S−ニトロソグルタチオンレダクターゼを調節するための組成物および方法
本発明において、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)のレベルおよび/または活性をインビボまたはインビトロで調節するための方法および組成物が開示される。具体的には、GSNOR欠失構築物、GSNOR欠失を含む宿主細胞および非ヒト哺乳動物、ならびに、GSNOR欠失変異体を用いるスクリーニング方法が開示される。また、具体的には、様々な医学的状態に関連して、GSNORのレベルまたは活性(ならびに一酸化窒素およびS−ニトロソチオールのレベル)を測定するか、またはモニターするか、または変化させるための試薬および手法も開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一酸化窒素(NO)の生物学に関する。具体的には、本発明は、血行力学的応答の調節におけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)および一酸化窒素の生物活性の調節に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
3種類の一酸化窒素(NO)シンターゼ(NOS)酵素が、広範囲の様々な細胞機能において、また宿主防御において重要な役割を果たしている(Moncada他、1991;NathanおよびXie、1994)。これらの酵素の発現、調節および活性が遺伝子的方法および薬理学的方法の両方によって広範囲に研究されている。しかしながら、NO合成の下流側の事象はそれほど十分には理解されていない。内因性および外因性の両方の一酸化窒素(NO)がタンパク質(例えば、アルブミンなど)内のチオールと反応して、血管拡張活性を有する長寿命の様々なS−ニトロソチオール(SNO)を形成することが報告されている(Stamler JS他、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:444〜448)。また、NOSの阻害が、低分子量の様々なSNOの同時産生を伴ったSNO−アルブミンの減少をもたらすように、NOS活性にそのレベルが共役した血漿中におけるS−ニトロソアルブミンの循環プールの存在も報告されている(Stamler JS他、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:7674〜7677)。SNO−アルブミンは、NOが欠乏した状態において利用され得るNO生物活性のリザーバーを提供すること、および、SNO−アルブミンによる血管拡張が、SNO−アルブミンがそれとの平衡状態で存在する小さい分子量のSNOによって伝達されることが提案された。
【0003】
その直後、様々な生物学的系における重要な低分子量のSNOがS−ニトロソグルタチオン(GSNO)であることが明らかにされた(Gaston B他、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1993、90:10957〜10961)。NOとは対照的に、GSNOは血液ヘモグロビンの存在下で平滑筋弛緩活性を保持しており、GSNOはSNO−タンパク質よりも強力な弛緩剤として作用する。その後、グルタチオンのチオールに結合したNOと、ヘモグロビンの反応性チオール(cysβ93)との間における赤血球内での平衡の存在(Jia L他、1996、Nature、380:221〜226)、および、ヘモグロビンのチオールに結合したNOと、膜会合バンド3タンパク質(AE1)との間における赤血球内での平衡の存在(Pawloski JR他、2001、Nature、409:622〜626)が明らかにされた。S−ニトロソヘモグロビン(SNO−Hb)と赤血球(RBC)膜との間でのNO基の交換がO2分圧(PO2)によって支配されていることが示された。従って、RBCは低PO2で血管を拡張させることが見出され(Pawloski JR他、2001、Nature、409:622〜626;McMahon TJ他、2002、Nat.Med.、8:711〜717;Datta B他、2004、Circulation(印刷中))、また、膜SNOの産生が血管拡張のためには必要であることが示された。
【0004】
末梢組織では、実験により、血流が、代謝的要求に共役しているヘモグロビンO2飽和度の変化によって決定されることが明らかにされている。血液のO2含有量がこの応答を引き起こす機構、および、多くの疾患(心不全、糖尿病およびショックを含む)におけるその障害についての基礎は、血管の生理学における大きな長年の問題である。以前の研究では、その答えが、血管拡張剤活性のO2センサーおよびO2応答性トランスデューサーの両方として役立つヘモグロビンの能力にあることが示唆されている。その後、アルブミンおよびヘモグロビンがSNO産生の専用部位であることが明らかにされた。アルブミンでは、疎水性ポケットおよび結合した金属(銅およびおそらくはヘム)の両方がNOによるS−ニトロシル化を促進させることができる(Foster MW他、2003、Trends Mol.Med.、9:160〜168;Rafikova O他、2002、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:5913〜5918)。対照的に、ヘモグロビン(Hb)は、NO、亜硝酸塩またはGSNOと反応して、SNO−Hbを生じさせることができる溝をいくつか有する(Gow AJ他、1998、Nature、391:169〜173;Gow AJ他、1999、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、96:9027〜9032;Luchsinger BP他、2003、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、100:461〜466;Jia L他、1996、Nature、380:221〜226;Romeo AA他、2003、J Am.Chem.Soc.、2003、125:14370〜14378)。
【0005】
さらなる研究により、血液タンパク質のS−ニトロシル化が、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、セルロプラスミンおよび亜硝酸塩によって触媒され得ることが示された。特に、セルロプラスミンはNOのGSNOへの変換を触媒しており(Inoue K他、1999、J.Biol.Chem.、274:27069〜27075)、また、溶液中のNOまたはGSNO由来のNOが、SODによって、ヘム鉄ではなく、むしろヘモグロビン内のcysβ93に標的化されている(Gow AJ他、1999、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、96:9027〜9032;Romeo AA他、2003、J.Am.Chem.Soc.、125:14370〜14378)。類似する機構(これにはSODおよび亜硝酸塩を伴う)がアルブミンにおいて機能していることが仮定されている。数多くの研究室により、動物およびヒトの両方の血液および組織において、SNOアルブミン、GSNOおよびSNO−Hbの存在が確認されている。しかしながら、形成量、様々なSNOをアッセイするための様々な方法の好適性、およびこれらの分子の生理学的な役割は依然として疑問のままである。システインチオールのS−ニトロシル化は、NO生物活性を伝達するための重量な経路を構成することが提案されている。S−ニトロシル化は、NOに関連したシグナルを安定化させ、かつ多様化させ、また、広範囲の様々なタンパク質に対するいたるところで見られる調節的修飾として作用すると考えられている(BoehningおよびSnyder、2003;Foster他、2003;Stamler他、2001)。いくつかの証拠はこの提案を裏付けている。
【0006】
第1に、ペプチドおよびタンパク質のSNO誘導体が基礎的条件のもとではほとんどの組織および細胞外液に存在する(Gaston他、1993;Gow他、2002;Jaffrey他、2001;Jia他、1996;Kluge他、1997;Mannick他、1999;Rodriguez他、2003;Stamler他、1992)。第2に、特異的なSNOによって一意的に繰り返される生理学的応答の例がいくつかある(De Groote他、1996;Lipton他、2001;Travis他、1997)。第3に、研究者らは、タンパク質のS−ニトロシル化/脱ニトロシル化が様々な細胞タイプおよびインビトロシステムの間で多様な生理学的な刺激によって動的に調節されていることを見出している(Eu他、2000;Gaston他、1993;Gow他、2002;Haendeler他、2002;Mannick他、1999;Matsumoto他、2003;Matsushita他、2003;RozzoおよびPiston、2003)。
【0007】
しかしながら、研究者らは、様々なSNOのインビボ活性をNO(または他の反応性窒素化学種;RNS)と区別するための生化学的手段または遺伝子的手段を有していない。従って、様々な生理学的応答におけるそれらの正確な役割および相対的な重要性は依然として疑問のままである。基礎的条件において、NOSは、血管、腎臓および脳に対する複雑な作用を介して細動脈の緊張状態に影響を及ぼしている(OrtizおよびGarvin、2003;Stamler他、1999;Stoll他、2001)。加えて、数多くの研究室から得られた研究は、細動脈の抵抗を調節する統合された血管応答における赤血球(RBC)の役割および得られるNO生物活性に向いている(Cirillo他、1992;Gonzalez−Alonso他、2002;McMahon他、2002)。NOそのものは血液または組織において検出されていない。このことから、SNOが血管の恒常性に寄与しているという仮説がもたらされる(Foster他、2003;Gow他、2002)。
【0008】
誘導型NOS(iNOS)はより多くの量のNO/RNSを産生することができ、それにより細胞機能を乱し得る(Moncada他、1991;NathanおよびXie、1994)。この病態生理学的状況は、ニトロソ化(nitrosative)ストレスと呼ばれており(Hausladen他、1996)、様々な反応性酸素化学種(ROS)によって引き起こされる酸化的ストレスに例えられている(Hausladen他、1996;HausladenおよびStamler、1999)。スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼおよびペルオキシダーゼの研究から、ROSに対する酵素的防御についての、議論の余地のない遺伝子的証拠が得られている。しかしながら、多細胞生物におけるRNS解毒の役割および機構は不明である。それにもかかわらず、蓄積しつつある証拠からは、NO/SNO恒常性を促進するのに役立つニトロソ化ストレス応答の存在が示される。特に、iNOSの発現はS−ニトロシル化タンパク質の増大と一致しており、これにより、新しい定常状態レベルに迅速に到達する(Eu他、2000;MarshallおよびStamler、2002)。これらのデータは、SNOが能動的に分解され続けていることを示唆している。
【0009】
iNOSの発現は、敗血症性ショック(合衆国だけで毎年100,000人以上の命を奪う複合症候群)において強く誘導される(Feihl他、2001)。敗血症性ショックおよびエンドトキシンショックにおけるiNOSの役割がマウスにおいて広範囲に調べられている。独立して作製された2つのiNOS欠損(iNOS−/−)マウス系統の最初の分析では、野生型コントロールと比較したとき、死亡率の明確な差が明らかにされなかった(Laubach他、1995;MacMicking他、1995)。しかしながら、これらのマウスのより徹底的な研究では、iNOS欠損がリポ多糖(LPS)負荷の後では実際に死亡率を増大させたことが示された(Laubach他、1998;Nicholson他、1999)。このことはiNOSについての保護的な役割を示しており、そのような役割はメスにおいて非常に明らかであった(Laubach他、1998)。これらのデータと一致して、iNOS阻害剤の1400WおよびN−(1−イミノエチル)−L−リジンはいずれも、エンドトキシンショックの動物モデルにおいて、効果がほとんどないか、または傷害を悪化させている(Feihl他、2001;Ou他、1997)。
【0010】
研究者らは最近、非常に保存されたS−ニトロソグルタチオン(GSNO)レダクターゼ(GSNOR)を同定している(Jensen他、1998;Liu他、2001)。この酵素は、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADHIII;これはまたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼとして知られている)として分類され(UotilaおよびKoivusalo、1989)、しかし、任意の他の基質よりもGSNORに対してはるかに大きな活性を示す(Jensen他、1998;Liu他、2001)。GSNORは真核生物における主要なGSNO代謝活性であるようである(Liu他、2001)。従って、GSNOが、GSNOR活性が低いか、または存在しない細胞外液(例えば、気道裏層液)に蓄積し得る(Gaston他、1993)。逆に、GSNOは細胞の内部において容易に検出することができない(Eu他、2000;Liu他、2001)。
【0011】
GSNORが欠損している酵母は、この酵素の基質ではないS−ニトロシル化タンパク質を蓄積する。このことは、GSNOがSNO−タンパク質との平衡で存在することを示している(Liu他、2001)。GSNOおよびSNO−タンパク質の周囲レベルを上回るそのような精密な制御は、GSNO/GSNORが、生理学的なシグナル伝達およびニトロソ化ストレスからの保護の両方で役割を果たしているかもしれないという可能性を提起する。実際、GSNOは、呼吸するための活力(Lipton他、2001)から、嚢胞性線維症の膜貫通調節因子(Zaman他、2001)および宿主防御(de Jesus−Berrios他、2003)にまで及ぶ様々な応答に関係している。他の研究では、GSNORが酵母細胞をニトロソ化ストレスからインビトロ(Liu他、2001)およびインビボ(de Jesus−Berrios他、2003)の両方で保護することが見出されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現在、高いNO合成および/または高いNOの生物活性に関連づけられる医学的状態についての診断、予防、改善および処置がこの分野では非常に求められている。同様に、例えば、細胞死および細胞増殖(特に、幹細胞の増殖)ならびに血管恒常性に対するNOの影響を阻止するための組成物および方法も求められている。加えて、他のNO関連障害を防止し、または改善し、または逆転させるための組成物および方法が非常に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、高レベルの一酸化窒素生物活性に関連する障害の少なくとも1つの症状の発症を緩和または阻害する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させ、かつ/あるいは、SNO(例えば、SNO−Hb)のレベルを低下させる薬剤の治療有効量を、上記障害を有する患者(例えば、女性患者)に投与する工程を包含する方法に関連する。本発明の様々な局面において、上記障害は、変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS))、脳卒中、全身性感染症(例えば、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群または全身性炎症性応答症候群)、炎症性疾患(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風および偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患))、低血圧症(例えば、麻酔、透析、起立性低血圧症に関連するもの)、増殖性障害(例えば、癌または他の新生物)、または別の障害である。
【0014】
本発明によれば、このような薬剤は、一酸化窒素生物活性またはSNOのレベルを低下させることができ、あるいは、一酸化窒素/SNO(例えば、SNO−Hb)の分解を増大させることができる。具体的な局面において、そのような薬剤は、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼのポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)またはペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ模倣体(例えば、ペプチド、低分子または抗イディオタイプ抗体)、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼのポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)またはペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)を発現させるためのベクター、それらの任意のフラグメント、誘導体または修飾体、あるいは他の活性化因子を含む。特定の局面において、活性化薬剤は一酸化窒素シンターゼの1つまたは複数の阻害剤(例えば、N−[3−(アミノエチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン(例えば、非特異的な阻害のために);または7−ニトロインダゾール(例えば、脳組織におけるnNOSの阻害のために)など)と同時投与される。特定の実施形態において、増大したSNOを、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ活性化因子および一酸化窒素シンターゼ阻害剤を用いた混合治療によって、または、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ活性化因子単独によって標的化することができる。
【0015】
本発明はさらに、血管障害の少なくとも1つの症状の発症を緩和または阻害するための方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させ、かつ/あるいは、SNO(例えば、SNO−Hb)のレベルを低下させる薬剤の治療有効量を、上記障害に罹患している患者に投与する工程を包含する方法に関連する。様々な局面において、上記血管障害は、心臓疾患、心不全、心臓発作、高血圧症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息またはインポテンスである。そのような薬剤は、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼに結合する抗体(例えば、モノクロー+ナル抗体)または抗体フラグメント、アンチセンス配列または低分子干渉性RNA配列、低分子、あるいは他の阻害剤を含むことができる。特定の局面において、阻害性薬剤はホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、ロリプラム、シロミラスト、ロフルミラスト、バイアグラ(登録商標)(クエン酸シルデニフィル)、シアリス(登録商標)(タダラフィル)、レビトラ(登録商標)(バルデニフィル)など)と同時投与される。別の局面において、阻害剤は、特に、心不全、高血圧症および喘息に関して使用される場合、β−アゴニストと同時投与される。
【0016】
本発明はまた、高レベルの一酸化窒素生物活性に関連する障害(またはそのような障害の処置)を診断またはモニターする方法であって、(a)患者(例えば、女性患者)から得られた生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルまたは活性を測定する工程;(b)上記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルまたは活性をコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)上記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルまたは活性が上記コントロールサンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルよりも低いかどうかを決定する工程を包含する方法に関連する。別の局面において、診断またはモニターする上記方法は、(a)患者から得られた生物学的サンプルにおけるSNOのレベル(例えば、血漿中レベル)を測定する工程;(b)上記生物学的サンプルにおけるSNOのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)上記生物学的サンプルにおけるSNOのレベルが上記コントロールサンプルにおけるSNOのレベルよりも高いかどうかを決定する工程を包含する。類似する診断方法およびモニターリング方法もまた、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの高いレベルまたは有害なほどに高いレベル、あるいはSNOの低いレベルまたは有害なほどに低いレベルを測定するために包含される。
【0017】
本発明の様々な局面において、高レベルの一酸化窒素生物活性に関連して診断される障害は、変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症)、脳卒中、全身性感染症(例えば、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群または全身性炎症性応答症候群)、炎症性疾患(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風および偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患))、低血圧症(例えば、麻酔、透析または起立性低血圧症に関連するもの)、増殖性疾患(例えば、癌、腫瘍、異形成、新生物または前癌病変)、または別の障害である。高レベルのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼおよび低下したレベルのSNO(例えば、SNO−Hb)に関連して診断される障害には、血管障害(心臓疾患、心不全、心臓発作、高血圧症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息またはインポテンス)が含まれる。本発明の診断方法では、血液、尿、唾液または他の体液のサンプル、あるいは細胞サンプルまたは組織サンプルを用いることができる。
【0018】
本発明によれば、生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルは、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ抗原に結合する抗体、および/またはSNO抗原に結合する抗体を使用して測定することができる。特定の実施形態において、抗体はモノクローナル抗体であり、必要な場合には標識されている。他の実施形態において、生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルは、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼのヌクレオチド配列(例えば、配列番号7〜配列番号16または相補的配列)に結合する核酸プローブを使用して測定される。特定の実施形態において、プローブはDNAプローブであり、必要な場合には標識されている。あるいは、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性は既知の方法によって測定することができる。生物学的サンプルにおけるSNOのレベル(例えば、血漿中レベル)は、好ましくは、光分解−化学発光に基づく方法によって測定される。好ましくは、安定なニトロソチオール標準物、例えば、SNO−アルブミンまたはSNO−Hbを測定するためのそのような標準物がそのような方法と一緒に使用される。
【0019】
加えて、本発明は、内因性GSNOR遺伝子の破壊を含むゲノムを有する遺伝子組換え非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラットなど)に関連する。この場合、破壊は選択マーカー配列の挿入を含み、かつ、破壊は、野生型マウスと比較して、ニトロシル化の増大(例えば、細胞内または細胞外)を示すマウスをもたらす。特定の局面において、ニトロシル化のこの増大はSNOの蓄積をもたらす。破壊は、ホモ接合性の破壊、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を選択マーカーとして使用する、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異をもたらすホモ接合性の破壊であり得る。
【0020】
本発明はさらに、内因性GSNOR遺伝子に対して相同的なDNA配列が隣接する選択マーカー配列を含むGSNORノックアウト構築物を含む核酸に関連する。また、これらの核酸を含むベクター、ならびに、これらのベクターを含む宿主細胞および細胞株(例えば、非ヒト哺乳動物の胚性細胞株)にも関連する。さらに、全身性感染症または低血圧症の少なくとも1つの症状を緩和するための薬剤を同定するための方法であって、(a)全身性感染症または低血圧症を有するGSNORノックアウトマウスに試験薬剤を投与する工程;および(b)試験薬剤がノックアウトマウスにおいて全身性感染症または低血圧症の症状を緩和するかどうかを決定する工程を包含する。様々な局面において、全身性感染症は、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群または全身性炎症性応答症候群であり、一方、低血圧症は麻酔(例えば、フェノバルビトール、ケタミン・キシラジンまたはウレタン)に起因する。症状は、例えば、SNOの蓄積をもたらすニトロシル化の増大であり得る。
【0021】
本発明の他の実施形態、目的、局面、特徴および利点が、付随する説明および請求項から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(定義)
本明細書中で使用される「タンパク質」は「ポリペプチド」と同義的に使用される。「精製(された)」ポリペプチド、タンパク質またはペプチドは、アミノ酸配列が得られる細胞、組織または無細胞供給源に由来する細胞性物質または他の混入タンパク質を実質的に含まず、あるいは、化学合成されたときには化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。
【0023】
表現「細胞性物質を実質的に含まない」は、アミノ酸配列が単離または組換え産生される細胞の細胞成分から分離されているポリペプチドまたはペプチドの調製物を包含する。1つの実施形態において、表現「細胞性物質を実質的に含まない」は、約30%未満(乾燥重量比)の他のタンパク質(これはまた、本明細書中では「混入タンパク質」として示される)(より好ましくは約20%未満の混入タンパク質、さらにより好ましくは約10%未満の混入タンパク質、最も好ましくは約5%未満の混入タンパク質)を有するポリペプチドまたはペプチドの調製物を包含する。ポリペプチドまたはペプチドが組換え産生されているとき、ポリペプチドまたはペプチドはまた、好ましくは、細胞培地を実質的に含まず、例えば、細胞培地は調製物の体積の約20%未満(より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満)である。
【0024】
本明細書中で使用される用語「抗体」は、免疫グロブリン分子、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、例えば、抗原(例えば、ポリペプチドまたはペプチドなど)と特異的に結合(免疫反応)する抗原結合部位を含有する分子を示す。そのような抗体には、例えば、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、単鎖、FabフラグメントおよびF(ab’)2フラグメント、ならびにFab発現ライブラリーが含まれる。具体的な実施形態において、抗体はヒトポリペプチド(例えば、1つまたは複数のGSNOR)に対して作製される。
【0025】
本明細書中で使用される用語「モノクローナル抗体」または用語「モノクローナル抗体組成物」は、ポリペプチドまたはペプチドの特定のエピトープと免疫反応することができる抗原結合部位の1つだけの種を含有する抗体分子の集団を示す。従って、モノクローナル抗体組成物は、典型的には、免疫反応する特定のアミノ酸配列に対して1つだけの結合親和性を呈示する。
【0026】
本明細書中で使用される「調節する」は、ポリペプチドのレベルを増大または低下させること、あるいはポリペプチドの安定性または活性を増大または低下させることを示すことが意味される。従って、薬剤を、ポリペプチドを活性化するその能力について、あるいは、ポリペプチドの合成または安定性を促進させるその能力について調べることができる。
【0027】
本明細書中で使用される用語「誘導体」または用語「誘導体化(された)」は、別の物質に構造的に関連づけられ、かつ、その別の物質から理論的に導かれ得る化学物質(例えば、短縮化されたタンパク質またはペプチド)を示す。
【0028】
本明細書中で使用される用語「領域」または用語「ドメイン」は、タンパク質の領域またはドメインの場合のように、元のタンパク質の規定された範囲における多数のアミノ酸を示す。
【0029】
本明細書中で使用される用語「生理学的レベル」は、生物の健全な機能発現または正常な機能発現の特性またはそのような機能発現に適切な特性を示す。本明細書中で使用される用語「生理学的に適合し得る」は、生物の健全な環境または正常な環境を模倣するために利用することができる溶液または物質(例えば、培体)を示す。インビボ使用のために、生理学的に適合し得る溶液は、薬学的に許容され得るキャリア、賦形剤、補助剤、安定化剤およびビヒクルを含むことができる。
【0030】
本明細書中で使用される用語「薬学的に許容され得る」は、連邦政府または州政府の規制当局によって承認されていること、あるいは、動物における使用、および、より具体的にはヒトにおける使用について米国薬局方または他の一般に認められている薬局方に収載されていることを示す。用語「キャリア」は、治療剤がそれと一緒に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤またはビヒクルを示し、これには、水およびオイルのような無菌の液体(これらに限定されない)が含まれる。
【0031】
用語「細胞培養培地」および用語「培養培地」は、下記のカテゴリーの1つまたは複数からの少なくとも1つの成分を典型的には提供する、細胞を成長させるために使用される栄養物溶液を示す:1)エネルギー源、通常的には、グルコースなどの炭水化物の形態でのエネルギー源;2)すべての必須アミノ酸、通常的には、20個のアミノ酸+システインからなる基本的なセット;3)低い濃度で要求されるビタミンおよび/または他の有機化合物;4)遊離脂肪酸;および5)微量元素(この場合、微量元素は、非常に低い濃度で、通常的にはマイクロモル濃度の範囲で典型的には要求される無機化合物または天然に存在する元素として定義される)。
【0032】
哺乳動物細胞については、細胞培養培地は一般に、培地が何らかの哺乳動物供給源に由来する血清(例えば、ウシ胎児血清(BSA))を本質的に含まない場合、「無血清」である。「本質的に含まない」により、細胞培養培地が約0%〜5%の血清(好ましくは約0%〜1%の血清、最も好ましくは約0%〜0.1%の血清)を含むことが意味される。好都合なことではあるが、無血清の「定義された」培地を使用することができる。この場合、培地における成分のそれぞれの正体および濃度が既知である(すなわち、ウシ下垂体抽出物(BPE)などの不明確な成分が培養培地に存在しない)。
【0033】
本明細書中で定義される「特異的に結合する」は、抗体と相互作用するか、または相互に相互作用するタンパク質、ペプチドまたは抗原の能力を示す。
【0034】
本明細書中で使用される用語「一酸化窒素」は、非荷電の一酸化窒素(NO)と、荷電を有する一酸化窒素化学種(具体的には、ニトロソニウムイオン(NO+)およびニトロキシルイオン(NO−)が含まれる)とを包含する。反応性形態の一酸化窒素をガス状の一酸化窒素によって提供することができる。構造X−NOyを有する化合物(式中、Xは、一酸化窒素を放出、送達または輸送する成分であり、これには、一酸化窒素をその意図された作用部位にそれらの意図された目的のために活性な形態で提供するありとあらゆるそのような化合物が含まれ、Yは1または2である)。
【0035】
本明細書中で使用される用語「生物活性」は、生理学的プロセスまたは病態生理学的プロセスに影響を与えることができる、(例えば、結合、シグナル伝達などを介する)1つまたは複数の細胞プロセスまたは細胞外プロセスに対する作用を示す。
【0036】
用語「処置する」は、本発明に関連してその様々な文法的形態において、疾患(障害)状態、疾患の進行、疾患の原因因子(例えば、細菌またはウイルス)または他の異常な状態の少なくとも1つの有害な症状または作用を防止すること、治療すること、逆転させること、弱めること、緩和すること、最小限に抑えること、抑制すること、または停止させることを包含する。
【0037】
本明細書中で使用される「遺伝子治療」は、従来の遺伝子治療(この場合、持続する作用が1つだけの処置によって達成される)と、遺伝子治療剤の投与(これは、治療的に有効なDNAまたはmRNAの1回または反復した投与を伴う)との両方を包含する。
【0038】
表現「配列番号7〜配列番号16」などは、本明細書中では便宜上使用されており、本発明の方法に従って、それぞれの配列番号を個々に、または、2つ以上の配列番号を示すことがある。
【0039】
診断的検査のための「生物学的サンプル」には、血液(例えば、血清、血漿または全血)、尿、唾液、汗、乳汁、膣分泌物、精液、毛包、皮膚、歯、骨、爪、または他の分泌物、体液、組織または細胞のサンプルが含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
以降の節のための見出しが構成目的のためだけに示される。見出しは限定であると見なしてはならない。
【0041】
(ポリペプチド)
本発明は、GSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)、GSNORペプチド(配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、ならびにそれらのフラグメント、変化体、修飾体および誘導体を包含する。そのようなポリペプチドまたはペプチドは、この分野で知られている様々な技術を使用して作製することができる。例えば、ポリペプチドまたはペプチドの1つまたは複数を、この分野で認められている方法を使用して化学的に合成することができる。例えば、ペプチド合成機を使用することができる。例えば、Peptide Chemistry,A Practical Textbook、Bodasnsky編、Springer−Verlag、1988;Merrifield、Science、232:241〜247(1986);Barany他、Intl.J.Peptide Protein Res.、30:705〜739(1987);Kent、Ann.Rev.Biochem.、57:957〜989(1988);およびKaiser他、Science、243:187〜198(1989)を参照のこと。
【0042】
あるいは、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドは、核酸配列に由来する1つまたは複数のアミノ酸配列を発現させることによって作製することができる。これらのポリペプチドまたはペプチドを発現するベクターおよび細胞を使用することができるように、そのようなポリペプチドまたはペプチド(例えば、ヒトまたはキメリクス)を発現する任意の知られている核酸を使用することができる。ヒトORFおよびヒトポリペプチドの配列が、例えば、GenBankおよび他のデータベースにおいて公開されており、利用可能である(図14〜図19を参照のこと)。所望する場合、ポリペプチドまたはペプチドを回収および単離することができる。
【0043】
ポリペプチドあるいはそのフラグメントまたは誘導体を発現する組換え細胞を、この分野で知られている様々な方法を使用して得ることができ、また、個々の遺伝子産物またはフラグメントを単離および分析することができる(これらは、例えば、Sambrook他編、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(第2版)(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989);および、Ausubel他編、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(John Wiley&Sons、New York、NY、1993)に記載される)。
【0044】
様々なアッセイを、ポリペプチドまたはペプチドの物理的および/または機能的な性質に基づいて使用することができる。そのようなアッセイでは、例えば、ポリペプチドの1つまたは複数を放射能標識し、その後、ゲル電気泳動および免疫アッセイによって分析する工程を包含することができる。ポリペプチドまたはペプチドは、天然の供給源から、またはタンパク質/ペプチドを発現する組換え宿主細胞からのいずれかであっても、この分野で知られている標準的な方法によって単離および精製することができる。これらの方法には、例えば、カラムクロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、ゲル排除、逆相、高圧、迅速タンパク質液体など)、分画遠心分離、溶解度の差、またはタンパク質の精製のために使用される類似する方法が含まれる。
【0045】
本発明の特定の局面では、GSNORポリペプチドの特定のドメインを使用することができる。ヒトGSNORにおける高度に保存されたドメインには、アミノ酸17〜172およびアミノ酸193〜241、ならびに、アミノ酸64〜80およびアミノ酸215〜228が含まれる(図18A〜図18Bを参照のこと)。ヒトGSNORにおけるあまり保存されていないドメインには、アミノ酸1〜16およびアミノ酸172〜193、ならびにアミノ酸242〜374が含まれる(図18A〜図18Bを参照のこと)。別の局面では、これらのポリペプチドまたはポリペプチドドメインの保存的変化体を使用することができる。
【0046】
1つまたは複数のGSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドをコードする核酸、ならびに、これらの核酸を含むベクターおよび細胞は本発明の範囲内である。ポリペプチドまたはペプチドを発現させるために使用することができる宿主−ベクター系には、例えば、(i)ワクシニアウイルス、アデノウイルスが感染させられる哺乳動物細胞系;(ii)バキュロウイルスが感染させられる昆虫細胞系;(iii)酵母ベクターを含有する酵母;または(iv)バクテリオファージ、DNA、プラスミドDNAもしくはコスミドDNAを用いて形質転換された細胞が含まれる。利用される宿主−ベクター系に依存して、数多くの好適な転写エレメントおよび翻訳エレメントのいずれか1つを使用することができる。
【0047】
特定のポリペプチドまたはペプチドの発現を、この分野で知られている任意のプロモーター/エンハンサーによって制御することができ、これらには、例えば、(i)SV40初期プロモーター(例えば、Bernoist&Chambon、Nature、290:304〜310(1981)を参照のこと);(ii)ラウス肉腫ウイルスの3’末端の長末端反復に含有されるプロモーター(例えば、Yamamoto他、Cell、22:787〜797(1980)を参照のこと);(iii)ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター(例えば、Wagner他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、78:1441〜1445(1981)を参照のこと);(iv)メタロチオネイン遺伝子の調節配列(例えば、Brinster他、Nature、296:39〜42(1982)を参照のこと);(v)原核生物発現ベクター、例えば、β−ラクタマーゼプロモーター(例えば、Villa−Kamaroff他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、75:3727〜3731(1978)を参照のこと)など;(vi)tacプロモーター(例えば、DeBoer他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、80:21〜25(1983)を参照のこと)が含まれる。
【0048】
植物発現ベクターに含まれる植物プロモーター/エンハンサー配列もまた利用することができ、これらには、例えば、(i)ノパリンシンセターゼプロモーター(例えば、Herrar−Estrella他、Nature、303:209〜213(1984)を参照のこと);(ii)カリフラワーモザイクウイルスの35S RNAプロモーター(例えば、Garder他、Nucl.Acids Res.、9:2871(1981)を参照のこと);および(iii)光合成酵素リブロースビスリン酸カルボキシラーゼのプロモーター(例えば、Herrera−Estrella他、Nature、310:115〜120(1984)を参照のこと)が含まれる。
【0049】
酵母および他の菌類から得られるプロモーター/エンハンサーエレメント(例えば、Gal4プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼプロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター)、ならびに、組織特異性を有し、遺伝子組換え動物において使用されている下記の動物転写制御領域を、本発明のタンパク質の製造において利用することができる。
【0050】
動物に由来する他の動物転写制御配列には、例えば、(i)膵臓β細胞内において活性であるインスリン遺伝子制御領域(例えば、Hanahan他、Nature、315:115〜122(1985)を参照のこと;(ii)リンパ系細胞内において活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(例えば、Grosschedl他、Cell、38:647〜658(1984)を参照のこと);(iii)肝臓内において活性なアルブミン遺伝子制御領域(例えば、Pinckert他、Genes and Devel.、1:268〜276(1987)を参照のこと);(iv)脳の稀突起神経膠細胞内において活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(例えば、Readhead他、Cell、48:703〜712(1987)を参照のこと);および(v)視床下部内において活性な性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子制御領域(例えば、Mason他、Science、234:1372〜1378(1986)を参照のこと)が含まれる。
【0051】
ベクターは、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドをコードする核酸配列に機能的に連結されたプロモーター、1つまたは複数の複製起点、および、必要に応じて、1つまたは複数の選択マーカー(例えば、抗生物質耐性遺伝子)を含むことができる。ポリペプチド配列またはペプチド配列の発現を調節するか、または、発現した配列を所望の様式で修飾/プロセシングする宿主細胞系統を選択することができる。その上、種々の異なる宿主細胞が、発現したポリペプチドまたはペプチドの翻訳時および翻訳後のプロセシングおよび修飾(例えば、グリコシル化、リン酸化など)のための特徴的かつ特異的な機構を有する。従って、適切な細胞株または宿主系を、ポリペプチドまたはペプチドの所望する修飾およびプロセシングを確実に達成するために選ぶことができる。例えば、細菌システムにおけるタンパク質発現を、非グリコシル化コアタンパク質を産生させるために使用することができ、これに対して、哺乳動物細胞における発現を、異種タンパク質の生来的なグリコシル化を得るために使用することができる。
【0052】
原核生物宿主細胞には、グラム陰性生物またはグラム陽性生物が含まれる。形質転換のための好適な原核生物宿主細胞には、例えば、大腸菌(E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ならびに、シュードモナス属、ストレプトミセス属およびブドウ球菌属に含まれる様々な他の種が含まれる。あるいは、ポリペプチドまたはペプチドを、酵母宿主細胞において、好ましくは、サッカロミセス属由来の酵母(例えば、S.cerevisiae)において発現させることができる。酵母の他の属、例えば、シゾサッカロミセス属、ピキア属またはクルイベロミセス属などもまた用いることができる。
【0053】
哺乳動物宿主細胞培養系または昆虫宿主細胞培養系を、組換えポリペプチドまたは組換えペプチドを発現させるために使用することができる。昆虫細胞において異種タンパク質を産生させるためのバキュロウイルス系が広く知られている(例えば、LuckowおよびSummers、Bio/Technology、6:47(1988)を参照のこと)。哺乳動物起源の確立された細胞株もまた用いることができる。好適な哺乳動物宿主細胞株の例には、サル腎臓細胞のCOS−7株(ATCC CRL1651)(Gluzman他、Cell、23:175、1981)、L細胞、C127細胞、3T3細胞(ATCC CCL163)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、およびBHK細胞株(ATCC CRL10)、ならびに、アフリカミドリザル腎臓細胞株CV1に由来するCV1/EBNA細胞株(ATCC CCL70;McMahan他、EMBO J.、10:2821、1991)が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
(核酸)
本発明は、GSNOR核酸(例えば、配列番号7〜配列番号16、および配列番号17〜配列番号21をコードする配列)、ならびに、そのフラグメント、変化体、誘導体および相補的配列を包含する。ヒトGSNOR遺伝子およびコード領域の配列が、例えば、GenBankおよび他のデータベースにおいて公開されており、利用可能である(図14〜図19を参照のこと)。GSNOR核酸は、例えば、ハイブリダイゼーションプローブのために、また、染色体マッピングおよび遺伝子マッピングにおいて、また、アンチセンスRNAおよびアンチセンスDNA、低分子干渉性RNA、ならびに遺伝子治療ベクターの作製において使用することができる(例えば、米国特許出願公開第2004/0023323号を参照のこと)。そのような核酸はまた、以前に記載されたGSNORポリペプチドの調製のために、また、以前に記載された組換え技術によって有用である。
【0055】
GSNOR遺伝子の全長配列またはその一部は、GSNOR発現を検出するための(または、GSNOR発現のレベルを測定するための)ハイブリダイゼーションプローブとして、あるいは、GSNORの変化体(例えば、SNP;図17Bを参照のこと)を検出するか、または他の種からGSNOR核酸を検出するためのハイブリダイゼーションプローブとして使用することができる。必要に応じて、プローブの長さは約20塩基〜約50塩基である。ハイブリダイゼーションプローブは、全長の天然のヌクレオチド配列の少なくとも部分的に新規な領域(そのような領域は、過度な実験を用いることなく決定することができる)に由来し得るか、または、GSNORの天然の配列のプロモーター、エンハンサーエレメントおよびイントロンを含むゲノム配列に由来し得る。
【0056】
一例として、スクリーニング方法では、約40塩基の選択されたプローブを合成するために既知のDNA配列を使用してGSNOR遺伝子のコード領域を単離する工程を包含することができる。ハイブリダイゼーションプローブは様々な標識によって標識することができ、そのような標識には、32Pまたは35Sなどの放射性ヌクレオチド、あるいは、プローブに(例えば、アビジン/ビオチンの結合システムを介して)結合される、アルカリホスファターゼなどの酵素標識が含まれる。GSNORの任意のEST配列を、本明細書中に開示される方法を使用してプローブとして用いることができる。
【0057】
他の有用なGSNOR核酸には、標的のGSNOR mRNA配列またはGSNOR DNA配列に結合することができる一本鎖核酸配列(RNAまたはDNAのいずれか)を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。標的核酸配列に対するオリゴヌクレオチドの結合は、標的配列の転写または翻訳を阻止する二重鎖を形成させるために使用することができる。オリゴヌクレオチドの結合は、二重鎖の高まった分解、転写または翻訳の永続的な停止、あるいは、別の阻害作用を引き起こすことができる。従って、オリゴヌクレオチドを、GSNORポリペプチドの発現を低下させるために使用することができる。例えば、アンチセンスRNA分子またはアンチセンスDNA分子は、標的化されたmRNAにハイブリダイゼーションし、タンパク質の翻訳を妨げることによって、または、標的化されたDNAにハイブリダイゼーションして、三重らせんを形成することによってmRNAの翻訳を直接的に阻止することができる。
【0058】
そのようなオリゴヌクレオチドは、本発明によれば、GSNOR DNAのフラグメント、例えば、コード配列またはそれに対する相補的配列のフラグメントを含む。そのようなフラグメントは一般に、少なくとも約14個のヌクレオチドを含み、好ましくは約14個〜30個のヌクレオチドを含む。cDNA配列に基づくそのようなフラグメントの設計は以前に記載されている(例えば、SteinおよびCohen、Cancer Res.、48:2659、1988;van der Krol他、BioTechniques、6:958、1988を参照のこと)。これらの短いアンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞膜によるそれらの限定された取り込みによって引き起こされる低い細胞内濃度が存在する場合でさえ、阻害剤として作用する細胞の中に入れることができる(Zamecnik他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、83:4143〜4146(1986))。
【0059】
本発明の方法とともに使用される場合、オリゴヌクレオチドは、修飾された糖−ホスホジエステル骨格または他の糖連結を含むことができる(例えば、国際特許出願公開WO91/06629を参照のこと)。糖連結を有するそのようなオリゴヌクレオチドは、増大した安定性をインビボで呈示し(すなわち、酵素分解に抵抗することができ)、しかし、標的ヌクレオチド配列に結合することができるように配列特異性を保持している。別の局面において、オリゴヌクレオチドは、有機成分、例えば、国際特許出願公開WO90/10048に記載される有機成分などに、また、標的核酸配列に対するオリゴヌクレオチドの親和性を増大させる他の成分、例えば、ポリ(L−リジン)などに共有結合により連結することができる。なおさらに、インターカレーション剤(例えば、エリプチシンなど)およびアルキル化剤または金属錯体を、標的ヌクレオチド配列に対するオリゴヌクレオチドの結合特異性を変化させるためにセンスオリゴヌクレオチドまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドに結合することができる。
【0060】
オリゴヌクレオチドは、任意の遺伝子移入方法(これには、例えば、CaPO4媒介によるDNAトランスフェクション、エレクトロポレーションが含まれる)によって、または、遺伝子移入ベクター(例えば、エプスタイン・バールウイルスなど)を使用することによって、標的核酸配列を含有する細胞に導入することができる。好ましい手法において、オリゴヌクレオチドが好適なレトロウイルスベクターに挿入される。標的核酸配列を含有する細胞が、インビボまたはエクスビボのいずれかで、組換えレトロウイルスベクターと接触させられる。好適なレトロウイルスベクターには、マウスレトロウイルスM−MuLVに由来するベクター、N2(M−MuLVに由来するレトロウイルス)、または、DCT5A、DCT5BおよびDCT5Cと称される二重コピーベクター(例えば、国際特許出願公開WO90/13641を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
オリゴヌクレオチドはまた、リガンド結合分子とのコンジュゲートの形成によって、標的ヌクレオチド配列を含有する細胞に導入することができる(例えば、国際特許出願公開WO91/04753におけるように)。好適なリガンド結合分子には、細胞表面受容体、増殖因子、他のサイトカイン、または、細胞表面受容体に結合する他のリガンドが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、リガンド結合分子のコンジュゲート化は、その同族リガンドに結合するか、または、細胞内へのオリゴヌクレオチドもしくはそのコンジュゲート化体の進入を阻止するリガンド結合分子の能力を実質的に妨害しない。あるいは、オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド−脂質複合体の形成によって、標的核酸配列を含有する細胞に導入することができる(例えば、国際特許出願公開WO90/10448を参照のこと)。オリゴヌクレオチド−脂質複合体は、好ましくは、内因性リパーゼによって細胞内で解離する。
【0062】
アンチセンス(またはセンス)のRNA分子またはDNA分子は一般に、少なくとも約5塩基の長さ、約10塩基の長さ、約15塩基の長さ、約20塩基の長さ、約25塩基の長さ、約30塩基の長さ、約35塩基の長さ、約40塩基の長さ、約45塩基の長さ、約50塩基の長さ、約55塩基の長さ、約60塩基の長さ、約65塩基の長さ、約70塩基の長さ、約75塩基の長さ、約80塩基の長さ、約85塩基の長さ、約90塩基の長さ、約95塩基の長さ、約100塩基の長さまたはそれ以上の長さである。オリゴヌクレオチドは、例えば、その負荷電のホスホジエステル基を非荷電の基によって置換することによって、その取り込みを高めるために修飾することができる。
【0063】
オリゴヌクレオチドは、転写物の特定の領域または転写に関与する遺伝子の特定の領域に対して相補的であるように設計することができる(Lee他、Nucl.Acids Res.、6:3073(1979);Cooney他、Science、241:456(1988);Dervan他、Science、251:1360(1991);Okano他、Neurochem.、56:560(1991);Oligodeoxynucleotides as Antisence Inhibitors of Gene Expression(CRC Press:Boca Raton、Fla、1988)を参照のこと)。転写物を標的化するために、GSNORポリヌクレオチド配列の5’コード部分を使用して、長さが約10塩基対〜40塩基対のアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計することができる。遺伝子を標的化するために、翻訳開始部位に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチド(例えば、標的遺伝子ヌクレオチド配列の約−10位〜+10位の間)を使用することができる。三重らせんを形成させるための核酸分子は、二重鎖の一方の鎖においてプリンまたはピリミジンの相当の範囲を一般には要求するフーグスティーン型塩基対形成則によって使用することができる。例えば、国際特許出願公開WO97/33551を参照のこと。
【0064】
他の有用な核酸には、RNAの特異的な切断を触媒することができる触媒作用RNA分子であるリボザイムが含まれる。リボザイムは、相補的な標的RNAに対する配列特異的なハイブリダイゼーション、それに続く、鎖内ヌクレオチド結合分解による切断によって作用する。潜在的なRNA標的に含まれる特異的なリボザイム切断部位は既知の技術によって特定することができる(例えば、Rossi、Current Bilogy、4:469〜471(1994)、および国際特許出願公開WO97/33551を参照のこと)。
【0065】
別の方法では、干渉性RNA(iRNA;Tijsterman,M.他、2002、Annu.Rev.Genet.、36、489〜519;Tabara,H.他、2002、Cell、109、861〜871)を、GSNOR発現を「ノックダウン」するために使用することができる。iRNAは、低分子(21ヌクレオチド〜23ヌクレオチド)の干渉性RNA(siRNA)にRNaseIII様酵素によって細胞内で切断される二本鎖分子である(Bernstein,E.他、2001、Nature、409、363〜366;Ketting,R.F.他、2001、Genes Dev.、15、2654〜2659;Knight,S.W.およびBass,B.L.、2001、Science、293、2269〜2271;Zamore,P.D.他、2000、Cell、101、25〜33)。siRNAは、適切なmRNAを標的化することを助けるためにsiRNAを解きほぐす大きな多タンパク質複合体(RISC)と会合する(Martinez,J.他、2002、Cell、110、563〜574)。その後、siRNA−mRNAのハイブリッドが切断され、siRNAが放出され、そのmRNAがエンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼによって分解される(Dillin、2003、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、100:6289〜6291に総説される)。
【0066】
哺乳動物細胞では、siRNAを、標的化されたmRNA、および、結果として、コードされたタンパク質産物の特異的な減少を生じさせるために、細胞に直接加えることができる。そのようなsiRNAは、合成によって、または、発現ベクターの使用によって作製することができる。siRNAを、既知の方法(Elbashir SM他、2001、Nature、411:494〜498)およびアルゴリズム(例えば、Cenix BioScience(Dresden、ドイツ)を参照のこと)を使用して設計することができる。加えて、siRNAおよびsiRNA発現ベクターを市販の供給者から得ることができる(例えば、Ambio,Inc.(Austin、TX);QIAGEN,Inc.(Valencia、CA);Promega(Madison、WI);InvivoGen(San Diego、CA)を参照のこと)。好都合なことに、siRNAは、GSNOR転写物を特異的に標的化し、かつ、関連した配列を影響されないままにしておくために有用であり得る。
【0067】
GSNORまたはその修飾された形態をコードする核酸はまた、遺伝子組換え動物または遺伝子組換え細胞株、あるいはノックアウト動物またはノックアウト細胞株を作製するために使用することができる。遺伝子組換え体およびノックアウト体は、下記で記載されるように、治療的に有用な試薬の開発およびスクリーニングにおいて有用である。遺伝子組換え動物(例えば、マウスまたはラット)は、出生前の段階(例えば、胚段階)で動物または動物の先祖に導入された導入遺伝子を含有する細胞を有する動物である。遺伝子組換え動物(特に、マウスまたはラットなどの動物)を作製するための様々な方法が今や、この分野では通常的であり、例えば、米国特許第4,736,866号および同第4,870,009号に記載される。
【0068】
1つの方法において、特定の細胞を、組織特異的なエンハンサーを用いたGSNOR導入遺伝子組み込みのために標的化することができる。胚段階で動物の生殖系列に導入された、GSNORをコードする導入遺伝子の1コピーを含む動物を、GSNORの増大した発現の影響を調べるために使用することができる。そのような動物は、例えば、その過剰発現に関連する病理学的状態からの保護をもたらすと考えられる試薬に対するテスター動物として使用することができる。本発明のこの側面によれば、動物がそのような試薬で処置され、導入遺伝子を有する非処置の動物と比較して、病理学的状態の低い発生により、その病理学的状態のための可能性のある治療的介入が示される。
【0069】
あるいは、本明細書中で明らかにされるように、GSNORの非ヒトホモログ(すなわち、オルソログ)を、GSNORをコードする欠陥遺伝子または変化した遺伝子を有するノックアウト動物を構築するために使用することができる。ノックアウト体は、GSNORをコードする内因性遺伝子と、動物の胚性幹細胞に導入されたGSNORをコードする変化させたゲノムDNAとの間での相同組換えによって作製することができる。例えば、GSNORをコードするcDNAを、確立された技術に従って、GSNORをコードするゲノムDNAをクローン化するために使用することができる。GSNORをコードするゲノムDNAの一部分を欠失させることができ、または、別の遺伝子(例えば、組み込みをモニターするために使用することができる選択マーカーをコードする遺伝子など)で置き換えることができる。
【0070】
1つの方法において、ベクターは、数キロベースの変化していない隣接DNAを5’末端および3’末端の両方に含む(例えば、ThomasおよびCapecchi、Cell、51:503(1987)を参照のこと)。そのようなベクターは胚性幹細胞株に(例えば、エレクトポレーションによって)導入され、導入されたDNAが内因性DNAと相同的に組換えられている細胞が選択される(例えば、Li他、Cell、69:915(1992)を参照のこと)。選択された細胞は、その後、凝集キメラ体を形成させるために動物(例えば、マウスまたはラット)の胚盤胞に注入される(例えば、Bradley、Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells;A Practical Approarch、E.J.Robertson編(IRL、Oxford、1987)、113頁〜152頁を参照のこと)。
【0071】
キメラな胚を好適な偽妊娠のメス里親動物に移植し、胚を出産まで成長させて、ノックアウト動物を作製することができる。相同組換えDNAをその生殖細胞に有する子孫を標準的な技術によって特定することができ、また、そのような子孫は、動物のすべての細胞が相同組換えDNAを含有する動物を育種するために使用することができる。ノックアウト動物は、例えば、ある種の病理学的状態(例えば、LPS負荷)から防御するその能力について、また、GSNORポリペプチドが存在しないことに起因する病理学的状態(例えば、低血圧症)のその発症について特長づけることができる。
【0072】
GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドをコードする核酸はまた遺伝子治療においても使用することができる。特に、GSNORコード配列を、治療的に有効なGSNOR産物を産生させるために、例えば、欠陥遺伝子に取って代わるために、または、遺伝子発現を増大させるために、細胞に導入することができる。様々な技術を、核酸を生細胞に導入するために利用することができる。そのような技術は、核酸が培養細胞にインビトロで移されるか、または、意図された宿主の細胞においてインビボで移されるかに依存して変化する。核酸をインビトロで哺乳動物細胞に移入するために好適な技術には、リポソーム、エレクトロポレーション、顕微注入、細胞融合、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法などの使用が含まれる。
【0073】
1つの好ましい方法において、遺伝子移入が、ウイルスベクター(典型的にはレトロウイルスベクター)を用いたトランスフェクション、およびウイルスコートタンパク質−リポソーム媒介によるトランスフェクションによってインビボで行われる(Dzau他、Trends in Biotechnology、11、205〜210(1993))。状況に応じて、標的細胞を標的化する薬剤(例えば、細胞表面の膜タンパク質または標的細胞に対して特異的な抗体、標的細胞表面の受容体に対するリガンドなど)を核酸供給源に提供することは望ましい。リポソームが用いられる場合、エンドサイトーシスに関連する細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、標的化するために、かつ/または取り込みを促進させるために使用することができる(例えば、特定の細胞タイプに対する向性を示すキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、サイクリングにおいて内在化を受けるタンパク質に対する抗体、細胞内局在化を標的化し、かつ細胞内半減期を増強するタンパク質)。受容体媒介エンドサイトーシスの技術は以前に記載されている(例えば、Wu他、J.Biol.Chem.、262、4429〜4432(1987);およびWagner他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、87、3410〜3414(1990)を参照のこと)。遺伝子マーキングおよび遺伝子治療のプロトコルの総説については、Anderson他、Science、256、808〜813(1992)を参照のこと。
【0074】
(抗体)
本発明はさらに、GSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)、GSNORペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、またはそのフラグメントに特異的に結合する抗体および抗体フラグメント(例えば、FabフラグメントまたはF(ab’)2フラグメントなど)を包含する。「特異的に結合する」抗体は、特定のGSNORアミノ酸配列を認識して、それに結合し、しかし、生物学的サンプル中の他の分子を実質的に認識しないか、または実質的にそれに結合しない抗体である。1つの方法では、精製されたポリペプチド、またはその一部分、変化体もしくはフラグメントを、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を調製するための標準的な技術を使用してそのアミノ酸配列と特異的に結合する抗体を惹起させるために免疫原として使用することができる。
【0075】
全長のポリペプチドを、所望する場合には使用することができる。あるいは、ポリペプチドの抗原性フラグメントを免疫原として使用することができる。いくつかの実施形態において、抗原性フラグメントは、ポリペプチドの少なくとも6個のアミノ酸残基、少なくとも8個のアミノ酸残基、少なくとも10個のアミノ酸残基、少なくとも15個のアミノ酸残基、少なくとも20個のアミノ酸残基、または少なくとも30個のアミノ酸残基、またはそれ以上のアミノ酸残基を含む。1つの実施形態において、エピトープがポリペプチドの特異的なドメインを含むか、または、ポリペプチドの表面に存在する(例えば、親水性ドメイン)。所望する場合、抗原性領域を含有するペプチドを、親水性の領域および疎水性の領域を示すヒドロパシープロットを使用して選択するができる。これらのプロットは、フーリエ変換によるか、またはフーリエ変換によらないかのいずれかであっても、この分野で知られている任意の方法によって作成することができ、そのような方法には、例えば、Kyte Doolittle法またはHopp Woods法が含まれる。例えば、HoppおよびWoods、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、78:3824〜3828(1981);KyteおよびDoolittle、J.Mol.Biol.、157:105〜142(1982)を参照のこと。
【0076】
この分野で知られている様々な手法をポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の製造のために使用することができる。例えば、ポリクローナル抗体の製造のために、様々な好適な宿主動物(例えば、ウサギ、ヤギ、マウスまたは他の哺乳動物)を、天然のポリペプチド、またはその変化体、または上記のフラグメントもしくは誘導体を用いた注射によって免疫化することができる。適切な免疫原性調製物は、例えば、組換え発現ポリペプチドを含有することができる。あるいは、以前に議論されたように、免疫原性のポリペプチドまたはペプチドを化学合成することができる。
【0077】
免疫原性調製物はさらにアジュバントを含むことができる。免疫学的応答を増大させるために使用される様々なアジュバントには、例えば、フロイントのアジュバント(完全および不完全)、鉱物ゲル(例えば、水酸化アルミニウム)、表面活性物質(例えば、リゾレシチン、プルロニックアルコール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルション、ジニトロフェノールなど)、ヒトアジュバント(例えば、バチルス・カルメット・ゲラン菌およびコリネバクテリウム・パルブム菌など)、または類似する免疫刺激性薬剤が含まれる。所望する場合、ポリペプチドまたはペプチドに向けられた抗体分子を哺乳動物から(例えば、血液から)単離することができ、さらに、広く知られている技術(例えば、プロテインAクロマトグラフィーなど)によって精製して、IgG画分を得ることができる。
【0078】
任意の技術を、特定のポリペプチドまたはペプチドに向けられたモノクローナル抗体を調製するために使用することができる。例えば、連続した細胞株培養を、例えば、ハイブリドーマ技術(Kohler&Milstein、Nature、256:495〜497(1975)を参照のこと);トリオーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor他、Immunol Today、4:72(1983)を参照のこと);およびEBVハイブリドーマ技術におけるように利用して、ヒトモノクローナル抗体を製造することができる(例えば、Cole他、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy(Alan R.Liss,Inc.)(1985)、77頁〜96頁を参照のこと)。所望する場合、ヒトモノクローナル抗体を、ヒトハイブリドーマを使用することによって調製することができ(Cote他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、80:2026〜2030(1983)を参照のこと)、または、ヒトB細胞をインビトロでエプスタイン・バールウイルスで形質転換することによって調製することができる(Cole他、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy(上掲)を参照のこと)。
【0079】
様々な方法を、所望するタンパク質、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログについて所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ効果的な同定を可能にするためのFab発現ライブラリーの構築のために適合化することができる(例えば、Huse他、Science、246:1275〜1281(1989)を参照のこと)。非ヒト抗体を、この分野で広く知られている技術によって「ヒト化」することができる(例えば、米国特許第5,225,539号を参照のこと)。ポリペプチドまたはペプチドに対するイディオタイプを含有する抗体フラグメントを、この分野で知られている技術によって製造することができ、そのようなフラグメントには、例えば、(i)抗体分子のペプシン消化によって得られるF(ab’)2フラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって生じるFabフラグメント;(iii)抗体分子をパパインおよび還元剤で処理することによって生じるFabフラグメント;および(iv)Fvフラグメントが含まれる。
【0080】
本明細書中に記載されるポリペプチドまたはペプチドに対するキメラなヒト化モノクローナル抗体もまた本発明の範囲に含まれる。そのような抗体は、この分野で知られている様々な組換えDNA技術によって、例えば、PCT国際特許出願番号PCT/US86/02269;欧州特許出願第184,187号;欧州特許出願第171,496号;欧州特許出願第173,494号;PCT国際特許出願公開番号WO86/01533;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第125,023号;Better他、Science、240:1041〜1043(1988);Liu他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84:3439〜3443(1987);Liu他、J.Immunol.、139:3521〜3526(1987);Sun他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84:214〜218(1987);Nishimura他、Cancer Res.、47:999〜1005(1987);Wood他、Nature、314:446〜449(1985);Shaw他、J.Natl.Cancer Inst.、80:1553〜1559(1988);Morrison他、Science、229:1202〜1207(1985);Oi他、BioTechniques、4:214(1986);米国特許第5,225,539号;Jones他、Nature、321:552〜525(1986);Verhoeyan他、Science、239:1534(1988);およびBeidler他、J.Immunol.、141:4053〜4060(1988)に記載される方法を使用して製造することができる。
【0081】
所望の特異性を有する抗体をスクリーニングするための方法には、例えば、この分野で知られている酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および他の免疫学的媒介技術が含まれる。例えば、ポリペプチドの特定のドメインに対して特異的である抗体の選択は、そのようなドメインを有するポリペプチドまたはそのフラグメントに結合するハイブリドーマを作製することによって容易にすることができる。
【0082】
本発明の特定の実施形態において、本明細書中に記載されるGSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドに対して特異的な抗体は、様々な方法において、例えば、アミノ酸配列の検出または阻害、および、これらの配列を阻害する薬剤の同定などにおいて使用することができる。検出は、抗体を検出可能な物質にカップリング(例えば、物理的に連結)することによって容易にすることができる。検出可能な物質の例には、様々な酵素、補欠分子族、蛍光性物質、発光性物質、生物発光性物質および放射性物質が含まれる。好適な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼが含まれる。好適な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれる。好適な蛍光性物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリドまたはフィコエリトリンが含まれる。発光性物質の例には、ルミノールが含まれる。生物発光性物質の例には、GFP、ルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンが含まれる。好適な放射性物質の例には、125I、131I、35Sまたは3Hが含まれる。
【0083】
ポリペプチド特異的またはペプチド特異的な抗体はまた、標準的な技術(例えば、アフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈殿など)を使用してアミノ酸配列を単離するために使用することができる。従って、本明細書中に開示される抗体は、宿主細胞において発現される組換え産生されたポリペプチドまたはペプチドだけでなく、細胞からの特異的なポリペプチドまたはペプチドの精製を容易にすることができる。
【0084】
(診断方法およびキット)
被験体におけるGSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)、GSNORペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)またはそれらのフラグメントの発現レベルおよび活性レベルを、例えば、診断目的のために明らかにする方法もまた本発明によって包含される。本発明によれば、様々な診断方法を使用して、本明細書中に記載される医学的状態の開始を予測または明らかにすることができ、あるいは、そのような状態の進行またはその処置の成功をモニターすることができる。細胞プロセスおよび細胞経路に関与するポリペプチドの変化した発現が被験体における有害な影響をもたらし得ることが理解される。例えば、低いGSNORレベルおよび高いNO合成、ならびに/または高いNOレベルに関係づけられる医学的状態には、例えば、変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS)、脳卒中(例えば、虚血性卒中)および増殖性疾患(例えば、新生物、腫瘍、癌、異形成および前癌性病変)が含まれる。高いGSNORレベルおよび低いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる医学的状態には、例えば、高血圧症(例えば、肺性高血圧症)などの血管障害、心臓疾患、心不全、心臓発作、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息およびインポテンスが含まれる。低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる医学的状態には、例えば、全身性感染症(例えば、菌血症、敗血症、全身性炎症性応答症候群、新生児敗血症、心原性ショックまたは毒性ショックなど)による組織傷害(例えば、肝臓組織、腎臓組織、筋肉組織および/またはリンパ組織)または死が含まれる。
【0085】
低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる他の医学的状態には、例えば、特に、炎症性疾患(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風および偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患)など)が含まれる。加えて、低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)は、本明細書中下記に示されるように、麻酔時における低血圧症、ならびに、ショック(例えば、エンドトキシンショックまたは敗血症性ショック)による組織損傷および死亡に関連する。
【0086】
1つの診断方法は、生物学的サンプルを被験体から提供する工程、サンプルにおけるGSNORまたはSNOのレベルを測定する工程、および、そのレベルを、既知のGSNORレベルまたはSNOレベルを有する参照サンプルと比較する工程を包含する。参照体に対してサンプルにおける高いレベルまたは低いレベルにより、GSNORまたはSNOの変化した発現が示される。あるいは、GSNORの酵素活性を、目的とする任意の細胞において測定することができる。ポリペプチドの変化した発現または活性の検出は、所与の疾患状態を診断するために使用することができ、かつ/または、疾患状態について素因を有する被験者を特定するために使用することができる。任意の好適な参照サンプルを用いることができるが、好ましくは、試験サンプルおよび参照サンプルは同じ媒体に由来する。例えば、両者は血液または尿などである。参照サンプルは、コントロール集団において発現するポリペプチドレベルを好適に代表しなければならない。
【0087】
本発明はまた、GSNORレベルまたはSNOレベルあるいはGSNOR活性を測定するためのキットを提供する。1つの局面において、キットは、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドに向けられた1つまたは複数の抗体、あるいは、SNOに向けられた1つまたは複数の抗体を含む。別の局面において、キットは、GSNOR酵素に対する基質を含有することができる。そのようなキットは、例えば、反応容器、サンプル中のGSNORまたはSNOを検出するための試薬、および、検出されたGSNORまたはSNOを明らかにするための試薬(例えば、検出可能なマーカーにカップリングされた二次抗体)を含有することができる。抗ポリペプチド抗体に取り込まれる標識には、例えば、化学発光成分、酵素成分、蛍光性成分、比色測定成分または放射能成分が含まれ得る。GSNORの酵素活性を検出するために、キットは、基質との反応を測定するための比色測定アッセイまたは蛍光測定アッセイを含有することができる。代わりの方法として、キットは、GSNORの遺伝子発現または遺伝子量のレベルを測定するために核酸プローブを含むことができる。核酸プローブは非標識であってもよく、または、検出可能なマーカーで標識されていてもよい。標識されていない場合、核酸プローブは、キットにおいて標識化試薬とともに提供され得る。本発明のキットは、診断アッセイおよび/または臨床的スクリーニングアッセイにおいて用いることができる。
【0088】
(調節薬剤に対するスクリーニング)
本発明はさらに、1つまたは複数のGSNORまたはSNOのレベルを調製するか、あるいは、GSNOR活性を調節する薬剤(例えば、阻害剤/アンタゴニストまたは活性化因子/アゴニスト)、ならびに、そのような薬剤を同定するための方法を包含する。様々なスクリーニングアッセイを、GSNORポリペプチドもしくはGSNORペプチドと結合するか、または、GSNORポリペプチドもしくはGSNORペプチドと複合体を形成する化合物、あるいは、そうでない場合には、GSNORの転写物または翻訳産物の発現または安定性を変化させる化合物、あるいは、GSNORと他の細胞タンパク質との相互作用を妨害する化合物を同定するために設計することができる。
【0089】
本発明のスクリーニングアッセイは、化学ライブラリーのハイスループットスクリーニングが容易であり、それにより、スクリーニングアッセイを、低分子の薬物候補物を同定するために特に好適にする様々な方法を含むことができる。アッセイは、タンパク質−タンパク質の結合アッセイ、生化学的なスクリーニングアッセイ、免疫アッセイ、および細胞に基づくアッセイ(これらはこの分野では十分に特徴づけられている)を含む様々な形式で行うことができる。インビトロスクリーニングの場合、調節する薬剤を、例えば、ファージディスプレー、GSTプルダウン、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)またはBIAcore(表面プラズモン共鳴;BIAcore AB、Uppsala、スウェーデン)分析によって同定することができる。インビボスクリーニングの場合、薬剤を、例えば、酵母ツーハイブリッド分析、同時免疫沈殿、免疫蛍光による同時局在化、またはFRETによって同定することができる。
【0090】
試験剤による活性(またはレベル)の調節、例えば、ポリペプチドに対する薬剤の結合を、この分野で認められている方法を使用して明らかにすることができる。例えば、ポリペプチドを、上記のように、ポリペプチドに特異的な抗体を使用して検出することができる。あるいは、結合した薬剤は、試験剤にさらされたポリペプチドの相対的な電気泳動移動度を、試験剤にさらされていない複合体の移動度と比較することによって同定することができる。GSNOレダクターゼ活性を、以前の記載(Liu他、2001)のように、GSNOに依存したNADHの消費によって測定することができる。SNOレベルを光分解−化学発光によって測定することができる(Liu他、2000b)。
【0091】
1つの具体的な実施形態において、GSNORポリペプチドと試験剤との間における結合性複合体が反応混合物において単離または検出される。例えば、GSNORポリペプチドまたは試験剤を共有結合または非共有結合による結合によって固相(例えば、マイクロタイタープレート)に固定化することができる。非共有結合による結合を、固体表面をGSNORポリペプチドの溶液で被覆し、乾燥することによって達成することができる。あるいは、固定化されるGSNORポリペプチドに対して特異的な固定化された抗体(例えば、モノクローナル抗体)を使用して、GSNORポリペプチドを固体表面に固定することができる。
【0092】
アッセイは、検出可能な標識によって標識されていてもよい固定化されていない成分(例えば、ポリペプチドまたは試験剤)を固体表面上の固定化された成分に加えることによって行うことができる。反応が完了したとき、反応していない成分を、例えば、洗浄することによって除くことができ、表面に固定された複合体をその標識によって検出することができる。最初に固定化されていない成分が標識を有しない場合、複合体形成を、例えば、固定化された複合体に特異的に結合する標識された抗体を使用することによって検出することができる。
【0093】
試験剤がGSNORポリペプチドと相互作用するならば、そのようなポリペプチドとのその相互作用を、タンパク質−タンパク質相互作用を検出するために広く知られている方法によってアッセイすることができる。そのようアッセイには、例えば、架橋、同時免疫沈殿、およびグラジエントまたはクロマトグラフィーカラムによる同時精製などの従来の方法が含まれる。加えて、タンパク質−タンパク質相互作用は、酵母に基づく遺伝子的システムを使用することによって、例えば、ツーハイブリッドシステム(FieldsおよびSong、Nature(London)、340:245〜246(1989);Chien他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88:9578〜9582(1991);ChevrayおよびNathans、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:5789〜5793(1991))を使用することによってモニターすることができる。ツーハイブリッドシステムでは、2つの融合タンパク質が用いられる。すなわち、一方は、標的タンパク質がDNA結合ドメインに融合されている融合タンパク質であり、もう一方は、候補の結合タンパク質が活性化ドメインに融合されている融合タンパク質である(例えば、GAL4の結合ドメインおよび活性化ドメインを使用することができる)。細胞が両方の融合構築物で形質転換され、相互作用するポリペプチドを含有するコロニーが、β−ガラクトシダーゼに対する発色性基質を用いて検出される。このようなツーハイブリッド技術を使用して2つの特異的なタンパク質の間でのタンパク質−タンパク質相互作用を同定するための完全なキット(MATCHMAKERTM)がCLONTECHから市販されている。
【0094】
GSNORポリペプチドおよび他の細胞内成分または細胞外成分の相互作用を妨害する試験剤を確立された方法によって試験することができる。1つの方法において、GSNOR遺伝子産物および細胞内成分または細胞外成分を、これら2つの産物の相互作用および結合を可能にする条件下および時間にわたって含有する反応混合物が調製される。反応が試験化合物の非存在下および存在下で行われる。加えて、非反応性薬剤を、陽性コントロールとして役立たせるために、第3の反応混合物に加えることができる。複合体がコントロール反応液において形成し、試験化合物を含有する反応混合物において形成しないことにより、試験化合物が試験化合物およびその反応パートナーの相互作用を妨害することが示される。
【0095】
阻害剤を同定するために、GSNORポリペプチドを試験剤と一緒に細胞に加えることができ、その後、低下した活性について調べることができる。薬剤をコードする遺伝子を、当業者に知られている数多くの方法(例えば、リガンドパンニング、FACS分取および発現クローニング)によって同定することができる(例えば、Coligan他、Current Protocols in Immun.、1(2):第5章(1991)を参照のこと)。代わりの方法として、標識されたGSNORポリペプチドを、受容体分子を発現する細胞膜または抽出物調製物を用いて光親和性標識することができる。架橋物をPAGEによって分離し、X線フィルムに感光させることができる。受容体を含有する標識された複合体を切り出し、ペプチドフラグメントに分離し、タンパク質微量配列決定に供することができる。微量配列決定から得られたアミノ酸配列は、cDNAライブラリーをスクリーニングして、薬剤をコードする遺伝子を同定するための1組の縮重オリゴヌクレオチドプローブを設計するために使用することができる。
【0096】
GSNORのレベルおよび/または活性を低下させる薬剤(すなわち、阻害剤)を同定する1つの方法は、(a)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドを提供すること;(b)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドを試験剤と接触させること;および(c)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドに結合する薬剤の存在を検出すること(この場合、そのような結合性薬剤はGSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドのレベルおよび/または活性をダウンレギュレーションする)を含む。GSNORのレベルおよび/または活性を増大させる薬剤(すなわち、活性化因子)を同定する1つの方法は、(a)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドを提供すること;(b)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドを試験剤と接触させること;および(c)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドに結合する薬剤の存在を検出すること(この場合、そのような結合性薬剤はGSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドのレベルおよび/または活性をアップレギュレーションする)を含む。
【0097】
加えて、S−ニトロシル化を低下させる薬剤(すなわち、阻害剤)を同定する1つの方法は、(a)S−ニトロシル化が可能な第1の細胞を、試験剤を含む培地で培養すること;(b)S−ニトロシル化が可能な第2の細胞を、上記試験剤を含まない培地で培養すること(この場合、第2の細胞は、試験剤を有しないことを除いて、第1の細胞に類似する);および(c)第1の細胞および第2の細胞の両方におけるS−ニトロシル化を比較することを含み、この場合、S−ニトロシル化が第1の細胞において第2の細胞の場合よりも小さいとき、S−ニトロシル化を阻害する薬剤が同定される。S−ニトロシル化を増大させる薬剤(すなわち、活性化因子)を同定する1つの方法は、(a)S−ニトロシル化が可能な第1の細胞を、試験剤を含む培地で培養すること;(b)S−ニトロシル化が可能な第2の細胞を、上記試験剤を含まない培地で培養すること(この場合、第2の細胞は、試験剤を有しないことを除いて、第1の細胞に類似する);および(c)第1の細胞および第2の細胞の両方におけるS−ニトロシル化を比較することを含み、この場合、S−ニトロシル化が第1の細胞において第2の細胞の場合よりも大きいとき、S−ニトロシル化を増大する薬剤が同定される。
【0098】
任意の化合物または他の分子(あるいはその混合物または凝集物)を試験剤として使用することができる。いくつかの実施形態において、薬剤は小ペプチドであり得るか、または、この分野で知られているコンビナトリアル合成法によって製造された他の低分子であり得る。他の実施形態において、薬剤は、可溶性の受容体、受容体アゴニスト、抗体または抗体フラグメントであり得る。薬剤は、GSNORの転写物または遺伝子配列に結合するアンチセンス分子または干渉性RNA分子などの核酸であり得る。薬剤は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体および抗体フラグメント、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体、ならびに、そのような抗体またはフラグメントのキメラ体またはヒト化体、ならびに、ヒト抗体およびヒト抗体フラグメント(これらに限定されない)を含む抗体であり得る。
【0099】
本発明とともに使用される場合、阻害剤は、近い関係にあるタンパク質、例えば、1つまたは複数の基質を認識するが、酵素活性を有しないGSNORポリペプチドの変異型形態であり得る。阻害剤は、(上記に記載される)アンチセンス技術を使用して調製されるアンチセンスRNA構築物またはアンチセンスDNA構築物であり得る。阻害剤には、GSNORポリペプチドの基質結合部位または他の関連した結合部位に結合し、それにより、正常な生物学的活性を阻止する低分子が含まれ得る。低分子の例には、小ペプチドまたはペプチド様化合物、好ましくは可溶性のペプチド、および合成された非ペプチド性有機化合物または無機化合物が含まれるが、これらに限定されない。これらの低分子は、本明細書中上記で議論されたスクリーニングアッセイの任意の1つまたは複数によって、かつ/あるいは、当業者に知られている任意の他のスクリーニング技術によって同定することができる。
【0100】
(薬学的組成物)
本発明はさらに、医学的状態に対する予防または処置として(例えば、1つまたは複数の症状を緩和するために)有用な薬学的組成物を包含する。非限定的な例として、低いGSNORレベルおよび高いNO合成、ならびに/または高いNOレベルに関係づけられる医学的状態には、変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS)、脳卒中(例えば、虚血性卒中)および増殖性疾患(例えば、癌、腫瘍、異形成および新生物)が含まれる。高いGSNORレベルおよび低いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる医学的状態には、例えば、高血圧症(例えば、肺性高血圧症)などの血管障害、心臓疾患、心不全、心臓発作、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息およびインポテンスが含まれる。低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる医学的状態には、例えば、全身性感染症(例えば、菌血症、敗血症、全身性炎症性応答症候群、新生児敗血症、心原性ショックまたは毒性ショックなど)による組織傷害(例えば、肝臓組織、腎臓組織、筋肉組織および/またはリンパ組織)または死が含まれる。
【0101】
低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる他の医学的状態には、例えば、炎症性疾患(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風および偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患)など)が含まれる。加えて、低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)は、本明細書中下記に示されるように、低血圧症(例えば、麻酔に関連する低血圧症)、ならびに、ショック(例えば、エンドトキシンショックまたは敗血症性ショック)による組織損傷および死に関連する。
【0102】
1つの局面において、薬学的組成物は、単独で投与され得る本発明の試薬、あるいは、1つまたは複数のさらなる薬剤の全身的または局所的な同時投与との組合せで投与され得る本発明の試薬を含む。本発明の試薬には、GSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)、GSNORペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、抗GSNOR抗体または抗体フラグメント、GSNOR模倣体(例えば、ペプチド、低分子または抗イディオタイプ抗体)、GSNORアンチセンス配列またはiRNA配列、あるいはそれらのフラグメント、誘導体もしくは修飾体、あるいは、別のGSNOR阻害剤またはGSNOR活性化因子が含まれ得る。投与されるさらなる薬剤には、保存剤、ストレス防止医薬品、ホスホジエステラーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、β−アゴニストおよび発熱防止剤が含まれ得る。好適なホスホジエステラーゼ阻害剤には、ロリプラム、シロミラスト、ロフルミラスト、バイアグラ(登録商標)(クエン酸シルデニフィル)、シアリス(登録商標)(タダラフィル)、レビトラ(登録商標)(バルデニフィル)が含まれるが、これらに限定されない。好適なβ−アゴニストには、イソプロテレノール、メタプロテレノール、テルブタリン、アルブテロール、ビトルテロール、リトドリン、ドーパミンおよびドブタミンが含まれるが、これらに限定されない。
【0103】
好適なiNOS阻害剤には、II型iNOS阻害剤、特異的なNOS阻害剤、および非特異的なNOS阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。NOS阻害剤の非限定的な例には、L−N(6)−(1−イミノエチル)リジンテトラゾール−アミド(SC−51);アミノグアニジン(AG);S−メチルイソウレア(SMT);S−(2−アミノエチル)イソチオウレア;2−アミノ−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−1,3−チアジン(AMT);L−2−アミノ−4−(グアニジオオキシ)酪酸(L−カナバニンサルフェート);S−エチルイソチオウレア(EIT);2−イミノピペリジン;S−イソプロピルイソチオウレア;および1,4−フェニレンビス(1,2−エタンジイル)−ジイソチオウレア(PBIT)が含まれる。本発明とともに使用される好ましいNOS阻害剤は、N−[3−(アミノメチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)−L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン(例えば、非特異的な阻害のために);および7−ニトロインダゾール(例えば、脳組織におけるnNOSの阻害のために)である。
【0104】
本発明の薬学的組成物は好ましくは、その意図された投与経路と適合し得るように配合される。投与経路の例には、経口投与および非経口投与、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、吸入投与、経皮投与(局所的投与)、経粘膜投与および直腸投与が含まれる。非経口適用、皮内適用または皮下適用のために使用される溶液または懸濁物は下記の成分を含むことができる:無菌の希釈剤、例えば、注射用水、生理的食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒など;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなど;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなど;キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸など;緩衝化剤、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩など;および、張性の調節のための薬剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロースなど。pHを酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウムなど)で調節することができる。非経口用の調製物は、アンプル、使い捨てシリンジ、または、ガラスもしくはプラスチックから作製された多回投薬バイアルに入れることができる。
【0105】
注射用使用のために好適な薬学的組成物には、無菌の注射可能な溶液または分散物を即座に調製するための無菌の水溶液(水溶性の場合)または水性分散物および無菌の粉末が含まれる。静脈内投与の場合、好適なキャリアには、生理学的な生理的食塩水、静菌水、CremophorELTM(BASF、Parsippany、NJ)またはリン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)が含まれる。すべての場合において、組成物は無菌でなければならず、また、容易なシリンジ注入性が存在する程度に流動性であることが望ましい。組成物は製造および貯蔵の条件のもとで安定でなければならず、また、細菌および真菌などの微生物の混入作用を受けないように保存されなければならない。
【0106】
キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液状のポリエチレングリコールなど)、およびそれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散媒体であり得る。適正な流動性を、例えば、レシチンなどの被覆剤の使用によって、また、分散物の場合には要求される粒子サイズを維持することによって、また、界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止を、様々な抗菌剤および抗真菌剤によって、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸およびチメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マニトール、ソルビトールなど)、塩化ナトリウム)を組成物に含むことは好ましい。注射可能な組成物の長期にわたる吸収が、吸収を遅らせる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなど)を組成物に含めることによってもたらされ得る。
【0107】
無菌の注射可能な溶液は、必要量の活性な試薬(例えば、ポリペプチド、ペプチド、抗体または抗体フラグメント)を、必要とされる場合には上記に列挙された成分の1つまたは組合せとともに適切な溶媒に配合し、その後、ろ過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散物が、基礎となる分散媒体と、上記に列挙された成分に由来する必要とされる他の成分とを含有する無菌のビヒクルに、活性な化合物を配合することによって調製される。無菌の注射可能な溶液を調製するための無菌粉末の場合、調製方法は、その以前にろ過滅菌された溶液に由来する有効成分および任意のさらなる所望される成分の粉末をもたらす真空乾燥および凍結乾燥である。
【0108】
経口用組成物は一般に、不活性な希釈剤または食用キャリアを含む。経口用組成物はゼラチンカプセルで包むことができ、または錠剤に圧縮成型することができる。経口による治療的投与のために、活性な化合物は賦形剤と一緒に配合することができ、錠剤、トローチまたはカプセルの形態で使用することができる。経口用組成物はまた、口腔洗浄剤として使用される流動性キャリアを使用して調製することができ、この場合、流動性キャリアにおける化合物は経口適用され、口内をゆすぎ、吐き出されるか、または飲み込まれる。薬学的に適合し得る結合剤および/または補助物質を組成物の一部として含めることができる。錠剤、ピル、カプセルおよびトローチなどは下記成分または類似する性質の化合物のいずれかを含有することができる:結合剤、例えば、微結晶セルロース、トラガカントガムまたはゼラチンなど;賦形剤、例えば、デンプンまたはラクトースなど;崩壊剤、例えば、アルギン酸、Primogelまたはトウモロコシデンプンなど;滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSterotesなど;流動促進剤、例えば、コロイド状二酸化ケイ素など;甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリンなど;あるいは、芳香剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香料など。
【0109】
吸入による投与の場合、配合物は、好適な噴射剤(例えば、二酸化炭素などのガス)を含有する加圧された容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからのエアロゾルスプレー物の形態で送達される。経粘膜投与または経皮投与の場合、透過すべきバリアに対して適切な浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤は一般にこの分野では知られており、これには、例えば、経粘膜投与のためには、界面活性剤、胆汁塩およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜投与は、鼻腔スプレー剤または坐薬の使用によって達成することができる。経粘膜投与の場合、活性な試薬は、この分野では一般に知られている軟膏、塗剤、ゲルまたはクリームに配合される。試薬はまた、直腸送達のために、坐薬(例えば、カカオ脂および他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤を用いた坐薬)または停留浣腸剤の形態で調製することができる。
【0110】
1つの実施形態において、活性な試薬は、身体からの迅速な除去から保護するキャリアを用いて調製される。例えば、制御放出配合物を使用することができ、これには、インプラントおよびマイクロカプセル化された送達システムが含まれる。生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる(例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸など)。そのような配合物を調製するための様々な方法が当業者には明らかである。その材料もまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に得ることができる。リポソーム懸濁物(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を伴う、感染細胞に標的化されるリポソームを含む)もまた、薬学的に許容され得るキャリアとして使用することができる。このようなリポソーム懸濁物は、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されるように、当業者に知られている方法に従って調製することができる。
【0111】
さらに、活性な化合物の懸濁物を適切な油性注射懸濁物として調製することができる。親油性の好適な溶媒またはビヒクルには、脂肪油(例えば、ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、トリグリセリド、またはリポソームが含まれる。脂質でないポリカチオン性アミノポリマーもまた送達のために使用することができる。必要に応じて、懸濁物はまた、配合物の溶解性を増大させ、かつ、高濃度溶液の調製を可能にするために、好適な安定化剤または薬剤を含むことができる。
【0112】
経口用組成物または非経口用組成物を投与の容易さおよび投薬量の均一性のために投薬ユニット形態物で配合することは特に好都合である。本発明において使用されるような投薬ユニット形態物は、処置される被験者のための単位投薬物として適する物理的に別個の単位物を示し、この場合、各ユニットが、必要とされる薬学的キャリアと共同して所望の治療効果をもたらすために計算された所定量の活性な試薬を含有する。本発明の投薬ユニット形態物についての仕様は、活性な試薬の特異な特徴、および、達成すべき特定の治療効果、ならびに、配合の技術分野における固有的な制限(例えば、個体の処置のための活性な薬剤など)によって決定され、また、それらに直接依存する。
【0113】
タンパク質性薬剤をコードする核酸分子をベクターに挿入し、遺伝子治療ベクターとして使用することができる。遺伝子治療ベクターは、例えば、静脈内注射または局所投与によって(米国特許第5,328,470号を参照のこと)、あるいは定位固定注射によって(例えば、Chen他(1994)、PNAS、91:3054〜3057を参照のこと)、被験体に送達することができる。遺伝子治療ベクターの薬学的調製物は遺伝子治療ベクターを許容され得る希釈剤に含むことができ、または、遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれる徐放性マトリックスを含むことができる。あるいは、完全な遺伝子送達ベクターが組換え細胞から完全な形で産生され得る場合(例えば、レトロウイルスベクターまたはアデノウイルスベクター)、薬学的調製物は、遺伝子送達システムをもたらす1つまたは複数の細胞を含むことができる。
【0114】
1つの実施形態において、試薬は、少なくとも90%純粋な試薬を含む組成物で投与される。好ましくは、試薬は、最大の安定性および最も少ない配合関連の副作用をもたらす媒体に配合される。試薬に加えて、本発明の組成物は典型的には、1つまたは複数のタンパク質キャリア、緩衝剤、等張性塩および安定化剤を含む。場合により、試薬は、ポンプデバイスに結合されたカテーテルを埋め込む外科的手法によって投与することができる。ポンプデバイスはまた、埋め込むことができ、または、体外に設置することができる。試薬の投与は間断的なパルス的であり得るか、または連続注入として可能である。
【0115】
試薬は、血液脳関門を通過または迂回するような様式で投与することができる。薬剤が血液脳関門を通過することを可能するための方法には、薬剤のサイズを最小化すること、より容易に通過し得る疎水性薬剤を提供すること、血液脳関門を横断する実質的な透過性係数を有するキャリア分子にタンパク質試薬または他の薬剤をコンジュゲート化することが含まれる(例えば、米国特許第5,670,477号を参照のこと)。あるいは、デバイスを、脳の別個の部分に注入するために使用することができる(例えば、米国特許第6,042,579号、同第5,832,932号および同第4,692,147号を参照のこと)。
【0116】
様々な修飾を、アミノ酸配列(例えば、ポリペプチド、ペプチド、抗体または抗体フラグメント)の溶解性またはクリアランスに影響を及ぼすために薬剤に施すことができる。ペプチド性分子はまた、酵素分解に対する抵抗性を増大させるために、D−アミノ酸を用いて合成することができる。場合により、組成物は、1つまたは複数の可溶化剤、保存剤および浸透増強剤と同時投与することができる。組成物は、保存剤またはキャリア(例えば、タンパク質、炭水化物、および薬学的組成物の密度を増大させるための化合物など)を含むことができる。組成物はまた、等張性塩およびレドックス制御剤を含むことができる。加えて、薬学的組成物は、容器、パックまたはディスペンサーに、投与のための説明書と一緒に含めることができる。
【0117】
本発明の様々な実施形態において、好適なインビトロアッセイまたはインビボアッセイが、特異的な試薬の作用、および、その投与が罹患組織の処置のために適応されるかどうかを明らかにするために行われる。治療において使用される試薬は、ヒト被験者における試験の前に、ラット、マウス、ニワトリ、ウシ、サルおよびウサギなど(これらに限定されない)を含む好適な動物モデル系において試験することができる。同様に、インビボ試験のために、この分野で知られている動物モデル系のいずれかをヒト被験者への投与の前に使用することができる。
【0118】
(治療方法)
本発明はまた、開示された試薬の1つまたは複数の使用により医学的状態を防止または処置する方法(例えば、開示された試薬の1つまたは複数の使用により医学的状態の1つまたは複数の症状を緩和する方法)を包含する。これらの方法とともに使用される試薬は、GSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)またはGSNORペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、抗GSNOR抗体または抗体フラグメント、GSNOR模倣体(例えば、ペプチド、低分子または抗イディオタイプ抗体)、GSNORアンチセンス配列またはiRNA配列、あるいはそれらのフラグメント、誘導体または修飾体、あるいは別のGSNOR阻害剤またはGSNOR活性化因子を含むことができる。上記で議論されたように、GSNOR、NOおよびSNOの変化したレベルは様々な医学的状態に関係している。従って、様々な方法が、変化したレベルまたは望ましくないレベルのGSNOR、NOおよび/またはSNO、あるいはGSNOR活性を伴う疾患または障害を、その活性またはレベルを調製する少なくとも1つの分子の治療有効量を被験体に投与することによって処置または防止するために開示される。
【0119】
有害なほどに高いレベルのGSNORまたはGSNOR活性を有する被験体において、調節は、例えば、GSNOR機能を破壊またはダウンレギュレーションするか、あるいは、(例えば、低下した産生または増大した分解もしくは不安定性によって)GSNORレベルを低下させる試薬を投与することによって達成することができる。これらの試薬には、抗GSNOR抗体または抗体フラグメント、GSNORアンチセンス、iRNA、あるいは低分子、あるいは他の阻害剤が、単独で、または、本明細書中に詳しく記載されているような他の薬剤(例えば、ホスホジエステラーゼ阻害剤)との組合せで含まれ得る。
【0120】
有害なほどに低いレベルのGSNORまたはGSNOR活性(ならびに同時に高いレベルのSNOおよび/またはNO)を有する被験体において、調節は、例えば、GSNOR機能を活性化または増強するか、あるいは、(例えば、増大した産生もしくは安定性または低下した分解によって)GSNORレベルを増大させるか、あるいは、SNOまたはNOのレベルを低下させる試薬を投与することによって達成することができる。これらの試薬には、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチド、GSNOR模倣体(例えば、ペプチド、低分子または抗イディオタイプ抗体)、GSNOR発現ベクター、あるいは他の活性化因子が、単独で、あるいは、抗SNO抗体もしくは抗体フラグメント、またはNOS阻害剤またはNOスカベンジャーとの組合せで含まれ得る。
【0121】
これらの試薬の投与のために好適な様々な薬学的調製物が上記に記載されている。投与のためのさらなる薬剤には、本明細書中に詳しく記載されているような保存剤、ストレス防止医薬品、ホスホジエステラーゼ阻害剤、iNOS阻害剤および発熱防止剤が含まれ得る。
【0122】
1つの実施形態において、本発明の調節方法では、細胞を、GSNORの活性の1つまたは複数あるいはNOS活性を調節する薬剤と接触させることが伴う。別の実施形態において、薬剤により、GSNORまたはNOSのシグナル伝達経路の活性が刺激または阻害される。これらの調節方法は、(例えば、細胞を薬剤とともに培養することによって)インビトロで行うことができ、あるいは、(例えば、薬剤を被験体に投与することによって)インビボで行うことができる。そのため、本発明は、上記で記載されたように、障害に冒されている個体を処置する方法を提供する。1つの実施形態において、本発明の方法では、GSNORまたはNOのレベルまたは活性を調節(例えば、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーション)する試薬または試薬の組合せを投与することが伴う。
【0123】
本明細書中下記において明らかにされるように、GSNORの阻害剤を、β−アドレナリン作動性のシグナル伝達を改善するための手段として使用することができる。特に、GSNORの阻害剤を単独で、または、β−アゴニストとの組合せで、心不全または他の血管障害(例えば、高血圧症および喘息など)を処置するために、あるいは、心不全または他の血管障害(例えば、高血圧症および喘息など)から保護するために使用することができる。GSNOR阻害剤は、Gs Gタンパク質を増強し、これにより平滑筋の弛緩(例えば、気道および血管)を生じさせることによって、また、Gq Gタンパク質を弱め、かつ、それにより平滑筋の収縮を(例えば、気道および血管において)防止することによってGタンパク質共役受容体(GPCR)を調節するために使用することができる。
【0124】
(SNOに基づく診断剤および治療剤)
本発明はさらに、本明細書中に開示される方法に従った、患者におけるSNOレベルの測定または変化にそれぞれ基づく診断方法および処置方法を包含する(例えば、J.Stamler、Circ.Res.、2004、94:414〜417を参照のこと)。NOと比較したとき、SNOの生理学的利益の1つは、超酸化物(O2−)による不活性化に対するその抵抗性である。損傷した組織において、O2−はNOと反応して、毒性のペルオキシナイトライトを形成する。しかし、生じるペルオキシナイトライトの量はNO/O2−産生の相対的速度に最低限で依存する:実際、NO>O2−であることはSNOの産生に有利である(Schrammel A他、Biol.Med.、2003、34:1078〜1088)。研究者は、腸間膜血管における虚血/再灌流(I/R)によって生じた超酸化物がSNO−アルブミンの合成を促進させることを明らかにしている(Ng ESM他、Circ.Res.、2004、94:559〜565)。SNO−アルブミンは、組織をI/R誘導による損傷から保護することが知られている(Hallstrom S、Circulation、2002、105:3032〜3038)。従って、NO生物活性を保存することは、超酸化物を利用するための手段であるようである。残る問題は、I/Rにより引き起こされる酸化的損傷がNO産生を損なうことである。従って、アルブミンのチオールが、吸入されたNOを腸管に輸送し、かつ血管の弛緩を助けることができることもまた示されていることは注目に値する(Ng ESM他、Circ.Res.、2004、94:559〜565)。
【0125】
相対的に高い濃度のSNO−アルブミンが、血流を増大させるために要求されるが、血管収縮を弱める量は生理学的範囲にある。さらに、高血圧症および尿毒症の患者の一部におけるSNO−アルブミンの生成から明らかであるように、生物活性を決定するのはNO基放出の効率である(Tyurin VA他、Circ.Res.、2001、88:1210〜1215;Massy ZA他、J.Am.Soc.Nephrol.、2004、15:470〜476)。特に、血漿中SNO−アルブミンの増大は高い血圧に関連しており、不都合な心臓血管の結末を予測している(Massy ZA他、J.Am.Soc.Nephrol.、2004、15:470〜476)。新しい遺伝子的証拠から、SNOが脈管構造において不可欠な役割を果たしていることを明らかにされる(Liu L他、2004、Cell、116:617〜628)。まとめると、これらの研究は、SNO−アルブミンが、NO欠乏によって特徴づけられる状態においてNO生物活性を消失させ得ることを示唆している。これらの研究はまた、アルブミンおよび他の重要な血液タンパク質(例えば、ヘモグロビンなど)におけるシステインが新しい治療標的であることを示している。
【0126】
吸入されたNOはSNO−アルブミンの循環レベルを増大させるが、吸入されたNOからは、SNO−アルブミンが作製される機能(この場合、循環において、SNO−アルブミンが産生される)、または、どのくらいのNOが実際にこの経路を取るかが明らかにならない。吸入されたNOは最初に気道および肺実質にSNOおよびタンパク質との他の複合体の形態で蓄積し、その後、血液中に浸出する(Simon DI他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1996、93:4736〜4741;McCarthy TJ他、Nucl.Med.Biol.、1996、23:773〜777;McCarthy TJ他、Nucl.Med.Biol.、1996、23:773〜777)。このプロセスの顕著な特徴は、NO生物活性が時間とともに血液に進入する形態、およびSNO−アルブミンを介した変遷を含めて、現在知られていない。
【0127】
アルブミンにおいて、疎水性ポケットおよび結合した金属(銅およびおそらくはヘム)はともに、NOによるS−ニトロシル化を促進することができ、一方、ヘモグロビンは、NO、亜硝酸塩またはGSNOと反応して、SNO−Hbを生じさせることができる溝をいくつか有する(図2D;上記参照)。ヘモグロビンはNOについてアルブミンと競合して勝つと考えられる。しかしながら、生物活性な形態でヘモグロビンに結合したNOの相対的な収率は、投与されたNOの速度および量に逆比例しているようであり、また、低いマイクロモル濃度のレベルでプラトーな状態を示すので、この結果は絶対的ではないようである(Gow AJ、Stamler JS、Nature、1998、391:169〜173)。比較によって、ナノモル濃度のレベルが血管調節のために要求されるだけである。多量のNOが臨床的に投与された場合、また、他の実験(Ng ESM他、Circ.Res.、2004、94:559〜565)によって、ヘモグロビンが、NOをα−ヘム上に留め、NOを硝酸塩として排出することによるSNOの産生を示すようである(Gow AJ、Stamler JS、Nature、1998、391:169〜173;Gow AJ他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1999、96:9027〜9032;Luchsinger BP他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2003、100:461〜466;Napoli C他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2002、99:1689〜1694;Kirima K他、Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.、2003、285:H589〜H596;Gow AJ他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1999、96:9027〜9032;Romeo AA他、J.Am.Chem.Soc.、2003、125:14370〜14378;Cannon RO 3rd他、J.Clin.Invest.、2001、108:279〜287)。
【0128】
本発明によれば、SNOレベルについての好ましい診断アッセイでは、生理学的状況が保存されており、かつ、測定されている分子に最も良く似る標準物が用いられる(Stamler,J.S.、2004、Cir.Res.、94:414〜417を参照のこと)。SNOレベルの血漿中レベルを測定するための診断アッセイが好ましい。本明細書中下記に開示されるような光分解/化学発光に基づく方法が特に好ましい(J.S.StamlerおよびM.Feelische、Methods in Nitric Oxide Research(J.S.StamlerおよびM.Feelische編、Wiley、Chichester、UK、1996)、521頁〜539頁;Stamler,J.S.他、1997、Science、276、2034〜2037;Mannick,J.B.他、1999、Science、284、651〜654;Buga,G.M.他、1998、J.Am.Physiol.、275、R1256〜R1264もまた参照のこと)。そのような方法と一緒での、例えば、SNO−アルブミンまたはSNO−Hbの測定のための安定なニトロソチオール標準物の使用もまた好ましい。この方法では、SNO結合量子収量の変動範囲が対象となり得る。加えて、アッセイの用量依存性および再現性を、系統的な人為的影響を受けないようにするために調べることができる。本発明とともに使用される場合、任意の生物学的サンプルを、SNOレベルを測定するために使用することができる。しかし、血液サンプルが好ましく(例えば、血清、血漿または全血)、血漿サンプルが特に好ましい。
【0129】
1つの局面において、本発明の診断方法またはモニターリング方法は、(a)患者から得られた生物学的サンプルにおけるSNOのレベル(例えば、血漿中レベル)を測定する工程;(b)生物学的サンプルにおけるSNOのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)生物学的サンプルにおけるSNOのレベルがコントロールサンプルにおけるSNOのレベルよりも高いかどうかを決定する工程を包含する。この方法は、高いレベルまたはそうでない場合には有害なほどに高いレベルのSNOに関連する医学的状態(あるいはそのような医学的状態の処置の効力)を診断またはモニターするために使用することができる。例えば、高いレベルのSNO−Hbは、本明細書中に詳しく記載されるように、低血圧症、敗血症および他の状態に関連し、一方、高いレベルのSNO−アルブミンは、高血圧症、子癇前症、および血小板凝集を伴う他の状態に関連する。
【0130】
別の局面において、診断方法またはモニターリング方法は、(a)患者から得られた生物学的サンプルにおけるSNOのレベル(例えば、血漿中レベル)を測定する工程;(b)生物学的サンプルにおけるSNOのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)生物学的サンプルにおけるSNOのレベルがコントロールサンプルにおけるSNOのレベルよりも低いかどうかを決定する工程を包含する。そのような方法は、低いレベルまたはそうでない場合には有害なほどに低いレベルのSNOに関連する医学的状態(あるいはそのような医学的状態の処置の効力)を診断またはモニターするために使用することができる。例えば、低レベルのSNO−Hbは、本明細書中に記載されるように、心不全、糖尿病および他の状態(例えば、酸素不足状態)に関連し、一方、低レベルのSNO−アルブミンは、腎臓疾患(例えば、尿毒症など)、および不完全な血小板凝集を有する他の状態に関連する。
【0131】
本発明によれば、開示された方法は、開示された試薬の1つまたは複数の使用によって、変化したレベルまたは有害なレベルのSNOに関連する医学的状態を防止または処置するために(あるいは、そのような医学的状態の1つまたは複数の症状を緩和するために)使用することができる。高いレベルまたは有害なほどに高いレベルのSNOを有する被験体において、調節は、例えば、SNOのレベルをダウンレギュレーションする試薬を(例えば、静脈内投与により)投与することによって達成することができる。このダウンレギュレーションは、SNOの産生を低下させるか、あるいは、SNOの分解または不安定性を増大させるか、あるいは、GSNORの活性またはレベルを増大させることによって達成することができる。例示的な試薬には、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチド、GSNOR模倣体(例えば、ペプチド、低分子および抗イディオタイプ抗体)、GSNOR発現ベクター、および他のGSNOR活性化因子、ならびに、抗SNO抗体または抗体フラグメント、低分子、および他のSNO阻害剤が、単独で、または、本明細書中に詳しく記載されるような他の薬剤(例えば、NOS阻害剤またはNOスカベンジャー)との組合せで含まれる。例として、高レベルのSNO−Hbは、本明細書中に記載されるように、低酸素症、敗血症および他の状態に関連し、一方、高レベルのSNO−アルブミンは、高血圧症、子癇前症、および血小板凝集を伴う他の状態に関連する。過度なSNOについては、処置はまた、チオールまたは抗酸化剤の注入を含むことができる。
【0132】
有害なほどに低いレベルのSNOを有する被験体において、調節は、例えば、SNOのレベルをアップレギュレーションする試薬を(例えば、静脈内投与により)投与することによって達成することができる。このアップレギュレーションは、SNOの産生または安定性を増大させるか、あるいは、SNOの分解を低下させるか、あるいは、GSNORの活性またはレベルを低下させることによって達成することができる。例示的な試薬には、抗GSNOR抗体または抗体フラグメント、GSNORアンチセンス、iRNA、低分子、および他のGSNOR阻害剤、ならびに、SNO活性化因子が、単独で、または、本明細書中に詳しく記載されるような他の薬剤(例えば、ホスホジエステラーゼ阻害剤)との組合せで含まれる。そのような方法は、望ましくないほど低いレベルのSNOに関連する医学的状態のために使用することができる。例として、低レベルのSNO−Hbは、本明細書中に記載されるように、心不全、糖尿病および他の状態(例えば、酸素不足状態)に関連し、一方、低レベルのSNO−アルブミンは、腎臓疾患(例えば、尿毒症など)、および不完全な血小板凝集を有する他の状態に関連する。
【実施例】
【0133】
本明細書中下記に示される実施例では、相同組換えによるGSNOR欠損(GSNOR−/−)マウスの作製、ならびに、LPSおよび盲腸結紮−敗血症の両方によって誘導されるニトロソ化負荷に対するそのようなマウスの応答が記載される。ショックの細菌エンドトキシンモデルが、開示された実施例では使用された。これは、別のモデルでは、NO生物活性の支配におけるSNOの特異的な役割の解明が不明瞭になり得るからであった。敗血症の細菌モデルもまた使用された。GSNOR欠損動物は、エンドトキシン負荷または細菌攻撃の後で、細胞全体でのS−ニトロシル化、組織損傷および死亡の実質的な増大を示した。さらに、GSNOR−/−マウスは、高い基礎的レベルのSNOを赤血球において示し、麻酔下で低酸素性であった。開示された実験から、GSNORが、SNO代謝のために、血管の恒常性のために、また、エンドトキシンショックにおける生存のために不可欠であることが明らかにされた。SNOは生来的な免疫機能および血管機能を調節し、また、ニトロソ化ストレスを改善するために能動的に除去されることがさらに明らかにされた。従って、本明細書中に得られる結果は、健康および疾患の両方におけるNO機能の重要な機構としてのシステインチオールのニトロシル化を特定している。
【0134】
実施例は、本発明の好ましい実施形態をより十分に例示するために示される。これらの実施例は、添付された請求項によって定義される本発明の範囲を限定するように決して解釈すべきではない。
【0135】
(実施例1:実験手順)
(GSNOR標的化ベクターの構築)
開示された実験手順、結果および議論については、Liu他、2004、Cell、116:617〜628(これはその全体が参照により本明細書中に組み込まれる)もまた参照のこと。本明細書中に示されるプライマーについて、「se」はセンス鎖を示し、「as」はアンチセンス鎖を示す。マウス系統129sv/CJ7のゲノムDNAに由来する細菌人工染色体(BAC)ライブラリー(Invitrogen)を、エキソン8由来のプライマー(MoADH1001se、5’−gatggaagagtgtggagagtg;配列番号1)およびエキソン9由来のプライマー(MoADH1290as、5’−cagtctcgattatgcacattcc;配列番号2)を用いたPCRによってGSNOR遺伝子についてスクリーニングした(FoglioおよびDuester、1996)。2つのBACクローンを特定し(36c24および91m09)、制限マッピング、そして、ex8−9およびex2−3のプローブを用いたサザンブロット分析に供した。これらのプローブを、エキソン8〜エキソン9に対するプライマー対(MoADH1001se、MoADH1290as)およびエキソン2〜エキソン3に対するプライマー対(MoADH52se、5’−gtgatcaggtgtaaggctgc;配列番号3;MoADH295as、5’−ctgccttcagcttcgtgac;配列番号4)をそれぞれ用いたPCRによってマウスのADHIIIのcDNAクローン(ATCC、GenBankアクセション番号AA008355)から作製した。エキソン2〜エキソン4を含有するSacIフラグメント、およびエキソン7〜エキソン9を含有するHindIII−BamHIフラグメントをBACクローン91m09から単離し、ベクターpPNT(Tybulewicz他、1991)におけるネオマイシン耐性遺伝子(neo)に対して5’および3’にそれぞれ挿入した(図1A)。得られたGSNOR標的化ベクターをDNA配列決定によって確認し、NotIによって線状化した。
【0136】
(GSNOR−/−マウスの作製)
129svマウスに由来するES細胞を線状化された標的化ベクターでトランスフェクションし、neoの存在および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)の非存在について選択した(Duke遺伝子組換えマウス施設)。選択されたESクローンを最初に、標的化ベクター(図1A)における相同的な領域の外側のneo由来プライマー(Neo3’se、5’−tcttgacgagttcttctgagg;配列番号5)およびGSNORプライマー(GSNOR3’se、5’−cagttgactgtcaatgaactgg;配列番号6)を用いたPCRによって相同組換えについてスクリーニングした。このPCR反応は、標的化された破壊を有する細胞においてのみ、2.7kbのDNAフラグメントをもたらした。組換えクローンを、ex2−3およびex8−9のプローブをそれぞれ用いたSacI消化ゲノムDNAおよびXbaI消化ゲノムDNAのサザン分析によってさらにスクリーニングした。正しく破壊された対立遺伝子は7.3kbのSacIフラグメントおよび1.8kbのXbaIフラグメントをもたらした。対照的に、野生型対立遺伝子は5.5kbのSacIフラグメントおよび2.4kbのXbaIフラグメントをもたらした(図1A)。
【0137】
正常な核型を有する2つの正しく標的化されたESクローンを独立して使用して、キメラなマウスを作製した。これらを続いてC57BL/6マウスと交配して、F1ヘテロ接合体を作製した。F1マウスを、F2のGSNOR−/−マウスを作製するためにそれぞれ互いに交配するか、または、C57BL/6マウスとさらに戻し交配した。2つのESクローンに由来する2つの独立したGSNOR−/−マウス系統が7回および10回の連続したC57BL/6マウスとの戻し交配の後に確立された。すべてのマウスは、標準的なマウス用餌が与えられ、パイロジェン非含有施設で飼育された。
【0138】
(GSNOR活性)
GSNOレダクターゼ活性を、以前の記載(Liu他、2001)のように、GSNOに依存したNADHの消費によって測定した。
【0139】
(血圧)
6月齢〜8月齢のマウスを、ケタミン(70mg/kg)、キシラジン(9mg/kg)およびウレタン(1mg/kg)の組合せによって麻酔した。平均動脈圧を、右頸動脈に挿入されたカテーテルを介して測定した。血圧はまた、コンピューター化された尾カフシステムによって、意識のあるマウスにおいて測定された(Krege他、1995)。示されている値は、4日間連続した毎日の読み取り値の平均値である。
【0140】
(血液化学、細胞カウント数、亜硝酸塩、硝酸塩およびS−ニトロソチオール)
動物をCO2吸入によって安楽死させた後、血液を心臓穿刺によって得た。下記の血清化学値をAntech Diagnostics(Farmingdale、New York)によって定量した:アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)、尿素窒素(BUN)、クレアチニン、アミラーゼ、リパーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルカリホスファターゼ、総タンパク質、グロブリン、アルブミン、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、塩化物、リン、グルコース、ビリルビン、コレステロール、トリグリセリドおよび重量モル浸透圧濃度。
【0141】
下記のパラメーターを、ABX Diagnostics(Montpellier、フランス)のPentra60C+システムを用いて測定した:ヘモグロビン、ヘマトクリット、平均血球体積、ならびに、赤血球、白血球、好中球、リンパ球、単球、好酸球および血小板のカウント数。
【0142】
RBCにおける鉄−ニトロシルヘモグロビンおよびSNO−ヘモグロビン/SNO−タンパク質のレベルを光分解−化学発光(McMahon他、2002)によって測定した。
【0143】
血清中の硝酸塩および亜硝酸塩を、P/ACE MDQシステム(Beckman)によるキャピラリー電気泳動(CE)(Zunic他、1999)によって、また、化学発光(Sievers NOアナライザー)によって測定した。CEの場合、血清を水で希釈(1:10)し、5kDaカットオフメンブランでろ過した。ろ過されたサンプルならびに硝酸塩標準物および亜硝酸塩標準物の電気泳動を、Tris緩衝液(100mM、pH8.0)を用いた中性キャピラリーで行い、214nmにおける吸光度によってモニターした。亜硝酸塩の濃度は、CEによって測定されたとき、化学発光による場合よりも高い(Zunic他、1999)。しかし、CEと化学発光との間での相対的な差は観測されなかった。
【0144】
(組織学)
臓器をリン酸塩緩衝化ホルマリンにより固定処理し、パラフィンに包埋した。組織切片(5μm〜6μmの厚さ)をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)により染色した。染色された切片は有資格者の動物病理学者により光学顕微鏡によって調べられた。アポトーシスをTUNELアッセイによって評価した。
【0145】
(LPS処置)
LPS(大腸菌、血清型026:B6、Sigma)を、150,000エンドトキシンユニット/g(EU/g)の投薬量で、C57BL/6マウスおよびGSNOR−/−マウスに腹腔内注射した。マウスは週齢(11週齢〜12週齢、性別および体重について一致させた。オスについて使用されたLPSはロット番号050K4117(1500万EU/g)であり、メスについて使用されたLPSはロット番号101K4080(300万EU/g)であった。研究は、ロット番号101K4080が投与された45匹のさらなるオスのマウス(22匹の野生型および23匹のGSNOR−/−)において行われた。これにより、性別および系統の違いがバッチの影響から生じていないことが確保された。リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS、20μl/g)をコントロールで注射した。さらなる組の実験において、LPS負荷されたGSNOR−/−マウスにiNOS阻害剤1400W(1μg/g、Cayman)またはPBS(10μl/g)を皮下注射した。注射を、LPS後の6時間、24時間および30時間で、または、LPS後の24時間、42時間および48時間で行った。
【0146】
(盲腸結紮および破裂)
3月齢のメスのマウスをケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)で麻酔した。盲腸を回盲弁の下側で結紮し、26ゲージのニードルを用いて腸間膜反対側縁で1回、破裂させた。手術後、マウスに0.5mlの規定生理的食塩水を皮下注射した。
【0147】
(ヒトにおける敗血症性ショック)
Duke大学医療センター(DUMC)のICUにおける敗血症性ショックの12名の連続した成人患者が登録された。敗血症性ショックは、American College of Cardiology/Society of Critical Care Medicineの指針(1992)に従って定義された。登録した72時間以内でのグラム陰性菌血症の存在が医療記録から確認された。コントロール群は12名の健康な志願者からなった。橈骨動脈および中心静脈の血液サンプルがRBCのNO含有量の分析(McMahon他、2002)のために採取された。インフォームドコンセントが得られ、研究はDUMC内部検討委員会によって承認された。
【0148】
(肝臓SNO)
肝臓ホモジネートを溶解緩衝液(20mMのTris−HCl(pH8.0)、0.5mMのEDTA、100μMのジエチレントリアミン五酢酸、0.1%のNP−40および1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド)において調製した。総溶解物におけるSNOレベル、および、5kDaカットオフ限外ろ過メンブランでろ過された画分におけるSNOレベル(低分子量SNO)を光分解−化学発光(Liu他、2000b)によって測定し、タンパク質含有量について正規化した。
【0149】
(統計学的分析)
LPS処置後6日目における生存データを、χ2検定と、分割表のフィッシャーの直接検定との両方によって分析したが、類似する結果であった。血圧、SNOレベルおよび血清化学値をスチューデントのt検定またはノンパラメトリック型のマン・ホィットニー検定により分析した。
【0150】
(実施例2:結果)
(GSNOR−/−マウスの作製)
GSNOR遺伝子は9個のエキソンを含み(FoglioおよびDuester、1996)、エキソン5およびエキソン6がGSNORの補酵素結合ドメインのほとんどをコードする(Yang他、1997)。標的化ベクターを、GSNOのRゲノムDNAを用いて構築した。この標的化ベクターを使用して、エキソン5およびエキソン6をマウス(129sv)胚性幹(ES)細胞における相同組換えによりネオマイシン耐性遺伝子(neo)で置き換えた(図1A)。標的化領域に両側で隣接する相同組換えが4つのESクローンにおいて確認された。サザンブロット分析を、エキソン2〜エキソン3およびエキソン8〜エキソン9に対してそれぞれ特異的なプローブを用いて行った。さらなる確認として、PCRを、破壊された対立遺伝子を特異的に同定するために行った(図1B)。
【0151】
標的化された破壊を有する2つのマウス系統をESクローンの2つから独立して作製した(図1C)。エキソン8〜エキソン9に対して特異的なプローブを用いたサザンハイブリダイゼーションは、GSNOR−/−マウスが、組換えから生じた1つだけの変異(1.8kb)フラグメントのみを含んでいることを示した。これらのマウスを、合計で7回〜10回、C57BL/6マウスに連続して戻し交配した。GSNOレダクターゼ活性はGSNOR−/−マウスの尾および組織の両方において存在しなかった(図1Dおよび図1E)。ヘテロ接合(GSNOR+/−)マウスにおける活性は野生型同腹子における活性のおよそ半分であった。
【0152】
(表現型)
ヘテロ接合性のオスおよびメスを病原体非存在条件のもとで育てた。これにより、離乳時に、31匹(25%)の野生型マウス、61匹(50%)のヘテロ接合マウスおよび30匹(25%)のノックアウトマウスが得られた。従って、野生型GSNOR遺伝子および破壊されたGSNOR遺伝子の遺伝は、予想されたメンデル比に従っていた。
【0153】
【表1】
GSNOR欠損マウスはこれらの条件のもとでの生存の不都合を示さなかった。GSNOR−/−マウスは、C57BL/6マウスに類似した数および頻度で同腹子を生んだ(図1F)。GSNOR−/−マウスは正常に発育し、C57BL/6マウスと同じ体重であった(図1F)。4匹の野生型マウス(2匹のオス、2匹のメス)および4匹のGSNOR−/−マウス(2匹のオス、2匹のメス)の組織学的検査は、調べた組織のいずれにおいても、これら2つのマウス系統の間で、大きな形態学的または組織学的な差異を示さなかった。これには、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、胸腺、腸間リンパ節、唾液腺、胃腸管、膵臓、精巣、卵巣、子宮および膀胱が含まれた。血液細胞カウント数および血清化学値はGSNOR−/−マウスにおいて正常であった(下記参照)。
【0154】
(血圧および基礎的SNO)
SNOに対する血行力学的応答。しかし、機構は明らかにされていない(Travis他、1997)。本明細書中に示されるように、血圧は、ウレタンで麻酔されたとき、GSNOR−/−マウスにおいて、野生型マウスの場合よりもはるかに低かった(P<0.001)(図2A)。対照的に、意識のあるGSNOR−/−マウスにおける血圧はコントロールと差がなかった(図2B)。
【0155】
以前の研究では、血液中のNOのほとんどが鉄ニトロシルヘモグロビンおよびSNO−ヘモグロビンとして赤血球(RBC)において見出されることが明らかにされている(Jia他、1996;Kirima他、2003;McMahon他、2002;Milsom他、2002)。今回、SNO−Hb(RBC−SNO)のレベルが、非麻酔のGSNOR−/−マウスにおいて、野生型マウスの場合よりも大きかった(p<0.05)ことが示される。それにもかかわらず、鉄ニトロシルヘモグロビンのレベルは野生型およびGSNOR−/−の間で差がなかった(図2C)。従って、本明細書中に開示される実験は、GSNOR欠損は基礎的SNOの増大を生じさせ、素因を有するマウスに血圧の非調節を生じさせたことを示している。エンドトキシン処置は、非麻酔マウスにおける低下した不規則な尾血流、および麻酔マウスにおける低い血圧のために、血圧の正確な測定を妨げた。
【0156】
(エンドトキシンショックによる死亡)
本明細書中で明らかにされるように、LPS誘導によるショックがニトロソ化ストレスのモデルとして使用された。GSNOR−/−マウスにおいて約50%の死亡率を生じさせるためのLPSの用量が最初の用量応答研究で明らかにされた(図3A〜図3D)。より大規模な分析では、LPSのこの用量はGSNOR−/−マウスの48%の死をもたらしたが、野生型マウスの15%の死をもたらしただけであった(図3A)。これら2つの系統の間での死亡率の違いは非常に有意であることが明らかにされた(P<0.001)。さらに、GSNORノックアウトマウスの両方の系統(GSNOR−/−1およびGSNOR−/−2)はLPSに対して同じように応答し(図3B)、両者は野生型マウスよりも容易に死亡した。従って、LPSに対するGSNOR−/−マウスの過敏性は、マウスを作製している途中で生じたランダムな変異から生じている可能性はほとんどなかった。
【0157】
以前の研究では、エンドトキシンショックにおいてiNOSによってもたらされる保護が主としてメスのマウスで認められていた(Laubach他、1998)。従って、GSNOR欠損の結果がオス(図3C)およびメス(図3D)において別々に調べられた。本明細書中に示されるように、用いられたLPS用量はメスのGSNOR−/−1およびGSNOR−/−2の37%および47%の死をそれぞれ生じさせたが、野生型コントロールの4%を死亡させただけであった(図3D)。(LPSで処置された)オスのGSNOR−/−マウスの死亡率もまた、野生型コントロールの死亡率よりも低かったが(図3C)、その差は統計学的有意性に達していなかった(P=0.12)。メスの野生型マウスの死亡率(4%)はそれらのオス対応体(29%)よりも有意に低かった(P=0.022)。しかし、性別によるこの影響はGSNOR欠失によってなくなっていた。メスのGSNOR−/−マウスにおける死亡率(42%)はオスのノックアウト体の死亡率(55%)よりも有意に低くないこと(P=0.29)が認められた。まとめると、これらの結果は、GSNORがメスのマウスをエンドトキシンショックから明らかに保護していることを示しており、また、LPSに対する性別に関連した抵抗性の基礎がGSNORを伴うことを示唆している。従って、メスのマウスを下記に詳しく記載される研究のほとんどについて使用した。
【0158】
(SNO代謝)
S−ニトロソチオールの代謝をマウスの肝臓で調べた。これは、この組織が身体において最大のGSNOR活性を示し(図1E)(UotilaおよびKoivusalo、1997)、また、敗血症性ショック時に実質的なiNOS活性を発現する(Knowles他、1990)からである。肝臓iNOSはそのような状況で保護的であることが明らかにされている(Ou他、1997)。本明細書中に示されるように、SNOのベースラインレベルはGSNOR−/−マウスおよび野生型マウスにおいて類似していた(図4A)。LPSのi.p.注射の後、野生型マウスにおけるSNOは24時間(h)では穏やかに増大しており、48hまでに基礎レベルに戻った(図4A)。対照的に、GSNOR−/−マウスにおけるSNOは24hでは高いレベルに増大しており、48hではさらに増大していた(図4A)。24hおよび48hの時点で、GSNOR−/−マウスにおけるSNOレベルは野生型コントロールの場合よりもそれぞれ3.3倍および29倍大きかった。SNOの90%超が高分子量(>5,000ダルトン)の分子に起因し得る(図4A)。従って、エンドトキシンショックにおいて、内因的に生じたニトロソチオールの代謝はGSNOR欠損マウスではひどく損なわれた。
【0159】
循環における硝酸塩+亜硝酸塩(NOx)のレベルは、哺乳動物における全体的なNOS活性を反映することが知られている。今回、GSNOR−/−マウスにおける基礎的な硝酸塩レベルは野生型マウスと差がないことが見出された(図4B、図4Cおよび方法)。LPSによる処置の後、野生型マウスにおける硝酸塩濃度は、24hではGSNOR−/−マウスの場合と同じレベルに上昇しており、48hではベースラインに戻っていた(図4B)。GSNOR−/−マウスにおける硝酸塩レベルは48hでは低下していた(約50%、P=0.03)が、依然としてベースラインを実質的に超えていた(図4B)。血清中の亜硝酸塩のレベル(<<硝酸塩)は、野生型動物および変異型動物において任意の時点で有意な差はなかった(図4C)。これらのデータは、野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスが等しいiNOS活性をLPS後24hでは発現していることを示唆していた。48hまでに、iNOS活性は野生型マウスではベースライに戻るが、活性の低下はGSNOR−/−マウスの方が遅かった。この結論は、肝臓溶解物のウエスタンブロット分析を使用するiNOS発現の研究によって確認された。
【0160】
定常状態でのS−ニトロシル化は、上昇した硝酸塩レベルを有する動物でのみ上昇していたが、組織におけるSNOレベルはNOxとは無関係であることが明らかになった(図4A〜図4E)。例えば、GSNOR−/−マウスは、LPS後24hでは硝酸塩のレベルが等しいにもかかわらず、野生型マウスよりもはるかに高い量のSNOを蓄積していた(図4A〜図4B)。さらに、GSNOR−/−マウスにおける肝臓SNO対血清中硝酸塩の比率はLPS後の24hよりも48hでかなり大きかった(図4D)。従って、インビボでのS−ニトロシル化のレベルはGSNORおよびNOSによって独立的に調節されていた。別の言い方をすれば、SNOレベルは合成および代謝回転の両方によって調節され、硝酸塩または亜硝酸塩の量とは直接に相関していなかった。
【0161】
(エンドトキシン負荷後の組織傷害および回復)
エンドトキシンショック時における組織傷害をマーカー酵素の血清中レベルの測定(図5A〜図5H)および組織学(図6A〜図6H)によって評価した。野生型マウスにおいて、肝臓傷害のマーカーであるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)のレベルが、LPSによる処置後の24hでは穏やかに増大しており、48hまでに低下していた(図5A〜図5B)。対照的に、ALTおよびASTの両方が、GSNOR−/−マウスでは24hで著しく増大しており、48hでは変化していないままであった(図5A〜図5B)。ALTおよびASTの増大は、GSNOR−/−マウスでは肝臓SNOの上昇と直接に相関していた(図5H)。
【0162】
24h(LPS後)での肝臓の組織学的検査は、野生型マウスにおいて極微〜軽度の肝細胞の膨大および細胞質空胞化を示した。48hまでに、損傷は部分的に消失し(メスの方がオスよりも消失し)、進行中の傷害は検出されなかった(図6A)。肝細胞の傷害は24hではGSNOR−/−マウスの方が重症であり、回復は48hでは認められなかった(図6A〜図6B)。24hおよび48hにおいて、多病巣性の壊死性肝細胞およびアポトーシス性肝細胞がGSNOR−/−マウスにおいて検出された(ヒアリン好酸性の細胞質、ならびに核萎縮および核崩壊した核;図6B)。加えて、GSNOR−/−の肝臓は、破壊された肝細胞索、圧縮された洞様血管、変性途中の顆粒球の小さい凝集体、ならびに、小静脈における顆粒球およびリンパ球の内膜下蓄積を含有した。従って、これらの血清中マーカーおよび組織学はともに、LPS誘導による肝臓損傷が、GSNOR−/−マウスにおいて、野生型マウスの場合よりもはるかに悪かったことを示していた。野生型の肝臓によるほぼ完全な回復とは際立って対照的に、GSNOR−/−の肝臓は回復の徴候を全く示していなかった。
【0163】
筋肉傷害のマーカー(クレアチンホスホキナーゼ(CPK))および腎臓機能不全のマーカー(尿素窒素(BUN)およびクレアチニン)はすべてが、LPS後24hでは、野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスにおいて類似するレベルに実質的に増大していた(図5C〜図5E)。野生型コントロールにおいて、これらの活性は48hではほとんどベースラインに低下していたが、GSNOR−/−マウスではレベルは低下していなかった(図5C〜図5E)。従って、臓器機能不全はGSNOR−/−マウスでは消失していなかった。野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスの腎臓および心臓は組織学的検査では全体として正常であった。
【0164】
膵臓小島細胞はインビトロではNOの毒性に対して非常に感受性であることが知られている(Liu他、2000a)。しかしながら、本明細書中に示されるように、LPS負荷は野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスにおいて膵臓に対する影響をほとんど有していなかった。特に、アミラーゼおよびリパーゼの両方の血清中レベルはLPS処置の後でほとんど変化せず(図5F〜図5G)、また、組織学的異常は検出されなかった。
【0165】
GSNORについての保護的な役割がリンパ組織において明らかであった(図6C〜図6H)。LPS後24hで、2つの系統は、胸腺、脾臓、腸間リンパ節、パイエル板および他のリンパ系組織におけるリンパ球アポトーシスの類似する量およびパターンを示していた。野生型のリンパ組織はLPS後48hでは細胞死をほとんど示していなかった(図6C、図6Eおよび図6G)。対照的に、GSNOR−/−の組織は実質的なアポトーシスを示していた(図6D、図6Fおよび図6H)。胸腺におけるリンパ球のアポトーシスは、特に皮質領域において、甚大であった(図6D)。さらに、LPS後48hでは、リンパ球の枯渇が、GSNOR−/−の胸腺において、野生型の場合よりもひどかった(図6C〜図6D)。従って、GSNORは、免疫系をエンドトキシン傷害から保護するために必要であった。
【0166】
(GSNOR−/−マウスの組織傷害および生存に対するiNOS阻害の影響)
さらなる実験を、エンドトキシンショックの病理発生に対するニトロソ化ストレスの寄与を明らかにするために行った。LPS負荷されたGSNOR−/−マウスを1400W(選択iNOS阻害剤)で処置した。1400Wの投与は、LPS注射後6hで開始されたとき、血清中の硝酸塩(すなわち、NOS活性)を約50%低下させ(図7A、P=0.015)、肝臓傷害を約90%低下させた(図7C、P=0.020)。この改善は肝臓SNOの約90%の低下(図7B)と一致していた。血清中マーカーの測定値は、組織傷害もまた、(LPS処置後48hで)腎臓、膵臓および筋肉において低下していたことを示していた。最も重要なことは、LPS負荷されたGSNOR−/−マウスの生存率が1400Wによって有意に改善された(図7D対図3D、P=0.03)。比較により、PBS(体積コントロール)はほとんど影響を有していなかった(図7D対図3D)。1400Wの投与がLPS注射後24時間遅れたとき、これは、SNOが有害なレベルに蓄積することを許し、また、NOS阻害によってもたらされる保護が失われた(5匹中3匹のメスのGSNOR−/−マウスが死亡した)。これらのデータは、GSNOR−/−マウスにおけるiNOSから生じるニトロソ化ストレスが組織損傷および増大した死亡を媒介したことを強く示唆していた。
【0167】
(敗血症性ショックにおけるGSNOR)
GSNORの役割および機能もまた、盲腸結紮および破裂(CLP)によって誘導される細菌性敗血症性ショック(Wichterman他、1980)(ヒト状態に類似する動物モデル)において調べた。CLPは、GSNOR−/−マウス(n=9)において、野生型マウス(n=8)の場合よりも有意に大きい死亡率をもたらし(図3E)、これに対して、破裂を伴わない偽コントロールはGSNOR−/−マウス(n=3)または野生型マウス(n=3)のいずれかの死をもたらさなかった。CLP後、肝臓SNOのレベル(図4E)およびマーカー酵素のレベルは、GSNOR−/−マウスにおいて、野生型マウスの場合よりも有意に大きかった。従って、GSNORはマウスをSNOに関連した病的状態およびCLPにより誘導される死亡から保護している。
【0168】
(実施例3:考察)
開示された実験から、下記のことが明らかにされる:(1)S−ニトロシル化は、血圧および関連した恒常性機能に影響を及ぼし、かつ、エンドトキシン性/敗血症性ショックの病理発生の一因となっているNO生物学において不可欠な役割を果たしている;(2)NO生物活性は、合成レベル(すなわち、NOS)においてだけでなく、分解、特に、GSNORによる分解によっても調節されている;(3)GSNOの代謝回転は細胞全体でのS−ニトロシル化のレベルに影響を及ぼす;(4)SNOの蓄積は、生存に影響するストレスを哺乳動物生物に生じさせ得るし、また、特に、GSNOとともに同定されるニトロソ化ストレスは疾患の病理発生に関係している;(5)GSNORは、麻酔下での血圧の過度な低下から、また、内毒素血症後の組織傷害からマウスを保護している;(6)GSNOR欠乏によって最も大きく影響を受ける系には、肝臓、免疫系および心臓血管系が含まれる。これらの結果は、NOSの活性に集中するNO生物学の現在の理論的枠組みに対する根本的な変化の前兆となっている。開示されたデータはまた、システインチオールにおける修飾を介したタンパク質のレドックス型調節の重要性についての遺伝子的裏付けを提供している。
【0169】
(GSNORはSNO代謝のために不可欠である)
開示されたデータによれば、GSNOレダクターゼは、マウスの発達、成長および繁殖のために必須でないことが明らかである。ADHIII欠損マウスの正常な成長および繁殖には、多量のビタミンA(レチノール)を伴う食事性補給が要求されることが示唆されている(Molotkov他、2002)。今回、そのような要求はGSNOR−/−マウス系統のいずれにおいても認められなかった。Molotkov他によって報告されたこの普通でない栄養学的要求の起源は、使用された欠失構築物、またはマウスの遺伝子的背景にあると考えられる。
【0170】
本明細書中に開示される1つの重要な発見は、GSNORが動物においてNO代謝のために非常に重要であるということである。GSNOR−/−マウスは、匹敵し得るレベルのNOS発現およびNOS活性にもかかわらず、野生型マウスよりも多い量のS−ニトロソチオールを蓄積した。従って、インビボでのSNOのレベルは、NOS活性によってだけでなく、GSNORによっても決定された。この結論はさらに、(1)基礎的状態におけるSNO対鉄ニトロシル化合物の比率;および(2)エンドトキシンショックの経過時における硝酸塩または亜硝酸塩または両者に対するSNOの比率に関してGSNOR−/−マウスで観測された増大によって裏付けられた。亜硝酸塩および硝酸塩の測定は、生物学的系におけるNO生物活性を評価する標準的な手段であるので、開示された結果は、多くの以前の仮定に関して興味深い疑問を提起する。
【0171】
GSNOは、GSNORによって認識される唯一のSNO基質である。それにもかかわらず、開示されたデータは、この酵素の欠失がGSNO自身の増大よりも大きなSNO−タンパク質の増大を生じさせていることを示している。類似する結果が、GSNOR欠損酵母(Liu他、2001)において、また、エクスビボでGSNOにさらされたRBC(Jia他、1996)において得られていた。このことは、少なくともいくつかの重要なタンパク質SNOが基礎的状態およびストレス状態の両方のもとでは平衡状態(式1、下記)にあることを示唆している。加えて、この平衡は明らかにタンパク質SNOに有利である。GSNORによるGSNOの速やかな除去(式2、下記)は、平衡を脱ニトロシル化状態の方に移動させるように作用する。従って、グルタチオン(GSH)はSNOのシグナル伝達を効果的または完全に終結させ、または、GSNORの非存在下でタンパク質をS−ニトロシル化の有害なレベルから保護することができないようである。
【0172】
【数1】
【0173】
【数2】
(GSNORはエンドトキシンおよび細菌に対する応答においてニトロソ化ストレスから保護する)
本明細書中に開示された実験において、上昇したiNOS活性を有するマウスを、上昇したレベルのS−ニトロシル化タンパク質によって特徴づけられるニトロソ化ストレスにさらした。しかしながら、LPS負荷されたマウスは、GSNORによってもたらされる保護が損なわれない限り(GSNOR−/−)、有害な結果を受けなかった。GSNORの非存在下で、動物はS−ニトロシル化タンパク質の有害な蓄積および組織傷害を示した。GSNORがリンパ組織および肝臓をアポトーシスから保護したという今回の知見は、死のシグナル伝達がSNOによって調節されているという蓄積しつつある証拠をさらに支持した(Eu他、2000;Haendeler他、2002;Mannick他、1999;MarshallおよびStamler、2002;Matsumoto他、2003)。さらに、本明細書中に示されるように、iNOSの阻害は、動物の生存だけでなく、組織を超えた傷害のすべての処置を改善した。まとめると、これらのデータは、ニトロソ化ストレスがGSNOR−/−マウスにおける病的状態の主要な原因の1つであることを明らかにしている。
【0174】
GSNORは、微生物攻撃に対する抵抗性を媒介するいくつかの因子の1つである(Cohen、2002)。そのため、その役割は、SNOに対する微生物感受性によってだけでなく、免疫機能を保護することにおけるその一部によっても影響される(図6A〜図6H)。この複雑性にもかかわらず、最近の遺伝子的証拠および化学的証拠は、SNOが、クリプトコックス感染(de Jesus−Berrios他、2003)、サルモネラ感染(De Groote他、1996)および結核感染(MacMicking他、1997)に対抗するためにマウスにおいて産生されることを示唆している。本明細書中に開示される知見は、SNOがまた、多菌性/グラム陰性敗血症のさらなる形態において宿主によって産生されることを示している。具体的には、GSNORによってもたらされる保護が、ショックのエンドトキシン中毒モデルにおいて観測されただけでなく、CLPにより誘導された菌血症に対してもまた観測された。
【0175】
本明細書中で明らかにされているように、GSNOR欠乏はCLPモデルにおいてSNOの上昇した肝臓レベルを生じさせた。ヒト状態に対するこれらのマウスモデルの関連性を支持して、本発明者らは、SNO−Hbレベルが、エンドトキシン中毒動物の血液において増大することが知られているが(Jourd’heuil他、2000)、グラム陰性敗血症の患者の血液(0.0037±0.0010 SNO/Hb、n=7)で、健康なコントロールの場合(0.0010±0.0004 SNO/Hb、n=12;P<0.01)よりも数倍大きかったことを見出している。まとめると、これらのデータは、S−ニトロソチオールがエンドトキシン性/敗血症性ショックの改善および病理発生の両方において重要な役割を果たし得ることを示唆している。
【0176】
(性差)
GSNOR欠損は、LPS負荷されたメスのマウスにおいて(野生型に対して)死亡率の10倍の増大をもたらしたが、オスでは約2倍の増大をもたらしただけであった。従って、GSNORのこの保護的作用は敗血症性ショックに対するメスの相対的な抵抗性の一因であると考えられ得る。この現象は動物(Laubach他、1998;Zellweger他、1997)およびヒト(Oberholzer他、2000;Schroder他、1998)の両方で認められている。以前の実験では、iNOSがオスのマウスよりもメスのマウスの方を内毒素血症誘導による死から保護することが示された(Laubach他、1998)。これらのデータの要点は、iNOSの有益な作用がGSNOR−/−マウスではニトロソ化ストレスによって無効にされることを示唆している。理論によって拘束されることを望まないが、GSNORは、特に女性患者では、敗血症の結果の遺伝的決定因子であること、そして、敗血症患者におけるiNOS阻害の潜在的な利益がGSNORの活性に関係づけられることが仮定される。
【0177】
(GSNOR欠損の血行力学的結果)
低血圧症が麻酔の最も頻繁な副作用の1つとして観察されているが、患者感受性についての基礎は明らかにされてない。今回、GSNOR欠損マウスは、LPS負荷の非存在下で麻酔されたとき、低血圧性であった。GSNOR欠損動物において、基礎的なSNOレベルはRBCにおいて約2倍増大していた。このようなレベルは、バイオアッセイにおいて血管拡張を生じさせ(McMahon他、2002;Pawloski他、2001)、また、RBCまたはSNO−Hb(主要なRBC SNO)のいずれかが静脈内に注入されたときには血圧(または血管抵抗)を低下させること(Jia他、1996)が知られている。ウレタンまたはペントバルビタールの麻酔は、ラットにおいて静脈内投与されたSNOの血管弛緩作用および低血圧作用を顕著に増強することが以前に示されていた(Travis他、1997)。開示された結果は、麻酔下での血圧がSNO生物活性を反映するかもしれず、また、GSNOR活性における遺伝子的基礎を有するかもしれないという可能性を示している。
【0178】
興味深いことに、iNOSの低血圧作用もまた麻酔に関連づけられている。低血圧症は、LPSで負荷されたペントバルビタール麻酔の野生型マウスにおいて、iNOS−/−マウスの場合よりも大きいことが見出されている(MacMicking他、1995)。加えて、意識のあるiNOS−/−マウスに対して、麻酔されたiNOS−/−マウスにおいて匹敵し得る程度に血圧を低下させたLPSの濃度は、麻酔された野生型マウスにおいて、意識のある野生型マウスの場合よりもはるかに大きい低血圧症を生じさせた(MacMicking他、1995;Rees他、1998)。LPSは、齧歯類においてSNO−Hbのレベルを増大させることが知られている(Jourd’heuil他、2000)。今回、類似した増大が敗血症患者の血液で観測された。まとめると、これらのデータは、iNOSに由来する高いSNOはエンドトキシン中毒動物における麻酔の低血圧作用の一因であることを示唆している。開示されたデータは、中枢神経または腎臓において発揮されるGSNOの作用を排除していない(OrtizおよびGarvin、2003;Stamleer、1999;Stoll他、2001)。しかしながら、結果は、RBCが血管を拡張するという最近の発見(Gonzalez−Alonso他、2002;Jia他、1996;McMahon他、2002)、および、RBCにおけるSNOが低血圧表現型の一因であるかもしれないという主張を裏付けている。
【0179】
SNOが、RBCにおいて、また、血管を拡張するために放出される活性(McMahon他、2002;Pawloski他、2001)において生じる機構はほんの一部しか理解されていない。Hbが、NO(Gow他、1999)、亜硝酸塩(Luchsinger他、2003)またはGSNO(Jia他、1996;Romeo他、2003)と反応して、SNO−Hbを生じさせ得ること、および、RBCによる血管拡張はSNO−HbからRBC膜チオールへのNOの輸送を必要とすること(Pawloski他、2001)が示されている。さらなる研究は、RBC膜生物活性の分配における血漿GSNOに対する役割を示している(Lipton他、2001)。開示された結果は、RBC−SNOのレベルをインビボで維持することにおけるGSNO/GSNORの重要性を明瞭に明らかにしている。そのうえ、開示された実験は、SNOの増大が、他の生物活性なNO化合物(鉄ニトロシルHbおよび亜硝酸塩)の検出可能な増大を伴うことなく生じることを示している。このことは、SNOが血液(Jia他、1996;Stamler他、1992)および組織(Gow他、2002;Stamler他、2001)におけるNO生物活性を媒介しているという考えに対する強い遺伝子的裏付けを提供している。
【0180】
(結論)
開示された知見は、NO生物学および疾患におけるS−ニトロソチオールの中心的な役割を強調している。具体的には、本研究においてもたらされる遺伝子的証拠は、GSNOの代謝回転が、疾患体質の素因を与えるSNOの蓄積を防止するためだけでなく、生理学的なシグナル伝達(例えば、血圧を調節するためのメッセンジャーの分配)に関連してSNOの代謝回転を調節するためにも必要であることを示唆している。GSNOレダクターゼのこのような恒常性維持的役割は、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)によって果たされる役割を連想させる。GSNORは、酸化的ストレスからのSOD保護および血圧の調節を呼び起こす方法で、ニトロシル化ストレスからの保護をもたらし、かつ、血管の緊張状態に影響を及ぼしている(Didion他、2002;Nakazono他、1991)。従って、GSNORは重要な器官機能の調節においてさらなる役割を果たしていると考えられる。さらに、内毒素血症および菌血症における研究は、iNOSが関係する他の生来的な免疫状態、炎症状態、変性状態および増殖性状態の典型であるので、ニトロソ化ストレスは疾患病理発生に広範囲に寄与していると考えられる。従って、S−ニトロシル化の機能不全によって特徴づけられる疾患は介入のための新しい治療機会および治療標的を表す(Liu他、2004、Cell、116:617〜628を参照のこと)。
【0181】
(実施例4:心臓研究)
(再構成された系において精製タンパク質を使用するβ2−ARおよび可溶性ペプチド基質のGRK2媒介によるリン酸化に対するNO/SNOの影響)
以前のデータは、NOがβ2−AR(アドレナリン作動性受容体)のGRK(Gタンパク質共役受容体キナーゼ)媒介によるリン酸化を妨げるという仮説を裏付ける強い証拠を提供していた。さらなる実験が、NOが受容体またはGRKに対して直接に作用するかどうかを明らかにするために必要であった。NO作用の部位を明らかにするために、その影響を、再構成された系において精製タンパク質を使用して、β2−ARのGRK2媒介によるリン酸化について、また、可溶性ペプチド基質について調べた。これらの研究において、cysNOが、精製されたβ2−ARのGRK2媒介によるリン酸化を著しく低下させた(図11A)。NO生物活性はまた、精製されたウシ桿体外側セグメントに由来するロドプシンのGRK2媒介によるリン酸化を著しく低下させた。このことはNO作用の全身性の機構を示唆している(図11B)。
【0182】
これらのデータは細胞全体の受容体リン酸化のデータと一致しており、受容体またはGRKに対するNO作用の可能な部位を限定していた。これらの実験ではまた、SNOがGRK2の自己リン酸を減少させたことが明らかにされた。このことは、ニトロシル化によるGRK2の直接的な阻害を示唆している。このことを確認するために、実験を、合成ペプチド基質(RRREEEEESAAA;配列番号30)の精製GRK2により媒介されるリン酸化を阻害するSNOの能力を調べるために行った。GRK2媒介による受容体リン酸化を低下させることに加えて、cysNOおよびGSNOはともに、合成ペプチド基質のGRK2媒介によるリン酸化を著しく阻害した(図12A〜図12B)。
【0183】
このデータは、NO/SNOがGRK2媒介によるβ2−ARのリン酸化を直接に低下させ、かつ、GRK2のS−ニトロシル化を介したもっともらしい作用機構を提供しているという仮説を裏付ける説得力のある、細胞全体およびインビトロでの証拠を提供した。理論によって拘束されないが、NOはシステインチオールおよび遷移金属中心を標的化し、S−ニトロシル化による多くの受容体に対するcGMP依存的な作用を含めて、ひとそろいの作用を伝達するという仮説が立てられた。これらの研究に加えて、数多くのインビボ実験およびエクスビボ実験が、β−ARの生理学に対するNOの影響、および、心不全に関連するβ−AR機能における観測された欠陥に対するNOの影響を解明することを目指して行われた。S−ニトロソチオールの関与を示す証拠が得られた。
【0184】
(慢性的β−AR刺激誘導性心臓肥大および受容体ダウンレギュレーションに対する生体利用可能なNO/ニトロソチオールの影響)
以前の研究では、心臓肥大および心不全に関連するβ−ARの脱感作およびダウンレギュレーションが明らかにされていた。マウスにおける実験的心臓肥大の1つの十分に確立されたモデルでは、β−ARアゴニスト(イソプロテレノール)の長期間の投与が伴う。この処置により、心臓β−ARの機能的な非共役化およびダウンレギュレーションがもたらされ、壁量の著しい増大の発生がもたらされる。実験を、心臓肥大の発生に対するGSNOの影響を調べるために、また、長期間のイソプロテレノール刺激に関連するβ−ARのダウンレギュレーションのパターンを変化させるその能力を調べるために行った。
【0185】
細胞全体および膜の受容体/リガンド結合を、以前に記載されたように、リガンドに対する受容体の機能的な親和性、および全体的な受容体密度を評価するために行った。特に、細胞全体および膜の結合を、脱感作条件(アゴニストによる予備的刺激)の存在下および非存在下において多数の濃度のNO/SNOで処理された細胞について評価した。GSNOの投与(2週間にわたる浸透圧ミニポンプによって送達される)は、心臓重量対体重比においてイソプロテレノール刺激による変化に対する影響を全く有さず(図13A)、しかし、β−ARのダウンレギュレーションを著しく低下させた(図13B)。以前の研究では、心不全においてβ−AR機能を維持することは疾患の進行を遅らせることができることが明らかにされている。従って、これらのデータから、GSNOが、心臓β−ARのダウンレギュレーションを妨げるその能力によって、心不全の処置のために新規な治療様式を表すことが示唆される。
【0186】
これらの結果のこれらの要点は、GSNOを上昇させる薬剤(すなわち、GSNORの阻害剤)は、β−アドレナリン作動性のシグナル伝達を改善するための手段として使用することができることを示している。図13A〜図13Cは、β−アドレナリン作動性アゴニストのイソプロテレノール(ISO)が、ポンプを使用してマウスに7日間注入されたとき、心臓重量の増大をもたらし(図13A)、低下したβ−アドレナリン作動性受容体レベルをもたらし(図13B)、かつ、高活性のβARK(GRK2)発現をもたらしたことを明らかにしている。対照的に、GSNOとISOとの混合注入は、βARK(GRK2)を阻害しているので(図12A〜図12B)、β受容体密度を維持した(図13B)。従って、GSNORの阻害剤は、単独で、またはβ−アゴニストとの組合せで、心不全または他の血管障害(例えば、高血圧症および喘息など)を改善するために使用することができる。
【0187】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細が上記の付随する説明において示されている。本明細書中に記載される方法および材料に類似するか、またはそれらと同等である方法および材料はどれも、本発明の実施または試験において使用することができるが、現時点では、好ましい方法および材料が記載されている。本発明の他の特徴、目的および利点が、説明および請求項から明らかになる。
【0188】
本明細書および添付された請求項において、単数形態は、文脈がそうでないことを明らかに指示していない限り、複数の指示対象体を包含する。別途定義されない限り、本明細書中で使用されているすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。別途明示的に述べられていない限り、本明細書中で用いられる技術または意図される技術は、当業者に広く知られている標準的な方法論である。本明細書に引用されているすべての特許および刊行物は、米国特許出願第60/476,055号(2003年6月4日出願)および米国特許出願第60/545,965号(2004年2月18日出願)および米国特許出願第60/550,833号(2004年3月4日出願)によって提供される以前の開示を含めて、本明細書により参考として本明細書中に組み込まれる。
【0189】
【数3】
【0190】
【数4】
【0191】
【数5】
【0192】
【数6】
【0193】
【数7】
【0194】
【数8】
【0195】
【数9】
【0196】
【数10】
【0197】
【数11】
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】GSNOR遺伝子の標的化された破壊。図1A:GSNOR遺伝子の標的化された破壊のための方針。標的化ベクター、野生型GSNOR対立遺伝子および破壊されたGSNOR対立遺伝子の構造が示される。標的化ベクターの構築およびサザン分析のために使用された制限部位は次の通りである:B、BamHI;H、HindIII;N、NotI;S、SacI;X、XbaI。PGKneoおよびPGKtkのカセットはそれぞれ、マウスのホスホグリセロキナーゼ遺伝子プロモーターの制御下にある選択用遺伝子のneoおよびtkである。双頭矢印は、SacI制限またはXbaI制限によるサザン分析における野生型GSNOR対立遺伝子および破壊されたGSNOR対立遺伝子の予想されるフラグメントを表す。Neo3’seおよびGSNOR3’asは、破壊された対立遺伝子を検出するために使用されるPCRプライマーである。図1B:GSNOR標的化ESクローンから得られたゲノムDNAのサザン分析。DNAをSacIで消化し、ex2−3(GSNORのエキソン2〜エキソン3に対して特異的なcDNAプローブ)でプローブした。WT、野生型;KO、破壊された対立遺伝子。図1C:野生型(+/+)マウス、ヘテロ接合型(+/−)マウスおよびGSNORヌル(−/−)マウスから得られたゲノムDNAのサザン分析。DNAをXbaIで消化し、ex8−9(エキソン8〜9エキソンに対して特異的なプローブ)とのハイブリダイゼーションを行った。図1D:マウスの尾におけるGSNOR活性。データは2個〜4個のサンプルの平均値(±SD)を含む。図1E:様々な組織におけるGSNOR活性。タンパク質抽出物(500μg/ml)を200μMのNADHおよび0μMまたは150μMのGSNOとインキュベーションした。値が3匹の野生型マウス(黒塗り)または2匹のGSNOR−/−マウス(白塗り)から得られた。図1F:80日齢マウスの体重(n=18〜29)および離乳時の同腹子の数(n=16〜32)。野生型(白塗り)、GSNOR−/−系統1(斜線)およびGSNOR−/−系統2(黒塗り)に由来するマウスは、同じ動物施設において標準的なマウス用餌で飼育された。
【図2】GSNOR−/−マウスと比較される野生型における血圧およびS−ニトロソチオール。図2A:麻酔されたC57BL/6(WT)マウスおよびGSNOR−/−(KO)マウスにおける平均動脈圧。データは各系統における2匹のオスおよび2匹のメスの平均値±SEを含む(すなわち、n=4/系統)。図2B:意識のあるマウスにおける収縮期血圧。データは8匹のC57BL/6マウス(4匹のオス)および12匹のGSNOR−/−マウス(4匹のオス)の平均値±SEである。図2C:麻酔されていない野生型マウス(白塗り)およびGSNOR−/−マウス(黒塗り)から得られたRBCにおけるニトロシル化。GSNOR−/−マウスにおけるSNO−Hbレベルが野生型マウスの場合よりも有意に高いこと(P<0.05、n 12)が明らかにされ、これに対して、鉄−ニトロシルHbレベルは差がなかった。図2D:血漿中SNOによる低酸素症/代謝的要求に共役したRBC−SNOによる血管拡張、およびNO欠乏状態時における血管拡張を示す概略図。
【図3】GSNOR−/−マウスにおけるエンドトキシンショックおよび敗血症性ショックに由来する高死亡率。図3A:GSNOR−/−マウスの生存(黒丸、n=69)は、LPSの腹腔内注射の後、野生型マウスの生存(白丸、n=39)よりも有意に低かった(P<0.001)。図3B:GSNOR−/−系統1のマウスの生存(GSNOR−/−1、上向き三角;n=37)およびGSNOR−/−系統2のマウスの生存(GSNOR−/−2、逆三角;n=32)は類似していた。両方の値は、LPS後、野生型マウス(白丸、n=39)よりも有意に低かった(GSNOR−/−1についてはP<0.002、GSNOR−/−2についてはP<0.004)。図3C:オスGSNOR−/−マウス(黒丸、n=31)の生存は、LPS後、野生型コントロール(白丸、n=16)よりも有意に低くなかった(P=0.12)。図3D:メスGSNOR−/−1マウスの生存(上向き三角;P<0.01、n=19)およびメスGSNOR−/−2マウスの生存(逆三角;P<0.002、n=19)はともに、LPS後、野生型コントロール(白丸、n=23)よりも有意に低かった。図3E:GSNOR−/−メスマウスの生存(黒塗り、n=9)は、盲腸結紮および破裂(CLP)の後、野生型コントロールの生存(白塗り、n=8)よりも有意に低かった(P<0.03)。
【図4】GSNOR−/−マウスにおける異常なSNO代謝。図4A:PBS(48h)またはLPSの腹腔内注射後の野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスにおける肝臓S−ニトロソチオール。GSNOR−/−マウスにおけるSNOのレベルは、LPS負荷後の24h(P=0.005)および48h(P=0.006)の両方で野生型コントロールの場合よりも有意に高いことが明らかにされた。図4B:野生型マウス(白塗り)およびGSNOR−/−マウス(黒塗り)における血清中の硝酸塩。GSNOR−/−マウスにおける硝酸塩レベルはLPS後48hで野生型コントロールの場合よりも有意に高かった。図4C:野生型マウス(白塗り)およびGSNOR−/−マウス(黒塗り)における血清中の亜硝酸塩。図4D:肝臓SNO対血清中亜硝酸塩の上昇した比率は、GSNOR−/−マウスにおいて、LPS後の24hよりも48hで有意に高かった(P=0.010)(分析が、著しく上昇した硝酸塩レベル(>100μM)を有する1匹のマウスに対して行われた)。図4E:肝臓SNOのレベルが、CLP後の72hで、野生型コントロール(白塗り)よりもGSNOR−/−マウス(黒塗り)において有意に高かった(P=0.007)。
【図5】組織傷害の血清マーカー。血清を、コントロールのPBS注射の48h後、およびLPS注射の24h後または48h後に採取した。データ(平均値±SE)を4匹〜12匹の野生型マウス(白塗り)またはGSNOR−/−マウス(黒塗り)から得た。有意なペア様の差が星印によって示される(P<0.015)。アッセイされたマーカーは下記の通りであった:(図5A)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT);(図5B)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST);(図5C)クレアチニン;(図5D)尿素窒素(BUN);(図5E)クレアチンホスホキナーゼ(CPK);(図5F)アミラーゼ;(図5G)リパーゼ。図5H:6匹のGSNOR−/−マウス(LPS後48h)におけるALT(R2=0.85、p<0.01)またはAST(R2=0.94、p<0.01)と肝臓SNOとの間での相関。
【図6】LPS負荷されたマウスの組織病理学。LPS後48hでの野生型マウス(図6A、図6C、図6Eおよび図6G)およびGSNOR−/−マウス(図6B、図6D、図6Fおよび図6H)の肝臓(図6A〜図6B)、胸腺(図6C〜図6D)、脾臓(図6E〜図6F)および腸間(膵臓)リンパ節(図6G〜図6H)の切片が示される。すべての顕微鏡写真は同じ倍率であり、(図6A)におけるスケールバーは20μmである。N、壊死性肝細胞;T、食作用を受けたアポトーシス性細胞を有する可染性の身体マクロファージ。それぞれの顕微鏡写真は3匹の動物を表す。
【図7】iNOSの阻害は、LPS負荷されたGSNOR−/−マウスのSNO上昇を妨げ、その肝臓傷害を低下させ、その生存を改善する。図7A〜図7C:1400WがLPS注射後6hで与えられたGSNOR−/−マウスにおける硝酸塩の血清中レベル(図7A;n=7)、肝臓S−ニトロソチオールの血清中レベル(図7B;n=4)および血清ALTの血清中レベル(図7C;n=5)(黒塗り柱)。白塗り柱は、1400Wの非存在下で得られた値を表し、図4A、図4Bおよび図5Aからの再現である。図7D:1400W(n=12;四角)またはPBS(n=6;菱形)のいずれかをLPS注射後6hで受けたLPS負荷されたGSNOR−/−マウスの生存。
【図8】オボアルブミン(OVA)およびPBSで処置された野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスにおける、増大する量のメチルコリン(MCh)で処置された気道抵抗の量を示す。
【図9】OVAまたはPBSによる処置の後での野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスの両方におけるIgEのレベルを示す。
【図10】OVAで処置されたGSNOR−/−マウスおよび野生型マウスにおけるBALF IL−13のレベルを示す。
【図11】GRK研究から得られた結果。図11A。合成ベシクルにおいて再構成された精製β2−ARと、精製GRK2とを使用して、イソプロテレノール(10μM)刺激されたGRK2媒介による受容体リン酸化に対するcysNO(500μM、50μMおよび5μM)の影響を調べる実験から得られた代表的なゲル;図11B。精製されたウシ桿体外側セグメントと、精製GRK2とを使用して、ロドプシンの光刺激されたGRK2媒介によるリン酸化に対するcysNO(5μM、50μMおよび500μM)の影響を調べる実験から得られた代表的なゲル。
【図12】可溶性ペプチド基質(RRREEEEESAAA;配列番号30)の、精製GRK2により媒介されるインビトロリン酸化に対するcycNO(A:500μM、50μMおよび5μM)およびGSNO(B:500μM、50μMおよび5μM)の影響(n=2;*P<0.05)。
【図13】心臓研究の結果。ミニ浸透圧ポンプの埋め込み、そして、PBS、イソプロテレノール(ISO)(30mg/kg/日)、GSNO(10mg/kg/日)、または、ISOおよびGSNOの組合せのいずれかによる7日間にわたる処置の後でのマウスにおける、図13A:心臓重量対体重比(hw:bw、mg:g)(n=10);図13B:心臓β−AR密度(BMax、fmol/mgタンパク質)(n=5);図13C:心臓βARKタンパク質発現レベル(n=4)。すべてのデータは平均値(+/−SE)として表される(*PBS処置マウスに対してP<0.05、+ISO処置マウスに対してP<0.05、アンペアードt検定)。
【図14】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号7)およびアミノ酸配列(配列番号17)の情報がアクセション番号M29872のもとでNational Center for Biotechnology Information(NCBI:Bethesda、MD)データベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。
【図15A】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号8)およびアミノ酸配列(配列番号18)の情報がアクセション番号NM_000671のもとでNCBIデータベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。SNPは単一ヌクレオチド多型を示す。
【図15B】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号8)およびアミノ酸配列(配列番号18)の情報がアクセション番号NM_000671のもとでNCBIデータベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。SNPは単一ヌクレオチド多型を示す。
【図15C】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号8)およびアミノ酸配列(配列番号18)の情報がアクセション番号NM_000671のもとでNCBIデータベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。SNPは単一ヌクレオチド多型を示す。
【図15D】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号8)およびアミノ酸配列(配列番号18)の情報がアクセション番号NM_000671のもとでNCBIデータベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。SNPは単一ヌクレオチド多型を示す。
【図16A】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図16B】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図16C】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図16D】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図16E】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図17A】マウスGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号16)およびアミノ酸配列(配列番号20)の情報がアクセション番号NM_007410のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図17B】マウスGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号16)およびアミノ酸配列(配列番号20)の情報がアクセション番号NM_007410のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図18A】ヒトGSNOR配列および相同配列またはオルソログ配列についてのアミノ酸アラインメント。アミノ酸配列情報(配列番号21〜配列番号29、連続して)および配列アライメントがNCBI保存ドメインデータベースCD:KOG0022.1、KOG0022から得られた。アラインメントにおいて、アクセション番号1MC5_AはヒトGSNORに対応し、GenBank番号113389はヒトアルコールデヒドロゲナーゼ6に対応し、GenBank番号174441816は、ヒトIV型アルコールデヒドロゲナーゼに類似する配列に対応し、GenBank番号13432155は、Schizosaccharomyces pombeから得られたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ1に対応し、GenBank番号13431519は、Schizosaccharomyces pombeから得られたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ2に対応し、GenBank番号30697873は、Arabidopsis thalianaから得られたオキシドレダクターゼに対応し、GenBank番号15238330は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応し、GenBank番号15217715は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応し、GenBank番号15219884は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応する。保存されたドメインが太字で示される。保存的置換を有する位置が斜体の太字で示される。
【図18B】ヒトGSNOR配列および相同配列またはオルソログ配列についてのアミノ酸アラインメント。アミノ酸配列情報(配列番号21〜配列番号29、連続して)および配列アライメントがNCBI保存ドメインデータベースCD:KOG0022.1、KOG0022から得られた。アラインメントにおいて、アクセション番号1MC5_AはヒトGSNORに対応し、GenBank番号113389はヒトアルコールデヒドロゲナーゼ6に対応し、GenBank番号174441816は、ヒトIV型アルコールデヒドロゲナーゼに類似する配列に対応し、GenBank番号13432155は、Schizosaccharomyces pombeから得られたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ1に対応し、GenBank番号13431519は、Schizosaccharomyces pombeから得られたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ2に対応し、GenBank番号30697873は、Arabidopsis thalianaから得られたオキシドレダクターゼに対応し、GenBank番号15238330は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応し、GenBank番号15217715は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応し、GenBank番号15219884は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応する。保存されたドメインが太字で示される。保存的置換を有する位置が斜体の太字で示される。
【図19A】ヒトGSNORについての二次構造情報。ヒトGSNOR(配列番号19)についての構造情報がNCBIアクセション番号1MC5_Aから得られた。SecStrは二次構造を示す。
【図19B】ヒトGSNORについての二次構造情報。ヒトGSNOR(配列番号19)についての構造情報がNCBIアクセション番号1MC5_Aから得られた。SecStrは二次構造を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は一酸化窒素(NO)の生物学に関する。具体的には、本発明は、血行力学的応答の調節におけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼ(GSNOR)および一酸化窒素の生物活性の調節に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
3種類の一酸化窒素(NO)シンターゼ(NOS)酵素が、広範囲の様々な細胞機能において、また宿主防御において重要な役割を果たしている(Moncada他、1991;NathanおよびXie、1994)。これらの酵素の発現、調節および活性が遺伝子的方法および薬理学的方法の両方によって広範囲に研究されている。しかしながら、NO合成の下流側の事象はそれほど十分には理解されていない。内因性および外因性の両方の一酸化窒素(NO)がタンパク質(例えば、アルブミンなど)内のチオールと反応して、血管拡張活性を有する長寿命の様々なS−ニトロソチオール(SNO)を形成することが報告されている(Stamler JS他、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:444〜448)。また、NOSの阻害が、低分子量の様々なSNOの同時産生を伴ったSNO−アルブミンの減少をもたらすように、NOS活性にそのレベルが共役した血漿中におけるS−ニトロソアルブミンの循環プールの存在も報告されている(Stamler JS他、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:7674〜7677)。SNO−アルブミンは、NOが欠乏した状態において利用され得るNO生物活性のリザーバーを提供すること、および、SNO−アルブミンによる血管拡張が、SNO−アルブミンがそれとの平衡状態で存在する小さい分子量のSNOによって伝達されることが提案された。
【0003】
その直後、様々な生物学的系における重要な低分子量のSNOがS−ニトロソグルタチオン(GSNO)であることが明らかにされた(Gaston B他、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1993、90:10957〜10961)。NOとは対照的に、GSNOは血液ヘモグロビンの存在下で平滑筋弛緩活性を保持しており、GSNOはSNO−タンパク質よりも強力な弛緩剤として作用する。その後、グルタチオンのチオールに結合したNOと、ヘモグロビンの反応性チオール(cysβ93)との間における赤血球内での平衡の存在(Jia L他、1996、Nature、380:221〜226)、および、ヘモグロビンのチオールに結合したNOと、膜会合バンド3タンパク質(AE1)との間における赤血球内での平衡の存在(Pawloski JR他、2001、Nature、409:622〜626)が明らかにされた。S−ニトロソヘモグロビン(SNO−Hb)と赤血球(RBC)膜との間でのNO基の交換がO2分圧(PO2)によって支配されていることが示された。従って、RBCは低PO2で血管を拡張させることが見出され(Pawloski JR他、2001、Nature、409:622〜626;McMahon TJ他、2002、Nat.Med.、8:711〜717;Datta B他、2004、Circulation(印刷中))、また、膜SNOの産生が血管拡張のためには必要であることが示された。
【0004】
末梢組織では、実験により、血流が、代謝的要求に共役しているヘモグロビンO2飽和度の変化によって決定されることが明らかにされている。血液のO2含有量がこの応答を引き起こす機構、および、多くの疾患(心不全、糖尿病およびショックを含む)におけるその障害についての基礎は、血管の生理学における大きな長年の問題である。以前の研究では、その答えが、血管拡張剤活性のO2センサーおよびO2応答性トランスデューサーの両方として役立つヘモグロビンの能力にあることが示唆されている。その後、アルブミンおよびヘモグロビンがSNO産生の専用部位であることが明らかにされた。アルブミンでは、疎水性ポケットおよび結合した金属(銅およびおそらくはヘム)の両方がNOによるS−ニトロシル化を促進させることができる(Foster MW他、2003、Trends Mol.Med.、9:160〜168;Rafikova O他、2002、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:5913〜5918)。対照的に、ヘモグロビン(Hb)は、NO、亜硝酸塩またはGSNOと反応して、SNO−Hbを生じさせることができる溝をいくつか有する(Gow AJ他、1998、Nature、391:169〜173;Gow AJ他、1999、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、96:9027〜9032;Luchsinger BP他、2003、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、100:461〜466;Jia L他、1996、Nature、380:221〜226;Romeo AA他、2003、J Am.Chem.Soc.、2003、125:14370〜14378)。
【0005】
さらなる研究により、血液タンパク質のS−ニトロシル化が、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、セルロプラスミンおよび亜硝酸塩によって触媒され得ることが示された。特に、セルロプラスミンはNOのGSNOへの変換を触媒しており(Inoue K他、1999、J.Biol.Chem.、274:27069〜27075)、また、溶液中のNOまたはGSNO由来のNOが、SODによって、ヘム鉄ではなく、むしろヘモグロビン内のcysβ93に標的化されている(Gow AJ他、1999、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、96:9027〜9032;Romeo AA他、2003、J.Am.Chem.Soc.、125:14370〜14378)。類似する機構(これにはSODおよび亜硝酸塩を伴う)がアルブミンにおいて機能していることが仮定されている。数多くの研究室により、動物およびヒトの両方の血液および組織において、SNOアルブミン、GSNOおよびSNO−Hbの存在が確認されている。しかしながら、形成量、様々なSNOをアッセイするための様々な方法の好適性、およびこれらの分子の生理学的な役割は依然として疑問のままである。システインチオールのS−ニトロシル化は、NO生物活性を伝達するための重量な経路を構成することが提案されている。S−ニトロシル化は、NOに関連したシグナルを安定化させ、かつ多様化させ、また、広範囲の様々なタンパク質に対するいたるところで見られる調節的修飾として作用すると考えられている(BoehningおよびSnyder、2003;Foster他、2003;Stamler他、2001)。いくつかの証拠はこの提案を裏付けている。
【0006】
第1に、ペプチドおよびタンパク質のSNO誘導体が基礎的条件のもとではほとんどの組織および細胞外液に存在する(Gaston他、1993;Gow他、2002;Jaffrey他、2001;Jia他、1996;Kluge他、1997;Mannick他、1999;Rodriguez他、2003;Stamler他、1992)。第2に、特異的なSNOによって一意的に繰り返される生理学的応答の例がいくつかある(De Groote他、1996;Lipton他、2001;Travis他、1997)。第3に、研究者らは、タンパク質のS−ニトロシル化/脱ニトロシル化が様々な細胞タイプおよびインビトロシステムの間で多様な生理学的な刺激によって動的に調節されていることを見出している(Eu他、2000;Gaston他、1993;Gow他、2002;Haendeler他、2002;Mannick他、1999;Matsumoto他、2003;Matsushita他、2003;RozzoおよびPiston、2003)。
【0007】
しかしながら、研究者らは、様々なSNOのインビボ活性をNO(または他の反応性窒素化学種;RNS)と区別するための生化学的手段または遺伝子的手段を有していない。従って、様々な生理学的応答におけるそれらの正確な役割および相対的な重要性は依然として疑問のままである。基礎的条件において、NOSは、血管、腎臓および脳に対する複雑な作用を介して細動脈の緊張状態に影響を及ぼしている(OrtizおよびGarvin、2003;Stamler他、1999;Stoll他、2001)。加えて、数多くの研究室から得られた研究は、細動脈の抵抗を調節する統合された血管応答における赤血球(RBC)の役割および得られるNO生物活性に向いている(Cirillo他、1992;Gonzalez−Alonso他、2002;McMahon他、2002)。NOそのものは血液または組織において検出されていない。このことから、SNOが血管の恒常性に寄与しているという仮説がもたらされる(Foster他、2003;Gow他、2002)。
【0008】
誘導型NOS(iNOS)はより多くの量のNO/RNSを産生することができ、それにより細胞機能を乱し得る(Moncada他、1991;NathanおよびXie、1994)。この病態生理学的状況は、ニトロソ化(nitrosative)ストレスと呼ばれており(Hausladen他、1996)、様々な反応性酸素化学種(ROS)によって引き起こされる酸化的ストレスに例えられている(Hausladen他、1996;HausladenおよびStamler、1999)。スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼおよびペルオキシダーゼの研究から、ROSに対する酵素的防御についての、議論の余地のない遺伝子的証拠が得られている。しかしながら、多細胞生物におけるRNS解毒の役割および機構は不明である。それにもかかわらず、蓄積しつつある証拠からは、NO/SNO恒常性を促進するのに役立つニトロソ化ストレス応答の存在が示される。特に、iNOSの発現はS−ニトロシル化タンパク質の増大と一致しており、これにより、新しい定常状態レベルに迅速に到達する(Eu他、2000;MarshallおよびStamler、2002)。これらのデータは、SNOが能動的に分解され続けていることを示唆している。
【0009】
iNOSの発現は、敗血症性ショック(合衆国だけで毎年100,000人以上の命を奪う複合症候群)において強く誘導される(Feihl他、2001)。敗血症性ショックおよびエンドトキシンショックにおけるiNOSの役割がマウスにおいて広範囲に調べられている。独立して作製された2つのiNOS欠損(iNOS−/−)マウス系統の最初の分析では、野生型コントロールと比較したとき、死亡率の明確な差が明らかにされなかった(Laubach他、1995;MacMicking他、1995)。しかしながら、これらのマウスのより徹底的な研究では、iNOS欠損がリポ多糖(LPS)負荷の後では実際に死亡率を増大させたことが示された(Laubach他、1998;Nicholson他、1999)。このことはiNOSについての保護的な役割を示しており、そのような役割はメスにおいて非常に明らかであった(Laubach他、1998)。これらのデータと一致して、iNOS阻害剤の1400WおよびN−(1−イミノエチル)−L−リジンはいずれも、エンドトキシンショックの動物モデルにおいて、効果がほとんどないか、または傷害を悪化させている(Feihl他、2001;Ou他、1997)。
【0010】
研究者らは最近、非常に保存されたS−ニトロソグルタチオン(GSNO)レダクターゼ(GSNOR)を同定している(Jensen他、1998;Liu他、2001)。この酵素は、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADHIII;これはまたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼとして知られている)として分類され(UotilaおよびKoivusalo、1989)、しかし、任意の他の基質よりもGSNORに対してはるかに大きな活性を示す(Jensen他、1998;Liu他、2001)。GSNORは真核生物における主要なGSNO代謝活性であるようである(Liu他、2001)。従って、GSNOが、GSNOR活性が低いか、または存在しない細胞外液(例えば、気道裏層液)に蓄積し得る(Gaston他、1993)。逆に、GSNOは細胞の内部において容易に検出することができない(Eu他、2000;Liu他、2001)。
【0011】
GSNORが欠損している酵母は、この酵素の基質ではないS−ニトロシル化タンパク質を蓄積する。このことは、GSNOがSNO−タンパク質との平衡で存在することを示している(Liu他、2001)。GSNOおよびSNO−タンパク質の周囲レベルを上回るそのような精密な制御は、GSNO/GSNORが、生理学的なシグナル伝達およびニトロソ化ストレスからの保護の両方で役割を果たしているかもしれないという可能性を提起する。実際、GSNOは、呼吸するための活力(Lipton他、2001)から、嚢胞性線維症の膜貫通調節因子(Zaman他、2001)および宿主防御(de Jesus−Berrios他、2003)にまで及ぶ様々な応答に関係している。他の研究では、GSNORが酵母細胞をニトロソ化ストレスからインビトロ(Liu他、2001)およびインビボ(de Jesus−Berrios他、2003)の両方で保護することが見出されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現在、高いNO合成および/または高いNOの生物活性に関連づけられる医学的状態についての診断、予防、改善および処置がこの分野では非常に求められている。同様に、例えば、細胞死および細胞増殖(特に、幹細胞の増殖)ならびに血管恒常性に対するNOの影響を阻止するための組成物および方法も求められている。加えて、他のNO関連障害を防止し、または改善し、または逆転させるための組成物および方法が非常に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、高レベルの一酸化窒素生物活性に関連する障害の少なくとも1つの症状の発症を緩和または阻害する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させ、かつ/あるいは、SNO(例えば、SNO−Hb)のレベルを低下させる薬剤の治療有効量を、上記障害を有する患者(例えば、女性患者)に投与する工程を包含する方法に関連する。本発明の様々な局面において、上記障害は、変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS))、脳卒中、全身性感染症(例えば、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群または全身性炎症性応答症候群)、炎症性疾患(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風および偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患))、低血圧症(例えば、麻酔、透析、起立性低血圧症に関連するもの)、増殖性障害(例えば、癌または他の新生物)、または別の障害である。
【0014】
本発明によれば、このような薬剤は、一酸化窒素生物活性またはSNOのレベルを低下させることができ、あるいは、一酸化窒素/SNO(例えば、SNO−Hb)の分解を増大させることができる。具体的な局面において、そのような薬剤は、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼのポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)またはペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ模倣体(例えば、ペプチド、低分子または抗イディオタイプ抗体)、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼのポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)またはペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)を発現させるためのベクター、それらの任意のフラグメント、誘導体または修飾体、あるいは他の活性化因子を含む。特定の局面において、活性化薬剤は一酸化窒素シンターゼの1つまたは複数の阻害剤(例えば、N−[3−(アミノエチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン(例えば、非特異的な阻害のために);または7−ニトロインダゾール(例えば、脳組織におけるnNOSの阻害のために)など)と同時投与される。特定の実施形態において、増大したSNOを、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ活性化因子および一酸化窒素シンターゼ阻害剤を用いた混合治療によって、または、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ活性化因子単独によって標的化することができる。
【0015】
本発明はさらに、血管障害の少なくとも1つの症状の発症を緩和または阻害するための方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させ、かつ/あるいは、SNO(例えば、SNO−Hb)のレベルを低下させる薬剤の治療有効量を、上記障害に罹患している患者に投与する工程を包含する方法に関連する。様々な局面において、上記血管障害は、心臓疾患、心不全、心臓発作、高血圧症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息またはインポテンスである。そのような薬剤は、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼに結合する抗体(例えば、モノクロー+ナル抗体)または抗体フラグメント、アンチセンス配列または低分子干渉性RNA配列、低分子、あるいは他の阻害剤を含むことができる。特定の局面において、阻害性薬剤はホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、ロリプラム、シロミラスト、ロフルミラスト、バイアグラ(登録商標)(クエン酸シルデニフィル)、シアリス(登録商標)(タダラフィル)、レビトラ(登録商標)(バルデニフィル)など)と同時投与される。別の局面において、阻害剤は、特に、心不全、高血圧症および喘息に関して使用される場合、β−アゴニストと同時投与される。
【0016】
本発明はまた、高レベルの一酸化窒素生物活性に関連する障害(またはそのような障害の処置)を診断またはモニターする方法であって、(a)患者(例えば、女性患者)から得られた生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルまたは活性を測定する工程;(b)上記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルまたは活性をコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)上記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルまたは活性が上記コントロールサンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルよりも低いかどうかを決定する工程を包含する方法に関連する。別の局面において、診断またはモニターする上記方法は、(a)患者から得られた生物学的サンプルにおけるSNOのレベル(例えば、血漿中レベル)を測定する工程;(b)上記生物学的サンプルにおけるSNOのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)上記生物学的サンプルにおけるSNOのレベルが上記コントロールサンプルにおけるSNOのレベルよりも高いかどうかを決定する工程を包含する。類似する診断方法およびモニターリング方法もまた、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの高いレベルまたは有害なほどに高いレベル、あるいはSNOの低いレベルまたは有害なほどに低いレベルを測定するために包含される。
【0017】
本発明の様々な局面において、高レベルの一酸化窒素生物活性に関連して診断される障害は、変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症)、脳卒中、全身性感染症(例えば、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群または全身性炎症性応答症候群)、炎症性疾患(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風および偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患))、低血圧症(例えば、麻酔、透析または起立性低血圧症に関連するもの)、増殖性疾患(例えば、癌、腫瘍、異形成、新生物または前癌病変)、または別の障害である。高レベルのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼおよび低下したレベルのSNO(例えば、SNO−Hb)に関連して診断される障害には、血管障害(心臓疾患、心不全、心臓発作、高血圧症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息またはインポテンス)が含まれる。本発明の診断方法では、血液、尿、唾液または他の体液のサンプル、あるいは細胞サンプルまたは組織サンプルを用いることができる。
【0018】
本発明によれば、生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルは、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ抗原に結合する抗体、および/またはSNO抗原に結合する抗体を使用して測定することができる。特定の実施形態において、抗体はモノクローナル抗体であり、必要な場合には標識されている。他の実施形態において、生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルは、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼのヌクレオチド配列(例えば、配列番号7〜配列番号16または相補的配列)に結合する核酸プローブを使用して測定される。特定の実施形態において、プローブはDNAプローブであり、必要な場合には標識されている。あるいは、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性は既知の方法によって測定することができる。生物学的サンプルにおけるSNOのレベル(例えば、血漿中レベル)は、好ましくは、光分解−化学発光に基づく方法によって測定される。好ましくは、安定なニトロソチオール標準物、例えば、SNO−アルブミンまたはSNO−Hbを測定するためのそのような標準物がそのような方法と一緒に使用される。
【0019】
加えて、本発明は、内因性GSNOR遺伝子の破壊を含むゲノムを有する遺伝子組換え非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラットなど)に関連する。この場合、破壊は選択マーカー配列の挿入を含み、かつ、破壊は、野生型マウスと比較して、ニトロシル化の増大(例えば、細胞内または細胞外)を示すマウスをもたらす。特定の局面において、ニトロシル化のこの増大はSNOの蓄積をもたらす。破壊は、ホモ接合性の破壊、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を選択マーカーとして使用する、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異をもたらすホモ接合性の破壊であり得る。
【0020】
本発明はさらに、内因性GSNOR遺伝子に対して相同的なDNA配列が隣接する選択マーカー配列を含むGSNORノックアウト構築物を含む核酸に関連する。また、これらの核酸を含むベクター、ならびに、これらのベクターを含む宿主細胞および細胞株(例えば、非ヒト哺乳動物の胚性細胞株)にも関連する。さらに、全身性感染症または低血圧症の少なくとも1つの症状を緩和するための薬剤を同定するための方法であって、(a)全身性感染症または低血圧症を有するGSNORノックアウトマウスに試験薬剤を投与する工程;および(b)試験薬剤がノックアウトマウスにおいて全身性感染症または低血圧症の症状を緩和するかどうかを決定する工程を包含する。様々な局面において、全身性感染症は、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群または全身性炎症性応答症候群であり、一方、低血圧症は麻酔(例えば、フェノバルビトール、ケタミン・キシラジンまたはウレタン)に起因する。症状は、例えば、SNOの蓄積をもたらすニトロシル化の増大であり得る。
【0021】
本発明の他の実施形態、目的、局面、特徴および利点が、付随する説明および請求項から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(定義)
本明細書中で使用される「タンパク質」は「ポリペプチド」と同義的に使用される。「精製(された)」ポリペプチド、タンパク質またはペプチドは、アミノ酸配列が得られる細胞、組織または無細胞供給源に由来する細胞性物質または他の混入タンパク質を実質的に含まず、あるいは、化学合成されたときには化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。
【0023】
表現「細胞性物質を実質的に含まない」は、アミノ酸配列が単離または組換え産生される細胞の細胞成分から分離されているポリペプチドまたはペプチドの調製物を包含する。1つの実施形態において、表現「細胞性物質を実質的に含まない」は、約30%未満(乾燥重量比)の他のタンパク質(これはまた、本明細書中では「混入タンパク質」として示される)(より好ましくは約20%未満の混入タンパク質、さらにより好ましくは約10%未満の混入タンパク質、最も好ましくは約5%未満の混入タンパク質)を有するポリペプチドまたはペプチドの調製物を包含する。ポリペプチドまたはペプチドが組換え産生されているとき、ポリペプチドまたはペプチドはまた、好ましくは、細胞培地を実質的に含まず、例えば、細胞培地は調製物の体積の約20%未満(より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満)である。
【0024】
本明細書中で使用される用語「抗体」は、免疫グロブリン分子、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、例えば、抗原(例えば、ポリペプチドまたはペプチドなど)と特異的に結合(免疫反応)する抗原結合部位を含有する分子を示す。そのような抗体には、例えば、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、単鎖、FabフラグメントおよびF(ab’)2フラグメント、ならびにFab発現ライブラリーが含まれる。具体的な実施形態において、抗体はヒトポリペプチド(例えば、1つまたは複数のGSNOR)に対して作製される。
【0025】
本明細書中で使用される用語「モノクローナル抗体」または用語「モノクローナル抗体組成物」は、ポリペプチドまたはペプチドの特定のエピトープと免疫反応することができる抗原結合部位の1つだけの種を含有する抗体分子の集団を示す。従って、モノクローナル抗体組成物は、典型的には、免疫反応する特定のアミノ酸配列に対して1つだけの結合親和性を呈示する。
【0026】
本明細書中で使用される「調節する」は、ポリペプチドのレベルを増大または低下させること、あるいはポリペプチドの安定性または活性を増大または低下させることを示すことが意味される。従って、薬剤を、ポリペプチドを活性化するその能力について、あるいは、ポリペプチドの合成または安定性を促進させるその能力について調べることができる。
【0027】
本明細書中で使用される用語「誘導体」または用語「誘導体化(された)」は、別の物質に構造的に関連づけられ、かつ、その別の物質から理論的に導かれ得る化学物質(例えば、短縮化されたタンパク質またはペプチド)を示す。
【0028】
本明細書中で使用される用語「領域」または用語「ドメイン」は、タンパク質の領域またはドメインの場合のように、元のタンパク質の規定された範囲における多数のアミノ酸を示す。
【0029】
本明細書中で使用される用語「生理学的レベル」は、生物の健全な機能発現または正常な機能発現の特性またはそのような機能発現に適切な特性を示す。本明細書中で使用される用語「生理学的に適合し得る」は、生物の健全な環境または正常な環境を模倣するために利用することができる溶液または物質(例えば、培体)を示す。インビボ使用のために、生理学的に適合し得る溶液は、薬学的に許容され得るキャリア、賦形剤、補助剤、安定化剤およびビヒクルを含むことができる。
【0030】
本明細書中で使用される用語「薬学的に許容され得る」は、連邦政府または州政府の規制当局によって承認されていること、あるいは、動物における使用、および、より具体的にはヒトにおける使用について米国薬局方または他の一般に認められている薬局方に収載されていることを示す。用語「キャリア」は、治療剤がそれと一緒に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤またはビヒクルを示し、これには、水およびオイルのような無菌の液体(これらに限定されない)が含まれる。
【0031】
用語「細胞培養培地」および用語「培養培地」は、下記のカテゴリーの1つまたは複数からの少なくとも1つの成分を典型的には提供する、細胞を成長させるために使用される栄養物溶液を示す:1)エネルギー源、通常的には、グルコースなどの炭水化物の形態でのエネルギー源;2)すべての必須アミノ酸、通常的には、20個のアミノ酸+システインからなる基本的なセット;3)低い濃度で要求されるビタミンおよび/または他の有機化合物;4)遊離脂肪酸;および5)微量元素(この場合、微量元素は、非常に低い濃度で、通常的にはマイクロモル濃度の範囲で典型的には要求される無機化合物または天然に存在する元素として定義される)。
【0032】
哺乳動物細胞については、細胞培養培地は一般に、培地が何らかの哺乳動物供給源に由来する血清(例えば、ウシ胎児血清(BSA))を本質的に含まない場合、「無血清」である。「本質的に含まない」により、細胞培養培地が約0%〜5%の血清(好ましくは約0%〜1%の血清、最も好ましくは約0%〜0.1%の血清)を含むことが意味される。好都合なことではあるが、無血清の「定義された」培地を使用することができる。この場合、培地における成分のそれぞれの正体および濃度が既知である(すなわち、ウシ下垂体抽出物(BPE)などの不明確な成分が培養培地に存在しない)。
【0033】
本明細書中で定義される「特異的に結合する」は、抗体と相互作用するか、または相互に相互作用するタンパク質、ペプチドまたは抗原の能力を示す。
【0034】
本明細書中で使用される用語「一酸化窒素」は、非荷電の一酸化窒素(NO)と、荷電を有する一酸化窒素化学種(具体的には、ニトロソニウムイオン(NO+)およびニトロキシルイオン(NO−)が含まれる)とを包含する。反応性形態の一酸化窒素をガス状の一酸化窒素によって提供することができる。構造X−NOyを有する化合物(式中、Xは、一酸化窒素を放出、送達または輸送する成分であり、これには、一酸化窒素をその意図された作用部位にそれらの意図された目的のために活性な形態で提供するありとあらゆるそのような化合物が含まれ、Yは1または2である)。
【0035】
本明細書中で使用される用語「生物活性」は、生理学的プロセスまたは病態生理学的プロセスに影響を与えることができる、(例えば、結合、シグナル伝達などを介する)1つまたは複数の細胞プロセスまたは細胞外プロセスに対する作用を示す。
【0036】
用語「処置する」は、本発明に関連してその様々な文法的形態において、疾患(障害)状態、疾患の進行、疾患の原因因子(例えば、細菌またはウイルス)または他の異常な状態の少なくとも1つの有害な症状または作用を防止すること、治療すること、逆転させること、弱めること、緩和すること、最小限に抑えること、抑制すること、または停止させることを包含する。
【0037】
本明細書中で使用される「遺伝子治療」は、従来の遺伝子治療(この場合、持続する作用が1つだけの処置によって達成される)と、遺伝子治療剤の投与(これは、治療的に有効なDNAまたはmRNAの1回または反復した投与を伴う)との両方を包含する。
【0038】
表現「配列番号7〜配列番号16」などは、本明細書中では便宜上使用されており、本発明の方法に従って、それぞれの配列番号を個々に、または、2つ以上の配列番号を示すことがある。
【0039】
診断的検査のための「生物学的サンプル」には、血液(例えば、血清、血漿または全血)、尿、唾液、汗、乳汁、膣分泌物、精液、毛包、皮膚、歯、骨、爪、または他の分泌物、体液、組織または細胞のサンプルが含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
以降の節のための見出しが構成目的のためだけに示される。見出しは限定であると見なしてはならない。
【0041】
(ポリペプチド)
本発明は、GSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)、GSNORペプチド(配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、ならびにそれらのフラグメント、変化体、修飾体および誘導体を包含する。そのようなポリペプチドまたはペプチドは、この分野で知られている様々な技術を使用して作製することができる。例えば、ポリペプチドまたはペプチドの1つまたは複数を、この分野で認められている方法を使用して化学的に合成することができる。例えば、ペプチド合成機を使用することができる。例えば、Peptide Chemistry,A Practical Textbook、Bodasnsky編、Springer−Verlag、1988;Merrifield、Science、232:241〜247(1986);Barany他、Intl.J.Peptide Protein Res.、30:705〜739(1987);Kent、Ann.Rev.Biochem.、57:957〜989(1988);およびKaiser他、Science、243:187〜198(1989)を参照のこと。
【0042】
あるいは、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドは、核酸配列に由来する1つまたは複数のアミノ酸配列を発現させることによって作製することができる。これらのポリペプチドまたはペプチドを発現するベクターおよび細胞を使用することができるように、そのようなポリペプチドまたはペプチド(例えば、ヒトまたはキメリクス)を発現する任意の知られている核酸を使用することができる。ヒトORFおよびヒトポリペプチドの配列が、例えば、GenBankおよび他のデータベースにおいて公開されており、利用可能である(図14〜図19を参照のこと)。所望する場合、ポリペプチドまたはペプチドを回収および単離することができる。
【0043】
ポリペプチドあるいはそのフラグメントまたは誘導体を発現する組換え細胞を、この分野で知られている様々な方法を使用して得ることができ、また、個々の遺伝子産物またはフラグメントを単離および分析することができる(これらは、例えば、Sambrook他編、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(第2版)(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989);および、Ausubel他編、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(John Wiley&Sons、New York、NY、1993)に記載される)。
【0044】
様々なアッセイを、ポリペプチドまたはペプチドの物理的および/または機能的な性質に基づいて使用することができる。そのようなアッセイでは、例えば、ポリペプチドの1つまたは複数を放射能標識し、その後、ゲル電気泳動および免疫アッセイによって分析する工程を包含することができる。ポリペプチドまたはペプチドは、天然の供給源から、またはタンパク質/ペプチドを発現する組換え宿主細胞からのいずれかであっても、この分野で知られている標準的な方法によって単離および精製することができる。これらの方法には、例えば、カラムクロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、ゲル排除、逆相、高圧、迅速タンパク質液体など)、分画遠心分離、溶解度の差、またはタンパク質の精製のために使用される類似する方法が含まれる。
【0045】
本発明の特定の局面では、GSNORポリペプチドの特定のドメインを使用することができる。ヒトGSNORにおける高度に保存されたドメインには、アミノ酸17〜172およびアミノ酸193〜241、ならびに、アミノ酸64〜80およびアミノ酸215〜228が含まれる(図18A〜図18Bを参照のこと)。ヒトGSNORにおけるあまり保存されていないドメインには、アミノ酸1〜16およびアミノ酸172〜193、ならびにアミノ酸242〜374が含まれる(図18A〜図18Bを参照のこと)。別の局面では、これらのポリペプチドまたはポリペプチドドメインの保存的変化体を使用することができる。
【0046】
1つまたは複数のGSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドをコードする核酸、ならびに、これらの核酸を含むベクターおよび細胞は本発明の範囲内である。ポリペプチドまたはペプチドを発現させるために使用することができる宿主−ベクター系には、例えば、(i)ワクシニアウイルス、アデノウイルスが感染させられる哺乳動物細胞系;(ii)バキュロウイルスが感染させられる昆虫細胞系;(iii)酵母ベクターを含有する酵母;または(iv)バクテリオファージ、DNA、プラスミドDNAもしくはコスミドDNAを用いて形質転換された細胞が含まれる。利用される宿主−ベクター系に依存して、数多くの好適な転写エレメントおよび翻訳エレメントのいずれか1つを使用することができる。
【0047】
特定のポリペプチドまたはペプチドの発現を、この分野で知られている任意のプロモーター/エンハンサーによって制御することができ、これらには、例えば、(i)SV40初期プロモーター(例えば、Bernoist&Chambon、Nature、290:304〜310(1981)を参照のこと);(ii)ラウス肉腫ウイルスの3’末端の長末端反復に含有されるプロモーター(例えば、Yamamoto他、Cell、22:787〜797(1980)を参照のこと);(iii)ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター(例えば、Wagner他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、78:1441〜1445(1981)を参照のこと);(iv)メタロチオネイン遺伝子の調節配列(例えば、Brinster他、Nature、296:39〜42(1982)を参照のこと);(v)原核生物発現ベクター、例えば、β−ラクタマーゼプロモーター(例えば、Villa−Kamaroff他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、75:3727〜3731(1978)を参照のこと)など;(vi)tacプロモーター(例えば、DeBoer他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、80:21〜25(1983)を参照のこと)が含まれる。
【0048】
植物発現ベクターに含まれる植物プロモーター/エンハンサー配列もまた利用することができ、これらには、例えば、(i)ノパリンシンセターゼプロモーター(例えば、Herrar−Estrella他、Nature、303:209〜213(1984)を参照のこと);(ii)カリフラワーモザイクウイルスの35S RNAプロモーター(例えば、Garder他、Nucl.Acids Res.、9:2871(1981)を参照のこと);および(iii)光合成酵素リブロースビスリン酸カルボキシラーゼのプロモーター(例えば、Herrera−Estrella他、Nature、310:115〜120(1984)を参照のこと)が含まれる。
【0049】
酵母および他の菌類から得られるプロモーター/エンハンサーエレメント(例えば、Gal4プロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼプロモーター、アルカリホスファターゼプロモーター)、ならびに、組織特異性を有し、遺伝子組換え動物において使用されている下記の動物転写制御領域を、本発明のタンパク質の製造において利用することができる。
【0050】
動物に由来する他の動物転写制御配列には、例えば、(i)膵臓β細胞内において活性であるインスリン遺伝子制御領域(例えば、Hanahan他、Nature、315:115〜122(1985)を参照のこと;(ii)リンパ系細胞内において活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(例えば、Grosschedl他、Cell、38:647〜658(1984)を参照のこと);(iii)肝臓内において活性なアルブミン遺伝子制御領域(例えば、Pinckert他、Genes and Devel.、1:268〜276(1987)を参照のこと);(iv)脳の稀突起神経膠細胞内において活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(例えば、Readhead他、Cell、48:703〜712(1987)を参照のこと);および(v)視床下部内において活性な性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子制御領域(例えば、Mason他、Science、234:1372〜1378(1986)を参照のこと)が含まれる。
【0051】
ベクターは、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドをコードする核酸配列に機能的に連結されたプロモーター、1つまたは複数の複製起点、および、必要に応じて、1つまたは複数の選択マーカー(例えば、抗生物質耐性遺伝子)を含むことができる。ポリペプチド配列またはペプチド配列の発現を調節するか、または、発現した配列を所望の様式で修飾/プロセシングする宿主細胞系統を選択することができる。その上、種々の異なる宿主細胞が、発現したポリペプチドまたはペプチドの翻訳時および翻訳後のプロセシングおよび修飾(例えば、グリコシル化、リン酸化など)のための特徴的かつ特異的な機構を有する。従って、適切な細胞株または宿主系を、ポリペプチドまたはペプチドの所望する修飾およびプロセシングを確実に達成するために選ぶことができる。例えば、細菌システムにおけるタンパク質発現を、非グリコシル化コアタンパク質を産生させるために使用することができ、これに対して、哺乳動物細胞における発現を、異種タンパク質の生来的なグリコシル化を得るために使用することができる。
【0052】
原核生物宿主細胞には、グラム陰性生物またはグラム陽性生物が含まれる。形質転換のための好適な原核生物宿主細胞には、例えば、大腸菌(E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ならびに、シュードモナス属、ストレプトミセス属およびブドウ球菌属に含まれる様々な他の種が含まれる。あるいは、ポリペプチドまたはペプチドを、酵母宿主細胞において、好ましくは、サッカロミセス属由来の酵母(例えば、S.cerevisiae)において発現させることができる。酵母の他の属、例えば、シゾサッカロミセス属、ピキア属またはクルイベロミセス属などもまた用いることができる。
【0053】
哺乳動物宿主細胞培養系または昆虫宿主細胞培養系を、組換えポリペプチドまたは組換えペプチドを発現させるために使用することができる。昆虫細胞において異種タンパク質を産生させるためのバキュロウイルス系が広く知られている(例えば、LuckowおよびSummers、Bio/Technology、6:47(1988)を参照のこと)。哺乳動物起源の確立された細胞株もまた用いることができる。好適な哺乳動物宿主細胞株の例には、サル腎臓細胞のCOS−7株(ATCC CRL1651)(Gluzman他、Cell、23:175、1981)、L細胞、C127細胞、3T3細胞(ATCC CCL163)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、およびBHK細胞株(ATCC CRL10)、ならびに、アフリカミドリザル腎臓細胞株CV1に由来するCV1/EBNA細胞株(ATCC CCL70;McMahan他、EMBO J.、10:2821、1991)が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
(核酸)
本発明は、GSNOR核酸(例えば、配列番号7〜配列番号16、および配列番号17〜配列番号21をコードする配列)、ならびに、そのフラグメント、変化体、誘導体および相補的配列を包含する。ヒトGSNOR遺伝子およびコード領域の配列が、例えば、GenBankおよび他のデータベースにおいて公開されており、利用可能である(図14〜図19を参照のこと)。GSNOR核酸は、例えば、ハイブリダイゼーションプローブのために、また、染色体マッピングおよび遺伝子マッピングにおいて、また、アンチセンスRNAおよびアンチセンスDNA、低分子干渉性RNA、ならびに遺伝子治療ベクターの作製において使用することができる(例えば、米国特許出願公開第2004/0023323号を参照のこと)。そのような核酸はまた、以前に記載されたGSNORポリペプチドの調製のために、また、以前に記載された組換え技術によって有用である。
【0055】
GSNOR遺伝子の全長配列またはその一部は、GSNOR発現を検出するための(または、GSNOR発現のレベルを測定するための)ハイブリダイゼーションプローブとして、あるいは、GSNORの変化体(例えば、SNP;図17Bを参照のこと)を検出するか、または他の種からGSNOR核酸を検出するためのハイブリダイゼーションプローブとして使用することができる。必要に応じて、プローブの長さは約20塩基〜約50塩基である。ハイブリダイゼーションプローブは、全長の天然のヌクレオチド配列の少なくとも部分的に新規な領域(そのような領域は、過度な実験を用いることなく決定することができる)に由来し得るか、または、GSNORの天然の配列のプロモーター、エンハンサーエレメントおよびイントロンを含むゲノム配列に由来し得る。
【0056】
一例として、スクリーニング方法では、約40塩基の選択されたプローブを合成するために既知のDNA配列を使用してGSNOR遺伝子のコード領域を単離する工程を包含することができる。ハイブリダイゼーションプローブは様々な標識によって標識することができ、そのような標識には、32Pまたは35Sなどの放射性ヌクレオチド、あるいは、プローブに(例えば、アビジン/ビオチンの結合システムを介して)結合される、アルカリホスファターゼなどの酵素標識が含まれる。GSNORの任意のEST配列を、本明細書中に開示される方法を使用してプローブとして用いることができる。
【0057】
他の有用なGSNOR核酸には、標的のGSNOR mRNA配列またはGSNOR DNA配列に結合することができる一本鎖核酸配列(RNAまたはDNAのいずれか)を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。標的核酸配列に対するオリゴヌクレオチドの結合は、標的配列の転写または翻訳を阻止する二重鎖を形成させるために使用することができる。オリゴヌクレオチドの結合は、二重鎖の高まった分解、転写または翻訳の永続的な停止、あるいは、別の阻害作用を引き起こすことができる。従って、オリゴヌクレオチドを、GSNORポリペプチドの発現を低下させるために使用することができる。例えば、アンチセンスRNA分子またはアンチセンスDNA分子は、標的化されたmRNAにハイブリダイゼーションし、タンパク質の翻訳を妨げることによって、または、標的化されたDNAにハイブリダイゼーションして、三重らせんを形成することによってmRNAの翻訳を直接的に阻止することができる。
【0058】
そのようなオリゴヌクレオチドは、本発明によれば、GSNOR DNAのフラグメント、例えば、コード配列またはそれに対する相補的配列のフラグメントを含む。そのようなフラグメントは一般に、少なくとも約14個のヌクレオチドを含み、好ましくは約14個〜30個のヌクレオチドを含む。cDNA配列に基づくそのようなフラグメントの設計は以前に記載されている(例えば、SteinおよびCohen、Cancer Res.、48:2659、1988;van der Krol他、BioTechniques、6:958、1988を参照のこと)。これらの短いアンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞膜によるそれらの限定された取り込みによって引き起こされる低い細胞内濃度が存在する場合でさえ、阻害剤として作用する細胞の中に入れることができる(Zamecnik他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、83:4143〜4146(1986))。
【0059】
本発明の方法とともに使用される場合、オリゴヌクレオチドは、修飾された糖−ホスホジエステル骨格または他の糖連結を含むことができる(例えば、国際特許出願公開WO91/06629を参照のこと)。糖連結を有するそのようなオリゴヌクレオチドは、増大した安定性をインビボで呈示し(すなわち、酵素分解に抵抗することができ)、しかし、標的ヌクレオチド配列に結合することができるように配列特異性を保持している。別の局面において、オリゴヌクレオチドは、有機成分、例えば、国際特許出願公開WO90/10048に記載される有機成分などに、また、標的核酸配列に対するオリゴヌクレオチドの親和性を増大させる他の成分、例えば、ポリ(L−リジン)などに共有結合により連結することができる。なおさらに、インターカレーション剤(例えば、エリプチシンなど)およびアルキル化剤または金属錯体を、標的ヌクレオチド配列に対するオリゴヌクレオチドの結合特異性を変化させるためにセンスオリゴヌクレオチドまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドに結合することができる。
【0060】
オリゴヌクレオチドは、任意の遺伝子移入方法(これには、例えば、CaPO4媒介によるDNAトランスフェクション、エレクトロポレーションが含まれる)によって、または、遺伝子移入ベクター(例えば、エプスタイン・バールウイルスなど)を使用することによって、標的核酸配列を含有する細胞に導入することができる。好ましい手法において、オリゴヌクレオチドが好適なレトロウイルスベクターに挿入される。標的核酸配列を含有する細胞が、インビボまたはエクスビボのいずれかで、組換えレトロウイルスベクターと接触させられる。好適なレトロウイルスベクターには、マウスレトロウイルスM−MuLVに由来するベクター、N2(M−MuLVに由来するレトロウイルス)、または、DCT5A、DCT5BおよびDCT5Cと称される二重コピーベクター(例えば、国際特許出願公開WO90/13641を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
オリゴヌクレオチドはまた、リガンド結合分子とのコンジュゲートの形成によって、標的ヌクレオチド配列を含有する細胞に導入することができる(例えば、国際特許出願公開WO91/04753におけるように)。好適なリガンド結合分子には、細胞表面受容体、増殖因子、他のサイトカイン、または、細胞表面受容体に結合する他のリガンドが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、リガンド結合分子のコンジュゲート化は、その同族リガンドに結合するか、または、細胞内へのオリゴヌクレオチドもしくはそのコンジュゲート化体の進入を阻止するリガンド結合分子の能力を実質的に妨害しない。あるいは、オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド−脂質複合体の形成によって、標的核酸配列を含有する細胞に導入することができる(例えば、国際特許出願公開WO90/10448を参照のこと)。オリゴヌクレオチド−脂質複合体は、好ましくは、内因性リパーゼによって細胞内で解離する。
【0062】
アンチセンス(またはセンス)のRNA分子またはDNA分子は一般に、少なくとも約5塩基の長さ、約10塩基の長さ、約15塩基の長さ、約20塩基の長さ、約25塩基の長さ、約30塩基の長さ、約35塩基の長さ、約40塩基の長さ、約45塩基の長さ、約50塩基の長さ、約55塩基の長さ、約60塩基の長さ、約65塩基の長さ、約70塩基の長さ、約75塩基の長さ、約80塩基の長さ、約85塩基の長さ、約90塩基の長さ、約95塩基の長さ、約100塩基の長さまたはそれ以上の長さである。オリゴヌクレオチドは、例えば、その負荷電のホスホジエステル基を非荷電の基によって置換することによって、その取り込みを高めるために修飾することができる。
【0063】
オリゴヌクレオチドは、転写物の特定の領域または転写に関与する遺伝子の特定の領域に対して相補的であるように設計することができる(Lee他、Nucl.Acids Res.、6:3073(1979);Cooney他、Science、241:456(1988);Dervan他、Science、251:1360(1991);Okano他、Neurochem.、56:560(1991);Oligodeoxynucleotides as Antisence Inhibitors of Gene Expression(CRC Press:Boca Raton、Fla、1988)を参照のこと)。転写物を標的化するために、GSNORポリヌクレオチド配列の5’コード部分を使用して、長さが約10塩基対〜40塩基対のアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計することができる。遺伝子を標的化するために、翻訳開始部位に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチド(例えば、標的遺伝子ヌクレオチド配列の約−10位〜+10位の間)を使用することができる。三重らせんを形成させるための核酸分子は、二重鎖の一方の鎖においてプリンまたはピリミジンの相当の範囲を一般には要求するフーグスティーン型塩基対形成則によって使用することができる。例えば、国際特許出願公開WO97/33551を参照のこと。
【0064】
他の有用な核酸には、RNAの特異的な切断を触媒することができる触媒作用RNA分子であるリボザイムが含まれる。リボザイムは、相補的な標的RNAに対する配列特異的なハイブリダイゼーション、それに続く、鎖内ヌクレオチド結合分解による切断によって作用する。潜在的なRNA標的に含まれる特異的なリボザイム切断部位は既知の技術によって特定することができる(例えば、Rossi、Current Bilogy、4:469〜471(1994)、および国際特許出願公開WO97/33551を参照のこと)。
【0065】
別の方法では、干渉性RNA(iRNA;Tijsterman,M.他、2002、Annu.Rev.Genet.、36、489〜519;Tabara,H.他、2002、Cell、109、861〜871)を、GSNOR発現を「ノックダウン」するために使用することができる。iRNAは、低分子(21ヌクレオチド〜23ヌクレオチド)の干渉性RNA(siRNA)にRNaseIII様酵素によって細胞内で切断される二本鎖分子である(Bernstein,E.他、2001、Nature、409、363〜366;Ketting,R.F.他、2001、Genes Dev.、15、2654〜2659;Knight,S.W.およびBass,B.L.、2001、Science、293、2269〜2271;Zamore,P.D.他、2000、Cell、101、25〜33)。siRNAは、適切なmRNAを標的化することを助けるためにsiRNAを解きほぐす大きな多タンパク質複合体(RISC)と会合する(Martinez,J.他、2002、Cell、110、563〜574)。その後、siRNA−mRNAのハイブリッドが切断され、siRNAが放出され、そのmRNAがエンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼによって分解される(Dillin、2003、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、100:6289〜6291に総説される)。
【0066】
哺乳動物細胞では、siRNAを、標的化されたmRNA、および、結果として、コードされたタンパク質産物の特異的な減少を生じさせるために、細胞に直接加えることができる。そのようなsiRNAは、合成によって、または、発現ベクターの使用によって作製することができる。siRNAを、既知の方法(Elbashir SM他、2001、Nature、411:494〜498)およびアルゴリズム(例えば、Cenix BioScience(Dresden、ドイツ)を参照のこと)を使用して設計することができる。加えて、siRNAおよびsiRNA発現ベクターを市販の供給者から得ることができる(例えば、Ambio,Inc.(Austin、TX);QIAGEN,Inc.(Valencia、CA);Promega(Madison、WI);InvivoGen(San Diego、CA)を参照のこと)。好都合なことに、siRNAは、GSNOR転写物を特異的に標的化し、かつ、関連した配列を影響されないままにしておくために有用であり得る。
【0067】
GSNORまたはその修飾された形態をコードする核酸はまた、遺伝子組換え動物または遺伝子組換え細胞株、あるいはノックアウト動物またはノックアウト細胞株を作製するために使用することができる。遺伝子組換え体およびノックアウト体は、下記で記載されるように、治療的に有用な試薬の開発およびスクリーニングにおいて有用である。遺伝子組換え動物(例えば、マウスまたはラット)は、出生前の段階(例えば、胚段階)で動物または動物の先祖に導入された導入遺伝子を含有する細胞を有する動物である。遺伝子組換え動物(特に、マウスまたはラットなどの動物)を作製するための様々な方法が今や、この分野では通常的であり、例えば、米国特許第4,736,866号および同第4,870,009号に記載される。
【0068】
1つの方法において、特定の細胞を、組織特異的なエンハンサーを用いたGSNOR導入遺伝子組み込みのために標的化することができる。胚段階で動物の生殖系列に導入された、GSNORをコードする導入遺伝子の1コピーを含む動物を、GSNORの増大した発現の影響を調べるために使用することができる。そのような動物は、例えば、その過剰発現に関連する病理学的状態からの保護をもたらすと考えられる試薬に対するテスター動物として使用することができる。本発明のこの側面によれば、動物がそのような試薬で処置され、導入遺伝子を有する非処置の動物と比較して、病理学的状態の低い発生により、その病理学的状態のための可能性のある治療的介入が示される。
【0069】
あるいは、本明細書中で明らかにされるように、GSNORの非ヒトホモログ(すなわち、オルソログ)を、GSNORをコードする欠陥遺伝子または変化した遺伝子を有するノックアウト動物を構築するために使用することができる。ノックアウト体は、GSNORをコードする内因性遺伝子と、動物の胚性幹細胞に導入されたGSNORをコードする変化させたゲノムDNAとの間での相同組換えによって作製することができる。例えば、GSNORをコードするcDNAを、確立された技術に従って、GSNORをコードするゲノムDNAをクローン化するために使用することができる。GSNORをコードするゲノムDNAの一部分を欠失させることができ、または、別の遺伝子(例えば、組み込みをモニターするために使用することができる選択マーカーをコードする遺伝子など)で置き換えることができる。
【0070】
1つの方法において、ベクターは、数キロベースの変化していない隣接DNAを5’末端および3’末端の両方に含む(例えば、ThomasおよびCapecchi、Cell、51:503(1987)を参照のこと)。そのようなベクターは胚性幹細胞株に(例えば、エレクトポレーションによって)導入され、導入されたDNAが内因性DNAと相同的に組換えられている細胞が選択される(例えば、Li他、Cell、69:915(1992)を参照のこと)。選択された細胞は、その後、凝集キメラ体を形成させるために動物(例えば、マウスまたはラット)の胚盤胞に注入される(例えば、Bradley、Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells;A Practical Approarch、E.J.Robertson編(IRL、Oxford、1987)、113頁〜152頁を参照のこと)。
【0071】
キメラな胚を好適な偽妊娠のメス里親動物に移植し、胚を出産まで成長させて、ノックアウト動物を作製することができる。相同組換えDNAをその生殖細胞に有する子孫を標準的な技術によって特定することができ、また、そのような子孫は、動物のすべての細胞が相同組換えDNAを含有する動物を育種するために使用することができる。ノックアウト動物は、例えば、ある種の病理学的状態(例えば、LPS負荷)から防御するその能力について、また、GSNORポリペプチドが存在しないことに起因する病理学的状態(例えば、低血圧症)のその発症について特長づけることができる。
【0072】
GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドをコードする核酸はまた遺伝子治療においても使用することができる。特に、GSNORコード配列を、治療的に有効なGSNOR産物を産生させるために、例えば、欠陥遺伝子に取って代わるために、または、遺伝子発現を増大させるために、細胞に導入することができる。様々な技術を、核酸を生細胞に導入するために利用することができる。そのような技術は、核酸が培養細胞にインビトロで移されるか、または、意図された宿主の細胞においてインビボで移されるかに依存して変化する。核酸をインビトロで哺乳動物細胞に移入するために好適な技術には、リポソーム、エレクトロポレーション、顕微注入、細胞融合、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法などの使用が含まれる。
【0073】
1つの好ましい方法において、遺伝子移入が、ウイルスベクター(典型的にはレトロウイルスベクター)を用いたトランスフェクション、およびウイルスコートタンパク質−リポソーム媒介によるトランスフェクションによってインビボで行われる(Dzau他、Trends in Biotechnology、11、205〜210(1993))。状況に応じて、標的細胞を標的化する薬剤(例えば、細胞表面の膜タンパク質または標的細胞に対して特異的な抗体、標的細胞表面の受容体に対するリガンドなど)を核酸供給源に提供することは望ましい。リポソームが用いられる場合、エンドサイトーシスに関連する細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、標的化するために、かつ/または取り込みを促進させるために使用することができる(例えば、特定の細胞タイプに対する向性を示すキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、サイクリングにおいて内在化を受けるタンパク質に対する抗体、細胞内局在化を標的化し、かつ細胞内半減期を増強するタンパク質)。受容体媒介エンドサイトーシスの技術は以前に記載されている(例えば、Wu他、J.Biol.Chem.、262、4429〜4432(1987);およびWagner他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、87、3410〜3414(1990)を参照のこと)。遺伝子マーキングおよび遺伝子治療のプロトコルの総説については、Anderson他、Science、256、808〜813(1992)を参照のこと。
【0074】
(抗体)
本発明はさらに、GSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)、GSNORペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、またはそのフラグメントに特異的に結合する抗体および抗体フラグメント(例えば、FabフラグメントまたはF(ab’)2フラグメントなど)を包含する。「特異的に結合する」抗体は、特定のGSNORアミノ酸配列を認識して、それに結合し、しかし、生物学的サンプル中の他の分子を実質的に認識しないか、または実質的にそれに結合しない抗体である。1つの方法では、精製されたポリペプチド、またはその一部分、変化体もしくはフラグメントを、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を調製するための標準的な技術を使用してそのアミノ酸配列と特異的に結合する抗体を惹起させるために免疫原として使用することができる。
【0075】
全長のポリペプチドを、所望する場合には使用することができる。あるいは、ポリペプチドの抗原性フラグメントを免疫原として使用することができる。いくつかの実施形態において、抗原性フラグメントは、ポリペプチドの少なくとも6個のアミノ酸残基、少なくとも8個のアミノ酸残基、少なくとも10個のアミノ酸残基、少なくとも15個のアミノ酸残基、少なくとも20個のアミノ酸残基、または少なくとも30個のアミノ酸残基、またはそれ以上のアミノ酸残基を含む。1つの実施形態において、エピトープがポリペプチドの特異的なドメインを含むか、または、ポリペプチドの表面に存在する(例えば、親水性ドメイン)。所望する場合、抗原性領域を含有するペプチドを、親水性の領域および疎水性の領域を示すヒドロパシープロットを使用して選択するができる。これらのプロットは、フーリエ変換によるか、またはフーリエ変換によらないかのいずれかであっても、この分野で知られている任意の方法によって作成することができ、そのような方法には、例えば、Kyte Doolittle法またはHopp Woods法が含まれる。例えば、HoppおよびWoods、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、78:3824〜3828(1981);KyteおよびDoolittle、J.Mol.Biol.、157:105〜142(1982)を参照のこと。
【0076】
この分野で知られている様々な手法をポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の製造のために使用することができる。例えば、ポリクローナル抗体の製造のために、様々な好適な宿主動物(例えば、ウサギ、ヤギ、マウスまたは他の哺乳動物)を、天然のポリペプチド、またはその変化体、または上記のフラグメントもしくは誘導体を用いた注射によって免疫化することができる。適切な免疫原性調製物は、例えば、組換え発現ポリペプチドを含有することができる。あるいは、以前に議論されたように、免疫原性のポリペプチドまたはペプチドを化学合成することができる。
【0077】
免疫原性調製物はさらにアジュバントを含むことができる。免疫学的応答を増大させるために使用される様々なアジュバントには、例えば、フロイントのアジュバント(完全および不完全)、鉱物ゲル(例えば、水酸化アルミニウム)、表面活性物質(例えば、リゾレシチン、プルロニックアルコール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルション、ジニトロフェノールなど)、ヒトアジュバント(例えば、バチルス・カルメット・ゲラン菌およびコリネバクテリウム・パルブム菌など)、または類似する免疫刺激性薬剤が含まれる。所望する場合、ポリペプチドまたはペプチドに向けられた抗体分子を哺乳動物から(例えば、血液から)単離することができ、さらに、広く知られている技術(例えば、プロテインAクロマトグラフィーなど)によって精製して、IgG画分を得ることができる。
【0078】
任意の技術を、特定のポリペプチドまたはペプチドに向けられたモノクローナル抗体を調製するために使用することができる。例えば、連続した細胞株培養を、例えば、ハイブリドーマ技術(Kohler&Milstein、Nature、256:495〜497(1975)を参照のこと);トリオーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor他、Immunol Today、4:72(1983)を参照のこと);およびEBVハイブリドーマ技術におけるように利用して、ヒトモノクローナル抗体を製造することができる(例えば、Cole他、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy(Alan R.Liss,Inc.)(1985)、77頁〜96頁を参照のこと)。所望する場合、ヒトモノクローナル抗体を、ヒトハイブリドーマを使用することによって調製することができ(Cote他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、80:2026〜2030(1983)を参照のこと)、または、ヒトB細胞をインビトロでエプスタイン・バールウイルスで形質転換することによって調製することができる(Cole他、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy(上掲)を参照のこと)。
【0079】
様々な方法を、所望するタンパク質、またはその誘導体、フラグメント、アナログもしくはホモログについて所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ効果的な同定を可能にするためのFab発現ライブラリーの構築のために適合化することができる(例えば、Huse他、Science、246:1275〜1281(1989)を参照のこと)。非ヒト抗体を、この分野で広く知られている技術によって「ヒト化」することができる(例えば、米国特許第5,225,539号を参照のこと)。ポリペプチドまたはペプチドに対するイディオタイプを含有する抗体フラグメントを、この分野で知られている技術によって製造することができ、そのようなフラグメントには、例えば、(i)抗体分子のペプシン消化によって得られるF(ab’)2フラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって生じるFabフラグメント;(iii)抗体分子をパパインおよび還元剤で処理することによって生じるFabフラグメント;および(iv)Fvフラグメントが含まれる。
【0080】
本明細書中に記載されるポリペプチドまたはペプチドに対するキメラなヒト化モノクローナル抗体もまた本発明の範囲に含まれる。そのような抗体は、この分野で知られている様々な組換えDNA技術によって、例えば、PCT国際特許出願番号PCT/US86/02269;欧州特許出願第184,187号;欧州特許出願第171,496号;欧州特許出願第173,494号;PCT国際特許出願公開番号WO86/01533;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第125,023号;Better他、Science、240:1041〜1043(1988);Liu他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84:3439〜3443(1987);Liu他、J.Immunol.、139:3521〜3526(1987);Sun他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84:214〜218(1987);Nishimura他、Cancer Res.、47:999〜1005(1987);Wood他、Nature、314:446〜449(1985);Shaw他、J.Natl.Cancer Inst.、80:1553〜1559(1988);Morrison他、Science、229:1202〜1207(1985);Oi他、BioTechniques、4:214(1986);米国特許第5,225,539号;Jones他、Nature、321:552〜525(1986);Verhoeyan他、Science、239:1534(1988);およびBeidler他、J.Immunol.、141:4053〜4060(1988)に記載される方法を使用して製造することができる。
【0081】
所望の特異性を有する抗体をスクリーニングするための方法には、例えば、この分野で知られている酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および他の免疫学的媒介技術が含まれる。例えば、ポリペプチドの特定のドメインに対して特異的である抗体の選択は、そのようなドメインを有するポリペプチドまたはそのフラグメントに結合するハイブリドーマを作製することによって容易にすることができる。
【0082】
本発明の特定の実施形態において、本明細書中に記載されるGSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドに対して特異的な抗体は、様々な方法において、例えば、アミノ酸配列の検出または阻害、および、これらの配列を阻害する薬剤の同定などにおいて使用することができる。検出は、抗体を検出可能な物質にカップリング(例えば、物理的に連結)することによって容易にすることができる。検出可能な物質の例には、様々な酵素、補欠分子族、蛍光性物質、発光性物質、生物発光性物質および放射性物質が含まれる。好適な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼまたはアセチルコリンエステラーゼが含まれる。好適な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが含まれる。好適な蛍光性物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリドまたはフィコエリトリンが含まれる。発光性物質の例には、ルミノールが含まれる。生物発光性物質の例には、GFP、ルシフェラーゼ、ルシフェリンおよびエクオリンが含まれる。好適な放射性物質の例には、125I、131I、35Sまたは3Hが含まれる。
【0083】
ポリペプチド特異的またはペプチド特異的な抗体はまた、標準的な技術(例えば、アフィニティークロマトグラフィーまたは免疫沈殿など)を使用してアミノ酸配列を単離するために使用することができる。従って、本明細書中に開示される抗体は、宿主細胞において発現される組換え産生されたポリペプチドまたはペプチドだけでなく、細胞からの特異的なポリペプチドまたはペプチドの精製を容易にすることができる。
【0084】
(診断方法およびキット)
被験体におけるGSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)、GSNORペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)またはそれらのフラグメントの発現レベルおよび活性レベルを、例えば、診断目的のために明らかにする方法もまた本発明によって包含される。本発明によれば、様々な診断方法を使用して、本明細書中に記載される医学的状態の開始を予測または明らかにすることができ、あるいは、そのような状態の進行またはその処置の成功をモニターすることができる。細胞プロセスおよび細胞経路に関与するポリペプチドの変化した発現が被験体における有害な影響をもたらし得ることが理解される。例えば、低いGSNORレベルおよび高いNO合成、ならびに/または高いNOレベルに関係づけられる医学的状態には、例えば、変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS)、脳卒中(例えば、虚血性卒中)および増殖性疾患(例えば、新生物、腫瘍、癌、異形成および前癌性病変)が含まれる。高いGSNORレベルおよび低いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる医学的状態には、例えば、高血圧症(例えば、肺性高血圧症)などの血管障害、心臓疾患、心不全、心臓発作、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息およびインポテンスが含まれる。低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる医学的状態には、例えば、全身性感染症(例えば、菌血症、敗血症、全身性炎症性応答症候群、新生児敗血症、心原性ショックまたは毒性ショックなど)による組織傷害(例えば、肝臓組織、腎臓組織、筋肉組織および/またはリンパ組織)または死が含まれる。
【0085】
低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる他の医学的状態には、例えば、特に、炎症性疾患(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風および偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患)など)が含まれる。加えて、低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)は、本明細書中下記に示されるように、麻酔時における低血圧症、ならびに、ショック(例えば、エンドトキシンショックまたは敗血症性ショック)による組織損傷および死亡に関連する。
【0086】
1つの診断方法は、生物学的サンプルを被験体から提供する工程、サンプルにおけるGSNORまたはSNOのレベルを測定する工程、および、そのレベルを、既知のGSNORレベルまたはSNOレベルを有する参照サンプルと比較する工程を包含する。参照体に対してサンプルにおける高いレベルまたは低いレベルにより、GSNORまたはSNOの変化した発現が示される。あるいは、GSNORの酵素活性を、目的とする任意の細胞において測定することができる。ポリペプチドの変化した発現または活性の検出は、所与の疾患状態を診断するために使用することができ、かつ/または、疾患状態について素因を有する被験者を特定するために使用することができる。任意の好適な参照サンプルを用いることができるが、好ましくは、試験サンプルおよび参照サンプルは同じ媒体に由来する。例えば、両者は血液または尿などである。参照サンプルは、コントロール集団において発現するポリペプチドレベルを好適に代表しなければならない。
【0087】
本発明はまた、GSNORレベルまたはSNOレベルあるいはGSNOR活性を測定するためのキットを提供する。1つの局面において、キットは、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドに向けられた1つまたは複数の抗体、あるいは、SNOに向けられた1つまたは複数の抗体を含む。別の局面において、キットは、GSNOR酵素に対する基質を含有することができる。そのようなキットは、例えば、反応容器、サンプル中のGSNORまたはSNOを検出するための試薬、および、検出されたGSNORまたはSNOを明らかにするための試薬(例えば、検出可能なマーカーにカップリングされた二次抗体)を含有することができる。抗ポリペプチド抗体に取り込まれる標識には、例えば、化学発光成分、酵素成分、蛍光性成分、比色測定成分または放射能成分が含まれ得る。GSNORの酵素活性を検出するために、キットは、基質との反応を測定するための比色測定アッセイまたは蛍光測定アッセイを含有することができる。代わりの方法として、キットは、GSNORの遺伝子発現または遺伝子量のレベルを測定するために核酸プローブを含むことができる。核酸プローブは非標識であってもよく、または、検出可能なマーカーで標識されていてもよい。標識されていない場合、核酸プローブは、キットにおいて標識化試薬とともに提供され得る。本発明のキットは、診断アッセイおよび/または臨床的スクリーニングアッセイにおいて用いることができる。
【0088】
(調節薬剤に対するスクリーニング)
本発明はさらに、1つまたは複数のGSNORまたはSNOのレベルを調製するか、あるいは、GSNOR活性を調節する薬剤(例えば、阻害剤/アンタゴニストまたは活性化因子/アゴニスト)、ならびに、そのような薬剤を同定するための方法を包含する。様々なスクリーニングアッセイを、GSNORポリペプチドもしくはGSNORペプチドと結合するか、または、GSNORポリペプチドもしくはGSNORペプチドと複合体を形成する化合物、あるいは、そうでない場合には、GSNORの転写物または翻訳産物の発現または安定性を変化させる化合物、あるいは、GSNORと他の細胞タンパク質との相互作用を妨害する化合物を同定するために設計することができる。
【0089】
本発明のスクリーニングアッセイは、化学ライブラリーのハイスループットスクリーニングが容易であり、それにより、スクリーニングアッセイを、低分子の薬物候補物を同定するために特に好適にする様々な方法を含むことができる。アッセイは、タンパク質−タンパク質の結合アッセイ、生化学的なスクリーニングアッセイ、免疫アッセイ、および細胞に基づくアッセイ(これらはこの分野では十分に特徴づけられている)を含む様々な形式で行うことができる。インビトロスクリーニングの場合、調節する薬剤を、例えば、ファージディスプレー、GSTプルダウン、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)またはBIAcore(表面プラズモン共鳴;BIAcore AB、Uppsala、スウェーデン)分析によって同定することができる。インビボスクリーニングの場合、薬剤を、例えば、酵母ツーハイブリッド分析、同時免疫沈殿、免疫蛍光による同時局在化、またはFRETによって同定することができる。
【0090】
試験剤による活性(またはレベル)の調節、例えば、ポリペプチドに対する薬剤の結合を、この分野で認められている方法を使用して明らかにすることができる。例えば、ポリペプチドを、上記のように、ポリペプチドに特異的な抗体を使用して検出することができる。あるいは、結合した薬剤は、試験剤にさらされたポリペプチドの相対的な電気泳動移動度を、試験剤にさらされていない複合体の移動度と比較することによって同定することができる。GSNOレダクターゼ活性を、以前の記載(Liu他、2001)のように、GSNOに依存したNADHの消費によって測定することができる。SNOレベルを光分解−化学発光によって測定することができる(Liu他、2000b)。
【0091】
1つの具体的な実施形態において、GSNORポリペプチドと試験剤との間における結合性複合体が反応混合物において単離または検出される。例えば、GSNORポリペプチドまたは試験剤を共有結合または非共有結合による結合によって固相(例えば、マイクロタイタープレート)に固定化することができる。非共有結合による結合を、固体表面をGSNORポリペプチドの溶液で被覆し、乾燥することによって達成することができる。あるいは、固定化されるGSNORポリペプチドに対して特異的な固定化された抗体(例えば、モノクローナル抗体)を使用して、GSNORポリペプチドを固体表面に固定することができる。
【0092】
アッセイは、検出可能な標識によって標識されていてもよい固定化されていない成分(例えば、ポリペプチドまたは試験剤)を固体表面上の固定化された成分に加えることによって行うことができる。反応が完了したとき、反応していない成分を、例えば、洗浄することによって除くことができ、表面に固定された複合体をその標識によって検出することができる。最初に固定化されていない成分が標識を有しない場合、複合体形成を、例えば、固定化された複合体に特異的に結合する標識された抗体を使用することによって検出することができる。
【0093】
試験剤がGSNORポリペプチドと相互作用するならば、そのようなポリペプチドとのその相互作用を、タンパク質−タンパク質相互作用を検出するために広く知られている方法によってアッセイすることができる。そのようアッセイには、例えば、架橋、同時免疫沈殿、およびグラジエントまたはクロマトグラフィーカラムによる同時精製などの従来の方法が含まれる。加えて、タンパク質−タンパク質相互作用は、酵母に基づく遺伝子的システムを使用することによって、例えば、ツーハイブリッドシステム(FieldsおよびSong、Nature(London)、340:245〜246(1989);Chien他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88:9578〜9582(1991);ChevrayおよびNathans、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:5789〜5793(1991))を使用することによってモニターすることができる。ツーハイブリッドシステムでは、2つの融合タンパク質が用いられる。すなわち、一方は、標的タンパク質がDNA結合ドメインに融合されている融合タンパク質であり、もう一方は、候補の結合タンパク質が活性化ドメインに融合されている融合タンパク質である(例えば、GAL4の結合ドメインおよび活性化ドメインを使用することができる)。細胞が両方の融合構築物で形質転換され、相互作用するポリペプチドを含有するコロニーが、β−ガラクトシダーゼに対する発色性基質を用いて検出される。このようなツーハイブリッド技術を使用して2つの特異的なタンパク質の間でのタンパク質−タンパク質相互作用を同定するための完全なキット(MATCHMAKERTM)がCLONTECHから市販されている。
【0094】
GSNORポリペプチドおよび他の細胞内成分または細胞外成分の相互作用を妨害する試験剤を確立された方法によって試験することができる。1つの方法において、GSNOR遺伝子産物および細胞内成分または細胞外成分を、これら2つの産物の相互作用および結合を可能にする条件下および時間にわたって含有する反応混合物が調製される。反応が試験化合物の非存在下および存在下で行われる。加えて、非反応性薬剤を、陽性コントロールとして役立たせるために、第3の反応混合物に加えることができる。複合体がコントロール反応液において形成し、試験化合物を含有する反応混合物において形成しないことにより、試験化合物が試験化合物およびその反応パートナーの相互作用を妨害することが示される。
【0095】
阻害剤を同定するために、GSNORポリペプチドを試験剤と一緒に細胞に加えることができ、その後、低下した活性について調べることができる。薬剤をコードする遺伝子を、当業者に知られている数多くの方法(例えば、リガンドパンニング、FACS分取および発現クローニング)によって同定することができる(例えば、Coligan他、Current Protocols in Immun.、1(2):第5章(1991)を参照のこと)。代わりの方法として、標識されたGSNORポリペプチドを、受容体分子を発現する細胞膜または抽出物調製物を用いて光親和性標識することができる。架橋物をPAGEによって分離し、X線フィルムに感光させることができる。受容体を含有する標識された複合体を切り出し、ペプチドフラグメントに分離し、タンパク質微量配列決定に供することができる。微量配列決定から得られたアミノ酸配列は、cDNAライブラリーをスクリーニングして、薬剤をコードする遺伝子を同定するための1組の縮重オリゴヌクレオチドプローブを設計するために使用することができる。
【0096】
GSNORのレベルおよび/または活性を低下させる薬剤(すなわち、阻害剤)を同定する1つの方法は、(a)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドを提供すること;(b)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドを試験剤と接触させること;および(c)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドに結合する薬剤の存在を検出すること(この場合、そのような結合性薬剤はGSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドのレベルおよび/または活性をダウンレギュレーションする)を含む。GSNORのレベルおよび/または活性を増大させる薬剤(すなわち、活性化因子)を同定する1つの方法は、(a)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドを提供すること;(b)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドを試験剤と接触させること;および(c)GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドに結合する薬剤の存在を検出すること(この場合、そのような結合性薬剤はGSNORポリペプチドまたはGSNORペプチドのレベルおよび/または活性をアップレギュレーションする)を含む。
【0097】
加えて、S−ニトロシル化を低下させる薬剤(すなわち、阻害剤)を同定する1つの方法は、(a)S−ニトロシル化が可能な第1の細胞を、試験剤を含む培地で培養すること;(b)S−ニトロシル化が可能な第2の細胞を、上記試験剤を含まない培地で培養すること(この場合、第2の細胞は、試験剤を有しないことを除いて、第1の細胞に類似する);および(c)第1の細胞および第2の細胞の両方におけるS−ニトロシル化を比較することを含み、この場合、S−ニトロシル化が第1の細胞において第2の細胞の場合よりも小さいとき、S−ニトロシル化を阻害する薬剤が同定される。S−ニトロシル化を増大させる薬剤(すなわち、活性化因子)を同定する1つの方法は、(a)S−ニトロシル化が可能な第1の細胞を、試験剤を含む培地で培養すること;(b)S−ニトロシル化が可能な第2の細胞を、上記試験剤を含まない培地で培養すること(この場合、第2の細胞は、試験剤を有しないことを除いて、第1の細胞に類似する);および(c)第1の細胞および第2の細胞の両方におけるS−ニトロシル化を比較することを含み、この場合、S−ニトロシル化が第1の細胞において第2の細胞の場合よりも大きいとき、S−ニトロシル化を増大する薬剤が同定される。
【0098】
任意の化合物または他の分子(あるいはその混合物または凝集物)を試験剤として使用することができる。いくつかの実施形態において、薬剤は小ペプチドであり得るか、または、この分野で知られているコンビナトリアル合成法によって製造された他の低分子であり得る。他の実施形態において、薬剤は、可溶性の受容体、受容体アゴニスト、抗体または抗体フラグメントであり得る。薬剤は、GSNORの転写物または遺伝子配列に結合するアンチセンス分子または干渉性RNA分子などの核酸であり得る。薬剤は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体および抗体フラグメント、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体、ならびに、そのような抗体またはフラグメントのキメラ体またはヒト化体、ならびに、ヒト抗体およびヒト抗体フラグメント(これらに限定されない)を含む抗体であり得る。
【0099】
本発明とともに使用される場合、阻害剤は、近い関係にあるタンパク質、例えば、1つまたは複数の基質を認識するが、酵素活性を有しないGSNORポリペプチドの変異型形態であり得る。阻害剤は、(上記に記載される)アンチセンス技術を使用して調製されるアンチセンスRNA構築物またはアンチセンスDNA構築物であり得る。阻害剤には、GSNORポリペプチドの基質結合部位または他の関連した結合部位に結合し、それにより、正常な生物学的活性を阻止する低分子が含まれ得る。低分子の例には、小ペプチドまたはペプチド様化合物、好ましくは可溶性のペプチド、および合成された非ペプチド性有機化合物または無機化合物が含まれるが、これらに限定されない。これらの低分子は、本明細書中上記で議論されたスクリーニングアッセイの任意の1つまたは複数によって、かつ/あるいは、当業者に知られている任意の他のスクリーニング技術によって同定することができる。
【0100】
(薬学的組成物)
本発明はさらに、医学的状態に対する予防または処置として(例えば、1つまたは複数の症状を緩和するために)有用な薬学的組成物を包含する。非限定的な例として、低いGSNORレベルおよび高いNO合成、ならびに/または高いNOレベルに関係づけられる医学的状態には、変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS)、脳卒中(例えば、虚血性卒中)および増殖性疾患(例えば、癌、腫瘍、異形成および新生物)が含まれる。高いGSNORレベルおよび低いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる医学的状態には、例えば、高血圧症(例えば、肺性高血圧症)などの血管障害、心臓疾患、心不全、心臓発作、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息およびインポテンスが含まれる。低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる医学的状態には、例えば、全身性感染症(例えば、菌血症、敗血症、全身性炎症性応答症候群、新生児敗血症、心原性ショックまたは毒性ショックなど)による組織傷害(例えば、肝臓組織、腎臓組織、筋肉組織および/またはリンパ組織)または死が含まれる。
【0101】
低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)に関係づけられる他の医学的状態には、例えば、炎症性疾患(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風および偽痛風(ピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患)など)が含まれる。加えて、低いGSNORレベルおよび高いSNOレベル(例えば、SNO−Hb)は、本明細書中下記に示されるように、低血圧症(例えば、麻酔に関連する低血圧症)、ならびに、ショック(例えば、エンドトキシンショックまたは敗血症性ショック)による組織損傷および死に関連する。
【0102】
1つの局面において、薬学的組成物は、単独で投与され得る本発明の試薬、あるいは、1つまたは複数のさらなる薬剤の全身的または局所的な同時投与との組合せで投与され得る本発明の試薬を含む。本発明の試薬には、GSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)、GSNORペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、抗GSNOR抗体または抗体フラグメント、GSNOR模倣体(例えば、ペプチド、低分子または抗イディオタイプ抗体)、GSNORアンチセンス配列またはiRNA配列、あるいはそれらのフラグメント、誘導体もしくは修飾体、あるいは、別のGSNOR阻害剤またはGSNOR活性化因子が含まれ得る。投与されるさらなる薬剤には、保存剤、ストレス防止医薬品、ホスホジエステラーゼ阻害剤、iNOS阻害剤、β−アゴニストおよび発熱防止剤が含まれ得る。好適なホスホジエステラーゼ阻害剤には、ロリプラム、シロミラスト、ロフルミラスト、バイアグラ(登録商標)(クエン酸シルデニフィル)、シアリス(登録商標)(タダラフィル)、レビトラ(登録商標)(バルデニフィル)が含まれるが、これらに限定されない。好適なβ−アゴニストには、イソプロテレノール、メタプロテレノール、テルブタリン、アルブテロール、ビトルテロール、リトドリン、ドーパミンおよびドブタミンが含まれるが、これらに限定されない。
【0103】
好適なiNOS阻害剤には、II型iNOS阻害剤、特異的なNOS阻害剤、および非特異的なNOS阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。NOS阻害剤の非限定的な例には、L−N(6)−(1−イミノエチル)リジンテトラゾール−アミド(SC−51);アミノグアニジン(AG);S−メチルイソウレア(SMT);S−(2−アミノエチル)イソチオウレア;2−アミノ−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−1,3−チアジン(AMT);L−2−アミノ−4−(グアニジオオキシ)酪酸(L−カナバニンサルフェート);S−エチルイソチオウレア(EIT);2−イミノピペリジン;S−イソプロピルイソチオウレア;および1,4−フェニレンビス(1,2−エタンジイル)−ジイソチオウレア(PBIT)が含まれる。本発明とともに使用される好ましいNOS阻害剤は、N−[3−(アミノメチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)−L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン(例えば、非特異的な阻害のために);および7−ニトロインダゾール(例えば、脳組織におけるnNOSの阻害のために)である。
【0104】
本発明の薬学的組成物は好ましくは、その意図された投与経路と適合し得るように配合される。投与経路の例には、経口投与および非経口投与、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、吸入投与、経皮投与(局所的投与)、経粘膜投与および直腸投与が含まれる。非経口適用、皮内適用または皮下適用のために使用される溶液または懸濁物は下記の成分を含むことができる:無菌の希釈剤、例えば、注射用水、生理的食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒など;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなど;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなど;キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸など;緩衝化剤、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩など;および、張性の調節のための薬剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロースなど。pHを酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウムなど)で調節することができる。非経口用の調製物は、アンプル、使い捨てシリンジ、または、ガラスもしくはプラスチックから作製された多回投薬バイアルに入れることができる。
【0105】
注射用使用のために好適な薬学的組成物には、無菌の注射可能な溶液または分散物を即座に調製するための無菌の水溶液(水溶性の場合)または水性分散物および無菌の粉末が含まれる。静脈内投与の場合、好適なキャリアには、生理学的な生理的食塩水、静菌水、CremophorELTM(BASF、Parsippany、NJ)またはリン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)が含まれる。すべての場合において、組成物は無菌でなければならず、また、容易なシリンジ注入性が存在する程度に流動性であることが望ましい。組成物は製造および貯蔵の条件のもとで安定でなければならず、また、細菌および真菌などの微生物の混入作用を受けないように保存されなければならない。
【0106】
キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液状のポリエチレングリコールなど)、およびそれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散媒体であり得る。適正な流動性を、例えば、レシチンなどの被覆剤の使用によって、また、分散物の場合には要求される粒子サイズを維持することによって、また、界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止を、様々な抗菌剤および抗真菌剤によって、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸およびチメロサールなどによって達成することができる。多くの場合、等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マニトール、ソルビトールなど)、塩化ナトリウム)を組成物に含むことは好ましい。注射可能な組成物の長期にわたる吸収が、吸収を遅らせる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなど)を組成物に含めることによってもたらされ得る。
【0107】
無菌の注射可能な溶液は、必要量の活性な試薬(例えば、ポリペプチド、ペプチド、抗体または抗体フラグメント)を、必要とされる場合には上記に列挙された成分の1つまたは組合せとともに適切な溶媒に配合し、その後、ろ過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散物が、基礎となる分散媒体と、上記に列挙された成分に由来する必要とされる他の成分とを含有する無菌のビヒクルに、活性な化合物を配合することによって調製される。無菌の注射可能な溶液を調製するための無菌粉末の場合、調製方法は、その以前にろ過滅菌された溶液に由来する有効成分および任意のさらなる所望される成分の粉末をもたらす真空乾燥および凍結乾燥である。
【0108】
経口用組成物は一般に、不活性な希釈剤または食用キャリアを含む。経口用組成物はゼラチンカプセルで包むことができ、または錠剤に圧縮成型することができる。経口による治療的投与のために、活性な化合物は賦形剤と一緒に配合することができ、錠剤、トローチまたはカプセルの形態で使用することができる。経口用組成物はまた、口腔洗浄剤として使用される流動性キャリアを使用して調製することができ、この場合、流動性キャリアにおける化合物は経口適用され、口内をゆすぎ、吐き出されるか、または飲み込まれる。薬学的に適合し得る結合剤および/または補助物質を組成物の一部として含めることができる。錠剤、ピル、カプセルおよびトローチなどは下記成分または類似する性質の化合物のいずれかを含有することができる:結合剤、例えば、微結晶セルロース、トラガカントガムまたはゼラチンなど;賦形剤、例えば、デンプンまたはラクトースなど;崩壊剤、例えば、アルギン酸、Primogelまたはトウモロコシデンプンなど;滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSterotesなど;流動促進剤、例えば、コロイド状二酸化ケイ素など;甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリンなど;あるいは、芳香剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香料など。
【0109】
吸入による投与の場合、配合物は、好適な噴射剤(例えば、二酸化炭素などのガス)を含有する加圧された容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからのエアロゾルスプレー物の形態で送達される。経粘膜投与または経皮投与の場合、透過すべきバリアに対して適切な浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤は一般にこの分野では知られており、これには、例えば、経粘膜投与のためには、界面活性剤、胆汁塩およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜投与は、鼻腔スプレー剤または坐薬の使用によって達成することができる。経粘膜投与の場合、活性な試薬は、この分野では一般に知られている軟膏、塗剤、ゲルまたはクリームに配合される。試薬はまた、直腸送達のために、坐薬(例えば、カカオ脂および他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤を用いた坐薬)または停留浣腸剤の形態で調製することができる。
【0110】
1つの実施形態において、活性な試薬は、身体からの迅速な除去から保護するキャリアを用いて調製される。例えば、制御放出配合物を使用することができ、これには、インプラントおよびマイクロカプセル化された送達システムが含まれる。生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる(例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸など)。そのような配合物を調製するための様々な方法が当業者には明らかである。その材料もまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に得ることができる。リポソーム懸濁物(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を伴う、感染細胞に標的化されるリポソームを含む)もまた、薬学的に許容され得るキャリアとして使用することができる。このようなリポソーム懸濁物は、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されるように、当業者に知られている方法に従って調製することができる。
【0111】
さらに、活性な化合物の懸濁物を適切な油性注射懸濁物として調製することができる。親油性の好適な溶媒またはビヒクルには、脂肪油(例えば、ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、トリグリセリド、またはリポソームが含まれる。脂質でないポリカチオン性アミノポリマーもまた送達のために使用することができる。必要に応じて、懸濁物はまた、配合物の溶解性を増大させ、かつ、高濃度溶液の調製を可能にするために、好適な安定化剤または薬剤を含むことができる。
【0112】
経口用組成物または非経口用組成物を投与の容易さおよび投薬量の均一性のために投薬ユニット形態物で配合することは特に好都合である。本発明において使用されるような投薬ユニット形態物は、処置される被験者のための単位投薬物として適する物理的に別個の単位物を示し、この場合、各ユニットが、必要とされる薬学的キャリアと共同して所望の治療効果をもたらすために計算された所定量の活性な試薬を含有する。本発明の投薬ユニット形態物についての仕様は、活性な試薬の特異な特徴、および、達成すべき特定の治療効果、ならびに、配合の技術分野における固有的な制限(例えば、個体の処置のための活性な薬剤など)によって決定され、また、それらに直接依存する。
【0113】
タンパク質性薬剤をコードする核酸分子をベクターに挿入し、遺伝子治療ベクターとして使用することができる。遺伝子治療ベクターは、例えば、静脈内注射または局所投与によって(米国特許第5,328,470号を参照のこと)、あるいは定位固定注射によって(例えば、Chen他(1994)、PNAS、91:3054〜3057を参照のこと)、被験体に送達することができる。遺伝子治療ベクターの薬学的調製物は遺伝子治療ベクターを許容され得る希釈剤に含むことができ、または、遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれる徐放性マトリックスを含むことができる。あるいは、完全な遺伝子送達ベクターが組換え細胞から完全な形で産生され得る場合(例えば、レトロウイルスベクターまたはアデノウイルスベクター)、薬学的調製物は、遺伝子送達システムをもたらす1つまたは複数の細胞を含むことができる。
【0114】
1つの実施形態において、試薬は、少なくとも90%純粋な試薬を含む組成物で投与される。好ましくは、試薬は、最大の安定性および最も少ない配合関連の副作用をもたらす媒体に配合される。試薬に加えて、本発明の組成物は典型的には、1つまたは複数のタンパク質キャリア、緩衝剤、等張性塩および安定化剤を含む。場合により、試薬は、ポンプデバイスに結合されたカテーテルを埋め込む外科的手法によって投与することができる。ポンプデバイスはまた、埋め込むことができ、または、体外に設置することができる。試薬の投与は間断的なパルス的であり得るか、または連続注入として可能である。
【0115】
試薬は、血液脳関門を通過または迂回するような様式で投与することができる。薬剤が血液脳関門を通過することを可能するための方法には、薬剤のサイズを最小化すること、より容易に通過し得る疎水性薬剤を提供すること、血液脳関門を横断する実質的な透過性係数を有するキャリア分子にタンパク質試薬または他の薬剤をコンジュゲート化することが含まれる(例えば、米国特許第5,670,477号を参照のこと)。あるいは、デバイスを、脳の別個の部分に注入するために使用することができる(例えば、米国特許第6,042,579号、同第5,832,932号および同第4,692,147号を参照のこと)。
【0116】
様々な修飾を、アミノ酸配列(例えば、ポリペプチド、ペプチド、抗体または抗体フラグメント)の溶解性またはクリアランスに影響を及ぼすために薬剤に施すことができる。ペプチド性分子はまた、酵素分解に対する抵抗性を増大させるために、D−アミノ酸を用いて合成することができる。場合により、組成物は、1つまたは複数の可溶化剤、保存剤および浸透増強剤と同時投与することができる。組成物は、保存剤またはキャリア(例えば、タンパク質、炭水化物、および薬学的組成物の密度を増大させるための化合物など)を含むことができる。組成物はまた、等張性塩およびレドックス制御剤を含むことができる。加えて、薬学的組成物は、容器、パックまたはディスペンサーに、投与のための説明書と一緒に含めることができる。
【0117】
本発明の様々な実施形態において、好適なインビトロアッセイまたはインビボアッセイが、特異的な試薬の作用、および、その投与が罹患組織の処置のために適応されるかどうかを明らかにするために行われる。治療において使用される試薬は、ヒト被験者における試験の前に、ラット、マウス、ニワトリ、ウシ、サルおよびウサギなど(これらに限定されない)を含む好適な動物モデル系において試験することができる。同様に、インビボ試験のために、この分野で知られている動物モデル系のいずれかをヒト被験者への投与の前に使用することができる。
【0118】
(治療方法)
本発明はまた、開示された試薬の1つまたは複数の使用により医学的状態を防止または処置する方法(例えば、開示された試薬の1つまたは複数の使用により医学的状態の1つまたは複数の症状を緩和する方法)を包含する。これらの方法とともに使用される試薬は、GSNORポリペプチド(例えば、配列番号17〜配列番号21)またはGSNORペプチド(例えば、配列番号9〜配列番号14によってコードされるペプチド)、抗GSNOR抗体または抗体フラグメント、GSNOR模倣体(例えば、ペプチド、低分子または抗イディオタイプ抗体)、GSNORアンチセンス配列またはiRNA配列、あるいはそれらのフラグメント、誘導体または修飾体、あるいは別のGSNOR阻害剤またはGSNOR活性化因子を含むことができる。上記で議論されたように、GSNOR、NOおよびSNOの変化したレベルは様々な医学的状態に関係している。従って、様々な方法が、変化したレベルまたは望ましくないレベルのGSNOR、NOおよび/またはSNO、あるいはGSNOR活性を伴う疾患または障害を、その活性またはレベルを調製する少なくとも1つの分子の治療有効量を被験体に投与することによって処置または防止するために開示される。
【0119】
有害なほどに高いレベルのGSNORまたはGSNOR活性を有する被験体において、調節は、例えば、GSNOR機能を破壊またはダウンレギュレーションするか、あるいは、(例えば、低下した産生または増大した分解もしくは不安定性によって)GSNORレベルを低下させる試薬を投与することによって達成することができる。これらの試薬には、抗GSNOR抗体または抗体フラグメント、GSNORアンチセンス、iRNA、あるいは低分子、あるいは他の阻害剤が、単独で、または、本明細書中に詳しく記載されているような他の薬剤(例えば、ホスホジエステラーゼ阻害剤)との組合せで含まれ得る。
【0120】
有害なほどに低いレベルのGSNORまたはGSNOR活性(ならびに同時に高いレベルのSNOおよび/またはNO)を有する被験体において、調節は、例えば、GSNOR機能を活性化または増強するか、あるいは、(例えば、増大した産生もしくは安定性または低下した分解によって)GSNORレベルを増大させるか、あるいは、SNOまたはNOのレベルを低下させる試薬を投与することによって達成することができる。これらの試薬には、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチド、GSNOR模倣体(例えば、ペプチド、低分子または抗イディオタイプ抗体)、GSNOR発現ベクター、あるいは他の活性化因子が、単独で、あるいは、抗SNO抗体もしくは抗体フラグメント、またはNOS阻害剤またはNOスカベンジャーとの組合せで含まれ得る。
【0121】
これらの試薬の投与のために好適な様々な薬学的調製物が上記に記載されている。投与のためのさらなる薬剤には、本明細書中に詳しく記載されているような保存剤、ストレス防止医薬品、ホスホジエステラーゼ阻害剤、iNOS阻害剤および発熱防止剤が含まれ得る。
【0122】
1つの実施形態において、本発明の調節方法では、細胞を、GSNORの活性の1つまたは複数あるいはNOS活性を調節する薬剤と接触させることが伴う。別の実施形態において、薬剤により、GSNORまたはNOSのシグナル伝達経路の活性が刺激または阻害される。これらの調節方法は、(例えば、細胞を薬剤とともに培養することによって)インビトロで行うことができ、あるいは、(例えば、薬剤を被験体に投与することによって)インビボで行うことができる。そのため、本発明は、上記で記載されたように、障害に冒されている個体を処置する方法を提供する。1つの実施形態において、本発明の方法では、GSNORまたはNOのレベルまたは活性を調節(例えば、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーション)する試薬または試薬の組合せを投与することが伴う。
【0123】
本明細書中下記において明らかにされるように、GSNORの阻害剤を、β−アドレナリン作動性のシグナル伝達を改善するための手段として使用することができる。特に、GSNORの阻害剤を単独で、または、β−アゴニストとの組合せで、心不全または他の血管障害(例えば、高血圧症および喘息など)を処置するために、あるいは、心不全または他の血管障害(例えば、高血圧症および喘息など)から保護するために使用することができる。GSNOR阻害剤は、Gs Gタンパク質を増強し、これにより平滑筋の弛緩(例えば、気道および血管)を生じさせることによって、また、Gq Gタンパク質を弱め、かつ、それにより平滑筋の収縮を(例えば、気道および血管において)防止することによってGタンパク質共役受容体(GPCR)を調節するために使用することができる。
【0124】
(SNOに基づく診断剤および治療剤)
本発明はさらに、本明細書中に開示される方法に従った、患者におけるSNOレベルの測定または変化にそれぞれ基づく診断方法および処置方法を包含する(例えば、J.Stamler、Circ.Res.、2004、94:414〜417を参照のこと)。NOと比較したとき、SNOの生理学的利益の1つは、超酸化物(O2−)による不活性化に対するその抵抗性である。損傷した組織において、O2−はNOと反応して、毒性のペルオキシナイトライトを形成する。しかし、生じるペルオキシナイトライトの量はNO/O2−産生の相対的速度に最低限で依存する:実際、NO>O2−であることはSNOの産生に有利である(Schrammel A他、Biol.Med.、2003、34:1078〜1088)。研究者は、腸間膜血管における虚血/再灌流(I/R)によって生じた超酸化物がSNO−アルブミンの合成を促進させることを明らかにしている(Ng ESM他、Circ.Res.、2004、94:559〜565)。SNO−アルブミンは、組織をI/R誘導による損傷から保護することが知られている(Hallstrom S、Circulation、2002、105:3032〜3038)。従って、NO生物活性を保存することは、超酸化物を利用するための手段であるようである。残る問題は、I/Rにより引き起こされる酸化的損傷がNO産生を損なうことである。従って、アルブミンのチオールが、吸入されたNOを腸管に輸送し、かつ血管の弛緩を助けることができることもまた示されていることは注目に値する(Ng ESM他、Circ.Res.、2004、94:559〜565)。
【0125】
相対的に高い濃度のSNO−アルブミンが、血流を増大させるために要求されるが、血管収縮を弱める量は生理学的範囲にある。さらに、高血圧症および尿毒症の患者の一部におけるSNO−アルブミンの生成から明らかであるように、生物活性を決定するのはNO基放出の効率である(Tyurin VA他、Circ.Res.、2001、88:1210〜1215;Massy ZA他、J.Am.Soc.Nephrol.、2004、15:470〜476)。特に、血漿中SNO−アルブミンの増大は高い血圧に関連しており、不都合な心臓血管の結末を予測している(Massy ZA他、J.Am.Soc.Nephrol.、2004、15:470〜476)。新しい遺伝子的証拠から、SNOが脈管構造において不可欠な役割を果たしていることを明らかにされる(Liu L他、2004、Cell、116:617〜628)。まとめると、これらの研究は、SNO−アルブミンが、NO欠乏によって特徴づけられる状態においてNO生物活性を消失させ得ることを示唆している。これらの研究はまた、アルブミンおよび他の重要な血液タンパク質(例えば、ヘモグロビンなど)におけるシステインが新しい治療標的であることを示している。
【0126】
吸入されたNOはSNO−アルブミンの循環レベルを増大させるが、吸入されたNOからは、SNO−アルブミンが作製される機能(この場合、循環において、SNO−アルブミンが産生される)、または、どのくらいのNOが実際にこの経路を取るかが明らかにならない。吸入されたNOは最初に気道および肺実質にSNOおよびタンパク質との他の複合体の形態で蓄積し、その後、血液中に浸出する(Simon DI他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1996、93:4736〜4741;McCarthy TJ他、Nucl.Med.Biol.、1996、23:773〜777;McCarthy TJ他、Nucl.Med.Biol.、1996、23:773〜777)。このプロセスの顕著な特徴は、NO生物活性が時間とともに血液に進入する形態、およびSNO−アルブミンを介した変遷を含めて、現在知られていない。
【0127】
アルブミンにおいて、疎水性ポケットおよび結合した金属(銅およびおそらくはヘム)はともに、NOによるS−ニトロシル化を促進することができ、一方、ヘモグロビンは、NO、亜硝酸塩またはGSNOと反応して、SNO−Hbを生じさせることができる溝をいくつか有する(図2D;上記参照)。ヘモグロビンはNOについてアルブミンと競合して勝つと考えられる。しかしながら、生物活性な形態でヘモグロビンに結合したNOの相対的な収率は、投与されたNOの速度および量に逆比例しているようであり、また、低いマイクロモル濃度のレベルでプラトーな状態を示すので、この結果は絶対的ではないようである(Gow AJ、Stamler JS、Nature、1998、391:169〜173)。比較によって、ナノモル濃度のレベルが血管調節のために要求されるだけである。多量のNOが臨床的に投与された場合、また、他の実験(Ng ESM他、Circ.Res.、2004、94:559〜565)によって、ヘモグロビンが、NOをα−ヘム上に留め、NOを硝酸塩として排出することによるSNOの産生を示すようである(Gow AJ、Stamler JS、Nature、1998、391:169〜173;Gow AJ他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1999、96:9027〜9032;Luchsinger BP他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2003、100:461〜466;Napoli C他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2002、99:1689〜1694;Kirima K他、Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.、2003、285:H589〜H596;Gow AJ他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1999、96:9027〜9032;Romeo AA他、J.Am.Chem.Soc.、2003、125:14370〜14378;Cannon RO 3rd他、J.Clin.Invest.、2001、108:279〜287)。
【0128】
本発明によれば、SNOレベルについての好ましい診断アッセイでは、生理学的状況が保存されており、かつ、測定されている分子に最も良く似る標準物が用いられる(Stamler,J.S.、2004、Cir.Res.、94:414〜417を参照のこと)。SNOレベルの血漿中レベルを測定するための診断アッセイが好ましい。本明細書中下記に開示されるような光分解/化学発光に基づく方法が特に好ましい(J.S.StamlerおよびM.Feelische、Methods in Nitric Oxide Research(J.S.StamlerおよびM.Feelische編、Wiley、Chichester、UK、1996)、521頁〜539頁;Stamler,J.S.他、1997、Science、276、2034〜2037;Mannick,J.B.他、1999、Science、284、651〜654;Buga,G.M.他、1998、J.Am.Physiol.、275、R1256〜R1264もまた参照のこと)。そのような方法と一緒での、例えば、SNO−アルブミンまたはSNO−Hbの測定のための安定なニトロソチオール標準物の使用もまた好ましい。この方法では、SNO結合量子収量の変動範囲が対象となり得る。加えて、アッセイの用量依存性および再現性を、系統的な人為的影響を受けないようにするために調べることができる。本発明とともに使用される場合、任意の生物学的サンプルを、SNOレベルを測定するために使用することができる。しかし、血液サンプルが好ましく(例えば、血清、血漿または全血)、血漿サンプルが特に好ましい。
【0129】
1つの局面において、本発明の診断方法またはモニターリング方法は、(a)患者から得られた生物学的サンプルにおけるSNOのレベル(例えば、血漿中レベル)を測定する工程;(b)生物学的サンプルにおけるSNOのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)生物学的サンプルにおけるSNOのレベルがコントロールサンプルにおけるSNOのレベルよりも高いかどうかを決定する工程を包含する。この方法は、高いレベルまたはそうでない場合には有害なほどに高いレベルのSNOに関連する医学的状態(あるいはそのような医学的状態の処置の効力)を診断またはモニターするために使用することができる。例えば、高いレベルのSNO−Hbは、本明細書中に詳しく記載されるように、低血圧症、敗血症および他の状態に関連し、一方、高いレベルのSNO−アルブミンは、高血圧症、子癇前症、および血小板凝集を伴う他の状態に関連する。
【0130】
別の局面において、診断方法またはモニターリング方法は、(a)患者から得られた生物学的サンプルにおけるSNOのレベル(例えば、血漿中レベル)を測定する工程;(b)生物学的サンプルにおけるSNOのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)生物学的サンプルにおけるSNOのレベルがコントロールサンプルにおけるSNOのレベルよりも低いかどうかを決定する工程を包含する。そのような方法は、低いレベルまたはそうでない場合には有害なほどに低いレベルのSNOに関連する医学的状態(あるいはそのような医学的状態の処置の効力)を診断またはモニターするために使用することができる。例えば、低レベルのSNO−Hbは、本明細書中に記載されるように、心不全、糖尿病および他の状態(例えば、酸素不足状態)に関連し、一方、低レベルのSNO−アルブミンは、腎臓疾患(例えば、尿毒症など)、および不完全な血小板凝集を有する他の状態に関連する。
【0131】
本発明によれば、開示された方法は、開示された試薬の1つまたは複数の使用によって、変化したレベルまたは有害なレベルのSNOに関連する医学的状態を防止または処置するために(あるいは、そのような医学的状態の1つまたは複数の症状を緩和するために)使用することができる。高いレベルまたは有害なほどに高いレベルのSNOを有する被験体において、調節は、例えば、SNOのレベルをダウンレギュレーションする試薬を(例えば、静脈内投与により)投与することによって達成することができる。このダウンレギュレーションは、SNOの産生を低下させるか、あるいは、SNOの分解または不安定性を増大させるか、あるいは、GSNORの活性またはレベルを増大させることによって達成することができる。例示的な試薬には、GSNORポリペプチドまたはGSNORペプチド、GSNOR模倣体(例えば、ペプチド、低分子および抗イディオタイプ抗体)、GSNOR発現ベクター、および他のGSNOR活性化因子、ならびに、抗SNO抗体または抗体フラグメント、低分子、および他のSNO阻害剤が、単独で、または、本明細書中に詳しく記載されるような他の薬剤(例えば、NOS阻害剤またはNOスカベンジャー)との組合せで含まれる。例として、高レベルのSNO−Hbは、本明細書中に記載されるように、低酸素症、敗血症および他の状態に関連し、一方、高レベルのSNO−アルブミンは、高血圧症、子癇前症、および血小板凝集を伴う他の状態に関連する。過度なSNOについては、処置はまた、チオールまたは抗酸化剤の注入を含むことができる。
【0132】
有害なほどに低いレベルのSNOを有する被験体において、調節は、例えば、SNOのレベルをアップレギュレーションする試薬を(例えば、静脈内投与により)投与することによって達成することができる。このアップレギュレーションは、SNOの産生または安定性を増大させるか、あるいは、SNOの分解を低下させるか、あるいは、GSNORの活性またはレベルを低下させることによって達成することができる。例示的な試薬には、抗GSNOR抗体または抗体フラグメント、GSNORアンチセンス、iRNA、低分子、および他のGSNOR阻害剤、ならびに、SNO活性化因子が、単独で、または、本明細書中に詳しく記載されるような他の薬剤(例えば、ホスホジエステラーゼ阻害剤)との組合せで含まれる。そのような方法は、望ましくないほど低いレベルのSNOに関連する医学的状態のために使用することができる。例として、低レベルのSNO−Hbは、本明細書中に記載されるように、心不全、糖尿病および他の状態(例えば、酸素不足状態)に関連し、一方、低レベルのSNO−アルブミンは、腎臓疾患(例えば、尿毒症など)、および不完全な血小板凝集を有する他の状態に関連する。
【実施例】
【0133】
本明細書中下記に示される実施例では、相同組換えによるGSNOR欠損(GSNOR−/−)マウスの作製、ならびに、LPSおよび盲腸結紮−敗血症の両方によって誘導されるニトロソ化負荷に対するそのようなマウスの応答が記載される。ショックの細菌エンドトキシンモデルが、開示された実施例では使用された。これは、別のモデルでは、NO生物活性の支配におけるSNOの特異的な役割の解明が不明瞭になり得るからであった。敗血症の細菌モデルもまた使用された。GSNOR欠損動物は、エンドトキシン負荷または細菌攻撃の後で、細胞全体でのS−ニトロシル化、組織損傷および死亡の実質的な増大を示した。さらに、GSNOR−/−マウスは、高い基礎的レベルのSNOを赤血球において示し、麻酔下で低酸素性であった。開示された実験から、GSNORが、SNO代謝のために、血管の恒常性のために、また、エンドトキシンショックにおける生存のために不可欠であることが明らかにされた。SNOは生来的な免疫機能および血管機能を調節し、また、ニトロソ化ストレスを改善するために能動的に除去されることがさらに明らかにされた。従って、本明細書中に得られる結果は、健康および疾患の両方におけるNO機能の重要な機構としてのシステインチオールのニトロシル化を特定している。
【0134】
実施例は、本発明の好ましい実施形態をより十分に例示するために示される。これらの実施例は、添付された請求項によって定義される本発明の範囲を限定するように決して解釈すべきではない。
【0135】
(実施例1:実験手順)
(GSNOR標的化ベクターの構築)
開示された実験手順、結果および議論については、Liu他、2004、Cell、116:617〜628(これはその全体が参照により本明細書中に組み込まれる)もまた参照のこと。本明細書中に示されるプライマーについて、「se」はセンス鎖を示し、「as」はアンチセンス鎖を示す。マウス系統129sv/CJ7のゲノムDNAに由来する細菌人工染色体(BAC)ライブラリー(Invitrogen)を、エキソン8由来のプライマー(MoADH1001se、5’−gatggaagagtgtggagagtg;配列番号1)およびエキソン9由来のプライマー(MoADH1290as、5’−cagtctcgattatgcacattcc;配列番号2)を用いたPCRによってGSNOR遺伝子についてスクリーニングした(FoglioおよびDuester、1996)。2つのBACクローンを特定し(36c24および91m09)、制限マッピング、そして、ex8−9およびex2−3のプローブを用いたサザンブロット分析に供した。これらのプローブを、エキソン8〜エキソン9に対するプライマー対(MoADH1001se、MoADH1290as)およびエキソン2〜エキソン3に対するプライマー対(MoADH52se、5’−gtgatcaggtgtaaggctgc;配列番号3;MoADH295as、5’−ctgccttcagcttcgtgac;配列番号4)をそれぞれ用いたPCRによってマウスのADHIIIのcDNAクローン(ATCC、GenBankアクセション番号AA008355)から作製した。エキソン2〜エキソン4を含有するSacIフラグメント、およびエキソン7〜エキソン9を含有するHindIII−BamHIフラグメントをBACクローン91m09から単離し、ベクターpPNT(Tybulewicz他、1991)におけるネオマイシン耐性遺伝子(neo)に対して5’および3’にそれぞれ挿入した(図1A)。得られたGSNOR標的化ベクターをDNA配列決定によって確認し、NotIによって線状化した。
【0136】
(GSNOR−/−マウスの作製)
129svマウスに由来するES細胞を線状化された標的化ベクターでトランスフェクションし、neoの存在および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)の非存在について選択した(Duke遺伝子組換えマウス施設)。選択されたESクローンを最初に、標的化ベクター(図1A)における相同的な領域の外側のneo由来プライマー(Neo3’se、5’−tcttgacgagttcttctgagg;配列番号5)およびGSNORプライマー(GSNOR3’se、5’−cagttgactgtcaatgaactgg;配列番号6)を用いたPCRによって相同組換えについてスクリーニングした。このPCR反応は、標的化された破壊を有する細胞においてのみ、2.7kbのDNAフラグメントをもたらした。組換えクローンを、ex2−3およびex8−9のプローブをそれぞれ用いたSacI消化ゲノムDNAおよびXbaI消化ゲノムDNAのサザン分析によってさらにスクリーニングした。正しく破壊された対立遺伝子は7.3kbのSacIフラグメントおよび1.8kbのXbaIフラグメントをもたらした。対照的に、野生型対立遺伝子は5.5kbのSacIフラグメントおよび2.4kbのXbaIフラグメントをもたらした(図1A)。
【0137】
正常な核型を有する2つの正しく標的化されたESクローンを独立して使用して、キメラなマウスを作製した。これらを続いてC57BL/6マウスと交配して、F1ヘテロ接合体を作製した。F1マウスを、F2のGSNOR−/−マウスを作製するためにそれぞれ互いに交配するか、または、C57BL/6マウスとさらに戻し交配した。2つのESクローンに由来する2つの独立したGSNOR−/−マウス系統が7回および10回の連続したC57BL/6マウスとの戻し交配の後に確立された。すべてのマウスは、標準的なマウス用餌が与えられ、パイロジェン非含有施設で飼育された。
【0138】
(GSNOR活性)
GSNOレダクターゼ活性を、以前の記載(Liu他、2001)のように、GSNOに依存したNADHの消費によって測定した。
【0139】
(血圧)
6月齢〜8月齢のマウスを、ケタミン(70mg/kg)、キシラジン(9mg/kg)およびウレタン(1mg/kg)の組合せによって麻酔した。平均動脈圧を、右頸動脈に挿入されたカテーテルを介して測定した。血圧はまた、コンピューター化された尾カフシステムによって、意識のあるマウスにおいて測定された(Krege他、1995)。示されている値は、4日間連続した毎日の読み取り値の平均値である。
【0140】
(血液化学、細胞カウント数、亜硝酸塩、硝酸塩およびS−ニトロソチオール)
動物をCO2吸入によって安楽死させた後、血液を心臓穿刺によって得た。下記の血清化学値をAntech Diagnostics(Farmingdale、New York)によって定量した:アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)、尿素窒素(BUN)、クレアチニン、アミラーゼ、リパーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルカリホスファターゼ、総タンパク質、グロブリン、アルブミン、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、塩化物、リン、グルコース、ビリルビン、コレステロール、トリグリセリドおよび重量モル浸透圧濃度。
【0141】
下記のパラメーターを、ABX Diagnostics(Montpellier、フランス)のPentra60C+システムを用いて測定した:ヘモグロビン、ヘマトクリット、平均血球体積、ならびに、赤血球、白血球、好中球、リンパ球、単球、好酸球および血小板のカウント数。
【0142】
RBCにおける鉄−ニトロシルヘモグロビンおよびSNO−ヘモグロビン/SNO−タンパク質のレベルを光分解−化学発光(McMahon他、2002)によって測定した。
【0143】
血清中の硝酸塩および亜硝酸塩を、P/ACE MDQシステム(Beckman)によるキャピラリー電気泳動(CE)(Zunic他、1999)によって、また、化学発光(Sievers NOアナライザー)によって測定した。CEの場合、血清を水で希釈(1:10)し、5kDaカットオフメンブランでろ過した。ろ過されたサンプルならびに硝酸塩標準物および亜硝酸塩標準物の電気泳動を、Tris緩衝液(100mM、pH8.0)を用いた中性キャピラリーで行い、214nmにおける吸光度によってモニターした。亜硝酸塩の濃度は、CEによって測定されたとき、化学発光による場合よりも高い(Zunic他、1999)。しかし、CEと化学発光との間での相対的な差は観測されなかった。
【0144】
(組織学)
臓器をリン酸塩緩衝化ホルマリンにより固定処理し、パラフィンに包埋した。組織切片(5μm〜6μmの厚さ)をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)により染色した。染色された切片は有資格者の動物病理学者により光学顕微鏡によって調べられた。アポトーシスをTUNELアッセイによって評価した。
【0145】
(LPS処置)
LPS(大腸菌、血清型026:B6、Sigma)を、150,000エンドトキシンユニット/g(EU/g)の投薬量で、C57BL/6マウスおよびGSNOR−/−マウスに腹腔内注射した。マウスは週齢(11週齢〜12週齢、性別および体重について一致させた。オスについて使用されたLPSはロット番号050K4117(1500万EU/g)であり、メスについて使用されたLPSはロット番号101K4080(300万EU/g)であった。研究は、ロット番号101K4080が投与された45匹のさらなるオスのマウス(22匹の野生型および23匹のGSNOR−/−)において行われた。これにより、性別および系統の違いがバッチの影響から生じていないことが確保された。リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS、20μl/g)をコントロールで注射した。さらなる組の実験において、LPS負荷されたGSNOR−/−マウスにiNOS阻害剤1400W(1μg/g、Cayman)またはPBS(10μl/g)を皮下注射した。注射を、LPS後の6時間、24時間および30時間で、または、LPS後の24時間、42時間および48時間で行った。
【0146】
(盲腸結紮および破裂)
3月齢のメスのマウスをケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)で麻酔した。盲腸を回盲弁の下側で結紮し、26ゲージのニードルを用いて腸間膜反対側縁で1回、破裂させた。手術後、マウスに0.5mlの規定生理的食塩水を皮下注射した。
【0147】
(ヒトにおける敗血症性ショック)
Duke大学医療センター(DUMC)のICUにおける敗血症性ショックの12名の連続した成人患者が登録された。敗血症性ショックは、American College of Cardiology/Society of Critical Care Medicineの指針(1992)に従って定義された。登録した72時間以内でのグラム陰性菌血症の存在が医療記録から確認された。コントロール群は12名の健康な志願者からなった。橈骨動脈および中心静脈の血液サンプルがRBCのNO含有量の分析(McMahon他、2002)のために採取された。インフォームドコンセントが得られ、研究はDUMC内部検討委員会によって承認された。
【0148】
(肝臓SNO)
肝臓ホモジネートを溶解緩衝液(20mMのTris−HCl(pH8.0)、0.5mMのEDTA、100μMのジエチレントリアミン五酢酸、0.1%のNP−40および1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド)において調製した。総溶解物におけるSNOレベル、および、5kDaカットオフ限外ろ過メンブランでろ過された画分におけるSNOレベル(低分子量SNO)を光分解−化学発光(Liu他、2000b)によって測定し、タンパク質含有量について正規化した。
【0149】
(統計学的分析)
LPS処置後6日目における生存データを、χ2検定と、分割表のフィッシャーの直接検定との両方によって分析したが、類似する結果であった。血圧、SNOレベルおよび血清化学値をスチューデントのt検定またはノンパラメトリック型のマン・ホィットニー検定により分析した。
【0150】
(実施例2:結果)
(GSNOR−/−マウスの作製)
GSNOR遺伝子は9個のエキソンを含み(FoglioおよびDuester、1996)、エキソン5およびエキソン6がGSNORの補酵素結合ドメインのほとんどをコードする(Yang他、1997)。標的化ベクターを、GSNOのRゲノムDNAを用いて構築した。この標的化ベクターを使用して、エキソン5およびエキソン6をマウス(129sv)胚性幹(ES)細胞における相同組換えによりネオマイシン耐性遺伝子(neo)で置き換えた(図1A)。標的化領域に両側で隣接する相同組換えが4つのESクローンにおいて確認された。サザンブロット分析を、エキソン2〜エキソン3およびエキソン8〜エキソン9に対してそれぞれ特異的なプローブを用いて行った。さらなる確認として、PCRを、破壊された対立遺伝子を特異的に同定するために行った(図1B)。
【0151】
標的化された破壊を有する2つのマウス系統をESクローンの2つから独立して作製した(図1C)。エキソン8〜エキソン9に対して特異的なプローブを用いたサザンハイブリダイゼーションは、GSNOR−/−マウスが、組換えから生じた1つだけの変異(1.8kb)フラグメントのみを含んでいることを示した。これらのマウスを、合計で7回〜10回、C57BL/6マウスに連続して戻し交配した。GSNOレダクターゼ活性はGSNOR−/−マウスの尾および組織の両方において存在しなかった(図1Dおよび図1E)。ヘテロ接合(GSNOR+/−)マウスにおける活性は野生型同腹子における活性のおよそ半分であった。
【0152】
(表現型)
ヘテロ接合性のオスおよびメスを病原体非存在条件のもとで育てた。これにより、離乳時に、31匹(25%)の野生型マウス、61匹(50%)のヘテロ接合マウスおよび30匹(25%)のノックアウトマウスが得られた。従って、野生型GSNOR遺伝子および破壊されたGSNOR遺伝子の遺伝は、予想されたメンデル比に従っていた。
【0153】
【表1】
GSNOR欠損マウスはこれらの条件のもとでの生存の不都合を示さなかった。GSNOR−/−マウスは、C57BL/6マウスに類似した数および頻度で同腹子を生んだ(図1F)。GSNOR−/−マウスは正常に発育し、C57BL/6マウスと同じ体重であった(図1F)。4匹の野生型マウス(2匹のオス、2匹のメス)および4匹のGSNOR−/−マウス(2匹のオス、2匹のメス)の組織学的検査は、調べた組織のいずれにおいても、これら2つのマウス系統の間で、大きな形態学的または組織学的な差異を示さなかった。これには、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、胸腺、腸間リンパ節、唾液腺、胃腸管、膵臓、精巣、卵巣、子宮および膀胱が含まれた。血液細胞カウント数および血清化学値はGSNOR−/−マウスにおいて正常であった(下記参照)。
【0154】
(血圧および基礎的SNO)
SNOに対する血行力学的応答。しかし、機構は明らかにされていない(Travis他、1997)。本明細書中に示されるように、血圧は、ウレタンで麻酔されたとき、GSNOR−/−マウスにおいて、野生型マウスの場合よりもはるかに低かった(P<0.001)(図2A)。対照的に、意識のあるGSNOR−/−マウスにおける血圧はコントロールと差がなかった(図2B)。
【0155】
以前の研究では、血液中のNOのほとんどが鉄ニトロシルヘモグロビンおよびSNO−ヘモグロビンとして赤血球(RBC)において見出されることが明らかにされている(Jia他、1996;Kirima他、2003;McMahon他、2002;Milsom他、2002)。今回、SNO−Hb(RBC−SNO)のレベルが、非麻酔のGSNOR−/−マウスにおいて、野生型マウスの場合よりも大きかった(p<0.05)ことが示される。それにもかかわらず、鉄ニトロシルヘモグロビンのレベルは野生型およびGSNOR−/−の間で差がなかった(図2C)。従って、本明細書中に開示される実験は、GSNOR欠損は基礎的SNOの増大を生じさせ、素因を有するマウスに血圧の非調節を生じさせたことを示している。エンドトキシン処置は、非麻酔マウスにおける低下した不規則な尾血流、および麻酔マウスにおける低い血圧のために、血圧の正確な測定を妨げた。
【0156】
(エンドトキシンショックによる死亡)
本明細書中で明らかにされるように、LPS誘導によるショックがニトロソ化ストレスのモデルとして使用された。GSNOR−/−マウスにおいて約50%の死亡率を生じさせるためのLPSの用量が最初の用量応答研究で明らかにされた(図3A〜図3D)。より大規模な分析では、LPSのこの用量はGSNOR−/−マウスの48%の死をもたらしたが、野生型マウスの15%の死をもたらしただけであった(図3A)。これら2つの系統の間での死亡率の違いは非常に有意であることが明らかにされた(P<0.001)。さらに、GSNORノックアウトマウスの両方の系統(GSNOR−/−1およびGSNOR−/−2)はLPSに対して同じように応答し(図3B)、両者は野生型マウスよりも容易に死亡した。従って、LPSに対するGSNOR−/−マウスの過敏性は、マウスを作製している途中で生じたランダムな変異から生じている可能性はほとんどなかった。
【0157】
以前の研究では、エンドトキシンショックにおいてiNOSによってもたらされる保護が主としてメスのマウスで認められていた(Laubach他、1998)。従って、GSNOR欠損の結果がオス(図3C)およびメス(図3D)において別々に調べられた。本明細書中に示されるように、用いられたLPS用量はメスのGSNOR−/−1およびGSNOR−/−2の37%および47%の死をそれぞれ生じさせたが、野生型コントロールの4%を死亡させただけであった(図3D)。(LPSで処置された)オスのGSNOR−/−マウスの死亡率もまた、野生型コントロールの死亡率よりも低かったが(図3C)、その差は統計学的有意性に達していなかった(P=0.12)。メスの野生型マウスの死亡率(4%)はそれらのオス対応体(29%)よりも有意に低かった(P=0.022)。しかし、性別によるこの影響はGSNOR欠失によってなくなっていた。メスのGSNOR−/−マウスにおける死亡率(42%)はオスのノックアウト体の死亡率(55%)よりも有意に低くないこと(P=0.29)が認められた。まとめると、これらの結果は、GSNORがメスのマウスをエンドトキシンショックから明らかに保護していることを示しており、また、LPSに対する性別に関連した抵抗性の基礎がGSNORを伴うことを示唆している。従って、メスのマウスを下記に詳しく記載される研究のほとんどについて使用した。
【0158】
(SNO代謝)
S−ニトロソチオールの代謝をマウスの肝臓で調べた。これは、この組織が身体において最大のGSNOR活性を示し(図1E)(UotilaおよびKoivusalo、1997)、また、敗血症性ショック時に実質的なiNOS活性を発現する(Knowles他、1990)からである。肝臓iNOSはそのような状況で保護的であることが明らかにされている(Ou他、1997)。本明細書中に示されるように、SNOのベースラインレベルはGSNOR−/−マウスおよび野生型マウスにおいて類似していた(図4A)。LPSのi.p.注射の後、野生型マウスにおけるSNOは24時間(h)では穏やかに増大しており、48hまでに基礎レベルに戻った(図4A)。対照的に、GSNOR−/−マウスにおけるSNOは24hでは高いレベルに増大しており、48hではさらに増大していた(図4A)。24hおよび48hの時点で、GSNOR−/−マウスにおけるSNOレベルは野生型コントロールの場合よりもそれぞれ3.3倍および29倍大きかった。SNOの90%超が高分子量(>5,000ダルトン)の分子に起因し得る(図4A)。従って、エンドトキシンショックにおいて、内因的に生じたニトロソチオールの代謝はGSNOR欠損マウスではひどく損なわれた。
【0159】
循環における硝酸塩+亜硝酸塩(NOx)のレベルは、哺乳動物における全体的なNOS活性を反映することが知られている。今回、GSNOR−/−マウスにおける基礎的な硝酸塩レベルは野生型マウスと差がないことが見出された(図4B、図4Cおよび方法)。LPSによる処置の後、野生型マウスにおける硝酸塩濃度は、24hではGSNOR−/−マウスの場合と同じレベルに上昇しており、48hではベースラインに戻っていた(図4B)。GSNOR−/−マウスにおける硝酸塩レベルは48hでは低下していた(約50%、P=0.03)が、依然としてベースラインを実質的に超えていた(図4B)。血清中の亜硝酸塩のレベル(<<硝酸塩)は、野生型動物および変異型動物において任意の時点で有意な差はなかった(図4C)。これらのデータは、野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスが等しいiNOS活性をLPS後24hでは発現していることを示唆していた。48hまでに、iNOS活性は野生型マウスではベースライに戻るが、活性の低下はGSNOR−/−マウスの方が遅かった。この結論は、肝臓溶解物のウエスタンブロット分析を使用するiNOS発現の研究によって確認された。
【0160】
定常状態でのS−ニトロシル化は、上昇した硝酸塩レベルを有する動物でのみ上昇していたが、組織におけるSNOレベルはNOxとは無関係であることが明らかになった(図4A〜図4E)。例えば、GSNOR−/−マウスは、LPS後24hでは硝酸塩のレベルが等しいにもかかわらず、野生型マウスよりもはるかに高い量のSNOを蓄積していた(図4A〜図4B)。さらに、GSNOR−/−マウスにおける肝臓SNO対血清中硝酸塩の比率はLPS後の24hよりも48hでかなり大きかった(図4D)。従って、インビボでのS−ニトロシル化のレベルはGSNORおよびNOSによって独立的に調節されていた。別の言い方をすれば、SNOレベルは合成および代謝回転の両方によって調節され、硝酸塩または亜硝酸塩の量とは直接に相関していなかった。
【0161】
(エンドトキシン負荷後の組織傷害および回復)
エンドトキシンショック時における組織傷害をマーカー酵素の血清中レベルの測定(図5A〜図5H)および組織学(図6A〜図6H)によって評価した。野生型マウスにおいて、肝臓傷害のマーカーであるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)のレベルが、LPSによる処置後の24hでは穏やかに増大しており、48hまでに低下していた(図5A〜図5B)。対照的に、ALTおよびASTの両方が、GSNOR−/−マウスでは24hで著しく増大しており、48hでは変化していないままであった(図5A〜図5B)。ALTおよびASTの増大は、GSNOR−/−マウスでは肝臓SNOの上昇と直接に相関していた(図5H)。
【0162】
24h(LPS後)での肝臓の組織学的検査は、野生型マウスにおいて極微〜軽度の肝細胞の膨大および細胞質空胞化を示した。48hまでに、損傷は部分的に消失し(メスの方がオスよりも消失し)、進行中の傷害は検出されなかった(図6A)。肝細胞の傷害は24hではGSNOR−/−マウスの方が重症であり、回復は48hでは認められなかった(図6A〜図6B)。24hおよび48hにおいて、多病巣性の壊死性肝細胞およびアポトーシス性肝細胞がGSNOR−/−マウスにおいて検出された(ヒアリン好酸性の細胞質、ならびに核萎縮および核崩壊した核;図6B)。加えて、GSNOR−/−の肝臓は、破壊された肝細胞索、圧縮された洞様血管、変性途中の顆粒球の小さい凝集体、ならびに、小静脈における顆粒球およびリンパ球の内膜下蓄積を含有した。従って、これらの血清中マーカーおよび組織学はともに、LPS誘導による肝臓損傷が、GSNOR−/−マウスにおいて、野生型マウスの場合よりもはるかに悪かったことを示していた。野生型の肝臓によるほぼ完全な回復とは際立って対照的に、GSNOR−/−の肝臓は回復の徴候を全く示していなかった。
【0163】
筋肉傷害のマーカー(クレアチンホスホキナーゼ(CPK))および腎臓機能不全のマーカー(尿素窒素(BUN)およびクレアチニン)はすべてが、LPS後24hでは、野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスにおいて類似するレベルに実質的に増大していた(図5C〜図5E)。野生型コントロールにおいて、これらの活性は48hではほとんどベースラインに低下していたが、GSNOR−/−マウスではレベルは低下していなかった(図5C〜図5E)。従って、臓器機能不全はGSNOR−/−マウスでは消失していなかった。野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスの腎臓および心臓は組織学的検査では全体として正常であった。
【0164】
膵臓小島細胞はインビトロではNOの毒性に対して非常に感受性であることが知られている(Liu他、2000a)。しかしながら、本明細書中に示されるように、LPS負荷は野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスにおいて膵臓に対する影響をほとんど有していなかった。特に、アミラーゼおよびリパーゼの両方の血清中レベルはLPS処置の後でほとんど変化せず(図5F〜図5G)、また、組織学的異常は検出されなかった。
【0165】
GSNORについての保護的な役割がリンパ組織において明らかであった(図6C〜図6H)。LPS後24hで、2つの系統は、胸腺、脾臓、腸間リンパ節、パイエル板および他のリンパ系組織におけるリンパ球アポトーシスの類似する量およびパターンを示していた。野生型のリンパ組織はLPS後48hでは細胞死をほとんど示していなかった(図6C、図6Eおよび図6G)。対照的に、GSNOR−/−の組織は実質的なアポトーシスを示していた(図6D、図6Fおよび図6H)。胸腺におけるリンパ球のアポトーシスは、特に皮質領域において、甚大であった(図6D)。さらに、LPS後48hでは、リンパ球の枯渇が、GSNOR−/−の胸腺において、野生型の場合よりもひどかった(図6C〜図6D)。従って、GSNORは、免疫系をエンドトキシン傷害から保護するために必要であった。
【0166】
(GSNOR−/−マウスの組織傷害および生存に対するiNOS阻害の影響)
さらなる実験を、エンドトキシンショックの病理発生に対するニトロソ化ストレスの寄与を明らかにするために行った。LPS負荷されたGSNOR−/−マウスを1400W(選択iNOS阻害剤)で処置した。1400Wの投与は、LPS注射後6hで開始されたとき、血清中の硝酸塩(すなわち、NOS活性)を約50%低下させ(図7A、P=0.015)、肝臓傷害を約90%低下させた(図7C、P=0.020)。この改善は肝臓SNOの約90%の低下(図7B)と一致していた。血清中マーカーの測定値は、組織傷害もまた、(LPS処置後48hで)腎臓、膵臓および筋肉において低下していたことを示していた。最も重要なことは、LPS負荷されたGSNOR−/−マウスの生存率が1400Wによって有意に改善された(図7D対図3D、P=0.03)。比較により、PBS(体積コントロール)はほとんど影響を有していなかった(図7D対図3D)。1400Wの投与がLPS注射後24時間遅れたとき、これは、SNOが有害なレベルに蓄積することを許し、また、NOS阻害によってもたらされる保護が失われた(5匹中3匹のメスのGSNOR−/−マウスが死亡した)。これらのデータは、GSNOR−/−マウスにおけるiNOSから生じるニトロソ化ストレスが組織損傷および増大した死亡を媒介したことを強く示唆していた。
【0167】
(敗血症性ショックにおけるGSNOR)
GSNORの役割および機能もまた、盲腸結紮および破裂(CLP)によって誘導される細菌性敗血症性ショック(Wichterman他、1980)(ヒト状態に類似する動物モデル)において調べた。CLPは、GSNOR−/−マウス(n=9)において、野生型マウス(n=8)の場合よりも有意に大きい死亡率をもたらし(図3E)、これに対して、破裂を伴わない偽コントロールはGSNOR−/−マウス(n=3)または野生型マウス(n=3)のいずれかの死をもたらさなかった。CLP後、肝臓SNOのレベル(図4E)およびマーカー酵素のレベルは、GSNOR−/−マウスにおいて、野生型マウスの場合よりも有意に大きかった。従って、GSNORはマウスをSNOに関連した病的状態およびCLPにより誘導される死亡から保護している。
【0168】
(実施例3:考察)
開示された実験から、下記のことが明らかにされる:(1)S−ニトロシル化は、血圧および関連した恒常性機能に影響を及ぼし、かつ、エンドトキシン性/敗血症性ショックの病理発生の一因となっているNO生物学において不可欠な役割を果たしている;(2)NO生物活性は、合成レベル(すなわち、NOS)においてだけでなく、分解、特に、GSNORによる分解によっても調節されている;(3)GSNOの代謝回転は細胞全体でのS−ニトロシル化のレベルに影響を及ぼす;(4)SNOの蓄積は、生存に影響するストレスを哺乳動物生物に生じさせ得るし、また、特に、GSNOとともに同定されるニトロソ化ストレスは疾患の病理発生に関係している;(5)GSNORは、麻酔下での血圧の過度な低下から、また、内毒素血症後の組織傷害からマウスを保護している;(6)GSNOR欠乏によって最も大きく影響を受ける系には、肝臓、免疫系および心臓血管系が含まれる。これらの結果は、NOSの活性に集中するNO生物学の現在の理論的枠組みに対する根本的な変化の前兆となっている。開示されたデータはまた、システインチオールにおける修飾を介したタンパク質のレドックス型調節の重要性についての遺伝子的裏付けを提供している。
【0169】
(GSNORはSNO代謝のために不可欠である)
開示されたデータによれば、GSNOレダクターゼは、マウスの発達、成長および繁殖のために必須でないことが明らかである。ADHIII欠損マウスの正常な成長および繁殖には、多量のビタミンA(レチノール)を伴う食事性補給が要求されることが示唆されている(Molotkov他、2002)。今回、そのような要求はGSNOR−/−マウス系統のいずれにおいても認められなかった。Molotkov他によって報告されたこの普通でない栄養学的要求の起源は、使用された欠失構築物、またはマウスの遺伝子的背景にあると考えられる。
【0170】
本明細書中に開示される1つの重要な発見は、GSNORが動物においてNO代謝のために非常に重要であるということである。GSNOR−/−マウスは、匹敵し得るレベルのNOS発現およびNOS活性にもかかわらず、野生型マウスよりも多い量のS−ニトロソチオールを蓄積した。従って、インビボでのSNOのレベルは、NOS活性によってだけでなく、GSNORによっても決定された。この結論はさらに、(1)基礎的状態におけるSNO対鉄ニトロシル化合物の比率;および(2)エンドトキシンショックの経過時における硝酸塩または亜硝酸塩または両者に対するSNOの比率に関してGSNOR−/−マウスで観測された増大によって裏付けられた。亜硝酸塩および硝酸塩の測定は、生物学的系におけるNO生物活性を評価する標準的な手段であるので、開示された結果は、多くの以前の仮定に関して興味深い疑問を提起する。
【0171】
GSNOは、GSNORによって認識される唯一のSNO基質である。それにもかかわらず、開示されたデータは、この酵素の欠失がGSNO自身の増大よりも大きなSNO−タンパク質の増大を生じさせていることを示している。類似する結果が、GSNOR欠損酵母(Liu他、2001)において、また、エクスビボでGSNOにさらされたRBC(Jia他、1996)において得られていた。このことは、少なくともいくつかの重要なタンパク質SNOが基礎的状態およびストレス状態の両方のもとでは平衡状態(式1、下記)にあることを示唆している。加えて、この平衡は明らかにタンパク質SNOに有利である。GSNORによるGSNOの速やかな除去(式2、下記)は、平衡を脱ニトロシル化状態の方に移動させるように作用する。従って、グルタチオン(GSH)はSNOのシグナル伝達を効果的または完全に終結させ、または、GSNORの非存在下でタンパク質をS−ニトロシル化の有害なレベルから保護することができないようである。
【0172】
【数1】
【0173】
【数2】
(GSNORはエンドトキシンおよび細菌に対する応答においてニトロソ化ストレスから保護する)
本明細書中に開示された実験において、上昇したiNOS活性を有するマウスを、上昇したレベルのS−ニトロシル化タンパク質によって特徴づけられるニトロソ化ストレスにさらした。しかしながら、LPS負荷されたマウスは、GSNORによってもたらされる保護が損なわれない限り(GSNOR−/−)、有害な結果を受けなかった。GSNORの非存在下で、動物はS−ニトロシル化タンパク質の有害な蓄積および組織傷害を示した。GSNORがリンパ組織および肝臓をアポトーシスから保護したという今回の知見は、死のシグナル伝達がSNOによって調節されているという蓄積しつつある証拠をさらに支持した(Eu他、2000;Haendeler他、2002;Mannick他、1999;MarshallおよびStamler、2002;Matsumoto他、2003)。さらに、本明細書中に示されるように、iNOSの阻害は、動物の生存だけでなく、組織を超えた傷害のすべての処置を改善した。まとめると、これらのデータは、ニトロソ化ストレスがGSNOR−/−マウスにおける病的状態の主要な原因の1つであることを明らかにしている。
【0174】
GSNORは、微生物攻撃に対する抵抗性を媒介するいくつかの因子の1つである(Cohen、2002)。そのため、その役割は、SNOに対する微生物感受性によってだけでなく、免疫機能を保護することにおけるその一部によっても影響される(図6A〜図6H)。この複雑性にもかかわらず、最近の遺伝子的証拠および化学的証拠は、SNOが、クリプトコックス感染(de Jesus−Berrios他、2003)、サルモネラ感染(De Groote他、1996)および結核感染(MacMicking他、1997)に対抗するためにマウスにおいて産生されることを示唆している。本明細書中に開示される知見は、SNOがまた、多菌性/グラム陰性敗血症のさらなる形態において宿主によって産生されることを示している。具体的には、GSNORによってもたらされる保護が、ショックのエンドトキシン中毒モデルにおいて観測されただけでなく、CLPにより誘導された菌血症に対してもまた観測された。
【0175】
本明細書中で明らかにされているように、GSNOR欠乏はCLPモデルにおいてSNOの上昇した肝臓レベルを生じさせた。ヒト状態に対するこれらのマウスモデルの関連性を支持して、本発明者らは、SNO−Hbレベルが、エンドトキシン中毒動物の血液において増大することが知られているが(Jourd’heuil他、2000)、グラム陰性敗血症の患者の血液(0.0037±0.0010 SNO/Hb、n=7)で、健康なコントロールの場合(0.0010±0.0004 SNO/Hb、n=12;P<0.01)よりも数倍大きかったことを見出している。まとめると、これらのデータは、S−ニトロソチオールがエンドトキシン性/敗血症性ショックの改善および病理発生の両方において重要な役割を果たし得ることを示唆している。
【0176】
(性差)
GSNOR欠損は、LPS負荷されたメスのマウスにおいて(野生型に対して)死亡率の10倍の増大をもたらしたが、オスでは約2倍の増大をもたらしただけであった。従って、GSNORのこの保護的作用は敗血症性ショックに対するメスの相対的な抵抗性の一因であると考えられ得る。この現象は動物(Laubach他、1998;Zellweger他、1997)およびヒト(Oberholzer他、2000;Schroder他、1998)の両方で認められている。以前の実験では、iNOSがオスのマウスよりもメスのマウスの方を内毒素血症誘導による死から保護することが示された(Laubach他、1998)。これらのデータの要点は、iNOSの有益な作用がGSNOR−/−マウスではニトロソ化ストレスによって無効にされることを示唆している。理論によって拘束されることを望まないが、GSNORは、特に女性患者では、敗血症の結果の遺伝的決定因子であること、そして、敗血症患者におけるiNOS阻害の潜在的な利益がGSNORの活性に関係づけられることが仮定される。
【0177】
(GSNOR欠損の血行力学的結果)
低血圧症が麻酔の最も頻繁な副作用の1つとして観察されているが、患者感受性についての基礎は明らかにされてない。今回、GSNOR欠損マウスは、LPS負荷の非存在下で麻酔されたとき、低血圧性であった。GSNOR欠損動物において、基礎的なSNOレベルはRBCにおいて約2倍増大していた。このようなレベルは、バイオアッセイにおいて血管拡張を生じさせ(McMahon他、2002;Pawloski他、2001)、また、RBCまたはSNO−Hb(主要なRBC SNO)のいずれかが静脈内に注入されたときには血圧(または血管抵抗)を低下させること(Jia他、1996)が知られている。ウレタンまたはペントバルビタールの麻酔は、ラットにおいて静脈内投与されたSNOの血管弛緩作用および低血圧作用を顕著に増強することが以前に示されていた(Travis他、1997)。開示された結果は、麻酔下での血圧がSNO生物活性を反映するかもしれず、また、GSNOR活性における遺伝子的基礎を有するかもしれないという可能性を示している。
【0178】
興味深いことに、iNOSの低血圧作用もまた麻酔に関連づけられている。低血圧症は、LPSで負荷されたペントバルビタール麻酔の野生型マウスにおいて、iNOS−/−マウスの場合よりも大きいことが見出されている(MacMicking他、1995)。加えて、意識のあるiNOS−/−マウスに対して、麻酔されたiNOS−/−マウスにおいて匹敵し得る程度に血圧を低下させたLPSの濃度は、麻酔された野生型マウスにおいて、意識のある野生型マウスの場合よりもはるかに大きい低血圧症を生じさせた(MacMicking他、1995;Rees他、1998)。LPSは、齧歯類においてSNO−Hbのレベルを増大させることが知られている(Jourd’heuil他、2000)。今回、類似した増大が敗血症患者の血液で観測された。まとめると、これらのデータは、iNOSに由来する高いSNOはエンドトキシン中毒動物における麻酔の低血圧作用の一因であることを示唆している。開示されたデータは、中枢神経または腎臓において発揮されるGSNOの作用を排除していない(OrtizおよびGarvin、2003;Stamleer、1999;Stoll他、2001)。しかしながら、結果は、RBCが血管を拡張するという最近の発見(Gonzalez−Alonso他、2002;Jia他、1996;McMahon他、2002)、および、RBCにおけるSNOが低血圧表現型の一因であるかもしれないという主張を裏付けている。
【0179】
SNOが、RBCにおいて、また、血管を拡張するために放出される活性(McMahon他、2002;Pawloski他、2001)において生じる機構はほんの一部しか理解されていない。Hbが、NO(Gow他、1999)、亜硝酸塩(Luchsinger他、2003)またはGSNO(Jia他、1996;Romeo他、2003)と反応して、SNO−Hbを生じさせ得ること、および、RBCによる血管拡張はSNO−HbからRBC膜チオールへのNOの輸送を必要とすること(Pawloski他、2001)が示されている。さらなる研究は、RBC膜生物活性の分配における血漿GSNOに対する役割を示している(Lipton他、2001)。開示された結果は、RBC−SNOのレベルをインビボで維持することにおけるGSNO/GSNORの重要性を明瞭に明らかにしている。そのうえ、開示された実験は、SNOの増大が、他の生物活性なNO化合物(鉄ニトロシルHbおよび亜硝酸塩)の検出可能な増大を伴うことなく生じることを示している。このことは、SNOが血液(Jia他、1996;Stamler他、1992)および組織(Gow他、2002;Stamler他、2001)におけるNO生物活性を媒介しているという考えに対する強い遺伝子的裏付けを提供している。
【0180】
(結論)
開示された知見は、NO生物学および疾患におけるS−ニトロソチオールの中心的な役割を強調している。具体的には、本研究においてもたらされる遺伝子的証拠は、GSNOの代謝回転が、疾患体質の素因を与えるSNOの蓄積を防止するためだけでなく、生理学的なシグナル伝達(例えば、血圧を調節するためのメッセンジャーの分配)に関連してSNOの代謝回転を調節するためにも必要であることを示唆している。GSNOレダクターゼのこのような恒常性維持的役割は、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)によって果たされる役割を連想させる。GSNORは、酸化的ストレスからのSOD保護および血圧の調節を呼び起こす方法で、ニトロシル化ストレスからの保護をもたらし、かつ、血管の緊張状態に影響を及ぼしている(Didion他、2002;Nakazono他、1991)。従って、GSNORは重要な器官機能の調節においてさらなる役割を果たしていると考えられる。さらに、内毒素血症および菌血症における研究は、iNOSが関係する他の生来的な免疫状態、炎症状態、変性状態および増殖性状態の典型であるので、ニトロソ化ストレスは疾患病理発生に広範囲に寄与していると考えられる。従って、S−ニトロシル化の機能不全によって特徴づけられる疾患は介入のための新しい治療機会および治療標的を表す(Liu他、2004、Cell、116:617〜628を参照のこと)。
【0181】
(実施例4:心臓研究)
(再構成された系において精製タンパク質を使用するβ2−ARおよび可溶性ペプチド基質のGRK2媒介によるリン酸化に対するNO/SNOの影響)
以前のデータは、NOがβ2−AR(アドレナリン作動性受容体)のGRK(Gタンパク質共役受容体キナーゼ)媒介によるリン酸化を妨げるという仮説を裏付ける強い証拠を提供していた。さらなる実験が、NOが受容体またはGRKに対して直接に作用するかどうかを明らかにするために必要であった。NO作用の部位を明らかにするために、その影響を、再構成された系において精製タンパク質を使用して、β2−ARのGRK2媒介によるリン酸化について、また、可溶性ペプチド基質について調べた。これらの研究において、cysNOが、精製されたβ2−ARのGRK2媒介によるリン酸化を著しく低下させた(図11A)。NO生物活性はまた、精製されたウシ桿体外側セグメントに由来するロドプシンのGRK2媒介によるリン酸化を著しく低下させた。このことはNO作用の全身性の機構を示唆している(図11B)。
【0182】
これらのデータは細胞全体の受容体リン酸化のデータと一致しており、受容体またはGRKに対するNO作用の可能な部位を限定していた。これらの実験ではまた、SNOがGRK2の自己リン酸を減少させたことが明らかにされた。このことは、ニトロシル化によるGRK2の直接的な阻害を示唆している。このことを確認するために、実験を、合成ペプチド基質(RRREEEEESAAA;配列番号30)の精製GRK2により媒介されるリン酸化を阻害するSNOの能力を調べるために行った。GRK2媒介による受容体リン酸化を低下させることに加えて、cysNOおよびGSNOはともに、合成ペプチド基質のGRK2媒介によるリン酸化を著しく阻害した(図12A〜図12B)。
【0183】
このデータは、NO/SNOがGRK2媒介によるβ2−ARのリン酸化を直接に低下させ、かつ、GRK2のS−ニトロシル化を介したもっともらしい作用機構を提供しているという仮説を裏付ける説得力のある、細胞全体およびインビトロでの証拠を提供した。理論によって拘束されないが、NOはシステインチオールおよび遷移金属中心を標的化し、S−ニトロシル化による多くの受容体に対するcGMP依存的な作用を含めて、ひとそろいの作用を伝達するという仮説が立てられた。これらの研究に加えて、数多くのインビボ実験およびエクスビボ実験が、β−ARの生理学に対するNOの影響、および、心不全に関連するβ−AR機能における観測された欠陥に対するNOの影響を解明することを目指して行われた。S−ニトロソチオールの関与を示す証拠が得られた。
【0184】
(慢性的β−AR刺激誘導性心臓肥大および受容体ダウンレギュレーションに対する生体利用可能なNO/ニトロソチオールの影響)
以前の研究では、心臓肥大および心不全に関連するβ−ARの脱感作およびダウンレギュレーションが明らかにされていた。マウスにおける実験的心臓肥大の1つの十分に確立されたモデルでは、β−ARアゴニスト(イソプロテレノール)の長期間の投与が伴う。この処置により、心臓β−ARの機能的な非共役化およびダウンレギュレーションがもたらされ、壁量の著しい増大の発生がもたらされる。実験を、心臓肥大の発生に対するGSNOの影響を調べるために、また、長期間のイソプロテレノール刺激に関連するβ−ARのダウンレギュレーションのパターンを変化させるその能力を調べるために行った。
【0185】
細胞全体および膜の受容体/リガンド結合を、以前に記載されたように、リガンドに対する受容体の機能的な親和性、および全体的な受容体密度を評価するために行った。特に、細胞全体および膜の結合を、脱感作条件(アゴニストによる予備的刺激)の存在下および非存在下において多数の濃度のNO/SNOで処理された細胞について評価した。GSNOの投与(2週間にわたる浸透圧ミニポンプによって送達される)は、心臓重量対体重比においてイソプロテレノール刺激による変化に対する影響を全く有さず(図13A)、しかし、β−ARのダウンレギュレーションを著しく低下させた(図13B)。以前の研究では、心不全においてβ−AR機能を維持することは疾患の進行を遅らせることができることが明らかにされている。従って、これらのデータから、GSNOが、心臓β−ARのダウンレギュレーションを妨げるその能力によって、心不全の処置のために新規な治療様式を表すことが示唆される。
【0186】
これらの結果のこれらの要点は、GSNOを上昇させる薬剤(すなわち、GSNORの阻害剤)は、β−アドレナリン作動性のシグナル伝達を改善するための手段として使用することができることを示している。図13A〜図13Cは、β−アドレナリン作動性アゴニストのイソプロテレノール(ISO)が、ポンプを使用してマウスに7日間注入されたとき、心臓重量の増大をもたらし(図13A)、低下したβ−アドレナリン作動性受容体レベルをもたらし(図13B)、かつ、高活性のβARK(GRK2)発現をもたらしたことを明らかにしている。対照的に、GSNOとISOとの混合注入は、βARK(GRK2)を阻害しているので(図12A〜図12B)、β受容体密度を維持した(図13B)。従って、GSNORの阻害剤は、単独で、またはβ−アゴニストとの組合せで、心不全または他の血管障害(例えば、高血圧症および喘息など)を改善するために使用することができる。
【0187】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細が上記の付随する説明において示されている。本明細書中に記載される方法および材料に類似するか、またはそれらと同等である方法および材料はどれも、本発明の実施または試験において使用することができるが、現時点では、好ましい方法および材料が記載されている。本発明の他の特徴、目的および利点が、説明および請求項から明らかになる。
【0188】
本明細書および添付された請求項において、単数形態は、文脈がそうでないことを明らかに指示していない限り、複数の指示対象体を包含する。別途定義されない限り、本明細書中で使用されているすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。別途明示的に述べられていない限り、本明細書中で用いられる技術または意図される技術は、当業者に広く知られている標準的な方法論である。本明細書に引用されているすべての特許および刊行物は、米国特許出願第60/476,055号(2003年6月4日出願)および米国特許出願第60/545,965号(2004年2月18日出願)および米国特許出願第60/550,833号(2004年3月4日出願)によって提供される以前の開示を含めて、本明細書により参考として本明細書中に組み込まれる。
【0189】
【数3】
【0190】
【数4】
【0191】
【数5】
【0192】
【数6】
【0193】
【数7】
【0194】
【数8】
【0195】
【数9】
【0196】
【数10】
【0197】
【数11】
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】GSNOR遺伝子の標的化された破壊。図1A:GSNOR遺伝子の標的化された破壊のための方針。標的化ベクター、野生型GSNOR対立遺伝子および破壊されたGSNOR対立遺伝子の構造が示される。標的化ベクターの構築およびサザン分析のために使用された制限部位は次の通りである:B、BamHI;H、HindIII;N、NotI;S、SacI;X、XbaI。PGKneoおよびPGKtkのカセットはそれぞれ、マウスのホスホグリセロキナーゼ遺伝子プロモーターの制御下にある選択用遺伝子のneoおよびtkである。双頭矢印は、SacI制限またはXbaI制限によるサザン分析における野生型GSNOR対立遺伝子および破壊されたGSNOR対立遺伝子の予想されるフラグメントを表す。Neo3’seおよびGSNOR3’asは、破壊された対立遺伝子を検出するために使用されるPCRプライマーである。図1B:GSNOR標的化ESクローンから得られたゲノムDNAのサザン分析。DNAをSacIで消化し、ex2−3(GSNORのエキソン2〜エキソン3に対して特異的なcDNAプローブ)でプローブした。WT、野生型;KO、破壊された対立遺伝子。図1C:野生型(+/+)マウス、ヘテロ接合型(+/−)マウスおよびGSNORヌル(−/−)マウスから得られたゲノムDNAのサザン分析。DNAをXbaIで消化し、ex8−9(エキソン8〜9エキソンに対して特異的なプローブ)とのハイブリダイゼーションを行った。図1D:マウスの尾におけるGSNOR活性。データは2個〜4個のサンプルの平均値(±SD)を含む。図1E:様々な組織におけるGSNOR活性。タンパク質抽出物(500μg/ml)を200μMのNADHおよび0μMまたは150μMのGSNOとインキュベーションした。値が3匹の野生型マウス(黒塗り)または2匹のGSNOR−/−マウス(白塗り)から得られた。図1F:80日齢マウスの体重(n=18〜29)および離乳時の同腹子の数(n=16〜32)。野生型(白塗り)、GSNOR−/−系統1(斜線)およびGSNOR−/−系統2(黒塗り)に由来するマウスは、同じ動物施設において標準的なマウス用餌で飼育された。
【図2】GSNOR−/−マウスと比較される野生型における血圧およびS−ニトロソチオール。図2A:麻酔されたC57BL/6(WT)マウスおよびGSNOR−/−(KO)マウスにおける平均動脈圧。データは各系統における2匹のオスおよび2匹のメスの平均値±SEを含む(すなわち、n=4/系統)。図2B:意識のあるマウスにおける収縮期血圧。データは8匹のC57BL/6マウス(4匹のオス)および12匹のGSNOR−/−マウス(4匹のオス)の平均値±SEである。図2C:麻酔されていない野生型マウス(白塗り)およびGSNOR−/−マウス(黒塗り)から得られたRBCにおけるニトロシル化。GSNOR−/−マウスにおけるSNO−Hbレベルが野生型マウスの場合よりも有意に高いこと(P<0.05、n 12)が明らかにされ、これに対して、鉄−ニトロシルHbレベルは差がなかった。図2D:血漿中SNOによる低酸素症/代謝的要求に共役したRBC−SNOによる血管拡張、およびNO欠乏状態時における血管拡張を示す概略図。
【図3】GSNOR−/−マウスにおけるエンドトキシンショックおよび敗血症性ショックに由来する高死亡率。図3A:GSNOR−/−マウスの生存(黒丸、n=69)は、LPSの腹腔内注射の後、野生型マウスの生存(白丸、n=39)よりも有意に低かった(P<0.001)。図3B:GSNOR−/−系統1のマウスの生存(GSNOR−/−1、上向き三角;n=37)およびGSNOR−/−系統2のマウスの生存(GSNOR−/−2、逆三角;n=32)は類似していた。両方の値は、LPS後、野生型マウス(白丸、n=39)よりも有意に低かった(GSNOR−/−1についてはP<0.002、GSNOR−/−2についてはP<0.004)。図3C:オスGSNOR−/−マウス(黒丸、n=31)の生存は、LPS後、野生型コントロール(白丸、n=16)よりも有意に低くなかった(P=0.12)。図3D:メスGSNOR−/−1マウスの生存(上向き三角;P<0.01、n=19)およびメスGSNOR−/−2マウスの生存(逆三角;P<0.002、n=19)はともに、LPS後、野生型コントロール(白丸、n=23)よりも有意に低かった。図3E:GSNOR−/−メスマウスの生存(黒塗り、n=9)は、盲腸結紮および破裂(CLP)の後、野生型コントロールの生存(白塗り、n=8)よりも有意に低かった(P<0.03)。
【図4】GSNOR−/−マウスにおける異常なSNO代謝。図4A:PBS(48h)またはLPSの腹腔内注射後の野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスにおける肝臓S−ニトロソチオール。GSNOR−/−マウスにおけるSNOのレベルは、LPS負荷後の24h(P=0.005)および48h(P=0.006)の両方で野生型コントロールの場合よりも有意に高いことが明らかにされた。図4B:野生型マウス(白塗り)およびGSNOR−/−マウス(黒塗り)における血清中の硝酸塩。GSNOR−/−マウスにおける硝酸塩レベルはLPS後48hで野生型コントロールの場合よりも有意に高かった。図4C:野生型マウス(白塗り)およびGSNOR−/−マウス(黒塗り)における血清中の亜硝酸塩。図4D:肝臓SNO対血清中亜硝酸塩の上昇した比率は、GSNOR−/−マウスにおいて、LPS後の24hよりも48hで有意に高かった(P=0.010)(分析が、著しく上昇した硝酸塩レベル(>100μM)を有する1匹のマウスに対して行われた)。図4E:肝臓SNOのレベルが、CLP後の72hで、野生型コントロール(白塗り)よりもGSNOR−/−マウス(黒塗り)において有意に高かった(P=0.007)。
【図5】組織傷害の血清マーカー。血清を、コントロールのPBS注射の48h後、およびLPS注射の24h後または48h後に採取した。データ(平均値±SE)を4匹〜12匹の野生型マウス(白塗り)またはGSNOR−/−マウス(黒塗り)から得た。有意なペア様の差が星印によって示される(P<0.015)。アッセイされたマーカーは下記の通りであった:(図5A)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT);(図5B)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST);(図5C)クレアチニン;(図5D)尿素窒素(BUN);(図5E)クレアチンホスホキナーゼ(CPK);(図5F)アミラーゼ;(図5G)リパーゼ。図5H:6匹のGSNOR−/−マウス(LPS後48h)におけるALT(R2=0.85、p<0.01)またはAST(R2=0.94、p<0.01)と肝臓SNOとの間での相関。
【図6】LPS負荷されたマウスの組織病理学。LPS後48hでの野生型マウス(図6A、図6C、図6Eおよび図6G)およびGSNOR−/−マウス(図6B、図6D、図6Fおよび図6H)の肝臓(図6A〜図6B)、胸腺(図6C〜図6D)、脾臓(図6E〜図6F)および腸間(膵臓)リンパ節(図6G〜図6H)の切片が示される。すべての顕微鏡写真は同じ倍率であり、(図6A)におけるスケールバーは20μmである。N、壊死性肝細胞;T、食作用を受けたアポトーシス性細胞を有する可染性の身体マクロファージ。それぞれの顕微鏡写真は3匹の動物を表す。
【図7】iNOSの阻害は、LPS負荷されたGSNOR−/−マウスのSNO上昇を妨げ、その肝臓傷害を低下させ、その生存を改善する。図7A〜図7C:1400WがLPS注射後6hで与えられたGSNOR−/−マウスにおける硝酸塩の血清中レベル(図7A;n=7)、肝臓S−ニトロソチオールの血清中レベル(図7B;n=4)および血清ALTの血清中レベル(図7C;n=5)(黒塗り柱)。白塗り柱は、1400Wの非存在下で得られた値を表し、図4A、図4Bおよび図5Aからの再現である。図7D:1400W(n=12;四角)またはPBS(n=6;菱形)のいずれかをLPS注射後6hで受けたLPS負荷されたGSNOR−/−マウスの生存。
【図8】オボアルブミン(OVA)およびPBSで処置された野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスにおける、増大する量のメチルコリン(MCh)で処置された気道抵抗の量を示す。
【図9】OVAまたはPBSによる処置の後での野生型マウスおよびGSNOR−/−マウスの両方におけるIgEのレベルを示す。
【図10】OVAで処置されたGSNOR−/−マウスおよび野生型マウスにおけるBALF IL−13のレベルを示す。
【図11】GRK研究から得られた結果。図11A。合成ベシクルにおいて再構成された精製β2−ARと、精製GRK2とを使用して、イソプロテレノール(10μM)刺激されたGRK2媒介による受容体リン酸化に対するcysNO(500μM、50μMおよび5μM)の影響を調べる実験から得られた代表的なゲル;図11B。精製されたウシ桿体外側セグメントと、精製GRK2とを使用して、ロドプシンの光刺激されたGRK2媒介によるリン酸化に対するcysNO(5μM、50μMおよび500μM)の影響を調べる実験から得られた代表的なゲル。
【図12】可溶性ペプチド基質(RRREEEEESAAA;配列番号30)の、精製GRK2により媒介されるインビトロリン酸化に対するcycNO(A:500μM、50μMおよび5μM)およびGSNO(B:500μM、50μMおよび5μM)の影響(n=2;*P<0.05)。
【図13】心臓研究の結果。ミニ浸透圧ポンプの埋め込み、そして、PBS、イソプロテレノール(ISO)(30mg/kg/日)、GSNO(10mg/kg/日)、または、ISOおよびGSNOの組合せのいずれかによる7日間にわたる処置の後でのマウスにおける、図13A:心臓重量対体重比(hw:bw、mg:g)(n=10);図13B:心臓β−AR密度(BMax、fmol/mgタンパク質)(n=5);図13C:心臓βARKタンパク質発現レベル(n=4)。すべてのデータは平均値(+/−SE)として表される(*PBS処置マウスに対してP<0.05、+ISO処置マウスに対してP<0.05、アンペアードt検定)。
【図14】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号7)およびアミノ酸配列(配列番号17)の情報がアクセション番号M29872のもとでNational Center for Biotechnology Information(NCBI:Bethesda、MD)データベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。
【図15A】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号8)およびアミノ酸配列(配列番号18)の情報がアクセション番号NM_000671のもとでNCBIデータベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。SNPは単一ヌクレオチド多型を示す。
【図15B】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号8)およびアミノ酸配列(配列番号18)の情報がアクセション番号NM_000671のもとでNCBIデータベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。SNPは単一ヌクレオチド多型を示す。
【図15C】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号8)およびアミノ酸配列(配列番号18)の情報がアクセション番号NM_000671のもとでNCBIデータベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。SNPは単一ヌクレオチド多型を示す。
【図15D】ヒトGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号8)およびアミノ酸配列(配列番号18)の情報がアクセション番号NM_000671のもとでNCBIデータベースから得られた。ヌクレオチド配列において、開始部位および停止部位には下線が引かれている。CDSはコード配列を示す。SNPは単一ヌクレオチド多型を示す。
【図16A】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図16B】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図16C】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図16D】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図16E】ヒトGSNORのエキソン配列。ヌクレオチド配列(配列番号9〜配列番号15、連続して)およびアミノ酸配列(配列番号19)の情報がアクセション番号M81112〜同M81118のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図17A】マウスGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号16)およびアミノ酸配列(配列番号20)の情報がアクセション番号NM_007410のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図17B】マウスGSNORのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の情報。ヌクレオチド配列(配列番号16)およびアミノ酸配列(配列番号20)の情報がアクセション番号NM_007410のもとでNCBIデータベースから得られた。CDSはコード配列を示す。
【図18A】ヒトGSNOR配列および相同配列またはオルソログ配列についてのアミノ酸アラインメント。アミノ酸配列情報(配列番号21〜配列番号29、連続して)および配列アライメントがNCBI保存ドメインデータベースCD:KOG0022.1、KOG0022から得られた。アラインメントにおいて、アクセション番号1MC5_AはヒトGSNORに対応し、GenBank番号113389はヒトアルコールデヒドロゲナーゼ6に対応し、GenBank番号174441816は、ヒトIV型アルコールデヒドロゲナーゼに類似する配列に対応し、GenBank番号13432155は、Schizosaccharomyces pombeから得られたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ1に対応し、GenBank番号13431519は、Schizosaccharomyces pombeから得られたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ2に対応し、GenBank番号30697873は、Arabidopsis thalianaから得られたオキシドレダクターゼに対応し、GenBank番号15238330は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応し、GenBank番号15217715は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応し、GenBank番号15219884は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応する。保存されたドメインが太字で示される。保存的置換を有する位置が斜体の太字で示される。
【図18B】ヒトGSNOR配列および相同配列またはオルソログ配列についてのアミノ酸アラインメント。アミノ酸配列情報(配列番号21〜配列番号29、連続して)および配列アライメントがNCBI保存ドメインデータベースCD:KOG0022.1、KOG0022から得られた。アラインメントにおいて、アクセション番号1MC5_AはヒトGSNORに対応し、GenBank番号113389はヒトアルコールデヒドロゲナーゼ6に対応し、GenBank番号174441816は、ヒトIV型アルコールデヒドロゲナーゼに類似する配列に対応し、GenBank番号13432155は、Schizosaccharomyces pombeから得られたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ1に対応し、GenBank番号13431519は、Schizosaccharomyces pombeから得られたグルタチオン依存性ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ2に対応し、GenBank番号30697873は、Arabidopsis thalianaから得られたオキシドレダクターゼに対応し、GenBank番号15238330は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応し、GenBank番号15217715は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応し、GenBank番号15219884は、Arabidopsis thalianaから得られたアルコールデヒドロゲナーゼの配列に対応する。保存されたドメインが太字で示される。保存的置換を有する位置が斜体の太字で示される。
【図19A】ヒトGSNORについての二次構造情報。ヒトGSNOR(配列番号19)についての構造情報がNCBIアクセション番号1MC5_Aから得られた。SecStrは二次構造を示す。
【図19B】ヒトGSNORについての二次構造情報。ヒトGSNOR(配列番号19)についての構造情報がNCBIアクセション番号1MC5_Aから得られた。SecStrは二次構造を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高レベルの一酸化窒素の生物活性に関連する障害の少なくとも1つの症状を緩和する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させる薬剤の治療有効量を、該障害を有する患者に投与し、それにより、一酸化窒素の生物活性のレベルを低下させて、該障害の症状を緩和する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記障害が、変性疾患、ショック、脳卒中、全身性感染症、炎症性疾患および増殖性障害からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記障害が、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風およびピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記障害が、パーキンソン病、アルツハイマー病および筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖性障害が癌である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記障害が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が女性である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記薬剤が一酸化窒素合成のレベルを低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記薬剤が一酸化窒素分解のレベルを増大させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤が、ペプチド、低分子および抗イディオタイプ抗体模倣体からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼ模倣体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記薬剤が一酸化窒素シンターゼの阻害剤と同時投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記一酸化窒素シンターゼの阻害剤が、L−N(6)−(1−イミノエチル)リジンテトラゾール−アミド(SC−51);アミノグアニジン(AG);S−メチルイソウレア(SMT);S−(2−アミノエチル)イソチオウレア;2−アミノ−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−1,3−チアジン(AMT);L−2−アミノ−4−(グアニジオオキシ)酪酸(L−カナバニンサルフェート);S−エチルイソチオウレア(EIT);2−イミノピペリジン;S−イソプロピルイソチオウレア;1,4−フェニレンビス(1,2−エタンジイル)−ジイソチオウレア(PBIT);N−[3−(アミノメチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)−L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン;および7−ニトロインダゾールからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
全身性感染症の少なくとも1つの症状を緩和する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させる薬剤の治療有効量を、該感染症を有する患者に投与し、それにより、一酸化窒素の生物活性のレベルを低下させて、該感染症の症状を緩和する工程を包含する、方法。
【請求項18】
前記全身性感染症が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が女性である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記薬剤が一酸化窒素合成のレベルを低下させる、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記薬剤が一酸化窒素分解のレベルを増大させる、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記薬剤が、ペプチド、低分子および抗イディオタイプ抗体模倣体からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼ模倣体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記薬剤が一酸化窒素シンターゼの阻害剤と同時投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
前記一酸化窒素シンターゼの阻害剤が、L−N(6)−(1−イミノエチル)リジンテトラゾール−アミド(SC−51);アミノグアニジン(AG);S−メチルイソウレア(SMT);S−(2−アミノエチル)イソチオウレア;2−アミノ−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−1,3−チアジン(AMT);L−2−アミノ−4−(グアニジオオキシ)酪酸(L−カナバニンサルフェート);S−エチルイソチオウレア(EIT);2−イミノピペリジン;S−イソプロピルイソチオウレア;1,4−フェニレンビス(1,2−エタンジイル)−ジイソチオウレア(PBIT);N−[3−(アミノメチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)−L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン;および7−ニトロインダゾールからなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
低血圧症の少なくとも1つの症状を緩和する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させる薬剤の治療有効量を、低血圧症患者に投与し、それにより、一酸化窒素の生物活性のレベルを低下させて、低血圧症の症状を緩和する工程を包含する、方法。
【請求項30】
前記低血圧症が、麻酔、透析および起立性低血圧症に関連する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記薬剤が一酸化窒素合成のレベルを低下させる、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記薬剤が一酸化窒素分解のレベルを増大させる、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記薬剤が、ペプチド、低分子および抗イディオタイプ抗体模倣体からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼ模倣体を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
前記薬剤が一酸化窒素シンターゼの阻害剤と同時投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項39】
前記一酸化窒素シンターゼの阻害剤が、L−N(6)−(1−イミノエチル)リジンテトラゾール−アミド(SC−51);アミノグアニジン(AG);S−メチルイソウレア(SMT);S−(2−アミノエチル)イソチオウレア;2−アミノ−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−1,3−チアジン(AMT);L−2−アミノ−4−(グアニジオオキシ)酪酸(L−カナバニンサルフェート);S−エチルイソチオウレア(EIT);2−イミノピペリジン;S−イソプロピルイソチオウレア;1,4−フェニレンビス(1,2−エタンジイル)−ジイソチオウレア(PBIT);N−[3−(アミノメチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)−L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン;および7−ニトロインダゾールからなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
血管障害の少なくとも1つの症状を緩和する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを低下させる薬剤の治療有効量を、該障害に罹患している患者に投与し、それにより、S−ニトロソチオールのレベルを増大させて、該障害の症状を緩和する工程を包含する、方法。
【請求項41】
前記障害が、高血圧症、心不全、肺性高血圧症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息およびインポテンスからなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記薬剤が、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼに結合する抗体または抗体フラグメントを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記薬剤がモノクローナル抗体を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記薬剤がアンチセンス配列または低分子干渉性RNA配列を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記薬剤が低分子を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項46】
前記薬剤がホスホジエステラーゼ阻害剤と同時投与される、請求項40に記載の方法。
【請求項47】
前記ホスホジエステラーゼ阻害剤が、ロリプラム、シロミラスト、ロフルミラスト、クエン酸シルデニフィル、タダラフィルおよびバルデニフィルからなる群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
高レベルの一酸化窒素の生物活性に関連する障害を診断する方法であって、(a)患者から得られた生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルを測定する工程;(b)該生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)該生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンのレベルが、該コントロールサンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンのレベルよりも低いかどうかを決定し、それにより、該障害を診断する工程を包含する、方法。
【請求項49】
前記障害が、変性疾患、血管疾患、ショック、脳卒中、全身性感染症および増殖性疾患からなる群から選択される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記障害が、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風およびピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記障害が、パーキンソン病、アルツハイマー病および筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記障害が癌である、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記障害が、肺性高血圧症およびアテローム性動脈硬化からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項54】
前記障害が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項55】
前記患者が女性である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ抗原およびS−ニトロソチオール抗原からなる群から選択される抗原に結合する抗体を使用して決定される、請求項48に記載の方法。
【請求項57】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記抗体が標識されている、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼヌクレオチド配列に結合する核酸プローブを使用して決定される、請求項48に記載の方法。
【請求項60】
前記核酸プローブがDNAプローブである、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記核酸プローブが標識されている、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの酵素活性に対するアッセイを使用して決定される、請求項48に記載の方法。
【請求項63】
全身性感染症の1つまたは複数の症状を示す患者の状態をモニターする方法であって、(a)前記患者から得られた生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルを測定する工程;(b)該生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)該生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンのレベルが、該コントロールサンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンのレベルと比較して変化しているかどうかを決定し、それにより、該患者の状態をモニターする工程を包含する、方法。
【請求項64】
前記全身性感染症が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記患者が女性である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ抗原およびS−ニトロソチオール抗原からなる群から選択される抗原に結合する抗体を使用して決定される、請求項63に記載の方法。
【請求項67】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記抗体が標識されている、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼヌクレオチド配列に結合する核酸プローブを使用して決定される、請求項63に記載の方法。
【請求項70】
前記核酸プローブがDNAプローブである、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記核酸プローブが標識されている、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの酵素活性に対するアッセイを使用して決定される、請求項63に記載の方法。
【請求項73】
内因性GSNOR遺伝子の破壊がそのゲノムに含まれる遺伝子組換え非ヒト哺乳動物であって、該破壊が選択マーカー配列の挿入を含み、かつ、該破壊により、野生型マウスと比較して、ニトロシル化の増大を示すマウスが得られる、遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項74】
前記ニトロシル化が細胞内または細胞外で行われる、請求項73に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項75】
前記ニトロシル化の増大がS−ニトロソチオールの蓄積をもたらす、請求項73に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項76】
前記破壊がホモ接合性の破壊である、請求項73に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項77】
前記ホモ接合性の破壊が、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異を生じさせる、請求項76に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項78】
前記選択マーカーがネオマイシン耐性遺伝子である、請求項73に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項79】
内因性GSNOR遺伝子に対して相同的なDNA配列が隣接する選択マーカー配列を含むGSNORノックアウト構築物を含む単離された核酸。
【請求項80】
請求項79に記載される核酸を含むベクター。
【請求項81】
請求項79に記載されるGSNORノックアウト構築物を含む哺乳動物細胞株。
【請求項82】
請求項79に記載されるGSNORノックアウト構築物を含む非ヒト哺乳動物胚性幹細胞株。
【請求項83】
全身性感染症または低血圧症の少なくとも1つの症状を緩和させるための薬剤を同定するための方法であって、(a)全身性感染症または低血圧症を有するGSNORノックアウトマウスに試験薬剤を投与する工程、および(b)該試験薬剤が該ノックアウトマウスにおいて該全身性感染症または低血圧症の症状を緩和するかどうかを決定する工程を包含する、方法。
【請求項84】
前記症状がニトロシル化の増大である、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記ニトロシル化の増大がS−ニトロソチオールの蓄積をもたらす、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記全身性感染症が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシン、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項83に記載の方法。
【請求項87】
前記低血圧症が麻酔に起因する、請求項83に記載の方法。
【請求項88】
前記麻酔が、フェノバルビトール、ケタミン、キシラジンおよびウレタンからなる群から選択される、請求項87に記載の方法。
【請求項1】
高レベルの一酸化窒素の生物活性に関連する障害の少なくとも1つの症状を緩和する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させる薬剤の治療有効量を、該障害を有する患者に投与し、それにより、一酸化窒素の生物活性のレベルを低下させて、該障害の症状を緩和する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記障害が、変性疾患、ショック、脳卒中、全身性感染症、炎症性疾患および増殖性障害からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記障害が、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風およびピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記障害が、パーキンソン病、アルツハイマー病および筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖性障害が癌である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記障害が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が女性である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記薬剤が一酸化窒素合成のレベルを低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記薬剤が一酸化窒素分解のレベルを増大させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤が、ペプチド、低分子および抗イディオタイプ抗体模倣体からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼ模倣体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記薬剤が一酸化窒素シンターゼの阻害剤と同時投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記一酸化窒素シンターゼの阻害剤が、L−N(6)−(1−イミノエチル)リジンテトラゾール−アミド(SC−51);アミノグアニジン(AG);S−メチルイソウレア(SMT);S−(2−アミノエチル)イソチオウレア;2−アミノ−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−1,3−チアジン(AMT);L−2−アミノ−4−(グアニジオオキシ)酪酸(L−カナバニンサルフェート);S−エチルイソチオウレア(EIT);2−イミノピペリジン;S−イソプロピルイソチオウレア;1,4−フェニレンビス(1,2−エタンジイル)−ジイソチオウレア(PBIT);N−[3−(アミノメチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)−L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン;および7−ニトロインダゾールからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
全身性感染症の少なくとも1つの症状を緩和する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させる薬剤の治療有効量を、該感染症を有する患者に投与し、それにより、一酸化窒素の生物活性のレベルを低下させて、該感染症の症状を緩和する工程を包含する、方法。
【請求項18】
前記全身性感染症が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が女性である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記薬剤が一酸化窒素合成のレベルを低下させる、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記薬剤が一酸化窒素分解のレベルを増大させる、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記薬剤が、ペプチド、低分子および抗イディオタイプ抗体模倣体からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼ模倣体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記薬剤が一酸化窒素シンターゼの阻害剤と同時投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
前記一酸化窒素シンターゼの阻害剤が、L−N(6)−(1−イミノエチル)リジンテトラゾール−アミド(SC−51);アミノグアニジン(AG);S−メチルイソウレア(SMT);S−(2−アミノエチル)イソチオウレア;2−アミノ−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−1,3−チアジン(AMT);L−2−アミノ−4−(グアニジオオキシ)酪酸(L−カナバニンサルフェート);S−エチルイソチオウレア(EIT);2−イミノピペリジン;S−イソプロピルイソチオウレア;1,4−フェニレンビス(1,2−エタンジイル)−ジイソチオウレア(PBIT);N−[3−(アミノメチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)−L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン;および7−ニトロインダゾールからなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
低血圧症の少なくとも1つの症状を緩和する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを増大させる薬剤の治療有効量を、低血圧症患者に投与し、それにより、一酸化窒素の生物活性のレベルを低下させて、低血圧症の症状を緩和する工程を包含する、方法。
【請求項30】
前記低血圧症が、麻酔、透析および起立性低血圧症に関連する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記薬剤が一酸化窒素合成のレベルを低下させる、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記薬剤が一酸化窒素分解のレベルを増大させる、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記薬剤が、ペプチド、低分子および抗イディオタイプ抗体模倣体からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼ模倣体を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼポリペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記薬剤が、配列番号17〜配列番号21からなる群から選択されるポリペプチドのS−ニトロソグルタチオンレダクターゼペプチドを発現させるためのベクターを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
前記薬剤が一酸化窒素シンターゼの阻害剤と同時投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項39】
前記一酸化窒素シンターゼの阻害剤が、L−N(6)−(1−イミノエチル)リジンテトラゾール−アミド(SC−51);アミノグアニジン(AG);S−メチルイソウレア(SMT);S−(2−アミノエチル)イソチオウレア;2−アミノ−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−1,3−チアジン(AMT);L−2−アミノ−4−(グアニジオオキシ)酪酸(L−カナバニンサルフェート);S−エチルイソチオウレア(EIT);2−イミノピペリジン;S−イソプロピルイソチオウレア;1,4−フェニレンビス(1,2−エタンジイル)−ジイソチオウレア(PBIT);N−[3−(アミノメチル)ベンジル]アセトアミジン(1400W);N6−(1−イミノエチル)−L−リジン(L−NIL);モノメチルアルギニン;および7−ニトロインダゾールからなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
血管障害の少なくとも1つの症状を緩和する方法であって、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの活性またはレベルを低下させる薬剤の治療有効量を、該障害に罹患している患者に投与し、それにより、S−ニトロソチオールのレベルを増大させて、該障害の症状を緩和する工程を包含する、方法。
【請求項41】
前記障害が、高血圧症、心不全、肺性高血圧症、アテローム性動脈硬化、再狭窄、喘息およびインポテンスからなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記薬剤が、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼに結合する抗体または抗体フラグメントを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記薬剤がモノクローナル抗体を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記薬剤がアンチセンス配列または低分子干渉性RNA配列を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記薬剤が低分子を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項46】
前記薬剤がホスホジエステラーゼ阻害剤と同時投与される、請求項40に記載の方法。
【請求項47】
前記ホスホジエステラーゼ阻害剤が、ロリプラム、シロミラスト、ロフルミラスト、クエン酸シルデニフィル、タダラフィルおよびバルデニフィルからなる群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
高レベルの一酸化窒素の生物活性に関連する障害を診断する方法であって、(a)患者から得られた生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルを測定する工程;(b)該生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)該生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンのレベルが、該コントロールサンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンのレベルよりも低いかどうかを決定し、それにより、該障害を診断する工程を包含する、方法。
【請求項49】
前記障害が、変性疾患、血管疾患、ショック、脳卒中、全身性感染症および増殖性疾患からなる群から選択される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記障害が、大腸炎、炎症性腸疾患、慢性関節リューマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、感染性関節炎、強直性脊椎炎、腱炎、滑液包炎、脈管炎、線維筋痛、リウマチ性多発性筋痛、側頭動脈炎、巨細胞性動脈炎、多発性動脈炎、HIV関連リウマチ性疾患症候群、全身性エリテマトーデス、痛風およびピロリン酸カルシウム二水和物結晶沈着疾患からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記障害が、パーキンソン病、アルツハイマー病および筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記障害が癌である、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記障害が、肺性高血圧症およびアテローム性動脈硬化からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項54】
前記障害が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項55】
前記患者が女性である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ抗原およびS−ニトロソチオール抗原からなる群から選択される抗原に結合する抗体を使用して決定される、請求項48に記載の方法。
【請求項57】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記抗体が標識されている、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼヌクレオチド配列に結合する核酸プローブを使用して決定される、請求項48に記載の方法。
【請求項60】
前記核酸プローブがDNAプローブである、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記核酸プローブが標識されている、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの酵素活性に対するアッセイを使用して決定される、請求項48に記載の方法。
【請求項63】
全身性感染症の1つまたは複数の症状を示す患者の状態をモニターする方法であって、(a)前記患者から得られた生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルを測定する工程;(b)該生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルをコントロールサンプルにおけるレベルと比較する工程;および(c)該生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンのレベルが、該コントロールサンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンのレベルと比較して変化しているかどうかを決定し、それにより、該患者の状態をモニターする工程を包含する、方法。
【請求項64】
前記全身性感染症が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシンショック、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記患者が女性である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼ抗原およびS−ニトロソチオール抗原からなる群から選択される抗原に結合する抗体を使用して決定される、請求項63に記載の方法。
【請求項67】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記抗体が標識されている、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼヌクレオチド配列に結合する核酸プローブを使用して決定される、請求項63に記載の方法。
【請求項70】
前記核酸プローブがDNAプローブである、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記核酸プローブが標識されている、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
前記生物学的サンプルにおけるS−ニトロソグルタチオンレダクターゼのレベルが、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼの酵素活性に対するアッセイを使用して決定される、請求項63に記載の方法。
【請求項73】
内因性GSNOR遺伝子の破壊がそのゲノムに含まれる遺伝子組換え非ヒト哺乳動物であって、該破壊が選択マーカー配列の挿入を含み、かつ、該破壊により、野生型マウスと比較して、ニトロシル化の増大を示すマウスが得られる、遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項74】
前記ニトロシル化が細胞内または細胞外で行われる、請求項73に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項75】
前記ニトロシル化の増大がS−ニトロソチオールの蓄積をもたらす、請求項73に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項76】
前記破壊がホモ接合性の破壊である、請求項73に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項77】
前記ホモ接合性の破壊が、S−ニトロソグルタチオンレダクターゼをコードする内因性遺伝子のヌル変異を生じさせる、請求項76に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項78】
前記選択マーカーがネオマイシン耐性遺伝子である、請求項73に記載の遺伝子組換え非ヒト哺乳動物。
【請求項79】
内因性GSNOR遺伝子に対して相同的なDNA配列が隣接する選択マーカー配列を含むGSNORノックアウト構築物を含む単離された核酸。
【請求項80】
請求項79に記載される核酸を含むベクター。
【請求項81】
請求項79に記載されるGSNORノックアウト構築物を含む哺乳動物細胞株。
【請求項82】
請求項79に記載されるGSNORノックアウト構築物を含む非ヒト哺乳動物胚性幹細胞株。
【請求項83】
全身性感染症または低血圧症の少なくとも1つの症状を緩和させるための薬剤を同定するための方法であって、(a)全身性感染症または低血圧症を有するGSNORノックアウトマウスに試験薬剤を投与する工程、および(b)該試験薬剤が該ノックアウトマウスにおいて該全身性感染症または低血圧症の症状を緩和するかどうかを決定する工程を包含する、方法。
【請求項84】
前記症状がニトロシル化の増大である、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記ニトロシル化の増大がS−ニトロソチオールの蓄積をもたらす、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記全身性感染症が、菌血症、敗血症、新生児敗血症、敗血症性ショック、心原性ショック、エンドトキシン、毒性ショック症候群および全身性炎症性応答症候群からなる群から選択される、請求項83に記載の方法。
【請求項87】
前記低血圧症が麻酔に起因する、請求項83に記載の方法。
【請求項88】
前記麻酔が、フェノバルビトール、ケタミン、キシラジンおよびウレタンからなる群から選択される、請求項87に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【図16E】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図19A】
【図19B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【図16E】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図19A】
【図19B】
【公表番号】特表2007−525952(P2007−525952A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515198(P2006−515198)
【出願日】平成16年6月4日(2004.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/017758
【国際公開番号】WO2005/000229
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(502347087)デューク・ユニバーシティ (19)
【氏名又は名称原語表記】DUKE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月4日(2004.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/017758
【国際公開番号】WO2005/000229
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(502347087)デューク・ユニバーシティ (19)
【氏名又は名称原語表記】DUKE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】
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