SP1ポリペプチドを含む組成物およびその使用
【課題】プロテアーゼ抵抗性を有する、放出および送達のための薬物キャリアの提供。
【解決手段】ナノ粒子との可逆的な分子的会合の状態で安定タンパク質(SP1ポリペプチド)を含む組成物であり、前記SP1ポリペプチドが、アスペン植物(Populus tremula)から単離されたSP1、金結合ペプチドを含むSP1変異体、及び珪素結合ペプチドを含むSP1変異体からなる群から選択され、前記ナノ粒子が導電性分子又は半導電性分子であり、前記導電性分子又は半導電性分子が、金属、半導体及び誘電体からなる群から選択されるものである。
【解決手段】ナノ粒子との可逆的な分子的会合の状態で安定タンパク質(SP1ポリペプチド)を含む組成物であり、前記SP1ポリペプチドが、アスペン植物(Populus tremula)から単離されたSP1、金結合ペプチドを含むSP1変異体、及び珪素結合ペプチドを含むSP1変異体からなる群から選択され、前記ナノ粒子が導電性分子又は半導電性分子であり、前記導電性分子又は半導電性分子が、金属、半導体及び誘電体からなる群から選択されるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性剤およびプロテアーゼに対して安定性を有するタンパク質、その変性された誘導体、および、それらの使用に関連する。より具体的には、本発明は、他の分子(リガンド)およびナノ構造体の複合体化、放出および送達のために設計された、変性剤に対して安定性を有するプロテアーゼ抵抗性の新規なホモオリゴマータンパク質(これはまた本明細書中では安定タンパク質(SP)として示される)およびその誘導体の使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
変性剤に対して安定性を有するプロテアーゼ抵抗性タンパク質
過酷な条件に対する並外れた抵抗性を有するストレス誘導されるシャペロン様タンパク質の特異なファミリーが近年、広範囲の多様な植物種において同定されている。アスペンのSP1タンパク質(配列番号1)によって例示されるが、このファミリーのタンパク質は、煮沸、変性剤およびプロテアーゼに対する抵抗性、保存されたアミノ酸配列相同性の領域、特異な三次元立体配座、オリゴマー形成、ならびに、生物学的に活性なタンパク質に対する強い安定化作用によって特徴付けられる。
【0003】
その特異な三次元構造との組合せにおいて、過酷な条件に対するこれらのストレス誘導のシャペロン様タンパク質の並外れた抵抗性は、極端な条件を、安定性を有するが、選択的に可逆的なリガンドとの複合体を作製するために適用することを可能にする。
【0004】
SP1
アスペン植物(Populus tremula)から単離されたSP1は、塩分ストレス、低温ストレスおよび熱ストレスをはじめとする広範囲の様々な環境ストレスに応答し、また、ストレス回復時に蓄積する。有意な配列類似性が、既知のタンパク質ファミリーに関して何ら見出されておらず、また、様々なSP1ホモログが、ゲノム配列またはESTのいずれかに由来する、機能が未知の仮想タンパク質として、数多くの植物種および細菌種において認められている。
【0005】
Wang他(米国特許出願第10/233409号)は、アスペンのSP1タンパク質(配列番号1)の単離、クローン化および特徴付けを行い、他の生物学的に活性なタンパク質を変性に対して安定化させることにおけるそのシャペロン様活性を発見している。Wang他(米国特許出願第10/233409号)はさらに、他の多様な植物種(トマト、マツ、イネ、トウモロコシおよびアラビドプシス)に由来する、煮沸および界面活性剤に対して安定性を有する他のタンパク質を開示した。これらのタンパク質は、類似した機能的特徴(具体的には、シャペロン様活性およびストレス関連性)を互いに有し、また、免疫交差反応性を互いに有し、また、アスペンSP1に対する少なくとも65%のアミノ酸相同性を有し、また、配列相同性の保存された領域を互いに有する。
【0006】
Wang他(米国特許出願第10/233409号)は、結合性分子の結合特性を高めるために、また、融合された分子(例えば、酵素など)を安定化させるために、また、融合された分子の免疫学的性質を強化するか、もしくは変化させるために、他のタンパク質分子または非タンパク質分子に融合されたSP1タンパク質を開示した。SP1融合タンパク質は、米国特許出願第10/233409号によって教示されるように、遺伝子工学技術によって付加されたさらなるポリペプチド配列を有する組換えSP1分子と、化学的手段(例えば、架橋など)によって付加されたさらなる非タンパク質成分を有するSP1分子とを含む。Wang他はさらに、皮膚、毛髪、爪などを強化するための、SP1タンパク質の治療的使用を開示している。しかしながら、米国特許出願第10/233409号は、天然SP1またはSP1変異体を、それらと可逆的に複合体化された薬剤(治療薬、化粧品、診断用薬、導電剤など)の制御された放出のためのキャリアとして、あるいは、そのような放出の手段として使用することを教示も、示唆もしていない。
【0007】
薬物キャリア:
疾患を治療するために用いられる多くの薬物は、水溶液における溶解性が不十分であるか、または、治療的濃度において有害な副作用を有するかのいずれかである。従って、多くの医学的適用は、薬物の効果的な濃度を、治療を必要とする生物(例えば、哺乳動物)において標的細胞または標的組織に効率的に送達するための好適な方法がないことを欠点として有する。
【0008】
薬物を効率的に使用するためのいくつかの考慮すべき事項には、下記が含まれる:
不十分な溶解性、これによって、疎水性の薬物が水性媒体では沈殿し得るので、好都合な薬学的形式を達成することにおける困難を引き起こす。しかしながら、可溶化のための賦形剤(例えば、Cremphor(タキソールにおけるパクリタキセルのための溶解剤)など)の使用にはまた、毒性が伴う。
【0009】
標的組織についての選択性の欠如、これによって、正常な組織に対する毒性がもたらされ、ドキソルビシンの心臓毒性の場合のように、投与することができる薬物の量が厳しく制限される。標的組織における薬物の低い濃度はさらに、最適でない治療効果をもたらす。
【0010】
好ましくない薬物動態学、例えば、インビボでの薬物の迅速な腎臓クリアランス、迅速な分解、または、生理学的条件での活性の欠損(例えば、生理学的pHでのカンプトテシン類の活性の欠損)、これもまた、増大された服用または頻繁な投与療法をもたらし得る。
【0011】
細胞の輸送体、解毒経路、または、アポトーシス伝達経路の阻害を誘導することによる標的組織(例えば、腫瘍など)における薬物抵抗性の発達。
【0012】
組織損傷をもたらす細胞毒性薬物の管外遊出での組織損傷(すなわち、遊離パクリタキセルによって引き起こされる壊死)。
【0013】
多くの方法により、これらの問題点のいくつかが特定の場合には解決されているが、今までのところ、薬物送達の問題に対する一般的な解決策は存在していない。これらの問題を解決するために存在する方法のいくつかの例には、(1)疎水性の薬物を水性媒体において界面活性剤から形成されるミセルに可溶化すること(WiedmannおよびKamel、J.Pharm.Sci.、2002、91、1743;MacGregor他、Adv.Drug Deliv.Rev.、1997、25、33)、(2)生分解性であり得るか、生物接着性の官能基またはリガンドを含有し得るナノメートルからマイクロメートルのサイズ範囲でのポリマーマトリックスで薬物をカプセル化すること(国際特許出願公開WO02/15877、同WO02/49676)、(3)親水性の薬物をリポソームでカプセル化すること(Anderson他、Pharm.Res.、2001、18、316;国際特許出願公開WO99/33940)(この場合、リポソームはまた、生物接着性の官能基またはリガンドを呈示することができる)、(4)能動的輸送系のための基質である分子に薬物をコンジュゲート化すること(Kramer他、J.Biol.Chem.、1994、269、10621;国際特許出願公開WO01/09163;米国特許出願公開2002/0098999;米国特許出願公開20060074225)、(5)活性な薬物成分(すなわち、プロドラッグ)の生理学的に選択的(pH、酵素的など)な放出を使用して標的化すること、(6)薬物をヒドロゲルと会合させること、および(7)分解、免疫認識または腎臓排出からタンパク質薬物を保護するためにタンパク質薬物を親水性ポリマーにより化学的に誘導体化すること(Belcheva他、Bioconjugate Chem.、1999、10、932;Zalipsky、Bioconjugate Chem.、1995、6、150;米国特許第4002531号;米国特許第4179337号)が含まれる。しかしながら、これらの方法はどれも、薬物送達問題のすべての場合についての一般的な解決策を提供していない。ミセル系、リポソーム系およびポリマーナノ粒子系における粒子サイズの制御は依然として重大な問題である。現在利用可能な薬物送達系が、送達のために要求される機能のすべてを1つの系に取り込むことができないことは、例えば、ミセル、ナノ粒子系および標的化系に関する別の問題である。なおさらに、放出速度および貯蔵寿命、特に、ミセルおよびリポソームの放出速度および貯蔵寿命は、制御することが困難で、予測不能であり、また、両親媒性成分は様々な毒性作用を生じさせ得る。
【0014】
生物の細胞または組織への薬物送達のために用いられる他の系は類似する欠点を有する。従って、上記で示された問題を最小限に抑えるか、または克服する、薬物を送達するための方法が求められている。
【0015】
本発明には、他の物質(例えば、小分子、ペプチド、核酸フラグメント、無機ナノ構造体および他の分子(リガンド)など)との分子的複合体を形成するためにSP1およびSP1変異体を使用するための方法が含まれる。加えて、本発明には、薬物の分子的複合体化のために、また、複合体化されたリガンドの送達ならびに制御放出のためにSP1およびSP1変異体を使用するための方法が含まれる。従って、上記の制限を有しない分子的複合体を形成することができるSP1およびSP1変異体が必要であることが広く認識されており、また、そのようなSP1およびSP1変異体を有することは非常に好都合である。
【発明の概要】
【0016】
本発明の1つの態様によれば、SP1ポリペプチドのアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、このアミノ酸配列が、物質との可逆的な分子的会合の状態であるように変性される単離されたポリペプチドが提供される。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、配列番号2〜配列番号30に示されるようなアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドが提供される。
【0018】
本発明のなおさらに別の態様によれば、配列番号2〜配列番号30に示されるようなアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド、または、SP1ポリペプチドのアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、このアミノ酸配列が、物質との可逆的な分子的会合の状態であるように変性される単離されたポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0019】
本発明の別の態様によれば、複数の自己集合した変性SP1モノマーを含む組成物が提供される。
【0020】
本発明のさらに別の態様によれば、変性SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある治療薬、診断用薬または化粧剤を含む単離された組成物が提供される。
【0021】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1分子は治療薬、診断用薬または化粧剤に翻訳融合される。
【0022】
本発明のなおさらに別の態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤との可逆的な分子的会合の状態でSP1ポリペプチドを含む単離された組成物が提供される。
【0023】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1分子は治療薬、診断用薬または化粧剤に翻訳融合されない。
【0024】
本発明のさらに別の態様によれば、変性SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある導電性物質または半導電性物質を含む単離された組成物が提供される。
【0025】
本発明のさらに別の態様によれば、導電性物質または半導電性物質との可逆的な分子的会合でのSP1ポリペプチドを含む単離された組成物が提供される。
【0026】
本発明のさらに別の態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤をその必要性のある対象に送達する方法が提供され、この場合、この方法は、SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある治療薬、診断用薬または化粧剤を含む組成物の治療効果的な量を対象に投与し、それにより、この治療薬、診断用薬または化粧剤をこの対象に送達することを含む。
【0027】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドは、変性SP1ポリペプチドが可能である。
【0028】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、分子的会合は可逆的な分子的会合であり、方法はさらに、この分子的会合を可逆化するための条件を提供することを含む。
【0029】
本発明のさらに別の態様によれば、物質を安定化させる方法が提供され、この場合、この方法は、物質を、この物質との複合体を可逆的に形成するために変性SP1ポリペプチドと接触させ、その結果、複合体を形成させ、それにより、この物質を安定化させることを含む。
【0030】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、安定性は、温度安定性、イオン強度安定性、プロテアーゼ安定性および触媒作用安定性からなる群から選択される特性を含む。
【0031】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、方法はさらに、この複合体を溶媒と接触させ、その結果、溶液を形成する工程を含む。
【0032】
本発明のさらに別の態様によれば、溶液における物質の溶解性を高める方法が提供される。この方法は、物質を、この物質との複合体を可逆的に形成することができるSP1ポリペプチドと接触させ、その結果、複合体を形成すること、および、この複合体を、溶媒を用いて溶解し、その結果、溶液を形成することによって行われ、それにより、溶液における物質の溶解性を高める。溶媒は水性溶媒または有機溶媒が可能であり、物質は疎水性物質または親水性物質が可能である。
【0033】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも65%の相同性を有する、煮沸および界面活性剤に対して安定なタンパク質であって、シャペロン様活性を有し、安定なダイマーを形成することができるタンパク質である。
【0034】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドは、10.00のプルラリティー(plurality)、4の閾値、1.00の平均加重、2.91の平均マッチおよび−2.00の平均ミスマッチを使用してGCGのBest Fitアルゴリズム(Wisconsin Package Version9.1)を使用して決定されたとき、少なくとも1つの保存されたアミノ酸配列を、配列番号1のアミノ酸9〜11、アミノ酸44〜47および/またはアミノ酸65〜73に対応する少なくとも1つの領域に有する。
【0035】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドはオリゴマー形成によって特徴付けられ、このSP1オリゴマーは熱安定性でかつプロテアーゼ抵抗性のオリゴマーである。
【0036】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドは、変性アミノ酸配列を有するSP1ポリペプチドであり、変性は、ジスルフィド結合を形成することができる少なくとも1つのアミノ酸の付加を含む。
【0037】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、変性は、配列番号1のアミノ酸残基2に対応する位置における少なくとも2つのヒスチジン残基の付加を含む。
【0038】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、変性は、配列番号1のアミノ酸残基40に対応する位置における、少なくとも1つのチオール基を有する少なくとも1つのアミノ酸の付加を含む。
【0039】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、薬剤との分子的会合または複合体を形成することはレドックス依存的である。
【0040】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、変性は、配列番号1のアミノ酸残基2またはアミノ酸残基40に対応する位置におけるシステイン残基の付加である。
【0041】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、物質は、治療薬、診断用薬または化粧剤である。なおさらに、治療薬、診断用薬または化粧剤は、ポリペプチド剤、核酸剤、脂質剤、炭水化物剤、小分子、および、それらの組合せからなる群から選択される。
【0042】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、物質は、導電性または半導電性のイオン性物質である。導電性または半導電性のイオン性物質は、金属、半導体および誘電体のいずれかが可能である。
【0043】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、変性アミノ酸配列は、配列番号2〜配列番号30に示される通りである。
【0044】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、このアミノ酸配列は、標的認識配列を含むように変性される。標的認識配列はガン細胞表面またはガン細胞血管系を認識する配列が可能である。標的認識配列は配列番号31〜配列番号62の配列のいずれかが可能である。標的認識配列は、配列番号63〜配列番号81からなる群から選択されるガン細胞血管系認識配列が可能である。ガン細胞血管認識配列はCRGD配列が可能である。
【0045】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、分子的会合は共有結合性の会合または非共有結合性の会合である。
【0046】
本発明のさらに別の態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤をその必要性のある対象に送達するための医薬品を製造するための、天然SP1ポリペプチドまたは変性SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある治療薬、診断用薬または化粧剤を含む組成物の使用が提供される。
【0047】
本発明のなおさらに別の態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤をその必要性のある対象に送達するための医薬品の治療的製造物を送達するための、天然SP1ポリペプチドまたは変性SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある治療薬、診断用薬または化粧剤を含む組成物が提供される。
【0048】
本発明は、治療的適用、診断的適用、化粧的適用、ならびに薬物の送達、可溶化および安定化のようなナノ技術的適用における使用のための物質との分子的会合を形成することができる単離されたSP1ポリペプチドおよびSP1変異体ポリヌクレオチドを提供することによって、現在知られている構成の欠点に首尾よく対処する。
【0049】
図面の簡単な記述
本発明は、添付図面を参照して、本明細書において例としてのみ記載されている。ここでこれらの図面を特に参照することによって、示されている詳細は、例としてのものであり、本発明の好ましい実施形態の例証的考察のみを目的としており、本発明の原理および概念的側面の最も有用かつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示されている。この点に関して、本発明の基本的理解に必要なもの以上に詳細に本発明の構造的詳細を示す試みはなされず、これらの図面を用いて行なわれる説明は、この発明のいくつかの形態がどのようにして実際に具体化されうるかを当業者に明らかにする。
【0050】
図1は、SP1オリゴマーの陰染色された2D結晶の電子顕微鏡写真、および、その2D結晶性構造のグラフィック表示である。
図2a〜図2bは、NTA−Ni金ナノ粒子が中心の空洞において6Hタグに結合することを示す組換えSP1:6HSP1の電子顕微鏡写真である。図2aは透過電子顕微鏡写真(TEM)である。タンパク質−ナノゴールド−タンパク質−ナノゴールド...の交互配列に留意すること。図2bはナノゴールド−6HS−SP1コンジュゲートのグラフィック表示である。
図3は、2つのSP1変異体がヘテロオリゴマーのSP1複合体に自己集合することを示すSDS−PAGEである。組換えHISタグ化SP1(6H)およびN末端欠失SP1(ΔN)のモノマーが同時に電気溶出され(6HΔN)、Ni−NTAアガロースで精製され、プロテイナーゼK(PK)消化に供された。タンパク質サンプルをSDSサンプル緩衝液においてSDS対サンプルの過剰な割合で調製し、このとき、5分間の煮沸(b)または煮沸非処理(nb)のいずれかに供した。レーン1=WT:野生型SP1。煮沸されたモノマー状のゲル精製形態の6HSP1(レーン2)およびΔNSP1(レーン3)をクーマシーブルー染色によって可視化し、切り出し、1:1の比率(v/v)で混合した(レーン4およびレーン5)。タンパク質を、以前に記載されたように、電気溶出によって同時に溶出させた(Wang(2002))。ヘテロオリゴマー複合体をNi−NTAアガロースビーズで単離した(レーン6およびレーン7)。モノマーSP1を消化するが、SP1複合体を消化しないプロテイナーゼKを、6HSP1およびΔNSP1のモノマー形態をNi−NTA精製タンパク質から除くために用いた(レーン8およびレーン9)。ヘテロオリゴマーSP1の組成をSDS−PAGEによって求め、銀染色によって可視化した。
図4は、腫瘍特異的ペプチドのCRGDおよびRGDCのSP1表面での多重呈示を示す。これらのペプチドをSP1のN末端に挿入した。CRGD変異体(レーン1〜レーン3)およびRGD−C変異体(レーン5〜レーン7)はともに高分子量の複合体を形成することに留意すること(レーン3およびレーン7)。タンパク質が還元剤の存在下でサンプル適用緩衝液において煮沸されるとき、複合体はより低分子量の化学種(モノマーおよびダイマーなど)に解離する。還元剤が存在しない場合(レーン1およびレーン5)、および、(還元剤が存在しない)酸化状態下での煮沸では、より大きいレベルのダイマーが認められる(レーン2)。レーン4=分子量マーカー。
図5aおよび図5bは、組換え変異体SP1の発現、精製およびリフォールディングを示すPAGE分析の写真である。Cys2loop1RGd SP1変異体は発現時に可溶性タンパク質を形成せず(封入体(IB)に見出され)、フレンチプレスによって抽出され、遠心分離(20分、17000xg)によって沈降した。可溶性SP1を含有しない上清(図5a、レーン1)を集め、SP1のIBを含有するペレット(図5a、レーン2)を薄い尿素で洗浄し、5Mの尿素および10mMのDTTにおいて可溶化し、遠心分離した(30分、20000xg)。ペレット(図5a、レーン3)を捨て、上清を集め、2mMのDTTを含む緩衝液に対して4日間にわたって透析した(図5a、レーン4)。透析された変異体SP1を低温で3週間保存し(図5b、レーン1およびレーン2)、SP1モノマー、ならびに、非特異的なタンパク質を30分間の熱処理によって除き、プロテアーゼ(アルカラーゼ、10000の希釈度)によって消化し(図5b)、透析した(図5b、レーン4)。MW=分子量マーカー(上方バンド=SP1複合体、下方バンド=SP1モノマー)。複合体化していないより低分子量の形態(図5a、レーン2およびレーン4;図5b、レーン1およびレーン2)から、より高分子量のオリゴマー形態(図5b、レーン3およびレーン4)への変化に留意すること。
図6a〜図6cは、イオン交換クロマトグラフィー(図6a)および疎水性相互作用クロマトグラフィー(図6b)の両方を使用する、組換え細胞の粗製の耐熱性抽出物の組換えSP1の精製を示す。図6cは、Source−Q疎水性相互作用カラムでの分離の精製された生成物と比較したときの、粗製の組換え細胞抽出物(レーン1)および耐熱性画分(レーン2)のPAGE分析である。
図7は、ゲルろ過HPLC(TSK300カラム)(上段)および逆相HPLC(C−18カラム)(下段)の両方で単一ピークとして溶出する純粋なSP1の特徴付けを示す。
図8a〜図8cは、Cys2 SP1変異体による薬物複合体形成および制御された放出の仮想的なモデルを例示するグラフィック表示である。図8aは、遊離チオールと、ジスルフィド結合との間での動的平衡に依存する、Cys2変異体の中心の空洞のレドックス依存的な開放および閉鎖についてのモデルを示す(還元剤は平衡を遊離チオールの方向に変化させ、酸化剤は平衡をジスルフィド結合の方向に変化させる)。図8aは、Cys2 SP1モノマーが還元状態(LSB+2%b−メルカプトエタノールにおける10分間の煮沸)のもとで優勢であること(レーン1)、および、Cys SP1ダイマーが非還元性の条件のもとで優勢であること(レーン2)を例示するSDS−PAGEである。図8cは、Cys2 SP1変異体によるレドックス依存的な薬物複合体形成を例示するグラフィック表示である。
図9は、Cys2 SP1による小分子とのレドックス依存的な複合体形成を示すヒストグラムである。純粋なCys2変異体(リン酸塩緩衝化生理的食塩水(pH=7.5)(PBS)において1.5mg/ml)を、グルタチオン(還元型形態、GSH、3mM)の存在下または非存在下、1mMのフルオレセイン−アミンと室温で2時間インキュベーションした。結合反応を、過酸化水素(0.01%)を加えることによって停止させ、続いて、限外ろ過(30kDのカットオフフィルターを使用する)および徹底的な洗浄を行った。吸収分析を278nmおよび492nmの両方で行い、結果が492/278の比率として表された。還元剤(GSH)が存在しない場合、フルオレセイン−アミンの保持が無視できるほどであることに留意すること。
図10は、組換えSP1と比較したときの、Cys2 SP1によるレドックス依存的なフルオレセインアミン複合体形成のグラフィック表示である。フルオレセイン−アミンを、DTT(10mM)の非存在下または存在下、純粋なSP1またはCys2 SP1変異体(PBS(pH=7.5)において1.5mg/ml)とインキュベーションした。結合反応を、過酸化水素(0.01%)を加えることによって停止させ、続いて、限外ろ過(30kDのカットオフフィルターを使用する)および徹底的な洗浄を行った。サンプルをゲルろ過HPLCによって分析し、228nmおよび490nmの両方で検出した。計算されたデータが右側に示される。Cys2 SP1変異体による還元状態(10mM DTT)下でのフルオレセイン−アミンの優れた保持に留意すること。
図11は、Cys2 SP1によるフルオレセイン−アミンとの濃度依存的な複合体形成を例示するヒストグラムである。フルオレセイン−アミン(10mM、33mM、100mMまたは333mM)を、10mMのDTTの存在下、Cys2 SP1または純粋な野生型SP1とインキュベーションし、結合画分および非結合画分を図10でのように限外ろ過およびHPLCによって分析した。高濃度のCys2 SP1のCys2 SP1による優れた結合に留意すること。
図12は、Cys2 SP1によるドキソルビシンとの優れたレドックス依存的な複合体形成を示すヒストグラムである。純粋な野生型SP1またはCys2 SP1変異体(20mMリン酸ナトリウム緩衝化(pH=6.8)における1.5mg/ml)を、穏やかに回転しながら、DTT(10mM)の存在下、DOX(1mg/ml)と室温で一晩インキュベーションした。結合反応を、過酸化水素(0.01%)を加えることによって停止させ、続いて、限外ろ過(30kDのカットオフフィルターを使用する)および徹底的な洗浄を、流出が無色になるまで行った。光学密度を、nanodrop分光光度計を使用して278nmおよび477nmの両方で測定した。野生型SP1に対する効果がないことと比較して、Cys2 SP1による薬物結合に対する還元剤の劇的な効果には留意すること。
図13は、Cys2 SP1によるドキソルビシンのドックス依存的な放出を示すヒストグラムである。ドキソルビシン(DOX)を上記の図9〜図12に記載されるようにCys2 SP1内に複合体化した。0mM、2mMおよび20mMのGSHの存在下での薬物の放出を限外ろ過およびサイズ排除HPLC分析(228nmおよび475nmでの検出)によって測定した。
図14は、Cys2 SP1によるDOX複合体形成に対する酸化の影響を例示するヒストグラムである。ドキソルビシン(DOX)を上記の図9〜図13に記載されるようにCys2 SP1および野生型SP1と反応させた。酸化されたタンパク質は、GSHによる処理に先立って、過剰なH2O2への暴露を示す。DOX複合体形成を限外ろ過およびサイズ排除HPLC分析(228nmおよび475nmでの検出)によって測定した。右側パネルは、477nmで測定されるRP−HPLCでの結合DOXおよび遊離DOXの検出を示す。1=保持物;2=流出;および3=DOX標準物(20μg/ml)。
図15は、SP1−DOX複合体を特徴付けるSDS PAGE蛍光分析の写真である。DOXを標準的な条件(図11を参照のこと)のもとでCys2 SP1変異体と複合体化し、SDS−PAGEによって分離し、固定し、洗浄し、DOXを、緑色フィルターを使用して、473nmでの蛍光画像化装置(FUJIFILM FLA−500、FUJI、日本)による走査によって可視化した。クーマシー染色を、サンプルのタンパク質含有量を比較するために使用した。DOXが、極端な条件(SDS−PAGEゲル)のもとでさえ、Cys2 SP1変異体のすべての形態(複合体、ダイマーおよびモノマー)との堅固な複合体を形成し続けたことに留意すること。
図16は、熱、還元および血清にさらされたときのDOX−SP1複合体の安定性を例示する蛍光PAGE分析の写真である。SP1およびDOXを上記の図9〜図14に記載されるように反応させて、複合体を形成させた。サンプルは、熱処理(80℃で30分)(レーン1〜レーン4)、プロテアーゼ処理(1:1000で希釈されたアルカラーゼ、45℃で30分間)(レーン1〜レーン3およびレーン5)のいずれかを、希釈されたマウス血清(1:10)(レーン1およびレーン2)の存在下または非存在下で受けた。SDS−PAGE分析のために、すべてのサンプルを、2%β−メルカプトエタノールを含む緩衝液(LSB)において10分間煮沸した。変性条件およびタンパク質分解条件に対するSP1−DOX複合体の優れた抵抗性に留意すること。
図17は、Cys2タンパク質およびSP1融合タンパク質によるDOXとの効果的な複合体形成を例示する蛍光PAGE分析の写真である。組換え野生型(レーン1およびレーン2)、Cys2(レーン3およびレーン4)、および、N末端のさらなる腫瘍特異的ペプチドRGD(CRGD)を有するSP1融合タンパク質(レーン5およびレーン6)、または、逆順序でのRGD(RGDC)を有するSP1融合タンパク質(レーン7およびレーン8)を、上記の図9〜図14に記載されるようにDOXと反応させて、複合体を形成させ、その後、LSBにおける煮沸による変性を伴って(レーン2、レーン4、レーン6およびレーン8)、または、伴うことなく(レーン1、レーン3、レーン5およびレーン7)、SDS−PAGEで分離した。高分子量の複合体における強い蛍光に留意すること(非煮沸サンプル、レーン1、レーン3、レーン5およびレーン7)。これは、すべての変異体SP1による薬物の効果的な結合、および、はるかにより低い程度ではあるが、野生型による薬物の効果的な結合を示している。
図18は、有機溶媒に対するSP1の高分子量オリゴマー複合体の抵抗性を示す写真である。野生型SP1(レーン1〜レーン3)またはCys2 SP1(レーン4〜レーン6)(10mMリン酸ナトリウム(pH7)における1mg/ml)を凍結乾燥し、緩衝液(レーン1およびレーン4)または溶媒(10分のインキュベーション時間)(レーン2およびレーン5=メタノール;レーン3およびレーン6=ヘキサン)に再懸濁した。サンプルを水に再懸濁し、高分子量オリゴマー複合体の存在についてSDS−PAGEによって分析した。オリゴマー複合体がすべての条件のもとで持続すること、および、Cys2 SP1変異体が野生型よりも一層大きい抵抗性を有することに留意すること。
図19は、SP1との複合体によるパクリタキセル(PTX)の可溶化を示すHPLC分析である。精製された組換えの凍結乾燥された野生型SP1をパクリタキセル溶液(0.1ml、アセトン:ヘキサン(1:2)に溶解、0.25mg/ml)と混合し、20分間にわたって超音波処理し、溶媒をスピードバキュームによってエバポレーションした。水に溶解し、さらなる超音波処理およびボルテックス混合を行った後、50μlのサンプルをRP HPLCによって分析した。上段パネルはHPLCピーク(225nm)を示す(SP1=黒色;SP1−PTX=赤色;PTX=青色;PTX/H2O=マゼンタ色)。下段パネルは、複合体化されたSP1−PTXの(30kDでの)限外ろ過の結果を示す。高い割合のPTXがSP1−PTX複合体によって溶液中に保持されることに留意すること。
図20は、SP1−PTX複合体からのPTXの効率的なエタノール抽出を示すHPLC分析である。上記の図19でのように調製されたSP1−PTX複合体を沈殿させ(赤色線)、その後、80%エタノールにより抽出し(黄色線)(−20℃で2時間)、その後、HPLCで分析した(下段パネル)(青色=処理されていない複合体)。タンパク質沈殿によるPTXの欠損、および、抽出されたサンプルにおけるPTXの出現に留意すること。
図21は、PTX抽出に対する還元状態の影響を示すHPLC分析である。上記の図19でのように調製されたSP1−PTX複合体を、10mM GSHの存在下(中塗り四角−マゼンタ色)または非存在下(中塗り三角、青色)、(タンパク質沈殿を引き起こさない条件のもとで)0%〜60%のエタノールにより抽出し、その後、HPLCで分析した。酸化された複合体によるPTXの優れた保持に留意すること。
図22は、SP1によるPTX結合に対する還元状態の影響を示すHPLC分析である。SP1−PTX複合体を還元状態(b−メルカプトエタノール、mM)の非存在下または存在下で図19でのように調製し、上記で記載されたように限外ろ過(無菌の0.22μmフィルター)およびHPLCによって分離した。還元状態下で形成された複合体の優れた水溶性に留意すること。
図23は、SP1に対する薬物(ビンブラスチン)の複合体形成を示すグラフである。左側パネル−純粋なSP1(MESにおける48μM)の放射スペクトル(励起波長=286.00nm)を、蛍光計を使用して求めた。未変性SP1(左側の曲線)およびアンフォールディング(6MグアニジニウムHCl)による変性SP1(右側の曲線)の両方を調べた。未変性タンパク質のトリプトファンの蛍光に対するビンブラスチンの正味の影響を、変性タンパク質による相対的な消光をそれぞれの最大放射波長(それぞれ、340nmおよび321nm)において未変性タンパク質の相対的な消光から引くことによって計算した。折り畳まれたSP1タンパク質およびアンフォールディングによる変性SP1タンパク質の両方のトリプトファンの蛍光がビンブラスチンの複合体化によって消光され、しかし、折り畳まれたタンパク質の場合、赤方移動もまた伴うことに留意すること。
図24aおよび図24bは、SP1−DOX複合体のインビボトロ細胞毒性効果を例示するグラフである。図24a−96ウエルマイクロタイタープレートで培養されたHT−29細胞を、非複合体化DOX(中塗り長円、マゼンタ色)、または、図9〜図15に記載されるように調製されたSP1−DOX複合体(中塗り三角、青色)に、示された濃度でさらした。図24b−HT−29細胞を、非複合体化SP1(DOX非含有)(中塗りひし形、青色)またはSP1−DOX複合体(中塗り三角、黄色)に、示された濃度でさらした。生細胞の割合をMITアッセイによって求め、IC50を計算した。非複合体化SP−1には細胞毒性がないこと(図24b)、ならびに、遊離DOXおよびSP1複合体化DOCについてのIC50値が同等であることに留意すること。
図25a〜図25bは、遊離PTXと比較して、SP1−PTX複合体のインビトロ細胞毒性を示すグラフである。SP1−PTX複合体を上記の図19〜図22に従って調製した。HT−29細胞を上記の図24でのように調製した。図25aは、SP1−PTXおよび遊離PTX(DMSO中)にさらされたHT−29細胞のIC50を示す。細胞を、遊離PTX(中塗り円、緑色)またはSP1−PTX複合体(中塗り三角、赤色)に、示された濃度でさらした。図25bは、示された濃度で非複合体化SP1(中塗り三角、青色)またはSP1−PTX複合体(中塗り三角、赤色)にさらされたHT−29細胞のIC50を示す。非複合体化SP−1には細胞毒性がないこと、ならびに、遊離PTXおよびSP1−PTX複合体の両方についてのIC50値が類似することに留意すること。
図26は、SP1複合体の優れた薬力学および標的化を例示する免疫ブロット分析である。B16−F10(B16)メラノーマ腫瘍細胞を有するC57B1のオスのマウスを3つの群に分けた:A群−1回の注射(フルオレセインアミン−SP1コンジュゲート(10mg/ml、0.1ml/マウス)によるiv)、n=5匹のマウス;B群−非コンジュゲート化フルオレセインアミンの溶液(PBSにおける34mM、0.1ml/動物)による1回の注射、n=5匹のマウス;および、C群は処置を受けなかった(n=2匹のマウス)。内臓器官を注射後24時間で集め、−70℃で保存した。血液を集め、室温で放置して凝固させた。腫瘍抽出物および血清サンプルをSDS PAGEで分析し、タンパク質をニトロセルロースにブロッティングした。SP1の免疫検出を、ウサギ抗SP1抗体およびHRPコンジュゲート化二次抗体を用いて行った。SP1が注射後24時間で腫瘍および血清の両方に多量に存在することに留意すること。
図27aおよび図27bは、非複合体化DOXと比較して、SP1複合体化DOXの優れた抗腫瘍効果を示すヒストグラムである。ヒトLS147T結腸ガン(動物一匹あたり100万個の細胞)の皮下異種移植された腫瘍を有するCD1ヌードマウスを2つの群に分け(n=6)、これらに、SP1−Dox(PBSにおいて50mg/kg、約0.5mg/KgのDOX相当量)またはPBS(図27a)、あるいは、非複合体化DOX(3mg/Kg)またはPBS(図27b)のいずれかを単独で、尾静脈内への静脈内注射により、1週間に2回、4週間にわたって与えた。腫瘍を移植後35日で取り出し、重量測定した。遊離DOXと比較したとき、複合体化されたSP1−DOXの著しくより大きい抗腫瘍有効性に留意すること。
図28aおよび図28bは、遊離DOXと比較して、SP1複合体化DOXの処置による副作用の著しい減少を示すヒストグラムである。s.c.異種移植されたヒトLS147T結腸ガン腫瘍を有するCD1ヌードマウスを、本明細書中上記の図27aおよび図27bに記載されるように静脈内SP1複合体化DOC(図28a)または遊離非複合体化DOC(図28b)により処置した。PBSをコントロールに注射した。動物を屠殺前に重量測定した(腫瘍注入後35日)。SP1複合体化DOXを受けたマウスにおける無視できるほどの体重減少と比較して、複合体化されていない遊離DOXによる重度の体重減少に留意すること。
図29は、サイズ排除HPLC分析によるSP1−DOX複合体の検出を示すグラフである。SP1−DOX複合体が278nm(SP1について特徴的)および475nm(DOXについて特徴的)の両方で検出可能である。
図30は、278nmにおけるサイズ排除クロマトグラフィー(サイズ排除HPLC)での典型的なSP1標準曲線を示す。SP1がカラム(TSK G3000SWXL、Tosohaas)から7分後に溶出され、278nmにおいて検出されるだけである。挿入図は、SP1が所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
図31は、490nmでのFA標準物プロフィルのサイズ排除クロマトグラフィー(サイズ排除HPLC)のクロマトグラムを示す。区別可能なピークでカラムから溶出される遊離FAとは対照的に、DOXは区別可能なピークで溶出されない(図29)。挿入図は、FAが所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
図32は、RP−HPLCでの(278nm(左側パネル)および225nm(右側パネル)の両方で求められる)Cys2 SP1の標準物プロフィルを示す。挿入図は、Cys2 SP1が所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
図33は、RP−HPLCでの(477nmで求められる)DOXの標準物プロフィルを示す。挿入図は、DOXが所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
図34は、RP−HPLCでの(225nmで求められる)PTXの標準物プロフィルを示す。挿入図は、PTXが所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、ナノ粒子のために、また、物質の選択的な複合体化および放出のために使用することができる分子的複合体を形成することができるSP1ポリペプチドおよびSP1変異体ポリヌクレオチド、ならびに、それらをコードするポリヌクレオチドに関する。
【0052】
具体的には、本発明は、治療薬、診断用薬、化粧剤、導電性薬剤および半導電性薬剤などを送達、安定化および可溶化するために使用することができる。本発明のSP1ポリペプチドおよびSP1変異体ポリヌクレオチドに特徴的なホモオリゴマー複合体形成およびヘテロオリゴマー複合体形成はまた、操作された自己集合性のナノ粒子およびナノ構造体を提供するために使用することができる。さらに、広範囲の様々な複合体形成性の変性(例えば、ジスルフィド連結および他のペプチド連結、炭水化物、核酸など、ならびに、それらの組合せなど)を有する様々なSP1変異体を設計することができ、これにより、ヘテロオリゴマーSP1構造体およびホモオリゴマーSP1構造体の制御された複合体および解離についての広い様々な可能性がもたらされ、また、小分子、薬物、薬剤およびナノ粒子などとのSP1ポリペプチド複合体形成、ならびに、小分子、薬物、薬剤およびナノ粒子などの放出の広い様々な可能性がもたらされる。本発明のさらなる態様および適用が下記においてさらに議論される。
【0053】
本発明の原理および操作は、図面および添付の説明を参照して、よりよく理解することができる。
【0054】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用が、次の記載において示されているか、または実施例によって例示されている詳細に限定されないことを理解すべきである。本発明は、ほかの実施態様も可能であるし、または様々な方法で実行または実施することができる。同様に、本明細書において用いられている表現および用語法は、説明を目的としており、限定的なものとみなすべきでないことも理解すべきである。
【0055】
SP1ポリペプチドは、熱およびほとんどの化学的変性剤による変性に対して抵抗性があり、プロテアーゼ消化に対して抵抗性があり、また、分子相互作用を安定化させることができ、三次元構造体を形成することができるヘテロオリゴマーおよびホモオリゴマーを形成する並外れて安定なポリペプチドである(Dgany他、JBC、2004、279:51516〜23;米国特許出願第10/233409号(Wang他))。
【0056】
本発明者らは、結合性分子の結合特性を強化するために、また、融合された分子(例えば、酵素など)を安定化させるために、また、融合された分子の免疫学的性質を強化するか、または変化させるために、他のタンパク質分子または非タンパク質分子に融合されたSP1タンパク質を以前に発見している(米国特許出願第10/233409号(Wang他))。SP1融合タンパク質は、米国特許出願第10/233409号に開示されるように、遺伝子工学技術によって付加されたさらなるポリペプチド配列を有する組換えSP1分子と、化学的手段(例えば、架橋など)によって付加されたさらなる非タンパク質成分を有するSP1分子とを含む。本発明者らは、皮膚、毛髪、爪などを強化するためのSP1タンパク質の治療的使用をさらに開示している。
【0057】
しかしながら、Wang他は、分子的会合状態での薬剤(治療薬、化粧剤、診断用薬、導電性薬剤など)の制御された放出が可能である天然SP1ポリペプチドまたはSP1変異体ポリペプチド、あるいは、キャリアとしてのそれらの使用、あるいは、ナノ構造体を製造するための自己集合性SP1モノマーの使用を教示も、暗示もしていない。
【0058】
本発明を実施に移しているとき、新規なSP1変異体が、ヘテロオリゴマーおよびホモオリゴマーの形成、ならびに、様々な物質および分子との可逆的な分子的複合体の形成を可能にする入念な実験および薬物設計によって作製された。本発明のSP1の分子的複合体の制御可能性は、SP1ポリペプチドを、薬物、化粧品、導電体および他の小分子のためのキャリアとして並外れて有用なものにする。さらに、様々な特異的成分を、標的認識能をSP1ポリペプチドに加えるために取り込むことができ、これにより、薬物キャリアとしてのSP1の特異性および効力を高めることができる。さらに、本発明を実施に移しているとき、驚くべきことに、天然SP1および変性SP1変異体が、制御された所定の様式で自己集合して、規定されたナノ構造体をもたらすことができることが発見された。そのようなナノ構造体は、工学的適用、電気的適用および他のナノ技術的適用のために使用することができる。
【0059】
従って、本発明の1つの態様によれば、SP1ポリペプチドのアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、そのアミノ酸配列が、物質との可逆的な分子的会合の状態であるように変性される単離されたポリペプチドが提供される。
【0060】
本明細書中で使用される表現「分子的会合」は、分子レベルで起こる化学的会合または物理的会合または両者を示す。例えば、会合は、共有結合性の結合、非共有結合性の結合、疎水性相互作用などが可能である。
【0061】
「可逆的な会合」は、本明細書中で定義される場合、その成分が、特定の条件に依存して、元の会合前の状態に戻ることができ、また、再会合することができる会合である。好ましくは、そのような会合および再会合はペプチド結合の形成および切断を含まない。例えば、本発明のSP1−治療薬複合体の成分の可逆的な会合は解離することができ、それにより、元の別個の治療薬成分およびSP1ポリペプチド成分に戻ることができる。
【0062】
本発明における使用のために好適である可逆的な分子的会合のタイプには、静電的結合、水素結合、ファンデルワールス力、イオン性相互作用またはドナー/アクセプタ結合からなる群から選択される会合が挙げられる。可逆的な会合は、物質と、SP1ポリペプチドとの間での1つ以上の会合によって媒介され得る。例えば、可逆的な会合は、複合体化する物質と、SP1ポリペプチドとの間での水素結合およびイオン性結合の組合せを含むことができる。加えて、または、代替として、可逆的な会合は、例えば、成分間(例えば、物質と、SP1ポリペプチドとの間など)での共有結合性の相互作用または他の非共有結合性の相互作用との組合せが可能である。
【0063】
本明細書中で使用される表現「SP1ポリペプチド」は、アスペンおよび他の植物に由来し、SP1タンパク質およびSP1様タンパク質(配列番号123〜配列番号148を参照のこと)のファミリーに属する、下記の特徴的な性質の少なくとも1つを有するタンパク質を示す:煮沸安定性、プロテアーゼ安定性またはシャペロン様活性。
【0064】
SP1ポリペプチドは、下記の区別可能な性質の少なくとも1つによって特徴付けられる:安定性、シャペロン様活性、および、変性因子に対する優れた抵抗性。SP1ポリペプチドはまた、保存された配列相同性のいくつかの領域を互いに有する。SP1ファミリーのメンバーは、好ましくは、配列番号1に対して少なくとも65%の相同性を有する、煮沸および界面活性剤に対して安定なタンパク質であって、シャペロン様活性を有し、安定なダイマーを形成することができるタンパク質である。一層より好ましくは、SP1ポリペプチドは、10.00のプルラリティー、4の閾値、1.00の平均加重、2.91の平均マッチおよび−2.00の平均ミスマッチを使用してGCGのBest Fitアルゴリズム(Wisconsin Package Version9.1)を使用して決定されたとき、少なくとも1つの保存されたアミノ酸配列を、配列番号1のアミノ酸9〜11、アミノ酸44〜46および/またはアミノ酸65〜73に対応する少なくとも1つの領域に有する。最も好ましくは、SP1ポリペプチドは、「HAFESTFES」(65〜73、配列番号1)、「VKH」(9〜11、配列番号1)および「KSF」(44〜46、配列番号1)の保存されたコンセンサス配列を有する。最も好ましくは、「野生型」SP1は、Wang他(PCT IL02/00174(2002年3月5日出願)の一部継続出願である米国特許出願第10/233409号(2002年9月4日出願)、これらはともに、全体が本明細書中に示されているものとして参考として組み込まれる)によって開示されるように、アスペンから得られるストレス関連のSP1タンパク質(配列番号1)である。
【0065】
好ましい実施形態において、SP1タンパク質は、配列番号1に対して70%の相同性、より好ましくは75%の相同性、さらにより好ましくは80%の相同性、より好ましくは85%の相同性、より好ましくは90%の相同性、好ましくは95%の相同性、最も好ましくは100%の相同性を有する。
【0066】
本明細書において用いられているような「変性剤安定」という語句は、水溶液中での変性処理後の大きい(50%以上)構造オリゴマー安定性のことを言う。変性処理は、煮沸、および化学的変性剤、例えば界面活性剤(例えばSDS)、尿素、またはグアニジン−HClへの暴露を含むことがある。
【0067】
本明細書において用いられているような「煮沸安定」という語句は、サイズ分画アッセイによって決定された場合、実質的に100℃で水溶液中で、少なくとも10分間の処理後、大きい(50%以上)構造オリゴマー安定性のことを言う。
【0068】
本明細書において用いられているような「界面活性剤安定」という語句は、サイズ分画アッセイによって決定された場合、1/2,000モル比(モノマー:SDS)を含有する水溶液中の処理後のオリゴマータンパク質の大きい(50%以上)構造オリゴマー安定性のことを言う。
【0069】
本明細書および特許請求の範囲のセクションにおいて用いられているような「プロテアーゼ耐性」という語句は、37℃で少なくとも60分間、50μg/mlのプロテイナーゼKを含有する水溶液中での処理後の大きい(50%以上)安定性のことを言う。
【0070】
本明細書において用いられているような「シャペロン様活性」という語句は、タンパク質のネイティブ折りたたみ、およびネイティブオリゴマー化を仲介し、不正確なタンパク質構造の形成を防ぎ、現存の不正確なタンパク質構造をもとの状態に戻し、部分的に変性されたタンパク質またはこれらのドメイン間に発生しうる不正確な相互作用を阻害することによって、ストレス関連損傷を制限する能力のことを言う。
【0071】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の単離されたポリペプチドのアミノ酸配列は、そのアミノ酸配列を、他の分子との可逆的な分子的会合を形成することが可能であるようにするために変性される。興味深いことに、また、驚くべきことに、本発明のこの態様のポリペプチドは、天然SP1ポリペプチドの上記で述べられた活性(例えば、熱に対して安定であり、また、変性剤およびプロテアーゼに対して抵抗性があるオリゴマーを形成する能力など)を保持する(本明細書中下記における実施例2、図4〜図6を参照のこと)。
【0072】
本発明の変性SP1ポリペプチドは、野生型SP1において特徴とならない目的とする新規な活性(例えば、物質との可逆的な会合、細胞認識など)を有し、一方で、上記のSP1活性の少なくとも1つを依然として維持するように設計される。そのようなポリペプチドを試験するための様々なアッセイが本明細書中上記に記載される。
【0073】
本明細書中で使用される用語「変性アミノ酸配列」は、本明細書中上記で記載されるような天然SP1ポリペプチドのアミノ酸配列からの何らかの偏差を有するアミノ酸配列を示す。SP1ポリペプチドの変性には、アミノ酸の置換、アミノ酸の付加、アミノ酸の欠失、SP1ポリペプチドへのジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチドの付加、アミノ酸配列の1つの部分からその配列の別の部分への1つ以上のアミノ酸の入れ換え、存在するアミノ酸の変化(例えば、側鎖の架橋または一部分の除去など)、リンカーの付加、アミノ酸配列の短縮化、非ペプチド成分(例えば、炭水化物、脂質および核酸など)の付加、磁気性質を有する物質の導入などが含まれるが、これらに限定されない。具体的な変性の様々な例が本明細書中下記に詳しく記載される。
【0074】
変性SP1変異体ポリペプチドは、特定の性質をSP1変異体に付与し、それにより、他の物質との分子的複合体化および他の物質の放出をより効率的および制御可能にし、また、特定の条件に対して適合可能にするために変性することができる。従って、例えば、チオール(S−H)基の付加は、レドックス感受性の分子的複合体の形成を有するSP1変異体を、SP1および複合体化する物質の間で、また、SP1のモノマー、ダイマー、トリマーなどの間でもたらすことができる。これは、服用および薬物療法の特異性を改善する薬物キャリアを設計するために有用であり得る。さらに、無機分子(例えば、金属および他のイオンなど)と可逆的に結合することができるオリゴペプチド配列またはポリペプチド配列の付加によるSP1ポリペプチドのアミノ酸配列の変性は、導電性組成物を形成し、SP1ポリペプチドによって形成される分子的複合体の磁気的性質を変化させるために有用であり得る。オリゴマーサブユニット間の相互作用(例えば、ダイマー・ダイマーまたはモノマー・モノマーの相互作用など)を変化させるSP1アミノ酸配列の変性は、オリゴマーの立体配座を安定化または脱安定化させ、これにより、SP1変異体を化学的環境に対して潜在的により抵抗性にするために、または、潜在的にあまり抵抗性にしないようにするために役立ち得る。そのような増大した安定性または低下した安定性は、キャリア(例えば、薬物キャリア)としての変性SP1変異体の性質に影響を及ぼすように設計することができる。SP1変異体のサブユニット・サブユニットの相互作用におけるそのような変性はまた、SP1に基づくナノ構造体の性質を設計および制御するために使用することができる。
【0075】
SP1−複合体形成はまた、2つの隣接するサブユニットの間を架橋するための分子間架橋機構に基づき得ることが理解される。例には、チオール、アミン、カルボキシルおよびヒドロキシルの反応性架橋試薬が含まれる。そのような場合において、制御された放出機構はまた、切断可能な架橋剤を使用することによるのと同様に、酵素活性による架橋の切断に基づくことができる。
【0076】
上記で述べられたように、SP1アミノ酸配列は、さらなるペプチド成分を含むように変性することができる。従って、代替として、また、加えて、SP1ポリペプチドは、少なくとも1つの認識配列を含むように変性することができる。そのような認識配列には、標的認識配列(例えば、細胞表面認識配列など)、特異的なリガンド(例えば、受容体結合リガンド、抗体またはその一部分(例えば、抗体結合部位など))、器官および組織に特異的な認識配列、発達段階に特異的な認識配列、種および性に特異的な認識配列、ならびに、特定の疾患または状態と相関する認識配列が含まれるが、これらに限定されない。好適な認識配列の非限定的な列挙には、下記の腫瘍表面特異的ペプチドが含まれる:
本発明の変性SP1ポリペプチドとともに使用される好適な腫瘍血管ペプチドには、下記のペプチドが含まれるが、それらに限定されない:
【0077】
本明細書中上記で述べられたように、本発明のSP1ポリペプチドは、物質との可逆的な分子的会合を形成するように変性することができる。本発明のポリペプチドとの可逆的な複合体を設計するために好適な物質には、治療薬、診断用薬または化粧剤が含まれるが、これらに限定されない。好適な治療薬、診断用薬または化粧剤には、ポリペプチド剤、核酸剤、脂質剤、炭水化物剤および小分子が含まれるが、これらに限定されない。
【0078】
本発明のポリペプチドとともに使用するために好適な治療薬として、限定されるものではないが、抗炎症薬物および抗癌(腫瘍)薬物のような薬物および生物学的に活性な分子が挙げられる。本発明のSP1と会合する分子に複合されることができる抗炎症薬物として、限定されるものではないが、アルクロフェナック;アルクロメタゾンジプロピオン酸塩;アルゲストンアセトニド;アルファアミラーゼ;アムシナファール;アムシナフィド;アムフェナックナトリウム;アミプリローズ塩酸塩;アナキンラ;アニロラック;アニトラザフェン;アパゾン;バルサラジド二ナトリウム;ベンダザック;ベノキサプロフェン;ベンジダミン塩酸塩;ブロメライン;ブロペラモール;ブデソニド;カルプロフェン;シクロプロフェン;シンタゾン;クリプロフェン;クロベタゾールプロピオン酸塩;クロベタゾン酪酸塩;クロピラック;クロチカゾンプロピオン酸塩;コルメタゾン酢酸塩;コルトドキソン;デフラザコルト;デソニド;デソキシメタゾン;デキサメタゾン二プロピオン酸塩;ジクロフェナックカリウム;ジクロフェナックナトリウム;ジフロラゾン二酢酸塩;ジフルミドンナトリウム;ジフルニザール;ジフルプレドネート;ジフタロン;ジメチルスルホキシド;ドロシノニド;エンドリゾン;エンリモマブ;エノリカムナトリウム;エピリゾール;エトドラック;エトフェナメート;フェルビナック;フェナモール;フェンブフェン;フェンクロフェナック;フェンクロラック;フェンドザール;フェンピパロン;フェンチアザック;フラザロン;フルアザコルト;フルフェナム酸;フルミゾール;フルニゾリド酢酸塩;フルニキシン;フルニキシンメグルミン;フルオコルチンブチル;フルオロメトロン酢酸塩;フルクアゾン;フルルビプロフェン;フルレトフェン;フルチカゾンプロピオン酸塩;フラプロフェン;フルブフェン;ハルシノニド;ハロベタゾールプロピオン酸塩;ハロプレドン酢酸塩;イブフェナック;イブプロフェン;イブプロフェンアルミニウム;イブプロフェンピコノール;イロニダップ;インドメタシン;インドメタシンナトリウム;ヨードプロフェン;インドキソール;イントラゾール;イソフルプレドン酢酸塩;イソキセパック;イソキシカム;ケトプロフェン;ロフェミゾール塩酸塩;ロモキシカム;ロテプレドノールエタボネート;メクロフェナメートナトリウム;メクロフェナム酸;メクロリゾン二酪酸塩;メフェナム酸;メサラミン;メセクラゾン;メチルプレドニゾロンスレプタネート;モミフルメート;ナブメトン;ナプロキセン;ナプロキセンナトリウム;ナプロキソール;ニマゾン;オルサラジンナトリウム;オルゴテイン;オルパノキシン;オキサプロジン;オキシフェンブタゾン;パラニリン塩酸塩;ペントザンポリサルフェートナトリウム;フェンブタゾンナトリウムグリセレート;ピルフェニドン;ピロキシカム;ピロキシカムシンナメート;ピロキシカムオラミン;ピルプロフェン;プレドナゼート;プリフェロン;プロドリン酸;プロカゾン;プロキサゾール;プロキサゾールクエン酸塩;リメキソロン;ロマザリット;サルコレックス;サルナセジン;サルサレート;サンギナリウム塩化物;セクラゾン;セルメタシン;スドキシカム;スリンダック;スプロフェン;タルメタシン;タルニフルメート;タロサレート;テブフェロン;テニダップ;テニダップナトリウム;テノキシカム;テシカム;テシミド;テトリダミン;チオピナック;チキソコルトールピバリン酸塩;トルメチン;トルメチンナトリウム;トリクロニド;トリフルミデート;ジドメタシン;ゾメピラックナトリウムが挙げられる。
【0079】
本発明のポリペプチドと複合されかつそれとともに使用されるために好適な抗癌薬物として、限定されるものではないが、アシビシン;アクラルビシン;アコダゾール塩酸塩;アクロニン;アドリアマイシン;アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン;アンボマイシン;アメタントロン酢酸塩;アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アントラマイシン;アスパラギナーゼ;アスペルリン;アザシチジン;アゼテパ;アゾトマイシン;バチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;ビスアントレン塩酸塩;ビスナフィドジメシレート;ビゼレシン;ブレオマイシン硫酸塩;ブレキナールナトリウム;ブロピリミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カルベチマー;カルボプラチン;カルムスチン;カルビシン塩酸塩;カルゼレシン;セデフィンゴル;クロラムブシル;シロレマイシン;シスプラチン;クラドリビン;クリスナトールメシレート;シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;ダウノルビシン塩酸塩;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン;デザグアニンメシレート;ジアジクオン;ドセタキセル;ドキソルビシン;ドキソルビシン塩酸塩;ドロロキシフェン;ドロロキシフェンクエン酸;ドロモスタノロンプロピオン酸塩;ドゥアゾマイシン;エダトレキセート;エフロルニチン塩酸塩;エルサニトルシン;エンロプラチン;エンプロメート;エピプロピジン;エピルビシン塩酸塩;エルブロゾル;エソルビシン塩酸塩;エストラムスチン;エストラムスチンリン酸ナトリウム;エタニダゾール;エトポシド;エトポシドリン酸塩;エトプリン;ファドロゾール塩酸塩;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスリジン;フルダラビンリン酸塩;フルオロウラシル;フルロシタビン;フォスキドン;フォストリエシンナトリウム;ゲムシタビン;ゲムシタビン塩酸塩;ヒドロキシ尿素;イダルビシン塩酸塩;イフォスファミド;イルモフォシン;インターフェロンα−2a;インターフェロンα−2b;インターフェロンα−n1;インターフェロンα−n3;インターフェロンβ−Ia;インターフェロンγ−Ib;イプロプラチン;イリノテカン塩酸塩;ランレオチド酢酸塩;レトロゾール;ロイプロリド酢酸塩;リアゾゾール塩酸塩;ロメトレキソールナトリウム;ロムスチン;ロソキサントロン塩酸塩;マソプロコール;メイタンシン;メクロレタミン塩酸塩;メゲストロール酢酸塩;メレンゲストロール酢酸塩;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキセート;メトトレキセートナトリウム;メトプリン;メツレデパ;ミチンドミド;マイトカルシン;マイトクロミン;マイトギリン;マイトマルシン;マイトマイシン;マイトスペール;マイトタン;マイトキサントロン塩酸塩;マイコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;ペガスパルガーゼ;ペリオマイシン;ペンタムスチン;ペプロマイシン硫酸塩;ペルフォスファミド;ピポブロマン;ピポスルファン;ピロキサントロン塩酸塩;プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィメールナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニムスチン;プロカルバジン塩酸塩;ピューロマイシン;ピューロマイシン塩酸塩;ピラゾフリン;リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール;サフィンゴール塩酸塩;セムスチン;シムトラゼン;スパルフォセートナトリウム;スパルソマイシン;スピロゲルマニウム塩酸塩;スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン;スロフェヌール;タリソマイシン;タキソール;テコガランナトリウム;テガフール;テロキサントロン塩酸塩;テモポルフィン;テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;チアミプリン;チオグアニン;チオテパ;チアゾフイリン;チラパザミン;トポテカン塩酸塩;トレミフエンクエン酸;トレストロン酢酸塩;トリシリビンリン酸塩;トリメトレキサート;トリメトレキサートグルクロン酸塩;トリプトレシン;ツブロゾール塩酸塩;ウラシルマスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;ビンブラスチン硫酸塩;ビンクリスチン硫酸塩;ビンデシン;ビンデシン硫酸塩;ビネピジン硫酸塩;ビングリシネート硫酸塩;ビンロイロシン硫酸塩;ビノレルビン酒石酸塩;ビンロシジン硫酸塩;ビンゾリジン硫酸塩;ベロゾール;ゼニプラチン;ジノスタチン;ゾルビシン塩酸塩が挙げられる。さらなる抗新生物剤として、GoodmanおよびGilmanの「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,Eighth Edition,1990、McGraw−Hill,Inc.(Health Brofessions Division)のChapter 52,Antineoplastic Agents(Paul CalabresiおよびBruce A.Chabner)、およびそれに対する緒言、1202−1263に開示されたものが挙げられる。
【0080】
本発明のSP1ポリペプチドとともに使用することができる診断用物質には、放射性物質、発光物質、高周波送信物質および高周波受信物質、磁気物質、着色物質、化学的に活性な物質(例えば、酸化剤、還元剤、架橋剤など)、FRET対、量子ドット、分子認識ができる生化学的物質(例えば、核酸、抗体など)、生物学的に活性な物質(例えば、酵素など)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0081】
本発明の別の態様によれば、物質は導電性薬剤または半導電性薬剤である。本明細書中で使用される「導電性薬剤」は、電気的に帯電した粒子を伝導媒体により移動させることができる薬剤を示す。導電性薬剤の例には、金属および多くのイオン性物質が含まれる。本明細書中で使用される「半導電性薬剤」は、所与の条件のもとでは、電気的に帯電した粒子を伝導媒体により移動させることができる、絶縁性の性質を有する薬剤を示す。半導電性薬剤は、非常に低い温度では絶縁体として挙動し、室温では、導体よりもはるかに低い伝導性であるが、感知できる電気伝導性を有する。一般に使用される半導電性物質は、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウムおよびテルル化水銀カドミウムである。
【0082】
導電性薬剤(例えば、金属および他の無機のイオン性物質など)との複合体形成のために好適であることが示された変性には、ニッケルイオンおよび他の金属イオンとの複合体形成のための6Hhisタグ(配列番号122)が含まれる。本明細書中下記の表1は、SP1ポリペプチドの変性のために好適である無機のイオン性物質との複合体を形成するさらなるペプチドの非限定的な列挙である(Sarikaya他、Ann Rev Mater Res、2004、34:373〜408からの改編)。
【0083】
【0084】
従って、例えば、本発明の変性SP1ポリペプチドは、様々な治療用物質、化粧用物質、診断用物質、導電性物質などとの可逆的な分子的会合の状態であり得る。
【0085】
本明細書中上記で述べられたように、変性SP1変異体ポリペプチドは、特定の性質をSP1変異体に付与し、それにより、他の物質との分子的複合体化および他の物質の放出をより効率的および制御可能にし、また、特定の条件に対して適合可能にするために変性することができる。SP1ポリペプチド複合体およびSP1オリゴマー複合体の性質に対する集中した研究を通して、SP1ポリペプチドの特定の配列がSP1ファミリーに特徴的な性質の1つ以上と関連していることが理解される(例えば、Dgany他、JBC、2004、279:51516〜523を参照のこと)。従って、SP1ポリペプチドの特定の領域における変性を導入することができ、そのような変性は、その結果として、SP1変異体の性質(例えば、分子的会合の様式、オリゴマー形成など)における所望される変化をもたらすことができる。Dgany他(JBC、2004、279:51516〜523)はSP1ポリペプチドにおける数多くの構造的に重要な領域を特定している。
【0086】
SP1モノマータンパク質は、3つのα−らせん、すなわち、H1(残基23〜39)、H2a(残基74〜81)およびH2b(残基84〜93)を伴うα型およびβ型の折り畳みと、4つの逆平行のβ鎖、すなわち、B3(残基9〜17)、B1(残基45〜50)、B2(残基65〜71)およびB4(残基97〜108)によって形成されるβ−シートとを有する。N末端セグメントが溶媒の方を向き、可動性である。長い、大部分が構造化されていないループが、ダイマー接触に関与し得る残基51〜64によって形成される。H1およびH2のらせんにより、向き合うβ−シートとともに中心の空洞を形成する外側の凸型表面が規定される。従って、例えば、この長いループの内部での変性は、ダイマー・ダイマーの接触の安定性に影響を及ぼし(強化または低下)、また、オリゴマー形成に影響を及ぼし、これにより、例えば、投与後のより長い半減期または短くなった半減期を有するSP1変異体薬物キャリアをもたらすことができる。
【0087】
ダイマーは、最小の安定なSP1ユニットであると考えられる。ダイマーにおける2つの分子は、らせんH1ならびにβ−シートのB3およびB4に対して平行な2回軸によって関連づけられる。2つの分子のβ−シートの外側表面により、中心の空洞を規定するβバレル様構造が形成される。SP1ポリペプチドのこの領域の変性は内部の疎水性の分子環境に影響を及ぼすことがあり、その結果として、疎水性分子との複合体を形成する能力の増強または低下のいずれかをもたらし得る。
【0088】
オリゴマー状のドデカマーにおいて、ダイマー間の接触は主に親水性側鎖および荷電基を伴うか、または、水分子によって媒介される。これらの接触は主として、B1、H1およびN末端テールに沿って生じる。表2には、Dgany他(JBC、2004、279:51516〜523)によって記載されるSP1ポリペプチドの特定の領域における変性を含めて、変性アミノ酸配列を有する作製された新規なSP1変異体の非限定的な列挙が示される。
【0089】
ND 測定されず;NA 適用不能
1.変異についての標準名称法(最初のメチオニン残基を含む野生型配列を使用するアミノ酸位置)
2.2位でのCys残基の挿入および19位でのグリシン残基の挿入 K18R(Cys2loop1RGd)
3.サンプルを適用緩衝液において煮沸しない場合の、SDSPAGEによる試験。いくつかのSP1変異体は発現時に可溶性タンパク質を形成することができず、封入体(IB)を形成する。このようなIBは0.5M尿素によりアンフォールドされ、透析によってリフォールドされた。
4.SP1モノマーならびにほとんどの他のタンパク質が分解する条件であるプロテイナーゼK処理(50ug/ml;30分;℃)またはアルカラーゼ処理(1/1000の希釈度、60分;45℃)のいずれかの後におけるSDS PAGEによる試験。
5.2MのGHClでのインキュベーション(室温で1時間)の後での複合体安定性がSDS PAGEによって試験された。
6.熱安定性タンパク質は、100℃での10分間のインキュベーションまたは85℃での30分のインキュベーションの熱処理後で沈殿しないタンパク質として定義される。
7.タンパク質の融点がDSCによって調べられた。
8.サンプルがb−メルカプトエタノールの非存在下または存在下で適用緩衝液において10分間煮沸される際の、ダイマー形成がSDS PAGEによって試験される。
9.封入体(IB)のリフォールディングは調べられなかった。
10.複合体をIBのリフォールディングの後で形成する。複合体の集合が、プロテイナーゼ消化を使用してモノマー形態を除くことによって確認された。
【0090】
表2に示されるように、例えば、チオール基を有するアミノ酸の付加を含む変性は、特徴的には、レドックス依存的(β−ME)なダイマー形成を有し、また、ポリペプチドのN末端部分のアミノ酸配列における変性は、典型的には、オリゴマー複合体を形成する能力、プロテアーゼ消化に対する抵抗性、熱安定性、および、グアニジニウムHCl変性に対する抵抗性を保持する。
【0091】
変性SP1変異体の様々な例、例えば、SP1 6H(配列番号7)、SP1 ΔN(配列番号2)、Cys2 SP1(配列番号3)、CRGD SP1(配列番号5)およびRGDC SP1(配列番号6)などが、特徴的な安定性および抵抗性を示したホモオリゴマー複合体およびヘテロオリゴマー複合体を形成した。
【0092】
従って、本発明を実施に移しているとき、いくつかの変性SP1変異体が、煮沸およびプロテアーゼに対して安定性を有する複合体を形成する一方で、他の変性SP1変異体がオリゴマー複合体を脱安定化させることが発見された。N末端短縮化(ΔN)SP1変異体(配列番号2)および6Hヒスチジンタグ化SP1変異体(配列番号7)は、安定なオリゴマー複合体形成を保持した(図3、実施例2)。他方で、他の置換は、複合体形成の脱安定化をもたらし、また、組換えタンパク質の溶解性を低下させた(図5、実施例3を参照のこと)。
【0093】
さらに、変性SP1変異体は、オリゴマーの高分子量複合体を形成する能力を保持していた。6Hタグ化型(配列番号7)およびN末端短縮化型(配列番号2)は、極端な条件によってモノマーに解離させたとき、オリゴマー形態をホモオリゴマー(ΔN−ΔN、および、6H 6H)およびヘテロオリゴマー(ΔN 6H)の両方の立体配座で回復した(図5、実施例3)。
【0094】
SPポリペプチドアミノ酸配列の変性を、化学的手段、組換え手段または他の手段によって導入することができる。1つの実施形態において、SP1のアミノ酸配列の変性は化学的修飾であり、例えば、カルボジイミドによるコンジュゲート化、グルタルアルデヒドによるコンジュゲート化、SPDPによるコンジュゲート化、アシル化、グリコシル化、官能基の変化、アミノ酸の架橋、および、欠失などである。アミノ酸配列を、非ペプチド分子(例えば、脂質、核酸および炭水化物など)の(通常的には、共有結合での)付加によって変性することができる。ペプチド変性の他の例が本明細書中に詳しく記載される。
【0095】
本明細書中で使用される用語「ペプチド」には、天然のペプチド(分解産物または合成的に合成されたペプチドまたは組換えペプチドのいずれか)、ペプチド模倣体(典型的には合成的に合成されたペプチド)そしてペプチドアナログであるペプトイドおよびセミペプトイドが含まれ、これらは、例えば、ペプチドを体内でより安定化させる修飾、またはペプチドの細胞浸透能力を高める修飾を有し得る。そのような修飾には、N末端修飾、C末端修飾、ペプチド結合の修飾(CH2−NH、CH2−S、CH2−S=O、O=C−NH、CH2−O、CH2−CH2、S=C−NH、CH=CHまたはCF=CHを含むが、これらに限定されない)、骨格の修飾、および残基の修飾が含まれるが、これらに限定されない。ペプチド模倣体化合物を調製するための方法はこの分野では十分に知られており、例えば、Quantitative Drug Design,C.A.Ramsden Gd.,Chapter 17.2,F.Choplin Pergamon Press(1992)に具体的に記載される(これは、全体が本明細書中に示されるように参考として組み込まれる)。これに関するさらなる詳細が本明細書中下記に示される。
【0096】
本明細書中で意図されるSP1ポリペプチドでは、側鎖に対する修飾、ペプチド合成時における非天然アミノ酸および/またはその誘導体の取り込み、ならびに、立体配座の制約をペプチドまたはそのアナログに負わす架橋剤および他の方法の使用が含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
本発明によって意図される側鎖修飾の例には、アミノ基の修飾、例えば、アルデヒドとの反応、それに続く、NaBH4を用いた還元による還元的アルキル化などによるアミノ基の修飾;メチルアセトイミダートによるアミジン化;無水酢酸によるアシル化;シアネートによるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;ならびに、ピリドキサール−5’−リン酸によるリシンのピリドキシル化、それに続く、NaBH4を用いた還元が含まれる。
【0098】
アルギニン残基のグアニジン基を、2,3−ブタンジオン、フェニルグリオキサールおよびグリオキサールなどの試薬による複素環縮合生成物の形成によって修飾することができる。
【0099】
カルボキシル基を、O−アシルイソウレア形成によるカルボジイミド活性化、それに続く、例えば、対応するアミドへのその後の誘導体化によって修飾することができる。
【0100】
スルフヒドリル基を、様々な方法によって、例えば、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化;システイン酸への過ギ酸酸化;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸または他の置換マレイミドとの反応;4−クロロメルクリベンゾアート、4−クロロメルクリフェニルスルホン酸、塩化フェニル水銀、2−クロロメルクリ−4−ニトロフェノールおよび他の水銀化合物を使用する水銀誘導体の形成;アルカリ性pHでのシアネートによるカルバモイル化などによって修飾することができる。
【0101】
トリプトファン残基を、例えば、N−ブロモスクシンイミドによる酸化、あるいは、2−ヒドロキシ−5−ニトロベンジルブロミドまたはスルフェニルハリドによるインドール環のアルキル化によって修飾することができる。他方で、チロシン残基を、3−ニトロチロシン誘導体を形成するためのテトラニトロメタンによるニトロ化によって変化させることができる。
【0102】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾を、ヨード酢酸誘導体によるアルキル化、または、ジエチルピロカルボネートによるN−カルボエトキシル化によって達成することができる。
【0103】
ペプチド合成時に非天然アミノ酸および誘導体を取り込む例としては、ノルロイシン、4−アミノ酪酸、4−アミノ−3−ヒドロキシ−5−フェニルペンタン酸、6−アミノヘキサン酸、t−ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−メチルヘプトン酸、2−チエニルアラニン、および/または、アミノ酸のD−異性体の使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
ペプチド内のペプチド結合(−CO−NH−)は、例えば、N−メチル化結合(−N(CH3)−CO−)、エステル結合(−C(R)H−C−O−O−C(R)−N−)、ケトメチレン結合(−CO−CH2−)、α−アザ結合(−NH−N(R)−CO−)(式中、Rは任意のアルキル(例えば、メチル)である)、カルバ結合(−CH2−NH−)、ヒドロキシエチレン結合(−CH(OH)−CH2−)、チオアミド結合(−CS−NH−)、オレフィン二重結合(−CH=CH−)、レトロアミド結合(−NH−CO−)、ペプチド誘導体(−N(R)−CH2−CO−)(式中、Rは、炭素原子において自然界で示される「通常」の側鎖である)によって置換することができる。
【0105】
これらの修飾は、ペプチド鎖に沿った結合の任意のところに存在させることができ、そして同時に数カ所(2カ所〜3カ所)においてさえ存在させることができる。
【0106】
天然の芳香族アミノ酸(Trp、TyrおよびPhe)は、TIC、ナフチレンアミン(Nol)、Pheの環メチル化誘導体、Pheのハロゲン化誘導体、またはo−メチル−Tyrなどの合成された非天然型の酸に置換することができる。
【0107】
上述のことに加えて、本発明のペプチドは一以上の修飾されたアミノ酸または一以上の非アミノ酸モノマー(例えば脂肪酸、複合体炭水化物など)も含むことができる。
【0108】
用語「アミノ酸」には、20個の天然に存在するアミノ酸;インビボで多くの場合には翻訳後修飾されたそのようなアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンおよびホスホトレオニンを含む);および他の非通常型アミノ酸(2−アミノアジピン酸、ヒドロキシリシン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシンおよびオルニチンを含むが、これらに限定されない)が含まれることが理解される。さらに、用語「アミノ酸」には、D−アミノ酸およびL−アミノ酸の両方が含まれる。
【0109】
下記の表3および表4は、全ての天然に存在するアミノ酸(表3)および非通常型アミノ酸または修飾型アミノ酸(表4)を列挙する。
【0110】
【0111】
【0112】
本発明のペプチドは線状形態で利用されることができるが、環化がペプチドの特性をひどく妨害しない場合、ペプチドの環状形態もまた利用できることが理解される。
【0113】
本発明のペプチドは、ペプチド合成の分野における当業者に既知の任意の技術によって合成することができる。固相ペプチド合成については、その多くの技術の要約が、J.M.StewartおよびJ.D.Young、Solid Phase Peptide Synthesis(W.H.Freeman Co.(San Francisco)、1963)に、また、J.Meienhofer、Hormonal Proteins and Peptides(第2巻、46頁、Academic Press(New York)、1973)に見出され得る。古典的な溶液合成については、G.SchroderおよびK.Lupke、The Peptides(第1巻、Academic Press(New York)、1965)を参照のこと。
【0114】
一般に、これらの方法は、1つ以上のアミノ酸または好適に保護されたアミノ酸を成長中のペプチド鎖に逐次付加することを含む。通常、最初のアミノ酸のアミノ基またはカルボキシル基のいずれかが好適な保護基によって保護される。保護または誘導体化されたアミノ酸は、その後、好適に保護された相補的な(アミノまたはカルボキシル)基を有する配列内の次のアミノ酸を、アミド連結を形成するために好適な条件のもとで加えることによって、不活性な固体担体に結合することできるか、または、溶液中で利用することができる。その後、保護基が、この新しく付加されたアミノ酸残基から除かれ、その後、次のアミノ酸(好適に保護されたアミノ酸)が加えられ、以降、同様に繰り返される。所望されるアミノ酸のすべてが適切な配列で連結された後、いずれかの残留する保護基(および何らかの固体担体)が、最終的なペプチド化合物を得るために、逐次的または同時に除かれる。この一般的な手順の簡便な変性によって、2つ以上のアミノ酸を一度に、例えば、保護されたトリペプチドを適切に保護されたジペプチドに(キラル中心をラセミ化させない条件のもとで)カップリングして、脱保護後にペンタペプチドを形成することなどによって、成長中の鎖に付加することが可能である。ペプチド合成のさらなる記載が米国特許第6472505号に開示される。
【0115】
本発明のペプチド化合物を調製する1つの方法では、固相ペプチド合成が伴う。大規模なペプチド合成がAndersson(Biopolymers、2000、55(3):227〜50)によって記載される。
【0116】
別の方法として、または加えて、様々な変性を、核酸コード配列を変性し(置換、欠失、挿入など)、その配列を、形質転換された細胞または生物において発現し、それにより、変性組換えSP1変異体ポリペプチドを作製することによる遺伝子的方法によってSP1ポリペプチドのアミノ酸配列に導入することができる。遺伝子レベルでの変性方法には、部位特異的変異誘発およびランダム変異誘発が含まれるが、これらに限定されない。組換えポリペプチドの翻訳後修飾(例えば、グリコシル化など)のためのシグナルもまたコード配列に導入することができる。
【0117】
従って、本発明の別の態様によれば、配列番号2〜配列番号30のいずれかで示されるようなアミノ酸配列を有する変性SP1ポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0118】
本発明のポリヌクレオチドは宿主生物における組換え発現のためのベクターに導入することができることが理解される。本発明の別の態様によれば、本明細書中に記載される単離された核酸を含む核酸構築物が提供される。
【0119】
好ましい実施形態によれば、本発明のこの態様による核酸構築物はさらに、センス配向でのポリヌクレオチドの発現を調節するためのプロモーターを含む。そのようなプロモーターは、その下流側に存在する配列を転写するDNA依存性RNAポリメラーゼと結合するために役立つように転写のために要求されるシス作用の配列エレメントであることが知られている。
【0120】
本明細書中に記載されるポリヌクレオチドは本発明の不可欠な要素であり、様々な状況で使用することができる。本発明のポリヌクレオチドと併せて使用されるのに最適なプロモーターは二次的に重要であり、任意の好適なプロモーターを含む。しかしながら、転写開始部位がオープンリーディングフレームの上流側に確実に配置されるようにすることが必要であることが当業者によって理解される。本発明の好ましい実施形態において、選択されるプロモーターは、宿主細胞が細菌、酵母、あるいは、植物または動物の高等細胞であっても、目的とする特定の宿主細胞において活性があるエレメントを含む。
【0121】
本発明による構築物は、好ましくは、適切な選択マーカーをさらに含む。本発明によるより好ましい実施形態において、構築物はさらに複製起点を含む。本発明による別の最も好ましい実施形態において、構築物はシャトルベクターであり、この場合、シャトルベクターは、大腸菌(この場合、構築物は適切な選択マーカーおよび複製起点を含む)において増殖することができ、選ばれた生物の細胞における増殖、または、選ばれた生物のゲノムにおける組み込みのための適合性を有することができる。本発明のこの態様による構築物は、例えば、プラスミド、バクミド、ファージミド、コスミド、ファージ、ウイルスまたは人工染色体が可能である。
【0122】
本発明の構築物は、それによってコードされるポリペプチドを、細菌(例えば、大腸菌など)、酵母細胞から、高等細胞(例えば、植物の細胞など)にまで及ぶ様々な種において発現させるために使用することができる。発現は、安定的または一過性であるように選択することができる。
【0123】
植物の形質転換を行うために、プロリンの産生を触媒することができる酵素をコードする外因性ポリヌクレオチドが、好ましくは、植物細胞または植物組織へのそのような外因性ポリヌクレオチドの導入および植物における酵素の発現を容易にするために役立つ核酸構築物(1つ以上)に含まれる。
【0124】
本発明のポリペプチドは、(本明細書中上記で述べられたような)そのSP−1活性を保持するので、本明細書中下記においてさらに記載されるように、以前に記載され、また、現時点で想定されるような無数の適用において使用することができる。望ましい場合、天然SP−1ポリペプチドもまた本発明に従って使用され得ることが理解される。
【0125】
本発明の1つの態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤をその必要性のある対象に送達する方法が提供され、この場合、この方法は、そのような薬剤との分子的会合の状態で本発明のSP−1ポリペプチドを含む組成物の治療効果的な量、化粧効果的な量または診断効果的な量を対象に投与することを含む。好ましい実施形態において、SP1ポリペプチドは、変性SP1ポリペプチドである。別の実施形態において、薬剤との分子的会合は可逆的な会合である。
【0126】
本明細書中で使用される表現「治療薬」は、その投与が所与の状態の何らかの態様における改善を引き起こすことができる任意の薬剤を示す。治療薬は症状的に効果的であってもよく、部分的に効果的であってもよく、治療薬が投与される任意の状態の治癒、治療、軽減、そのような状態の進行の防止、そのような状態についての予後の改善などをもたらすことができる。治療薬は単独で効果的であり得るか、または、他の薬剤に対する補助物として効果的であり得る。治療薬は短期間および/または長期間で効果的であり得るし、また、広範囲の様々な状態において幅広く効果的であり得るか、または、その有効性において狭く、特異的であり得る。
【0127】
本明細書中で使用される表現「診断用薬」は、患者における何らかの疾患または状態の存在または非存在を診断するための方法に関連して使用される任意の薬剤を示す。例示的な診断用薬には、例えば、患者の超音波診断、磁気共鳴画像化またはコンピューター断層撮影法に関連して使用される造影剤が含まれる。
【0128】
本明細書中で使用される用語「化粧剤」は、美的効果のためにヒトの皮膚に局所的に適用することができ、また、好ましくは刺激を引き起こさない任意の薬剤(例えば、顔料または香料など)を示す。様々な化粧剤がこの分野では広く知られており、皮膚または局所的に適用することができる、口紅、アイシャドウ、口紅、ファンデーションおよび他の形態の「化粧品」、クリーム、ペースト、ローション、香膏、スプレー、ゲル、フォームなどのような製造物に含められる(例えば、クリーム(例えば、グリースクリームまたはドライクリーム)など)。
【0129】
本明細書中で使用される表現「その必要性のある対象」は、本発明の組成物の投与からの利益を得ることができる任意の対象を示す。そのような対象は、例えば、組成物の投与が治療的効果または有益な効果を有し得る特定の状態を有する対象、または、そのような状態を有する危険性がある対象が可能である。
【0130】
本発明の組成物は、それ自体で、あるいは、本発明の組成物が好適なキャリアまたは賦形剤と混合される医薬組成物で生物に投与することができる。
【0131】
本発明の組成物は、医薬組成物であることができる。本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される有効成分の1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、生理学的に好適なキャリアおよび賦形剤など)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0132】
本明細書中において、用語「有効成分(活性成分)」は、SP1またはSP1変異体単独、または生物学的効果を担う物質または薬剤と分子的会合状態にあるSP1またはSP1変異体を示す。
【0133】
以降、交換可能に使用されうる表現「医薬的に許容され得るキャリア」および表現「生理学的に許容され得るキャリア」は、生物に対する著しい刺激を生じさせず、投与された化合物の生物学的な活性および性質を阻害しないキャリアまたは希釈剤を示す。アジュバントはこれらの表現に含まれる。
【0134】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0135】
薬物の配合および投与のための様々な技術が“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)に見出され得る(これは参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0136】
好適な投与経路には、例えば、経口送達、直腸送達、経粘膜送達、特に経鼻送達、腸管送達または非経口送達(これには、筋肉内注射、皮下注射および髄内注射、ならびに、クモ膜下注射、直接的な脳室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻内注射または眼内注射が含まれる)が含まれ得る。
【0137】
あるいは、例えば、患者の組織部位に直接的に医薬組成物の注射をすることによって、全身的な方法よりも局所的に医薬組成物を投与しうる。
【0138】
本発明の医薬組成物は、この分野で十分に知られている様々なプロセスによって、例えば、混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥の従来のプロセスによって製造することができる。
【0139】
本発明に従って使用される医薬組成物は、医薬品として使用され得る調製物への有効成分の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアを使用して従来の様式で配合することできる。適正な配合は、選ばれた投与経路に依存する。
【0140】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合し得る緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理学的な生理的食塩緩衝液など)において配合することができる。経粘膜投与の場合、浸透されるバリヤーに対して適切な浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤はこの分野では一般に知られている。
【0141】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性化合物をこの分野で広く知られている医薬的に許容され得るキャリアと組み合わせることによって容易に配合され得る。そのようなキャリアは、医薬組成物が、患者によって経口摂取される錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー剤および懸濁物などとして配合されることを可能にする。経口使用される薬理学的調製物を、固体の賦形剤を使用し、得られた混合物を場合により粉砕し錠剤または糖衣錠コアを得るために、所望する場合には好適な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して作製することができる。好適な賦形剤には、特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなど;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容され得るポリマーがある。所望する場合には、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を加えることができる。
【0142】
糖衣錠コアには、好適なコーティングが施される。この目的のために、高濃度の糖溶液を使用することができ、この場合、糖溶液は、場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有し得る。色素または顔料を、活性化合物の量を明らかにするために、または活性化合物の量の種々の組合せを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠コーティングに加えることができる。
【0143】
経口使用され得る医薬組成物には、ゼラチンから作製されたプッシュ・フィット型カプセル、ならびに、ゼラチンおよび可塑剤(例えば、グリセロールまたはソルビトールなど)から作製された軟いシールされたカプセルが含まれる。プッシュ・フィット型カプセルは、充填剤(例えば、ラクトースなど)、結合剤(例えば、デンプンなど)、滑剤(例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)および場合により安定化剤との混合で有効成分を含有することができる。軟カプセルでは、有効成分を好適な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィンまたは液状のポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁させることができる。また、安定化剤を加えることができる。経口投与される配合物はすべて、選ばれた投与経路について好適な投薬形態でなければならない。
【0144】
口内投与の場合、組成物は、従来の様式で配合された錠剤またはトローチの形態を取ることができる。
【0145】
鼻吸入による投与の場合、本発明による使用のための有効成分は、好適な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素)の使用により加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示物の形態で都合よく送達される。加圧されたエアロゾルの場合、投薬量単位が、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定され得る。ディスペンサーにおいて使用される、例えば、ゼラチン製のカプセルおよびカートリッジで、化合物および好適な粉末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプンなど)の粉末混合物を含有するカプセルおよびカートリッジを配合することができる。
【0146】
本明細書中に記載される医薬組成物は、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与のために配合することができる。注射用配合物は、場合により保存剤が添加された、例えば、アンプルまたは多回用量容器における単位投薬形態で提供され得る。組成物は、油性ビヒクルまたは水性ビヒクルにおける懸濁物または溶液剤またはエマルションにすることができ、また、懸濁化剤、安定化剤および/または分散化剤などの配合剤を含有することができる。
【0147】
非経口投与される医薬組成物には、水溶性形態での活性調製物の水溶液が含まれる。また、有効成分の懸濁物を適切な油性または水性の注射用懸濁物として調製することができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルには、脂肪油(例えば、ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、トリグリセリドまたはリポソームが含まれる。水性の注射用懸濁物は、懸濁物の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどを含有することができる。場合により、懸濁物はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために有効成分の溶解性を増大させる好適な安定化剤または薬剤を含有することができる。
【0148】
あるいは、有効成分は、好適なビヒクル(例えば、無菌の、パイロジェン非含有水溶液)を使用前に用いて構成される粉末形態にすることができる。
【0149】
本発明の医薬組成物はまた、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の座薬基剤を使用して、座薬または停留浣腸剤などの直腸用組成物に配合することができる。
【0150】
本発明に関連した使用のために好適な医薬組成物には、有効成分が、その意図された目的を達成するために効果的な量で含有される組成物が含まれる。より具体的には、治療効果的な量は、治療されている対象の病状(例えば、虚血)を予防、緩和あるいは改善するために効果的であるか、または、治療されている対象の生存を延ばすために効果的である、有効成分(核酸構築物)の量を意味する。
【0151】
治療効果的な量の決定は、特に本明細書中に提供される詳細な説明に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0152】
本発明の方法において使用される任意の調製物について、治療効果的な量または用量は、最初はインビトロでアッセイおよび細胞培養アッセイから推定することができる。例えば、用量は所望の濃度または滴定量を得るために動物モデルにおいて配合することが可能である。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。
【0153】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療効力は、細胞培養または実験動物における、インビトロで標準的な薬学的手法によって、明らかにすることができる。これらのインビトロでの細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用に対する投薬量範囲を決定するために使用することができる。投薬量は、用いられる投薬形態および利用される投与経路に依存して変化し得る。正確な配合、投与経路および投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選ぶことができる(Fingl,et al,(1975年)「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,Ch.1p.1参照)。
【0154】
投薬量および投薬間隔は、血漿または脳に、生物学的活性を誘導または抑制するために十分であるレベル(最小有効濃度、MEC)の有効成分を与えるために個々に調節することができる。MECはそれぞれの調製物について変化するが、インビトロデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は、個体の特徴、および、投与経路に依存する。様々な検出アッセイを、血漿中濃度を求めるために使用することができる。
【0155】
処置される状態の重篤度および応答性に依存して、投薬は、単回または複数回投与で行うことができ、この場合、処置期間は、数日から数週間まで、または治療が達成されるまで、または疾患状態の軽減が達成されるまで続く。
【0156】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、処置されている患者、苦痛の重篤度、投与様式、処方医の判断などに依存する。
【0157】
本発明の組成物は、所望されるならば、有効成分を含有する1つまたは複数の単位投薬形態物を含有し得るパックまたはディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キットなど)で提供され得る。パックは、例えば、金属ホイルまたはプラスチックホイルを含むことができる(例えば、ブリスターパックなど)。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が付随し得る。パックまたはディスペンサーデバイスはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局によって定められた形式で、容器に関連した通知によって適応させることがあり、この場合、そのような通知は、組成物の形態、あるいはヒトまたは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物について米国食品医薬品局によって承認されたラベル書きであり得るか、または、承認された製品添付文書であり得る。適合し得る医薬用キャリアに配合された本発明の調製物を含む組成物もまた、上でさらに詳述されたように、適応される状態を処置するために調製され、適切な容器に入れられ、かつ標識され得る。
【0158】
本発明を実施に移しているとき、SP1アミノ酸配列内へのジスルフィド架橋の導入は、特異な性質を有する変異体SP1ポリペプチドをもたらすことが発見された。N末端のシステイン残基(Cys2 P1変異体、配列番号3)は変異体SP1ポリペプチドをレドックス状態に対して感受性にする(図8b、実施例4)。従って、変性SP1は薬剤または物質の複合体化および放出の特異的な制御を示す(図8、図9、図10および図11、実施例4)(この場合、標識用物質FA)。実際、SP1−薬物複合体(例えば、Cys2 SP1−DOXなど)からの薬物分子の放出、および、Cys2 SP1−FA複合体からの蛍光性標識の放出が、レドックス状態に対して感受性があることが示された(図9〜図11、図14、図16、実施例4)。以前には達成することができなかった、複合体形成のこのような制御は、変性SP1ポリペプチドの薬物キャリア、診断ツール、ナノ構造体などを設計することにおいて好都合であり得ることが理解される。例えば、治療薬、化粧剤、芳香剤、診断用薬などの物質とのSP1複合体は、還元状態にさらすことによって形成するように誘導することができ、また、その後の時点で、チオールを有する残基についての競合によって放出するように誘導することができる(図8a〜図8cの概略図を参照のこと)。
【0159】
本発明を実施に移しているとき、特異的な腫瘍血管系認識ペプチドにより変性SP1は、特徴的なオリゴマー複合体形成、熱安定性およびプロテアーゼ抵抗性を示した(図4、実施例2)。従って、SP1は、標的認識配列または標的認識成分を含むように変性することができ、また、物質(治療薬、診断用薬、導電性薬剤など)との可逆的な複合体を形成するようにさらに変性することができる。従って、そのような変性SP1ポリペプチドは、物質の送達をSP1との可逆的な複合体で標的化するために使用することができる。
【0160】
ナノ粒子(例えば、SP1オリゴマーなど)に対する細胞毒性薬物の複合体化もまた、腫瘍への受動的な標的化を助けることができることが理解される。いくつかのモデル腫瘍系が現在、正常な組織と比較して、増大した血管透過性を示すことが知られており、そのような増大した血管透過性は、それらの選択的な標的化を、高分子の薬物キャリアを使用して可能にする。予備的な臨床観察では、増大した血管透過性はいくつかのタイプのヒトガンに特徴的であることが示唆され、従って、これは、細胞毒性薬物、抗体標的化および遺伝子治療のためのDNAの送達をはじめとする様々な高分子薬物治療を容易にすることにおけるキャリア(例えば、SP1など)の使用のための重要な意味あいを有するかもしれない。
【0161】
本発明の変性SP1ポリペプチドは、物質を安定化させるために使用することができる。本明細書中で使用される用語「安定化する」は、分子、組成物、化合物などの化学的安定性、物理的安定性または生化学的安定性を増大させることを示す。安定性はさらに、特定の性質に関連して定義することができる。好ましい実施形態において、安定性は、温度安定性、イオン強度安定性、プロテアーゼ安定性および触媒作用安定性がある。そのような安定性を測定するためのアッセイの様々な例が本明細書中下記において詳しく記載される。
【0162】
本発明を実施に移しているとき、SP1との分子の複合体化は溶液における溶解性および安定性を大きく高めたことが示された。本明細書中で使用される用語「溶解性」は、溶媒および溶質を含む溶液を形成するために、溶質が溶媒に均一に分散および溶解することができることを示す。すべての溶質は理論上、すべての溶媒に可溶であることが理解される。しかしながら、溶解性が不良であるか、または無視できるほどである溶質(非混和性溶質)は所与の溶媒との任意の有意な濃度の溶液を形成しない。
【0163】
従って、本明細書中で使用される「溶液における物質の溶解性を高める」は、溶媒との溶液において溶質としてのこの物質の濃度を増大させることを示す。好ましい実施形態において、物質は疎水性物質(これは典型的には、水に不溶性または難溶性である)であり、溶媒は水性溶媒である。
【0164】
有機溶媒に対する、変性されていないSP1ポリペプチドオリゴマー複合体および変性SP1ポリペプチドオリゴマー複合体の安定性が本明細書中下記において図18に示された。有機溶媒において疎水性分子(例えば、PTXなど)と一緒にされ、乾燥され、水性溶媒において再構成されたとき、SP1と、疎水性分子との間での分子的会合および複合体形成は、PTXを水溶性にした(図19および図20)。従って、SP1を、溶液における物質の溶解性を高めるために使用することができる。好ましい実施形態において、物質は疎水性物質であり、溶液は水溶液である。そのような物質(例えば、疎水性の薬物、揮発性エステルおよび他の分子、芳香分子、化粧用分子、オイル、顔料、ビタミン、有機分子など)を、水および水性溶媒と混合するために可溶化することができる。さらに、本発明を実施に移しているとき、凍結乾燥されたSP−PTX複合体が再構成後も安定したままであることが示された(本明細書中下記の実施例5を参照のこと)。従って、SP1および変性SP1変異体との分子的会合および複合体形成を、疎水性分子、揮発性分子、不安定な分子など(例えば、PTXなど)のより効果的な保存のために使用することができる。
【0165】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の変性SP1ポリペプチドは2つ以上の変性をアミノ酸配列に有することができる。従って、例えば、無機分子(例えば、金属イオン;本明細書中上記の表1を参照のこと)と複合体化することができる変性SP1ポリペプチドは、第2の物質との可逆的な分子的会合を形成するためにさらに変性することができ、また、無機分子を含む任意の表面に第2の物質を送達するために使用することができる。そのような会合はナノテクノロジー適用および固体工学適用において有用であり得る。この場合、変性SP1複合体は、均一かつ所定の分子厚さの第2の物質の層を堆積させるために使用することができる。例えば、ドープ物質または絶縁性物質のそのような送達方法は、平らでない表面を覆う使用のためには特に好都合である。
【0166】
本発明の変性SP1ポリペプチドは、生体模倣適用における無機分子の制御された送達および放出のために使用することができる。SP1は、アミノ酸配列の変性によって変化させることができる整列した幾何学的立体配座で自己集合することが示されている(図1および図2を参照のこと)。キャリア能力(例えば、無機分子の可逆的な結合など)を提供するためのさらなる変性は、生体模倣プロセス(例えば、制御された結晶形成など)における分子キャリアとして役立つように変性SP1分子をもたらすことができる。そのような変性SP1ポリペプチドは、例えば、無機分子の正確な送達および放出のために、また、制御されない凝集をナノスケールプロセスにおいて防止するために、また、十分に規定された制御可能な性質を有するカップリング分子として有用であり得る(生体模倣技術の主題の最近の総説については、Sarikaya他、Ann Rev Mater Res、2004、34:373〜408を参照のこと)。
【0167】
本発明のSP1ポリペプチドは、ナノスケールの構造体およびデバイスを作製および操作するために使用することができる。結合性のペプチドおよびタンパク質が、分子レベルで、また、遺伝学によって選択および設計され、これにより、可能な限り小さい寸法スケールでの制御が可能になるので、様々なポリペプチドがナノスケール技術において利点を有する。また、そのようなタンパク質は、合成された実体(ナノ粒子、機能的ポリマー、あるいは、他のナノ構造体または分子テンプレートを含む)をつなぐためのリンカーまたは「分子エレクター・セット」として使用することができる。さらに、生物学的分子は、整列したナノ構造体に自己集合および共集合し、従って、これは、自然界に見出される構造体に類似する複雑なナノ構造体、および、場合によると、階層的な構造体を構築するための強固な組み立てプロセスを保証する。
【0168】
本明細書中上記で述べられたように、本発明のSP1ポリペプチドは自己集合して、規則的かつ予測可能なナノスケール構造体を形成することができる。従って、例えば、分子リンカーおよび複雑なナノ構造体として有用な多数の自己集合した変性SP1モノマーを含む組成物が提供される。
【0169】
本発明のSP1ポリペプチドはさらに、(特異的な融合ペプチドまたは融合ポリペプチドを介した)リガンド分子およびリガンド結合分子の親和性結合、SP1オリゴマーとの分子的会合および複合体化が可能である任意の化合物および/または分子の表面被覆、SP1オリゴマーとの分子的会合での導電性分子または半導体の制御された会合によるナノ回路設計、SP1オリゴマーと会合した磁性粒子または磁性ナノ粒子、任意の生物学的に活性な分子(例えば、除草剤、殺虫剤、揮発性化合物および芳香性化合物など)の制御された会合および放出、ナノコンピューティング、導電性インクによるリトグラフィーおよび印刷、三次元ナノ構造体の制御された会合および解離によるナノ構築のために使用することができる。なおさらに、本発明のSP1ポリペプチドは導電性デバイス(例えば、電子工学デバイスなど)の構成要素として組み込むことができる。
【0170】
本発明のさらなる目的、利点および新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0171】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なおこれら実施例によって本発明は限定されない。
【0172】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている。例えば以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel, R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号および5272057号に記載される方法;Cellis, J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Freshney「Culture of Animal Cells−A Mamual of Basic Technique」Wiley−Liss、N.Y.、1994年、第3版;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号および5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.およびHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.およびHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである]。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0173】
材料および実験方法
組換えSP1の発現
567bpのcDNAクローンを、抗SP1抗体を使用して、水ストレスを与えたアスペンシュートに由来するラムダ発現ライブラリーからの7x105個の組換えファージプラークをスクリーニングすることによって単離した(Wang他、米国特許出願第10/233409号)。大腸菌株BL21(DE3)を、sp1遺伝子を有するプラスミド(pET29a、カナマイシン耐性が付与される)により形質転換した(Wang他、Plant Phys、2002、130:865〜75)。野生型SP1ならびにその変異体を大腸菌において作製および発現させた:さらなるタグを何ら有しない全長SP1(これはSP1(配列番号1)と呼ばれる);6個のヒスチジンのタグをSP1のN末端に導入して、6HSP1(配列番号7)を作製し、システイン残基をSP1の21位に導入して、Cys2 SP1(配列番号3)を作製し、ΔNSP1(配列番号2)をSP1のN末端におけるアミノ酸2〜6の欠失によって作製した。これらの組換えSP1タンパク質の発現は、Wang他(Acta Crys、2003、D59:512〜14)に記載されるように、標準的な組換え手法に従った。
【0174】
タンパク質精製
組換えSP1を、Wang他(2003)に記載されるように、大腸菌から製造した。6HSP1を、溶出緩衝液が400mMのイミダゾールを含有したということを除いて、供給者のプロトコルに従ってNi−NTAアガロースビーズ(P−6611、Sigma Chemicals、St.Louis、MI)でさらに精製した。ΔNSP1の煮沸安定性の画分を、アニオン交換カラムSOURCE−15Q(Amersham Biosciences、英国)への準備として、15mM〜20mMのピペラジン(pH5.9)の20体積に対して透析した(2回)。移動相における緩衝液Aは20mMピペラジン(pH5.1)であり、1MのNaClを含む同じ緩衝液を緩衝液Bとして使用した。ΔNSP1を23%〜25%の緩衝液Bによって溶出した。1Mの最終濃度での硫酸アンモニウム、および、7.5のpHへのNaOHを、精製されたΔNSP1に加え、その後、1M硫酸アンモニウムを含有する50mMリン酸塩緩衝液(pH7.5)により予備洗浄されたHiTrapフェニルセファロースHPカラム(Amersham Biosciences、英国)に負荷した。ΔNSP1を47%〜48%の50mMリン酸塩(pH7.5)(緩衝液B)において溶出した。その後、ΔNSP1を、25mMリン酸塩(pH7.5)を使用して30kDaカットオフの限外ろ過濃縮装置によって濃縮および透析ろ過した。
【0175】
分析超遠心分離
平衡沈降研究を、Beckman Optima(登録商標)XL−1分析超遠心分離機(Beckman Instruments,INC.)を使用して行った。アスペンSP1を200倍の20mM Tris−HCl(pH8.0)で一晩透析した。その後、サンプルを透析液により希釈して、約202μM、152μM、68μM、22.5μMおよび6.5μMのタンパク質溶液を作製した。サンプルを6セクターセルにおいて、6000rpmおよび7000rpmのローター速度で20℃において遠心分離した。データを、280nm、220nmおよび254nmで集め、下記の式を使用して分析した:M=[2RT/(1−ν)ρω2][d(ln(c))/dr2)]、ただし、典型的なν=0.73cm3g−1およびρ=0.9994gcm−1。
【0176】
透過電子顕微鏡法(TEM)研究
SP1(0.05mg/ml)を、グロー放電処理された、カーボンおよびニトロセルロースにより被覆された銅の400メッシュのグリッドに塗布し、2%酢酸ウラニルにより染色した。画像をFEI Tecnai−12顕微鏡により得て、Kodak S0163フィルムまたはMegaviewIIIデジタルカメラ(Soft Imaging Systems、Munster、ドイツ)で記録した。顕微鏡写真をImacon FlextightIIスキャナーによりデジタル化した。上面の野生型SP1粒子を平均化するための画像処理をSPIDERプログラム群(Frank他、1996)により行い、この画像処理は、最初の無参照アラインメント(並進および回転)、その後、参照に基づいた3回のアラインメントからなっていた。SP1の低温陰染色画像を4μlのSP1(1mg/ml)をレース状グリッド(SPI Supplies、West Chester、PA)に置き、16%モリブデン酸アンモニウムを加え(Adrian他、1998)、液体エタンに沈めることによって調製した。低用量の低温条件のもとでの画像化を、FEI Tecnai F20顕微鏡で行い、TVIPS(Gauting、ドイツ)1kX1k Biocamカメラで記録した。
【0177】
SP1の化学的架橋および質量分析
SP1(1mg/ml)を50mMトリエタノールアミン緩衝液(pH7.5)における0.25%グルタルアルデヒド(GA)と室温でインキュベーションした(72時間)。非架橋SP1生成物および架橋SP1生成物を質量分析法による分析に供した。マトリックス支援レーザー脱離飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)をMicromass TofSpec 2Eリフレクトロン質量分析計(The Protein Research Center、Technion、Haifa、イスラエル)で行った。
【0178】
SDSへの曝露およびSP1加熱後のSP1の安定性
SP1(20μg)を種々のSP1モノマー:SDSモル比でSDSサンプル緩衝液において調製し、煮沸し(5分間)(または、煮沸することなく)、その後、SDS−PAGE分析に供した。SP1オリゴマー(10μg)の熱安定性をSP1モノマー:SDS=1:1733で同じ緩衝液において調べ、異なる温度で1分間〜10分間加熱した。
【0179】
SP1のプロテアーゼ感受性試験
V8プロテアーゼ緩衝液(125mM Tris−HCl(pH6.8)、10%グリセロール、0.5%SDS)または標準的緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、50mM NaCl)のいずれかにおいて調製されたSP1(10μg)を2分間煮沸し、または、煮沸することなく、その後、プロテアーゼ(黄色ブドウ球菌V8プロテアーゼ、トリプシン、プロテイナーゼK、Sigma Chemicals Inc.、イスラエル)を加えた。プロテアーゼを50μg/mlの最終濃度に加えた(SP1:プロテアーゼは1:20(w/w)に等しい)。消化を37℃で1時間行った。その後、サンプルをSDSサンプル緩衝液において調製し、煮沸し、または、煮沸することなく、その後、17%トリシン−SDS−PAGEに供した。
【0180】
煮沸およびタンパク質分解によるSP1の精製
植物の総可溶性タンパク質または濃縮された煮沸可溶性の総タンパク質を50μg/mlのプロテイナーゼKとインキュベーションした(37℃、1時間)。類似した手順を総組換え細菌タンパク質に対して適用した。PKを煮沸(10分間)によって不活性化し、その後、遠心分離した(15000xg、10分間)。SP1を限外ろ過(10kDaカットオフ、VIVASCIENCE、Binbrook Lincoln、英国)によって濃縮した。
【0181】
SP1複合体へのジスルフィド架橋の操作
Cys2SP1遺伝子を、N末端のアラニンをシステインに部位特異的に変異誘発することによって構築した。野生型およびCys2 SP1(配列番号3)の両方(2mg/ml)を10mM DTTの存在下または非存在下で一晩インキュベーションし、2%SDSサンプル緩衝液と事前に煮沸し、その後、SDS−PAGE分析に供した。
【0182】
様々な有機溶媒に対するSP1複合体の抵抗性
10mMリン酸ナトリウム(pH7)における1mg/mlのサンプルの150ulを一晩凍結乾燥し、150μlの有機溶媒に10分間、再懸濁した。30分のスピードvac処理の後、サンプルを150μlの水に再懸濁し、SDS−PAGEによって分析した。
【0183】
SP1ヘテロオリゴマーの再集合
精製された6HSP1およびΔNSP1を最初に、これらのタンパク質をSDSサンプル緩衝液において煮沸することによってモノマー形態に変性した。その後、変性させたタンパク質を調製用SDS−PAGEで分離し、クーマシーブルー染色によって可視化した。2つの組換えタンパク質バンドのモノマー形態を切り出した。6HSP1(配列番号7)およびΔNSP1(配列番号2)のモノマー形態を有するゲル片を1:1の比率(v/v)で混合した。表面/体積の比率を高めるために、ゲル片を、乳棒および乳鉢を液体窒素の存在下で使用して粉砕した。その後、タンパク質を、以前に記載されたように、電気溶出によって同時溶出した(Wang他、2002)。ヘテロオリゴマー複合体を、溶出されたタンパク質をNi−NTAアガロースビーズに供することによって単離し、結合したタンパク質を、標準的な手順(P6611についてのSigmaプロトコル)を使用して400mMイミダゾールによって溶出した。プロテイナーゼK(これはモノマーSP1を消化するが、SP1複合体は消化しない)(この論文に記載される)を用いて、6HSP1(配列番号7)およびΔNSP1(配列番号2)のモノマー形態をNi−NTA精製タンパク質から除いた。ヘテロオリゴマーSP1の組成をSDS−PAGEによって求め、銀染色によって可視化した。
【0184】
限外ろ過
区別可能な吸収特性を有し、分光学的測定によって測定することができる水溶性リガンドのFAおよびDOXとの複合体形成の検出のために限外ろ過を使用した。遊離FAおよびDOXはSP1よりもはるかに小さい(それぞれ、0.35kDaおよび0.58kDa対150kDa):遊離FAおよびDOXは30kDaの分子量カットオフメンブランを通過する(流出画分)一方で、遊離SP1およびSP1複合体はともにメンブランの上に保持される(保持画分)。数回のさらなる洗浄サイクルにより、残留する遊離FAおよびDOXが除かれ、リガンド−SP1複合体が保持画分に残留する。
【0185】
サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィーは、異なるサイズの分子を穏和な条件のもとで分離するための一般的な方法であり、これを用いて、穏和な条件のもとでのFA複合体形成およびDOX複合体形成を調べた。SP1が7分後にカラムから溶出され、278nmにおいて検出されるだけであり、遊離FAが16分後にカラム(TSK G3000SWXL、Tosohaas)から溶出され、490nmにおいて検出される。SP1−FA複合体およびSP1−DOX複合体もまた、同じ時間で溶出したが、これらはそれぞれ、490nmおよび475nmでも検出される。SP1が7分後にカラムから溶出され、278nmにおいて検出されるだけである。DOX/SP1の比率が、溶液で得られる標準曲線から求められる。
【0186】
C−18逆相HPLC
逆相HPLC(RP−HPLC)分析では、遊離DOX、PTXおよびSP1が分離される。両方の化合物が樹脂(C−18)に結合し、異なるアセトニトリル濃度で溶出され、278nmと、225nm(SP1)、225nm(PTX)および477nm(DOX)との両方で検出される。
【0187】
SP1−DOX複合体は、複合体化していないSP1とともに、278nmだけでなく、477nmにおいて検出される。SP1−DOXおよび遊離DOXの定量値が477nmでのそれらのピークにおける吸光度から直接に計算される。しかしながら、SP1−DOXピークにおけるタンパク質の量を推定するために、278nmにおける吸収が下記の式に従ってDOXについて補正される(OD278−0.77*OD477)。FAおよびDOXとは対照的には、複合体化したPTXは検出することができないが、遊離PTXと同じ溶出において検出される。
【0188】
DOX化合物およびPTX化合物のC18 RP−HPLC分離および検出が下記に概略される。溶媒A=水+0.1%TFA。溶媒B=アセトニトリル+0.1%TFA。プログラムは、0分〜5分が75%A、0%Bであり、5分〜15分が25%〜75%Bであった。SP1が225nmおよび/または278nmで検出され、DOXが477nmおよび/または278nmで検出され、PTXが225nmで検出された。
【0189】
DOX−SP1複合体
20mMリン酸Na緩衝液(pH6.7)におけるパイロジェン非含有のCys2 SP1変異体(配列番号3)(最終濃度、2mg/ml)をDOX溶液(Teva、イスラエル)により1:2の希釈で希釈した(最終濃度、1mg/ml)。示された場合、GSHを加えた。溶液を一晩混合する。示された場合(酸化された場合)、H2O2を0.1%に加え、緩衝液を加えて、3倍の体積にし、溶液を超音波処理する(22秒を3回、3%の振幅での1:1のパルス/中断、0.5分の中断、Vibra−Cell 750W超音波処理機を使用する)。
【0190】
遊離DOXのエタノール沈殿
エタノールにより5倍(V:V)に希釈された溶液を−20℃で3時間インキュベーションし、1250Xgで30分間、室温で遠心分離した。ペレット化物を洗浄し、冷エタノールに再懸濁し、再びペレット化し、再懸濁して、HPLCによって分析した。
【0191】
非結合DOXの除去
SP1−DOX溶液を30Kカットオフのミクロコンフィルター(Millipor Ltd.、Billerica、MA)での限外ろ過によって洗浄し、その後、リン酸Na緩衝液(pH6.7)およびPBSにより、流出が無色になるまで洗浄した。
【0192】
SP1−PTX複合体
3mgのSP1(25mg/ml、PBSにおける120ul)を6時間、15mlのプラスチックチューブにおいて凍結乾燥した。300ulのPTX(乾燥アセトン/ヘキサン(1:1)+0.1%β−メルカプトエタノールにおける1mg/ml)を加え、アセトン/ヘキサン+0.1%β−メルカプトエタノールを加えて4mlの最終体積にした。混合物を超音波処理した(1秒のパルス、3秒の中断、45”の超音波処理時間、合計で3分、35%の強度、氷上で)。有機溶媒を乾燥によって一晩エバポレーションし、0.4mlのPBSを加え、混合物を超音波処理した(1秒のパルス、3秒の中断、30”のサニテーション時間、合計で2.5分、35%の強度、氷上で)。破片を遠心分離(5分、14000RPM)によってペレット化した。組織培養実験のために、アリコートをろ過した。
【0193】
細胞成長条件
ヒト結腸腺ガン(HT−29)細胞。細胞を、10%ウシ胎児血清、1%グルタミンおよび1%Antibiotic−Antimicotic溶液(Biolab、イスラエル)が補充されたDMEM培地(Biological Industries、Bet Haemek)を含有する50mlのフラスコで成長させた。細胞をトリプシン処理し、5x104個の細胞を含有する2mlの培地を6ウエルプレートのそれぞれのウエルに入れた。SP1、薬物、または、薬物と複合体化されたSP1を示された濃度で加えた。細胞を、5%CO2を含有する加湿された大気において37℃でインキュベーションした。48時間後、薬物の存在または非存在の培地を、成分および薬物の絶え間ない供給を維持するために、それぞれのウエルにおいてそれぞれ交換した。4日後、培地を除き、培養における生細胞の数を顕微鏡観察によって求めた。
【0194】
B16メラノーマモデル(B16−F10(B16)メラノーマ腫瘍)におけるSP1−DOXおよびSP1−PTXのインビボでの影響
B16−F10(B16)メラノーマ腫瘍を有するC57B1のオスのマウスを、Kalechman(Int J Cancer、2000、86:281〜8)によって記載されるように調製し、世話をした。B16F10メラノーマ細胞(マウスあたり5x105個または5x106個の細胞)をマウスの側方尾静脈に注入し、ガン腫瘍の存在をマウスの全体的な様子および/または組織病理学検査によってメラノーマ細胞注入後14日目で評価した。マウスを3つの群に分けた:A群−1回の注射(フルオレセインアミン−SP1複合体溶液によるiv)(SP1−FAコンジュゲート、PBSにおける10mg/ml;0.1ml/動物)、N=5匹のマウス。B群には、FAが1週において1回与えられた(N=5匹のマウス)。C群は注射を受けなかった(N=2匹のマウス)。注射後24時間で内臓器官を集め、−70℃で保存した。血液を集め、室温で凝固させ、血清を分離し、凍結した。
【0195】
器官および腫瘍を均質化し、抽出し、希釈し(PBSで3倍)、血清を熱処理し(85℃で30分間)、SDS PAGEで分離した。免疫検出のために、分離されたタンパク質をゲルからニトロセルロースペーパーに電気ブロッティングによって転写した。ニトロセルロースブロットを、3%のスキムミルクを含有するTris緩衝化生理的食塩水+0.05%Tween20(pH7.7)(TBST)に浸けることによってブロッキング処理した。スキムミルクをTBSTにより洗浄した後、ニトロセルロースブロットをTBSTにおける一次のウサギ抗SP1抗体に浸けた。一次抗体をTBSTにより洗浄した後、ニトロセルロースブロットをTBSTにおける二次のヤギ抗ウサギ抗体HRPコンジュゲートに浸けた。過剰な二次抗体をTBSTにより洗浄した後、ニトロセルロースブロットをHRP化学発光基質(ECL)と接触させた。
【0196】
写真フィルムを、ラップで包んだニトロセルロースペーパーにさらして感光させ、その後、現像し、固定する。
【0197】
腫瘍サイズに対する遊離DOXおよびSP1−DOXのインビボでの影響
ヒトLS147T結腸ガン(動物一匹あたり100万個の細胞)をCD1ヌードマウス(3週齢〜4週齢、18g〜20g)に皮下移植した(Meyer他、1995、Am J Dermatopath、17:368〜73)。8日後、3mm〜10mmの腫瘍が注入点に現れた。この時点で、動物を2つの群に分けた(それぞれにおいて6匹の動物)。平均腫瘍サイズおよび動物の体重は類似していた。
【0198】
腫瘍移植後8日で、SP1−DOX(PBSにおける50mg/Kg、約1mg/KgのDOX相当量)、遊離DOX(PBSにおける3mg/Kg)またはPBS単独を、それぞれの群における6匹のマウスに、1週間に2回、4週間にわたって尾静脈にiv注射した。腫瘍の大きさを標準的な式(Kalechman他、Int J Cancer、2000、826:281〜8)によってカリパス測定により求めた。腫瘍移植後35日で、動物を屠殺した。腫瘍を取り出し、その重量を測定した。
【0199】
実験結果
(実施例1:)
SP1タンパク質の構造
天然SP1およびその組換え形態の両方のSDSゲル電気泳動分析では、SP1が2つの形態で出現することが示される:サンプルがSDSの存在下でのゲル適用緩衝液において煮沸されるときに現れるモノマー(12.4kDa)、および、SP1がPAGEでの適用に先だって煮沸されないときに現れるオリゴマー形態(116kDaのタンパク質)(Wang他、2002;Dgany、2004;Wang他、2006;米国特許出願第10/443209号を参照のこと)。いくつかの方法を用いて、溶液中のSP1が、150kDaの分子量を有するドデカマーを形成することが明らかにされている。平衡状態での分析超遠心分離を用いて、SP1のオリゴマー状態を分析した。SP1の濃度がゼロに近づくにつれ、溶液におけるSP1粒子の測定された分子量(5.6μMのモノマー濃度において144kDa)が、ドデカマーについて計算された値(148kDa)に近づいた。
【0200】
SP1をMALDI−TOF−MSに供した。データから、12個のタンパク質ピークが明らかにされ、そのうちの最初のピーク(12338Da)はモノマーの予測された分子量(12369Da)に近かった。それ以外のピークは、約12.4kDaの分子間隔で、SP1ダイマーからドデカマーにまで対応した。架橋されたSP1のMALDI−TOF−MS分析では、モノマーからドデカマーまで対応する、12998Daから154706Daにまで及ぶ分子量を有する12個の明瞭なピークが明らかにされた。TSK3000カラムを使用するゲルろ過HPLC分析でもまた、SP1がドデカマーを形成することが示される。このオリゴマー形態はさらに、約9.8分での単一ピークとして現れた電気溶出された高分子量SP1(116kD)について推定された。このピークは、標準曲線から計算されたとき、144.9±1.54kDの分子量に対応した。これはSP1モノマー(12.369kD)の11.7倍(約12ユニット)である。
【0201】
本発明を実施に移していること、SP1の電子顕微鏡研究が着手された。電子顕微鏡観察研究では、SP1が、中心の空洞を伴う環状タンパク質であることが示された。
【0202】
SP1が2次元結晶を形成する条件を明らかにするために、SP1をリン脂質(ヘキサンクロロホルムにおけるDOTAP/DOPC、1:1、w/w)と混合した。図1は、リン脂質により誘導された2次元のSP1結晶単層のTEM像を示し、SP1の2次元結晶を形成することができることを示している。従って、粒子が種々の様式で配列することができ、SP1がより高次の構造に自己集合し得ることを示している。
【0203】
SP1モノマー
X線結晶学研究(Dgany他(2004)を参照のこと)では、SP1鎖が、3つのα−らせん、すなわち、H1(残基23〜39)、H2a(残基74〜81)およびH2b(残基84〜93)を伴うα型およびβ型の折り畳みと、4つの逆平行のβ鎖、すなわち、B3(残基9〜17)、B1(残基45〜50)、B2(残基65〜71)およびB4(残基97〜108)によって形成されるβ−シートとを有することが示された。N末端セグメントは溶媒の方を向き、また、最初の2つの残基について、説明できる電子密度の欠如及びThr−3およびLys−4についての温度因子の大きさによって立証されるように可動性である。残基51〜64によって形成される長いループは大部分が構造化されていない。このループは分子から突き出ており、ダイマー接触に関与する。H1およびH2のらせんにより、数多くの親水性側鎖および酸性側鎖が溶媒の方を向く外側の凸型表面が規定される。
【0204】
この表面の内側および向き合うβ−シートが、芳香族残基および疎水性残基が多い疎水性の中心の空洞を取り囲む。SP1分子におけるフェニルアラニンのほとんどがこの空洞を占める(Phe−17、Phe−46、Phe−67、Phe−71、Phe−89およびPhe−93)。Trp−48およびTyr−33、Tyr−63およびTyr−80、ならびに、2つのヒスチジン(His−11およびHis−65)、および、Arg−100により、空洞への溶媒の接近が阻止される。1つだけの仮説に限定されることを望まないが、本発明者らは、この空洞が小さい疎水性分子のための結合部位として役立ち得ると考えている。
【0205】
SP1の構造が、X線結晶学およびNMRの両方によって解明されるようなそのシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)アナログ(遺伝子座At3g1721050、アクセション番号:AY064673、配列番号150)の構造(Bingman他、Protein、2004、57:218〜20;Lytle他、J Biomol NMR、28:397〜400)に類似することには留意しなければならない。
【0206】
SP1タンパク質の精製が、熱処理による部分的抽出を可能にするその並外れた安定性のために可能である(本明細書中上記の方法を参照のこと)。得られた耐熱性画分は30%純粋である(図6、レーン1およびレーン2)。さらなる精製により、SP1のクロマトグラフィー的に純粋な調製物が得られ、これは逆相HPLCおよびサイズ排除クロマトグラフィーで単一ピークとして検出することができる(図6のレーン3、図7および図30)。
【0207】
SP1ドデカマー
ダイマー・ダイマーの接触は主に親水性側鎖および荷電基を伴うか、または、水分子によって媒介される。これらの接触は主として、B1、H1およびN末端テールに沿って生じる(Dgany(2004)を参照のこと)。ダイマー間の相互作用の結果として、6個のダイマーにより、環状構造が擬6回軸のまわりに作られる。ドデカマーの環状構造は外径が約50Åであり、内径が約15Åである。それぞれのダイマーにおける残基18〜22を含むループが溶媒の方に突き出ており、これに対して、N末端のアームが環状構造の内側部分に向かって伸びている。隣接するダイマーにおける等価な分子の間での接触は同一ではないので(Dgany、2004)、6回対称性が破れる。
【0208】
(実施例2)
SP1は、煮沸および変性に対して安定性を有するプロテアーゼ抵抗性の分子である
SDSの存在下でのSP1複合体の安定性を、精製されたSP1を種々のモル比でのSDSと種々の温度でインキュベーションすることによって調べた。モノマーへのSP1複合体の解離には、ゲルへの負荷の前に煮沸することが付随して、600:1(SDS:SP1モノマー)を超えるモル比が必要であった。煮沸がない場合、3467対1の比率でさえ、SP1はSDS−PAGEで複合体として持続した。80℃以下の温度での1734倍のSDS(1%)とのSP1のインキュベーションは、複合体の著しい解離を引き起こさなかった(Wang、2006)。
【0209】
SP1タンパク質は並外れた熱安定性を示し、そのため、そのような熱安定性により、本明細書中上記の実施例1において述べられたように、熱処理による粗細胞調製物の部分抽出が可能である。図6には、熱処理によって達成された純度が示される。
【0210】
SP1の示差走査熱分析研究では、107℃のTmがSP1について示される。これらの結果はさらに、SP1が煮沸に対して安定性を有するタンパク質であり、また、その高オリゴマー形態は、2%SDSの存在下で煮沸したときにだけ解離するという本発明者らの以前の知見(Dgany、2004)を支持している。さらに、不溶性SP1を含む封入体のフォールディングおよびリフォールディング、ならびに、アンフォールディングされた変性タンパク質の熱安定性は、無傷のモノマーが、オリゴマーと同様に、耐熱性があることを示している(図5)。
【0211】
SP1は、そのモノマー形態(0.5%SDSにおいて煮沸されたとき、または、溶解された封入体)に解離したとき、V8プロテアーゼまたはズブチリシン(アルカラーゼ、Novo Industries)による消化を受けやすい。しかしながら、V8プロテアーゼは無傷のオリゴマーを消化することができなかった(図5を参照のこと)。オリゴマー−プロテアーゼの混合物をSDSサンプル緩衝液においてさらに煮沸したとき、SP1モノマーのみがゲル上に観察され、ペプチドフラグメントは検出されなかった。同じ混合物を、煮沸することなく、SDS−PAGE分析に供したとき、無傷の複合体が観察された。類似する結果が、トリプシンおよびプロテイナーゼKおよびズブチリシンを用いて得られた。これは、広範囲の様々なプロテアーゼに対するSP1複合体の優れた抵抗性を示している(Wang、2002;Wang、2006)。従って、正しく折り畳まれたSP1タンパク質はプロテアーゼ抵抗性があるが、アンフォールディングされた変性タンパク質はプロテアーゼに対して感受性があり、プロテアーゼおよび熱処理によって除くことができる(図5)。
【0212】
SP1およびSP1オリゴマー複合体の安定性をさらに調べるために、野生型SP1およびSP1変異体のCys2 SP1を緩衝液に溶解し、有機溶媒のメタノールおよびヘキサンにさらし、SDS−PAGEによって分析した(図18)。主に高分子量のオリゴマー複合体形態が、処理されたすべてのサンプルで検出された(図18、レーン1〜レーン3)。これは、SP1複合体が、有機溶媒による変性に対して抵抗性があることを示している。
【0213】
従って、SP1複合体は、温度および界面活性剤による変性、有機溶媒、ならびに、タンパク質分解的分解に対する驚くほど強い抵抗性を示す。
【0214】
(実施例3)
SP1変異体
SP1変異体を、オリゴマー化および/または結合および/または他の分子との複合体化のための能力、ならびに/あるいは、サブユニット間のジスルフィド結合を形成する能力、および/または、中心の空洞の大きさを変化させる能力を高めるために、あるいは、そうでない場合には、SP1の安定性を変化させるために構築することができる。数多くのSP1変異体タンパク質を、SP1の性質に対する特定の変化の影響を調べるために構築した。
【0215】
N末端セグメントは溶媒の方に向き、外見的にはタンパク質の折り畳みおよび安定性に関与していない。従って、N末端の変異はタンパク質の構造またはその安定性を変化させないことが予測された。この予測と一致して、N末端全体の欠失を有する変異体タンパク質(Δ2−6)を含むN末端変異体のすべてが安定な複合体に会合した(図3)。さらには、驚くべきことに、腫瘍認識ペプチドのCRGD(配列番号5)およびRGDC(配列番号6)ならびにRGDループ(配列番号10)がSP1のN末端に挿入されたとき、融合タンパク質は、煮沸に対して安定性を有するプロテアーゼ抵抗性のドデカマーを形成したことが発見された(図4)。
【0216】
N末端の局在性を確認するために、システイン残基をSP1の2位に挿入した(Cys2変異体、配列番号3)(野生型SP1はCys残基を全く含有しない)。このCys2変異体のSDS PAGE分析では、Cys2変異体が複合体内で分子間ジスルフィド結合を容易に形成することが示される。Cys2挿入の特異性を確認するために、本発明者らは、中心の空洞に向かってこれらもまた露出するループ2(40〜44)(配列番号18)およびループ4(72〜73)(配列番号20)の両方に位置する2つのシステイン残基を置換した。表1は、Cys2 SP1変異体とは対照的に、これらの変異体タンパク質はジスルフィド結合を(類似する条件のもとで)形成することができないことを示す。いくつかの組換えSP1変異体は可溶性タンパク質を発現時に形成することができず、封入体(IB)を形成することに留意しなければならない。しかしながら、これらの封入体は0.5Mの尿素によりアンフォールディングされ、透析によってリフォールディングされ得ることが発見された。
【0217】
X線結晶学研究(Dgany他(2004)を参照のこと)では、多くの推定されるモノマー・モノマー相互作用およびダイマー・ダイマー相互作用が複合体を安定化させることが示された。従って、1つのアミノ酸置換がタンパク質を劇的に脱安定化させるとは考えられない。部位特異的変異誘発を、ダイマー・ダイマー相互作用およびモノマー・モノマー相互作用の脱安定化のための最も重要な残基を見出すために行った。本明細書中上記の表1は、ほとんどの置換がタンパク質を脱安定化させなかったことを示す。しかしながら、I30A(配列番号14)、N31A/T34A(配列番号30)、F106A(配列番号23)およびY108A(配列番号24)の残基(これらは表1では強調される)(これらの残基はタンパク質の3次元構造において互いに非常に接近している)が、タンパク質の安定化に関与するホットスポットとして特定された。
【0218】
ループ1(残基18〜22)(配列番号6)およびL81C(配列番号22)は、リングの外周に向かって露出しており、タンパク質・タンパク質相互作用、ならびに、他の分子または表面との相互作用に関与する特定のペプチドの多重提示のための良好な候補である。
【0219】
N末端の変性はタンパク質の構造または安定性(例えば、ダイマー形成)に影響を及ぼさなかったが、これらの変性は、SP1変異体の結合特性および複合体化特性(例えば、金属および金属会合粒子との複合体形成、ならびに、レドックス依存的な小分子複合体形成など)における変化を生じさせるための機会を提供した(表1の「N末端の変異」を参照のこと)。
【0220】
いくつかのループ2変性(Δ2−6I40Cを参照のこと)を、分子の抵抗性を著しく変化させることなく、中心の空洞におけるチオール基を介した金ナノ粒子の結合のために使用することができる(表1)。
【0221】
従って、1つだけの仮定に限定されることは望まないが、本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、特異的な変化した性質を有するSP1分子をもたらすSP1分子の変性の位置およびタイプを発見したと考えている。
【0222】
SP1変異体はヘテロダイマーに集合することができる
種々の変異体SP1モノマーが自己集合して、機能的なオリゴマー複合体を形成することができるかどうかを明らかにするために、変異体の間でのヘテロダイマー形成を調べた。
【0223】
ヘテロダイマーを作製するために、SP1のモノマー形態を、2つの方法によって、すなわち、SDS PAGEからの電気溶出、および、封入体を溶解することによって単離した。
【0224】
SP1変異体のCys2loop1RGdが組換え細菌において発現させられるとき、組換えタンパク質が不溶性のタンパク質性封入体に見出される。SP1変異体Cys2loop1RGdの封入体を5M尿素によって可溶化することにより、可溶性モノマーの放出がもたらされ(図5aのレーン1〜レーン4を参照のこと)、この可溶性モノマーは高オリゴマー形態に自発的に再集合することができる(図5b、レーン1〜レーン4)。
【0225】
SP1がヘテロオリゴマー複合体に集合することができることはまた、類似した方法を使用して明らかにされた。2つの変異体組換えSP1ポリペプチドを発現させた(6個のヒスチジンのN末端タグ化SP1(6His2、配列番号7)およびN末端欠失SP1(ΔNSP1、配列番号2))。これら2つのSP1変異体のモノマーを、2つのSP1変異体をSDSの存在下で煮沸し、調製用SDS−PAGEで分離することによって作製した(図3、レーン2およびレーン3)。ゲルから電気溶出されたモノマーを混合して、ヘテロオリゴマーの形成を容易にした(図3、レーン4およびレーン5)。自己集合したヘテロ複合体におけるこれら2つのSP1変異体の存在を確認するために、同時に電気溶出されたタンパク質混合物をさらに、ニッケル親和性カラム精製に供した(図3、レーン6およびレーン7)。ヒスチジンタグ化タンパク質およびその会合タンパク質のみが単離された。SDS−PAGE分析では、6HSP1複合体がSP1の2つの変異体を含有することが示された(図3のレーン5およびレーン7を参照のこと)。ヘテロオリゴマーの集合が、最終的には、プロテイナーゼK消化を使用してモノマー形態を除くことによって確認された(オリゴマー形態のみがPK消化に対する耐性を有する)(図4、レーン8およびレーン9)。
【0226】
これらの結果から、2つのSP1変異体のモノマーが実際に、ヘテロオリゴマー複合体形態に自己集合する能力を保持し得ることが明瞭に示される。
【0227】
(実施例4)
SP1変異体の結合特性
SP1変異体の結合特性を明らかにするために、また、SP1および変異体が、それらに複合体化された分子を安定化させる能力を調べるために、野生型SP1および変異体SP1を様々な生物学的に活性な薬剤にさらし、得られた複合体を、複合体化された薬剤の活性、安定性および生物学的利用能について調べた。
【0228】
Cys2−SP1変異体
SP1に対する薬剤の複合体化を変性および制御する能力を明らかにするために、Cys2 SP1変異体は、SP1の2位に挿入されたシステイン残基(野生型SP1はCys残基を全く含有しない)を、中心の空洞に面するN末端に有する(Cys2変異体)。Cys2変異体(これはサンプル適用緩衝液と混合され、2%β−メルカプトエタノールの存在下または非存在下での10分間の煮沸に供された)のSDS PAGE分析では、Cys2 SP1変異体がジスルフィド結合を形成することが示される(図8b)。還元されたCys2 SP1変異体(これは10mMのDTTにより処理された)は、還元剤を除いたとき、容易に酸化される(図8b)。Cys−2 SP1におけるジスルフィド結合の特異性がさらに、Cys−2 SP1が、遊離スルフヒドリルに特異的な試薬(例えば、5,5’−ジチオ−ビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNBまたはエルマン試薬)およびフルオレセインマレイミドなど)と反応しないことによって証明される(データ示さず)。
【0229】
従って、Cys2 SP1変異体のモノマーにおける反応性スルフィドの利用能をレドックス条件における変化によって制御することができる。薬剤および他のリガンドとの複合体形成に対するレドックス依存的な変化の影響を明らかにするために、Cys2 SP1がそのような薬剤と複合体化する動力学を調べた。図8には、レドックス依存的なリガンド複合体化およびリガンド放出についての1つの可能なモデルが示される。1つの仮定に限定されることは望まないが、還元剤(例えば、グルタチオンの還元型形態(GSH)、DTTまたはβ−メルカプトエタノールなど)はジスルフィド結合を切断することができ、Cys2−SP1をリガンドとの複合体のために利用可能にすることが提案される。複合体化したリガンドは酸化によって結合することができ、還元されたときには解離することができる(図18bおよび下記)。これは特に重要である。なぜなら、固形腫瘍は低酸素によって特徴付けられ、また、細胞の還元性等価体を多量に蓄積するからである(Kim、2003)。さらに、高いGSH濃度が薬物抵抗性に関与することが示唆された。従って、図8bおよび図8cに例示されるように、酸化のもとでCys2−SP1と複合体化した治療薬または他の薬剤を、それらが標的部位に到達するまで、SP1変異体によって安定化させ、輸送することができ、それらが標的部位に到達したとき、還元性等価体により、薬剤の放出が高められる。
【0230】
Cys2 Sp1変異体による薬剤およびリガンドの制御された複合体化および放出を、水溶性マーカーリガンドとしてのフルオレセインアミン蛍光団(FA)の複合体化、ならびに、水溶性治療薬および水不溶性治療薬についてのモデルとしてのそれぞれ、ドキソルビシン(DOX)およびパクリタキセル(PTX)の複合体化を使用して調べた。限外ろ過、サイズ排除クロマトグラフィーおよび逆相HPLC分析(本明細書中上記の方法を参照のこと)を使用して、薬剤−SP1変異体の複合体化および放出を下記の検討事項に関して明らかにした:
1.野生型と比較した場合の、Cys2 SP1変異体によるリガンド複合体化の効率。
2.タンパク質の還元は、野生型SP1の複合体化ではなく、Cys2 SP1変異体によるリガンド複合体形成を増大させることができるか。
3.Cys2 SP1変異体の酸化は、リガンドを添加する前では、リガンドの複合体化を打ち消すことができるか。
4.Cys2 SP1−リガンド複合体の還元はリガンドの解離を増大させることができるか。
5.複合体化したリガンドをCys2 SP1との会合によって安定化させることができるか。
【0231】
フルオレセインアミン(FA)
FAの吸収ピークは、490nm、および、はるかにより低い程度ではあるが、278nmにある(所与のFA濃度について、OD278/OD490=0.19)(図31を参照のこと)。一方、SP1の吸収ピークは278nmにあり(図30を参照のこと)、SP1は490nmでは検出されない。Cys2 SP1は吸収ピークを225nmおよび278nmに有する(図32を参照のこと)。FAがCys2 Sp1変異体と複合体化することが、FAおよびCys2 SP1変異体をGSHの非存在下または存在下でインキュベーションし、続いて、タンパク質の酸化、限外ろ過(30kDaのカットオフ)、および、保持画分のGSH含有PBSまたはGSH非含有PBSによる徹底的な洗浄の後で明らかにされた。278nmおよび490nmの両方での吸収分析(図9)では、GSHによるタンパク質の還元はFAおよびCys2 SP1の複合体化を増大させること、また、FA−Cys2 SP1複合体の還元はFAの解離を増大させることが示される。
【0232】
サイズ排除クロマトグラフィー(本明細書中上記の方法を参照のこと)を使用して、Cys SP1変異体および野生型SP1とのレドックス依存的なFA複合体化を比較した。図10は、野生型SP1が還元剤の存在下または非存在下でFAマーカーとの複合体をほとんど形成しないことを示す。対照的に、Cys2 SP1変異体は、還元剤の存在下で、3倍を超える効率でFAマーカーと複合体化する(図10)。
【0233】
Cys2 SP1とのFA複合体化の優れた制御が図11に示される。低いリガンド濃度(10μM)において、識別可能なFA複合体化が野生型SP1については検出されず、これに対して、Cys2 SP1変異体は効率的な複合体化を示した。より大きい濃度(100μM以上)において、Cys2 SP1変異体は、野生型SP1の効率の3倍を超える効率でFAマーカーと複合体形成する。これらの結果から、Cys2 SP1変異体は、野生型と比較して、リガンドおよび薬剤と効率的に複合体化することができること、また、タンパク質の還元は、野生型SP1ではなく、Cys2 SP1変異体によるリガンド複合体形成を増大させることが示される。
【0234】
SP1の複合体形成および共有結合性変性
小分子とともにSPの化学的変性は、2つのタイプの新しい複合体の作製を可能にする。小分子は、分子的会合のための新しい部位をもたらすことによって、タンパク質との共有結合性の結合、または、非共有結合性の結合をもたらすことができる。
【0235】
カルボン酸残基修飾試薬の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)を共有結合性の反応基として使用してSP1と複合体化するフルレオセインアミンを用いて、これが示された(表5、本明細書中下記)。天然SP1と類似して、SP1−FA複合体は高い温度に対して抵抗性がある。非共有結合的に結合したFAが、SDSの存在下で煮沸したときにだけ、タンパク質から解離する。表5は、SP1と結合したFAの蛍光強度に対する熱処理およびプロテアーゼ処理の影響を示しており、フルオレセインアミンの約80%が非共有結合性の会合によってタンパク質と会合することが示される。複合体化したSP1−FAは野生型SP1の特徴的な熱安定性およびプロテアーゼ抵抗性を保持することもまた示される。
【0236】
【0237】
ドキソルビシン(DOX)
アントラサイクリン系抗生物質のドキソルビシンは最も有用な抗新生物剤の1つであり、血液学的悪性腫瘍だけでなく、いくつかの固形腫瘍に対して活性がある。ドキソルビシンは、様々な新生物状態(例えば、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、ウィルムス腫瘍、神経芽細胞腫、軟組織および骨の肉腫、乳ガン、卵巣ガン、移行細胞膀胱ガン、甲状腺ガン、胃ガン、ホジキン病、悪性リンパ腫および気管支原性ガンなど)を治療するために使用される。さらに、ドキソルビシンの多くのコロイド状キャリア(例えば、リポソームおよびポリマーナノ粒子など)が、心臓毒性を軽減すること、および、治療的効力を改善することを目指して研究されている。
【0238】
SP1がDOXとの複合体を形成することができることを明らかにするために、両方のSP1ならびにSP1−DOX複合体(保持画分における)および遊離DOX(流出画分における)の濃度を477nmおよび278nmの両方で分光光学的に求めた。DOXは特異な光学的性質を有しており、その吸収ピークが、477nm、および、より低い程度ではあるが、278nmにあり(所与のDOX濃度について、OD278/DO477=0.77)(図29を参照のこと)、一方、SP1の吸収ピークは278nmにあり、SP1は477nmでは検出されない(図30および図32)。
【0239】
野生型SP1およびCys2 SP1変異体を、限外ろ過によって明らかにされるように、DTTの存在下および非存在下でDOXと複合体化するその能力について調べた。図12は、DOXが、DTTにより処理された野生型SP1よりもはるかに大きな程度に、DDTにより還元されたCys2 SP1変異体との複合体を形成すること、および、DTTにさらされたとき、Cys2 SP1変異体によるDOX複合体が大きく高まることを示す。DTTの代わりに、グルタチオン(還元型形態)による還元は、Cys2 SP1変異体によるDOX複合体化を改善する(データ示さず)。
【0240】
Cys2 SP1の化学的環境のレドックス状態の他の操作がDOX複合体化のさらなる制御をもたらしたかどうかを明らかにするために、酸化剤の存在下または非存在下での野生型SP1およびCys2変異体SP1に対するDOX複合体化を評価した。図14は、Cys2 SP1変異体をDOX添加前に酸化することにより、DOXの複合体化が打ち消されることを明瞭に示す。従って、1つだけの仮定に限定されることは望まないが、DOX−Cys2 SP1変異体の複合体形成の酸化依存的な阻害により、Cys2 SP1変異体におけるジスルフィド結合の還元がDOX複合体形成を促進させることが示され得る。
【0241】
Cys2 SP1−DOX複合体化の特徴をさらに明らかにするために、DOXとのCys2 SP1複合体形成をサイズ排除クロマトグラフィーによって475nmおよび278nmの両方で求めた。図13は、Cys2 SP1−DOXのピークが7分で溶出し、278nmおよび475nmの両方で検出されることを示す。PBSによる徹底的な洗浄は、還元剤が添加されていないとき(図13、GSHなし)、Cys2 SP1−DOX複合体を破壊しない。しかしながら、還元剤(GSH)の添加は、Cys2 SP1タンパク質のピーク(278nm)の何らかの欠損を伴うことなく、DOXピーク(475nm)の欠損をもたらす。1つだけの仮定によって限定されることは望まないが、これは、DOXが大きい親和性をSP1複合体に対して示し、(低い遊離リガンド濃度において)徹底的な洗浄のときにだけ、複合体から解離させられることを意味すると理解することができる。DOXがSP1に強固に結合するという証拠はまた、DOXが(酸化状態下における)室温での7日間のインキュベーションの後でもSP1−DOX複合体から解離しないという観察結果によって提供された(データ示さず)。SP1−DOX複合体が、エタノール沈殿の後でさえ、無傷のままであることには留意しなければならない(図35を参照のこと)。これは、複合体の安定性が大きいこと、ならびに、遊離DOXの除去および複合体化したSP1−DOXの精製が容易であることを示している。
【0242】
逆相HPLC分析によるCys2 SP1−DOX複合体の分析を、結合した化学種を異なるアセトニトリル濃度で樹脂(C−18、Pharmacia−Biotech、Uppsala、スウェーデン)から溶出し、吸収を477nmおよび278nmの両方で測定することによって達成することができる。Cys2 SP1とDOXとの複合体化に対するレドックス状態のさらなる操作の影響を調べるために、野生型SP1およびCys2 SP1変異体を、還元状態(GSH、還元されたタンパク質)または酸化状態(過酸化物、酸化されたタンパク質)のもとでDOXと複合体化するそれらの能力について調べた。図14は、酸化されたCys2 SP1変異体ではなく、還元されたCys2 SP1変異体がDOXとの複合体を形成すること、また、複合体が、野生型SP1と、DOXとの間では形成されないことを示す。
【0243】
図14はさらに、遊離の複合体化していないDOXが特定の条件のもとではSP1タンパク質との会合状態で見出され得ることを示す。サンプルはカラムへの適用の前に限外ろ過によって徹底的に洗浄されたが、遊離DOXの著しい割合が、還元(DTT処理)されたCys2 SP1サンプルでは認められる。これは、一部のDOXがCys2 SP1と会合したままであることを示しており、そのようなDOXは、過酷な条件(75%アセトニトリル+0.1%TFA)にさらされたときにタンパク質から解離させることができる。
【0244】
Cys2 SP1変異体とのDOXの会合を、SDS PAGE分析および蛍光画像化によってさらに調べた。図15は、DOXが、過酷な(還元および煮沸)条件のもとでさえ、Cys2 SP1のすべての形態(116kDaの複合体、12.4kDaのモノマーおよび24.8kDaのダイマー)と会合したままであることを示す。さらに、還元剤の存在下または非存在下で検出された遊離DOXの比較(図15、レーン2およびレーン4)では、複合体の還元が、Cys2 SP1−DOX複合体から放出されるDOXを刺激することが示される。このゲルにおけるバンドの相対的な強度は、おそらくは自己消光現象のために、DOXの絶対量を必ずしも反映しないことは特筆される。さらなるSDS PAGE分析では、Cys2 SP1−DOX複合体は、プロテアーゼ処理(レーン1〜レーン3、レーン5)、熱処理(85℃/30分)(図16、レーン1〜レーン4)、および、血清中でのインキュベーション(37℃/24時間)(図16、レーン1およびレーン2)に対して抵抗性があることが発見された。過酷な条件における解離に対するCys2 SP1−DOX複合体の優れた抵抗性は、SP1−薬物複合体の貯蔵、精製、インビボ寿命および他の使用のために重要である。
【0245】
パクリタキセル(タキソール、PTX)
臨床使用における1つの共通する問題が、多くの薬物の不良な溶解性である。Dgany他(Dgany、2004)によって示されるように、SP1についてのX線結晶学データから、H1およびH2のらせんが、数多くの親水性側鎖および酸性側鎖が溶媒の方を向く外側の凸側表面を規定することが予測される。この表面の内側および向き合うβ−シートが、芳香族残基および疎水性残基が多い疎水性の中心の空洞を取り囲む。これにより、小さい疎水性分子の可溶化が達成されるかどうかを明らかにするために、SP1をパクリタキセルと複合体化させた。
【0246】
ジテルペノイド誘導体のパクリタキセルは幅広い抗新生物活性(卵巣ガン、乳ガン、非小細胞肺ガン、AIDS関連カポジ肉腫)を有し、また、チューブリンから微小管への重合および安定化を促進する特異な作用機構を有する。パクリタキセルを使用することの大きな臨床上の問題の1つが、その極めて大きい疎水性のために、水におけるその溶解性が非常に低いことである。パクリタキセルの溶解性を高めるために、50:50のCremophor EL(CrEL、ポリオキシエチル化ひまし油)およびエタノールの混合物が現在の臨床配合では使用されるが、重篤な副作用が、治療された患者の25%〜30%については伴う。
【0247】
これらの問題を回避するために、多大の努力が、高まった循環時間を有する、Cremophorを含まない新しい全身用のパクリタキセル配合物を開発することに向けられている。しかしながら、現在の配合物はどれもこれらの問題を克服していない。
【0248】
SP1複合体の有機溶媒中での安定性を明らかにするために、SP1およびCys2 SP1変異体(配列番号3)を有機溶媒に溶解し、乾燥し、水性溶媒により再構成し、SDS−PAGEで分離した。図18は、高分子量のオリゴマー複合体が水性溶媒(リン酸ナトリウム、レーン1およびレーン4)および有機溶媒(レーン2、レーン3、レーン5およびレーン6)の両方において持続することを示す。さらに、ヘキサン処理されたSP1またはCys2 SP1変異体はプロテアーゼ処理に対して抵抗性がある(データ示さず)。
【0249】
次に、難溶性のPTXを、凍結乾燥されたSP1と、還元剤の存在下、有機溶媒中で混合した。有機溶媒をエバポレーションした後、PTX−SP1複合体を水性溶媒における溶解性について調べた。図19には、遊離PTX(DMSO中)および複合体化されていないSP1と比較したとき、SP1−PTXの高まった溶解性のRP HPLC分析が示される。このHPLC結果は水におけるPTXの難溶性(マゼンタ色)を強調しており、SP1−PTX複合体(赤色)がSP1およびPTXのピークとして(それぞれ、15.8分および17.4分で)現れている。SP1−PTX複合体の(30kDaの分子量カットオフメンブランによる)限外ろ過は、複合体化したPTXがメンブランの上に保持されることを示す。これはSP1との強い複合体化を示している。
【0250】
PTXは特有の吸収スペクトルを有しておらず、結合したPTXを検出することができない。PTXは、高いアセトニトリル濃度の存在下でSP1−PTX複合体から解離し、従って、遊離PTXと同じ溶出において検出することができる。すべてのPTXがカラム上のSP1−PTX複合体から溶出されることを明らかにするために、PTXを、80%エタノールを使用して複合体から抽出し(図20)、SP1タンパク質を沈殿させた。図20は、すべてのPTXが、(類似する条件のもとで沈殿するSP1−DOX複合体とは対照的に)溶液中に回収され得ることを示す。より低いエタノール濃度において、PTXと同様に抽出することができ、これから、複合体化したSP1−PTXおよび遊離PTXの限外ろ過による分離が可能である(図20および図21、下段のプロット)。
【0251】
難溶性分子とのCys2 SP1変異体の複合体形成の効力、および、PTX−Cys2 SP1変異体複合体の形成に対する還元状態の影響を明らかにするために、PTXを、エタノールの増大する濃度において、10mMのGSHの存在下または非存在下でCys2 SP1変異体−PTX複合体から抽出した。図21は、還元剤がPTX抽出をより低いエタノール濃度で誘導することを示す。複合体形成に対する還元の影響もまた調べた。図22は、還元剤β−ME(12mM)の存在はCys2 SP1−PTX複合体形成を著しく高めることを示す。予想外ではあったが、Cys2 SP1と会合したPTXが還元剤の非存在下で検出されるが、そのような会合したPTXはろ過によって除かれた。
【0252】
これらの結果から、SP1およびSP1変異体が、水性溶媒だけでなく、有機溶媒において、安定なオリゴマー複合体を形成すること、また、SP1およびSP1変異体は難溶性分子との複合体を形成することができること、また、難溶性分子(例えば、PTXなど)の溶解性がSP1およびSP1変異体との会合によって著しく高められることが明瞭に示される。SP1のそのような可溶化能は、SP1およびSP1変異体の臨床的適用および他の適用のために、例えば、薬物送達のために非常に重要である。
【0253】
ビンブラスチン
ビンブラスチンはビンカアルカロイドであり、ホジキン病、リンパ性リンパ腫、組織球性リンパ腫、進行性精巣ガン、進行性乳ガン、カポジ肉腫を治療するために主に有用である。SP1に対するビンブラスチンの結合を内因性トリプトファンの蛍光測定によって求めた。
【0254】
SP1は1個のトリプトファン残基(Trp48)を有するだけである。Trp48の最大励起波長および最大放射波長はそれぞれ、286nmおよび321nmである。6MのグアニジニウムHClにおけるタンパク質のアンフォールディングのとき、最大放射波長が321nmから340nmに変化する。図23は、ビンブラスチンとのSP1の会合が、赤方移動が付随した蛍光の消光を引き起こしたことを示す(80μMのビンブラスチンを加えたとき、その最大放射波長が356nmに変化する)。アンフォールディングされた変性タンパク質の蛍光はまた、ビンブラスチンによっても消光され(図23)、しかし、天然タンパク質とは異なり、それには、赤方移動が付随しない。従って、折り畳まれたSP1−ビンブラスチンの会合をその内因性トリプトファンの蛍光における変化によって検出および定量することができる。
【0255】
(実施例5)
SP1会合薬物の高まった生物学的活性
薬物送達剤または薬物送達キャリアとしてのSP1の効力を評価するために、SP1およびSP1変異体と複合体化された薬物分子の生物学的活性を求めた。従って、SP1と複合体化された薬物分子およびマーカー分子を新生物成長のインビトロモデルおよび動物モデルにおいて調べた。
【0256】
結腸直腸ガン細胞株におけるSP1−DOX
ヒト結腸直腸腺ガン細胞株のHT−29を使用して、SP1−DOX複合体の生物学的活性を、遊離薬物および複合体化されていないSP1タンパク質の生物学的活性と比較して評価した。遊離ドキソルビシンおよびSP1−DOX複合体(これは限外ろ過またはエタノール沈殿のいずれかによって調製された)についての50%阻害濃度(IC50)(これは、細胞成長の50%を阻害した化合物の用量として定義される)は類似しており(図24a、0.6ug/ml)、一方、複合体化されていないタンパク質は不活性であった。従って、SP1−DOX複合体は、遊離DOXと少なくとも同じくらいに生物学的に活性がある。
【0257】
遊離PTX(DMSO中)およびSP1−PTX複合体についてのIC50値を比較したとき、両方の調製物についての値は類似しており(0.01ug/ml、図25)、一方、負荷されていないタンパク質(これはPTX−SP1と並行して調製された)は不活性であった(図25)。しかしながら、SP1−PTX複合体は、水溶液における少なくとも3週間の貯蔵(すなわち、遊離PTXが不活性になる条件)の後でさえ、生物学的に活性のままであった。従って、SP1とのPTXの複合体化は、薬物の生物学的活性の安定性を明らかに増大させる。
【0258】
SP1−PTXの細胞毒性がSP1の膜横断輸送に関連するかどうかを明らかにするために、細胞を、10倍過剰な複合体化されていないSP1とともに、遊離PTXおよびSP1複合体化PTXの両方にさらした。競合がいずれの場合においても何ら認められなかった(データ示さず)。1つだけの仮定によって限定されることは望まないが、競合がないことから、細胞によるSP1−薬物複合体の取り込みが非常に速いこと、または、薬物が細胞外で複合体から解離し、その細胞毒性作用を複合体化されていない様式で発揮することのいずれかが示され得ることが強調される。後者の説明には、高い細胞外GSH濃度、これにより、そのすぐ後に続く細胞環境のレドックス状態が影響を受けることが関連し得る。
【0259】
インビボにおけるSP1の生体分布
投与されたSP1複合体化分子の循環からの腫瘍での蓄積速度およびクリアランスを追跡するために、フルオレセインおよびSP1−フルオレセイン複合体を、B16−F10(B16)メラノーマ腫瘍を有するC57B1のオスのマウスに注射した。SP1−フルオレセインの注射後24時間で、マウスから採血し、動物を屠殺し、腫瘍を取り出し、緩衝液中で均質化し、組織抽出物を熱処理して、非特異的なタンパク質を除いた。標的組織におけるSP1−FA複合体の蓄積を検出するために、サンプルを、SDS−PAGE分析、および、抗SP1抗体による免疫ブロット検出に供した。図26は、注射されたSP1複合体の約2%〜5%が腫瘍に見出され、注射されたSP1複合体の約3%〜15%が注射後24時間で循環に留まったままであり、一方、遊離フルオレセインアミンは迅速に排出されることを示す。
【0260】
野生型マウスへのSP1の反復した注射を、SP1が何らかの著しい免疫学的応答または毒性を誘導しないことを明らかにするために行った。35mg/KgのSP1またはPBSコントロールを、C57B1のオスのマウスに、0日目、9日目、16日目、23日目、37日目および53日目にiv(尾静脈)注射した(SP1群およびPBS群においてそれぞれ、6匹および5匹の動物)。最初の注射の後の55日で、動物を屠殺し、その肝臓を組織病理学分析に供した。6匹中4匹のSP1処置動物は、55日まで実験中を通して何らかの病理学的応答を示さなかった。組織病理学分析では、両群からのすべての動物の肝臓が正常そうであったことが明らかにされた。6匹中2匹の動物が原因不明で17日後に死亡した。5匹中5匹のPBS処置動物もまた、実験期間中を通して病理学的応答を何ら示さなかった。肝臓の組織学的検査では、病変の何らかの徴候は示されなかった。
【0261】
SP1の免疫原性の程度を明らかにするために、PBS処置動物およびSP1処置動物の両方における抗SP1抗体の産生を、直接に免疫化されたSP1抗体またはウサギ抗SP1抗体のいずれかを使用して、ELISAを使用して検出した(二次抗体はHRPコンジュゲート化抗マウスIgGであった)。PBS処置動物およびSP1処置動物の両方から得られた血清は無視できるほどの抗SP1抗体反応を有し、これら2つの群の間には差がなかった。ウサギ抗SP1は、たとえ動物がSP1複合体に対して免疫化されたとしても、SP1オリゴマー複合体よりも著しく良好にモノマーと反応することに留意しなければならない。
【0262】
従って、これらの結果から、SP1の生体分布がキャリア適用および薬物送達適用のために極めて良く適すること、ならびに、インビボにおけるSP1タンパク質の驚くほど非毒性および非免疫原性の性質が明瞭に示される。
【0263】
SP1−薬物複合体のインビボ抗腫瘍活性
DOXの抗腫瘍活性に対するSP1複合体化の影響を、CD1ヌードマウスにおけるLS147(ヒト結腸ガン)モデル(Meyer、1995)を使用してインビボで明らかにした。SP1−DOX複合体または遊離DOX(それぞれ、0.5mg/kgおよび3mg/kgのDOX、1週間に2回の尾静脈へのiv)を受けている動物の腫瘍成長速度を比較した(図27aおよび図27b)。遊離DOXのこの用量(3mg/Kg)はマウスにおける最大耐量に匹敵する。腫瘍移植後35日で、動物を屠殺し、腫瘍を取り出し、その重量を記録した(図27aおよび図27b)。体重減少はDOXの共通する副作用であるので、動物の体重もまた測定した(図28aおよび図28b)。
【0264】
遊離DOXの用量はSP1−DOX複合体の用量よりも6倍大きかったが、SP1−DOX複合体による腫瘍成長の阻害が、遊離DOXよりも6倍低い濃度でさえ、比較可能なほどに著しかった。両方の場合において、実験終了時での平均腫瘍サイズはPBS処置動物での場合よりもはるかに小さかった。そのうえ、腫瘍の組織学的検査では、広範囲の壊死が、DOXにより処置された動物およびSP1−DOX複合体により処置された動物において示された。
【0265】
しかしながら、DOXにより処置された動物は、16%を超える体重減少において現れた重篤な副作用に悩まされた。驚くべきことに、SP1−DOX複合体により処置された動物は体重減少を何ら示さなかった。
【0266】
従って、本明細書中上記においてもたらされた結果から、薬物をSP1と複合体化することにより、薬物の有効性の様々な重要な側面(例えば、溶液における溶解性および安定性など)が高められ、また、投薬量および望ましくない副作用における軽減が、有効性を同時に低下させることなく可能であり得ることが明瞭に示される。
【0267】
(実施例6)
遊離分子およびSP1複合体化分子のRP−HPLCおよびサイズ排除HPLCのプロフィル
逆相(RP)HPLCおよびサイズ排除HPLCを、SP1およびSP1変異体と複合体化している分子(例えば、DOX、PXTおよびFAなど)を検出および定量するために使用した。
【0268】
サイズ排除クロマトグラフィーは、異なるサイズの分子を穏和な条件のもとで分離するための一般的な方法であり、SP1と複合体化しているFAおよびDOXを穏和な条件のもとで調べるために用いた。SP1が7分後にカラムから溶出され、278nmにおいて検出されるだけであり(図30)、遊離FAが16分後にカラムから溶出され、490nmにおいて検出される(図31)。SP1−FA複合体およびSP1−DOX複合体もまた、同じ時間で溶出されたが、490nmおよび475nmにおいてそれぞれ検出された(図29および図31)。図32は、278nmにおけるサイズ排除クロマトグラフィーでの典型的なSP1標準曲線を示す。SP1が7分後にカラム(TSK G3000SWXL、Tosohaas)から溶出され、278nmにおいて検出されるだけである。図31は、490nmにおけるFA標準物プロフィルのサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。区別可能なピークでカラムから溶出される遊離FAとは対照的に、DOXは区別可能なピークで溶出されない(図29)。DOXの標準曲線は吸収ピークを477nmにおいて示すが、これは実際には検出に利用できない。DOX/SP1の比率を溶液におけるそれらの標準曲線から求めることができる。
【0269】
逆相HPLC(RP−HPLC)分析でもまた、遊離リガンドおよびSP1が分離される(図10、図11、図13を参照のこと)。この方法を使用して、ドキソルビシンおよび水不溶性薬物のパクリタキセル(PTX)の複合体化を調べた。この場合、両方の複合体化された化合物が樹脂(C−18)に結合し、異なるアセトニトリル濃度で溶出された。図32は、(278nmおよび225nmの両方で測定された)Cys2 SP1の標準物プロフィルを示す。図33は、(477nmで測定された)DOXの標準物プロフィルを示す。図34は、(225nmで測定された)PTXの標準物プロフィルを示す。
【0270】
サイズ排除クロマトグラフィーを使用する結果と類似して、SP1−DOX複合体もまた、負荷されていないSP1と同じ時間で溶出され、278nmだけでなく、477nmでもまた検出される。複合体化していないSP1はこの波長で光を吸収しないので、SP1結合DOXならびに遊離DOXの定量を477nmでのそれらのピークにおける吸光度から直接に計算することができる。278nmでのSP1−DOXのピークにおけるタンパク質の量の推定は、下記の式に従って、278nmでのDOXの吸収について補正することができる:(OD278−0.77*OD477)。FAおよびDOXとは対照的に、PTXは特有の吸収特性を示さず、複合体化したPTXを検出することができない。明らかに、PTXは高いアセトニトリル濃度の存在下でSP1−PTX複合体から解離し、従って、遊離PTXと同じ溶出において検出することができる。
【0271】
明確にするため別個の実施態様で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施態様に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施態様で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0272】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。本願で挙げた刊行物、特許および特許願はすべて、個々の刊行物、特許および特許願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用又は確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0273】
【図1】SP1オリゴマーの陰染色された2D結晶の電子顕微鏡写真、および、その2D結晶性構造のグラフィック表示である。
【図2】NTA−Ni金ナノ粒子が中心の空洞において6Hタグに結合することを示す組換えSP1:6HSP1の電子顕微鏡写真である。
【図3】2つのSP1変異体がヘテロオリゴマーのSP1複合体に自己集合することを示すSDS−PAGEである。
【図4】腫瘍特異的ペプチドのCRGDおよびRGDCのSP1表面での多重呈示を示す。
【図5】組換え変異体SP1の発現、精製およびリフォールディングを示すPAGE分析の写真である。
【図6】イオン交換クロマトグラフィー(図6a)および疎水性相互作用クロマトグラフィー(図6b)の両方を使用する、組換え細胞の粗製の耐熱性抽出物の組換えSP1の精製を示す。図6cは、Source−Q疎水性相互作用カラムでの分離の精製された生成物と比較したときの、粗製の組換え細胞抽出物(レーン1)および耐熱性画分(レーン2)のPAGE分析である。
【図7】ゲルろ過HPLC(TSK300カラム)(上段)および逆相HPLC(C−18カラム)(下段)の両方で単一ピークとして溶出する純粋なSP1の特徴付けを示す。
【図8】Cys2 SP1変異体による薬物複合体形成および制御された放出の仮想的なモデルを例示するグラフィック表示である。
【図9】Cys2 SP1による小分子とのレドックス依存的な複合体形成を示すヒストグラムである。
【図10】組換えSP1と比較したときの、Cys2 SP1によるレドックス依存的なフルオレセインアミン複合体形成のグラフィック表示である。
【図11】Cys2 SP1によるフルオレセイン−アミンとの濃度依存的な複合体形成を例示するヒストグラムである。
【図12】Cys2 SP1によるドキソルビシンとの優れたレドックス依存的な複合体形成を示すヒストグラムである。
【図13】Cys2 SP1によるドキソルビシンのドックス依存的な放出を示すヒストグラムである。
【図14】Cys2 SP1によるDOX複合体形成に対する酸化の影響を例示するヒストグラムである。
【図15】SP1−DOX複合体を特徴付けるSDS PAGE蛍光分析の写真である。
【図16】熱、還元および血清にさらされたときのDOX−SP1複合体の安定性を例示する蛍光PAGE分析の写真である。
【図17】Cys2タンパク質およびSP1融合タンパク質によるDOXとの効果的な複合体形成を例示する蛍光PAGE分析の写真である。
【図18】有機溶媒に対するSP1の高分子量オリゴマー複合体の抵抗性を示す写真である。
【図19】SP1との複合体によるパクリタキセル(PTX)の可溶化を示すHPLC分析である。
【図20】SP1−PTX複合体からのPTXの効率的なエタノール抽出を示すHPLC分析である。
【図21】PTX抽出に対する還元状態の影響を示すHPLC分析である。
【図22】SP1によるPTX結合に対する還元状態の影響を示すHPLC分析である。
【図23】SP1に対する薬物(ビンブラスチン)の複合体形成を示すグラフである。
【図24】SP1−DOX複合体のインビボトロ細胞毒性効果を例示するグラフである。
【図25】遊離PTXと比較して、SP1−PTX複合体のインビトロ細胞毒性を示すグラフである。
【図26】SP1複合体の優れた薬力学および標的化を例示する免疫ブロット分析である。
【図27】非複合体化DOXと比較して、SP1複合体化DOXの優れた抗腫瘍効果を示すヒストグラムである。
【図28】遊離DOXと比較して、SP1複合体化DOXの処置による副作用の著しい減少を示すヒストグラムである。
【図29】サイズ排除HPLC分析によるSP1−DOX複合体の検出を示すグラフである。
【図30】278nmにおけるサイズ排除クロマトグラフィー(サイズ排除HPLC)での典型的なSP1標準曲線を示す。
【図31】490nmでのFA標準物プロフィルのサイズ排除クロマトグラフィー(サイズ排除HPLC)のクロマトグラムを示す。
【図32】RP−HPLCでの(278nm(左側パネル)および225nm(右側パネル)の両方で求められる)Cys2 SP1の標準物プロフィルを示す。
【図33】RP−HPLCでの(477nmで求められる)DOXの標準物プロフィルを示す。
【図34】RP−HPLCでの(225nmで求められる)PTXの標準物プロフィルを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0274】
配列番号2〜30は、Sp1突然変異体の変異体の配列である。
配列番号31〜62は、腫瘍表面特異的ペプチドの配列である。
配列番号63〜81は、腫瘍脈管ペプチドの配列である。
配列番号82〜121は、ファージディスプレー(PD)及び細胞表面ディスプレー(SCD)によって選択された無機結合ポリペプチドの配列である。
配列番号122は、6XHisタグの配列である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性剤およびプロテアーゼに対して安定性を有するタンパク質、その変性された誘導体、および、それらの使用に関連する。より具体的には、本発明は、他の分子(リガンド)およびナノ構造体の複合体化、放出および送達のために設計された、変性剤に対して安定性を有するプロテアーゼ抵抗性の新規なホモオリゴマータンパク質(これはまた本明細書中では安定タンパク質(SP)として示される)およびその誘導体の使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
変性剤に対して安定性を有するプロテアーゼ抵抗性タンパク質
過酷な条件に対する並外れた抵抗性を有するストレス誘導されるシャペロン様タンパク質の特異なファミリーが近年、広範囲の多様な植物種において同定されている。アスペンのSP1タンパク質(配列番号1)によって例示されるが、このファミリーのタンパク質は、煮沸、変性剤およびプロテアーゼに対する抵抗性、保存されたアミノ酸配列相同性の領域、特異な三次元立体配座、オリゴマー形成、ならびに、生物学的に活性なタンパク質に対する強い安定化作用によって特徴付けられる。
【0003】
その特異な三次元構造との組合せにおいて、過酷な条件に対するこれらのストレス誘導のシャペロン様タンパク質の並外れた抵抗性は、極端な条件を、安定性を有するが、選択的に可逆的なリガンドとの複合体を作製するために適用することを可能にする。
【0004】
SP1
アスペン植物(Populus tremula)から単離されたSP1は、塩分ストレス、低温ストレスおよび熱ストレスをはじめとする広範囲の様々な環境ストレスに応答し、また、ストレス回復時に蓄積する。有意な配列類似性が、既知のタンパク質ファミリーに関して何ら見出されておらず、また、様々なSP1ホモログが、ゲノム配列またはESTのいずれかに由来する、機能が未知の仮想タンパク質として、数多くの植物種および細菌種において認められている。
【0005】
Wang他(米国特許出願第10/233409号)は、アスペンのSP1タンパク質(配列番号1)の単離、クローン化および特徴付けを行い、他の生物学的に活性なタンパク質を変性に対して安定化させることにおけるそのシャペロン様活性を発見している。Wang他(米国特許出願第10/233409号)はさらに、他の多様な植物種(トマト、マツ、イネ、トウモロコシおよびアラビドプシス)に由来する、煮沸および界面活性剤に対して安定性を有する他のタンパク質を開示した。これらのタンパク質は、類似した機能的特徴(具体的には、シャペロン様活性およびストレス関連性)を互いに有し、また、免疫交差反応性を互いに有し、また、アスペンSP1に対する少なくとも65%のアミノ酸相同性を有し、また、配列相同性の保存された領域を互いに有する。
【0006】
Wang他(米国特許出願第10/233409号)は、結合性分子の結合特性を高めるために、また、融合された分子(例えば、酵素など)を安定化させるために、また、融合された分子の免疫学的性質を強化するか、もしくは変化させるために、他のタンパク質分子または非タンパク質分子に融合されたSP1タンパク質を開示した。SP1融合タンパク質は、米国特許出願第10/233409号によって教示されるように、遺伝子工学技術によって付加されたさらなるポリペプチド配列を有する組換えSP1分子と、化学的手段(例えば、架橋など)によって付加されたさらなる非タンパク質成分を有するSP1分子とを含む。Wang他はさらに、皮膚、毛髪、爪などを強化するための、SP1タンパク質の治療的使用を開示している。しかしながら、米国特許出願第10/233409号は、天然SP1またはSP1変異体を、それらと可逆的に複合体化された薬剤(治療薬、化粧品、診断用薬、導電剤など)の制御された放出のためのキャリアとして、あるいは、そのような放出の手段として使用することを教示も、示唆もしていない。
【0007】
薬物キャリア:
疾患を治療するために用いられる多くの薬物は、水溶液における溶解性が不十分であるか、または、治療的濃度において有害な副作用を有するかのいずれかである。従って、多くの医学的適用は、薬物の効果的な濃度を、治療を必要とする生物(例えば、哺乳動物)において標的細胞または標的組織に効率的に送達するための好適な方法がないことを欠点として有する。
【0008】
薬物を効率的に使用するためのいくつかの考慮すべき事項には、下記が含まれる:
不十分な溶解性、これによって、疎水性の薬物が水性媒体では沈殿し得るので、好都合な薬学的形式を達成することにおける困難を引き起こす。しかしながら、可溶化のための賦形剤(例えば、Cremphor(タキソールにおけるパクリタキセルのための溶解剤)など)の使用にはまた、毒性が伴う。
【0009】
標的組織についての選択性の欠如、これによって、正常な組織に対する毒性がもたらされ、ドキソルビシンの心臓毒性の場合のように、投与することができる薬物の量が厳しく制限される。標的組織における薬物の低い濃度はさらに、最適でない治療効果をもたらす。
【0010】
好ましくない薬物動態学、例えば、インビボでの薬物の迅速な腎臓クリアランス、迅速な分解、または、生理学的条件での活性の欠損(例えば、生理学的pHでのカンプトテシン類の活性の欠損)、これもまた、増大された服用または頻繁な投与療法をもたらし得る。
【0011】
細胞の輸送体、解毒経路、または、アポトーシス伝達経路の阻害を誘導することによる標的組織(例えば、腫瘍など)における薬物抵抗性の発達。
【0012】
組織損傷をもたらす細胞毒性薬物の管外遊出での組織損傷(すなわち、遊離パクリタキセルによって引き起こされる壊死)。
【0013】
多くの方法により、これらの問題点のいくつかが特定の場合には解決されているが、今までのところ、薬物送達の問題に対する一般的な解決策は存在していない。これらの問題を解決するために存在する方法のいくつかの例には、(1)疎水性の薬物を水性媒体において界面活性剤から形成されるミセルに可溶化すること(WiedmannおよびKamel、J.Pharm.Sci.、2002、91、1743;MacGregor他、Adv.Drug Deliv.Rev.、1997、25、33)、(2)生分解性であり得るか、生物接着性の官能基またはリガンドを含有し得るナノメートルからマイクロメートルのサイズ範囲でのポリマーマトリックスで薬物をカプセル化すること(国際特許出願公開WO02/15877、同WO02/49676)、(3)親水性の薬物をリポソームでカプセル化すること(Anderson他、Pharm.Res.、2001、18、316;国際特許出願公開WO99/33940)(この場合、リポソームはまた、生物接着性の官能基またはリガンドを呈示することができる)、(4)能動的輸送系のための基質である分子に薬物をコンジュゲート化すること(Kramer他、J.Biol.Chem.、1994、269、10621;国際特許出願公開WO01/09163;米国特許出願公開2002/0098999;米国特許出願公開20060074225)、(5)活性な薬物成分(すなわち、プロドラッグ)の生理学的に選択的(pH、酵素的など)な放出を使用して標的化すること、(6)薬物をヒドロゲルと会合させること、および(7)分解、免疫認識または腎臓排出からタンパク質薬物を保護するためにタンパク質薬物を親水性ポリマーにより化学的に誘導体化すること(Belcheva他、Bioconjugate Chem.、1999、10、932;Zalipsky、Bioconjugate Chem.、1995、6、150;米国特許第4002531号;米国特許第4179337号)が含まれる。しかしながら、これらの方法はどれも、薬物送達問題のすべての場合についての一般的な解決策を提供していない。ミセル系、リポソーム系およびポリマーナノ粒子系における粒子サイズの制御は依然として重大な問題である。現在利用可能な薬物送達系が、送達のために要求される機能のすべてを1つの系に取り込むことができないことは、例えば、ミセル、ナノ粒子系および標的化系に関する別の問題である。なおさらに、放出速度および貯蔵寿命、特に、ミセルおよびリポソームの放出速度および貯蔵寿命は、制御することが困難で、予測不能であり、また、両親媒性成分は様々な毒性作用を生じさせ得る。
【0014】
生物の細胞または組織への薬物送達のために用いられる他の系は類似する欠点を有する。従って、上記で示された問題を最小限に抑えるか、または克服する、薬物を送達するための方法が求められている。
【0015】
本発明には、他の物質(例えば、小分子、ペプチド、核酸フラグメント、無機ナノ構造体および他の分子(リガンド)など)との分子的複合体を形成するためにSP1およびSP1変異体を使用するための方法が含まれる。加えて、本発明には、薬物の分子的複合体化のために、また、複合体化されたリガンドの送達ならびに制御放出のためにSP1およびSP1変異体を使用するための方法が含まれる。従って、上記の制限を有しない分子的複合体を形成することができるSP1およびSP1変異体が必要であることが広く認識されており、また、そのようなSP1およびSP1変異体を有することは非常に好都合である。
【発明の概要】
【0016】
本発明の1つの態様によれば、SP1ポリペプチドのアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、このアミノ酸配列が、物質との可逆的な分子的会合の状態であるように変性される単離されたポリペプチドが提供される。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、配列番号2〜配列番号30に示されるようなアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドが提供される。
【0018】
本発明のなおさらに別の態様によれば、配列番号2〜配列番号30に示されるようなアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド、または、SP1ポリペプチドのアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、このアミノ酸配列が、物質との可逆的な分子的会合の状態であるように変性される単離されたポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0019】
本発明の別の態様によれば、複数の自己集合した変性SP1モノマーを含む組成物が提供される。
【0020】
本発明のさらに別の態様によれば、変性SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある治療薬、診断用薬または化粧剤を含む単離された組成物が提供される。
【0021】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1分子は治療薬、診断用薬または化粧剤に翻訳融合される。
【0022】
本発明のなおさらに別の態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤との可逆的な分子的会合の状態でSP1ポリペプチドを含む単離された組成物が提供される。
【0023】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1分子は治療薬、診断用薬または化粧剤に翻訳融合されない。
【0024】
本発明のさらに別の態様によれば、変性SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある導電性物質または半導電性物質を含む単離された組成物が提供される。
【0025】
本発明のさらに別の態様によれば、導電性物質または半導電性物質との可逆的な分子的会合でのSP1ポリペプチドを含む単離された組成物が提供される。
【0026】
本発明のさらに別の態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤をその必要性のある対象に送達する方法が提供され、この場合、この方法は、SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある治療薬、診断用薬または化粧剤を含む組成物の治療効果的な量を対象に投与し、それにより、この治療薬、診断用薬または化粧剤をこの対象に送達することを含む。
【0027】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドは、変性SP1ポリペプチドが可能である。
【0028】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、分子的会合は可逆的な分子的会合であり、方法はさらに、この分子的会合を可逆化するための条件を提供することを含む。
【0029】
本発明のさらに別の態様によれば、物質を安定化させる方法が提供され、この場合、この方法は、物質を、この物質との複合体を可逆的に形成するために変性SP1ポリペプチドと接触させ、その結果、複合体を形成させ、それにより、この物質を安定化させることを含む。
【0030】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、安定性は、温度安定性、イオン強度安定性、プロテアーゼ安定性および触媒作用安定性からなる群から選択される特性を含む。
【0031】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、方法はさらに、この複合体を溶媒と接触させ、その結果、溶液を形成する工程を含む。
【0032】
本発明のさらに別の態様によれば、溶液における物質の溶解性を高める方法が提供される。この方法は、物質を、この物質との複合体を可逆的に形成することができるSP1ポリペプチドと接触させ、その結果、複合体を形成すること、および、この複合体を、溶媒を用いて溶解し、その結果、溶液を形成することによって行われ、それにより、溶液における物質の溶解性を高める。溶媒は水性溶媒または有機溶媒が可能であり、物質は疎水性物質または親水性物質が可能である。
【0033】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも65%の相同性を有する、煮沸および界面活性剤に対して安定なタンパク質であって、シャペロン様活性を有し、安定なダイマーを形成することができるタンパク質である。
【0034】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドは、10.00のプルラリティー(plurality)、4の閾値、1.00の平均加重、2.91の平均マッチおよび−2.00の平均ミスマッチを使用してGCGのBest Fitアルゴリズム(Wisconsin Package Version9.1)を使用して決定されたとき、少なくとも1つの保存されたアミノ酸配列を、配列番号1のアミノ酸9〜11、アミノ酸44〜47および/またはアミノ酸65〜73に対応する少なくとも1つの領域に有する。
【0035】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドはオリゴマー形成によって特徴付けられ、このSP1オリゴマーは熱安定性でかつプロテアーゼ抵抗性のオリゴマーである。
【0036】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、SP1ポリペプチドは、変性アミノ酸配列を有するSP1ポリペプチドであり、変性は、ジスルフィド結合を形成することができる少なくとも1つのアミノ酸の付加を含む。
【0037】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、変性は、配列番号1のアミノ酸残基2に対応する位置における少なくとも2つのヒスチジン残基の付加を含む。
【0038】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、変性は、配列番号1のアミノ酸残基40に対応する位置における、少なくとも1つのチオール基を有する少なくとも1つのアミノ酸の付加を含む。
【0039】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、薬剤との分子的会合または複合体を形成することはレドックス依存的である。
【0040】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、変性は、配列番号1のアミノ酸残基2またはアミノ酸残基40に対応する位置におけるシステイン残基の付加である。
【0041】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、物質は、治療薬、診断用薬または化粧剤である。なおさらに、治療薬、診断用薬または化粧剤は、ポリペプチド剤、核酸剤、脂質剤、炭水化物剤、小分子、および、それらの組合せからなる群から選択される。
【0042】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、物質は、導電性または半導電性のイオン性物質である。導電性または半導電性のイオン性物質は、金属、半導体および誘電体のいずれかが可能である。
【0043】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、変性アミノ酸配列は、配列番号2〜配列番号30に示される通りである。
【0044】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、このアミノ酸配列は、標的認識配列を含むように変性される。標的認識配列はガン細胞表面またはガン細胞血管系を認識する配列が可能である。標的認識配列は配列番号31〜配列番号62の配列のいずれかが可能である。標的認識配列は、配列番号63〜配列番号81からなる群から選択されるガン細胞血管系認識配列が可能である。ガン細胞血管認識配列はCRGD配列が可能である。
【0045】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、分子的会合は共有結合性の会合または非共有結合性の会合である。
【0046】
本発明のさらに別の態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤をその必要性のある対象に送達するための医薬品を製造するための、天然SP1ポリペプチドまたは変性SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある治療薬、診断用薬または化粧剤を含む組成物の使用が提供される。
【0047】
本発明のなおさらに別の態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤をその必要性のある対象に送達するための医薬品の治療的製造物を送達するための、天然SP1ポリペプチドまたは変性SP1ポリペプチドとの分子的会合の状態にある治療薬、診断用薬または化粧剤を含む組成物が提供される。
【0048】
本発明は、治療的適用、診断的適用、化粧的適用、ならびに薬物の送達、可溶化および安定化のようなナノ技術的適用における使用のための物質との分子的会合を形成することができる単離されたSP1ポリペプチドおよびSP1変異体ポリヌクレオチドを提供することによって、現在知られている構成の欠点に首尾よく対処する。
【0049】
図面の簡単な記述
本発明は、添付図面を参照して、本明細書において例としてのみ記載されている。ここでこれらの図面を特に参照することによって、示されている詳細は、例としてのものであり、本発明の好ましい実施形態の例証的考察のみを目的としており、本発明の原理および概念的側面の最も有用かつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示されている。この点に関して、本発明の基本的理解に必要なもの以上に詳細に本発明の構造的詳細を示す試みはなされず、これらの図面を用いて行なわれる説明は、この発明のいくつかの形態がどのようにして実際に具体化されうるかを当業者に明らかにする。
【0050】
図1は、SP1オリゴマーの陰染色された2D結晶の電子顕微鏡写真、および、その2D結晶性構造のグラフィック表示である。
図2a〜図2bは、NTA−Ni金ナノ粒子が中心の空洞において6Hタグに結合することを示す組換えSP1:6HSP1の電子顕微鏡写真である。図2aは透過電子顕微鏡写真(TEM)である。タンパク質−ナノゴールド−タンパク質−ナノゴールド...の交互配列に留意すること。図2bはナノゴールド−6HS−SP1コンジュゲートのグラフィック表示である。
図3は、2つのSP1変異体がヘテロオリゴマーのSP1複合体に自己集合することを示すSDS−PAGEである。組換えHISタグ化SP1(6H)およびN末端欠失SP1(ΔN)のモノマーが同時に電気溶出され(6HΔN)、Ni−NTAアガロースで精製され、プロテイナーゼK(PK)消化に供された。タンパク質サンプルをSDSサンプル緩衝液においてSDS対サンプルの過剰な割合で調製し、このとき、5分間の煮沸(b)または煮沸非処理(nb)のいずれかに供した。レーン1=WT:野生型SP1。煮沸されたモノマー状のゲル精製形態の6HSP1(レーン2)およびΔNSP1(レーン3)をクーマシーブルー染色によって可視化し、切り出し、1:1の比率(v/v)で混合した(レーン4およびレーン5)。タンパク質を、以前に記載されたように、電気溶出によって同時に溶出させた(Wang(2002))。ヘテロオリゴマー複合体をNi−NTAアガロースビーズで単離した(レーン6およびレーン7)。モノマーSP1を消化するが、SP1複合体を消化しないプロテイナーゼKを、6HSP1およびΔNSP1のモノマー形態をNi−NTA精製タンパク質から除くために用いた(レーン8およびレーン9)。ヘテロオリゴマーSP1の組成をSDS−PAGEによって求め、銀染色によって可視化した。
図4は、腫瘍特異的ペプチドのCRGDおよびRGDCのSP1表面での多重呈示を示す。これらのペプチドをSP1のN末端に挿入した。CRGD変異体(レーン1〜レーン3)およびRGD−C変異体(レーン5〜レーン7)はともに高分子量の複合体を形成することに留意すること(レーン3およびレーン7)。タンパク質が還元剤の存在下でサンプル適用緩衝液において煮沸されるとき、複合体はより低分子量の化学種(モノマーおよびダイマーなど)に解離する。還元剤が存在しない場合(レーン1およびレーン5)、および、(還元剤が存在しない)酸化状態下での煮沸では、より大きいレベルのダイマーが認められる(レーン2)。レーン4=分子量マーカー。
図5aおよび図5bは、組換え変異体SP1の発現、精製およびリフォールディングを示すPAGE分析の写真である。Cys2loop1RGd SP1変異体は発現時に可溶性タンパク質を形成せず(封入体(IB)に見出され)、フレンチプレスによって抽出され、遠心分離(20分、17000xg)によって沈降した。可溶性SP1を含有しない上清(図5a、レーン1)を集め、SP1のIBを含有するペレット(図5a、レーン2)を薄い尿素で洗浄し、5Mの尿素および10mMのDTTにおいて可溶化し、遠心分離した(30分、20000xg)。ペレット(図5a、レーン3)を捨て、上清を集め、2mMのDTTを含む緩衝液に対して4日間にわたって透析した(図5a、レーン4)。透析された変異体SP1を低温で3週間保存し(図5b、レーン1およびレーン2)、SP1モノマー、ならびに、非特異的なタンパク質を30分間の熱処理によって除き、プロテアーゼ(アルカラーゼ、10000の希釈度)によって消化し(図5b)、透析した(図5b、レーン4)。MW=分子量マーカー(上方バンド=SP1複合体、下方バンド=SP1モノマー)。複合体化していないより低分子量の形態(図5a、レーン2およびレーン4;図5b、レーン1およびレーン2)から、より高分子量のオリゴマー形態(図5b、レーン3およびレーン4)への変化に留意すること。
図6a〜図6cは、イオン交換クロマトグラフィー(図6a)および疎水性相互作用クロマトグラフィー(図6b)の両方を使用する、組換え細胞の粗製の耐熱性抽出物の組換えSP1の精製を示す。図6cは、Source−Q疎水性相互作用カラムでの分離の精製された生成物と比較したときの、粗製の組換え細胞抽出物(レーン1)および耐熱性画分(レーン2)のPAGE分析である。
図7は、ゲルろ過HPLC(TSK300カラム)(上段)および逆相HPLC(C−18カラム)(下段)の両方で単一ピークとして溶出する純粋なSP1の特徴付けを示す。
図8a〜図8cは、Cys2 SP1変異体による薬物複合体形成および制御された放出の仮想的なモデルを例示するグラフィック表示である。図8aは、遊離チオールと、ジスルフィド結合との間での動的平衡に依存する、Cys2変異体の中心の空洞のレドックス依存的な開放および閉鎖についてのモデルを示す(還元剤は平衡を遊離チオールの方向に変化させ、酸化剤は平衡をジスルフィド結合の方向に変化させる)。図8aは、Cys2 SP1モノマーが還元状態(LSB+2%b−メルカプトエタノールにおける10分間の煮沸)のもとで優勢であること(レーン1)、および、Cys SP1ダイマーが非還元性の条件のもとで優勢であること(レーン2)を例示するSDS−PAGEである。図8cは、Cys2 SP1変異体によるレドックス依存的な薬物複合体形成を例示するグラフィック表示である。
図9は、Cys2 SP1による小分子とのレドックス依存的な複合体形成を示すヒストグラムである。純粋なCys2変異体(リン酸塩緩衝化生理的食塩水(pH=7.5)(PBS)において1.5mg/ml)を、グルタチオン(還元型形態、GSH、3mM)の存在下または非存在下、1mMのフルオレセイン−アミンと室温で2時間インキュベーションした。結合反応を、過酸化水素(0.01%)を加えることによって停止させ、続いて、限外ろ過(30kDのカットオフフィルターを使用する)および徹底的な洗浄を行った。吸収分析を278nmおよび492nmの両方で行い、結果が492/278の比率として表された。還元剤(GSH)が存在しない場合、フルオレセイン−アミンの保持が無視できるほどであることに留意すること。
図10は、組換えSP1と比較したときの、Cys2 SP1によるレドックス依存的なフルオレセインアミン複合体形成のグラフィック表示である。フルオレセイン−アミンを、DTT(10mM)の非存在下または存在下、純粋なSP1またはCys2 SP1変異体(PBS(pH=7.5)において1.5mg/ml)とインキュベーションした。結合反応を、過酸化水素(0.01%)を加えることによって停止させ、続いて、限外ろ過(30kDのカットオフフィルターを使用する)および徹底的な洗浄を行った。サンプルをゲルろ過HPLCによって分析し、228nmおよび490nmの両方で検出した。計算されたデータが右側に示される。Cys2 SP1変異体による還元状態(10mM DTT)下でのフルオレセイン−アミンの優れた保持に留意すること。
図11は、Cys2 SP1によるフルオレセイン−アミンとの濃度依存的な複合体形成を例示するヒストグラムである。フルオレセイン−アミン(10mM、33mM、100mMまたは333mM)を、10mMのDTTの存在下、Cys2 SP1または純粋な野生型SP1とインキュベーションし、結合画分および非結合画分を図10でのように限外ろ過およびHPLCによって分析した。高濃度のCys2 SP1のCys2 SP1による優れた結合に留意すること。
図12は、Cys2 SP1によるドキソルビシンとの優れたレドックス依存的な複合体形成を示すヒストグラムである。純粋な野生型SP1またはCys2 SP1変異体(20mMリン酸ナトリウム緩衝化(pH=6.8)における1.5mg/ml)を、穏やかに回転しながら、DTT(10mM)の存在下、DOX(1mg/ml)と室温で一晩インキュベーションした。結合反応を、過酸化水素(0.01%)を加えることによって停止させ、続いて、限外ろ過(30kDのカットオフフィルターを使用する)および徹底的な洗浄を、流出が無色になるまで行った。光学密度を、nanodrop分光光度計を使用して278nmおよび477nmの両方で測定した。野生型SP1に対する効果がないことと比較して、Cys2 SP1による薬物結合に対する還元剤の劇的な効果には留意すること。
図13は、Cys2 SP1によるドキソルビシンのドックス依存的な放出を示すヒストグラムである。ドキソルビシン(DOX)を上記の図9〜図12に記載されるようにCys2 SP1内に複合体化した。0mM、2mMおよび20mMのGSHの存在下での薬物の放出を限外ろ過およびサイズ排除HPLC分析(228nmおよび475nmでの検出)によって測定した。
図14は、Cys2 SP1によるDOX複合体形成に対する酸化の影響を例示するヒストグラムである。ドキソルビシン(DOX)を上記の図9〜図13に記載されるようにCys2 SP1および野生型SP1と反応させた。酸化されたタンパク質は、GSHによる処理に先立って、過剰なH2O2への暴露を示す。DOX複合体形成を限外ろ過およびサイズ排除HPLC分析(228nmおよび475nmでの検出)によって測定した。右側パネルは、477nmで測定されるRP−HPLCでの結合DOXおよび遊離DOXの検出を示す。1=保持物;2=流出;および3=DOX標準物(20μg/ml)。
図15は、SP1−DOX複合体を特徴付けるSDS PAGE蛍光分析の写真である。DOXを標準的な条件(図11を参照のこと)のもとでCys2 SP1変異体と複合体化し、SDS−PAGEによって分離し、固定し、洗浄し、DOXを、緑色フィルターを使用して、473nmでの蛍光画像化装置(FUJIFILM FLA−500、FUJI、日本)による走査によって可視化した。クーマシー染色を、サンプルのタンパク質含有量を比較するために使用した。DOXが、極端な条件(SDS−PAGEゲル)のもとでさえ、Cys2 SP1変異体のすべての形態(複合体、ダイマーおよびモノマー)との堅固な複合体を形成し続けたことに留意すること。
図16は、熱、還元および血清にさらされたときのDOX−SP1複合体の安定性を例示する蛍光PAGE分析の写真である。SP1およびDOXを上記の図9〜図14に記載されるように反応させて、複合体を形成させた。サンプルは、熱処理(80℃で30分)(レーン1〜レーン4)、プロテアーゼ処理(1:1000で希釈されたアルカラーゼ、45℃で30分間)(レーン1〜レーン3およびレーン5)のいずれかを、希釈されたマウス血清(1:10)(レーン1およびレーン2)の存在下または非存在下で受けた。SDS−PAGE分析のために、すべてのサンプルを、2%β−メルカプトエタノールを含む緩衝液(LSB)において10分間煮沸した。変性条件およびタンパク質分解条件に対するSP1−DOX複合体の優れた抵抗性に留意すること。
図17は、Cys2タンパク質およびSP1融合タンパク質によるDOXとの効果的な複合体形成を例示する蛍光PAGE分析の写真である。組換え野生型(レーン1およびレーン2)、Cys2(レーン3およびレーン4)、および、N末端のさらなる腫瘍特異的ペプチドRGD(CRGD)を有するSP1融合タンパク質(レーン5およびレーン6)、または、逆順序でのRGD(RGDC)を有するSP1融合タンパク質(レーン7およびレーン8)を、上記の図9〜図14に記載されるようにDOXと反応させて、複合体を形成させ、その後、LSBにおける煮沸による変性を伴って(レーン2、レーン4、レーン6およびレーン8)、または、伴うことなく(レーン1、レーン3、レーン5およびレーン7)、SDS−PAGEで分離した。高分子量の複合体における強い蛍光に留意すること(非煮沸サンプル、レーン1、レーン3、レーン5およびレーン7)。これは、すべての変異体SP1による薬物の効果的な結合、および、はるかにより低い程度ではあるが、野生型による薬物の効果的な結合を示している。
図18は、有機溶媒に対するSP1の高分子量オリゴマー複合体の抵抗性を示す写真である。野生型SP1(レーン1〜レーン3)またはCys2 SP1(レーン4〜レーン6)(10mMリン酸ナトリウム(pH7)における1mg/ml)を凍結乾燥し、緩衝液(レーン1およびレーン4)または溶媒(10分のインキュベーション時間)(レーン2およびレーン5=メタノール;レーン3およびレーン6=ヘキサン)に再懸濁した。サンプルを水に再懸濁し、高分子量オリゴマー複合体の存在についてSDS−PAGEによって分析した。オリゴマー複合体がすべての条件のもとで持続すること、および、Cys2 SP1変異体が野生型よりも一層大きい抵抗性を有することに留意すること。
図19は、SP1との複合体によるパクリタキセル(PTX)の可溶化を示すHPLC分析である。精製された組換えの凍結乾燥された野生型SP1をパクリタキセル溶液(0.1ml、アセトン:ヘキサン(1:2)に溶解、0.25mg/ml)と混合し、20分間にわたって超音波処理し、溶媒をスピードバキュームによってエバポレーションした。水に溶解し、さらなる超音波処理およびボルテックス混合を行った後、50μlのサンプルをRP HPLCによって分析した。上段パネルはHPLCピーク(225nm)を示す(SP1=黒色;SP1−PTX=赤色;PTX=青色;PTX/H2O=マゼンタ色)。下段パネルは、複合体化されたSP1−PTXの(30kDでの)限外ろ過の結果を示す。高い割合のPTXがSP1−PTX複合体によって溶液中に保持されることに留意すること。
図20は、SP1−PTX複合体からのPTXの効率的なエタノール抽出を示すHPLC分析である。上記の図19でのように調製されたSP1−PTX複合体を沈殿させ(赤色線)、その後、80%エタノールにより抽出し(黄色線)(−20℃で2時間)、その後、HPLCで分析した(下段パネル)(青色=処理されていない複合体)。タンパク質沈殿によるPTXの欠損、および、抽出されたサンプルにおけるPTXの出現に留意すること。
図21は、PTX抽出に対する還元状態の影響を示すHPLC分析である。上記の図19でのように調製されたSP1−PTX複合体を、10mM GSHの存在下(中塗り四角−マゼンタ色)または非存在下(中塗り三角、青色)、(タンパク質沈殿を引き起こさない条件のもとで)0%〜60%のエタノールにより抽出し、その後、HPLCで分析した。酸化された複合体によるPTXの優れた保持に留意すること。
図22は、SP1によるPTX結合に対する還元状態の影響を示すHPLC分析である。SP1−PTX複合体を還元状態(b−メルカプトエタノール、mM)の非存在下または存在下で図19でのように調製し、上記で記載されたように限外ろ過(無菌の0.22μmフィルター)およびHPLCによって分離した。還元状態下で形成された複合体の優れた水溶性に留意すること。
図23は、SP1に対する薬物(ビンブラスチン)の複合体形成を示すグラフである。左側パネル−純粋なSP1(MESにおける48μM)の放射スペクトル(励起波長=286.00nm)を、蛍光計を使用して求めた。未変性SP1(左側の曲線)およびアンフォールディング(6MグアニジニウムHCl)による変性SP1(右側の曲線)の両方を調べた。未変性タンパク質のトリプトファンの蛍光に対するビンブラスチンの正味の影響を、変性タンパク質による相対的な消光をそれぞれの最大放射波長(それぞれ、340nmおよび321nm)において未変性タンパク質の相対的な消光から引くことによって計算した。折り畳まれたSP1タンパク質およびアンフォールディングによる変性SP1タンパク質の両方のトリプトファンの蛍光がビンブラスチンの複合体化によって消光され、しかし、折り畳まれたタンパク質の場合、赤方移動もまた伴うことに留意すること。
図24aおよび図24bは、SP1−DOX複合体のインビボトロ細胞毒性効果を例示するグラフである。図24a−96ウエルマイクロタイタープレートで培養されたHT−29細胞を、非複合体化DOX(中塗り長円、マゼンタ色)、または、図9〜図15に記載されるように調製されたSP1−DOX複合体(中塗り三角、青色)に、示された濃度でさらした。図24b−HT−29細胞を、非複合体化SP1(DOX非含有)(中塗りひし形、青色)またはSP1−DOX複合体(中塗り三角、黄色)に、示された濃度でさらした。生細胞の割合をMITアッセイによって求め、IC50を計算した。非複合体化SP−1には細胞毒性がないこと(図24b)、ならびに、遊離DOXおよびSP1複合体化DOCについてのIC50値が同等であることに留意すること。
図25a〜図25bは、遊離PTXと比較して、SP1−PTX複合体のインビトロ細胞毒性を示すグラフである。SP1−PTX複合体を上記の図19〜図22に従って調製した。HT−29細胞を上記の図24でのように調製した。図25aは、SP1−PTXおよび遊離PTX(DMSO中)にさらされたHT−29細胞のIC50を示す。細胞を、遊離PTX(中塗り円、緑色)またはSP1−PTX複合体(中塗り三角、赤色)に、示された濃度でさらした。図25bは、示された濃度で非複合体化SP1(中塗り三角、青色)またはSP1−PTX複合体(中塗り三角、赤色)にさらされたHT−29細胞のIC50を示す。非複合体化SP−1には細胞毒性がないこと、ならびに、遊離PTXおよびSP1−PTX複合体の両方についてのIC50値が類似することに留意すること。
図26は、SP1複合体の優れた薬力学および標的化を例示する免疫ブロット分析である。B16−F10(B16)メラノーマ腫瘍細胞を有するC57B1のオスのマウスを3つの群に分けた:A群−1回の注射(フルオレセインアミン−SP1コンジュゲート(10mg/ml、0.1ml/マウス)によるiv)、n=5匹のマウス;B群−非コンジュゲート化フルオレセインアミンの溶液(PBSにおける34mM、0.1ml/動物)による1回の注射、n=5匹のマウス;および、C群は処置を受けなかった(n=2匹のマウス)。内臓器官を注射後24時間で集め、−70℃で保存した。血液を集め、室温で放置して凝固させた。腫瘍抽出物および血清サンプルをSDS PAGEで分析し、タンパク質をニトロセルロースにブロッティングした。SP1の免疫検出を、ウサギ抗SP1抗体およびHRPコンジュゲート化二次抗体を用いて行った。SP1が注射後24時間で腫瘍および血清の両方に多量に存在することに留意すること。
図27aおよび図27bは、非複合体化DOXと比較して、SP1複合体化DOXの優れた抗腫瘍効果を示すヒストグラムである。ヒトLS147T結腸ガン(動物一匹あたり100万個の細胞)の皮下異種移植された腫瘍を有するCD1ヌードマウスを2つの群に分け(n=6)、これらに、SP1−Dox(PBSにおいて50mg/kg、約0.5mg/KgのDOX相当量)またはPBS(図27a)、あるいは、非複合体化DOX(3mg/Kg)またはPBS(図27b)のいずれかを単独で、尾静脈内への静脈内注射により、1週間に2回、4週間にわたって与えた。腫瘍を移植後35日で取り出し、重量測定した。遊離DOXと比較したとき、複合体化されたSP1−DOXの著しくより大きい抗腫瘍有効性に留意すること。
図28aおよび図28bは、遊離DOXと比較して、SP1複合体化DOXの処置による副作用の著しい減少を示すヒストグラムである。s.c.異種移植されたヒトLS147T結腸ガン腫瘍を有するCD1ヌードマウスを、本明細書中上記の図27aおよび図27bに記載されるように静脈内SP1複合体化DOC(図28a)または遊離非複合体化DOC(図28b)により処置した。PBSをコントロールに注射した。動物を屠殺前に重量測定した(腫瘍注入後35日)。SP1複合体化DOXを受けたマウスにおける無視できるほどの体重減少と比較して、複合体化されていない遊離DOXによる重度の体重減少に留意すること。
図29は、サイズ排除HPLC分析によるSP1−DOX複合体の検出を示すグラフである。SP1−DOX複合体が278nm(SP1について特徴的)および475nm(DOXについて特徴的)の両方で検出可能である。
図30は、278nmにおけるサイズ排除クロマトグラフィー(サイズ排除HPLC)での典型的なSP1標準曲線を示す。SP1がカラム(TSK G3000SWXL、Tosohaas)から7分後に溶出され、278nmにおいて検出されるだけである。挿入図は、SP1が所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
図31は、490nmでのFA標準物プロフィルのサイズ排除クロマトグラフィー(サイズ排除HPLC)のクロマトグラムを示す。区別可能なピークでカラムから溶出される遊離FAとは対照的に、DOXは区別可能なピークで溶出されない(図29)。挿入図は、FAが所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
図32は、RP−HPLCでの(278nm(左側パネル)および225nm(右側パネル)の両方で求められる)Cys2 SP1の標準物プロフィルを示す。挿入図は、Cys2 SP1が所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
図33は、RP−HPLCでの(477nmで求められる)DOXの標準物プロフィルを示す。挿入図は、DOXが所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
図34は、RP−HPLCでの(225nmで求められる)PTXの標準物プロフィルを示す。挿入図は、PTXが所定の濃度範囲にわたって定量的に検出されることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、ナノ粒子のために、また、物質の選択的な複合体化および放出のために使用することができる分子的複合体を形成することができるSP1ポリペプチドおよびSP1変異体ポリヌクレオチド、ならびに、それらをコードするポリヌクレオチドに関する。
【0052】
具体的には、本発明は、治療薬、診断用薬、化粧剤、導電性薬剤および半導電性薬剤などを送達、安定化および可溶化するために使用することができる。本発明のSP1ポリペプチドおよびSP1変異体ポリヌクレオチドに特徴的なホモオリゴマー複合体形成およびヘテロオリゴマー複合体形成はまた、操作された自己集合性のナノ粒子およびナノ構造体を提供するために使用することができる。さらに、広範囲の様々な複合体形成性の変性(例えば、ジスルフィド連結および他のペプチド連結、炭水化物、核酸など、ならびに、それらの組合せなど)を有する様々なSP1変異体を設計することができ、これにより、ヘテロオリゴマーSP1構造体およびホモオリゴマーSP1構造体の制御された複合体および解離についての広い様々な可能性がもたらされ、また、小分子、薬物、薬剤およびナノ粒子などとのSP1ポリペプチド複合体形成、ならびに、小分子、薬物、薬剤およびナノ粒子などの放出の広い様々な可能性がもたらされる。本発明のさらなる態様および適用が下記においてさらに議論される。
【0053】
本発明の原理および操作は、図面および添付の説明を参照して、よりよく理解することができる。
【0054】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用が、次の記載において示されているか、または実施例によって例示されている詳細に限定されないことを理解すべきである。本発明は、ほかの実施態様も可能であるし、または様々な方法で実行または実施することができる。同様に、本明細書において用いられている表現および用語法は、説明を目的としており、限定的なものとみなすべきでないことも理解すべきである。
【0055】
SP1ポリペプチドは、熱およびほとんどの化学的変性剤による変性に対して抵抗性があり、プロテアーゼ消化に対して抵抗性があり、また、分子相互作用を安定化させることができ、三次元構造体を形成することができるヘテロオリゴマーおよびホモオリゴマーを形成する並外れて安定なポリペプチドである(Dgany他、JBC、2004、279:51516〜23;米国特許出願第10/233409号(Wang他))。
【0056】
本発明者らは、結合性分子の結合特性を強化するために、また、融合された分子(例えば、酵素など)を安定化させるために、また、融合された分子の免疫学的性質を強化するか、または変化させるために、他のタンパク質分子または非タンパク質分子に融合されたSP1タンパク質を以前に発見している(米国特許出願第10/233409号(Wang他))。SP1融合タンパク質は、米国特許出願第10/233409号に開示されるように、遺伝子工学技術によって付加されたさらなるポリペプチド配列を有する組換えSP1分子と、化学的手段(例えば、架橋など)によって付加されたさらなる非タンパク質成分を有するSP1分子とを含む。本発明者らは、皮膚、毛髪、爪などを強化するためのSP1タンパク質の治療的使用をさらに開示している。
【0057】
しかしながら、Wang他は、分子的会合状態での薬剤(治療薬、化粧剤、診断用薬、導電性薬剤など)の制御された放出が可能である天然SP1ポリペプチドまたはSP1変異体ポリペプチド、あるいは、キャリアとしてのそれらの使用、あるいは、ナノ構造体を製造するための自己集合性SP1モノマーの使用を教示も、暗示もしていない。
【0058】
本発明を実施に移しているとき、新規なSP1変異体が、ヘテロオリゴマーおよびホモオリゴマーの形成、ならびに、様々な物質および分子との可逆的な分子的複合体の形成を可能にする入念な実験および薬物設計によって作製された。本発明のSP1の分子的複合体の制御可能性は、SP1ポリペプチドを、薬物、化粧品、導電体および他の小分子のためのキャリアとして並外れて有用なものにする。さらに、様々な特異的成分を、標的認識能をSP1ポリペプチドに加えるために取り込むことができ、これにより、薬物キャリアとしてのSP1の特異性および効力を高めることができる。さらに、本発明を実施に移しているとき、驚くべきことに、天然SP1および変性SP1変異体が、制御された所定の様式で自己集合して、規定されたナノ構造体をもたらすことができることが発見された。そのようなナノ構造体は、工学的適用、電気的適用および他のナノ技術的適用のために使用することができる。
【0059】
従って、本発明の1つの態様によれば、SP1ポリペプチドのアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドであって、そのアミノ酸配列が、物質との可逆的な分子的会合の状態であるように変性される単離されたポリペプチドが提供される。
【0060】
本明細書中で使用される表現「分子的会合」は、分子レベルで起こる化学的会合または物理的会合または両者を示す。例えば、会合は、共有結合性の結合、非共有結合性の結合、疎水性相互作用などが可能である。
【0061】
「可逆的な会合」は、本明細書中で定義される場合、その成分が、特定の条件に依存して、元の会合前の状態に戻ることができ、また、再会合することができる会合である。好ましくは、そのような会合および再会合はペプチド結合の形成および切断を含まない。例えば、本発明のSP1−治療薬複合体の成分の可逆的な会合は解離することができ、それにより、元の別個の治療薬成分およびSP1ポリペプチド成分に戻ることができる。
【0062】
本発明における使用のために好適である可逆的な分子的会合のタイプには、静電的結合、水素結合、ファンデルワールス力、イオン性相互作用またはドナー/アクセプタ結合からなる群から選択される会合が挙げられる。可逆的な会合は、物質と、SP1ポリペプチドとの間での1つ以上の会合によって媒介され得る。例えば、可逆的な会合は、複合体化する物質と、SP1ポリペプチドとの間での水素結合およびイオン性結合の組合せを含むことができる。加えて、または、代替として、可逆的な会合は、例えば、成分間(例えば、物質と、SP1ポリペプチドとの間など)での共有結合性の相互作用または他の非共有結合性の相互作用との組合せが可能である。
【0063】
本明細書中で使用される表現「SP1ポリペプチド」は、アスペンおよび他の植物に由来し、SP1タンパク質およびSP1様タンパク質(配列番号123〜配列番号148を参照のこと)のファミリーに属する、下記の特徴的な性質の少なくとも1つを有するタンパク質を示す:煮沸安定性、プロテアーゼ安定性またはシャペロン様活性。
【0064】
SP1ポリペプチドは、下記の区別可能な性質の少なくとも1つによって特徴付けられる:安定性、シャペロン様活性、および、変性因子に対する優れた抵抗性。SP1ポリペプチドはまた、保存された配列相同性のいくつかの領域を互いに有する。SP1ファミリーのメンバーは、好ましくは、配列番号1に対して少なくとも65%の相同性を有する、煮沸および界面活性剤に対して安定なタンパク質であって、シャペロン様活性を有し、安定なダイマーを形成することができるタンパク質である。一層より好ましくは、SP1ポリペプチドは、10.00のプルラリティー、4の閾値、1.00の平均加重、2.91の平均マッチおよび−2.00の平均ミスマッチを使用してGCGのBest Fitアルゴリズム(Wisconsin Package Version9.1)を使用して決定されたとき、少なくとも1つの保存されたアミノ酸配列を、配列番号1のアミノ酸9〜11、アミノ酸44〜46および/またはアミノ酸65〜73に対応する少なくとも1つの領域に有する。最も好ましくは、SP1ポリペプチドは、「HAFESTFES」(65〜73、配列番号1)、「VKH」(9〜11、配列番号1)および「KSF」(44〜46、配列番号1)の保存されたコンセンサス配列を有する。最も好ましくは、「野生型」SP1は、Wang他(PCT IL02/00174(2002年3月5日出願)の一部継続出願である米国特許出願第10/233409号(2002年9月4日出願)、これらはともに、全体が本明細書中に示されているものとして参考として組み込まれる)によって開示されるように、アスペンから得られるストレス関連のSP1タンパク質(配列番号1)である。
【0065】
好ましい実施形態において、SP1タンパク質は、配列番号1に対して70%の相同性、より好ましくは75%の相同性、さらにより好ましくは80%の相同性、より好ましくは85%の相同性、より好ましくは90%の相同性、好ましくは95%の相同性、最も好ましくは100%の相同性を有する。
【0066】
本明細書において用いられているような「変性剤安定」という語句は、水溶液中での変性処理後の大きい(50%以上)構造オリゴマー安定性のことを言う。変性処理は、煮沸、および化学的変性剤、例えば界面活性剤(例えばSDS)、尿素、またはグアニジン−HClへの暴露を含むことがある。
【0067】
本明細書において用いられているような「煮沸安定」という語句は、サイズ分画アッセイによって決定された場合、実質的に100℃で水溶液中で、少なくとも10分間の処理後、大きい(50%以上)構造オリゴマー安定性のことを言う。
【0068】
本明細書において用いられているような「界面活性剤安定」という語句は、サイズ分画アッセイによって決定された場合、1/2,000モル比(モノマー:SDS)を含有する水溶液中の処理後のオリゴマータンパク質の大きい(50%以上)構造オリゴマー安定性のことを言う。
【0069】
本明細書および特許請求の範囲のセクションにおいて用いられているような「プロテアーゼ耐性」という語句は、37℃で少なくとも60分間、50μg/mlのプロテイナーゼKを含有する水溶液中での処理後の大きい(50%以上)安定性のことを言う。
【0070】
本明細書において用いられているような「シャペロン様活性」という語句は、タンパク質のネイティブ折りたたみ、およびネイティブオリゴマー化を仲介し、不正確なタンパク質構造の形成を防ぎ、現存の不正確なタンパク質構造をもとの状態に戻し、部分的に変性されたタンパク質またはこれらのドメイン間に発生しうる不正確な相互作用を阻害することによって、ストレス関連損傷を制限する能力のことを言う。
【0071】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の単離されたポリペプチドのアミノ酸配列は、そのアミノ酸配列を、他の分子との可逆的な分子的会合を形成することが可能であるようにするために変性される。興味深いことに、また、驚くべきことに、本発明のこの態様のポリペプチドは、天然SP1ポリペプチドの上記で述べられた活性(例えば、熱に対して安定であり、また、変性剤およびプロテアーゼに対して抵抗性があるオリゴマーを形成する能力など)を保持する(本明細書中下記における実施例2、図4〜図6を参照のこと)。
【0072】
本発明の変性SP1ポリペプチドは、野生型SP1において特徴とならない目的とする新規な活性(例えば、物質との可逆的な会合、細胞認識など)を有し、一方で、上記のSP1活性の少なくとも1つを依然として維持するように設計される。そのようなポリペプチドを試験するための様々なアッセイが本明細書中上記に記載される。
【0073】
本明細書中で使用される用語「変性アミノ酸配列」は、本明細書中上記で記載されるような天然SP1ポリペプチドのアミノ酸配列からの何らかの偏差を有するアミノ酸配列を示す。SP1ポリペプチドの変性には、アミノ酸の置換、アミノ酸の付加、アミノ酸の欠失、SP1ポリペプチドへのジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチドの付加、アミノ酸配列の1つの部分からその配列の別の部分への1つ以上のアミノ酸の入れ換え、存在するアミノ酸の変化(例えば、側鎖の架橋または一部分の除去など)、リンカーの付加、アミノ酸配列の短縮化、非ペプチド成分(例えば、炭水化物、脂質および核酸など)の付加、磁気性質を有する物質の導入などが含まれるが、これらに限定されない。具体的な変性の様々な例が本明細書中下記に詳しく記載される。
【0074】
変性SP1変異体ポリペプチドは、特定の性質をSP1変異体に付与し、それにより、他の物質との分子的複合体化および他の物質の放出をより効率的および制御可能にし、また、特定の条件に対して適合可能にするために変性することができる。従って、例えば、チオール(S−H)基の付加は、レドックス感受性の分子的複合体の形成を有するSP1変異体を、SP1および複合体化する物質の間で、また、SP1のモノマー、ダイマー、トリマーなどの間でもたらすことができる。これは、服用および薬物療法の特異性を改善する薬物キャリアを設計するために有用であり得る。さらに、無機分子(例えば、金属および他のイオンなど)と可逆的に結合することができるオリゴペプチド配列またはポリペプチド配列の付加によるSP1ポリペプチドのアミノ酸配列の変性は、導電性組成物を形成し、SP1ポリペプチドによって形成される分子的複合体の磁気的性質を変化させるために有用であり得る。オリゴマーサブユニット間の相互作用(例えば、ダイマー・ダイマーまたはモノマー・モノマーの相互作用など)を変化させるSP1アミノ酸配列の変性は、オリゴマーの立体配座を安定化または脱安定化させ、これにより、SP1変異体を化学的環境に対して潜在的により抵抗性にするために、または、潜在的にあまり抵抗性にしないようにするために役立ち得る。そのような増大した安定性または低下した安定性は、キャリア(例えば、薬物キャリア)としての変性SP1変異体の性質に影響を及ぼすように設計することができる。SP1変異体のサブユニット・サブユニットの相互作用におけるそのような変性はまた、SP1に基づくナノ構造体の性質を設計および制御するために使用することができる。
【0075】
SP1−複合体形成はまた、2つの隣接するサブユニットの間を架橋するための分子間架橋機構に基づき得ることが理解される。例には、チオール、アミン、カルボキシルおよびヒドロキシルの反応性架橋試薬が含まれる。そのような場合において、制御された放出機構はまた、切断可能な架橋剤を使用することによるのと同様に、酵素活性による架橋の切断に基づくことができる。
【0076】
上記で述べられたように、SP1アミノ酸配列は、さらなるペプチド成分を含むように変性することができる。従って、代替として、また、加えて、SP1ポリペプチドは、少なくとも1つの認識配列を含むように変性することができる。そのような認識配列には、標的認識配列(例えば、細胞表面認識配列など)、特異的なリガンド(例えば、受容体結合リガンド、抗体またはその一部分(例えば、抗体結合部位など))、器官および組織に特異的な認識配列、発達段階に特異的な認識配列、種および性に特異的な認識配列、ならびに、特定の疾患または状態と相関する認識配列が含まれるが、これらに限定されない。好適な認識配列の非限定的な列挙には、下記の腫瘍表面特異的ペプチドが含まれる:
本発明の変性SP1ポリペプチドとともに使用される好適な腫瘍血管ペプチドには、下記のペプチドが含まれるが、それらに限定されない:
【0077】
本明細書中上記で述べられたように、本発明のSP1ポリペプチドは、物質との可逆的な分子的会合を形成するように変性することができる。本発明のポリペプチドとの可逆的な複合体を設計するために好適な物質には、治療薬、診断用薬または化粧剤が含まれるが、これらに限定されない。好適な治療薬、診断用薬または化粧剤には、ポリペプチド剤、核酸剤、脂質剤、炭水化物剤および小分子が含まれるが、これらに限定されない。
【0078】
本発明のポリペプチドとともに使用するために好適な治療薬として、限定されるものではないが、抗炎症薬物および抗癌(腫瘍)薬物のような薬物および生物学的に活性な分子が挙げられる。本発明のSP1と会合する分子に複合されることができる抗炎症薬物として、限定されるものではないが、アルクロフェナック;アルクロメタゾンジプロピオン酸塩;アルゲストンアセトニド;アルファアミラーゼ;アムシナファール;アムシナフィド;アムフェナックナトリウム;アミプリローズ塩酸塩;アナキンラ;アニロラック;アニトラザフェン;アパゾン;バルサラジド二ナトリウム;ベンダザック;ベノキサプロフェン;ベンジダミン塩酸塩;ブロメライン;ブロペラモール;ブデソニド;カルプロフェン;シクロプロフェン;シンタゾン;クリプロフェン;クロベタゾールプロピオン酸塩;クロベタゾン酪酸塩;クロピラック;クロチカゾンプロピオン酸塩;コルメタゾン酢酸塩;コルトドキソン;デフラザコルト;デソニド;デソキシメタゾン;デキサメタゾン二プロピオン酸塩;ジクロフェナックカリウム;ジクロフェナックナトリウム;ジフロラゾン二酢酸塩;ジフルミドンナトリウム;ジフルニザール;ジフルプレドネート;ジフタロン;ジメチルスルホキシド;ドロシノニド;エンドリゾン;エンリモマブ;エノリカムナトリウム;エピリゾール;エトドラック;エトフェナメート;フェルビナック;フェナモール;フェンブフェン;フェンクロフェナック;フェンクロラック;フェンドザール;フェンピパロン;フェンチアザック;フラザロン;フルアザコルト;フルフェナム酸;フルミゾール;フルニゾリド酢酸塩;フルニキシン;フルニキシンメグルミン;フルオコルチンブチル;フルオロメトロン酢酸塩;フルクアゾン;フルルビプロフェン;フルレトフェン;フルチカゾンプロピオン酸塩;フラプロフェン;フルブフェン;ハルシノニド;ハロベタゾールプロピオン酸塩;ハロプレドン酢酸塩;イブフェナック;イブプロフェン;イブプロフェンアルミニウム;イブプロフェンピコノール;イロニダップ;インドメタシン;インドメタシンナトリウム;ヨードプロフェン;インドキソール;イントラゾール;イソフルプレドン酢酸塩;イソキセパック;イソキシカム;ケトプロフェン;ロフェミゾール塩酸塩;ロモキシカム;ロテプレドノールエタボネート;メクロフェナメートナトリウム;メクロフェナム酸;メクロリゾン二酪酸塩;メフェナム酸;メサラミン;メセクラゾン;メチルプレドニゾロンスレプタネート;モミフルメート;ナブメトン;ナプロキセン;ナプロキセンナトリウム;ナプロキソール;ニマゾン;オルサラジンナトリウム;オルゴテイン;オルパノキシン;オキサプロジン;オキシフェンブタゾン;パラニリン塩酸塩;ペントザンポリサルフェートナトリウム;フェンブタゾンナトリウムグリセレート;ピルフェニドン;ピロキシカム;ピロキシカムシンナメート;ピロキシカムオラミン;ピルプロフェン;プレドナゼート;プリフェロン;プロドリン酸;プロカゾン;プロキサゾール;プロキサゾールクエン酸塩;リメキソロン;ロマザリット;サルコレックス;サルナセジン;サルサレート;サンギナリウム塩化物;セクラゾン;セルメタシン;スドキシカム;スリンダック;スプロフェン;タルメタシン;タルニフルメート;タロサレート;テブフェロン;テニダップ;テニダップナトリウム;テノキシカム;テシカム;テシミド;テトリダミン;チオピナック;チキソコルトールピバリン酸塩;トルメチン;トルメチンナトリウム;トリクロニド;トリフルミデート;ジドメタシン;ゾメピラックナトリウムが挙げられる。
【0079】
本発明のポリペプチドと複合されかつそれとともに使用されるために好適な抗癌薬物として、限定されるものではないが、アシビシン;アクラルビシン;アコダゾール塩酸塩;アクロニン;アドリアマイシン;アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン;アンボマイシン;アメタントロン酢酸塩;アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アントラマイシン;アスパラギナーゼ;アスペルリン;アザシチジン;アゼテパ;アゾトマイシン;バチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;ビスアントレン塩酸塩;ビスナフィドジメシレート;ビゼレシン;ブレオマイシン硫酸塩;ブレキナールナトリウム;ブロピリミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カルベチマー;カルボプラチン;カルムスチン;カルビシン塩酸塩;カルゼレシン;セデフィンゴル;クロラムブシル;シロレマイシン;シスプラチン;クラドリビン;クリスナトールメシレート;シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;ダウノルビシン塩酸塩;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン;デザグアニンメシレート;ジアジクオン;ドセタキセル;ドキソルビシン;ドキソルビシン塩酸塩;ドロロキシフェン;ドロロキシフェンクエン酸;ドロモスタノロンプロピオン酸塩;ドゥアゾマイシン;エダトレキセート;エフロルニチン塩酸塩;エルサニトルシン;エンロプラチン;エンプロメート;エピプロピジン;エピルビシン塩酸塩;エルブロゾル;エソルビシン塩酸塩;エストラムスチン;エストラムスチンリン酸ナトリウム;エタニダゾール;エトポシド;エトポシドリン酸塩;エトプリン;ファドロゾール塩酸塩;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスリジン;フルダラビンリン酸塩;フルオロウラシル;フルロシタビン;フォスキドン;フォストリエシンナトリウム;ゲムシタビン;ゲムシタビン塩酸塩;ヒドロキシ尿素;イダルビシン塩酸塩;イフォスファミド;イルモフォシン;インターフェロンα−2a;インターフェロンα−2b;インターフェロンα−n1;インターフェロンα−n3;インターフェロンβ−Ia;インターフェロンγ−Ib;イプロプラチン;イリノテカン塩酸塩;ランレオチド酢酸塩;レトロゾール;ロイプロリド酢酸塩;リアゾゾール塩酸塩;ロメトレキソールナトリウム;ロムスチン;ロソキサントロン塩酸塩;マソプロコール;メイタンシン;メクロレタミン塩酸塩;メゲストロール酢酸塩;メレンゲストロール酢酸塩;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキセート;メトトレキセートナトリウム;メトプリン;メツレデパ;ミチンドミド;マイトカルシン;マイトクロミン;マイトギリン;マイトマルシン;マイトマイシン;マイトスペール;マイトタン;マイトキサントロン塩酸塩;マイコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;ペガスパルガーゼ;ペリオマイシン;ペンタムスチン;ペプロマイシン硫酸塩;ペルフォスファミド;ピポブロマン;ピポスルファン;ピロキサントロン塩酸塩;プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィメールナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニムスチン;プロカルバジン塩酸塩;ピューロマイシン;ピューロマイシン塩酸塩;ピラゾフリン;リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール;サフィンゴール塩酸塩;セムスチン;シムトラゼン;スパルフォセートナトリウム;スパルソマイシン;スピロゲルマニウム塩酸塩;スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン;スロフェヌール;タリソマイシン;タキソール;テコガランナトリウム;テガフール;テロキサントロン塩酸塩;テモポルフィン;テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;チアミプリン;チオグアニン;チオテパ;チアゾフイリン;チラパザミン;トポテカン塩酸塩;トレミフエンクエン酸;トレストロン酢酸塩;トリシリビンリン酸塩;トリメトレキサート;トリメトレキサートグルクロン酸塩;トリプトレシン;ツブロゾール塩酸塩;ウラシルマスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;ビンブラスチン硫酸塩;ビンクリスチン硫酸塩;ビンデシン;ビンデシン硫酸塩;ビネピジン硫酸塩;ビングリシネート硫酸塩;ビンロイロシン硫酸塩;ビノレルビン酒石酸塩;ビンロシジン硫酸塩;ビンゾリジン硫酸塩;ベロゾール;ゼニプラチン;ジノスタチン;ゾルビシン塩酸塩が挙げられる。さらなる抗新生物剤として、GoodmanおよびGilmanの「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,Eighth Edition,1990、McGraw−Hill,Inc.(Health Brofessions Division)のChapter 52,Antineoplastic Agents(Paul CalabresiおよびBruce A.Chabner)、およびそれに対する緒言、1202−1263に開示されたものが挙げられる。
【0080】
本発明のSP1ポリペプチドとともに使用することができる診断用物質には、放射性物質、発光物質、高周波送信物質および高周波受信物質、磁気物質、着色物質、化学的に活性な物質(例えば、酸化剤、還元剤、架橋剤など)、FRET対、量子ドット、分子認識ができる生化学的物質(例えば、核酸、抗体など)、生物学的に活性な物質(例えば、酵素など)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0081】
本発明の別の態様によれば、物質は導電性薬剤または半導電性薬剤である。本明細書中で使用される「導電性薬剤」は、電気的に帯電した粒子を伝導媒体により移動させることができる薬剤を示す。導電性薬剤の例には、金属および多くのイオン性物質が含まれる。本明細書中で使用される「半導電性薬剤」は、所与の条件のもとでは、電気的に帯電した粒子を伝導媒体により移動させることができる、絶縁性の性質を有する薬剤を示す。半導電性薬剤は、非常に低い温度では絶縁体として挙動し、室温では、導体よりもはるかに低い伝導性であるが、感知できる電気伝導性を有する。一般に使用される半導電性物質は、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウムおよびテルル化水銀カドミウムである。
【0082】
導電性薬剤(例えば、金属および他の無機のイオン性物質など)との複合体形成のために好適であることが示された変性には、ニッケルイオンおよび他の金属イオンとの複合体形成のための6Hhisタグ(配列番号122)が含まれる。本明細書中下記の表1は、SP1ポリペプチドの変性のために好適である無機のイオン性物質との複合体を形成するさらなるペプチドの非限定的な列挙である(Sarikaya他、Ann Rev Mater Res、2004、34:373〜408からの改編)。
【0083】
【0084】
従って、例えば、本発明の変性SP1ポリペプチドは、様々な治療用物質、化粧用物質、診断用物質、導電性物質などとの可逆的な分子的会合の状態であり得る。
【0085】
本明細書中上記で述べられたように、変性SP1変異体ポリペプチドは、特定の性質をSP1変異体に付与し、それにより、他の物質との分子的複合体化および他の物質の放出をより効率的および制御可能にし、また、特定の条件に対して適合可能にするために変性することができる。SP1ポリペプチド複合体およびSP1オリゴマー複合体の性質に対する集中した研究を通して、SP1ポリペプチドの特定の配列がSP1ファミリーに特徴的な性質の1つ以上と関連していることが理解される(例えば、Dgany他、JBC、2004、279:51516〜523を参照のこと)。従って、SP1ポリペプチドの特定の領域における変性を導入することができ、そのような変性は、その結果として、SP1変異体の性質(例えば、分子的会合の様式、オリゴマー形成など)における所望される変化をもたらすことができる。Dgany他(JBC、2004、279:51516〜523)はSP1ポリペプチドにおける数多くの構造的に重要な領域を特定している。
【0086】
SP1モノマータンパク質は、3つのα−らせん、すなわち、H1(残基23〜39)、H2a(残基74〜81)およびH2b(残基84〜93)を伴うα型およびβ型の折り畳みと、4つの逆平行のβ鎖、すなわち、B3(残基9〜17)、B1(残基45〜50)、B2(残基65〜71)およびB4(残基97〜108)によって形成されるβ−シートとを有する。N末端セグメントが溶媒の方を向き、可動性である。長い、大部分が構造化されていないループが、ダイマー接触に関与し得る残基51〜64によって形成される。H1およびH2のらせんにより、向き合うβ−シートとともに中心の空洞を形成する外側の凸型表面が規定される。従って、例えば、この長いループの内部での変性は、ダイマー・ダイマーの接触の安定性に影響を及ぼし(強化または低下)、また、オリゴマー形成に影響を及ぼし、これにより、例えば、投与後のより長い半減期または短くなった半減期を有するSP1変異体薬物キャリアをもたらすことができる。
【0087】
ダイマーは、最小の安定なSP1ユニットであると考えられる。ダイマーにおける2つの分子は、らせんH1ならびにβ−シートのB3およびB4に対して平行な2回軸によって関連づけられる。2つの分子のβ−シートの外側表面により、中心の空洞を規定するβバレル様構造が形成される。SP1ポリペプチドのこの領域の変性は内部の疎水性の分子環境に影響を及ぼすことがあり、その結果として、疎水性分子との複合体を形成する能力の増強または低下のいずれかをもたらし得る。
【0088】
オリゴマー状のドデカマーにおいて、ダイマー間の接触は主に親水性側鎖および荷電基を伴うか、または、水分子によって媒介される。これらの接触は主として、B1、H1およびN末端テールに沿って生じる。表2には、Dgany他(JBC、2004、279:51516〜523)によって記載されるSP1ポリペプチドの特定の領域における変性を含めて、変性アミノ酸配列を有する作製された新規なSP1変異体の非限定的な列挙が示される。
【0089】
ND 測定されず;NA 適用不能
1.変異についての標準名称法(最初のメチオニン残基を含む野生型配列を使用するアミノ酸位置)
2.2位でのCys残基の挿入および19位でのグリシン残基の挿入 K18R(Cys2loop1RGd)
3.サンプルを適用緩衝液において煮沸しない場合の、SDSPAGEによる試験。いくつかのSP1変異体は発現時に可溶性タンパク質を形成することができず、封入体(IB)を形成する。このようなIBは0.5M尿素によりアンフォールドされ、透析によってリフォールドされた。
4.SP1モノマーならびにほとんどの他のタンパク質が分解する条件であるプロテイナーゼK処理(50ug/ml;30分;℃)またはアルカラーゼ処理(1/1000の希釈度、60分;45℃)のいずれかの後におけるSDS PAGEによる試験。
5.2MのGHClでのインキュベーション(室温で1時間)の後での複合体安定性がSDS PAGEによって試験された。
6.熱安定性タンパク質は、100℃での10分間のインキュベーションまたは85℃での30分のインキュベーションの熱処理後で沈殿しないタンパク質として定義される。
7.タンパク質の融点がDSCによって調べられた。
8.サンプルがb−メルカプトエタノールの非存在下または存在下で適用緩衝液において10分間煮沸される際の、ダイマー形成がSDS PAGEによって試験される。
9.封入体(IB)のリフォールディングは調べられなかった。
10.複合体をIBのリフォールディングの後で形成する。複合体の集合が、プロテイナーゼ消化を使用してモノマー形態を除くことによって確認された。
【0090】
表2に示されるように、例えば、チオール基を有するアミノ酸の付加を含む変性は、特徴的には、レドックス依存的(β−ME)なダイマー形成を有し、また、ポリペプチドのN末端部分のアミノ酸配列における変性は、典型的には、オリゴマー複合体を形成する能力、プロテアーゼ消化に対する抵抗性、熱安定性、および、グアニジニウムHCl変性に対する抵抗性を保持する。
【0091】
変性SP1変異体の様々な例、例えば、SP1 6H(配列番号7)、SP1 ΔN(配列番号2)、Cys2 SP1(配列番号3)、CRGD SP1(配列番号5)およびRGDC SP1(配列番号6)などが、特徴的な安定性および抵抗性を示したホモオリゴマー複合体およびヘテロオリゴマー複合体を形成した。
【0092】
従って、本発明を実施に移しているとき、いくつかの変性SP1変異体が、煮沸およびプロテアーゼに対して安定性を有する複合体を形成する一方で、他の変性SP1変異体がオリゴマー複合体を脱安定化させることが発見された。N末端短縮化(ΔN)SP1変異体(配列番号2)および6Hヒスチジンタグ化SP1変異体(配列番号7)は、安定なオリゴマー複合体形成を保持した(図3、実施例2)。他方で、他の置換は、複合体形成の脱安定化をもたらし、また、組換えタンパク質の溶解性を低下させた(図5、実施例3を参照のこと)。
【0093】
さらに、変性SP1変異体は、オリゴマーの高分子量複合体を形成する能力を保持していた。6Hタグ化型(配列番号7)およびN末端短縮化型(配列番号2)は、極端な条件によってモノマーに解離させたとき、オリゴマー形態をホモオリゴマー(ΔN−ΔN、および、6H 6H)およびヘテロオリゴマー(ΔN 6H)の両方の立体配座で回復した(図5、実施例3)。
【0094】
SPポリペプチドアミノ酸配列の変性を、化学的手段、組換え手段または他の手段によって導入することができる。1つの実施形態において、SP1のアミノ酸配列の変性は化学的修飾であり、例えば、カルボジイミドによるコンジュゲート化、グルタルアルデヒドによるコンジュゲート化、SPDPによるコンジュゲート化、アシル化、グリコシル化、官能基の変化、アミノ酸の架橋、および、欠失などである。アミノ酸配列を、非ペプチド分子(例えば、脂質、核酸および炭水化物など)の(通常的には、共有結合での)付加によって変性することができる。ペプチド変性の他の例が本明細書中に詳しく記載される。
【0095】
本明細書中で使用される用語「ペプチド」には、天然のペプチド(分解産物または合成的に合成されたペプチドまたは組換えペプチドのいずれか)、ペプチド模倣体(典型的には合成的に合成されたペプチド)そしてペプチドアナログであるペプトイドおよびセミペプトイドが含まれ、これらは、例えば、ペプチドを体内でより安定化させる修飾、またはペプチドの細胞浸透能力を高める修飾を有し得る。そのような修飾には、N末端修飾、C末端修飾、ペプチド結合の修飾(CH2−NH、CH2−S、CH2−S=O、O=C−NH、CH2−O、CH2−CH2、S=C−NH、CH=CHまたはCF=CHを含むが、これらに限定されない)、骨格の修飾、および残基の修飾が含まれるが、これらに限定されない。ペプチド模倣体化合物を調製するための方法はこの分野では十分に知られており、例えば、Quantitative Drug Design,C.A.Ramsden Gd.,Chapter 17.2,F.Choplin Pergamon Press(1992)に具体的に記載される(これは、全体が本明細書中に示されるように参考として組み込まれる)。これに関するさらなる詳細が本明細書中下記に示される。
【0096】
本明細書中で意図されるSP1ポリペプチドでは、側鎖に対する修飾、ペプチド合成時における非天然アミノ酸および/またはその誘導体の取り込み、ならびに、立体配座の制約をペプチドまたはそのアナログに負わす架橋剤および他の方法の使用が含まれるが、これらに限定されない。
【0097】
本発明によって意図される側鎖修飾の例には、アミノ基の修飾、例えば、アルデヒドとの反応、それに続く、NaBH4を用いた還元による還元的アルキル化などによるアミノ基の修飾;メチルアセトイミダートによるアミジン化;無水酢酸によるアシル化;シアネートによるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;ならびに、ピリドキサール−5’−リン酸によるリシンのピリドキシル化、それに続く、NaBH4を用いた還元が含まれる。
【0098】
アルギニン残基のグアニジン基を、2,3−ブタンジオン、フェニルグリオキサールおよびグリオキサールなどの試薬による複素環縮合生成物の形成によって修飾することができる。
【0099】
カルボキシル基を、O−アシルイソウレア形成によるカルボジイミド活性化、それに続く、例えば、対応するアミドへのその後の誘導体化によって修飾することができる。
【0100】
スルフヒドリル基を、様々な方法によって、例えば、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化;システイン酸への過ギ酸酸化;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸または他の置換マレイミドとの反応;4−クロロメルクリベンゾアート、4−クロロメルクリフェニルスルホン酸、塩化フェニル水銀、2−クロロメルクリ−4−ニトロフェノールおよび他の水銀化合物を使用する水銀誘導体の形成;アルカリ性pHでのシアネートによるカルバモイル化などによって修飾することができる。
【0101】
トリプトファン残基を、例えば、N−ブロモスクシンイミドによる酸化、あるいは、2−ヒドロキシ−5−ニトロベンジルブロミドまたはスルフェニルハリドによるインドール環のアルキル化によって修飾することができる。他方で、チロシン残基を、3−ニトロチロシン誘導体を形成するためのテトラニトロメタンによるニトロ化によって変化させることができる。
【0102】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾を、ヨード酢酸誘導体によるアルキル化、または、ジエチルピロカルボネートによるN−カルボエトキシル化によって達成することができる。
【0103】
ペプチド合成時に非天然アミノ酸および誘導体を取り込む例としては、ノルロイシン、4−アミノ酪酸、4−アミノ−3−ヒドロキシ−5−フェニルペンタン酸、6−アミノヘキサン酸、t−ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−メチルヘプトン酸、2−チエニルアラニン、および/または、アミノ酸のD−異性体の使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
ペプチド内のペプチド結合(−CO−NH−)は、例えば、N−メチル化結合(−N(CH3)−CO−)、エステル結合(−C(R)H−C−O−O−C(R)−N−)、ケトメチレン結合(−CO−CH2−)、α−アザ結合(−NH−N(R)−CO−)(式中、Rは任意のアルキル(例えば、メチル)である)、カルバ結合(−CH2−NH−)、ヒドロキシエチレン結合(−CH(OH)−CH2−)、チオアミド結合(−CS−NH−)、オレフィン二重結合(−CH=CH−)、レトロアミド結合(−NH−CO−)、ペプチド誘導体(−N(R)−CH2−CO−)(式中、Rは、炭素原子において自然界で示される「通常」の側鎖である)によって置換することができる。
【0105】
これらの修飾は、ペプチド鎖に沿った結合の任意のところに存在させることができ、そして同時に数カ所(2カ所〜3カ所)においてさえ存在させることができる。
【0106】
天然の芳香族アミノ酸(Trp、TyrおよびPhe)は、TIC、ナフチレンアミン(Nol)、Pheの環メチル化誘導体、Pheのハロゲン化誘導体、またはo−メチル−Tyrなどの合成された非天然型の酸に置換することができる。
【0107】
上述のことに加えて、本発明のペプチドは一以上の修飾されたアミノ酸または一以上の非アミノ酸モノマー(例えば脂肪酸、複合体炭水化物など)も含むことができる。
【0108】
用語「アミノ酸」には、20個の天然に存在するアミノ酸;インビボで多くの場合には翻訳後修飾されたそのようなアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンおよびホスホトレオニンを含む);および他の非通常型アミノ酸(2−アミノアジピン酸、ヒドロキシリシン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシンおよびオルニチンを含むが、これらに限定されない)が含まれることが理解される。さらに、用語「アミノ酸」には、D−アミノ酸およびL−アミノ酸の両方が含まれる。
【0109】
下記の表3および表4は、全ての天然に存在するアミノ酸(表3)および非通常型アミノ酸または修飾型アミノ酸(表4)を列挙する。
【0110】
【0111】
【0112】
本発明のペプチドは線状形態で利用されることができるが、環化がペプチドの特性をひどく妨害しない場合、ペプチドの環状形態もまた利用できることが理解される。
【0113】
本発明のペプチドは、ペプチド合成の分野における当業者に既知の任意の技術によって合成することができる。固相ペプチド合成については、その多くの技術の要約が、J.M.StewartおよびJ.D.Young、Solid Phase Peptide Synthesis(W.H.Freeman Co.(San Francisco)、1963)に、また、J.Meienhofer、Hormonal Proteins and Peptides(第2巻、46頁、Academic Press(New York)、1973)に見出され得る。古典的な溶液合成については、G.SchroderおよびK.Lupke、The Peptides(第1巻、Academic Press(New York)、1965)を参照のこと。
【0114】
一般に、これらの方法は、1つ以上のアミノ酸または好適に保護されたアミノ酸を成長中のペプチド鎖に逐次付加することを含む。通常、最初のアミノ酸のアミノ基またはカルボキシル基のいずれかが好適な保護基によって保護される。保護または誘導体化されたアミノ酸は、その後、好適に保護された相補的な(アミノまたはカルボキシル)基を有する配列内の次のアミノ酸を、アミド連結を形成するために好適な条件のもとで加えることによって、不活性な固体担体に結合することできるか、または、溶液中で利用することができる。その後、保護基が、この新しく付加されたアミノ酸残基から除かれ、その後、次のアミノ酸(好適に保護されたアミノ酸)が加えられ、以降、同様に繰り返される。所望されるアミノ酸のすべてが適切な配列で連結された後、いずれかの残留する保護基(および何らかの固体担体)が、最終的なペプチド化合物を得るために、逐次的または同時に除かれる。この一般的な手順の簡便な変性によって、2つ以上のアミノ酸を一度に、例えば、保護されたトリペプチドを適切に保護されたジペプチドに(キラル中心をラセミ化させない条件のもとで)カップリングして、脱保護後にペンタペプチドを形成することなどによって、成長中の鎖に付加することが可能である。ペプチド合成のさらなる記載が米国特許第6472505号に開示される。
【0115】
本発明のペプチド化合物を調製する1つの方法では、固相ペプチド合成が伴う。大規模なペプチド合成がAndersson(Biopolymers、2000、55(3):227〜50)によって記載される。
【0116】
別の方法として、または加えて、様々な変性を、核酸コード配列を変性し(置換、欠失、挿入など)、その配列を、形質転換された細胞または生物において発現し、それにより、変性組換えSP1変異体ポリペプチドを作製することによる遺伝子的方法によってSP1ポリペプチドのアミノ酸配列に導入することができる。遺伝子レベルでの変性方法には、部位特異的変異誘発およびランダム変異誘発が含まれるが、これらに限定されない。組換えポリペプチドの翻訳後修飾(例えば、グリコシル化など)のためのシグナルもまたコード配列に導入することができる。
【0117】
従って、本発明の別の態様によれば、配列番号2〜配列番号30のいずれかで示されるようなアミノ酸配列を有する変性SP1ポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0118】
本発明のポリヌクレオチドは宿主生物における組換え発現のためのベクターに導入することができることが理解される。本発明の別の態様によれば、本明細書中に記載される単離された核酸を含む核酸構築物が提供される。
【0119】
好ましい実施形態によれば、本発明のこの態様による核酸構築物はさらに、センス配向でのポリヌクレオチドの発現を調節するためのプロモーターを含む。そのようなプロモーターは、その下流側に存在する配列を転写するDNA依存性RNAポリメラーゼと結合するために役立つように転写のために要求されるシス作用の配列エレメントであることが知られている。
【0120】
本明細書中に記載されるポリヌクレオチドは本発明の不可欠な要素であり、様々な状況で使用することができる。本発明のポリヌクレオチドと併せて使用されるのに最適なプロモーターは二次的に重要であり、任意の好適なプロモーターを含む。しかしながら、転写開始部位がオープンリーディングフレームの上流側に確実に配置されるようにすることが必要であることが当業者によって理解される。本発明の好ましい実施形態において、選択されるプロモーターは、宿主細胞が細菌、酵母、あるいは、植物または動物の高等細胞であっても、目的とする特定の宿主細胞において活性があるエレメントを含む。
【0121】
本発明による構築物は、好ましくは、適切な選択マーカーをさらに含む。本発明によるより好ましい実施形態において、構築物はさらに複製起点を含む。本発明による別の最も好ましい実施形態において、構築物はシャトルベクターであり、この場合、シャトルベクターは、大腸菌(この場合、構築物は適切な選択マーカーおよび複製起点を含む)において増殖することができ、選ばれた生物の細胞における増殖、または、選ばれた生物のゲノムにおける組み込みのための適合性を有することができる。本発明のこの態様による構築物は、例えば、プラスミド、バクミド、ファージミド、コスミド、ファージ、ウイルスまたは人工染色体が可能である。
【0122】
本発明の構築物は、それによってコードされるポリペプチドを、細菌(例えば、大腸菌など)、酵母細胞から、高等細胞(例えば、植物の細胞など)にまで及ぶ様々な種において発現させるために使用することができる。発現は、安定的または一過性であるように選択することができる。
【0123】
植物の形質転換を行うために、プロリンの産生を触媒することができる酵素をコードする外因性ポリヌクレオチドが、好ましくは、植物細胞または植物組織へのそのような外因性ポリヌクレオチドの導入および植物における酵素の発現を容易にするために役立つ核酸構築物(1つ以上)に含まれる。
【0124】
本発明のポリペプチドは、(本明細書中上記で述べられたような)そのSP−1活性を保持するので、本明細書中下記においてさらに記載されるように、以前に記載され、また、現時点で想定されるような無数の適用において使用することができる。望ましい場合、天然SP−1ポリペプチドもまた本発明に従って使用され得ることが理解される。
【0125】
本発明の1つの態様によれば、治療薬、診断用薬または化粧剤をその必要性のある対象に送達する方法が提供され、この場合、この方法は、そのような薬剤との分子的会合の状態で本発明のSP−1ポリペプチドを含む組成物の治療効果的な量、化粧効果的な量または診断効果的な量を対象に投与することを含む。好ましい実施形態において、SP1ポリペプチドは、変性SP1ポリペプチドである。別の実施形態において、薬剤との分子的会合は可逆的な会合である。
【0126】
本明細書中で使用される表現「治療薬」は、その投与が所与の状態の何らかの態様における改善を引き起こすことができる任意の薬剤を示す。治療薬は症状的に効果的であってもよく、部分的に効果的であってもよく、治療薬が投与される任意の状態の治癒、治療、軽減、そのような状態の進行の防止、そのような状態についての予後の改善などをもたらすことができる。治療薬は単独で効果的であり得るか、または、他の薬剤に対する補助物として効果的であり得る。治療薬は短期間および/または長期間で効果的であり得るし、また、広範囲の様々な状態において幅広く効果的であり得るか、または、その有効性において狭く、特異的であり得る。
【0127】
本明細書中で使用される表現「診断用薬」は、患者における何らかの疾患または状態の存在または非存在を診断するための方法に関連して使用される任意の薬剤を示す。例示的な診断用薬には、例えば、患者の超音波診断、磁気共鳴画像化またはコンピューター断層撮影法に関連して使用される造影剤が含まれる。
【0128】
本明細書中で使用される用語「化粧剤」は、美的効果のためにヒトの皮膚に局所的に適用することができ、また、好ましくは刺激を引き起こさない任意の薬剤(例えば、顔料または香料など)を示す。様々な化粧剤がこの分野では広く知られており、皮膚または局所的に適用することができる、口紅、アイシャドウ、口紅、ファンデーションおよび他の形態の「化粧品」、クリーム、ペースト、ローション、香膏、スプレー、ゲル、フォームなどのような製造物に含められる(例えば、クリーム(例えば、グリースクリームまたはドライクリーム)など)。
【0129】
本明細書中で使用される表現「その必要性のある対象」は、本発明の組成物の投与からの利益を得ることができる任意の対象を示す。そのような対象は、例えば、組成物の投与が治療的効果または有益な効果を有し得る特定の状態を有する対象、または、そのような状態を有する危険性がある対象が可能である。
【0130】
本発明の組成物は、それ自体で、あるいは、本発明の組成物が好適なキャリアまたは賦形剤と混合される医薬組成物で生物に投与することができる。
【0131】
本発明の組成物は、医薬組成物であることができる。本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される有効成分の1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、生理学的に好適なキャリアおよび賦形剤など)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0132】
本明細書中において、用語「有効成分(活性成分)」は、SP1またはSP1変異体単独、または生物学的効果を担う物質または薬剤と分子的会合状態にあるSP1またはSP1変異体を示す。
【0133】
以降、交換可能に使用されうる表現「医薬的に許容され得るキャリア」および表現「生理学的に許容され得るキャリア」は、生物に対する著しい刺激を生じさせず、投与された化合物の生物学的な活性および性質を阻害しないキャリアまたは希釈剤を示す。アジュバントはこれらの表現に含まれる。
【0134】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0135】
薬物の配合および投与のための様々な技術が“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)に見出され得る(これは参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0136】
好適な投与経路には、例えば、経口送達、直腸送達、経粘膜送達、特に経鼻送達、腸管送達または非経口送達(これには、筋肉内注射、皮下注射および髄内注射、ならびに、クモ膜下注射、直接的な脳室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻内注射または眼内注射が含まれる)が含まれ得る。
【0137】
あるいは、例えば、患者の組織部位に直接的に医薬組成物の注射をすることによって、全身的な方法よりも局所的に医薬組成物を投与しうる。
【0138】
本発明の医薬組成物は、この分野で十分に知られている様々なプロセスによって、例えば、混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥の従来のプロセスによって製造することができる。
【0139】
本発明に従って使用される医薬組成物は、医薬品として使用され得る調製物への有効成分の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアを使用して従来の様式で配合することできる。適正な配合は、選ばれた投与経路に依存する。
【0140】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合し得る緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理学的な生理的食塩緩衝液など)において配合することができる。経粘膜投与の場合、浸透されるバリヤーに対して適切な浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤はこの分野では一般に知られている。
【0141】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性化合物をこの分野で広く知られている医薬的に許容され得るキャリアと組み合わせることによって容易に配合され得る。そのようなキャリアは、医薬組成物が、患者によって経口摂取される錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー剤および懸濁物などとして配合されることを可能にする。経口使用される薬理学的調製物を、固体の賦形剤を使用し、得られた混合物を場合により粉砕し錠剤または糖衣錠コアを得るために、所望する場合には好適な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して作製することができる。好適な賦形剤には、特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなど;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容され得るポリマーがある。所望する場合には、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を加えることができる。
【0142】
糖衣錠コアには、好適なコーティングが施される。この目的のために、高濃度の糖溶液を使用することができ、この場合、糖溶液は、場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有し得る。色素または顔料を、活性化合物の量を明らかにするために、または活性化合物の量の種々の組合せを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠コーティングに加えることができる。
【0143】
経口使用され得る医薬組成物には、ゼラチンから作製されたプッシュ・フィット型カプセル、ならびに、ゼラチンおよび可塑剤(例えば、グリセロールまたはソルビトールなど)から作製された軟いシールされたカプセルが含まれる。プッシュ・フィット型カプセルは、充填剤(例えば、ラクトースなど)、結合剤(例えば、デンプンなど)、滑剤(例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)および場合により安定化剤との混合で有効成分を含有することができる。軟カプセルでは、有効成分を好適な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィンまたは液状のポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁させることができる。また、安定化剤を加えることができる。経口投与される配合物はすべて、選ばれた投与経路について好適な投薬形態でなければならない。
【0144】
口内投与の場合、組成物は、従来の様式で配合された錠剤またはトローチの形態を取ることができる。
【0145】
鼻吸入による投与の場合、本発明による使用のための有効成分は、好適な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素)の使用により加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示物の形態で都合よく送達される。加圧されたエアロゾルの場合、投薬量単位が、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定され得る。ディスペンサーにおいて使用される、例えば、ゼラチン製のカプセルおよびカートリッジで、化合物および好適な粉末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプンなど)の粉末混合物を含有するカプセルおよびカートリッジを配合することができる。
【0146】
本明細書中に記載される医薬組成物は、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与のために配合することができる。注射用配合物は、場合により保存剤が添加された、例えば、アンプルまたは多回用量容器における単位投薬形態で提供され得る。組成物は、油性ビヒクルまたは水性ビヒクルにおける懸濁物または溶液剤またはエマルションにすることができ、また、懸濁化剤、安定化剤および/または分散化剤などの配合剤を含有することができる。
【0147】
非経口投与される医薬組成物には、水溶性形態での活性調製物の水溶液が含まれる。また、有効成分の懸濁物を適切な油性または水性の注射用懸濁物として調製することができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルには、脂肪油(例えば、ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、トリグリセリドまたはリポソームが含まれる。水性の注射用懸濁物は、懸濁物の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどを含有することができる。場合により、懸濁物はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために有効成分の溶解性を増大させる好適な安定化剤または薬剤を含有することができる。
【0148】
あるいは、有効成分は、好適なビヒクル(例えば、無菌の、パイロジェン非含有水溶液)を使用前に用いて構成される粉末形態にすることができる。
【0149】
本発明の医薬組成物はまた、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の座薬基剤を使用して、座薬または停留浣腸剤などの直腸用組成物に配合することができる。
【0150】
本発明に関連した使用のために好適な医薬組成物には、有効成分が、その意図された目的を達成するために効果的な量で含有される組成物が含まれる。より具体的には、治療効果的な量は、治療されている対象の病状(例えば、虚血)を予防、緩和あるいは改善するために効果的であるか、または、治療されている対象の生存を延ばすために効果的である、有効成分(核酸構築物)の量を意味する。
【0151】
治療効果的な量の決定は、特に本明細書中に提供される詳細な説明に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0152】
本発明の方法において使用される任意の調製物について、治療効果的な量または用量は、最初はインビトロでアッセイおよび細胞培養アッセイから推定することができる。例えば、用量は所望の濃度または滴定量を得るために動物モデルにおいて配合することが可能である。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。
【0153】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療効力は、細胞培養または実験動物における、インビトロで標準的な薬学的手法によって、明らかにすることができる。これらのインビトロでの細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用に対する投薬量範囲を決定するために使用することができる。投薬量は、用いられる投薬形態および利用される投与経路に依存して変化し得る。正確な配合、投与経路および投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選ぶことができる(Fingl,et al,(1975年)「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,Ch.1p.1参照)。
【0154】
投薬量および投薬間隔は、血漿または脳に、生物学的活性を誘導または抑制するために十分であるレベル(最小有効濃度、MEC)の有効成分を与えるために個々に調節することができる。MECはそれぞれの調製物について変化するが、インビトロデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は、個体の特徴、および、投与経路に依存する。様々な検出アッセイを、血漿中濃度を求めるために使用することができる。
【0155】
処置される状態の重篤度および応答性に依存して、投薬は、単回または複数回投与で行うことができ、この場合、処置期間は、数日から数週間まで、または治療が達成されるまで、または疾患状態の軽減が達成されるまで続く。
【0156】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、処置されている患者、苦痛の重篤度、投与様式、処方医の判断などに依存する。
【0157】
本発明の組成物は、所望されるならば、有効成分を含有する1つまたは複数の単位投薬形態物を含有し得るパックまたはディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キットなど)で提供され得る。パックは、例えば、金属ホイルまたはプラスチックホイルを含むことができる(例えば、ブリスターパックなど)。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が付随し得る。パックまたはディスペンサーデバイスはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局によって定められた形式で、容器に関連した通知によって適応させることがあり、この場合、そのような通知は、組成物の形態、あるいはヒトまたは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物について米国食品医薬品局によって承認されたラベル書きであり得るか、または、承認された製品添付文書であり得る。適合し得る医薬用キャリアに配合された本発明の調製物を含む組成物もまた、上でさらに詳述されたように、適応される状態を処置するために調製され、適切な容器に入れられ、かつ標識され得る。
【0158】
本発明を実施に移しているとき、SP1アミノ酸配列内へのジスルフィド架橋の導入は、特異な性質を有する変異体SP1ポリペプチドをもたらすことが発見された。N末端のシステイン残基(Cys2 P1変異体、配列番号3)は変異体SP1ポリペプチドをレドックス状態に対して感受性にする(図8b、実施例4)。従って、変性SP1は薬剤または物質の複合体化および放出の特異的な制御を示す(図8、図9、図10および図11、実施例4)(この場合、標識用物質FA)。実際、SP1−薬物複合体(例えば、Cys2 SP1−DOXなど)からの薬物分子の放出、および、Cys2 SP1−FA複合体からの蛍光性標識の放出が、レドックス状態に対して感受性があることが示された(図9〜図11、図14、図16、実施例4)。以前には達成することができなかった、複合体形成のこのような制御は、変性SP1ポリペプチドの薬物キャリア、診断ツール、ナノ構造体などを設計することにおいて好都合であり得ることが理解される。例えば、治療薬、化粧剤、芳香剤、診断用薬などの物質とのSP1複合体は、還元状態にさらすことによって形成するように誘導することができ、また、その後の時点で、チオールを有する残基についての競合によって放出するように誘導することができる(図8a〜図8cの概略図を参照のこと)。
【0159】
本発明を実施に移しているとき、特異的な腫瘍血管系認識ペプチドにより変性SP1は、特徴的なオリゴマー複合体形成、熱安定性およびプロテアーゼ抵抗性を示した(図4、実施例2)。従って、SP1は、標的認識配列または標的認識成分を含むように変性することができ、また、物質(治療薬、診断用薬、導電性薬剤など)との可逆的な複合体を形成するようにさらに変性することができる。従って、そのような変性SP1ポリペプチドは、物質の送達をSP1との可逆的な複合体で標的化するために使用することができる。
【0160】
ナノ粒子(例えば、SP1オリゴマーなど)に対する細胞毒性薬物の複合体化もまた、腫瘍への受動的な標的化を助けることができることが理解される。いくつかのモデル腫瘍系が現在、正常な組織と比較して、増大した血管透過性を示すことが知られており、そのような増大した血管透過性は、それらの選択的な標的化を、高分子の薬物キャリアを使用して可能にする。予備的な臨床観察では、増大した血管透過性はいくつかのタイプのヒトガンに特徴的であることが示唆され、従って、これは、細胞毒性薬物、抗体標的化および遺伝子治療のためのDNAの送達をはじめとする様々な高分子薬物治療を容易にすることにおけるキャリア(例えば、SP1など)の使用のための重要な意味あいを有するかもしれない。
【0161】
本発明の変性SP1ポリペプチドは、物質を安定化させるために使用することができる。本明細書中で使用される用語「安定化する」は、分子、組成物、化合物などの化学的安定性、物理的安定性または生化学的安定性を増大させることを示す。安定性はさらに、特定の性質に関連して定義することができる。好ましい実施形態において、安定性は、温度安定性、イオン強度安定性、プロテアーゼ安定性および触媒作用安定性がある。そのような安定性を測定するためのアッセイの様々な例が本明細書中下記において詳しく記載される。
【0162】
本発明を実施に移しているとき、SP1との分子の複合体化は溶液における溶解性および安定性を大きく高めたことが示された。本明細書中で使用される用語「溶解性」は、溶媒および溶質を含む溶液を形成するために、溶質が溶媒に均一に分散および溶解することができることを示す。すべての溶質は理論上、すべての溶媒に可溶であることが理解される。しかしながら、溶解性が不良であるか、または無視できるほどである溶質(非混和性溶質)は所与の溶媒との任意の有意な濃度の溶液を形成しない。
【0163】
従って、本明細書中で使用される「溶液における物質の溶解性を高める」は、溶媒との溶液において溶質としてのこの物質の濃度を増大させることを示す。好ましい実施形態において、物質は疎水性物質(これは典型的には、水に不溶性または難溶性である)であり、溶媒は水性溶媒である。
【0164】
有機溶媒に対する、変性されていないSP1ポリペプチドオリゴマー複合体および変性SP1ポリペプチドオリゴマー複合体の安定性が本明細書中下記において図18に示された。有機溶媒において疎水性分子(例えば、PTXなど)と一緒にされ、乾燥され、水性溶媒において再構成されたとき、SP1と、疎水性分子との間での分子的会合および複合体形成は、PTXを水溶性にした(図19および図20)。従って、SP1を、溶液における物質の溶解性を高めるために使用することができる。好ましい実施形態において、物質は疎水性物質であり、溶液は水溶液である。そのような物質(例えば、疎水性の薬物、揮発性エステルおよび他の分子、芳香分子、化粧用分子、オイル、顔料、ビタミン、有機分子など)を、水および水性溶媒と混合するために可溶化することができる。さらに、本発明を実施に移しているとき、凍結乾燥されたSP−PTX複合体が再構成後も安定したままであることが示された(本明細書中下記の実施例5を参照のこと)。従って、SP1および変性SP1変異体との分子的会合および複合体形成を、疎水性分子、揮発性分子、不安定な分子など(例えば、PTXなど)のより効果的な保存のために使用することができる。
【0165】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の変性SP1ポリペプチドは2つ以上の変性をアミノ酸配列に有することができる。従って、例えば、無機分子(例えば、金属イオン;本明細書中上記の表1を参照のこと)と複合体化することができる変性SP1ポリペプチドは、第2の物質との可逆的な分子的会合を形成するためにさらに変性することができ、また、無機分子を含む任意の表面に第2の物質を送達するために使用することができる。そのような会合はナノテクノロジー適用および固体工学適用において有用であり得る。この場合、変性SP1複合体は、均一かつ所定の分子厚さの第2の物質の層を堆積させるために使用することができる。例えば、ドープ物質または絶縁性物質のそのような送達方法は、平らでない表面を覆う使用のためには特に好都合である。
【0166】
本発明の変性SP1ポリペプチドは、生体模倣適用における無機分子の制御された送達および放出のために使用することができる。SP1は、アミノ酸配列の変性によって変化させることができる整列した幾何学的立体配座で自己集合することが示されている(図1および図2を参照のこと)。キャリア能力(例えば、無機分子の可逆的な結合など)を提供するためのさらなる変性は、生体模倣プロセス(例えば、制御された結晶形成など)における分子キャリアとして役立つように変性SP1分子をもたらすことができる。そのような変性SP1ポリペプチドは、例えば、無機分子の正確な送達および放出のために、また、制御されない凝集をナノスケールプロセスにおいて防止するために、また、十分に規定された制御可能な性質を有するカップリング分子として有用であり得る(生体模倣技術の主題の最近の総説については、Sarikaya他、Ann Rev Mater Res、2004、34:373〜408を参照のこと)。
【0167】
本発明のSP1ポリペプチドは、ナノスケールの構造体およびデバイスを作製および操作するために使用することができる。結合性のペプチドおよびタンパク質が、分子レベルで、また、遺伝学によって選択および設計され、これにより、可能な限り小さい寸法スケールでの制御が可能になるので、様々なポリペプチドがナノスケール技術において利点を有する。また、そのようなタンパク質は、合成された実体(ナノ粒子、機能的ポリマー、あるいは、他のナノ構造体または分子テンプレートを含む)をつなぐためのリンカーまたは「分子エレクター・セット」として使用することができる。さらに、生物学的分子は、整列したナノ構造体に自己集合および共集合し、従って、これは、自然界に見出される構造体に類似する複雑なナノ構造体、および、場合によると、階層的な構造体を構築するための強固な組み立てプロセスを保証する。
【0168】
本明細書中上記で述べられたように、本発明のSP1ポリペプチドは自己集合して、規則的かつ予測可能なナノスケール構造体を形成することができる。従って、例えば、分子リンカーおよび複雑なナノ構造体として有用な多数の自己集合した変性SP1モノマーを含む組成物が提供される。
【0169】
本発明のSP1ポリペプチドはさらに、(特異的な融合ペプチドまたは融合ポリペプチドを介した)リガンド分子およびリガンド結合分子の親和性結合、SP1オリゴマーとの分子的会合および複合体化が可能である任意の化合物および/または分子の表面被覆、SP1オリゴマーとの分子的会合での導電性分子または半導体の制御された会合によるナノ回路設計、SP1オリゴマーと会合した磁性粒子または磁性ナノ粒子、任意の生物学的に活性な分子(例えば、除草剤、殺虫剤、揮発性化合物および芳香性化合物など)の制御された会合および放出、ナノコンピューティング、導電性インクによるリトグラフィーおよび印刷、三次元ナノ構造体の制御された会合および解離によるナノ構築のために使用することができる。なおさらに、本発明のSP1ポリペプチドは導電性デバイス(例えば、電子工学デバイスなど)の構成要素として組み込むことができる。
【0170】
本発明のさらなる目的、利点および新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0171】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なおこれら実施例によって本発明は限定されない。
【0172】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている。例えば以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel, R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号および5272057号に記載される方法;Cellis, J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Freshney「Culture of Animal Cells−A Mamual of Basic Technique」Wiley−Liss、N.Y.、1994年、第3版;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号および5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.およびHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.およびHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なおこれらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである]。その外の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0173】
材料および実験方法
組換えSP1の発現
567bpのcDNAクローンを、抗SP1抗体を使用して、水ストレスを与えたアスペンシュートに由来するラムダ発現ライブラリーからの7x105個の組換えファージプラークをスクリーニングすることによって単離した(Wang他、米国特許出願第10/233409号)。大腸菌株BL21(DE3)を、sp1遺伝子を有するプラスミド(pET29a、カナマイシン耐性が付与される)により形質転換した(Wang他、Plant Phys、2002、130:865〜75)。野生型SP1ならびにその変異体を大腸菌において作製および発現させた:さらなるタグを何ら有しない全長SP1(これはSP1(配列番号1)と呼ばれる);6個のヒスチジンのタグをSP1のN末端に導入して、6HSP1(配列番号7)を作製し、システイン残基をSP1の21位に導入して、Cys2 SP1(配列番号3)を作製し、ΔNSP1(配列番号2)をSP1のN末端におけるアミノ酸2〜6の欠失によって作製した。これらの組換えSP1タンパク質の発現は、Wang他(Acta Crys、2003、D59:512〜14)に記載されるように、標準的な組換え手法に従った。
【0174】
タンパク質精製
組換えSP1を、Wang他(2003)に記載されるように、大腸菌から製造した。6HSP1を、溶出緩衝液が400mMのイミダゾールを含有したということを除いて、供給者のプロトコルに従ってNi−NTAアガロースビーズ(P−6611、Sigma Chemicals、St.Louis、MI)でさらに精製した。ΔNSP1の煮沸安定性の画分を、アニオン交換カラムSOURCE−15Q(Amersham Biosciences、英国)への準備として、15mM〜20mMのピペラジン(pH5.9)の20体積に対して透析した(2回)。移動相における緩衝液Aは20mMピペラジン(pH5.1)であり、1MのNaClを含む同じ緩衝液を緩衝液Bとして使用した。ΔNSP1を23%〜25%の緩衝液Bによって溶出した。1Mの最終濃度での硫酸アンモニウム、および、7.5のpHへのNaOHを、精製されたΔNSP1に加え、その後、1M硫酸アンモニウムを含有する50mMリン酸塩緩衝液(pH7.5)により予備洗浄されたHiTrapフェニルセファロースHPカラム(Amersham Biosciences、英国)に負荷した。ΔNSP1を47%〜48%の50mMリン酸塩(pH7.5)(緩衝液B)において溶出した。その後、ΔNSP1を、25mMリン酸塩(pH7.5)を使用して30kDaカットオフの限外ろ過濃縮装置によって濃縮および透析ろ過した。
【0175】
分析超遠心分離
平衡沈降研究を、Beckman Optima(登録商標)XL−1分析超遠心分離機(Beckman Instruments,INC.)を使用して行った。アスペンSP1を200倍の20mM Tris−HCl(pH8.0)で一晩透析した。その後、サンプルを透析液により希釈して、約202μM、152μM、68μM、22.5μMおよび6.5μMのタンパク質溶液を作製した。サンプルを6セクターセルにおいて、6000rpmおよび7000rpmのローター速度で20℃において遠心分離した。データを、280nm、220nmおよび254nmで集め、下記の式を使用して分析した:M=[2RT/(1−ν)ρω2][d(ln(c))/dr2)]、ただし、典型的なν=0.73cm3g−1およびρ=0.9994gcm−1。
【0176】
透過電子顕微鏡法(TEM)研究
SP1(0.05mg/ml)を、グロー放電処理された、カーボンおよびニトロセルロースにより被覆された銅の400メッシュのグリッドに塗布し、2%酢酸ウラニルにより染色した。画像をFEI Tecnai−12顕微鏡により得て、Kodak S0163フィルムまたはMegaviewIIIデジタルカメラ(Soft Imaging Systems、Munster、ドイツ)で記録した。顕微鏡写真をImacon FlextightIIスキャナーによりデジタル化した。上面の野生型SP1粒子を平均化するための画像処理をSPIDERプログラム群(Frank他、1996)により行い、この画像処理は、最初の無参照アラインメント(並進および回転)、その後、参照に基づいた3回のアラインメントからなっていた。SP1の低温陰染色画像を4μlのSP1(1mg/ml)をレース状グリッド(SPI Supplies、West Chester、PA)に置き、16%モリブデン酸アンモニウムを加え(Adrian他、1998)、液体エタンに沈めることによって調製した。低用量の低温条件のもとでの画像化を、FEI Tecnai F20顕微鏡で行い、TVIPS(Gauting、ドイツ)1kX1k Biocamカメラで記録した。
【0177】
SP1の化学的架橋および質量分析
SP1(1mg/ml)を50mMトリエタノールアミン緩衝液(pH7.5)における0.25%グルタルアルデヒド(GA)と室温でインキュベーションした(72時間)。非架橋SP1生成物および架橋SP1生成物を質量分析法による分析に供した。マトリックス支援レーザー脱離飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)をMicromass TofSpec 2Eリフレクトロン質量分析計(The Protein Research Center、Technion、Haifa、イスラエル)で行った。
【0178】
SDSへの曝露およびSP1加熱後のSP1の安定性
SP1(20μg)を種々のSP1モノマー:SDSモル比でSDSサンプル緩衝液において調製し、煮沸し(5分間)(または、煮沸することなく)、その後、SDS−PAGE分析に供した。SP1オリゴマー(10μg)の熱安定性をSP1モノマー:SDS=1:1733で同じ緩衝液において調べ、異なる温度で1分間〜10分間加熱した。
【0179】
SP1のプロテアーゼ感受性試験
V8プロテアーゼ緩衝液(125mM Tris−HCl(pH6.8)、10%グリセロール、0.5%SDS)または標準的緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、50mM NaCl)のいずれかにおいて調製されたSP1(10μg)を2分間煮沸し、または、煮沸することなく、その後、プロテアーゼ(黄色ブドウ球菌V8プロテアーゼ、トリプシン、プロテイナーゼK、Sigma Chemicals Inc.、イスラエル)を加えた。プロテアーゼを50μg/mlの最終濃度に加えた(SP1:プロテアーゼは1:20(w/w)に等しい)。消化を37℃で1時間行った。その後、サンプルをSDSサンプル緩衝液において調製し、煮沸し、または、煮沸することなく、その後、17%トリシン−SDS−PAGEに供した。
【0180】
煮沸およびタンパク質分解によるSP1の精製
植物の総可溶性タンパク質または濃縮された煮沸可溶性の総タンパク質を50μg/mlのプロテイナーゼKとインキュベーションした(37℃、1時間)。類似した手順を総組換え細菌タンパク質に対して適用した。PKを煮沸(10分間)によって不活性化し、その後、遠心分離した(15000xg、10分間)。SP1を限外ろ過(10kDaカットオフ、VIVASCIENCE、Binbrook Lincoln、英国)によって濃縮した。
【0181】
SP1複合体へのジスルフィド架橋の操作
Cys2SP1遺伝子を、N末端のアラニンをシステインに部位特異的に変異誘発することによって構築した。野生型およびCys2 SP1(配列番号3)の両方(2mg/ml)を10mM DTTの存在下または非存在下で一晩インキュベーションし、2%SDSサンプル緩衝液と事前に煮沸し、その後、SDS−PAGE分析に供した。
【0182】
様々な有機溶媒に対するSP1複合体の抵抗性
10mMリン酸ナトリウム(pH7)における1mg/mlのサンプルの150ulを一晩凍結乾燥し、150μlの有機溶媒に10分間、再懸濁した。30分のスピードvac処理の後、サンプルを150μlの水に再懸濁し、SDS−PAGEによって分析した。
【0183】
SP1ヘテロオリゴマーの再集合
精製された6HSP1およびΔNSP1を最初に、これらのタンパク質をSDSサンプル緩衝液において煮沸することによってモノマー形態に変性した。その後、変性させたタンパク質を調製用SDS−PAGEで分離し、クーマシーブルー染色によって可視化した。2つの組換えタンパク質バンドのモノマー形態を切り出した。6HSP1(配列番号7)およびΔNSP1(配列番号2)のモノマー形態を有するゲル片を1:1の比率(v/v)で混合した。表面/体積の比率を高めるために、ゲル片を、乳棒および乳鉢を液体窒素の存在下で使用して粉砕した。その後、タンパク質を、以前に記載されたように、電気溶出によって同時溶出した(Wang他、2002)。ヘテロオリゴマー複合体を、溶出されたタンパク質をNi−NTAアガロースビーズに供することによって単離し、結合したタンパク質を、標準的な手順(P6611についてのSigmaプロトコル)を使用して400mMイミダゾールによって溶出した。プロテイナーゼK(これはモノマーSP1を消化するが、SP1複合体は消化しない)(この論文に記載される)を用いて、6HSP1(配列番号7)およびΔNSP1(配列番号2)のモノマー形態をNi−NTA精製タンパク質から除いた。ヘテロオリゴマーSP1の組成をSDS−PAGEによって求め、銀染色によって可視化した。
【0184】
限外ろ過
区別可能な吸収特性を有し、分光学的測定によって測定することができる水溶性リガンドのFAおよびDOXとの複合体形成の検出のために限外ろ過を使用した。遊離FAおよびDOXはSP1よりもはるかに小さい(それぞれ、0.35kDaおよび0.58kDa対150kDa):遊離FAおよびDOXは30kDaの分子量カットオフメンブランを通過する(流出画分)一方で、遊離SP1およびSP1複合体はともにメンブランの上に保持される(保持画分)。数回のさらなる洗浄サイクルにより、残留する遊離FAおよびDOXが除かれ、リガンド−SP1複合体が保持画分に残留する。
【0185】
サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィーは、異なるサイズの分子を穏和な条件のもとで分離するための一般的な方法であり、これを用いて、穏和な条件のもとでのFA複合体形成およびDOX複合体形成を調べた。SP1が7分後にカラムから溶出され、278nmにおいて検出されるだけであり、遊離FAが16分後にカラム(TSK G3000SWXL、Tosohaas)から溶出され、490nmにおいて検出される。SP1−FA複合体およびSP1−DOX複合体もまた、同じ時間で溶出したが、これらはそれぞれ、490nmおよび475nmでも検出される。SP1が7分後にカラムから溶出され、278nmにおいて検出されるだけである。DOX/SP1の比率が、溶液で得られる標準曲線から求められる。
【0186】
C−18逆相HPLC
逆相HPLC(RP−HPLC)分析では、遊離DOX、PTXおよびSP1が分離される。両方の化合物が樹脂(C−18)に結合し、異なるアセトニトリル濃度で溶出され、278nmと、225nm(SP1)、225nm(PTX)および477nm(DOX)との両方で検出される。
【0187】
SP1−DOX複合体は、複合体化していないSP1とともに、278nmだけでなく、477nmにおいて検出される。SP1−DOXおよび遊離DOXの定量値が477nmでのそれらのピークにおける吸光度から直接に計算される。しかしながら、SP1−DOXピークにおけるタンパク質の量を推定するために、278nmにおける吸収が下記の式に従ってDOXについて補正される(OD278−0.77*OD477)。FAおよびDOXとは対照的には、複合体化したPTXは検出することができないが、遊離PTXと同じ溶出において検出される。
【0188】
DOX化合物およびPTX化合物のC18 RP−HPLC分離および検出が下記に概略される。溶媒A=水+0.1%TFA。溶媒B=アセトニトリル+0.1%TFA。プログラムは、0分〜5分が75%A、0%Bであり、5分〜15分が25%〜75%Bであった。SP1が225nmおよび/または278nmで検出され、DOXが477nmおよび/または278nmで検出され、PTXが225nmで検出された。
【0189】
DOX−SP1複合体
20mMリン酸Na緩衝液(pH6.7)におけるパイロジェン非含有のCys2 SP1変異体(配列番号3)(最終濃度、2mg/ml)をDOX溶液(Teva、イスラエル)により1:2の希釈で希釈した(最終濃度、1mg/ml)。示された場合、GSHを加えた。溶液を一晩混合する。示された場合(酸化された場合)、H2O2を0.1%に加え、緩衝液を加えて、3倍の体積にし、溶液を超音波処理する(22秒を3回、3%の振幅での1:1のパルス/中断、0.5分の中断、Vibra−Cell 750W超音波処理機を使用する)。
【0190】
遊離DOXのエタノール沈殿
エタノールにより5倍(V:V)に希釈された溶液を−20℃で3時間インキュベーションし、1250Xgで30分間、室温で遠心分離した。ペレット化物を洗浄し、冷エタノールに再懸濁し、再びペレット化し、再懸濁して、HPLCによって分析した。
【0191】
非結合DOXの除去
SP1−DOX溶液を30Kカットオフのミクロコンフィルター(Millipor Ltd.、Billerica、MA)での限外ろ過によって洗浄し、その後、リン酸Na緩衝液(pH6.7)およびPBSにより、流出が無色になるまで洗浄した。
【0192】
SP1−PTX複合体
3mgのSP1(25mg/ml、PBSにおける120ul)を6時間、15mlのプラスチックチューブにおいて凍結乾燥した。300ulのPTX(乾燥アセトン/ヘキサン(1:1)+0.1%β−メルカプトエタノールにおける1mg/ml)を加え、アセトン/ヘキサン+0.1%β−メルカプトエタノールを加えて4mlの最終体積にした。混合物を超音波処理した(1秒のパルス、3秒の中断、45”の超音波処理時間、合計で3分、35%の強度、氷上で)。有機溶媒を乾燥によって一晩エバポレーションし、0.4mlのPBSを加え、混合物を超音波処理した(1秒のパルス、3秒の中断、30”のサニテーション時間、合計で2.5分、35%の強度、氷上で)。破片を遠心分離(5分、14000RPM)によってペレット化した。組織培養実験のために、アリコートをろ過した。
【0193】
細胞成長条件
ヒト結腸腺ガン(HT−29)細胞。細胞を、10%ウシ胎児血清、1%グルタミンおよび1%Antibiotic−Antimicotic溶液(Biolab、イスラエル)が補充されたDMEM培地(Biological Industries、Bet Haemek)を含有する50mlのフラスコで成長させた。細胞をトリプシン処理し、5x104個の細胞を含有する2mlの培地を6ウエルプレートのそれぞれのウエルに入れた。SP1、薬物、または、薬物と複合体化されたSP1を示された濃度で加えた。細胞を、5%CO2を含有する加湿された大気において37℃でインキュベーションした。48時間後、薬物の存在または非存在の培地を、成分および薬物の絶え間ない供給を維持するために、それぞれのウエルにおいてそれぞれ交換した。4日後、培地を除き、培養における生細胞の数を顕微鏡観察によって求めた。
【0194】
B16メラノーマモデル(B16−F10(B16)メラノーマ腫瘍)におけるSP1−DOXおよびSP1−PTXのインビボでの影響
B16−F10(B16)メラノーマ腫瘍を有するC57B1のオスのマウスを、Kalechman(Int J Cancer、2000、86:281〜8)によって記載されるように調製し、世話をした。B16F10メラノーマ細胞(マウスあたり5x105個または5x106個の細胞)をマウスの側方尾静脈に注入し、ガン腫瘍の存在をマウスの全体的な様子および/または組織病理学検査によってメラノーマ細胞注入後14日目で評価した。マウスを3つの群に分けた:A群−1回の注射(フルオレセインアミン−SP1複合体溶液によるiv)(SP1−FAコンジュゲート、PBSにおける10mg/ml;0.1ml/動物)、N=5匹のマウス。B群には、FAが1週において1回与えられた(N=5匹のマウス)。C群は注射を受けなかった(N=2匹のマウス)。注射後24時間で内臓器官を集め、−70℃で保存した。血液を集め、室温で凝固させ、血清を分離し、凍結した。
【0195】
器官および腫瘍を均質化し、抽出し、希釈し(PBSで3倍)、血清を熱処理し(85℃で30分間)、SDS PAGEで分離した。免疫検出のために、分離されたタンパク質をゲルからニトロセルロースペーパーに電気ブロッティングによって転写した。ニトロセルロースブロットを、3%のスキムミルクを含有するTris緩衝化生理的食塩水+0.05%Tween20(pH7.7)(TBST)に浸けることによってブロッキング処理した。スキムミルクをTBSTにより洗浄した後、ニトロセルロースブロットをTBSTにおける一次のウサギ抗SP1抗体に浸けた。一次抗体をTBSTにより洗浄した後、ニトロセルロースブロットをTBSTにおける二次のヤギ抗ウサギ抗体HRPコンジュゲートに浸けた。過剰な二次抗体をTBSTにより洗浄した後、ニトロセルロースブロットをHRP化学発光基質(ECL)と接触させた。
【0196】
写真フィルムを、ラップで包んだニトロセルロースペーパーにさらして感光させ、その後、現像し、固定する。
【0197】
腫瘍サイズに対する遊離DOXおよびSP1−DOXのインビボでの影響
ヒトLS147T結腸ガン(動物一匹あたり100万個の細胞)をCD1ヌードマウス(3週齢〜4週齢、18g〜20g)に皮下移植した(Meyer他、1995、Am J Dermatopath、17:368〜73)。8日後、3mm〜10mmの腫瘍が注入点に現れた。この時点で、動物を2つの群に分けた(それぞれにおいて6匹の動物)。平均腫瘍サイズおよび動物の体重は類似していた。
【0198】
腫瘍移植後8日で、SP1−DOX(PBSにおける50mg/Kg、約1mg/KgのDOX相当量)、遊離DOX(PBSにおける3mg/Kg)またはPBS単独を、それぞれの群における6匹のマウスに、1週間に2回、4週間にわたって尾静脈にiv注射した。腫瘍の大きさを標準的な式(Kalechman他、Int J Cancer、2000、826:281〜8)によってカリパス測定により求めた。腫瘍移植後35日で、動物を屠殺した。腫瘍を取り出し、その重量を測定した。
【0199】
実験結果
(実施例1:)
SP1タンパク質の構造
天然SP1およびその組換え形態の両方のSDSゲル電気泳動分析では、SP1が2つの形態で出現することが示される:サンプルがSDSの存在下でのゲル適用緩衝液において煮沸されるときに現れるモノマー(12.4kDa)、および、SP1がPAGEでの適用に先だって煮沸されないときに現れるオリゴマー形態(116kDaのタンパク質)(Wang他、2002;Dgany、2004;Wang他、2006;米国特許出願第10/443209号を参照のこと)。いくつかの方法を用いて、溶液中のSP1が、150kDaの分子量を有するドデカマーを形成することが明らかにされている。平衡状態での分析超遠心分離を用いて、SP1のオリゴマー状態を分析した。SP1の濃度がゼロに近づくにつれ、溶液におけるSP1粒子の測定された分子量(5.6μMのモノマー濃度において144kDa)が、ドデカマーについて計算された値(148kDa)に近づいた。
【0200】
SP1をMALDI−TOF−MSに供した。データから、12個のタンパク質ピークが明らかにされ、そのうちの最初のピーク(12338Da)はモノマーの予測された分子量(12369Da)に近かった。それ以外のピークは、約12.4kDaの分子間隔で、SP1ダイマーからドデカマーにまで対応した。架橋されたSP1のMALDI−TOF−MS分析では、モノマーからドデカマーまで対応する、12998Daから154706Daにまで及ぶ分子量を有する12個の明瞭なピークが明らかにされた。TSK3000カラムを使用するゲルろ過HPLC分析でもまた、SP1がドデカマーを形成することが示される。このオリゴマー形態はさらに、約9.8分での単一ピークとして現れた電気溶出された高分子量SP1(116kD)について推定された。このピークは、標準曲線から計算されたとき、144.9±1.54kDの分子量に対応した。これはSP1モノマー(12.369kD)の11.7倍(約12ユニット)である。
【0201】
本発明を実施に移していること、SP1の電子顕微鏡研究が着手された。電子顕微鏡観察研究では、SP1が、中心の空洞を伴う環状タンパク質であることが示された。
【0202】
SP1が2次元結晶を形成する条件を明らかにするために、SP1をリン脂質(ヘキサンクロロホルムにおけるDOTAP/DOPC、1:1、w/w)と混合した。図1は、リン脂質により誘導された2次元のSP1結晶単層のTEM像を示し、SP1の2次元結晶を形成することができることを示している。従って、粒子が種々の様式で配列することができ、SP1がより高次の構造に自己集合し得ることを示している。
【0203】
SP1モノマー
X線結晶学研究(Dgany他(2004)を参照のこと)では、SP1鎖が、3つのα−らせん、すなわち、H1(残基23〜39)、H2a(残基74〜81)およびH2b(残基84〜93)を伴うα型およびβ型の折り畳みと、4つの逆平行のβ鎖、すなわち、B3(残基9〜17)、B1(残基45〜50)、B2(残基65〜71)およびB4(残基97〜108)によって形成されるβ−シートとを有することが示された。N末端セグメントは溶媒の方を向き、また、最初の2つの残基について、説明できる電子密度の欠如及びThr−3およびLys−4についての温度因子の大きさによって立証されるように可動性である。残基51〜64によって形成される長いループは大部分が構造化されていない。このループは分子から突き出ており、ダイマー接触に関与する。H1およびH2のらせんにより、数多くの親水性側鎖および酸性側鎖が溶媒の方を向く外側の凸型表面が規定される。
【0204】
この表面の内側および向き合うβ−シートが、芳香族残基および疎水性残基が多い疎水性の中心の空洞を取り囲む。SP1分子におけるフェニルアラニンのほとんどがこの空洞を占める(Phe−17、Phe−46、Phe−67、Phe−71、Phe−89およびPhe−93)。Trp−48およびTyr−33、Tyr−63およびTyr−80、ならびに、2つのヒスチジン(His−11およびHis−65)、および、Arg−100により、空洞への溶媒の接近が阻止される。1つだけの仮説に限定されることを望まないが、本発明者らは、この空洞が小さい疎水性分子のための結合部位として役立ち得ると考えている。
【0205】
SP1の構造が、X線結晶学およびNMRの両方によって解明されるようなそのシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)アナログ(遺伝子座At3g1721050、アクセション番号:AY064673、配列番号150)の構造(Bingman他、Protein、2004、57:218〜20;Lytle他、J Biomol NMR、28:397〜400)に類似することには留意しなければならない。
【0206】
SP1タンパク質の精製が、熱処理による部分的抽出を可能にするその並外れた安定性のために可能である(本明細書中上記の方法を参照のこと)。得られた耐熱性画分は30%純粋である(図6、レーン1およびレーン2)。さらなる精製により、SP1のクロマトグラフィー的に純粋な調製物が得られ、これは逆相HPLCおよびサイズ排除クロマトグラフィーで単一ピークとして検出することができる(図6のレーン3、図7および図30)。
【0207】
SP1ドデカマー
ダイマー・ダイマーの接触は主に親水性側鎖および荷電基を伴うか、または、水分子によって媒介される。これらの接触は主として、B1、H1およびN末端テールに沿って生じる(Dgany(2004)を参照のこと)。ダイマー間の相互作用の結果として、6個のダイマーにより、環状構造が擬6回軸のまわりに作られる。ドデカマーの環状構造は外径が約50Åであり、内径が約15Åである。それぞれのダイマーにおける残基18〜22を含むループが溶媒の方に突き出ており、これに対して、N末端のアームが環状構造の内側部分に向かって伸びている。隣接するダイマーにおける等価な分子の間での接触は同一ではないので(Dgany、2004)、6回対称性が破れる。
【0208】
(実施例2)
SP1は、煮沸および変性に対して安定性を有するプロテアーゼ抵抗性の分子である
SDSの存在下でのSP1複合体の安定性を、精製されたSP1を種々のモル比でのSDSと種々の温度でインキュベーションすることによって調べた。モノマーへのSP1複合体の解離には、ゲルへの負荷の前に煮沸することが付随して、600:1(SDS:SP1モノマー)を超えるモル比が必要であった。煮沸がない場合、3467対1の比率でさえ、SP1はSDS−PAGEで複合体として持続した。80℃以下の温度での1734倍のSDS(1%)とのSP1のインキュベーションは、複合体の著しい解離を引き起こさなかった(Wang、2006)。
【0209】
SP1タンパク質は並外れた熱安定性を示し、そのため、そのような熱安定性により、本明細書中上記の実施例1において述べられたように、熱処理による粗細胞調製物の部分抽出が可能である。図6には、熱処理によって達成された純度が示される。
【0210】
SP1の示差走査熱分析研究では、107℃のTmがSP1について示される。これらの結果はさらに、SP1が煮沸に対して安定性を有するタンパク質であり、また、その高オリゴマー形態は、2%SDSの存在下で煮沸したときにだけ解離するという本発明者らの以前の知見(Dgany、2004)を支持している。さらに、不溶性SP1を含む封入体のフォールディングおよびリフォールディング、ならびに、アンフォールディングされた変性タンパク質の熱安定性は、無傷のモノマーが、オリゴマーと同様に、耐熱性があることを示している(図5)。
【0211】
SP1は、そのモノマー形態(0.5%SDSにおいて煮沸されたとき、または、溶解された封入体)に解離したとき、V8プロテアーゼまたはズブチリシン(アルカラーゼ、Novo Industries)による消化を受けやすい。しかしながら、V8プロテアーゼは無傷のオリゴマーを消化することができなかった(図5を参照のこと)。オリゴマー−プロテアーゼの混合物をSDSサンプル緩衝液においてさらに煮沸したとき、SP1モノマーのみがゲル上に観察され、ペプチドフラグメントは検出されなかった。同じ混合物を、煮沸することなく、SDS−PAGE分析に供したとき、無傷の複合体が観察された。類似する結果が、トリプシンおよびプロテイナーゼKおよびズブチリシンを用いて得られた。これは、広範囲の様々なプロテアーゼに対するSP1複合体の優れた抵抗性を示している(Wang、2002;Wang、2006)。従って、正しく折り畳まれたSP1タンパク質はプロテアーゼ抵抗性があるが、アンフォールディングされた変性タンパク質はプロテアーゼに対して感受性があり、プロテアーゼおよび熱処理によって除くことができる(図5)。
【0212】
SP1およびSP1オリゴマー複合体の安定性をさらに調べるために、野生型SP1およびSP1変異体のCys2 SP1を緩衝液に溶解し、有機溶媒のメタノールおよびヘキサンにさらし、SDS−PAGEによって分析した(図18)。主に高分子量のオリゴマー複合体形態が、処理されたすべてのサンプルで検出された(図18、レーン1〜レーン3)。これは、SP1複合体が、有機溶媒による変性に対して抵抗性があることを示している。
【0213】
従って、SP1複合体は、温度および界面活性剤による変性、有機溶媒、ならびに、タンパク質分解的分解に対する驚くほど強い抵抗性を示す。
【0214】
(実施例3)
SP1変異体
SP1変異体を、オリゴマー化および/または結合および/または他の分子との複合体化のための能力、ならびに/あるいは、サブユニット間のジスルフィド結合を形成する能力、および/または、中心の空洞の大きさを変化させる能力を高めるために、あるいは、そうでない場合には、SP1の安定性を変化させるために構築することができる。数多くのSP1変異体タンパク質を、SP1の性質に対する特定の変化の影響を調べるために構築した。
【0215】
N末端セグメントは溶媒の方に向き、外見的にはタンパク質の折り畳みおよび安定性に関与していない。従って、N末端の変異はタンパク質の構造またはその安定性を変化させないことが予測された。この予測と一致して、N末端全体の欠失を有する変異体タンパク質(Δ2−6)を含むN末端変異体のすべてが安定な複合体に会合した(図3)。さらには、驚くべきことに、腫瘍認識ペプチドのCRGD(配列番号5)およびRGDC(配列番号6)ならびにRGDループ(配列番号10)がSP1のN末端に挿入されたとき、融合タンパク質は、煮沸に対して安定性を有するプロテアーゼ抵抗性のドデカマーを形成したことが発見された(図4)。
【0216】
N末端の局在性を確認するために、システイン残基をSP1の2位に挿入した(Cys2変異体、配列番号3)(野生型SP1はCys残基を全く含有しない)。このCys2変異体のSDS PAGE分析では、Cys2変異体が複合体内で分子間ジスルフィド結合を容易に形成することが示される。Cys2挿入の特異性を確認するために、本発明者らは、中心の空洞に向かってこれらもまた露出するループ2(40〜44)(配列番号18)およびループ4(72〜73)(配列番号20)の両方に位置する2つのシステイン残基を置換した。表1は、Cys2 SP1変異体とは対照的に、これらの変異体タンパク質はジスルフィド結合を(類似する条件のもとで)形成することができないことを示す。いくつかの組換えSP1変異体は可溶性タンパク質を発現時に形成することができず、封入体(IB)を形成することに留意しなければならない。しかしながら、これらの封入体は0.5Mの尿素によりアンフォールディングされ、透析によってリフォールディングされ得ることが発見された。
【0217】
X線結晶学研究(Dgany他(2004)を参照のこと)では、多くの推定されるモノマー・モノマー相互作用およびダイマー・ダイマー相互作用が複合体を安定化させることが示された。従って、1つのアミノ酸置換がタンパク質を劇的に脱安定化させるとは考えられない。部位特異的変異誘発を、ダイマー・ダイマー相互作用およびモノマー・モノマー相互作用の脱安定化のための最も重要な残基を見出すために行った。本明細書中上記の表1は、ほとんどの置換がタンパク質を脱安定化させなかったことを示す。しかしながら、I30A(配列番号14)、N31A/T34A(配列番号30)、F106A(配列番号23)およびY108A(配列番号24)の残基(これらは表1では強調される)(これらの残基はタンパク質の3次元構造において互いに非常に接近している)が、タンパク質の安定化に関与するホットスポットとして特定された。
【0218】
ループ1(残基18〜22)(配列番号6)およびL81C(配列番号22)は、リングの外周に向かって露出しており、タンパク質・タンパク質相互作用、ならびに、他の分子または表面との相互作用に関与する特定のペプチドの多重提示のための良好な候補である。
【0219】
N末端の変性はタンパク質の構造または安定性(例えば、ダイマー形成)に影響を及ぼさなかったが、これらの変性は、SP1変異体の結合特性および複合体化特性(例えば、金属および金属会合粒子との複合体形成、ならびに、レドックス依存的な小分子複合体形成など)における変化を生じさせるための機会を提供した(表1の「N末端の変異」を参照のこと)。
【0220】
いくつかのループ2変性(Δ2−6I40Cを参照のこと)を、分子の抵抗性を著しく変化させることなく、中心の空洞におけるチオール基を介した金ナノ粒子の結合のために使用することができる(表1)。
【0221】
従って、1つだけの仮定に限定されることは望まないが、本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、特異的な変化した性質を有するSP1分子をもたらすSP1分子の変性の位置およびタイプを発見したと考えている。
【0222】
SP1変異体はヘテロダイマーに集合することができる
種々の変異体SP1モノマーが自己集合して、機能的なオリゴマー複合体を形成することができるかどうかを明らかにするために、変異体の間でのヘテロダイマー形成を調べた。
【0223】
ヘテロダイマーを作製するために、SP1のモノマー形態を、2つの方法によって、すなわち、SDS PAGEからの電気溶出、および、封入体を溶解することによって単離した。
【0224】
SP1変異体のCys2loop1RGdが組換え細菌において発現させられるとき、組換えタンパク質が不溶性のタンパク質性封入体に見出される。SP1変異体Cys2loop1RGdの封入体を5M尿素によって可溶化することにより、可溶性モノマーの放出がもたらされ(図5aのレーン1〜レーン4を参照のこと)、この可溶性モノマーは高オリゴマー形態に自発的に再集合することができる(図5b、レーン1〜レーン4)。
【0225】
SP1がヘテロオリゴマー複合体に集合することができることはまた、類似した方法を使用して明らかにされた。2つの変異体組換えSP1ポリペプチドを発現させた(6個のヒスチジンのN末端タグ化SP1(6His2、配列番号7)およびN末端欠失SP1(ΔNSP1、配列番号2))。これら2つのSP1変異体のモノマーを、2つのSP1変異体をSDSの存在下で煮沸し、調製用SDS−PAGEで分離することによって作製した(図3、レーン2およびレーン3)。ゲルから電気溶出されたモノマーを混合して、ヘテロオリゴマーの形成を容易にした(図3、レーン4およびレーン5)。自己集合したヘテロ複合体におけるこれら2つのSP1変異体の存在を確認するために、同時に電気溶出されたタンパク質混合物をさらに、ニッケル親和性カラム精製に供した(図3、レーン6およびレーン7)。ヒスチジンタグ化タンパク質およびその会合タンパク質のみが単離された。SDS−PAGE分析では、6HSP1複合体がSP1の2つの変異体を含有することが示された(図3のレーン5およびレーン7を参照のこと)。ヘテロオリゴマーの集合が、最終的には、プロテイナーゼK消化を使用してモノマー形態を除くことによって確認された(オリゴマー形態のみがPK消化に対する耐性を有する)(図4、レーン8およびレーン9)。
【0226】
これらの結果から、2つのSP1変異体のモノマーが実際に、ヘテロオリゴマー複合体形態に自己集合する能力を保持し得ることが明瞭に示される。
【0227】
(実施例4)
SP1変異体の結合特性
SP1変異体の結合特性を明らかにするために、また、SP1および変異体が、それらに複合体化された分子を安定化させる能力を調べるために、野生型SP1および変異体SP1を様々な生物学的に活性な薬剤にさらし、得られた複合体を、複合体化された薬剤の活性、安定性および生物学的利用能について調べた。
【0228】
Cys2−SP1変異体
SP1に対する薬剤の複合体化を変性および制御する能力を明らかにするために、Cys2 SP1変異体は、SP1の2位に挿入されたシステイン残基(野生型SP1はCys残基を全く含有しない)を、中心の空洞に面するN末端に有する(Cys2変異体)。Cys2変異体(これはサンプル適用緩衝液と混合され、2%β−メルカプトエタノールの存在下または非存在下での10分間の煮沸に供された)のSDS PAGE分析では、Cys2 SP1変異体がジスルフィド結合を形成することが示される(図8b)。還元されたCys2 SP1変異体(これは10mMのDTTにより処理された)は、還元剤を除いたとき、容易に酸化される(図8b)。Cys−2 SP1におけるジスルフィド結合の特異性がさらに、Cys−2 SP1が、遊離スルフヒドリルに特異的な試薬(例えば、5,5’−ジチオ−ビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNBまたはエルマン試薬)およびフルオレセインマレイミドなど)と反応しないことによって証明される(データ示さず)。
【0229】
従って、Cys2 SP1変異体のモノマーにおける反応性スルフィドの利用能をレドックス条件における変化によって制御することができる。薬剤および他のリガンドとの複合体形成に対するレドックス依存的な変化の影響を明らかにするために、Cys2 SP1がそのような薬剤と複合体化する動力学を調べた。図8には、レドックス依存的なリガンド複合体化およびリガンド放出についての1つの可能なモデルが示される。1つの仮定に限定されることは望まないが、還元剤(例えば、グルタチオンの還元型形態(GSH)、DTTまたはβ−メルカプトエタノールなど)はジスルフィド結合を切断することができ、Cys2−SP1をリガンドとの複合体のために利用可能にすることが提案される。複合体化したリガンドは酸化によって結合することができ、還元されたときには解離することができる(図18bおよび下記)。これは特に重要である。なぜなら、固形腫瘍は低酸素によって特徴付けられ、また、細胞の還元性等価体を多量に蓄積するからである(Kim、2003)。さらに、高いGSH濃度が薬物抵抗性に関与することが示唆された。従って、図8bおよび図8cに例示されるように、酸化のもとでCys2−SP1と複合体化した治療薬または他の薬剤を、それらが標的部位に到達するまで、SP1変異体によって安定化させ、輸送することができ、それらが標的部位に到達したとき、還元性等価体により、薬剤の放出が高められる。
【0230】
Cys2 Sp1変異体による薬剤およびリガンドの制御された複合体化および放出を、水溶性マーカーリガンドとしてのフルオレセインアミン蛍光団(FA)の複合体化、ならびに、水溶性治療薬および水不溶性治療薬についてのモデルとしてのそれぞれ、ドキソルビシン(DOX)およびパクリタキセル(PTX)の複合体化を使用して調べた。限外ろ過、サイズ排除クロマトグラフィーおよび逆相HPLC分析(本明細書中上記の方法を参照のこと)を使用して、薬剤−SP1変異体の複合体化および放出を下記の検討事項に関して明らかにした:
1.野生型と比較した場合の、Cys2 SP1変異体によるリガンド複合体化の効率。
2.タンパク質の還元は、野生型SP1の複合体化ではなく、Cys2 SP1変異体によるリガンド複合体形成を増大させることができるか。
3.Cys2 SP1変異体の酸化は、リガンドを添加する前では、リガンドの複合体化を打ち消すことができるか。
4.Cys2 SP1−リガンド複合体の還元はリガンドの解離を増大させることができるか。
5.複合体化したリガンドをCys2 SP1との会合によって安定化させることができるか。
【0231】
フルオレセインアミン(FA)
FAの吸収ピークは、490nm、および、はるかにより低い程度ではあるが、278nmにある(所与のFA濃度について、OD278/OD490=0.19)(図31を参照のこと)。一方、SP1の吸収ピークは278nmにあり(図30を参照のこと)、SP1は490nmでは検出されない。Cys2 SP1は吸収ピークを225nmおよび278nmに有する(図32を参照のこと)。FAがCys2 Sp1変異体と複合体化することが、FAおよびCys2 SP1変異体をGSHの非存在下または存在下でインキュベーションし、続いて、タンパク質の酸化、限外ろ過(30kDaのカットオフ)、および、保持画分のGSH含有PBSまたはGSH非含有PBSによる徹底的な洗浄の後で明らかにされた。278nmおよび490nmの両方での吸収分析(図9)では、GSHによるタンパク質の還元はFAおよびCys2 SP1の複合体化を増大させること、また、FA−Cys2 SP1複合体の還元はFAの解離を増大させることが示される。
【0232】
サイズ排除クロマトグラフィー(本明細書中上記の方法を参照のこと)を使用して、Cys SP1変異体および野生型SP1とのレドックス依存的なFA複合体化を比較した。図10は、野生型SP1が還元剤の存在下または非存在下でFAマーカーとの複合体をほとんど形成しないことを示す。対照的に、Cys2 SP1変異体は、還元剤の存在下で、3倍を超える効率でFAマーカーと複合体化する(図10)。
【0233】
Cys2 SP1とのFA複合体化の優れた制御が図11に示される。低いリガンド濃度(10μM)において、識別可能なFA複合体化が野生型SP1については検出されず、これに対して、Cys2 SP1変異体は効率的な複合体化を示した。より大きい濃度(100μM以上)において、Cys2 SP1変異体は、野生型SP1の効率の3倍を超える効率でFAマーカーと複合体形成する。これらの結果から、Cys2 SP1変異体は、野生型と比較して、リガンドおよび薬剤と効率的に複合体化することができること、また、タンパク質の還元は、野生型SP1ではなく、Cys2 SP1変異体によるリガンド複合体形成を増大させることが示される。
【0234】
SP1の複合体形成および共有結合性変性
小分子とともにSPの化学的変性は、2つのタイプの新しい複合体の作製を可能にする。小分子は、分子的会合のための新しい部位をもたらすことによって、タンパク質との共有結合性の結合、または、非共有結合性の結合をもたらすことができる。
【0235】
カルボン酸残基修飾試薬の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)を共有結合性の反応基として使用してSP1と複合体化するフルレオセインアミンを用いて、これが示された(表5、本明細書中下記)。天然SP1と類似して、SP1−FA複合体は高い温度に対して抵抗性がある。非共有結合的に結合したFAが、SDSの存在下で煮沸したときにだけ、タンパク質から解離する。表5は、SP1と結合したFAの蛍光強度に対する熱処理およびプロテアーゼ処理の影響を示しており、フルオレセインアミンの約80%が非共有結合性の会合によってタンパク質と会合することが示される。複合体化したSP1−FAは野生型SP1の特徴的な熱安定性およびプロテアーゼ抵抗性を保持することもまた示される。
【0236】
【0237】
ドキソルビシン(DOX)
アントラサイクリン系抗生物質のドキソルビシンは最も有用な抗新生物剤の1つであり、血液学的悪性腫瘍だけでなく、いくつかの固形腫瘍に対して活性がある。ドキソルビシンは、様々な新生物状態(例えば、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、ウィルムス腫瘍、神経芽細胞腫、軟組織および骨の肉腫、乳ガン、卵巣ガン、移行細胞膀胱ガン、甲状腺ガン、胃ガン、ホジキン病、悪性リンパ腫および気管支原性ガンなど)を治療するために使用される。さらに、ドキソルビシンの多くのコロイド状キャリア(例えば、リポソームおよびポリマーナノ粒子など)が、心臓毒性を軽減すること、および、治療的効力を改善することを目指して研究されている。
【0238】
SP1がDOXとの複合体を形成することができることを明らかにするために、両方のSP1ならびにSP1−DOX複合体(保持画分における)および遊離DOX(流出画分における)の濃度を477nmおよび278nmの両方で分光光学的に求めた。DOXは特異な光学的性質を有しており、その吸収ピークが、477nm、および、より低い程度ではあるが、278nmにあり(所与のDOX濃度について、OD278/DO477=0.77)(図29を参照のこと)、一方、SP1の吸収ピークは278nmにあり、SP1は477nmでは検出されない(図30および図32)。
【0239】
野生型SP1およびCys2 SP1変異体を、限外ろ過によって明らかにされるように、DTTの存在下および非存在下でDOXと複合体化するその能力について調べた。図12は、DOXが、DTTにより処理された野生型SP1よりもはるかに大きな程度に、DDTにより還元されたCys2 SP1変異体との複合体を形成すること、および、DTTにさらされたとき、Cys2 SP1変異体によるDOX複合体が大きく高まることを示す。DTTの代わりに、グルタチオン(還元型形態)による還元は、Cys2 SP1変異体によるDOX複合体化を改善する(データ示さず)。
【0240】
Cys2 SP1の化学的環境のレドックス状態の他の操作がDOX複合体化のさらなる制御をもたらしたかどうかを明らかにするために、酸化剤の存在下または非存在下での野生型SP1およびCys2変異体SP1に対するDOX複合体化を評価した。図14は、Cys2 SP1変異体をDOX添加前に酸化することにより、DOXの複合体化が打ち消されることを明瞭に示す。従って、1つだけの仮定に限定されることは望まないが、DOX−Cys2 SP1変異体の複合体形成の酸化依存的な阻害により、Cys2 SP1変異体におけるジスルフィド結合の還元がDOX複合体形成を促進させることが示され得る。
【0241】
Cys2 SP1−DOX複合体化の特徴をさらに明らかにするために、DOXとのCys2 SP1複合体形成をサイズ排除クロマトグラフィーによって475nmおよび278nmの両方で求めた。図13は、Cys2 SP1−DOXのピークが7分で溶出し、278nmおよび475nmの両方で検出されることを示す。PBSによる徹底的な洗浄は、還元剤が添加されていないとき(図13、GSHなし)、Cys2 SP1−DOX複合体を破壊しない。しかしながら、還元剤(GSH)の添加は、Cys2 SP1タンパク質のピーク(278nm)の何らかの欠損を伴うことなく、DOXピーク(475nm)の欠損をもたらす。1つだけの仮定によって限定されることは望まないが、これは、DOXが大きい親和性をSP1複合体に対して示し、(低い遊離リガンド濃度において)徹底的な洗浄のときにだけ、複合体から解離させられることを意味すると理解することができる。DOXがSP1に強固に結合するという証拠はまた、DOXが(酸化状態下における)室温での7日間のインキュベーションの後でもSP1−DOX複合体から解離しないという観察結果によって提供された(データ示さず)。SP1−DOX複合体が、エタノール沈殿の後でさえ、無傷のままであることには留意しなければならない(図35を参照のこと)。これは、複合体の安定性が大きいこと、ならびに、遊離DOXの除去および複合体化したSP1−DOXの精製が容易であることを示している。
【0242】
逆相HPLC分析によるCys2 SP1−DOX複合体の分析を、結合した化学種を異なるアセトニトリル濃度で樹脂(C−18、Pharmacia−Biotech、Uppsala、スウェーデン)から溶出し、吸収を477nmおよび278nmの両方で測定することによって達成することができる。Cys2 SP1とDOXとの複合体化に対するレドックス状態のさらなる操作の影響を調べるために、野生型SP1およびCys2 SP1変異体を、還元状態(GSH、還元されたタンパク質)または酸化状態(過酸化物、酸化されたタンパク質)のもとでDOXと複合体化するそれらの能力について調べた。図14は、酸化されたCys2 SP1変異体ではなく、還元されたCys2 SP1変異体がDOXとの複合体を形成すること、また、複合体が、野生型SP1と、DOXとの間では形成されないことを示す。
【0243】
図14はさらに、遊離の複合体化していないDOXが特定の条件のもとではSP1タンパク質との会合状態で見出され得ることを示す。サンプルはカラムへの適用の前に限外ろ過によって徹底的に洗浄されたが、遊離DOXの著しい割合が、還元(DTT処理)されたCys2 SP1サンプルでは認められる。これは、一部のDOXがCys2 SP1と会合したままであることを示しており、そのようなDOXは、過酷な条件(75%アセトニトリル+0.1%TFA)にさらされたときにタンパク質から解離させることができる。
【0244】
Cys2 SP1変異体とのDOXの会合を、SDS PAGE分析および蛍光画像化によってさらに調べた。図15は、DOXが、過酷な(還元および煮沸)条件のもとでさえ、Cys2 SP1のすべての形態(116kDaの複合体、12.4kDaのモノマーおよび24.8kDaのダイマー)と会合したままであることを示す。さらに、還元剤の存在下または非存在下で検出された遊離DOXの比較(図15、レーン2およびレーン4)では、複合体の還元が、Cys2 SP1−DOX複合体から放出されるDOXを刺激することが示される。このゲルにおけるバンドの相対的な強度は、おそらくは自己消光現象のために、DOXの絶対量を必ずしも反映しないことは特筆される。さらなるSDS PAGE分析では、Cys2 SP1−DOX複合体は、プロテアーゼ処理(レーン1〜レーン3、レーン5)、熱処理(85℃/30分)(図16、レーン1〜レーン4)、および、血清中でのインキュベーション(37℃/24時間)(図16、レーン1およびレーン2)に対して抵抗性があることが発見された。過酷な条件における解離に対するCys2 SP1−DOX複合体の優れた抵抗性は、SP1−薬物複合体の貯蔵、精製、インビボ寿命および他の使用のために重要である。
【0245】
パクリタキセル(タキソール、PTX)
臨床使用における1つの共通する問題が、多くの薬物の不良な溶解性である。Dgany他(Dgany、2004)によって示されるように、SP1についてのX線結晶学データから、H1およびH2のらせんが、数多くの親水性側鎖および酸性側鎖が溶媒の方を向く外側の凸側表面を規定することが予測される。この表面の内側および向き合うβ−シートが、芳香族残基および疎水性残基が多い疎水性の中心の空洞を取り囲む。これにより、小さい疎水性分子の可溶化が達成されるかどうかを明らかにするために、SP1をパクリタキセルと複合体化させた。
【0246】
ジテルペノイド誘導体のパクリタキセルは幅広い抗新生物活性(卵巣ガン、乳ガン、非小細胞肺ガン、AIDS関連カポジ肉腫)を有し、また、チューブリンから微小管への重合および安定化を促進する特異な作用機構を有する。パクリタキセルを使用することの大きな臨床上の問題の1つが、その極めて大きい疎水性のために、水におけるその溶解性が非常に低いことである。パクリタキセルの溶解性を高めるために、50:50のCremophor EL(CrEL、ポリオキシエチル化ひまし油)およびエタノールの混合物が現在の臨床配合では使用されるが、重篤な副作用が、治療された患者の25%〜30%については伴う。
【0247】
これらの問題を回避するために、多大の努力が、高まった循環時間を有する、Cremophorを含まない新しい全身用のパクリタキセル配合物を開発することに向けられている。しかしながら、現在の配合物はどれもこれらの問題を克服していない。
【0248】
SP1複合体の有機溶媒中での安定性を明らかにするために、SP1およびCys2 SP1変異体(配列番号3)を有機溶媒に溶解し、乾燥し、水性溶媒により再構成し、SDS−PAGEで分離した。図18は、高分子量のオリゴマー複合体が水性溶媒(リン酸ナトリウム、レーン1およびレーン4)および有機溶媒(レーン2、レーン3、レーン5およびレーン6)の両方において持続することを示す。さらに、ヘキサン処理されたSP1またはCys2 SP1変異体はプロテアーゼ処理に対して抵抗性がある(データ示さず)。
【0249】
次に、難溶性のPTXを、凍結乾燥されたSP1と、還元剤の存在下、有機溶媒中で混合した。有機溶媒をエバポレーションした後、PTX−SP1複合体を水性溶媒における溶解性について調べた。図19には、遊離PTX(DMSO中)および複合体化されていないSP1と比較したとき、SP1−PTXの高まった溶解性のRP HPLC分析が示される。このHPLC結果は水におけるPTXの難溶性(マゼンタ色)を強調しており、SP1−PTX複合体(赤色)がSP1およびPTXのピークとして(それぞれ、15.8分および17.4分で)現れている。SP1−PTX複合体の(30kDaの分子量カットオフメンブランによる)限外ろ過は、複合体化したPTXがメンブランの上に保持されることを示す。これはSP1との強い複合体化を示している。
【0250】
PTXは特有の吸収スペクトルを有しておらず、結合したPTXを検出することができない。PTXは、高いアセトニトリル濃度の存在下でSP1−PTX複合体から解離し、従って、遊離PTXと同じ溶出において検出することができる。すべてのPTXがカラム上のSP1−PTX複合体から溶出されることを明らかにするために、PTXを、80%エタノールを使用して複合体から抽出し(図20)、SP1タンパク質を沈殿させた。図20は、すべてのPTXが、(類似する条件のもとで沈殿するSP1−DOX複合体とは対照的に)溶液中に回収され得ることを示す。より低いエタノール濃度において、PTXと同様に抽出することができ、これから、複合体化したSP1−PTXおよび遊離PTXの限外ろ過による分離が可能である(図20および図21、下段のプロット)。
【0251】
難溶性分子とのCys2 SP1変異体の複合体形成の効力、および、PTX−Cys2 SP1変異体複合体の形成に対する還元状態の影響を明らかにするために、PTXを、エタノールの増大する濃度において、10mMのGSHの存在下または非存在下でCys2 SP1変異体−PTX複合体から抽出した。図21は、還元剤がPTX抽出をより低いエタノール濃度で誘導することを示す。複合体形成に対する還元の影響もまた調べた。図22は、還元剤β−ME(12mM)の存在はCys2 SP1−PTX複合体形成を著しく高めることを示す。予想外ではあったが、Cys2 SP1と会合したPTXが還元剤の非存在下で検出されるが、そのような会合したPTXはろ過によって除かれた。
【0252】
これらの結果から、SP1およびSP1変異体が、水性溶媒だけでなく、有機溶媒において、安定なオリゴマー複合体を形成すること、また、SP1およびSP1変異体は難溶性分子との複合体を形成することができること、また、難溶性分子(例えば、PTXなど)の溶解性がSP1およびSP1変異体との会合によって著しく高められることが明瞭に示される。SP1のそのような可溶化能は、SP1およびSP1変異体の臨床的適用および他の適用のために、例えば、薬物送達のために非常に重要である。
【0253】
ビンブラスチン
ビンブラスチンはビンカアルカロイドであり、ホジキン病、リンパ性リンパ腫、組織球性リンパ腫、進行性精巣ガン、進行性乳ガン、カポジ肉腫を治療するために主に有用である。SP1に対するビンブラスチンの結合を内因性トリプトファンの蛍光測定によって求めた。
【0254】
SP1は1個のトリプトファン残基(Trp48)を有するだけである。Trp48の最大励起波長および最大放射波長はそれぞれ、286nmおよび321nmである。6MのグアニジニウムHClにおけるタンパク質のアンフォールディングのとき、最大放射波長が321nmから340nmに変化する。図23は、ビンブラスチンとのSP1の会合が、赤方移動が付随した蛍光の消光を引き起こしたことを示す(80μMのビンブラスチンを加えたとき、その最大放射波長が356nmに変化する)。アンフォールディングされた変性タンパク質の蛍光はまた、ビンブラスチンによっても消光され(図23)、しかし、天然タンパク質とは異なり、それには、赤方移動が付随しない。従って、折り畳まれたSP1−ビンブラスチンの会合をその内因性トリプトファンの蛍光における変化によって検出および定量することができる。
【0255】
(実施例5)
SP1会合薬物の高まった生物学的活性
薬物送達剤または薬物送達キャリアとしてのSP1の効力を評価するために、SP1およびSP1変異体と複合体化された薬物分子の生物学的活性を求めた。従って、SP1と複合体化された薬物分子およびマーカー分子を新生物成長のインビトロモデルおよび動物モデルにおいて調べた。
【0256】
結腸直腸ガン細胞株におけるSP1−DOX
ヒト結腸直腸腺ガン細胞株のHT−29を使用して、SP1−DOX複合体の生物学的活性を、遊離薬物および複合体化されていないSP1タンパク質の生物学的活性と比較して評価した。遊離ドキソルビシンおよびSP1−DOX複合体(これは限外ろ過またはエタノール沈殿のいずれかによって調製された)についての50%阻害濃度(IC50)(これは、細胞成長の50%を阻害した化合物の用量として定義される)は類似しており(図24a、0.6ug/ml)、一方、複合体化されていないタンパク質は不活性であった。従って、SP1−DOX複合体は、遊離DOXと少なくとも同じくらいに生物学的に活性がある。
【0257】
遊離PTX(DMSO中)およびSP1−PTX複合体についてのIC50値を比較したとき、両方の調製物についての値は類似しており(0.01ug/ml、図25)、一方、負荷されていないタンパク質(これはPTX−SP1と並行して調製された)は不活性であった(図25)。しかしながら、SP1−PTX複合体は、水溶液における少なくとも3週間の貯蔵(すなわち、遊離PTXが不活性になる条件)の後でさえ、生物学的に活性のままであった。従って、SP1とのPTXの複合体化は、薬物の生物学的活性の安定性を明らかに増大させる。
【0258】
SP1−PTXの細胞毒性がSP1の膜横断輸送に関連するかどうかを明らかにするために、細胞を、10倍過剰な複合体化されていないSP1とともに、遊離PTXおよびSP1複合体化PTXの両方にさらした。競合がいずれの場合においても何ら認められなかった(データ示さず)。1つだけの仮定によって限定されることは望まないが、競合がないことから、細胞によるSP1−薬物複合体の取り込みが非常に速いこと、または、薬物が細胞外で複合体から解離し、その細胞毒性作用を複合体化されていない様式で発揮することのいずれかが示され得ることが強調される。後者の説明には、高い細胞外GSH濃度、これにより、そのすぐ後に続く細胞環境のレドックス状態が影響を受けることが関連し得る。
【0259】
インビボにおけるSP1の生体分布
投与されたSP1複合体化分子の循環からの腫瘍での蓄積速度およびクリアランスを追跡するために、フルオレセインおよびSP1−フルオレセイン複合体を、B16−F10(B16)メラノーマ腫瘍を有するC57B1のオスのマウスに注射した。SP1−フルオレセインの注射後24時間で、マウスから採血し、動物を屠殺し、腫瘍を取り出し、緩衝液中で均質化し、組織抽出物を熱処理して、非特異的なタンパク質を除いた。標的組織におけるSP1−FA複合体の蓄積を検出するために、サンプルを、SDS−PAGE分析、および、抗SP1抗体による免疫ブロット検出に供した。図26は、注射されたSP1複合体の約2%〜5%が腫瘍に見出され、注射されたSP1複合体の約3%〜15%が注射後24時間で循環に留まったままであり、一方、遊離フルオレセインアミンは迅速に排出されることを示す。
【0260】
野生型マウスへのSP1の反復した注射を、SP1が何らかの著しい免疫学的応答または毒性を誘導しないことを明らかにするために行った。35mg/KgのSP1またはPBSコントロールを、C57B1のオスのマウスに、0日目、9日目、16日目、23日目、37日目および53日目にiv(尾静脈)注射した(SP1群およびPBS群においてそれぞれ、6匹および5匹の動物)。最初の注射の後の55日で、動物を屠殺し、その肝臓を組織病理学分析に供した。6匹中4匹のSP1処置動物は、55日まで実験中を通して何らかの病理学的応答を示さなかった。組織病理学分析では、両群からのすべての動物の肝臓が正常そうであったことが明らかにされた。6匹中2匹の動物が原因不明で17日後に死亡した。5匹中5匹のPBS処置動物もまた、実験期間中を通して病理学的応答を何ら示さなかった。肝臓の組織学的検査では、病変の何らかの徴候は示されなかった。
【0261】
SP1の免疫原性の程度を明らかにするために、PBS処置動物およびSP1処置動物の両方における抗SP1抗体の産生を、直接に免疫化されたSP1抗体またはウサギ抗SP1抗体のいずれかを使用して、ELISAを使用して検出した(二次抗体はHRPコンジュゲート化抗マウスIgGであった)。PBS処置動物およびSP1処置動物の両方から得られた血清は無視できるほどの抗SP1抗体反応を有し、これら2つの群の間には差がなかった。ウサギ抗SP1は、たとえ動物がSP1複合体に対して免疫化されたとしても、SP1オリゴマー複合体よりも著しく良好にモノマーと反応することに留意しなければならない。
【0262】
従って、これらの結果から、SP1の生体分布がキャリア適用および薬物送達適用のために極めて良く適すること、ならびに、インビボにおけるSP1タンパク質の驚くほど非毒性および非免疫原性の性質が明瞭に示される。
【0263】
SP1−薬物複合体のインビボ抗腫瘍活性
DOXの抗腫瘍活性に対するSP1複合体化の影響を、CD1ヌードマウスにおけるLS147(ヒト結腸ガン)モデル(Meyer、1995)を使用してインビボで明らかにした。SP1−DOX複合体または遊離DOX(それぞれ、0.5mg/kgおよび3mg/kgのDOX、1週間に2回の尾静脈へのiv)を受けている動物の腫瘍成長速度を比較した(図27aおよび図27b)。遊離DOXのこの用量(3mg/Kg)はマウスにおける最大耐量に匹敵する。腫瘍移植後35日で、動物を屠殺し、腫瘍を取り出し、その重量を記録した(図27aおよび図27b)。体重減少はDOXの共通する副作用であるので、動物の体重もまた測定した(図28aおよび図28b)。
【0264】
遊離DOXの用量はSP1−DOX複合体の用量よりも6倍大きかったが、SP1−DOX複合体による腫瘍成長の阻害が、遊離DOXよりも6倍低い濃度でさえ、比較可能なほどに著しかった。両方の場合において、実験終了時での平均腫瘍サイズはPBS処置動物での場合よりもはるかに小さかった。そのうえ、腫瘍の組織学的検査では、広範囲の壊死が、DOXにより処置された動物およびSP1−DOX複合体により処置された動物において示された。
【0265】
しかしながら、DOXにより処置された動物は、16%を超える体重減少において現れた重篤な副作用に悩まされた。驚くべきことに、SP1−DOX複合体により処置された動物は体重減少を何ら示さなかった。
【0266】
従って、本明細書中上記においてもたらされた結果から、薬物をSP1と複合体化することにより、薬物の有効性の様々な重要な側面(例えば、溶液における溶解性および安定性など)が高められ、また、投薬量および望ましくない副作用における軽減が、有効性を同時に低下させることなく可能であり得ることが明瞭に示される。
【0267】
(実施例6)
遊離分子およびSP1複合体化分子のRP−HPLCおよびサイズ排除HPLCのプロフィル
逆相(RP)HPLCおよびサイズ排除HPLCを、SP1およびSP1変異体と複合体化している分子(例えば、DOX、PXTおよびFAなど)を検出および定量するために使用した。
【0268】
サイズ排除クロマトグラフィーは、異なるサイズの分子を穏和な条件のもとで分離するための一般的な方法であり、SP1と複合体化しているFAおよびDOXを穏和な条件のもとで調べるために用いた。SP1が7分後にカラムから溶出され、278nmにおいて検出されるだけであり(図30)、遊離FAが16分後にカラムから溶出され、490nmにおいて検出される(図31)。SP1−FA複合体およびSP1−DOX複合体もまた、同じ時間で溶出されたが、490nmおよび475nmにおいてそれぞれ検出された(図29および図31)。図32は、278nmにおけるサイズ排除クロマトグラフィーでの典型的なSP1標準曲線を示す。SP1が7分後にカラム(TSK G3000SWXL、Tosohaas)から溶出され、278nmにおいて検出されるだけである。図31は、490nmにおけるFA標準物プロフィルのサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。区別可能なピークでカラムから溶出される遊離FAとは対照的に、DOXは区別可能なピークで溶出されない(図29)。DOXの標準曲線は吸収ピークを477nmにおいて示すが、これは実際には検出に利用できない。DOX/SP1の比率を溶液におけるそれらの標準曲線から求めることができる。
【0269】
逆相HPLC(RP−HPLC)分析でもまた、遊離リガンドおよびSP1が分離される(図10、図11、図13を参照のこと)。この方法を使用して、ドキソルビシンおよび水不溶性薬物のパクリタキセル(PTX)の複合体化を調べた。この場合、両方の複合体化された化合物が樹脂(C−18)に結合し、異なるアセトニトリル濃度で溶出された。図32は、(278nmおよび225nmの両方で測定された)Cys2 SP1の標準物プロフィルを示す。図33は、(477nmで測定された)DOXの標準物プロフィルを示す。図34は、(225nmで測定された)PTXの標準物プロフィルを示す。
【0270】
サイズ排除クロマトグラフィーを使用する結果と類似して、SP1−DOX複合体もまた、負荷されていないSP1と同じ時間で溶出され、278nmだけでなく、477nmでもまた検出される。複合体化していないSP1はこの波長で光を吸収しないので、SP1結合DOXならびに遊離DOXの定量を477nmでのそれらのピークにおける吸光度から直接に計算することができる。278nmでのSP1−DOXのピークにおけるタンパク質の量の推定は、下記の式に従って、278nmでのDOXの吸収について補正することができる:(OD278−0.77*OD477)。FAおよびDOXとは対照的に、PTXは特有の吸収特性を示さず、複合体化したPTXを検出することができない。明らかに、PTXは高いアセトニトリル濃度の存在下でSP1−PTX複合体から解離し、従って、遊離PTXと同じ溶出において検出することができる。
【0271】
明確にするため別個の実施態様で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施態様に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施態様で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0272】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。本願で挙げた刊行物、特許および特許願はすべて、個々の刊行物、特許および特許願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用又は確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0273】
【図1】SP1オリゴマーの陰染色された2D結晶の電子顕微鏡写真、および、その2D結晶性構造のグラフィック表示である。
【図2】NTA−Ni金ナノ粒子が中心の空洞において6Hタグに結合することを示す組換えSP1:6HSP1の電子顕微鏡写真である。
【図3】2つのSP1変異体がヘテロオリゴマーのSP1複合体に自己集合することを示すSDS−PAGEである。
【図4】腫瘍特異的ペプチドのCRGDおよびRGDCのSP1表面での多重呈示を示す。
【図5】組換え変異体SP1の発現、精製およびリフォールディングを示すPAGE分析の写真である。
【図6】イオン交換クロマトグラフィー(図6a)および疎水性相互作用クロマトグラフィー(図6b)の両方を使用する、組換え細胞の粗製の耐熱性抽出物の組換えSP1の精製を示す。図6cは、Source−Q疎水性相互作用カラムでの分離の精製された生成物と比較したときの、粗製の組換え細胞抽出物(レーン1)および耐熱性画分(レーン2)のPAGE分析である。
【図7】ゲルろ過HPLC(TSK300カラム)(上段)および逆相HPLC(C−18カラム)(下段)の両方で単一ピークとして溶出する純粋なSP1の特徴付けを示す。
【図8】Cys2 SP1変異体による薬物複合体形成および制御された放出の仮想的なモデルを例示するグラフィック表示である。
【図9】Cys2 SP1による小分子とのレドックス依存的な複合体形成を示すヒストグラムである。
【図10】組換えSP1と比較したときの、Cys2 SP1によるレドックス依存的なフルオレセインアミン複合体形成のグラフィック表示である。
【図11】Cys2 SP1によるフルオレセイン−アミンとの濃度依存的な複合体形成を例示するヒストグラムである。
【図12】Cys2 SP1によるドキソルビシンとの優れたレドックス依存的な複合体形成を示すヒストグラムである。
【図13】Cys2 SP1によるドキソルビシンのドックス依存的な放出を示すヒストグラムである。
【図14】Cys2 SP1によるDOX複合体形成に対する酸化の影響を例示するヒストグラムである。
【図15】SP1−DOX複合体を特徴付けるSDS PAGE蛍光分析の写真である。
【図16】熱、還元および血清にさらされたときのDOX−SP1複合体の安定性を例示する蛍光PAGE分析の写真である。
【図17】Cys2タンパク質およびSP1融合タンパク質によるDOXとの効果的な複合体形成を例示する蛍光PAGE分析の写真である。
【図18】有機溶媒に対するSP1の高分子量オリゴマー複合体の抵抗性を示す写真である。
【図19】SP1との複合体によるパクリタキセル(PTX)の可溶化を示すHPLC分析である。
【図20】SP1−PTX複合体からのPTXの効率的なエタノール抽出を示すHPLC分析である。
【図21】PTX抽出に対する還元状態の影響を示すHPLC分析である。
【図22】SP1によるPTX結合に対する還元状態の影響を示すHPLC分析である。
【図23】SP1に対する薬物(ビンブラスチン)の複合体形成を示すグラフである。
【図24】SP1−DOX複合体のインビボトロ細胞毒性効果を例示するグラフである。
【図25】遊離PTXと比較して、SP1−PTX複合体のインビトロ細胞毒性を示すグラフである。
【図26】SP1複合体の優れた薬力学および標的化を例示する免疫ブロット分析である。
【図27】非複合体化DOXと比較して、SP1複合体化DOXの優れた抗腫瘍効果を示すヒストグラムである。
【図28】遊離DOXと比較して、SP1複合体化DOXの処置による副作用の著しい減少を示すヒストグラムである。
【図29】サイズ排除HPLC分析によるSP1−DOX複合体の検出を示すグラフである。
【図30】278nmにおけるサイズ排除クロマトグラフィー(サイズ排除HPLC)での典型的なSP1標準曲線を示す。
【図31】490nmでのFA標準物プロフィルのサイズ排除クロマトグラフィー(サイズ排除HPLC)のクロマトグラムを示す。
【図32】RP−HPLCでの(278nm(左側パネル)および225nm(右側パネル)の両方で求められる)Cys2 SP1の標準物プロフィルを示す。
【図33】RP−HPLCでの(477nmで求められる)DOXの標準物プロフィルを示す。
【図34】RP−HPLCでの(225nmで求められる)PTXの標準物プロフィルを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0274】
配列番号2〜30は、Sp1突然変異体の変異体の配列である。
配列番号31〜62は、腫瘍表面特異的ペプチドの配列である。
配列番号63〜81は、腫瘍脈管ペプチドの配列である。
配列番号82〜121は、ファージディスプレー(PD)及び細胞表面ディスプレー(SCD)によって選択された無機結合ポリペプチドの配列である。
配列番号122は、6XHisタグの配列である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子との可逆的な分子的会合の状態でSP1ポリペプチドを含む組成物。
【請求項2】
前記SP1ポリペプチドが、天然のSP1、金結合ペプチドを含むSP1変異体、及び珪素結合ペプチドを含むSP1変異体からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記SP1ポリペプチドが、配列番号82〜84及び配列番号94〜103からなる群から選択されるペプチドを含む変異体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ナノ粒子が導電性分子又は半導電性分子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記導電性分子又は半導電性分子が、金属、半導体及び誘電体からなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
表面をナノ粒子で被覆する方法であって、前記表面を請求項1〜5のいずれかに記載の組成物で被覆し、それにより前記表面を前記ナノ粒子で被覆することを含む方法。
【請求項1】
ナノ粒子との可逆的な分子的会合の状態でSP1ポリペプチドを含む組成物。
【請求項2】
前記SP1ポリペプチドが、天然のSP1、金結合ペプチドを含むSP1変異体、及び珪素結合ペプチドを含むSP1変異体からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記SP1ポリペプチドが、配列番号82〜84及び配列番号94〜103からなる群から選択されるペプチドを含む変異体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ナノ粒子が導電性分子又は半導電性分子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記導電性分子又は半導電性分子が、金属、半導体及び誘電体からなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
表面をナノ粒子で被覆する方法であって、前記表面を請求項1〜5のいずれかに記載の組成物で被覆し、それにより前記表面を前記ナノ粒子で被覆することを含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図2】
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【図22】
【図23】
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【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公開番号】特開2012−153694(P2012−153694A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−42816(P2012−42816)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【分割の表示】特願2008−520063(P2008−520063)の分割
【原出願日】平成18年7月9日(2006.7.9)
【出願人】(508007455)フルクルム エスピー リミテッド (2)
【出願人】(502275425)イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブリュー ユニバーシティー オブ エルサレム (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【分割の表示】特願2008−520063(P2008−520063)の分割
【原出願日】平成18年7月9日(2006.7.9)
【出願人】(508007455)フルクルム エスピー リミテッド (2)
【出願人】(502275425)イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブリュー ユニバーシティー オブ エルサレム (10)
【Fターム(参考)】
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