説明

RXR及び/又はPPAR活性化剤

【課題】レチノイドX受容体(RXR:Retinoid X Receptor)及び/又はペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR:Peroxisome Proliferator−Activated Receptor)に対してアゴニスト活性を有し、且つ、安全性の高い成分を提供する。
【解決手段】ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分として含有する剤により、レチノイドX受容体(RXRα)、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPARα、PPARδ、PPARγ)の発現を活性化でき、安全且つ効果的に各種疾病の予防・治療等をできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチノイドX受容体(RXR:Retinoid X Receptor)活性化剤、及び/又は、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR:Peroxisome Proliferator−Activated Receptor)活性化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レチノイドX受容体(Retinoid X Receptor,RXR)は核内受容体のひとつであり、RXRどうしのホモ二量体やレチノイン酸受容体(Retinoic acid Receptor,RAR)とのヘテロ二量体を形成し、レチノイン酸などのアゴニストの受容体として働くことが知られている。そして、アゴニストと結合した二量体は、各種遺伝子の転写活性化因子として働く。なお、RARやRXRは、それぞれα、β、γのサブタイプが存在する。
【0003】
また、RXRは同じ核内受容体であるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome Proliferator−Activated Receptor,PPAR)の各サブタイプともヘテロ二量体を形成し、各種アゴニストと結合してリガンド依存的にプロモーター領域にPPAR応答配列(PPRE)を有する遺伝子の発現を誘導することも知られている。
【0004】
PPARは、哺乳動物ではα、δ、γの3種のサブタイプが知られており、これらのサブタイプ間の発現には組織特異性が存在する。例えば、PPARαは肝臓、腎臓、心臓、骨格筋など、PPARγは脂肪組織や肝臓などが主な発現組織であり、PPARδは各組織に普遍的に発現している。
【0005】
これらの核内受容体を活性化させると、各種遺伝子発現が活性化され、それにより皮膚疾患、アレルギー疾患、生活習慣病(糖尿病、肥満など)、がん等の予防・治療などが期待できることが知られており、このため、食品由来成分や天然物に代表されるような安全性が高く且つ有効性も高い核内受容体活性化成分・方法等の開発が従来より行われてきた(特許文献1〜7、非特許文献1)。
【0006】
一方、甜菜(ビート)は、砂糖抽出原料としてだけでなく、各種機能性成分(ラフィノース、ベタインなど)の抽出原料としても使用されている有用な植物である。そして、甜菜根からの砂糖抽出後の残渣(ビートファイバー)についてもいくつかの用途が知られているが(特許文献8〜9)、これらのさらなる用途開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−100551号公報
【特許文献2】特開2007−119429号公報
【特許文献3】特開2007−119430号公報
【特許文献4】特開2007−119431号公報
【特許文献5】特開2007−119432号公報
【特許文献6】特開2009−242333号公報
【特許文献7】特開2010−111588号公報
【特許文献8】特開平10−276663号公報
【特許文献9】特開平10−295288号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】生物機能開発研究所紀要、9:55−61、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、レチノイドX受容体及び/又はペルオキシソーム増殖剤応答性受容体に対してアゴニスト活性を有し、且つ、安全性も高い成分を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、甜菜根の砂糖抽出残渣(ビートファイバー)からのエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることで、レチノイドX受容体(RXRα)、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPARα、PPARδ、PPARγ)を活性化できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることを特徴とする、レチノイドX受容体(RXRα)活性化剤。
(2)皮膚炎症、乳がん、肺がん、脱毛症(育毛不全)、生体リズム失調症の少なくともひとつ(1又は2以上)を予防及び/又は改善することを特徴とする、(1)に記載の剤。
(3)ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることを特徴とする、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α(PPARα)活性化剤。
(4)高脂血症、炎症性疾患(皮膚炎症を含む)、インスリン抵抗性疾患(糖尿病、動脈硬化など)、脳卒中、生体リズム失調症(生体リズム障害疾患)、表皮細胞の分化及びメラノサイトの分化(表皮細胞の分化誘導、メラノサイトの分化抑制による美白効果)の少なくともひとつ(1又は2以上)を予防及び/又は改善することを特徴とする、(3)に記載の剤。
(5)ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることを特徴とする、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体δ(PPARδ)活性化剤。
(6)炎症性疾患、インスリン抵抗性疾患(糖尿病、動脈硬化など)、皮膚機能低下(皮膚バリア能低下、水分保持能低下など)の少なくともひとつ(1又は2以上)を予防及び/又は改善することを特徴とする、(5)に記載の剤。
(7)ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることを特徴とする、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ(PPARγ)活性化剤。
(8)高脂血症、高血圧症、炎症性疾患(アレルギー性疾患を含む)、インスリン抵抗性疾患(糖尿病、動脈硬化など)、脳梗塞、アルツハイマー病、神経疾患の少なくともひとつ(1又は2以上)を予防及び/又は改善することを特徴とする、(7)に記載の剤。
(9)ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものが、80〜90℃以上の条件で乾燥したビートファイバーに対し0.1倍量以上(好ましくは5倍量以上)のエタノールを加え0〜78℃(好ましくは10〜30℃)の温度で抽出し、固液分離した後の液層を乾燥して得られたものであることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれか1つに記載の剤。
(10)ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものが、80〜90℃以上の条件で乾燥したビートファイバーに対し0.1〜5倍量のエタノールを加え還流抽出し、固液分離した後の液層を乾燥して得られたものであることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれか1つに記載の剤。
(11)ビートファイバーのエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものが、セラミド、セレブロシド、グリコシルセラミド、スフィンゴイド塩基、スフィンゴ脂質、グリセロ脂質、ステリルグリコシド、ステロール配糖体、ステロール、脂肪酸、サポニン、ステロイド配糖体、ステロイド、レチノイド、レチノイン酸、レチノール、レチナール、カロテノイド、テルペノイドから選ばれる少なくとも1種又は2種以上を含むものであることを特徴とする、(1)〜(10)のいずれか1つに記載の剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、RXRα活性化剤、PPARα活性化剤、PPARδ活性化剤、PPARγ活性化剤、及びこれらを含有する組成物(医薬品、飲食品、飼料など)を提供することができる。そして、これらの活性化剤は、インスリン抵抗性症候群、炎症性疾患、神経疾患、生体リズム障害疾患、高脂血症、糖代謝異常、アレルギー疾患、肥満、癌の予防および改善、あるいは育毛・増毛、スキンケア、美白等に有用である。特に、本発明の活性化剤はその有効性が非常に高く、よって、少ない投与量でも十分な効果が得られるのが特徴である。さらに、本発明の有効成分は食品由来の天然素材であるため、安全性が高く、合成医薬品にみられるような深刻な副作用を回避し、長期の摂取が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】核内受容体活性試験におけるビートファイバーエタノール抽出物暴露による各種核内受容体の発現への影響を示すグラフである。縦軸はウミシイタケルシフェラーゼ活性値(蛍光強度)を、横軸はビートファイバーエタノール抽出物の濃度(サンプル濃度)を示した。
【図2】核内受容体活性試験におけるビートファイバーエタノール抽出物暴露によるRXRα、PPARα、PPARδ、PPARγの活性値を示すグラフである。縦軸は陰性コントロールと比較した活性値を、横軸はビートファイバーエタノール抽出物の濃度を示した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においては、甜菜根部の砂糖抽出残渣(ビートファイバー)のエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを核内受容体活性化剤の有効成分として使用する。抽出溶媒としてはエタノールを使用するが、極性等の性質に差異がないのであれば他のアルコール類を使用しても差し支えない。しかし、アルコール類以外の溶媒(水など)を使用することは好ましくない。また、抽出物の形態は、液状、乾燥粉末状、顆粒状、ペースト状等どのようなものでも使用することができ、特に限定されるものではない。
【0015】
なお、本発明におけるビートファイバーとは、ビート(甜菜)の根部より得られた繊維含有物を意味するものであって、製糖原料として知られる甜菜根からショ糖などの糖分を採取した後の粕、あるいはこれを乾燥及び/又は粉砕したものが包含される。ここで、本発明のエタノール抽出物製造原料に用いるビートファイバーは、糖分抽出(除去)が十分に行われていることが好ましく、例えば製糖工場などで使用されているビート糖製造装置を用いて糖分を除去したものが好ましい。糖分の除去が十分でない場合、このような原料を用いて製造したエタノール抽出物を有効成分としても十分な効果が発揮できない場合がある。
【0016】
ビートファイバーの調製方法としては、甜菜根を細片状に切断するか或いは磨砕、搾汁し、次いで温湯に浸漬し、ショ糖などの可溶性成分を十分に抽出除去した残渣を脱色、脱臭、乾燥、粉砕、篩別等の必要な処理を施して得る方法が例示される。なお、十分な乾燥及び/又は破砕処理をしたものは、ビートファイバーの繊維構造の多くが破壊されており、エタノールによる有効成分抽出原料としてより好適である。
【0017】
ビートファイバーエタノール抽出物の製造方法としては、80〜90℃以上(好ましくは100℃以上)の条件で乾燥したビートファイバーにエタノール(濃度90%以上)を0.1〜10倍量以上(例えば5〜50倍量、10〜50倍量などの範囲で)混合し、0〜78℃、好ましくは10〜60℃、更に好ましくは10〜30℃(室温)の温度で抽出処理を行ったあとエタノール抽出残渣を除去(フィルター等でのろ過など)する方法等が例示される。溶媒としてのエタノール量が5倍量未満の場合には、有効成分を十分量抽出するためにソックスレー抽出器などにより還流抽出を行うこともできる。また、5倍量以上のエタノールを用いる場合でも還流抽出を行うことは好適である。
【0018】
本発明において、ビートファイバーエタノール抽出物の「加工」とは、濃縮、粉砕、製粉、洗浄、加水分解、発酵、精製、圧搾、抽出、分画、ろ過、乾燥、粉末化、造粒、溶解、滅菌、pH調整、脱臭、脱色等を任意に選択、組み合わせた処理を示し、「精製」とは、イオン交換樹脂やシリカゲル等を用いたクロマトグラフィー・吸着脱離、イオン交換樹脂や電気透析膜を用いた脱塩、電気透析膜及び/又はRO膜及び/又はMF膜及び/又はUF膜を用いた分離、濃縮及び/又は冷却を用いた結晶化・沈殿、遠心分離等を用いた固液分離等を任意に選択、組み合わせた処理を示す。
【0019】
なお、本発明で用いるビートファイバー、ビートファイバーエタノール抽出物及びこれを加工・精製したものには、セラミド、セレブロシド、グリコシルセラミド、スフィンゴイド塩基、スフィンゴ脂質、グリセロ脂質、ステリルグリコシド、ステロール配糖体、ステロール、脂肪酸、サポニン、ステロイド配糖体、ステロイド、レチノイド、レチノイン酸、レチノール、レチナール、カロテノイド、テルペノイドから選ばれる少なくとも1種又は2種以上を含むのがより好適である。また、これらの取得は、上述のような調製方法、製造方法等に限定されるものではなく、同様の品質のものが取得できるような様々な変形が可能である。
【0020】
本発明においては、このようにして得られるビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分として含有してなる、RXRα活性化剤、PPARα活性化剤、PPARδ活性化剤、及び、PPARγ活性化剤を提供する。この剤形は、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等を挙げることができる。これらの各種製剤は、ビートファイバーエタノール抽出物のみで製剤化しても良いし、常法にしたがって賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの既知の補助剤を用いて製剤化することもできる。
【0021】
また、本発明においては、上記製剤を医薬品として単用するだけでなく、所望に応じて他の薬剤と併用しても良く、また、飲食品等と混合していわゆる機能性食品として提供したりすることも可能である。
【0022】
本発明では、上記製剤等をヒト又はヒトを除く動物に経口投与又は非経口投与する。投与量(用量)は、例えばヒトにおいては、1日あたりビートファイバーエタノール抽出物又はその加工・精製物として0.1〜50g/60kg(体重)、好ましくは0.5〜10g/60kg(体重)が適量であるが、この範囲を超えて投与しても安全性は全く問題なく、その有効性も維持される。ヒトを除く動物においては、ヒトへの投与量から所定の換算を行って投与量を設定すればよい。
【0023】
このように、ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることにより、RXRα活性化剤、PPARα活性化剤、PPARδ活性化剤、及び、PPARγ活性化剤を提供でき、これによりインスリン抵抗性症候群、炎症性疾患、神経疾患、生体リズム障害疾患、高脂血症、糖代謝異常、アレルギー疾患、肥満、癌など(糖尿病、高血圧、高脂血症のうち2つ以上を合併した生活習慣病も包含する)の予防または改善、並びに育毛・増毛、スキンケア、美白等が期待できる。
【0024】
ここで、RXRαは主に細胞増殖・分化の制御に関与するため、RXRα活性化剤はスキンケア(皮膚炎症)、各種がん、育毛・増毛(脱毛症)、生体リズム失調症に特に有効である。また、PPARαは中性脂肪を中心とした幅広い制御に関与するため、PPARα活性化剤は高脂血症、炎症性疾患、インスリン抵抗性疾患、脳卒中、生体リズム失調症、表皮細胞の分化誘導・メラノサイトの分化抑制(つまり美白効果)に特に有効である。さらには、PPARδ活性化剤は炎症性疾患(スキンケア関連を含む)、インスリン抵抗性疾患に、PPARγ活性化剤は高脂血症、高血圧症、炎症性疾患、インスリン抵抗性疾患、脳梗塞、アルツハイマー病、神経疾患に特に有効である。
【0025】
なお、本発明は、甜菜根由来のビートファイバーを用いることが特徴であり、甜菜葉などを原料とする(甜菜葉からの抽出物等を用いる)のでは本発明で期待される効果は得られない。
【0026】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0027】
(ビートファイバーの核内受容体活性試験)
ビートファイバーが核内受容体タンパクの転写活性に及ぼす影響を調べるため、以下の試験を実施した。
【0028】
原料となるビートファイバーは、甜菜根を磨砕、搾汁し、次いで温湯に浸漬・攪拌し、ショ糖よりなる可溶性成分を十分に抽出除去した残渣を得て、これを脱色、脱臭、100℃以上の温度条件での乾燥、粉砕、篩別処理することにより得た。
【0029】
このようにして得たビートファイバーから、熱水抽出物及びエタノール抽出物を取得し、これを試料として用いた。具体的には、熱水抽出物は、ビートファイバーに10倍量の熱湯を加え10分間攪拌した後に0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した上清を用いた。エタノール抽出物は、ビートファイバーに10倍量の100%エタノール溶液を加え室温で3時間攪拌した後に0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した上清を減圧乾燥し、これを200mg/mlとなるようにDMSO(ジメチルスルホキシド)を添加して溶解したものを用いた。
【0030】
上記各試料について、レポーターアッセイによる核内受容体活性化試験を行った。使用細胞としては、CV−1及びHep G2(いずれも独立行政法人医薬基盤研究所より分譲)を用いた。まず、これらの細胞株を2.0x10/wellとなるよう6well plateに播種し、ダルベッコ変法イーグル培地(10%FBS、2mM L−グルタミン添加,日水製薬株式会社製)中で1日培養した。Gal4遺伝子のDNA結合ドメイン(Gal4−DBD)と各種ヒト核内受容体のリガンド結合ドメイン(NR−LBD)のキメラタンパク質発現プラスミド(pGal4DBD/NR(LBD))、Gal4遺伝子DNA応答配列とホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むレポータープラスミド(pGal4−Luc)、及び内部標準用としてウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子の上流に遺伝子構成的発現プロモーター(CMV、SV40)を連結した内部標準プラスミド(pRL−CMV、pRL−SV40)を重量比1:0.9:0.1の割合で混合し、Opti−MEM培地(GIBCO社製)に20mg/ml(総DNA量)の濃度で溶解した。遺伝子導入試薬FuGENE(ロッシュ社製)を1/20量添加し、15分静置後、本混合液を100μlずつ各ウェルに添加し、6時間培養することによって遺伝子を導入した。なお、細胞株及び導入プラスミド(核内受容体キメラタンパク、内部標準、レポーター)の関係を一覧にしたものを表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
次に、遺伝子導入細胞をトリプシンにより分散し、96well plateにCV−1では1.6x10/well、Hep G2では2.0x10/wellとなるよう再度播種した。この際、培養液を各濃度の被験物質を含むダルベッコ変法イーグル培地(phenol red不含、10%活性炭処理FBS,SIGMA社製)に交換した。サンプルの培地中の最終濃度は、熱水抽出物:0.5、2、10%、エタノール抽出物:0.1、0.25、0.5%とし、熱水抽出物添加には超純水(終濃度10%)、エタノール抽出物にはDMSO(終濃度0.5%)を溶媒として用いた。
【0033】
本試験の陰性コントロール(溶媒コントロール)としては10%超純水(熱水抽出物用)及び0.5%DMSO(エタノール抽出物用)を用いた。また、本試験の精度管理に用いた陽性コントロールとしては、1μM β−estradiol(和光純薬工業株式会社製,ERα、ERβ)、0.1μM GW4064(Tocris Bioscience社製,FXR)、10nM Dexamethasone(和光純薬工業株式会社製,GR)、1μM TO901317(Cayman Chemical社製,LXRα)、100μM WY14643(Tocris Bioscience社製,PPARα)、0.1μM GW501516(ENZO社製,PPARδ)、10μM Pioglitazone(ALEXIS Biochemicals社製,PGZ、PPARγ)、25μM Rifampicin(和光純薬工業株式会社製,PXR)、100μM Am80(和光純薬工業株式会社製,RARα)、0.1μM 9cRA(和光純薬工業株式会社製,RXRα)、0.1μM Vitamin D3(ALEXIS Biochemicals社製,VDR)を区分に応じて用いた。以上の物質添加には、溶媒としてDMSO(終濃度0.5%)を用いた。
【0034】
48時間培養後、リン酸緩衝食塩液(PBS)にて細胞を洗浄し、デュアルルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社製)を用いて細胞を溶解した。さらにルシフェリンを含む基質溶液を加え、プレートリーダー(ARVO MX,Perkin Elmer社製)にてホタル及びウミシイタケルシフェラーゼ活性を各々測定した。以上の操作は、1サンプル(陽性、陰性コントロール含む)につき3ウェルを用いて実施し、3ウェルの平均値をデータとして採用した。
【0035】
なお、核内受容体依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)は以下の数1に示す式のように定義した。活性の評価は、陰性コントロールとの比(サンプルにおける活性値/陰性コントロールにおける活性値)で表し、細胞に顕著な障害が認められず(ウミシイタケルシフェラーゼ活性値の顕著な低下が認められない)、本数値が2以上となる場合を、有意な活性と定義した。また、陽性コントロールの比(陽性コントロール最大活性値を100%とした値に対するサンプルの活性値)も算出した。
【0036】
【数1】

【0037】
結果を図1、2及び表2、3に示した。供試した抽出法の異なる2サンプルのうち、エタノール抽出物では、すべての核内受容体アッセイ系における0.5%暴露群、FXR、LXRα、PXRにおける0.25%暴露群、PXRにおける0.1%暴露群で内部標準(ウミシイタケルシフェラーゼ)活性値の顕著な低下が確認され、細胞障害性が示唆された(図1)。このため本試験では、当該暴露群の数値を解析から除外した(表3)。なお熱水抽出物については、すべての濃度において、細胞障害性は認められなかった(表2)。
【0038】
各核内受容体に対する熱水抽出物の活性値は、すべての濃度においていずれも2以下であり、当該受容体に対するリガンド物質を含有していないことが示された(表2)。一方、エタノール抽出物では、0.25%暴露群において、PPARαで3.34、PPARδで4.62、PPARγで7.58、RXRαで16.16と有意な活性値が認められ(表3及び図2)、これらは各陽性コントロールと比較した相対活性においても有意な活性値が認められた(表3)。また、PPARγ、RXRαでは、0.1%暴露群においても有意な活性値(PPARγ:3.52、RXRα:2.15)が認められ、これら2種の受容体について特に顕著な活性を有していることが確認された(表3及び図2)。
【0039】
以上の結果より、ビートファイバーエタノール抽出物はPPARα、PPARδ、PPARγ、RXRαに対しアゴニスト活性を有することが示された。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【実施例2】
【0042】
(ビートファイバーエタノール抽出物含有製剤の製造)
実施例1で得たビートファイバーエタノール抽出物(減圧乾燥物)20重量部、コーンスターチ70重量部、グルコース10重量部を混合し、得られた混合物をヒドロキシプロピルメチルセルロースの5%水溶液で流動層造粒し、顆粒剤を得た。
【0043】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0044】
本発明は、レチノイドX受容体(RXR)及び/又はペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)に対してアゴニスト活性を有し、且つ、安全性の高い成分の提供を目的とする。
【0045】
そして、ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分として含有する剤により、レチノイドX受容体(RXRα)、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPARα、PPARδ、PPARγ)の発現を活性化でき、安全且つ効果的に各種疾病の予防・治療等をできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることを特徴とする、レチノイドX受容体(RXRα)活性化剤。
【請求項2】
皮膚炎症、乳がん、肺がん、脱毛症、生体リズム失調症の少なくともひとつを予防及び/又は改善することを特徴とする、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることを特徴とする、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α(PPARα)活性化剤。
【請求項4】
高脂血症、炎症性疾患、インスリン抵抗性疾患、脳卒中、生体リズム失調症、表皮細胞の分化及びメラノサイトの分化の少なくともひとつを予防及び/又は改善することを特徴とする、請求項3に記載の剤。
【請求項5】
ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることを特徴とする、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体δ(PPARδ)活性化剤。
【請求項6】
炎症性疾患、インスリン抵抗性疾患、皮膚機能低下の少なくともひとつを予防及び/又は改善することを特徴とする、請求項5に記載の剤。
【請求項7】
ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものを有効成分とすることを特徴とする、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ(PPARγ)活性化剤。
【請求項8】
高脂血症、高血圧症、炎症性疾患、インスリン抵抗性疾患、脳梗塞、アルツハイマー病、神経疾患の少なくともひとつを予防及び/又は改善することを特徴とする、請求項7に記載の剤。
【請求項9】
ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものが、80〜90℃以上の条件で乾燥したビートファイバーに対し0.1倍量以上のエタノールを加え0〜78℃の温度で抽出し、固液分離した後の液層を乾燥して得られたものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の剤。
【請求項10】
ビートファイバーエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものが、80〜90℃以上の条件で乾燥したビートファイバーに対し0.1〜5倍量のエタノールを加え還流抽出し、固液分離した後の液層を乾燥して得られたものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の剤。
【請求項11】
ビートファイバーのエタノール抽出物又はこれを加工・精製したものが、セラミド、セレブロシド、グリコシルセラミド、スフィンゴイド塩基、スフィンゴ脂質、グリセロ脂質、ステリルグリコシド、ステロール配糖体、ステロール、脂肪酸、サポニン、ステロイド配糖体、ステロイド、レチノイド、レチノイン酸、レチノール、レチナール、カロテノイド、テルペノイドから選ばれる少なくとも1種又は2種以上を含むものであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−35794(P2013−35794A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174368(P2011−174368)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】