A)を共発現させた細胞から調製した試料でも、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3が検出されたが、その量およびユビキチン化の程度はMyc−NEDD4を発現させた細胞から調製した試料のものと比べ、著しく低いものであった。
【0275】
これら結果から、ヒトRUNX3がヒトNEDD4により細胞内においてユビキチン化されること(図3のパネルB)、また、それによりヒトRUNX3が高分子化することが明らかになった(図3のパネルA)。さらに、ヒトNEDD4によるヒトRUNX3のユビキチン化および高分子化には、ヒトNEDD4のE3リガーゼ活性が重要であることが判明した。
【実施例4】
【0276】
(RUNX3の安定性に対するNEDD4の影響)
RUNX3の安定性に対するNEDD4の影響を、ヒトRUNX3およびヒトNEDD4を一過性性共発現させたヒト培養細胞を使用し、ウエスタンブロッティングにより検討した。
【0277】
<材料と方法>
ヒトRUNX3発現プラスミドは、実施例2で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトRUNX3発現プラスミドにより、FLAG−RUNX3が発現する。
【0278】
ヒトNEDD4発現プラスミドおよびヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドは、実施例2および3で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトNEDD4発現プラスミドにより、Myc−NEDD4が発現する。また、本ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドにより、Myc−NEDD4(C967A)が発現する。
【0279】
細胞内安定性実験は以下に述べるように実施した。細胞数2.5×10のHEK293T細胞を6ウエルプレートの各ウエルに播種し、10%FBS含有DMEM培地中で37℃にて5% CO/95% エアの条件下で一晩培養後、ヒトRUNX3発現プラスミド 0.1μgをヒトNEDD4発現プラスミド 1.0〜2.0μgと共にFuGENE6(Roche diagnostics社製)を使用して細胞にトランスフェクションした。また、ヒトNEDD4発現プラスミドの代わりに、ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミド 2.0μgを同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。さらに、ヒトRUNX3発現プラスミドのみをトランスフェクションした細胞を同様の方法で調製し、コントロールとして使用した。総DNA導入量は空ベクターにより補正した。トランスフェクションの翌日に、細胞をPBSで洗浄し、トリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を使用して回収した。回収した細胞は、リシスバッファー(Cell Signaling社製)60μLを加えてピペッティングにてけん濁後、氷上で5分間静置することにより溶解させた。その後、15,000rpmで10分間、4℃にて遠心処理して上清を回収し、セルライセートとして使用した。次いで、セルライセートに等量の2×SDS サンプルバッファーを加え、100℃で5分間加熱処理したものをSDS−PAGE試料として使用した。同一蛋白質量の試料を、5−20% SDS−PAGEで分離し、抗FLAG M2抗体(Sigma社製)、抗c−Myc抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)および抗アクチン(Actin)抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)を使用したウエスタンブロッティングを実施した。検出は蛍光標識された2次抗体を使用し、オディッセイ(Odyssey)イメージングシステム(Aloka社製)により行なった。
【0280】
<結果>
図4のパネルAに示すようにヒトNEDD4発現プラスミドの導入量に依存して、FLAG−RUNX3の減少が認められた。一方、ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドをトランスフェクションした細胞から調製した試料では、FLAG−RUNX3の減少は認められなかった。Myc−NEDD4がヒトNEDD4発現プラスミドの導入量に依存して発現されていること、またMyc−NEDD4(C967A)がヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドにより発現されていることは、図4のパネルBに示すように確認された。また、コントロールであるアクチンの発現量はいずれの試料においても同程度であった(図4のパネルC)。
【0281】
これら結果から、ヒトNEDD4がヒトRUNX3の細胞内での安定性を低下させることが明らかになった。また、ヒトNEDD4によるヒトRUNX3安定性の低下には、ヒトNEDD4のE3リガーゼ活性が関与することが判明した。
【実施例5】
【0282】
(NEDD4とRUNX1の結合およびNEDD4によるRUNX1のin vivoユビキチン化)
NEDD4とRUNX1の結合およびNEDD4によるRUNX1のin vivo ユビキチン化を、ヒトRUNX1、ヒトNEDD4およびヒトユビキチンを一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により検討した。また、E3リガーゼ不活性型ヒトNEDD4を使用して同様の検討を行った。
【0283】
<材料と方法>
ヒトRUNX1発現プラスミドは以下に述べるように構築した。ヒトRUNX1 cDNAはヒト腎臓由来cDNA(QUCIK−clone cDNA、Clontech社製)から、EcoRIサイトおよびXhoIサイトを付加したプライマーを使用してPCRにより獲得し、シーケンスにより塩基配列を確認した。獲得したcDNAは、N末端FLAG−tag結合蛋白質を発現させるための動物細胞用発現プラスミドpCMV−Tag2(STRATAGENE社製)にEcoRI/XhoIサイトで組み込み、ヒトRUNX1発現プラスミドを構築した。本ヒトRUNX1発現プラスミドにより、N末端FLAG−tag結合ヒトRUNX1(以下、FLAG−RUNX1と称する)が発現する。なお、クローニングしたヒトRUNX1 cDNAによりコードされる推定アミノ酸配列はNCBIプロテインデータベースのアクセッションナンバーNP_001745(登録遺伝子RUNX1)に公開されたものと同一であった。
【0284】
ヒトNEDD4発現プラスミドおよびヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドは、それぞれ実施例2および3で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトNEDD4発現プラスミドにより、Myc−NEDD4が発現する。また、本ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドにより、Myc−NEDD4(C967A)が発現する。
【0285】
ヒトユビキチン(Ub)発現プラスミドは、実施例3で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトUb発現プラスミドにより、HA−Ubが発現する。
【0286】
In vivoユビキチン化実験は以下に述べるように実施した。細胞数1.0×10のHEK293T細胞を6cm ディッシュに播種し、10%FBS含有DMEM培地中で37℃にて5% CO/95% エアの条件下で一晩培養後、ヒトRUNX1発現プラスミド 0.1μg、ヒトNEDD4発現プラスミド 2.0μg、およびヒトUb発現プラスミド 0.25μgをFuGENE6(Roche diagnostics社製)を使用して細胞にトランスフェクションした。また、ヒトNEDD4発現プラスミドの代わりに、ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドを同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。さらに、ヒトRUNX1発現プラスミドとヒトUb発現プラスミドとをトランスフェクションした細胞を同様の方法で調製し、コントロールとして使用した。総DNA導入量は空ベクターにより補正した。トランスフェクション後2日間培養した細胞を実施例2と同様の方法で処理してセルライセートを調製した。次いで、セルライセートにprotein G sepharose 4 FastFlow(Amersham Biosciences社製)50%スラリーを40μL加え、4℃にて1時間転倒混和した。その後、10,000rpmで15秒間、4℃にて遠心処理し、回収した上清に抗FLAG M2抗体(Sigma社製)0.5μLを加え4℃にて2.5時間転倒混和した後、新たにprotein G sepharose 4 FastFlow 50%スラリーを40μL加え、再度、4℃にて2時間転倒混和した。Protein G sepharose 4 FastFlowを遠心処理により回収し、リシスバッファー(実施例2のものと同一組成)で3回洗浄後、20μLの2×SDSサンプルバッファーを加え、100℃で5分間加熱処理したものをSDS−PAGE試料として使用した。試料は5−20% SDS−PAGEにより分離し、ウエスタンブロッティングにより、ペルオキシダーゼ標識抗c−Myc抗体(ナカライテスク社製)でMyc−NEDD4およびMyc−NEDD4(C967A)を、ペルオキシダーゼ標識抗FLAG M2抗体(Sigma社製)でFLAG−RUNX1を、ペルオキシダーゼ標識抗HA抗体(Roche diagnostics社製)でHA−Ubをそれぞれ検出した。検出はECL western blotting detection kit(Amersham Biosciences社製)を使用して実施した。
【0287】
<結果>
図5のパネルAに示すように、FLAG−RUNX1、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降によりMyc−NEDD4とFLAG−RUNX1の共沈が認められた。また、Myc−NEDD4(C967A)、FLAG−RUNX1およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、Myc−NEDD4(C967A)とFLAG−RUNX1の共沈が認められた。
【0288】
図5のパネルBに示すように、FLAG−RUNX1、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、FLAG−RUNX1より高い分子量を有する複数の蛋白質が、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降により検出された。一方、Myc−NEDD4の代わりにE3リガーゼ活性が不活化されたMyc−NEDD4(C967A)を共発現させた細胞から調製した試料において、高分子量の蛋白質はほとんど検出されなかった。FLAG−RUNX1、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−NEDD4の発現、およびMyc−NEDD4の代わりにMyc−NEDD4(C967A)を共発現させた細胞におけるMyc−NEDD4(C967A)の発現は同程度であった(図5のパネルD)。
【0289】
図5のパネルCに示すように、FLAG−RUNX1、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降および抗HA抗体を使用したイムノブロットにより検出された蛋白質が、Myc−NEDD4を発現させなかった細胞から調製した試料と比較して顕著に増加した。検出された蛋白質は、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1である。すなわち、FLAG−RUNX1、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1の増加が認められた。一方、Myc−NEDD4の代わりにMyc−NEDD4(C967A)を共発現させた細胞から調製した試料でも、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1が検出されたが、その量およびユビキチン化の程度はMyc−NEDD4を発現させた細胞から調製した試料のものと比べ、低いものであった。
【0290】
これら結果から、ヒトNEDD4およびヒトNEDD4(C967A)はいずれも、ヒトRUNX1と細胞内で結合することが明らかになった(図5のパネルA)。また、ヒトRUNX1がヒトNEDD4により細胞内においてユビキチン化されること(図5のパネルC)、それによりヒトRUNX1が高分子化することが明らかになった(図5のパネルB)。さらに、ヒトNEDD4によるヒトRUNX1のユビキチン化および高分子化には、ヒトNEDD4のE3リガーゼ活性が重要であることが判明した。
【実施例6】
【0291】
(RUNX1の安定性に対するNEDD4の影響)
RUNX1の安定性に対するNEDD4の影響を、ヒトRUNX1およびヒトNEDD4を一過性性共発現させたヒト培養細胞を使用し、ウエスタンブロッティングにより検討した。
【0292】
<材料と方法>
ヒトRUNX1発現プラスミドは、実施例5で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトRUNX1発現プラスミドにより、FLAG−RUNX1が発現する。
【0293】
ヒトNEDD4発現プラスミドおよびヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドは、それぞれ実施例2および3で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトNEDD4発現プラスミドにより、Myc−NEDD4が発現する。また、本ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドにより、Myc−NEDD4(C967A)が発現する。
【0294】
細胞内安定性実験は以下に述べるように実施した。HEK293T細胞に、ヒトRUNX1発現プラスミド 0.1μgおよびヒトNEDD4発現プラスミド 1.0〜2.0μgを実施例4に記載の方法と同様の方法でトランスフェクションした。また、ヒトNEDD4発現プラスミドの代わりに、ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミド 2.0μgを同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。さらに、ヒトRUNX1発現プラスミドのみをトランスフェクションした細胞を同様の方法で調製し、コントロールとして使用した。総DNA導入量は空ベクターにより補正した。トランスフェクションの翌日に、実施例4に記載の方法と同様の方法で細胞を回収してセルライセートを調製した。次いで、セルライセートに等量の2×SDSサンプルバッファーを加え、100℃で5分間加熱処理したものをSDS−PAGE試料として使用した。同一蛋白量の試料を5−20% SDS−PAGEで分離し、抗FLAG M2抗体(Sigma社製)、抗c−Myc抗体/A−14(Santa Cruz Biotechnology社製)および抗actin抗体/c−11(Santa Cruz Biotechnology社製)を使用したウエスタンブロッティングを実施した。検出は蛍光標識された2次抗体を使用し、Odysseyイメージングシステム(Aloka社製)により行なった。
【0295】
<結果>
図6のパネルAに示すように、ヒトNEDD4発現プラスミドの導入量に依存して、FLAG−RUNX1の減少が認められた。一方、ヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドをトランスフェクションした細胞から調製した試料では、FLAG−RUNX1の減少は認められなかった。Myc−NEDD4がヒトNEDD4発現プラスミドの導入量に依存して発現されていること、またMyc−NEDD4(C967A)がヒトNEDD4(C967A)発現プラスミドにより発現されていることは、図6のパネルBに示すように確認された。また、コントロールであるアクチンの発現量はいずれの試料においても同程度であった(図6のパネルC)。
【0296】
これら結果から、ヒトNEDD4がヒトRUNX1の細胞内での安定性を低下させることが明らかになった。また、ヒトNEDD4によるヒトRUNX1安定性の低下は、ヒトNEDD4のE3リガーゼ活性が関与することが判明した。
【実施例7】
【0297】
(内因性NEDD4との比較)
ヒト癌細胞株で検出される内因性NEDD4の大きさを、ヒト培養細胞株で一過性発現させたヒトNEDD4および短鎖型ヒトNEDD4の大きさとウエスタンブロッティングにより比較した。
【0298】
<材料と方法>
ヒトNEDD4発現プラスミドは、実施例2で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトNEDD4発現プラスミドにより、Myc−NEDD4が発現する。
【0299】
短鎖型ヒトNEDD4として、ヒトNEDD4(配列番号2)のN末端側第1番目から第100番目の100個のアミノ酸残基が欠失した蛋白質を使用した。
【0300】
また、変異の導入によりそのE3リガーゼ活性が不活性化された短鎖型ヒトNEDD4変異体を使用した。短鎖型ヒトNEDD4変異体として、HECTドメインに変異が導入された短鎖型ヒトNEDD4変異体である短鎖型ヒトNEDD4(C867A)を作製した。短鎖型ヒトNEDD4(C867A)は、短鎖型ヒトNEDD4のアミノ酸配列において第867番目のシステイン残基がアラニン残基に置換され、それによりE3リガーゼ活性が不活化された短鎖型ヒトNEDD4変異体である。短鎖型ヒトNEDD4における第867番目のシステイン残基はヒトNEDD4の第967番目のシステイン残基に相当する。
【0301】
短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドは以下に述べるように構築した。ヒトNEDD4遺伝子のORF領域のうち、ヒトNEDD4の第101番目〜第1000番目のアミノ酸配列をコードする領域(以下、短鎖型ヒトNEDD4 cDNAと称する)をPCRにより増幅し、シーケンスにより塩基配列を確認した。PCRは、実施例2で作製したヒトNEDD4発現プラスミドを鋳型とし、EcoRIサイトおよびXhoIサイトを付加したプライマーを使用して実施した。獲得した短鎖型ヒトNEDD4 cDNAは、動物細胞用発現プラスミドpCI(Promega社製)に組み込み、短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドを構築した。なお、クローニングした短鎖型ヒトNEDD4 cDNAによりコードされる推定アミノ酸配列はNCBIデータベースにアクセッションナンバーNP_006145(KIAA0093)に公開されたアミノ酸配列と同一であり、また、Swiss−ProtデータベースのアクセッションナンバーP46934(登録遺伝子名はNEDD4)に公開されたアミノ酸配列の第101番目〜第1000番目のアミノ酸配列と一致した。
【0302】
短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドは、短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドを鋳型とし、短鎖型ヒトNEDD4の第867番目のシステイン残基のアラニン残基への置換を導入し得るプライマーを設計および合成して使用し、QuikChange Site−Directed Mutagenesis kit(STRATAGENE社製)により構築した。構築した発現プラスミドのシーケンスを行い、該発現プラスミドに変異が導入されていることを確認した。
【0303】
遺伝子発現およびイムノブロットは以下に述べるように実施した。細胞数1.0×10のHEK293T細胞を6cm ディッシュに播種し、10%FBS含有DMEM培地中で37℃にて5% CO/95% エアの条件下で一晩培養後、ヒトNEDD4発現プラスミド、短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドおよび短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドのうちいずれか1の発現プラスミド 1.0μgをFuGENE6(Roche diagnostics社製)を使用して細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション後2日間培養した細胞を使用して、実施例4に記載の方法と同様の方法で細胞を回収してセルライセートを調製した。
【0304】
ヒト癌細胞株で発現されている内因性NEDD4の検出は、乳癌由来細胞株(T−47D細胞、MDA−MB−468細胞およびBT−20細胞)、大腸癌細胞株(SW480細胞)、肺癌細胞株(A549細胞)、骨髄性白血病細胞株(K562細胞およびHL−60細胞)、リンパ性白血病細胞(MOLT−4細胞)、胃癌細胞株(MKN28細胞およびMKN74細胞)のセルライセートを使用して実施した。MKN28細胞およびMKN74細胞以外の癌細胞株のセルライセートはSantaCruz社より購入した。MKN28細胞およびMKN74細胞は、プロテアーゼ阻害剤カクテルComplete Mini(Roche diagnostics社)を含むRIPA buffer(50mM Tris−HCl(pH8.0)/150mM NaCl/1% Triton X−100/0.1% SDS/0.1% DOC)で溶解しセルライセートを調製した。
【0305】
上記セルライセートに等量の2×SDSサンプルバッファーを加え、100℃で5分間加熱処理したものをSDS−PAGE試料として使用した。これら試料は5−20% SDS−PAGEにより分離し、抗NEDD4抗体(H−135、SantaCruz社製)を使用したウエスタンブロッティングにより、NEDD4を検出した。検出はECL western blotting detection kit(Amersham Biosciences社製)を使用して実施した。
【0306】
<結果>
短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドをトランスフェクションしたHEK293細胞において、短鎖型ヒトNEDD4が検出された(図7のパネルA、レーン1)。また、短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドをトランスフェクションしたHEK293細胞において、短鎖型ヒトNEDD4(C867A)が検出された(図7のパネルA、レーン2)。
【0307】
一方、ヒトNEDD4発現プラスミドをトランスフェクションしたHEK293細胞を使用した解析では、ヒトNEDD4のバンドの他に、短鎖型ヒトNEDD4および短鎖型ヒトNEDD4(C867A)の位置(図7のパネルA、レーン1および2参照)にバンドが認められた(図7のパネルA、レーン3)。このことから、HEK293細胞においては、内因性と考えられる短鎖型ヒトNEDD4が発現していると考える。
【0308】
T−47D細胞を使用した解析では、ヒトNEDD4のバンドは認められず、短鎖型ヒトNEDD4および短鎖型ヒトNEDD4(C867A)の位置(図7のパネルA、レーン1および2参照)にバンドが認められた(図7のパネルA、レーン4)。このことから、T−47D細胞においては、ヒトNEDD4はほとんど発現しておらず、短鎖型ヒトNEDD4が発現していると考える。
【0309】
T−47D細胞以外の癌細胞株を使用した解析では、T−47D細胞を使用した解析で認められたバンドの位置にバンドが認められた(図7のパネルB)。このことから、T−47D細胞以外の癌細胞株において、T−47D細胞と同様、短鎖型ヒトNEDD4が発現していると考える。
【0310】
これら結果から、癌細胞株で主に発現しているNEDD4は短鎖型NEDD4であると考える。
【実施例8】
【0311】
(短鎖型NEDD4とRUNX1またはRUNX3との結合、並びに短鎖型NEDD4によるRUNX1またはRUNX3のin vivoユビキチン化)
短鎖型NEDD4とRUNX1またはRUNX3との結合、並びに短鎖型NEDD4によるRUNX1またはRUNX3のin vivoユビキチン化の検討を、ヒトRUNX1またはヒトRUNX3を、短鎖型ヒトNEDD4およびユビキチンと共に一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により実施した。また、E3リガーゼが不活化された短鎖型ヒトNEDD4(C867A)を使用して同様の検討を行った。
【0312】
<材料と方法>
ヒトRUNX1発現プラスミドは、実施例5で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトRUNX1発現プラスミドにより、FLAG−RUNX1が発現する。
【0313】
ヒトRUNX3発現プラスミドは、実施例2で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトRUNX3発現プラスミドにより、FLAG−RUNX3が発現する。
【0314】
Myc−tag結合短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドは以下に述べるように構築した。短鎖型ヒトNEDD4 cDNA(実施例7参照)を、その5´末端にMyc−tagコード配列を付加した後に、動物細胞用発現プラスミドpCI(Promega社製)に組み込み、Myc−tag結合短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミド(以下、Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドと称する)を構築した。本Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドにより、Myc−短鎖型ヒトNEDD4(以下、Myc−短鎖型NEDD4と称する)が発現する。
【0315】
Myc−tag結合短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドは以下に述べるように構築した。短鎖型ヒトNEDD4(C867A) cDNA(実施例7参照)を、その5´末端にMyc−tagコード配列を付加した後に、動物細胞用発現プラスミドpCI(Promega社製)に組み込み、Myc−tag結合短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミド(以下、Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドと称する)を構築した。本Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドにより、Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)(以下、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)と称する)が発現する。
【0316】
ヒトユビキチン(Ub)発現プラスミドは、実施例3で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトUb発現プラスミドにより、N末端HA−tag結合ヒトUb(以下、HA−Ubと称する)が発現する。
【0317】
In vivoユビキチン化実験は以下に述べるように実施した。HEK293T細胞に、ヒトRUNX1発現プラスミドまたはヒトRUNX3発現プラスミド 0.1μgを、Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミド 2.0μgおよびヒトUb発現プラスミド 0.25μgと共に実施例4に記載の方法と同様の方法でトランスフェクションした。また、Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドの代わりに、Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミド 2.0μgを同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。さらに、ヒトRUNX1発現プラスミドまたはヒトRUNX3発現プラスミドをヒトUb発現プラスミドと共に同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製し、コントロールとして使用した。総DNA導入量は空ベクターにより補正した。トランスフェクション後2日間培養した細胞を実施例2と同様の方法で処理してセルライセートを調製した。次いで、セルライセートにprotein G sepharose 4 FastFlow(Amersham Biosciences社製)50%スラリーを40μL加え、4℃にて1時間転倒混和した。その後、10,000rpmで15秒間、4℃にて遠心処理し、回収した上清に抗FLAG M2抗体(Sigma社製)0.5μLを加えて4℃にて2.5時間転倒混和した後、新たにprotein G sepharose 4 FastFlow 50%スラリーを40μL加え、再度、4℃にて2時間転倒混和した。Protein G sepharose 4 FastFlowを遠心処理により回収し、リシスバッファー(実施例2に記載のものと同一組成)で3回洗浄後、20μLの2×SDSサンプルバッファーを加え、100℃で5分間加熱処理したものをSDS−PAGE試料として使用した。試料は5−20% SDS−PAGEにより分離し、ウエスタンブロッティングにより、ペルオキシダーゼ標識抗c−Myc抗体(ナカライテスク社製)を使用してMyc−短鎖型NEDD4およびMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を、ペルオキシダーゼ標識抗FLAG M2抗体(Sigma社製)を使用してFLAG−RUNX1およびFLAG−RUNX3を、ペルオキシダーゼ標識抗HA/3F10抗体(Roche diagnostics社製)を使用してHA−Ubをそれぞれ検出した。検出はECL western blotting detection kit(Amersham Biosciences社製)を使用して実施した。
【0318】
<結果>
図8のパネルAに示すように、FLAG−RUNX1、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降によりMyc−短鎖型NEDD4とFLAG−RUNX1の共沈が認められた。また、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)、FLAG−RUNX1およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)とFLAG−RUNX1の共沈が認められた。
【0319】
図8のパネルBに示すように、FLAG−RUNX1、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、FLAG−RUNX1より高い分子量を有する複数の蛋白質が、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降により検出された。一方、Myc−短鎖型NEDD4の代わりにE3リガーゼ活性が不活化されたMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞から調製した試料において、このような高分子量の蛋白質はほとんど検出されなかった。FLAG−RUNX1、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4の発現、およびMyc−短鎖型NEDD4の代わりにMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4(C867A)の発現は同程度であった(図8のパネルD)。
【0320】
図8のパネルCに示すように、FLAG−RUNX1、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降および抗HA抗体を使用したイムノブロットにより検出された蛋白質が、Myc−短鎖型NEDD4を発現させなかった細胞から調製した試料と比較して顕著に増加した。検出された蛋白質は、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1である。すなわち、FLAG−RUNX1、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1の増加が認められた。一方、Myc−短鎖型NEDD4の代わりにMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞から調製した試料でも、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1が検出されたが、その量およびユビキチン化の程度はMyc−短鎖型NEDD4を発現させた細胞から調製した試料のものに比べ、著しく低いものであった。
【0321】
図9のパネルAに示すように、FLAG−RUNX3、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降によりMyc−短鎖型NEDD4とFLAG−RUNX3の共沈が認められた。また、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)、FLAG−RUNX3およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)とFLAG−RUNX3の共沈が認められた。
【0322】
図9のパネルBに示すように、FLAG−RUNX3、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、FLAG−RUNX3より高い分子量を有する複数の蛋白質が、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降により検出された。一方、Myc−短鎖型NEDD4の代わりにE3リガーゼ活性が不活化されたMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞から調製した試料において、このような高分子量の蛋白質はほとんど検出されなかった。FLAG−RUNX3、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4の発現、およびMyc−短鎖型NEDD4の代わりにMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4(C867A)の発現は、同程度であった(図9のパネルD)。
【0323】
図9のパネルCに示すように、FLAG−RUNX3、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降および抗HA抗体を使用したイムノブロットにより検出された蛋白質が、Myc−短鎖型NEDD4を発現させなかった細胞から調製した試料と比較して顕著に増加した。検出された蛋白質は、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3である。すなわち、FLAG−RUNX3、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3の増加が認められた。一方、Myc−短鎖型NEDD4の代わりにMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞から調製した試料でも、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3が検出されたが、その量およびユビキチン化の程度はMyc−短鎖型NEDD4を発現させた細胞から調製した試料のものに比べ、著しく低いものであった。
【0324】
これら結果から、短鎖型ヒトNEDD4および短鎖型ヒトNEDD4(C867A)はいずれも、ヒトRUNX1と細胞内で結合することが明らかになった(図8のパネルA)。また、ヒトRUNX1が短鎖型ヒトNEDD4により細胞内においてユビキチン化されること(図8のパネルC)、それによりヒトRUNX1が高分子化すること(図8のパネルB)が明らかになった。さらに、短鎖型ヒトNEDD4によるヒトRUNX1のユビキチン化および高分子化には、短鎖型ヒトNEDD4のE3リガーゼ活性が重要であることが判明した。
【0325】
また、短鎖型ヒトNEDD4および短鎖型ヒトNEDD4(C867A)はいずれも、ヒトRUNX3と細胞内で結合することが明らかになった(図9のパネルA)。また、ヒトRUNX3が短鎖型ヒトNEDD4により細胞内においてユビキチン化されること(図9のパネルC)、それによりヒトRUNX3が高分子化すること(図9のパネルB)が明らかになった。さらに、短鎖型ヒトNEDD4によるヒトRUNX3のユビキチン化および高分子化には、短鎖型ヒトNEDD4のE3リガーゼ活性が重要であることが判明した。
【実施例9】
【0326】
(短鎖型NEDD4とRUNX2の結合、および短鎖型NEDD4によるRUNX2のin vivoユビキチン化)
短鎖型NEDD4とRUNX2の結合、および短鎖型NEDD4によるRUNX2のin vivoユビキチン化を、ヒトRUNX2、ヒト短鎖型ヒトNEDD4およびヒトユビキチンを一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により検討した。また、E3リガーゼが不活化された短鎖型ヒトNEDD4(C867A)を使用して同様の検討を行った。
【0327】
<材料と方法>
ヒトRUNX2発現プラスミドは以下に述べるように構築した。ヒトRUNX2のcDNAはヒト骨髄由来cDNA(QUCIK−clone cDNA、Clontech社製)から、EcoRVサイトおよびXhoIサイトを付加したプライマーを使用してPCRにより獲得し、シーケンスにより塩基配列を確認した。獲得したcDNAは、N末端FLAG−tag結合蛋白質を発現させるための動物細胞用発現プラスミドpCMV−Tag2(STRATAGENE社製)にEcoRV/XhoIサイトで組み込み、ヒトRUNX2発現プラスミドを構築した。本ヒトRUNX2発現プラスミドにより、N末端FLAG−tag結合ヒトRUNX2(以下、FLAG−RUNX2と称する)が発現する。なお、クローニングしたヒトRUNX2 cDNAによりコードされる推定アミノ酸配列はNCBIプロテインデータベースのアクセッションナンバーNP_004339(登録遺伝子RUNX2)に開示されたものと同一であった。
【0328】
Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドおよびMyc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドは、いずれも実施例8で作製した発現プラスミドを使用した。本Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドにより、Myc−短鎖型ヒトNEDD4が発現する。本Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドにより、Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)が発現する。
【0329】
ヒトユビキチン(Ub)発現プラスミドは、実施例3で作製した発現プラスミドを使用した。本ヒトUb発現プラスミドにより、HA−Ubが発現する。
【0330】
In vivoユビキチン化実験は以下に述べるように実施した。HEK293T細胞に、ヒトRUNX2発現プラスミド 0.1μg、Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミド 2.0μg、およびヒトUb発現プラスミド 0.25μgを実施例4に記載の方法と同様の方法でトランスフェクションした。また、Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドの代わりに、Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミド 2.0μgを同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。さらに、ヒトRUNX2発現プラスミドとヒトUb発現プラスミドを同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製し、コントロールとして使用した。総DNA導入量は空ベクターにより補正した。トランスフェクション後2日間培養した細胞を実施例2と同様の方法で処理してセルライセートを調製した。次いで、セルライセートにprotein G sepharose 4 FastFlow(Amersham Biosciences社製)50%スラリーを40μL加え、4℃にて1時間転倒混和した。その後、10,000rpmで15秒間、4℃にて遠心処理し、採取した上清に抗FLAG M2抗体(Sigma社製)0.5μLを加え4℃にて2.5時間転倒混和した後、新たにprotein G sepharose 4 FastFlow 50%スラリーを40μL加え、再度、4℃にて2時間転倒混和した。Protein G sepharose 4 FastFlowを遠心処理により回収し、リシスバッファー(実施例2に記載のものと同一組成)で3回洗浄後、20μLの2×SDSサンプルバッファーを加え、100℃で5分間加熱処理したものをSDS−PAGE試料として使用した。試料は5−20% SDS−PAGEにより分離し、ウエスタンブロッティングにより、ペルオキシダーゼ標識抗c−Myc抗体(ナカライテスク社製)を使用してMyc−短鎖型NEDD4およびMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を、ペルオキシダーゼ標識抗FLAG M2抗体(Sigma社製)を使用してFLAG−RUNX2を、ペルオキシダーゼ標識抗HA/3F10抗体(Roche diagnostics社製)を使用してHA−Ubをそれぞれ検出した。検出はECL western blotting detection kit(Amersham Biosciences社製)を使用して実施した
【0331】
<結果>
図10のパネルAに示すように、FLAG−RUNX2、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降によりMyc−短鎖型NEDD4とFLAG−RUNX2の共沈が認められた。また、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)、FLAG−RUNX2およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)とFLAG−RUNX2の共沈が認められた。
【0332】
図10のパネルBに示すように、FLAG−RUNX2、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、FLAG−RUNX2より高い分子量を有する複数の蛋白質が、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降により検出された。一方、Myc−短鎖型NEDD4の代わりにE3リガーゼ活性が不活化されたMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞から調製した試料では、このような高分子量の蛋白質はほとんど検出されなかった。FLAG−RUNX2、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4の発現、およびMyc−短鎖型NEDD4の代わりにMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4(C867A)の発現は、同程度であった(図10のパネルD)。
【0333】
図10のパネルCに示すように、FLAG−RUNX2、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降および抗HA抗体を使用したイムノブロットにより検出された蛋白質が、Myc−短鎖型NEDD4を発現させなかった細胞から調製した試料と比較して顕著に増加した。検出された蛋白質は、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX2である。すなわち、FLAG−RUNX2、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX2の増加が認められた。一方、Myc−短鎖型NEDD4の代わりにMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞から調製した試料では、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX2を示すバンドは検出されなかった。
【0334】
これら結果から、短鎖型ヒトNEDD4および短鎖型ヒトNEDD4(C867A)はいずれも、ヒトRUNX2と細胞内で結合することが明らかになった(図10のパネルA)。また、ヒトRUNX2が短鎖型ヒトNEDD4により細胞内においてユビキチン化されること(図10のパネルC)、それによりヒトRUNX2が高分子化すること(図10のパネルB)が明らかになった。さらに、短鎖型ヒトNEDD4によるヒトRUNX2のユビキチン化および高分子化には、短鎖型ヒトNEDD4のE3リガーゼ活性が重要であることが判明した。
【実施例10】
【0335】
(BMP−2の骨分化作用に対する不活性型NEDD4の影響)
BMP−2の骨分化作用に対する、NEDD4のE3リガーゼ活性の影響を検討するため、マウス培養細胞にE3リガーゼ不活性型ヒトNEDD4を一過性発現させ、骨形成マーカーであるアルカリフォスファターゼ(以下、ALPと略称する)活性を測定した。
【0336】
骨分化の検討は、マウス培養細胞C2C12細胞を使用して行った。C2C12細胞は、マウス筋芽細胞であり、骨芽細胞や軟骨細胞と同じ間葉系幹細胞に由来する。C2C12細胞はBMP−2刺激により典型的な骨芽細胞のフェノタイプ、例えばALP活性の上昇やオステオカルシンの産生等を示すことから、BMP−2シグナルに依存した骨形成のモデル細胞として利用されている(カタギリ(Katagiri T.)ら、「ザ ジャーナル オブ セル バイオロジー(The Journal of Cell Biology)」、1994年、第127巻、p.1755−1766)。
【0337】
BMPは生体内で未分化間葉系幹細胞を軟骨細胞、骨芽細胞に分化、増殖させ骨組織を誘導するサイトカインである。BMP−2は骨折治癒過程の初期に発現することが確認されており、骨修復における一連のカスケードの進行に関与している。
【0338】
<材料と方法>
E3リガーゼ不活性型ヒトNEDD4として、短鎖型ヒトNEDD4(C867A)を使用した。Myc−tag結合短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドは、短鎖型ヒトNEDD4の第867番目のシステイン残基のアラニン残基への置換を導入し得るプライマーを設計および合成して使用し、クイックチェンジサイトダイレクティッドミュータジェネシスキット(QuikChange Site−Directed Mutagenesis kit、STRATAGENE社製)により構築した。構築した発現プラスミドのシーケンスを行い、該発現プラスミドに変異が導入されていることを確認した。本Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドにより、N末端Myc−tag結合短鎖型ヒトNEDD4(C867A)(以下、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)と称する)が発現する。
【0339】
Myc−tag結合短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドは実施例8で作製した発現プラスミドを使用した。本Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドにより、N末端Myc−tag結合短鎖型ヒトNEDD4(以下、Myc−短鎖型NEDD4と称する)が発現する。
【0340】
BMP−2の骨分化作用に対するE3リガーゼ不活性型ヒトNEDD4の影響の検討は、以下に述べるように実施した。マウス筋芽細胞のC2C12細胞を、10%FBS含有DMEM培地中で37℃にて5% CO/95% エアの条件下で2日間培養後、細胞をトリプシン/EDTAにて処理・回収し、ヌクレオフェクター(Nucleofector、Amaxa社製)を使用して、Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミド2μgをエレクトロポレーションにより細胞にトランスフェクションした。また、Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドの代わりに、Myc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドを同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製した。さらに、これら発現プラスミドの代わりに空ベクター(動物細胞用発現プラスミドpCI)を同様の方法でトランスフェクションした細胞を調製し、コントロールとして使用した。次いで、細胞数1.6×10の細胞を6ウエルプレートの各ウエルに播種し一晩培養後、培養培地を、フェノールレッド無添加DMEM/5%チャコール−デキストラン処理FCS(Hyclone社)にBMP−2(R&D Systems社製)を最終濃度300ng/mlとなるように添加した培地と交換した。BMP−2存在下で3日間培養した後、細胞を回収し、リシスバッファー(20mM Tris(pH8.0)/0.1% Triton X−100)にて細胞溶解液を調製した。細胞溶解液の蛋白質濃度を測定後、各20μgの蛋白質中のALP活性(Ab595nm/min/g)の測定を、BluPhos Microwell Phosphatase Substrate System(KPL社製)を使用して実施した。
【0341】
BMP−2無処理の空ベクター導入細胞から調製した細胞溶解液のALP活性に対し、Myc−短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドまたはMyc−短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドをトランスフェクションした細胞から調製した細胞溶解液のALP活性の相対値を算出し、得られた相対値によりBMP−2の骨分化作用に対する短鎖型ヒトNEDD4または短鎖型ヒトNEDD4(C867A)の影響を評価した。得られたデータについて統計処理を行った。各処理群のALP活性データの分散についてはF検定を、平均値の差についてはスチューデントのt検定(student’s t−test)またはウエルチのt検定(Welch’s t−test)を行なった。
【0342】
<結果>
BMP−2刺激下において、短鎖型ヒトNEDD4発現細胞のALP活性と空ベクター導入細胞のALP活性には有意な差はみられなかった。これに対し、BMP−2で刺激した短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現細胞では、空ベクター導入細胞のALP活性と比較して約1.4倍のALP活性の増加が確認された(図11)。短鎖型ヒトNEDD4(C867A)はE3リガーゼ不活性型短鎖型ヒトNEDD4である。
【0343】
本結果より、NEDD4のE3リガーゼ活性が、BMP−2誘発骨分化の亢進に寄与することが明らかになった。
【実施例11】
【0344】
(BMP−2の骨分化作用に対するNEDD4ノックダウンの影響)
BMP−2の骨分化作用に対する内因性NEDD4の影響を検討するため、マウス培養細胞においてsiRNAによりマウスNEDD4をノックダウンし、骨形成マーカーであるALP活性を測定した。
【0345】
<材料と方法>
マウスNEDD4(NCBIデータベースにアクセッションナンバーNM_010890で公開されている)のsiRNAはInvitrogen社より購入したNM_010890_stealth_360を使用した。また、コントロールsiRNAは、QIAGEN社のネガティブコントロール siRNAを使用した。
【0346】
マウスNEDD4(以下、Nedd4と称する)のsiRNAを構成するセンスRNAおよびアンチセンスRNAの塩基配列を以下に示す。
センスRNA:5´−GGAGUUGAAUCCGAAUUCCCUGGAA−3´(配列番号19)
アンチセンスRNA:5´−UUCCAGGGAAUUCGGAUUCAACUCC−3´(配列番号20)
【0347】
細胞へのsiRNAの導入は以下に述べるように行った。細胞数4×10のマウス筋芽細胞C2C12細胞を6cm dishに播種し、10%FBS含有DMEM培地中で37℃にて5% CO/95% エアの条件下で一晩培養した。一方、500μlのOPTI−MEM培地に10μlのリポフェクトアミン2000(Lipofectamione 2000、Invitrogen社製)を添加し、室温にて5分間インキュベーションした。その後、500μlのOPTI−MEM培地に250pmolのNedd4 siRNAまたはネガティブコントロール siRNAを添加した溶液と混和し(計1ml)、さらに20分間室温でインキュベーションし、siRNA/lipofectamine2000混合液を調製した。上記細胞の培養培地を3mlのOPTI−MEMに交換し、siRNA/lipofectamine2000混合液を添加した。
【0348】
BMP−2の骨分化作用に対するNedd4 siRNA影響を、以下に述べるように検討した。siRNAを細胞に導入して6時間培養後、培養培地を、フェノールレッド無添加DMEM/5%チャコール−デキストラン処理FCS(Hyclone社)にBMP−2(R&D Systems社製)を最終濃度600ng/mlとなるように添加した培地と交換した。BMP−2存在下で3日間培養した後、細胞を回収し、リシスバッファー(20mM Tris(pH8.0)/0.1% Triton X−100)にて細胞溶解液を調製した。細胞溶解液の蛋白質濃度を測定後、各20μgの蛋白質中のALP活性(Ab595nm/min/g)をBluPhos Microwell Phosphatase Substrate System(KPL社)を使用して測定した。
【0349】
BMP−2無添加条件下のネガティブコントロール siRNAを導入した細胞から調製した細胞溶解液のALP活性に対し、Nedd4 siRNAを導入した細胞から調製した細胞溶解液のALP活性の相対値を算出し、得られた相対値によりBMP−2の骨分化作用に対するNedd4 siRNAの影響を評価した。得られたデータについて統計処理を行った。各処理群のALP活性データの分散についてはF検定を、平均値の差についてはスチューデントのt検定またはウエルチのt検定を行なった。
【0350】
Nedd4 siRNAによる細胞内Nedd4ノックダウンの確認をウエスタンブロッティングにより実施した。上記で作製した細胞溶解液の一部に5×SDS サンプルバッファーを添加し、100℃で5分間加熱したものをSDS−PAGE試料として使用した。試料を5−20% gelにより分離し、抗NEDD4抗体H−135(Santa Cruz Biotechnology社製)および抗アクチン抗体C−11(Santa Cruz Biotechnology社製)を使用したウエスタンブロッティングを実施した。蛋白質バンドの検出および定量は、蛍光標識した2次抗体を使用し、Odysseyイメージングシステム(Aloka社製)により行なった。BMP−2無処理のネガティブコントロール siRNA導入細胞において検出されたNedd4のバンドの濃度に対する、各細胞において検出されたNedd4のバンドの濃度の相対値を算出した。相対値を算出するとき、各細胞において検出されたNedd4のバンドの濃度は、アクチン(Actin)のバンドの濃度により補正した。
【0351】
<結果>
Nedd4 siRNA処理細胞では、ネガティブコントロール siRNA処理細胞と比較して、BMP−2刺激によるALP活性が約2倍増加した(図12のパネルA)。
【0352】
Nedd4 siRNA処理細胞では、Nedd4の発現が著しく阻害された(図12のパネルB)。Nedd4 siRNAによるNedd4のノックダウン率は50%以上であった。
【0353】
以上の結果から、NEDD4の発現を阻害することでBMP−2刺激による骨分化作用は増強することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0354】
本発明によれば、NEDD4または短鎖型NEDD4を使用してRUNXをユビキチン化する方法を提供できる。本方法を利用して、NEDD4または短鎖型NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または該ユビキチン化を促進する化合物の同定方法を提供できる。NEDD4、あるいはNEDD4または短鎖型NEDD4によるRUNXのユビキチン化を促進する化合物を使用して、NEDD4または短鎖型NEDD4によるRUNXのユビキチン化を促進することができ、それにより、RUNXの分解を促進できる。また、不活性型NEDD4、あるいはNEDD4または短鎖型NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物を使用して、NEDD4または短鎖型NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害することができ、それにより、RUNXの分解を阻害できる。このように、RUNXのユビキチン化およびそれによる分解を調節することにより、RUNXの異常に起因する疾患の予防および/または治療が可能である。RUNXが腫瘍形成および癌疾患の増悪に関与していると考えられることから、本発明により多様な癌疾患の予防および/または治療が可能である。
【0355】
また本発明によれば、NEDD4または短鎖型NEDD4の発現あるいは機能を阻害する化合物を同定することを特徴とする、骨形成を促進させ得る化合物の同定方法を提供できる。本同定方法により得られた化合物は、骨形成を促進させ得る化合物であるため、骨損失疾患等、例えば骨粗しょう症の予防および/または治療剤の有効成分として利用できる。
【0356】
本発明は、RUNXの分解のメカニズム、RUNXが関与する転写のメカニズムおよびRUNXの異常に起因する疾患等に関する基礎的研究や医薬品開発等に有用である。さらに本発明は、RUNXの異常に起因する疾患、例えば癌疾患の予防および/または治療に利用できる。また、本発明は、骨損失疾患等、例えば骨粗しょう症の予防および/または治療剤の開発に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0357】
【図1】RUNX3とNEDD4の相互作用をインシリコで予測した結果を示す図である。RUNX3とNEDD4の間でローカルアライメントを行い、高いスコア(score)を示した領域を図示した。アミノ酸配列は1文字表記した。図中の数字は、RUNX3またはNEDD4の各アミノ酸配列における、図示した各領域のN末端アミノ酸の位置を意味する。(実施例1)
【図2】ヒトRUNX3とヒトNEDD4のin vivoでの結合を、FLAG−RUNX3およびMyc−NEDD4を一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により検出した結果を示す図である。パネルAおよびパネルBは、抗FLAG抗体による免疫沈降物についてそれぞれ抗Myc抗体および抗FLAG抗体を使用してイムノブロットを行った結果を示す。図中、+および−はそれぞれ各発現プラスミドの有無を、IPは抗FLAG M2抗体を使用して免疫沈降した試料を、セルライセートは免疫沈降していない細胞溶解液試料を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。Myc−NEDD4とFLAG−RUNX3とを共発現させた細胞から調製した試料でのみ、抗FLAG M2抗体を使用した免疫沈降によりMyc−NEDD4とFLAG−RUNX3の共沈が認められた(パネルA)。一方、FLAG−RUNX3非発現細胞から調製した試料ではMyc−NEDD4の共沈が認められなかった。両試料におけるMyc−NEDD4の発現は同程度であった(パネルA)。また、細胞で発現したFLAG−RUNX3が抗FLAG M2抗体により回収されていることが確認された(パネルB)。(実施例2)
【図3】ヒトNEDD4によるヒトRUNX3のin vivoでのユビキチン化を、FLAG−RUNX3、Myc−NEDD4およびHA−ユビキチンを一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により検討した結果を示す図である。パネルAおよびパネルBは、抗FLAG抗体による免疫沈降物について、それぞれ抗FLAG抗体および抗HA抗体を使用したイムノブロットを行った結果を示す。また、パネルCはセルライセートについて抗Myc抗体を使用したイムノブロットを行った結果を示す。図中、+および−はそれぞれ各発現プラスミドの有無を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。FLAG−RUNX3、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、FLAG−RUNX3より高い分子量を有する複数の蛋白質が検出され(パネルA)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3の増加が認められた(パネルB)。一方、Myc−NEDD4の代わりにE3リガーゼ活性が不活化されたMyc−NEDD4(C967A)を共発現させた細胞から調製した試料においては、高分子量蛋白質の検出量は少なく(パネルA)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3の量およびそのユビキチン化の程度は著しく低かった(パネルB)。FLAG−RUNX3、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−NEDD4の発現、およびMyc−NEDD4の代わりにMyc−NEDD4(C967A)を共発現させた細胞におけるMyc−NEDD4(C967A)の発現は同程度であった(パネルC)。(実施例3)
【図4】ヒトRUNX3の安定性に対するヒトNEDD4の影響を、FLAG−RUNX3およびMyc−NEDD4を一過性性共発現させたヒト培養細胞を使用し、ウエスタンブロッティングにより検討した結果を示す図である。パネルA、パネルBおよびパネルCは、それぞれ抗FLAG抗体、抗Myc抗体および抗アクチン抗体を使用したイムノブロットを行った結果を示す。図中、+および−はそれぞれ各発現プラスミドの有無を示し、数字はDNA導入量を示す。図の右列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。NEDD4発現プラスミドの導入量に依存して、FLAG−RUNX3の減少が認められた(パネルA)。一方、NEDD4(C967A)発現プラスミドをトランスフェクションした細胞から調製した試料では、FLAG−RUNX3の減少は認められなかった(パネルA)。Myc−NEDD4がNEDD4発現プラスミドの導入量に依存して発現されていること、またMyc−NEDD4(C967A)がNEDD4(C967A)発現プラスミドにより発現されていることは確認された(パネルB)。また、コントロールであるアクチンの発現量はいずれの試料においても同程度であった(パネルC)。(実施例4)
【図5】ヒトNEDD4とヒトRUNX1の結合およびヒトNEDD4によるヒトRUNX1のin vivo ユビキチン化を、FLAG−RUNX1、Myc−NEDD4およびHA−ユビキチンを一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により検討した結果を示す図である。パネルA、パネルBおよびパネルCは、抗FLAG抗体による免疫沈降物について、それぞれ抗Myc抗体、抗FLAG抗体および抗HA抗体によるイムノブロットを行った結果を示す。パネルDは、セルライセートについて、抗Myc抗体によるイムノブロットを行った結果を示す。図中、+および−はそれぞれ各発現プラスミドの有無を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。Myc−NEDD4、FLAG−RUNX1およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、Myc−NEDD4とFLAG−RUNX1の共沈が認められ(パネルA)、FLAG−RUNX1より高い分子量を有する複数の蛋白質が検出され(パネルB)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1の増加が認められた(パネルC)。一方、Myc−NEDD4(C967A)、FLAG−RUNX1およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、Myc−NEDD4(C967A)とFLAG−RUNX1の共沈が認められたが(パネルA)、高分子量の蛋白質はほとんど検出されず(パネルB)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1の量およびそのユビキチン化の程度は低かった(パネルC)。FLAG−RUNX1、Myc−NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−NEDD4の発現、およびMyc−NEDD4の代わりにMyc−NEDD4(C967A)を共発現させた細胞におけるMyc−NEDD4(C967A)の発現は同程度であった(パネルD)。(実施例5)
【図6】ヒトRUNX1の安定性に対するヒトNEDD4の影響を、FLAG−RUNX1およびMyc−NEDD4を一過性性共発現させたヒト培養細胞を使用し、ウエスタンブロッティングにより検討した結果を示す図である。パネルA、パネルBおよびパネルCは、それぞれ抗FLAG抗体、抗Myc抗体および抗アクチン抗体を使用したイムノブロットを行った結果を示す。図中、+および−はそれぞれ各発現プラスミドの有無を示し、数字はDNA導入量を示す。図の右列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。NEDD4発現プラスミドの導入量に依存して、FLAG−RUNX1の減少が認められた(パネルA)。一方、NEDD4(C967A)発現プラスミドをトランスフェクションした細胞から調製した試料では、FLAG−RUNX1の減少は認められなかった(パネルA)。Myc−NEDD4がNEDD4発現プラスミドの導入量に依存して発現されていること、またMyc−NEDD4(C967A)がNEDD4(C967A)発現プラスミドにより発現されていることは確認された(パネルB)。また、コントロールであるアクチンの発現量はいずれの試料においても同程度であった(パネルC)。(実施例6)
【図7】ヒト癌細胞株で検出される内因性NEDD4の大きさを、ヒト培養細胞株で一過性発現させたヒトNEDD4および短鎖型ヒトNEDD4とウエスタンブロッティングにより比較した結果を示す図である。パネルAは、短鎖型NEDD4(レーン1)、短鎖型NEDD4(C867A)(レーン2)またはMyc−NEDD4(レーン3)を発現させたHEK293T細胞のセルライセート、およびヒト乳癌細胞株T−47Dのセルライセート(レーン4)について、抗NEDD4抗体を使用したイムノブロットを行った結果を示す。パネルBは、様々なヒト癌細胞株のセルライセートについて、抗NEDD4抗体を使用したイムノブロットを行った結果を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。(実施例7)
【図8】短鎖型ヒトNEDD4とヒトRUNX1の結合、および短鎖型ヒトNEDD4によるヒトRUNX1のin vivoユビキチン化を、FLAG−RUNX1、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−ユビキチンを一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により検討した結果を示す図である。パネルA、パネルBおよびパネルCは、抗FLAG抗体による免疫沈降物について、それぞれ抗Myc抗体、抗FLAG抗体および抗HA抗体によるイムノブロットを行った結果を示す。パネルDは、セルライセートについて、抗Myc抗体によるイムノブロットを行った結果を示す。図中、+および−はそれぞれ各発現プラスミドの有無を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。Myc−短鎖型NEDD4、FLAG−RUNX1およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、Myc−短鎖型NEDD4とFLAG−RUNX1の共沈が認められ(パネルA)、FLAG−RUNX1より高い分子量を有する複数の蛋白質が検出され(パネルB)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1の増加が認められた(パネルC)。一方、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)、FLAG−RUNX1およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)とFLAG−RUNX1の共沈が認められたが(パネルA)、高分子量の蛋白質はほとんど検出されず(パネルB)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX1の量およびそのユビキチン化の程度は著しく低かった(パネルC)。FLAG−RUNX1、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4の発現、およびMyc−短鎖型NEDD4の代わりにMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4(C867A)の発現は同程度であった(パネルD)。(実施例8)
【図9】短鎖型ヒトNEDD4とヒトRUNX3の結合、および短鎖型ヒトNEDD4によるヒトRUNX3のin vivoユビキチン化を、FLAG−RUNX3、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−ユビキチンを一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により検討した結果を示す図である。パネルA、パネルBおよびパネルCは、抗FLAG抗体による免疫沈降物について、それぞれ抗Myc抗体、抗FLAG抗体および抗HA抗体によるイムノブロットを行った結果を示す。パネルDは、セルライセートについて、抗Myc抗体によるイムノブロットを行った結果を示す。図中、+および−はそれぞれ各発現プラスミドの有無を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。Myc−短鎖型NEDD4、FLAG−RUNX3およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、Myc−短鎖型NEDD4とFLAG−RUNX3の共沈が認められ(パネルA)、FLAG−RUNX3より高い分子量を有する複数の蛋白質が検出され(パネルB)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3の増加が認められた(パネルC)。一方、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)、FLAG−RUNX3およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)とFLAG−RUNX3の共沈が認められたが(パネルA)、高分子量の蛋白質はほとんど検出されず(パネルB)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX3の量およびそのユビキチン化の程度は低かった(パネルC)。FLAG−RUNX3、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4の発現、およびMyc−短鎖型NEDD4の代わりにMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4(C867A)の発現は同程度であった(パネルD)。(実施例8)
【図10】短鎖型ヒトNEDD4とヒトRUNX2の結合、および短鎖型ヒトNEDD4によるヒトRUNX2のin vivoユビキチン化を、FLAG−RUNX2、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−ユビキチンを一過性共発現させたヒト培養細胞を使用して免疫沈降法により検討した結果を示す図である。パネルA、パネルBおよびパネルCは、抗FLAG抗体による免疫沈降物について、それぞれ抗Myc抗体、抗FLAG抗体および抗HA抗体によるイムノブロットを行った結果を示す。パネルDは、セルライセートについて、抗Myc抗体によるイムノブロットを行った結果を示す。図中、+および−はそれぞれ各発現プラスミドの有無を示す。図の左列に記載した数値は分子量マーカーの分子量である。Myc−短鎖型NEDD4、FLAG−RUNX2およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料において、Myc−短鎖型NEDD4とFLAG−RUNX2の共沈が認められ(パネルA)、FLAG−RUNX2より高い分子量を有する複数の蛋白質が検出され(パネルB)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX2の増加が認められた(パネルC)。一方、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)、FLAG−RUNX2およびHA−Ubを共発現させた細胞から調製した試料では、Myc−短鎖型NEDD4(C867A)とFLAG−RUNX2の共沈が認められたが(パネルA)、高分子量の蛋白質は検出されず(パネルB)、また、HA−Ubが付加されたFLAG−RUNX2も検出されなかった(パネルC)。FLAG−RUNX2、Myc−短鎖型NEDD4およびHA−Ubを共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4の発現、およびMyc−短鎖型NEDD4の代わりにMyc−短鎖型NEDD4(C867A)を共発現させた細胞におけるMyc−短鎖型NEDD4(C867A)の発現は同程度であった(パネルD)。(実施例9)
【図11】マウスC2C12細胞において、短鎖型ヒトNEDD4(C867A)がBMP−2刺激下でALP活性を亢進させることを示す図面である。空ベクター(Empty vector)、短鎖型ヒトNEDD4発現プラスミドまたは短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミドを細胞に導入し、300ng/mlのBMP−2刺激下で3日間培養後、細胞中のALP活性を測定した。各データはBMP−2無処理の空ベクター導入細胞におけるALP活性に対する相対値(Relative ALP activity)を示す(平均値±SD、n=6)。図中、短鎖型ヒトNEDD4および短鎖型ヒトNEDD4(C867A)はそれぞれ、単にNEDD4およびNEDD4(C867A)と表示する。ウエルチのt検定を使用して統計解析を行った結果、BMP−2処理した短鎖型ヒトNEDD4(C867A)発現プラスミド導入細胞におけるALP活性と、BMP−2処理した空ベクター導入細胞のALP活性との間に有意差が認められた(*:p<0.05)。(実施例10)
【図12】マウスC2C12細胞において、マウスNedd4 siRNAによるNedd4ノックダウンにより内因性Nedd4の発現が阻害され(パネルB)、その結果、BMP−2刺激下で該細胞のALP活性が亢進した(パネルA)ことを示す図面である。ネガティブコントロール siRNA(Negative control siRNA)またはマウスNedd4 siRNAを細胞に導入し、600ng/mlのBMP−2刺激下で3日間培養後、細胞中のALP活性を測定した(パネルA)。各データはBMP−2無処理の空ベクター導入細胞におけるALP活性に対する相対値(Relative ALP activity)を示す(平均値±SD、n=6)。ウエルチのt検定を使用して統計解析を行った結果、BMP−2処理したネガティブコントロール siRNA導入細胞におけるALP活性と、マウスNedd4 siRNA導入細胞のALP活性との間に有意差が認められた(*:p<0.05)。マウスNedd4 siRNAによるNedd4ノックダウン効果はウエスタンブロッティングにより評価した(パネルB)。図中、Intensityは、BMP−2無処理のネガティブコントロール siRNA導入細胞において検出されたNedd4のバンドの濃度に対する、各細胞において検出されたNedd4のバンドの濃度の相対値を示す。相対値を算出するとき、各細胞において検出されたNedd4のバンドの濃度は、アクチン(Actin)のバンドの濃度により補正した。(実施例11)
【配列表フリーテキスト】
【0358】
配列番号1:ヒトNEDD4(配列番号2)をコードするポリヌクレオチド。
配列番号2:ヒトNEDD4。
配列番号3:ヒトNEDD4(配列番号2)のN末端側第1番目から第100番目の100個のアミノ酸残基が欠失した蛋白質(配列番号4)をコードするポリヌクレオチド。
配列番号4:ヒトNEDD4(配列番号2)のN末端側第1番目から第100番目の100個のアミノ酸残基が欠失した蛋白質。
配列番号5:ヒトRUNX1(配列番号6)をコードするポリヌクレオチド。
配列番号6:ヒトRUNX1。
配列番号7:ヒトRUNX2(配列番号8)をコードするポリヌクレオチド。
配列番号8:ヒトRUNX2。
配列番号9:ヒトRUNX3(配列番号10)をコードするポリヌクレオチド。
配列番号10:ヒトRUNX3。
配列番号11:ヒトNEDD4(配列番号2)の不活性型変異体。
配列番号12:ヒトNEDD4(配列番号2)のN末端側第1番目から第100番目の100個のアミノ酸残基が欠失した蛋白質(配列番号4)の不活性型変異体。
配列番号13:ヒトNEDD4(配列番号2)の部分配列と高い相同性を有する、ヒトRUNX3(配列番号10)の部分配列。
配列番号14:ヒトRUNX3(配列番号10)の部分配列と高い相同性を有する、ヒトNEDD4(配列番号2)の部分配列。
配列番号15:ヒトNEDD4(配列番号2)の部分配列と高い相同性を有する、ヒトRUNX3(配列番号10)の部分配列。
配列番号16:ヒトRUNX3(配列番号10)の部分配列と高い相同性を有する、ヒトNEDD4(配列番号2)の部分配列。
配列番号17:ヒトNEDD4(配列番号2)の部分配列と高い相同性を有する、ヒトRUNX3(配列番号10)の部分配列。
配列番号18:ヒトRUNX3(配列番号10)の部分配列と高い相同性を有する、ヒトNEDD4(配列番号2)の部分配列。
配列番号19:マウスNedd4に対するsiRNAを構成するセンスRNA。
配列番号20:マウスNedd4に対するsiRNAを構成するアンチセンスRNA。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RUNX(Runt−related transcription factor)とNEDD4(Neural precursor cell Expressed,developmentally down−regulated 4)とを共存させることを特徴とするRUNXのユビキチン化方法。
【請求項2】
RUNXが、ヒトRUNX1、ヒトRUNX2およびヒトRUNX3から選ばれるいずれか1である請求項1に記載のRUNXのユビキチン化方法。
【請求項3】
NEDD4を含んでなるRUNXのユビキチン化剤。
【請求項4】
RUNXが、ヒトRUNX1、ヒトRUNX2およびヒトRUNX3から選らばれるいずれか1である請求項3に記載のRUNXのユビキチン化剤。
【請求項5】
請求項1または2に記載のRUNXのユビキチン化方法を使用することを特徴とするRUNXの分解方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載のRUNXのユビキチン化剤を用いてRUNXを処理することを特徴とするRUNXの分解方法。
【請求項7】
NEDD4を含んでなるRUNXの分解剤。
【請求項8】
RUNXとNEDD4の結合を阻害することを特徴とするRUNXのユビキチン化阻害方法。
【請求項9】
配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を使用することを特徴とする請求項8に記載のRUNXのユビキチン化阻害方法。
【請求項10】
NEDD4の酵素活性を阻害することを特徴とするRUNXのユビキチン化阻害方法。
【請求項11】
NEDD4の発現を阻害することを特徴とするRUNXのユビキチン化阻害方法。
【請求項12】
RUNXが、ヒトRUNX1、ヒトRUNX2およびヒトRUNX3から選ばれるいずれか1である請求項8から11のいずれか1項に記載のRUNXのユビキチン化阻害方法。
【請求項13】
配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなるRUNXのユビキチン化阻害剤。
【請求項14】
RUNXが、ヒトRUNX1、ヒトRUNX2およびヒトRUNX3から選らばれるいずれか1である請求項13に記載のRUNXのユビキチン化阻害剤。
【請求項15】
請求項8から12のいずれか1項に記載のRUNXのユビキチン化阻害方法を使用することを特徴とするRUNXの分解阻害方法。
【請求項16】
請求項13または14に記載のRUNXのユビキチン化阻害剤を使用することを特徴とするRUNXの分解阻害方法。
【請求項17】
配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなるRUNXの分解阻害剤。
【請求項18】
NEDD4の発現および/または機能を阻害することを特徴とする骨形成促進方法。
【請求項19】
配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を使用することを特徴とする骨形成促進方法。
【請求項20】
NEDD4の発現を阻害し得るsiRNA(small interfering RNA)を使用することを特徴とする骨形成促進方法。
【請求項21】
配列表の配列番号11に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質および/または配列番号12に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなる骨形成促進剤。
【請求項22】
NEDD4の発現を阻害し得るsiRNA(small interfering RNA)を含んでなる骨形成促進剤。
【請求項23】
NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法であって、NEDD4および/またはRUNXとある化合物(被検化合物)とを接触させ、NEDD4によるRUNXのユビキチン化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物がNEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害するか否かまたは促進するか否かを決定する工程を含む同定方法。
【請求項24】
NEDD4とRUNXの結合を阻害する化合物または促進する化合物の同定方法であって、NEDD4および/またはRUNXとある化合物とを接触させ、次いで、NEDD4とRUNXの結合により生じるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、該シグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該化合物がNEDD4とRUNXの結合を阻害するか否かまたは促進するか否かを決定する工程を含む同定方法。
【請求項25】
骨形成を促進させ得る化合物の同定方法であって、ある化合物(被検化合物)がNEDD4の発現および/または機能を阻害するか否かを測定する工程を含む方法。
【請求項26】
NEDD4の発現および/または機能を阻害することが明らかになった被検化合物が、骨形成を促進させ得るか否かを測定する工程をさらに含む、請求項25に記載の化合物の同定方法。
【請求項27】
骨形成を促進させ得る化合物の同定方法であって、NEDD4をコードするポリヌクレオチドとある化合物(被検化合物)とを接触させ、次いで、NEDD4を測定することにより、該被検化合物がNEDD4の発現を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法。
【請求項28】
NEDD4の発現を阻害することが明らかになった被検化合物が、骨形成を促進させ得るか否かを測定する工程をさらに含む、請求項27に記載の化合物の同定方法。
【請求項29】
骨形成を促進させ得る化合物の同定方法であって、NEDD4および/またはRUNXとある化合物(被検化合物)とを接触させ、NEDD4によるNEDD4および/またはRUNXのユビキチン化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、該シグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該被検化合物がNEDD4によるNEDD4および/またはRUNXのユビキチン化を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法。
【請求項30】
NEDD4によるRUNXのユビキチン化を阻害することが明らかになった被検化合物が、骨形成を促進させ得るか否かを測定する工程をさらに含む、請求項29に記載の化合物の同定方法。
【請求項31】
骨形成を促進させ得る化合物の同定方法であって、NEDD4および/またはRUNXとある化合物(被検化合物)とを接触させ、次いで、NEDD4とRUNXの結合により生じるシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、該シグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出することにより、該被検化合物がNEDD4とRUNXの結合を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法。
【請求項32】
NEDD4とRUNXの結合を阻害することが明らかになった被検化合物が、骨形成を促進させ得るか否かを測定する工程をさらに含む、請求項31に記載の化合物の同定方法。
【請求項33】
NEDD4、NEDD4をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび該組換えベクターを含有する形質転換体のうち少なくともいずれか1つ、およびRUNX、RUNXをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび該組換えベクターを含有する形質転換体のうち少なくともいずれか1つを含有してなる試薬キット。
【請求項34】
請求項3に記載のRUNXのユビキチン化剤および/または請求項7に記載のRUNXの分解剤を有効量含んでなる、RUNXの機能および/または発現の亢進に起因する疾患の予防および/または治療剤。
【請求項35】
請求項13または14に記載のRUNXのユビキチン化阻害剤および/または請求項17に記載のRUNXの分解阻害剤を有効量含んでなる、RUNXの機能および/または発現の低下に起因する疾患の予防および/または治療剤。
【請求項36】
請求項1または2に記載のRUNXのユビキチン化方法、請求項3に記載のRUNXのユビキチン化剤、請求項5または6に記載のRUNXの分解方法、および請求項7に記載のRUNXの分解剤のうち少なくともいずれか1の方法または剤を使用することを特徴とするRUNXの機能および/または発現の亢進に起因する疾患の予防および/または治療方法。
【請求項37】
請求項8から12のいずれか1項に記載のRUNXのユビキチン化阻害方法、請求項13または14に記載のRUNXのユビキチン化阻害剤、請求項15または16に記載のRUNXの分解阻害方法、および請求項17に記載のRUNXの分解阻害剤のうち少なくともいずれか1の方法または剤を使用することを特徴とするRUNXの機能および/または発現の低下に起因する疾患の予防および/または治療方法。
【請求項38】
請求項21および/または請求項22に記載の骨形成促進剤を有効量含んでなる、骨損失を伴う疾患の予防および/または治療剤。
【請求項39】
請求項21および22に記載の骨形成促進剤並びに請求項18から20に記載の骨形成促進方法のうち少なくともいずれか1の剤または方法を使用することを特徴とする骨損失を伴う疾患の予防および/または治療方法。

【図1】
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【図11】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−206398(P2008−206398A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24521(P2006−24521)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】