説明

S−100β結合蛋白質とその利用

【課題】神経変性疾患治療薬のスクリーニング方法などの提供
【解決手段】S−100β結合蛋白質を用いる神経変性疾患治療薬のスクリーニング方法、治療薬、診断、疾患動物モデルなど。
【効果】本発明の蛋白質は、S−100βとの結合活性を有し、S−100βの情報伝達に関与しているので、S−100βとの結合を阻害する物質やS−100βの情報伝達を阻害する物質のスクリーニングに有用である。また、本発明の蛋白質、該蛋白質をコードするDNA、該DNAのアンチセンスDNA、該蛋白質に対する抗体は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患などの治療に有用である。さらに上記疾患であるかどうかの診断や疾患動物モデルの作製に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S−100β結合蛋白質を用いた神経変性疾患などの予防・治療薬のスクリーニング方法、該スクリーニング方法で得られうる化合物、S−100β結合蛋白質もしくはその抗体もしくは該蛋白質をコードするDNAもしくは該DNAに相補的なDNAを含有する医薬組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系の実質を構成する細胞には神経細胞とグリア細胞があり、細胞数はグリア細胞が神経細胞よりはるかに多い。グリア細胞は神経細胞の働きを支持する役割を担っている。グリア細胞の一種であるアストロサイトは、神経細胞の支持細胞として細胞外のイオンおよび神経伝達物質の恒常性維持(非特許文献1;Pharmacology and function, pp. 193-228, Academic Press, Inc., (1993))や神経栄養因子の供給(非特許文献2;Pharmacology and function, pp. 267-308, Academic Press, Inc., (1993))などの機能を有していることから、脳機能を制御する重要な役割を演じていると考えられる。
【0003】
従来、神経変性疾患(アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症など)の成因は主に神経細胞の異常にあると考えられてきた。しかし、近年神経細胞を取り囲むグリア細胞、特にアストロサイトの機能的異常にあるとの考えが有力になってきた。
【0004】
S−100β(配列番号37で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質)はアストロサイト特異的タンパク質であり、カルシウム結合部位を有し細胞内カルシウム濃度の調節、種々の細胞骨格蛋白と結合し細胞の形態変化や神経伝達物質の遊離等に関与している(非特許文献3;TIBS, 13, 437-443, (1988))。S−100βはアストロサイトの活性化により産生され細胞外に放出される。放出されたS−100βは、神経細胞に対し栄養因子的な作用および傷害因子的な作用(非特許文献4;Progress in Neurobiology, 46, 71-82, (1995))を示し、またアストロサイトに対しては増殖促進作用や誘導型一酸化窒素合成酵素の発現作用を有することが報告されている(非特許文献5;J. Biological Chemistry, 271, 2543-2547, (1996))。
【0005】
また、S−100βは脳傷害時、活性化されたアストロサイトにおいて過剰発現することが知られている。アルツハイマー患者の脳内でS−100β量が増加しており(非特許文献6;Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 7611-7615, (1989))、その増加量はアルツハイマー患者の脳における老人斑密度と相関があることが報告されている(非特許文献7;J. Neurosci. Res., 39, 398-404, (1994))。さらにアルツハイマー患者の脳における老人斑近傍にはS−100βの過剰発現を伴った活性化したアストロサイトが存在し、その発現強度は神経の異常突起伸展との間に相関が見られることが報告されている(非特許文献8;J. Neuropathol. Exp. Neurol., 55, 273-279, (1996))。その他にも、脳卒中(非特許文献9;Stroke, 30, 1190-1195, (1999))、頭部外傷(非特許文献10;Neurosurgery, 45, 477-483, (1999))、多発性硬化症(非特許文献11;Acta Neurol Scand, 96, 142-144, (1997))、ダウン症(非特許文献12;J. Thorac. Cardiovasc. Surg., 116, 281-285, (1998))などの患者の血清中もしくは脳髄液中でS−100β量の増加がみられる。
【0006】
このようにS−100βと神経変性疾患との関連は強く示唆されている。また、S−100β結合蛋白質として、後期糖化反応生成物受容体(RAGE)を初めとする種々の蛋白質が知られているが(非特許文献13;Mol Cell Biol, 23, 4870-81, (2003), 非特許文献14;J. Biochem, 116, 121-127, (1994))、その特異的な結合蛋白質およびS−100βによる細胞内情報伝達系に関与する分子等、その詳細な作用メカニズムは未だ明らかではない。
【0007】
【非特許文献1】Pharmacology and function, pp. 193-228, Academic Press, Inc., (1993)
【非特許文献2】Pharmacology and function, pp. 267-308, Academic Press, Inc., (1993)
【非特許文献3】TIBS, 13, 437-443, (1988)
【非特許文献4】Progress in Neurobiology, 46, 71-82, (1995)
【非特許文献5】J. Biological Chemistry, 271, 2543-2547, (1996)
【非特許文献6】Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 7611-7615, (1989)
【非特許文献7】J. Neurosci. Res., 39, 398-404, (1994)
【非特許文献8】J. Neuropathol. Exp. Neurol., 55, 273-279, (1996)
【非特許文献9】Stroke, 30, 1190-1195, (1999)
【非特許文献10】Neurosurgery, 45, 477-483, (1999)
【非特許文献11】Acta Neurol Scand, 96, 142-144, (1997)
【非特許文献12】J. Thorac. Cardiovasc. Surg., 116, 281-285, (1998)
【非特許文献13】Mol Cell Biol, 23, 4870-81, (2003)
【非特許文献14】J. Biochem, 116, 121-127, (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先に示したように、S−100β結合蛋白質として種々の蛋白質が知られている。しかし、特異的な情報伝達分子であるS−100β結合蛋白質を利用した神経変性疾患などの予防・治療作用を有する物質のスクリーニング方法、S−100β結合蛋白質もしくはその抗体もしくは該蛋白質をコードするDNAもしくは該DNAに相補的なDNAを含有する医薬組成物などについては現在知られておらず、該スクリーニング方法、該医薬組成物などを提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ウェスト-ウェスタン法によりS−100β結合蛋白質を同定し、更に、これらの蛋白質がS−100β(配列番号37で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質)の情報伝達に関与することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、(1)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを用いることを特徴とする、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βとの結合を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法、(2)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βとの結合を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法であって、被験化合物の存在下で配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βを接触させ、被験化合物の非存在下で配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βを接触させ、遊離される配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドの量を測定し、被験化合物の存在下で遊離される配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドの量と被験化合物の非存在下で遊離される配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドの量を比較することからなる(1)に記載の方法、(3)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βとの結合を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法であって、被験化合物の存在下で配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βを接触させ、被験化合物の非存在下で配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βを接触させ、遊離されるS−100βの量を測定し、被験化合物の存在下で遊離されるS−100βの量と被験化合物の非存在下で遊離されるS−100βの量を比較することからなる(1)に記載の方法、(4)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを産生する能力を有する細胞を用いることを特徴とする、S−100βによる該細胞における活性を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法、(5)S−100βの活性発現を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法であって、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを産生する能力を有する細胞に被験化合物の存在下あるいは非存在下でS−100βを接触させ、S−100βの活性を測定し、被験化合物の存在下と非存在下の活性を比較することからなる(4)に記載の方法、(6)神経変性疾患の予防および/または治療用化合物を探索するための(1)または(4)に記載のスクリーニング方法、(7)神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である(6)に記載のスクリーニング方法、(8)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを含有する、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βとの結合を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング用キット、(9)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを産生する能力を有する細胞を含有する、S−100βによる該細胞における活性発現を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング用キット、(10)(1)または(4)記載のスクリーニング方法または(8)または(9)記載のスクリーニング用キットを用いて得られた化合物またはその塩、(11)(1)または(4)記載のスクリーニング方法または(8)または(9)記載のスクリーニング用キットを用いて得られた化合物またはその塩を含有してなる医薬組成物、(12)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質、または該蛋白質の部分ペプチド、または該蛋白質をコードするDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAを含有してなる医薬組成物、(13)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体、または該蛋白質をコードするDNAまたは該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAに相補的または実質的に相補的なDNAを含有するアンチセンスDNAを含有してなる医薬組成物、(14)神経変性疾患の予防および/または治療剤である(11)乃至(13)記載の医薬組成物、(15)神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である(14)に記載の医薬組成物、(16)(1)または(4)記載のスクリーニング方法または(8)または(9)記載のスクリーニング用キットを用いて得られた化合物またはその塩の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における神経変性疾患の予防および/または治療方法、(17)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチド、または該蛋白質をコードするDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAの有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における神経変性疾患の予防および/または治療方法、(18)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体、または該蛋白質をコードするDNAまたは該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAに相補的または実質的に相補的なDNAを含有するアンチセンスDNAの有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における神経変性疾患の予防および/または治療方法、(19)神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である(16)乃至(18)に記載の方法、(20)神経変性疾患の予防および/または治療剤を製造するための、(1)または(4)記載のスクリーニング方法または(8)または(9)記載のスクリーニング用キットを用いて得られた化合物またはその塩の使用、(21)神経変性疾患の予防および/または治療剤を製造するための、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチド、または該蛋白質をコードするDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAの使用、(22)神経変性疾患の予防および/または治療剤を製造するための、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体、または該蛋白質をコードするDNAまたは該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAに相補的または実質的に相補的なDNAを含有するアンチセンスDNAの使用、(23)神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である(20)乃至(22)に記載の使用、(24)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNAもしくは該DNAに相補的または実質的に相補的なDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAもしくは該DNAに相補的または実質的に相補的なDNA、または該蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体を用いることを特徴とする神経変性疾患の診断剤、(25)神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である(24)に記載の剤、(26)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNAもしくは該DNAに相補的または実質的に相補的なDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAもしくは該DNAに相補的または実質的に相補的なDNA、または該蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体を用いることを特徴とする神経変性疾患の診断方法、(27)神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である(26)に記載の方法、(28)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質のゲノムが、該蛋白質とS−100βとの結合が変化されているように改変されている非ヒト動物疾患モデル、(29)該蛋白質とS−100βとの結合が、(a)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質の過剰発現:(b)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質の変異蛋白質の発現:(c)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質の発現の欠失:あるいは(d)配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質の発現の低下:の結果として変化されている(28)記載の非ヒト動物疾患モデルなどに関する。
【0011】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列としては、該アミノ酸配列を含有する蛋白質(以下、本発明の蛋白質と呼ぶこともある)が、S−100β(配列番号37で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質)との結合活性を有していれば如何なるアミノ酸配列であっても良い。
【0012】
また、本発明の蛋白質としては、例えば、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列からなるもの以外に、その一部のアミノ酸(好ましくは1−10個、より好ましくは1−5個)が欠失したもの、その一部のアミノ酸(好ましくは1−10個、より好ましくは1−5個)が他のアミノ酸と置換したもの、そのアミノ酸配列に数個のアミノ酸(好ましくは1−10個、より好ましくは1−5個)が付加または挿入されたもの、およびそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するものも含まれる。上記のようにアミノ酸配列が欠失、置換、付加または挿入されている場合、その位置は特に限定されない。
【0013】
また、本発明の蛋白質としては、その構成アミノ酸がカルボキシル基を持っていても良く、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されていても良い。エステルには、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキル基、フェニル、ナフチルなどのアリル基、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル基などによりエステル化されたものが含まれる。また、構成アミノ酸のアミノ基がホルミル基、アセチル基などで保護されていても良い。また、糖鎖が結合しているものなども本発明の蛋白質に含まれる。
【0014】
本発明の蛋白質の部分ペプチド(以下、本発明の部分ペプチドと呼ぶこともある)としては、上記の本発明の蛋白質の部分ペプチドであって、上記の本発明の蛋白質と同様の性質を有するものであればいずれのペプチドでも良い。例えば、本発明の蛋白質のアミノ酸配列のうち少なくとも10個以上、好ましくは30個以上、より好ましくは100個以上のアミノ酸配列を有するペプチドなどが用いられる。また、本発明の部分ペプチドとしては、そのアミノ酸配列中の一部のアミノ酸(好ましくは1−10個、より好ましくは1−5個)が欠失したもの、その一部のアミノ酸(好ましくは1−10個、より好ましくは1−5個)が他のアミノ酸と置換したもの、そのアミノ酸配列に数個のアミノ酸(好ましくは1−10個、より好ましくは1−5個)が付加または挿入されたもの、およびそれらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するものも含まれる。上記のようにアミノ酸配列が欠失、置換、付加または挿入されている場合、その位置は特に限定されない。
【0015】
また、本発明の部分ペプチドとしては、その構成アミノ酸がカルボキシル基を持っていても良く、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されていても良い。エステルには、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキル基、フェニル、ナフチルなどのアリル基、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキル基などによりエステル化されたものが含まれる。また、構成アミノ酸のアミノ基がホルミル基、アセチル基などで保護されていても良い。また、糖鎖が結合しているものなども本発明の部分ペプチドに含まれる。本発明の部分ペプチドは抗体作製のための抗原としても用いることができる。また、本発明の部分ペプチドは、本発明の蛋白質とS−100βとの結合を阻害する化合物のスクリーニングに用いることもできる。
【0016】
本発明で用いるS−100βとしては、配列番号37で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質以外に、実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドが含まれ、配列番号37で表されるアミノ酸配列からなる蛋白と同様の性質を有するものであればいずれの蛋白質あるいはペプチドでも良い。また、配列番号37で表されるアミノ酸配列からなる蛋白と同様の性質を有するものであればこれらのアミドもしくはエステルもしくは塩も好適に用いることができる。
【0017】
本発明の蛋白質および本発明の部分ペプチドの塩としては、酸(無機酸や有機酸など)または塩基(アルカリ金属塩など)などとの塩が用いられるが、生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(塩酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸など)との塩、または有機酸(蟻酸、酢酸、プロピオン酸、フマル酸、クエン酸、蓚酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、安息香酸など)との塩などが用いられる。
【0018】
本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)(以下、本発明のポリヌクレオチドと呼ぶこともある)としては、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよい。よく知られているように、ひとつのアミノ酸をコードするコドンは1〜6種類(例えば、Metは1種類、Leuは6種類)知られている。従って、蛋白質やペプチドのアミノ酸配列を変えることなくcDNAの塩基配列を変えることができる。そのような塩基配列置換によって、蛋白質やペプチドの生産性が向上することがある。本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、RNA、DNA-RNAハイブリッドのいずれでもよい。
【0019】
本発明の蛋白質をコードするDNA(以下、本発明のDNAと呼ぶこともある)としては、配列番号38乃至73および103乃至121からなる群から選択される配列番号で表される塩基配列を有するDNA以外に、該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、本発明の蛋白質と実質的に同じ性質を有する蛋白質をコードするDNAであればいかなるものであってもよい。そのようなDNAとしては、配列番号38乃至73および103乃至121からなる群から選択される配列番号で表される塩基配列と約90%以上、好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を有するDNAなどが挙げられる。ハイブリダイゼーションは、公知の方法、例えば、Molecular Cloning(Sambrook, J., Fritsch, E. F.およびManiatis, T. 著、Cold Spring Harbor Laboratory Pressより1989年に発刊)またはCurrent Protocol in Molecular Biology(F.M.Ausubelら編、John Wiley & Sons, Inc.より発刊)に記載の方法などに従って行うことができる。ストリンジェントな条件としては、例えば、65℃でのハイブリダイゼーション、および0.1 X SSC, 0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理を挙げることができる。
【0020】
本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAは、化学合成によって、または本発明の蛋白質または部分ペプチドの一部をコードする合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅することによって、あるいは本発明の蛋白質または部分ペプチドの一部をコードする合成DNAをプローブとしたハイブリダイゼーション法によって得ることができる。また、最近では、ヒトの種々の組織のcDNAライブラリーが市販されており、これらを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAをPCR法あるいはハイブリダイゼーション法によって取得するために使用する組織としては、ヒトの組織中、S−100βが作用すると考えられる組織、好ましくは脳である。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、Molecular Cloning(Sambrook, J., Fritsch, E. F.およびManiatis, T. 著、Cold Spring Harbor Laboratory Pressより1989年に発刊)またはGene, 10, 63 (1980)に記載の方法に従って行うことができる。このようにして得られたDNAは、該DNAを含有するベクターDNAを適当な宿主に導入し、これを増殖させることによって、必要量得ることができる。
【0021】
本発明の蛋白質または部分ペプチドを取得する方法としては、
(1)生体または培養細胞から精製単離する方法、
(2)ペプチド合成する方法、または
(3)遺伝子組み換え技術を用いて生産する方法、
などが挙げられるが、工業的には(3)に記載した方法が好ましい。
【0022】
遺伝子組み換え技術を用いて蛋白質またはペプチドを生産するための発現系(宿主−ベクター系)としては、例えば、細菌、酵母、昆虫細胞および哺乳動物細胞の発現系が挙げられる。
【0023】
例えば、大腸菌で発現させる場合には、成熟蛋白部分をコードするDNAの5’末端に開始コドン(ATG)を付加し、得られたcDNAを、適当なプロモーター(例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、λPLプロモーター、T7プロモーター等)の下流に接続し、大腸菌内で機能するベクター(例えば、pBR322、pUC18、pUC19等)に挿入して発現ベクターを作製する。次に、この発現ベクターで形質転換した大腸菌(例えば、E. Coli DH1、E. Coli JM109、E. Coli HB101株等)を適当な培地で培養して、その菌体より目的とする蛋白質またはペプチドを得ることができる。また、バクテリアのシグナルペプチド(例えば、pelBのシグナルペプチド)を利用すれば、ペリプラズム中に目的とする蛋白質またはペプチドを分泌することもできる。さらに、他のポリペプチドとのフュージョン・プロテイン(fusion protein)を生産することもできる。
【0024】
また、哺乳動物細胞で発現させる場合には、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAを適当なベクター(例えば、レトロウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、SV40系ベクター等)中の適当なプロモーター(例えば、SV40プロモーター、LTRプロモーター、メタロチオネインプロモーター等)の下流に挿入して発現ベクターを作製する。次に、得られた発現ベクターで適当な哺乳動物細胞(例えば,サルCOS−1細胞、COS−7細胞、チャイニーズハムスターCHO細胞、マウスL細胞等)を形質転換し、形質転換体を適当な培地で培養することによって、本発明の蛋白質または部分ペプチドが発現される。さらに、その他のポリペプチド、例えば抗体の定常領域(Fc portion)をコードするcDNA断片と連結することによって、フュージョン・プロテイン(fusion protein)を生産することもできる。
【0025】
また、昆虫細胞で発現させる場合には、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAを適当なプロモーター(ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター等)の下流に接続し、昆虫細胞で機能するウイルスベクターに挿入して発現ベクターを作製する。昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Sf細胞)が用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(BmN細胞)などが用いられる。Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(Vaughn,J.L.,イン・ヴィボ(In Vivo),1977年,第13巻,p213−217)が用いられる。昆虫としては、カイコの幼虫などが用いられる。昆虫細胞または昆虫を形質転換するには、例えば、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),1988年,第6巻,p47−55に記載の方法に従って行うことができる。
【0026】
また、酵母で発現させる場合には、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAを適当なプロモーター(PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等)の下流に接続し、酵母で機能するベクター(pSH19、pSH15等)に挿入して発現ベクターを作製する。次に、この発現ベクターで形質転換した酵母(例えば、サッカロミセス・セレビシエAH22, AH22R-, 20B-12、シゾサッカロミセス・ポンベNCYC1913、ピッキア・パストリスKM71等)を適当な培地で培養して、目的とする蛋白質またはペプチドを得ることができる。以上のようにして得られた蛋白質またはペプチドは、一般的な生化学的方法によって単離精製することができる。
【0027】
本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体は、本発明の蛋白質または部分ペプチドを認識しうる抗体であれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよい。本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体は、本発明の蛋白質または部分ペプチドを抗原として、公知の方法により製造することができる。本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体は、本発明の蛋白質と結合してこれを中和することができるので、S−100βが関連する疾患の予防および/または治療薬として用いることもできる。
【0028】
本発明のDNAのアンチセンスDNAまたはRNAは、本発明のDNAを上記のようなベクターのアンチセンス領域に挿入することでアンチセンスDNAまたはRNAを製造することができる。このようなアンチセンスDNAまたはRNAは、細胞中の本発明の蛋白質のレベルを下げることができるので、S−100βが関連する疾患の予防および/または治療薬として有用である。
【0029】
本発明は、本発明の蛋白質または部分ペプチドを用いることを特徴とする、S−100βが関連する疾患の予防および/または治療薬のスクリーニング方法に関する。S−100βとの結合を阻害する化合物のスクリーニングは、例えば、以下の方法により行なうことが出来る。すなわち、本発明の蛋白質または部分ペプチドを本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体を用いて固相(例えばEIAプレートなど)に固定化する。あるいは本発明の蛋白質または部分ペプチドにTag(例えばHis-Tag、GSTなど)を付けたものを固相に固定化する。これに、被験化合物とビオチンなどで標識したS−100βを加えて反応させる。本発明の蛋白質または部分ペプチドとS−100βとの結合の阻害の結果として遊離したS−100βを、ビオチンなどの標識体を検出する市販のキットまたはS−100βに対する抗体を用いて、検出、定量する。S−100βを遊離させる化合物を、本発明の蛋白質または部分ペプチドとS−100βとの結合を阻害する化合物として選択する。また、S−100βを固相に固定化し、これに被験化合物と本発明の蛋白質または部分ペプチドあるいは本発明の蛋白質または部分ペプチドにTagを付けたものを加えて反応させてもよい。S−100βを固相へ固定化する際には、例えばビオチンで標識したS−100βとアビジンで標識した固相が好ましく用いられる。ここに被験化合物を加え、遊離する本発明の蛋白質または部分ペプチドを本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体またはTagに対する抗体で検出、定量する。本発明の蛋白質または部分ペプチドを遊離させる化合物を結合阻害剤として選択する。
【0030】
本発明は、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAで形質転換された形質転換体を用いることを特徴とする、S−100βが関連する疾患の予防および/または治療薬のスクリーニング方法に関する。S−100βの活性を阻害する化合物のスクリーニングは例えば、以下の方法により行なうことが出来る。すなわち、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAで形質転換された形質転換体を上記の方法により作製する。該形質転換体(例えばU373MG細胞など)を培養プレートに撒き、増殖させる。ここに被験化合物とS−100β(例えばカルボキシメチル化S−100βなど)を加えて培養する。24時間後の培養上清を回収し、例えば、S−100β刺激の結果として産生されるMCP-1を、市販のMCP-1測定キットなどを用いて定量する。MCP-1量を減少させる化合物をS−100βの情報伝達を阻害する化合物として選択する。
【0031】
本発明のスクリーニング方法により得られる化合物、または本発明の蛋白質または部分ペプチド、または本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体は通常、全身的または局所的に、一般的には経口または非経口の形で投与される。好ましくは、経口投与、静脈内投与および脳室内投与である。
【0032】
投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人一人あたり、一回につき、100μgから100mgの範囲で、一日一回から数回経口投与されるかまたは、成人一人あたり、一回につき、10μgから100mgの範囲で、一日一回から数回非経口投与される。もちろん前記したように、投与量は種々の条件により変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて必要な場合もある。
【0033】
本発明化合物を投与する際には、経口投与のための固体組成物、液体組成物およびその他の組成物、非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤等として用いられる。
【0034】
経口投与のための固体組成物には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセルには、ソフトカプセルおよびハードカプセルが含まれる。
【0035】
このような固体組成物においては、一つまたはそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な希釈剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加物、例えば、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、安定化剤(ヒト血清アルブミン、ラクトース等)、溶解補助剤(アルギニン、アスパラギン酸等)を含有していてもよい。
【0036】
錠剤または丸剤は、必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の胃溶性あるいは腸溶性のフィルムで被膜してもよいし、また2以上の層で被膜してもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
【0037】
経口投与のための液体組成物は、薬学的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般に用いられる不活性な希釈剤(例えば、精製水、エタノール等)を含んでいてもよい。この様な組成物は、不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0038】
経口投与のためのその他の組成物としては、ひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、それ自体公知の方法により処方されるスプレー剤が含まれる。この組成物は不活性な希釈剤以外に亜硫酸水素ナトリウムのような安定剤と等張性を与えるような安定化剤、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムあるいはクエン酸のような等張剤を含有していてもよい。スプレー剤の製造方法は、例えば米国特許第2,868,691号および同第3,095,355号明細書に詳しく記載されている。
【0039】
本発明による非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性または非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を包含する。水性または非水性の溶液剤、懸濁剤としては、一つまたはそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な希釈剤と混合される。水性の希釈剤としては、例えば注射用蒸留水および生理食塩水が挙げられる。非水性の希釈剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(登録商標)等が挙げられる。
【0040】
このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ラクトース等)、溶解補助剤(例えば、アルギニン、アスパラギン酸等)のような補助剤を含んでいてもよい。
【0041】
本発明のDNAまたは本発明のDNAのアンチセンスDNAをS−100βが関連する疾患の予防および/または治療に使用する場合は、該DNAまたは該アンチセンスDNAを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、定法に従って、ヒトや哺乳動物に投与することができる。本発明のDNAまたは本発明のDNAのアンチセンスDNAは、そのままで、あるいは細胞への導入を促進するための補助剤(リポソーム、HVJリポソームなど)などの生理学的に認められる担体とともに製剤化して用いることができる。
【0042】
本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAもしくは該DNAに相補的なDNAは、例えば、プローブとして使用することにより、本発明の蛋白質をコードするDNAまたはmRNAを検出することができるので、S−100βが関連する疾患、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患を検査する試薬として有用である。また、本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体は、本発明の蛋白質を検出することができるので、上記疾患を検査する試薬として用いることができる。本発明の蛋白質あるいは本発明の蛋白質をコードするmRNAの過剰発現が検出された場合は、アルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患である可能性が高いと診断することができる。
【0043】
本発明のスクリーニング用キットは、本発明の蛋白質または部分ペプチドを含有するが、本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体を含んでいても良い。また、本発明のスクリーニング用キットは、本発明の蛋白質または部分ペプチドを産生する能力を有する細胞(好ましくは、本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAで形質転換された形質転換体(例えば動物細胞など)を含有するものも含まれる。
【0044】
本発明の蛋白質または部分ペプチドをコードするDNAを用いて、野生型または変異配列を有する該蛋白質または該部分ペプチドを過剰発現する動物(トランスジェニック動物と呼ばれる)、該蛋白質を発現しない動物(ノックアウト動物と呼ばれる)、または該蛋白質の発現が低下した動物を作製することができる。トランスジェニック動物、ノックアウト動物などは当業者によく知られている方法により作製することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の蛋白質は、S−100βとの結合活性を有し、S−100βの情報伝達に関与しているので、S−100βとの結合を阻害する物質やS−100βの情報伝達を阻害する物質のスクリーニングに有用である。また、該スクリーニングで得られうる化合物、該蛋白質、該蛋白質をコードするDNA、該DNAのアンチセンスDNA、該蛋白質に対する抗体は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患などの予防および/または治療に有用である。また、上記疾患であるかどうかの診断や疾患動物モデルの作製に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
実施例1
ウェスト-ウェスタン法によるS−100β結合蛋白質の同定
【0047】
cDNAライブラリーの構築およびウェスト-ウェスタン法は、細胞工学別冊8新細胞工学実験プロトコールに記載されている方法に従って行った。すなわち、ヒト脳由来mRNAを調製し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した後、大腸菌由来DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、RNase Hを用い第2鎖の合成を行った。合成終了後、T4 DNAポリメラーゼにより平滑化を行った。平滑化終了後、EcoRIリンカーライゲーションを行い、EcoRIおよびアルカリフォスファターゼ処理を行ったラムダgt11にT4リガーゼによりライゲーションを行った。ライゲージョン終了後、Gigapack(ストラタジーン社製)を用いてインビトロパッケージングを行った。パッケージング終了後、LE392に感染させ、タイターを確認し(3x106 インディペンデントクローン)、ライブラリーの増幅を行った。
【0048】
ウェスト-ウェスタン法は、ライブラリーをイソプロピル-β-D-ガラクトピラノシドにて誘導後、150mm シャーレ1枚当たり5x104プラーク発現させ、PVDF膜に転写させた。転写後、10%ブロックエース(雪印社製)にてブロッキング後、10μg/mLのS−100βおよび1mM カルシウムを含むトリス緩衝液に室温にて1時間インキュベーションを行った。インキュベーション終了後、リン酸緩衝液でPVDF膜を洗浄後、S100抗体と室温にて1時間インキュベーションを行った。インキュベーション終了後、リン酸緩衝液にて洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合させたイムノグロブリン抗体とインキュベーションを行った。次に、再びリン酸緩衝液でPVDF膜を洗浄後、ECL plus(アマシャムファルマシア社製)を用いて陽性クローンの検出を行った。陽性クローンは、SM緩衝液に単離したのち、シークエンスにより同定を行った。RP3-495010 (NCBI ID: AL031121、同定したアミノ酸配列を配列番号1に、塩基配列を配列番号38に示す)、RP11-160O5(NCBI ID:AC015821、同定したアミノ酸配列を配列番号2に、塩基配列を配列番号39に示す)、RP11-67G7(NCBI ID:AC011291、同定したアミノ酸配列を配列番号3に、塩基配列を配列番号40に示す)、RP1-287021(NCBI ID:AL136319、同定したアミノ酸配列を配列番号4に、塩基配列を配列番号41に示す)、RP3-509I19(NCBI ID:AL121834、同定したアミノ酸配列を配列番号5に、塩基配列を配列番号42に示す)、CTC-286C20(NCBI ID:AC027314、同定したアミノ酸配列を配列番号6に、塩基配列を配列番号43に示す)、RP11-444D3(NCBI ID:AL087322、同定したアミノ酸配列を配列番号7に、塩基配列を配列番号44に示す)、ZNF140-like protein(NCBI ID:AF155656、同定したアミノ酸配列を配列番号8に、塩基配列を配列番号45に示す)、RP11-451G1(NCBI ID:AC013727、同定したアミノ酸配列を配列番号9に、塩基配列を配列番号46に示す)、RP4-550H1(NCBI ID:AL035420、同定したアミノ酸配列を配列番号10に、塩基配列を配列番号47に示す)、FLJ12991(NCBI ID:AK023053、同定したアミノ酸配列を配列番号11に、塩基配列を配列番号48に示す)、FLJ22382(NCBI ID:AK026035、同定したアミノ酸配列を配列番号12に、塩基配列を配列番号49に示す)、IMAGE4423166(NCBI ID:BC033161、同定したアミノ酸配列を配列番号13に、塩基配列を配列番号50に示す)、IMAGE5261213(NCBI ID:BC036485、同定したアミノ酸配列を配列番号14に、塩基配列を配列番号51に示す)、FLJ41109(NCBI ID:AK123104、同定したアミノ酸配列を配列番号15に、塩基配列を配列番号52に示す)、FLJ42709(NCBI ID:AK124699、同定したアミノ酸配列を配列番号16に、塩基配列を配列番号53に示す)、SEC14-like2(NCBI ID:BC048337、同定したアミノ酸配列を配列番号17に、塩基配列を配列番号54に示す)、DKFZp313P011(NCBI ID:AL832467、同定したアミノ酸配列を配列番号18に、塩基配列を配列番号55に示す)、IMAGE2823852(NCBI ID:BC001102、同定したアミノ酸配列を配列番号19に、塩基配列を配列番号56に示す)、FLJ34134(NCBI ID:AK091453、同定したアミノ酸配列を配列番号20に、塩基配列を配列番号57に示す)、Precerebellin(NCBI ID:M58583、同定したアミノ酸配列を配列番号21に、塩基配列を配列番号58に示す)、FLJ13673(NCBI ID:AK02375、同定したアミノ酸配列を配列番号22に、塩基配列を配列番号59に示す)、Small glutamine-rich tetratricopeptide(NCBI ID:BC000390、同定したアミノ酸配列を配列番号23に、塩基配列を配列番号60に示す)、NT2RI2006071(NCBI ID:AK056262、同定したアミノ酸配列を配列番号24に、塩基配列を配列番号61に示す)、FLJ20542(NCBI ID:NM_017871、同定したアミノ酸配列を配列番号25に、塩基配列を配列番号62に示す)、KIAA0627(DDBJ ID:AB014527、同定したアミノ酸配列を配列番号26に、塩基配列を配列番号63に示す)、DKFZp451G202(NCBI ID:AL831955、同定したアミノ酸配列を配列番号27に、塩基配列を配列番号64に示す)、Zinc finger protein 3115BP(NCBI ID:AJ132592、同定したアミノ酸配列を配列番号28に、塩基配列を配列番号65に示す)、FLJ43968(NCBI ID:AK125956、同定したアミノ酸配列を配列番号29に、塩基配列を配列番号66に示す)、CGI-043(NCBI ID:AF151801、同定したアミノ酸配列を配列番号30に、塩基配列を配列番号67に示す)、DKFZp761H0421(NCBI ID:AL831813、同定したアミノ酸配列を配列番号31に、塩基配列を配列番号68に示す)、POGZ1(NCBI ID:NM_015100、同定したアミノ酸配列を配列番号32に、塩基配列を配列番号69に示す)、CUB/Sushi1 multiple domain1 protein(NCBI ID:AF333704、同定したアミノ酸配列を配列番号33に、塩基配列を配列番号70に示す)、FLJ12587(DDBJ ID:BD286600、同定したアミノ酸配列を配列番号34に、塩基配列を配列番号71に示す)、Catenin binding protein(NCBI ID:NM_014412、同定したアミノ酸配列を配列番号35に、塩基配列を配列番号72に示す)、MGC15730(NCBI ID:NM_032880、同定したアミノ酸配列を配列番号36に、塩基配列を配列番号73に示す)、MGC40157(NCBI ID:BC027986、同定したアミノ酸配列を配列番号84に、塩基配列を配列番号103に示す)、FLJ35113(NCBI ID:AK092432、同定したアミノ酸配列を配列番号85に、塩基配列を配列番号104に示す)、SNO oncogene(NCBI ID:X15219、同定したアミノ酸配列を配列番号86に、塩基配列を配列番号105に示す)、FLJ42213(NCBI ID: AK124207、同定したアミノ酸配列を配列番号87に、塩基配列を配列番号106に示す)、FLJ35109(NCBI ID:AK092428、同定したアミノ酸配列を配列番号88に、塩基配列を配列番号107に示す)、Basic transcription factor 3(NCBI ID:BC008062、同定したアミノ酸配列を配列番号89に、塩基配列を配列番号108に示す)、C11orf23(NCBI ID:NM_018312、同定したアミノ酸配列を配列番号90に、塩基配列を配列番号109に示す)、NAC transcription factor(NCBI ID:AK090650、同定したアミノ酸配列を配列番号91に、塩基配列を配列番号110に示す)、Sequence 23787 from Patent WO02068579(NCBI ID:CQ737853、同定したアミノ酸配列を配列番号92に、塩基配列を配列番号111に示す)、Sterile alpha motif domain 6(NCBI ID:BC012981、同定したアミノ酸配列を配列番号93に、塩基配列を配列番号112に示す)、CGI-024(NCBI ID:AF132958、同定したアミノ酸配列を配列番号94に、塩基配列を配列番号113に示す)、TRIB2 homolog 2(NCBI ID: NM_021643、同定したアミノ酸配列を配列番号95に、塩基配列を配列番号114に示す)、Fukutin related protein(NCBI ID:NM_024301、同定したアミノ酸配列を配列番号96に、塩基配列を配列番号115に示す)、ZNF37A(NCBI ID: AJ492195、同定したアミノ酸配列を配列番号97に、塩基配列を配列番号116に示す)、FLJ45802(NCBI ID:AK127702、同定したアミノ酸配列を配列番号98に、塩基配列を配列番号117に示す)、KIAA0293(NCBI ID:AB006631、同定したアミノ酸配列を配列番号99に、塩基配列を配列番号118に示す)、Transcription factor 20(NCBI ID:NM_005650、同定したアミノ酸配列を配列番号100に、塩基配列を配列番号119に示す)、Tetratricopeptide repeat3(NCBI ID: D83077、同定したアミノ酸配列を配列番号101に、塩基配列を配列番号120に示す)およびBAP28(NCBI ID:XM_375853、同定したアミノ酸配列を配列番号102に、塩基配列を配列番号121に示す)をS−100β結合蛋白質として同定した。
【0049】
実施例2
SiRNAを用いたS−100β結合蛋白質の機能解析
【0050】
10%ウシ胎児血清を含有したダルベッコ改変培地で培養したU373MG細胞を1ウェルあたり7.5x104個で24穴プレートに播種し、37℃で一晩培養した。次に、SiRNAとオリゴフェクタミン混合液を調製し、常法に従い遺伝子導入を行った。この時使用したSiRNAのセンス鎖の配列は次に示す。
陰性対照:5’−GCG CGC UUU GUA GGA UUC GdTdT−3’(配列番号74)
カテニン結合蛋白質:5’−GAG UAC GUG AUG CCC UUA CdTdT−3’(配列番号75)
CGI−043:5’−GAC UGG ACA GCA UCG UUG GdTdT−3’(配列番号76)
DKFZp761H0421:5’−GUA CUA CCA UGC UAA GAA CdTdT−3’(配列番号77)
POGZ1:5’−GCU GCC ACU GUG GAA UCU GdTdT−3’(配列番号78)
CUB/Sushi1:5’−GCU CCA UGU GGU GGA CAU CdTdT−3’(配列番号79)
FLJ12587:5’−GGA CAC ACU GCU GGA CCU CdTdT−3’(配列番号80)
MGC15730:5’−GUG UAA CUU CAA GAC AGA UdTdT−3’(配列番号81)
【0051】
遺伝子導入終了後、10%ウシ胎児血清を含有したダルベッコ改変培地に交換し、37℃で24時間培養した。次に無血清のダルベッコ改変培地に交換し、24時間培養を行った後、無血清のダルベッコ改変培地に10μmol/Lのカルボキシメチル化-リコンビナントS100を加えた培地に交換しU373MG細胞を刺激した。刺激後、24時間後の培養上清を回収しR&D社製MCP-1(monocyte chemotactic protein 1)測定キットを用いてMCP-1の定量を行った。
【0052】
S100結合蛋白質に対するSiRNAをU373MG細胞に導入することにより、カルボキシルメチル-S100(CM-S100)刺激によるMCP1の産生における影響を調べた結果を表1に示した。カテニン結合蛋白質、DKFZp761H0421、POGZ1、CUB/Sushi1、CGI-043においては、MCP-1の産生を抑制した。一方、DKFZp451G202、FLJ12587、MGC15730においては、MCP-1の産生を増強させた。

【0053】
実施例3
強制発現系を用いたS−100β結合蛋白質の機能解析
【0054】
10%ウシ胎児血清を含有したダルベッコ改変培地で培養したU373MG細胞を1ウェルあた
り7.5x104個で24穴プレートに播種し、37℃で一晩培養した。次に、pCIベクター(プロメガ社)に全長オープンリーディングフレームに組み込み、リポフェクタミン(インビトロジェン社)により遺伝子導入を行った。
【0055】
遺伝子導入終了後、10%ウシ胎児血清を含有したダルベッコ改変培地に交換し、37℃で24時間培養した。次に無血清のダルベッコ改変培地に交換し、48時間培養を行った後、無血清のダルベッコ改変培地に10μmol/Lのカルボキシメチル化-リコンビナントS100を加えた培地に交換しU373MG細胞を刺激した。刺激後、24時間後の培養上清を回収しR&D社製MCP-1測定キットを用いてMCP-1の定量を行った。
【0056】
S100結合蛋白質をU373MG細胞に強制発現させることにより、カルボキシルメチル-S100刺激によるMCP-1の産生に対する影響を調べた結果を表2に示す。FLJ12587、MGC15730はMCP-1の産生を抑制した.

【0057】
実施例4
RT-PCR法を用いた疾患組織でのS−100β結合蛋白質の発現解析
【0058】
ヒトtotal RNA 1μgよりスーパースクリプトIII(インビトロジェン社製,18080-051)を用いてcDNAを調製した。用いたRNAは、Total RNA(ヒト健常人黒質(Ambion社製:#6866,Lot#024P011003023A)、ヒトパーキンソン病黒質(Ambion社製:#6288,Lot#083P010103399A)、ヒト健常人大脳皮質(Ambion社製:#6870,Lot#013P011202039A)、ヒト 筋萎縮性側索硬化症 大脳皮質(Ambion社製:#6156,Lot#083P010103146A)、ヒト アルツハイマー病 大脳皮質(Biochain社製:#R1236035Alz,Lot#A508435)である。cDNA調製後、カテニン結合蛋白質、CGI-043、POGZ1、CUB/Sushi1、DKFZp761H0421、FLJ12587、MGC15730に関しては、オープンリーディングフレームについてPCRを行い、アガロースゲルに電気泳動を行うことにより半定量を行った。また、POGZ1に関しては、
5’-TGT GTC GCT ATA GCA CCT GCT GTT CTC GAG-3’ (配列番号82)
5’-TCAAATCTCCATCAGATCTAGGTCAGCTTC-3’ (配列番号83)
のプライマーを用いてPCRを行った。
【0059】
種々の疾患組織におけるS−100β結合蛋白質のmRNA発現量の評価を行った結果、ヒトパーキンソン病黒質においてFLJ12587のmRNA量の減少が認められた。また、ヒト筋萎縮性側索硬化症大脳皮質において、DKFZp761H0421のmRNA量の増加が認められた。さらに、ヒトアルツハイマー病大脳皮質において、POGZ1、DKFZp761H0421、MGC15730のmRNA量の増加が認められた(図1―4)。
【0060】
実施例5
SiRNAを用いたS−100β結合蛋白質BAP28およびFukutin related protein (FKRP)の機能解析
【0061】
10%ウシ胎児血清を含有したダルベッコ改変培地で培養したU373MG細胞を1ウェルあたり4x104個で24穴プレートに播種し、37℃で一晩培養した。次に、SiRNAとQiagen社製トランスメッセンジャートランスフェクション試薬混合液を調製し、常法に従い遺伝子導入を行った。この時使用したSiRNAのセンス鎖の配列は次に示す。
陰性対照:5’−GCG CGC UUU GUA GGA UUC GdTdT−3’(配列番号74)
BAP28:5’−GCA GAU UGA GAA GAA CUG GdTdT−3’(配列番号122)
FKRP:5’−GCA ACC ACU UGC ACG UGG AdTdT−3’(配列番号123)
【0062】
遺伝子導入終了後、10%ウシ胎児血清を含有したダルベッコ改変培地に交換し、37℃で24時間培養した。次に無血清のダルベッコ改変培地に交換し、24時間培養を行った後、無血清のダルベッコ改変培地に10μmol/Lのカルボキシメチル化-リコンビナントS100または、0.3ng/mLリコンビナントIL1βを加えた培地に交換しU373MG細胞を刺激した。刺激後、24時間後の培養上清を回収しR&D社製MCP-1(monocyte chemotactic protein 1)測定キットを用いてMCP-1の定量を行った。
【0063】
S100結合蛋白質に対するSiRNAをU373MG細胞に導入することにより、カルボキシルメチル-S100(CM-S100)刺激によるMCP1の産生における影響を調べた結果を表3に示した。BAP28、FKRPにおいて、MCP-1の産生を抑制した。一方、BAP28は、リコンビナントIL1β刺激によるMCP1の産生を抑制しなかった(表4)。

【0064】

【0065】
実施例6
RT-PCR法を用いた疾患組織でのS−100β結合蛋白質FKRPの発現解析
【0066】
ヒトtotal RNA 1μgよりスーパースクリプトIII(インビトロジェン社製,18080-051)を用いてcDNAを調製した。用いたRNAは、ヒト健常人大脳皮質(Ambion社製:#6870,Lot#013P011202039A)、ヒト 筋萎縮性側索硬化症 大脳皮質(Ambion社製:#6156,Lot#083P010103146A)、ヒト アルツハイマー病 大脳皮質(Biochain社製:#R1236035Alz,Lot#A508435)である。cDNA調製後、PCRを行い、アガロースゲルに電気泳動を行うことにより半定量を行った。また、FKRPの増幅には下記のプライマーを使用してPCRを行った。
【0067】
5’-GGT GCA GCT GCT GGA CTT GAC CTT C-3’ (配列番号124)
5’-TCA GCC GCT TCC CGT CAG ACT CAG C-3’ (配列番号125)
【0068】
種々の疾患組織におけるS−100β結合蛋白質のmRNA発現量の評価を行った結果、ヒト筋萎縮性側索硬化症大脳皮質およびヒトアルツハイマー病大脳皮質において、FKRPのmRNA量の増加が認められた(図5)。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の蛋白質は、S−100βとの結合活性を有し、さらに、S−100βの情報伝達に関与しているので、S−100βとの結合を阻害する物質やS−100βの情報伝達を阻害する物質のスクリーニングに有用である。また、該スクリーニングによって得られうる化合物、本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体、または本発明のDNAのアンチセンスDNAは、S−100βが関与する疾患の予防および/または治療に有用である。S−100βが関与する疾患としては、神経変性疾患(アルツハイマー病、クロイツフェルトヤコブ病、パーキンソン病、ハンチントン病、オリーブ橋小脳萎縮症、筋萎縮性側索硬化症等)、ダウン症、ボクサー症、進行性核上麻痺、星状膠細胞腫、脳卒中や脳外傷後の神経機能障害、多発性硬化症、痴呆、精神分裂症、てんかん、不安、嘔吐、偏頭痛、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、神経細胞死、うつ病、睡眠障害、食欲不振などの摂食障害、尿失禁、低酸素症、脳梗塞、脳腫瘍、高酸素痙攣および高酸素毒症、炎症性もしくは神経障害性疼痛、髄膜炎などが挙げられる。また、本発明の蛋白質または部分ペプチドに対する抗体、または本発明のDNAまたはそのアンチセンスDNAは、上記疾患であるかどうかの診断や疾患動物モデルの作製に有用である。また、S−100βとの結合活性を有し、さらに、S−100βの情報伝達を制御している本発明の蛋白質については、本発明の蛋白質または部分ペプチドまたは本発明のDNAを、S−100βが関与する上記の疾患の予防および/または治療に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】健常人およびパーキンソン病組織におけるS−100β結合蛋白質FLJ12587のmRNA発現量を示す(N:健常人、PARK:パーキンソン病)。
【図2】健常人、筋萎縮性側索硬化症およびアルツハイマー病組織におけるS−100β結合蛋白質DKFZp761H0421のmRNA発現量を示す(N:健常人、ALS:筋萎縮性側索硬化症、Alz:アルツハイマー病)。
【図3】健常人およびアルツハイマー病組織におけるS−100β結合蛋白質POGZ1のmRNA発現量を示す(N:健常人、Alz:アルツハイマー病)。
【図4】健常人およびアルツハイマー病組織におけるS−100β結合蛋白質MGC15730のmRNA発現量を示す(N:健常人、Alz:アルツハイマー病)。
【図5】健常人、筋萎縮性側索硬化症およびアルツハイマー病組織におけるS−100β結合蛋白質FKRPのmRNA発現量を示す(N:健常人、ALS:筋萎縮性側索硬化症、Alz:アルツハイマー病)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを用いることを特徴とする、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βとの結合を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法。
【請求項2】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βとの結合を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法であって、被験化合物の存在下で配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βを接触させ、被験化合物の非存在下で配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βを接触させ、遊離される配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドの量を測定し、被験化合物の存在下で遊離される配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドの量と被験化合物の非存在下で遊離される配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドの量を比較することからなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βとの結合を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法であって、被験化合物の存在下で配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βを接触させ、被験化合物の非存在下で配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βを接触させ、遊離されるS−100βの量を測定し、被験化合物の存在下で遊離されるS−100βの量と被験化合物の非存在下で遊離されるS−100βの量を比較することからなる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを産生する能力を有する細胞を用いることを特徴とする、S−100βによる該細胞における活性を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法。
【請求項5】
S−100βの活性発現を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法であって、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを産生する能力を有する細胞に被験化合物の存在下あるいは非存在下でS−100βを接触させ、S−100βの活性を測定し、被験化合物の存在下と非存在下の活性を比較することからなる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
神経変性疾患の予防および/または治療用化合物を探索するための請求項1または4に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを含有する、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドとS−100βとの結合を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング用キット。
【請求項9】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドを産生する能力を有する細胞を含有する、S−100βによる該細胞における活性発現を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング用キット。
【請求項10】
請求項1または4記載のスクリーニング方法または請求項8または9記載のスクリーニング用キットを用いて得られた化合物またはその塩。
【請求項11】
請求項1または4記載のスクリーニング方法または請求項8または9記載のスクリーニング用キットを用いて得られた化合物またはその塩を含有してなる医薬組成物。
【請求項12】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質、または該蛋白質の部分ペプチド、または該蛋白質をコードするDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAを含有してなる医薬組成物。
【請求項13】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体、または該蛋白質をコードするDNAまたは該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAに相補的または実質的に相補的なDNAを含有するアンチセンスDNAを含有してなる医薬組成物。
【請求項14】
神経変性疾患の予防および/または治療剤である請求項11乃至13記載の医薬組成物。
【請求項15】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1または4記載のスクリーニング方法または請求項8または9記載のスクリーニング用キットを用いて得られた化合物またはその塩の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における神経変性疾患の予防および/または治療方法。
【請求項17】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチド、または該蛋白質をコードするDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAの有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における神経変性疾患の予防および/または治療方法。
【請求項18】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体、または該蛋白質をコードするDNAまたは該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAに相補的または実質的に相補的なDNAを含有するアンチセンスDNAの有効量を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物における神経変性疾患の予防および/または治療方法。
【請求項19】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である請求項16乃至18に記載の方法。
【請求項20】
神経変性疾患の予防および/または治療剤を製造するための、請求項1または4記載のスクリーニング方法または請求項8または9記載のスクリーニング用キットを用いて得られた化合物またはその塩の使用。
【請求項21】
神経変性疾患の予防および/または治療剤を製造するための、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチド、または該蛋白質をコードするDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAの使用。
【請求項22】
神経変性疾患の予防および/または治療剤を製造するための、配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体、または該蛋白質をコードするDNAまたは該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAに相補的または実質的に相補的なDNAを含有するアンチセンスDNAの使用。
【請求項23】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である請求項20乃至22に記載の使用。
【請求項24】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNAもしくは該DNAに相補的または実質的に相補的なDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAもしくは該DNAに相補的または実質的に相補的なDNA、または該蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体を用いることを特徴とする神経変性疾患の診断剤。
【請求項25】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である請求項24に記載の剤。
【請求項26】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質をコードするDNAもしくは該DNAに相補的または実質的に相補的なDNA、または該蛋白質の部分ペプチドをコードするDNAもしくは該DNAに相補的または実質的に相補的なDNA、または該蛋白質または該蛋白質の部分ペプチドに対する抗体を用いることを特徴とする神経変性疾患の診断方法。
【請求項27】
神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病または筋萎縮性側索硬化症である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質のゲノムが、該蛋白質とS−100βとの結合が変化されているように改変されている非ヒト動物疾患モデル。
【請求項29】
該蛋白質とS−100βとの結合が、
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質の過剰発現:
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質の変異蛋白質の発現:
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質の発現の欠失:あるいは
配列番号1乃至36および84乃至102からなる群から選択される配列番号で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有する蛋白質の発現の低下
の結果として変化されている請求項25記載の非ヒト動物疾患モデル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−147282(P2007−147282A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217442(P2004−217442)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】