説明

S1P受容体モジュレーターの投与計画

プラスの効果/リスクプロファイルをもたらす投与計画に従ってS1P受容体モジュレーターを投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性または自己免疫性の疾患もしくは障害(例えば、多発性硬化症(MS))に罹患した患者の治療過程におけるS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与計画に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症は、青年の神経障害や中枢神経系の最も一般的な脱髄障害の主要な原因である。インターフェロンβや酢酸グラチラマー等の利用可能な療法は、効力が弱く障害の進行に対して僅かな作用しか及ぼさない。これらの生物学的薬剤は非経口投与され、注射部位反応や発熱症状、例えばインフルエンザ様の症状等を伴う。従って、多発性硬化症の安全かつ有効な経口治療法が医療上強く望まれている。
【0003】
治療を受けている多発性硬化症の患者のうち、かなりの人数が臨床的に見て疾患活動が続いているか、または、インフルエンザ様の症状や即時型注射後反応、注射部位反応を含む副作用を経験している。その結果、かなりの人数の患者が未治療であり、疾患が活発な人も多く含まれる。これらのMS患者は、既存の療法を試したものの、不耐性、有害作用または効力の不足から治療を中止したか、あるいは、有害作用の懸念、自己注射の不安、針の不安、また、現在利用できる選択肢が試すに値するほど十分に有効ではないとの考えから、いずれの療法も未だ始めていない。従って、起こり得る有害事象や副作用を制限または低減する、MSにおいて有効な新規療法が望まれているが、未だに解決されていない。
【0004】
S1P受容体モジュレーターは、アゴニストとして1種以上のスフィンゴシン1−ホスフェート受容体(例えば、S1P1〜S1P5)にてシグナリングを担う化合物である。S1P受容体へ結合するアゴニストは、例えば、細胞内ヘテロ三量体Gタンパク質をGα−GTPとGβγ−GTPへ解離させたり、および/または、アゴニストで占拠された受容体のリン酸化を促進して下流のシグナリング経路/キナーゼを活性化したりすることが可能である。
【0005】
S1P受容体モジュレーターは、哺乳動物(特にヒト)における各種状態を治療するための医薬品の製造にとって有用な化合物である。例えば、移植における効力がラット(皮膚、心臓、肝臓、小腸)、イヌ(腎臓)およびサル(腎臓)モデルで実証されている。その免疫調節能のため、S1P受容体モジュレーターは炎症性および自己免疫性の疾患の治療にも有用である。このような疾患の治療には、通常、医薬品を長期間摂取することや、適切な薬物投与計画を経時的に維持することが必要である。
【0006】
経口フィンゴリモドは、スフィンゴシン1−ホスフェート受容体モジュレーターと呼ばれる新規クラスの治療薬における最初の化合物である。フィンゴリモドは、リンパ節においてリンパ球の一部を可逆的に捕捉することにより血流中を循環するリンパ球数を減少させると考えられている。その結果、脳に到達する活性化リンパ球数が減少し、炎症性破壊が軽減する。これはMSにとって新たな作用機序である。
【0007】
多発性硬化症の治療におけるFTY720の効力は、ヒトで示されている(例えば、非特許文献1および非特許文献2に記載)。
【0008】
フィンゴリモド等のS1P受容体モジュレーターの投与により、有害事象(例えば、治療開始時の心伝導や心拍数の一時的な減少)が誘導される場合がある。特に、1.25mgのFTY720を投与すると、およそ8拍/分の心拍数の減少が誘導されることが記載されている(非特許文献3)。
【0009】
このような起こり得る有害事象のため、心リズムが許容されるレベルに維持され、かつ、高度房室ブロックが起こらないことを確認するために、化合物の患者への投与は十分かつ一定の医学的コントロールのもとで行わなければならないだろう。患者は病院に入院しなければならない場合もあり、処置が複雑になって治療費も増加する。薬物治療の際に有害事象が起これば、患者を入院させたり、既に入院している場合は入院が長引かせたりすることになる。
【0010】
このような起こり得る事象によって、医学的なサポートや勧めを待たずに患者が治療を中断したり、勧められた投与計画を勝手に変更したり、医薬品を不規則に摂取したりする場合もある。一方、炎症性または自己免疫性の疾患(例えば、多発性硬化症)の治療に対しては、適切な医薬品を長期間(時には患者の全人生)にわたって摂取することと、適切な薬物投与計画をこのような長期間にわたって維持することが最も重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“FTY720 therapy exerts differential effects on T cell subsets in multiple sclerosis”. Mehling M, et al., Neurology. 2008 Oct 14; 71(16):1261-7
【非特許文献2】“Oral fingolimod (FTY720) for relapsing multiple sclerosis”. Kappos L, Antel J, Comi G, Montalban X, O'Connor P, Polman CH, Haas T, Korn AA, Karlsson G, Radue EW; FTY720 D2201 Study Group. N Engl J Med. 2006 Sep 14; 355(11):1124-40
【非特許文献3】“FTY720: Placebo-Controlled Study of the Effect on Cardiac Rate and Rhythm in Healthy Patients”, Robert Schmouder, Denise Serra, Yibin Wang, John M. Kovarik, John DiMarco, Thomas L. Hunt and Marie-Claude Bastien. J. Clin. Pharmacol. 2006; 46; 895
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、このようなS1P受容体モジュレーターの投与対象の疾患を治療または予防するのに適した投与量を必要な治療期間投与しながらも、当該化合物の投与によって起こり得る有害事象を低減または管理することが望まれている。
【0013】
具体的には、炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)を治療するための効率的な治療法を、多くの多発性硬化症患者、例えば、当該起こり得る有害事象に曝される頻度や感受性が高い患者、炎症性または自己免疫性の疾患または障害の治療や診断を一度も受けていない患者等へ提供することが望まれている。
【0014】
さらにまた、患者のコンプライアンスを改善することも望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の簡単な開示
驚くべきことに、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト(例えば、フィンゴリモド)を本発明の特定の投与計画または治療方法に従って投与することにより、このような化合物の投与に伴って起こり得る有害事象(例えば、副作用)をコントロール、低減または排除しながら患者を効率的に治療できることを見出した。
【0016】
さらなる効果は、本発明の投与計画および治療方法によって、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト(例えば、フィンゴリモド)を、医薬品の摂取に気が進まなかった患者や医薬品の摂取を指示できなかった患者へ投与できる点にある。特に、リスク/効果比が余り良くない炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)に罹患した患者の治療が可能となる。このような患者は、例えば、心臓もしくは心リズム、呼吸機能、眼球、肝機能に影響を及ぼす1つ以上の疾患または障害に罹患しやすいか、あるいは、罹患している患者である。投与計画を中断したり、途中で休んだり(例えば、10日以上休んだり)したことのある患者も対象となる。
【0017】
さらにまた、本発明の投与計画および治療方法は、炎症性または自己免疫性の疾患の治療を既に受けている患者(例えば、多発性硬化症の治療中の患者)の他、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの摂取以前に炎症性または自己免疫性の疾患の治療や診断を受けたことの無い患者に適用可能である。
【0018】
本発明の投与計画(dosage regimen)はS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト療法の投与計画であり、これにより、治療的投与量範囲のS1P受容体の投与が、S1P受容体モジュレーター療法に伴う可能性があるとされてきた副作用をコントロールまたは最小限にして達成できる。
【0019】
本発明の別の効果は、炎症性または自己免疫性の疾患(例えば、多発性硬化症)の治療計画を提供することであり、当該治療計画は個別化(personalized)することができ、例えば、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与に伴うとされてきた有害事象をコントロール、低減または排除しながら疾患を治療する(または疾患の重篤度を下げる)よう、治療対象の患者の特定のプロファイル、および/または、この患者の疾患の状態へ合わせることができる。例えば、患者が罹患している可能性のある他の疾患や障害、心臓の疾患や障害に罹患しているか否か等に応じて患者が摂取する可能性のある他の医薬品を考慮して、本発明の治療計画(therapeutic regimen)を個別化してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト
本発明によれば、本発明の特定のS1P受容体モジュレーターは2−アミノ−2−テトラデシル−1,3−プロパンジオールである。S1P受容体モジュレーターの一例はフィンゴリモド(FTY720)、即ち、2−アミノ−2−[2−(4−オクチルフェニル)エチル]プロパン−1,3−ジオールの遊離体または薬学的に許容される塩の形態、例えば、以下に示す塩酸塩である:
【0021】
【化1】

【0022】
本発明の別の特定のS1P受容体モジュレーターは、以下に示すFTY720のリン酸化誘導体であり、フィンゴリモド−リン酸(phosphate)とも呼ばれる:
【0023】
【化2】

【0024】
好ましくは、本発明のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えば、フィンゴリモドの遊離体、薬学的に許容される塩の形態またはフィンゴリモド−リン酸は、経口投与される。
【0025】
投与計画
先に述べたように、本発明は、治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患もしくは障害を治療するための新規な投与計画および方法を提供し、当該計画および方法は、当該患者へS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体(phosphate derivative)、または、それらの薬学的に許容される塩を投与することを含み、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与に伴う可能性のある有害事象をコントロール、制限、低減または排除しながら疾患を治療または疾患の重篤度を下げるよう投与を行う。例えば、治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害を治療する方法が提供され、当該方法は、当該患者へS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を投与することを含み、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与に伴う可能性のある有害事象をコントロール、制限、低減または排除しながら疾患の症状を低減または排除するよう投与を行う。
【0026】
本発明によれば、FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩をその投与を必要とする患者へ投与する方法が提供され、好ましくは、治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)を治療し、それに伴う症状またはその進行を制限する方法を云う。特に、治療を必要とする患者のRRMSを治療し、それに伴う症状またはその進行を制限する方法を云う。
【0027】
本発明によれば、用語「治療(treatment)」または「治療する(treat)」とは、予防(prophylactic)または予防(preventive)処置(treatment)並びに治療(curative)または疾患緩和処置の双方を意味し、疾患または障害に罹患する危険性のある患者、あるいは、疾患または障害に罹患した疑いのある患者、並びに、病気の患者または疾患または障害に罹患したと診断された患者の処置を含む。
【0028】
本発明にかかる自己免疫性の疾患または障害は、好ましくは慢性の長期疾患、例えば多発性硬化症(MS)であり、例えば再発寛解型多発性硬化症(RRMS)または一次性進行型多発性硬化症(PPMS)であり、例えばRRMSである。MSには複数の型があり、新たな症状が不連続に発症するか(再発型)、時間の経過に伴って徐々に蓄積する(進行型)。
【0029】
本発明にかかる投与計画および治療方法は、多発性硬化症、例えばRRMSに特に適合する。
【0030】
本明細書中では、多発性硬化症の治療とは、臨床増悪の頻度を減らすか、多発性硬化症により引き起こされる身体的障害の蓄積を遅らせることを意味するが、これらに限定されない。疾患の症状を制限することも意味する。
【0031】
本明細書中では、多発性硬化症に伴う症状または障害には神経症状、身体的・認知的障害および神経精神障害が含まれる。
【0032】
本明細書中では、有害事象とは、処置を受けている患者や処置完了後の規定された期間内に起こる任意の健康上の不都合な変化を意味する。有害事象をコントロールするとは、患者の健康が危険に曝されないよう、または、患者の総合的な健康が悪化せずに処置が続けられるよう、このような事象の拡大、結果、帰結または影響を制限することを意味する。有害事象は必ずしも医薬品自体に関連するわけではなく、治療中の炎症性または自己免疫性の疾患または障害に関連する場合もあれば、患者がさらに罹患した別の疾患または障害に関連する場合もある。
【0033】
本発明によれば、有害事象の低減とは、患者の安全性に対して許容されるレベルまで事象(例えば、副作用)を低減することを意味し、例えば、特定の治療および/または特定の医療、入院もしくは医療モニタリングを必要とするものではない。例えば、有害事象の低減とは、患者のコンプライアンスにとって許容されるレベルまで事象を低減することを意味する。
【0034】
本発明によれば、有害事象の制限とは、患者における有害事象(例えば、副作用)の数または発生を、患者にとって許容される数または発生まで制限すること意味し、例えば、特定の治療および/または特定の医療、入院もしくは医療モニタリングを必要とするものではない。例えば、有害事象の制限とは、有害事象の数または発生を、患者の安全性および/またはコンプライアンスにとって許容される数または発生まで制限することを意味する。
【0035】
起こり得る有害事象のモニタリングは上述のように行えばよく、例えば、眼の検査、皮膚科の検査、肺機能試験、胸部X線および/またはCT、ホルターモニタリング、および/または心エコーにより行うことができる。本発明の特定の実施態様では、有害事象のモニタリングおよび報告には、徐脈、失神または失神前状態、重篤感染、肝毒性および黄斑浮腫のモニタリングおよび報告が含まれる。
【0036】
本明細書中では、フィンゴリモド(FTY720)処置患者とは、本発明にかかる炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えばMS、例えばRRMS)を治療するためにフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体(即ち、フィンゴリモド−リン酸)、または、それらの薬学的に許容される塩を投与される患者を意味する。
【0037】
本明細書中では、フィンゴリモドの処方を必要とする患者とは、本発明にかかる炎症性または自己免疫性の疾患または障害に罹患した患者(例えば、MS患者)を意味する。
【0038】
フィンゴリモド(FTY720)処置患者およびフィンゴリモドの処方を必要とする患者は、炎症性または自己免疫性の疾患または障害の治療を受けたことの無い患者(例えば、MSの治療または予防処置を受けたことの無い患者)の他、炎症性または自己免疫性の疾患または障害の治療を過去に1回以上受けたことのある患者(例えば、MSの治療を過去に1回以上受けたことのある患者)であってもよい。
【0039】
多発性硬化症の治療における本発明のS1Pモジュレーターの有効性は、当業者に既知の医学的な標準・基準によって評価可能である。例えば、多発性硬化症の年間再発率により評価可能である。
【0040】
例えば、本発明のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与量は、再発率が45%以上、例えば50%以上、例えば60%以上低下する場合に、疾患の治療や疾患に伴う症状の低減(例えば、多発性硬化症の治療)に対して有効であると考えることができる。
【0041】
別の実施態様では、多発性硬化症の治療における本発明のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの有効性は、例えばKurtzkeの総合障害評価尺度(Expanded Disability Status Scale;EDSS)に従って、障害の進行により評価する。Kurtzkeの総合障害評価尺度(EDSS)は、多発性硬化症の障害を定量化する方法である。EDSSは、8つの機能系(Functional System;FS)における障害を定量化し、機能系の各々における機能系スコア(Functional System Score;FSS)を神経学者が指定できるようにする。例えば、本発明のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与量は、患者の障害の進行が少なくとも25%、例えば少なくとも30%、例えば少なくとも32%遅くなる場合に、疾患の治療や疾患に伴う症状の低減(例えば、多発性硬化症の治療)に対して有効であると考えることができる。
【0042】
本発明の投与計画の有効性は、脳の病変を例えば磁気共鳴像(RMI)スキャンによって測定することで評価してもよい。
【0043】
モニタリング
本発明は、治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害を治療するための投与計画および方法を提供し、当該計画および方法は、当該患者へ治療上有効量のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを投与することを含み、以下の工程を含む:
i)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後に特定の期間患者をモニタリングする工程、および
ii)必要に応じて当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与を中断、および/または、その治療計画を改変、および/または、当該起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物を投与する工程。
【0044】
このような投与計画は、例えば多発性硬化症に罹患した患者におけるフィンゴリモドの投与に特に適合する。
【0045】
さらにまた、炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)の治療に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩が提供され、当該治療には以下の工程が含まれる:
i)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後に特定の期間患者をモニタリングする工程、および
ii)必要に応じて当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与を中断、および/または、その治療計画を改変、および/または、当該起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物を投与する工程。
【0046】
特定の実施態様では、本発明は、多発性硬化症の治療に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩、例えばFTY720の塩酸塩を提供し、当該治療には以下の工程が含まれる:
i)FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩の初回投与後に特定の期間患者をモニタリングする工程、および
ii)必要に応じてFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩の投与を中断、および/または、その治療計画を改変、および/または、当該起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物を投与する工程。
【0047】
本発明はさらに、炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)の治療方法に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩に関し、当該方法には以下の工程が含まれる:
i)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後に特定の期間患者をモニタリングする工程、および
ii)必要に応じて当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与を中断、および/または、その治療計画を改変、および/または、当該起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物を投与する工程。
【0048】
特定の実施態様では、本発明は、多発性硬化症の治療方法に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩に関し、当該治療には以下の工程が含まれる:
i)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後に特定の期間患者をモニタリングする工程、および
ii)必要に応じて当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与を中断、および/または、その治療計画を改変、および/または、当該起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物を投与する工程。
【0049】
本発明によれば、工程ii)で行う操作は工程i)で得られた結果に依存する。
【0050】
S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストがフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩から選択される場合、治療計画を改変する工程は、約0.5mgよりも少ない1日投与量の薬物を投与し、次いで投与量を約0.5mgの1日投与量まで増加させることからなっていてもよい。薬物の1日投与量は例えばタイトレーションにより段階的に増加させてもよい。0.5mgよりも多い1日投与量、例えば約1.0mgまたは約1.25mgの1日投与量の薬物を投与することからなっていてもよい。
【0051】
本発明の特定の実施態様では、例えば、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストがフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩から選択される場合、治療計画を改変する工程は、連続する2回の医薬品投与の間隔を長くすることからなっていてもよい。
【0052】
本発明によれば、患者のモニタリング、即ち、起こり得る有害事象をコントロール、制限または排除するために、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩で処置された患者に行う特定のモニタリングが提供され、当該モニタリングは医薬品の投与前および/または投与時に行う。
【0053】
本発明の患者のモニタリングは、
a)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与の全期間にわたって、感染(infections)または外寄生(infestations)(例えば、ウイルス感染)をモニタリングする、および/または
b)眼科の検査を行う
ことを含む。
【0054】
患者のモニタリングは、以下のうち1つ以上の工程をさらに含んでいてもよい:
c)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後少なくとも最初の何時間かの間患者の心拍数をモニタリングする工程、
d)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後最初の何時間かの間患者を観察して患者の心拍数をモニタリングする工程、
e)肝機能試験を行う工程、
f)皮膚科の検査を行う工程、
g)肺機能試験を行う工程。
【0055】
患者のモニタリングは、以下のうち1つ以上の工程をさらに含んでいてもよい:
h)全血球計算(CBC)を求める工程、
i)リンパ球を計数および/または主要な血液パラメータを記録する工程、
j)生命徴候、例えば心拍数、血圧(例えば、動脈血圧)をモニタリングおよび/または記録する工程、
k)心臓障害をモニタリングおよび/または記録する工程、
l)他の有害事象または副作用をモニタリングおよび/または記録する工程。
【0056】
本発明はまた、炎症性または自己免疫性の疾患または障害に罹患した患者のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストでの処置に伴って起こり得る有害事象をコントロール、低減または排除するための投与計画および方法を提供し、当該計画および方法は、当該患者へ治療上有効量の当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを投与することを含み、当該方法は、
i)上記で定義したような患者のモニタリング、および
ii)必要に応じて当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与を中断、および/または、その治療計画を改変する
ことを含む。
【0057】
本発明の一実施態様では、本発明の患者のモニタリングは以下の工程のうち1つ以上を含んでいてもよく、必要に応じて全ての工程を含んでいてもよい:
− 全血球計算(CBC)、
− リンパ球の計数、
− 肝酵素の分析、
− 生命徴候、例えば心拍数、血圧(例えば、動脈血圧)のモニタリングおよび/または記録、
− 水痘等に関するウイルス感染歴またはウイルス血清学の検査、
− 感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)のモニタリングおよび/または記録、
− 皮膚科の検査、
− 眼科の検査、
− 肺機能の検査、
− 心臓障害のモニタリングおよび/または記録、
− 主要な血液パラメータのモニタリングおよび/または記録、
− 肝機能試験のモニタリングおよび/または記録、
− 他の有害事象または副作用のモニタリングおよび/または記録。
【0058】
好ましくは、本発明の患者のモニタリングは以下の工程のうち1つ以上を含み、必要に応じて全ての工程を含む:
− 全血球計算(CBC)、
− 肝酵素の分析、
− 眼科の検査、および
− 水痘等に関するウイルス感染歴またはウイルス血清学の検査、
− 感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)のモニタリングおよび/または記録。
【0059】
本発明の患者のモニタリングは、以下の工程をさらに含んでいてもよい:
− 心電図(ECG)を医薬品の投与開始時等に設ける工程、および/または
− 投与開始前に水痘−帯状疱疹ウイルス(VZV)等に対するワクチン接種を患者に行う工程。
【0060】
本明細書中では、本発明の患者のモニタリングは上述のモニタリング工程の1つ以上を含んでいればよい。
【0061】
本発明の一実施態様では、患者のモニタリングは以下の工程を含む:
− 感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 眼科の検査を行う工程、
また、必要に応じてさらに以下の工程を含む:
− 特定のカテゴリーの患者に対して心臓障害をモニタリングおよび/または記録する工程、および/または
− 皮膚科の検査を行う工程。
【0062】
本発明の別の実施態様では、患者のモニタリングは以下の工程を含む:
− 感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)のモニタリングおよび/または記録、
− 眼科の検査、
− 特定のカテゴリーの患者等に対する心臓障害のモニタリングおよび/または記録、
− 肝機能試験;
また、必要に応じてさらに以下の工程を含む:
− 皮膚科の検査。
【0063】
本発明のさらなる実施態様では、患者のモニタリングは以下の工程を含む:
− 患者の心拍数をモニタリングする工程、
− 感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 眼科の検査を行う工程、
また、必要に応じてさらに以下の工程を含む:
− 皮膚科の検査を行う工程。
【0064】
本発明のさらに別の実施態様では、患者のモニタリングは以下の工程を含む:
− 感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 投与開始後最初の1〜10時間以内に眼科の検査を行う工程、
− 初回用量の投与後少なくとも6時間患者を観察する工程、
また、必要に応じてさらに以下の工程を含む:
− 皮膚科の検査。
【0065】
患者のモニタリングは、患者が肝機能不全を示唆する症状を発症した場合に、肝機能試験をモニタリングおよび/または記録する工程をさらに含んでいてもよい。
【0066】
本発明の好ましい実施態様では、フィンゴリモドの投与前または投与時に起こり得る有害事象を制限するよう、フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を、その処方を必要とする患者へ処方する方法が提供され、当該方法は、上述の患者のモニタリングを含む。
【0067】
例えば、フィンゴリモドを処方する方法は、以下の工程のうち1つ以上を含んでいてもよい:
− リンパ球の計数を行う工程、
− 生命徴候、例えば血圧(例えば、動脈血圧)をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 皮膚科の検査を行う工程、
− 眼科の検査を行う工程、
− 肺機能の検査を行う工程、
− 心臓障害をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 主要な血液パラメータ(例えば、血清ALTレベル)をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 肝機能試験を行う工程、
− 他の有害事象または副作用をモニタリングおよび/または記録する工程、
ここで、各工程は薬物の投与前および/または投与中に特定の期間行う。
【0068】
処置患者の特定かつ定期的なモニタリングは、以下の工程のうちの1つ以上からなっていてもよい:
− リンパ球の計数を行う工程、
− 生命徴候、例えば血圧(例えば、動脈血圧)をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 皮膚科の検査を行う工程、
− 眼科の検査を行う工程、
− 肺機能の検査を行う工程、
− 心臓障害をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 主要な血液パラメータ(例えば、血清ALTレベル)をモニタリングおよび/または記録する工程、
− 肝機能試験を行う工程、
− 他の有害事象または副作用をモニタリングおよび/または記録する工程、
ここで、各工程は薬物の投与前および/または投与中に特定の期間行う。
【0069】
各工程は、以下にさらに説明するように行ってもよい。
【0070】
好ましくは、患者のモニタリングは以下の工程のうちの1つ以上からなっていてもよい:
− FTY720療法時の感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)のモニタリングおよび/または記録、
− 本明細書中で云う眼科の検査、
− 特定のカテゴリーの患者に対する心臓障害のモニタリングおよび/または記録、
− 患者が肝機能不全を示唆する症状を発症した場合の肝機能試験、
また、必要に応じてさらに以下の工程を含む:
− 皮膚科の検査。
【0071】
本発明の患者のモニタリングの様々な工程は、初回用量の投与後に特定の期間行う。
【0072】
これらの工程は本明細書に記載した通りに行うことができる。
【0073】
本発明の特定の実施態様では、医師の監督の下で初回用量の投与後に特定の期間、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩の初回投与後最初の1〜10時間、初回用量の投与後少なくとも6時間、処置患者をモニタリングする。
【0074】
本発明によれば、これらの工程のうちの1つ以上、例えば、心臓障害のモニタリングおよび/または記録を、初回用量の投与後少なくとも4時間、例えば初回用量の投与後少なくとも6時間、または、初回用量の投与後少なくとも8時間、例えば初回用量の投与後3〜8時間、例えば初回用量の投与後4〜6時間、例えば初回用量の投与後4〜6時間行う。好ましくは、心臓障害のモニタリングおよび/または記録を初回用量の投与後約6時間行う。心臓障害をモニタリングおよび/または記録する工程は、初回用量の投与後の期間、例えば初回用量の投与後少なくとも4時間、例えば初回用量の投与後少なくとも6時間、または、初回用量の投与後少なくとも8時間、患者を観察することからなっていてもよい。
【0075】
本発明によれば、モニタリングおよび/または記録される心臓障害には徐脈や高度AVブロックが含まれるが、これらに限定されない。
【0076】
本発明によれば、記録またはモニタリングされる感染はウイルス感染等であり、例えば、水痘−帯状疱疹ウイルス(VZV)、インフルエンザウイルス感染症、ヘルペスウイルス感染症、下気道感染症(例えば、気管支炎や肺炎)である。
【0077】
本発明の一実施態様では、感染症または外寄生のモニタリングは初回用量の投与後最初の3ヶ月以内、例えば初回用量の投与後最初の2ヶ月以内に行う。本発明の別の実施態様では、感染症または外寄生のモニタリングは医薬品の投与の全期間にわたって行う。
【0078】
S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始に先立って、患者の感染症歴、例えばウイルス感染歴、特に水痘の感染歴について試験してもよい。調べた血清学が陰性の場合、例えば水痘−帯状疱疹ウイルスやインフルエンザウイルスに対するワクチン接種を患者に行ってもよい。
【0079】
感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)のモニタリングまたは記録は、利用可能な医療技術、例えば、全血球計算(CBC)および/またはリンパ球の計数によって行ってもよい。
【0080】
本発明によれば、眼科の検査には、好ましくは視力障害(例えば、黄斑浮腫の出現)を調査および/またはモニタリングすることが含まれる。
【0081】
本発明の特定の実施態様では、眼の検査としては、眼の病歴、視力、拡張検眼、光干渉断層画像診断(OCT)、眼底の検査のうちの少なくとも一つが挙げられる。このような検査は好ましくは眼科医によって行う。
【0082】
本発明によれば、眼科の検査は、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始後、例えばFTY720療法の開始後、例えば最初の1〜12ヶ月、例えば2〜10ヶ月、例えば2〜6ヶ月、例えば2〜5ヶ月、例えば3〜4ヶ月以内に行うことができる。患者の症状に応じて必要であれば追加の眼科の検査を行ってもよく、例えば、眼科医の定めた間隔で行うことができる。
【0083】
本発明によれば、眼科の検査は以下の工程を含んでいてもよい:
1)FTY720による治療の開始前に治療対象の患者の眼の病歴を確認する工程、
2)眼科の検査を、例えばFTY720による治療の開始後3〜4ヶ月で、好ましくは眼科医により上述の如く行う工程、および、必要に応じて
3)患者の症状に応じて、例えば眼科医の定めた間隔で追加の眼科の検査を行う工程。
【0084】
眼科の検査はまた、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始前、例えばFTY720療法の開始前に行ってもよい。この実施態様は、特定の患者のカテゴリー、例えば、眼の疾患もしくは障害、および/または、糖尿病もしくはブドウ膜炎の病歴を有する患者の場合に特に適合する。
【0085】
本発明によれば、皮膚科の検査は、新生物、皮膚の悪性病変、黒色腫、扁平上皮癌、基底細胞癌等の出現を調査することを含んでいてもよい。皮膚科のスクリーニングは、療法の開始前または開始直後に行うことができる。本発明の特定の実施態様では、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を投与されている患者に年1回皮膚科のスクリーニングを行う。
【0086】
皮膚科のスクリーニングは医師(例えば、皮膚科医)により行うことができる。別の実施態様では、このようなスクリーニングを例えば患者自身でより頻繁に行う。
【0087】
本発明によれば、肺機能の検査は、肺活量測定、肺機能試験、例えばFEV1、FVC、FEF25−75%、DLCO、一酸化炭素の拡散能、または、胸部高分解能コンピュータ断層撮影法(HRCT)により行うことができる。
【0088】
本発明の特定の実施態様では、肺機能試験(PFT)は、初回投与後数時間〜数日、例えば初回投与日に、例えば初回薬物投与後2〜12時間、例えば初回薬物投与後2〜8時間、例えば初回投与後2〜6時間、例えば初回投与後6時間目に行う。2回目のPFTを、初回投与後数日、例えば初回薬物投与後2〜10日、例えば初回薬物投与後3〜8日、例えば初回薬物投与後約1週間目に行ってもよい。
【0089】
本発明の特定の実施態様では、肝酵素(例えば、血清ALT)のレベルを療法開始時に評価し、必要に応じてその後も定期的に評価する。肝機能不全を示唆する症状を発症した患者の場合には、連続評価が特に適合する。
【0090】
本発明によれば、肝機能試験は特定のカテゴリーの患者、例えば肝機能不全を示唆する症状(例えば、悪心、嘔吐、腹痛、食欲不振または黄疸)を発症した患者に対して行うことができる。
【0091】
本発明によれば、肝機能試験のモニタリングおよび/または記録は、以下の工程のいずれか1つを含んでいてもよい:
1)S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩の初回投与前に治療対象の患者の肝酵素(例えば、血清ALT)のレベルを確認し、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルが正常範囲の上限(ULN)の2倍を超えない場合にのみ初回用量を投与する工程、
2)治療中の患者の肝酵素(例えば、血清ALT)のレベルを確認し、黄疸または正常範囲の上限(ULN)の5倍を超える肝酵素の上昇を示した患者の治療を中止する工程。
【0092】
本発明の患者のモニタリングは、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩の初回投与後の最初の1〜10時間、例えば初回投与後の最初の2〜8時間、例えば初回投与後の最初の3〜9時間、例えば初回投与後の最初の2〜8時間、例えば初回投与後の最初の4〜7時間、例えば当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩の初回投与後の最初の6時間、例えば最初の5時間、例えば最初の4時間について患者を観察する工程を含んでいてもよい。例えば、本発明の患者のモニタリングは、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩の初回投与後少なくとも2時間、例えば初回投与後少なくとも4時間、例えば初回投与後少なくとも6時間患者を観察する工程を含んでいてもよい。
【0093】
本発明によれば、治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害を治療する方法が提供され、当該方法は、当該患者へ治療上有効量のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを投与することを含み、当該治療を開始する前に患者の特定のパラメータを調査し、必要であれば、治療計画を適合させる、および/または、起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物を適合させる。
【0094】
本発明はさらに、炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)の治療方法に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩に関し、当該方法には、当該治療を開始する前に患者の特定のパラメータを調査する工程、並びに、必要であればその治療計画を適合させる、および/または、起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物を投与する工程が含まれる。
【0095】
当該パラメータは、感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)の徴候、視力、眼疾患の有無、肝酵素、血圧、血液分析(例えば全血球計算値)、心電図(ECG)、肺機能、皮膚疾患または障害の有無、および、肝機能から選択される。
【0096】
特定の実施態様では、これらのパラメータは、感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)の徴候、視力、肝酵素および血圧、そして必要に応じて心拍数から選択される。
【0097】
例えば、ECGは当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始前に行う。
【0098】
これらのパラメータは、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストによる治療の全期間にわたって調査してもよい。
【0099】
本発明の特定の実施態様では、以下のものが提供される。
1− S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を、その投与を必要とする患者において投与する方法であって、当該方法には以下の工程が含まれる:
a.)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストによる治療の開始前に治療対象の患者の眼の病歴を確認する工程、
b.)眼科の検査を、例えば当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストによる治療の開始後3〜4ヶ月で、好ましくは眼科医により上述の如く行う工程、および、必要に応じて
c.)患者の症状に応じて、例えば眼科医の定めた間隔で追加の眼科の検査を行う工程。
【0100】
2− 治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)を治療し、それに伴う症状を制限するか、または、疾患の重篤度を下げる方法であって、当該方法には先に定義した工程a.)、b.)およびc.)が含まれる。
【0101】
3− 炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)の治療方法に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩であって、当該方法には先に定義した工程a.)、b.)およびc.)が含まれる。
【0102】
4− 炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)の治療に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩であって、当該治療には先に定義した工程a.)、b.)およびc.)が含まれる。
【0103】
5− 多発性硬化症の治療方法に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)であって、当該治療には以下の工程が含まれる:
a’)FTY720、ホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩による治療の開始前に治療対象の患者の眼の病歴を確認する工程、
a.)眼科の検査を、例えばFTY720、ホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩による治療の開始後3〜4ヶ月で、好ましくは眼科医により上述の如く行う工程、および、必要に応じて
b.)患者の症状に応じて、例えば眼科医の定めた間隔で追加の眼科の検査を行う工程。
【0104】
6− 多発性硬化症の治療に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)であって、当該治療には先に定義した工程a’.)、b’.)およびc’.)が含まれる。
【0105】
本発明の特定の実施態様では、以下のものが提供される。
7− S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を、その投与を必要とする患者において投与する方法であって、当該方法には以下の工程が含まれる:
d)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与前に治療対象の患者の肝酵素(例えば、血清ALT)のレベルを確認し、ALTレベルが2×ULNを超えない場合にのみ初回用量を投与する工程、および
e)治療中の患者の肝酵素(例えば、血清ALT)のレベルを確認し、黄疸または5×ULNを超える肝酵素の上昇を示した患者の治療を中止する工程。
【0106】
8− 治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)を治療し、それに伴う症状を制限するか、または、疾患の重篤度を下げる方法であって、当該方法には先に定義した工程d.)およびe.)が含まれる。
【0107】
9− 炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)の治療方法に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩であって、当該方法には先に定義した工程d.)およびe.)が含まれる。
【0108】
10− 炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)の治療に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩であって、当該治療には先に定義した工程d.)およびe.)が含まれる。
【0109】
11− 多発性硬化症の治療方法に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)であって、当該方法には以下の工程が含まれる:
d’)FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩の初回投与前に治療対象の患者の肝酵素(例えば、血清ALT)のレベルを確認し、ALTレベルが2×ULNを超えない場合にのみ初回用量を投与する工程、および
e’)治療中の患者の肝酵素(例えば、血清ALT)のレベルを確認し、黄疸または5×ULNを超える肝酵素の上昇を示した患者の治療を中止する工程。
【0110】
12− 多発性硬化症の治療に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)であって、当該治療には先に定義した工程d’.)およびe’.)が含まれる。
【0111】
本発明のさらに別の実施態様では、以下のものが提供される。
13− S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を、その投与を必要とし、かつ、付随するβ遮断薬療法を受けている患者において投与する方法であって、当該方法には以下の工程が含まれる:
f)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストによる治療の開始前に治療対象の患者の心拍数および/または血圧を測定する工程、
g)心拍数を3〜5時間おき、例えば4時間おきに、以後少なくと6時間測定するか、および/または、ECGを投与後3〜6時間、例えば4〜6時間目に行う工程、および
h)徐脈型不整脈に関連する症状が工程g)で見られた場合、適切な治療薬(例えば、アトロピンまたはイソプレナリン)を投与する工程。
【0112】
一実施態様では、当該方法は、FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)を、多発性硬化症に罹患した患者において投与する方法を意味する。
【0113】
14− 治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)を治療し、それに伴う症状を制限するか、または、疾患の重篤度を下げる方法であって、当該方法には先に定義した工程f.)、g.)およびh.)が含まれる。
【0114】
15− 炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)の治療方法に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩であって、当該方法には先に定義した工程f.)、g.)およびh.)が含まれる。
【0115】
16− 炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)の治療に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩であって、当該治療には先に定義した工程f.)、g.)およびh.)が含まれる。
【0116】
17− 多発性硬化症の治療方法に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)であって、当該方法には以下の工程が含まれる:
f’)FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩による治療の開始前に治療対象の患者の心拍数および/または血圧を測定する工程、
g’)心拍数を3〜5時間おき、例えば4時間おきに、以後少なくとも6時間測定するか、および/または、ECGを投与後3〜6時間、例えば4〜6時間目に行う工程、および
h’)徐脈型不整脈に関連する症状が工程g)で見られた場合、適切な治療薬(例えば、アトロピンまたはイソプレナリン)を投与する工程。
【0117】
18− 多発性硬化症の治療に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)であって、当該治療には先に定義した工程f’.)、g’.)およびh’.)が含まれる。
【0118】
本発明のさらに別の実施態様では、以下のものが提供される。
19− S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を、その投与を必要とする患者において投与する方法であって、当該方法には以下の工程が含まれる:
i)初回用量の投与後、先に定義した観察期間、例えば少なくとも6時間患者を観察する工程、
j)この期間の後患者の心拍数を測定する工程、
k)40bpmを超える、即ち、40〜60bpmの場合、例えばこの値が6時間の観察期間中に測定した最低心拍数ではない場合に患者を解放する、または、患者を適当な環境に維持する工程。
【0119】
このような方法は、安静時心拍数が低い(例えば50を下回る)患者、または、β遮断薬を摂取している患者、または、高度房室(AV)ブロックもしくは洞不全症候群の患者に特に適合する。
【0120】
特定の実施態様では、当該方法は、FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)を、多発性硬化症に罹患した患者において投与する方法を意味する。
【0121】
本発明はまた、以下のものを提供する。
20− 多発性硬化症の治療に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)であって、当該治療には先に定義した工程i.)、j.)およびk.)が含まれる。
【0122】
21− 多発性硬化症の治療方法に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)であって、当該方法には先に定義した工程i.)、j.)およびk.)が含まれる。
【0123】
特定の場合、例えば患者が6時間にわたる観察の終了までに解消されない徐脈型不整脈に伴う症候性事象を経験した場合には、2日目の投与を初回投与と同様の観察期間付きで例えば上述の如く行ってもよい。
【0124】
先に定義したような観察期間、例えば6時間の観察は、4日を超える、例えば6日を超える、例えば8日を超える、例えば10日を超える、例えば12日を超える、例えば14日を超える、例えば18日を超える、例えば21日を超える投薬の中断後にS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を再開した患者の場合にも行うことができる。
【0125】
本発明の別の実施態様では、FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩をその投与を必要とする患者へ投与する一方、このような投与に伴ってまたは関連して起こり得る有害事象をコントロール、制限または排除する方法であって、このような事象を示す危険性のある患者を薬物投与前に確認し、処置患者の特定かつ定期的なモニタリングを例えば適切な医師によって行う方法が提供される。
【0126】
危険性がおそらく増している患者は、眼の疾患または障害のある患者;ALTレベルが高い患者、肝機能不全の患者、高血圧の患者;心不全または不整脈の患者から選択される患者であってよい。喘息(例えば、中程度の喘息)に罹患した患者および/または糖尿病患者も対象となり得る。
【0127】
別の実施態様では、妊婦も可能である。
【0128】
本明細書中では、眼の疾患または障害とは、眼に影響を及ぼす疾患または障害、例えばブドウ膜炎、糖尿病を意味する。
【0129】
ALTレベルが高い患者とは、例えばFTY720治療開始前にALTレベルがULNの2倍かそれ以上である患者を意味する。
【0130】
心臓障害のある患者とは、高度AVブロック、洞不全症候群、虚血性心疾患、うっ血性心不全および不整脈から選択される1つ以上の障害を意味する。例えば、徐脈型不整脈に罹患もしくは危険性のある患者、高度房室ブロックもしくは洞不全症候群の患者、失神のエピソード歴のある患者、または、β遮断薬もしくは抗不整脈治療を受けている患者(例えば、抗不整脈薬の投与中の患者)が対象となる。
【0131】
本発明によれば、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩で処置された患者に行う特定のモニタリングが提供され、当該患者は炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)に罹患しており、当該モニタリングは以下の工程のいずれか1つを含む:
i)観察期間、例えば少なくとも6時間、例えば4〜6時間の最中または終了時に、本明細書中で定義した如く心拍数を調査する工程、
ii)初回用量の投与後に本明細書中で定義した如く皮膚を年1回検査する工程、
iii)本明細書中で定義した如く、肝酵素(例えば、血清ALT)を定期的に再検査する工程、
iv)初回用量の投与後2〜12ヶ月、例えば3〜4ヶ月目に、本明細書中で定義した如く眼科の検査を行う工程、
v)本明細書中で定義した如く、患者の視覚機能を定期的に調査する工程。
【0132】
さらに、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720の形態のフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を、炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)に罹患した患者へ投与する方法が提供され、当該方法には
a)以下の工程のいずれか1つを行うこと:
i)観察期間、例えば少なくとも6時間、例えば4〜6時間の最中または終了時に、本明細書中で定義した如く心拍数を調査する工程、
ii)初回用量の投与後に本明細書中で定義した如く皮膚を年1回検査する工程、
iii)本明細書中で定義した如く、肝酵素(例えば、血清ALT)を定期的に再検査する工程、
iv)初回用量の投与後3〜4ヶ月目に本明細書中で定義した如く眼科の検査を行う工程、
v)本明細書中で定義した如く、患者の視覚機能を定期的に調査する工程;
並びに
b)必要であれば、上記工程の一つ以上の結果に基づいてフィンゴリモド投与を中断、または、治療計画を変更、および/または、第二の薬物を投与すること
が含まれる。
【0133】
工程b)は有害事象の出現に対応することができる。第二の薬物は、当該起こり得る有害事象を緩和する薬物であればよい。
【0134】
フィンゴリモド投与の中断、治療計画の変更、および/または、第二の薬物の投与は、以下の状態のいずれかの場合に行うことができる:徐脈または房室伝導異常、黄斑浮腫または他の視力障害、皮膚癌、肝機能の変化または肝損傷、感染症または高血圧。中断の期間は医師が定める。
【0135】
フィンゴリモド投与の中断、治療計画の変更、および/または、第二の薬物の投与は、患者のリンパ球数が異常に低くなる、即ち、200/mLよりも低くなる場合にも行うことができる。
【0136】
例えば、工程a)は以下のうち1つ以上の工程を含んでいてもよい:
i)患者の心拍数をモニタリングする工程、
ii)感染または外寄生(例えば、ウイルス感染)をモニタリングする工程、および
iii)投与開始後最初の1〜10時間以内に眼科の検査を行う工程。
【0137】
治療的投与量
本発明の好ましい実施態様では、上記で定義したようなFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を投与する方法、特に、それを必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)を治療し、それに伴う症状またはその進行を制限する方法は、0.5mgを超えない、例えば約0.5mgの1日投与量のFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)を投与することを含む。
【0138】
本発明によれば、炎症性または自己免疫性の疾患の治療または予防に使用するための、フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、フィンゴリモド塩酸塩)から選択される化合物が提供され、当該化合物は、当該化合物の投与に伴う可能性のある有害事象をコントロール、制限、低減または排除するように患者へ投与される。例えば、フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、フィンゴリモド塩酸塩)の1日投与量は、0.5mgを超えない、例えば約0.5mgである。
【0139】
本発明の特定の実施態様では、それを必要とする患者の多発性硬化症を治療し、それに伴う症状をコントロールまたは制限するか、あるいは、当該疾患の重篤度を下げる方法が提供され、当該方法は、1日投与量のフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、フィンゴリモド塩酸塩)を投与することを含み、ここで、当該1日投与量は0.5mgを超えない、例えば約0.5mgであり、当該患者は喘息(例えば、中程度の喘息)、眼に影響を及ぼす疾患または障害にさらに罹患しているか、眼の疾患または障害の病歴がある(例えば、ブドウ膜炎または糖尿病に罹患している)、高度AVブロック、洞不全症候群、肝機能不全または高血圧を示す。
【0140】
本発明のさらなる実施態様では、それを必要とする患者の多発性硬化症を治療し、それに伴う症状をコントロールまたは制限するか、あるいは、当該疾患の重篤度を下げる方法が提供され、当該方法は、1日投与量のフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、フィンゴリモド塩酸塩)を投与することを含み、ここで、当該1日投与量は0.5mgを超えない、例えば約0.5mgであり、当該患者は妊娠している。
【0141】
本発明のさらなる実施態様では、それを必要とする患者の多発性硬化症を治療し、それに伴う症状を制限するか、または、当該疾患の重篤度を下げる方法が提供され、当該方法は、1日投与量のフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、フィンゴリモド塩酸塩)を投与することを含み、ここで、当該1日投与量は0.5mgを超えない、例えば約0.5mgであり、当該患者はMSの治療を今まで受けたことの無いMS患者、例えば新規の患者である。
【0142】
本発明によれば、治療計画の適合は、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩の投与量を減らすか、連続する2回の投与の間隔を長くすることからなっていてもよい。例えば、0.25mgのフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を1日2回投与することからなっていてもよい。また、初回投与期間中の薬物の投与量を0.5mgまたは1.25mgの1日投与量まで段階的に増やすことからなっていてもよく、例えば段階的な投与、例えばタイトレーション(titration)を採用することからなっていてもよい。
【0143】
本発明は、
(a)フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される薬物の多様な用量を、その投与を必要とする患者へ投与し、
(b)当該患者で起こる有害事象をモニタリングし、
(c)多発性硬化症に伴う症状の低減または排除をモニタリングし、および
(d)当該患者に対して最適な用量を決定する
ことを含む多発性硬化症の治療方法に関する。
【0144】
薬物の1日用量は0.5mgを越えなければよい。
【0145】
別の実施態様では、薬物の1日用量は0.5mgを上回る、例えば約1.00mg、例えば約1.25mg、例えば約1.5mgである。
【0146】
炎症性または自己免疫性の疾患(例えば、多発性硬化症)の治療方法に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩も提供され、当該方法には
(a)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの用量を変えながら(a varied dose)、その投与を必要とする患者へ投与し、
(b)当該患者で起こる有害事象をモニタリングし、
(c)当該炎症性または自己免疫性の疾患に伴う症状の低減または排除をモニタリングし、および
(d)当該患者に対して最適な用量を決定する
ことが含まれる。
【0147】
この方法は、多発性硬化症を治療するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)に特に適合する。
【0148】
S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストがFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩から選択され(例えば、FTY720の塩酸塩であり)、かつ、疾患が多発性硬化症である場合、薬物の1日用量は0.5mgを超えなければよい。
【0149】
別の実施態様では、S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストがFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)から選択され、1日用量は0.5mgを超える、例えば約1.00mg、例えば約1.25mg、例えば約1.5mgである。
【0150】
本発明のさらなる実施態様では、治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)を治療するための個別化された方法が提供され、当該方法は、当該患者へ治療上有効量のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを投与することを含み、
(a)当該薬物の用量を変えながら患者へ投与し、
(b)当該患者で起こる有害事象をモニタリングし、
(c)多発性硬化症に伴う症状の低減または排除をモニタリングし、および
(d)当該患者に対して最適な用量を決定する
ことを含み、ここで当該治療計画は、当該疾患もしくは障害の治療と、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与に伴って起こり得る有害事象のコントロール、低減または排除とに適合している。
【0151】
上記工程(a)〜(d)は、炎症性または自己免疫性の疾患(例えば、多発性硬化症)に罹患した患者において、フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される薬物の個別化された治療計画(therapeutic treatment regimen)を決定する方法でも利用可能である。
【0152】
本発明はまた、治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害を治療する方法に使用するための、FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)から選択される化合物に関し、当該方法は、当該疾患または障害を治療するために患者の特定のプロファイルに個別化(例えば、適合)されており、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与に伴う有害事象をコントロール、低減または排除するようになっている。このような場合、治療対象の患者は、当該疾患または障害の治療を受けたことの無い患者、心不全もしくは不整脈に罹患またはその危険性のある患者、喘息に罹患した患者、眼の疾患もしくは障害、肝機能不全もしくは高血圧のある患者から選択することができる。
【0153】
本発明は、炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)に罹患した患者の治療に使用するための、FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)から選択される化合物を提供し、当該化合物は先に定義した投与パターンにより投与される。
【0154】
本発明はまた、炎症性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)に罹患した患者の治療に使用するための、FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、FTY720の塩酸塩)から選択される化合物を提供し、当該化合物は先に定義した患者のモニタリングにより投与される。
【0155】
組み合わせ
本発明の別の実施態様では、S1P受容体モジュレーター、例えばフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、フィンゴリモド塩酸塩)を、フィンゴリモドの投与に伴って起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物と共に投与する。
【0156】
このような第二の薬物は、例えば上述したような有害事象(例えば、副作用)が生じたり、その強度や頻度がもはや許容されないレベルまで増大した事象に限って投与することができる。
【0157】
第二の薬物は、黄斑浮腫を治療または予防する薬物、抗癌剤(例えば、化学療法剤)、抗感染剤、抗高血圧薬、抗徐脈剤、および、これらの混合物からなる群より選択可能である。
【0158】
第二の薬物の例としては、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ジルチアゼム)、アテノロール、バルサルタンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0159】
本発明のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、フィンゴリモド塩酸塩)を、フィンゴリモドの投与に伴って起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物と共に投与する場合、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの1日投与量は0.5mgを上回ってもよく、例えば約1.00mg、例えば約1.25mg、例えば約1.5mgであってもよい。
【0160】
例えば、本発明のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば、フィンゴリモド塩酸塩)と、抗癌剤、抗感染剤、抗菌剤、抗ウイルス療法および抗高血圧薬からなる群より選択される第二の薬物とを含有する組み合わせ、例えばキットが提供され、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与量は0.5mgを上回る、例えば約1.25mgである。
【0161】
本発明はまた、それを必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)を治療し、それに伴う症状またはその進行を制限するためのFTY720の特定の投与計画を提供し、当該投与計画は、末梢リンパ球数を約70〜75%、例えば約73%、75%または76%減少させる1日投与量のフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を当該患者へ投与することを含む。
【0162】
別の実施態様では、本発明は、それを必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害(例えば、多発性硬化症)を治療し、それに伴う症状またはその進行を制限するためのFTY720の特定の投与計画を提供し、当該投与計画は、感染症の発生率をコントロール、制限または排除しながら末梢リンパ球数を疾患に対する治療効果を得るのに十分に低いレベルまで減少させる1日投与量のフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を当該患者へ投与することを含む。好ましくは、この1日投与量は0.5mgのフィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩(例えば塩酸塩)を超えない。
【0163】
上記で特定したような疾患および状態の治療における本発明の投与計画の有用性は、標準的な動物試験または臨床試験にて、例えば、以下に記載する方法に従って実証することができる。
【実施例】
【0164】
実施例1:
試験:フィンゴリモドの2種類の異なる1日投与量(0.5mgおよび1.25mg)を再発寛解型多発性硬化症患者へ24ヶ月間経口投与した。
【0165】
18ヶ国172ヶ所のセンターからのRRMS患者1292人を無作為に振り分け、経口フィンゴリモドを0.5mg/日または1.25mg/日の用量にて、または、インターフェロンβ1−aを30μg筋肉内へ週1回投与する。フィンゴリモドへ無作為に振り分けた患者にはプラセボ注射剤を週1回投与し、インターフェロンβ1−aへ無作為に振り分けた患者にはプラセボ丸剤を1日1回投与する。
【0166】
患者を3ヶ月間は毎月、その後は3ヶ月ごとに臨床的に観察する。総合障害評価尺度(EDSS)を3ヶ月ごとに行い、MS機能複合(MS Functional Composite;MSFC)を6ヶ月ごとに行い、そしてMRIを年1回行う。眼の検査、皮膚科の検査、肺機能試験、胸部X線および/またはCT、ホルターモニタリングおよび心エコーによるモニタリングを行う。
【0167】
1年にわたる治療を完了した参加者には任意の延長相を勧める。フィンゴリモドへ無作為に振り分けられた参加者には割り当てられた用量を続け、インターフェロンβ1−a群の参加者は2種類のフィンゴリモド用量へ無作為に振り分ける。
【0168】
結果
両フィンゴリモド群では、インターフェロンβ1−aに比べて再発が減少している。低い方の用量では、インターフェロンβ1−aに比べて再発が52%減少しており、高い方の用量では38%減少している。両フィンゴリモド群の結果はインターフェロンβ1−aに対しては統計学的に非常に有意であるが、フィンゴリモド群同士の結果に有意差はない。
【0169】
【表1】

【0170】
再発しなかった患者の割合はフィンゴリモドでは83%であるのに対し、インターフェロンβ1−a群では69%である。
【0171】
MRI病変活性からは、両フィンゴリモド群で新規または新たに拡大したT2病変の数とガドリニウム増強T1病変の数とが12ヶ月目に減少していることが示される。
【0172】
観察された有害事象としては、徐脈および房室(AV)ブロック、3種類のヘルペスウイルス感染を含む感染症が挙げられる。
【0173】
【表2】

【0174】
実施例2:
試験
中程度の喘息患者を3群の投薬コホート(各群12名の患者)へ分ける。各コホートでは、12名の患者をFTY720(コホート1、2および3でそれぞれ0.5mg、1.25mgおよび2.5mg)またはプラセボへ3:1の比率で無作為に振り分け、その結果、9名の患者を各用量レベルのFTY720で処置し、9名の患者をプラセボで処置する。
【0175】
本試験は、12〜26日間のスクリーニング期間、ベースラインおよび10日間の処置期間、次いで試験完了評価(最終投薬の1〜7日後に行う)からなる。
【0176】
2回のスクリーニング来診、即ち、初回のスクリーニング来診と−7日目(+/−1日)に行う2回目の来診とを行う。初回のスクリーニング来診(来診1)を利用して肺機能試験(PFT)モニタリングを開始し、本試験の適格性を評価し、かつ、関連する背景情報とインフォームドコンセントを得る。PFTは、1日目の投薬後6時間の時点に近い時刻で行う。−7日目に、PFTを指定時刻に再度行う。試験医薬品による処置に先立って短時間作用型のβ2アゴニストを使用する場合も、その使用をこの14日間の期間中に記録する。
【0177】
投薬の1日または2日前に患者を診察室へ戻し、ベースラインの評価を行う。PFTのプロファイリングを来診時の7つの時点で評価し、通常のベースライン評価を行う。1日目に患者を3:1の比率でFTY720またはプラセボへ無作為に振り分け、PFTのプロファイリングを8つの時点(即ち、投薬前、次いで投薬後1、2、3、4、5、6および12時間)で評価する。PFT評価は、2、3、7日目(いずれも1回、1日目にPFTを行った投薬後6時間とほぼ同じ時刻で評価)および10日目(7つの時点、即ち、投薬前と、次いで投薬後1、2、3、4、5および6時間)にも行う。PFT評価を行う日はいずれも、その日の最終PFT評価後に可逆性試験を行う。短時間作用型のβ2アゴニストの使用も、11日目(最終投薬後24時間)までおよび11日目を含むの全処置期間にわたって記録する。
【0178】
1日目の投薬前と投薬後1、2、4、6、8、12、16および24時間、2、3および7日目の投薬後6時間、並びに、10日目の投薬前と投薬後1、2、4および6時間に血液サンプルを採取する。
【0179】
安全性評価には、身体検査、ECG、生命徴候、肺活量測定評価、標準的な臨床評価(血液学、血液化学、尿検査)、有害事象および深刻な有害事象のモニタリングが含まれる。
【0180】
各処置コホートの半分だけ(最大6名の患者)、安全性の理由から任意の所定の日に処置を開始する。第一群の患者の初回投薬から第二群の投薬までは、少なくとも1日(24時間)空ける(そして、第二群から各コホートを完了するのに必要な後続のいずれかの群まで、少なくともさらに1日空ける)。
【0181】
FEV1と他の肺機能試験(FVC、FEF25−75%およびFEV1/FVC)とに及ぼすFTY720の作用の規模と時間経過を測定する。
【0182】
結果
気管支収縮の規模は主として1日目のベースライン補正FEV AUC0−6hにより評価する。この一次PD変数は、1日目の6時間PFTプロファイル時のAUEC FEVをベースライン(−1日)時の同変数で割った比と定義する。
【0183】
この一次PD変数を、(対数変換した)ベースラインFEV AUC0−6hに対して補正した線形モデルを用い、処置群を母数効果として対数スケールで分析する。各処置群のモデルから幾何学的平均ベースライン補正FEV AUC0−6hを求め、また、各FTY720群とプラセボとの幾何学的平均比をその95%CIと併せて求め、これを逆変換することでプラセボからの幾何学的平均変化率(%)とその95%CIが得られる。
【0184】
別のPD変数、即ち、10日目のベースライン補正FEV AUC0−6h並びに1日目および10日目のベースライン補正FEV Emax1−6hを計算する。Emax変数は、投薬後1〜6時間に予定された6つの評価からの最小値に関する1日目(または10日目)と−1日目との比と定義する。このような変数を、FEV並びに残りのPFTパラメータ(FVC、FEF25−75%およびFEV/FVC)について規定し、一次PD終点の場合と同一のモデルを用いて分析する。
【0185】
PFTパラメータの時間経過は、1日目に12時間分のプロファイルを、10日目目に6時間分のプロファイルを調べる。FEV、FVC、FEF25−75%およびFEV/FVCについて、同時刻に測定したベースラインからの変化率(%)を各来診/時点で記述統計により集計する。同時刻に測定したベースラインからの対数変換比を、同時刻に測定した対数変換ベースライン値に対して補正した線形モデルを用い、処置群を母数効果として、ベースライン後の各来診/時点で個別に分析する。各FTY720群の場合には、プラセボに対する平均治療差の概算とその95%CIを当該モデルから求め、これを逆変換することでプラセボからの幾何学的平均変化率(%)とその95%CIが得られる。多重検定の場合にはP値に補正を行わなかった。
【0186】
結果から、0.5mgの1日投与量ではFTY720が安全であって、中程度の喘息患者では十分に耐えられることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害を治療する方法であって、当該患者へ治療上有効量のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与に伴う可能性のある有害事象をコントロール、制限、低減または排除するように投与することを含み、以下の工程を含む前記方法:
i)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後に特定の期間患者をモニタリングする工程、
ここで当該患者のモニタリングは
a)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与の全期間にわたって、感染または外寄生、例えば、ウイルス感染をモニタリングする工程、
b)眼科の検査を行う工程、
のうち1つ以上の工程を含み、
ii)必要に応じて当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与を中断、および/または、その治療計画を改変する工程。
【請求項2】
炎症性または自己免疫性の疾患または障害に罹患した患者のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストでの処置に伴って起こり得る有害事象をコントロール、低減または排除する方法であって、当該患者へ治療上有効量の当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを投与することを含み、以下のうち1つ以上の工程を含む前記方法:
a)感染または外寄生、例えば、ウイルス感染をモニタリングする工程、および
b)眼科の検査を行う工程、
ii)必要に応じて当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与を中断、および/または、その治療計画を改変する工程。
【請求項3】
前記患者のモニタリングがさらに以下の工程を含む、請求項1または2に記載の方法:
c)前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後少なくとも最初の何時間かの間、例えば、前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後1〜10時間、患者の心拍数をモニタリングする工程。
【請求項4】
さらに以下の工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法:
d)前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後1〜10時間患者を観察し、例えば最初の6時間患者の心拍数をモニタリングする工程。
【請求項5】
前記眼科の検査を投与開始後少なくとも3〜4ヶ月で行う、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記患者のモニタリングが、肝機能試験を行う工程、皮膚科の検査を行う工程、肺機能試験を行う工程のうち1つ以上をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
治療を必要とする患者の炎症性または自己免疫性の疾患または障害を治療する方法であって、当該患者へ治療上有効量のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストに伴う可能性のある有害事象をコントロール、制限、低減または排除するように投与することを含み、以下の工程を含む前記方法:
i)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始前および/または投与時に患者の特定のパラメータを調査する工程、ここで当該パラメータは
a)感染または外寄生、例えば、ウイルス感染の徴候、
b)視力
c)肝酵素
d)血圧
のうち1つ以上を含み、
ii)必要であれば、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与を中断、および/または、その治療計画を改変する工程。
【請求項8】
感染または外寄生の徴候が、前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与の全期間にわたってモニタリングされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
視力が、前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始時または前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与前の数ヶ月以内、例えば前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与前の6ヶ月以内にモニタリングされる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
視力が、前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後の次の数ヶ月以内、例えば前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後の1〜12ヶ月以内にモニタリングされる、請求項7〜9に記載の方法。
【請求項11】
肝酵素が、前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始時と、必要に応じて前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与の全期間にわたってモニタリングされる、請求項7〜10に記載の方法。
【請求項12】
前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始時と、必要に応じて前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後の1〜10時間以内に患者の心拍数を調査することをさらに含む、請求項7〜11に記載の方法。
【請求項13】
前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始時および/または前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与の全期間にわたって患者の呼吸機能を調査することをさらに含む、請求項7〜12に記載の方法。
【請求項14】
皮膚障害または皮膚癌の有無を調査することをさらに含む、請求項7〜13に記載の方法。
【請求項15】
前記治療計画の改変が、1日投与量を増減させる、および/または、連続する2回の投与の間隔を長くすることからなる、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
工程ii)が、前記起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物を投与する、例えば抗感染薬である第二の薬物を投与することを含む、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
モニタリングの結果、感染または眼の疾患が判明した場合に工程ii)を行う、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの開始前に患者の特定のパラメータを調査し、当該パラメータは、血液分析(例えば全血球計算値)、肝酵素、眼科の検査、心電図(ECG)、肺機能試験、皮膚科の検査、および、肝機能試験から選択される、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
工程i)が、患者がβ遮断薬を投与されているか、安静時徐脈、高度AVブロックまたは洞不全症状を示すかを調べる1つ以上の工程を含む、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストが、フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩である、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを約0.5mgを超えない1日投与量、例えば約0.5mgの1日投与量で患者へ投与する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを0.5mgを超える1日投与量、例えば1.25mgの1日投与量で患者へ投与する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
炎症性または自己免疫性の疾患または障害に罹患した患者の治療に伴って起こり得る有害事象をコントロール、低減、制限または排除する方法であって、ここで当該治療は、フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩から選択される薬物の約0.5mgを超えない1日投与量を患者へ投与することを含み、前記方法は、当該薬物の初回投与後に特定の期間患者をモニタリングし、必要であれば当該薬物の投与を中断、その治療計画を改変および/または当該起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物を投与することを含み、
ここで当該モニタリングは以下のうち1つ以上の工程を含む前記方法:
a)薬物投与の全期間にわたって感染または外寄生、例えば、ウイルス感染をモニタリングする工程、および
b)投与開始後に眼科の検査を行う工程。
【請求項24】
前記治療計画の改変が、0.5mgよりも少ない1日投与量のフィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩を投与し、次いで投与量を約0.5mgの1日投与量まで増加させる、または、連続する2回の投与の間隔を長くすることからなる、請求項20〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
フィンゴリモド、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩と、前記起こり得る有害事象を緩和する第二の薬物、例えば抗癌剤、抗感染剤および抗高血圧薬からなる群より選択される第二の薬物とを同時投与する、請求項20〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
多発性硬化症の治療方法であって、
(a)フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される薬物の用量を変えながら、その投与を必要とする患者へ投与し、
(b)当該患者で起こる有害事象をモニタリングし、
(c)多発性硬化症に伴う症状の低減または排除をモニタリングし、および
(d)当該患者に対して最適な用量を決定する
ことを含み、ここで薬物の1日用量が0.5mgを越えない前記方法。
【請求項27】
多発性硬化症の治療方法であって、
(a)フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される薬物の用量を変えながら、その投与を必要とする患者へ投与し、
(b)当該患者で起こる有害事象をモニタリングし、
(c)多発性硬化症に伴う症状の低減または排除をモニタリングし、および
(d)当該患者に対して最適な用量を決定する
ことを含み、ここで薬物の1日投与量が0.5mgを超える、例えば約1.25mgである前記方法。
【請求項28】
炎症性または自己免疫性の疾患に罹患した患者において、フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される薬物の個別化された治療計画を決定する方法であって、
(a)当該薬物の用量を変えながら患者へ投与し、
(b)当該患者で起こる有害事象をモニタリングし、
(c)多発性硬化症に伴う症状の低減または排除をモニタリングし、および
(d)当該患者に対して最適な用量を決定する
ことを含み、ここで当該治療計画は、当該疾患または障害の治療と、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与に伴って起こり得る有害事象のコントロール、低減または排除とに適合している前記方法。
【請求項29】
工程(b)が以下のうちの1つ以上の工程を含む、請求項26〜28のいずれか一項に記載の方法:
i)感染または外寄生、例えば、ウイルス感染をモニタリングする工程、
ii)眼科の検査を、例えば薬物投与開始後3〜4ヶ月で行う工程。
【請求項30】
前記有害事象が、徐脈、房室伝導異常、黄斑浮腫、皮膚癌、肝機能の変化、感染症および高血圧から選択される、請求項20〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
治療を必要とし、さらに徐脈型不整脈に罹患またはその危険性のある患者における炎症性または自己免疫性の疾患の治療方法であって、治療上有効量のS1P受容体モジュレーターまたはアゴニストを投与することを含み、以下の工程を含む前記方法:
i)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後に特定の期間患者をモニタリングする工程、および
ii)必要に応じて当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与を中断、および/または、その治療計画を改変する工程、
ここで当該患者のモニタリングは以下の工程を含む:
a)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与の全期間にわたって、感染または外寄生、例えば、ウイルス感染をモニタリングする工程、
b)眼科の検査を行う工程、
c)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後少なくとも最初の何時間かの間、例えば、当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後1〜10時間、患者の心拍数をモニタリングする工程、および必要に応じて
d)当該S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの初回投与後1〜10時間患者を観察し、例えば最初の6時間患者の心拍数をモニタリングする工程。
【請求項32】
前記S1P受容体モジュレーターまたはアゴニストの投与開始前に、前記患者にワクチン接種、例えばウイルス感染に対するワクチン接種を行う、請求項1〜31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、および、それらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される第一の薬物と、黄斑浮腫を治療または予防する薬物、抗癌剤、抗感染剤および抗高血圧薬からなる群より選択される第二の薬物とを含有する組み合わせであって、第一の薬物の1日投与量が約0.5mgを超えない、前記組み合わせ。
【請求項34】
フィンゴリモド(FTY720)、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される第一の薬物の1日投薬単位と、抗癌剤、抗感染剤および抗高血圧薬からなる群より選択される第二の薬物の1日投薬単位とを含有するキットであって、第一の薬物の1日投与量が0.5mgを上回る、前記キット。
【請求項35】
前記治療が慢性の長期疾患、例えば多発性硬化症に対するものである、請求項1〜34のいずれかに記載の方法、組み合わせ、または、キット。
【請求項36】
請求項1〜32のいずれか一項に記載の炎症性または自己免疫性の疾患の治療方法に使用するためのS1P受容体モジュレーターまたはアゴニスト、例えばFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩。
【請求項37】
請求項1〜32のいずれか一項に記載の炎症性または自己免疫性の疾患の治療方法に使用するためのFTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩であって、当該疾患が多発性硬化症、例えばRRMSである、前記FTY720、そのホスフェート誘導体、または、それらの薬学的に許容される塩。

【公表番号】特表2013−505983(P2013−505983A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532119(P2012−532119)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/049441
【国際公開番号】WO2011/041146
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】