説明

SAHAのアミン塩基塩及びその多形

本発明は、SAHAのアミン塩基塩、その多形及び薬学的組成物を提供する。本発明は、薬学的組成物を投与することにより癌を治療する方法を提供する。本発明はまた、アミン塩基及びSAHAを含んでなる結晶性組成物を提供する。本発明はまた、アミン塩基塩及び結晶性組成物を得る方法を提供する。
【図1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAHAのアミン塩基塩、その多形及び薬学的組成物を提供する。本発明は、薬学的組成物を投与することにより癌を治療する方法を提供する。本発明はまた、アミン塩基及びSAHAを含んでなる結晶性組成物を提供する。本発明はまた、アミン塩基塩及び結晶性組成物を得る方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
本出願を通して、種々の刊行物が、括弧内のアラビア数字により参照される。これらの刊行物についての十分な引用は、請求の範囲の直前の明細書の最後にて、見出され得る。
【0003】
癌は、細胞の集団が、様々な程度において、増殖及び分化を正常に支配する制御機構に反応しなくなる異常である。長年、癌の化学療法的な治療について2つの主な方策:a)ホルモン依存性腫瘍細胞増殖を、性ホルモンの産生又は末梢作用を妨げることによりブロックすること;及びb)癌細胞を、それらを新生物及び正常細胞の集団を傷つける細胞傷害性物質に曝露することにより直接的に死滅させること、がある。
【0004】
癌治療はまた、新生物細胞の末端分化の誘導により試みられている(1)。細胞培養モデルにおいて、サイクリックAMP及びレチノイン酸(2、3)、アクラルビシン、並びに他のアントラサイクリン(4)を含む多様な刺激への細胞の曝露による、分化が報告されている。
【0005】
腫瘍学の分野における多くの進歩にもかかわらず、固形腫瘍の大部分は、進行した状態においては治療不能のままである。細胞傷害性療法は、殆どの症例において使用されるが、これはしばしば、有意な臨床的利点を伴わずに患者に重大な病的状態を引き起こす。進行性の悪性腫瘍を治療及び制御するための毒性のより少ない及びより特異的な薬剤が探査されている。
【0006】
新生物形質転換は癌細胞が分化する可能性を必ずしも破壊しないというたくさんの証拠がある(1、5、6)。増殖の正常な調節因子に応答せず、そしてそれらの分化のプログラムの発現がブロックされているようであり、そしてなお分化するように、及び複製を停止するように誘導され得る、腫瘍細胞の多くの例がある。いくつかの比較的単純な極性化合物(5、7−9)、ビタミンDの誘導体及びレチノイン酸(10−12)、ステロイドホルモン(13)、増殖因子(6、14)、プロテアーゼ(15、16)、腫瘍促進因子(17、18)、及びDNA又はRNA合成の阻害剤(4、19−24)を含む様々な薬剤は、種々の形質転換細胞株及び初代ヒト腫瘍外殖片を、より分化された特徴を発現するように誘導し得る。
【0007】
スベロイルアニリドヒドロキシアミド酸(SAHA)のようなヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、腫瘍細胞の増殖停止、分化、及び/又はアポトーシスを誘導する能力を有するこの薬剤のクラスに属する(25)。これらの化合物は、それらが動物における腫瘍増殖の阻害に有効な用量において毒性を有しないようであるので、新生物細胞が悪性になる能力に固有のメカニズムに対して標的化される(26)。ヒストンアセチル化及び脱アセチル化は、それにより細胞中の転写調節が達成されるメカニズムであるといういくつかの証拠の系列がある(27)。これらの効果は、ヌクレオソーム中のらせん状DNAに対するヒストンタンパク質の親和性を変化することによる、クロマチンの構造における変化を通して生じると考えられる。ヌクレオソームにおいて同定されている5つのタイプのヒストン(H1、H2A、H2B、H3、H4と呼ばれる)がある。各ヌクレオソームは、その核内に、H1を除いて、2つの各ヒストンタイプを含み、H1は、ヌクレオソーム構造の外部において単一で存在する。ヒストンタンパク質が低アセチル化される場合、DNAリン酸骨格に対するヒストンのより大きな親和性が存在すると考えられる。この親和性はDNAをヒストンにしっかりと結合させ、そしてDNAを、転写調節エレメント及び機構に接近しにくくする。アセチル化状態の調節は、2つの酵素複合体、ヒストンアセチル転移酵素(HAT)と、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)との間の活性のバランスを通して生じる。低アセチル化状態は、会合されるDNAの転写を阻害すると考えられる。この低アセチル化状態は、HDAC酵素を含む大きな多タンパク質複合体により触媒される。特に、HDACは、クロマチン核ヒストンからのアセチル基の除去を触媒することが示されている。
【0008】
SAHA(ZOLINZA(商標)(ボリノスタット)は、癌を治療するために、新生物細胞の末端分化を選択的に誘導するために、細胞増殖停止を誘導するために、及び/又はアポトーシスを誘導するために、有用であることが示されている。SAHAによるHDACの阻害は、X−線クロマトグラフィー研究により実証されるように(28)、酵素の触媒部位との直接的な相互作用を通して生じると考えられる。HDAC阻害の結果は、ゲノムに対して全般的な効果を有するとは考えられず、むしろ、ゲノムの小さなサブセットを影響するのみである(29)。HDAC阻害剤を伴って培養された悪性細胞株を用いたDNAマイクロアレイにより証明された証拠は、その産物が変化される有限数(1〜2%)の遺伝子が存在することを示す。例えば、HDAC阻害剤を伴う培養において処理された細胞は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤p21の恒常的な誘導を示す(30)。このタンパク質は、細胞周期停止において重要な役割を果たす。HDAC阻害剤は、p21遺伝子の領域においてヒストンの高アセチル化状態を広めることにより、p21の転写の速度を増し、それにより遺伝子を転写機構に接近可能にすると考えられる。その発現がHDAC阻害剤により影響されない遺伝子は、局所的に会合されたヒストンのアセチル化における変化を示さない(31)。
【発明の概要】
【0009】
発明の要旨
本発明は、SAHAのアミン塩基塩、その多形、及び薬学的組成物を提供する。1つの実施態様において、本発明は:ベネタミン、ベタイン、コリン、デアノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、トロメタミン、及びリジンから選ばれるアミン塩基由来のSAHA塩を提供する。1つの実施態様において、塩はSAHAのリジン塩である。本発明はまた、アミン塩基及びSAHAを含んでなる結晶性組成物を提供する。本発明は、薬学的組成物を投与することにより癌を治療する方法を提供する。本発明はまた、アミン塩基塩及び結晶性組成物を得る方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)のリジン塩又はその水和物若しくは溶媒和物の組成物。
【請求項2】
リジン:SAHAの化学量論比が1:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
SAHAのL−リジン塩である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
リジン及びSAHAを含んでなる結晶性組成物。
【請求項5】
L−リジン及びSAHAを含んでなる請求項4に記載の結晶性組成物。
【請求項6】
銅Κα放射線でのX−線粉末回析パターンにより特徴付けられ、6.8、20.1、及び23.2度2θにて特徴的なピークを含む、請求項5に記載の結晶性組成物。
【請求項7】
銅Κα放射線でのX−線粉末回析パターンにより特徴付けられ、6.8、12.6、18.7、20.1、23.2、24.0度2θにて特徴的なピークを含む、請求項5に記載の結晶性組成物。
【請求項8】
銅Κα放射線でのX−線粉末回析パターンにより特徴付けられ、6.8、12.0、12.6、16.4、18.7、20.1、23.2、24.0、29.3度2θにて特徴的なピークを含む、請求項5に記載の結晶性組成物。
【請求項9】
SAHAのL−リジン塩である、請求項8に記載の結晶組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物、又は請求項4若しくは8に記載の結晶性組成物、及び薬学的に許容される担体を含んでなる、薬学的組成物。
【請求項11】
請求項1又は4の組成物の治療有効量を患者に投与する工程を含んでなる、癌を治療する方法。
【請求項12】
ベネタミン、ベタイン、コリン、デアノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、トロメタミン、及びリジンから選ばれるアミン塩基から処方されるSAHA塩、又はその水和物若しくは溶媒和物。
【請求項13】
SAHA、及びベネタミン、ベタイン、コリン、デアノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、トロメタミン、又はリジンを含んでなる、結晶性組成物。
【請求項14】
請求項12に記載のSAHA塩又は請求項13に記載の結晶性組成物、及び薬学的に許容れる担体を含んでなる、薬学的組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の薬学的組成物の治療有効量を患者に投与する工程を含んでなる、癌を治療する方法。
【請求項16】
SAHA及びアミン塩基を、有機溶媒又は有機溶媒と水との混合液中で結晶化する工程を含んでなる、SAHA及びアミン塩基を含んでなる、結晶性組成物を得る方法。
【請求項17】
SAHA及びアミン塩基を反応媒体中に添加する工程を含んでなる、SAHAのアミン塩基塩を得る方法。

【図1】L−リジン及びSAHAを含んでなる結晶組成物についてのX−線回析を示す。
【図2】L−リジン及びSAHAを含んでなる結晶組成物の示差走査熱量測定の結果を示す。
【0011】
発明の詳細な記載
用語「薬学的に許容される担体」は、薬学的投与と適合性の、任意の及び全ての溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗細菌及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを包含することが意図される。適切な担体は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、当該分野における標準的な参考書(これは、本明細書中に参考として援用される)の最新版において記載される。リポソーム及び固定油のような非水性ベヒクルがまた、使用されてもよい。薬学的に活性な物質についてのこのような媒体及び薬剤の使用は、当該分野において周知である。任意の従来の媒体及び薬剤が本発明の組成物と非適合性である場合を除いては、組成物中でのその使用が意図される。補助的な活性化合物がまた、組成物中に含まれてもよい。
【0012】
本発明の目的のために、X−線粉末回析パターンについて、更正、試料、又は装置に依存して、2θでのピークは、1つの方向において±0.3°(±0.3度)(誤差)までシフトしてもよく、例えば、X−線粉末回析パターンにおける全てのピークは、+0.3°(+0.3度)まで、又は−0.3°(−0.3度)までシフトする。この誤差内のX−線粉末回析のパターン又はピークは、同じであるか、又は実質的に類似すると見なされる。
【0013】
SAHAのリジン塩
弱酸として、SAHAは、以下のような塩基と薬学的に許容される塩を形成してもよい:a)無機塩基(例えば、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩など)、又はアンモニウム塩を形成する);b)有機塩基(例えば、有機アミン塩を形成する(例えば、ピリジン塩、ピコリン塩、プロカイン塩、ピペリジン塩、ベネタミン(Benethamine)(N−ベンジル−2−フェニルエチルアミン)塩、ベタイン(Betaine)塩(トリメチルグリシン、N−トリメチルグリシン、グリシンベタイン、グリココルベタイン、オキシノイリン、リシン、1−カルボキシ−N,N,N−トリメチルメタンアミニウム内塩としてもまた知られる)、コリン塩、デアノール((2−(ジメチルアミノ)エタノール))塩、エチレンジアミン塩、ヒドラバミン塩、1H−イミダゾール塩、2−モルホリンエタノール(4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン)塩、モルホリン塩、ピペラジン塩、トロメタミン(THAM、TRIS、2−アミノ−2(ヒドロキシメチル)プロパン−1、3−ジオール、トロメタモル)塩、エタノールアミン(2−アミノエタノール)塩、ジエタノールアミン(2,2’−イミノビス(エタノール))塩、トリエタノールアミン塩、ジクロロヘキシルアミン塩、ベンザチン(Benzathine)(N,N’−ジベンジルエチレンジアミン)塩、メグルミン(N−メチル−D−グルカミン)塩、イソプロピルアミン塩、ジメチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、トリメチルアミン塩、2−エチルアミノエタノール塩、2−(ジエチルアミノ)エタノール塩など);c)塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン、ヒスチジン、リジン)など(アミノ酸塩を形成する)。
【0014】
1つの実施態様において、本発明は、べネタミン、ベタイン、コリン、デアノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、トロメタミン、又はリジン由来の、塩基性アミンSAHA塩を提供する。別の実施態様において、本発明は、ベネタミン、ベタイン、コリン、デアノール、エチレンジアミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、トロメタミン、又はリジン由来の塩基性アミンSAHA塩を提供する。さらなる実施態様において、本発明はベタイン、ヒドラバミン、トロメタミン、又はリジン由来の塩基性アミンSAHA塩を提供する。
【0015】
1つの実施態様において、本発明は、SAHAのリジン塩を提供する、別の実態態様において、本発明は、SAHAのL−リジン塩を提供する。別の実施態様において、本発明はまた、SAHAのリジン塩及び薬学的に許容される担体を含んでなる薬学的組成物を提供する。1つの実施態様において、リジン:SAHAの比は、1:2又は1:1である。1つの実施態様において、リジン:SAHAの比は、1:1である。
【0016】
SAHAの塩は非晶質な形態であってもよい。SAHAの塩は、結晶性であってもよく、微粉末化されてもよく、又は凝集されてもよく、微粒子の顆粒、粉末、油、油性懸濁液、若しくは固体の任意の他の形態であってもよい。SAHAの塩は、任意の結晶形態にあってもよい。
【0017】
1つの実施態様において、本発明は、リジン及びSAHAを含んでなる結晶性組成物を提供し、そして図1において記載されるものに実質的に類似する銅Κα放射線でのX−線粉末回析パターンにより特徴付けされる。別の実施態様において、結晶性組成物は、銅Κα放射線でのX−線粉末回析パターンにより特徴付けされ、6.8、20.1、23.2度2θにて特徴的なピークを含む。さらなる実施態様において、結晶性組成物は、銅Κα放射線でのX−線粉末回析パターンにより特徴付けられ、6.8、12.6、18.7、20.1、23.2、24.0度2θにて特徴的なピークを含む。さらなる実施態様において、結晶性組成物は、銅Κα放射線でのX−線粉末回析パターンにより特徴付けられ、6.8、12.0、12.6、16.4、18.7、20.1、23.2、24.0、29.3度2θにて特徴的なピークを含む。別の実施態様において、結晶性組成物の吸熱は、示差走査熱量測定により約182℃の外挿発熱温度を示す。1つの実施態様において、SAHA及びリジンを含んでなる結晶性組成物は、SAHAの結晶格子の溶媒チャネル中にリジンを有してもよい。SAHAとリジンとの間の相互作用は、水素結合を介してもよい。別の実施態様において、結晶性組成物はSAHAのリジン塩を含んでなり、ここではSAHAとリジンとの間の相互作用は、静電性である。
【0018】
1つの実施態様において、本発明は、アミン塩基及びSAHAを含んでなる結晶性組成物を提供する。1つの実施態様において、SAHA及びアミン塩基を含んでなる結晶性組成物は、SAHAの結晶格子の溶媒チャネル中にアミン塩基を有する。SAHAとアミン塩基との間の相互作用は、水素結合を介してもよい。別の実施態様において、結晶性組成物はSAHAのアミン塩基塩を含んでなり、ここではSAHAとアミン塩基との間の相互作用は静電性である。
【0019】
本発明はまた、SAHAのアミン塩基塩の水和物又は溶媒和物を含んでなる薬学的組成物を包含する。用語「水和物」は、半水和物、一水和物、二水和物、三水和物などを包含するがこれらに制限されない。
【0020】
薬学的組成物
薬学的組成物中の薬学的に許容される担体は、固体粒子の形態にあってもよい。担体又は希釈剤として通常使用される任意の不活性な賦形剤が、本発明の処方物において使用されてもよい(例えば、ゴム、デンプン、糖、セルロース系材料、アクリレート、又はそれらの混合物)。1つの実施態様において、希釈剤は微結晶性セルロースである。組成物はさらに、崩壊剤(例えば、クロスカルメロースナトリウム)及び潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム)を含んでなってもよく、並びにさらに、結合剤、緩衝液、プロテアーゼ阻害剤、界面活性剤、可溶化剤、可塑剤、乳化剤、安定剤、粘度増強剤、甘味料、被膜剤、又はこれらの任意の組み合わせから選ばれる1つ以上の添加物を含んでなってもよい。さらに、本発明の組成物(すなわち、SAHAのアミン塩基塩、結晶性組成物)は、放出制御の形態にあってもよく、又は短時間作用性の処方物であってもよい。
【0021】
1つの実施態様において、本明細書中に記載される薬学的組成物はさらに、微結晶性セルロース、クロスカルメロースナトリウム、及びステアリン酸マグネシウムから構成されていてもよい。処方物中の本発明の組成物及び種々の賦形剤の割合は、変化してもよい。例えば、薬学的組成物は、約20と90重量%との間、約50−80重量%の間、又は約60−70重量%の間の本発明の組成物を含んでなってもよい。さらに、薬学的組成物は、約10と70重量%との間の、約20−40重量%の間の、約25−35重量%の間の微結晶性セルロースを担体又は希釈剤として含んでなってもよい。さらに、薬学的組成物は、約1と30重量%との間の、約1−10重量%の間の、約2−5重量%の間のクロスカルメロースナトリウムを崩壊剤として含んでなってもよい。さらに、薬学的組成物は、0.1−5重量%の間の、又は約0.5−1.5重量%のステアリン酸マグネシウムを潤滑剤として含んでいてもよい。
【0022】
1つの実施態様において、本発明の薬学的組成物は、約50−80重量%の本発明の組成物;約20−40重量%の微結晶性セルロース;約1−10重量%のクロスカルメロースナトリウム;及び約0.1−5重量%のステアリン酸マグネシウムである。別の実施態様において、本発明の薬学的組成物は、約60−70重量%の本発明の組成物;約25−35重量%の微結晶性セルロース;約2−5重量%のクロスカルメロースナトリウム;及び約0.1−5重量%のステアリン酸マグネシウムである。1つの実施態様において、記載される薬学的組成物は、約50−200mg又は50−600mgの本発明の組成物を含んでなる。
【0023】
本発明の特定の実施態様は、本発明の組成物と、微結晶性セルロース、NF(Avicel Ph 101)、クロスカルメロースナトリウム、NF(AC−Di−Sol)、及びステアリン酸マグネシウム、NFとの固体処方物であり、ゼラチンカプセル中に含まれる。さらなる実施態様は、約100mgの本発明の組成物、約44.3mgの微結晶性セルロース、約4.5mgのクロスカルメロースナトリウム、約1.2gのステアリン酸マグネシウムを含んでなる薬学的組成物である。
【0024】
1つの実施態様において、薬学的組成物は、経口的に投与され、従って経口投与に適切な形態において、すなわち固体又は液体の形態として処方される。適切な固体経口処方物としては、例えば、錠剤、カプセル、ピル、顆粒、ペレットなどが挙げられる。適切な液体経口処方物としては、例えば、乳濁液、油などが挙げられる。本発明の1つの実施態様において、組成物はカプセル中に処方される。この実施態様によれば、本発明の薬学的組成物は本発明の組成物及び不活性な担体又は希釈剤に加えて、硬ゼラチンカプセルを含んでなる。
【0025】
固体担体/希釈剤としては、ゴム、デンプン(例えば、コーンスターチ、アルファ化デンプン)、糖(例えば、乳糖、マンニトール、ショ糖、デキストロース)、セルロース系物質(例えば、微結晶性セルロース)、アクリレート(例えば、ポリメチルアクリレート)、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タルク、又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに制限されない。
【0026】
液体処方物について、薬学的に許容される担体は、非水液体、縣濁液、乳濁液、又は油であってもよい。
【0027】
非水溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルである。油の例は、石油、動物、植物、又は合成起源の油、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱物油、オリーブ油、ヒマワリ油、及び魚肝油である。懸濁液はまた、以下の成分:固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒;抗菌剤(例えば、ベンジルアルコール又はメチルパラベン);酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA))を含んでもよい。
【0028】
さらに、薬学的組成物はさらに、結合剤(例えば、アカシア、コーンスターチ、ゼラチン、カルボマー、エチルセルロース、グアーガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン)、崩壊剤(例えば、コーンスターチ、ジャガイモスターチ、アルギン酸、二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、グアーガム、デンプングリコール酸ナトリウム、プリモゲル(Primogel)、洗浄剤(例えば、Tween20、Tween80、Pluronic F68、胆汁酸塩)、プロテアーゼ阻害剤、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、透過促進剤、可溶化剤(例えば、グリセロール、ポリエチレングセロール)、流動促進剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシアニソール)、安定剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、粘度増加剤(例えば、カルボマー、コロイド状二酸化ケイ素、エチルセルロース、グアーガム)、甘味料(例えば、ショ糖、アスパルテーム、クエン酸)、香味剤(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、又はオレンジ香味)、防腐剤(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール、パラベン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム)、流動補助剤(例えば、コロイド状二酸化ケイ素)、可塑剤(例えば、フタル酸ジエチル、クエン酸トリエチル)、乳化剤(例えば、カルボマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム)、高分子コーティング剤(例えば、ポロキサマー又はポロキサミン)、コーティング及び被膜剤(例えば、エチルセルロース、アクリレート、ポリメタクリレート)、及び/又はアジュバントをさらに含んでなってもよい。
【0029】
1つの実施態様において、本発明の組成物は、制御放出処方物のように身体からの迅速な排除に対して組成物を保護する担体とともに調製され、移植片及びマイクロカプセル化送達系を含む。生分解可能な、生体適合性の高分子(例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリラウリル酸)が使用されてもよい。このような処方物の調製のための方法は、当業者に明白である。材料はまた、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals,Inc.から購入してもよい。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で、感染された細胞を標的化するリポソームを含む)がまた、薬学的に許容される担体として使用されてもよい。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号において記載されるように、当業者に公知の方法に従って調製されてもよい。
【0030】
有効成分を含む薬学的組成物の調製は、当該分野において十分に理解されており、例えば、混合することにより、顆粒化することにより、又は錠剤形成プロセスによる。経口投与のために、有効成分は、この目的のために慣習的な添加物(例えば、ベヒクル、安定剤、又は不活性な希釈剤)とともに混合され、そして慣習的な方法により、投与に適切な形態(例えば、上記で詳述されるように、錠剤、コート化錠剤、硬ゼラチンカプセル若しくは軟ゼラチンカプセル、水溶液、アルコール溶液、若しくは油性溶液)に変換される。
【0031】
1つの実施態様において、経口組成物は、投与の容易さ及び投薬の均一性のために、投薬単位形態において処方される。本明細書中で使用される場合、投薬単位形態は、治療される被験体に単一の投薬量として適切化される物理的に分離された単位として言及され;各単位は、必要とされる薬学的担体とともに、所望の治療効果を生じるように算定された本発明の組成物のあらかじめ決定された量を含有する。本発明の投薬単位形態についての詳細は、本発明の組成物の独特の特徴、及び達成されるべき特定の治療効果、並びに個体の治療のためにこのような活性な化合物を配合する当該分野に固有の制限により決定づけられ、そしてこれらに直接的に依存する。ある実施態様において、投薬単位は、約600mg、550mg、500mg、450mg、400mg、350mg、300mg、250mg、200mg、150mg、110mg、105mg、100mg、95mg、90mg、85mg、80mg、75mg、70mg、65mg、60mg、55mg、50mg、45mg、又は40mgの本発明の組成物を含む。1つの実施態様において、本発明の組成物中のSAHAの量は、約100mgである。
【0032】
薬学的組成物は、投与の指示書とともに、容器、包み、又はディスペンサー中に含まれてもよい。1つの実施態様において、薬学的組成物は、単一のカプセルであり、ここでは本発明の組成物中のSAHAの量は約100mgである。1つの実施態様において、薬学的組成物は2つのカプセルであり、ここでは各カプセル中のSAHAの量は約50mgである。
【0033】
SAHAのリジン塩を得る方法及び結晶化の方法
本発明はまた、SAHAのアミン塩基塩を得る方法を提供し、反応媒体中にSAHA及びアミン塩基を添加する工程を含んでなる。1つの実施態様において、アミン塩基はリジンである。別の実施態様において、アミン塩基は、ベネタミン、ベタイン、コリン、デアノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、トロメタミン、又はリジンである。1つの実施態様において、反応媒体は、有機溶媒、又は有機溶媒と水との混合液である。1つの実施態様において、溶媒はエタノールである。
【0034】
本発明はまた、SAHA及びアミン塩基を含んでなる結晶性組成物を得る方法を提供し、有機溶媒中又は有機溶媒と水との混合液中で、アミン塩基塩を結晶化する工程を含んでなる。1つの実施態様において、アミン塩基はリジンである。別の実施態様において、アミン塩基は、ベネタミン、ベタイン、コリン、デアノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、トロメタミン、又はリジンである。
【0035】
1つの特定の実施態様において、SAHAの結晶性アミン塩基塩は、有機溶媒から結晶化される。有機溶媒は、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、又はイソプロパノール)であってもよい。1つの実施態様において、有機溶媒は、メタノール、エタノール、アセトニトリル、及びイソプロパノールのうちの1つ以上である。1つの実施態様において、有機溶媒はエタノールである。特定の実施態様において、反応媒体中で使用される有機溶媒は結晶化における有機溶媒と同じである。
【0036】
別の実施態様において、有機溶媒と水との混合物は、約1−99%の有機溶媒と約99−1%の水とを含んでなる。別の実施態様において、混合物は、40−99%のエタノールと、60−1%の水とを含んでなる。1つの実施態様において、混合物は、約15−85%の有機溶媒と、約1−15%の水とを含んでなる。特定の実施態様において、混合物は約85%の有機溶媒と、約15%の水とを含んでなる。別の特定の実施態様において、混合物は、1:1のエタノールと水とを含んでなる。なお別の特定の実施態様において、混合物は9:1のエタノールと水とを含んでなる。本明細書中に記載される有機溶媒:水の比又は百分率は、容量基準である。
【0037】
1つの特定の実施態様において、有機溶媒はアルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)である。しかし、本明細書中に記載される結晶化又は反応は、有機合成の当業者により容易に選択され得る、任意の適切な溶媒又は溶媒混合液中で行われてもよいことが当業者に明白であるべきである。このような適切な有機溶媒は、本明細書中で使用される場合、例示のためであって制限されないが、塩素系溶媒、炭化水素溶媒、エーテル溶媒、極性プロトン性溶媒、及び極性非プロトン性溶媒を包含してもよい。適切なハロゲン化溶媒としては、四塩化炭素、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルム、クロロホルム、ブロモクロロメタン、ジブロモメタン、塩化ブチル、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、2−クロロプロパン、ヘキサフルオロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、フルオロベンゼン、フルオロトリクロロメタン、クロロトリフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、四フッ化炭素、ジクロロフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,2−ジクロロテトラフルオロエタン、及びヘキサフルオロエタンが挙げられるが、これらに制限されない。適切な炭化水素溶媒としては、ベンゼン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、トルエン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、エチルベンゼン、m−、o−、又はp−キシレン、オクタン、インダン、ノナンが挙げられるが、これらに制限されない。適切なエーテル溶媒としては、ジメトキシメタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、フラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジイソプロピルエーテル、アニソール、又はt−ブチルメチルエーテルが挙げられるが、これらに制限されない。
【0038】
適切な極性プロトン性溶媒のとしては、メタノール、エタノール、2−ニトロエタノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、エチレングリコール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メトキシエタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、2−エトキシエタノール、ジエチレングリコール、1−、2−、又は3−ペンタノール、ネオ−ペンチルアルコール、t−ペンチルアルコール、ジエチレングリコール、モノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェノール、及びグリセロールが挙げられるが、これらに制限されない。適切な極性非プロトン性溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセタミド(DMAC)、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、N−メチルピロリジノン(NMP)、ホルムアミド、N−メチルアセタミド、N−メチルホルムアミド、アセトニトリル(ACN)、ジメチルスルホキシド、プロピオニトリル、ギ酸エチル、酢酸メチル、ヘキサクロロアセトン、アセトン、エチルメチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、t−ブチル酢酸、スルホラン、N,N−ジメチルプロピオンアミド、ニトロメタン、ニトロベンゼン、ヘキサメチルホスホルアミドが挙げられるが、これらに制限されない。
【0039】
治療の方法
本発明はさらに、SAHAのアミン塩基塩、又はアミン塩基及びSAHAを含んでなる結晶性組成物の治療有効量を、患者に投与する工程をふくんでなる、癌を治療する方法を提供する。本発明はまた、癌の治療のための薬剤の製造における、SAHAのアミン塩基塩、又はアミン塩基及びSAHAを含んでなる結晶性組成物の使用を提供する。1つの実施態様において、アミン塩基はリジンである。別の実施態様において、アミン塩基は、ベネタミン、ベタイン、コリン、デアノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、トロメタミン、又はリジンである。
【0040】
本発明はまた、新生物細胞の増殖により特徴付けられる腫瘍を有する患者を処置する方法であって、SAHAのアミン塩基塩、又はアミン塩基及びSAHAを含んでなる結晶性組成物の治療有効量を、患者に投与する工程を含んでなり、このような新生物細胞の末端分化を選択的に誘導するのに効果的であり、それによりそれらの増殖を阻害する方法を提供する。
【0041】
本発明の方法は、癌を伴うヒト患者の治療のために意図される。しかしまた、該方法は、他の哺乳動物における癌の処置に効果的であるようである。癌としては、新生物細胞の増殖により引き起こされる任意の癌(例えば、肺癌、急性リンパ性骨髄腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、膀胱黒色腫、腎癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、又は結腸直腸癌)が挙げられるが、これらに制限されない。本発明によれば、薬学的組成物は広範に多様な癌の治療において使用されてもよく、固形腫瘍(例えば、頭頸部、肺、胸部、結腸、前立腺、膀胱、直腸、脳、胃組織、骨、卵巣、甲状腺、又は子宮内膜の腫瘍)、血液悪性腫瘍(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫)、癌腫(例えば、膀胱癌、直腸癌、乳癌、結腸直腸癌)、神経芽細胞腫、又は黒色腫を包含するが、これらに制限されない。これらの癌の制限されない例としては、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、T−細胞リンパ腫又は白血病(例えば、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、非皮膚末梢T細胞リンパ腫、ヒトT細胞リンパ球向性ウイルス(HTLV)関連性リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATTL)、並びに急性リンパ球性白血病、急性非リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、骨髄腫、多発性骨髄腫、中皮腫、小児固形腫瘍、脳神経芽種、網膜芽種、神経膠腫、ウィルムス腫瘍、骨癌、及び軟部組織肉腫、成人の一般的な固形腫瘍(例えば、頭頸部の癌(例えば、口腔、咽頭、及び食道)、泌尿生殖器癌(例えば、前立腺、膀胱、腎臓、子宮、卵巣、精巣、直腸、及び結腸)、肺癌(例えば、小細胞癌腫及び非小細胞肺癌腫(扁平上皮細胞癌腫及び腺癌を含む))、乳癌、膵臓癌、黒色腫及び他の皮膚癌、基底細胞癌腫、転移性皮膚癌腫、潰瘍性及び乳頭型の両方の扁平上皮細胞癌腫、胃癌、脳腫瘍、肝臓癌、副腎癌、腎臓癌、甲状腺癌、髄様癌、骨肉腫、軟部組織肉腫、ユーイング肉腫、細網肉腫、及びカポジ肉腫)が挙げられる。本明細書中に記載される任意の癌の小児形態がまた含まれる。
【0042】
投与の方法
本明細書中に記載される全ての方法において、薬学的組成物は、ゼラチンカプセル中で経口的に投与されてもよい。組成物は、本明細書中に記載される方法に従う単位投薬量において、1日1回、1日2回、又は1日3回、投与されてもよい。
【0043】
次いで、毎日の投与が、数日間から数年間、連続的に反復される。経口治療は、1週間と患者の寿命との間で、継続されてもよい。1つの実施態様において、投与は、連続5日間行われ、その後患者はさらなる投与が必要とされるか否かを決定するために診断されてもよい。投与は、連続的又は間欠的(すなわち、多くの連続的日数の治療、続いて休止期間)であってもよい。
【0044】
本発明の薬学的組成物は、25から4000mg/mの間の総1日用量で、例えば、約25から1000mg、50−1000mg、100mg、200mg、300mg、400mg、600mg、800mg、1000mgなどで経口的に投与されてもよい。典型的に、化合物は、患者に400mgまで投与する場合、単回用量として投与される。より高い(すなわち、400mgを超える)総投薬量について、合計は、複数の投薬量、例えば、1日2回、1日3回などに分配されるか、又は日中、等期間にわたって分散される。例えば、2回の用量、例えば、各500mgは、1日1000mgの総投与量を達成するために12時間あけて投与されてもよい。
【0045】
1つの実施態様において、SAHAのアミン塩基塩は、200mgの総1日投薬量で患者に投与される。別の実施態様において、SAHAのアミン塩基塩は400mgの総1日投薬量で患者に投与される。別の実施態様において、SAHAのアミン塩基塩は、600mgの総1日投薬量で患者に投与される。
【0046】
1つの実施態様において、患者に投与されるSAHAのアミン塩基塩の量は、患者において手に負えない毒性を引き起こす量を超えない。ある実施態様において、患者に投与されるSAHAのアミン塩基塩の量は、化合物の毒性レベルに等しいか又はこれを超える患者の血漿中の化合物の濃度を引き起こす量を超えない。1つの実施態様において、患者の血漿中のSAHAのアミン塩基塩の濃度は、約10nMから約5000nMの間にて維持される。本発明の実施において、患者に投与されるべきSAHAのアミン塩基塩の至適な量は、使用される特定の化合物及び治療される癌のタイプに依存する。
【0047】
併用療法
本発明の方法はまた、抗腫瘍剤に対する耐性を被験体における新生物細胞に付与するように、抗腫瘍剤を被験体に最初に投与する工程、そして続いて、このような細胞の末端分化、細胞増殖停止、及び/又はアポトーシスを選択的に誘導するのに効果的な本発明の任意の組成物の有効量を投与する工程を含んでなってもよい。
【0048】
抗腫瘍剤は、多数の化学療法剤(例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、ホルモン剤、抗生物質、コルヒチン、ビンカアルカロイド、L−アスパラギナーゼ、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、ミトタン、ニトロソ尿素、又はイミダゾールカルボキサミド)の1つであってもよい。適切な薬剤は、チューブリンの脱分極を促進する薬剤である。1つの実施態様において、抗腫瘍剤はコルヒチン又はビンカアルカロイド;ビンブラスチン又はビンクリスチンである。抗腫瘍剤がビンクリスチンである実施態様において、細胞は、好ましくは、それらが約5mg/mlの濃度にてビンクリスチンに耐性であるように処置される。細胞を、それらに抗腫瘍剤に対する耐性を付与するように処置することは、少なくとも3から5日間、細胞と薬剤とを接触することにより、達成されてもよい。得られる細胞と、上述の任意の化合物とを接触することは、以前に記載されるように行われる。上述の化学療法剤に加えて、化合物はまた、放射線療法と共に投与されてもよい。
【0049】
アルキル化剤
アルキル化剤は、求核残基(例えば、DNA産生のためのヌクレオチド前駆体上の化学実体)と反応する。それらは、これらのヌクレオチドをアルキル化し、そしてDNAへのそれらの組み立てを妨げることにより、細胞分裂のプロセスを影響する。
【0050】
アルキル化剤の例としては、ビスクロロエチルアミン(ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、メクロレタミン、メルファラン、ウラシルマスタード)、アジリジン(例えば、チオテパ)、アルキルアルコンスルホネート(例えば、ブスルファン)、ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン)、非古典的アルキル化剤(アルトレタミン、デカルバジン、及びプロカルバジン)、白金化合物(カルボプラスチン及びシスプラチン)が挙げられるが、これらに制限されない。これらの化合物は、リン酸、アミノ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、カルボキシル、及びイミダゾール基と反応する。
【0051】
生理学的条件下において、これらの薬物はイオン化し、そして正に荷電されるイオンを生成し、感受性の核酸及びタンパク質に付着して、細胞周期停止及び/又は細胞死を導く。アルキル化剤は、それらが細胞周期の特定の期とは関係なくそれらの活性を行使するので、細胞周期の期に非特異的な薬剤である。ナイトロジェンマスタード及びアルキルアルコンスルホン酸塩は、G1又はM期における細胞に対して最も効果的である。ニトロソ尿素、ナイトロジェンマスタード、及びアジリジンは、G1及びS期からM期への進行を損なう。Chabner及びCollins編(1990)「癌化学療法:原理及び実施」、Philadelphia:JB Lippincott。
【0052】
アルキル化剤は、広範に多様な新生物疾患に対して活性であり、白血病及びリンパ腫並びに固形腫瘍の治療において有意な活性を伴う。臨床的に、この薬物の群は、急性及び慢性白血病;ホジキン病;非ホジキンリンパ腫;多発性骨髄腫、原発性脳腫瘍;胸部、卵巣、精巣、肺、膀胱、頸部、頭頸部の癌腫、及び悪性黒色腫の治療において日常的に使用される。
【0053】
全てのアルキル化剤に共通の主な毒性は、骨髄抑制である。さらに、可変性の重篤度の胃腸管の副作用が一般に生じ、そして種々の器官の毒性は特定の化合物と関連される。Black及びLivingston(1990)Drugs 39;489−501;及び39 652−673。
【0054】
抗生物質
抗生物質(例えば、細胞毒性抗生物質)は、DNA又はRNA合成を直接的に阻害することにより作用し、そして細胞周期を通じて有効である。抗生物質剤の例としては、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、及びアントラセネジオン)、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、プリカトマイシンが挙げられる。これらの抗生物質剤は、異なる細胞成分を標的化することにより細胞増殖を妨げる。例えば、アントラサイクリンは、一般に、転写的に活性なDNAの領域においてDNAトポイソメラーゼIIの作用を妨げ、これはDNA鎖の切断を導くと考えられている。
【0055】
ブレオマイシンは、一般に、鉄を錯体化すると考えられ、そして活性化複合体を形成し、これは次いでDNAの塩基に結合して、鎖の切断及び細胞死を導く。
【0056】
抗生物質剤は、様々な新生物疾患(胸部、肺、胃、及び甲状腺の癌腫、リンパ腫、骨髄性白血病、骨髄腫、及び肉腫を含む)にわたって治療薬として使用されている。この群内のアントラサイクリンの主な毒性は、骨髄抑制、特に顆粒球減少である。粘膜炎はしばしば、顆粒球減少を付随し、そして重篤度は、骨髄抑制の程度と相関する。アントラサイクリンの高用量の投与と関連される有意な心毒性がまたある。
【0057】
代謝拮抗剤
代謝拮抗剤(すなわち、代謝拮抗物質)は、癌細胞の生理学及び増殖に重要な代謝プロセスを妨げる薬物の群である。活性に増殖する癌細胞は、大量の核酸、タンパク質、脂質、及び他の重要な細胞構成成分の連続的な合成を必要とする。
【0058】
多くの代謝拮抗物質は、プリン又はピリミジンヌクレオシドの合成を阻害するか、又はDNA複製の酵素を阻害する。いくつかの代謝拮抗物質はまた、リボヌクレオシド及びRNAの合成、並びに/又はアミノ酸代謝、及びタンパク質合成もまた妨げる。重要な細胞構成成分の合成を妨げることにより、代謝拮抗物質は癌細胞の増殖を遅延又は停止し得る。代謝拮抗剤の例としては、フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン(5−FUdR)、メトトレキセート、ロイコボリン、ヒドロキシ尿素、チオグアニン(6−TG)、メルカプトプリン(6−MP)、シタラビン、ペントスタチン、フルダラビンリン酸、クラドリビン(2−CDA)、アスパラギナーゼ、及びゲムシタビンが挙げられるが、これらに制限されない。
【0059】
代謝拮抗剤は、結腸、直腸、胸部、肝臓、胃、及び膵臓の癌腫、悪性黒色腫、急性及び慢性の白血病、並びに有毛細胞白血病を含む癌のいくつかの共通の形態を治療するために広範に使用されている。代謝拮抗治療の多くの副作用は、骨髄又は胃腸管粘膜のような分裂的に活性な組織における細胞増殖の抑制から生じる。これらの薬剤で治療された患者は一般に、骨髄抑制、口内炎、下痢、及び抜け毛を経験する。Chen及びGrem(1992)Curr.Opin.Oncol.4:1089−1098。
【0060】
ホルモン剤
ホルモン剤は、それらの標的器官の増殖及び発達を調節する薬物の群である。ホルモン剤の大部分は、性ステロイド及びそれらの誘導体及びその類似体(例えば、エストロゲン、プロゲストゲン、抗−エストロゲン、アンドロゲン、抗−アンドロゲン、及びプロゲスチン)である。これらのホルモン剤は、受容体の発現及び重要な遺伝子の転写をダウンレギュレートするために、性ステロイドについての受容体の拮抗薬として作用してもよい。このようなホルモン剤の例は、合成エストロゲン(例えば、ジエチルスチベストロール)、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン、トレミフェン、フルオキシムエステロール、及びラロキシフェン)、抗アンドロゲン(ビカルタミド、ニルタミド、フルタミド)、アロマターゼ阻害剤(例えば、アミノグルテチミド、アナストロゾール、及びテトラゾール)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)類似体、ケトコナゾール、酢酸ゴセレリン、ロイプロリド、酢酸メゲストロール、及びミフェプリストンである。
【0061】
ホルモン剤は、乳癌、前立腺癌、黒色腫、及び髄膜腫を治療するために使用される。ホルモンの主な作用は、ステロイド受容体を通して媒介されるので、受容体陽性な乳癌の60%は、初回ホルモン療法に応答し;そして受容体陰性な腫瘍の10%未満が応答した。ホルモン剤と関連される主な副作用は、炎症である。しばしば生じる兆候は、骨痛の急増、皮膚病変周囲の紅斑、及び誘導性の高カルシウム血症である。
【0062】
具体的には、プロゲストゲンは、プロゲストゲンにより妨害されない高レベルのエストロゲンに曝露される女性において子宮内膜癌が生じるので、これらの癌を治療するために使用される。
【0063】
アンチアンドロゲンは、ホルモン依存性である前立腺癌を治療するために主に使用される。それらはテストステロンのレベルを減少するために使用され、それにより腫瘍の増殖を阻害する。
【0064】
乳癌のホルモン治療は、新生物乳腺細胞におけるエストロゲン受容体のエストロゲン依存性の活性化のレベルを減少することを包含する。抗エストロゲンは、エストロゲン受容体に結合することにより作用し、そして補助因子の補充を妨げ、従って、エストロゲンシグナルを阻害する。
【0065】
LHRH類似体は、テストステロンのレベルを減少し、従って腫瘍の増殖を減少するために、前立腺癌の治療において使用される。
【0066】
アロマターゼ阻害剤は、ホルモン合成に必要とされる酵素を阻害することにより作用する。更年期後の女性において、エストロゲンの主な供給源は、アロマターゼによるアンドロステンジオンの変換を介する。
【0067】
植物由来の薬剤
植物由来の薬剤は、植物に由来するか、又は薬剤の分子構造に基づいて改変される薬物の群である。それらは、細胞分裂に必要である細胞の構成成分の組み立てを妨げることにより細胞複製を阻害する。
【0068】
植物由来の薬剤の例としては、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビンゾリジン、及びビノレルビン)、ポドフィロトキシン(例えば、エトポシド(VP−16)、テニポシド(VM−26))、タキサン(例えば、パクリタキセル及びドセタキセル)が挙げられる。これらの植物由来の薬剤は一般に、チューブリンに結合し、そして分裂を阻害する抗分裂剤として作用する。エトポシドのようなポドフィロトキシンは、トポイソメラーゼIIと相互作用することによりDNA合成を妨げ、DNA鎖の切断を導くと考えられている。
【0069】
植物由来の薬剤は、癌の多くの形態を治療するのに使用される。例えば、ビンクリスチンは、白血病、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫、及び小児腫瘍神経芽種、横紋筋肉腫、及びウィルムス腫瘍の治療において使用される。ビンブラスチンは、リンパ腫、精巣癌、腎細胞癌腫、菌状息肉腫、及びカポジ肉腫に対して使用される。ドキセタキセルは、進行性乳癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、及び卵巣癌に対して有望な活性を示した。
【0070】
エトポシドは、広範な新生物に対して活性であり、その中でも小細胞肺癌、精巣癌、及びNSCLCは最も応答性である。
【0071】
植物由来の薬剤は、治療される患者に対して有意な副作用を引き起こす。ビンカアルカロイドは、臨床的毒性の異なる範囲を示す。ビンカアルカロイドの副作用としては、神経毒性、変化された血小板機能、骨髄抑制、及び白血球減少が挙げられる。パクリタキセルは、用量制限性の好中球減少を引き起こし、他の造血細胞株を比較的温存する。エピポフィロトキシンの主な毒性は血液学的である(好中球減少及び血小板減少)。
【0072】
他の副作用としては、一過性の肝酵素異常、脱毛症、アレルギー反応、及び末梢神経障害が挙げられる。
【0073】
生物学的薬剤
生物学的薬剤は、単独で、又は化学療法及び/若しくは放射線療法と組み合わせて、使用される場合、癌/腫瘍の退縮を誘発する生体分子の群である。生物学的薬剤の例としては、サイトカインのような免疫調節タンパク質、腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体、腫瘍抑制遺伝子、及び癌ワクチンが挙げられる。
【0074】
サイトカインは、強い免疫調節活性を保有する。インターロイキン−2(IL−2、アルデスロイキン)及びインターフェロン−α(IFN−α)のようないくつかのサイトカインは、抗腫瘍活性を実証し、そして悪性腎細胞癌腫及び悪性転移性黒色腫を伴う患者の治療に承認されている。IL−2は、T細胞媒介性免疫応答の中心であるT細胞増殖因子である。いくつかの患者に対するIL−2の選択的な抗腫瘍効果は、自己と非自己との間を区別する細胞媒介性免疫応答の結果であると考えられている。
【0075】
インターフェロン−αは、重複する活性を備える23個を超える関連性のサブグループを包含する。IFN−αは、多くの固形腫瘍及び血液学的悪性腫瘍に対する活性を実証し、後者は特に感受性であるようである。
【0076】
インターフェロンの例としては、インターフェロン−α、インターフェロン−β(線維芽細胞インターフェロン)、及びインターフェロン−γ(線維芽細胞インターフェロン)が挙げられる。他のサイトカインの例としては、エリスロポエチン(エポイエチン−α)、顆粒球−CSF(フィルグラスチン)、及び顆粒球、マクロファージ−CSF(サルグラモスチム)が挙げられる。サイトカイン以外の他の免疫調節剤としては、桿菌カルメット−ゲラン菌、レバミゾール、及びオクトレオチド、天然に存在するホルモンソマトスタチンの効果を模倣する長時間作用性オクタペプチドが挙げられる。
【0077】
さらに、抗癌治療は、腫瘍ワクチンアプローチにおいて使用される抗体及び試薬を用いる免疫療法による治療を含んでなってもよい。この治療クラスにおける主要な薬物は、抗体であり、単独であるか、又は例えば、癌細胞に対する毒素若しくは化学療法剤/細胞傷害剤を保有する。腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体は、腫瘍により発現される抗原、好ましくは腫瘍特異的抗原に対して誘発される抗体である。例えば、モノクローナル抗体HERCEPTIN(登録商標)(トラスツズマブ)は、悪性乳癌を含むいくつかの乳房の腫瘍において過剰発現されるヒト表皮増殖因子受容体2(HER2)に対して惹起される。HER2タンパク質の過剰発現は、臨床におけるより侵攻性の疾患及び予後不良と関連される。HERCEPTIN(登録商標)は、その腫瘍がHER2タンパク質を過剰発現する悪性乳癌と伴う患者の治療のための単剤として使用される。
【0078】
腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体の別の例は、RITUXAN(登録商標)(リツキシマブ)であり、これはリンパ腫細胞上のCD20に対して惹起され、そして正常な及び悪性のCD20+プレB細胞及び成熟B細胞を選択的に枯渇する。
【0079】
RITUXANは、再発性又は難治性の低悪性度の又は小胞性の、CD20+、B細胞非ホジキンリンパ種を伴う患者の治療のための単剤として使用される。MYELOTARG(登録商標)(ゲムツズマブ オゾガミシン)及びCAMPATH(登録商標)(アレムツズマブ)は、使用されてもよい、腫瘍抗原に対するモノクローナル抗体のさらなる例である。
【0080】
腫瘍抑制遺伝子は、細胞増殖及び分裂周期を阻害するように機能する遺伝子であり、従って新生物の発生を妨げる。腫瘍抑制遺伝子における変異は、細胞に、阻害シグナルのネットワークの成分の1つ以上を無視させ、細胞周期のチェックポイントを抜け出し、そしてより高い割合の制御性細胞増殖−癌を生じる。腫瘍抑制遺伝子の例としては、Duc−4、NF−1、NF−2、RB、p53、WT1、BRCA1、及びBRCA2が挙げられる。
【0081】
DPC4は、膵臓癌に関与し、そして細胞分裂を阻害する細胞質経路にかかわる。NF−1は、Ras(細胞質阻害タンパク質)を阻害するタンパク質をコードする。NF−1は、神経系の神経芽腫及び褐色細胞腫、並びに骨髄性白血病に関与する。NF−2は、神経系の髄膜腫、神経鞘腫、及び上衣腫に関与する核タンパク質をコードする。RBは、pRBタンパク質、細胞周期の主要な阻害因子である核タンパク質をコードする。RBは、網膜芽腫、並びに骨癌、膀胱癌、小細胞肺癌、及び乳癌に関与する。P53は、細胞分裂を調節し、そしてアポトーシスを誘導し得るp53タンパク質をコードする。p53タンパク質の変異及び/又は無作用は、広い範囲の癌において見出される。WTIは、腎臓のウィルムス腫瘍に関与する。BRCA1は、乳癌及び卵巣癌に関与し、並びにBRCA2は、乳癌に関与する。腫瘍抑制遺伝子は、これがその腫瘍抑制機能を行使する腫瘍細胞に移入されてもよい。
【0082】
癌ワクチンは、腫瘍に対して身体の特異的免疫応答を誘導する薬剤の群である。研究及び開発、並びに臨床治験下にある癌ワクチンの大部分は、腫瘍関連抗原(TAA)である。TAAは、腫瘍細胞上に存在し、そして正常な細胞上には比較的不在であるか、又は減少される構造(すなわち、タンパク質、酵素、又は炭水化物)である。腫瘍細胞にかなり独特であるために、TAAは、認識し、そしてそれらの破壊を引き起こす免疫系についての標的を提供する。TAAの例としては、ガングリオシド(GM2)、前立腺特異的抗原(PSA)、α−フェトプロテイン(AFT)、癌胎児性抗原(CEA)(結腸癌及び他の腺癌(例えば、乳癌、肺癌、胃癌、及び膵癌)により産生される)、黒色腫関連抗原(MART−1、gap100、MAGE1,3チロシナーゼ)、パピローマウイルスのE6フラグメント及びE7フラグメント、自己腫瘍細胞及び同種腫瘍細胞の全細胞又は部分/溶解物が挙げられる。
【0083】
他の治療
近年の開発は、癌を治療するために使用される伝統的な細胞傷害性療法及びホルモン療法に加えて、癌の治療のためのさらなる治療法を導入した。例えば、遺伝子療法の多くの形態が、前臨床試験又は臨床治験を受けている。
さらに、アプローチは現在、腫瘍の血管新生(血管形成)の阻害に基づく開発下にある。この概念の目的は、新しく構築された血管腫瘍系により提供される栄養及び酸素の供給から腫瘍を遮断することである。
【0084】
さらに、癌治療はまた、新生物細胞の末端分化の誘導により試みられている。適切な分化剤としては、以下の参考文献の1つ以上において開示される化合物が挙げられる。
【0085】
a)極性化合物(Marksら(1987);Friend,C.、Scher,W.、Holland,J.W.、及びSato,T.(1971)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)68:378−382;Tanaka,M.、Levy,J.、Terada,M.、Breslow,R.、Rifkind,R.A.、及びMarks,P.A.(1975)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)72:1003−1006;Reuben,R.C.、Wife,R.L.、Breslow,R.、Rifkind,R.A.、及びMarks,P.A.(1976)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)73:862−866);
【0086】
b)ビタミンD及びレチノイン酸の誘導体(Abe,E.、Miyaura,C.、Sakagami,H.、Takeda,M.、Konno,K.、Yamazaki,T.、Yoshika,S.、及びSuda,T.(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)78:4990−4994;Schwartz,E.L.、Snoddy,J.R.、Kreutter,D.、Rasmussen,H.、及びSartorelli,A.C.(1983)Proc.Am.Assoc.Cancer Res.24:18;Tanenaga,K.、Hozumi,M.、及びSakagami,Y.(1980)Cancer Res.40:914−919);
【0087】
c)ステロイドホルモン(Lotem,J.及びSachs,L.(1975)Int.J.Cancer 15:731−740);
【0088】
d)増殖因子(Sachs,L.(1978)Nature(Lond.)274:535,Metcalf,D.(1985)Science、229:16−22);
【0089】
e)プロテアーゼ(Scher,W.、Scher,B.M.、及びWaxman,S.(1983)Exp.Hematol.11:490−498;Scher,W.、Scher,B.M.、及びWaxman,S.(1982)Biochem.&Biophys.Res.Comm.109:348−354);
【0090】
f)腫瘍促進因子(Huberman,E.及びCallaham,M.F.(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)76:1293−1297;Lottem,J.及びSachs,L.(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)76:5158−5162);並びに
【0091】
g)DNA又はRNA合成の阻害剤(Schwartz,E.L.及びSartorelli,A.C.(1982)Cancer Res.42:2651−2655、Terada,M.、Epner,E.、Nudel,U.、Salmon,J.、Fibach,E.、Rifkind,R.A.、及びMarks,P.A.(1978)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)75:2795−2799;Morin,M.J.及びSartorelli.A.C.(1984)Cancer Res.44:2807−2812;Schwartz,E.L.、Brown,B.J.、Nierenberg,M.、Marsh,J.C.、及びSartorelli,A.C.(1983)Cancer Res.43:2725−2730;Sugano,H.、Furusawa,M.、Kawaguchi,T.、及びIkawa,Y.(1973)Bibl.Hematol.39:943−954;Ebert,P.S.、Wars,I.、及びBuell,D.N.(1976)Cancer Res.36:1809−1813;Hayashi,M.、Okabe,J.、及びHozumi,M.(1979)Gann70:235−238)、
【0092】
本発明の薬学的組成物と、上記の任意の抗癌剤との組み合わせ、及びそれらの使用は、本発明の範囲内である。
【0093】
本発明は、以下の実験の詳細の節における実施例において説明される。この節は、本発明を理解することを補助するために記載されるが、付随する請求の範囲において記載されるような本発明をいかようにも制限することを意図せず、及びそのように解釈されるべきではない。
【実施例】
【0094】
実験の詳細の節
実施例1
【0095】
L−リジン及びSAHAを含んでなる結晶性組成物の調製
SAHAの溶液(6.0mLのエタノール中の0.10g、0.38mmol)と、L−リジンの溶液(3.78mLの0.1M水溶液、0.38mmol)とを、20.0mLのバイアルに添加した。SAHAを、米国特許公報2004/0072735号において開示される手順に従って合成してもよい。得られた混合液を40℃にて4時間攪拌し、そして周囲の温度に冷却し、さらに12時間攪拌した。この後、全ての溶媒を減圧下で除去し、残渣をエタノール(3.0mL)中に採取した。スラリーを周囲の温度にて24時間攪拌し、次いで、固体を、濾過を介して回収し、そして真空オーブン中で乾燥した。
実施例2
【0096】
L−リジン及びSAHAを含んでなる結晶性組成物のX線粉末回析分析
結晶性組成物のX線粉末回析パターン(図1)を、2〜40度2θ(2〜40 degree 2θ)からの連続的な走査を使用してPANanalytical X’Pert Pro X−線粉末回析装置において作成した。銅Κ−アルファ1(Κα1)及びΚ−アルファ2(Kα2)放射線を、供給源として使用した。実験を周囲条件で行った。結晶性組成物は、X−線粉末回析(XRPD)パターンにより、6.8、20.1、及び23.2度(2θ)でのピークで特徴付けられる。結晶性組成物は、さらに12.6、18.7、及び24.0度(2θ)でのピークにより特徴付けられる。結晶性組成物に起因されるさらなるピークは、12.0、16.4、29.3度(2θ)にて観察される。
実施例3
【0097】
結晶性組成物の示差走査熱量測定
DSC曲線(図2)を、窒素雰囲気を伴い、波型のアルミ製の鍋において、室温から300℃への10℃/分の加熱速度にて、TA Instruments Q1000示差走査熱量測定器により作成した。吸熱は、約182℃の外挿発熱温度を示す。
実施例4
【0098】
患者の研究
患者に、アミン塩基SAHA塩を含んでなる経口薬学的組成物、又はアミン塩基及びSAHAを含んでなる結晶性組成物を投与する。皮膚T細胞リンパ腫又は末梢T細胞リンパ腫のいずれかを伴う患者に、薬学的組成物を、1日1回、継続的に投与し、ここでは投与されるSAHAの量は、400mgである。皮膚T細胞リンパ腫又は末梢T細胞リンパ腫のいずれかを伴う患者に、薬学的組成物を、1日2回、1週間につき3〜5日間、投与し、ここでは投与されるSAHAの量は、各用量について、300mgである。進行性白血病及び骨髄異形成症候群(MDS)を伴う患者に、薬学的組成物を経口的に(po)1日3回(tid)、14日間、続いて1週間の休止を、3週間の治療単位で投与し、ここでは投与されるSAHAの量は、各用量について、100mg、150mg、200mg、又は250mgである。
【0099】
本発明はその実施態様を参照して、特に示され、そして記載されたが、記載される本発明の意味から逸脱することなく、形態及び詳細において種々の変化がそこになされてもよいことが、当業者により理解される。正しくは、本発明の範囲は、付随する請求の範囲により規定される。
【0100】
参考文献
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−504969(P2010−504969A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530389(P2009−530389)
【出願日】平成19年9月24日(2007.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/020610
【国際公開番号】WO2008/042146
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】